(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(1)を満たすフィルム面にのみコロナ放電処理が施されており、前記コロナ放電処理が施された面のぬれ張力が48mN/m〜50mN/mであり、コロナ処理が施されていない非処理面のぬれ張力が39mN/m以下である請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
請求項1〜3のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルムを巻き取ってなるポリエステルフィルムロールであって、フィルムロールの表面電位が−10kV以上+10kV以下であるポリエステルフィルムロール。
放電電極とそれに対峙する対極を有する放電処理装置を用い、放電電極と対極との間にポリエステルフィルムを位置させることによって、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に下記(a)〜(b)の条件を満たす放電処理が施された後に巻き取られる請求項1〜5のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
(a)放電電極と対極間に放電を起こし、放電電極と対極間の放電密度を8.0×104[W/m2]以上1.2×105[W/m2]以下とすること。
(b)放電処理時間が0.005秒以上0.010秒以下であること。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コロナ放電処理には放電を施した面とは反対の面まで処理されてしまう裏もれという現象が存在する。この現象はフィルムの厚みが薄膜であればあるほど強く発生し、フィルムへのコロナ放電処理の強度が強ければ強いほど、処理面とは反対面である非処理面も強く処理される傾向にある。フィルムの放電処理面だけでなく非処理面のぬれ性も増大すると、フィルムロールとして巻き取った際にブロッキングが発生しやすくなるだけでなく、加工時にも放電処理面へ塗布した塗剤等が転写する等の問題となる。
【0005】
また、コロナ放電処理は放電によってフィルムの表面改質をするという性質上、基材処理面へのダメージは避けられない。一般に処理強度(放電密度)を上げれば、フィルム表面のぬれ性も高くなる傾向にあるが、フィルム表面へのダメージも大きくなる。フィルム表面にダメージがあるとフィルム上に他の部材を接着した後やコーティングを施した後にフィルム表面が劈開し、剥がれ落ちてしまう問題がある。また、フィルムロールにした後に軽度なブロッキングが発生した場合においても、フィルム表面が劈開してしまい、巻き出し後の他の部材との接着やコーティングを施す際に問題となる。
【0006】
しかし、フィルムのぬれ性とフィルムへのダメージ、裏もれの強度は上記のようにトレードオフの関係にあるため、例えば、ぬれ性を高くするとフィルムのダメージも大きくなり、裏もれによって非処理面のぬれ性も高くなる。薄膜なフィルムにおいては、薄膜であるために、放電の裏もれが顕著となる。
【0007】
さらに、薄膜なフィルムは、薄膜とするために、フィルムの製造工程において、未延伸フィルムの延伸倍率を高くする技術が一般的に採用されているが、その延伸などによってフィルム全体の製膜速度が高速になる。そのため、ポリエステルフィルムの製膜、延伸工程に引き続いてコロナ処理を行う場合、コロナ処理工程を通過する際のフィルムの速度も速くなり、コロナ放電処理も高速で施す必要がある。しかし、そのコロナ処理が高速で施されると、均一な処理が出来ず、フィルム表面上には微小なコロナ処理ムラが発生し、塗液のはじきが発生するという欠点につながっていた。また、フィルムの走行速度が速いためにコロナ処理における放電能力を高出力で行う必要があり、フィルムへのダメージや裏もれによる非処理面のぬれ性が高くなる問題があった。
【0008】
また、一般的にコロナ放電処理を施したフィルムは帯電しており、搬送工程で除電器にて除電をしても、ポリエステルフィルムをロールとして巻き取った際にフィルムロールの表面の電位が高くなり、加工時に異物が付着するという問題があった。電位が10kV以上というような高い電位を有する場合については引火の可能性があり、防爆上の観点から加工工程で有機溶剤が使用できないという問題もあった。
