特許第6467448号(P6467448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6467448
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】熱交換カテーテル装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/44 20060101AFI20190204BHJP
   A61F 7/12 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   A61M5/44 500
   A61F7/12 Z
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-44735(P2017-44735)
(22)【出願日】2017年3月9日
(62)【分割の表示】特願2014-533409(P2014-533409)の分割
【原出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2017-100029(P2017-100029A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2017年4月10日
(31)【優先権主張番号】61/542,024
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510034982
【氏名又は名称】ゾール サーキュレイション インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ZOLL Circulation,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】デイブロワイアック、ジェレミー トーマス
【審査官】 胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2002/0116039(US,A1)
【文献】 特開2000−279852(JP,A)
【文献】 米国特許第06589271(US,B1)
【文献】 特表2002−518137(JP,A)
【文献】 特表2010−535596(JP,A)
【文献】 国際公開第99/052455(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0010273(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/44
A61F 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換カテーテル装置であって、
流入管腔、流出管腔および熱交換領域を有する長尺状シャフトであって、前記熱交換領域が管状導管を備え、前記管状導管の一端が前記流入管腔に接続されるとともに、該管状導管の他端が前記流出管腔に接続されている、長尺状シャフトと、
第1の直径または断面寸法の複数のループまたは渦巻きを有する、前記管状導管の第1セグメントであって、流体供給流路を形成し、該流体供給流路を通って熱交換流体が前記流入管腔に接続されている前記管状導管の端部から先端方向に流れる、第1セグメントと、
第2の直径または断面寸法の複数のループまたは渦巻きを有する、前記管状導管の第2セグメントであって、流体帰還流路を形成し、該流体帰還流路を通って熱交換流体が前記流出管腔に接続されている前記管状導管の端部まで基端方向に帰還する、第2セグメントと、
を備えており、
前記複数のループまたは渦巻きの前記第1の直径または断面寸法および前記複数のループまたは渦巻きの第2の直径または断面寸法の一方が、前記複数のループまたは渦巻きの前記第1の直径または断面寸法および前記複数のループまたは渦巻きの第2の直径または断面寸法の他方よりも大きい、
熱交換カテーテル装置。
【請求項2】
前記流体供給流路が、前記流体帰還流路の複数のループまたは渦巻きと重なり合うか交差する複数のループまたは渦巻きを有している、請求項1に記載の熱交換カテーテル装置。
【請求項3】
前記流体供給流路の長さが、前記流体帰還流路の長さと異なっている、請求項1又は2に記載の熱交換カテーテル装置。
【請求項4】
前記管状導管の第1および第2セグメントが、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエーテルブロックアミドから選択された1つ以上の材料から形成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の熱交換カテーテル装置。
【請求項5】
前記管状導管が、0.0254mm(0.001インチ)未満の壁厚、または前記熱交換流体が循環するときに689KPa(100psi)までの圧力に耐えるのに十分な別の厚さを有している、請求項1から4のいずれか一項に記載の熱交換カテーテル装置。
【請求項6】
