(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6467498
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】黒液処理方法
(51)【国際特許分類】
F23G 7/04 20060101AFI20190204BHJP
【FI】
F23G7/04 601E
F23G7/04ZAB
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-510848(P2017-510848)
(86)(22)【出願日】2015年9月22日
(65)【公表番号】特表2017-528675(P2017-528675A)
(43)【公表日】2017年9月28日
(86)【国際出願番号】EP2015071652
(87)【国際公開番号】WO2016046161
(87)【国際公開日】20160331
【審査請求日】2017年8月24日
(31)【優先権主張番号】14185752.4
(32)【優先日】2014年9月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500030150
【氏名又は名称】ハンツマン・インターナショナル・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】ゼーウ,アレント−ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ウェアリング,ジェームズ・セオドア
(72)【発明者】
【氏名】ボイド,デーヴィッド・アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】ブレルトン,クライブ
(72)【発明者】
【氏名】ブラックウェル,ブライアン
【審査官】
佐々木 訓
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第95/008022(WO,A1)
【文献】
特開2002−059143(JP,A)
【文献】
特表平07−507113(JP,A)
【文献】
特開平08−081890(JP,A)
【文献】
特開平03−014688(JP,A)
【文献】
特開2005−207643(JP,A)
【文献】
特開昭53−095875(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102046877(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23G 7/04 − 7/14
D21C 11/00 − 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体粒子を含む固体物を含んだ流動床反応器を準備する工程、このとき固体物は、黒液が熱分解するような、そして固体粒子が流動可能のままであるような温度と熱容量を有する;
黒液を供給して黒液を流動床反応器中に流入させて、黒液の熱分解反応を起こさせ、固体粒子と熱分解黒液ガスを得る工程、このとき固体粒子が固体物の一部を形成する;
熱分解黒液ガスから固体物を分離する工程;
固体物の少なくとも第1の部分を加熱する工程;
加熱された固体物を、熱分解反応に使用するために流動床反応器に戻す工程;
熱分解黒液ガスを第2の反応器中にて処理して、処理された熱分解黒液ガスを得る工程;
処理された熱分解黒液ガスを凝縮させて、凝縮液および凝縮時に放出される熱と残留ガスを得る工程;ならびに、
凝縮時に放出される熱及び/又は残留ガスを回収する工程;
を含む、黒液処理方法。
【請求項2】
処理された熱分解黒液ガスを吸収する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
固体物の少なくとも一部の加熱が固体ヒーターにて行われ、これにより加熱された固体物と固体ヒーター残留物がもたらされ、このとき固体物が所定の温度に加熱される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
所定の温度が400℃〜900℃である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
固体ヒーター残留物が回収ボイラーを加熱するために使用される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
