(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る脱水機1の模式的な縦断面右側面図である。
図1における上下方向を脱水機1の上下方向Zと称し、
図1における左右方向を脱水機1の前後方向Yと称して、まず、脱水機1の概要について説明する。上下方向Zのうち、上方を上方Z1と称し、下方を下方Z2と称する。前後方向Yのうち、
図1における左方を前方Y1と称し、
図1における右方を後方Y2と称する。
【0028】
脱水機1には、洗濯物Qの脱水運転が可能な全ての装置が含まれる。そのため、脱水機1には、脱水機能のみを有する装置だけでなく、脱水機能を有する洗濯機や洗濯乾燥機も含まれる。以下では、洗濯機を例に取って脱水機1について説明する。
【0029】
脱水機1は、筐体2と、外槽3と、脱水槽4と、回転翼5と、電動のモータ6と、伝達機構7とを含む。
【0030】
筐体2は、たとえば金属製であり、ボックス状に形成される。筐体2の上面2Aは、後方Y2に向かうに従って上方Z1に延びるように、水平方向HDに対して傾斜して形成される。上面2Aには、筐体2の内外を連通させる開口8が形成される。上面2Aには、開口8を開閉する扉9が設けられる。上面2Aにおいて開口8よりも前方Y1の領域には、液晶操作パネルなどで構成された操作部10が設けられる。使用者は、操作部10を操作することによって、脱水条件を自由に選択したり、脱水機1に対して運転開始や運転停止などを指示したりすることができる。
【0031】
外槽3は、たとえば樹脂製であり、有底円筒状に形成される。外槽3は、上下方向Zに対して前方Y1に傾斜した傾斜方向Kに沿って配置された略円筒状の円周壁3Aと、円周壁3Aの中空部分を下方Z2から塞ぐ底壁3Bと、円周壁3Aの上方Z1側の端縁を縁取りつつ円周壁3Aの円中心側へ張り出したリング状の環状壁3Cとを有する。傾斜方向Kは、上下方向Zだけでなく、水平方向HDに対しても傾斜する。環状壁3Cの内側には、円周壁3Aの中空部分に上方Z1から連通する出入口11が形成される。出入口11は、筐体2の開口8に対して下方Z2から対向し、連通した状態にある。環状壁3Cには、出入口11を開閉する扉12が設けられる。底壁3Bは、傾斜方向Kに直交し、水平方向HDに対して傾斜して延びる円板状に形成され、底壁3Bの円中心位置には、底壁3Bを貫通する貫通孔3Dが形成される。
【0032】
外槽3内には、水が溜められる。外槽3には、水道水の蛇口につながった給水路13が上方Z1から接続され、水道水が給水路13から外槽3内に供給される。給水路13の途中には、給水を開始したり停止したりするために開閉される給水弁14が設けられる。外槽3には、排水路15が下方Z2から接続され、外槽3内の水は、排水路15から機外に排出される。排水路15の途中には、排水を開始したり停止したりするために開閉される排水弁16が設けられる。
【0033】
脱水槽4は、たとえば金属製であり、傾斜方向Kに延びる中心軸線17を有し、外槽3よりも一回り小さい有底円筒状に形成され、内部に洗濯物Qを収容することができる。脱水槽4は、傾斜方向Kに沿って配置された略円筒状の円周壁4Aと、円周壁4Aの中空部分を下方Z2から塞ぐ底壁4Bとを有する。
【0034】
円周壁4Aの内周面は、脱水槽4の内周面である。円周壁4Aの内周面の上端部は、円周壁4Aの中空部分を上方Z1に露出させる出入口18である。出入口18は、外槽3の出入口11に対して下方Z2から対向し、連通した状態にある。出入口11および18は、扉12によって一括開閉される。脱水機1の使用者は、開放された開口8、出入口11および18を介して、脱水槽4に対して洗濯物Qを出し入れする。
【0035】
脱水槽4は、外槽3内に同軸状で収容され、上下方向Zおよび水平方向HDに対して斜めに配置される。外槽3内に収容された状態の脱水槽4は、中心軸線17まわりに回転可能である。脱水槽4の円周壁4Aおよび底壁4Bには、図示しない貫通孔が複数形成され、外槽3内の水は、当該貫通孔を介して、外槽3と脱水槽4との間で行き来できる。そのため、外槽3内の水位と脱水槽4内の水位とは一致する。
【0036】
円周壁4Aの上端部には、中空の環状に形成されたバランスリング19が同軸状で取り付けられる。バランスリング19は、回転時における脱水槽4の振動を低減させて脱水槽4の回転バランスをとるための部品である。バランスリング19の内部の環状の空洞19Aには、脱水槽4の回転バランスをとるための塩水などの液体が流動自在に収容される。
【0037】
脱水槽4の底壁4Bは、外槽3の底壁3Bに対して上方Z1に間隔を隔てて略平行に延びる円板状に形成され、底壁4Bにおいて中心軸線17と一致する円中心位置には、底壁4Bを貫通する貫通孔4Cが形成される。底壁4Bには、貫通孔4Cを取り囲みつつ中心軸線17に沿って下方Z2へ延び出た管状の支持軸20が設けられる。支持軸20は、外槽3の底壁3Bの貫通孔3Dに挿通されて、支持軸20の下端部は、底壁3Bよりも下方Z2に位置する。
【0038】
回転翼5は、いわゆるパルセータであり、中心軸線17を円中心とする円盤状に形成され、脱水槽4内において底壁4Bに沿って脱水槽4と同心状に配置される。回転翼5において脱水槽4の出入口18を下方Z2から臨む上面には、放射状に配置される複数の羽根5Aが設けられる。回転翼5には、その円中心から中心軸線17に沿って下方Z2へ延びる回転軸21が設けられる。回転軸21は、支持軸20の中空部分に挿通されて、回転軸21の下端部は、外槽3の底壁3Bよりも下方Z2に位置する。
【0039】
本実施形態では、モータ6は、インバータモータによって実現される。モータ6は、筐体2内において、外槽3の下方Z2に配置される。モータ6は、中心軸線17を中心として回転する出力軸22を有する。伝達機構7は、支持軸20および回転軸21のそれぞれの下端部と、出力軸22の上端部との間に介在される。伝達機構7は、モータ6が出力軸22から出力する駆動力を、支持軸20および回転軸21の一方または両方に対して選択的に伝達する。伝達機構7として、公知のものが用いられる。
【0040】
モータ6からの駆動力が支持軸20および回転軸21に伝達されると、脱水槽4および回転翼5が中心軸線17まわりに回転する。洗い運転およびすすぎ運転では、脱水槽4内の洗濯物Qが、回転する脱水槽4および回転翼5の羽根5Aによって撹拌される。また、すすぎ運転後の脱水運転では、脱水槽4および回転翼5が一体となって高速回転することによって、脱水槽4内の洗濯物Qには遠心力が作用する。これによって、洗濯物Qが脱水される。脱水槽4および回転翼5の回転方向は、脱水槽4の周方向Xと一致する。
【0041】
図2は、脱水機1の電気的構成を示すブロック図である。
図2を参照して、脱水機1は、脱水準備手段、情報値取得手段、カウント手段、算出手段、判定手段、停止手段、情報値補正手段、実行手段、加速手段、デューティ比取得手段、変換手段、閾値変更手段、閾値補正手段および保留手段としての制御部30を含む。制御部30は、たとえば、CPU31と、ROMやRAMなどのメモリ32と、タイマ33と、カウント手段としてのカウンタ34とを含むマイコンとして構成され、筐体2内に内蔵される(
図1参照)。
【0042】
脱水機1は、水位センサ35と、検出手段としての安全スイッチ36と、回転数読取装置37とをさらに含む。水位センサ35、安全スイッチ36および回転数読取装置37ならびに前述したモータ6、伝達機構7、給水弁14、排水弁16および操作部10のそれぞれは、制御部30に対して電気的に接続される。
【0043】
制御部30は、伝達機構7を制御することによって、モータ6の駆動力の伝達先を支持軸20および回転軸21の一方または両方へと切り替える。制御部30は、給水弁14および排水弁16の開閉を制御する。前述したように使用者が操作部10を操作して洗濯物Qの脱水条件などについて選択すると、制御部30は、その選択を受け付ける。
【0044】
水位センサ35は、外槽3および脱水槽4の水位を検知するセンサであり、水位センサ35の検知結果は、リアルタイムで制御部30に入力される。
【0045】
安全スイッチ36は、脱水槽4内の洗濯物Qの偏りに伴う脱水槽4の偏心回転に伴って外槽3が振動したときに、その振動を検出するスイッチであって、筐体2内において外槽3に対して水平方向HDに所定の間隔を隔てた位置に配置される(
図1参照)。脱水槽4内の洗濯物Qの偏りに伴う脱水槽4の偏心回転によって外槽3が水平方向HDに大きく振動したときに、外槽3がその真横の安全スイッチ36に接触する。これにより、安全スイッチ36は、ONになって、外槽3の振動、つまり、脱水槽4の偏心回転を機械的に検出する。安全スイッチ36の検出結果は、リアルタイムで制御部30に入力される。
【0046】
回転数読取装置37は、モータ6の回転数、厳密には、モータ6における出力軸22の回転数を読み取る装置であり、たとえば、複数のホールIC40で構成される。回転数読取装置37が読み取った回転数は、リアルタイムで制御部30に入力される。制御部30は、入力された回転数に基づいて、モータ6に印加される電圧のデューティ比を制御して、モータ6を所望の回転数で回転させる。一方、制御部30は、安全スイッチ36が脱水槽4の偏心回転を検出したことに応じて、モータ6の回転にブレーキをかけて脱水槽4の回転を停止させる。ここでのブレーキとして、制御部30がデューティ比を制御してモータ6の回転を急停止させてもよいし、ブレーキ装置(図示せず)を別途設けて制御部30がブレーキ装置を作動させることによってモータ6の回転を急停止させてもよい。