前記管状導管が、前記長尺状シャフトの先端部分の間隔をおいた位置に通されるか通過させられている、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱交換カテーテル装置。
【請求項7】
前記熱交換カテーテル装置を通って長手方向に延び、かつ、先端側ポートにおいて先端側が終了する貫通管腔をさらに備えている、請求項1から6のいずれか一項に記載の熱交換カテーテル装置。
【請求項8】
前記貫通管腔が、前記熱交換カテーテル装置のガイドワイヤ上における挿入を容易にするためのガイドワイヤ管腔として使用可能である、請求項7に記載の熱交換カテーテル装置。
【請求項9】
前記貫通管腔が、治療物質または装置の送達を容易にするための送達管腔として使用可能である、請求項7に記載の熱交換カテーテル装置。
【請求項10】
前記流体供給流路に形成された複数のループまたは渦巻きが、前記流体帰還流路に形成された複数のループまたは渦巻きと同軸ではない、請求項1から9のいずれか一項に記載の熱交換カテーテル装置。
【請求項11】
前記流体供給流路に形成された複数のループまたは渦巻きが、前記流体帰還流路に形成された複数のループまたは渦巻きと同軸である、請求項1から9のいずれか一項に記載の熱交換カテーテル装置。
【請求項12】
前記流体供給流路を通り、前記流体帰還流路を通り、前記流出管腔から出て、前記流入管腔加熱または冷却された熱交換流体を循環させるための装置と組み合わせる請求項1から11のいずれか一項に記載の熱交換カテーテル装置を備えている、システム。
【請求項13】
対象者の体温を感知するための温度センサーをさらに備えている、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記温度センサーが制御装置に接続されており、前記制御装置が、前記温度センサーから受け取った前記感知した対象者の体温の表示に応答して、前記熱交換流体の温度または流量を調節するようにプログラムされている、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
ユーザーインタフェースをさらに備えており、該ユーザーインタフェースによってユーザーが目標体温を前記制御装置に入力できる、請求項14に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学および生物医学工学に関し、より具体的には、熱交換カテーテル装置並びにそれらの製造法および使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許法施行規則(37CFR)第1.71条(e)項に準じて、この特許文書は、著作権保護を受ける内容を含む。版権所有者は、それが特許商標庁の包袋または記録に掲載されている通りに、特許文書または特許情報開示全体の複写に異議はないが、他の場合には如何なる著作権の権利もすべて留保する。
【0003】
低体温は、虚血、酸素欠乏、または中毒による損傷(toxic insult)の作用から様々な器官および組織(例えば、毛髪、脳、腎臓)を保護する目的で、ヒトおよび一部の動物において誘発され得る。例えば、動物研究および/または臨床試験により、軽度の低体温は、虚血性心イベント(例えば、心筋梗塞(myocardial infract)、急性冠動脈症候群など)、心肺蘇生術後の無酸素後昏睡(postanoxic coma)、外傷性脳損傷、卒中、クモ膜下出血、熱および神経学的損傷に罹患している動物またはヒトにおいて、神経保護作用および/または心臓保護作用を有し得ることが示唆されている。また、研究により、全身低体温が血管造影術処置を受ける腎機能障害の既往がある患者の腎臓に対するX線造影剤の毒性作用(例えば造影剤ネフロパシー)を改善し得ることが示されている。
【0004】
低体温を誘発する1つの方法は、血管内に熱交換カテーテルを挿入し、血管内に挿入したカテーテルの一部に配置された熱交換器を介して熱交換流体を循環させる血管内温度管理(endovascular temperature management:ETM)によるものである。熱交換流体は、カテーテルの熱交換器を介して循環するにつれ、血管内において熱交換器を通過して流れる血液と熱を交換する。そのような技術は、対象者の血流を冷却することによって、対象者の深部体温を所望の目標温度に低下させるために用いられ得る。またETMは、監視している体温を選択した温度で維持するために、身体を暖めたり、かつ/または、体温を制御したりすることもできる。選択した目標温度からの再加温または再冷却の制御された速度が所望される場合には、それは身体に加えられる熱量または身体から除去される熱量を慎重に制御し、それにより患者の温度変化を制御することによって行うこともできる。
【0005】
