【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は、本発明の請求項1によって解決される。請求項1は、ヒト又は動物から採取した消化管(GI管)試料中の蛋白の濃度を測定する方法であって、
a)前記試料を収集するステップと、
b)ステップa)の試料を、所定の量の緩衝化水性抽出媒体と混合するステップと、
c)ステップb)の混合物を均質化するステップと、
d)ステップc)で得られた混合物を用いて免疫アッセイを行うステップと、
e)前記タンパク質の濃度を測定するステップと
を含んでいる方法に関する。
【0014】
請求項1によれば、上記目的は、ステップb)において、前記緩衝化水性抽出媒体中にて前記試料の1:100〜1:10,000の範囲の希釈が得られるという特徴によって解決される。
【0015】
本出願全体を通じて、緩衝化水性抽出媒体中の試料の希釈率は、別段の指示のない限り、それぞれ試料の重量及び緩衝化水性抽出媒体の体積に関連する。
【0016】
この解決手段は、以下の理由により、本出願の出願日前における当業者の予想に反している。
【0017】
Ton(oはストローク付) et al.は、試料と緩衝化水性抽出媒体との比(1:20,1:50,1:80)を複数試験している。彼らは、希釈率が高ければ抽出された蛋白の収率が増加するという傾向を見出したものの、それらの結果の間に有意な差はなかった。糞便と抽出緩衝液との比が1:20及び1:50の際には、カルプロテクチン収率における相関は強かったが、それらの2つのデータセット間の一致率は乏しかった。すなわち、これらの結果は、1:50の希釈において比較的高かったが、有意に高いものではなかった。糞便と抽出緩衝液との比が1:50及び1:80の際には、それらの2つのデータセット間の相関も強く、それらの2つのデータセット間の一致率は良好であった。したがって、Ton(oはストローク付) et al.は、希釈比を1:50以上に増加させても抽出収率に有意な影響はないと結論付けている。
【0018】
驚くべきことに、本発明者らは、抽出の間における緩衝化水性抽出媒体中の試料の1:100〜1:10,000の範囲の希釈により、GI管試料から抽出された蛋白の収率がさらに高くなることを示した。このことは、高い蛋白濃度を含有する試料にとって好ましい。従来技術に記載されているような1:50の希釈は、上記目的の解決には十分でない。
【0019】
加えて、1:100〜1:10,000の範囲の希釈によって得られる結果は、より正確であると共に、信頼性及び再現性もある。これによって、より正確な疾患の診断が可能になる。さらに、GI管試料中の蛋白濃度の任意の変化を非常に容易に検出でき、それによって疾患の進行をよりよく監視することができるようになる。また、処置及び/又は治療手順の有効性をよりよく評価及び追跡することができると共に、適切な調整をより迅速に行うことができる。
【0020】
さらに、本発明者らは、驚くべきことに、1:100〜1:10,000の範囲の希釈にて試料及び緩衝化水性抽出媒体を含む混合物が、遥かに高い安定性を示すことを見出した。すなわち、GI管試料から緩衝化水性抽出媒体中に抽出された蛋白(これにより1:100〜1:10,000の範囲の希釈が得られる)は、2〜42℃、好ましくは2〜28℃の温度範囲において少なくとも1日、最大で28日の期間において、従来技術に記載されたような最大で1:80の希釈を伴う緩衝化水性抽出媒体よりも遥かに分解が少ない又は全く分解されないことを見出した。
【0021】
本発明の方法は、GI管試料に適用される。GI管試料は、GI管の任意の部位より採取されてもよい。しかしながら、糞便は非侵襲的手順によって容易に入手できるため、好ましい。
【0022】
GI管試料は、水様性の又は緩いGI管試料であってもよく、非水様性の又は堅いGI管試料であり得る。
【0023】
本発明の方法の利点は、水様性の又は緩いGI管試料にも適用可能であることである。
【0024】
そのような試料では、含水量は様々であり、高いこともあり、極めて高いことさえもある。希釈効果のために、このような水様性のGI管試料中の蛋白濃度は低くなることがある。
【0025】
それにもかかわらず、本発明者らは、驚くべきことに、本発明の方法が、従来技術の方法とは異なり、水様性の又は緩いGI管試料において正確かつ信頼性のある結果をもたらすことを見出した。
【0026】
