特許第6467684号(P6467684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リガクの特許一覧

<>
  • 特許6467684-蛍光X線分析装置 図000002
  • 特許6467684-蛍光X線分析装置 図000003
  • 特許6467684-蛍光X線分析装置 図000004
  • 特許6467684-蛍光X線分析装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6467684
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20190204BHJP
【FI】
   G01N23/223
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-146528(P2015-146528)
(22)【出願日】2015年7月24日
(65)【公開番号】特開2017-26511(P2017-26511A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(72)【発明者】
【氏名】原 真也
(72)【発明者】
【氏名】堂井 真
(72)【発明者】
【氏名】山田 康治郎
【審査官】 蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−304405(JP,A)
【文献】 特開2004−4102(JP,A)
【文献】 特開平10−019812(JP,A)
【文献】 特開2010−38539(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0118148(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に1次X線を照射するX線源と、
前記試料から発生する蛍光X線の強度を測定する検出手段と、
前記試料について前記検出手段で測定した測定強度を記憶し、前記試料について仮定した組成に基づいて、前記1次X線により励起されて前記試料から発生する蛍光X線の理論強度を計算し、その理論強度と前記試料について記憶した測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが合致するように、前記試料について仮定した組成を逐次近似的に修正計算して、前記試料の組成を算出する算出手段と、
組成が前記算出手段に算出され記憶されたモニター試料と、
前記試料の測定面がフィルムで覆われる場合の前記フィルムについて組成が入力される入力手段とを備え、
前記算出手段が、
前記フィルムで測定面が覆われた前記モニター試料について前記検出手段で測定した測定強度を記憶し、
前記モニター試料について記憶した組成、前記フィルムについて入力された組成および前記フィルムについて仮定した厚さに基づいて、前記フィルムで減衰した1次X線により励起され前記モニター試料から発生して前記フィルムで減衰する蛍光X線の理論強度を計算し、その理論強度と前記フィルムで測定面が覆われた前記モニター試料について記憶した測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが合致するように、前記フィルムについて仮定した厚さを逐次近似的に修正計算して、前記フィルムの厚さを算出するとともに記憶し、
前記フィルムで測定面が覆われた組成が未知の未知試料について前記検出手段で測定した測定強度を記憶し、
前記未知試料について仮定した組成、前記フィルムについて入力された組成および前記フィルムについて記憶した厚さに基づいて、前記フィルムで減衰した1次X線により励起され前記未知試料から発生して前記フィルムで減衰する蛍光X線の理論強度を計算し、その理論強度と前記フィルムで測定面が覆われた前記未知試料について記憶した測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが合致するように、前記未知試料について仮定した組成を逐次近似的に修正計算して、前記未知試料の組成を算出する蛍光X線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光X線分析装置において、
前記算出手段が、前記フィルムの厚さを算出するにあたり、
