(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている掴線器(架空線用締結具)は、挟持体の内側に半円筒状をなす一対の把持部材と該把持部材を内側方向へ押圧可能な締め付けカムとを設けて、把持部材を締め付けカムで軸芯方向へ押圧する構成とすることで、架空線の端部をしっかりと把持できるようにしている。しかし、この掴線器は、一対の挟持体で架空線の端部を把持した後に、ボルトとナット(2組)を締め付ける必要があるため、作業が面倒であり時間もかかってしまうという課題がある。
【0005】
特許文献2に開示されている掴線器は、カムを有する開脚装置により一対のレバーを回動させて把持部材を開かせて架空線の端部を挿入した後、レバーを逆方向へ回動させて把持部材で架空線を挟み込むことで、把持するようにしている。しかし、この掴線器においては、カムとリンク機構によって一対の把持部材の間隔を広げたり狭めたりするとともに、シメラー(張線器)の引張力を、レバーによって把持部材による架空線の挟み込み力に変換しているだけであるため、架空線を挟み込む力が弱いとともに、一対の把持部材の平行度を保つのが困難であり把持部材の内面全体で架空線を均一に挟むことが難しいという課題がある。
【0006】
上記課題を解決するため、本出願人は、一対の把持部材間に架空線の端部を把持させる作業が簡単に行えるとともに、くさび作用によって架空線を強固に挟み込むことができるようにした掴線器を開発し、先に出願した(特許文献3)。しかしながら、先に出願した発明に係る掴線器は、ロック機能を備えていないため、一旦把持した架空線に引っ張り方向と逆向きの力が作用した場合に架空線が外れることがあるという課題があることが明らかになった。
本発明の目的は、一対の把持部材間に架空線の端部を把持させる作業が簡単に行えるとともに、一旦把持した架空線に引っ張り方向と逆向きの力が作用したとしても架空線が容易に外れることのない掴線器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、
把持用金具と、該把持用金具に張力を与えるチェーンと、該チェーンの他端が係合されるリング状の引っ掛け金具と、を備えた掴線器であって、
前記把持用金具は、
相対的に接近離反可能な一対の把持部材と、
前記一対の把持部材の少なくとも一方を移動可能に保持する本体部と、
前記本体部に回動可能に装着され、前記チェーンの一端が連結される作動レバーと、
前記作動レバーの回動を前記本体部に移動可能に保持される前記把持部材の往復移動に変換するリンク機構と、
前記本体部に設けられ、前記作動レバーの回動を阻止可能なロック機構と、を備え、
前記ロック機構は、
回転することで軸方向に移動可能なロックピンと、
前記ロックピンの端部に設けられ、前記作動レバーに設けられている当接部に接触可能なカム面を有する押圧部材と、を備え、
前記ロックピンは、その移動方向と直交する軸の回りに回動可能に構成した。
【0008】
上記した手段によれば、ロックピンをその移動方向と直交する軸の回りに回動させて端部を作動レバーに接近させた後、ロックピンを回転させて軸方向に沿って移動させ、端部に設けられている押圧部材のカム面を作動レバーに設けられている当接部に接触させることで、作動レバーを回動させることができないロック状態にすることができ、これによって一旦把持した架空線に引っ張り方向と逆向きの力が作用したとしても架空線が容易に外れることのない掴線器を実現することができる。
また、押圧部材のカム面が作動レバーの当接部から少しだけ離れるようにロックピンを軸方向へ移動させるだけで、ロックピンを移動方向と直交する軸の回りに回動させることができるようになり、それによって作動レバーの回動範囲が拡大するため、短時間でロック状態を解除することができる。
【0009】
ここで、望ましくは、前記押圧部材は、基部が直方体状をなし、前記ロックピンの端部に該ロックピンの軸を中心にして回転自在に装着され、軸方向の先端側には、前記基部の各外側面から軸心側へ傾斜した4個のカム面が形成され、
前記本体部には前記ロックピンを中央部にて支持する支持部材が回転自在に設けられ、
