【実施例】
【0052】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。以下において%で示される物の量は、特に断りがない場合は、その物が固体である場合は重量基準、液体である場合は体積基準で示されている。
【0053】
[実験例1]
[1−1.血漿サンプル]
国立長寿医療研究センターにて、PiB-とPiB+のグループに分類された症例の血漿サンプル(76検体)を用意した。
PiB-(PiB-PET画像により脳内のAβの蓄積が陰性と判断された者):50例
PiB+(PiB-PET画像により脳内のAβの蓄積が陽性と判断された者):26例
【0054】
脳内のAβの蓄積についての陽性か陰性かを判断するために、被験者の脳のPiB-PET画像を取得した。大脳皮質のPiB 集積量が、非特異的な白質のPiB 集積量よりも多い、もしくは同等であった被験者は陽性と判定した。白質への非特異的な集積のみで、皮質にはほとんど集積が認められない被験者は陰性と判定した。認知機能障害は2011年に発表されたNIA-AA診断基準に準拠して判断した。
【0055】
PiB 集積平均値(mcSUVR:mean cortical Standard Uptake Value Ratio)は、皮質のPiB 集積を定量し、小脳を基準に大脳の集積比を求めた。ただし、PiB- の中で2例の欠損値があった。
【0056】
[1−2.抗体固定化ビーズの用意]
アミロイドβタンパク質(Aβ)の3−8残基をエピトープとする抗Aβ抗体(IgG)のクローン6E10(Covance社)を用意した。
【0057】
抗Aβ抗体(IgG) 100 μgに対して、磁性ビーズ(Dynabeads(登録商標)M-270 Epoxy)約3.3×10
8 個を、固定化緩衝液(1M 硫酸アンモニウムを含有する0.1M リン酸緩衝液(pH7.4))中で37℃、16〜24時間反応させることにより、抗Aβ IgG固定化ビーズを作製した。
【0058】
[1−3.連続免疫沈降法(Consecutive Immunoprecipitation; cIP)]
(第1反応工程)
ヒト血漿250 μLに、安定同位体標識されたAβ1-38(SIL-Aβ1-38)を10 pMで含んでいる第一IP反応緩衝液(0.2%(w/v) DDM, 0.2%(w/v) NTM, 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4) 250 μLを混合させた後、氷上で5〜30分間静置させた。SIL-Aβ1-38は、Pheと Ileの炭素原子が
13Cで置換されているものであり、マススペクトルのシグナル強度を標準化するための内部標準として用いた。その血漿を抗Aβ IgG固定化ビーズと混ぜて、氷上で1時間振盪させた。
【0059】
(第1洗浄工程、第1溶出工程)
その後、前記抗体ビーズを第一IP洗浄緩衝液(0.1% DDM, 0.1% NTM、50mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl)100 μLで3回洗浄、50 mM 酢酸アンモニウム緩衝液50 μLで2回洗浄した後、第一IP溶出液(0.1% DDM含有する50 mM Glycine buffer (pH2.8))により抗体ビーズに結合しているAβ及びAβ様ペプチド(すなわち、APP派生型ペプチド)を溶出させた。
【0060】
(中性化工程)
得られた溶出液を第二IP反応緩衝液(0.2%(w/v) DDM, 800mM GlcNAc, 300mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4)と混合させて、第一精製溶液を得た。
【0061】
(第2反応工程)
得られた第一精製溶液を、別途の抗Aβ抗体固定化ビーズと混ぜて、氷上で1時間振盪させた。
【0062】
(第2洗浄工程、第2溶出工程)
その後、抗Aβ抗体固定化ビーズを第二洗浄緩衝液(0.1% DDM, 50mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl)50 μLで5回洗浄、50 mM 酢酸アンモニウム緩衝液50 μLで2回洗浄、さらにH
2O 30 μLで1回洗浄した後、第二IP溶出液(5 mM 塩酸を含有する70%(v/v) アセトニトリル) 5 μLにより抗体ビーズに結合しているAβ及びAβ様ペプチド(APP派生型ペプチド)を溶出させた。このようにして、第二精製溶液を得た。第二精製溶液を質量分析に供した。
【0063】
n-Dodecyl-β-D-maltoside (DDM) [臨界ミセル濃度cmc: 0.009%]
n-Nonyl-β-D-thiomaltoside (NTM) [cmc: 0.116%]
【0064】
[1−4.MALDI-TOF MSによる検出]
Linear TOF用のマトリックスとして、α-cyano-4-hydroxycinnamic acid (CHCA)を用いた。マトリックス溶液はCHCA 1 mgを70%(v/v) アセトニトリル 1 mLで溶解することによって調製した。マトリックス添加剤として、0.4%(w/v) methanediphosphonic acid (MDPNA)を用いた。1 mg/mL CHCA溶液と0.4%(w/v) MDPNA を等量混合した後、その0.5 μLをμFocus MALDI plate
TM 900 μm (Hudson Surface Technology, Inc., Fort Lee, NJ)上へ滴下し、乾固させた。
【0065】
上記の免疫沈降で得られた第二精製溶液を1 μL取り、μFocus MALDI plate
TM 900 μm上のマトリックスへ滴下した。
【0066】
