(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
乳がん,皮膚がん,頭頸部がん等の皮膚に浸潤した進行がんには、特有の病臭、例えば硫黄のような病臭がある。特にがんによる病臭が強い場合、患者が臭いを気にして周りの人々に気を使うため、人に逢うことを避け、孤立する恐れがあった。また看護師や家族にとっては、病臭の強い中で看護や介護を行わなければならず、精神的な負担が大きくなり、病臭の対策は医療や介護の場で大きな問題となっている。
【0003】
このため、例えば、乳がん患者への病臭対策として、特に硫黄系の悪臭に対して消臭効果が優れているデオドラント粉末としてポリフェノールを多く含む植物抽出物から作られた天然素材のものが使用されている。当該デオドラント粉末と、小麦粉と、水とを一定の割合で混ぜ、ペースト状にしたものを、ガーゼに塗り、それを患部に当て、一日に数回貼り換えている。
しかし、ペーストの作成の労力負担が大きく、デオドラント粉末からの着色対策が必要となる等の問題を有しており、医療現場での負担が大きく、更には患者が自宅で継続的に病臭対策を行うことは困難であるのが現状であった。
【0004】
特許文献1においては、上記の医療や介護の場での問題を考慮し、使用開始時に手間が掛からず、簡単に病臭に対する消臭効果が発揮され、且つ、その効き目が長時間に渡って維持可能となると共に利便性が大幅に改善されることを目的とした、医療用病臭抑制シートが記載されている。当該文献においては、ポリフェノールを多く含む植物抽出物から作られた天然素材である消臭成分を含浸し乾燥させた消臭剤含浸不織布と不織布とメッシュ材の3層からなる医療用病臭抑制シートが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の医療用病臭抑制シートを使用することで、患者からの細胞の壊死や炎症による体液や膿など(以下、「体液等」ともいう。)が当該シートに付着する。当該シートに使用されているポリフェノール系の消臭剤は褐色であるため、付着した患者からの体液の色から感染の有無などの患部の状態を医師や看護師が観察することはできなかった。
また、特許文献1のポリフェノール系の医療用病臭抑制シートによれば、一部の病臭に対して、発生量の割合を減少させることはできても、臭気として人が感知するレベル以下にはできず、また、酸臭が残存するなど消臭能力が十分ではなかった。
本発明は、患者からの体液等の色が観察しやすく、病臭の除去性能に優れた、医療用病臭吸収シートに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記に鑑み、消臭剤として特定の白色のゼオライトを使用することで、目視にて容易に患部の状態を医師や看護師が把握できるとともに、炭化水素系臭気、低級脂肪酸臭気、塩基性臭気、酸性系臭気などの不快な複合臭気を吸着する吸着特性を示すことを見出した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[10]に関する。
【0008】
[1] 消臭剤として
白色の疎水性ゼオライトを含有する、医療用病臭吸収シート
であって、白色の通気性シート(1)と、白色の支持シート(2)と、該通気性シート(1)及び該支持シート(2)の間に設けられた、疎水性ゼオライトを含む白色の消臭シート(3)と、を有し、前記消臭シート(3)が、ゼオライト及びバインダーを含浸させた不織布からなる消臭剤含浸不織布であり、前記バインダーが、シリコン系バインダー、アクリル系バインダー、及びでんぷんのりから選ばれる少なくとも一種である、医療用病臭吸収シート
[2] 前記ゼオライトの細孔径が0.5〜0.9nmである、上記[1]に記載の医療用病臭吸収シート。
[3] 前記ゼオライトが、
ZSM−5型ゼオライト、及びY型ゼオライトから選ばれる少なくとも1種である、上記[1]又は[2]に記載の医療用病臭吸収シート。
[4] 前記ゼオライトのシリカ/アルミナ比が5〜900である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の医療用病臭吸収シート。
[5] 緩衝材層(4)を更に有する、上記[
1]〜[4]のいずれかに記載の医療用病臭吸収シート。
[6] 吸水性ポリマー層(5)を更に有する、上記
[1]〜[5]のいずれかに記載の医療用病臭吸収シート。
[7]
前記消臭シート(3)、前記緩衝材層(4)及び前記吸水性ポリマー層(5)を包む通気性包装材(6)を有し、前記通気性包装材(6)が、難水溶性の白色紙である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の医療用病臭吸収シート。
