【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年経済産業省「課題解決型医療機器等開発事業(ふじのくに先端 医療総合特区)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
爪甲色素線条のデジタルカラー画像内における各画素のRGBパラメータ値を、それら3つを成分とする3次元ベクトルとみなし、該3次元ベクトルのRGB空間における緯度変数と経度変数に基づいて規定される点の分布から指標値を算出し、前記指標値に基づいて、爪甲色素線条の悪性または良性を判定する判定装置であって、
爪甲色素線条の前記デジタルカラー画像から算出された指標値を、前記デジタルカラー画像の撮影時間に対応づけて、指標値データに記憶する指標値登録手段と、
前記指標値データを読み出して、最新指標値および前回指標値ともに閾値よりも下回るものの、最新指標値は前回指標値よりも大きい場合、悪性と判断し、前回指標値において閾値よりも上回るものの、最新指標値は閾値よりも下回る場合、経過観察要と判断する判定手段と、
前記判定手段による判定結果を、出力装置に出力する結果出力手段
を備えることを特徴とする判定装置。
爪甲色素線条のデジタルカラー画像内における各画素のRGBパラメータ値を、それら3つを成分とする3次元ベクトルとみなし、該3次元ベクトルのRGB空間における緯度変数と経度変数に基づいて規定される点の分布から指標値を算出し、前記指標値に基づいて、爪甲色素線条の悪性または良性を判定する判定プログラムであって、
コンピュータを、
爪甲色素線条の前記デジタルカラー画像から算出された指標値を、前記デジタルカラー画像の撮影時間に対応づけて、指標値データに記憶する指標値登録手段と、
前記指標値データを読み出して、最新指標値および前回指標値ともに閾値よりも下回るものの、最新指標値は前回指標値よりも大きい場合、悪性と判断し、前回指標値において閾値よりも上回るものの、最新指標値は閾値よりも下回る場合、経過観察要と判断する判定手段と、
前記判定手段による判定結果を、出力装置に出力する結果出力手段
として機能させることを特徴とする判定プログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2は、1回の検査で、爪甲色素線条の良性または悪性を判定することを提案する。しかしながら、1回目の検査で、悪性と判定されたものの、その後の生検により良性と診断される場合や、逆に、1回目の検査で良性と判定されたものの、その後の経過によって悪性と診断される場合があり、判定精度を向上させる必要がある。
【0008】
爪甲色素線条の良性または悪性の診断は、生検によってなされるが、生検においては、被験者の爪を外したうえで爪母の細胞が取得されるため、被験者の負担が大きい。従って、特許文献1および特許文献2に開示されるように、非侵襲で且つ客観的な判定方法に対する期待は大きい。また、特許文献1および特許文献2に開示される判定方法は、非侵襲で且つ客観的であるので、継続して検査をすることを可能とし、悪性化を見逃さず、早期に対応することが期待される。
【0009】
そこで、高精度に爪甲色素線条の良性または悪性を判定可能な判定装置および判定プログラムの開発が期待されている。
【0010】
従って本発明の目的は、高精度に爪甲色素線条の良性または悪性を判定可能な判定装置および判定プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の特徴は、爪甲色素線条のデジタルカラー画像内における各画素のRGBパラメータ値を、それら3つを成分とする3次元ベクトルとみなし、該3次元ベクトルのRGB空間における緯度変数と経度変数に基づいて規定される点の分布から指標値を算出し、指標値に基づいて、爪甲色素線条の悪性または良性を判定する判定装置に関する。本発明の第1の特徴に係る判定装置は、爪甲色素線条のデジタルカラー画像から算出された指標値を、デジタルカラー画像の撮影時間に対応づけて、指標値データに記憶する指標値登録手段と、指標値データを読み出して、時間の経過に伴って指標値が増加傾向であるか否かに基づいて、爪甲色素線条の悪性または良性を判定する判定手段と、判定手段による判定結果を、出力装置に出力する結果出力手段を備える。
