(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2工程が、塩化カルシウム及び塩化カリウムを混合し、第2混合物を得た後に、前記第1混合物と当該第2混合物を混合することにより行われる、請求項11に記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
現在、透析用剤としては、重炭酸透析用剤が主に用いられており、塩化ナトリウムを含む多数の電解質成分及びブドウ糖を含むA剤と、重炭酸ナトリウムを含むB剤を合わせた2剤型の透析剤が一般的な透析剤として市販されている。
【0003】
従来、透析用A剤は、電解質成分を濃縮液形態で含む液状A剤、電解質成分を固体状で含む固体状A剤があったが、液状A剤は、輸送コスト、病院等での保管スペース、病院内での作業性、使用後の容器の廃棄等の点で問題視されており、近年では、固体型の透析用A剤が国内では主流となっている。また、固体状A剤では、電解質成分、特に微量電解質成分(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム等)が不均一に分布するのを防ぐために、電解質成分の全て又は一部が混合或いは造粒された状態で使用されている。一方、透析用B剤は、単一組成物であるため、粉末状態で使用されている。
【0004】
通常、透析用A剤には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、pH調節剤及びブドウ糖が含まれており、透析用B剤には重炭酸ナトリウムが含まれている。近年、塩化ナトリウム以外の電解質成分を含むA剤と、塩化ナトリウムを含むS剤と、重炭酸ナトリウムを含むB剤からなる3剤型透析用剤も提唱されている(特許文献1参照)。この3剤型透析用剤では、透析時にS剤とB剤の添加量の比率を調節することによって、患者の病態に応じて、透析中でも重炭酸イオン濃度を自在に変化させつつ、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の電解質濃度を一定に維持できる透析液を調製することが可能となる。
【0005】
現在の国内外の一般的な透析装置、透析用剤、及び透析手法では、透析液中の重炭酸濃度を、患者間にある個体差、透析処置を開始する際の患者の状態、透析処置中に変化する患者の状態や病態等に応じて、個別に設定したり、経時的に変化させたりすることができないという欠点があるが、特許文献1で提唱されている3剤型透析用剤を使用すれば、これらの欠点を解消することが可能である。
【0006】
しかしながら、特許文献1には、塩化ナトリウムを含まず、酢酸ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、及び塩化カリウムを含む固体状透析用A剤について、貯蔵安定性、溶解性、硬度等の点については触れられておらず、更なる検討の余地が残っている。
【0007】
塩化ナトリウムは、他の微量電解質成分(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム等)に比べ化学的に不活性であり、安定であること、また結晶水を持たない硬質な結晶性粒子であり、流動性が良いことが知られている。塩化ナトリウムを含む固体状透析用A剤では、電解質成分を造粒しても、70重量%以上の塩化ナトリウムが含まれているため、固体状透析用A剤内で塩化ナトリウムが緩衝剤のごとく働き、他の微量電解質同士の相互作用を抑制し、優れた流動性や高い硬度を備えさせることができる。
【0008】
一方、塩化ナトリウムを含まない造粒物では、このような塩化ナトリウムを造粒に供することによって得られる様々な利点を受けることができないため、従来の製造方法では、塩化ナトリウムを含まない固体状透析用A剤を製造しようとしても、製造時に他の微量電解質同士が相互作用して、原料の粘性が大きくなり、十分な流動性を備えることができず、硬度も低くなるという問題点がある。更に、塩化ナトリウムを含まない造粒物では、透析液調製のために水を添加した際に細かい粒子が凝集して溶解性不良を起こしたりする等の欠点もある。この場合の溶解性不良とは、透析液調製のために、透析用剤を溶解する際に生じる溶け残りを指し、溶解速度が遅い透析用剤ではその溶解性不良のリスクが増す。
【0009】
透析液調製時に透析用剤の溶け残りが発生すると、調製される透析液中の各電解質濃度が予め設定された濃度とならず、濃度異常を生じる。この濃度異常の発生している透析液を用いて透析を行うと、体内の電解質が正常な範囲内に是正されず、場合によっては重篤な電解質濃度異常を引き起こす可能性がある。これを防止するために、透析用剤の溶解装置や透析装置には安全装置が備え付けられているが、そもそも安全装置を作動させること自体が望ましくない。そのため、溶解性不良を起こさないためには、溶解性の良い(溶解速度の良好な)製剤を使用することが重要であり、既存の溶解装置に設定されている溶解所要時間内に、使用する透析用剤全量が確実に溶解するように設計されていることが必要である。透析施設で広く使用されている溶解装置として、例えば、全自動溶解装置DAD−50NX−ST(日機装株式会社製)があり、当該溶解装置では、溶解所要時間が約4分に設定されている。また、A剤溶解装置AHI-502(東亜ディーケーケー株式会社製)も溶解装置として広く普及しており、当該溶解装置では、装置内に溜められた所定量の水に、透析用剤を少しずつ添加し、透析液が定められた電導度に達すると自動的に添加を停止するシステムを採用しており、溶解所要時間は約9分に設定されている。この溶解装置に、溶解性が不良な(溶解速度の遅い)透析用剤が使用された場合、透析液が所定の電導度に達し透析用剤の添加が停止した後に、溶け残った透析用剤が遅れて溶解するために濃度異常が発生してしまう。このように、一般的に臨床で使用されている溶解装置においては、用いられる透析用剤の溶解性が悪い場合には、得られる透析液の品質、並びに調製効率に大きな影響を及ぼすことが懸念される。
【0010】
一方、特許文献2には、塩化ナトリウムの一部又は全部を除いた状態で、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及び酢酸ナトリウムを含むA剤用造粒物を、飽和水蒸気量又はそれ以下に加湿された加湿気体を用いて湿式造粒する方法が開示されている。特許文献2に記載の湿式造粒法では、電解質成分同士の相互作用が生じるが、加湿気体の湿度をコントロールすることで粘性の増加を抑え、収率よく透析用固体A剤を製造できる。しかしながら、特許文献2でも、貯蔵安定性、溶解性、硬度等の点については触れられておらず、更なる検討の余地が残っている。
【0011】