前記モニター試料について記憶した組成に基づいて、前記1次X線により励起され前記モニター試料中の各成分から発生する蛍光X線である測定線の理論強度を各測定線のフィルムなし理論強度として計算するとともに、
前記モニター試料について記憶した組成、前記フィルムについて入力された組成および前記フィルムについて仮定した厚さに基づいて、前記フィルムで減衰した1次X線により励起され前記モニター試料から発生して前記フィルムで減衰する各測定線の理論強度を各測定線のフィルムあり理論強度として計算し、
各測定線の前記フィルムなし理論強度および前記フィルムあり理論強度に基づいて、各測定線における前記フィルムによる減衰率を計算するとともに、
各測定線の前記フィルムあり理論強度に基づいて、各測定線における標準偏差および変動係数を計算し、
前記減衰率と前記変動係数の積が最も小さい測定線を最適測定線として選択し、
前記フィルムで測定面が覆われた前記モニター試料について前記検出手段で測定した前記最適測定線の測定強度を記憶し、
前記モニター試料について記憶した組成、前記フィルムについて入力された組成、および、前記フィルムあり理論強度を計算した際に仮定した厚さを初期値とする前記フィルムについて仮定した厚さに基づいて、前記フィルムで減衰した1次X線により励起され前記モニター試料から発生して前記フィルムで減衰する前記最適測定線の理論強度を計算し、その理論強度と前記フィルムで測定面が覆われた前記モニター試料について記憶した前記最適測定線の測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが合致するように、前記フィルムについて仮定した厚さを逐次近似的に修正計算して、前記フィルムの厚さを算出するとともに記憶する蛍光X線分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の蛍光X線分析装置において、
前記算出手段が、前記フィルムの厚さを算出するにあたり、
算出した前記フィルムの厚さと、前記フィルムあり理論強度を計算した際に仮定した厚さとの差が所定の範囲内に収まるまで、算出した前記フィルムの厚さを前記フィルムについて仮定した厚さとして、前記フィルムあり理論強度の計算から前記フィルムの厚さの算出までを繰り返し行う蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムで測定面が覆われた試料の組成を求める蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蛍光X線分析において、そのままでは真空中で飛散してしまう液体試料、粉体試料については、フィルムで測定面を覆い、試料にフィルムを介して1次X線を照射して、試料から発生する蛍光X線の強度を、フィルムを介して測定している。X線はフィルムを透過する際に減衰する(吸収される)ので、正確な分析のためには何らかの補正が必要であるところ、従来技術として、例えば、以下のような蛍光X線分析方法がある(特許文献1参照)。
【0003】
この蛍光X線分析方法では、まず、主たる構成元素が既知で相異なる複数の標準試料について、真空中でその試料表面(測定面)が露出している第1の測定条件、不活性ガス雰囲気中でその試料表面が露出している第2の測定条件、および真空中でその試料表面が保護膜(フィルム)に覆われている第3の測定条件において、1次X線を照射して前記主たる構成元素から発生した蛍光X線の強度を測定する。そして、蛍光X線ごとに、第1の測定条件での蛍光X線の強度に対する第2および第3の測定条件での蛍光X線の強度の減衰率を算出して、それらの減衰率を記憶しておく。
【0004】
次に、構成元素の含有率が未知である分析対象試料すなわち未知試料について、1次X線を照射して発生した蛍光X線の強度を測定し、蛍光X線ごとに、その強度を、未知試料の測定条件に応じて前記減衰率によって補正する。例えば、フィルムで測定面が覆われた未知試料を真空中で測定する場合には、第1の測定条件での蛍光X線の強度に対する第3の測定条件での蛍光X線の強度の減衰率によって補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−105849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、フィルムによるX線の減衰率は、フィルムの組成および厚さ、X線の波長によって異なり、また、蛍光X線のみならず1次X線もフィルムを透過する際に減衰するので、フィルムで測定面が覆われた未知試料について上記の従来技術により正確な分析を行うためには、あらかじめ、未知試料の測定に用いるのと同じ組成および厚さのフィルムならびに同じ波長分布の1次X線を用いて、標準試料について測定を行い、蛍光X線ごとに減衰率を算出して記憶しておく必要がある。フィルムは多種多様であり、未知試料によって1次X線を切り換えて用いることもあるので、想定されるすべての減衰率について算出して記憶しておくのは多大な手間がかかり、現実的でない。
