(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
以下、燃料電池の例について説明する。
電解質の種類や電極の種類により種々のタイプに分類され、代表的なものとしては、アルカリ型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、固体高分子型がある。この中でも低温(−40℃程度)から120℃程度で作動可能な固体高分子型燃料電池が注目を集め、近年、自動車用低公害動力源としての開発・実用化が進んでいる。固体高分子型燃料電池の用途としては、車両用駆動源や定置型電源が検討されているが、これらの用途に適用されるためには、長期間に渡る耐久性が求められている。
【0003】
図9は、従来の固体高分子型燃料電池の単セルの基本構成を示す分解断面図である。
シート状の固体高分子電解質膜1の両側の主面にそれぞれカーボンブラック粒子に貴金属粒子[主として白金(Pt)あるいは白金族金属(Ru、Rh、Pd、Os、Ir)]を担持した空気極側電極触媒層2および燃料極側電極触媒層3をホットプレスにより密着して接合した単セル4(膜/電極接合体)が構成される。触媒層2および触媒層3と対向して、それぞれカーボンペーパー、カーボン織布などにカーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合物を塗布した構造を持つ空気極側ガス拡散層(図示せず)および燃料極側ガス拡散層(図示せず)が配置される。これによりそれぞれ空気極側電極触媒層2を含む空気極および燃料極側電極触媒層3を含む燃料極が構成される。
これらのガス拡散層は、それぞれ酸化剤ガス(例えば空気)および水素、天然ガス、都市ガス、メタノール、LPG、ブタンなどの炭化水素系燃料などの燃料ガスの供給・排出を行うと同時に、集電体としての機能を有し電流を外部に伝える働きをする。そして、単セルに面して反応ガス流通用のガス流路を備え、相対する主面に冷却水流通用の冷却水流路を備えた導電性でかつガス不透過性の材料よりなる一組のセパレータにより挟持して単セル4が構成される。
【0004】
上記固体高分子電解質膜1としては、スルホン酸基を持つポリスチレン系の陽イオン交換膜をカチオン伝導性膜としたもの、フロロカーボンスルホン酸とポリビニリデンフロライドの混合膜、フロロカーボンマトリックスにトリフロロエチレンをグラフト化したもの、及びパーフルオロスルホン酸樹脂(例えば、デュポン社製、商品名ナフィオン膜)を代表とするフッ素系イオン交換樹脂膜が用いられている。これらの固体高分子電解質膜1は分子中にプロトン交換基を有しており、含水量を飽和させると比抵抗が常温で20Ωcm以下となり、プロトン伝導性電解質として機能する。
【0005】
そして上記電極6、7のそれぞれに加湿した反応ガスが供給されると、両電極に備えられた白金系の貴金属を担持した触媒層2、3と固体高分子電解質膜1との境界に気相(反応ガス)、液相(固体高分子電解質膜)、固相(両電極が持つ触媒)の三相界面が形成され、電気化学反応を生じさせることで直流電力が生成される。
【0006】
上記電気化学反応において、
燃料極側:H
2 →2H
++2e
−
空気極側:1/2O
2 +2H
+ +2e
− →H
2O
の反応が起こり、燃料極7側で生成されたH
+ イオンは固体高分子電解質膜1中を空気極6側に向かって移動し、e
− (電子)は外部の負荷を通って空気極6側に移動する。
一方、空気極6側では酸化剤ガスに含まれる酸素と、燃料極7側から移動してきたH
+ イオンおよびe
− とが反応して水が生成される。かくして、固体高分子形燃料電池は、水素と酸素から直流電流を発生し、水を生成することになる。
【0007】
前記のように触媒として、一般的に貴金属が用いられ、貴金属の中でも高い電位で安定であり、且つ活性が高い白金が、主として用いられてきた。しかし、白金は価格が高く、また資源量が限られていることから、これに代わる触媒の開発が求められていた。
また、空気極表面に用いる貴金属は酸性雰囲気下では、溶解する場合があり、長期間に渡る耐久性が必要な用途に適さないという問題があった。このため酸性雰囲気下で腐食せず、耐久性に優れ、高い酸素還元能を有する触媒の開発が強く求められていた。
【0008】
また、白金系の貴金属を担持した触媒層2、3が固体高分子電解質膜1に接する箇所の近傍に存在する図示しない白金触媒粒子(固相)には、気相(反応ガス)と、液相(固体高分子電解質膜)との三相界面が形成される。これにより、界面近傍の白金触媒粒子が、電気化学反応(電極反応)に有効に関与する。しかしながら、触媒層2、3中であって、固体高分子電解質膜1から離れた場所に存在する白金触媒粒子には、気相(反応ガス)と液相との三相界面が形成されないか、あるいは形成され難い状態にあるため、その白金触媒粒子は電気化学反応(電極反応)に有効に関与しない。白金触媒粒子の場合、そのような電気化学反応に有効に関与しない部分があり、白金触媒粒子の利用効率の点で課題がある。その結果、高特性が得られないという問題があった。
【0009】
白金に代わる触媒として、炭素、窒素、ホウ素などの非金属を含む材料が触媒として近年着目されている。これらの非金属を含む材料は、白金などの貴金属と比較して価格が安く、また資源量が豊富である。
【0010】
ジルコニウムをベースとしたZrO
xN化合物に、酸素還元能を示すことが報告されている(非特許文献1参照)。
また、白金代替材料として長周期表4族、5族及び14族の元素群から選ばれる1種以上の元素の窒化物を含む酸素還元電極材料が開示されている(特許文献1参照)。
【0011】
しかしながら、これらの非金属を含む材料は、触媒として実用的に充分な酸素還元能が得られていないという問題点があった。
炭化物、酸化物、窒化物を混合し、真空、不活性または非酸化性雰囲気下、500〜1500℃で加熱をした炭窒酸化物が開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、前記炭窒酸化物は、薄膜磁気ヘッドセラミックス基板材料であり、この炭窒酸化物を触媒として用いることは検討されていない。
超微粒子のコアの材料に、シェルの材料を被覆させて、階層的多孔質構造のコアシェルセラミック微粒子およびその製造方法を開示している(特許文献3参照)。しかしながら、単一のコアシェルセラミック微粒子からなる材料では、触媒活性などの特性が充分でなく、2種以上の材料を組み合わせてコアシェルセラミック微粒子を製造しなければならない。