また、市販されている透析用固体A剤では、個包装毎の各電解質含量のばらつきを抑制するために、塩化ナトリウムを含む電解質を造粒して製する方法が一般的である。塩化ナトリウムは結晶性の高い物質であるために硬度が高く、この塩化ナトリウムを多く含む造粒物も必然的に高い硬度を有する。ゆえに、塩化ナトリウムを含まない透析用固体A剤では、硬度が低くなることが推測できる。
【0012】
透析用剤の硬度が低いと、製造時や流通時(輸送時)、透析液の調製時に、粒子が壊れて微粒子を生じ、取扱いが困難になるため、高い硬度を備えていることが重要になる。しかしながら、硬質で不活性な塩化ナトリウムを用いずに硬度の高いA剤用造粒物を得ることは難しい。さらに、一般的には、硬度を高くすると、溶解性が低下するため、従来の技術では、塩化ナトリウムを含まない造粒物において、高い硬度と優れた溶解性を両立させることは実現困難と考えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、透析用A剤に使用される造粒物であって、塩化ナトリウムを含まず、酢酸ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、及び塩化カリウムを含むA剤用造粒物において、優れた貯蔵安定性があり、しかも高い硬度と共に、優れた溶解性を備えさせる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、透析用A剤に使用される造粒物であって、塩化ナトリウムを含まず、酢酸ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、及び塩化カリウムを含むA剤用造粒物において、3〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積に対する2000〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積の比が50%以下になるように設計することにより、優れた貯蔵安定性を備えさせることができ、しかも高い硬度を有しながらも、優れた溶解性を備え得ることを見出した。更に、本発明者は、前記特性を備えるA剤用造粒物は、酢酸ナトリウム及び塩化マグネシウムの混合物を予め調製し、当該混合物に対して塩化カルシウム及び塩化カリウムを添加して混合することにより電解質原料を調製し、この電解質原料を造粒することによって得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0016】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 透析用A剤に使用される造粒物であって、
塩化ナトリウムを含まず、酢酸ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、及び塩化カリウムを含み、
3〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積に対する2000〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積の比が50%以下であることを特徴とする、A剤用造粒物。
項2. 更に、有機酸を含む、項1に記載のA剤用造粒物。
項3. 水分含量が3.0重量%以下である、項1又は2に記載のA剤用造粒物。
項4. 硬度が50gf以上である、項1〜3のいずれかに記載のA剤用造粒物。
項5. 項1〜4のいずれかに記載のA剤用造粒物を含む、透析用A剤。
項6. 更にブドウ糖を含む、項5に記載の透析用A剤。
項7. 更に塩化ナトリウムを含む、項5又は6に記載の透析用A剤。
項8. 項5〜7のいずれかに記載の透析用A剤、及び重炭酸ナトリウムを含む透析用B剤を含む、透析用剤。
項9. 前記透析用A剤が塩化ナトリウムを含んでおらず、
更に塩化ナトリウムを含む透析用S剤を含み、
前記透析用A剤、前記透析用B剤、及び前記透析用S剤からなる3剤型の透析用剤である、項8に記載の透析用剤。
項10. 前記透析用A剤が塩化ナトリウムを含み、
前記透析用A剤、及び前記透析用B剤からなる2剤型の透析用剤である、項8に記載の透析用剤。
項11. 塩化ナトリウムを含まず、酢酸ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、及び塩化カリウムを含む、透析用A剤に使用される造粒物の製造方法であって、
酢酸ナトリウム及び塩化マグネシウムを混合し、第1混合物を得る第1工程、
前記第1混合物に対して、塩化カルシウム及び塩化カリウムを添加して混合し、電解質原料を得る第2工程、
前記電解質原料を造粒する第3工程、及び
前記第3工程で得られた造粒物を乾燥する第4工程
を含む、製造方法。
項12. 前記第2工程が、塩化カルシウム及び塩化カリウムを混合し、第2混合物を得た後に、前記第1混合物と当該第2混合物を混合することにより行われる、項11に記載の製造方法。
項13. 更に、前記第4工程で得られた造粒物に対して有機酸を添加する第5工程を含む、項11又は12に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
また、本発明のA剤用造粒物は、3〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積に対する2000〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積の比が50%以下であるため、造粒された粒子内にある空隙への水の浸入が少なく、造粒された粒子内部の粘性が増加し、分散性が悪くなって、粒子どうしの凝集や容器への付着が起こるという不具合が生じ難いため、優れた溶解性を備えている。従って、一般的に用いられている溶解装置を使用し、透析液を調製する際に、迅速に溶解することで溶け残りを防ぐと同時に、透析液濃度異常のリスクを低減することができ、安全な透析液を安定的且つ効率的に調製することが可能となる。更に、本発明のA剤用造粒物は、貯蔵時の固化が抑制されており、貯蔵安定性の点でも優れている。
【0018】
更に、本発明のA剤用造粒物は、前記積算細孔容積の比が50%以下であることにより、造粒された粒子内にある空隙が少なく、即ち密に造粒されているため、高い硬度を備えることができており、製造時や輸送時に粒子が崩壊、摩損して粉化することを抑制できるので、製造施設や透析施設において粉塵の拡散による環境悪化を防ぐことも可能になる。
【0019】
更に、本発明のA剤用造粒物の製造方法によれば、原料混合の際に粘性を生じることがないために塊状物や混合装置壁面への付着も生じることなく、効率的な製造が可能となる。また、酢酸等の有機酸を混合する工程でも、過度の発熱や粉塵の発生を抑制することができるために、各成分の含量均一性を維持することができる。また、本発明のA剤用造粒物の製造方法によれば、透析用剤の重量の70重量%以上を占める塩化ナトリウムが、混合、造粒、乾燥等の工程に含まれないため、製造効率を大幅に上昇させることも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.A剤用造粒物