すべてではないが、ほとんどの市販の熱交換カテーテルでは、熱交換流体流はカテーテルシャフトの流入管腔を通って流れ、次にカテーテルの熱交換器の一端に進入し、次いで熱交換器を通って流れ、次に前記熱交換器からカテーテルシャフト内に位置する流出管腔へと退出する。一般に、熱交換流体がカテーテルの熱交換器を通って、前記熱交換器が配置されている血管を通って血液が流れている方向と反対の方向に流れる場合に、より大きな熱交換効率が得られる。したがって、使用されるカテーテルのタイプおよび/またはカテーテルのどのポートが流入および流出に用いられるべきかの選択は、それぞれ、意図したカテーテルの進入部位および配置によって決定される場合もある。例えば、いくつかの場合には、熱交換カテーテルは大腿静脈に挿入され、その熱交換器は対象者の大静脈内に位置する位置に進められる。そのような場合、通常は大静脈を通って流れる血液は、熱交換器の基端部から先端部に向かって進行する。したがって、それらの場合には、概して、熱交換流体は、カテーテルの熱交換器にその先端部において進入し、前記熱交換器の基端部に向かって後ろに(すなわち、血流の方向と反対に)流れることが望ましい。しかしながら、熱交換器カテーテルが大腿動脈に挿入され、前記熱交換器が下行大動脈内に位置する位置に進められる場合には、通常は下行大動脈を通って流れる血液は、熱交換器の先端部から熱交換器の基端部に向かって進行する。したがって、それらの場合には、概して、熱交換流体はカテーテルの熱交換器にその基端部において進入し、前記熱交換器の先端部に向かって先端方向に(すなわち、血流の方向とは反対に)流れることが望ましい。
【0006】
また、熱交換流体がカテーテルの熱交換器を通って単一方向のみに流れる熱交換カテーテルでは、前記熱交換流体は、典型的には、カテーテルの内部管腔を通って熱交換器の一方の端部または他方の端部へ流される(shunted)。しかしながら、その内部管腔を進んでいる間、熱交換流体は、たとえあったとしても最小限の熱しか血流と交換していない。
【0007】
以下の米国特許第6,881,551号(特許文献1)および第6,585,692号(特許文献2)(トリローブ(tri−lobe)カテーテル)、第6,551,349号(特許文献3)および第6,554,797号(特許文献4)(ベロー(bellows)を備えた金属カテーテル)、第6,749,625号(特許文献5)および第6,796,995号(特許文献6)(非直線かつ非らせん状の熱交換要素を備えたカテーテル)、第6,126,684号(特許文献7)、第6,299,599号(特許文献8)、第6,368,304号(特許文献9)および第6,338,727号(特許文献10)(多数の熱交換バルーンを備えたカテーテル)、第6,146,411号(特許文献11)、第6,019,783号(特許文献12)、第6,581,403号(特許文献13)、第7,287,398号(特許文献14)および第5,837,003号(特許文献15)(カテーテル用熱交換系)、第7,857,781号(特許文献16)(様々な熱交換カテーテル)は、対象者の体温を変化させるため、または維持するために使用可能な様々な血管内カテーテル/システム/方法を開示している。前記特許文献の全開示は参照により明らかに本願に援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,881、551号明細書
【特許文献2】米国特許第6,585,692号明細書
【特許文献3】米国特許第6,551,349号明細書
【特許文献4】米国特許第6,554,797号明細書
【特許文献5】米国特許第6,749,625号明細書
【特許文献6】米国特許第6,796,995号明細書
【特許文献7】米国特許第6,126,684号明細書
【特許文献8】米国特許第6,299,599号明細書
【特許文献9】米国特許第6,368,304号明細書
【特許文献10】米国特許第6,338,727号明細書
【特許文献11】米国特許第6,146,411号明細書
【特許文献12】米国特許第6,019,783号明細書
【特許文献13】米国特許第6,581,403号明細書
【特許文献14】米国特許第7,287,398号明細書
【特許文献15】米国特許第5,837,003号明細書
【特許文献16】米国特許第7,857,781号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
当業において、改善された熱交換効率および/または使い易さを提供する新たな熱交換器カテーテルおよび方法を開発する必要が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、カテーテルの熱交換領域を通る熱交換流体の双方向流を有する熱交換カテーテル装置が提供される。