【0012】
判定手段は、指標値データから、最新指標値と前回指標値とを取得し、最新指標値および前回指標値が閾値よりも高い場合、または最新指標値が前回指標値よりも高い場合、爪甲色素線条が悪性の可能性が高いと判定しても良い。また判定手段は、指標値データから、最新指標値と前回指標値とを取得し、最新指標値および前回指標値が閾値よりも低く、最新指標値が前回指標値よりも低い場合、爪甲色素線条が良性の可能性が高いと判定しても良い。
【0013】
判定手段は、指標値データに登録された複数の指標値を取得し、時間の経過に伴った複数の指標値の推移の傾きを算出し、複数の指標値の全てが閾値よりも高い場合、または傾きが増加傾向である場合、爪甲色素線条が悪性の可能性が高いと判定しても良い。判定手段は、指標値データに登録された複数の指標値を取得し、時間の経過に伴った複数の指標値の推移の傾きを算出し、複数の指標値の全てが閾値よりも低く、傾きが減少傾向である場合、爪甲色素線条が良性の可能性が高いと判定しても良い。
【0014】
ここで判定手段は、無色素性爪甲メラノーマ以外の爪甲色素線条について、悪性または良性を判定しても良い。
【0015】
またデジタルカラー画像が、小児の爪甲色素線条に関する場合、結果出力手段は、デジタルカラー画像から算出された指標値の推移を表示しても良い。
【0016】
本発明の第2の特徴は、爪甲色素線条のデジタルカラー画像内における各画素のRGBパラメータ値を、それら3つを成分とする3次元ベクトルとみなし、該3次元ベクトルのRGB空間における緯度変数と経度変数に基づいて規定される点の分布から指標値を算出し、指標値に基づいて、爪甲色素線条の悪性または良性を判定する判定プログラムに関する。本発明の第2の特徴に係る判定プログラムは、コンピュータを、爪甲色素線条のデジタルカラー画像から算出された指標値を、デジタルカラー画像の撮影時間に対応づけて、指標値データに記憶する指標値登録手段と、指標値データを読み出して、時間の経過に伴って指標値が増加傾向であるか否かに基づいて、爪甲色素線条の悪性または良性を判定する判定手段と、判定手段による判定結果を、出力装置に出力する結果出力手段として機能させる。
【0017】
判定手段は、指標値データから、最新指標値と前回指標値とを取得し、最新指標値および前回指標値が閾値よりも高い場合、または最新指標値が前回指標値よりも高い場合、爪甲色素線条が悪性の可能性が高いと判定しても良い。また判定手段は、指標値データから、最新指標値と前回指標値とを取得し、最新指標値および前回指標値が閾値よりも低く、最新指標値が前回指標値よりも低い場合、爪甲色素線条が良性の可能性が高いと判定しても良い。
【0018】
判定手段は、指標値データに登録された複数の指標値を取得し、時間の経過に伴った複数の指標値の推移の傾きを算出し、複数の指標値の全てが閾値よりも高い場合、または傾きが増加傾向である場合、爪甲色素線条が悪性の可能性が高いと判定しても良い。判定手段は、指標値データに登録された複数の指標値を取得し、時間の経過に伴った複数の指標値の推移の傾きを算出し、複数の指標値の全てが閾値よりも低く、傾きが減少傾向である場合、爪甲色素線条が良性の可能性が高いと判定しても良い。
【0019】
ここで判定手段は、無色素性爪甲メラノーマ以外の爪甲色素線条について、悪性または良性を判定しても良い。
【0020】
またデジタルカラー画像が、小児の爪甲色素線条に関する場合、結果出力手段は、デジタルカラー画像から算出された指標値の推移を表示しても良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高精度に爪甲色素線条の良性または悪性を判定可能な判定装置および判定プログラムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。
【0024】
(概要)
図1を参照して本発明の実施の形態に係る判定装置1を説明する。本発明の実施の形態に係る判定装置1は、