【0012】
また、白金または白金を含む貴金属合金からなる多孔質薄膜からなり、該多孔質薄膜が異なる2種類の細孔を有する固体高分子型燃料電池用電極触媒が開示されている(特許文献4参照)。しかしながら、白金が必須成分として用いられており、価格および資源量の面から課題を有する。
また、ニオブを必須成分として含むニオブ含有炭窒素酸化物が開示されている(特許文献5参照)。
【0013】
なお、白金は、上記燃料電池用の触媒としてだけでなく、排ガス処理用触媒または有機合成用触媒としても有用であるが、白金は価格が高く、また資源量が限られているため、これらの用途においても代替可能な触媒の開発が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<触媒>
本発明の触媒は、多孔質(多孔性)の硫黄含有炭窒酸化物を含む。当該多孔性触媒の空隙率は、例えば75〜90%程度、さらには80〜90%程度であることがより好ましい。空隙率が前記範囲内であると、触媒の活性が高まる傾向があり好ましい。なお、本発明における空隙率は後述する実施例に記載した測定方法で得られた値である。
【0027】
本発明の触媒は、粉砕され微粒子化していることが好ましい。粉砕され微粒子化している触媒は、酸化還元能が高くなる傾向がある。粉砕法としては、例えば、ジェットミル、 振動ミル、ボールミル、ロッドミル、アトリッションミル、ディスクミル、遊星ボールミル、モルターグラインダ、ジョークラッシャ、ビータミル(ハンマーミル)、ミキサーミル、カッティングミルまたは超遠心粉砕機による方法などが挙げられる。中でも、ジェットミル、遊星ボールミルによる粉砕法が粒子をより微細にする点で好ましい。
【0028】
前記触媒が粒子である場合、その粒子径は、その90質量%以上が8〜13μmの範囲であることが好ましく、5〜10μmの範囲であることがより好ましい。触媒の粒子径が前記範囲内であると、触媒の酸化還元能が高くなる傾向がある。
【0029】
触媒の粒子径は、下記式(1)より求められる。ここで、触媒粒子が球形であると仮定して、後述するBET法で求める比表面積を計算する。
D=6/ρS・・・(1)
但し、D(μm)は触媒の粒子径、ρ(g/cm
3)は触媒の比重、S(m
2/g)は触媒のBET比表面積である。
【0030】
本発明の硫黄含有炭窒酸化物を含む触媒は、硫黄、炭素、窒素、酸素、ホウ素およびモリブデン以外に、タンタル、ジルコニウム、銅、鉄、タングステン、チタン、バナジウム、コバルト、マンガン、アルミニウムおよびニッケルからなる群より選択された少なくとも1種の金属Kを含有する。金属Kとしては、特に、銅、鉄およびマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属であることが好ましく、銅およびマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属であることがさらに好ましい。金属Kは複数種併用することができる。
【0031】
本発明において、硫黄含有炭窒酸化物を含む触媒とは、組成式がS
aMoK
bB
cC
xN
yO
zで表される。その原子数比は、モリブデン(Mo)を1として、硫黄(S)が、aとして0.05〜20、好ましくは0.1〜10であり、前記金属Kは、例えば、マンガン、鉄および銅などでは、bとして0.05〜200、好ましくは0.1〜100であり、ホウ素(B)は、cとして0.1〜15、好ましくは0.5〜9であり、炭素(C)は、xとして1〜15、好ましくは3〜9であり、窒素(N)は、yとして0.001〜5であり、好ましくは0.01〜2であり、酸素(O)は、zとして0.001〜50であり、好ましくは0.01〜50であることが適当である。
なお前記金属Kの複数種を併用するときは、それぞれが上記範囲にあればよい。
【0032】
さらに言えば、上記硫黄含有炭窒酸化物を含む触媒は、金属Kの硫化物、金属Kの酸化物、金属Kの炭化物、金属Kの窒化物、金属Kの炭窒化物、金属Kの炭酸化物、金属Kの窒酸化物、モリブデンの酸化物、モリブデンの硫化物、モリブデンの炭化物、モリブデンの窒化物、モリブデンの炭窒化物、モリブデンの炭酸化物、モリブデンの窒酸化物、ホウ素の硫化物、ホウ素の酸化物、ホウ素の炭化物、ホウ素の窒化物、ホウ素の炭窒化物、ホウ素の炭酸化物、ホウ素の窒酸化物、金属Kおよびモリブデンあるいは更にホウ素を含有する酸化物、金属Kおよびモリブデンあるいは更にホウ素を含有する炭化物、金属Kおよびモリブデンあるいは更にホウ素を含有する窒化物、金属Kおよびモリブデンあるいは更にホウ素を含有する炭窒化物、金属Kおよびモリブデンあるいは更にホウ素を含有する炭酸化物、金属Kおよびモリブデンあるいは更にホウ素を含有する窒酸化物などを含み、組成式が全体としてS
aMoK
bB
cC
xN
yO
zで表される組成物を意味する。
中でも、触媒は、酸素欠陥を有するマンガン、銅、鉄、マンガンの酸化物を含むことが好ましく、特にマンガンの酸化物を含んでいると、得られる触媒の酸素還元能が高くなる傾向があり好ましい。
また、本発明の硫黄含有炭窒酸化物を含む触媒がプロトン伝導性サイトを有すると(例えば、硫黄の酸化物である(SO
3−)で表されるプロトン伝導性サイトを有すると)、電解質膜と接する面に存在する触媒粒子だけでなく、電解質膜から離れた場所に存在する触媒層中の触媒粒子にも気相(反応ガス)、液相の三相界面が均一に形成されると考えられる。その結果、燃料極側で生成されたH
+イオンは固体高分子電解質膜中を経て空気極側に移動した後、空気極内部側に向かって移動できるので、空気極表面および内部まで電極反応に有効に関与する。そのため、触媒粒子の利用効率が高くなり、高特性が得られる。
【0033】
また、全自動水平型多目的X線回析装置によって前記硫黄含有炭窒酸化物を測定した際に、回折角2θ=10°〜90°の間に、回折線ピークが2つ以上観測されることが好ましい。
【0034】
回折線ピークとは、試料(結晶質)に様々な角度でX線を照射した場合に、特異的な回折角度および回折強度で得られるピークのことをいう。本発明においては、信号(S)とノイズ(N)の比(S/N)が2以上で検出できるシグナルを一つの回折線ピークとしてみなす。
【0035】
X線回折法の測定装置としては、例えば全自動水平型多目的X線回析装置:リガクSmartLabを用いて行うことができ、その測定条件としては、X線出力(Cu−Kα):40kV、150mA、走査軸:θ/2θ、測定範囲(2θ):10°〜89.98°、測定モード:FT、 読込幅:0.02°、入照スリット幅2/3°、受光スリット1幅:13.000mm、受光スリット2幅:13.000mmで行うことができる。