マススペクトルデータはAXIMA Performance (Shimadzu/KRATOS, Manchester, UK)を用いて、ポジティブイオンモードのLinear TOFで取得した。1 wellに対して400スポット、16,000ショットずつ積算した。ピークの検出限界の基準はS/N比3以上とした。Linear TOFのm/z値はピークのアベレージマスで表示した。m/z値は外部標準としてhuman angiotensin IIとhuman ACTH fragment 18-39、bovine insulin oxidized beta-chain、bovine insulinを用いてキャリブレーションした。
【0067】
[1−5.Aβ及びAβ様ペプチドのピーク強度の標準化]
各マススペクトルにおいて、各Aβ及びAβ様ペプチド(APP派生型ペプチド)のシグナル強度を内部標準ペプチド(SIL-Aβ1-38)のシグナル強度で除することにより、Aβ及びAβ様ペプチドのシグナル強度を標準化した。その後、1検体につき4つのマススペクトルから得られる各APP派生型ペプチドの標準化強度(Normalized intensity)の平均値を求めて、統計解析に用いた。ここで、平均化に用いる4つのNormalized intensityの中で、中央値の0.7〜1.3倍の範囲から外れたNormalized intensityは外れ値とみなして、平均化のデータ処理から外した。検出下限に達しない(S/N<3)、あるいは、外れ値が出て、平均化に用いるNormalized intensityのデータ数が3つ未満であった場合は検出不可とした。
【0068】
[1−6.統計]
PiB- とPiB+ との群間比較には、t検定を用いて評価した。PiB- とPiB+ とを判別する性能を評価するために受信者動作特性ROC(Receiver Operatorating Characteristic)曲線を用いて、その曲線以下の面積(AUC:area under the curve)、感度(Sensitivity)、特異度(Specificity)、及び正診率(Accuracy)を求めた。全ての検定は両側検定で行い、有意水準をP<0.05とした。各マーカー値とmcSUVRとの相関解析では、ピアソンの積率相関係数(Pearson product-moment correlation coefficient)を用いて評価した。ただし、mcSUVR で2例の欠損値があるため74例で解析した。
【0069】
[1−7.各マーカーの群間比較]
Aβ1-42のNormalized intensityに対するAβ1-39、Aβ1-40、又はAPP669-711のNormalized intensityの比率(Aβ1-39/Aβ1-42、Aβ1-40/Aβ1-42、APP669-711/Aβ1-42)をマーカーとして、PiB- とPiB+ との群間比較を行った(
図1,2,3)。t検定を行ったときのP値はいずれもP<0.001であり、PiB- に比べてPiB+ では統計学的有意に増加していることが示された。
【0070】
図1は、Aβ1-39/Aβ1-42について、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。同様に、
図2は、Aβ1-40/Aβ1-42について、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。
図3は、APP669-711/Aβ1-42について、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。いずれも単独マーカーについての結果である。
【0071】
箱ひげ図において、各群において、箱で示された範囲は、全検体のうち強度比順位が25〜75%に当たるサンプルの強度比分布範囲(四分位範囲)を表し、箱の上下に示す横線は、箱の上端及び下端から四分位範囲の1.5倍までの範囲内にあるサンプルのそれぞれ最大値及び最小値を表し、箱中の横棒は強度比の中央値を表す。以下の各箱ひげ図においても同じである。
【0072】
[1−8.各マーカーのROC解析]
Aβ1-39/Aβ1-42、Aβ1-40/Aβ1-42、及びAPP669-711/Aβ1-42の判定性能を評価するために、PiB+ を陽性として、PiB- 群に対するPiB+ 群のROC解析を行った(
図4,5,6)。その結果、Aβ1-39/Aβ1-42が最も高いAUC=0.898を示し、その次にAPP669-711/Aβ1-42が高いAUC=0.894を示し、Aβ1-40/Aβ1-42はAUC=0.828を示した。いずれのマーカーもAUCが0.8以上であり、PiB- 群とPiB+ 群とを精度よく判別可能であることを示している。
【0073】
図4は、Aβ1-39/Aβ1-42についてのROC曲線である。同様に、
図5は、Aβ1-40/Aβ1-42についてのROC曲線である。
図6は、APP669-711/Aβ1-42についてのROC曲線である。いずれも単独マーカーについての結果である。
【0074】
各マーカーのROC曲線で、“sensitivity+specificity−1”が最も高い値をカットオフ値に設定した。設定したカットオフ値と、その値におけるSensitivity、Specificity、及びAccuracyを表1に示す。Aβ1-39/Aβ1-42が最も高いAccuracy=0.855を示した。表1において、番号1〜3は、単独マーカーを解析したものである。
【0075】
【表1】
【0076】
[1−9.各マーカー値とmcSUVRとの相関解析]
Aβ1-39/Aβ1-42、Aβ1-40/Aβ1-42、及びAPP669-711/Aβ1-42が脳内アミロイド蓄積量を反映しているかどうかを調べるために、各指標とmcSUVRとの相関を解析した(
