(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.第1実施形態:
A1.センサモジュール:
図1は、本発明の第1実施形態における接触燃焼式ガスセンサモジュール10(以下、単に「センサモジュール10」とも呼ぶ)の構成を示す説明図である。
図1(a)は、センサモジュール10の断面を示している。第1実施形態のセンサモジュール10では、センサチップ100が、ケース11とキャップ12とからなるパッケージ19内に実装されている。キャップ12は、例えば、ステンレス鋼や真鍮等の焼結金属、ステンレス鋼等からなる金網、あるいは、多孔質セラミックスで形成されている。これにより、パッケージ19内外の通気性が確保されるとともに、センサチップ100の汚染が抑制され、また、センサモジュール10自体の防爆化が図られている。センサチップ100は、空洞部119が設けられた基板110がダイボンド材15によりケース11に接着されることにより、ケース11に固定されている。
【0019】
図1(b)は、ケース11に固定されたセンサチップ100を上面から見た様子を示している。
図1(b)における一点鎖線Aは、
図1(a)で示した断面の位置を示す切断線である。また、一点鎖線C1,C2は、センサチップ100の中心位置を示す中心線である。
図1(b)に示すように、センサチップ100の上面には、導電膜が露出したボンディングパッドP11〜P15が形成されている。このボンディングパッドP11〜P15と、ケース11の外部電極13に接続された端子14とをワイヤ16で接続することにより、センサチップ100と外部回路との接続が可能となっている。
【0020】
センサチップ100の上面には、可燃性ガスを触媒燃焼させるためのガス反応膜191と、比較のための参照膜192とが設けられている。可燃性ガスがキャップ12を透過してセンサチップ100に到達すると、ガス反応膜191では、可燃性ガスが触媒燃焼し、可燃性ガスの濃度に応じた量の熱が発生する。そのため、ガス反応膜191は、可燃性ガスの濃度に応じて温度が上昇する。一方、参照膜192は、触媒燃焼による温度上昇が発生しない。詳細については後述するが、センサチップ100は、ガス反応膜191と参照膜192とのそれぞれの温度を表す信号を出力する。これらの出力信号に基づいて、可燃性ガスの触媒燃焼により温度上昇するガス反応膜191と、可燃性ガスによる温度上昇がない参照膜192との温度差を求めることにより、雰囲気中の可燃性ガスの濃度を測定することができる。なお、このように、センサチップ100は、センサモジュール10において、ガスを検出する機能を担っているので、ガスセンサそのものであると謂える。そのため、以下では、センサチップ100を単に「ガスセンサ100」と呼ぶ。
【0021】
図1(b)に示すように、ガスセンサ100は、横方向に伸びる中心線C1に対して対称に形成されており、また、縦方向に伸びる中心線C2に対して略対称に形成されている。そのため、以下では、必要性がない限り、このように対称性を有する部分については、その1つについてのみ説明する。また、中心線C1よりガス反応膜191側の部分は、ガス反応膜191の温度を表す信号、すなわち、雰囲気中の可燃性ガスの濃度に応じた信号を出力するように構成されており、中心線C1より参照膜192側の部分は、外的要因によるガス反応膜191の温度変化を補償するための信号を出力する。そのため、ガス反応膜191側の部分は、ガスを検出するガス検出部とも謂うことができ、参照膜192側の部分は外的要因による出力変動を補償する補償部とも謂うことができる。このように、ガスセンサ100は、ガス検出部と補償部とが略対称に形成されているので、環境温度の変化等の外的要因による出力変動を高い精度で補償することができる。
【0022】
A2.ガスセンサの製造工程:
図1(a)に示すように、ガスセンサ100は、空洞部119が設けられた基板110と、基板110の上面に形成された絶縁膜120とを有している。絶縁膜120上には、ガスの検出機能を実現するための構造(後述する)を形成する複数の膜(機能膜)が積層されている。具体的には、絶縁膜120上に、半導体、導電体および絶縁体等を成膜し、必要に応じてパターニングすることにより、種々の機能膜が形成される。なお、これらの機能膜は、半導体デバイスの製造方法として周知の技術を用いて形成することができるので、各機能膜の具体的な形成方法については説明を省略する。また、絶縁膜120および絶縁膜120上に積層される機能膜は、ガスセンサの製造工程や構造の変更に伴い、適宜追加あるいは省略される。
【0023】
図2は、ガスセンサ100の製造工程の中間段階における中間体100aの形状を示す説明図である。
図2(a)は、中間体100aを上面から見た様子を示しており、
図2(b)は、
図2(a)の切断線Aにおける中間体100aの断面を示している。ガスセンサ100の製造工程では、まず、空洞部119(