前記支持部材には該支持部材を貫通するネジ穴が形成され、
前記ロックピンには、中央部に前記ネジ穴に螺合する雄ネジ部が設けられ、前記押圧部材と反対側の端部に回転操作部が設けるようにする。
【0010】
これにより、ロックピンをその移動方向と直交する軸の回りに回動させた際に、押圧部材の基部が本体部に当たって自転することで、押圧部材のいずれかのカム面が作動レバーに設けられている当接部に接触する状態に自動的に設定させることができ、操作性が向上する。また、回転操作部を回すことで容易に押圧部材を軸方向へ移動させて、カム面を作動レバーの当接部に接触させたり、離反させたりすることができる。
【0011】
また、望ましくは、前記押圧部材は、前記4個のカム面のうち最も外側に位置するものが前記作動レバーに設けられている前記当接部に接触されるように構成し、
前記押圧部材の軸方向の先端部には、前記4個のカム面のなす稜線基部から軸と平行な方向に突出する接触部を設ける。
これにより、回転操作部を押圧部材のうち最も外側に位置するカム面が作動レバーに設けられている当接部に接触する状態になった際に、カム面に作用する力を本体部(ホルダ)との接触部で受けることができ、それによってロックピンの回転部分に大きな力が作用するのを防止して、損傷や故障が発生するのを回避することができ、ロック機構の耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、一対の把持部材間に架空線の端部を把持させる作業が簡単に行えるとともに、一旦把持した架空線に引っ張り方向と逆向きの力が作用したとしても架空線が容易に外れることのない掴線器を実現することができる。また、くさび作用によって架空線を強固に挟み込むことができ、挟み込んだ架空線が容易に外れることのない掴線器を実現することができるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る掴線器の全体構成を示す。
図1に示すように、掴線器は、トロリー線(架空電車線)や吊架線のような架空線の端部を把持するための把持用金具10と、把持用金具10の一対の作動レバー11A,11Bの外端部に一端が結合される一対のチェーン20A,20Bと、該チェーン20A,20Bの他端に結合されシメラー(張線器)のフック(図示省略)が挿通されるリング状の引っ掛け金具30とから構成されている。チェーン20A,20Bや引っ掛け金具30および把持用金具10を構成する部品は、本実施形態では金属製であるが、金属製に限定されるものではない。
【0015】
把持用金具10は、平行に配設された一対の把持部材12A,12Bと、該把持部材12A,12Bを長手方向にスライド可能に保持するホルダ13と、把持部材12A,12Bがホルダ13から抜けないように押さえる押えプレート14A,14Bと、把持部材12Aと12Bとを連結する連結ピン15と、上記作動レバー11A,11Bの内端部と把持部材12A,12Bの後端部とを連結する一対のリンク部材16A,16Bとを備える。
ここで、把持部材12A,12Bは、その長さ方向(
図1の左右方向)がチェーン20A,20Bを引っ張る方向とほぼ一致するような向きに配設されている。
【0016】
作動レバー11A,11Bは、そのほぼ中心部にて、ホルダ13の後部側から後方へ向かって突出するように形成された互いにほぼ平行をなす一対のアーム13a,13bの先端部に、端部に抜け止め用の皿状頭部を有するピンを用いた支軸31A,31Bによって回動可能に装着されている。そして、この作動レバー11A,11Bの内端部に支軸32A,32Bによってリンク部材16A,16Bの後端部がそれぞれ連結され、リンク部材16A,16Bの前端部が支軸33A,33Bによって上記把持部材12A,12Bの後端部にそれぞれ連結されている。
【0017】
しかも、上記作動レバー11A,11Bは、長手方向がホルダ13の中心線C−Cとほぼ直角をなすように、つまり支軸31Aと32Aおよび支軸31Bと32Bとが、ホルダ13の中心線C−Cとほぼ直角をなす線上に位置するように配設されている。
また、作動レバー11A,11Bの外端部には、
図2に示すように、上記チェーン20A,20Bの一端を係合させるための係合穴11a,11bがそれぞれ設けられている。