【0036】
前記硫黄含有炭窒酸化物中には、硫黄、金属Kの酸化物(例えば、前述のマンガン、銅、鉄などの酸化物)を含む相が存在していると考えられる。このような酸素欠陥を有する金属Kの何れかが触媒中に存在するため、最終的に得られる触媒は高い酸素還元能を有すると推測される。
【0037】
また、炭素または窒素が介在することで、硫黄周辺の電子密度が変化し、触媒活性が向上すると推測される。あるいは、炭素または窒素の介在で電子伝導性が向上しているとも推測される。
【0038】
本発明に用いる触媒の、下記測定法(A)に従って測定される酸素還元開始電位は、可逆水素電極を基準として好ましくは0.7V以上である。
〔測定法(A): 電子伝導性粒子である炭素に分散させた触媒が1質量%となるように、該触媒および炭素を溶剤中に入れ、攪拌し懸濁液を得る。なお、炭素源としては、カーボンブラック(粒子径:26〜30nm, 三菱化学社製カーボンブラック)を用い、触媒、炭素、フッ素樹脂の質量比が、72:25:3になるように、これらを分散させる。また、溶剤としては、エチレングリコールジメチルエーテル:水(質量比)=2:1を用いる。
【0039】
前記懸濁液を、カーボンシート電極(2cm×2cm)上に塗布し、50℃〜80℃で5分間〜10分間、熱プレス乾燥させる。乾燥することにより触媒を含む燃料電池用触媒層が、カーボンシート電極上に形成される。
【0040】
次いでNAFION(登録商標)(デュポン社5%NAFION(登録商標)溶液(DE521))をイソプロピルアルコールで10倍に希釈したものを、さらに前記燃料電池用触媒層上に10μl滴下する。これを120℃で1時間乾燥させる。
【0041】
このようにして得られた電極を用いて、水素燃料使用の燃料電池キット(株式会社ケミックス製燃料電池組立キット Pem Master(登録商標) PEM-004)を作製する。さらに、アノードを白金触媒、カソードを前記触媒塗布後のカーボンシート電極とし、充放電装置(北斗電工株式会社製HJR−110mSM6)を用いて、上記燃料電池の酸素還元開始電位を測定する。燃料極側の水素の流量は、0.2〜0.4l/minとした。上記酸素還元開始電位が0.7V未満であると、前記触媒を燃料電池のカソード用の触媒として用いた際に過酸化水素が発生することがある。また酸素還元開始電位は0.85V以上であることが、好適に酸素を還元するために好ましい。また、酸素還元開始電位は高い程好ましく、特に上限は無いが、理論値の1.23Vである。
【0042】
上記触媒を用いた本発明の燃料電池用触媒層は酸性電解質中において0.7V以上の電位で使用されることが好ましく、電位の上限は、電極の安定性により決まり、酸素が発生する電位のおよそ1.23Vまで使用可能である。
【0043】
この電位が0.7V未満の場合、硫黄含有炭窒酸化物の安定性という観点では全く問題ないが、酸素を好適に還元することができず、燃料電池に含まれる膜電極接合体の燃料電池用触媒層としての有用性は乏しい。
【0044】
前記触媒のBET比表面積は、好ましくは50m
2/g〜80m
2/gであり、より好ましくは45m
2/g〜75m
2/gである。BET比表面積が1m
2/gより小さいと、触媒面積が小さく、1000m
2/gよりと大きいと凝集しやすく扱いにくい。
【0045】
なお、本発明におけるBET比表面積の値は、市販のBET測定装置で測定可能であり、たとえば、カンタローム社製 細孔分布測定装置 AUTOSORB−1−Cを用いて測定することができる。
【0046】
<触媒の製造方法>
上記触媒の製造方法は特に限定されないが、例えば、工程Aにより硫黄含有炭窒化物を先ず製造し、ついで工程Bにより製造した硫黄含有炭窒化物を、酸素ガスを含む不活性ガス中で加熱することにより、硫黄含有炭窒酸化物を得る工程を含む製造方法が挙げられる。
【0047】
このような製造方法により得られる硫黄含有炭窒酸化物は、好ましくは75%〜90%の空隙率を有し、該硫黄含有炭窒酸化物を含む触媒は、酸化還元能が高くなる傾向がある
【0048】
(工程A:硫黄含有炭窒化物の製造方法)
本発明においては、工程Aとして、(1)硫黄および/またはその酸化物、炭化物および窒化物から選択される硫黄化合物、(2)ホウ素および/またはその酸化物、炭化物および窒化物から選択されるホウ素化合物、(3)モリブデンおよび/またはその酸化物、炭化物および窒化物から選択されるモリブデン化合物、(4)炭素、(5)前記金属Kおよび/またはその酸化物、炭化物および窒化物から選択される金属K化合物を少なくとも含む出発物質を窒素雰囲気または窒素を含む不活性ガス中で、加熱して硫黄含有炭窒化物を製造する。
【0049】
上記工程に用いる硫黄含有炭窒化物を得る方法としては、
(I)硫黄および酸化モリブデン、ホウ素、炭素、前記金属Kの酸化物との混合物を、窒素雰囲気または窒素を含有する不活性ガス中で加熱することにより硫黄含有炭窒化物を製造する方法、
(II)硫黄および酸化モリブデン、炭化モリブデンおよび窒化モリブデン、ホウ素、炭素、前記金属Kの酸化物の混合物を、窒素ガスなどの不活性ガス中で加熱することにより硫黄含有炭窒化物を製造する方法、
(III)前記金属Kを含有する化合物(例えば有機酸塩、塩化物、炭化物、 窒化物、錯体など)、硫黄および酸化モリブデン、炭化モリブデンおよび窒化モリブデン、ホウ素、炭素の混合物を、窒素ガスなどの不活性ガス中で加熱することにより硫黄含有炭窒化物を製造する方法、
(IV)前記製造方法(I)〜(III)における出発物質、その他の物質を組み合わせた混合物を、窒素ガスなどの不活性ガス中で加熱することにより硫黄含有炭窒化物を製造する方法、
などであってもよい。
本発明においては、硫黄含有炭窒化物を得ることができれば特に制限されず、工程Aとしていずれの製造方法を用いても構わない。
好ましくは、上記のうち、(I)硫黄および酸化モリブデン、ホウ素、炭素、前記金属Kの酸化物との混合物を、窒素雰囲気または窒素を含有する不活性ガス中で加熱することにより硫黄含有炭窒化物を製造する方法である。
【0050】
前記製造方法(I)〜(III)における出発物質、その他の物質は、粉末状で混合されるものである。ただし、工程Aの加熱操作の前に、あらかじめ各成分粒子は十分に均一化されることが好ましい。その成分均一化の程度は、例えば、固体に加えられる応力により原子単位での混合と無定形化を意味するところの、金属分野で称するメカニカルアロイニング現象が生起し得るレベルでの混合であることが好ましい。
