(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光位相変調器は、前記複数の光入出力素子の各々から出力される光の位相を変えることにより前記複数の光入出力素子の各々から出力される光が合波された光の波面の方向を変える
請求項11に記載の光偏向装置。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0026】
[第1の実施の形態]
図1を参照して、本実施の形態に係る光入出力素子100について説明する。光入出力素子100は、基板102、光導波路104a、光導波路104b、および光導波路104a、光導波路104bの周囲に設けられたクラッド106を含んで構成されている。以下、光導波路104a、104bを総称する場合には、「光導波路104」という。
【0027】
光導波路104aおよび光導波路104bは光を伝搬するスロット導波路として機能し、光導波路104aおよび光導波路104bの組が、本実施の形態に係る光入出力素子の主要部を構成している。なお、
図1では、本実施の形態に係る光入出力素子100を光出力素子として機能させる形態を例示しているが、入射光Piおよび出射光Poの向きを逆にすればそのまま光入力素子として機能する。
【0028】
図1に示すように、光導波路104aおよび光導波路104bで構成されるスロット導波路を伝搬してきた入射光Piは、光導波路104aおよび光導波路104bの端部(端部PA、端部PB)に到達すると光路を曲げられ、出射光Poとして出射する。後述するように、出射光Poは、入射光Piに対し、光導波路104aと光導波路104bの組のうちの長い方の光導波路104aの側に曲げられる。
【0029】
つぎに、
図2ないし
図4を参照して、本実施の形態に係る光入出力素子100の作用に関するシミュレーション結果について説明する。
【0030】
本シミュレーションでは、基板102の材料をSi(シリコン)とし、光導波路104aおよび光導波路104bの一方の材料をSiN(窒化シリコン)とし、他方の材料をSiとし、クラッド106の材料をSiO2(二酸化珪素)としている。
【0031】
また、本シミュレーションにおいては、光入出力素子100の
図2に示す各部サイズを以下のように設定している。
光導波路104aの幅dha=0.8μm
光導波路104aの高さdva=0.45μm
光導波路104bの幅dhb=0.25μm
光導波路104bの高さdvb=0.2μm
光導波路の間隔(導波路間隔)ds=0.2μm
端部PAと端部PBとの間隔(端部間隔)do=1μm
【0032】
図3は、以上のような条件下、FDTD(Finite Difference Time Domain)法を用いて本実施の形態に係る光入出力素子100をシミュレーションした結果を示している。FDTD法とは、解析する空間を細かいメッシュで切り、各メッシュポイントの電磁界の各成分を、マクセル方程式に基づいて時間的に解いていく手法である。なお、シミュレータには、RSoft社のFullWAVEを用いた。
【0033】
図3(a)および
図3(b)は、光導波路104aと光導波路104bとの長さ関係を互いに逆にしたもので、
図3(a)は、基板側の光導波路104bを長くし、光導波路104aを短くした光入出力素子100−1を、
図3(b)は、基板側の光導波路104bを短くし、光導波路104aを長くした光入出力素子100−2を各々示している。なお、本実施の形態では、光導波路104aをSiN、光導波路104bをSiとしている。
【0034】
図3(a)に示すように、光入出力素子100−1では、入射光Piが左側に偏向された出射光Poが出射し、光入出力素子100−2では、入射光Piが右側に偏向された出射光Poが出射することがわかる。すなわち、本実施の形態に係る光入出力素子では、入射光Piが相対的に長さの長い光導波路104側に偏向された出射光Poを出射することがわかる。
【0035】
ここで、
図2に示すように、入射光Piの伝搬方向を基準にした出射光Poが偏向される角度を、「偏向角θo」と定義する。上記条件における偏向角θoのシミュレーション結果は、
図3(a)、
図3(b)ともに約30°となった。
【0036】
図4(a)および(b)は、
図3に示すシミュレーション結果を等高線図で表した図であり、
図4(a)は
図3(a)に相当するシミュレーション結果を、
図4(b)は
図3(b)に相当するシミュレーション結果を、各々示している。
図4(c)は、
図4(a)および(b)に示す記号Aを付した矢印の方向から見た、基板102、光導波路104a、および光導波路104bの配置を示している。光導波路104の各部サイズは
図2に示したとおりであるが、基板102と光導波路104bとの間隔を2μmとしている。
【0037】
図4からも、入射光Piの光路が偏向されて出射光Poとして出射されていることが明瞭にわかる。
【0038】
つぎに、