図7,8,9、表1)。その結果、3つのマーカー全てでピアソンの積率相関係数(r)は0.4以上となり相関があることが示されたが、特にAβ1-39/Aβ1-42の相関係数(r)は0.630と最も強い相関を示した。
【0077】
Aβ1-39/Aβ1-42、Aβ1-40/Aβ1-42、及びAPP669-711/Aβ1-42は脳内アミロイド蓄積状態の判定に有用な指標となり得ることを示している。今回の76症例に対する解析ではAβ1-39/Aβ1-42が最も優れた判定性能を示していた。
【0078】
図7は、Aβ1-39/Aβ1-42について、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAβ1-39/Aβ1-42比率を示す散布図である。同様に、
図8は、Aβ1-40/Aβ1-42について、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAβ1-40/Aβ1-42比率を示す散布図である。
図9は、APP669-711/Aβ1-42について、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAPP669-711/Aβ1-42比率を示す散布図である。いずれも単独マーカーについての結果である。また、図中の「○」はPiB- 群を示し、「●」はPiB+ 群を示している。以下の散布図においても同じである。
【0079】
[1−10.判別分析を用いたマーカーの組み合わせ方法]
Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42、及びAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせ、並びに、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の3マーカーの組み合わせで判別分析を行い、それぞれの判別関数zを得た。判別関数zを用いて、組み合わせるマーカー値から判別スコアを求めた。
【0080】
判別関数zを用いて、組み合わせるマーカー値から判別スコアを求め、その後に、次の統計解析を行った。
【0081】
[1−11.判別スコアによる群間比較]
各マーカーの組み合わせで得られた判別スコアについて、PiB- とPiB+ との群間比較を行った(
図10,11,12,13)。t検定を行ったときのP値はいずれもP<0.001であり、組み合わせた場合でも、PiB- に比べてPiB+ で統計学的有意に増加していることが確認された。
【0082】
図10は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。同様に、
図11は、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。
図12は、Aβ1-40/ Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。
図13は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の3マーカーによる組み合わせについて、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。
【0083】
[1−12.判別スコアによるROC解析]
判別スコアの判定性能を評価するために、PiB+ を陽性として、PiB- 群に対するPiB+ 群のROC解析を行った(
図14,15,16,17)。その結果、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42(
図14)、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42(
図15)、Aβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42(
図16)の2マーカーによる組み合わせ、及び、3マーカーによる組み合わせ(
図17)は、それぞれ単独マーカーよりも高いAUCであり、0.9以上を示した(
図14,15,16,17、表2)。つまり、マーカーを組み合わせることにより判別性能が向上して、非常に高い精度でPiB- とPiB+ とを判別できるようになった。今回のROC解析ではAβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の組み合わせが最も高いAUCを示した。
【0084】
図14は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについてのROC曲線である。同様に、
図15は、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについてのROC曲線である。
図16は、Aβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについてのROC曲線である。
図17は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の3マーカーによる組み合わせについてのROC曲線である。
【0085】
判別スコア>0のときPiB+ と判別し、判別スコア<0のときPiB- と判別する。すなわち、カットオフ値を0としたときの各組み合わせにおけるSensitivity、Specificity、及びAccuracyを表2(番号:11,12,13,14)に示す。全ての組み合わせにおいて、それぞれ単独マーカーよりも高いAccuracyを示した。つまり、マーカーを組み合わせることにより正しく判定する確率が向上した。今回の解析では、3マーカーによる組み合わせが、最も高いAccuracyを示した。表2において、番号11〜14は、各マーカー値を用いて判別分析を行い、組み合わせたマーカーの判別スコアを解析に用いたものである。