【0007】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、フィルムで測定面が覆われた試料について、簡便かつ正確に組成を求めることができる蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の蛍光X線分析装置は、まず、試料に1次X線を照射するX線源と、前記試料から発生する蛍光X線の強度を測定する検出手段と、前記試料について前記検出手段で測定した測定強度を記憶し、前記試料について仮定した組成に基づいて、前記1次X線により励起されて前記試料から発生する蛍光X線の理論強度を計算し、その理論強度と前記試料について記憶した測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが合致するように、前記試料について仮定した組成を逐次近似的に修正計算して、前記試料の組成を算出する算出手段と、組成が前記算出手段に算出され記憶されたモニター試料と、前記試料の測定面がフィルムで覆われる場合の前記フィルムについて組成が入力される入力手段とを備えている。
【0009】
そして、前記算出手段が、前記フィルムで測定面が覆われた前記モニター試料について前記検出手段で測定した測定強度を記憶し、前記モニター試料について記憶した組成、前記フィルムについて入力された組成および前記フィルムについて仮定した厚さに基づいて、前記フィルムで減衰した1次X線により励起され前記モニター試料から発生して前記フィルムで減衰する蛍光X線の理論強度を計算し、その理論強度と前記フィルムで測定面が覆われた前記モニター試料について記憶した測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが合致するように、前記フィルムについて仮定した厚さを逐次近似的に修正計算して、前記フィルムの厚さを算出するとともに記憶する。
【0010】
前記算出手段は、さらに、前記フィルムで測定面が覆われた組成が未知の未知試料について前記検出手段で測定した測定強度を記憶し、前記未知試料について仮定した組成、前記フィルムについて入力された組成および前記フィルムについて記憶した厚さに基づいて、前記フィルムで減衰した1次X線により励起され前記未知試料から発生して前記フィルムで減衰する蛍光X線の理論強度を計算し、その理論強度と前記フィルムで測定面が覆われた前記未知試料について記憶した測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが合致するように、前記未知試料について仮定した組成を逐次近似的に修正計算して、前記未知試料の組成を算出する。
【0011】
本発明の蛍光X線分析装置は、ファンダメンタルパラメーター法(以下、FP法ともいう)により試料の組成を算出する算出手段を備えているが、その算出手段が、まず、未知試料の測定に用いられるフィルムについて、そのフィルムで測定面が覆われた組成が既知のモニター試料の測定強度を利用して、蛍光X線のフィルムによる減衰のみならず1次X線のフィルムによる減衰も理論強度計算に組み込んだFP法により、フィルムの厚さを算出して記憶する。この際、測定者が行うべき作業は、フィルムの組成の入力とフィルムで測定面が覆われたモニター試料の測定のみである。そして、算出手段は、フィルムで測定面が覆われた未知試料の測定強度を利用して、フィルムについて入力された組成および記憶した厚さに基づき、蛍光X線のフィルムによる減衰のみならず1次X線のフィルムによる減衰も理論強度計算に組み込んだFP法により、未知試料の組成を算出する。
【0012】
つまり、未知試料の測定に用いられるフィルムの組成が変わったり、未知試料の測定に用いられる1次X線が切り換えられたりしても、測定者があらかじめ行うべき作業は、フィルムの組成の入力とフィルムで測定面が覆われたモニター試料の測定のみであって、従来技術のように、未知試料の測定に用いるのと同じ組成および厚さのフィルムならびに同じ波長分布の1次X線を用いて、測定面が露出している場合とフィルムで覆われる場合の両方において標準試料について測定を行い、蛍光X線ごとに減衰率を算出して記憶しておく、というような多大な手間は要しない。