【0047】
ホールIC40は、この実施形態では、たとえば3つ存在し、これらのホールIC40は、第1ホールIC41と、第2ホールIC42と、第3ホールIC43とに区別される。ここで、モータ6は、出力軸22と一体回転するロータ(図示せず)を有し、ロータの外周面には、N極の磁石とS極の磁石とが、ロータの回転方向において交互に並んで配置される。隣り合う1つずつのN極の磁石およびS極の磁石で構成される組を、「NSセット」と呼ぶことにすると、ロータの外周面には、複数のNSセットが、回転方向に並んで配置される。第1ホールIC41と、第2ホールIC42と、第3ホールIC43とは、この順番で、ロータの回転方向に沿って等間隔に並んで配置される。ロータの回転に伴い、それぞれのNSセットは、それぞれのホールIC40を回転方向に沿って順に通過する。各ホールIC40は、NSセットが通過する度に、パルスPを1つ発生する。回転数読取装置37は、隣り合うパルスPの間隔の大きさによって、モータ6の回転数を読み取る。
【0048】
図3は、回転数読取装置37を構成するホールIC40の出力信号の状態を示すタイムチャートである。
図3のタイムチャートでは、横軸が経過時間を示し、縦軸が各ホールICの出力信号のON・OFF状態を示す。
図3に示すように、第1ホールIC41と、第2ホールIC42と、第3ホールIC43とでは、パルスPの発生タイミングにずれがある。そのため、あるNSセットが各ホールIC40を順に通過すると、第1ホールIC41、第2ホールIC42および第3ホールIC43では、この順番でパルスPが1つずつ発生する。
【0049】
各ホールIC40における出力信号の波形には、パルスPが発生した状態を指すON状態と、それ以外のOFF状態とがある。OFF状態からON状態に切り換わることや、ON状態からOFF状態に切り換わることを、「割込みW」と呼ぶことにする。割込みWは、1つのパルスPでは、パルスPが発生するタイミングと、パルスPが消滅するタイミングとで合計2回存在する。割込みWが発生すると、その旨が、リアルタイムで回転数読取装置37から制御部30に入力される。なお、モータ6のロータが1回転する間に発生する割込みWの数は、モータ6の極数によって異なる。
【0050】
図3に示すように、この実施形態のように3つのホールIC40が存在する場合、たとえば第1ホールIC41においてパルスP1が消滅してから次のパルスP2が発生して消滅するまでの期間Rにおいて、3つのホールIC40全体で6つの割込みWが発生する。3つのホールIC40全体で見た場合において、ある割込みWから次の割込みWまでのインターバルIは、モータ6が定常回転した状態では常に同じであることが理想である。
【0051】
しかし、モータ6におけるNSセットの取付誤差や、各ホールIC40の取付誤差によって、モータ6が定常回転中であるのにインターバルIがばらつく虞がある。なお、モータ6が加速状態にあるとき、通常であれば、インターバルIは徐々に小さくなる。インターバルIは、時間と同じ単位(たとえば、秒)と同じであってもよいし、カウンタ34(
図2参照)が一定期間毎に1カウントする場合における個々のインターバルI内でのカウント数の合計値であってもよい。
【0052】
次に、脱水機1で行われる脱水運転について説明する。
図4は、脱水運転におけるモータ6の回転数の状態を示すタイムチャートである。
図4のタイムチャートでは、横軸が経過時間を示し、縦軸がモータ6の回転数(単位:rpm)を示す。なお、脱水運転中における脱水槽4の回転数は、モータ6の回転数と同じである。
【0053】
図4を参照して、脱水運転の最初には、洗濯物Qの脱水の準備段階である脱水準備区間が設けられる。脱水準備区間において、制御部30は、脱水槽4内の洗濯物Qとバランスリング19内の液体との位置関係を調整する。脱水準備区間の後、制御部30は、洗濯物Qの脱水のためにモータ6の回転を開始する。
【0054】
詳しくは、制御部30は、脱水準備区間の後、0rpmから120rpmいう第1回転数までモータ6の回転数を加速させてから、120rpmでモータ6を定常回転させる。第1回転数は、脱水槽4の横共振が発生する回転数(たとえば50rpm〜60rpm)よりも高く、かつ、脱水槽4の縦共振が発生する回転数(たとえば200rpm〜220rpm)よりも低い。120rpmでの定常回転の後、制御部30は、モータ6の回転数を、120rpmから、240rpmという第2の回転数まで加速させてから240rpmでモータ6を定常回転させる。第2の回転数は、縦共振が発生する回転数よりも若干高い。その後、制御部30は、モータ6の回転数を、240rpmから、800rpmという目標回転数まで加速させてから800rpmでモータ6を定常回転させる。800rpmでのモータ6の定常回転により、脱水槽4内の洗濯物Qが本格的に脱水される。
【0055】
このように、制御部30は、800rpmへ向けてモータ6の回転が開始されてから120rpmまでの第1加速段階と、120rpmから240rpmまでの第2加速段階と、240rpmから800rpmまでの第3加速段階との3段階でモータ6の回転を加速させる。このような場合と異なり、モータ6を0rpmから800rpmまで一気に加速させると、洗濯物Qから多量の水が一度に染み出ることによって排水路15における排水状態が悪くなったり、排水路15に泡が噛んだりする虞がある。しかし、この実施形態では、洗濯物Qから多量の水が一度に染み出ないようにモータ6を段階的に加速させるので、このような不具合を防止できる。
【0056】
脱水槽4内の洗濯物Qが脱水槽4の周方向X(
図1参照)において均等に分布せずに偏って配置された状態にあると、脱水槽4内において洗濯物Qの偏りが有る。この状態で脱水運転が行われると、脱水槽4が偏心回転することにより、脱水槽4が大きく揺れて脱水機1に大きな振動を与え、騒音が発生する虞がある。
【0057】
そこで、制御部30は、脱水運転中において、脱水槽4内における洗濯物Qの偏りの有無を検知し、偏りが有ることを検出すると、モータ6を停止する。制御部30は、このような検知として、検知1、検知2、検知3および検知4という4種類の電気的な検知を実行する。なお、前述した安全スイッチ36(
図1参照)による機械的な検知は、脱水運転の全期間において実行される。なお、以下では、「検知」という言葉は、調べるという動作を意味し、「検出」という言葉は、検知の中で何かしらの結果を見つけ出すという動作を意味するものとする。
【0058】
検知1は、第1加速段階において実行される。検知2は、第2加速段階において実行される。検知3および検知4は、第3加速段階において実行される。詳しくは、検知1〜検知3のそれぞれは、第1〜第3加速段階において対応する加速段階の全期間で実行されるのに対し、検知4は、第3加速段階の途中から実行される。このように、脱水機1では、3段階でモータ6を加速させることによって、横共振や縦共振が発生する回転数を避けた120rpmや240rpmという回転数で徐々に脱水が実行されると同時に、検知1〜4によって脱水槽4の回転状態が監視される。以下では、脱水の準備段階、検知1〜検知4について順に説明する。
【0059】
まず、脱水の準備段階について説明する。
図5は、脱水槽4の内部を示す模式図である。
図5では、脱水槽4の中心軸線17に沿う方向から見たときの脱水槽4の内部が図示される。脱水槽4では、前方Y1に偏った手前位置と、後方Y2に偏った奥位置とが存在する。中心軸線17が上下方向Zに対して前方Y1に傾斜して配置される構造のため、手前位置は、奥位置よりも下方Z2に位置する(
図1参照)。脱水槽4が静止した状態や脱水槽4が極低速回転する状態では、バランスリング19の内部に収容された液体は、脱水槽4の回転による遠心力が作用しないので、自重によってバランスリング19内で手前位置かつ下方Z2に偏って配置される。
【0060】
脱水槽4内において洗濯物Qが周方向Xに偏って配置された場合、脱水槽4の回転開始時には、この洗濯物Qは、バランスリング19内で下方Z2の手前位置に偏った液体に対して中心軸線17を挟んで反対側の奥位置に位置することが好ましい。この状態だと、洗濯物Qとバランスリング19内の液体とのバランスがほぼ取れた状態で脱水槽4の回転が開始されるので、回転初期からの脱水槽4の偏心回転を抑制できるからである。
【0061】
逆に、脱水槽4内において、洗濯物Qが、バランスリング19内で下方Z2に偏って配置された液体と、脱水槽4の周方向Xにおいて同じ位置になるように偏って配置されることが想定される。この状態で、洗濯物Qの脱水のために脱水槽4の回転が開始されると、脱水槽4は、回転開始時から偏心回転する。
【0062】
図6は、脱水運転の準備段階におけるモータ6の回転数の状態を示すタイムチャートである。
図6のタイムチャートでは、横軸が経過時間を示し、縦軸がモータ6の回転数(単位:rpm)を示す。準備段階では、脱水槽4が極低速で定常回転される。なお、このときのモータ6の回転数は、脱水槽4の共振が発生する最低回転数よりも低い。この最低回転数は、脱水槽4のサイズによって異なるが、この実施形態の場合、脱水槽4の横共振が発生する回転数であって、前述した50rpm〜60rpmである。この場合、準備段階におけるモータ6の回転数は、たとえば10rpm〜30rpmの値であり、好ましくは20rpmである。