【0086】
【表2】
【0087】
[1−13.判別スコアによるmcSUVRとの相関解析]
組み合わせたマーカーの判別スコアが脳内アミロイド蓄積量を反映しているかどうかを調べるために、それぞれの判別スコアとmcSUVRとの相関を解析した。Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42、及びAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42、の2マーカーによる組み合わせ、並びに、3マーカーによる組み合わせは、それぞれ単独マーカーよりもピアソンの積率相関係数(r)が向上しており、PiB集積度をより良く反映する結果となった(
図18,19,20,21、表2)。今回の相関解析では、3マーカーによる組み合わせが、最も高い相関係数を示した。
【0088】
図18は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42の組み合わせの判別スコアを示す散布図である。同様に、
図19は、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の組み合わせの判別スコアを示す散布図である。
図20は、Aβ1-40/ Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAβ1-40/ Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせの判別スコアを示す散布図である。
図21は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の3マーカーによる組み合わせについて、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の組み合わせの判別スコアを示す散布図である。
【0089】
[実験例2]
[2−1.全検体の分布に基づく正規化を用いたマーカーの組み合わせ方法]
各マーカーの値を組み合わせるときに、各数値をそのまま平均したり足し算をすると、その組み合わせ値は数値の大きいマーカーからの影響が大きくなってしまう。そこで、各マーカーを同等に組み合わせるために、まず、Aβ1-39/Aβ1-42、Aβ1-40/Aβ1-42、及びAPP669-711/Aβ1-42それぞれについて、全76症例の分布に基づく正規化を行った。正規化は、全76症例のマーカー値の平均値(X)と標準偏差(S)を求め、各サンプルのマーカー値(x
i)を次の式により、z-score(z
i)へ変換した。
【0090】
z
i=(x
i−X)/S
【0091】
組み合わせるマーカーのz-scoreを平均した後に、次の統計解析を行った。
【0092】
Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42、及びAβ1-40/ Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせ、並びに、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の3マーカーによる組み合わせを実施した。
【0093】
[2−2.マーカーの組み合わせによる群間比較]
各マーカーを組み合わせたz-scoreについて、PiB- とPiB+ との群間比較を行った(
図22,23,24,25)。t検定を行ったときのP値はいずれもP<0.001であり、組み合わせた場合でも、PiB- に比べてPiB+ で統計学的有意に増加していることが確認された。
【0094】
図22は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。同様に、
図23は、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。
図24は、Aβ1-40/ Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。
図25は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の3マーカーによる組み合わせについて、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。
【0095】
[2−3.マーカーの組み合わせによるROC解析]
組み合わせたマーカーの判定性能を評価するために、PiB+ を陽性として、PiB- 群に対するPiB+ 群のROC解析を行った(
図26,27,28,29)。その結果、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42(
図27)、Aβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42(
図28)の2マーカーによる組み合わせ、及び、3マーカーによる組み合わせ(
図29)は、それぞれ単独マーカーよりも高いAUCであり、0.9以上を示した(
図27,28,29、表3)。つまり、マーカーを組み合わせることにより判別性能が向上して、非常に高い精度でPiB- とPiB+ とを判別できるようになった。今回のROC解析ではAβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の組み合わせが最も高いAUCを示した。
【0096】
図26は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについてのROC曲線である。同様に、
図27は、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについてのROC曲線である。