図1(a))を有さないシリコン(Si)等の基板110aを準備する。次いで、準備した基板110aの上面に、酸化ケイ素(SiO
2)、窒化ケイ素(Si
3N
4)およびSiO
2をこの順に成膜することにより、絶縁膜120を形成する。なお、絶縁膜120を、SiO
2とSi
3N
4との多層膜とせず、酸窒化ケイ素(SiON)の単層膜とすることも可能である。また、基板110aの裏面に、SiO
2およびSi
3N
4をこの順に成膜することにより、マスク膜102aを形成する。
【0024】
基板110aに絶縁膜120とマスク膜102aとを形成した後、基板110aに成膜された絶縁膜120上に、n型ポリシリコンを成膜することにより、n型半導体膜130を形成する。このn型半導体膜130をパターニングすることにより、絶縁膜120上にn型熱電素子131と、ヒータ132と、ヒータ132に通電するためのヒータ配線133,134とが形成された中間体100aが得られる。
【0025】
図3は、
図2の後の段階における中間体100bの形状を示す説明図である。
図3(a)は、中間体100bを上面から見た様子を示しており、
図3(b)は、
図3(a)の切断線Aにおける中間体100bの断面を示している。n型半導体膜130の形成(
図2)の後、中間体100a上にSiO
2を成膜することにより、第1の層間絶縁膜140bを形成する。次いで、第1の層間絶縁膜140b上に、p型ポリシリコンを成膜することにより、p型半導体膜150を形成する。このp型半導体膜150をパターニングすることにより、第1の層間絶縁膜140b上に、p型熱電素子151が形成された中間体100bが得られる。
【0026】
なお、n型半導体膜130およびp型半導体膜150の少なくとも一方の材料として、ポリシリコンに替えて、鉄シリサイド(FeSi
2)、シリコン・ゲルマニウム(SiGe)あるいはビスマス・アンチモン(BiSb)等の種々の半導体を用いても良い。また、第1実施形態では、絶縁膜120上にn型半導体膜130を形成し、層間絶縁膜140b上にp型半導体膜150を形成しているが、これらの半導体膜のドープ型を逆にすることも可能である。さらに、2つの半導体膜130,150の少なくとも一方を金属からなる導電膜に置き換えることも可能である。但し、2つの半導体膜130,150の双方を導電膜に置き換える場合には、2つの導電膜は、材質の異なる金属で形成される。
【0027】
図4は、
図3の後の段階における中間体100cの形状を示す説明図である。
図4(a)は、中間体100cを上面から見た様子を示しており、
図4(b)は、
図4(a)の切断線Aにおける中間体100cの断面を示している。p型半導体膜150の形成(
図3)の後、中間体100b上に、SiO
2を成膜して第2の層間絶縁膜(図示しない)を形成する。そして、第1の層間絶縁膜140bと第2の層間絶縁膜とを併せてパターニングする。これにより、開口部(コンタクトホール)H11〜H16が設けられた第1と第2の層間絶縁膜140,160が形成される。コンタクトホールH12,H14,H15,H16においては、n型半導体膜130が露出し、コンタクトホールH11,H13においては、p型半導体膜150が露出する。
【0028】
第1と第2の層間絶縁膜140,160の形成の後、白金(Pt)の成膜・パターニングを行い、導電膜170を形成する。これにより、導電膜170が形成された中間体100cが得られる。なお、導電膜170を形成する材料として、Ptに替えて、タングステン(W)、タンタル(Ta)、金(Au)、アルミニウム(Al)あるいはAl合金等、合金を含む種々の金属を用いても良い。また、導電膜170の少なくとも一方の面に、チタン(Ti)やクロム(Cr)からなる密着層を形成しても良い。
【0029】
上述のように、第1と第2の層間絶縁膜140,160には、半導体膜130,150が露出したコンタクトホールH11〜H16が設けられている。そのため、導電膜170を形成することにより、n型半導体膜130と、p型半導体膜150と、導電膜170とを所定の機能を実現するように接続する配線および電極が形成される。具体的には、温接点接続線171、冷接点接続線172、信号出力電極173、サーモパイル接続線174、ヒータ通電電極175およびグランド配線176が、導電膜170として形成される。また、これらの配線や電極と同時に、温接点接続線171の近傍に均熱膜177が形成される。
【0030】
温接点接続線171は、上下に積層されたn型熱電素子131とp型熱電素子151とを接続して、ガス反応膜191や参照膜192(