本発明のA剤用造粒物は、透析用A剤に使用される造粒物であって、塩化ナトリウムを含まず、酢酸ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、及び塩化カリウムを含み、3〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積に対する2000〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積の比が50%以下であることを特徴とする。以下、本発明のA剤用造粒物について詳述する。
【0021】
<含有成分>
本発明のA剤用造粒物において、酢酸ナトリウムは、ナトリウムイオン及び酢酸イオンの供給源となる物質である。
【0022】
また、本発明のA剤用造粒物における酢酸ナトリウムの含有量については、調製される透析液のナトリウムイオン濃度が120〜150mEq/L、好ましくは135〜145mEq/Lとなるように、A剤用造粒物と併用される塩化ナトリウムの使用量、A剤用造粒物に含まれる他のナトリウム塩の含有量、B剤に含まれるナトリウム塩の含有量等を勘案して適宜設定すればよいが、例えば、本発明のA剤用造粒物の総量100重量部当たり、酢酸ナトリウムが40〜70重量部、好ましくは45〜65重量部、更に好ましくは50〜65重量部が挙げられる。本発明において、「A剤用造粒物の総量」とは、必要に応じて含まれる結晶水及び自由水も含めた総重量を指す。
【0023】
本発明のA剤用造粒物において、塩化マグネシウムは、マグネシウムイオン及び塩化物イオンの供給源となるとなる物質である。本発明のA剤用造粒物の製造原料として使用される塩化マグネシウムは、水和物又は無水物のいずれを使用してもよいが、塩化マグネシウムの一部又は全てが水和物の形態であることが好ましい。塩化マグネシウムの水和物を使用すると、造粒時の加熱または発熱によって塩化マグネシウムの水和物に含まれる結晶水の少なくとも一部が離脱してバインダーとしての役割を果たし、電解質原料を効率的に造粒させることが可能になる。
【0024】
塩化マグネシウムの水和物としては、具体的には、塩化マグネシウム二水和物、塩化マグネシウム四水和物、塩化マグネシウム六水和物、塩化マグネシウム八水和物、塩化マグネシウム十二水和物等の1〜12水和物が挙げられる。これらの塩化マグネシウムの水和物の中でも、好ましくは塩化マグネシウム六水和物が挙げられる。これらの塩化マグネシウムの水和物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
また、本発明のA剤用造粒物の製造原料として、塩化マグネシウムの一部又は全部を水和物の形態で使用する場合、本発明のA剤用造粒物の製造原料として使用される塩化マグネシウムの総量に対して占める塩化マグネシウムの水和物の割合については、特に制限されないが、A剤用造粒物の製造原料として使用される塩化マグネシウム総量100重量部当たり、例えば、六水和物形態の塩化マグネシウムが40〜100重量部、好ましくは70〜100重量部、更に好ましくは100重量部となる割合が挙げられる。ここで、塩化マグネシウムの総量とは、塩化マグネシウムが水和物の形態の場合には、結晶水(水和物中の水分子)の重量を含めて算出される総重量である。
【0026】
また、本発明のA剤用造粒物における塩化マグネシウムの含有量については、透析用A剤によって調製される透析液のマグネシウムイオン濃度が0.5〜2.0mEq/L、好ましくは0.75〜1.5mEq/Lとなるように、A剤用造粒物に必要に応じて含まれる他のマグネシウム塩の含有量等を勘案して適宜設定すればよいが、例えば、本発明のA剤用造粒物の総量100重量部当たり、塩化マグネシウムの無水物重量換算で1〜50重量部、好ましくは1〜25重量部、更に好ましくは1〜15重量部が挙げられる。本発明において、「塩化マグネシウムの無水物重量換算」とは、塩化マグネシウムが水和物の形態の場合には、結晶水(水和物中の水分子)の重量を除いて、無水物の重量に換算して求められる値である。
【0027】
本発明のA剤用造粒物において、塩化カルシウムは、カルシウムイオンの供給源となる物質である。本発明のA剤用造粒物の製造原料として使用される塩化カルシウムは、水和物又は無水物のいずれを使用してもよいが、塩化カルシウムの一部又は全てが水和物の形態であることが好ましい。塩化カルシウムの水和物を使用すると、造粒時の加熱または発熱条件によっては、塩化カルシウムの水和物に含まれる結晶水の少なくとも一部が離脱してバインダーとしての役割を果たすこともある。
【0028】
塩化カルシウムの水和物としては、具体的には、塩化カルシウム一水和物、塩化カルシウム二水和物、塩化カルシウム四水和物、塩化カルシウム六水和物等の1〜6水和物が挙げられる。これらの塩化カルシウムの水和物の中でも、好ましくは塩化カルシウム二水和物が挙げられる。これらの塩化カルシウムの水和物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
また、本発明のA剤用造粒物の製造原料として、塩化カルシウムの一部又は全部を水和物の形態で使用する場合、本発明のA剤用造粒物の製造原料として使用される塩化カルシウムの総量に対して占める塩化カルシウムの水和物の割合については、特に制限されないが、例えば、A剤用造粒物の製造原料として使用される塩化カルシウム総量100重量部当たり、例えば、二水和物形態の塩化カルシウムが40〜100重量部、好ましくは70〜100重量部、更に好ましくは100重量部となる割合が挙げられる。ここで、「塩化カルシウムの総量」とは、塩化カルシウムが水和物の形態の場合には、結晶水(水和物中の水分子)の重量を含めて算出される総重量である。
【0030】
また、本発明のA剤用造粒物における塩化カルシウムの含有量については、透析用A剤によって調製される透析液のカルシウムイオン濃度が1.5〜4.5mEq/L、好ましくは2.5〜3.5mEq/Lとなるように、A剤用造粒物に必要に応じて含まれる他のカルシウム塩の含有量等を勘案して適宜設定すればよいが、例えば、本発明のA剤用造粒物の総量100重量部当たり、塩化カルシウムの無水物重量換算で1〜75重量部、好ましくは5〜50重量部、更に好ましくは10〜35重量部が挙げられる。本発明において、「塩化カルシウムの無水物重量換算」とは、塩化カルシウムが水和物の形態の場合には、結晶水(水和物中の水分子)の重量を除いて、無水物の重量に換算して求められる値である。
【0031】
本発明のA剤用造粒物において、塩化カリウムは、カリウムイオンの供給源となる物質である。
【0032】