【0013】
しかも、本発明の蛍光X線分析装置では、あらかじめフィルムの厚さを算出する際にも、それに基づいて未知試料の組成を算出する際にも、蛍光X線のフィルムによる減衰のみならず1次X線のフィルムによる減衰も理論強度計算に組み込んだFP法による。したがって、本発明の蛍光X線分析装置によれば、フィルムで測定面が覆われた未知試料について、簡便かつ正確に組成を求めることができる。
【0014】
本発明の蛍光X線分析装置においては、前記算出手段が以下のような構成であることが好ましい。すなわち、前記算出手段は、前記フィルムの厚さを算出するにあたり、まず、前記モニター試料について記憶した組成に基づいて、前記1次X線により励起され前記モニター試料中の各成分から発生する蛍光X線である測定線の理論強度を各測定線のフィルムなし理論強度として計算するとともに、前記モニター試料について記憶した組成、前記フィルムについて入力された組成および前記フィルムについて仮定した厚さに基づいて、前記フィルムで減衰した1次X線により励起され前記モニター試料から発生して前記フィルムで減衰する各測定線の理論強度を各測定線のフィルムあり理論強度として計算する。
【0015】
そして、前記算出手段は、各測定線の前記フィルムなし理論強度および前記フィルムあり理論強度に基づいて、各測定線における前記フィルムによる減衰率を計算するとともに、各測定線の前記フィルムあり理論強度に基づいて、各測定線における標準偏差および変動係数を計算し、前記減衰率と前記変動係数の積が最も小さい測定線を最適測定線として選択する。
【0016】
さらに、前記算出手段は、前記フィルムで測定面が覆われた前記モニター試料について前記検出手段で測定した前記最適測定線の測定強度を記憶し、前記モニター試料について記憶した組成、前記フィルムについて入力された組成、および、前記フィルムあり理論強度を計算した際に仮定した厚さを初期値とする前記フィルムについて仮定した厚さに基づいて、前記フィルムで減衰した1次X線により励起され前記モニター試料から発生して前記フィルムで減衰する前記最適測定線の理論強度を計算し、その理論強度と前記フィルムで測定面が覆われた前記モニター試料について記憶した前記最適測定線の測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが合致するように、前記フィルムについて仮定した厚さを逐次近似的に修正計算して、前記フィルムの厚さを算出するとともに記憶する。
【0017】
この場合には、算出手段が、モニター試料について、蛍光X線のフィルムによる減衰のみならず1次X線のフィルムによる減衰も理論強度計算に組み込んで、各測定線のフィルムなし理論強度およびフィルムあり理論強度を計算し、それらに基づいて、フィルムで測定面が覆われたモニター試料について測定するにあたっての最適測定線を選択するので、いっそう正確にフィルムの厚さを算出でき、それに基づいていっそう正確に未知試料の組成を算出できて、しかも、測定者の手間は増えない。
【0018】
本発明の蛍光X線分析装置においては、さらに前記算出手段が、前記フィルムの厚さを算出するにあたり、算出した前記フィルムの厚さと、前記フィルムあり理論強度を計算した際に仮定した厚さとの差が所定の範囲内に収まるまで、算出した前記フィルムの厚さを前記フィルムについて仮定した厚さとして、前記フィルムあり理論強度の計算から前記フィルムの厚さの算出までを繰り返し行うことが好ましい。この場合には、算出手段が、算出したフィルムの厚さと、フィルムあり理論強度を計算した際に仮定した厚さとの差が所定の範囲内に収まるまで、最適測定線を選択し直してフィルムの厚さを繰り返し算出するので、よりいっそう正確にフィルムの厚さを算出でき、それに基づいてよりいっそう正確に未知試料の組成を算出できて、しかも、測定者の手間は増えない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1〜第3実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
図2】第1実施形態の蛍光X線分析装置の動作のフローチャートである。
図3】第2実施形態の蛍光X線分析装置の動作のフローチャートである。