【0009】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、均一なぬれ性(ぬれ張力)、良好な耐ブロッキング性を有し、フィルムに積層される相手部材との接着性に優れるポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することである。また、良好な耐ブロッキング性を保持しつつ、優れたインク層との接着性と印画性とを有し、加工時に帯電起因の問題が発生しない、熱転写リボン用途に好適なポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の構成を有するフィルムとすることにより、均一なぬれ性(ぬれ張力)、良好な耐ブロッキング性を有し、フィルムに積層される相手部材との接着性に優れたポリエステルフィルムが得られることが判明した。
[1](1)〜(3)を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。
(1)少なくとも片側のフィルム表面が、フィルムの表面を、X線電子光分光法(XPS)を用いて測定される酸素原子Oと炭素原子Cの存在比率O/Cが0.420〜0.430であること。
(2)(1)を満たすフィルムの表面の三次元表面粗さSRaが10〜30nmであること。
(3)フィルムの厚みが1.5〜6μmであること
[2]前記(1)を満たすフィルムの表面のぬれ保持力が90%以上である[1]に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
[3]前記(1)を満たすフィルム面にコロナ放電処理が施されており、前記コロナ放電処理が施された面のぬれ張力が48mN/m〜50mN/mであり、非処理面のぬれ張力が39mN/m以下である[1]または[2]に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
[4]熱転写リボン用途に用いられる[1]〜[3]のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
[5]昇華型熱転写リボン用途に用いられる[1]〜[3]のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
[6][1]〜[3]のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルムを巻き取ってなるポリエステルフィルムロールであって、フィルムロールの表面電位が−10kV以上+10kV以下であるポリエステルフィルムロール。
[7]放電電極とそれに対峙する対極を有する放電処理装置を用い、放電電極と対極との間にポリエステルフィルムを位置させることによって、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に下記(a)〜(b)の条件を満たす放電処理が施された後にミルロールとして巻き取られる二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
(a)放電電極と対極間に放電を起こし、放電電極と対極間の放電密度を8.0×10
4[W/m
2]以上1.2×10
5[W/m
2]以下とすること。
(b)放電処理時間が0.005秒以上0.010秒以下であること。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面のぬれ(ぬれ張力)の均一性、耐ブロッキング性、接着性の良好な二軸配向ポリエステルフィルムが得られる。また、本発明によれば、製膜速度が高速である薄膜フィルムにおいても、均一なぬれ性とフィルム表面のダメージの低さ、非処理面への処理の低減が両立でき、その後の工程においてフィルムロールとしてのブロッキング、帯電による異物の付着や放電による有機溶剤への引火が防止でき、また、積層される相手部材との接着性に優れたフィルムおよびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について説明する。ポリエステルフィルムに用いられるポリエステルとは、延伸に伴う分子配向によって高強度フィルムとなり得るポリエステルであればよく、ポリエチレンテレフタレート、もしくはポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。これらはポリエステル共重合体であってもよいが、その繰り返し構造単位のうち、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレートもしくはエチレン−2,6−ナフタレートであることが好ましい。他のポリエステル共重合体成分としては、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分、またはアジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分、ないしはトリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能ジカルボン酸成分やp−ヒドロキシエトキシ安息香酸などが挙げられる。また、上記のポリエステルに、該ポリエステルと反応性のないスルホン酸のアルカリ金属塩誘導体、あるいは該ポリエステルに不溶なポリアルキレングリコールや脂肪族ポリエステルなどのうち一種以上を、5%を超えない程度ならば共重合ないしブレンドしてもよい。