第2の反応器における熱分解黒液ガスの処理が、熱分解黒液ガスの、触媒を使用する触媒処理である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
触媒再生器において触媒を再生して、再生された触媒と一酸化炭素を生成させる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
一酸化炭素を回収ボイラーに送る、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
非反応性の流動化ガスを流動床反応器に加えて、0.5〜10m/秒の表面速度を生じさせる、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
固体物の少なくとも第2の部分を回収ボイラーにて処理して回収された塩を得る、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
熱分解反応が触媒を使用せずに行われる。請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
供給される黒液が、100℃〜150℃の温度を有する、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
供給される黒液が、0.01〜3mmのサイズの液滴の形態をとっている、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
供給される黒液が、70%超の固体物濃度を有する強黒液である、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
流動床が400℃〜900℃の温度を有し、及び/又は、熱分解が0.5バール〜5バールの圧力で行われる、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
固体物と熱分解黒液ガスがサイクロンにおいて分離される、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
固体ヒーターが、外部加熱によって固体物を加熱する、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
固体物の少なくとも第1の部分を加熱するために、及び/又は、回収ボイラーでの使用のために、回収される熱及び/又は残留ガスが使用される、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は黒液の処理方法に関する。本発明は特に、さらに処理することができる熱分解黒液ガスを得るためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用パルプ製造プロセスにおいては、木材チップを蒸解釜システムにて処理してセルロース繊維を分離し、リグニン(木材の天然状態では、リグニンがセルロース繊維を結びつけている)を取り除く。熱と化学薬品を使用する木材チップの蒸解は、通常の工業的操作である。いわゆる「クラフトプロセス」では、木材チップとアルカリ性蒸解液を蒸解釜に導入して、パルプと黒液(リグニン含有可溶性部分)をつくり出す。蒸解プロセスの後、得られたパルプと黒液を分離する。パルプはセルロース繊維を含み、一般には紙を製造するためにさらに処理される。黒液は、リグニン、ヘミセルロース、無機塩、および他の抽出成分を含む。黒液を蒸解釜から抜き取って、エネルギー生産と塩の回収のための特定の回収ボイラー中で燃焼させることによってさらに処理することができる。黒液の一部を使用してリグニンを回収することができる。引き続きリグニンを、対応するアルキルフェノール(エーテル)に解重合することができる。アルキルフェノール(エーテル)は、さらに反応することができ、幾つかの用途に使用することができる。
【0003】
当業界に公知の、黒液処理方法が他に幾つかある。黒液は、リグニン等の、エネルギー的に有用な高分子量芳香族構造体(big aromatic structures)を含有し、エネルギーを得るために黒液の処理が行われる。黒液処理方法に応じて、エネルギーのほかに、種々の組成の化合物または種々の濃度の組成物がさらに得られる。合成ガス等の化合物を得るために、空気または酸素をガス化媒体として使用する黒液のガス化が行われる。合成ガスをさらに処理して、自動車用および他の工業用のバイオ燃料を得ることができ、メタノール、ジメチルエーテル、またはより分子量が高くてより有用な他の有機分子に触媒的に転化させることができる。