さらに、本発明の方法は、そのような水様性のGI管試料に対してさえも容易に適用可能である。これに対し、従来技術で利用可能な方法は、緩い試料を乾燥させた後に乾燥糞便中の蛋白濃度を測定する複数の複雑なステップを用いていた。
【0027】
Kampanis et al.の乾式抽出法(Ann. Clin. Biochem. 46 (2009) 33-37)は、ヒト糞便中のエラスターゼ1の測定に関して言及され得る。記載された方法は、(例えば、ScheBo Biotech E1 Quick-Prep(商標)チューブ、希釈比1:70を用いての)従来の湿式抽出法と比較した場合、試料の調製するのにより時間がかかるため不利である。したがって、実際には、その使用は、緩い湿った試料に限られていた。湿った糞便試料又は緩い糞便試料は、乾燥させた後に秤量して、最後に抽出溶液で希釈する必要がある。これは非常に重労働であるうえ、あまり衛生的ではない。このアプローチのもう1つの欠点は、2つの抽出方法の間の基準濃度の違いであり、使用者が間違った基準濃度を適用するおそれがある。このことは、誤診や間違った治療決定につながることがある。
【0028】
本願発明の方法は正確かつ信頼性のある結果をもたらすため、追加の不要な調査、リソースの不適切な使用及び患者管理が回避される。非常に高い含水量にもかかわらず、そのような試料は分析に適しており、したがって、生化学的診断及び適切な治療の開始の遅れが回避される。GI管試料は、ヒト又は動物由来、好ましくはヒト由来であり得る。該動物は、好ましくは、犬、猫、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ラット又はマウスであり、これらの動物は、ヒトと同様の糞便蛋白の量の増加を伴い得る症状を発症することがある。
【0029】
GI管試料は、侵襲的方法(例えば、手術や生体組織検査)の間に収集されてもよく、排泄物から収集されてもよい。
【0030】
本発明の方法では、ステップa)による収集は、特別な定量投与先端(quantitative dosing tip)、白金耳、小型スプーン、シリンジ又はピペット(先端)を用いて行われてもよい。このことには、使い捨て用具を使用することができるため、検査員の健康リスクが比較的低いという利点がある。加えて、環境や作業者が汚染されることがほとんどない。さらに、試料が相互汚染されるおそれは極めて低い。
【0031】
GI管試料が非水様性のGI管試料である場合、ステップa)は、収集用具を試料の種々の位置に導入することにより行われてもよい。そのような採取の利点は、蛋白濃度の任意の局所的な差異が排除されることにある。
【0032】
GI管試料が水様性のGI管試料である場合、ステップa)は、好ましくは、定量シリンジを用いて又は定量的ピペッティングにより行われてもよい。
【0033】
本発明の方法のステップa)で収集される試料の量は、GI管試料が非水様性のGI管試料である場合には、好ましくは1〜1,000mgの範囲、より好ましくは2〜100mgの範囲、さらに好ましくは4〜20mgの範囲であり、最も好ましくは8〜12mgの範囲内である。
【0034】
本発明の方法のステップa)で収集される試料の量は、GI管試料が水様性のGI管試料である場合には、好ましくは1〜1,000μlの範囲、より好ましくは2〜100μlの範囲、さらに好ましくは4〜20μlの範囲であり、最も好ましくは8〜12μlの範囲内である。
【0035】
このような小さな試料サイズの糞便を使用することは、どの患者からでも、たとえ子供、高齢者又は虚弱な患者からであっても、そのような糞便を容易に取得できるという利点を有する。このような少量の糞便は、試料の凍結が要求される場合であっても、容易に貯蔵され得る。
【0036】
本発明の方法のステップb)において、ステップa)の試料は、所定の量の緩衝化水性抽出媒体と混合され、好ましくは直接混合される。この文脈の用語「直接」は、ステップa)とb)の間に、試料を用いた追加の処理ステップ、例えば、予備希釈、乾燥、抽出、洗浄又は熱処理などを行わないことを意味する。
【0037】