また、本発明のA剤用造粒物における塩化カリウムの含有量については、透析用A剤によって調製される透析液のカリウムイオン濃度が0.5〜3mEq/Lとなるように、A剤用造粒物に含まれる他のカリウム塩の含有量等を勘案して適宜設定すればよいが、例えば、本発明のA剤用造粒物の総量100重量部当たり、塩化カリウムが3〜25重量部、好ましくは10〜20重量部、更に好ましくは12〜18重量部が挙げられる。
【0033】
更に、本発明のA剤用造粒物には、前述する成分以外に、必要に応じて、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、乳酸イオン、グルコン酸イオン、コハク酸イオン、リンゴ酸イオン等の供給源となる他の有機酸塩及び/又は無機塩が含まれていてもよい。
【0034】
カルシウムイオンの供給源となる化合物としては、例えば、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、コハク酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム等の有機酸のカルシウム塩が挙げられる。これらの有機酸のカルシウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
マグネシウムイオンの供給源となる化合物としては、例えば、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム等のマグネシウムの有機酸塩が挙げられる。これらのマグネシウムの有機酸塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
ナトリウムイオンの供給源となる化合物としては、例えば、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム等のナトリウムの有機酸塩が挙げられる。これらのナトリウムの有機酸塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
カリウムイオンの供給源となる化合物としては、例えば、塩化カリウム、酢酸カリウム、乳酸カリウム、クエン酸カリウム、グルコン酸カリウム、コハク酸カリウム、リンゴ酸カリウム等のカリウムの無機塩及び/又は有機酸塩が挙げられる。これらのカリウムの無機塩及び/又は有機酸塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
酢酸イオンの供給源となる化合物としては、例えば、酢酸カリウム等の酢酸のアルカリ金属塩;二酢酸ナトリウム、二酢酸カリウム等の二酢酸アルカリ金属塩が挙げられる。これらの酢酸のアルカリ金属塩及び二酢酸アルカリ金属塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
これらの有機酸塩及び/又は無機酸塩については、最終的に調製される透析液に含有させるべき各種イオンの種類に応じて適宜選択すればよい。
【0040】
本発明のA剤用造粒物において、これらの有機酸塩及び/又は無機塩の含有量については、最終的に調製される透析液に備えさせる各イオン濃度に応じて適宜設定される。具体的には、A剤に含まれる電解質成分の含有量は、A剤用造粒物以外に含まれる電解質成分量等を勘案し、最終的に調製される透析液が下記表1に示す各イオン濃度を満たすよう、適宜設定すればよい。
【0042】
更に、本発明のA剤用造粒物には、最終的に調製される透析液のpHを調整するために、有機酸が含まれていてもよい。従来のA剤用造粒物では、pH調節剤として有機酸を添加すると、貯蔵時に固化して流動性を損なわせ易くなる傾向を示すが、本発明のA剤用造粒物では有機酸を添加しても、固化を十分に抑制でき、優れた貯蔵安定性を備えることができる。
【0043】
本発明のA剤用造粒物に含まれる有機酸の種類については、透析用剤に使用できることを限度として特に制限されないが、例えば、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、マロン酸、グルコン酸等が挙げられる。これらの有機酸の中でも、好ましくは酢酸、クエン酸、更に好ましくは酢酸(特に、氷酢酸)が挙げられる。これらの有機酸は、1種単独で使用してもよく、また2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0044】
本発明のA剤用造粒物における有機酸の含有量は、最終的に調製される透析液に備えさせるpH、有機酸の種類等に応じて適宜設定される。具体的には、本発明のA剤用造粒物における有機酸の含有量は、最終的に調製される透析液のpHが7.2〜7.6、好ましくは7.2〜7.5となるように適宜設定すればよい。
【0045】
本発明のA剤用造粒物における水分含量については、通常3.0重量%以下、好ましくは2.5重量%以下、更に好ましくは2.0重量%以下が挙げられる。このような低水分含量にすることによって、貯蔵時の固化をより一層効果的に抑制し、ブドウ糖の安定性も含めた貯蔵安定性を更に向上させることができる。本発明における水分含量は、カールフィッシャー水分計を用いて測定される値である。
【0046】
<物性>
本発明のA剤用造粒物は、3〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積に対する2000〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積の比(以下、「粒子間隙容積比」と表記することがある)が50%以下を満たす。通常、A剤用造粒物における2000nm未満の細孔直径は粒子表面に存在する細孔に該当し、2000nm以上の細孔直径は二次、三次、四次、及びそれ以上と高度に造粒された粒子における粒子内又は粒子間の空隙容積に該当する。造粒された粒子内の空隙容積が大きい粒子は、硬度が低いために粒子が壊れ易く、輸送中における粒子径分布の変化が生じ易くなり、その結果、医療現場における粉塵の発生や貯蔵安定性の悪化につながる。また、塩化ナトリウムを含まないA剤用造粒物では、水との親和性が強いために少量の水によって粒子表面の付着性や粘性が強くなり、溶解しにくくなるという性質を有している。また、造粒された粒子内の空隙容積が大きい粒子は、水に溶解させる際、造粒された粒子内の空隙に水が浸入しやすい。そのため、このような粒子内空隙の大きい粒子においては、内部に水が浸入するにつれ粒子内部の粘性が増し、スラリー様の状態を呈し、新たな水の浸入をブロックしてしまうと考えられる。一度粘性を有した粒子は分散性が悪く、粒子どうしの凝集や容器、溶解装置への付着が起こり易くなり、その結果溶解時間が長くなったり、未溶解状態で残存したりするために好ましくない。そして、この現象は撹拌力の弱い溶解装置を用いた場合に、より顕著になる傾向がある。
【0047】