【0004】
処理された黒液は、さまざまなマーケットにおいて利用されているけれども、依然として他の黒液処理方法が求められている。黒液を処理して、回収ボイラーの使用ではなく他のプロセスで塩を回収することによって多くの研究が行われている。欠点は、既存のパルプ工場設備の部品が過剰になることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、既存のクラフト製紙工場において行うことができ、これにより木材チップのパルプ化工程のための塩を回収する上で充分な量の黒液が利用可能なままである、という黒液処理方法を提供することである。
【0006】
本発明の目的はさらに、処理された黒液により、幾つかの工業的用途にさらに使用できる物質がもたらされる、という黒液処理方法を提供することである。
本発明の目的はさらに、処理時に放出される残留物ストリームやエネルギーストリームが、他のプロセスにおいて、そして既存の製紙工場プロセスにおいて最適に使用される、という黒液の新たな連続処理プロセス提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
数ある中でこれらの目的は特に、請求項1に記載のプロセスによって、完全ではないとしても少なくとも一部を達成することができる。
これらの目的は特に、本発明の第1の態様によって少なくとも一部を達成することができ、黒液処理方法は、固体粒子を含む固体物を含んだ流動床反応器を準備する工程、このとき固体物は、黒液が熱分解するような、そして固体粒子が流動可能のままであるような温度と熱容量を有する;黒液を供給し、そして黒液を流動床反応器中に流入させて、黒液の熱分解反応を起こさせ、固体粒子と熱分解黒液ガスを得る工程、このとき固体粒子が固体物の一部を形成する;熱分解黒液ガスから固体物を分離する工程;固体物の少なくとも第1の部分を加熱する工程;加熱された固体物を、熱分解反応に使用するために流動床反応器に戻す工程;熱分解黒液ガスを第2の反応器中にて処理して、処理された熱分解黒液ガスを得る工程;処理された熱分解黒液ガスを必要に応じて吸収する工程;処理された熱分解黒液ガス(必要に応じて吸収される)を凝縮させて、凝縮液および凝縮時に放出される熱と残留ガスを得る工程;ならびに、凝縮時または吸収時に放出される熱及び/又は残留ガスを回収する工程;を含む。
【0008】
[1] 固体粒子を含む固体物を含んだ流動床反応器(100)を準備する工程、このとき固体物は、黒液が熱分解するような、そして固体粒子が流動可能のままであるような温度と熱容量を有する;
黒液(黒液)を供給し、そして黒液を流動床反応器中に流入させて、黒液の熱分解反応を起こさせ、固体粒子と熱分解黒液ガス(11)を得る工程、このとき固体粒子が固体物の一部を形成する;
熱分解黒液ガス(23)から固体物(21)を分離する工程;
固体物(21)の少なくとも第1の部分を加熱する工程;
加熱された固体物(31)を、熱分解反応に使用するために流動床反応器に戻す工程;熱分解黒液ガスを第2の反応器中にて処理して、処理された熱分解黒液ガス(51)を得る工程;
処理された熱分解黒液ガス(51)を必要に応じて吸収する工程;
処理された熱分解黒液ガス(51)−必要に応じて吸収される−を凝縮させて、凝縮液(82)および凝縮時に放出される熱と残留ガス(83と84)を得る工程;ならびに、
凝縮時または吸収時に放出される熱及び/又は残留ガス(83と84)を回収する工程;
を含む、黒液処理方法。
[2] 固体物(21)の少なくとも一部の加熱が固体ヒーター(300)にて行われ、これにより加熱された固体物(31)と固体ヒーター残留物(33)がもたらされ、このとき固体物が所定の温度に加熱される、[1]に記載の黒液処理方法。
[3] 所定の温度が400℃〜900℃、好ましくは450℃〜650℃である、[2]に記載の黒液処理方法。
[4] 固体ヒーター残留物(33)が回収ボイラー(400)を加熱するために使用される、[1]〜[3]のいずれかに記載の黒液処理方法。
[5] 第2の反応器(600)における熱分解黒液ガスの処理が、熱分解黒液ガスの、触媒を使用する触媒処理である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の黒液処理方法。
[6] 触媒再生器(600)において触媒を再生して、再生された触媒と一酸化炭素(62)を生成させる、[5]に記載の黒液処理方法。