図2に示すように、被験者の爪101に生じた爪甲色素線条102をデジタルカラーダーモスコープ2で撮影した画像データに基づいて、指標値を算出する。判定装置1は、時間経過に伴う指標値の変化に基づいて、爪甲色素線条102の悪性または良性を判定する。この判定結果は、医師等のユーザによる、爪甲色素線条の診断を支援する。
【0025】
ここで、判定装置1が、本発明の実施の形態に係る「指標値」を算出する処理を説明する。
【0026】
本発明の実施の形態に係る指標値は、爪甲色素線条の「色のまだらさ」が、良性または悪性を識別する重要な基準であるとの考えに基づいて算出される。
【0027】
判定装置1は、デジタルカラーダーモスコープ2から取得したカラー画像のフルスケール画像内から、爪甲部のみを解析対象領域として取り出す。判定装置1は、撮影時に使用したジェリーの泡、乱反射が顕著な部分を、取り出した解析対象領域から除外する。
【0028】
カラー画像がもっている3つの自由度を有効利用するために、RGBの3次元空間において、RGBパラメータを成分とする3次元ベクトルを考える。すなわち、解析対象領域内の各画素(i-th pixel) がもっているRGBパラメータ値を成分とする3次元ベクトルpi=(Ri, Gi, Bi)を考える。
【0029】
次に、
図3に示すように、RGBの3次元空間における緯度変数と経度変数を求める。RG平面を赤道面みなし、ベクトルがRG平面となす角度を緯度変数θ、ベクトルのRG平面への射影がR軸からなす角度を経度変数Φとして導入する。
【0030】
経度変数(Φi)と緯度変数(θi)は、以下の数1の式で算出される。
【0032】
算出された角度の単位は、弧度法(rad)でも、度数法(°)でも良い。以下は弧度法(rad)で測った結果を示す。
【0033】
図4に示すように、画像ごとに、得られた(Φi,θi)を、横軸Φi、縦軸θiとした2次元直交座標にプロットする。
図4は、爪部メラノーマの悪性度を表す図となる。
【0034】
なお、点の分布として、(θ,Φ)平面上に表現する方法の代わりに、(θ,Φ)から計算される単位球表面における点(1, 0, 0)からの距離を利用することも可能である。
【0035】
プロットされた点の分散は、以下の数2の式で計算され、指標値DIを定義する。
【0037】
尚、指標値DIとして、各点の分布の重心からの平均距離を利用することも可能である。
【0038】
指標値に基づいて、良性群と悪性群を区別するために、閾値が設定される。この閾値は、ROC(Receiver Operating Characteristics)解析、擬陽性と擬陰性の平均を最小にする解析等により統計的に算出される。本発明の実施の形態において閾値は、0.0928であって、被験者の爪部カラー画像から算出された指標値が、閾値よりも高い場合、悪性と判定し、閾値よりも低い場合、良性と判定する。
【0039】
図4を参照して、経度と緯度(Φi,θi)の分布図を説明する。
図4において、縦軸が緯度変数θで、横軸が経度変数Φである。弧度法の単位系(rad)を用いている。
図4(a)は、初期メラノーマに対応し、
図4(b)は、良性母斑に対応する。
【0040】
図4(a)に示す初期メラノーマの指標値DIは0.1772で、
図4(b)に示す良性母斑の指標値DIは0.0417であった。数値が示すように、良性母斑の場合、(Φi,θi)が狭い範囲に集中する傾向があり、一方、初期メラノーマの場合、分布が散らばる傾向にある。調べたメラノーマ群と母斑群において、同様の傾向が見られた。
【0041】
このことは、メラノーマにおいては「色の多様性」が存在することを示している。従って、主観的には、
図4に示す(Φi,θi)の分布を用いて、分布が狭ければ母斑、分布が広ければメラノーマと理解することが可能である。表現の客観性は、指標値DIにより、更に向上すると考えられる。その根拠は、メラノーマ群と母斑群におけるDI値のp−値が、p<1.0×10
−5だからである。ここで、p−値とは、メラノーマ群と母斑群におけるDI値の差が偶然おこる確率を表し、それが小さければ両者間のDI値に有意な差があることを意味する。