緩衝化水性抽出媒体の緩衝物質は、リン酸塩、マレイン酸塩、クロロ酢酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、ピリジン、ピペラジン、プロピオン酸塩、3−N−モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、1,3−ビス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノプロパン(Bis−TRIS)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンマレイン酸(TRISマレイン酸)、2−(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)エタンスルホン酸(TES)、1,4−ピペラジン−ビスエタンスルホン酸(PIPES)、4−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)及び当業者に知られた他のものから選択され得る。前記緩衝物質の任意の混合物もまた、本発明の方法のステップb)において使用することができる。緩衝化水性抽出媒体は、塩、抗菌剤、洗浄剤、キレート剤、カオトロピック剤及び/又は消泡剤を含有していてもよい。原理的には、本発明には任意の緩衝化水性抽出媒体が適切に機能し得る。
【0038】
緩衝化水性抽出媒体の量は、緩衝化水性抽出媒体中にて1:100〜1:10,000の範囲の試料の希釈が得られるように選択され得る。好ましくは、希釈は1:100〜1:2,000の範囲であり、より好ましくは、希釈は1:200〜1:1,000の範囲であり、さらに好ましくは、希釈は1:450〜1:550であり、最も好ましくは、希釈は1:500である。緩衝化水性抽出媒体中にて1:100〜1:10,000の範囲の希釈は、好ましくは1ステップで得られる。
【0039】
緩衝化水性抽出媒体中の緩衝物質の濃度は、0.1mM〜2M、好ましくは10mM〜0.2M、最も好ましくは20〜50mMの濃度から選択され得る。
【0040】
さらに、本発明の方法のステップb)に係る混合のpHは、ステップb)において使用され得る緩衝化水性抽出媒体に依存し、pH3〜pH12の範囲から、好ましくはpH5〜pH9の範囲から、最も好ましくはpH7.5から選択され得る。
【0041】
本発明の方法のステップb)に係る混合は、2℃〜45℃の温度範囲、好ましくは10℃〜35℃の温度範囲、より好ましくは18℃〜28℃の温度範囲、最も好ましくは23℃の温度で行われ得る。
【0042】
本発明の方法のステップc)に係る均質化は、好ましくは密閉容器内で行われ得る。
【0043】
本発明の方法のステップc)に係る均質化は、手振り、ボルテックスミキサー若しくは転倒型ミキサー(回転ミキサー)の使用、シリンジ及びピペットをそれぞれ用いたせん断力の印加、又は超音波の印加により行われ得る。
【0044】
ステップc)に係る均質化が、手振り、シリンジ及びピペットをそれぞれ用いたせん断力の印加、又は超音波の印加により行われる場合には、その期間は少なくとも5秒間、好ましくは5〜600秒の範囲、より好ましくは10〜60秒の範囲である。
【0045】
ステップc)に係る均質化がボルテックスミキサーの使用により行われる場合には、その期間は少なくとも5秒間、好ましくは5〜300秒間の範囲、より好ましくは10〜60秒間の範囲であり得る。ボルテックスミキサーの速度は100〜10,000rpmの範囲から選択されることができ、好ましくは、その速度は利用可能な最大値であり得る。
【0046】
ステップc)に係る均質化が転倒型ミキサー(回転ミキサー)の使用により行われる場合には、その期間は少なくとも5分、好ましくは5分〜24時間の範囲、より好ましくは10〜180分の範囲、さらに好ましくは15〜60分の範囲であり得る。回転ミキサーの速度は10〜1,000rpmの範囲から選択されることができ、好ましくは、その速度は利用可能な最大値であり得る。
【0047】
均質化ステップc)は、混合物が静置される期間を含んでいてもよい。加えて、これにより混合物中に未だ存在している固体成分を沈降させてもよい。好ましくは、その時間は5分〜24時間の範囲、より好ましくは10〜60分の範囲から選択される。
【0048】
均質化ステップc)は、収集用具(例えば、採取ピンの投与先端(dosing tip))から非水様性のGI管試料物質を完全に除去するために、数回繰り返してもよく、好ましくは2回繰り返してもよい。
【0049】
好ましくは、均質化ステップc)は直接行い、ステップb)の混合物を用いた追加の処理ステップは行わない。
【0050】