【0063】
脱水槽4内において洗濯物Qが周方向Xに偏って配置された場合で脱水槽4を極低速で定常回転させると、モータ6の回転数は、
図6に示すように変動する。詳しくは、手前位置から奥位置に向かう際には、洗濯物Qを上方Z1へ動かすためにモータ6に負担がかかり、モータ6の回転数は低下する。逆に、奥位置から手前位置に向かう際には、先ほどの負担が減るので、モータ6の回転数は上昇する。そのため、モータ6の回転数が最高の時に洗濯物Qが手前位置にあり、モータ6の回転数が最低の時に洗濯物Qが奥位置にあることがわかる。このように脱水槽4を極低速回転させることにより、モータ6の回転数に応じて、脱水槽4内における洗濯物Qの周方向Xの偏り位置を検出できる。
【0064】
図7は、脱水運転の準備段階についての制御動作を示すフローチャートである。
以上を踏まえて、制御部30は、脱水の準備段階として、モータ6の極低速回転を開始して、脱水槽4を極低速回転させる(ステップS1)。なお、脱水運転の前に、外槽3および脱水槽4において洗濯物Qのすすぎ後の排水が行われた場合には、排水が完了したことに応じで、ステップS1のモータ6の極低速回転が開始される。モータ6が極低速回転された状態で、制御部30は、回転数読取装置37からの出力結果に基いて、脱水槽4内における洗濯物Qの偏り位置をリアルタイムで検出する(ステップS2)。そして、制御部30は、検出した偏り位置に基づいて、洗濯物Qが奥位置に到達する寸前で、ブレーキをかけて脱水槽4の回転を停止させる(ステップS3)。
【0065】
脱水槽4内で偏った洗濯物Qがバランスリング19内の液体に対して中心軸線17を挟んでちょうど反対側に位置するときに脱水槽4の回転を停止させるのでは、停止が間に合わず、さらに、停止後にブレーキを解除すると、惰性によって脱水槽4が回転することにより、最終的に洗濯物Qがバランスリング19内の液体と同じ側まで来てしまう虞がある。
【0066】
これに対し、制御部30は、脱水槽4内で偏った洗濯物Qがバランスリング19内で下方Z2に偏った液体に対して中心軸線17を挟んで反対側に位置する寸前に脱水槽4の回転を停止させる。そのため、停止後には、脱水槽4内で偏った洗濯物Qと、バランスリング19内で下方Z2に偏った液体とが、中心軸線17を挟んでほぼ反対側に位置した状態が維持される。ちなみに、脱水槽4は、ワンウェイベアリングによって一方向にしか回転しないように支持されるので、停止後の脱水槽4は、逆回転することはなく、静止した状態にある。このような準備段階の後に、脱水のために脱水槽4が回転すると、バランスリング19内の液体と洗濯物Qとがほぼバランスした状態で脱水槽4が回転する。これにより、斜めに配置された脱水槽4の偏心回転を早い段階で抑制できる。
【0067】
次に、脱水準備区間が経過した後の第1加速段階について説明する。なお、第1加速段階以降では、バランスリング19内の液体は、遠心力が作用することによって、下方Z2に偏らないので、この液体が脱水槽4の偏心回転を引き起こすことは、ほとんどない。
【0068】
図8は、第1加速段階における制御動作を示すフローチャートである。
図8を参照して、脱水準備区間が経過した後、制御部30は、脱水運転を開始するために、120rpmへのモータ6の加速を開始する(ステップS11)。制御部30は、前述した割込みWの入力があると(ステップS12でYES)、その都度、初期値が零のカウント値nをインクメント(+1)する(ステップS13)。そして、この第1加速段階において、制御部30は、検知1を開始する(ステップS14)。検知1がOKである場合には(ステップS15でYES)、つまり、制御部30が、洗濯物Qの偏りが無いとを判定した場合には、制御部30は、検知1の終了(ステップS16でYES)に応じて、カウント値nを零にリセットする(ステップS17)。その後、モータ6の回転数が120rpmに到達すると(ステップS18でYES)、制御部30は、モータ6を120rpmで定常回転させる(ステップS19)。
【0069】
図9Aおよび
図9Bは、検知1についての制御動作を示すフローチャートである。
図9Aを参照して、制御部30は、前述したステップS14において検知1を開始し、割込みWの入力があると(ステップS21でYES)、その都度、タイマ値A
nを取得する(ステップS22)。以下では、タイマ値A
nをA
nと略称することがある。A
nは、入力された割込みWと、その直前の割込みWとの間におけるインターバルI(
図3参照)であってタイマ33によって計測される正の値である。直前の割込みWが存在しない場合には、検知1の開始時点から最初の割込みWまでのインターバルIがA
nである。なお、割込みWが入力されたときには、A
nを取得されると同時に、カウント値nがインクメントされるので(前述したステップS13)、A
nの語尾のアルファベット「n」は、インクリメント後のカウント値nと一致する。そのため、たとえば、最初の割込みWが入力されると、カウント値nは1となり、A
nはA
1となる。次の割込みWが入力されると、カウント値nは2となり、A
nはA
2となる。
【0070】
次に、制御部30は、A
nの移動平均値B
nを算出する(ステップS23)。以下では、移動平均値B
nをB
nと略称することがある。B
nは、A
nと直前のA
n−1〜A
n−5との合計を6で割って得られる値である。6で割ることは、パルスPが消滅してから次のパルスPが発生して消滅するまでの期間Rにおいて6つの割込みWが存在することに関連する(
図3参照)。
【0071】
次に、制御部30は、B
nの移動平均値C
nを算出する(ステップS24)。以下では、移動平均値C
nをC
nと略称することがある。C
nは、B
nと直前のB
n−1〜B
n−5との合計を6で割って得られる値である。
【0072】
制御部30は、目標回転数までのモータ6の加速状態において、割込みWがある度に、ステップS13(
図8参照)においてカウント値nをインクリメントし、ステップS24においてC
nを逐次取得する。そのため、カウント値nのインクリメントと、C
nの取得とは、実際には同期して行われる。つまり、制御部30は、C
nを取得する度に、カウント値nをインクリメントすることになる。
【0073】
経験上、カウント値nが所定の開始値に到達するまでは(ステップS25でNO)、それまでに得られるA
n〜C
nは、安定せず、検知1に用いるのに適した値ではない。開始値とは、この実施形態では、たとえば75である。カウント値nが開始値に到達すると(ステップS25でYES)、制御部30は、C
nから直前のC
n−1を差し引いて得られる差分D
nを算出する(ステップS26)。そして、制御部30は、差分D
nの移動平均値E
nを算出する(ステップS27)。移動平均値E
nは、差分D
nと直前の差分D
n−1〜D
n−5との合計を6で割って得られる値である。以下では、差分D
nをD
nと略称し、移動平均値E
nをE
nと略称することがある。
【0074】
D
nおよびE
nのそれぞれの意味合いについて、C
11(=(B
6+B
7+B
8+B
9+B
10+B
11)/6)およびC
17(=(B
12+B
13+B
14+B
15+B
16+B
17)/6)を例にとって説明する。C
17とカウント値nが一致するE
17は、D
12〜D
17を6で割って得られた値であり、C
nであらわすと下記の式(1)の通りであり、B
nであらわすと下記の式(2)の通りである。
E
17=(D
12+D
13+D
14+D
15+D
16+D
17)/6
=(C
12−C
11+C
13−C
12+C
14−C
13+C
15−C
14+C
16−C
15+C
17−C
16)/6
=(C
17−C
11)/6 …式(1)
E
17=((B
12+B
13+B
14+B
15+B
16+B
17)−(B
6+B
7+B
8+B
9+B
10+B
11))/36 …式(2)
【0075】
前述したように、1つのホールIC40についてパルスPが消滅してから次のパルスPが発生して消滅するまでの期間Rにおいて、3つのホールIC40全体で6つの割込みWが存在する(
図3参照)。B
nにより、ホールIC40の取付誤差がキャンセルされる。そして、式(2)より、E
nは、あるNSセットが1つホールIC40を通過したときに発生した6つの割込みWについてのB
n〜B
n+5の合計値と、後続のNSセットが当該ホールIC40を通過したときに発生した6つの割込みWについてのB
n+6〜B
n+11の合計値との差に相当する。複数のB
nを用いて演算されたE
nにより、隣り合うNSセットの相対位置の誤差がほぼキャンセルされる。
【0076】
図10は、カウント値nとC
nとの関係を示すグラフであって、横軸がカウント値nを示し、縦軸がC
nを示す。
図10を参照して、モータ6の加速による回転数増加に応じてA
nは小さくなるのだが、NSセットの取付誤差や各ホールIC40の取付誤差によってA
nの変化に乱れが生じ、実際のA
nは、点線で示すように増減する。ステップS23での移動平均によって、各ホールIC40の取付誤差がキャンセルされたB
nが得られ、ステップS24での移動平均によって、B
nのノイズが取り除かれたC
nが得られる。そして、C
nからD
nが得られ、D
nからE
nが得られる。これらのA
n、B
n、C
n、D
nおよびE
nは、モータ6の回転状態に関する情報値である。