本発明では、この造粒された粒子内及び粒子間の空隙容積が小さいために、粒子表面からのスムーズな水への溶解が可能になっており、これらの問題を解決することができる。即ち、本発明では、この粒子内及び粒子間の空隙容積が占める比率(即ち、粒子間隙容積比)が前記範囲を充足することによって、優れた貯蔵安定性を備えさせ、しかも高い硬度を備えさせながらも優れた溶解性を備えさせることができる。
【0048】
本発明のA剤用造粒物における粒子間隙容積は、50%以下であればよいが、固化の抑制作用、硬度、及び溶解性をより一層向上させるという観点から、好ましくは25〜50%、更に好ましくは30〜50%が挙げられる。
【0049】
また、本発明のA剤用造粒物において、3〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積、及び2000〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積については、前述する粒子間隙容積比を充足していればよいが、具体的には、3〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積として、0.1〜0.5cm
3/g、好ましくは0.1〜0.4cm
3/g、更に好ましくは0.15〜0.35cm
3/gが挙げられ、2000〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積として、0.03〜0.3cm
3/g、好ましくは0.05〜0.25cm
3/g、更に好ましくは0.02〜0.05cm
3/gが挙げられる。
【0050】
なお、本発明において、3〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積、及び2000〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積については、水銀ポロシメーターを用いた水銀圧入法において、水銀の接触角を140°、水銀の表面張力を480dyn/cmに設定して測定される値である。
【0051】
また、本発明のA剤用造粒物の粒子径については、特に制限されないが、例えば、Tyler標準篩で10メッシュ(目開き1700μm)の篩を通過するが、80メッシュ(目開き180μm)の篩を通過しない粒子の割合が90重量%以上、好ましくは93重量%以上、更に好ましくは95重量%以上が挙げられる。
【0052】
本発明のA剤用造粒物の硬度としては、通常50gf以上、好ましくは50〜200gf、更に好ましくは50〜150gfが挙げられる。本発明のA剤用造粒物は、このように高い硬度を備え得るので、輸送時又は透析液調製時に粒子が壊れるのを抑制して、粒子径分布の変化や粉塵の発生を抑制することができる。本発明において、「A剤用造粒物の硬度」は、顆粒の硬度測定に使用される硬度測定器を使用し、先端がフラットタイプの測定端子で測定速度5μm/秒でA剤用造粒物を圧縮し、A剤用造粒物が破壊した時の荷重を測定することにより求められ、少なくとも10粒のA剤用造粒物の硬度を測定し、その平均値として算出される値である。
【0053】
また、本発明のA剤用造粒物では、前記のように高い硬度を有しながらも、優れた溶解性を備えている。本発明のA剤用造粒物の溶解性としては、例えば、以下の条件での溶解時間が400秒以内、好ましくは350秒以内という溶解性を備えるA剤用造粒物が提供される。
(溶解条件)
1L容ビーカー(底面積50cm
2)中に半径15mmの撹拌子を750rpmで回転させた状態で、造粒物44.13gを投入した後に、20℃の精製水を流速667g/分の速度で90秒間ビーカーの上部から壁を伝わらせて添加して、精製水の添加終了後から造粒物が完全に溶解するまでの溶解時間を目視にて計測する。
【0054】
<製造方法>
本発明のA剤用造粒物の製造方法については、前述する組成及び物性を備え得る限り、特に制限されないが、好適な例として、下記第1工程〜第4工程を含む製造方法が挙げられる。
酢酸ナトリウム及び塩化マグネシウムを混合し、第1混合物を得る第1工程、
前記第1混合物に対して、塩化カルシウム及び塩化カリウムを添加して混合し、電解質原料を得る第2工程、
前記電解質原料を造粒する第3工程、及び
前記第3工程で得られた造粒物を乾燥する第4工程。
以下、前記第1工程〜第4工程について説明する。
【0055】
前記第1工程では、酢酸ナトリウム及び塩化マグネシウムを混合して、第1混合物を調製する。予め酢酸ナトリウム及び塩化マグネシウムが混合された第1混合物では、原料どうしの相互作用により、塩化マグネシウムに含まれる結晶水の一部が離脱し、酢酸ナトリウムに移行した状態になる。このような状態の第1混合物を使用し、前記第2工程〜第4工程を実施することによって、前述する物性を備えるA剤用造粒物を得ることが可能になる。
【0056】
前記第1工程で得られた第1混合物は、塩化マグネシウムに含まれる結晶水が酢酸ナトリウムとの相互作用を容易にするように、選定する混合機にもよるが、例えば5分以上、好ましくは10〜40分間、品温が15〜80℃、好ましくは25〜60℃になるように混合した後に、後述する第2工程に供することが望ましい。
【0057】
前記第2工程では、前記第1混合物に対して、塩化カルシウム及び塩化カリウムを添加して混合し、電解質原料を得る。
【0058】
前記第2工程では、前記第1混合物に対して、塩化カルシウム及び塩化カリウムを同時又は順次添加してもよいが、予め塩化カルシウム及び塩化カリウムを混合して第2混合物を調製した後に、当該第2混合物を前記第1混合物に混合することが望ましい。
【0059】
また、本発明のA剤用造粒物に、酢酸ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム及び塩化カリウム以外の他の有機酸塩及び/又は無機塩を含有させる場合には、これらの有機酸塩及び/又は無機塩は、前記第2工程で、塩化カルシウム及び塩化カリウムと共に、前記第1混合物に混合すればよい。また、前記第2工程における電解質原料の調製において、前記第2混合物を予め調製する場合であれば、これらの有機酸塩及び/又は無機塩は、前記第2混合物中に含有させてもよい。
【0060】
また、前記第1工程及び/又は第2工程において、前記第1混合物の調製時、前記第2混合物の調製時、及び/又は前記電解質原料の調製時に、必要に応じて自由水を添加してもよい。塩化マグネシウム、塩化カルシウムの少なくとも一部が水和物の形態である場合、造粒時の加熱または発熱によって塩化マグネシウム、塩化カルシウム由来の結晶水が離脱して、バインダーとして機能するため、自由水が含まれていなくてもよいが、このような場合であっても、造粒時の加熱または発熱によって離脱する結晶水以外に、バインダーとして機能する水分を補充するために、自由水を添加しておいてもよい。本発明において、「自由水」とは、電解質原料において水和物形態で含まれる結晶水とは別に、他の分子とは結びつきがない状態で添加される水である。
【0061】