【0042】
なお、本発明の実施の形態に係る指標値は、色素の分析によるものであるので、無色素性爪甲メラノーマの検出には、不適である。
【0043】
(判定装置)
判定装置1は、記憶装置10、処理装置20および入出力インタフェース30を備える一般的なコンピュータである。判定装置1は、入出力インタフェース30を介して、デジタルカラーダーモスコープ2、入力装置3および出力装置4に接続する。
【0044】
本発明の実施の形態においてデジタルカラーダーモスコープ2、入力装置3および出力装置4は、判定装置1とは別の筐体で構成される場合を説明するが、判定装置1に内蔵されても良い。
【0045】
デジタルカラーダーモスコープ2は、
図2に示すように、デジタルカラーダーモスコープ本体部201とCCDカメラ(二次元固体撮像装置)202とを備える。デジタルカラーダーモスコープ2は、爪甲色素線条102のカラー画像データ(例えば、jpg形式)を取得し、判定装置1の入出力インタフェース30に入力する。本発明の実施の形態において、デジタルカラーダーモスコープ2が撮影したデジタルカラーダーモスコープ画像を用いる場合を説明するが、爪甲色素線条の指標値を算出できれば、この画像に限らない。
【0046】
入力装置3は、キーボードやマウス等である。入力装置3は、ユーザの操作によりユーザの指示を取得し、判定装置1の入出力インタフェース30に入力する。ユーザの指示は、被験者の識別子等の被験者情報、デジタルカラーダーモスコープ2からカラー画像データを取得する指示、爪甲色素線条102の判定に関する指示などである。
【0047】
出力装置4は、ディスプレイ等である。出力装置4は、判定装置1の入出力インタフェース30から取得したデータを、ユーザに認識可能な形式で表示する。入出力インタフェース30から取得したデータは、例えば、ユーザの指示を入力するための画面、爪甲色素線条102の判定結果や、指標値の推移グラフなどである。
【0048】
記憶装置10は、ハードディスク、ROM、RAM、CD−ROM、USBメモリ等であって、処理装置20が参照するデータや処理装置20の処理結果を記憶する記憶媒体である。記憶装置10は、本発明の実施の形態に係る判定プログラムを記憶するとともに、指標値データ11を記憶する。
【0049】
指標値データ11は、爪甲色素線条102のデジタルカラー画像から算出された指標値を、デジタルカラー画像の撮影時間に対応づけたデータである。指標値データ11は、複数の被験者のデータを記憶する場合、被験者の識別子をキーに、患部の識別子、デジタルカラー画像の撮影時間およびこのデジタルカラー画像から算出された指標値を対応づけて記憶しても良い。ここで患部の識別子は、例えば、右手/左手/右足/左足のいずれか、および親指/人差し指/中指/薬指/小指のいずれかによって特定される。
【0050】
処理装置20は、記憶装置10に記憶されたデータを読み出して処理するとともに、その処理結果を記憶装置10に記憶する。処理装置20は、記憶装置10に記憶された判定プログラムを読み出して実行することにより、
図1に示す各手段として機能する。処理装置20は、指標値登録手段21、判定手段22および結果出力手段23を備える。
【0051】
指標値登録手段21は、爪甲色素線条102のデジタルカラー画像から算出された指標値を、デジタルカラー画像の撮影時間に対応づけて、指標値データ11に記憶する。指標値登録手段21は、デジタルカラー画像から、上述の計算方法により指標値を算出して、指標値データ11に記憶する。
【0052】
具体的には、指標値登録手段21は、被験者の爪甲色素線条102のデジタルカラー画像内における各画素のRGBパラメータ値を、それら3つを成分とする3次元ベクトルとみなし、該3次元ベクトルのRGB空間における緯度変数と経度変数に基づいて規定される点の分布から、指標値を算出する。ここで、指標値の算出方法は、特開2010−252895号公報または特開2011−130897号公報に開示される。
【0053】
指標値が算出されると、指標値登録手段21は、算出した指標値を、被験者の識別子および爪甲色素線条102の撮影時間と対応づけて、指標値データ11に記憶する。
