特許第6467319号(P6467319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6467319
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】タッピングねじ
(51)【国際特許分類】
   F16B 25/04 20060101AFI20190204BHJP
   F16B 25/00 20060101ALI20190204BHJP
   F16B 43/00 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   F16B25/04 A
   F16B25/00 L
   F16B43/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-172246(P2015-172246)
(22)【出願日】2015年9月1日
(65)【公開番号】特開2017-48845(P2017-48845A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年7月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508078824
【氏名又は名称】近江OFT株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000175973
【氏名又は名称】三晃金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 邦男
(72)【発明者】
【氏名】田中 政浩
(72)【発明者】
【氏名】澤田 正治
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 幸和
(72)【発明者】
【氏名】會澤 義正
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0260495(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0164944(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0047096(US,A1)
【文献】 特開2005−299709(JP,A)
【文献】 特開2004−036733(JP,A)
【文献】 特開2008−069857(JP,A)
【文献】 特開平11−336723(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3131913(JP,U)
【文献】 特表2008−510117(JP,A)
【文献】 特開2005−127369(JP,A)
【文献】 特開2014−037893(JP,A)
【文献】 特開2008−175253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00−43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱形状胴部の一端に頭部を備え、他の一端に食い込み部を備えて、前記食い込み部から前記胴部にかけて雄螺子が螺旋状に形成されているタッピングねじであって、前記食い込み部は先端が頂角26度〜29度の範囲の円錐形状であり、前記食い込み部表面には対称形断面の雄螺子が3山以上設けられ、前記胴部には、進み側フランク角よりも小さい戻り側フランク角の非対称形断面の雄螺子が設けられ、前記食い込み部先端から前記胴部の一部が粘着材で被覆され、被締結部材への締結及び穴径の拡大する際に前記粘着材の表面が剥される構成とし、該剥がれた粘着材は、ねじの谷部と前記被締結部材との間に生じた隙間を埋めてなることを特徴とするタッピングねじ。
【請求項2】
請求項1に記載のタッピングねじにおいて、前記対称形断面の雄螺子の断面角は60度以上であり、前記非対称形断面の雄螺子の断面角は40度以下であることを特徴とするタッピングねじ。
【請求項3】
請求項2に記載のタッピングねじにおいて、前記非対称形断面の雄螺子の戻り側フランク角を10度以下とすることを特徴とするタッピングねじ。
【請求項4】
請求項1,請求項2又は請求項3の何れか1項に記載のタッピングねじにおいて、前記タッピングねじが非締結物を突き抜ける部分及び、該突き抜ける部分に連なる領域の一部を、前記粘着材で被覆したことを特徴とするタッピングねじ。
【請求項5】