前記第1工程及び/又は第2工程における自由水の添加量については、水和物形態の塩化マグネシウムの含有量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、塩化マグネシウムの無水物重量換算100重量部に対して0〜150重量部、好ましくは0〜100重量部、更に好ましくは0〜50重量部が挙げられる。電解質原料における自由水の含有量を前記範囲に調節することによって、造粒時に電解質原料の粘度の上昇を抑制してA剤用造粒物をより一層効率的に製造できると共に、高い硬度を有し、溶解性をより一層向上させ、更には貯蔵時の固化抑制をより一層向上させて、格段に優れた貯蔵安定性を備えさせることが可能になる。
【0062】
前記第3工程では、前記第2工程で得られた電解質原料を造粒する。このように、予め酢酸ナトリウム及び塩化マグネシウムの第1混合物を調製し、これを残余の成分と混合して得られる電解質原料を用いて造粒することにより、前述する粒子間隙容積比を備えたA剤用造粒物を製造することが可能になる。
【0063】
前記第3工程における電解質原料の造粒は、公知の造粒手法によって行えばよいが、具体的には、撹拌、加熱や湿式による造粒が挙げられる。前記電解質原料に前記造粒処理を施すことによって、酢酸ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム及び塩化カリウム、及び必要に応じて添加される他の有機酸塩及び/又は無機酸塩が結合して、A剤用造粒物が形成される。また、前記電解質原料は、第1工程において酢酸ナトリウムと塩化マグネシウムを相互作用させているために、造粒時に電解質原料の粘度が上昇するのを抑制し、効率的にA剤用造粒物を製造することが可能になる。
【0064】
前記第3工程における造粒時の加熱温度については、特に制限されないが、80℃以下であることが望ましい。また、造粒時の加熱温度の下限値についても、特に制限されないが、30℃以上であることが望ましい。造粒時の温度が30℃を下回ると、製造効率が低下する傾向が現れることがあり、また80℃を超えると、過度の相互作用が生じ、適切な粒子径を有する造粒物が得られ難くなる傾向が現れることがある。貯蔵安定性、溶解性、及び硬度をより一層高めるという観点から、造粒時の加熱温度として、好ましくは35〜70℃が挙げられる。
【0065】
造粒時の加熱方法については、特に制限されず、例えば、前記電解質原料の調製に使用した混合機を加温しながら必要に応じて撹拌する方法;送風定温乾燥機を用いて静置加熱する方法;流動層乾燥機(転動流動層乾燥機、振動流動層乾燥機等含む)を用いて電解質原料の流動層を形成して加熱する方法等が挙げられる。
【0066】
前記第4工程では、前記第3工程で得られた造粒物を乾燥する。第4工程における乾燥条件については、連続製造において乾燥工程に供する造粒物の供給速度や製造されるA剤用造粒物の水分含量等を勘案して適宜設定すればよい。例えば、乾燥温度としては、100〜180℃、好ましくは130〜170℃、更に好ましくは140〜160℃が挙げられる。また、乾燥時間としては、1〜45分間、好ましくは5〜30分間、更に好ましくは5〜20分間が挙げられる。造粒乾燥物の水分量を管理するためには、乾燥機からの排気温度をモニタリングすることが望ましい。
【0067】
また本発明のA剤用造粒物に有機酸を含有させる場合、前記第4工程で得られた乾燥後の造粒物に対して有機酸を添加する第5工程を実施すればよい。乾燥後の造粒物に有機酸を添加する場合、造粒物の温度が高いと添加する有機酸の揮発や分解が起こるため、冷却工程を設けて造粒物の温度を20〜60℃程度まで下げておくことが好ましい。当該温度として、より好ましくは20〜40℃、更に好ましくは20〜30℃が挙げられる。
【0068】
2.透析用A剤
本発明の透析用A剤は、前記A剤用造粒物を含有する。本発明の透析用A剤は、前記A剤用造粒物のみからなるものであってもよく、また、必要に応じて、透析用剤に使用される他の化合物が含まれていてもよい。
【0069】
例えば、本発明の透析用A剤には、患者の血糖値の維持の目的で、前記A剤用造粒物と共にブドウ糖を含んでいてもよい。ブドウ糖は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の電解質との接触によって不安定化される傾向があるが、本発明の透析用A剤では、前記A剤用造粒物を使用することによってブドウ糖を含有させても、ブドウ糖を安定に維持することができる。
【0070】
本発明の透析用A剤中のブドウ糖の含有量は、最終的に調製される透析液に備えさせるブドウ糖濃度に応じて適宜設定される。具体的には、本発明の透析用A剤中のブドウ糖の含有量は、最終的に調製される透析液におけるブドウ糖濃度が0〜2.5g/L、好ましくは1.0〜1.5g/Lとなるように適宜設定すればよい。
【0071】
また、本発明の透析用A剤は、必要に応じて、塩化ナトリウムが含まれていてもよい。透析用A剤に塩化ナトリウムが含まれている場合には、本発明の透析用A剤は、重炭酸ナトリウムを含むB剤と共に、2剤型の透析用剤として使用される。
【0072】
本発明の透析用A剤における塩化ナトリウムの含有量については、透析用A剤中のナトリウム塩の量等を勘案し、最終的に調製される透析液が前記表1に示す各イオン濃度を満たすように適宜設定すればよい。
【0073】
また、前記A剤用造粒物に有機酸が含まれていない場合、又は前記A剤用造粒物に含まれる有機酸では、最終的に調製される透析液のpHが不十分である場合には、本発明の透析用A剤は、前記A剤用造粒物とは別に、有機酸が含まれていてもよい。含有させる有機酸の種類については、A剤用造粒物に配合可能なものと同様であるが、このように前記A剤用造粒物とは別に含有させる有機酸としては、常温で固体状の有機酸が好ましい。このように含有させる有機酸の量については、最終的に調製される透析液に備えさせるpHが前述する範囲を充足できる範囲で適宜設定すればよい。
【0074】
本発明の透析用A剤は、重炭酸ナトリウムを含む透析用B剤と共に、重炭酸透析液を調製するための透析用剤として使用される。
【0075】
3.透析用剤
本発明の透析用剤は、前記透析用A剤、及び重炭酸ナトリウムを含む透析用B剤を含有する。
【0076】
前記透析用B剤には、必要に応じてブドウ糖が含まれていてもよい。前記透析用B剤にブドウ糖を含有させる場合、その含有量は、最終的に調製される透析液におけるブドウ糖濃度が0〜2.5g/L、好ましくは1.0〜1.5g/Lとなるように適宜設定すればよい。但し、前記透析用B剤は、重炭酸ナトリウム以外の電解質成分が含まれていないことが望ましく、含有成分が実質的に重炭酸ナトリウムからなるものが好適である。透析用B剤は、輸送や保管の観点から固形状であることが望ましい。また、固形状の透析用B剤の形状としては、具体的には粉末剤、顆粒剤等が挙げられる。
【0077】