さらに本発明によれば、本発明の双方向流熱交換カテーテルを挿入し、前記カテーテルを介して熱交換媒体を循環させて、対象者の体温の制御の所望の変更をもたらすことにより、ヒトまたは動物の対象者の体温を変更または制御するための方法が提供される。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記カテーテルは、カテーテルシャフトと、管状導管とを備える。前記管状導管は、前記カテーテルシャフト上に配列されるか、または前記カテーテルシャフトに接続されて、熱交換媒体供給流路と熱交換媒体帰還流路とを有する熱交換領域を画定する。本願において詳細に説明するように、前記管状導管は、前記管状導管のループがカテーテルシャフトから突出するように、カテーテルシャフトの孔を通過して(例えば通されて)いるか、または前記管状導管はカテーテルシャフトに取り付けられているが、全体がカテーテルシャフトの外側(outboard)に配置され得る。前記管状導管は非拡張性チュービング(non−expanding tubing)から形成されてもよいし、または、いくつかの実施形態では、前記管状導管は、前記管状導管内に現在ある熱交換媒体の圧力に従って交互に拡張したり、潰れたりするバルーンまたはコラプシブルチュービング(collapsible tubing)(例えばコンプライアントまたはノンコンプライアント材料)からなってもよい。
【0012】
さらに本発明の態様および詳細は、以下に述べる詳細な説明および実施例を読むと理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の血管内温度管理システムの概略図。
図2A】本発明のカテーテル装置の製造中において、内部に形成された複数の横断方向の孔を有するカテーテル本体の一部の部分的斜視図。
図2B】チューブのループがカテーテルの両側に突出するように、横断方向の孔を互い違いの方向に通過することによって、熱交換流体のための供給流路を形成するチューブを有する図2Aのカテーテル本体部分の部分斜視図。
図2C】チューブの付加的なループがカテーテルの両側において突出し、それにより熱交換流体のための帰還流路を形成するように、介在する横断方向の孔を互い違いの方向にさらに通過しているチューブを備えた図2Bのカテーテル本体を示す図。
図2D】本発明の双方向流熱交換カテーテルの一例の部分斜視図。
図2E】本発明の双方向流熱交換カテーテルの別の例の部分斜視図。
図3図2Eの線3−3を通る横断面図
図4図2E示されるような熱交換領域を有する本発明の完全に組み立てられたカテーテル装置の一実施形態の側面図。
図5】本発明の熱交換カテーテル上で使用可能な代替の双方向流熱交換装置の側面図であり、前記熱交換流体帰還流路は熱交換流体供給流路より短い。
図5A図5の代替の双方向流熱交換装置の先端図。
図6】熱交換領域が熱交換流体供給流路より短い熱交換流体帰還流路を有する、本発明の双方向流熱交換カテーテルのさらに別の例の部分側面図。
図7】熱交換領域が熱交換流体供給流路より短い熱交換流体帰還流路を有する、本発明の双方向流熱交換カテーテルのさらに別の例の部分側面図。
図8A】双方向熱交換流体流路を有する熱交換領域を形成するために、本発明のカテーテルの上および/または中にチュービングが配備され得る様々な代替的方法を示す概略図。
図8B】双方向熱交換流体流路を有する熱交換領域を形成するために、本発明のカテーテルの上および/または中にチュービングが配備され得る様々な代替的方法を示す概略図。
図8C】双方向熱交換流体流路を有する熱交換領域を形成するために、本発明のカテーテルの上および/または中にチュービングが配備され得る様々な代替的方法を示す概略図。
図8D】双方向熱交換流体流路を有する熱交換領域を形成するために、本発明のカテーテルの上および/または中にチュービングが配備され得る様々な代替的方法を示す概略図。
図8E】双方向熱交換流体流路を有する熱交換領域を形成するために、本発明のカテーテルの上および/または中にチュービングが配備され得る様々な代替的方法を示す概略図。
図8F】双方向熱交換流体流路を有する熱交換領域を形成するために、本発明のカテーテルの上および/または中にチュービングが配備され得る様々な代替的方法を示す概略図。
図8G】双方向熱交換流体流路を有する熱交換領域を形成するために、本発明のカテーテルの上および/または中にチュービングが配備され得る様々な代替的方法を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の詳細な説明およびそれが参照する添付図面は、本発明のいくつかの例または実施形態を記載しているが、それらの例または実施形態は必ずしもすべてではないことが意図される。記載する実施形態は、あらゆる点で、単に例示および非限定的なものとして見なされるべきである。この詳細な説明の内容および添付図面は、本発明の範囲を決して限定するものではない。
【0015】
従来技術の典型的な熱交換カテーテルシステムでは、その体温が加温、冷却、または維持されるべき対象者の血管内に可撓性熱交換カテーテルを挿入するとともに、前記カテーテル上に位置する熱交換器を介して熱交換媒体(例えば加熱または冷却された塩水)を循環させる。典型的には、前記熱交換流体は、前記カテーテルの熱交換器を通って一方向(すなわち、先端(アウトバウンド)方向または基端(インバウンド)方向のいずれか)に流れる。これは、並流(co−current)熱交換または対向流熱交換のいずれかをもたらす。並流熱交換では、熱交換流体は、対象者の血液が熱交換器を通って流れているのと同一の方向にカテーテルの熱交換器を通って流れている。対向流熱交換では、熱交換流体は、対象者の血液が熱交換器を通って流れている方向とは反対の方向にカテーテルの熱交換器を通って流れている。