図5を参照して、本実施の形態に係る光入出力素子100の作用について定性的に説明する。なお、光入出力素子100−1と100−2は同様の作用を示すので、以下では、光入出力素子100−1で代表して説明する。
【0039】
図5に示すように、本実施の形態に係る光入出力素子100−1は、光導波路104aと光導波路104bとがクラッド106中に並べて配置され、光導波路104aの端部PAと、光導波路104bの端部PBとが紙面上下方向において間隔doだけずれている(すなわち、端部間隔がdoである)。また、光導波路104aと光導波路104bとの間隔(導波路間隔)はdsである。ここで、端部PAの中心と端部PBの中心とを結ぶ直線をvとし、直線vと直交する直線をhとし、直線vと直線hとの交点PCに向けて入射光Piが入射するものとする。
【0040】
上記のような境界条件においては、直線vを境にして入射光Piが感じる屈折率が異なる。すなわち、直線vより光導波路(光導波路104a、光導波路104b)側は、光導波路104aと光導波路104bとにより構成される、等価的な屈折率がniであるスロット導波路と考えられる。一方、直線vに対して光導波路と反対側は、屈折率がクラッド106の屈折率noである境界のない自由空間と考えられる。
【0041】
この場合、光導波路104aと光導波路104bとにより形成されるスロット導波路を進行してきた入射光Piは、交点PCにおいてスネルの法則により屈折する(偏向される)。すなわち、入射角Φi、出射角Φo、および屈折率ni、noの間に下記式(1)に示す関係が成立していると考えられる。
sinΦo/sinΦi=ni/no ・・・ (1)
上記式(1)を変形すると、下記式(2)のようになる。
sinΦo=(ni/no)・sinΦi ・・・ (2)
【0042】
したがって、入射角Φi一定の条件下で光導波路104aと光導波路104bとの導波路間隔dsを変えると、等価的な屈折率niが変わるので、出射角Φoが変化する。
【0043】
また、導波路間隔ds一定の条件下で(つまり、屈折率ni一定の条件下で)端部間隔doを変えると入射角Φiが変わるので、出射角Φoが変化する。すなわち、端部間隔doを大きくすると入射角Φiが大きくなるので、出射角Φoも大きくなる。
【0044】
つぎに
図6ないし
図8を参照して、本実施の形態に係る光入出力素子の製造方法について説明する。以下では、本実施の形態に係る光入出力素子をSOI(Silicon on Insulator)基板を用いて製造する方法を例示して説明するが、本発明はこれに限定されず、他の公知のSi半導体プロセスを用いて製造してもよい。
【0045】
まずSiの基板10上にSiO2層12とSi層14を積層させてウエハ状のSOI基板を作成する。精密な加工を可能とするために、Si層14は、一例として、約0.2μmとする。(
図6(a))
【0046】
つぎに、Si層14を光導波路104の形状にエッチングすべく、レジストを塗布した後露光して、フォトリソグラフィによりレジストをパターニングしてマスク16を形成する。(
図6(b))
【0047】
つぎに、マスク16を用いてドライエッチングを行う。ドライエッチングは、一例として、SF6(六フッ化硫黄)とO2(酸素)の混合ガスによる反応性イオンエッチングを用いることができるが、これに限られず他のドライエッチング方法を用いてもよい。(
図6(c))
【0048】
エッチング後、不要なマスク16(レジスト)は、酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチング等により剥離する。(
図6(d))
【0049】
つぎに、拡散領域20を形成すべく、レジストを塗布した後露光し、フォトリソグラフィによりレジストをパターニングして、ドーピングの必要のない部分を覆うマスク18を形成する。(
図6(e))
【0050】
つぎに、N型またはP型不純物のイオン注入を行い、拡散領域20を形成する。N型不純物としては、たとえばAs(砒素)を用いることができ、P型不純物としては、たとえばB(ホウ素)を用いることができる。(
図6(f))
【0051】
つぎに、不要なマスク18(レジスト)を、酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチング等により剥離する。その後ウエハを熱処理してアニーリングを施し、ドーピングによるSi結晶のダメージを修復する。(
図6(g))
【0052】
つぎに、CVD(Chemical Vapor Deposition:プラズマ化学気相成長)などによりSiO2膜22を堆積させ、クラッド106を形成する。本工程以降のフォトリソグラフィを正確に行うために、BやP(リン)等を該SiO2膜に添加して軟化加熱する方法、あるいは、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学研磨)によって該SiO2膜22を平坦化しておくことが望ましい。(
図6(h))
【0053】
つぎに、CVDなどによりSiO2膜上にアモルファスシリコン層24を堆積させる。