【0077】
洗濯物Qの偏りが存在しないことにより、脱水槽4が偏心せずに回転する場合には、C
nは、
図10において実線で示すように、モータ6の回転数の上昇(1点鎖線矢印参照)に応じて減少するはずである。ちなみに、A
nの移動平均値がB
nであって、B
nの移動平均値がC
nであるため、A
nおよびB
nのそれぞれも、ノイズがあるものの、C
nと同様に、モータ6の回転数の上昇に応じて減少するはずである。
【0078】
脱水槽4が偏心せずに回転する場合には、モータ6の加速中においてC
nが常に減少することから、C
nから直前のC
n−1を差し引いて得られる差分D
nは零以下になり、D
nの移動平均値E
nも零以下になる。
図9Bを参照して、E
nが零以下であれば(ステップS28でYES)、制御部30は、変数F
nを零とする(ステップS29)。一方、脱水槽4内に洗濯物Qの偏りが有るために脱水槽4が偏心回転すると、モータ6の回転数の上昇に応じて本来減少すべきC
nが変動して上昇する場合がある。この場合、C
nが上昇したタイミングにおけるD
nやE
nは零より大きくなり(ステップS28でNO)、制御部30は、変数F
nをE
nそのものとする(ステップS30)。
【0079】
制御部30は、F
nが求まる度に、F
nの積算値G(=F
1+F
2+…)を算出する(ステップS31)。積算値Gは、C
nが直前のC
n−1よりも大きい場合におけるC
nとC
n−1との差分D
nの移動平均値E
nの積算値でもある。
【0080】
図11は、カウント値nと積算値Gとの関係を示すグラフであって、横軸がカウント値nを示し、縦軸が積算値Gを示す。脱水槽4の偏心回転が継続された状態でモータ6が加速する場合には、
図11に示すように、積算値Gは、階段状に増加する。積算値Gには、所定のカウント値n毎に第1閾値が定められ、これらの第1閾値は、カウント値nに対応付けてメモリ32(
図2参照)に記憶される。第1閾値は正の値である。
【0081】
図9Bに戻り、制御部30は、カウント値nが所定値であるときの積算値Gが、カウント値nが所定値であるときの第1閾値に到達すると(ステップS32でYES)、検知結果をNGとして、脱水槽4内において偏心が大きくて洗濯物Qの偏りが有ると判定する(ステップS33)。
【0082】
一方、制御部30は、積算値Gが、対応する第1閾値よりも小さければ(ステップS32でNO)、検知結果をOKとして、洗濯物Qの偏りが無いと判定する(ステップS34)。そして、制御部30は、カウント値nが第1加速段階の終盤を示す終了値になるまで(ステップS35でNO)、ステップS21〜S34の処理を繰り返す。この実施形態におけるカウント値nの終了値は、たとえば245である。カウント値nが当該終了値になると(ステップS35でYES)、制御部30は、検知1を終了する(ステップS36)。ステップS21〜S34の処理は、前述したステップS15の処理に相当し、ステップS35およびS36の処理は、前述したステップS16の処理に相当する(
図8参照)。
【0083】
図12は、検知結果がNGである場合における制御動作を示すフローチャートである。
図12を参照して、制御部30は、検知結果がNGであると判定した場合には、モータ6の回転、つまり、脱水槽4の回転を停止させる(ステップS41)。これにより、脱水槽4内に洗濯物Qの偏りが有る場合には、脱水槽4の偏心回転を、モータ6の加速状態における早い段階で抑制できる。
【0084】
特に、制御部30は、積算値Gの算出に先立って、積算値Gの算出のもとになるA
nをステップS23やステップS24で複数回移動平均することによって補正する。そのため、補正の結果として得られたC
nは、誤差が取り除かれた精度の高い値となる。そのため、補正により精度が高くなったC
nに基づいて精度の高い積算値Gを算出し、この積算値Gによって洗濯物Qの偏りの有無を高い精度で検出し、脱水槽4の偏心回転を早い段階で抑制できる。
【0085】
脱水槽4の回転が停止された後、制御部30は、現状が脱水運転の再開前かどうかを判断する(ステップS42)。脱水運転の再開とは、制御部30が、脱水槽4の回転を停止させて脱水運転を中止した直後に、脱水槽4を再び回転させることによって脱水運転を再開する再開処理である。洗濯物Qの偏りが小さければ、再開処理を行ってもよい場合がある。
【0086】
再開処理が未実施である再開前の場合には(ステップS42でYES)、制御部30は、再開処理を実行する(ステップS43)。なお、再開処理に先立って、外槽3内の排水が行われてもよい。排水路15に泡が噛んだ場合には、ここでの排水によって泡が排水路15の外に排出されるので、排水路15に泡が噛んだ状態が解消される。
【0087】
再開前でなければ(ステップS42でNO)、制御部30は、修正処理を実行する(ステップS44)。修正処理において、制御部30は、排水弁16を閉じた後に給水弁14を開放して所定水位まで脱水槽4内に給水することで、脱水槽4内の洗濯物Qを水に浸してほぐれやすくする。この状態で、制御部30は、脱水槽4および回転翼5を回転させることで脱水槽4の内周面に張り付いた洗濯物Qを剥がして撹拌し、これによって脱水槽4内における洗濯物Qの偏りを修正する。
【0088】
このように、制御部30は、脱水槽4の回転を停止させた場合に、再開処理および修正処理のどちらかを選択して実行する。脱水槽4の偏心回転が発生しない程度に洗濯物Qの偏りが小さい場合には、再開処理で脱水が再開されることによって、脱水全体にかかる時間を極力短縮できる。次回の脱水でも脱水槽4の偏心回転が再び発生し得る程度に洗濯物Qの偏りが大きい場合には、修正処理によって洗濯物Qの偏りを確実に修正できる。
【0089】
制御部30は、再開処理が所定回数(ここでは1回)実行された後で脱水槽4の回転を停止させた場合には(ステップS42でNO)、再開処理ではなく、修正処理を選択して実行する(ステップS44)。つまり、再開処理が所定回数実行された後で脱水槽4の回転が停止された場合には、洗濯物Qの偏りの修正が必要な程度に大きい。この場合、その後に再開処理および脱水槽4の回転停止が繰り返されて時間が浪費されるのではなく、速やかに修正処理が実行されることによって、その偏りが確実に修正される。これにより、脱水槽4の偏心回転を早い段階で抑制できる。なお、この実施形態では、当該所定回数が1回に設定されるが、2回以上であってもよい。
【0090】
次に、120rpmの定常回転が終了した後の第2加速段階について説明する。
図13は、第3加速段階における制御動作を示すフローチャートである。
図13を参照して、制御部30は、第2加速段階として、240rpmへのモータ6の加速を開始する(ステップS51)。制御部30は、割込みWの入力があると(ステップS52でYES)、その都度、カウント値nをインクメントする(ステップS53)。なお、第2加速段階の開始時におけるカウント値nは、零である。
【0091】
そして、第2加速段階において、制御部30は、検知2を開始する(ステップS54)。検知2がOKである場合には(ステップS55でYES)、つまり、制御部30が、第2加速段階において洗濯物Qの偏りが無いとを判定した場合には、制御部30は、検知2の終了(ステップS56でYES)に応じて、カウント値nを零にリセットする(ステップS57)。その後、モータ6の回転数が240rpmに到達すると(ステップS58でYES)、制御部30は、モータ6を240rpmで定常回転させる(ステップS59)。
【0092】
検知2の内容は、検知1の内容と同じである。そのため、前述したステップS21〜S34の処理は、ステップS55の処理に相当し、前述したステップS35およびS36の処理は、ステップS56の処理に相当する(
図9B参照)。ただし、検知2における第1閾値は、検知1での第1閾値とは別に設定される。また、検知2では、検知1よりもモータ6の回転数が高いので、その分、ステップS25(
図9A参照)の開始値が検知1の場合よりも小さくなり、この実施形態では、たとえば17である。検知2の検知結果がNGである場合には(ステップS55でNO)、つまり、制御部30が、脱水槽4内に洗濯物Qの偏りが有ると判定した場合には、制御部30は、検知1と同様に、ステップS41〜S44の処理を実行する(
図12参照)。
【0093】
なお、検知2後の再開処理における脱水運転では、120rpmの定常回転の期間(
図4参照)を、直前に中止した脱水運転における120rpmの定常回転の期間よりも短縮してもよい。再開処理では、洗濯物Qは、脱水槽4の内周面にある程度張り付いて水がほぼ抜けた状態にあるので、120rpmの定常回転の期間を短縮しても構わない。これにより、脱水運転の時間短縮を図れる。
【0094】
次に、240rpmの定常回転が終了した後の第3加速段階について説明する。
図14は、第3加速段階における制御動作を示すフローチャートである。
図14を参照して、制御部30は、第3加速段階として、800rpmへのモータ6の加速を開始する(ステップS61)。制御部30は、割込みWの入力があると(ステップS62でYES)、その都度、カウント値nをインクメントする(ステップS63)。なお、第3加速段階の開始時におけるカウント値nは、零である。
【0095】