具体的な操作としては、例えば、ジェットミル、振動ミル、ボールミル、ロッドミル、アトリッションミル、ディスクミル、遊星ボールミル、モルターグラインダ、ジョークラッシャ、ビータミル(ハンマーミル)、ミキサーミル、カッティングミルまたは超遠心粉砕機による方法などのミリング操作が挙げられる。中でも、ジェットミル、遊星ボールミルによる粉砕・混合法が各粒子をより微細化すると共に均一化させる作用がある点で好ましい。ミリング時には、真空、不活性ガス等の媒体中でミリングし、またその際には摩擦熱により所定レベルで発熱することもあるが、適宜に冷却することができる。ミリング時間は適宜に決定されるが、成分の均一化のため、その時間は1時間から数十時間という長期間にわたることもある。好ましくは5時間以上である。
後記するように、工程Aや工程Bの加熱工程の後では、加熱により得られた固化体の解砕や粉砕のための操作を行い、そこでは例えば上記のミリング方法と同様の手法を採用することもある。しかしながら、上記のミリングは、これら加熱後の粉砕、解砕方法とは基本的に相違し、単に粉砕するのみではなく、更に各粒子の成分を十分に均一化するためでもあり、それ故、単にミリングの操作時間をみても、遥かに長期間のミリングとなるのが通例である。
上記ミリングにより、微細化されると共に成分が均一な粒子が得られるので、これを工程Aの加熱操作に供するものである。
【0051】
工程Aで硫黄含有炭窒化物を製造する際の加熱温度は200℃〜1000℃の範囲であり、好ましくは400℃〜800℃の範囲である。前記加熱温度が前記範囲内であると、硫黄含有炭窒化物の結晶性および均一性が良好な点で好ましい。前記加熱温度が400℃未満であると硫黄含有炭窒化物の結晶性が悪く、不均一となる傾向がある。また、1000℃を超えると焼結が過大に進行し、所望の組成物(混合物)が得られなくなる傾向がある。
【0052】
出発物質(1)硫黄および/またはその酸化物、炭化物および窒化物から選択される硫黄化合物としては、無機硫黄化合物、例えば、単体の硫黄のほか、一酸化硫黄SO、二酸化硫黄SO
2、三酸化硫黄SO
3、六フッ化硫黄SF
6、二硫化炭素CS
2、硫化銅、硫化鉄、硫化マンガン、硫化モリブデンなどが挙げられる。好ましくは、単体の硫黄である。
【0053】
出発物質(2)ホウ素および/またはその酸化物、炭化物および窒化物から選択されるホウ素化合物としては、たとえば、単体のホウ素などのほか、酸化ホウ素B
2O
3、窒化ホウ素BN、三フッ化ホウ素BF
3が挙げられる。好ましくは、単体のホウ素である。
【0054】
出発物質(3)モリブデンおよび/またはその酸化物、炭化物および窒化物から選択されるモリブデン化合物のうち、モリブデン単体のほか、酸化モリブデン(IV)MoO
2、酸化モリブデン(VI)MoO
3、硫化モリブデン(IV)MoS
2、硫化モリブデン(VI)MoS
3・2H
2O、ほう化モリブデンMoB、ほう化モリブデン(II)Mo
2BO
3などが挙げられる。いずれのモリブデン化合物を用いても、最終的に得られた硫黄含有炭窒酸化物を含む触媒は、酸素還元開始電位が高い。
その他、出発物質の炭化モリブデンとしては、Mo
2Cなどが挙げられる。さらに、出発物質の窒化モリブデンとしては、MoNなどが挙げられる。
好ましくは、酸化モリブデン(VI)MoO
3である。
【0055】
出発物質(4)の炭素としては、結晶性又は無定形の炭素のいずれも使用できる、例えば、無定形炭素としてのカーボンブラックのほか、結晶性炭素としてグラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、フラーレンが挙げられる。カーボンの粉末の粒径がより小さいと、比表面積が大きくなり、酸化物との反応がより進行しやすくなるため好ましい。しかしながら、粒径には好適な範囲が存在することもあり、例えば、10nm〜50nm、さらに26nm〜30nmの範囲が例示される。
さらに無定形炭素が好ましく、たとえば、特にカーボンブラックが好ましい。
先の粒径も考慮すると、好ましい炭素は、粒径範囲が10nm〜50nmの範囲のカーボンブラックがより好ましい。適切な炭素の選択は、触媒としての酸化還元能の向上をもたらす。
【0056】
出発物質の金属Kの酸化物は、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化銅、酸化鉄、酸化タングステン、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化アルミニウム、酸化ホウ素および酸化ニッケルを含む金属などが挙げられる。金属Kの酸化物は、選択された2種以上併用して用いることができる。
金属Kの有機酸塩、炭酸塩、塩化物、有機錯体、炭化物、窒化物なども使用できる。金属Kの化合物は、選択された1種又は2種以上を併用することができる。
好ましくは、金属Kとして、マンガン、銅、鉄の少なくとも1種の金属であり、マンガン、銅の少なくとも1種の金属であることがより好ましい。
マンガンとして、単体のマンガンのほか、二酸化マンガンMnO
2、酸化マンガン(II・III)Mn
3O
4、酸化マンガン(II)MnO、酸化マンガン(III)Mn
2O
3、酸化マンガン(VI)MnO
3、酸化マンガン(VII)Mn
2O
7、硫酸マンガン(II)一水和物MnSO
4・H
2O、硫酸マンガン(II)四水和物MnSO
4・4H
2O、硫酸マンガン(II)五水和物MnSO
4・5H
2O、硫化マンガンMnSが、例示される。特に酸化マンガン(II・III)Mn
3O
4が好適である。
銅として、単体の銅のほか、酸化銅(I)Cu
2O、酸化銅(II)CuO、硫化銅(I)Cu
2S、硫化銅(II)CuS、硫酸銅CuSO
4が、例示される。特に、酸化銅(II)CuOが好ましい。
鉄として、単体の鉄のほか、酸化鉄(II)FeO、四三酸化鉄Fe
3O
4、硫化鉄(II)FeS、硫酸鉄(II)FeSO
3、硫酸鉄(III)Fe
2(SO
4)
3が、例示される。特に、四三酸化鉄Fe
3O
4が好ましい。
【0057】
前記出発物質の配合量(モル)を制御すると、適切な硫黄含有炭窒化物が得られる。適切な硫黄含有炭窒化物を用いると、酸素還元開始電位が高く、活性がある硫黄含有炭窒酸化物が得られる傾向がある。