(
図6(i))
【0054】
つぎに、2層目の光導波路104を形成すべく、レジストを塗布した後露光して、フォトリソグラフィによりレジストをパターニングし、マスク26を形成する。(
図6(j))
【0055】
つぎに、マスク26を用いてドライエッチングを行う。(
図6(k))
【0056】
つぎに、不要なマスク26(レジスト)を、酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチング等により除去(剥離)する。(
図6(l))
【0057】
つぎに、CVDなどによりSiO2膜48を堆積させ、2層目のクラッド106を形成する。本工程以降のフォトリソグラフィを正確に行うために、BやP等を該SiO2膜に添加して軟化加熱する方法、あるいは、CMPによって該SiO2膜48を平坦化しておくことが望ましい。(
図7(a))
【0058】
つぎに、スパッタ法等によりTiN(窒化チタン)膜28を堆積させる。(
図7(b))
【0059】
つぎに、第1配線層を形成すべく、TiN膜28上にレジストを塗布した後露光して、フォトリソグラフィによりレジストをパターニングし、マスク30を形成する。(
図7(c))
【0060】
つぎに、マスク30を用いてドライエッチングを行う。(
図7(d))
【0061】
つぎに、不要なマスク30(レジスト)を、酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチング等により除去(剥離)する。(
図7(e))
【0062】
つぎに、CVDなどによりSiO2膜32を堆積させる。本工程以降のフォトリソグラフィを正確に行うために、BやP等を該SiO2膜に添加して軟化加熱する方法、あるいは、CMPによって該SiO2膜32を平坦化しておくことが望ましい。(
図7(f))
【0063】
つぎに、拡散領域20およびTiN膜28と接続するコンタクトを形成すべく、SiO2膜32上にレジストを塗布した後露光して、フォトリソグラフィによりレジストをパターニングし、マスク34を形成する。この際、マスク34には、開孔H1およびH2が形成される(
図7(g))
【0064】
つぎに、マスク34を用いてドライエッチングを行う。この際、拡散領域20およびTiN膜28に達するコンタクトホールT1、T2が形成される。(
図7(h))
【0065】
つぎに、不要なマスク34(レジスト)を、酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチング等により除去(剥離)する。(
図8(a))
【0066】
つぎに、スパッタ法等によりAl(アルミニウム)膜36を堆積させる。Al膜36は、コンタクトホールT1、T2を埋め、コンタクト38、40を形成する。(
図8(b))
【0067】
つぎに、第2配線層(電極)を形成すべく、Al膜36上にレジストを塗布した後露光して、フォトリソグラフィによりレジストをパターニングし、マスク42を形成する。(
図8(c))なお、電極を形成する金属はAlに限られずAu(金)等を用いてもよい。
【0068】
つぎに、マスク42を用いてドライエッチングを行う。この(
図8(d))
【0069】
つぎに、不要なマスク42(レジスト)を、酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチング等により除去(剥離)する。Al薄膜の不純物残渣はAlドライエッチング残渣除去液などによって除去しておくことが好ましい。(
図8(e))
【0070】
以上の製造工程により、本実施の形態に係る光入出力素子が製造される。本実施の形態に係る製造方法は、斜めエッチングのような特殊な工程を含む製造方法と比較して、平面構造の工程みのでパターニングできる点で優れている。
【0071】
[第2の実施の形態]
図9ないし
図13を参照して、本実施の形態に係る光偏向装置200について説明する。
【0072】
図9は光偏向装置200の全体構成を示す図であり、
図9(a)は光偏向装置200の斜視図を、
図9(b)は、光偏向装置200の平面図を、
図9(c)は、
図9(b)におけるA−A’線に沿う断面図を、各々示している。
【0073】
図9に示すように、光偏向装置200は、基板202、光出力部204、位相変調部250、および分岐部260を含んで構成されている。光出力部204、位相変調部250、および分岐部260の各々は、クラッド214で覆われている。そして、図示しない光源等からの光を、分岐部260の光入力部220より入射光Piとして入射させ、入射光Piの偏向方向を制御しつつ、光出力部204から出射光Poとして出射させる。後述するように、光出力部204は、本実施の形態に係る光入出力素子として機能すると同時に、モード変換器としても機能する。
【0074】
分岐部260は3個のY分岐212を備えており、入射された入射光Piを4分岐し、分岐された各々の光を光導波路208を介して伝搬させる。
【0075】