請求項1,請求項2,請求項3又は請求項4の何れか1項に記載のタッピングねじにおいて、前記粘着材は乳化型アクリル樹脂粘着材であることを特徴とするタッピングねじ。
【請求項6】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項5の何れか1項に記載のタッピングねじにおいて、前記頭部に係合する座金を有することを特徴とするタッピングねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締付によって雌螺子を形成するタッピングねじ、特に、厚さ0.8〜1.6mmの薄板を締結するのに好適なタッピングねじに関する。
【背景技術】
【0002】
タッピングねじは被締結部材よりも高硬度な螺子で、締付によって前記被締結部材に雌螺子が切削形成される。切削時に切り粉すなわち切削屑が発生してこれが問題となることがある。タッピングねじは、工場、倉庫、事務所、体育館等の金属屋根の表面に敷いた断熱シートや防水シートを該金属屋根に固定するためにも使われる。
【0003】
タッピングねじはオーステナイト系ステンレス材を過熱して硬化処理していたり、マルテンサイト系ステンレス材を焼き入れ処理もしくは窒化処理によって硬化していたりする。タッピングねじは円柱形状の胴部の一端には頭部が設けられ、ドライバビットが契合する溝が形成されている。他端には被締結部材に食い込ませる『食い込み部』が設けられている。そして、該食い込み部から胴部にかけて雄ねじが形成されている。
【0004】
螺旋状の雄螺子が食い込み部及び胴部に設けられている。図6は一般的なタッピングねじに設けられた雄螺子の断面図である。雄螺子は胴部へ向かう2つの斜面と前記両斜面に挟まれた頂上部からなる。2つの斜面のうち、締結時に螺子の進む側の面を、進み側フランク面、もう一方の面を戻り側フランク面という。前記頂上部を通り、胴部中心軸に直交する面を直交面としたとき、該直交面と進み側フランク面の成す角を進み側フランク角という。該直交面と戻り側フランク面の成す角を戻り側フランク角という。タッピングねじの締結時は両フランク面とも雌螺子の形成に寄与するが、締結後は戻り側フランク面に圧力が掛かって、締結状態を維持している。
【0005】
特許文献1に記載のタッピングねじは、下穴の開いている被締結部材に雌螺子を切削形成しながら締結するねじである。同文献の25〜31段落によれば、従来広く用いられているタッピングねじの雄螺子はほぼ対称形で、両フランク角はそれぞれ約30度であると記載されている。更に同文献には、戻り側フランク角を小さくすることにより、締結完了後に雌螺子に掛かる戻り圧力を低下させて、該雌螺子の破壊と被締結部材の疲労を軽減するタッピングねじが記載されている。具体的には、戻り側フランク角5度、進み側フランク角30度であって、該雄螺子の角度はこれらの和である35度と鋭利なものになっている。
【0006】
特許文献2に記載のタッピングねじも、下穴の開いている被締結部材に雌螺子を切削形成しながら締結するねじである。このタッピングねじは対称形の雄螺子を有しているが、先端付近に一山分だけ雌螺子形成部といって、他よりも両フランク角が大きく、高さも若干高く形成された雄螺子を有している。雌螺子切削形成のための力を前記一山分の雌螺子形成部に集中させて切削摩擦を軽減させることを意図するものである。同文献によれば切削効率を上げるには、雄螺子の断面角度、すなわち、両フランク角の和は50度以下とするのが効果的で、かつ、前記雌螺子形成部の角度はこれよりも10度程度大きくすることが良いとされている。
【0007】
更に、同文献には雌螺子成形屑を螺子山間に吸着保持するための、被覆材を食い込み部と胴部(同文献では胴部+脚部と記載)の60%以上に亘って塗布することが記載されている。同文献の図2には雄螺子の谷部で厚く塗布された被覆材が示されている。この被覆材が、同タッピングねじのねじ込み時に切削屑の落下を防止すると記載されている。
【0008】
特許文献3に記載のねじも、被締結部材に予め下穴を開けていることを前提としている。同文献に記載のねじにおいて、ねじ山形成部と雄螺子には粘着材が塗布されている。これは前記ねじ山形成部が被締結部材を切削して生じた切り屑を、前記粘着材で吸着保持することで、切り屑の落下を防止することを意図するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−127369号公報
【特許文献2】特開2004−36733号公報