図1)の温度を測定するための温接点を形成する。冷接点接続線172は、隣接するn型熱電素子131とp型熱電素子151とを接続して、温度測定の基準となる冷接点を形成するとともに、n型熱電素子131とp型熱電素子151とで構成される複数の熱電対を直列接続する。サーモパイル接続線174は、熱電対を直列接続したサーモパイルをさらに直列接続する。信号出力電極173は、直列接続されたサーモパイルの一端のp型熱電素子151に接続されている。一方、直列接続されたサーモパイルの他端にあるn型熱電素子131は、グランド配線176に接続されている。これにより、信号出力電極173には、グランド配線176に対して、温接点と冷接点との温度差に対応した電圧が発生する。ヒータ132に接続されている2つのヒータ配線133,134は、それぞれ、ヒータ通電電極175とグランド配線176とに接続されており、ヒータ通電電極175とグランド配線176との間に電圧を印加することにより、ヒータ132に通電することができる。なお、このように、温接点接続線171により形成される温接点は、ガス反応膜191や参照膜192の温度を測定する機能を有するので、測温素子とも謂うことができる。
【0031】
図5は、均熱膜の形成パターンの例を示す説明図である。
図5(a)は、第1実施形態における均熱膜177と、均熱膜177の近傍に形成される温接点接続線171との形成パターンを示し、
図5(b)および
図5(c)は、均熱膜877,977と、均熱膜877,977の近傍に形成される温接点接続線871,971との形成パターンの変形例を示している。
図5(a)に示すように、第1実施形態の均熱膜177は、温接点接続線171との間に狭い隙間SP1を作るように形成されている。このように、隙間SP1が狭くなっているため、均熱膜177と温接点接続線171との間では、熱が良好に伝達される。均熱膜177と温接点接続線171とは、いずれも、熱伝導度の高い導電膜170として形成されているので、均熱膜177と温接点接続線171とを含む領域では、熱が当該領域の全体に分散され、温度が均一化される。このように、均熱膜177と温接点接続線171とは、熱を分散し、均熱膜177と温接点接続線171とを含む領域の温度を均一化するので、合わせて「均熱部」とも呼ぶことができる。
【0032】
図5(b)の例では、温接点接続線871が均熱膜877の中心方向に延びているため、均熱膜877と温接点接続線871とを含む領域の大部分において導電膜が連続していない。しかしながら、
図5(b)の場合においても、均熱膜877と温接点接続線871との間の隙間SP8が狭くなっているため、均熱膜877と温接点接続線871との間の熱の伝達を良好にすることができる。そのため、温接点接続線871が形成されている領域では、均熱膜877を介して熱が伝達されるので、均熱膜877と温接点接続線871とを含む領域では、熱が当該領域の全体に分散され、温度が均一化される。
【0033】
図5(c)の例では、隣接する温接点接続線971の間には、均熱膜977が形成されていない。そのため、隣接する温接点接続線971の間では、熱は良好に伝達されない。しかしながら、
図5(c)の場合においても、均熱膜977は、温接点接続線971の隣接方向に連続しており、また、均熱膜977と温接点接続線971との間の隙間SP9は、隣接方向と直交する方向で狭くなっている。そのため、隣接する温接点接続線971との間においては、均熱膜977を介して十分良好に熱が伝達されるので、均熱膜977と温接点接続線971とを含む領域では、熱が当該領域の全体に分散され、温度が均一化される。
【0034】
図6は、
図4に示す段階の後、さらに工程を進めることにより得られるガスセンサ100の形状を示す説明図である。
図6(a)は、ガスセンサ100を上面から見た様子を示しており、
図6(b)は、
図6(a)の切断線Aにおけるガスセンサ100の断面を示している。導電膜170の形成(
図4)の後、中間体100c上に、SiO
2を成膜して、保護膜180を形成する。保護膜180のパターニングにより開口部181〜183を設けることにより、信号出力電極173が露出したボンディングパッド(信号出力パッド)P11,P13と、ヒータ通電電極175が露出したボンディングパッド(ヒータ通電パッド)P12,P14と、グランド配線176が露出したボンディングパッド(グランドパッド)P15とが形成される。
【0035】
保護膜180を形成した後、基板110に設けられる空洞部119を形成する。空洞部119の形成に際しては、まず、マスク膜102aに開口部109を形成する。次いで、開口部109が設けられたマスク膜102をマスクとして基板110aをエッチングすることにより、空洞部119が形成される。エッチングは、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)や水酸化カリウム(KOH)の水溶液を用いた結晶異方性エッチングにより行うことができる。また、このようなウェットエッチングの他、いわゆるボッシュプロセス等のドライエッチングにより空洞部119を形成するものとしても良い。このように空洞部119を形成することにより、絶縁膜120が裏面側において露出したメンブレン121が形成される。なお、このメンブレン121は、
図6から分かるように、空洞部119を渡るように形成されている。