本実施の形態に係る位相変調部250は、一例として、熱光学効果に基づく位相変調器を用いている。
図10(a)に、熱光学効果に基づく位相変調器270の構成の一例を示す。
図10(a)に示すように、位相変調器270は、一例として、Siの基板202、Siの光導波路208、SiO2のクラッド214、およびヒータ電極210を備えている。そして、4本に分岐された光導波路208の各々にヒータ電極210が配置され、直下の光導波路208の温度を調整することによって光導波路208を伝搬する光の位相を変えている。
【0076】
なお、本実施の形態では、熱光学効果に基づく位相変調器270により構成した位相変調部250を例示して説明するが、これに限られず、電流注入に基づく位相変調器270aにより位相変調部250を構成してもよい。
図10(b)に、当該電流注入に基づく位相変調器270aの構成の一例を示す。
【0077】
位相変調器270aは、一例として、Siの基板202、Siの光導波路208、光導波路208の両側に配置されたSiのN型拡散領域216a、SiのP型拡散領域216b、クラッド214、およびN電極218a、P電極218bを含んで構成されている。
光導波路208内には、N型拡散領域216aおよびP型拡散領域216bによるPN接合が形成されており、N電極218aおよびP電極218bを介して該PN接合に電流を流すことにより、光導波路208を伝搬する光の位相を変える。
【0078】
光出力部204は、4本の光導波路208の端部に配置された、光出力部204a、204b、204c、および204dを備えて構成されており、光出力部204a〜204dの各々は、本発明に係る光入出力素子を構成している。光出力部204の詳細については後述する。
【0079】
つぎに、光偏向装置200の動作について説明する。
光入力部220から入射した入射光Piは、分岐部260で4分岐され、各々光出力部204a〜204dに向かって光導波路208を進む。光導波路208を進む途中で、4分岐された光の各々は位相変調部250(位相変調器270a〜270d)によって位相変調される。後述するように、この位相変調は、光出力部204a〜204dの各々から出射され、合波された光の波面の進行方向を制御するための変調である。
【0080】
図9および
図11を参照して、本実施の形態に係る光出力部204についてより詳細に説明する。本実施の形態に係る光出力部204は、先述した光入出力素子100と同様の構成となっており、同様の機能を有する。すなわち、
図9(c)に示すように、光出力部204は、光導波路208およびテーパ光導波路206を備え、この光導波路208およびテーパ光導波路206が、光入出力素子100の光導波路104aおよび光導波路104bに相当する。そして、先述したように、光導波路208とテーパ光導波路206とでスロット導波路が構成されている。
【0081】
本実施の形態に係る光出力部204は、光入出力素子としての機能の他にモード変換器を兼ねている。つまり、光入力部220から入射した入射光Piは、まず、単一の光導波路208を伝搬するモード(単一導波路モード)で伝搬する。そして、光出力部204に到達すると、スロット導波路により伝搬するモード(スロット導波路モード)に変換されて伝搬する。
【0082】
より具体的には、
図9(c)に示すように、単一の光導波路である光導波路208を伝搬してきた単一導波路モードの光W1は、光出力部204においてスロット導波路モードの光W2に変換される。すなわち、
図11に示すように、光導波路208を伝搬してきた単一導波路モードの光W1は、単一の光導波路208から光導波路208とテーパ光導波路206とで構成されるスロット導波路に乗り換えることにより、スロット導波路モードの光W2に変換される。
【0083】
そして、スロット導波路モードの光W2は、光導波路208とテーパ光導波路206との端部間隔do、光導波路208とテーパ光導波路206との導波路間隔dsに応じた偏向角θoで光出力部204から出射される。
【0084】
なお、本実施の形態では、光出力部204が、光入出力素子とモード変換器を備える形態を例示して説明したが、これに限られない。たとえば、光出力部204がさらに、スポットサイズの変換も行うような形態としてもよい。すなわち、光偏向装置200は光導波路技術によって構成されており、光偏向装置200の内部の光導波路208のサイズ(以下、「内部コア径」という場合がある)は、たとえば幅0.4μm×厚み0.2μmと小さい。一方、光出力部204に結合させる光ファイバ等のコア径(以下、「外部コア径」という場合がある)は、10μmと大きくなっている。したがって、そのまま光偏向装置200と光ファイバを接続すると結合損失が大きくなるので、光出力部204にスポットサイズ変換器の機能を設け、内部コア径を徐々に拡大して外部コア径に近づけ、接続部における結合損失を極力減らすようにしてもよい。
【0085】
つぎに、
図12を参照して、本実施の形態に係る光偏向装置200の作用について説明する。