各物質の配合量は、原子換算のモル比で、モリブデン(Mo),硫黄(S)、金属Kについては、モリブデン(Mo)1モルに対して、硫黄(S)0.1〜20モル、金属K(例えば、Fe,Cu、Mnなど)0.1モル〜40モルの比率であることが好ましい。
ホウ素の配合量は、ホウ素原子として、Mo、Sおよび金属Kの合計に対して、0.1wt%〜10wt%である。
またカーボンの配合量は、カーボン原子として、全体の合計に対して、1wt%〜30wt%となるような量である。
窒素原子と酸素原子の反応量としては、窒化工程と酸化工程において、雰囲気ガスとして供給される窒素ガスや酸素ガスが所定の温度条件下で反応する量で足りる。
【0058】
(硫黄含有炭窒化物の解砕工程)
上記工程Aで得られた硫黄含有炭窒化物は、解砕して次の工程Bに供することができる。解砕されることにより最終的に得られる触媒をより微細な粉末にすることができ、触媒が好適に分散された触媒層を得ることができる。また、触媒活性面積が大きく、触媒能に優れるため好ましい。
【0059】
得られた硫黄含有炭窒化物を解砕する方法としては、例えば、ロール転動ミル、ボールミル、媒体撹拌ミル、気流粉砕機、乳鉢、槽解機による方法などが挙げられ、硫黄含有炭窒化物をより微粒とすることができる点では、気流粉砕機が好ましく、少量処理が容易となる点では、乳鉢による方法が好ましい。
【0060】
(工程B:硫黄含有炭窒化物から硫黄含有炭窒酸化物を製造する工程)
次に、前記のように窒素あるいは窒素ガスを含む不活性ガス雰囲気で加熱して得られた硫黄含有炭窒化物を、工程Bにおいて酸素ガスあるいは酸素ガスを含む不活性ガス(例えば、大気を使用することもできる。)雰囲気で加熱する工程を含む加熱方法により硫黄含有炭窒酸化物を得る。以下に該工程について説明する。
【0061】
上記不活性ガスとしては、窒素ガス、水素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガスまたはラドンガスが挙げられる。窒素ガス、アルゴンガスまたはヘリウムガスが、比較的入手しやすい点で特に好ましい。
【0062】
前記不活性ガス中の酸素ガス濃度は、加熱時間と加熱温度に依存するが、0.1〜5容量%が好ましく、0.1容量%〜4容量%が特に好ましい。前記酸素ガス濃度が前記範囲内であると、均一な炭窒酸化物が形成される点で好ましい。また、前記酸素ガス濃度が0.1容量%未満であると未酸化状態になる傾向があり、5容量%を超えると酸化が進み過ぎてしまう傾向がある。酸素ガスは、ボンベ等の純酸素や大気酸素を適宜に希釈して用いることができる。
【0063】
当該工程における加熱の温度は、通常は200℃〜1000℃の範囲であり、好ましくは400℃〜800℃の範囲である。前記加熱温度が前記範囲内であると、均一な炭窒酸化物が形成される点で好ましい。前記加熱温度が200℃未満であると酸化や焼結が進まない傾向があり、1000℃を超えると酸化や焼結が過大、過剰に進行する傾向がある。
【0064】
当該工程における加熱方法としては、静置法、攪拌法、マイクロ波法、落下法、粉末捕捉法などが挙げられる。静置法とは、静置式の電気炉などに、硫黄含有炭窒化物を置き、加熱する方法である。また、硫黄含有炭窒化物を量りとったアルミナボード、石英ボードなどを置いて加熱する方法もある。
マイクロ波は、電子レンジなどを代用することができる。まず、該当する混合物をカーボンシートなどで挟みこんで600Wで加熱する。加熱時間は、1秒〜1分、好ましくは1秒〜30秒である。その折にカーボンシート上に水を噴霧しておけば水蒸気加熱する事ができ、より均一な焼成が可能である点で好ましい。
【0065】
攪拌法とは、ロータリーキルンなどの電気炉中に硫黄含有炭窒化物を入れ、これを攪拌しながら加熱する方法である。攪拌法の場合は、大量の硫黄含有炭窒化物を加熱することができ、硫黄含有炭窒化物の粒子の凝集および成長を抑制することができる点で好ましい。
【0066】
静置式の電気炉では、前記出発物質を入れて、窒素雰囲気または窒素を含む不活性ガス中で、加熱して硫黄含有炭窒化物を製造した後、電気炉内の硫黄含有炭窒化物をそのまま、酸素ガスを含む不活性ガス(大気を使用する)雰囲気内に移し、さらに加熱して硫黄含有炭窒酸化物を得ることができる。
図1を参照して、本実施形態に係る硫黄含有炭窒酸化物の製造工程(焼成工程)の例を説明する。
図1は、加熱炉を用いた場合の出発物質への加熱プロフィルを示す。
図1において縦軸は、加熱炉内温度(℃)であり、横軸は加熱時間(hr)である。
なお、ここで説明する方法は、加熱炉に窒素ガスを導入し且つ炉内を減圧して硫黄含有炭窒化物を製造し、次いで、加熱炉内に大気などの含酸素ガスを導入しながら加熱炉を自然又は強制冷却して、本発明の硫黄含有炭窒酸化物を得るものである。一旦硫黄含有炭窒化合物を製造後、別途、これを酸化して、本発明の硫黄含有炭窒酸化物を製造する逐次製法によることもできる。
【0067】
図1中の(イ):常温、常圧で、(1)硫黄および/またはその酸化物、炭化物および窒化物から選択される硫黄化合物、(2)ホウ素および/またはその酸化物、炭化物および窒化物から選択されるホウ素化合物、(3)モリブデンおよび/またはその酸化物、炭化物および窒化物から選択されるモリブデン化合物、(4)炭素、(5)前記金属Kおよび/またはその酸化物、炭化物および窒化物から選択される金属K化合物を少なくとも含む所定の出発物質を静置式の電気炉(デンケン・ハイデンタル(株)製卓上真空ガス置換炉 KDF-75、内部幅120mm、内部高さ:90mm、奥行き:2200mm、容積2.4L)に入れる。そして真空ポンプを作動して、炉内部を真空引きして−100kPaまで減圧する。
【0068】
図1中の(ロ):昇温速度10℃/minで加熱をスタート後、1時間かけて600℃に加熱するとともに、スタート10分後、炉内部に窒素ガスを流速1L/minで導入する。
【0069】
図1中の(ハ):そのまま窒素ガス雰囲気で600℃に制御して3時間加熱して反応させて、硫黄含有炭窒化物を得る。
【0070】
図1中の(ニ):炉の加熱を停止し、電気炉内の製造した硫黄含有炭窒化物はそのままの状態で、電気炉に備えた開閉弁を約20分間、開けて、常温、常圧の酸素ガスを含む不活性ガス(大気)を導入し、導入後、炉の温度が1時間で500℃に低下するように制御する。
【0071】
図1中の(ホ):電気炉に備わる開閉弁を再度、約20分間、開けて、常温、常圧の酸素ガスを含む不活性ガス(大気)を導入し、炉の温度が1時間で400℃に低下するように制御する。