[7] 一酸化炭素(62)を回収ボイラー(400)に送る、[6]に記載の黒液処理方法。
[8] 非反応性の流動化ガスを流動床反応器に加えて、好ましくは0.5〜10m/秒の表面速度を生じさせる、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の黒液処理方法。
[9] 固体物の少なくとも第2の部分(22)を回収ボイラー(400)にて処理して回収された塩を得る、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の黒液処理方法。
[10] 熱分解反応が触媒を使用せずに行われる。[1]〜[9]のいずれか一項に記載の黒液処理方法。
[11] 供給される黒液(10)が、100℃〜150℃の、好ましくは110℃〜130℃の、そして最も好ましくは約120℃の温度を有する、[1]〜[10]のいずれか一項に記載の黒液処理方法。
[12] 供給される黒液(10)が、0.01〜3mmの、好ましくは0.1mm〜2mmのサイズ範囲の液滴の形態をとっている、[1]〜[11]のいずれか一項に記載の黒液処理方法。
[13] 供給される黒液(10)が、70%超の、好ましくは80%超の、そしてさらに好ましくは85%超の固体物濃度を有する強黒液である、[1]〜[12]のいずれか一項に記載の黒液処理方法。
[14] 流動床が400℃〜900℃の、さらに好ましくは450℃〜650℃の温度を有し、及び/又は熱分解が0.5バール〜5バールの圧力で行われる、[1]〜[13]のいずれか一項に記載の黒液処理方法。
[15] 固体物と熱分解黒液ガスがサイクロン(21)において分離される、[1]〜14]のいずれか一項に記載の黒液処理方法。
[16] 固体ヒーター(300)が、外部加熱(700)によって固体物(21)を加熱する、[1]〜[15]のいずれか一項に記載の黒液処理方法。
[17] 凝縮または吸収時に放出される、回収される熱及び/又は残留ガス(83と84)が、固体物(21)の少なくとも第1の部分を加熱するために、及び/又は回収ボイラー(400)での使用のために使用される、[1]〜[16]のいずれか一項に記載の黒液処理方法。
以下に図面を挙げて本発明を説明するが、この図面によって本発明が限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明に従った黒液の熱分解プロセスの概略図であり、該プロセスでは、得られる熱分解黒液ガスを触媒によってさらに処理する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
用語の意味
黒液: 本発明によれば、黒液は、木材チップをクラフトプロセスで処理した後に存在する可溶性部分である。クラフトプロセスでは、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムとの混合物や水酸化ナトリウムとアントラキノンとの混合物(Soda-AQ)等の塩基性混合物を木材チップに加え、リグニンとセルロースとを結びつけている結合が切れるように〔この結果、セルロースパルプ(塩基性環境に不溶性である)と液体(黒液)が得られる〕、蒸解釜中で蒸解する。黒液は、リグニン、リグニンフラグメント、ヘミセルロース、ヘミセルロースの分解による炭水化物、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、他の無機塩、および水を含む。黒液は通常、15重量%の固形分を有する。黒液の固体物は、試験法TAPPI T650 OM-09に従って測定することができる。
【0011】
触媒: 本発明によれば、触媒は、プロセスにおいて消費されることなく反応速度を変えて高める物質である。
熱分解とは、本明細書の文脈において、供給物を高温に付す一方で、空気、O
2、またはスチームを加えず、このとき固体基質を介してプロセスに熱が導入され、この熱により、黒液が熱分解黒液ガスと固体粒子に分解する、という熱化学的プロセスを意味する。
【0012】
吸収は、特定のガス状成分を液体に通過させる目的で、ガスストリームを液体と接触させつつ、他のガス状成分が液体中に留まらず、吸収が行われる吸収装置を出ていく、というプロセスである。
【0013】