第3加速段階において、制御部30は、検知3を開始する(ステップS64)。そして、制御部30は、検知3がOKである場合には(ステップS65でYES)、つまり、制御部30が、洗濯物Qの偏りが無いとを判定した場合には、その後、モータ6の回転数が800rpmに到達すると(ステップS66でYES)、制御部30は、検知3を終了して、カウント値nを零にリセットし、モータ6を800rpmで定常回転させて脱水を継続する(ステップS67)。
【0096】
検知3の内容は、検知1および検知2のそれぞれの内容とほぼ同じである。そのため、前述したステップS21〜S34の処理は、ステップS65の処理に相当する(
図9Aおよび
図9B参照)。ただし、検知3における第1閾値は、検知1および検知2のそれぞれにおける第1閾値と別に設定される。なお、検知3におけるステップS25(
図9A参照)の開始値は、検知2の場合と同じである。検知3の検知結果がNGである場合には(ステップS65でNO)、つまり、制御部30が、脱水槽4内に洗濯物Qの偏りが有ると判定した場合には、制御部30は、検知1および検知2と同様に、ステップS41〜S44の処理を実行する(
図12参照)。
【0097】
なお、検知2でも説明したように、検知3後の再開処理における脱水運転では、120rpmの定常回転の期間を、直前に中止した脱水運転における120rpmの定常回転の期間よりも短縮してもよい。また、検知3では、検知1および検知2とは異なり、nがステップS35(
図9B参照)の終了値になった後も、モータ6の回転数が800rpmに到達するまでの間は、ステップS21〜S34の処理が繰り返される。繰り返される当該処理の最初に、nおよびA
n〜Gのそれぞれの値が零にリセットされる。
【0098】
以上のように、第1加速段階の検知1、第2加速段階の検知2および第3加速段階の検知3のそれぞれにおいて、制御部30は、A
n〜E
nなどの情報値を取得し、カウント値nをインクリメントし、積算値Gを算出する。その積算値Gが、対応する第1閾値に到達すると、制御部30は、脱水槽4内に洗濯物Qの偏りが有ると判定して脱水槽4の回転を停止させる。つまり、洗濯物Qの偏りの有無の検知がモータ6の回転の開始後の第1加速段階から行われるので、脱水槽4の偏心回転を早い段階で抑制できる。また、洗濯物Qの偏りの有無の検知は、第1加速段階、第2加速段階および第3加速段階の順に3段階で行われるので、洗濯物Qの偏りが有ることを確実に検出して、脱水槽4の偏心回転をなるべく早い段階で抑制できる。
【0099】
検知3において、制御部30は、前述したように、積算値Gそのものが第1閾値に到達するか否かによって脱水槽4内における洗濯物Qの偏りの有無を検知するという第1パターンの検知を実行する。制御部30は、第1パターンの検知だけでなく、積算値Gの変化量が第3閾値に到達するか否かによっても洗濯物Qの偏りの有無を検知するという第2のパターンの検知を実行してもよい。第3閾値は、第1閾値とは別に予め定められて、メモリ32(
図2参照)に記憶される。第3閾値は正の値である。第3加速段階のようにモータ6の回転数が、たとえば400rpmというようにある程度上昇した状態では、それまでの脱水により洗濯物Qから水分が抜けることによって、脱水槽4内における洗濯物Qの偏心状態が悪化し、脱水槽4の振動が大きくなる場合がある。一方、積算値Gの特性として、積算値Gは、モータ6の回転数が低い状態では急上昇するものの、回転数が目標回転数に近づくにつれて、あまり上昇しなくなる。
【0100】
そのため、第1パターンの検知だけでは、回転数がある程度上昇した状態では、脱水槽4の振動が大きいにもかかわらず、積算値Gそのものは第1閾値を下回った状態にあって、脱水槽4の回転がなかなか停止されない虞がある。そこで、第1パターンの検知と第2パターンの検知とが2重で実行されるとよい。第2パターンの検知では、積算値Gの変化量、つまり、積算値Gの変動幅が、第3閾値に到達すると、制御部30は、洗濯物Qの偏りが有ると判定して、脱水槽4の回転を停止させる。これにより、脱水槽4が大きく振動した状態にあるにもかかわらず積算値Gが第1閾値に到達しないほど小さい状況でも、積算値Gの変化量に着目することによって脱水途中における洗濯物Qの状態の変化に敏感に反応して、脱水槽4の偏心回転を早い段階で確実に抑制できる。もちろん、第2パターンの検知は、検知3だけでなく、検知1や検知2においても実行されてもよい。
【0101】
次に、第3加速段階において、検知3と並行して実行される検知4について説明する。
検知4は、検知4−1および検知4−2によって構成される。検知1〜3が加速状態におけるモータ6に関する割込みWを利用した洗濯物Qの偏り有無の検知であるのに対し、検知4−1および検知4−2は、デューティ比を利用した洗濯物Qの偏り有無の検知である。
図15は、検知4−1および検知4−2の概要を示すフローチャートである。
【0102】
図15を参照して、制御部30は、前述したステップS61(
図14参照)において、第3加速段階として、240rpmから800rpmへのモータ6の加速を開始する。
【0103】
制御部30は、モータ6が加速された状態においてモータ6の回転数が300rpmに到達すると、その時点においてモータ6に印加される電圧のデューティ比を、α値として取得する(ステップS71)。300rpmとは、水が脱水槽4に溜まった状態になく、脱水槽4の偏心の影響を最も受けない回転数である。そのため、300rpmにおけるα値は、脱水槽4の偏心の影響を最も受けずに、洗濯物Qの負荷量の影響だけを受けた状態におけるデューティ比である。
【0104】
そして、制御部30は、モータ6が引き続き加速された状態において、回転数が600pmから729rpmの期間で、検知4−1を実施する(ステップS72)。検知4−1がOKでない場合には(ステップS72でNO)、つまり、制御部30が、洗濯物Qの偏りが有ることを判定した場合には、制御部30は、検知1〜検知3と同様に、ステップS41〜S44の処理を実行する(
図12参照)。なお、検知2および3でも説明したように、検知4−1後の再開処理における脱水運転では、120rpmの定常回転の期間を、直前に中止した脱水運転における120rpmの定常回転の期間よりも短縮してもよい。
【0105】
一方、検知4−1がOKである場合には(ステップS72でYES)、つまり、制御部30が、洗濯物Qの偏りが無いことを検知4−1において判定した場合には、制御部30は、モータ6が730rpmから引き続き加速された状態において、検知4−2を引き続いて実施する(ステップS77)。
【0106】
検知4−2がOKである場合には(ステップS77でYES)、つまり、制御部30が、洗濯物Qの偏りが無いことを検知4−2において判定した場合には、制御部30は、モータ6を800rpmの目標回転数まで加速させた後に、800rpmでモータ6を定常回転させることによっての洗濯物Qの脱水を継続する(ステップS78)。
【0107】
一方、検知4−2がOKでない場合には(ステップS77でNO)、つまり、制御部30が、洗濯物Qの偏りが有ることを判定した場合には、制御部30は、前述した800rpm未満の回転数でモータ6を定常回転させることによっての洗濯物Qの脱水を継続する(ステップS79)。
【0108】
次に、検知4−1および検知4−2のそれぞれについて詳しく説明する。
図16は、検知4−1についての制御動作を示すフローチャートである。
図16を参照して、制御部30は、ステップS71(
図15参照)を過ぎてモータ6が引き続き加速された状態において、モータ6の回転数が600rpmに到達したことに応じて、検知4−1を開始する(ステップS80)。
【0109】
そして、制御部30は、カウンタ34によるカウントをスタートさせ(ステップS81)、0.3秒が経過する毎にカウンタ34を初期化することによって、0.3秒毎にカウントする(ステップS82およびステップS83)。
【0110】
制御部30は、カウントする毎に、カウント時におけるモータ6の回転数と、カウント時おいてモータ6に印加される電圧のデューティ比d
m(m:カウント値)とを取得する(ステップS84)。つまり、制御部30は、モータ6の回転数が240rpmから800rpmに到達するまでの第3加速段階において、モータ6の回転数とデューティ比d
mとを所定のタイミング毎に取得する。デューティ比d
mは、モータ6の回転状態に関する情報値である。
【0111】
また、制御部30は、ステップS84において、以下の式(3)に基づいて、デューティ比d
mをα値で補正して得られる補正値B
mを演算する。なお、式(3)におけるXおよびYは、実験などにより求められた定数である。単純な比例計算とは異なり、式(3)によって重み付けを変えてデューティ比d
mを補正することで得られた補正値B
mによって、検知4−1を精度良く実行できる。
B
m=d
m−(α・X+Y)…式(3)
【0112】
また、制御部30は、ステップS84において、補正値B
mの移動積算値C
m(m:カウント値)を演算する。移動積算値C
mは、カウント順に連続する5つの補正値B
mを合計した値である。ちなみに、ある移動積算値C
mと、その直前の移動積算値C
m−1とでは、移動積算値C
m−1を構成する5つの補正値B
mにおける後側4つの補正値B
mと、移動積算値C
mを構成する5つの補正値B
mにおける前側4つの補正値B
mとは、それぞれに同じ値である。なお、移動積算値C
mを構成するために合計する補正値B
mの数は、前述した5つに限らない。移動積算値C
mは、制御部30によってデューティ比d
mから変換された所定の指標値である。