【0036】
なお、
図6の例では、基板を下面側からエッチングすることにより空洞部119を形成しているが、空洞部は、基板を上面側からエッチングして形成することも可能である。この場合、絶縁膜120と、第1および第2の層間絶縁膜140,160と、保護膜180とに貫通穴を設け、当該貫通穴を通して基板をエッチングすることにより空洞部を形成することができる。このように基板を上面側からエッチングした場合、基板の上面側からの加工のみでガスセンサを製造でき、また、基板の残存部を下面側からエッチングした場合よりも多くすることができる。そのため、ガスセンサの製造工程を簡略化して歩留まりをより高くすることができるとともに、エッチング後の基板の強度をより高くすることができる点で、基板を上面側からエッチングするのが好ましい。一方、基板の下面側からエッチングする方が、絶縁膜120に貫通穴を設けることなく空洞部119が形成できるので、メンブレンに貫通穴が形成されて強度が低下することを抑制し、メンブレンの破損を抑制できる点で、好ましい。
【0037】
また、空洞部は、必ずしも基板に設ける必要はない。例えば、基板と絶縁膜との間、もしくは、絶縁膜120とn型半導体膜および第1の層間絶縁膜との間に、空洞部を形成することも可能である。このような基板上の空洞部は、基板もしくは絶縁膜120上の空洞部を形成する領域に犠牲膜を形成した後、上述のように保護膜までの各機能膜を形成し、次いで保護膜上面から犠牲膜に到達する貫通穴を設け、当該貫通穴を通して犠牲膜を除去することにより、形成することができる。犠牲膜を形成する材料としては、ポリイミド等の樹脂やポリシリコン等の半導体を用いることができる。樹脂からなる犠牲膜は、アッシングにより除去することができ、半導体からなる犠牲膜は、エッチングにより除去することができる。但し、犠牲膜として半導体を用いる場合には、基板もしくはn型半導体膜のエッチングを阻止するため、基板、もしくは、絶縁膜120および犠牲膜の上に、SiO
2やSi
3N
4等からなる阻止膜が形成される。このように、基板上に空洞部を形成した場合、基板をエッチングした場合よりも、基板の強度をより高くすることができる。一方、ガスセンサの製造工程をより簡略化できる点においては、基板をエッチングするのが好ましい。
【0038】
空洞部119の形成後、保護膜180上にガス反応膜191および参照膜192を形成する。具体的には、ガス反応膜191および参照膜192を形成する領域に、それぞれ、燃焼触媒としてのPt微粒子を担持させたアルミナ粒子を含むペーストと、触媒を担持させていないアルミナ粒子を含むペーストとを塗布する。ペーストの塗布は、ディスペンサによる塗布技術やスクリーン印刷技術を用いて行うことができる。ペーストを塗布した後、焼成することにより、ガス反応膜191および参照膜192が形成される。このように、保護膜180上にガス反応膜191と参照膜192とを形成することにより、ガスセンサ100が得られる。
【0039】
なお、ガス反応膜191に使用する燃焼触媒として、Pt微粒子に替えて、パラジウム(Pd)微粒子を用いることも可能である。また、参照膜192の比熱をガス反応膜191に近づけるため、参照膜192を形成するためのペーストに酸化銅(CuO)等の金属酸化物を混ぜても良い。さらに、参照膜192に含まれる担体に、特定のガスについて選択的に触媒として作用する燃焼触媒(例えば、Auの超微粒子)を担持するものとしても良い。この場合においても、当該特定のガス以外の可燃性ガスに関しては、参照膜192の担体には燃焼触媒が担持されていないと謂うことができる。
【0040】
図6から分かるように、第1実施形態のガスセンサ100においては、温接点を形成する温接点接続線171と、均熱膜177と、ガス反応膜191および参照膜192と、ヒータ132とが、いずれもメンブレン121上に形成されている。一方、冷接点を形成する冷接点接続線172は、基板110が残存している領域(基板領域)に形成されている。また、ガスセンサ100では、均熱部である温接点接続線171と均熱膜177とが、ヒータ132と、ガス反応膜191および参照膜192との間に配置されている。そして、ガス反応膜191および参照膜192とは、それぞれが均熱部の内側に収まるように、均熱部よりも小さく形成されている。
【0041】
また、温接点接続線171により形成される温接点は、ガス反応膜191や参照膜192の下に形成されており、冷接点接続線172により形成される冷接点は、空洞部119が形成されていない基板領域上に形成されている。但し、温接点は、必ずしもガス反応膜191や参照膜192の下に形成される必要はない。一般的に、温接点は、ガス反応膜191や参照膜192の近傍に形成されていればよい。このようにしても、ガス反応膜191や参照膜192の温度を測定することができる。
【0042】
A3.ガスセンサの動作:
図6(a)および