本発明をさらに詳細に説明する。下記の節において、本発明の種々の実施態様を詳細に説明する。以下に記載の各態様は、できないことが特に明記されない限り、他のどの実施態様とも組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であると示されている任意の特徴は、好ましい又は有利であると示されている他の任意の特徴と組み合わせることができる。
【0014】
本発明に使用される方法を説明する前に、理解しておかねばならないことは、本発明は、記載されている特定の方法、成分、もしくは装置に限定されず、当然ながらこうした方法、成分、および装置は変わってよい、という点である。さらに理解しておかねばならないことは、本明細書で使用されている用語は限定的ではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される、という点である。
【0015】
本明細書全体にわたって「一実施態様(one embodiment)」または「ある実施態様(an embodiment)」と述べているのは、該実施態様と関連して記載されているある特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施態様中に含まれる、ということを意味している。従って、本明細書全体にわたる種々の箇所で「一実施態様では(in one embodiment)」または「ある実施態様では(in an embodiment)」というフレーズが出てきても、必ずしも全て同じ実施態様に言及しているわけではない(同じ場合もあるが)。さらに、本明細書の開示内容を読めば当業者には明らかなように、特定の特徴、構造、または特性を、1つ以上の実施態様において任意の適切な仕方で組み合わせることができる。さらに、本明細書に記載の幾つかの実施態様は、他の実施態様中に含まれる幾つかの特徴を含んで、他の特徴を含まないが、異なる実施態様の特徴の組み合わせは本発明の範囲内であり、別の実施態様を形成する(当業者には周知のことである)。たとえば、後述の特許請求の範囲において、特許請求されている実施態様のいずれも、任意の組み合わせにて使用することができる。
【0016】
一実施態様によれば、本発明は、固体粒子を含む、ガスによって流動化された固体(固体物)、を含んだ気-固流動床反応器を準備する工程、このとき固体物は、黒液が熱分解するような、そして固体粒子が、流動化しない大きな粒子への実質的な凝集が存在しないよう充分に固体である状態のままであるような温度と熱容量を有する;黒液を供給し、そして黒液を流動床反応器中に流入させて、黒液の熱分解反応を起こさせ、固体粒子と熱分解黒液ガスを得る工程、このとき固体粒子が固体物の一部を形成する;熱分解黒液ガスから固体物を分離する工程;固体物の少なくとも第1の部分を加熱する工程;加熱された固体物を、熱分解反応に使用するために流動床反応器に戻す工程;熱分解黒液ガスを第2の反応器中にて処理して、処理された熱分解黒液ガスを得る工程;処理された熱分解黒液ガスを必要に応じて吸収する工程;処理された熱分解黒液ガス(必要に応じて吸収される)を凝縮させて、凝縮液、凝縮時に放出される熱、および残留ガスを得る工程;ならびに、凝縮時または吸収時に放出される熱及び/又は残留ガスを回収する工程;を含む黒液処理方法に関する。
【0017】
驚くべきことに、液体である黒液を、触媒を加えることなく熱分解に付すことによって、黒液ガスと固体粒子が形成され、このとき黒液ガスがなお、高いエネルギー値を有する充分な量の化合物を含む、ということを本発明者らは見出した。熱分解黒液ガスは、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン合成ガス、水、オレフィン性不飽和を有する炭化水素、酸素含有化合物、モノマー芳香族化合物、およびオリゴマー芳香族化合物等の化合物を含む。黒液ガスは、たとえば触媒処理によってさらに処理することができ、これによりモノマー芳香族化合物のような望ましい化合物を得ることができる。さらに、熱分解時に触媒が使用されないので、触媒の再生という操作の必要がなく、また再生のための装置も必要ない。
【0018】