前記透析用B剤の使用量は、最終的に調製される透析液中の重炭酸イオンが20〜40mEq/L、好ましくは25〜35mEq/Lとなるように適宜設定すればよい。
【0078】
前記透析用A剤に塩化ナトリウムが含まれている場合には、本発明の透析用剤は、前記透析用A剤、及び重炭酸ナトリウムを含む透析用B剤からなる2剤型の透析用剤として使用される。
【0079】
また、前記透析用A剤に塩化ナトリウムが含まれていない場合には、本発明の透析用剤は、前記透析用A剤、塩化ナトリウムを含む透析用S剤、及び重炭酸ナトリウムを含む透析用B剤からなる3剤型の透析用剤として使用される。当該3剤型の透析用剤は、特許文献1に記載されているように、透析時に透析用S剤と透析用B剤の添加量の比率を調節することによって、患者の病態に応じて、透析中でも重炭酸イオン濃度を自在に変化させつつ、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の電解質濃度を一定に維持できる透析液を調製することが可能になる。
【0080】
前記透析用S剤には、必要に応じてブドウ糖が含まれていてもよい。前記透析用S剤にブドウ糖を含有させる場合、その含有量は、最終的に調製される透析液におけるブドウ糖濃度が0〜2.5g/L、好ましくは1.0〜1.5g/Lとなるように適宜設定すればよい。但し、前記透析用S剤は、塩化ナトリウム以外の電解質成分が含まれていないことが望ましく、含有成分が実質的に塩化ナトリウムからなるものが好適である。前記透析用S剤は、輸送や保管の観点から固形状であることが望ましい。また、固形状の透析用S剤の形状としては、具体的には粉末剤、顆粒剤等が挙げられる。
【0081】
前記透析用S剤の使用量は、前記透析用A剤中のナトリウム塩の量等を勘案し、最終的に調製される透析液が前記表1に示すナトリウム濃度を満たすように適宜設定すればよい。
【0082】
本発明の透析用剤は、重炭酸透析液を調製するために使用される。具体的には、前記透析用A剤、前記透析用B剤、及び前記透析用A剤に塩化ナトリウムが含まれていない場合には前記透析用S剤を、所定量の水(好ましくは精製水)に混合し希釈させることによって、重炭酸透析液が調製される。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0084】
実施例1
塩化マグネシウム六水和物77.4kg及び酢酸ナトリウム500kgをナウタミキサ(製造元:ホソカワミクロン株式会社、型番:DBX−5000RW)にて品温が約50℃程度になるまで30分間程度混合して、第1混合物を得た。また、別途、塩化カリウム113.7kg及び塩化カルシウム二水和物168.1kgをナウタミキサ(製造元:ホソカワミクロン株式会社、型番:DBX−5000RW)にて30分間程度混合して、第2混合物を得た。次いで、第1混合物及び第2混合物を重量比で約2:1になるように連続的にレーディゲミキサ(製造元:中央機工株式会社、型番:KM150D(W))に供給し、主軸回転数180rpmにて操作し、造粒物を得た。得られた造粒物を整粒し、ジャイロドライヤーGD−120型にて乾燥機内通過時間約5分、乾燥温度155℃で乾燥を行い、A剤用造粒物を得た。
【0085】
実施例2
塩化マグネシウム六水和物31.0kg及び酢酸ナトリウム200kgを混合して、第1混合物を得た。また、塩化カリウム45.5kg及び塩化カルシウム二水和物67.2kgを混合して、第2混合物を得た。以降の工程は実施例1と同様に操作し、A剤用造粒物を得た。
【0086】
実施例3
塩化マグネシウム六水和物4.02kg、及び酢酸ナトリウム25.98kgをナウタミキサ(製造元:ホソカワミクロン株式会社、型番:NX−2J)で品温が約40℃程度になるまで15分間程度混合し第1混合物を得た。得られた第1混合物5.38kgをバーチカルグラニュレーター(製造元:株式会社パウレック、型番:FM−VG25)に入れ、主軸100rpm、チョッパー150rpmにて撹拌を開始し、予めポリ袋内で混合しておいた塩化カリウム1.06kg、塩化カルシウム二水和物1.56kgからなる第2混合物を加え造粒を行い、造粒物を得た。この造粒物3kgを流動層乾燥機(製造元:株式会社長門電機工作所、型番:10F型)で、150℃、10分間乾燥を行い、A剤用造粒物を得た。
【0087】
実施例4
塩化マグネシウム六水和物2.28kg、及び酢酸ナトリウム11.02kgをナウタミキサ(製造元:ホソカワミクロン株式会社、型番:NX−2J)で品温が約35℃程度になるまで20分間程度混合し第1混合物を得た。得られた第1混合物6.68kgをバーチカルグラニュレーター(製造元:株式会社パウレック、型番:FM−VG25)に入れ、主軸100rpm、チョッパー150rpmにて撹拌を開始し、塩化カリウム1.68kg、塩化カルシウム二水和物2.48kgを順に加え造粒を行い、造粒物を得た。この造粒物3kgを流動層乾燥機(製造元:株式会社長門電機工作所、型番:10F型)で、130℃、12分間乾燥を行い、A剤用造粒物を得た。
【0088】
比較例1
塩化カリウム6.27kg、塩化カルシウム二水和物9.27kg、塩化マグネシウム六水和物4.27kg、及び酢酸ナトリウム27.56kgをナウタミキサ(製造元:ホソカワミクロン株式会社、型番:NX−2J)で混合し、電解質原料を得た。この電解質原料3kgを流動層乾燥機(製造元:株式会社長門電機工作所、型番:10F型)で、90℃、18分間加熱して、造粒と共に乾燥を行い、A剤用造粒物を得た。
【0089】
比較例2
比較例1と同様に混合し、電解質原料を得た。この電解質原料2kgを金属製バットに載せ、送風定温乾燥機(製造元:株式会社アドバンテック、型式:DRS420DA)で、80℃、300分間加熱して、造粒と共に乾燥を行い、A剤用造粒物を得た。
【0090】
比較例3
塩化カリウム0.265kg、塩化カルシウム二水和物0.391kg、塩化マグネシウム六水和物0.180kg、及び酢酸ナトリウム1.164kgを混合し、電解質原料を得た。この電解質原料を転動流動層造粒コーティング装置(製造元:株式会社パウレック、型番FD−MP-01S型)に投入し、撹拌翼とロータディスクを300rpmで回転させ、温度30℃、湿度27%RHの空気を0.8m
3/分の流量で吹き付けて25分間混合・撹拌を行い造粒した。この吹付条件では、電解質原料に塩化マグネシウムの無水物重量換算100重量部当たり、194重量部の自由水が供給された状態で造粒されていた。造粒後に、80℃、相対湿度0.76%RHの乾燥エアーを用いて2.0m
3/分の流量で15分間乾燥を行い、A剤用造粒物を得た。
【0091】
比較例4
造粒後の乾燥条件を、110℃、相対湿度0.76%RHの乾燥エアーを使用して乾燥時間を18分間に変更したこと以外は、前記比較例3と同条件でA剤用造粒物を得た。
【0092】
(2)A剤用造粒物の物性評価
(2−1)粒度分布