さらに、完全な抽出プロセス(すなわち、本発明の方法に係るステップb)及びc))は、1:100〜1:10,000の範囲の希釈にて実施することが好ましい。技術水準に係る方法では、まず、緩衝化水性抽出媒体中の試料の最大で1:80の希釈にて抽出を行い、続いて、均質化ステップの後に、さらに希釈を行う。
【0051】
本発明の方法のステップd)では、ステップc)で得られた混合物を使用し、好ましくは直接使用して、免疫アッセイを行う。この文脈の用語「直接」は、ステップc)とd)の間に、試料を用いた追加の処理ステップ、例えば、遠心分離、抽出、さらなる均質化又は濾過などを行わないことを意味する。このことは、従来技術で知られた方法よりも時間及びリソースの消費が少ないため、有利である。従来技術の方法では、当業者は、均質化した試料に遠心分離ステップを適用しなければならない。また、その上清を分離し、アッセイ緩衝液でさらに希釈した後、さらなる分析に使用する必要がある。
【0052】
ステップd)において行われる免疫アッセイは、GI管試料中にて測定される蛋白に依存する。
【0053】
蛋白は、ラクトフェリン、エラスターゼ(例えば、PMNエラスターゼ、エラスターゼ1、エラスターゼ2A、エラスターゼ2B、エラスターゼ3A、エラスターゼ3B)、M2ピルビン酸キナーゼ、ヘモグロビン、ハプトグロビン、ヘモグロビン/ハプトグロビン複合体、キモトリプシン、リゾチーム、アルブミン、プレアルブミン、β−デフェンシン2、α−1−アンチトリプシン、α−2−マクログロブリン、炭酸脱水酵素I、炭酸脱水酵素II、ミエロペルオキシダーゼ、好酸球由来ニューロトキシン、好酸球ペルオキシダーゼ、主要塩基性蛋白1、シャルコー・ライデン結晶蛋白(CLC/GAL10)、好酸球蛋白X、C反応性蛋白、免疫グロブリン、分泌型IgA、抗組織トランスグルタミナーゼ抗体、抗グリアジン抗体、抗脱アミドグリアジン抗体、インターロイキン(インターロイキン1、インターロイキン6、インターロイキン8など)、腫瘍壊死因子α、病原体の抗原、病原体の抗体、抗H.ピロリ抗体、S100蛋白、カルグラニュリンC(S100A12、EN−RAGE)、カルグラニュリンB(S100A8、MIF関連蛋白8)、カルグラニュリンC(S100A9、MIF関連蛋白14)及びカルプロテクチン(カルグラニュリンA/B、S100A8/A9、MIF関連蛋白8/14)を含む群から選択される。
【0054】
しかしながら、カルプロテクチン、エラスターゼ又はヘモグロビンが特に好ましい。
【0055】
糞便カルプロテクチンは、GI管中の炎症性疾患及び腫瘍性疾患のマーカーである。結腸直腸癌、炎症性腸疾患(クローン病及び潰瘍性大腸炎)、虫垂炎及びGI管の細菌性感染症の患者では、糞便中のカルプロテクチン濃度の上昇が測定されている。糞便カルプロテクチンは、炎症性腸疾患(IBD、通常はカルプロテクチン濃度が高い)と過敏性腸症候群(IBS、通常はカルプロテクチンレベルが低い又は存在しない)を区別するためにも使用される。
【0056】
エラスターゼの濃度低下は、膵外分泌機能不全の診断のためのマーカーとして用いられている。同様に、真性糖尿病、嚢胞性線維症及び慢性膵炎における膵外分泌機能の監視にも使用される。
【0057】
糞便ヘモグロビン(いわゆる便潜血)のレベルの上昇は、結腸直腸癌と関連している。したがって、このマーカーは、結腸直腸癌スクリーニングに広く使用されている。
【0058】
したがって、糞便蛋白の正確な測定は、上記疾患、特に炎症性腸疾患(クローン病及び潰瘍性大腸炎)及び結腸直腸癌の正しい診断及び正確な監視にとって必須である。
【0059】
従来技術では、上述の蛋白の測定のために、免疫アッセイが利用可能である。当業者は、どのアッセイを選択するかを既に知っている。
【0060】
好ましくは、免疫アッセイは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫濁度アッセイ、免疫クロマトグラフィー(ラテラルフロー)アッセイ及びフローサイトメトリーアッセイを含む群から選択される。
【0061】
本発明の方法のステップe)では、蛋白の濃度が測定される。
【0062】
本発明の方法のステップe)における濃度の測定は、反射測定法、吸光度、蛍光、化学発光、電気化学発光、UV/VIS分光法、電流測定法、磁気測定法、ボルタンメトリー、電位差測定法、導電率測定法、電量測定法、ポーラログラフィー及び電解重量測定法を含む群から選択される。
【0063】