本発明は、熱交換流体がカテーテルの熱交換器内を並流および対向流の双方の方法で通って流れるように、カテーテルの熱交換器が先端方向(すなわちアウトバウンド)流路および基端方向(すなわちインバウンド)流路の双方を有する熱交換カテーテルおよびシステムを提供する。下記においてより十分に説明するように、このカテーテルの熱交換器を通る熱交換流体の双方向の流れは、熱交換流体がカテーテルシャフト内で費やす時間を最小にし、かつ、熱交換流体がカテーテルの熱交換器を通って流れて対象者の血液と効果的に熱を交換している時間を最大にする。加えて、熱交換流体のこの双方向の流れは、熱交換流体がカテーテルの熱交換器の同一端部(例えば基端部)における進入および退出を可能にし、それによりカテーテルシャフトを介して熱交換器の先端部へ、またはその先端部から熱交換流体を往復させる(shuttle)ための先端側管腔を提供する必要をなくす。これは、高い熱伝達率を支援しない比較的厚肉(thick walled)のカテーテルシャフトの使用を可能にし、また基端側カテーテルシャフト内の流入管腔および流出管腔の長さをより短くすることを可能にする。熱交換チューブと比較して、流入管腔および流出管腔は、直径が比較的小さい。従って、それらの長さの短縮は、カテーテルを介して塩水を送り出すのに必要とされる圧力の量を低減し、かつ/または、塩水流の流量を増大させることによって熱交換率(rate of heat exchange)を増大させる。
【0016】
図1は、熱交換チュービングループ14、体外制御卓C、および少なくとも1つの体温センサーTSを有するタイプの熱交換カテーテル12を備えた血管内温度管理システム10の概略図である。この例において、体外制御卓Cは、制御装置(例えばマイクロプロセッサー制御装置)、前記制御装置にデータを入力するためのユーザーインタフェースUI、熱交換媒体(例えば0.9%の塩化ナトリウム溶液)の温度を調節するための加熱器/冷却器、および熱交換媒体をポンプ輸送するためのポンプを収容している。
【0017】
カテーテル12は、制御卓C内のポンプが熱交換チューブ14を介して温度制御された熱交換媒体を循環させるように、流入ラインILおよび流出ラインOLによって体外制御卓Cに接続されている。前記熱交換チューブ14は、熱交換チューブの第1セグメントが先端(アウトバウンド)方向に延び、チューブ14の第2セグメントは基端(インバウンド)方向に戻るように、カテーテル上に取り付けられているか、または通されている。示したように、熱交換チューブ14は、対象者の脈管構造を通る流れが熱交換チューブ14上を通過して熱交換チュービング14と近接し、それにより循環する熱交換媒体と対象者の血流との間で熱が交換されることを可能にするように、カテーテル本体から外側に突出する一連のループに構成され得る。対象者の血流の加温または冷却は、次いで対象者の身体のすべてまたは所望部分の加温または冷却をもたらす。図1に示す特定の限定されない例では、カテーテル12の先端側部分は、熱交換チュービングループ14が対象者の下大静脈IVCの内に存在するように配置されている。そのようなカテーテルの配置は、全身温度管理が所望される用途に適している。
【0018】
温度センサーTSは、温度調節または抑制を実施することが所望される身体の全体または一部の温度を測定するために、対象者の身体の上または中に配置され得る。制御卓C内の制御装置は、現在感知した体温を示す温度センサーTSからの信号を受信する。所望の目標温度がユーザーインタフェースUIによって入力されてもよく、次に制御装置は、目標体温を達成および/または維持するために、熱交換媒体の温度および/また流量(flowate)を調節するように、加熱冷却器および/またはポンプに制御信号を発するであろう。図1に示したこの例で述べられているタイプの制御卓は、カリフォルニア州サニーヴェール所在のゾール サーキュレーションからThermogard XPS(商標)温度管理システムとして市販されている。
【0019】
カテーテル12は図2A図4に示す方法で構成され、製造され得る。この例において、カテーテル12は、概して、長尺状カテーテル本体11と、熱交換チューブ14とを備える。カテーテル本体11は少なくとも流入管腔18と流出管腔19とを有し、流入管腔18および流出管腔19はカテーテル本体11の少なくとも基端側部分を通って延びている。任意選択で、本発明の任意のカテーテルにおいて、貫通管腔16は、カテーテル本体11の全長を通って延びていてもよく、先端側注入またはガイドワイヤ管腔として使用可能となるように、カテーテル12の先端部の開口において先端側が終了する(terminating distally)。また任意選択で、本発明の任意のカテーテルにおいて、カテーテル本体は、内側注入ポート(図4の要素46)で終了する随意の内側注入管腔(図示せず)、および/または、基端側注入ポート(図4の要素44)で終了する基端側注入管腔(図示せず)のような、1つ以上の付加的な管腔およびポートを備えてもよい。カテーテル12の個々の管腔は、カテーテル本体11内に一体的に形成されて(例えば、押し出されて)もよいし、またはカテーテル本体11の管腔を通過する1本以上の独立した管からなってもよい。
