(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6467546
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】加工工具
(51)【国際特許分類】
B23Q 3/12 20060101AFI20190204BHJP
B23B 31/107 20060101ALI20190204BHJP
B23G 1/46 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
B23Q3/12 D
B23B31/107 B
B23G1/46 H
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-128243(P2018-128243)
(22)【出願日】2018年7月5日
【審査請求日】2018年7月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390027764
【氏名又は名称】カトウ工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グィエン ディン ディン
【審査官】
久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】
再公表特許第01/028721(JP,A1)
【文献】
特開平08−090313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/00 − 3/154
3/16 − 3/18
B23B 31/00 − 33/00
B23G 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランプカバーの軸方向へのスライドにより、ホルダー本体のワンタッチ脱着ができる加工工具であって、
連結部が上位装置に取り付けられ、下部に筒部を有する上部体と、
前記筒部の外周壁に設けられる第1ばねと、
第2ばねが巻き付けられる凸部と、中央のボディ部と、下端に工具を把持するコレットチャックと、からなり、前記上部体の前記筒部に着脱可能に装着されるホルダー本体と、
前記第1ばねを覆い、前記筒部の外側にスライド可能に装着されるクランプカバーと、
前記筒部の貫通孔に保持され、一側が前記ホルダー本体の前記ボディ部に対向し、他側が前記クランプカバーの内周に対向する鋼球と、
前記ボディ部の外周壁に設けられ、前記鋼球を支えるV字形の溝と、
前記クランプカバーの内周に設けられ、軸方向に傾斜し、前記鋼球を支える傾斜面と、
が備えられ、
前記貫通孔には前記鋼球が軸方向に移動可能な第1隙間(Δc)が設けられ、前記クランプカバー内側には前記鋼球が軸方向と直交する方向に移動可能な第2隙間(Δt)が設けられ、
工具からの押し返し力では、前記第1ばねと前記第2ばねの付勢力に抗して、前記鋼球が軸方向に前記第1隙間(Δc)を移動し、
工具の引張り力では、前記第2ばねが伸び、前記第1ばねの付勢力に抗して、前記鋼球が軸方向と直交する方向に前記第2隙間(Δt)を移動することを特徴とする加工工具。
【請求項2】
前記クランプカバーには、前記鋼球を外側方向に受け止める窪みが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の加工工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工工具に係り、より詳しくは、軸方向の微小伸縮が可能な加工工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軸方向に微少伸縮が可能な加工工具(タッパー)が示される。この構造を