得られた各A剤用造粒物の粒度分布を求めた。各A剤用造粒物をTyler標準篩で10メッシュ(目開き1700μm)の篩で篩過した後、10gをロボットシフター(製造元:株式会社セイシン企業、型番:RPS-105)にて、Tyler標準篩で16メッシュ(目開き1700μm)、24メッシュ(目開き710μm)、32メッシュ(目開き500μm)、42メッシュ(目開き355μm)、60メッシュ(目開き250μm)、80メッシュ(目開き180μm)、100メッシュ(目開き150μm)、及び150メッシュ(目開き106μm)の篩を用いて、音波強度20、音波周波数51Hz、分級時間5分、スイープ時間0.3分、パルス間隔1秒の測定条件により、篩い分け法による粒度分布の測定を行った。
【0093】
得られた結果を表2に示す。実施例1〜4のA剤用造粒物は、比較例1〜4に比し、高度に造粒が進んだために粒子どうしの結合がより促進されているため、粒子径の大きなA剤用造粒物が得られており、粒径180μm以下の微粉(80メッシュを通過した粒子)の割合も、比較例3及び4よりもかなりの低値を示した。
【0094】
【表2】
【0095】
(2−2)水分含量
各A剤用造粒物の水分含量をカールフィッシャー水分計(製造元:平沼産業株式会社、型番AVQ-6)を用いて測定した。
【0096】
得られた結果を表3に示す。実施例1〜4のA剤用造粒物では水分含量が3.0重量%以下であり、十分に水分が除去されていた。
【0097】
【表3】
【0098】
(3)有機酸を含むA剤用造粒物の製造
前記で得られた各A剤用造粒物1kgに対し、pH調節剤として氷酢酸を表4に示す量を添加、混合し、酢酸含有A剤用造粒物を得た(実施例5〜8及び比較例5〜8)。
【0099】
【表4】
【0100】
(4)有機酸を含むA剤用造粒物の物性及び性能評価
(4−1)酢酸含有A剤用造粒物の貯蔵安定性及び溶解性
得られた各酢酸含有A剤用造粒物をポリエチレン袋に包装後、30kgの荷重下で20℃、40%RHの環境下で1日間保存した。保存後の酢酸含有A剤用造粒物を、自然落下にて目開き1.7mmの篩に通過させ、篩上に残った固化物の重量比を固化率として算出した。
【0101】
また、保存後に目開き1.7mmの篩で、固化がほとんど生じていないA剤用造粒物(実施例5〜8、比較例8)はそのまま、保存後に固化の割合が多かった酢酸含有A剤用造粒物(比較例5〜7)については、軽く砕いてから、目開き1.7mmの篩を通過させたものを用いて、水への溶解性を測定した。具体的には、空の底面積50cm
2の1Lビーカー中で半径15mmの撹拌子を750rpmで回転させておき、篩過した酢酸含有A剤用造粒物44.13gを投入し、20℃の精製水を流速667g/分の速度で90秒間ビーカーの上部から壁を伝わらせて添加した。目視にて酢酸含有A剤用造粒物が、精製水の添加終了後から完全に溶解するまでの時間を溶解時間として求めた。
【0102】
得られた結果を表5に示す。実施例5〜8の酢酸含有A剤用造粒物は、比較例5〜8に比べて、pH調節剤として酢酸を添加した後に生じる固化が抑制され、溶解性も優れていた。また、実施例5〜8の酢酸含有A剤用造粒物は、粒子間隙容積比が小さく、より密に造粒された粒子であるため、酢酸混合時においても粒子が壊れずに維持された結果、固化が抑制されており、さらに優れた溶解性を示す結果となった。
【0103】
【表5】
【0104】
(4−2)硬度
前記実施例5、6、及び比較例5〜8で得られた各酢酸含有A剤用造粒物の硬度を測定した。硬度の測定は硬度測定器(「New Grano」、岡田精工株式会社製)で低荷重用測定端子(フラットタイプ)を用いて、測定速度5μm/秒の条件で測定を行い、ランダムに採取した10個の粒子について測定し、その平均値を求めた。
【0105】
得られた結果を表6に示す。実施例5及び6の酢酸含有A剤用造粒物では、平均硬度が50gfを超えた高い値を示しており、輸送や透析液調製時に粒子が崩壊して粉化するのを十分に抑制できるものであった。
【0106】
【表6】
【0107】
(4−3)積算細孔容積分布
前記酢酸含有A剤用造粒物について、積算細孔容積分布の測定を行った。具体的には、水銀ポロシメーター(「poremaster60GT」、Quantachrome社製)を用いて、試料0.1gを測定用セルに封入し、水銀の接触角を140°、水銀の表面張力を480dyn/cmに設定して積算細孔容積分布の測定を行った。細孔容積の算出は解析ソフト「Poremaster」を用いて行った。なお、解析範囲は、3〜200000nmの範囲で行った。また、得られた各酢酸含有A剤用造粒物の積算細孔容積分布から、下記式に従って、粒子間隙容積比を算出した。
粒子間隙容積比(%)={(2000〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積)/(3〜200000nmの細孔直径における積算細孔容積)}×100
【0108】
得られた結果を表7〜9に示す。この結果から、実施例5〜8の酢酸含有A剤用造粒物では、比較例5〜8に比して、細孔直径2000〜200000nmにおける積算細孔容積が小さい、即ち、造粒物粒子内の空隙が少なく、含まれる各原料電解質どうしが密に詰まっていることが明らかとなった。一方で、細孔直径3〜2000nmにおける積算細孔容積は、実施例及び比較例共に同程度であった。また、実施例5〜8の酢酸含有A剤用造粒物では、粒子間隙容積比が50%以下であるのに対して、比較例5〜8ではいずれも粒子間隙容積比が50%を超えていた。
【0109】
細孔直径2000〜200000nmにおける積算細孔容積は、二次粒子、三次粒子、又はそれ以上の高次粒子として形成された粒子における粒子内部の空隙容積を含んでいる。当該空隙容積が大きい程、空隙への水の浸入が起こりやすく、粒子内部に強い粘性を有する部分ができてしまい、結果、凝集や付着が発生して溶解性が悪くなる。実施例5〜8の酢酸含有A剤用造粒物では、当該空隙容積が小さく、粒子間隙容積比が50%以下であるため、優れた溶解性を示したと考えられる。また、実施例5〜8の酢酸含有A剤用造粒物では、当該空隙容積が小さいこと、即ち、密に造粒されていることに基づいて、高い硬度を示したと考えられる。以上の結果から、実施例5〜8の酢酸含有A剤用造粒物では、粒子間隙容積比が50%以下であること、即ち二次粒子、三次粒子、又はそれ以上の高次粒子として形成された粒子における粒子内部の空隙容積が小さいことによって、優れた貯蔵安定性を有すると共に、高い硬度を備えつつも優れた溶解性を備えさせることができる。一方、空隙容積が大きいとその部分が空気中に暴露されることになるため、粒子表面のみならず空隙を形成する粒子表面も環境の湿度の影響を受け易くなる。その結果、吸湿による固結が発生し易くなり、ブドウ糖が共存する場合には、その安定性にも影響を及ぼす点から、空隙容積が大きいA剤用造粒物は好ましくない。
【0110】
【表7】
【0111】
【表8】
【0112】
【表9】