さらに、本実施形態の掴線器においては、把持部材12A,12B間に架空線(ケーブル)を挟み込んだ状態で、作動レバー11A,11Bの移動を阻止することで把持部材12A,12Bが緩んで架空線が抜けてしまうのを防止するため、ロック機構18が設けられている。このロック機構18の詳しい構造と作用については、後に説明する。
【0018】
なお、本実施形態では、
図2に示すように、支軸31Aの中心からチェーン20Aによる引張力の作動点までの距離L1と、支軸31Aと32Aとの距離L2との関係がL1>L2となるように設定されている。具体的には、2つの距離の比L1/L2が、例えば1.2のような値に設定されている。作動レバー11B側も同様である。L1>L2となるように設定することで、てこの原理を利用して、チェーン20A,20Bによる引張力を増幅して作動レバー11A,11Bを前方(左方向)へ押す力に変換して伝達することができる。
【0019】
図3(a)は把持用金具10を
図1の矢印Aの側から見た図、
図3(b)は把持用金具10を
図1の矢印Bの側から見た図、
図4および
図5は把持用金具10の底面図および斜視図である。また、
図6および
図7は、把持用金具10の構成部品である上記把持部材12A,12Bとホルダ13の詳細を示す図面である。なお、以下の説明では、
図3において、ホルダ13の上方に位置する面を上面、ホルダ13の下方に位置する面を下面と称する。
図3(a)に示すように、ホルダ13には中央部に
図1の中心線C−Cに沿って凹部13cが形成され、該凹部13c内に上記把持部材12A,12Bが所定の間隔をおいてスライド可能に収納されている。そして、把持部材12Aの上面を押えプレート14Aの中央側の縁部で抑え、把持部材12Bの上面を押えプレート14Bの中央側の縁部で抑えるように構成されている。
【0020】
さらに、押えプレート14Aには、ホルダ13の上面に植設されたピン34Aが挿通された円弧上のガイド孔14a(
図1参照)が形成されており、押えプレート14Aは支軸34Bを中心に回動可能に取り付けられている。押えプレート14Aは、内側すなわち把持部材12A,12Bの上方へ回動されると、把持部材12A,12Bによって把持される架空線(例えばトロリー線)が外れないように防止する機能を有する。なお、押えプレート14Aとホルダ13との間には適当な摩擦力が働いて、押えプレート14Aが簡単に回動しないようにピン34Aに組み込まれた座金によって押えられている。
【0021】
一方、押えプレート14Bはホルダ13の上面にビス35A,35Bによって固定されているとともに、押えプレート14Bの上面には、変形防止プレート17が接合され同じくビス35A,35Bによって固定されている。
そして、上記変形防止プレート17の中央側の縁部は、押えプレート14Bの中央側の縁部よりも内側へ突出するように設定されており、押えプレート14Aが内側へ回動された際に、中央側の縁部が変形防止プレート17の縁部の下側へ入り込むことによって、把持部材12A,12Bによって把持された架空線に対して抜ける方向(
図3では上方へ向かう方向)に力が作用してその力が押えプレート14Aに加わったときに、変形防止プレート17によって押えプレート14Aの変形を防止するようになっている。
【0022】
図3(b)に示すように、ホルダ13の後部側(図では右側)に、後方へ向かって突出するように形成されたアーム13bは、平行な支持片13b1,13b2からなり、この支持片13b1,13b2間に前記作動レバー11Bが支軸31Bによって、回動可能に取り付けられている。
図3(b)には示されていないが、作動レバー11Aも同様である。
連結ピン15は、
図4や
図5に示すように、把持部材12A,12Bの後端下面に植接された支持ピン19A,19B間にスライド可能に横架されている。具体的には、支持ピン19A,19Bの側面にそれぞれピン穴が形成されており、該ピン穴に連結ピン15の端部がそれぞれ挿入され、支持ピン19A側の端部は固着されるとともに支持ピン19B側は移動可能に係合されている。これによって、把持部材12A,12Bが前後方向(