本発明者らはさらに、黒液の連続的処理プロセスを見出した。該プロセスにおいて放出されるエネルギー、化学物質、および他の物質は、該プロセスを既存のパルプ工場で使用できるということを考慮しつつ、該プロセスにおいて最適な形で回収され、この結果、該プロセスを行うための追加エネルギーは必要最低限の量で済むと共に、有用な化合物をつくり出すことができる。黒液の熱分解時に形成される固体粒子は、固体物の一部を形成する。固体物が他の不活性固体を含有することがあるが、固体物は、パルプ工場または本発明のプロセスからのストリームだけが必要とされるよう、黒液の熱分解から得られる物質だけを含むのが好ましい。固体物は、黒液から得られる炭化物と塩類を主として含有する。固体物と熱分解黒液ガスを分離した後、固体物は、顕熱を増大させるために、そして吸熱性熱分解反応に必要とされる熱を供給するために、再加熱を必要とすることがある。本発明者らは、プロセスの他の箇所において放出される、エネルギーを回収できる熱と他の残留物を使用して、固体物を必要とされる温度にすることができる、ということを見出した。実際、熱分解黒液ガスの凝縮または吸収時に放出される熱と他の残留物、あるいは処理された熱分解黒液ガスを、少なくとも一部使用して固体物を必要とされる温度にすることができる。固体物が、黒液の熱分解を可能にするのに必要とされる温度である所定の温度にされる。固体物をさらに転化させることは必要ではなく、加熱の唯一の機能は、固体物を、黒液が熱分解するほどの、そして固体粒子が固体状態のままであるほどの充分に高い温度となるよう、所定の温度にすることである。固体粒子は融解し始めることなく、流動化しないような大きな粒状物に実質的に凝集しないのが好ましい。固体物が流動床反応器に戻され、熱分解を行うための反応器中にて充分な固体物のまま留まる。
【0019】
黒液の熱分解後、処理された熱分解黒液ガスを、必要に応じて吸収させることができる。吸収は、たとえば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、または芳香族炭化水素を含む混合物であってよい吸収性物質を使用して行われる。吸収性物質は、処理された熱分解黒液ガス中の有用化合物に対して高い親和性を有する。吸収性物質との親和性が低いか又は全くない化合物(流動化ガス、一酸化炭素、二酸化炭素、水、または窒素等)は、吸収性物質中に留まらない。
【0020】
さらに、凝縮時に放出される熱と残留ガスの一部を、回収ボイラーを加熱するのに、または製紙工場プラントもしくはさらには周辺プラントにおける他の部分を加熱するのに使用することができる。回収ボイラーは、パルプ製造機のほとんどにおいて見られる装置であり、製紙用パルプの製造に再使用するために、塩類を黒液から回収する。塩類の回収は一般に、950℃を超える温度で行われる。こうした温度で塩類が融解し始め、回収ボイラーにおいて塩類を黒液から分離することができる。
【0021】
一実施態様では、固体物の加熱−たとえば、別のチャンバー中での直接的な燃焼もしくはガス化によって、あるいは間接的な加熱によって、あるいはこれらの組み合わせによって、固体ヒーター中で行うことができる−の結果、固体ヒーター残留物がガスの形で放出される。これらの残留物を回収して、回収ボイラーを加熱するための、あるいは製紙工場プラントやさらには他の周辺プラントおける他の部分を加熱するためのエネルギー源として使用することができる。一実施態様では、熱分解黒液ガスから分離される固体物の他の部分が、回収ボイラーに流れることができる。固体物中の塩を回収ボイラーにて回収して、製紙用パルプを製造するのに再使用することができ、これによって塩が融解し始め、炭化物から塩を分離することができる。分離された固体物の5〜50%が回収ボイラーに向かうのが好ましい。この実施態様は、熱分解時の廃棄物と見なすことができる炭化物が、製紙工業における他の有用プロセスに使用される、という大きな利点を有する。実際、熱分解時に形成される炭化物は、固体物中の塩を回収するのにさらに使用することができる。回収ボイラーにおいて、炭化物は燃料として使用することができ、塩類を溶融させるためのエネルギーをもたらす。
【0022】
固体物の温度は、黒液が熱分解して、固体基質が固体のままであるほどの、充分に高い温度であるのが好ましい。固体物の温度は、硫酸ナトリウムや硫化ナトリウムが分解(分解すると、硫化水素等のイオウ含有ガスが放出され、熱分解黒液ガスを処理するための触媒の作用を損なわせることがある)し始める温度より低いのが好ましい。熱分解の温度は、400℃超であるのが好ましく、500℃超であるのがさらに好ましい。熱分解の温度は、塩類等の無機化合物が融解し始める温度より低いのが好ましい。熱分解の温度は、1100℃未満であるのが好ましく、900℃未満であるのがさらに好ましい。熱分解は、400℃〜900℃の範囲の、好ましくは450℃〜650℃の範囲の温度を有する反応器中で行うことができる。前述したように、固体物は、分離された後に、熱分解を可能にする所定の温度に達するまで加熱される。