図12は、光出力部204a、204b、204c、および204dの各々に対応する位相変調器270a、270b、270c、および270d(図示省略)における移相量を各々Δφa、Δφb、Δφc、およびΔφdとした場合の、光偏向装置200から出射される光の波面の方向を図示している。
【0086】
図12(a)は、一例として、Δφa=0°、Δφb=10°、Δφc=20°、Δφd=30°とした場合の光出力部204から出射される光の波面を示している。
図12(a)において、Poa、Pob、Poc、およびPodは、各々光出力部204a、204b、204c、および204dから出射される出射光Poの方向を示している。出射光Poの方向は上記の偏向角θoで定まり、本実施の形態に係る光偏向装置200では、光出力部204a、204b、204c、および204dの偏向角θoは等しく設定されている。しかしながら、光出力部204aないし204dの偏向角θoは、光偏向装置200の用途等に応じて各々異なるように設定してもよい。
【0087】
各々移相量が調整された4系統の光が光出力部204に到達すると、
図12(a)に示すように、出射光PoaないしPodは、各々の移相量に応じた時間差をもって光出力部204aないし204dから出射される。このとき、出射光PoaないしPodを合成した波面WPは、WP1、WP2、WP3、WP4・・・のように一定の傾きをもって伝搬する。
【0088】
つぎに、位相変調器270a〜270dにおける4系統の光の各々に対する移相量を変え、たとえば、Δφa=20°、Δφb=30°、Δφc=40°、Δφd=50°とすると、光出力部204aないし204dから出射される出射光PoaないしPodの相対的な時間差が拡大するので、出射光PoaないしPodを合成した波面WPは、WP1’、WP2’、WP3’、WP4’・・・のように変化し、波面の伝搬方向が変化する。この際、偏向角θoは変わらないので、出射光PoaないしPodの方向は変化しない。
【0089】
つぎに、
図13を参照して、本実施の形態に係る位相変調器の製造方法について説明する。以下では、本実施の形態に係る位相変調器270aをSOI基板を用いて製造する方法を例示して説明するが、本発明はこれに限定されず、他の公知のSi半導体プロセスを用いて製造してもよい。
【0090】
まずSiの基板202上にSiO2層222とSi層224を積層させてウエハ状のSOI基板を作成する。精密な加工を可能とするために、Si層224は、一例として、約0.2μmとする。(
図13(a))
【0091】
つぎに、Si層224を光導波路208の形状にエッチングすべく、マスクを用いてドライエッチングを行う。ドライエッチングは、一例として、SF6とO2の混合ガスによる反応性イオンエッチングを用いることができるが、これに限られず他のドライエッチング方法を用いてもよい。エッチング後、不要なマスクは、酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチング等により剥離する。(
図13(b))
【0092】
つぎに、ドーピングの必要のない部分をマスクで覆い、イオン注入によって、N型不純物をドーピングしてN型拡散領域216aを形成し、P型不純物をドーピングしてP型拡散領域216bを形成する。N型不純物としては、たとえばAsを用いることができ、P型不純物としては、たとえばBを用いることができる。
【0093】
ドーピング後、不要なマスクは、酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチング等により剥離する。その後ウエハを熱処理してアニーリングを施し、ドーピングによるSi結晶のダメージを修復する。(
図13(c))
【0094】
つぎに、CVDなどによりSiO2膜を堆積させ、クラッド214を形成する。本工程以降のフォトリソグラフィを正確に行うために、BやP等を該SiO2膜に添加して軟化加熱する方法、あるいは、化学研磨による方法によって該SiO2膜を平坦化しておくことが望ましい。(
図13(d))
【0095】
つぎに、マスクを用いて、N型拡散領域216aおよびP型拡散領域216bに接続する電極を形成するためのコンタクトホールを、クラッド214をSi層224まで貫通させて形成する。その後、電極を形成する金属、たとえばAlをスパッタリングすることによって、該コンタクトホールを埋めるとともにクラッド214上にAl薄膜を形成する。
その後、電極として残したい部分をマスクで覆い、フォトリソグラフィなどによってパターニングし、Cl(塩素)プラズマを用いたドライエッチングなどによりAl薄膜をエッチングして、N電極218aおよびP電極218bを形成する。Al薄膜の不純物残渣はAlドライエッチング残渣除去液などによって除去しておくことが好ましい。(
図13(e))
なお、電極を形成する金属はAlに限られずAu等を用いてもよい。
【0096】