図4の左右方向)に移動される際に、互いに接近する方向または離反する方向へも移動することができる構成とされている。
【0023】
次に、把持部材12A,12Bの詳細な構成について説明する。
図6は、把持部材12A,12Bのうち把持部材12Aの詳細を示す。把持部材12Aの詳細を示す
図6において、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図、(d)は左側面図である。なお、把持部材12Bは12Aと対称な形状であるので、図示および説明を省略する。
図7は、ホルダ13の詳細を示すもので、(a)は正面図、(b)は平面図、(c)は左側面図である。
【0024】
図6に示すように、把持部材12Aは、楔状の本体部12aと、後端の連結部12bとからなり、本体部12aの外側壁には、先端側へ向かって下傾斜するテーパ面12cが形成されている。また、本体部12aの内側は、
図6(d)から分かるように、把持対象の架空線の外周面に対応して円弧状の凹部をなすように形成されており、内面には、摩擦力を高めるための歯部12dが形成されている。この歯部12dは、
図6(e)に拡大して示すように、先端側へ向かって下り傾斜したテーパ面を有する断面鋸歯状の溝を刻むことによって摩擦力を高めるように工夫されている。
【0025】
連結部12bには、連結ピン15を保持する前記支持ピン19Aが挿入されるピン穴12eと、リンク部材16Aと結合するための前記支軸33Aが挿入される軸穴12fとが設けられている。
把持部材12Aの本体部12aの底面には、
図6(c)に示されているように、斜め方向にガイド溝12gが形成されている。このガイド溝12gには、把持部材12Aをホルダ13に収納する際に、
図7(b)に示されているホルダ13の凹部13cの上面に植設されている摺動ピン36a,36bが係合されるようになっており、把持部材12Aが中央側へ移動しないように規制する働きをする。
【0026】
ホルダ13の凹部13cの内側壁には、把持部材12A,12Bのテーパ面12cに接
合する同一傾斜角のテーパ面13dが形成されており、把持部材12A,12Bを前方(図の左方)へ移動させると、ホルダ13の凹部13cの内側壁のテーパ面13dに沿って把持部材12A,12Bが移動し、ホルダ13側のテーパ面13dによって把持部材12A,12Bのテーパ面12cが押されることで、内側へ移動するように構成されている。
なお、把持部材12A,12Bの楔状の本体部の外側壁のテーパ面12cの傾斜角は、特に限定されるものではないが、本実施形態では例えば15゜のような角度(鋭角)に設定されている。
【0027】
次に、上記のような構成を有する掴線器の使用方法および作用について説明する。
例えば事故により切断されてしまったトロリー線を接続するため、トロリー線の端部を掴線器で把持する場合、
図2に示すように、押えプレート14Aを外側へ移動させるとともに、作動レバー11A,11Bの外端部を矢印F1,F2の方向へ押して回動させて、把持部材12A,12Bを開いた状態にしてから、把持部材12A,12B間にトロリー線の端部を挿入する。そして、トロリー線を引っ張ると作動レバー11A,11Bが回動して、把持部材12A,12Bが前方へ移動して間隔が狭くなり、トロリー線が把持部材12A,12Bによって軽く挟まれる。続いて、押えプレート14Aを内側へ移動させて把持部材12A,12B間のトロリー線の上方を覆うようにする。これにより、トロリー線の外れ(上方への抜け)が防止される。
【0028】
次に、チェーン20A,20Bを
図1において右方向へ強く引っ張る。すると、作動レバー11A,11Bの外端部が矢印E1,E2の方向へ回動して、作動レバー11A,11Bの内端部が把持部材12A,12Bの後端面を直接押圧して、把持部材12A,12Bを先端方向(
図1の左方向)押し出すような力が作用する。このとき、把持部材12A,12Bの外側にテーパ面12cが形成されているとともに、前述した作動レバー11A,11Bにおける「てこ」の原理で、チェーンの引張力が増幅されて把持部材12A,12Bを前方へ移動させる力に変換されるため、くさび効果で、把持部材12A,12Bを、トロリー線とホルダ13の内側壁のテーパ面13dとの隙間に侵入させることができる。