【0072】
図1中の(ヘ):電気炉に備わる開閉弁を再度、約20分間、開けて、常温、常圧の酸素ガスを含む不活性ガス(大気)を導入し、導入後、炉の温度が1時間で300℃に低下するように制御する。
【0073】
以上のように数回に分け炉内に酸素ガスを含む不活性ガス(大気)を導入し、温度を所定の勾配で徐々に下げながら、常温まで冷却して、本発明の硫黄含有炭窒酸化物を得る(
図1中の(ト)を参照)。
【0074】
(硫黄含有炭窒酸化物の解砕方法)
例えば上記製造方法により得られる硫黄含有炭窒酸化物を、そのまま用いてもよいが、得られる硫黄含有炭窒酸化物をさらに粉砕し、微粒化することが好ましい。粉砕され微粒化している硫黄含有炭窒酸化物を含む触媒は、酸化還元能が高くなる傾向がある。通常はこの解砕は、単に解砕、微細化することが目的であるので、最低限その程度で粉砕されればよい。
【0075】
硫黄含有炭窒酸化物を粉砕する方法としては、例えば、ジェットミル、振動ミル、ボールミル、ロッドミル、アトリッションミル、ディスクミル、遊星ボールミル、モルターグラインダ、ジョークラッシャ、ビータミル(ハンマーミル)、ミキサーミル、カッティングミルまたは超遠心粉砕機による方法などが挙げられる。中でも、ジェットミル、遊星ボールミルによる粉砕法が粒子をより微細にする点で好ましい。
【0076】
得られる硫黄含有炭窒酸化物を粉砕し、微粒子化した場合、該微粒子の粒子径は、その90質量%以上が8μm〜13μmの範囲であることが好ましく、5μm〜10μmの範囲であることがより好ましい。硫黄含有炭窒酸化物の粒子径が前記範囲内であると、該硫黄含有炭窒酸化物を含む触媒の酸化還元能が高くなる傾向がある。
【0077】
本願の前記工程A,Bの特徴は、窒素ガス存在下で硫黄と炭素を比較的低い温度で焼成することにより、ホウ素のほか、各種金属を含む硫黄含有炭窒化物が一旦製造されることにもある。不活性ガス中での焼成であるので、炭素等は燃焼することなく、他の金属原子と共にマトリックス中に取り込まれて、硫黄含有炭窒化物が得られる。ついで、酸素ガスにより酸化して、硫黄含有炭窒化酸化物を得る。得られた硫黄含有炭窒化酸化物は、微細結晶の集合した多孔質体である。工程Aおよび工程Bの加熱は比較的低温であり、それ故、各成分の部分的溶融下、あるいは融点以下において反応が進行し、かかる反応は現象面からいえば焼結(シンタリング)ということができる。全ての成分が完全溶融するほどの高温処理ではなく、また現象としては焼結であるものの、工程Aの加熱反応前にあらかじめ各出発物質の粒子を十分に微細化すると共に均一化しているため、A,B両工程の操作により得られる製品は、均一である。
【0078】
本発明の触媒は、構成原子として、硫黄(S)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、ホウ素(B)、モリブデン(Mo)および前記金属Kに含まれるいずれかの金属原子を含む材料であり、前記した工程Aおよび工程Bを経て製造される。
上記した工程A、Bを経ることにより、燃料電池の酸化還元触媒として有効な機能が発揮される。本発明の燃料電池における酸化還元触媒としての有効性は、従来から利用されている燃料電池用白金触媒に匹敵し得る。
【0079】
<用途>
本発明の触媒は、白金触媒の代替触媒として使用することができる。例えば、燃料電池用正極触媒、金属空気電池用正極触媒として使用できる。これら燃料電池用正極触媒、金属空気電池用正極触媒用としては、常法により製造することができる。以下に燃料電池用正極触媒、金属空気電池用正極触媒用のための方法を例示するが、これらに限定されることはない。
【0080】
本発明の燃料電池用正極触媒層は、前記触媒を含むことを特徴としている。前記触媒は、耐久性に優れ、酸素還元能が大きいので、正極触媒層に用いることが好ましい。
【0081】
本発明の燃料電池用触媒層には、さらに電子伝導性粒子を含むことが好ましい。前記触媒を含む燃料電池用触媒層がさらに電子伝導性粒子を含む場合には、還元電流をより高めることができる。電子伝導性粒子は、前記触媒に、電気化学的反応を誘起させるための電気的接点を生じさせるため、還元電流を高めると考えられる。
【0082】
前記電子伝導性粒子は通常、触媒の担体として用いられる。電子伝導性粒子としては、炭素、導電性高分子、金属または酸化チタンおよび酸化スズ、酸化インジウムなどの導電性無機酸化物が挙げられ、それらを単独または組み合わせて用いることができる。特に、炭素は比表面積が大きいため、炭素単独または炭素とその他の電子伝導性粒子との混合物が好ましい。すなわち燃料電池用触媒層としては、前記触媒と、炭素とを含むことが好ましい。
【0083】
炭素としては、カーボン、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、フラーレンが挙げられる。カーボンの粉末の粒径がより小さいと、比表面積が大きくなり、酸化物との反応がしやすくなるため好ましい。例えば、カーボンブラック(粒子径:26nm〜30nm三菱化学社製カーボンブラック)などが好適に用いられる。
【0084】
カーボンの粒径は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると燃料電池用触媒層のガス拡散性が低下する、あるいは触媒の利用率が低下する傾向があるため、1nm〜1000nmの範囲であることが好ましく、10nm〜100nmの範囲であることがより好ましい。
【0085】
電子伝導性粒子が、炭素の場合、前記触媒と炭素との質量比(触媒:電子伝導性粒子) は、好ましくは3:1〜500:1であり、より好ましくは4:1〜300:1であり、さらに好ましくは4:1〜200:1である。
【0086】
導電性高分子としては特に限定は無いが、例えばポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリアニリン、ポリアルキルアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリインドール、ポリ−1,5−ジアミノアントラキノン、ポリアミノジフェニル、ポリ(o−フェニレンジアミン)、ポリ(キノリニウム)塩、ポリピリジン、ポリキノキサリン、ポリフェニルキノキサリンなどが挙げられる。これらの中でも、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンが好ましく、ポリピロールがより好ましい。