【0054】
判定手段22は、指標値データ11を読み出して、爪甲色素線条102の悪性または良性を判定する。判定手段22は、時間の経過に伴って指標値が増加傾向であるか否か、に基づいて、爪甲色素線条の悪性または良性を判定する。ここで判定手段22は、指標値が閾値よりも高いか否かをさらに参照して、爪甲色素線条の悪性または良性を判定しても良い。判定手段22は、指標値が常時閾値を上回る場合、または指標値が増加傾向の場合、悪性と判定する。判定手段22は、指標値が常時閾値を下回り、かつ、指標値が減少傾向の場合、良性と判定する。それ以外の場合、判定手段22は、今後も経過観察が必要であると判定する。
【0055】
本発明の実施の形態において判定手段22は、指標値データ11から、最新指標値と前回指標値とを取得して、この2値に基づいて判定する。判定手段22は、最新指標値および前回指標値がともに閾値よりも高い場合、または最新指標値が前回指標値よりも高い場合、爪甲色素線条が悪性の可能性が高いと判定する。判定手段22は、最新指標値および前回指標値がともに閾値よりも低く、最新指標値が前回指標値よりも低い場合、爪甲色素線条が良性の可能性が高いと判定する。判定手段22は、それ以外の場合は、要経過観察と判定する。
【0056】
図5を参照して、本発明の実施の形態に係る判定手段22による判定処理を説明する。
図5に示す処理は、被験者Aの右手中指など、特定の被験者の特定の患部に対して、判定する処理を示す。
【0057】
まずステップS1において判定手段22は、最新指標値と、前回指標値とを取得する。ステップS2において判定手段22は、最新指標値および前回指標値が、ともに閾値以上であると判定した場合、ステップS5に進む。
【0058】
ステップS2において判定手段22は、最新指標値および前回指標値の少なくとも一方が閾値以上でない、すなわち最新指標値および前回指標値のうちの少なくとも一方が、閾値未満と判定した場合、ステップS3に進む。ステップS3において判定手段22は、最新指標値が前回指標値よりも大きいと判定した場合、ステップS5に進み、小さいと判定した場合、ステップS4に進む。
【0059】
ステップS4において判定手段22は、最新指標値および前回指標値が、ともに閾値未満であると判定した場合、ステップS7に進む。ステップS4において判定手段22は、最新指標値および前回指標値の少なくとも一方が閾値未満でない、すなわち最新指標値または前回指標値が、閾値以上と判定した場合、ステップS6に進む。
【0060】
ステップS5において判定手段22は、悪性である可能性が高いと判定し、「危険度[高]」と出力し、生検を示唆する旨を出力する。すなわち判定手段22は、最新指標値および前回指標値がともに閾値以上の場合、または、最新指標値が前回指標値よりも大きい場合、悪性である可能性が高いと判定する。
【0061】
ステップS6において判定手段22は、さらなる経過観察が必要と判定し、「危険度[中]」と出力し、要経過観察を示唆する旨を出力する。すなわち判定手段22は、ステップS5およびステップS7において、悪性または良性と判断できない場合、さらなる経過観察が必要と判定する。
【0062】
ステップS7において判定手段22は、良性である可能性が高いと判定し、「危険度[小]」と出力する。すなわち判定手段22は、最新指標値および前回指標値がともに閾値未満で、最新指標値が前回指標値よりも小さい場合、良性である可能性が高いと判定する。
【0063】
ここで、
図5に示す判定方法は、成人の、無色素性爪甲メラノーマ以外の爪甲色素線条について判定する場合に好適である。小児の爪甲色素線条や無色素性爪甲メラノーマは、
図5に示す判定方法で判定されなくとも良い。従って、判定装置1は、小児の爪甲色素線条や無色素性爪甲メラノーマについては、本発明の実施の形態に係る判定方法の適用外である旨の警鐘を予め表示するのが好ましい。
【0064】
結果出力手段23は、判定手段22による判定結果を、出力装置4に出力する。結果出力手段23は、例えば、
図6に示す画面を、出力装置4に表示する。