【特許文献3】特開2008−175253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のタッピングねじのように、全体に亘って35度前後の鋭利な雄螺子を備えたものは雌螺子の切削成形効率が高いと考えられる。しかし、先端部にも同様の鋭利な雄螺子を備えると、被締結部材への切り込みの際に生じたバーリングを切断してしまい、比較的大きな切削屑が生じてしまうおそれがあるという課題を有していた。
【0011】
特許文献2に記載のタッピングねじは予め下穴を開けておいてからねじ込むものである。従って、屋根の補修など、現場で下穴を開けると、大量の切削屑が発生して、これらが全て落下してしまうという課題がある。屋根の補修など、別の場所で予め下穴を加工しておけない場合は、下穴が不要なタッピングねじでなければならない。
【0012】
特許文献3に記載のタッピングねじは、切り屑を小さくする仕組みが無い。従って、大きな切り屑が生じた場合には、前記粘着樹脂に吸着しきれずに落下する虞があるという課題を有していた。そもそも、同文献に記載のねじも下穴が必要で、該下穴を開ける際に大量の切削屑を落下させてしまう課題があった。
【0013】
以上示した特許文献はいずれも、被締結部材に予め下穴が開けられていることを前提としている。しかし、屋根の修復は使用中の建屋の屋根上で行う作業であって、他の場所で予め下穴を開けておくことはできない。だからといって、被締結部材たる屋根板に下穴を開けて大量の切削屑を落下させることは許容されない。そこで、作業に当たっては、前記屋根板の下方に養生シートを敷設して居住空間に前記切削屑が落下しないようにする必要がある。養生シートの敷設は大きなコスト増となるためできれば避けたい作業である。
【0014】
そこで、本発明の目的、すなわち、解決しようとする技術的課題は、下穴不要のタッピングねじであって、締結時に切り粉を出さない、若しくは、切り粉の落下を防止するタッピングねじを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、請求項1に記載の発明を、円柱形状胴部の一端に頭部を備え、他の一端に食い込み部を備えて、前記食い込み部から前記胴部にかけて雄螺子が螺旋状に形成されているタッピングねじであって、前記食い込み部は先端が頂角26度〜29度の範囲の円錐形状であり、前記食い込み部表面には対称形断面の雄螺子が3山以上設けられ、前記胴部には、進み側フランク角よりも小さい戻り側フランク角の非対称形断面の雄螺子が設けられ、前記食い込み部先端から前記胴部の一部が粘着材で被覆され、被締結部材への締結及び穴径の拡大する際に前記粘着材の表面が剥される構成とし、該剥がれた粘着材は、ねじの谷部と前記被締結部材との間に生じた隙間を埋めてなることを特徴とするタッピングねじとしたことにより、上記課題を解決した。
【0016】
また、請求項2の発明を、請求項1に記載のタッピングねじにおいて、前記対称形断面の雄螺子の断面角は60度以上であり、前記非対称形断面の雄螺子の断面角は40度以下であることを特徴とするタッピングねじとしたことにより、上記課題を解決した。
【0017】
請求項3の発明を、請求項2に記載のタッピングねじにおいて、前記非対称形断面の雄螺子の戻り側フランク角を10度以下とすることを特徴とするタッピングねじとしたことにより、上記課題を解決した。
【0018】
請求項4の発明を、請求項1,請求項2又は請求項3の何れか1項に記載のタッピングねじにおいて、前記タッピングねじが非締結物を突き抜ける部分及び、該突き抜ける部分に連なる領域の一部を、前記粘着材で被覆したことを特徴とするタッピングねじとしたことにより、上記課題を解決した。
【0019】
請求項5の発明を、請求項1,請求項2,請求項3又は請求項4の何れか1項に記載のタッピングねじにおいて、前記粘着材は乳化型アクリル樹脂粘着材であることを特徴とするタッピングねじとしたことにより、上記課題を解決した。
【0020】
請求項6の発明を、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項5の何れか1項に記載のタッピングねじにおいて、前記頭部に係合する座金を有することを特徴とするタッピングねじとしたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に記載のタッピングねじでは、前記食い込み部は先端が頂角26度〜29度の範囲の円錐形状であるため、被締結部材に押し付けても折れる虞が少ない。一方、押圧力が先端に集中するので、前記被締結部材の表面を局所的に凹形状とすることができる効果がある。
【0023】