図6(b)に示すように、温接点接続線171は、ガス反応膜191と参照膜192とのそれぞれの下に形成されているため、温接点接続線171の温度は、ガス反応膜191や参照膜192の温度と略同一となる。一方、
図1に示すように、基板110は、ダイボンド材15によりパッケージ19のケース11に接着されているので、基板領域に配置された冷接点接続線172の温度は、パッケージ19の温度や環境温度と略同一となる。そのため、信号出力パッドP11,P13には、それぞれ、環境温度を基準としたガス反応膜191および参照膜192の温度に対応した電圧が出力される。そして、2つの信号出力パッドP11,P13の出力電圧の差を取ることにより、環境温度等の外的要因を補償して、ガス反応膜191と参照膜192との温度差を測定することができる。
【0043】
ガスセンサ100を動作させる際には、グランドパッドP15とヒータ通電パッドP12,P14との間に電圧を印加して、ヒータ132を発熱させ、ガス反応膜191と参照膜192との温度を上昇させる。ガス反応膜191においては、温度が上昇することにより燃焼触媒が活性化する。これにより、雰囲気中に可燃性ガスが存在する場合には、可燃性ガスが触媒燃焼して発熱し、可燃性ガスの濃度に応じて温度が上昇する。一方、参照膜192は、雰囲気中に可燃性ガスが存在する場合においても発熱しない。そのため、ガス反応膜191と参照膜192とには、可燃性ガスの濃度に応じた温度差が生じる。このガス反応膜191と参照膜192との温度差を、上述のように測定することにより、雰囲気中の可燃性ガスの濃度を測定することができる。
【0044】
ヒータ132で発生させた熱でガス反応膜191と参照膜192との温度を上昇させるとき、ヒータ132で発生した熱が、ガス反応膜191や参照膜192に均一に伝達されないと、ガス反応膜191や参照膜192に温度むらが生じる。また、ガス反応膜191において、触媒粒子の分布や膜厚が不均一になると、可燃性ガスの燃焼による発熱量が不均一になり、ガス反応膜191に温度むらが生じる。
【0045】
ガス反応膜191や参照膜192に温度むらが生じると、メンブレン121における温度分布の対称性が崩れ、参照膜192を有する補償部を用いた外的要因の補償を十分に高い精度で行えなくなる。そのため、可燃性ガスがない場合の2つの信号出力パッドP11,P13の電圧の差(オフセット)が増大したり、環境温度やガス流量等によるオフセットの変化(ドリフト)が増大する可能性がある。そして、オフセットやドリフトが増大すると、低濃度のガス検出が困難になり、また、ガス濃度の測定再現性が低下する虞がある。
【0046】
さらに、ガス反応膜191に温度むらが生じると、ガス反応膜191が有する燃焼触媒の活性がガス反応膜191内で変化するため、可燃性ガスの検出感度に影響を与える。具体的には、燃焼触媒の活性は温度の低下に伴って急激に低下するので、温度が低い領域が発生することにより、ガス反応膜191全体での可燃性ガスの触媒燃焼量が低下し、ガスの検出感度が低下する。また、特定のガスについて選択的に触媒として作用する燃焼触媒を使用した場合であっても、温度が高い領域において触媒の温度が過度に上昇すると、当該特定のガス以外の可燃性ガスに対しても燃焼触媒として作用し、検出ガスの選択性が低下する。
【0047】
第1実施形態のガスセンサ100では、ヒータ132と、ガス反応膜191および参照膜192との間に熱伝導度の高い均熱部(すなわち、均熱膜177および温接点接続線171)を配置している。そのため、ヒータ132で生じた熱は、均熱部において均熱部全体に分散された後、ガス反応膜191および参照膜192のそれぞれに均一に伝達されるので、ガス反応膜191および参照膜192における温度むらの発生が抑制される。また、ガス反応膜191での触媒燃焼で発生した熱も、均熱部において分散される。そのため、ガス反応膜191において可燃性ガスの燃焼による発熱量が不均一になる場合においても、ガス反応膜191に温度むらが発生することを抑制することができる。
【0048】
このように、第1実施形態のガスセンサ100によれば、ガス反応膜191および参照膜192における温度むらの発生によるオフセットの増大やドリフトの増大が抑制されるので、より高い感度で可燃性ガスを検出することが可能になるとともに、ガス濃度の測定再現性を高くすることができる。また、ガス反応膜191における温度むらの発生が抑制されることにより、可燃性ガスの検出感度の低下や、選択性の低下を抑制することができる。
【0049】
さらに、第1実施形態では、均熱部を金属により形成しているため、金属(導電体)により形成されるガスセンサ100の各部の配線と同時に形成することができる。そのため、均熱部を形成するための工程を別個に設ける必要がなくなるので、均熱部を有するガスセンサ100の製造工程をより簡単にすることができる。また、一般的に、金属からなる導電膜170は、メンブレン121よりも高い靱性を有しているので、均熱部を設けることにより、製造工程や完成後のガスセンサ100の破損が抑制される。