【0113】
次いで、制御部30は、以下の式(4)に基づいて、移動積算値C
mについての第2閾値を演算する(ステップS85)。第2閾値は正の値である。
第2閾値=(回転数)・a+b…式(4)
【0114】
式(4)におけるaおよびbは、実験などにより求められた定数であって、メモリ32に記憶される。また、これらの定数aおよびbは、現時点のモータ6の回転数や、選択された脱水条件によって異なる。そのため、ここでの第2閾値には、同じ回転数において、複数の値が存在する。なお、第2閾値は、前述したα値の影響を受けない値であることは、式(4)より明らかである。
【0115】
そして、制御部30は、現時点のモータ6の回転数が730rpm未満であるかどうかを確認する(ステップS86)。
【0116】
現時点のモータ6の回転数が730rpm未満である場合において(ステップS86でYES)、制御部30は、最新の移動積算値C
mが検知4−1に引っ掛かったかどうかを判定する(ステップS87)。
【0117】
図17は、検知4−1および検知4−2に関連して、回転数と移動積算値C
mとの関係を示すグラフである。
図17のグラフでは、横軸が回転数(単位:rpm)を示し、縦軸が移動積算値C
mを示す。
図17を参照して、ステップS85で演算された第2閾値について、たとえば脱水条件の違いに応じて、1点鎖線で示した上側第2閾値と、2点鎖線で示した下側第2閾値という2種類の閾値が設定される。上側第2閾値は、下側第2閾値よりも高い。上側第2閾値および下側第2閾値のそれぞれは、回転数に応じて変化する。
【0118】
脱水条件には、脱水槽4に水を溜めて洗濯物Qをすすぐ「ためすすぎ」後に脱水運転を行うという脱水条件や、排水しながら洗濯物Qにシャワーを浴びせて脱水運転を行う「シャワー脱水」や、前述した「再開処理」などの脱水条件が存在する。これらの脱水条件は、使用者による操作部10の操作によって選択され、その選択は、制御部30に受け付けられる。洗い運転後やためすすぎ後の脱水運転では、洗濯物Qに多量の水が含まれるため、モータ6の加速に力が必要だが、シャワー脱水や再開処理の場合には、洗濯物Qからある程度水が抜けた状態にあるので、モータ6の加速に必要な力は小さくて済む。
【0119】
制御部30は、洗い運転後やためすすぎ後の脱水運転では、下側第2閾値だと厳しい検知となるので、下側第2閾値よりも高い上側第2閾値を用いる。一方、制御部30は、シャワー脱水や再開処理の脱水運転では、上側第2閾値だと緩い検知となるので、上側第2閾値よりも低い下側第2閾値を用いる。そのため、洗濯物Qに多量に水が含まれた場合でも、洗濯物Qからある程度水が抜けた場合でも、それぞれの場合に適した第2閾値を用いて検知4−1が実行される。
【0120】
また、このような脱水条件の違いと同様の趣旨により、脱水槽4内の洗濯物Qの負荷量が多い場合には、制御部30は、検知4−1において、下側第2閾値だと厳しい検知となるので、下側第2閾値よりも高い上側第2閾値を用いる。また、脱水槽4内の洗濯物Qの負荷量が少ない場合には、制御部30は、検知4−1において、上側第2閾値だと緩い検知となるので、上側第2閾値よりも低い下側第2閾値を用いる。そのため、洗濯物Qの負荷量が異なる場合のそれぞれに適した第2閾値を用いて検知4−1が実行される。
【0121】
なお、
図17では、上側第2閾値および下側第2閾値という2種類の第2閾値を例示したが、第2閾値は、様々な脱水条件や負荷量に応じて、3種類以上設定されてもよい。
【0122】
そして、偏心が大きくて洗濯物Qの偏りが有る場合(
図17の破線参照)では、偏心が小さくて洗濯物Qの偏りが無い場合(実線参照)に比べて、各回転数における移動積算値C
mが大きくなる。洗濯物Qの偏りが大きければ、移動積算値C
mは、設定された第2閾値、つまり、上側第2閾値および下側第2閾値において対応する方を上回る。
【0123】
よって、
図16に戻り、最新の移動積算値C
mが、対応するタイミングにおける第2閾値に到達すると、制御部30は、脱水槽4内に洗濯物Qの偏りが有って移動積算値C
mが検知4−1に引っ掛かったと判定する(ステップS87でYES)。
【0124】
制御部30は、移動積算値C
mが検知4−1に引っ掛かったと判定すると(ステップS87でYES)、ステップS41〜S44の処理を実行する(
図12参照)。ステップS80〜S87の処理は、前述したステップS72(
図15参照)に含まれる。
【0125】
そして、検知4−1において洗濯物Qの偏りが無いと判定された状態で、モータ6の回転数が730rpmに到達すると(ステップS86でNO)、制御部30は、検知4−1を終了して、引き続き検知4−2を開始する(ステップS88)。
【0126】
図18は、検知4−2についての制御動作を示すフローチャートである。
図18を参照して、制御部30は、モータ6が引き続き加速された状態において、モータ6の回転数が730rpmに到達したことに応じて、検知4−2を開始する(前述したステップS88)。
【0127】
そして、制御部30は、カウンタ34によるカウントをスタートさせ(ステップS89)、0.3秒が経過する毎にカウンタ34を初期化することによって、0.3秒毎にカウントする(ステップS90およびステップS91)。
【0128】
制御部30は、検知4−1でのステップS84と同様に、カウントする毎に、カウント時におけるモータ6の回転数と、カウント時おいてモータ6に印加される電圧のデューティ比d
mとを取得し、補正値B
mと移動積算値C
mとを演算する(ステップS92)。
【0129】
次いで、制御部30は、前述した式(4)に基づいて、移動積算値C
mについての第2閾値を演算する(ステップS93)。この式(4)を構成する定数aおよびbは、検知4−1と同様に、現時点のモータ6の回転数や、選択された脱水条件によって異なる。そのため、ここでの第2閾値には、同じ回転数において、前述した上側第2閾値および下側第2閾値というように、複数の値が存在する。
【0130】
そして、制御部30は、現時点のモータ6の回転数が目標回転数(800rpm)に到達したかどうかを確認する(ステップS94)。
【0131】
現時点のモータ6の回転数が目標回転数未満である場合において(ステップS94でYES)、制御部30は、検知4−1の場合(ステップS87)と同様に、最新の移動積算値C
mが検知4−2に引っ掛かったかどうかを判定する(ステップS95)。
【0132】
詳しくは、
図17を参照して、偏心が大きくて洗濯物Qの偏りが有る場合(
図17の破線参照)では、偏心が小さくて洗濯物Qの偏りが無い場合(実線参照)に比べて、各回転数における移動積算値C
mが大きくなる。洗濯物Qの偏りが大きければ、移動積算値C
mは、設定された第2閾値、つまり、上側第2閾値および下側第2閾値において対応する方を上回る。
【0133】
よって、
図18に戻り、最新の移動積算値C
mが、設定された第2閾値以上であれば、制御部30は、脱水槽4内に洗濯物Qの偏りが有って移動積算値C
mが検知4−2に引っ掛かったと判定する(ステップS95でYES)。
【0134】
制御部30は、移動積算値C
mが検知4−2に引っ掛かったと判定すると(ステップS95でYES)、判定した時点、つまり、検知4−2において洗濯物Qの偏りが有ることを検出した時のモータ6の回転数Lを取得する(ステップS96)。
【0135】
そして、制御部30は、取得した回転数L、厳密には、回転数Lにおいて一桁目の数値を零に切り捨てて得られた回転数でモータ6を定常回転させることによって、洗濯物Qの脱水を継続する(前述したステップS79)。このとき、制御部30は、800rpmという本来の目標回転数で脱水したときと同じ脱水効果が得られるように、回転数Lでの脱水時間を延長する。
【0136】
そして、検知4−2において洗濯物Qの偏りが無いと判定された状態で、モータ6の回転数が目標回転数に到達すると(ステップS94でNO)、制御部30は、検知4−2を終了して、800rpmでモータ6を定常回転させることによって、洗濯物Qの脱水を継続する(前述したステップS78)。
【0137】
このように、第3加速段階では、脱水槽4内における洗濯物Qの偏りの有無が、C
nなどの情報値および第1閾値を用いたパターンである検知1〜検知3と、デューティ比d
mおよび第2閾値を用いたパターンである検知4とによって2重に検知されるので、脱水槽4の偏心回転を早い段階で確実に抑制できる。
【0138】
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【0139】
図19は、第3加速段階における検知3の制御動作についての第1変形例を示すフローチャートである。なお、
図19を含む各図では、他の図の処理ステップと同じ処理ステップには、同じステップ番号を付し、その処理ステップについての詳細な説明を省略する。
図19を参照して、制御部30は、前述した検知3と同様に、800rpmへのモータ6の加速を開始し(ステップS61)、割込みWの入力があると(ステップS62でYES)、その都度、カウント値nをインクメントする(ステップS63)。この第3加速段階において、制御部30は、検知3を開始する(ステップS64)。そして、制御部30は、検知3がOKである場合には(ステップS65でYES)、その後、モータ6の回転数が800rpmに到達すると(ステップS66でYES)、制御部30は、検知3を終了して、カウント値nを零にリセットし、モータ6を800rpmで定常回転させて脱水を継続する(ステップS67)。