【0020】
図2Aに見られるように、製造時に、一連の横断方向の孔13はカテーテル本体12を介して形成される。これらの横断方向の孔13は、カテーテル本体11の長手軸線LAに対して任意の適当な角度で形成され得る。また、流入管腔18に通じる第1窓20は、孔13より基端側の位置の、カテーテル本体11の壁の第1位置において削られるか、または他の方法で形成される。流出管腔19に通じる第2窓22は、またも孔13の基端側である、カテーテル本体11の壁の第2位置において削られるか、または他の方法で形成される。
【0021】
図2Bに示すように、熱交換チューブ14の第1(アウトバウンド)セグメントは、熱交換チューブ14のその第1セグメントのループがカテーテル本体11の外側(outboard)に突出したままとなるように、孔13を1つおきに横断しながら、カテーテル12の先端部に向かって進められる。
【0022】
その後、図2Cに見られるように、熱交換チューブ14の第2(インバウンド)セグメントが残りの孔13を横断しながらカテーテル12の基端部に向かって後ろに進められることにより、示したように、チューブ14のその第2セグメントにおけるループを形成する。チューブ14が、通される(laced)、通り抜ける(threaded)、または他の場合には配置される方法は変化し得ることが理解されるべきである。チューブ14が通される、通り抜ける、または他の場合には配置される代替方法、および/または、本発明の双方向流カテーテルの構成のための他の代替モードを示す多数の概略図が付録Aとして本願に添付されている。
【0023】
熱交換チューブ14の第1端部は窓20を介して流入管腔18に挿入され、流入管腔18の壁に固定される。これは、流入熱交換媒体が流入管腔18から熱交換チューブ14の第1端部(例えば先端部)へ流れる密封接続を形成する。熱交換チューブ14の流入管腔18の管腔壁への取付けのシールは、熱シールのような任意の適当な手段、または接着によって行われ得る。この目的のために使用可能な接着剤の例としては、シアノアクリレート接着剤(例えば、オハイオ州ウェストレーク所在のヘンケル コーポレイト(Henkel Corporate)から入手可能なロックタイト(Loctite)4011)、UV硬化性アクリル接着剤(例えば、オハイオ州ウェストレーク所在のヘンケル コーポレイトから入手可能なロックタイト3311)、およびエポキシ系接着剤(例えば、オハイオ州ウェストレーク所在のヘンケル コーポレイトから入手可能なロックタイト3981)が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。熱交換チューブ14の他方の端部は窓22を介して流出管腔19に挿入され、上述したのと同じ方法で流出管腔19の壁に固定される。
【0024】
この構造は、熱交換媒体が、流入管腔18を通ってカテーテル12に流れ込み、次に熱交換チューブ14の第1端部に流れ込み、熱交換チューブ(先端方向において)の第1セグメントを通り、次に熱交換チューブ14の第2セグメントを(基端方向に)通って、流出管腔19に戻り、次にカテーテル12から流出することを可能にする。このように、前記熱交換媒体は、前記熱交換チューブを介して、先端方向および基端方向の双方に流れる。
【0025】
示した特定の例において、孔13は、楕円形または卵形の穴あけ器を所定の軌道においてカテーテル本体12を通して進めることによって、またはレーザー切断またはウォータジェット切断のような適当な代替手段によって形成された楕円形または卵形の孔である。そのような孔13は、カテーテル本体12の長手軸線LAに対してほぼ直角にカテーテル本体12内を通って延びている。孔13の軌道は、管腔16の壁が原形を保つ(remains in tact)ように、貫通管腔16が閉塞しないようにする。カテーテル本体11の基端側部分に随意の管腔(例えば、基端側および/または内側注入管腔)を有する実施形態において、そのような基端側管腔は、孔13が形成される場所より基端側の位置において、終了するか、または末端が基端側および内側注入管腔出口開口44,46(図4に図示)にシールされ得る。従って、任意選択の内側注入管腔および基端側注入管腔(存在する場合には)は、孔13が形成される領域では機能しない。
【0026】
カテーテル本体12は、対象とする用途に対して適切な大きさであり、かつ、前記用途に適した任意の材料から形成されている。例えば、多くの用途において、カテーテル本体12は、意図した血管または他の体管腔を介して対象者の体内の所望の位置に誘導するために十分に可撓性でありながら、約100psi(689KPa)までの使用圧に耐えるために充分な剛性および壁厚を有することが望ましい。典型的には、これは、6Fr(0.080インチ(2.032mm))〜14Fr(0.180インチ(4.572mm))の外径を有し、かつ、生体適合性ポリウレタン(例えばニュージャージー州フォーハムパーク(Florham Park)所在のバスフ コーポレイション(BASF Corporation)から入手可能なElastollan(商標)、またはオハイオ州ウィクリフ所在のルーブリゾール コーポレイション(Lubrizol Corporation)から入手可能なTecothane(商標))、またはポリエーテルブロックアミド(例えばペンシルベニア州フィラデルフィア所在のアルケマ インコーポレイテッド(Arkema,Inc.)から入手可能なPebax(商標))から形成されたカテーテル本体によって達成され得る。