また、円錐形状の前記食い込み部に雄螺子が3山以上設けられている。この構成により、前記食い込み部先端部から1山ごとに、前記雄螺子の螺旋径が徐々に大きくなっている。この構成により、本発明のタッピングねじが360度回転するたびに前記被締結部材の穴径が拡大していく。徐々に穴径が拡大していくので、該拡大に伴って発生するバーリングは大きくはなるものの、切断されて落下する虞が軽減される効果がある。
【0024】
また、前記胴部には非対称形断面の雄螺子が適宜山数設けられていて、戻り側フランク角が小さく構成されている。戻り側フランク角が小さいので、戻り圧力が分散されて、前記被締結部材への負担が軽いという効果がある。また、被締結部材への応力を分散することにより、該部材の変形を防止し、保持力を向上させる効果がある。
【0025】
さらに、請求項1に記載のタッピングねじでは、前記食い込み部先端から前記胴部にかけて、粘着材で被覆されている。前記雄螺子が雌螺子を切削形成するに際して、切り粉が発生した場合にも前記粘着材に吸着されるので、切り粉が落下する虞を更に軽減できる効果がある。更に、前記円錐形状の食い込み部が前記被締結部材の穴径を徐々に拡大するに際して、前記塗布された粘着材の表面が効率的に剥がされて、前記被締結部材の上部に溜まるので、前記被締結部材の穴と前記胴部に設けられた前記非対称形断面の雄螺子谷間との隙間を効率的に埋める効果がある。これにより、前記被締結部材の穴を、切り粉が通り抜けることを遮断し、下方への落下を防ぐ効果がある。
【0026】
請求項2に記載のタッピングねじでは、前記食い込み部に設けた雄螺子の進み側フランク角は60度以上と鈍い角なので、食い込みで生じたバーリングを切断する虞が少なく、このことにより、切断による大きなバーリング屑が発生する虞が少ない効果がある。
【0027】
請求項3に記載のタッピングねじでは、前記非対称形断面の雄螺子の戻り側フランク角を10度以下と小さく構成されている。これにより、戻り圧力が確実に分散されて、前記被締結部材への負担が軽いという効果がある。また、被締結部材への応力を分散することにより、該部材の変形を防止し、保持力を向上させる効果がある。
【0028】
請求項4に記載のタッピングねじでは、被締結部材を突き抜ける領域が前記粘着材で被覆されているので、発生した切り粉が確実に吸着される効果がある。また、前記タッピングねじの谷部と前記締結部材の穴の隙間が生じたとしても、前記粘着材がこれを塞ぐことにより、切り粉が被締結部材を突き抜けて落下することを防止する効果がある。
【0029】
請求項5に記載のタッピングねじでは、前記粘着材は乳化型アクリル樹脂粘着材であるため、環境負荷を減じる効果がある。
【0030】
請求項6に記載のタッピングねじでは、タッピングねじの頭部に係合する座金が防水シートに掛かる圧力を広く分散するので、前記防止シートに過大な負荷を掛ける虞が軽減される効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】(A)は締結された、本発明のタッピングねじの一例の正面図、(B)は同タッピングねじの食い込み部及び先端側胴部の拡大図である。
図2】(A)(B)は本発明のタッピングねじにおける、食い込み部から胴部にかけて形成されている対称形雄螺子と非対称形雄螺子の断面図、(C1)、(C2)、(C3)及び(C4)は遷移状態雄螺子の断面図である。
図3】(A)は本発明のタッピングねじに係る非対称形雄螺子の断面図、(B)は同タッピングねじに係る対称形雄螺子の断面図である。
図4】(A)は本発明に係るタッピングねじの第2実施形態の一部正面図、(B)は粘着材の塗布部分の一部であるδ領域の拡大断面図、(C)は同タッピングねじの、被締結部材を締結した様子の図、(D)は(C)の要部断面拡大図である。
図5】は本発明に係るタッピングねじの第3実施形態のタッピングねじであって、座金を装着したタッピングねじにて施工した正面図である。
図6】は一般的な雄螺子断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1(A)は、締結された本発明のタッピングねじの一例の正面図である。タッピングねじ1は、胴部3の一端に頭部2を備え、他の一端に食い込み部4を備えている。頭部2には締付時にドライバビットが契合する溝が設けられている。
【0033】
タッピングねじ1の雄螺子の山間隔は、1.5〜2.5ミリメートルである。該タッピングねじ1は、厚さ1.6ミリメートル以下の薄板を締結するねじである。締結するに際して、該薄板内部に形成される雌螺子は1谷以下である。従って締結後は、タッピングねじ1の食い込み部4は被締結部材7を突き抜けた状態で留まっている。
【0034】