【0029】
これにより、把持部材12A,12Bによってトロリー線が強い力で挟まれるとともに、把持部材12A,12Bの内面に歯部12dが形成されているため、トロリー線との間に強い摩擦力が生じ、トロリー線が把持部材12A,12Bから抜けてしまうのを防止することができる。しかも、この実施形態の掴線器においては、把持部材12A,12Bの長さ方向(
図1の左右方向)がチェーン20A,20Bを引っ張る方向とほぼ一致するように設計されているため、トロリー線に対して把持部材12A,12Bによる挟む力と直交する方向へ働く力を小さくすることができ、トロリー線に癖が付くのを防止することができる。
また、把持部材12A,12Bの上方に押えプレート14Aが設けられているので、トロリー線の外れも防止することができる。そして、この状態で、ロック機構18を操作してロック状態にして、トロリー線の端部を把持し、掴線器にシメラー(張線器)を連結してクレーン(吊り上げ機)等で持ち上げる作業を行なうことができる。
【0030】
一方、トロリー線の端部を掴線器から外す場合には、先ずロック機構18を操作してロック状態を解除してから、
図2に示すように、作動レバー11A,11Bの外端部を矢印F1,F2の方向へ強く押して回動させ、リンク部材16A,16Bを介して把持部材12A,12Bを後方へ移動させて開いた状態に変化させることで、トロリー線を開放することができる。なお、このとき、支軸31Aの中心からチェーン20Aによる引張力の作動中心点までの距離L1と、支軸31Aと32Aとの距離L2との関係がL1>L2となるように設定されているため、くさび効果で把持部材12A,12Bがトロリー線とホルダ13のテーパ面13dとの間に挟まれていて抵抗力が大きくても、作動レバー11A,11Bの先端をハンマーで叩いたりすることなく、作業者の手の力だけで容易に作動レバー11A,11Bを回動させてトロリー線を開放することができる。
【0031】
次に、前記ロック機構18の詳細について
図2および
図8〜
図10を用いて説明する。
ロック機構18は、
図2に示すように、ホルダ13の側面(
図2では下側)に、ピン軸81にて回転可能に取り付けられた支持ブロック82と、該支持ブロック82に螺合され軸方向中央にて回転可能に支持されたロックピン83とを備え、該ロックピン83の前端には、外周面に滑り止め用の複数の溝が形成された作業者が指でつまんで回すための円形の操作部84が設けられている。また、ロックピン83の後端には、4つのカム面と回動規制片とを有する押圧スライダー85が設けられている。
【0032】
なお、支持ブロック82のロックピン83が挿通される穴には雌ネジが形成され、ロックピン83の中央部には雄ネジが形成されており、雌ネジと雄ネジとが螺合することで、ロックピン83を回すとロックピン83が軸方向へ移動するように構成されている。また、押圧スライダー85は、ロックピン83の後端に回転自在に装着されており、押圧スライダー85の回転が阻止された状態で、ロックピン83を回転させることができるようになっている。
【0033】
さらに、ホルダ13の後端部には、上記ロックピン83の上下方向への回転を阻止するためのカバープレート86が、上記作動レバー11Bの回動中心としての支軸31Bに、回動可能に取り付けられている。カバープレート86は、その先端が、ロックピン83がホルダ13と平行な姿勢にされている際に上記押圧スライダー85と重なる位置まで延設され、押圧スライダー85の部分を上下から覆うことで上記ロックピン83の上下方向への回転を阻止できるように構成されている。そして、カバープレート86を反時計回りに回転させると、先端が押圧スライダー85と重ならない位置まで移動して、上記ロックピン83の上下方向への回転を許容する状態となる。なお、ホルダ13の反対の面(図では下面)のカバープレート86と対向する位置には、押圧スライダー85と重なるように固定プレート87(
図10(C)参照)が設けられている。
【0034】
一方、作動レバー11Bの前面には、
図8に示すように、上記ロックピン83の押圧スライダー85と対向する部位に、前方へ突出して内側の面が押圧スライダー85の外側に位置するカム面と接触可能な当接部11Cが設けられている。