【0065】
図6は、ある被験者の結果表示画面Vである。結果表示画面Vは、表示設定部P、指標値リスト表示部Lおよび指標値グラフ表示部Gを備える。指標値リスト表示部Lおよび指標値グラフ表示部Gは、表示設定部Pにおいて設定された情報に適合する指標値に基づいて、リスト形式およびグラフ形式でそれぞれ表示する。
【0066】
また、指標値グラフ表示部Gは、結果表示部Rを備える。結果表示部Rは、判定手段22による判定結果を表示する。
図6に示すグラフにおいて、最新の2値の指標値は、ともに閾値よりも低いものの、増加傾向であるので、「危険度[高]」と出力し、爪甲色素線条の悪性を示唆する旨を出力する。
【0067】
結果表示部Rは、「危険度[高]」の場合、赤色で表示し、「危険度[中]」の場合、黄色で表示し、「危険度[低]」の場合、青色で表示するなど、医師等が色により認識しやすいように表示をしても良い。
【0068】
表示設定部Pは、被験者選択部P1、表示患部選択部P2、データオプション選択部P3、経過時間(月)オプション選択部P4、指標値オプション選択部P5および再表示ボタンB1を備える。
【0069】
被験者選択部P1は、指標値データ11に記憶される被験者の識別子を選択するインタフェースである。
図6に示す図では、一人の被験者のみ選択される場合を説明するが、複数の被験者が選択され、複数の被験者の指標値データを同時に表示するように制御されても良い。
【0070】
表示患部選択部P2は、患部を選択するインタフェースである。
図6に示す図では、一つの患部のみが設定される場合を説明するが、複数の患部が選択され、複数の患部の指標値データを同時に表示するように制御されても良い。
【0071】
データオプション選択部P3、経過時間(月)オプション選択部P4および指標値オプション選択部P5は、指標値グラフ表示部Gの表示領域を選択するインタフェースである。
【0072】
再表示ボタンB1は、被験者選択部P1、表示患部選択部P2、データオプション選択部P3、経過時間(月)オプション選択部P4および指標値オプション選択部P5のうちのいずれかが変更された場合、変更後の設定に基づいて指標値グラフ表示部Gを再表示する指示を入力するためのボタンである。
【0073】
ここで結果出力手段23は、成人の爪甲色素線条については、
図6に示すように、危険度を表示するが、小児の爪甲色素線条については、危険度を表示しなくとも良い。すなわちデジタルカラーダーモスコープ2で撮影されたデジタルカラー画像が、小児の爪甲色素線条に関する場合、結果出力手段23は、デジタルカラー画像から算出された指標値の推移を表示する。
【0074】
本発明の実施の形態において指標値は、爪甲色素線条の「色のまだらさ」が、良性または悪性を識別する重要な基準であるとの考えに基づいて算出されるものであり、時間経過により、着色に変化が生じる。この結果、指標値が閾値より低くても、指標値が増加傾向の場合、悪性(無色素性のメラノーマを除く)の可能性が高いと考えられる。これは、例えば、爪組織内のメラニン細胞によって、まだらになったメラニン生成物の活動が、時間の経過とともに増加することによるものと考えられる。
【0075】
一方、指標値が減少傾向の場合、「色のまだらさ」が軽減する傾向、すなわち色の均質化を意味し、爪母体における母斑細胞内のユーメラニン生成物が増えることに起因するものと考えられる。この結果、今回指標値が閾値より低く、指標値が減少傾向の場合、良性の可能性が高いと考えられる。
【0076】
図7を参照して、本発明の実施の形態に係る判定装置1の効果を説明する。
図7に示す例は、良性と診断された6例と、悪性と診断された3例の指標値の推移を示す。
【0077】
悪性3例の一つの悪性Aは、生検により悪性と判断されたケースであって、最新指標値および前回指標値ともに閾値よりも下回るものの、最新指標値は前回指標値よりも大きい。従来の判定方法によれば、このような症例に対して、最新指標値が閾値未満であることを以て、良性と判断してしまう問題があった。これに対し本発明の実施の形態は、最新指標値は前回指標値よりも大きく、増加傾向であることを以て、「危険度[高]」および「悪性」と出力することにより、早期に悪性と判断し、生検を示唆することを可能とする。