[8] 前記通気性シート(1)がメッシュ材である、上記
[1]〜[7]のいずれかに記載の医療用病臭吸収シート。
[9] 前記支持シート(2)が、樹脂フィルム、又は不織布である、上記
[1]〜[8]のいずれかに記載の医療用病臭吸収シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、消臭剤として白色である疎水性ゼオライトを使用することで、患者からの体液等の色が観察しやすく、病臭の除去性能に優れた、医療用病臭吸収シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の医療用病臭吸収シートは、消臭剤として疎水性ゼオライトを含有する。
吸着材として白色の疎水性ゼオライトを使用することで、従来のポリフェノール系の植物抽出物の消臭成分や活性炭繊維とは異なり、目視にて体液等の色を容易に観察できるため、患者の状態を医師や看護師が把握できるようになる。更に、疎水性ゼオライトの有する特異的な細孔と吸着特性から、従来では吸着できなかった臭気にも対応できるようになる。
【0012】
[ゼオライト]
臭気の原因となる有機物の吸着を効率よく機能させる観点から、疎水性ゼオライトが用いられる。本発明に使用する疎水性ゼオライトは、例えば、シリカ比を高めたゼオライトや疎水化処理したゼオライトが用いられる。
シリカ比を高めたゼオライトのシリカ/アルミナ比は、好ましくは5〜1000、より好ましくは5〜900である。
疎水化処理としては、例えば、ゼオライトとテトラアルコキシシラン等のシラン化合物を接触させる方法が挙げられる。
【0013】
ゼオライトは、特に制限されるものではないが、フォージャサイト、
ZSM−5型ゼオライト、L型ゼオライト、β型ゼオライト、モルデナイト、チャバサイト、フェリエライト、クリノプチロライトが挙げられる。なお、フォージャサイトとしては、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、超安定化Y型ゼオライト(Ultra Stable Y;USY)が挙げられる。ゼオライトは、天然であっても、合成であってもよい。
これらのゼオライトの中でも、シリカ比を高めた疎水性ゼオライトが好ましく、より好ましくは、
ZSM−5型ゼオライト、及びY型ゼオライトから選ばれる少なくとも1種である。
【0014】
ゼオライトの細孔径は、通常0.3〜1.0nmであるが、吸着除去する分子径よりも大きいことが望ましい。好ましくは0.4〜1.0nmであり、更に好ましくは0.5〜1.0nmであり、更に好ましくは0.5〜0.9nmである。細孔径は、定容量式ガス吸着法により測定される細孔径である。前記定容量式ガス吸着法に使用する吸着ガスとしては、N
2、CO
2、CH
4、H
2等が挙げられる。
ゼオライトの比表面積は、特に制限されないが、好ましくは200m
2/g以上、より好ましくは250m
2/g以上、更に好ましくは300m
2/g以上、更に好ましくは400m
2/g以上である。なお、比表面積の上限は特に制限されないが、例えば、1000m
2/g以下である。なお、比表面積は窒素吸着BET法(なお、細孔径0.3nm以下のゼオライトはヘリウム吸着BET法)により求められる。
【0015】
ゼオライトは、好ましくは粉末状であり、粉末状ゼオライトの平均粒径(d50)は、好ましくは1.0〜30μm、より好ましくは1.5〜10μm、更に好ましくは2.0〜5μmである。
疎水性ゼオライトとしては、例えば、市販品として、ユニオン昭和社製ABSCENTS−1000、ABSCENTS−2000、ABSCENTS−3000、Smellrite、HiSiv−1000、HiSiv−3000、HiSiv−6000等が挙げられる。
【0016】
[医療用病臭吸収シート]
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の医療用病臭吸収シートは、例えば、通気性シート(1)と、支持シート(2)と、該通気性シート(1)及び該支持シート(2)の間に設けられた、疎水性ゼオライトを含む消臭シート(3)と、を有する。医療用病臭吸収シートは、更に緩衝材層(4)と、吸水性ポリマー層(5)を有することが好ましい。製造の容易の観点から、医療用病臭吸収シートは、前記消臭シート(3)、前記緩衝材層(4)及び前記吸水性ポリマー層(5)を包む通気性包装材(6)を有することが好ましい。
【0017】
通気性シート(1)は、例えば、消臭シート(3)の他面に設けたメッシュ材である。
通気性シート(1)の材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系ポリマー、ポリエステルなどの合成樹脂が挙げられる。
通気性シート(1)の色は、好ましくは白色である。