以上のような工程で、位相変調器270aが製造されるが、位相変調器270を製造する場合には、不純物のドーピングの代わりに、以下に示すヒータ電極210を形成する工程が含まれる。
【0097】
すなわち、ヒータ電極210を形成するためのフォトグラフィーを行い、レジストを残した状態にする。つぎに、Ti(チタン)/Pt(白金)薄膜を蒸着する。つぎに、アセトンなどで洗浄してレジストを除去する(リフトオフする)。
以上の製造工程を付加して、位相変調器270が製造される。
【0098】
[第3の実施の形態]
図14を参照して、本実施の形態に係る光放射装置300について説明する。
図14(a)に示すように、光放射装置300は、光導波路208、複数のY分岐212、アレイ状に配置された光出力部204、および光出力部204ごとに設けられた位相変調部250を含んで構成されている。本実施の形態に係る光放射装置300では4×3=12個の光出力部204を配置した形態を例示して説明するが、配置する光出力部204の数は光放射装置300から放射される光の光出力パワー等に応じて適宜な数だけ配置してよい。
光放射装置300は、たとえば先述の光入出力素子100と同様、光導波路技術によって製造され、各々の光出力部204からの出射光Poは、光出力部204を覆うクラッド214を介して出射される。
【0099】
本実施の形態に係る光放射装置300は、先述した光偏向装置200を3系統集積したものとなっており、その意味で光放射装置300は光偏向装置200の応用形態である。
つまり、出射光Po1で示された光出力部204と同じ列の合計4個の光出力部204が、光偏向装置200と同等の偏向部DF1となっている。同様に、出射光Po2で示された光出力部204と同じ列の合計4個の光出力部204が偏向部DF2、出射光Po3で示された光出力部204と同じ列の合計4個の光出力部204が偏向部DF3となっている。
【0100】
本実施の形態に係る光放射装置300では、偏向部DF1ないしDF3の各々の偏向角θoを異なる値としている。すなわち、偏向部DF1の偏向角はθo1とし、偏向部DF2の偏向角はθo2とし、偏向部DF3の偏向角θo3としている。偏向部DF1ないしDF3の偏向角θoをこのように設定することにより、各偏向部DFごとに
図12に示す波面WPを異なる方向に出射することができる。したがって、たとえば偏向部DF1ないしDF3ごとに光スイッチを設けてスキャン(走査)することにより、レーザレーダ装置の光送信部(投光部)を構成することができる。
【0101】
図14(b)は、光放射装置300の要部の斜視図を示している。
図14(b)に示すように、偏向部DF1ないしDF3から斜め上方に出射された出射光Po1ないしPo3は、クラッド214を突き抜けて光放射装置300の外部に出射される。
【0102】
なお、本実施の形態では、光放射装置300を、偏向部DF1ないしDF3を組み合わせた投光部の形態を例示して説明したが、これに限られず、用途等に応じて、各位相変調部250の移相量を個々独立に調整する形態としてもよい。
【0103】
[第4の実施の形態]
図15および
図16を参照して、本実施の形態に係る光入出力素子400、400aについて説明する。光入出力素子400、400aは、光入出力素子100を偏光無依存型にした形態である。以下の説明では、光入出力素子400、400aを光出力素子として用いた場合を例示して説明するが、入射光Piおよび出射光Poの向きを逆にすればそのまま光入力素子として機能する。
【0104】
図15(a)は、光入出力素子400の斜視図を、
図15(b)は光入出力素子400の断面図を示している。
図15(a)、(b)に示すように、光入出力素子400は、
図1に示す光導波路104aと光導波路104bの組を2組平行に配置している。その際、各々の組の導波路間隔dsおよび端部間隔doは同じ値とされている。
【0105】
光入出力素子400では、光導波路104aと光導波路104bの組により囲まれた導波路(スロット導波路の一種と考えることができる)が、入射光Piに対して等方的なので、偏光に対する依存性が抑制される。
【0106】
図15(c)は、別の形態の偏光無依存の光入出力素子400aを示している。光入出力素子400aでは、4組の光導波路104aと光導波路104bを配置している。このような形態の光入出力素子400aによれば、スロット導波路の等方性がより強固なものとなるので、より偏光依存性を抑制することができる。
【0107】
図16に、光入出力素子400の偏向特性のシミュレーション結果を示す。
図16(a)は光入出力素子400の側面図を、
図16(b)は、光入出力素子400を、
図16(a)における符号Aが付された矢印の方向から見た正面図を示している。ただし、
図16では、
図15(a)に対して、光導波路104a、104bの長短を逆にしている。また、本シミュレーションでは、基板102、光導波路104a、104bをすべてSiとし、クラッドをSiO2としている。
【0108】
図16(a)、
図16(b)に示すように、光入出力素子400では