図9に示す。この加工工具は、上部体1とホルダー本体2からなり、上部体1の上側が工作機械の主軸に取り付けられ、ホルダー本体2の下端には工具(タップ)が取り付けられる。ホルダー本体2は、環状の第1弾性体32と第2弾性体33で支持されるので、工具(タップ)で工作物にネジ穴をあける際、タップの押し返し力や、引張り力があっても微小伸縮(0.1〜0.5mm)できる。具体的には、第1弾性体32がタップの押し返し力25で縮み、第2弾性体33がタップの引張り力26で縮む。しかしながら、第1弾性体32と第2弾性体33には、耐油性のゴムのオーリングなどが使用されので、弾性係数にばらつきがあり、正確な荷重計算が難しい。また耐久性も低い。さらにゴムの弾性体は、より小さい5〜100μmの微小伸縮には対応できない。
【0003】
特許文献2に示される加工工具は、伸びばねと縮みばねで可動体をバランスさせる構造である。この構造は、可動体の伸縮量が押し返し力や引張り力に応じて大きくなる。最近は、工具の回転と送りが同期しているので、大きな伸縮は必要なく、微少な伸縮を可能とすることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−11474号公報
【特許文献2】特開2004−142033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、正確で安定した微少伸縮が可能な加工工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による加工工具は、クランプカバーの軸方向へのスライドにより、ホルダー本体のワンタッチ脱着ができる加工工具であって、連結部が上位装置に取り付けられ、下部に筒部を有する上部体と、前記筒部の外周壁に設けられる第1ばねと、第2ばねが巻き付けられる凸部と、中央のボディ部と、下端に工具を把持するコレットチャックと、からなり、前記上部体の前記筒部に着脱可能に装着されるホルダー本体と、前記第1ばねを覆い、前記筒部の外側にスライド可能に装着されるクランプカバーと、前記筒部の貫通孔に保持され、一側が前記ホルダー本体の前記ボディ部に対向し、他側が前記クランプカバーの内周に対向する鋼球と、前記ボディ部の外周壁に設けられ、前記鋼球を支えるV字形の溝と、前記クランプカバーの内周に設けられ、
軸方向に傾斜し、前記鋼球を支える傾斜面と、が備えられ、前記貫通孔には前記鋼球が軸方向に移動可能な第1隙間(Δc)が設けられ、前記クランプカバー内側には前記鋼球が軸方向と直交する方向に移動可能な第2隙間(Δt)が設け
られ、工具からの押し返し力では、前記第1ばねと前記第2ばねの付勢力に抗して、前記鋼球が軸方向に前記第1隙間(Δc)を移動し、工具の引張り力では、前記第2ばねが伸び、前記第1ばねの付勢力に抗して、前記鋼球が軸方向と直交する方向に前記第2隙間(Δt)を移動することを特徴とする。
【0007】
前記クランプカバーには、前記鋼球を外側方向に受け止める窪みが形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明による加工工具によれば、
(1)第1ばねと、第2ばねと、鋼球と、によりホルダー本体の微小伸縮を可能としたので、ゴムの弾性体のようなへたりがなく、耐久性を得ることができる。また、ゴムの弾性体のようなばらつきがなく、弾性係数に基づき正確で安定した微小伸縮が実現できる。
(2)貫通孔には鋼球が軸方向に移動可能な第1隙間(Δc)を設け、クランプカバー内側には鋼球が軸方向と直交する方向に移動可能な第2隙間(Δt)を設けたので、タップからの押し返し力、引張り力の2つに対応できる。
(3)ホルダー本体のボディ部の外周に設けられたV字形の溝に鋼球を係合させ、スライド可能に装着されるクランプカバーの内周で鋼球を押し込む構造なので、鋼球によるホルダー本体の着脱が容易にできる。
【0010】
クランプカバーに、鋼球を外側方向に受け止める窪みを設けたので、クランプカバーをスライドさせ、鋼球を窪みに落し込み、鋼球を筒部の外側方向に移動させることで、ホルダー本体のV字形の溝と鋼球の係合を外し、ホルダー本体を外すことができる。逆に、この状態から、ホルダー本体を上部体の筒部に装着し、クランプカバーを元に戻すと、V字形の溝と鋼球とが係合し、ホルダー本体のワンタッチの装着ができる。
【0011】