【0018】
支持シート(2)は、例えば、樹脂フィルム、又は不織布である。樹脂フィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等が挙げられる。不織布の材料としては、例えば、レーヨンやポリエステル等を用いることができる。
支持シート(2)の色は、好ましくは白色である。
【0019】
消臭シート(3)は、例えば、ゼオライト及びバインダーを含浸させた不織布を乾燥させて得られた消臭剤含浸不織布、疎水性ゼオライトを含む消臭剤含有吸水性ポリマー層を用いることができる。
ゼオライトとしては、前述の疎水性ゼオライトを用いることが好ましい。消臭シート(3)へのゼオライトの添着量は、好ましくは10〜500g/m
2、より好ましくは30〜300g/m
2、更に好ましくは40〜100g/m
2である。
【0020】
上記不織布に含浸させるバインダーとしては、通常使用可能なバインダーであれば、特に限定することなく有機系、無機系いずれも用いることができるが、例えば、シリコン系バインダー、アクリル系バインダー、ポリエチレン系バインダー、及びでんぷんのり等が挙げられ、消臭シートを白色にする観点から、好ましくは、シリコン系バインダー、アクリル系バインダー、及びでんぷんのりから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
消臭剤含浸不織布に用いる不織布の材料としては、特に限定されず一般的に使用されるものを用いることができるが、レーヨンやポリエステルを用いると、耐久性のあるものとなる。
【0021】
消臭剤含有吸水性ポリマー層は、例えば、吸水性ポリマー中に消臭剤として、疎水性ゼオライトを混合して形成したものである。吸水性ポリマーを用いることで、患部からの体液などを吸収することができる。また、吸水性ポリマー中に消臭剤として、疎水性ゼオライトを混合し、吸水性ポリマー層に消臭効果を持たせることもできる。消臭剤含有吸水ポリマー層を用いることにより、吸水性ポリマー層(5)を省略することができる。
吸水性ポリマーとしては、特に限定されないが、ポリアクリル酸ナトリウムを顆粒状にしたものが用いられる。例えば、アクアキープ(住友精化株式会社製)やアクアリック(株式会社日本触媒製)のものが用いられる。
消臭シート(3)の色は、好ましくは白色である。
【0022】
緩衝材層(4)は、例えば粉砕パルプなどの材料が用いられる。
吸水性ポリマー層(5)は、上記の吸水性ポリマーから形成される。消臭シートに吸水性ポリマーが含まれている場合、吸水性ポリマー層(5)は設けなくてもよい。
通気性包装材(6)は、例えば、難水溶性の白色紙(例えば、白色ティッシュペーパー)などの材料が用いられる。
【0023】
通気性シート(1)、支持シート(2)、消臭シート(3)、緩衝材層(4)、吸水性ポリマー層(5)等の層を積層する接着剤は、好ましくは通気性のあるラミネート素材である。
【0024】
次に本発明の医療用病臭吸収シートの使用方法について説明する。始めに本発明のシートを所定部位、例えば、乳がんなどの患部に当てる。
この時の当て方としては、例えば、先ず患部にガーゼを当て、ガーゼの上から通気性シート(1)を当て、支持シート(2)の上から胸帯などで皮膚に本発明のシートを固定する。
このように本発明の医療用病臭吸収シートを患部に貼り付けると、消臭剤として疎水性ゼオライトを用いているため、臭気の原因となる多種の物質を吸着除去することができ、臭気レベルを人が感知できないレベルまで低減することができるので、優れた病臭の吸収効果を発現することができる。
【0025】
このようにして本発明の医療用病臭吸収シートを患部に当てることで、病臭を吸収除去することが出来る。一日に本発明品を3〜4回程度貼り換えるだけで、患者の周囲に病臭が気にならない程度までに抑制されたものになる。
ここで、病臭としては、乳がん、皮膚がん、頭頸部がんなどの細胞の壊死による臭気、及び皮膚の細菌感染による膿などから発する悪臭が挙げられる。本発明の医療用病臭吸収シートは、これらの病臭の吸収のために使用される。
したがって、本発明の医療用病臭吸収シートは、所定の密封された袋から出し、袋を密閉した後、上記方法で本発明品を患部に当て、それを固定するだけの簡単な作業となるので、看護師、患者自身、及び患者の家族の誰であっても簡単に実施出来る。
加えて本発明の医療用病臭吸収シートは、消臭剤として白色のゼオライトを使用するため、当該シートに付着した患部の体液等の色を医師や看護師が観察できる。
本発明の医療用病臭吸収シートは、消臭シート(3)及び支持シート(2)が不織布であり、通気性シート(1)がメッシュ材であることで、吸湿性が良く、柔軟性に優れているので、局所を被覆しても違和感なく使用出来るものとなる。