図2で定義された各部サイズを以下のように設定している。
光導波路104aの幅dha=0.2μm
光導波路104aの高さdva=0.2μm
光導波路104bの幅dhb=0.2μm
光導波路104bの高さdvb=0.2μm
光導波路の間隔(導波路間隔)ds=0.2μm
端部PAと端部PBとの間隔(端部間隔)do=1μm
【0109】
図16(c)は、入射光Piが光入出力素子400に入射し出射光Poとして出射されるまでの光の電磁界解析を、等高線図形式で表した図である。
図16(c)に示すように、光入出力素子400によっても、入射光Piの光路が偏向されて出射光Poとして出射されていることが明瞭にわかる。
【0110】
[第5の実施の形態]
図17を参照して、本実施の形態に係る光入出力素子について説明する。本実施の形態は、本発明を、単峰性スロットモードの光入出力素子に適用した形態である。本実施の形態において単峰性スロットモードとは、出射光Poにサイドローブ(副次モード)が発生せず、光束が基本的に1つのスロットモードをいう。本実施の形態においては、サイドローブの発生するスロットモードを二峰性スロットモードというが、二峰性スロットモードについては後述する。なお、本実施の形態(第8の実施の形態まで同様)では、基板、光導波路104aおよび104bをすべてSiとし、クラッドSiO2としている。
【0111】
図17(a)および
図17(b)は、各々、光導波路104aと104bの長短を入れ替えた2つの光入出力素子100a−1と100a−2(以下、総称する場合は、光入出力素子「100a」という)の側面図である。
図17(c)は、
図17(a)、(b)において符号Aを付した矢印の方向から見た光入出力素子100aの正面図である。
【0112】
図17(a)、
図17(b)に示すように、光入出力素子100aでは
図2で定義された各部サイズを以下のように設定している。
光導波路104aの幅dha=0.2μm
光導波路104aの高さdva=0.2μm
光導波路104bの幅dhb=0.2μm
光導波路104bの高さdvb=0.2μm
光導波路の間隔(導波路間隔)ds=0.2μm
端部PAと端部PBとの間隔(端部間隔)do=1μm
基板102と光導波路104bとの間隔=2μm
【0113】
図17には、光入出力素子100aの偏向特性のシミュレーション結果を併せて示している。
図17(a)、(b)の各々に示すグラフは、入射光Piが光入出力素子100aに入射し出射光Poとして出射されるまでの光の電磁界解析を、等高線図形式で表した図である。
図17(a)、(b)に示すように、光入出力素子100aによっても、入射光Piの光路が偏向されて出射光Poとして出射されていることが明瞭にわかる。
【0114】
[第6の実施の形態]
図18を参照して、本実施の形態に係る光入出力素子について説明する。本実施の形態は、本発明を、二峰性スロットモードの光入出力素子に適用した形態である。先述したように、単峰性スロットモードに対し、二峰性スロットモードは出射光Poにおいてサイドローブが発生するという特徴がある。サイドローブ自体は、通常直接利用する光束ではないが、二峰性スロットモードは単峰性スロットモードより偏向角を大きくすることができるというメリットがある。なお、本実施の形態では、基板、光導波路104aおよび104bをすべてSiとし、クラッドSiO2としている。
【0115】
図18(a)および
図18(c)は、各々、光導波路104aと104bの長短を入れ替えた2つの光入出力素子100b−1と100b−2(以下、総称する場合は、光入出力素子「100b」という)の側面図である。
図18(d)は、
図18(a)、(c)において符号Aを付した矢印の方向から見た光入出力素子100bの正面図である。
図18(b)は、比較のために検討した、光導波路104aと104bの長さを等しくした場合の光入出力素子100cのシミュレーション結果である。
【0116】
図18(a)、(c)、(d)に示すように、光入出力素子100bでは
図2で定義された各部サイズを以下のように設定している。
光導波路104aの幅dha=0.3μm
光導波路104aの高さdva=0.2μm
光導波路104bの幅dhb=0.3μm
光導波路104bの高さdvb=0.2μm
光導波路の間隔(導波路間隔)ds=0.2μm
端部PAと端部PBとの間隔(端部間隔)do=1μm
基板102と光導波路104bとの間隔=2μm
【0117】
図17に示す単峰性スロットモードとの相違は、光導波路104の幅dhのサイズである。すなわち、単峰性スロットモードではdh=0.2μmと設定したのに対し、二峰性スロットモードではdh=0.3μmとしている。このように、本実施の形態に係る光入出力素子では、一例として、光導波路の断面形状を変えることによって単峰性スロットモードあるいは二峰性スロットモードを選択することができる。
【0118】
図18(a)、(c)に光入出力素子100bの偏向特性のシミュレーション結果を示す。