【0140】
第1変形例では、検知3の際、制御部30は、モータ6の回転数が250〜300rpmである場合におけるGの最大値G
maxを監視する(ステップS68)。最大値G
maxに関し、第1閾値より小さい所定の基準値が設定されて、メモリ32に記憶される。制御部30は、最大値G
maxが基準値を一度も上回らなければ(ステップS68でYES)、検知4で用いられる第2閾値を一律に引き上げる(ステップS69)。
【0141】
つまり、検知3における最大値G
maxが基準値以下であれば、脱水槽4は、少なくとも静的にバランスがとれた状態にある。脱水槽4が静的にも動的にもバランスがとれた状態にあれば、検知3および検知4の両方においてOKとなるのだが、動的なバランスが崩れた状態では、検知3ではOKでも、並行して行われる検知4において脱水槽4の縦揺れが敏感に検知される。そのため、検知4におけるC
mが過度に大きくなってNGとなり、結果として、外槽3および脱水槽4の振動が大きくないのに検知4において脱水槽4の回転が停止される不具合が想定される。
【0142】
このような不具合を防ぐために、検知3における最大値G
maxが基準値以下の低い値であれば(ステップS68でYES)、制御部30は、外槽3および脱水槽4の振動がそれほど大きくないと見込んで、ステップS69において検知4の第2閾値をあまくする制御が行われる。つまり、デューティ比d
mを用いた検知4での誤検知が、検知3によって予防される。
【0143】
図20は、検知3の制御動作についての第2変形例に関連して、脱水運転中における脱水槽4の内部を示す模式図である。たとえば、脱水槽4内の洗濯物Qが、
図20(a)に示すように、脱水槽4の中心軸線17を挟んだ第1洗濯物Q1および第2洗濯物Q2へと均等に2分割された状態で脱水槽4内に配置されることがある。この状態で脱水槽4が800rpmで高速回転されると、当初は真円形状だった脱水槽4が、遠心力によって、
図20(b)に示すように第1洗濯物Q1と第2洗濯物Q2との対向方向に長手となった楕円形状に変形し、外槽3の円周壁3Aに接触する虞がある。このような不具合を防ぐために、第3加速段階において、
図21に示す第2変形例に係る検知3の制御が実施されてもよい。
【0144】
図21を参照して、制御部30は、前述した検知3と同様に、800rpmへのモータ6の加速を開始し(ステップS61)、割込みWの入力があると(ステップS62でYES)、その都度、カウント値nをインクメントする(ステップS63)。この第3加速段階において、制御部30は、検知3を開始する(ステップS64)。そして、制御部30は、検知3がOKである場合には(ステップS65でYES)、その後、モータ6の回転数が800rpmに到達すると(ステップS66でYES)、制御部30は、検知3を終了して、カウント値nを零にリセットし、モータ6を800rpmで定常回転させて脱水を継続する(ステップS67)。
【0145】
検知1での最大値G
maxに関し、第1閾値より小さい所定の第1基準値が設定され、検知2での最大値G
maxに関し、第1基準値より小さい所定の第2基準値が設定され、検知3においてモータ6の回転数が250〜300rpmである場合における最大値G
maxに関し、第2基準値より小さい所定の第3基準値が設定される。第1〜3基準値は、メモリ32に記憶される
【0146】
第2変形例の検知3では、直前の検知1での最大値G
maxが第1基準値を一度も上回らず(ステップS101でYES)、直前の検知2での最大値G
maxが第2基準値を一度も上回らず(ステップS102でYES)、今回の検知3においてモータ6の回転数が250〜300rpmである場合における最大値G
maxが第3基準値を一度も上回らなければ(ステップS103でYES)、制御部30は、検知4の第2閾値を一律に引き下げる(ステップS104)。
【0147】
つまり、検知1〜3でのそれぞれにおける最大値G
maxが、いずれにおいても、対応する基準値以下の小さい値であれば(ステップS101〜S103でYES)、脱水槽4内の洗濯物Qが、脱水槽4内で均等に分布した状態にあるか、
図20に示すようにきれいに2分割された状態にあるかのどちらかである。
【0148】
そこで、検知1〜3でのそれぞれにおける最大値G
maxが、いずれにおいても、対応する基準値以下の小さい値であれば(ステップS101〜S103でYES)、制御部30は、脱水槽4内の洗濯物Qが2分割された状態にあるものと仮定して、第2閾値を厳しくする(ステップS104)。これにより、検知3と並行して行われる検知4では、脱水槽4が楕円形状へと大きく変形する前に、ステップS95において検知4−2がNGとなることによって、ステップS79において、脱水槽4が外槽3に接触しない回転数での脱水運転を継続できる(
図18参照)。
【0149】
以上のように、変形例1および変形例2では、第1加速段階、第2加速段階および第3加速段階の少なくともいずれかにおける積算値Gの最大値G
maxに応じて、制御部30は、第2閾値を適切に変更する。そのため、脱水槽4内の現状に即して変更された第2閾値によって、洗濯物Qの偏りの有無を高い精度で検出して、脱水槽4の偏心回転を早い段階で抑制できる。なお、変形例1および変形例2の制御は、並行して行われてもよい。
【0150】
図22および
図23は、脱水運転中に行われる第3変形例の制御動作を示すフローチャートである。前述したように、この脱水機1では、脱水槽4の偏心回転を、検知1〜4によって電気的に検知できるとともに、安全スイッチ36によって機械的にも検知できる。つまり、洗濯物Qの偏りの有無は、800rpmまでのモータ6の回転状態に関する情報値である積算値Gや移動積算値C
mと第1閾値や第2閾値との関係に基づく電気的なパターンと、安全スイッチ36が外槽3に接触することによる機械的なパターンとによって2重に検知される。そのため、制御部30は、検知1〜4において洗濯物Qの偏りが有ると判定した場合、および、安全スイッチ36が脱水槽4の偏心回転を検出した場合のいずれかが生じたことに応じて脱水槽4の回転を停止させる。
【0151】
脱水槽4の偏心回転は、機械的および電気的な検知のどちらであっても、同じタイミングで検出されることが好ましい。しかし、出荷段階の脱水機1では、脱水機1の個体間における脱水槽4の傾きの誤差などに起因する脱水槽4と安全スイッチ36との相対位置のばらつきにより、脱水機1によっては第1閾値や第2閾値が適正でなく、機械的な検出と電気的な検出との間に時間的なずれが生じる虞がある。そこで、脱水機1の使用時に、第1閾値や第2閾値を補正することによって、このずれを解消してもよい。以下では、検知1における第1閾値を補正する場合について説明するが、検知1における第1閾値だけが補正される場合に限らず、検知2〜3における第1閾値や検知4における第2閾値も補正されてもよい。
【0152】
図22を参照して、制御部30は、出荷後の最初の脱水運転の開始に応じて、脱水槽4を回転させて脱水を起動する(ステップS111)。脱水に起動に伴い、第1加速段階では、検知1が行われる。その際、安全スイッチ36が作動してONになると(ステップS112でYES)、制御部30は、そのときのカウント値nをn
xとし、そのときの積算値GをG
xとする(ステップS113)。カウント値nがn
xであるときにおける第1閾値は、この実施形態ではn
xから第1所定値を差し引いて得られる値である。第1所定値は正の値である。
【0153】
制御部30は、先程の第1閾値からG
xを差し引いて得られる値が第2所定値J以上であるかどうかを判断する(ステップS114)。第2所定値Jは正の値である。第1閾値とG
xとの差分が第2所定値J未満である場合には(ステップS114でNO)、検知1での検出と安全スイッチ36による検出との間に、時間的なずれはほとんどないことから第1閾値は妥当と判断できるので、制御部30は、第1閾値の変更を行わずに運転を継続する(ステップS115)。
【0154】
第1閾値とG
xとの差分が第2所定値J以上である場合には(ステップS114でYES)、検知1での検出と安全スイッチ36による検出との間に、時間的なずれがあって、検知1だと安全スイッチ36よりも検出タイミングが遅すぎると判断できる。ただし、このずれが偶然発生したものかもしれないので、制御部30は、とりあえず、出荷時は零の補正候補値Uをインクリメントする(ステップS116)。インクリメント後の補正候補値Uが所定の上限値(ここでは3)未満の場合には(ステップS117でNO)、制御部30は、第1閾値の変更を行わずに運転を継続する(ステップS118)。
【0155】
一方、インクリメント後の補正候補値Uが上限値に達した場合には(ステップS117でYES)、検知1での検出と安全スイッチ36による検出との間に時間的なずれがあることが明確になったので、現状の第1閾値は妥当でない。そこで、制御部30は、当該第1閾値から先ほどの第2所定値Jを差し引いて得られた値を新たな第1閾値することで、第1閾値を厳しく変更する(ステップS119)。そして、制御部30は、補正候補値Uを零にリセットし(ステップS120)、運転を継続する(ステップS121)。
【0156】
このように、制御部30は、安全スイッチ36が脱水槽4の偏心回転を検出したときにおける積算値G