従って、分離された固体物は、450℃超の温度に、好ましくは500℃超、550℃超、または600℃超の温度に加熱される。予熱された固体の温度は、塩類等の無機化合物が融解し始める温度より低いことが好ましい。予熱固体の温度は、1100℃未満であるのが好ましく、900℃未満であるのがさらに好ましい。特定の所定温度の決定は、熱分解黒液ガスを使用してどんな操作をするかに依存する。所望する特定の化合物を得るために熱分解黒液ガスをさらに処理する場合には、温度の選択は、最終的にどの化合物を黒液ガスからアップグレードするのかに依存する。当業者には言うまでもないことであるが、温度が異なると、熱分解黒液ガスの組成が異なる。さらに、さらなる処理の種類、およびさらなる処理において使用される触媒の種類が、熱分解において使用される特定の温度もしくは温度範囲に影響を及ぼすことがある。
【0023】
黒液は急速な熱分解に付すのが好ましい。熱分解は0.5〜5バールの圧力にて行うのが好ましい。
流動化ガスを加えて、黒液供給物と固体基質が流動床を形成するように、そして反応器中での黒液供給物と固体物の流動化とミキシングが起こるように、反応器中に充分に高い速度をつくり出すのが好ましい。流動化ガスは不活性ガスであるのが好ましい。適切な流動化ガスは、窒素、二酸化炭素、および熱分解条件にて化学反応性が無いか又は低い他のガスである。ガスの速度は、熱分解反応器中でのガス滞留時間を所定の持続時間未満(通常1〜10秒、好ましくは5秒未満)に保持するために、運転温度と運転圧力にて一般には0.5〜10m/秒である。熱分解黒液ガスが反応器を通って流れ、固体物が熱分解黒液ガス流れに一緒に運ばれる。次いで固体粒子がガス流から分離され、捕捉される。
【0024】
流動床反応器に流入する黒液は、100℃〜140℃の温度を有するのが好ましく、約120℃の温度を有するのがさらに好ましい。温度が100℃未満であると、粘稠すぎる液体が得られる。140℃超の温度は避けるのが好ましい。黒液中の化合物が重合し始めるからである。
【0025】
黒液は、ディストリビュータープレート上にて不活性ガスの作用の下で、ノズルを使用して反応器に水性もしくは垂直に供給して、0.01〜3mmの範囲のサイズを有する分散液滴の形成を促進させるのが好ましい。このとき熱分解反応は、黒液の液滴サイズ、熱分解加熱速度、および液滴の膨潤等の物理的要素によって影響される。液滴は、流動床の壁面に付着する前に熱分解を起すような直径を有するのが好ましい。
【0026】
黒液は、強黒液(約15%の固形分を有する、クラフトプロセスによって得られる黒液)であるのが好ましく、この黒液が流動床反応器に入る前に、先ず70%超の、好ましくは80%超の、さらに好ましくは85%超の固形分になるよう蒸発させる。
【0027】
熱分解黒液ガスと固体物を分離する。分離を公知の任意の方法で行って、固体物からガスを分離するのが好ましい。このような方法としては、フィルタリング(濾過)分離、静電分離、重力による分離、慣性分離、遠心力分離、熱泳動(熱拡散)分離、及び/又はこれらの組み合わせなどがある。遠心力と慣性を使用して熱分解黒液ガスと固体物を分離するのが好ましい。この方法は、固体含有ガス流の方向を変えることによる固体粒子の回収に基づく。これは一般に、1つ以上のサイクロンもしくは偏向装置を使用することによって達成される。1つ以上のサイクロンもしくは偏向装置による分離の後に、望ましいことが明らかな場合は、静電分離や他の微粒子除去法を施すことができる。
【0028】
熱分解黒液ガスを第2の反応器にてさらに処理することができる。黒液ガスは、固定床または流動床において触媒的に処理するのが好ましい。第2の反応器において、熱分解黒液ガスをアップグレードし、たとえばモノマー芳香族化合物に転化させることができる。このプロセス中に、幾らかのコークスや炭素が生成され、触媒の細孔をふさぐことがある。触媒は、間欠的もしくは連続的に再生することができ、発生した熱は、エネルギーが必要とされるプラント中の他の場所で使用することができる。再生時、コークスや炭素を一酸化炭素に転化させることができる。この一酸化炭素は、プラント中の他の場所で使用することができる。一酸化炭素は、回収ボイラーにおいて、固体物中の塩を溶融させるための燃料として使用するのが好ましい。触媒反応は、300℃〜700℃の温度で行うのが好ましく、400℃〜600℃温度で行うのがさらに好ましい。
【0029】