図8には、前記ロック機構18を構成するロックピン83先端の押圧スライダー85と作動レバー11Bとの関係が、また
図9には押圧スライダー85の詳細が示されている。このうち、
図9(a)はロックピン83先端の押圧スライダー85を拡大して示す図、
図9(b)は押圧スライダー85を後方(
図8の右側)から見た図である。
【0035】
図9(a),(b)に示すように、ロックピン83の先端の押圧スライダー85は、全体がほぼ直方体状をなし、4つの外側面の延長上にそれぞれ形成された4個のカム面85aと、これらのカム面85aを囲むように形成された4個の角柱状のホルダとの接触部85bとを備える。4個のカム面85aは、それぞれ湾曲した三角形状をなし、
図8(b)に示すように、4個のうち最も外側に位置しているカム面に、作動レバー11Bの前面に形成されている前記当接部11Cの頭部内側が接触され、作動レバー11Bの時計回り方向の回動すなわち把持部材12A,12Bが開く方向へ移動するのを阻止できるように構成されている。
【0036】
ここで、上記ロック機構18の操作方法と機能について説明する。
ロック機構18を機能させる際には、把持部材12A,12Bでケーブル(トロリー線等)を挟んだ状態で、カバープレート86を外側へずらし、ロックピン83をホルダ13と平行な姿勢にした後、前端の操作部84を指でつまんで時計回り方向へ回す。すると、ロックピン83が後方(図の右方向)へ移動して、後端の押圧スライダー85のカム面85aが作動レバー11B前面の当接部11Cに当接して押圧し、作動レバー11Bの時計回り方向の回動を阻止するロック状態となる。さらに、この状態で、カバープレート86を回動させて押圧スライダー85の部分を上下から覆うことで、作業中にロックピン83の先端側に荷重が作用したとしても、ロックピン83の回動を阻止し、カム面85aと当接部11Cとのロック状態が解除されるのを確実に防止することができる。
【0037】
なお、この実施形態では、作動レバー11A側にはロック機構18が設けられていないが、ロック機構18によって作動レバー11Bがロックされると、把持部材12Bの移動が阻止され、さらに連結ピン15を介して把持部材12Bの移動も阻止されるため、片側のロック機構18のみでロック状態を維持することができる。また、押圧スライダー85のカム面85aが作動レバー11B前面の当接部11Cに接触している状態では、ホルダとの接触部85bの内側に作動レバーの当接部11Cが位置することで、ロックピン83の先端側に何らかの荷重が作用したとしても、ホルダとの接触部85bが当接部11Cの側面に接触してロックピン83の回動を阻止し、カム面と当接部とのロック状態が解除されるのを防止することができる。カバープレート86を設けたのは、2重にロックをかけて安全性を高めるようにしたためで、カバープレート86は省略することも可能である。
【0038】
また、本実施形態の掴線器においては、前方へ膨出する当接部11Cがないとすると、ロックピン83を回してロック状態にするとき、作動レバー11Bの傾斜した前壁によってロックピン83の後端をホルダ13から離れる方向へ押す力が働き、ロックピン83に曲げ力が作用しこれを支持する支持ブロック82が抜けるような力が作用する。しかるに、本実施形態のロック機構18によれば、当接部11Cが設けられていることで、上記のような力がロックピン83に作用するのを防止して、破損や故障が発生するのを回避することができる。
一方、上記のように当接部11Cを設けた場合、ロック状態のとき、作動レバー11B前面の当接部11Cからカム面85aに反力が作用して、ロックピン83の後端をホルダ13側へ押す力が働き、ロックピン83の先端を内側へ曲げロックピン83やホルダ13を変形させるような力が作用する。しかるに、本実施形態のロック機構18によれば、ロックピン83の前端の4個の角柱状の接触部85bがホルダ13の側面に接触することで、ホルダ13から押圧スライダー85へ逆向きの力を与えることができ、それによってロックピン83や支持ブロック82を変形させるような無理な力がロックピン83に作用するのを防止して、破損や故障が発生するのを回避することができる。