被締結部材7とは、例えば、金属板、樹脂、木材などからなる部材であって、具体的には、デッキプレートや屋根板等である。また、頭部2は防水シート8の表面に接して留まっている。また、防水シート8と被締結部材7の間の空間は、断熱や防音を目的として、充填材9を充填させても良い。充填材9としては、例えば硬質ウレタンボードを用いることができる。
【0035】
タッピングねじ1で被締結部材7を締結するに当たっては、頭部2に契合させたドライバビットを介して、回転力と、被締結部材7の法線方向への押圧を加える。そうすると食い込み部4が、被締結部材7に雌螺子を切削形成する。被締結部材7の貫通後は、タッピングねじ1は、胴部3の領域で留まる。胴部3には非対称形雄螺子51が形成されていて、これが、同タッピングねじ1が抜けるのを防いでいる。これについては後に戻り圧と共に説明する。
【0036】
図1(B)に、本発明に係るタッピングねじ1の先端部分、すなわち、食い込み部4から胴部3にかけての部分を示す。先端部4には対称形雄螺子53が形成されていて、胴部3には非対称形雄螺子51が形成されている。
【0037】
また、対称形雄螺子53から非対称形雄螺子51への遷移の途上に、遷移状態雄螺子52が適宜形成されている。雄螺子5は螺旋上になっているが、例えば、360度回転する間に対称形雄螺子53から非対称形雄螺子51に遷移が完了するように構成すれば、遷移状態雄螺子52は1山、すなわち360度分形成されることとなる。遷移状態雄螺子52は360度の間に徐々に対称形雄螺子53から非対称形雄螺子51へ遷移していく。この例は後記する。
【0038】
また、180度の間に対称形雄螺子53から非対称形雄螺子51に遷移する場合は、遷移状態雄螺子52は180度分設けられることとなる。いずれの場合も、遷移状態雄螺子52は食い込み部4から胴部3にかけて形成される。
【0039】
図2は、本発明に係るタッピングねじ1の断面図を示す。図2(A)(B)は共に、タッピングねじ1の先端部の同一断面図を示している。特に、図2(A)は先端部の角度を示す図で、図2(B)は遷移状態雄螺子の断面図の位置を示す図である。図2(A)に示すように、食い込み部4の頂角はαである。αは26度〜29度の範囲である。従って、食い込み部4は先端の頂角が26度〜29度の範囲の円錐形状である。
【0040】
αを26度よりも小さくすると食い込み部4の円錐形が鋭角になりすぎて先端が折れやすくなる。一方、αを29度よりも大きくすると、被締結部材7に形成する雌螺子の径を急激に拡大してしまい、その結果バーリングに割れが入りやすくなる。バーリングが割れることにより、大きな切削屑が生じるおそれがあるという弊害を生じてしまう。
【0041】
図2(A)において、食い込み部4に形成された対称形雄螺子53の頂上部を包絡する円錐の頂角はβである。βは36度〜39度の範囲である。対称形雄螺子53は3〜4山程度形成されるが、先端から胴部3に向かって次第に径が大きくなる。前記包絡する円錐の頂角βは、この径が大きくなる割合を規定している。
【0042】
βが36度よりも小さいと、対称形雄螺子53の径の拡大率が小さすぎて、被締結部材7に貫通孔を開ける効率が悪くなる。逆に39度よりも大きいと、前記貫通孔が急激に広げられることとなる。これは、前記締結トルクが増大しすぎる課題を生じさせることに加えて、前記貫通孔形成の際に生じるバーリングが急激に大きくなることによって前記バーリングの割れを引き起こして、大きな切削屑を生じる虞が増大することとなる。
【0043】
食い込み部4の頂角αと、前記包絡円錐の頂角βが上記の好ましい範囲にある時は、食い込み部4は被締結部材7の表面を適切に切削する。そして、対称形雄螺子53の一山毎に、被締結部材7に形成される貫通孔は好ましい状態で拡張される。すなわち、前記貫通孔を拡張する際に被締結部材7に生じるバーリングに、これを切断するようなひび割れが生じることを防止する。
【0044】
また、対称形雄螺子53の進み側フランク角と戻り側フランク角は共に30度以上であって、該対称形雄螺子53の断面角は60度以上と、比較的鈍い角度である。したがって、対称形雄螺子53が前記バーリングを切断する可能性は低く抑えられている。以上から、大きな切削屑が生じる虞は少なく、仮に切り粉が生じても極小さい切り粉が少数発生するに過ぎない。
【0045】
図2(B)の破線領域γにおいて、軸Yの回りには、遷移状態雄螺子52がその角度形状を徐々に遷移させながら形成されている。図2(C1)(C2)(C3)(C4)はその断面例であって、90度毎の断面例を示した図である。
【0046】
