(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。
【0020】
<実施形態>
(圧縮機)
図1は、この発明の実施形態による回転電気機械(10)を備えた圧縮機(1)の構成例を示している。圧縮機(1)は、例えば、空気調和機(図示を省略)に用いられ、空気調和機の室外機(図示を省略)に設置されている。圧縮機(1)は、回転電気機械(10)の他に、駆動軸(20)と、圧縮機構(30)と、ケーシング(40)とを備えている。回転電気機械(10)は、ロータ(11)と、ロータ(11)が挿通されるステータ(12)とを備えている。この例では、回転電気機械(10)は、電動機(より具体的には、埋込磁石型モータ)を構成している。回転電気機械(10)は、ケーシング(40)に収容され、駆動軸(20)を介して圧縮機構(30)を駆動するために用いられている。圧縮機構(30)は、スクロール型圧縮機構やロータリ型圧縮機構であっても良いし、その他の圧縮機構であっても良い。
【0021】
(回転電気機械)
図2は、回転電気機械(10)の横断面を示している。以下の説明において、「軸方向」は、駆動軸(20)の軸心(O)の方向のことであり、「径方向」は、駆動軸(20)の軸方向と直交する方向のことであり、「周方向」は、軸心(O)を中心とした円周の方向のことであり、「外周側」は、軸心(O)からより遠い側のことであり、「内周側」は、軸心(O)により近い側のことである。また、「縦断面」は、軸方向に沿った断面のことであり、「横断面」は、軸方向に直交する断面のことである。回転電気機械(10)は、ロータ(11)と、ステータ(12)とを備えている。
【0022】
〔ステータ〕
ステータ(12)は、円筒状のステータコア(201)と、コイル(202)とを備えている。
【0023】
〈ステータコア〉
ステータコア(201)は、電磁鋼板をプレス加工によって打ち抜いて積層板を作製し、複数の積層板を軸方向に積層することにより構成された積層コアである。ステータコア(201)は、バックヨーク部(211)と、複数(この例では、6つ)のティース部(212,212,…)と、複数(この例では、6つ)のツバ部(213,213,…)とを備えている。バックヨーク部(211)は、ステータコア(201)の外周部に形成され、円環状に形成されている。バックヨーク部(211)の外周は、ケーシング(40)の内面に固定されている。ティース部(212)は、バックヨーク部(211)の内周面から径方向に伸びる直方体状に形成されている。ティース部(212,212,…)の間には、コイル(202)が収容されるコイル用スロット(214,214,…)が形成されている。ツバ部(213)は、ティース部(212)の内周側に連続形成されている。ツバ部(213)は、ティース部(212)よりも幅(周方向の長さ)が大きく構成され、内周側の面が円筒面に形成されている。ツバ部(213)の円筒面は、ロータ(11)の外周面(円筒面)と所定の距離(エアギャップ(G))を隔てて対向している。
【0024】
〈コイル〉
コイル(202)は、いわゆる集中巻方式により、ティース部(212)に巻回されている。すなわち、1つのティース部(212)ごとにコイル(202)が巻回され、巻回されたコイル(202)は、コイル用スロット(214)内に収容されている。これにより、ティース部(212,212,…)の各々において電磁石が形成されている。なお、コイルの巻方式は集中巻方式に限定されず、分布巻方式であってもよい。
【0025】
〔ロータ〕
次に、
図3を参照して、ロータ(11)について説明する。ロータ(11)は、円柱状に形成されたロータコア(101)と、複数(この例では、4個)の磁石(100,100,…)とを有している。
【0026】
〈ロータコア〉
ロータコア(101)は、電磁鋼板をプレス加工によって打ち抜いて積層板を作製し、複数の積層板を軸方向に積層することにより構成されている。ロータコア(101)の中心には、軸穴(S110)が形成されている。軸穴(S110)には、焼き嵌めなどによって駆動軸(20)が固定されている。また、ロータコア(101)には、複数(この例では、4つ)の磁石スロット(S100,S100,…)が形成されている。
【0027】
−磁石スロット−
磁石スロット(S100,S100,…)は、軸心(O)回りに所定のピッチ(この例では、90°ピッチ)でロータコア(101)に形成されている。磁石スロット(S100)は、ロータコア(101)を軸方向に貫通し、周囲をロータコア(101)により囲繞されている。この例では、磁石スロット(S100)の横断面形状は、長さの等しいL字形の角部分が外側に突き出した形状となっている。