熱分解黒液ガスまたは処理された熱分解黒液ガスを凝縮させる。ガスは、80℃〜110℃(好ましくは約90℃)の温度に冷却するのが好ましい。前述したように、冷却プロセス時に放出される熱と残留ガスは、パルプ製造プラントおよび紙製造プラントにおけるさらなる使用のために回収することができる。エネルギーは、固体ヒーターを加熱するために、あるいは熱分解反応を起こさせるために使用するのが好ましい。冷却工程時に、蒸気中の化合物を凝縮させ、形成された液体をガスから分離する。この液体フラクションをさらに分別することができ、モノマー芳香族化合物(ベンゼン、トルエン、およびキシレン)等の望ましい化合物を回収する。凝縮時、CO
2は気相中に留まり、望ましい化合物と分離する。
【0030】
本発明の上記の特性、特徴、および利点、ならびに他の特性、特徴、および利点は、例を挙げて本発明の原理を説明している添付図面と関連させて考察すれば明らかとなろう。この説明は、例を挙げるためだけに記載されており、この説明によって本発明が限定されることはない。下記に引用の参照数字は添付図面の数字である。
【実施例】
【0031】
図1は、本発明による黒液処理方法を示す。黒液10(好ましくは強黒液)が、固体物を含む流動床100に450℃〜900℃の温度で流入する。反応器中で固体物が流動化し、黒液が熱分解反応を受け、固体粒子(固体物の一部を形成する)と熱分解黒液ガスがもたらされる。固体物と熱分解黒液ガス11がサイクロン200等の分離器に流入し、そこでストリーム中の固体物がガスから実質的に分離される。熱分解黒液ガス23が、さらなる処理のために第2の反応器500に流入する。第2の反応器500は、流動床触媒または固定床触媒を含んでよい。触媒は、間欠的に再生させる必要があり、熱分解黒液ガスが、プロセス全体が持続できるように、このような触媒を含む別の反応器600に流入してよい。その間にも、反応器500中の触媒が再生される。一度こうしたことが起こると、熱分解黒液ガスが再び反応器500中に流入することができ、同時に、触媒を再生反応器600中で再生させることができる。処理された熱分解黒液ガス51または61が凝縮器800に進む。ガスストリームの温度が下がる。形成される液体82は、オレフィン、ナフタレン、ベンゼン、トルエン、またはキシレン等の望ましい化合物を含む場合がある。処理された熱分解黒液ガスの全てが凝縮するわけではない。凝縮後に留まるガス残留物と凝縮時に放出される熱83と84は、プロセスの他の場所においてエネルギー源として使用することができる。触媒の再生時に、触媒上のコークスを一酸化炭素62に転化させることができる。
【0032】
分離器200において分離される固体物21の少なくとも一部が固体ヒーター300に流れ、流動床反応器において再び使用できるように、固体物が所望の温度に温められる。次いで加熱された固体物31が流動床反応器100に流れ、これによって黒液が熱分解反応を受ける。固体ヒーターは、固体物を所定の温度に加熱するために、プロセス中の他の部分から放出されるエネルギーを使用する。固体物を加温するために、凝縮時に放出される熱と残留ガス83の一部が固体ヒーターに流れてよい。さらなる追加エネルギーが必要とされることがある。これは、たとえば空気71を加熱するヒーター700からもたらされ、次いでこの加熱された空気を、固体ヒーター中の固体物を加熱するのに使用することができる。固体物の加熱時に放出される熱と残留ガス33を回収して、回収ボイラー400を加熱することができる。凝縮時に放出される熱と残留ガスの少なくとも一部84を使用して、回収ボイラー400を加熱することができる。熱分解黒液ガスから分離される固体物の一部22を回収ボイラー400に導くことができ、従って充分な量の塩41を回収して製紙工場で使用することができる。触媒再生器から出ていくストリームである一酸化炭素62を回収ボイラーに送り込み、そこで回収ボイラー中の塩を溶融させるための燃料として使用することができる。
【符号の説明】
【0033】
10 黒液
11 熱分解黒液ガス
21 固体物
22 熱分解黒液ガスから分離される固体物の一部
23 熱分解黒液ガス
31 加熱された固体物
33 固体物の加熱時に放出される熱と残留ガス
41 塩
51 処理された熱分解黒液ガス
61 処理された熱分解黒液ガス
62 一酸化炭素
71 空気
72 固体ヒーター
82 形成された液体、凝縮液
83 凝縮時に放出される熱と残留ガス
84 凝縮時に放出される熱と残留ガス
100 流動床反応器
200 分離器、サイクロン
300 固体ヒーター
400 回収ボイラー
500 第2の反応器
600 再生反応器
700 ヒーター
800 凝縮器