【実施例】
【0026】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。評価には、密閉空間に本発明の医療用病臭吸収シートを入れ、一定時間での病臭の吸着除去を検討するために官能試験、GCMS及びにおい識別装置にて臭い成分を分析した。
【0027】
〔臭気指数〕
臭気指数は、下記の式(I)で表される指数であり、島津製作所社製、品番FF‐2020におい識別装置を用いた。
N=10log(D/T) (I)
〔式中、Nは臭気指数、D/Tは臭気濃度である。〕
におい識別装置は、複数のにおいセンサーを用い、臭いの強さや質を嗅覚に近いイメージで数値化し、測定ができる装置であり、最近では賞味期限設定のための保存試験などに用いられている。本測定結果は、臭気指数として得られる。
【0028】
〔臭気濃度〕
上記臭気指数を用いて臭気濃度を計算した。臭気濃度は、無臭になるまでの希釈倍率であり、上記式(I)中の臭気濃度であり、臭気指数を10で割り、対数を自然数に直して算出した。
【0029】
〔複合病臭モデル〕
本実施例では、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸、2−メチル酪酸、4−メチルペンタン酸、及びインドールなどの成分を主成分とする0.1ppmの混合気体1を調製し、複合病臭モデルとした。
【0030】
〔実施例1〕
疎水性ゼオライト(ユニオン昭和株式会社製
ZSM−5型、細孔径0.6nm、比表面積400m
2/g、平均粒径(d50)3.0μmとバインダーを水中に溶解させて、不織布に含浸させた。当該不織布を乾燥させて、ゼオライトの添着量が50g/m
2の消臭剤含浸不織布1―3を得た。
ポリエチレンフィルム1−2、白色ティッシュペーパー製の通気性包装材1−6の中に、吸水性ポリマー(住友精化株式会社製、アクアキープ)を積層した吸水性ポリマー層1−5、粉砕パルプを積層して緩衝層1−4、上記の消臭剤含浸不織布1―3を、この順に積層し、更に、不織布からなる通気性シート1−1を積層し、本発明の医療用病臭吸収シート1を得た。
次に、20Lフレックスサンプラーバッグ(近江オドエア―サービス社製)に300cm
2の本発明の医療用病臭吸収シート1を入れ、混合気体1を20L充填した。室温にて静置し、15分後と60分後にそれぞれ2Lフレックスサンプラーバッグに移し入れ、モノトラップ(ジーエルサイエンス製)に2時間捕集して、GCMS(島津製作所 GCMS−QP2010 Ultra)にて分析し、同時に官能試験も実施した。
分析条件としては、気化室のスプリット(1:10)260℃にてキャリアガスをヘリウムとし、分析カラムはInertCap Pure WAX 長さ60m、内径0.32mm(ジーエルサイエンス製)を用い、分析温度を40℃から250℃まで昇温した。
また、臭気指数の算出として、15分後と60分後にそれぞれ2Lフレックスサンプラーバッグに移し入れたものを、におい識別装置(島津製作所社製、FF‐2020S)にて絶対値表現解析ASmellスタンダードモードにて分析した。
【0031】
[比較例1]
実施例1において、医療用病臭吸収シート1の代わりにデオドラントケアシート(トライ・カンパニー社製、ポリフェノールを多く含む植物抽出物から作られた天然素材である消臭成分を含浸し乾燥させた消臭剤含浸不織布を含むシート)を用いる以外は同様にして消臭試験を実施した。
【0032】
図2、及び
図3に15分後と60分後の実施例と比較例のGCMSのクロマトグラムの結果を示した。15分後の官能試験では、医療用病臭吸収シートは、ほぼ無臭レベルであったのに対し、デオドラントケアシートは酸臭が認識された。また、GCMSでは、医療用病臭吸収シートはデオドラントケアシートに比べ、化合物数、検出量がともに著しく減少した。
60分後の結果では、医療用病臭吸収シートは無臭レベルであったのに対し、デオドラントケアシートは臭いが残存していた。また、GCMSでは、医療用病臭吸収シートはデオドラントケアシートに比べ、化合物数、検出量がともに著しく減少し、不検出であった。
【0033】
臭気指数の測定結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1の結果に基づき臭気濃度を算出し表2に示した。いずれも数値が小さい方が吸着除去効率は高いことになる。
【0036】
【表2】
【0037】
表2に示した60分後の比較では、コントロールでは、1977倍に希釈しなければ無臭にならないのに対し、実施例のゼオライト含有の医療用病臭吸収シート処理後では、8倍希釈で無臭になった。一方、比較例のデオドラントケアシートでも効果はあるものの、348倍の希釈が必要であり、実施例の約44倍となった。