図4】第3実施形態の蛍光X線分析装置の動作のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の第1実施形態の蛍光X線分析装置について、図にしたがって説明する。図1に示すように、この装置は、まず、試料3,13に1次X線2を照射するX線管などのX線源1と、試料3,13から発生する蛍光X線4の強度を測定する検出手段9と、試料3,13の組成を算出するコンピュータなどの算出手段10Aと、組成が算出手段10Aに算出され記憶されたモニター試料3と、試料3,13の測定面がフィルム12で覆われる場合のフィルム12について組成が入力されるキーボード、タッチパネルなどの入力手段11とを備えている。
【0021】
算出手段10Aは、試料3,13について検出手段9で測定した測定強度を記憶し、試料3,13について仮定した組成に基づいて、1次X線2により励起されて試料3,13から発生する蛍光X線4の理論強度を計算し、その理論強度と試料3,13について記憶した測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが合致するように、試料3,13について仮定した組成を逐次近似的に修正計算して、つまりFP法により、試料3,13の組成を算出する。
【0022】
ここで、試料3,13には、組成が算出手段10Aに算出され記憶されたモニター試料3と、組成が未知の未知試料13が含まれる。未知試料13は、分析対象であって、例えば、そのままでは真空中で飛散してしまう液体試料、粉体試料であり、測定される際には、フィルム12で測定面13aが覆われる。用いられるフィルム12は、例えば、材質がポリエステル、ポリプロピレン、ポリイミドなどであり、厚さが2.5〜12μm程度であって、フィルム12のメーカーから組成および厚さが示されており、その示された組成が入力手段11から入力されるが、厚さについては、製造ロットによるばらつきもあり、メーカーから示された値は十分正確とはいえず、入力手段11からの入力は任意である。モニター試料3は、フィルム12の厚さを算出するためにこの蛍光X線分析装置が備える固体試料である。
【0023】
試料3,13は、容器14に収容されて試料台8に載置される。図1においては、容器14に収容された試料3,13の測定面3a,13aがフィルム12で覆われた状態を縦断面で示しているが、モニター試料3については、測定面3aがフィルム12で覆われずに露出していても、測定が可能である。検出手段9は、試料3,13から発生する蛍光X線4を分光する分光素子5と、分光された蛍光X線6ごとにその強度を測定する検出器7で構成される。なお、分光素子5を用いずに、エネルギー分解能の高い検出器を検出手段としてもよい。
【0024】
第1実施形態の蛍光X線分析装置が備える算出手段10Aは、具体的には、図2のフローチャートに示したように動作する。まず、ステップS1で、未知試料13の測定に用いられるフィルム12で測定面3aが覆われたモニター試料3について検出手段9で測定した測定強度を記憶する。
【0025】
次に、ステップS2で、モニター試料3について記憶した組成、フィルム12について入力された組成およびフィルム12について仮定した厚さに基づいて、フィルム12で減衰した1次X線2により励起されモニター試料3から発生してフィルム12で減衰する蛍光X線4の理論強度を計算し、その理論強度とフィルム12で測定面3aが覆われたモニター試料3についてステップS1で記憶した測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが合致するように、フィルム12について仮定した厚さを逐次近似的に修正計算して、フィルム12の厚さを算出するとともに記憶する。
【0026】
ここで、フィルム12について仮定した厚さの初期値としては、メーカーから示された厚さが入力手段11から入力される場合には、それを用いればよいし、そのような入力がされない場合には、算出手段10Aが、あらかじめ入力されている複数の候補値から無作為に選択して用いてもよいし、あらかじめ入力されている1つの固定値を用いてもよい。また、モニター試料3中の各成分から発生する蛍光X線4である測定線のうち、どの波長の測定線についてステップS1,S2の作業を行うかについては、第1実施形態の装置が備える算出手段10Aでは、あらかじめ決められているものとする。
【0027】