【0087】
高分子電解質としては、燃料電池用触媒層において一般的に用いられているものであれば特に限定されない。具体的には、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体(例えば、NAFION(登録商標)(デュポン社5%NAFION(登録商標)溶液(DE521)など)が好ましい。
【0088】
本発明の燃料電池用触媒層は、正極触媒層に用いることができる。本発明の燃料電池用触媒層は、高い酸素還元能を有し、酸性電解質中において高電位であっても腐食しにくい触媒を含むため、燃料電池の正極に設けられる触媒層(カソード用触媒層)として有用である。特に固体高分子型燃料電池が備える膜電極接合体のカソードに設けられる触媒層に好適に用いられる。
【0089】
本発明の電極は、前記燃料電池用触媒層と多孔質支持層とを有することを特徴としている。
本発明の電極は、耐久性に優れ、触媒能が大きいので、カソードに用いるとより効果を発揮する。
【0090】
多孔質支持層とは、ガスを拡散する層(以下「ガス拡散層」とも記す。)である。ガス拡散層としては、電子伝導性を有し、ガスの拡散性が高く、耐食性の高いものであれば何であっても構わないが、一般的にはカーボンペーパー、カーボンクロスなどの炭素系多孔質材料や、軽量化のためにステンレス、耐食材を被覆したアルミニウム箔が用いられる。
【0091】
本発明の膜電極接合体は、アノードには白金触媒を使用し、カソードには前記アノードとの間に配置された電解質膜を有する膜電極接合体であって、前記カソードが、前記電極であることを特徴としている。
【0092】
電解質膜としては、燃料電池用触媒層において一般的に用いられているものであれば特に限定されない。具体的には、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体(例えば、NAFION(登録商標)(デュポン社 5%NAFION(登録商標)溶液(DE521)など)が好ましい。
【0093】
また本発明の燃料電池は、前記膜電極接合体を備えることを特徴としている。 燃料電池の電気化学反応はいわゆる三相界面(電解質−電極触媒−反応ガス)で起こる。燃料電池は、使用される電解質などの違いにより数種類に分類され、溶融炭酸塩型(MCFC)、リン酸型(PAFC)、固体酸化物型(SOFC)、固体高分子型(PEFC)などがある。中でも、本発明の膜電極接合体は、固体高分子形燃料電池に使用することが好ましい。
【実施例】
【0094】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。また、実施例および比較例における各種測定は、下記の方法により行なった。
【0095】
(分析方法)
1.X線回折スペクトル
全自動水平型多目的X線回析装置 Rigaku社製 「SmartLab」を用いて試料の粉末X線回折を行った。
【0096】
2.BET比表面積測定
細孔分布測定装置 カンタクローム社製 「AUTOSORB−1−C」を用いて測定を行った。
【0097】
3.粒子径の測定
レーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置 堀場製作所社製 「HORIBA LA−920」を用いて測定を行った。
【0098】
4.空隙率の測定
粉体/固体/発泡体の真体積・真密度測定装置 ユアサアイオニクス社製 「PentaPycnometer」を用いて測定を行った。
【0099】
まず、出発物質として、硫黄(S)を用いた試料(実施例1から実施例10)の実験結果(酸素還元開始電位)について説明する。実施例1から実施例10において、出発物質の一覧とその配合量は、下表1の通りである。
【0100】
【表1】
【0101】
なお、表1に示される、硫黄、酸化モリブデン、酸化マンガン、酸化銅、酸化鉄、酸化チタン、酸化コバルト、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ニッケル、酸化スズとして、いずれも和光純薬工業株式会社製のものを用いた。また、表1に示されるホウ素として、試薬特級のものを用いた。さらに、表1に示されるカーボンとして、三菱化学社製カーボンブラック(粒子径:26nm〜30nm)を用いた。
【0102】
実施例1から実施例10において、流星ミリングを用いて、表1で示された出発物質の各々を10時間ミリングした。その後、ミリングした各物質を混合した。ミリングにより均一混合した粉末原料を、常温、常圧で、静置式の電気炉(デンケン・ハイデンタル(株)製卓上真空ガス置換炉 KDF-75、内部幅120mm、内部高さ:90mm、奥行き:2200mm、容積2.4L)に入れた。
【0103】
その後、電気炉に備え付けた真空ポンプを作動して、炉内部を真空引きして−100kPaまで減圧した後、昇温速度10℃/minで炉内の加熱をスタートした。炉内を1時間かけて600℃に加熱するとともに、加熱開始から10分後、炉内部に窒素ガスを流速1L/minで導入した。そのまま窒素ガス雰囲気で600℃に制御して3時間加熱して原料(出発物質)を反応させ、黒色の硫黄含有炭窒化物を生成した。
【0104】
次いで、炉の加熱を停止し、電気炉に備え付けた開閉弁を約20分間開け、常温、常圧の酸素ガスを含む不活性ガス(大気)を炉内に導入した。不活性ガスの導入後、炉内の温度が1時間で500℃に低下するように制御し、開閉弁を再度、約20分間開け、常温、常圧の酸素ガスを含む不活性ガス(大気)を炉内に導入した。不活性ガスの導入後、炉の温度が1時間で400℃に低下するように制御し、電気炉に備えた開閉弁を再度、約20分間開け、常温、常圧の酸素ガスを含む不活性ガス(大気)を炉内に導入した。不活性ガスの導入後、炉の温度が1時間で300℃に低下するように制御した。以上のように数回に分け炉内に酸素ガスを含む不活性ガス(大気)を導入し、所定の勾配で徐々に温度を下げながら、炉内を常温まで冷却し、本発明の硫黄含有炭窒酸化物を得た。最後にこれをボールミルで1時間程度解砕した。
【0105】
上記実施例のうち、実施例1から3に関する粉末X線回折スペクトルを
図2から4に示す(
図2:実施例1、
図3:実施例2、
図4:実施例3)。また、実施例1から3に関して、走査線電子顕微鏡により撮影したSEM像を
図6から
図8に示す(
図6:実施例1、
図7:実施例2、
図8:実施例3)。
【0106】
実施例1から3に関する他の物性値は、以下の通りであった。