【0039】
一方、ロック機構18のロック状態を解除するには、
図10(a)に示すように、カバープレート86を反時計回り方向に回動させて外側にずらしてから、ロックピン83の前端の操作部84を指でつまんで反時計回り方向へ回す。すると、ロックピン83が前方(図では左方向)へ移動して、後端の押圧スライダー85のカム面85aが作動レバー11B前面の当接部11Cから離れる。そして、
図10(b)に示すように、押圧スライダー85の先端と作動レバー11Bの当接部11Cの先端との間に僅かに隙間が生じた状態で、ロックピン83の先端を上方または下方へ押し下げて、ピン軸81を中心にしてロックピン83を回転させ、
図10(c)に示すように、縦の姿勢にさせる(
図3(b)参照)。これにより、作動レバー11Bを前方へ大きく移動させることができるスペースが生じるので、
図10(d)に示すように、作動レバー11Bを前方へ移動させることによって、リンク機構を介して把持部材12A,12Bを開く方向へ移動させ、ケーブルの把持状態を解放させることができるようになる。
【0040】
上記のように、本実施形態の掴線器のロック機構18は、ロックピン83を回転させることが可能な構成を備えるため、ロックピン83を回して少しだけ軸方向へ移動させることでロック状態を解除することができる。仮に、ロックピン83を回転させることができない構成とした場合を考えると、その場合、ロックピン83を回転させることでロックピン83の後端は少しずつ前方へ移動して、押圧スライダー85の先端と作動レバー11Bの当接部11Cの先端との間の隙間が次第に大きくなる。しかし、作動レバー11Bは広がった隙間以上は前方へ移動できないため、把持部材12A,12Bがケーブルを解放する状態にするまでに時間がかかってしまうが、本実施形態の掴線器は、短時間にロック機構18のロックを解除してケーブルを解放することができる。
【0041】
また、本実施形態の掴線器のロック機構18においては、押圧スライダー85が直方体状に形成されているとともに、ロックピン83の後端に回転自在に装着されている。そのため、ロックピン83を縦向きの姿勢から横向きの姿勢に変える際に、押圧スライダー85の側面がホルダ13の側面と平行になっていなかったとしても、
図11(a)に示すように、押圧スライダー85の側面がホルダ13の角部に当たり、さらにロックピン83を回転させると、押圧スライダー85が自転することで、
図11(b)に示すように、押圧スライダー85の側面がホルダ13の側面と平行になるので、操作性に優れるという利点がある。
【0042】
また、本実施形態の掴線器においては、
図1に示すように、チェーン20A,20Bの端部のリング21A,21Bに反転防止用のリング状ワイヤ30が挿通されている。これにより、引っ掛け金具30が反転(180°回転)して、チェーン20A,20Bが引っ掛け金具30の反対側へ移動するのを防止し、チェーン20A,20Bがねじれることで余分に応力が生じて変形したり破損したりするのを防止することができるように構成されている。
また、チェーン20A,20Bの端部のリング21A,21Bに反転防止用のリング状ワイヤ30が挿通されていることによって、引っ掛け金具30が一回転(360°回転)するのを防止することができる。
【0043】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態においては、一対の把持部材12A,12Bを備えた両開き方式の掴線器に適用したものについて説明したが、例えば特開2005−184936号公報に開示されているような一方の把持部材が固定で他方の把持部材が移動することでケーブルを挟み込む片開き方式の掴線器に適用することができる。
【0044】
さらに、把持部材12A,12Bをホルダに対して着脱可能な構造にし、把持対象の架空線の径等に応じて歯部12dの曲率が異なるように形成された他の把持部材と交換可能に構成しても良い。
また、前記実施形態では、本発明を断面がほぼ円形のケーブルやワイヤなどの架空線の端部を把持する掴線器に適用したものを説明したが、本発明は、平たい帯状の索(ベルト)の端部を把持する掴線器にも広く利用することができる。