図2(C1)は完全に対称形雄螺子53と同一の断面を有している。ここで、胴部3に連なるフランク面の成す角は戻り側フランク角で、食い込み部4に連なるフランク面の成す角は進み側フランク角である。これから90度分胴部3方向に進むと、断面は図2(C2)に示すものとなる。進み側フランク角(図面下方)は不変であるが、戻り側フランク角(図面上方)は先端部に鋭角が形成されている。これは非対称形雄螺子51の戻り側フランク角に等しい。しかし、前記戻り側フランク角の裾野は対称形雄螺子53の戻り側フランク角に等しい。
【0047】
図2(C3)から(C4)は、180度〜360度分胴部3方向に進んだときの雄螺子断面角である。すなわち、進み側フランク角は不変であるが、戻り側フランク角は裾野が縮小していく。そして、同図(C4)では被対称形雄螺子51の同一の断面形状となる。
【0048】
図3(A)は非対称形雄螺子51の断面図で、同図(B)は対称形雄螺子53の断面図を示す。非対称形雄螺子51は胴部3に形成されている。図3(B)において、対称形雄螺子53の頂点を通って、胴部の中心軸に直交する平面を直交面とする。該直交面と戻り側フランク面53bの成す角を戻り側フランク角θa2といい、該直交面と進み側フランク面53aの成す角を進み側フランク角θa1という。進み側フランク角θa1と戻り側フランク角θa2共に30度以上である。
【0049】
図3(A)において、非対称形雄螺子51の頂点を通って、胴部の中心軸に直交する平面を直交面とする。該直交面と戻り側フランク面51bの成す角を戻り側フランク角θb2といい、該直交面と進み側フランク面51aの成す角を進み側フランク角θb1という。進み側フランク角θb1は30度以上であるのに対して戻り側フランク角θb2は10度以下である。
【0050】
比較的薄板の締結に好適な、本発明に係るタッピングねじ1は、傾斜を持つ食い込み部4に、略対称形で鈍い角を持つ雄螺子53を有して、平行で円柱形状の胴部3には非対称形で鋭い角を持つ雄螺子51を有している。そして、食い込み部4に設けられた略対称形雄螺子53は主に、被締結部材7に雌螺子を切削形成する役割を担っている。一方、胴部3に設けられた非対称形雄螺子51は主に、被締結部材7からの戻り圧力に抗して締結を維持する、つまり、抜けることを防止する役割を担っている。
【0051】
鋭角の食い込み部4の先端で被締結部7の表面に小さな穴若しくは窪みをつけた後は、該食い込み部4の傾斜に設けられた略対称形雄螺子53で徐々に穴を拡大していく。このときにバーリングが生じるが、前記穴の拡大と共に徐々に成長していくので切断されて大きな切削屑となる虞が少ないという効果がある。また、略対称形雄螺子53の断面角度(進み側フランク角θa1+戻り側フランク角θa2)が60度以上であって比較的鈍い角度なので、前記バーリングを切断して大きな切削屑を発生させる虞が少ないという効果がある。
【0052】
食い込み部4が被締結部7を通り抜けた後は、胴部3に設けられた非対称形雄螺子51が、該被締結部材7に形成された雌螺子とかみ合う。締結作業完了後は非対称形雄螺子51の戻り側フランク面51bに戻り圧力がかかる。また、該戻り側フランク面51bから、被締結部材7に形成された雌螺子及び、該被締結部材7の面の内の、食い込み部4が突き抜けている側の面(図1(A)においては下側の面)に戻り圧力がかかる。戻り側フランク面51b、前記雌螺子と被締結部材7の面が、前記戻り圧力に抗しているので、タッピングねじ1と被締結部材7の締結が維持されている。
【0053】
ここで、戻り側フランク角θb2が10度以下と小さいので、戻り側フランク面51bはタッピングねじ1の軸Yに対して直交する面に近い面となる。これは、戻り側フランク面51bから前記雄螺子と前記被締結部材7の面へかかる、戻り圧力が軸Y近傍に集中せずに分散する効果がある。これによって、前記雄螺子と前記被締結部材7の面への負担が軽減され、薄板状の被締結部材7に歪みや疲労が生じないという効果がある。また、被締結部材7への応力を分散することにより、該部材の変形を防止し、保持力を向上させる効果がある。
【0054】
本発明のタッピングねじ1の実施形態では、対称形雄螺子53と非対称形雄螺子51の間には遷移状態雄螺子52が介在して徐々に形状が遷移した。しかし、これに限るものではなく、例えば、対称形雄螺子53の山の高さが徐々に低くなって、これに伴って、低い高さに形成された非対称形雄螺子51の山の高さが徐々に高くなって、胴部3においては所定の高さに達した非対称形雄螺子51としても良い。
【0055】
以上説明したように、本発明に係るタッピングねじ1は、被締結部材7に予め下穴を開けなくても、小さい凹部を形成する。次いで、断面角度60度以上の、対称形雄螺子53によって徐々に穴が拡大される。前記断面角は60度以上と比較的鈍い角度なので、前記穴の拡大に伴って生じるバーリングは切断される虞もない。これにより、大きな切削屑の発生を防ぐ効果がある。