図28は、Aβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについてのROC曲線である。
図29は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の3マーカーによる組み合わせについてのROC曲線である。
【0097】
各組み合わせのROC曲線で、“sensitivity+specificity−1”が最も高い値をカットオフ値に設定した。設定したカットオフ値と、その値におけるSensitivity、Specificity、及びAccuracyを表3(番号:21,22,23,24)に示す。全ての組み合わせにおいて、それぞれ単独マーカーよりも高いAccuracyを示した。つまり、マーカーを組み合わせることにより正しく判定する確率が向上した。今回の解析では、3マーカーによる組み合わせが、最も高いAccuracyを示した。表3において、番号21〜24は、各マーカー値に対して全検体の分布に基づいて正規化した後に、組み合わせるマーカーを平均した数値を解析に用いたものである。
【0098】
【表3】
【0099】
[2−4.マーカーの組み合わせによるmcSUVRとの相関解析]
組み合わせたマーカーのz-scoreが脳内アミロイド蓄積量を反映しているかどうかを調べるために、それぞれのz-scoreとmcSUVRとの相関を解析した。Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42、及びAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42、の2マーカーによる組み合わせ、並びに、3マーカーによる組み合わせは、それぞれ単独マーカーよりもピアソンの積率相関係数(r)が向上しており、PiB集積度をより良く反映する結果となった(
図30,31,32,33、表3)。今回の相関解析では、3マーカーによる組み合わせが、最も高い相関係数を示した。
【0100】
図30は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42の組み合わせのz-scoreを示す散布図である。同様に、
図31は、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の組み合わせのz-scoreを示す散布図である。
図32は、Aβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAβ1-40/ Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせのz-scoreを示す散布図である。
図33は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の3マーカーによる組み合わせについて、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の組み合わせのz-scoreを示す散布図である。
【0101】
[実験例3]
[3−1.コントロール群の分布に基づく正規化を用いたマーカーの組み合わせ方法]
実施例1においては、各マーカー値を組み合わせるために、PiB- 群とPiB+ 群を全て含めた76症例の分布に基づいて正規化を行った。この実施例3においては、コントロールとなるPiB- 群の50症例の分布に基づく正規化を行い、組み合わせの評価を実施した。正規化は、PiB- 群50症例のマーカー値の平均値(X)と標準偏差(S)を求め、各マーカー値(x
i)を次の式により、z-score(z
i)へ変換した。
【0102】
z
i=(x
i−X)/S
【0103】
組み合わせるマーカーのz-scoreを平均した後に、次の統計解析を行った。
【0104】
実施例1におけるのと同様に、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42、及びAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42、の2マーカーによる組み合わせ、並びに、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の3マーカーによる組み合わせを実施した。
【0105】
[3−2.マーカーの組み合わせによる群間比較]
各マーカーを組み合わせたz-scoreについて、PiB- とPiB+ の群間比較を行った(
図34,35,36,37)。t検定を行ったときのP値はいずれもP<0.001であった。PiB- 群に基づく正規化を用いた場合でも、PiB- に比べてPiB+ で統計学的有意に増加していることが確認された。
【0106】
図34は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。同様に、
図35は、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。
図36は、Aβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。
図37は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の3マーカーによる組み合わせについて、PiB- とPiB+ との群間比較を示す箱ひげ図である。
【0107】
[3−3.マーカーの組み合わせによるROC解析]
組み合わせたマーカーの判定性能を評価するために、PiB+ を陽性として、PiB- 群に対するPiB+ 群のROC解析を行った(
図38,39,40,41)。その結果、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42(