【0013】
本発明のポリエステルフィルムは、少なくとも片方のフィルムの表面が、フィルムの表面をX線電子光分光法(XPS)を用いて測定されるフィルム表面の酸素原子Oと炭素原子Cの存在比率O/Cは、0.420〜0.430であることが必要である。0.420未満であるとフィルム表面の官能基中のO原子の量が足りず、均一で十分なぬれ性を得ることができない。0.430より大きいとブロッキングが発生しやすくなるだけでなく、フィルム表面の原子鎖の開裂が多くなり、フィルムとして巻き取った際に起こる軽微なブロッキングやコーティング剤を塗布した後にフィルム表面が劈開しやすくなる。
【0014】
本発明において、酸素原子Oと炭素原子Cの存在比率O/Cが0.420〜0.430であるフィルムの表面が、三次元表面粗さ(SRa)が10nm以上30nm以下であることが必要である。本発明における三次元表面粗さ(SRa)は、JIS−B0601(1994年)のRa値に相当する3次元粗さ計での測定値である。10nm未満では放電処理中に対極ロール上でしわが発生し易くなり、ぬれ性が不均一となる。一方、30nmを超えると例えばインクリボンに加工したときに画質が粗くなるという問題がある。
【0015】
また、酸素原子Oと炭素原子Cの存在比率O/Cが0.420〜0.430でないフィルムの表面の三次元表面粗さ(SRa)が10nm以上30nm以下であるフィルムや、酸素原子Oと炭素原子Cの存在比率O/Cが0.420〜0.430であってもその表面の三次元表面粗さ(SRa)が10nm以上30nm以下でないフィルムは、ぬれ性の均一性、耐ブロッキング性、接着性のすべてを満たすフィルムとすることができない。フィルム表面の酸素原子Oと炭素原子Cの存在比率O/Cと三次元表面粗さ(SRa)の両方とも本願の範囲のフィルムとすることによって、初めて、ぬれ性の均一性、耐ブロッキング性、接着性のすべてを満たすフィルムとすることができる。
【0016】
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、1.5μm以上6.0μm以下である必要がある。1.5μm未満では、放電によって与えられる熱量により、フィルムに穴が空いてしまったり、放電によってフィルムにシワが入り、均一な処理ができない。6.0μmより厚いとリボンに加工したときに画質が粗くなる。フィルムの厚みを上記の範囲とすることにより、熱転写リボン用途に用いたときに、高精細な画質をえることができるポリエステルフィルムとすることができる。
【0017】
本発明において、フィルム表面の三次元表面粗さ(SRa)を上記の範囲とせしめる方法としては、特に制限はないが、フィルムを構成するポリエステル樹脂に二酸化ケイ素、アルミナ、炭酸カルシウム、カオリン、フッ素樹脂粒子あるいはシリコン粒子などの無機ないし有機粒子のうち一種以上を、添加する方法が挙げられる。粒子の平均径は0.1〜3.0μmであることが好ましい。0.1μm未満では滑り性向上の効果が得られない場合があり、3.0μmを超えると印画物の画質が低下する場合がある。粒子の添加量は、ポリエステルフィルムに対して0.03〜0.15重量%であることが好ましい。0.03重量%未満であると滑り性が悪化し、放電処理中に対極ロール上でしわが発生し易くなり、ぬれ性が不均一となる場合がある。逆に0.15重量%を上回ると印画物の画質が低下する場合がある。また、添加方法としては、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを得るに際しポリエステルと粒子を押出機等を用いて予め混練してもよいが、滑剤粒子をより均一に分散させるため、ポリエステルと粒子とを予め混練した原料を用いてもよい。
【0018】
本発明において、フィルム表面の酸素原子Oと炭素原子Cの存在比率O/Cを上記の範囲とせしめる方法としては、特に制限はないが、後述する条件にて、フィルム表面へコロナ放電処理する方法が挙げられる。
【0019】