次に、ステップS3で、フィルム12で測定面13aが覆われた組成が未知の未知試料13について検出手段9で測定した測定強度を記憶する。
【0028】
次に、ステップS4で、未知試料13について仮定した組成、フィルム12について入力された組成およびフィルム12についてステップS2で記憶した厚さに基づいて、フィルム12で減衰した1次X線2により励起され未知試料13から発生してフィルム12で減衰する蛍光X線4の理論強度を計算し、その理論強度とフィルム12で測定面13aが覆われた未知試料13についてステップS3で記憶した測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが合致するように、未知試料13について仮定した組成を逐次近似的に修正計算して、未知試料13の組成を算出する。
【0029】
上述したように、第1実施形態の蛍光X線分析装置は、FP法により試料3,13の組成を算出する算出手段10Aを備えているが、その算出手段10Aが、まず、未知試料13の測定に用いられるフィルム12について、そのフィルム12で測定面3aが覆われた組成が既知のモニター試料3の測定強度を利用して、蛍光X線4のフィルム12による減衰のみならず1次X線2のフィルム12による減衰も理論強度計算に組み込んだFP法により、フィルム12の厚さを算出して記憶する(ステップS1,S2)。この際、測定者が行うべき作業は、フィルム12の組成の入力とフィルム12で測定面3aが覆われたモニター試料3の測定のみである。
【0030】
そして、算出手段10Aは、フィルム12で測定面13aが覆われた未知試料13の測定強度を利用して、フィルム12について入力された組成および記憶した厚さに基づき、蛍光X線4のフィルム12による減衰のみならず1次X線2のフィルム12による減衰も理論強度計算に組み込んだFP法により、未知試料13の組成を算出する(ステップS3,S4)。
【0031】
つまり、未知試料13の測定に用いられるフィルム12の組成が変わったり、未知試料13の測定に用いられる1次X線2が切り換えられてその波長分布が変わったりしても、測定者があらかじめ行うべき作業は、フィルム12の組成の入力とフィルム12で測定面3aが覆われたモニター試料3の測定のみであって、従来技術のように、未知試料の測定に用いるのと同じ組成および厚さのフィルムならびに同じ波長分布の1次X線を用いて、測定面が露出している場合とフィルムで覆われる場合の両方において標準試料について測定を行い、蛍光X線ごとに減衰率を算出して記憶しておく、というような多大な手間は要しない。
【0032】
しかも、第1実施形態の蛍光X線分析装置では、あらかじめフィルム12の厚さを算出する際にも、それに基づいて未知試料13の組成を算出する際にも、蛍光X線4のフィルム12による減衰のみならず1次X線2のフィルム12による減衰も理論強度計算に組み込んだFP法による。したがって、第1実施形態の蛍光X線分析装置によれば、フィルム12で測定面13aが覆われた未知試料13について、簡便かつ正確に組成を求めることができる。
【0033】
次に、本発明の第2実施形態の蛍光X線分析装置について説明する。第2実施形態の装置は、備える算出手段10Bの動作が、第1実施形態の装置が備える算出手段10Aの動作と一部異なるだけであるので、その異なる部分について図3のフローチャートを用いて説明する。すなわち、第2実施形態の装置が備える算出手段10Bは、フィルム12の厚さを算出するにあたり、まず、ステップS0−1で、モニター試料3について記憶した組成に基づいて、1次X線2により励起されモニター試料3中の各成分から発生する蛍光X線4である測定線4の理論強度を各測定線4のフィルムなし理論強度として計算する。
【0034】
次に、ステップS0−2で、モニター試料3について記憶した組成、フィルム12について入力された組成およびフィルム12について仮定した厚さに基づいて、フィルム12で減衰した1次X線2により励起されモニター試料3から発生してフィルム12で減衰する各測定線4の理論強度を各測定線4のフィルムあり理論強度として計算する。
【0035】
次に、ステップS0−3で、各測定線4についてステップS0−1で計算したフィルムなし理論強度およびステップS0−2で計算したフィルムあり理論強度に基づいて、各測定線4におけるフィルム12による減衰率を計算する。ここで、「各測定線4のフィルムなし理論強度およびフィルムあり理論強度に基づいて」とは、各測定線4のフィルムなし理論強度そのものおよびフィルムあり理論強度そのものを用いることのほかに、各測定線4について、フィルムなし理論強度を測定強度スケールに換算したフィルムなし換算理論強度およびフィルムあり理論強度を測定強度スケールに換算したフィルムあり換算理論強度を用いることも含む。