図18(a)に示すように、光入出力素子100b−1では、出射光Poにおいて、本来の光束L1の他にサイドローブSL1が発生している。また、
図18(c)に示すように、光入出力素子100b−2では、出射光Poにおいて、本来の光束L2の他にサイドローブSL2が発生している。
【0119】
図18(a)と
図17(a)とを、
図18(c)と
図17(b)とを比較して明らかなように、本実施の形態に係る光入出力素子100bによれば、サイドローブが発生するものの、偏向角θoをより大きくすることが可能である。一方、
図18(b)に示すように、光導波路104aと104bとの長さを等しくした光入出力素子100cでは、出射光Poに有意な偏向が認められない。なお、本実施の形態において、出射光PoにおけるサイドローブSL1あるいはSL2を用いる必要がない場合には、波長フィルタ等で遮断するようにしてもよい。
【0120】
[第7の実施の形態]
図19を参照して、本実施の形態に係る光入出力素子について説明する。本実施の形態は、2本の光導波路で構成された上記実施の形態に係る光入出力素子に対し、さらにもう1本の光導波路を追加した3層構造のスロット導波路を有する形態である。
図19(a)は、本実施の形態に係る光入出力素子100dの側面図を、
図19(b)は、
図19(a)に示す付号Aが付された矢印の方向から見た光入出力素子100dの正面図を示している。なお、本実施の形態では、基板、光導波路104a、104bおよび104cをすべてSiとし、クラッドSiO2としている。
【0121】
図19(a)、(b)に示すように、光入出力素子100dでは
図2で定義された各部サイズを以下のように設定している。
光導波路104aの幅dha=0.3μm
光導波路104aの高さdva=0.2μm
光導波路104bの幅dhb=0.3μm
光導波路104bの高さdvb=0.2μm
光導波路104cの幅dhc=0.3μm
光導波路104cの高さdvc=0.2μm
光導波路104cの長さ=1μm
光導波路の間隔(導波路間隔)ds=0.2μm
光導波路104aの端部PAと光導波路104bの端部PBとの間隔(端部間隔)do=1μm
基板102と光導波路104bとの間隔=2μm
【0122】
本実施の形態に係る光入出力素子100dは、
図18(a)に示す光入出力素子100b−1における基板102と光導波路104bとの間に、長さ1μmの光導波路104cをさらに追加した3層構造のスロット導波路となっている。光入出力素子100d入射された入射光Piは、基本的に光導波路104aと104bによるスロット導波路を伝搬するが、該スロット導波路から出射する際に光導波路104cの側に偏移し、出射光Poとして出射する。
【0123】
図19(c)に、光入出力素子100dの偏向特性のシミュレーション結果を示す。対応する2層構造のスロット導波路による光入出素子100b−1の偏向特性である
図18(a)と比較して、さらに偏向角θoが大きくなっていることがわかる。
【0124】
[第8の実施の形態]
図20を参照して、本実施の形態に係る光入出力素子について説明する。本実施の形態は、スロット導波路を構成する光導波路の入射側または出射側の先端をテーパ状に整形することにより、光入出力素子における透過率の向上(伝搬損失の低減)を図った形態である。
【0125】
図20(a)は、本実施の形態に係る光入出力素子100eの斜視図を示している。
図20(a)に示すように、光入出力素子100eでは、スロット導波路を構成する長さの異なる光導波路104aと104bの先端をテーパ状に整形している。
【0126】
図20(b)は比較対象としての光入出力素子100a−1を示す図であり、
図17(a)および(c)を再掲したものである。
図20(c)の下側の図は、本実施の形態に係る光入出力素子100eの側面図を示し、上側の図は、符号Aが付された矢印の方向から見た光入出力素子100eの正面図を示している。そして、光入出力素子100eでは、光入出力素子100a−1に対し、光導波路104aおよび104bの先端が
図20(d)に示すように整形されている。
【0127】
図20(c)に示す光入出力素子100eと、比較対象の
図20(b)に示す光入出力素子100a−1について、各々偏向特性のシミュレーションを行った結果、光入出力素子100a−1の透過率が97.1%であるのに対し、光入出力素子100eの透過率は98.4%となり、約1.3%の改善が図れることがわかった。
【0128】
これは、スロット導波路を構成する光導波路のテーパ状の先端部が、光入出力素子内外の屈折率整合の働きをしているためと考えられる。すなわち、テーパ状の先端部によって屈折率が徐々に変化することが、屈折率の整合作用を発揮しているためと考えられる。クラッドに埋設された光導波路の端面に、AR(Anti−Reflectin:反射防止)コートを設けることは一般に困難であるが、本実施の形態に係る光入出力素子によれば、光導波路の加工により透過率の向上を図ることができるので、特に光導波路デバイスにおける透過率の向上に有効である。