【0028】
−磁石−
磁石スロット(S100,S100,…)の各々にボンド磁石が充填されて、磁石(100,100,…)が形成されている。ボンド磁石は、磁性粉末(例えば、ネオジム鉄ボロン系の磁石やフェライト磁石などの粉末)を含有する溶融樹脂からなっており、このボンド磁石を磁石スロット(S100,S100,…)に射出して固化すること(すなわち、射出成形)により磁石(100,100,…)が形成されている。
【0029】
磁石(100,100,…)の形状は磁石スロット(S100,S100,…)と同形状であり、両足の長さの等しいL字形の角部分が外側に突き出した形状である。ここで角部分がセンター部(21)であり、直角をなして延びる2本の足の部分がサイド部(31)である。ロータコア(101)内での磁石(100,100,…)の配置形状は、センター部(21)が径方向の外方向へ突き出す形状であり、両方のサイド部(31,31)はセンター部(21)の径方向の軸心(0)側(内側)から互いに離間して、センター部(21)の中心を通るロータコア(101)の直径を対称軸として対称形状にまっすぐ延びている形状である。両方のサイド部(31,31)は長さが略等しく、幅も略等しい。
【0030】
センター部(21)の周方向に沿った幅d1は、サイド部(31)の径方向に沿った幅d2よりも大きく、d2の2倍以上である。
【0031】
−境界部−
境界部(111)は、隣合う2つの磁石(100,100)の隣合うサイド部(31,31)同士の間に存しており、ロータコア(101)の一部である。そして境界部(111)は、ロータコア(101)のうち磁石スロット(S100,S100,…)よりも軸心(0)側の部分と、磁石スロット(S100,S100,…)よりも径方向外側の部分とを連結している。境界部(111)の幅(2つのサイド部(31,31)間の距離)はd2よりも小さい。
【0032】
〔成形金型〕
次に、
図5,
図6を参照して、ボンド磁石の射出成形の際に使用される成形金型(50)について説明する。成形金型(50)は、上型(51)と、下型(52)とによって構成されている。なお、
図5は、
図6のV−V線における断面に対応している。
【0033】
〈上型〉
図5のように、上型(51)は、注入口(501)と、スプールランナ(502)と、複数のゲート(503,503,…)とを有している。注入口(501)には、溶融樹脂が注入される。スプールランナ(502)は、注入口(501)に注入された溶融樹脂をゲート(503,503,…)に供給する。ゲート(503,503,…)は、スプールランナ(502)から供給された溶融樹脂を射出する。また、ゲート(503,503,…)は、ロータコア(101)の磁石スロット(S100,S100,…)のうち、センター部(21,21,…)に対応する部分の直上にそれぞれ位置している。この例では、4つの磁石スロット(S100,S100,…)にそれぞれ対応する4つのゲート(503,503,…)が設けられている。
【0034】
〈下型〉
下型(52)は、非磁性部材によって構成されている。また、下型(52)は、円形状に形成された凹部を有している。
図6のように、下型(52)の凹部の内周には、円弧状に形成された複数(この例では、4つ)の永久磁石(504,504,…)と、円弧状に形成された複数(この例では、4つ)のポールピース(505,505,…)が設けられている。さらに、永久磁石(504,504,…)の内周には、円弧状に形成された複数(この例では、4つ)の接触部材(506,506,…)が設けられている。そして、下型(52)の凹部の底面とポールピース(505,505,…)の内周面および接触部材(506,506,…)の内周面とによって、ロータコア(101)を収容するためのロータコア収容部(500)が構成されている。
【0035】
《永久磁石》
永久磁石(504)は、永久磁石(504)の周方向の一端がN極となるとともに周方向の他端がS極となるように、周方向に磁化されている。また、永久磁石(504,504,…)は、N極同士およびS極同士が対向するように、所定のピッチ(この例では、90°ピッチ)で下型(52)の凹部の内周面に固定されている。
【0036】
《ポールピース》
ポールピース(505)は、磁性材料(例えば、鉄など)によって構成されている。また、ポールピース(505,505,…)は、永久磁石(504,504,…)の間にそれぞれ配置されるように、下型(52)の凹部の内周面に固定されている。ポールピース(505,505,…)の内周面は、ロータコア収容部(500)に収容されたロータコア(101)の外周面に所定の間隔(エアギャップ)を隔てて対向するように、ロータコア(101)の半径よりも大きい曲率半径を有する円筒面状に形成されている。