工具からの押し返し力では、第1ばねと前記第2ばねの付勢力に抗して、鋼球が第1隙間(Δc)を移動し、工具の引張り力では、第2ばねが伸び、第1ばねの付勢力に抗して、鋼球が第2隙間(Δt)を移動するようにしたので、押し返し力の強い荷重によって微小伸縮ができ、引張り力の比較的弱い荷重によって微小伸縮ができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明による加工工具の内部構造図(例1)である。
【
図2】本発明による加工工具の内部構造図(例2)である。
【
図6】クランプカバーと第1ばねの他の構成例である。
【
図7】鋼球の装着状態を示す断面図(断面形状が円形)である。
【
図8】従来の微少伸縮が可能な加工工具の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明による加工工具を詳しく説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明による加工工具100の内部構造図(例1)である。加工工具100は、上部体1と、ホルダー本体2と、締付けナット8と、クランプカバー3からなる。上部体1は、工作機械やロボットの上位装置に着脱自在に連結される部分である。
図1では、連結部1aは、工作機械の主軸に連結されるシャンクを図示している。上部体1は、連結部1aの下部に筒部1bを有する。ホルダー本体2は、上部の凸部2aと、中央のボディ部2bと、下端のコレットチャック2cからなる。凸部2を上にしてホルダー本体2が、上部体1の筒部1bに装着される。この装着状態では、上部体1の筒部1bに、ホルダー本体2のボディ部2bがはめ込まれる。コレットチャック2cは工具20を把持する。工具20は、これに限るものではないが、タップ(ネジ孔穿設用工具)とした。締付けナット8は、ホルダー本体2の下端に螺合し、工具20をホルダー本体2に締結する。筒部1bの外側には、クランプカバー3がスライド可能に装着される。クーラント(工具の冷却液)の流路10は、上部体1の連結部1aにコ字形に形成される。
【0015】
図1に示すように、筒部1bの外周には、巻付けの第1ばね5が設けられる。凸部2aには、巻付けの第2ばね6が設けられる。押し出し金具4は、第2ばね6の付勢力を調整する金具である。この実施例では、棒状の凸部2aと、中央のボディ部2bは、一体のものである。鋼球7は、筒部1bの貫通孔13に保持される。鋼球7は貫通孔13からはみ出して、一側がホルダー本体2のボディ部2bに対向し、他側がクランプカバー3の内周に対向している。ホルダー本体2のボディ部2bの外周には、鋼球7を支えるV字形の溝14が設けられる。クランプカバー3の内周には、鋼球7を支える傾斜面15が設けられる。
【0016】
図2は、本発明による他の加工工具100の内部構造図(例2)である。
図1の加工工具100とは、ホルダー本体2の上部の構成が少し異なるだけである。
図2では、凸部2aと中央のボディ2bが一体のものではなく、棒状の凸部2aがボディ部2bから分離される。凸部2aは、上部が連結部1aにはめ込まれ、下部がボディ部2bの凹部にはめ込まれる。凸部2aは軸の中心にクーラントの流路10が形成され、コ字形の流路はボディ部2bに形成される。その他の構成は、
図1と同じである。
【0017】
図3は、
図1の鋼球まわりの拡大図である。
図3に示すように、第1ばね5と第2ばね6は、装着状態では、両方とも軸方向(下方向)に付勢するばねとした。V字形の溝14は、一方が軸方向に対しθ1の角度を有し、他方が軸方向に対しθ2の角度を有する。θ1とθ2は、同じにも異なるようにもできる。傾斜面15は、軸方向に対しθ3の角度を有する。鋼球7は、第1ばね5と第2ばね6が軸方向(工具20の方向)に付勢しているので、θ3の傾斜面15と、θ1の溝14で工具20方向に押され、鋼球7が貫通孔13の下側端面に当接して保持される。上部体1の筒部1bは固定部であり、ホルダー本体2のボディ部2bが可動部であり、可動部が鋼球7で保持される形となる。なお、溝14の鋼球7との当接箇所(θ1側)には、ホルダー本体2の自重もかかり、傾斜面15の鋼球7との当接箇所にはクランプカバー3の自重もかかる。この状態では、鋼球7は、貫通孔13の上側端面との間に第1隙間Δcができる。鋼球7は、傾斜面15の接点と傾斜面の終点との間に第2隙間Δtができる。