【0027】
熱交換チューブ14は、カテーテル装置の対象とする用途に適切な大きさであり、かつ、前記用途に適した任意の材料から形成され得る。例えば、多くの用途において、熱交換チューブ14は、a)熱伝導を最良に促進するために薄い壁厚(典型的には約0.001インチ(0.0254mm))を有すること、b)約100psi(689KPa)までの圧力に耐えるために十分な引張強度を有すること、c)圧力下で抑制できないほど拡張しないように十分に硬質または半硬質であることが望ましい。したがって、チューブ14がそのような壁厚および特性を有するチューブに押し出しおよび/または吹き込み可能な材料から形成されることが望ましい。チューブ14を形成するのに適し得る材料の例としては、様々な供給元から入手可能なポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリエーテルブロックアミド(例えばペンシルベニア州フィラデルフィア所在のアルケマ インコーポレイテッドから入手可能なPebax(商標))が挙げられる。
【0028】
いくつかの実施形態において、熱交換チューブ14の突出ループを熱硬化または他の適当な成形技術によって所望形状に形成することが望ましい。
また図4に示すように、完全に組み立てられたときに、この例のカテーテル装置12は、その基端部上にハブ30を備える。ハブ30は、流出管腔コネクター32(流出管腔19に接続される)と、流入管腔コネクター34(流入管腔18に接続される)と、任意選択の内側注入管腔コネクター36(任意選択の内側注入管腔に接続される)、貫通管腔コネクター36(先端側注入またはガイドワイヤ管腔として使用可能な貫通管腔16に接続される)、および任意選択の基端側注入管腔コネクター36(任意選択の基端側注入管腔に接続される)を有する。
【0029】
加えて、目盛り付の距離標識(graduated distance markings)42は、任意の特定の時間において体内に留置したカテーテルの長さを示すために、カテーテル本体11の基端領域上に、任意で形成されている。また、任意選択の基端側X線写真マーカー48および任意選択の先端側X線写真マーカー50は、対象者の体内で熱を交換する領域(例えば、突出したチューブループ14)の位置のX線写真判定(radiographic determination)を容易にするためにカテーテル本体上に位置する。
【0030】
図5図7は、熱交換領域60が管状導管62を備える代替実施形態を示している。管状導管62は、熱交換流体供給流路62aを形成する直径または断面寸法(cross−dimension)D1の第1の一連のループ66と、帰還流路62bを形成する直径または断面寸法D2の帰還する第2の一連のループ64とに配列されている。D2はD1よりも小さい。したがって、この実施形態では、帰還流路62bは供給流路62aよりも半径方向において小さくなるように構成されている。また、この実施形態では、帰還流路62bを形成する管状導管の全長は、供給流路62aを形成するそれよりも短い。
【0031】
供給流路62aよりも半径方向において小さく、かつ/または、全体的な管状導管の長さにおいて短い帰還流路62bを提供することにより、熱交換領域60に熱交換できるように近接して(in heat exchange proximity to)流れる血液または体液との熱交換効率が実質的に増大することが判明した。
【0032】
供給流路62aを形成する管状導管の部分は、カテーテルシャフトの流入管腔から熱交換流体を受容する。次に、前記熱交換流体は、貫通したコイル状供給流路62aの基端部からその先端部に流れ、ここで、前記熱交換流体は次に、帰還流路62bを形成する前記管状導管の先端部へと循環し、次いで帰還流路62bを通って基端方向に戻る。前記帰還流路は、上述したように、帰還する熱交換流体が該システムの体外部分に循環して戻るように、前記カテーテルシャフトの帰還管腔に接続されている。この熱交換領域60の供給導管および帰還導管62a,62bは、先端側位置における以外は互いから離間され得、そのため前記カテーテルが対象者の血管内に配置されたときに、血液が前記導管の表面の間およびその周りに流れることができる。
【0033】
供給流路および帰還流路62a,62bのループまたは他の渦巻き64,66は、同軸であってもよいし、同軸でなくてもよく、それらは図5および図5Aに示す円形以外の様々な形状のものであってもよい。例えば、図6および図7は、図2Dおよび図2Eに示したものに構造および設計が類似している双方向流熱交換カテーテルの例を示しているが、これらの例では、帰還流路62aを形成する管状導管は供給流路62aのそれよりも断面寸法が小さいループに配列されている。