【0037】
《接触部材》
接触部材(506)は、非磁性材料(例えば、ステンレスなど)によって構成されている。また、接触部材(506,506,…)は、永久磁石(504,504,…)の内周面にそれぞれ固定されている。
【0038】
〔ロータの製造工程〕
次に、成形金型(50)を用いたロータ(11)の製造工程について説明する。
【0039】
〈セット工程〉
まず、ポールピース(505,505,…)の内周面がロータコア(101)の外周面(より具体的には、ロータ(11)の磁極となる部分)に所定の間隔を隔てて対向するとともに、接触部材(506,506,…)の内周面がロータコア(101)の磁石スロット(S100,S100,…)のセンター部(21)に該当する部分に最接近するように、下型(52)のロータコア収容部(500)にロータコア(101)が収容される。なお、ロータコア(101)の軸方向の一方の開口端部は、ロータコア収容部(500)の底面によって閉塞されている。次に、ゲート(503,503,…)がロータコア(101)の磁石スロット(S100,S100,…)のセンター部(21)に該当する部分の軸方向の他方の開口端部にそれぞれ対向するように、上型(51)と下型(52)とが重ね合わされる。
【0040】
〈射出工程〉
次に、射出ユニット(図示を省略)によって、上型(51)の注入口(501)にボンド磁石となる溶融樹脂が注入される。注入口(501)に注入された溶融樹脂は、スプールランナ(502)を経由してゲート(503,503,…)からロータコア(101)の磁石スロット(S100,S100,…)にそれぞれ射出される。
【0041】
ロータコア(101)の磁石スロット(S100,S100,…)への溶融樹脂の充填が完了すると、溶融樹脂が固化される。このようにして、磁石(100,100,…)が形成される。また、永久磁石(504,504,…)からポールピース(505,505,…)を通過してロータコア(101)のボンド磁石に向かう磁束により、磁石(100,100,…)の磁場配向および着磁が行われる。このとき、各磁石(100)の径方向の外側表面には、センター部(21)を境にして両側のサイド部(31,31)において異なる極が形成される。すなわち一つの磁石(100)の一方のサイド部(31)の外側表面がN極となると、他方のサイド部(31)の外側表面はS極となる。
【0042】
〈取り外し工程〉
次に、上型(51)と下型(52)とが分離され、下型(52)のロータコア収容部(500)からロータ(11)(すなわち、磁石スロット(S100,S100,…)にボンド磁石が充填されたロータコア(101))が取り外される。このようにして、ロータ(11)が製造される。
【0043】
〔射出成形時にロータコアに加えられる圧力〕
次に、ボンド磁石の射出成形の際に、ロータコア(101)に加えられる圧力について本実施形態(
図3)と比較例(
図4)とを比べて説明する。
【0044】
比較例のロータ(11a)には、4つの磁石(100a,100a,…)が周方向に90度ずれて存しており、各磁石(100a)が一つの極を形成している。つまり、各磁石(100a)の径方向外側表面は、特定の極であり、隣の磁石(100a)の径方向外側表面は、それとは反対の極となっている。このような磁石(100a,100a,…)は中央部分が略周方向に延びていて、両端部は中央部から径方向外側に曲がっている。このロータ(11a)を射出成型により製造するときには、磁石スロット(S100a)に充填されるボンド磁石の圧力により、両端部は矢印Bの向きにロータコア(101a)に対して力を加えることになる。一つの磁石スロット(S100a)における2つの両端部からロータコア(101a)にかかる矢印Bの向きの合力は、その磁石スロット(S100a)の径方向外側のロータコア(101a)部分を径方向外側へ膨らませる力となる。また、その磁石スロット(S100a)の中央部もロータコア(101a)に径方向外側への圧力をかける。従って比較例のロータ(11a)は射出成形時に外側に膨らみやすい。
【0045】
一方、本実施形態では、射出成形時にセンター部(21)において比較例と同じような矢印Aの向きの力をロータコア(101)にかけるが、境界部(111)が存しているので、この力によるロータコア(101)の径方向外側への膨らみは抑制される。
【0046】
〔効果〕
以上のように、ボンド磁石の射出成形の際に、磁石スロット(S100,S100,…)の各々において、境界部(111)の存在により、ボンド磁石の射出成形に伴うロータコア(101)の径方向外側への膨らみ変形を抑制することができ、ロータ(11)とステータ(12)との間のエアギャップ(G)の精度劣化を抑制することが可能となる。