別の実施形態では、本発明の方法のステップe)における測定は、視覚的に行われる。そのような測定は容易であり、さらなる装置を用いずに実施され得る。
【0064】
非水様性のGI管試料の場合には、蛋白濃度は、前記試料に対して1ng/g〜100mg/gの範囲、好ましくは、試料に対して10μg/g〜10mg/gの範囲である。
【0065】
水様性のGI管試料の場合には、蛋白濃度は、試料に対して1ng/ml〜100mg/mlの範囲、好ましくは、試料に対して10μg/ml〜10mg/mlの濃度である。
【0066】
好ましい実施形態では、飼料中の蛋白濃度は、非水様性のGI管試料の場合には、試料に対して300μg/gより高く、水様性のGI管試料の場合には、試料に対して300μg/mlより高い。本発明者らは、驚くべきことに、このような多量の蛋白を用いると、本発明の方法は、従来技術の方法よりも正確かつ信頼性のある結果を提供することを見出した。
【0067】
この蛋白は、GI管試料の基質(例えば、糞便。Ton(oはストローク付) et al., Clinica Chimica Acta 292(2000)41-54参照)内に存在する際には、概して優れた安定性を示す。しかしながら、緩衝化水性抽出媒体を用いてGI管試料の基質(例えば、糞便)から溶液又は懸濁液内へと蛋白を抽出する際には、蛋白は、緩衝化水性抽出媒体の構成、貯蔵温度、貯蔵時間等の保存条件に応じて低下した安定性を示し得る。試料抽出物(=抽出された蛋白)の安定性は、糞便試料を異なる場所(例えば、患者の家庭)にて緩衝化水性抽出媒体が予め充填された容器内へと収集した後、実験室へと送る場合、特に輸送時に環境温度で数日かかる際には、特に重大事項である。
【0068】
安定性の基準は、蛋白の分解量と関連する。
【0069】
蛋白(例えば、カルプロテクチン)の分解は、本発明の文脈では、ステップc)で得られた混合物中の前記蛋白の回収率によって定義される。回収率は、以下の等式によって計算され得る。
回収率=t
1にてT
1で抽出された蛋白の濃度/t
0にてT
0で抽出された蛋白の濃度×100%
【0070】
溶液又は懸濁液中の抽出された蛋白の濃度は、従来技術で公知の方法又は本発明の方法に従って測定され得る(以下の実施例1及び2参照)。
【0071】
最初に、前記蛋白の濃度を、時刻0(t
0)にて温度T
0で測定する。すなわち、本発明の方法に係るそれぞれの抽出の後、即座に糞便抽出物を計測する。用語「即座に」とは、本発明の方法のステップb)及びc)の後5〜120分の時間内に濃度の測定を行うことを意味する。好ましくは、温度T
0は環境温度、すなわち20〜25℃である。
【0072】
次に、糞便抽出物を、所定の温度T
1で所定の時間t
1(例えば、28℃で1日)インキュベートする。前記時間t
1の後に、前記蛋白の濃度を再度測定する。
【0073】
驚くべきことに、1:50の抽出希釈と比較して1:100〜1:10,000の範囲の抽出希釈を用いて、緩衝化水性抽出媒体を備えたGI管試料から蛋白を抽出し、その後所定の温度で所定の時間貯蔵する場合には、蛋白はより一層安定となり、特に高温にてより一層安定となることが、本発明者らによって見出された。
【0074】
好ましい実施形態では、1:50の抽出希釈と比較して1:100〜1:10,000の範囲、好ましくは1:500の抽出希釈が使用される場合には、緩衝化水性抽出媒体中の蛋白は、2〜42℃、より好ましくは2〜28℃の温度範囲で1〜28日間安定である。
【0075】
例えばカルプロテクチンは、1:500の希釈率を用いて緩衝化水性抽出媒体を備えたGI管試料から抽出した場合、2〜8℃の範囲の温度において完全に安定であり、同様に28℃で6日間まで完全に安定であった。1:500の抽出希釈では分解は見られず、すなわち、回収率は100%以上であった(実施例10参照)。
【0076】
安定係数SCは、以下の等式により計算され得る:
SC=(希釈1:X中t
1にてT
1で抽出された蛋白の回収率)/(希釈1:50中t1にてT
1で抽出された蛋白の回収率)
ここで、Xは100〜10,000の範囲の値であり、t
1及びT
1は上述の定義と同様である。
【0077】
上記安定係数は、少なくとも1.001、好ましくは1.001〜15の範囲、好ましくは1.001〜8の範囲、より好ましくは1.001〜5の範囲、さらに好ましくは1.001〜2の範囲、最も好ましくは1.001〜1.7の範囲であり得る。