【0078】
良性6例の一つの良性Bは、前回指標値において閾値よりも上回るものの、最新指標値は閾値よりも下回り、減少傾向がみられる。従来の判定方法によれば、このような症例に対して、前回指標値が閾値よりも大きいことを以て、悪性と判断する場合があった。これに対し本発明の実施の形態は、「危険度[中]」および「要経過観察」と出力することにより、即座の生検を回避して、将来的に良性または悪性と変化する可能性を示唆する。
【0079】
良性6例の一つの良性Eは、前回指標値および最新指標値がともに閾値未満であり、かつ、最新指標値が前回指標値よりも低いので、本発明の実施の形態に係る判定装置1によれば、良性と判断することができる。これにより判定装置1は、生検を実施することなく、爪甲色素線条の良性または悪性を判定することができる。
【0080】
このように本発明の実施の形態に係る判定装置1は、指標値の時間推移を考慮して、爪甲色素線条の良性および悪性を判定する。
【0081】
このように本発明の実施の形態に係る判定装置1は、診断の正確さを向上することができる。さらに判定装置1は、非侵襲の検査の正確さが向上することにより、生検による被験者の負担を軽減するとともに、悪性のケースを見逃さないことが期待できる。
【0082】
(第1の変形例)
本発明の実施の形態において、判定手段22が、最新指標値が前回指標値よりも大きいか否かに基づいて、判定する処理を説明したが、第1の変形例においては、最新指標値と前回指標値がほぼ同じ「一定」の判定を加える。
【0083】
第1の変形例において判定手段22は、
図8に示すように、最新指標値が、前回指標値と同じ場合のみならず、その差分が2α以内の場合、「一定」とみなす。この場合、
図5のステップS3において判定手段22は、最新指標値が、前回指標値よりも、所定値(α)以上大きい場合、悪性と判定する。一方、最新指標値が、前回指標値よりも、小さい場合、または差分が所定値(α)未満の場合、ステップS6に進み経過観察要と判定する。
【0084】
例えば、
図7に示す良性Dのケースは、最新指標値および前回指標値はともに閾値未満であって、最新指標値は前回指標値より大きいものの、ほぼ一定である。本発明の実施の形態においては、最新指標値が前回指標値よりも大きいことを以て悪性を示唆するが、第1の変形例においては、ほぼ一定と判定することにより、良性として判断することができる。
【0085】
このように、最新指標値と前回指標値との大小判断において、所定値のバッファを考慮することにより、判定手段22は、即座の生検を回避するとともに、時間経過に伴う爪甲色素線条の変化に応じて適切に判定することができる。
【0086】
(第2の変形例)
本発明の実施の形態において、判定手段22が最新指標値と前回指標値の2値に基づいて判定する場合を説明したが、第2の変形例において、判定手段22が複数の値に基づいて判定する場合を説明する。
【0087】
変形例に係る判定手段22は、指標値データ11に登録された複数の指標値を取得し、時間の経過に伴った複数の指標値の推移の傾きを算出する。判定手段22は、複数の指標値の全てが閾値よりも高い場合、または傾きが増加傾向である場合、爪甲色素線条が悪性の可能性が高いと判定する。判定手段22は、複数の指標値の全てが閾値よりも低く、かつ、傾きが減少傾向である場合、爪甲色素線条が良性の可能性が高いと判定する。判定手段22は、それ以外の場合は、要経過観察と判定する。
【0088】
図9を参照して、第2の変形例に係る判定手段22が、複数の指標値の全てに基づいて判定するケースを説明する。
図9において、左右水平方向の実線は閾値を示す。また、右上に向かう実線は、傾きの増加傾向を、水平方向に向かう一点鎖線は、傾きの一定を、右下に向かう二点鎖線は、傾きの減少傾向を示す。
【0089】
図9(a)は、全ての指標値が閾値よりも高い場合を示す。この場合、判定手段22は、傾きを問わず、悪性である可能性が高いと判定し、「危険度[高]」と出力する。
【0090】