【0047】
また、
図4の比較例において、本実施形態と同様の膨らみ抑制効果を狙って磁石(100a,100a,…)の中央に境界部を形成したと仮定してみると、この境界部において磁束漏れが発生する。本実施形態の境界部(111)においても同様に磁束漏れが発生するが、比較例では隣合う2つの磁石(100a,100a)の境界部分である磁極間隔離部(121)においても磁束漏れが発生し、この磁極間隔離部(121)は境界部よりも長いので磁束の漏れ度合が大きい。従って本実施形態では比較例よりも磁束漏れが減少する。
【0048】
そして、上記と同じく
図4の比較例において境界部を形成したと仮定してみると、磁石スロット(S100a,S100a,…)が8つ必要になるが、本実施形態では磁石スロット(S100,S100,…)が半分の4つであり、射出成形時のゲートも4つですみ、射出成形のコストが増加することを抑制できる。
【0049】
さらには、本実施形態では各磁石(100)のセンター部(21)の周方向に沿った幅d1は、サイド部(31)の径方向に沿った幅d2よりも大きいので減磁耐力を向上させることができる。特にd1がd2の2倍以上であると減磁耐力の向上効果が顕著となり好ましい。
【0050】
4つの磁石(100,100,…)のそれぞれがセンター部(21)を通る径を対称軸とした線対称の形状であって、4つ全てが同じ形状であり、かつ軸心(0)を中心として90度ずつ回転した対称形状に配置されているので、ロータコア(101)全体でバランスのとれた磁極配置となっている。
【0051】
(ロータコアの変形例1)
図7のように、磁石スロット(S103,S103,…)及び磁石(103,103,…)の横断面形状が、2つの円弧の端部同士が結合した形状であってもよい。この場合、2つの円弧の端部同士が結合した部分がセンター部(23)であって、径方向の外側へ突き出している。円弧の部分が2つのサイド部(33,33)であって、センター部(23)の軸心(0)側からセンター部(23)の中心を通るロータコア(102)の直径を対称軸とする対称形状にそれぞれ延びている。なお、サイド部(33,33)の円弧の膨らみ方向はロータコア(102)の外周の膨らみ方向とは反対方向である。隣合う磁石(103,103)のサイド部(33,33)同士は、境界部(113)によって、サイド部(33)の径方向に沿った幅以下の距離で隔てられている。センター部(23)の周方向に沿った幅は、サイド部(33)の径方向に沿った幅よりも大きく、2倍以上である。
【0052】
変形例1のロータコア(102)を用いた回転電気機械も
図2に示す回転電気機械と同じ効果を奏する。
【0053】
(ロータコアの変形例2)
図8のように、磁石スロット(S105,S105,…)及び磁石(105,105,…)の横断面形状が、
図3に示すサイド部(31,31)間の90度の角度を60度にした形状であってもよい。この場合、センター部(25)の形状や大きさは
図3のロータコア(101)と同じである。隣合う磁石(105,105)のサイド部(35,35)同士は、境界部(115)によって、サイド部(35)の径方向に沿った幅以下の距離で隔てられている。センター部(25)の周方向に沿った幅は、サイド部(35)の径方向に沿った幅よりも大きく、2倍以上である。
【0054】
変形例2のロータコア(104)を用いた回転電気機械も
図2に示す回転電気機械と同じ効果を奏する。
【0055】
(ロータコアの変形例3)
図9のように、磁石スロット(S107,S107,…)及び磁石(107,107,…)の横断面形状が、
図3に示すサイド部(31)が延びる途中で径方向外側へ屈曲した形状であってもよい。この場合、センター部(27)の形状や大きさは
図3のロータコア(101)と同じである。隣合う磁石(107,107)のサイド部(37,37)同士は、境界部(117)によって、サイド部(37)の径方向に沿った幅以下の距離で隔てられている。センター部(27)の周方向に沿った幅は、サイド部(37)の径方向に沿った幅よりも大きく、2倍以上である。
【0056】
変形例3のロータコア(106)を用いた回転電気機械も
図2に示す回転電気機械と同じ効果を奏する。
【0057】
<その他の実施形態>
上述の実施形態及び変形例は本願発明の例示であって、本願発明はこれらの例に限定されず、これらの例に周知技術や慣用技術、公知技術を組み合わせたり、一部置き換えたりしてもよい。また当業者であれば容易に思いつく改変発明も本願発明に含まれる。