【0050】
加えて、温接点を形成する温接点接続線171と、均熱部(すなわち温接点接続線171と均熱膜177)の外形の大半を決定している均熱膜177とは、フォトリソグラフィ等の半導体製造工程で利用されるパターニング技術により形成されるので、均熱部に対する温接点の位置の精度を高くすることができる。そして、ガス反応膜191で発生した熱は、均熱部で分散された後、温接点に伝達されるので、ガス反応膜191の形成位置にばらつきがある場合においても、複数ある温接点のそれぞれに伝達される熱のばらつきが抑制される。そのため、オフセット、ドリフトあるいは感度等のガスセンサ100の特性が、個体毎にばらつくことを抑制することができる。
【0051】
また、第1実施形態のガスセンサ100では、上述のように、温接点を形成する温接点接続線171と、均熱膜177と、ガス反応膜191および参照膜192と、ヒータ132とが、いずれもメンブレン121上に形成されている。このメンブレン121は、一般に薄く(約1〜5μm)形成されるので、メンブレン121自体の熱容量は小さい。また、メンブレン121の下面には、熱を伝達しない空洞部119が形成されている。このように、ガス反応膜191を空洞部191上に形成された熱容量が小さいメンブレン121の上部に形成することにより、ガス反応膜191における可燃性ガスの触媒燃焼で発生する熱量が少ない場合においても、ガス反応膜191の温度を十分に上昇させることができる。そのため、ガスセンサ100における可燃性ガスの検出感度をより高くすることができる。なお、メンブレン121の下面に形成された空洞部119は、熱を伝達しないので、断熱部とも言うことができる。
【0052】
B.第2実施形態:
図7ないし
図10は、第2実施形態におけるガスセンサ200の製造工程の各段階を示す説明図である。
図7(a)、
図8(a)、
図9(a)、
図10(a)は、各段階において得られる中間体200a、200b、200cおよびガスセンサ200を上面から見た様子を示している。また、
図7(b)、
図8(b)、
図9(b)、
図10(b)は、中間体200a、200b、200cおよびガスセンサ200の切断線Aにおける断面を示している。第2実施形態のガスセンサ200は、第1実施形態においてn型半導体膜130として形成されていたヒータ132を導電膜270として形成している点と、導電膜270として形成される均熱膜MS1〜MS3に加えて、n型半導体膜230として形成される均熱膜235を用いている点と、これらの変更に合わせて各部の形状を変更している点とで、第1実施形態と異なっている。他の点は、第1実施形態と同様である。
【0053】
第1実施形態と同様に、ガスセンサ200の製造工程では、まず、
図7に示すように、絶縁膜220とマスク膜202aとを成膜した基板210aを準備し、その絶縁膜220上に、n型熱電素子231と均熱膜235とを有するn型半導体膜230を形成する。次いで、
図8に示すように、n型半導体膜230を形成した中間体200a上に、層間絶縁膜240bと、p型熱電素子251となるp型半導体膜250を形成する。次いで、
図9に示すように、層間絶縁膜240bと、p型半導体膜250を形成した中間体200b上に成膜された層間絶縁膜とにコンタクトホールH21〜H24を形成した後、導電膜270を形成する。これにより、第1実施形態と同様に、温接点接続線271、冷接点接続線272、信号出力電極273、サーモパイル接続線274、ヒータ通電電極275およびグランド配線276が形成されるとともに、ヒータ278と、ヒータ278をグランド配線276に接続するヒータ配線279と、均熱膜MS1〜MS3とが形成される。なお、均熱膜MS1〜MS3の形状は種々変更可能であり、例えば、温接点接続線271を囲むように、温接点接続線271の外側において2つの均熱膜MS1,MS3が連続するように形成しても良く、また、第1実施形態の均熱膜177と同様に、狭い隙間を空けて温接点接続線271を囲むようにしても良い。さらに、ヒータ278の線間に均熱膜を形成することも可能である。
【0054】
図9に示すように、導電膜270を形成した後、
図10に示すように、中間体200c上に、開口部281〜283が設けられた保護膜280を形成する。これにより、ガスセンサ200の上面には、信号出力電極273が露出した信号出力パッドP21,P23と、ヒータ通電電極275が露出したヒータ通電パッドP22,P24と、グランド配線276が露出したグランドパッドP25とが形成される。そして、開口部209が設けられたマスク膜202をマスクとしたエッチングにより、基板210に設けられる空洞部219を形成することで、絶縁膜220が裏面側において露出したメンブレン221を形成する。次いで、保護膜280上にガス反応膜291および参照膜292を形成することにより、第2実施形態のガスセンサ200が得られる。
【0055】