図9(b)は、全ての指標値が閾値よりも低い場合を示す。この場合、判定手段22は、傾きが増加傾向の場合、「危険度[高]」と出力し、傾きが一定の場合、「危険度[中]」と出力し、傾きが減少傾向の場合、「危険度[小]」と出力する。
【0091】
図9(c)は、一部の指標値が閾値よりも高く、一部の指標値が閾値よりも低い場合を示す。この場合、判定手段22は、傾きが上昇傾向の場合、「危険度[高]」と出力し、傾きが一定または減少傾向の場合、さらなる経過観察が必要と判定し、「危険度[中]」と出力する。
【0092】
第2の変形例に係る判定手段22は、
図10に示す処理により判定する。
図10に示す処理は、被験者Aの右手中指など、特定の被験者の特定の患部に対して、判定する処理を示す。
【0093】
まずステップS11において判定手段22は、指標値データ11から特定の被験者の特定の患部の指標値を抽出し、抽出した指標値から傾きを算出する。傾きは、例えば最小二乗法等により、各指標値に近似する直線の傾きにより算出される。
【0094】
ステップS12において判定手段22は、1回目の指標値から最新の指標値までの、過去のすべての指標値が閾値を超えると判定した場合、ステップS15に進む。
【0095】
ステップS12において判定手段22は、1回目の指標値から最新の指標値までの、一部の指標値が閾値を超えないと判定した場合、ステップS13に進む。ステップS13において判定手段22は、ステップS11において算出した傾きが増加傾向である場合、ステップS15に進み、一定の場合、ステップS16に進み、減少傾向である場合、ステップS14に進む。
【0096】
ステップS14において判定手段22は、1回目の指標値から最新の指標値までの、過去のすべての指標値が閾値を超えないと判定した場合、ステップS17に進む。ステップS14において判定手段22は、1回目の指標値から最新の指標値までの、一部指標値が閾値を超えると判定した場合、ステップS16に進む。
【0097】
ステップS15において判定手段22は、悪性である可能性が高いと判定し、「危険度[高]」と出力し、生検を示唆する旨を出力する。すなわち判定手段22は、全ての指標値が閾値以上の場合、または、傾きが増加傾向の場合、悪性である可能性が高いと判定する。
【0098】
ステップS16において判定手段22は、さらなる経過観察が必要と判定し、「危険度[中]」と出力し、要経過観察を示唆する旨を出力する。すなわち判定手段22は、ステップS15およびステップS17において、悪性または良性と判断できない場合、さらなる経過観察が必要と判定する。
【0099】
ステップS17において判定手段22は、良性である可能性が高いと判定し、「危険度[小]」と出力する。すなわち判定手段22は、全ての指標値が閾値未満の場合、かつ、傾きが減少傾向の場合、良性である可能性が高いと判定する。
【0100】
第2の変形例に示すように、判定手段22は、複数の値に基づいて、爪甲色素線条の悪性または良性を判定しても良い。また
図9および
図10を参照して、指標値データ11の全期間の指標値を参照して判定する場合を記載したが、一部の期間の指標値に基づいて判定したり、極端に指標値が大きい場合や小さい場合などの所定範囲外の指標値を除外したりするなどの変形例も考えられる。
【0101】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明の実施の形態と第1および第2の変形例によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなる。
【0102】
例えば、本発明の実施の形態に記載した判定装置は、
図1に示すように一つのハードウエア上に構成されても良いし、その機能や処理数に応じて複数のハードウエア上に構成されても良い。また判定装置は、通信ネットワークを介して接続するサーバに実装されても良く、通信ネットワークを介してデジタルカラーダーモスコープ2からカラー画像を取得して判定するように構成されても良い。
【0103】
本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。