図39)、及びAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42(
図40)の2マーカーによる組み合わせ、並びに、3マーカーによる組み合わせ(
図41)は、それぞれ単独マーカーよりも高いAUCであり、0.9以上を示した(
図39,40,41、表4)。つまり、PiB- 群に基づく正規化を用いた場合でも、マーカーを組み合わせることにより判別性能が向上して、非常に高い精度でPiB- とPiB+ とを判別できるようになった。このROC解析においても、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の組み合わせが最も高いAUCを示した。
【0108】
図38は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについてのROC曲線である。同様に、
図39は、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについてのROC曲線である。
図40は、Aβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについてのROC曲線である。
図41は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の3マーカーによる組み合わせについてのROC曲線である。
【0109】
各組み合わせのROC曲線で、“sensitivity+specificity−1”が最も高い値をカットオフ値に設定した。設定したカットオフ値と、その値におけるSensitivity、Specificity、及びAccuracyを表4に示す。全ての組み合わせにおいて、それぞれ単独マーカーよりも高いAccuracyを示した。つまり、マーカーを組み合わせることにより正しく判定する確率が向上した。この解析では、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の組み合わせが、最も高いAccuracyを示した。表4において、番号31〜34は、各マーカー値に対してPiB- 群50症例の分布に基づいて正規化した後に、組み合わせるマーカーを平均した数値を解析に用いたものである。
【0110】
【表4】
【0111】
[3−4.マーカーの組み合わせによるmcSUVRとの相関解析]
組み合わせたマーカーのz-scoreが脳内アミロイド蓄積量を反映しているかどうかを調べるために、それぞれのz-scoreとmcSUVRとの相関を解析した。Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42、及びAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせ、並びに、3マーカーによる組み合わせは、それぞれ単独マーカーよりもピアソンの積率相関係数(r)が向上していた(
図42,43,44,45、表4)。つまり、PiB- 群に基づく正規化を用いた場合でも、組み合わせることによりPiB集積度をより良く反映する結果となった。この相関解析では、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の組み合わせが、最も高い相関係数を示した。
【0112】
図42は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42の組み合わせのz-scoreを示す散布図である。同様に、
図43は、Aβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAβ1-39/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の組み合わせのz-scoreを示す散布図である。
図44は、Aβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせについて、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の2マーカーによる組み合わせのz-scoreを示す散布図である。
図45は、Aβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の3マーカーによる組み合わせについて、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAβ1-39/Aβ1-42とAβ1-40/Aβ1-42とAPP669-711/Aβ1-42の組み合わせのz-scoreを示す散布図である。
【0113】
以上の解析結果より、マーカー単独で使用するよりも組み合わせることでPiB- とPiB+ との判別精度が向上し、PiB集積度との相関も強くなることが判明した。つまり、Aβ1-39/Aβ1-42、Aβ1-40/Aβ1-42、及びAPP669-711/Aβ1-42の血中マーカーを組み合わせることにより、各マーカーが相補的に脳内アミロイド蓄積をより精度よく検出する効果があることを示している。また、組み合わせ方法としては、各マーカーを用いた判別分析であっても、各マーカー値を正規化した後に組み合わせる方法であっても、マーカーの組み合わせによる効果が認められた。各マーカー値を正規化する方法としては、全検体を基にした正規化であってもPiB- 群を基にした正規化であっても、マーカーの組み合わせによる効果があることが示された。
【0114】
以上例証した結果は、本発明の組み合わせマーカーは、脳内Aβ蓄積状態を判断する血中マーカーとして有用であることを示している。また、そのことによりアルツハイマー病診断の補助ならびに発症前診断に活用することができることが示された。