図10から分かるように、第2実施形態のガスセンサ200においても、第1実施形態のガスセンサ100と同様に、温接点を形成する温接点接続線271と、均熱膜235,MS1〜MS3、ガス反応膜291および参照膜292と、ヒータ278とが、いずれもメンブレン221上に位置するように形成されている。また、冷接点を形成する冷接点接続線272は、基板210が残存している基板領域に位置するように形成されている。
【0056】
一方、第2実施形態のガスセンサ200においては、第1の均熱部であるn型半導体膜230として形成された均熱膜235と、第2の均熱部である導電膜270として形成された均熱膜MS1〜MS3および温接点接続線271とを有している。そして、ヒータ278は、均熱膜MS1〜MS3および温接点接続線271と同様に、導電膜270として形成されている。そのため、ヒータ278は、各機能膜の積層方向において、第1の均熱部が形成されている領域と、第2の均熱部が形成されている領域との間に位置するので、第1と第2の均熱部の間に形成されていると謂うことができる。
【0057】
このように、第2実施形態のガスセンサ200においても、均熱部を設けることにより、ガス反応膜291および参照膜292において温度むらが発生することを抑制することができる。そのため、オフセットの増大やドリフトの増大が抑制されるので、より高い感度で可燃性ガスを検出することが可能になるとともに、ガス濃度の測定再現性を高くすることができる。また、ガス反応膜291における温度むらの発生が抑制されることにより、可燃性ガスの検出感度の低下や、選択性の低下を抑制することができる。
【0058】
また、第2実施形態では、第1の均熱部をn型半導体により形成し、第2の均熱部を金属により形成している。そのため、第1の均熱部は、n型熱電素子231と同時に形成でき、第2の均熱部は、ガスセンサ200の各部の配線と同時に形成することができる。そのため、第1と第2の均熱部を形成するための工程を別個に設ける必要がなくなるので、これら2つの均熱部を有するガスセンサ200の製造工程をより簡単にすることができる。なお、第1の均熱部は、p型半導体により形成しても良い。この場合においても、第1の均熱部は、p型熱電素子251と同時に形成することができるので、ガスセンサ200の製造工程をより簡単にすることができる。また、一般的に、半導体からなるn型半導体膜230と、金属からなる導電膜270とのいずれもが、メンブレン221よりも高い靱性を有しているので、これら2つの均熱部を設けることにより、製造工程や完成後のガスセンサ200の破損が抑制される。
【0059】
さらに、温接点を形成する温接点接続線271と、第1および第2の均熱部とは、フォトリソグラフィ等の半導体製造工程で利用されるパターニング技術により形成されるので、これら2つの均熱部に対する温接点の位置の精度を高くすることができる。そのため、ガス反応膜291の形成位置にばらつきがある場合においても、複数ある温接点のそれぞれに伝達される熱のばらつきが抑制され、オフセット、ドリフトあるいは感度等のガスセンサ200の特性が、個体毎にばらつくことを抑制することができる。
【0060】
一方、第2実施形態のガスセンサ200では、第1と第2の均熱部を設け、これらの2つの均熱部の間にヒータ278を設けている。そのため、ヒータ278で発生した熱は、単一の均熱部を設けた第1実施形態のガスセンサ100よりも均一に分散されるので、ガス反応膜291および参照膜292における温度むらの発生をより効果的に抑制することができる。
【0061】
C.変形例:
本発明は上記各実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0062】
C1.変形例1:
上記各実施形態では、製造工程数を低減するため、均熱部を導電膜170,270やn型半導体膜230として形成することにより、均熱部を、ガス反応膜191,291や参照膜192,292の温度を測定する回路の構成要素と同時に形成している。しかしながら、均熱部をこれらの構成要素と別個に形成するものとしても良い。具体的には、例えば、均熱部として金属膜を保護膜上に形成し、当該金属膜上にガス反応膜や参照膜を形成するものとしてもよい。但し、この場合においても、ガスセンサの特性が個体毎にばらつくことを抑制するため、フォトリソグラフィ等の半導体製造工程で利用されるパターニング技術により均熱部を形成するのが好ましい。
【0063】
C2.変形例2:
第1実施形態では、均熱部をヒータ132と、ガス反応膜191および参照膜192との間に形成している。また、第2実施形態では、第1の均熱部をメンブレン221上に形成し、第2の均熱部を、ヒータ278が第1と第2の均熱部の間に位置するように形成している。しかしながら、均熱部を形成する位置は、必ずしもこれに限定されない。一般的には、少なくとも1つの均熱部を、メンブレンと、ガス反応膜および参照膜との間に形成すればよい。このようにしても、形成された均熱部により、ガス反応膜および参照膜に温度むらが発生することを抑制できる。