【0056】
締結動作によって、本発明のタッピングねじ1の胴部3が、被締結部材7に達すると、非対称形断面の雄螺子51の戻り側フランク角θb2が10度以下であるフランク面が、戻り圧を分散させながら締結を維持する。これにより、被締結部材7の疲労劣化が軽減される効果がある。また、被締結部材への応力を分散することにより、該部材の変形を防止し、保持力を向上させる効果がある。
【0057】
図4(A)は本発明のタッピングねじの第2実施形態を示す。本発明の第2実施形態に係るタッピングねじは、第1実施形態に係るタッピングねじ1の食い込み部4と胴部3に粘着材6を塗布したものである。塗布する部分は、食い込み部4の全領域と、胴部3の全領域若しくは、食い込み部4に連なる部分の一部である。
【0058】
タッピングねじ1において、被締結部7を突き抜ける領域の全域に塗布されていて、更に、該領域に連なる領域が1cm態度の幅に塗布されていれば良い(図4(C))。このように1cm程度余分に塗布しておくと、充填材9の厚さの差異により、被締結部材7を突き抜ける胴部3の領域が長くなったとしても、粘着材6を塗布していない領域が突き抜ける虞が無くなる。これにより、確実に切り粉の落下を防ぐことができる。要するに、被締結部材7を突き抜けると想定する長さよりも更に1cm程度長く、粘着材9を塗布すればよい。
【0059】
このように、食い込み部4から胴部3にかけて粘着材6が塗布されていると、雌螺子切削形成時に切り粉が発生しても粘着材6に遮断され又一部は吸着されるので、落下を防ぐことができる。また、前述のように、食い込み部4に設けた対称形雄螺子53の効果により大きな切り屑は発生し難いので、粘着材6に吸着できないほど大きな切り屑が発生する虞が少ない。
【0060】
図4(B)は本発明の第2実施形態の例であるタッピングねじ1の、粘着材6の塗布領域の断面図である。粘着材6は雄螺子の頂の部分は比較的薄く、谷の部分は厚く塗られている。このようにすると、該谷部に切り粉を多く吸着する空間を確保することができ、切り粉落下の虞を更に軽減できる効果がある。
【0061】
図4(C)は本発明の第2実施形態の例であるタッピングねじ1の、被締結部材7を締結した例である。そして、同図(D)は被締結部材7の断面拡大図である。同図に示すように、タッピングねじ1に塗布された粘着剤6は、締結によって剥がれた粘着材6が、該タッピングねじの谷部と被締結部材7に隙間が生じた隙間を埋める効果がある。
【0062】
本発明の第2実施形態においては、円錐形状の食い込み部4から、円柱形状の胴部3にかけて塗布された粘着材は次の効果も生じる。食い込み部4の円錐形状が被締結部材7の穴径を徐々に拡大する際に、前記塗布された粘着剤6の表面が効率的に剥がされて、前記被締結部材7の上部に溜まる。これが、前記被締結部材7の穴と前記胴部3に設けられた雄螺子51谷間との隙間を効率的に埋める効果がある。
【0063】
粘着材6として、溶剤型粘着材であれば、ゴム系、アクリル系、シリコーン系がある。乳化型粘着材としてはアクリル系がある。ホットメルト型粘着材としては、SIS系がある。液状硬化型粘着材としてはアクリル系がある。
【0064】
環境負荷が少なく、低コストであるという面では、乳化型のアクリル系粘着材が好ましい。乳化型アクリル樹脂粘着剤は、タッピングねじに塗布することができる。塗布はディッピングによるものでも良い。塗布後は乾燥することで表面の粘着度は落ちる。しかし、締結作用で圧力が加わると切り粉を吸着することができる。また、粘着材6として、タックNエース(株式会社南部製作所の製品名)を適用しても良い。
【0065】
図5は本発明のタッピングねじ1の第3実施形態を示す図であって、本発明に係るタッピングねじに座金10を装着した場合の正面図である。座金10を装着すると、締結による圧力が防水シート8の一部に集中することを防止できる効果がある。
【符号の説明】
【0066】
1…タッピングねじ、Y…タッピングねじ1の軸、2…頭部、3…胴部、
4…食い込み部、α…食い込み部頂角、β…食い込み部雄螺子包絡線の頂角、
5…雄螺子、51…非対称形雄螺子、51a…非対称形雄螺子の進み側フランク面、
51b…非対称形雄螺子の戻り側フランク面、52…遷移状態雄螺子、
53…対称形雄螺子、53a…対称形雄螺子の進み側フランク面、
53b…対称形雄螺子の戻り側フランク面、6…粘着材、7…被締結部材、
8…防水シート、9…充填材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6