コロナ放電処理は、放電電極、対極ロールからなるコロナ放電処理装置を用いて行なわれる。放電電極と対極ロールは対峙している。放電電極と対極ロール間で発生する放電領域に、対極ロールに走行するフィルムを接触させながらさらすことにより、フィルム表面の改質を行うことができる。放電電極は角柱状のもの、ワイヤ状のもの、さらにはブレード形状のもの等があるが、特に限定するものではない。また、対極ロールは絶縁体が被覆されたものがよい。被覆のない金属ロール状でフィルムのコロナ放電処理を行うと、フィルムの両面に改質効果が現れ、最終的に巻き取ったフィルムのフィルムロールから巻き出すときにブロッキングを起こしやすくなり、好ましくない。被覆材は誘電体が好ましく、また耐熱性、耐久性に優れたものが好ましく、一般には“テフロン(登録商標)”やセラミックスが使用される。
【0020】
放電領域とは、放電電極と対極ロールの間の空間が、コロナ放電によって発生したラジカルや正負のイオンが多数存在しており、気体で活性化した空間の状態をいう。この空間は空気雰囲気下、窒素雰囲気下など各種ガス雰囲気下になっている。例えば、コロナ放電処理が空気雰囲気下で実施される場合は、空気中の酸素分子を活性化し、酸素ラジカルまたは酸化性の強いオゾンが多数存在する。酸素ラジカルやオゾンは、フィルムの表面に衝突し、炭化水素結合を切断し、炭素に酸素ラジカルが付加して酸化反応を起こす。これにより、フィルムの表面には、親水性の高いヒドロキシル基やカルボキシル基が形成される。親水性の高い極性基がフィルム表面に付与されることで、フィルム表面の酸素原子の存在比が高くなり、フィルム表面のぬれ性が向上する。放電処理によって、炭素原子Cの数は変化しないため、フィルム表面の酸素原子Oと炭素原子Cの存在比率O/Cは、放電処理によってフィルム表面を構成するポリエステルの分子鎖がどの程度開裂しているのか、また、極性基がどれだけ増加しているのかの程度をあらわす。このフィルム表面の酸素原子Oと炭素原子Cの存在比率O/Cを特定の範囲に制御とすることによって、フィルム表面に均一で十分なぬれ性を付与しつつ、放電処理によって発生するフィルム表面の原子鎖の開裂に起因する問題(フィルムとして巻き取った際に起こる軽微なブロッキングや、コーティング剤を塗布した後にフィルム表面が劈開しやすくなる点)を解決することが可能となる。
【0021】
フィルム表面のぬれ張力を均一かつ高度に向上させるためには、放電電極と対極ロールの間の空間に正負のイオンやラジカルを十分な濃度で発生させる電圧を与えることが好ましい。また、さらに、放電電極とフィルムの距離(ギャップ)、処理速度などの条件を調整することにより実現することができる。
【0022】
本発明のポリエステルフィルムは、以下の条件を満たす製造方法で得ると、均一なぬれ性と低いフィルムへのダメージ、非処理面の適切なぬれ性を有するポリエステルフィルムが生産性良く得ることができるため好ましい。すなわち、放電密度が8.0×10
4[W/m
2]以上1.2×10
5[W/m
2]以下であり、放電電極と対極ロールとの距離が1.0mm以上2.0mm以下であり、放電処理時間が0.005秒以上0.01秒以下のときである。
ここで言う放電密度とは、放電処理を行う放電の強さに関係するものであって、以下の式(1)で表すことができる。
【0023】
放電密度(W/m
2)=供給電力(W)/放電電極の面積(m
2) 式(1)
放電電極の面積とは、電極表面のうち放電している部分の面積を指す。ただし、フィルムに相対する電極面のほとんど全面で放電光が観測される場合には、電極をフィルム面に投影したときの投影面の面積として計算する。複数の放電電極からなる場合には、各放電電極投影面積の総和である。
【0024】
放電密度は放電密度が8.0×10
4[W/m
2]以上1.2×10
5[W/m
2]以下であることが好ましい。さらに好ましくは、9.0×10
4[W/m
2]以上1.1×10
5[W/m
2]以下である。放電密度が8.0×10
4[W/m
2]未満であると均一なぬれ性を得ることができず、ぬれ性のムラが発生する場合がある。1.2×10
5[W/m
2]より大きいとフィルムへのダメージが大きくなり、コロナ処理を行ったフィルム表面の三次元表面粗さが大きくなる場合がある。また、非処理面のぬれ性も増加し、その後の工程においてブロッキングなどが発生しやすくなることがある。
【0025】
放電電極と対極ロールとの最短距離は1.0mm以上2.0mm以下であることが好ましい。さらに好ましくは1.5mm以上2.0mm以下である。最短距離が1.0mm未満であると放電電極とフィルムとの距離が短いため、フィルムに与えられる熱量が大きくなり、フィルムに熱収縮によるしわが生じてしまい、ぬれ性が不均一になってしまう場合がある。さらに、フィルムへのダメージが大きくなり、また、フィルム非処理面のぬれ性も増加するため、その後の工程においてブロッキングなどを引き起こす可能性が高くなることがある。一方、2.0mmより距離が長いと電界が弱く放電が発生しにくくなるため、放電処理にムラが生じ、ぬれ性が不均一になる場合がある。