【0036】
次に、ステップS0−4で、各測定線4についてステップS0−2で計算したフィルムあり理論強度に基づいて、各測定線4における標準偏差および変動係数を計算する。ここで、「各測定線4のフィルムあり理論強度に基づいて」とは、各測定線4について、フィルムあり理論強度を測定強度スケールに換算したフィルムあり換算理論強度を用いることを意味する。
【0037】
次に、ステップS0−5で、ステップS0−3で計算した減衰率とステップS0−4で計算した変動係数の積が最も小さい測定線4を最適測定線4aとして選択する。
【0038】
次に、ステップS1Aで、フィルム12で測定面3aが覆われたモニター試料3について検出手段9で測定した最適測定線4aの測定強度を記憶する。
【0039】
次に、ステップS2Aで、モニター試料3について記憶した組成、フィルム12について入力された組成、および、ステップS0−2でフィルムあり理論強度を計算した際に仮定した厚さを初期値とするフィルム12について仮定した厚さに基づいて、フィルム12で減衰した1次X線2により励起されモニター試料3から発生してフィルム12で減衰する最適測定線4aの理論強度を計算し、その理論強度とフィルム12で測定面3aが覆われたモニター試料3についてステップS1Aで記憶した最適測定線4aの測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが合致するように、フィルム12について仮定した厚さを逐次近似的に修正計算して、フィルム12の厚さを算出するとともに記憶する。
【0040】
第2実施形態の蛍光X線分析装置では、算出手段10Bが、モニター試料3について、蛍光X線4のフィルム12による減衰のみならず1次X線2のフィルム12による減衰も理論強度計算に組み込んで、各測定線4のフィルムなし理論強度およびフィルムあり理論強度を計算し、それらに基づいて、フィルム12で測定面3aが覆われたモニター試料3について測定するにあたっての最適測定線4aを選択するので、いっそう正確にフィルム12の厚さを算出でき、それに基づいていっそう正確に未知試料13の組成を算出できて、しかも、測定者の手間は増えない。
【0041】
次に、本発明の第3実施形態の蛍光X線分析装置について説明する。第3実施形態の装置は、備える算出手段10Cの動作が、第2実施形態の装置が備える算出手段10Bの動作と一部異なるだけであるので、その異なる部分について図4のフローチャートを用いて説明する。すなわち、第3実施形態の装置においては、さらに算出手段10Cが、フィルム12の厚さを算出するにあたり、ステップS2Aと同様にステップS2B−1で算出したフィルム12の厚さと、ステップS0−2でフィルムあり理論強度を計算した際に仮定した厚さとの差が、ステップS2B−2の判定で所定の範囲内に収まるまで、ステップS2B−3で、算出したフィルム12の厚さをステップS0−2におけるフィルム12について仮定した厚さとして、ステップS0−2におけるフィルムあり理論強度の計算からステップS2B−1におけるフィルム12の厚さの算出までを繰り返し行う。
【0042】
ステップS2B−2で、ステップS2B−1で算出したフィルム12の厚さと、ステップS0−2でフィルムあり理論強度を計算した際に仮定した厚さとの差が、所定の範囲内であると判定されれば、ステップS2B−4で、算出したフィルム12の厚さを記憶する。
【0043】
第3実施形態の蛍光X線分析装置では、算出手段10Cが、ステップS2B−1で算出したフィルム12の厚さと、ステップS0−2でフィルムあり理論強度を計算した際に仮定した厚さとの差が所定の範囲内に収まるまで、最適測定線4aを選択し直してフィルム12の厚さを繰り返し算出するので、よりいっそう正確にフィルム12の厚さを算出でき、それに基づいてよりいっそう正確に未知試料13の組成を算出できて、しかも、測定者の手間は増えない。
【符号の説明】
【0044】
1 X線源
2 1次X線
3 モニター試料
3a,13a 測定面
4 蛍光X線(測定線)
4a 最適測定線
9 検出手段
10A,10B,10C 算出手段
11 入力手段
12 フィルム
13 未知試料
図1
図2
図3
図4