実施例1のBET比表面積:59.32m
2/g
実施例1の粒子径:10.28μm
実施例1の空隙率:87%
【0107】
実施例2のBET比表面積:57.01m
2/g
実施例2の粒子径:7.29μm
実施例2の空隙率:84%
【0108】
実施例3のBET比表面積:66.41m
2/g
実施例3の粒子径:9.15μm
実施例3の空隙率:89%
【0109】
次に、実施例1から10に関する触媒(硫黄含有炭窒酸化物)を用いて燃料電池用電極を製造した。燃料電池用電極の製造を下記のように行った。
【0110】
上記により得られた触媒0.06gとカーボン(三菱化学社製カーボンブラック)0.01gとを、エチレングリコールジメチルエーテル:純水=2:1の質量比で混合した溶液に入れ混合した。この混合物をカーボンシート電極(株式会社ケミックス社製、縦横2cm×2cm)に塗布し、60℃で7分間プレス乾燥した。さらに、NAFION(登録商標)(デュポン社5%NAFION(登録商標)溶液(DE521))を10倍にエチレングリコールジメチルエーテルで希釈したものを塗布し、120℃で1時間乾燥し、燃料電池用電極を得た。
【0111】
次に、製造した燃料電池用電極の触媒能(酸素還元能)を以下の方法で評価した。
【0112】
正極側電極に上記方法で製造した燃料電池用電極を使用し、NAFION膜を介して白金触媒を負極側電極に使用した。水素燃料使用の燃料電池キット(株式会社ケミックス製燃料電池組立キット Pem Master(登録商標) PEM-004)を用いて、白金触媒塗布後のカーボンシート電極を負極とし、前記触媒塗布後のカーボンシート電極を正極用とした。これに対して充放電装置(北斗電工株式会社製HJR−110mSM6)を用いて、作製した燃料電池の酸素還元開始電位を測定した。このときの水素の流量は、0.2〜0.4 l/MINとした。
【0113】
この充放電装置における放電特性を燃料電池用電極(1)の触媒能(酸素還元能)として評価した。すなわち、酸素還元開始電位が高いほど、また、酸素還元電流が大きいほど、燃料電池用電極(1)の触媒能(酸素還元能)が高いことを示す。実施例1から10に関して測定された酸素還元開始電位の値を下表2に示す。
【0114】
【表2】
【0115】
表2に示されるように、金属Kのうち、特に、マンガン、銅を含む触媒を用いた燃料電池(実施例1、実施例2)の酸素還元開始電位が、他の触媒を用いた燃料電池(実施例3から実施例10)に比べて高い値を示した。この結果から、マンガン又は銅を含む触媒(実施例1、実施例2)が、これらの中で高い触媒能(酸素還元能)を有することが示された。
【0116】
特に、実施例1及び実施例2に係る酸素還元開始電池は、1V近傍の高い値であることから、実施例1及び実施例2の触媒は、従来から一般に用いられる白金触媒と匹敵する高い触媒能を有する。
【0117】
次に、実施例1から実施例10の燃料電池における、電流電圧特性を
図5に示す。
図5の横軸は、燃料電池から出力される電流値(mA)であり、
図5の縦軸は、各電流値での出力電位(V)に対応する。電流値が0mAの場合の電位は、前述の酸素還元開始電位に対応する。
【0118】
図5に示されるように、実施例1から実施例3の電位は、いずれも、電流の増加に伴い減少した。しかしながら、5.0mAまで電流が増加しても、いずれも正の電位が維持された。これに対して、実施例4、実施例5、実施例8、実施例9、および実施例10の電位は、いずれも、実施例1から実施例3に比べて急速に減少した。最終的には、1.0mA時点で、いずれも電位が0Vとなった。同じく、実施例6、実施例7の電位は、実施例1から実施例3に比べて急速に減少した。最終的には、2.0mA時点(実施例7)又は3.5mA時点(実施例6)で、電位が0Vとなった。
【0119】
この結果から、実施例1から実施例3の燃料電池において、電流の増加に伴い増える素子内部の抵抗成分が、実施例4から実施例10に比べて大幅に抑制されていることが示唆された。このことから、燃料電池の出力特性として、実施例1から実施例3(金属Kとして、マンガン、銅、鉄を用いるもの)が、他の実施例に比べて優れることが判明した。
【0120】
次に、出発物質として、硫黄を用いず、硫黄化合物を用いた試料(実施例11から実施例22)の実験結果(酸素還元開始電位)について説明する。実施例11から実施例22において、出発物質の一覧とその配合量は、下表3の通りである。
【0121】
なお、表3に示される、硫化モリブデン、酸化モリブデン、モリブデン、硫化マンガン、酸化マンガン、マンガン、硫化銅、酸化銅、銅、酸化鉄、鉄として、いずれも和光純薬工業株式会社製のものを用いた。また、表3に示されるホウ素として、試薬特級のものを用いた。さらに、表3に示されるカーボンとして、三菱化学社製カーボンブラック(粒子径:26nm〜30nm)を用いた。
【0122】
【表3】
【0123】
表3に示される出発物質に基づき、上記実施例1から10の場合と同様の方法で触媒(硫黄含有炭窒酸化物)を製造した。また、上記実施例1から10の場合と同様の方法で、この触媒を含む燃料電池を作製した。さらに、上記実施例1から10の場合と同様の方法で、作製した燃料電池の酸素還元開始電位を測定した。実施例11から22に関して、測定された酸素還元開始電位の値を表4に示す。
【0124】
【表4】
【0125】
表4に示されるように、実施例11から22のいずれの酸素還元開始電位も、出発物質として硫黄を含む上記実施例1、実施例2のそれを下回った。この結果から、実施例1や実施例2のように出発物質として硫黄を含む触媒の酸化還元能が、出発物質として硫黄を含まない触媒のそれに比べて高い可能性が示唆された。
【課題】燃料電池の酸性電解質中や高電位で腐食せず、安定であり、電解質膜と接する面に存在する触媒粒子だけでなく、電解質膜から離れた場所に存在する触媒層中の触媒粒子に形成される気相(加湿した反応ガス)、液相の三相界面においても、電極反応に有効に関与する、触媒粒子の利用効率が高く、高い酸素還元能を有し、高特性が得られ、かつ白金と比べ安価である触媒の提供であり、かくして燃料電池は、高特性でかつ長寿命を有する上、比較的安価で経済性に優れたものとなる。
【解決手段】モリブデン、ホウ素および下記金属K(タンタル、ジルコニウム、銅、鉄、タングステン、チタン、バナジウム、コバルト、マンガン、アルミニウムおよびニッケルからなる群より選択された少なくとも1種の金属)を含有する硫黄含有炭窒酸化物を含む多孔性触媒が提供される。