【0034】
本発明の任意の実施形態において、上述の例におけるように、熱交換領域を形成する管状導管14,62は、必ずしもカテーテルシャフト12の横断方向の孔に通されるか、または通過させる必要はない。むしろ、いくつかの実施形態では、熱交換領域60は、カテーテルシャフトの外部に配置されていてもよいし、またはカテーテルシャフトから離れていてもよく、供給流路および帰還流路の入口端および出口端が、カテーテルシャフトの流入管腔および帰還管腔から循環する熱交換媒体を受容および排出するために、カテーテルシャフトに接続されているだけでよい。また、上記で説明したように、供給流路および帰還流路を形成する管状導管は、様々な形状または形態で巻回されるか、またはループ状に(coiled of looped)され得る。図8A図8Gは、本発明によって可能である代替設計および形態の一連の網羅的でない限定されない例を示している。図8Aにおいて、管状導管14は、カテーテルシャフト12から異なる平面上に突出する略正弦ループを形成するように、異なる横断面上にあるカテーテルシャフト12の孔を通過する。図8Bにおいて、管状導管14は、螺旋を形成するようにカテーテル本体に形成された孔を通過し、前記螺旋は前記螺旋の交互に並んだ渦巻きを通過する供給流路および帰還流路を有する。図8Cでは、示したように、管状導管14は、二重クローバーリーフパターンで、カテーテルシャフト12のグループ化された孔に通されている。図8Dでは、管状導管14は、別々のらせん状供給流路および帰還流路が形成されるように、カテーテルシャフト12の孔を通過している。図8Eでは、管状導管14は、カテーテルシャフト12の孔を通過していないか、または前記孔に通されていないが、カテーテルの流入管腔および流出管腔に接続され、カテーテルシャフトの先端部を越えて突出する、別々のコイル状供給流路および帰還流路に形成されている。任意で、図12の点線によって示すように、カテーテルシャフトは、管状導管14によって形成された熱交換領域の先端部へ、またはその先端部を越えて延びることができ、かつ、管状導管14は、任意でカテーテルシャフト12のそのような先端側延長部上に取り付けられるか、またはそのような先端側延長部によって支持され得る。図8F図8Eのそれに類似しているが、管状導管14がカテーテルシャフト12の内部を通過することにより、前記管状導管自体が基端側カテーテルシャフト12を通る流入管腔および流出管腔を形成する形態を示している。図8A図8Fの例は、ほぼ同じ大きさのループに巻回された管状導管14の帰還部分および供給部分を示しているが、前記ループは大きさが異なっていてもよいことが理解される。例えば、帰還流路のループは、供給流路のそれよりも直径または断面寸法において小さくてもよく、またはその逆も同様であってもよく、かつ/または、帰還流路を形成する管状導管の実長は、供給流路を形成するそれよりも短くてもよく、または逆も同様であってもよい。供給流路および帰還流路におけるループの大きさの変化について、図8Gの付加的な限定されない例によって再度説明する。図8Gの例において、図5に示すそれとほぼ同一である管状導管14は、カテーテルシャフト12に取り付けられており、かつ、カテーテルシャフト12から先端側に延びており、それによりカテーテルの先端部上に熱交換領域を有するカテーテル装置を形成している。前記熱交換領域はコイル状供給流路およびコイル状帰還流路を備え、前記供給流路は前記帰還流路のコイル状ループよりも直径または断面寸法において大きいループに巻回されている。また、図8Gの実施形態において、帰還流路14を形成するチュービング14の長さは、供給流路を形成するチュービング14の長さよりも短い。
【0035】
本願では、本発明の特定の実施例または実施形態に関して上述してきたが、それらの実施例および実施形態に対して、本発明の意図した趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な追加、削除、変更および改変がなされてもよいことが理解されるはずである。例えば、一実施形態または実施例の任意の要素または特質は、特に他に規定がないか、そうすることが実施形態または実施例をその目的の用途に適さないようにしない限り、別の実施形態または実施例に組み込まれてもよいし、またはそれらと共に用いられてもよい。また、方法またはプロセスの工程が特定の順序で記載または列記されている場合、特に他に規定されていない限り、またはそうすることが前記方法およびプロセスその意図した目的に対して実行不可能にしない限り、そのような工程の順序は変更されてもよい。適当な追加、削除、改変および変更はすべて、記載された実施例および実施形態の均等物と見なされ、以下の特許請求の範囲内に含まれるべきである。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4
図5
図5A
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G