【0018】
図3に示すように、クランプカバー3には、半球状の窪み11が設けられる。クランプカバーを第1ばね5の付勢力に抗して上方向にスライドさせると、鋼球7が窪み落ち込み可能となり、鋼球7が筒部1bの外側方向に移動でき、ホルダー本体2のV字形の溝14と鋼球7の係合が外れるので、ホルダー本体2を下方向に移動させて、これを外すことができる。逆にこの状態から、ホルダー本体2を上部体1の筒部1bに装着し、クランプカバー3を第1ばねの力で元に戻すと、V字形の溝14と鋼球7とが係合し、ホルダー本体2がロックされ、ワンタッチの装着ができる。
【0019】
図4は、
図3の動作説明図である。工具20の押し返し力25(上向き)が働いた場合を示す。鋼球7は、溝14の鋼球7との当接箇所(θ2側)で押されて、第1隙間Δcだけ上方向に移動し、貫通孔13の上側端面に当接する。第2ばね6は、ホルダー本体2が上に押されることで縮む。また、第1ばね5も、鋼球7の傾斜面15で押されて縮む。押し返し力25では、第1ばね5と第2ばね6が、両方とも縮むようにできる。鋼球7は、軸方向(上方向)に動き、軸方向と直交する方向には動かない。
【0020】
図5は、
図3の動作説明図である。工具20の引張り力26(下向き)が働いた場合を示す。鋼球7は、溝14の鋼球7との当接箇所(θ1側)で下向きに押されるが、貫通孔13の下側端面が軸方向への移動を阻止している。そのため、鋼球7は、軸方向と直交する方向に第2隙間Δtだけ移動する。この時、鋼球7が傾斜面15を軸方向(上方向)に押すので、第1ばね5が縮む。一方、第2ばね6は、下方向に伸びる。引張り力では、第1ばね5が縮み、第2ばね6が伸びる。鋼球7は、軸方向と直交する方向に動き、軸方向(下方向)には動かない。
【0021】
図6は、クランプカバーと第1ばねの他の構成例である。
図3では、第1ばね5は、装着状態では軸方向(下方向)に付勢するばねとしたが、
図6に示すように軸方向(上方向)に付勢するばねとしてもよい。この場合、クランプカバー3の半球状の窪み11は、クランプカバー3の上部に設けられる。鋼球7の動きは、
図4、5の動作説明と同じなので省略する。
【0022】
図7は、鋼球の装着状態を示す断面図(断面形状が円形)である。断面は
図1のA−A線で示す箇所である。筒部1bとボディ部2bとクランプカバー3は、断面が円形とした。鋼球7が貫通孔13にある場合、鋼球7は、貫通孔13にテーパがあるので、筒部1bの内側に出ることはない。また、上部体1の筒部1bとホルダー本体2は、例えば工具が部材に食らいついてホルダー本体2がねじれても、3つの鋼球7の位置関係や力関係は変化しない。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、軸方向の微小伸縮が可能な加工工具として好適である。
【符号の説明】
【0024】
1 上部体
1a 連結部
1b 筒部
2 ホルダー本体
2a 凸部
2b ボディ部
2c コレットチャック
3 クランプカバー
4 押し出し金具
5 第1ばね
6 第2ばね
7 鋼球
8 締付けナット
10 流路
11 半球状の窪み
13 貫通孔
14 溝
15 傾斜面
20 工具(タップ)
25 押し返し力
26 引張り力
Δc 第1隙間
Δt 第2隙間
32 第1弾性体
33 第2弾性体
100 加工工具
【要約】
【課題】正確で安定した微少伸縮が可能な加工工具を提供する。
【解決手段】クランプカバーの軸方向へのスライドにより、ホルダー本体のワンタッチ脱着ができる加工工具であって、連結部が上位装置に取り付けられ、下部に筒部を有する上部体と、筒部の外周壁に設けられる第1ばねと、第2ばねが巻き付けられる凸部と、中央のボディ部と、下端に工具を把持するコレットチャックと、からなり、上部体の前記筒部に着脱可能に装着されるホルダー本体と、第1ばねを覆い、筒部の外側にスライド可能に装着されるクランプカバーと、筒部の貫通孔に保持され、一側がホルダー本体のボディ部に対向し、他側がクランプカバーの内周に対向する鋼球と、ボディ部の外周壁に設けられ、鋼球を支えるV字形の溝と、クランプカバーの内周に設けられ、鋼球を支える傾斜面と、が備えられる。
【選択図】
図1