【0064】
C3.変形例3:
上記各実施形態では、均熱部をメンブレン121,221上のガス反応膜191,291や参照膜192,292の近傍にのみ形成しているが、均熱部を形成する領域は、ガス反応膜191,291や参照膜192,292の近傍に限定されない。一般的に、均熱部は、ガス反応膜191,291を有するガス検出部と、参照膜192,292を有する補償部とのそれぞれにおけるメンブレン121,221上であれば、任意の範囲に形成することができる。
【0065】
また、冷接点接続線172,272の上、下および近傍(
図5参照)の少なくとも一つの位置に、冷接点用の均熱部を形成するものとしても良い。冷接点用均熱部を設けると、冷接点間の温度むらが低減されるので、ガスセンサの特性の個体毎のばらつきを抑制することができる。この場合、絶縁膜120,220や保護膜180,280に開口部を設け、冷接点用均熱部を基板110,210に接続するものとしても良い。冷接点用均熱部を基板110,210に接続すると、冷接点間の温度むらをさらに低減することが可能となる。
【0066】
C4.変形例4:
上記各実施形態では、熱電対を直列接続したサーモパイルの温接点によりガス反応膜191,291と参照膜192,292との温度を測定しているが、ガス反応膜191,291と参照膜192,292との温度は、単一の熱電対の温接点、測温抵抗体あるいはサーミスタ等の他の測温素子を用いて測定することも可能である。但し、温度を表す十分に高い電圧信号が直接出力され、可燃性ガスの検出感度をより高くすることが容易となる点で、サーモパイルの温接点によりガス反応膜191,291と参照膜192,292との温度を測定するのが好ましい。
【0067】
C5.変形例5:
上記各実施形態では、補償部に燃焼触媒を担持していない担体を含む参照膜192,292を形成しているが、製造工程を簡略化するために参照膜192,292の形成を省略することも可能である。この場合、補償部の測温素子である冷接点CJは、温度がガス反応膜191に近くなるヒータ172の温度を測定するように、ヒータ172の近傍に形成されていればよい。なお、このとき、補償部のヒータ172は、補償部の測温素子(冷接点CJ)の近傍を含む領域に形成されているといえる。但し、参照膜192およびガス反応膜191のそれぞれが形成している領域の熱容量をより近くし、気流等の影響による可燃性ガスの検出精度の低下を抑制することができる点で、参照膜192を形成するのが好ましい。
【0068】
C6.変形例6:
上記各実施形態では、ガスセンサ100,200上に、ガス反応膜191,291を有するガス検出部と、参照膜192,292を有する補償部とを設けているが、補償部を省略することも可能である。この場合においても、ガス反応膜における温度むらの発生が抑制されるので、可燃性ガスの検出感度の低下や、選択性の低下を抑制することができる。また、第1および第2実施形態と同様に、製造工程や完成後のガスセンサの破損が抑制されるとともに、オフセット、ドリフトあるいは感度等のガスセンサの特性の個体毎のばらつきを抑制することができる。
【0069】
C7.変形例7:
上記各実施形態では、断熱部として、基板110,210自体に設けられた空洞部119,219、もしくは、基板上に形成された空洞部を用いているが、断熱部は必ずしも空洞である必要はない。断熱部は、例えば、基板自体に設けられた空洞部に、多孔質材や樹脂等の断熱材を埋め込むことにより形成することができる。多孔質材としてSiO
2を用いる場合には、周知の低比誘電率(Low-k)絶縁膜やシリカエアロゲルの形成技術により空洞部に多孔質SiO
2を埋め込むことができる。多孔質材として樹脂を用いる場合には、当該樹脂のモノマやプレポリマを空洞部に充填し、その後、熱や紫外線によりモノマやプレポリマを重合させればよい。また、断熱部として、基板上に多孔質材や樹脂等の断熱膜を形成するものとしても良い。この場合、上述した基板上に空洞部を形成する工程と同様に、基板もしくは絶縁膜120,220上に多孔質材や樹脂等の断熱膜を形成し、形成した断熱膜を残存させることにより断熱部を形成することができる。また、基板上に断熱膜を形成するためのポリシリコン膜を形成し、当該ポリシリコン膜を陽極酸化により多孔質化しても良い。さらに、断熱部として、基板自体に多孔質部を形成するものとしても良い。多孔質部は、例えば、基板としてSi基板を用いている場合には、基板自体に空洞部を形成する工程と同様に、基板の下面側もしくは基板の上面側から、空洞部に相当する領域を陽極酸化により多孔質化することで形成することができる。なお、空洞でない断熱部を用いる場合において、断熱部の材料が導電性を有する場合には、断熱部と、半導体膜あるいは導電膜との間には絶縁膜が追加される。このように、空洞でない断熱部を用いることにより、断熱部上に形成された機能膜の破損が抑制される。