xと第1閾値との差が所定以上である場合(ステップS114でYES)、第1閾値を補正する(ステップS119)。これにより、これにより、第1閾値の補正後の脱水における検知1では、補正後の第1閾値によって、洗濯物Qの偏りの有無を高い精度で検出し、脱水槽4の偏心回転を早い段階で抑制できる。
【0157】
図23を参照して、安全スイッチ36が作動しない状況において(ステップS112でNO)、積算値Gが第1閾値を超えなければ(ステップS131でNO)、制御部30は、当初は零の補正候補値Vの変更を行わずに(ステップS132)、運転を継続する(ステップS133)。
【0158】
一方、安全スイッチ36が作動しない状況において(ステップS112でNO)、積算値Gが第1閾値に到達して検知1の検知結果がNGになると(ステップS131でYES)、制御部30は、そのときのカウント値nをn
yとし、そのときの積算値GをG
yとする。カウント値nがn
yであるときにおける第1閾値は、この実施形態ではn
yから前述した第1所定値を差し引いて得られる値である。
【0159】
制御部30は、G
yが、先程の第1閾値に第3所定値を足して得られる値T以上であるかどうかを判断する(ステップS135)。第3所定値は正の値である。G
yがT未満の場合には(ステップS135でNO)、検知1での検出と安全スイッチ36による検出との間に、時間的なずれはほとんどなく第1閾値は妥当と判断できるので、制御部30は、第1閾値の変更を行わずに運転を継続する(ステップS136)。
【0160】
G
yがT以上である場合には(ステップS135でYES)、検知1での検出と安全スイッチ36による検出との間に、時間的なずれがあって、検知1は安全スイッチ36よりも検出タイミングが早すぎると判断できる。ただし、このずれは、偶然発生したものかもしれないので、制御部30は、とりあえず、補正候補値Vをインクリメントする(ステップS137)。インクリメント後の補正候補値Vが所定の上限値(ここでは3)未満の場合には(ステップS138でNO)、制御部30は、第1閾値の変更を行わずに運転を継続する(ステップS139)。
【0161】
一方、インクリメント後の補正候補値Vが上限値に到達した場合には(ステップS138でYES)、検知1での検出と安全スイッチ36による検出との間に時間的なずれがあることが明確になったので、第1閾値は妥当でない。そこで、制御部30は、当該第1閾値から先ほどの第3所定値を足して得られた値を新たな第1閾値することで、第1閾値をあまく変更する(ステップS140)。そして、制御部30は、補正候補値Vを零にリセットし(ステップS141)、運転を継続する(ステップS142)。
【0162】
このように、制御部30は、安全スイッチ36の検出よりも先に洗濯物Qの偏りが有ると判定した場合に(ステップS131でYES)、第1閾値を補正する(ステップS140)。これにより、第1閾値の補正後の脱水における検知1では、補正後の第1閾値によって、洗濯物Qの偏りの有無を高い精度で検出し、脱水槽4の偏心回転を早い段階で抑制できる。なお、この変形例3は、他の変形例1や2と組み合わせられてもよい。
【0163】
次に、第4変形例について説明する。安全スイッチ36に関し、脱水槽4の振動がそれほど大きくないのに、外槽3の動き方によっては、安全スイッチ36が簡単に外槽3に接触することで作動してしまう場合が想定される。このような機械的なパターンにおける誤検出による脱水槽4の回転の停止を防止するために、第4変形例の制御動作が、検知1と並行して行われる。第4変形例の制御動作では、第1閾値とは別の閾値(第4閾値ということにする)が用いられる。第4閾値は、第1閾値と同じ値であってもよいが、第1閾値よりも低い値であることが好ましい。以下では、第4閾値が第1閾値よりも若干低いことを前提として説明する。
【0164】
図24は、第4変形例の制御動作を示すフローチャートである。
図24を参照して、制御部30は、脱水運転の開始に応じて、脱水槽4を回転させて脱水を起動する(ステップS151)。脱水に起動に伴い、第1加速段階では、検知1が行われる。その際、安全スイッチ36が作動してONになると(ステップS152でYES)、制御部30は、そのときの積算値GをG
Zとする(ステップS153)。
【0165】
制御部30は、G
Zが第4閾値以上であるかどうかを判断する(ステップS154)。G
Zが第4閾値以上であれば(ステップS154でYES)、検知1での検出と安全スイッチ36による検出とでタイミングがほぼ一致するとみなせるので、安全スイッチ36の作動、つまり、安全スイッチ36による検出が正常である。よって、制御部30は、洗濯物Qの偏りが有ると判定して、脱水槽4の回転を停止させる(ステップS155)。なお、検知1が同時に実行されるので、安全スイッチ36が作動しない状態でも(ステップS152でNO)、積算値Gが第1閾値以上になると(
図9BのステップS32でYES)、制御部30は、洗濯物Qの偏りが有ると判定して(
図9BのステップS33)、脱水槽4の回転を停止させる(
図12のステップS41)。
【0166】
一方、安全スイッチ36が作動したときのG
Zが第4閾値未満である場合には(ステップS154でNO)、制御部30は、脱水槽4の振動が無視できるほど小さく、安全スイッチ36が誤作動したと判断して、運転を継続する(ステップS156)。これにより、脱水運転の成功率の向上を図れる。
【0167】
ただし、その後に運転が継続された状態において安全スイッチ36が再び作動して、脱水起動時からの安全スイッチ36の作動回数が所定回数(ここでは3回)に到達すると(ステップS157でYES)、制御部30は、安全スイッチ36の作動が正常であって洗濯物Qの偏りが有ると判定して、脱水槽4の回転を停止させる(ステップS155)。言い換えれば、制御部30は、洗濯物Qの偏りが有ると判定する前における安全スイッチ36の検出の回数が所定回数に到達するまでは(ステップS157でNO)、脱水槽4の回転の停止を保留して、運転を継続する。これにより、安全スイッチ36を用いた機械的なパターンの誤検出による脱水槽4の回転停止を防止しつつ、脱水槽4の偏心回転を早い段階で抑制できる。なお、ここでの所定回数は、前述した3回に限らず、1回でもよい。また、変形例4の制御動作は、ステップS156において安全スイッチ36の作動を無視しても問題ない程度に回転数が低い第1加速段階で実行されることが好ましい。もちろん、この変形例4も、他の変形例1や2や3と組み合わせられてもよい。
【0168】
また、変形例4のさらなる変形例である変形例5として、
図25に示す制御動作が行われてもよい。変形例5では、変形例4のステップS153およびS154が省略される。この場合、脱水が起動されてから(ステップS151)、安全スイッチ36が作動してONになっても(ステップS152でYES)、安全スイッチ36の作動回数が所定回数(ここでは3回)に到達しなければ(ステップS157でNO)、制御部30は、安全スイッチ36が誤作動したと判断して運転を継続する(ステップS156)。ただし、前述したように、検知1が同時に実行されるので、積算値Gが第1閾値以上になると(
図9BのステップS32でYES)、制御部30は、脱水槽4の回転を停止させる(
図12のステップS41)。つまり、積算値Gが第1閾値未満であれば、制御部30は、2回までの安全スイッチ36の作動を無視する。
【0169】
一方、安全スイッチ36の作動回数が3回に到達すると(ステップS157でYES)、制御部30は、安全スイッチ36による検出が正常であって洗濯物Qの偏りが有ると判定して、脱水槽4の回転を停止させる(ステップS155)。言い換えれば、変形例5でも、変形例4と同様に、制御部30は、洗濯物Qの偏りが有ると判定する前における安全スイッチ36の検出の回数が所定回数に到達するまでは(ステップS157でNO)、脱水槽4の回転の停止を保留して、運転を継続する。変形例5は、変形例4の代わりに、他の変形例1や2や3と組み合わせられてもよい。ただし、変形例4では、第1閾値よりも低い第4閾値を基準として安全スイッチ36の誤作動の有無を判断するので(
図24参照)、変形例5の場合よりも早い段階において、洗濯物Qの偏りが有ると判定して脱水槽4の回転を停止させることができる。
【0170】
以上の実施形態では、モータ6がインバータモータであることを前提として、デューティ比を用いてモータ6を制御したが、モータ6がブラシモータである場合には、デューティ比の代わりに、モータ6に印加する電圧の値を用いて、モータ6が制御される。
【0171】
また、以上の説明において、回転数について120rpmや240rpmや800rpmなど具体的な数値を用いたが、これらの具体的な数値は、脱水機1の性能に応じて変わる値である。また、以上の説明において、検知1〜3では、移動平均値C
nを基準として積算値Gを算出したが、誤差の影響などがなければ、モータ6の回転数の上昇に応じて減少すべき他の情報値であるA
n、B
nのいずれかを基準として積算値Gを算出してもよい。また、前述した積算値Gは、移動平均値E
nの積算値であったが、前述したNSセットの相対位置の誤差の影響がなければ、差分D
nの積算値であってもよい。また、検知4では、デューティ比を取得して判定に用いたが、このデューティ比は、取得したデューティ比の生データであってもよいし、必要に応じて補正された補正値であってもよいし、前述した移動積算値C
mのようにデューティ比から変換された指標値であってもよい。