【0026】
本発明における「放電処理時間」とは、ポリエステルフィルムが放電処理にさらされる時間である。放電処理にさらされる時間とは、ポリエステルフィルムが放電電極を通過するまでにかかる時間のことであり、放電電極のフィルム長手方向の長さを、移動するフィルムの移動速度[m/秒]で割ったときの時間[秒]である。放電電極が複数ある場合は各放電電極のフィルム長手方向の長さの和を、移動するフィルムの移動速度[m/秒]で割ったときの時間[秒]である。本発明において放電処理時間が0.005秒以上0.010秒以下であることが好ましい。0.01秒より長いと、フィルムに与えられる熱量が大きくなり、フィルムに熱収縮によるしわが生じてしまい、ぬれ性が不均一になってしまう場合がある。さらに、フィルムへのダメージが大きくなり、また、フィルム非処理面のぬれ性も増加するため、その後の工程においてブロッキングなどを引き起こす可能性が高くなる。一方、0.005秒より短いと放電処理が不十分でぬれ性が不均一となることがある。
【0027】
本発明におけるフィルム片側の面のぬれ保持力は90%以上であることが好ましい。従来からのぬれ性の評価方法であるJIS K6768(1999年)プラスチック−フィルム及びシートぬれ張力試験方法に指定された方法では平面でのぬれの均一性まで評価することができず、均一にぬれ性が向上しているか判断できないため、後記のぬれ保持力測定方法にて評価をおこなう。このぬれ保持性が90%未満であると不均一なぬれ性のために他の部材との接着性が悪化するなど、コーティングにハジキが発生するため好ましくない。
【0028】
フィルムの非処理面への裏もれは、フィルムをロール状に巻き取った後にブロッキングを引き起こす原因となる。このブロッキングはフィルムへのエアかみ量を減らすために高張力、高面圧で巻き取りをする必要がある薄膜でより顕著に発生する。また、巻き取りの際に高張力、高面圧の条件で巻き取る必要がある平滑なフィルムにおいても顕著に発生する。このため、本発明のポリエステルフィルムは、片面にのみコロナ処理されていることが好ましく、フィルム処理面のぬれ性は48〜50mN/mであることが好ましく、フィルム非処理面のぬれ性は39mN/m以下であることが好ましい。フィルム処理面のぬれ性が50mN/mより大きいとブロッキングなどを引き起こす場合がある。フィルムの処理面のぬれ性が48mN/m未満であると十分なぬれ性ではなく、他の部材との接着やコーティングの際に不具合が生じる場合がある。フィルム非処理面のぬれ性が39mN/mより大きいとブロッキングなどを引き起こす可能性が高くなる場合がある。
【0029】
また、本発明のポリエステルフィルムをロールとして巻き取ったフィルムロールにおいて、巻き取った後のフィルムロールの表面電位が高いと、フィルムを巻き出して加工する時に異物が付着したり、有機溶剤を用いてフィルム上に加工をする際に引火の可能性がある。そのため、フィルムロールの表面電位は−10kV以上+10kV以下であることが好ましく、より好ましくは−5kV以上+5kV以下である。フィルムロールの表面電位の絶対値は、上述した条件のコロナ放電処理を行うことで、小さくすることができる。
【0030】
ポリエステルフィルムは、単層フィルムであってもよく、多層フィルムであってもよい。また、必要に応じて、通常配合される各種の添加剤および改質剤、例えば滑材、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、粘着性付与剤、シール性改良剤、防曇剤、結晶核剤、離型剤、可塑剤、架橋剤、難燃剤および着色剤(顔料、染料など)などを配合してもよい。
【0031】
以下に本実施例で用いた測定方法・評価方法を示す。
【0032】
(1)フィルム表面の酸素原子Oと炭素原子Cの存在比率O/C
以下の装置、測定条件でフィルム表面をXPS(X線電子光分光法)にて、O1
S及びC1
Sのそれぞれのピーク強度面積に各ピークの相対感度をかけた値の比から酸素と炭素の存在比(O/C)を求めた(例えば、筏 義人編、「高分子表面の基礎と応用(上)」、化学同人発行、1986年、第4章 参照)。
・装置:PHI社製 Quantera SXM
・励起X線:Monochromatic Al Kα
1,2線(1486.6eV)
・X線径:200μm
・光電子脱出角度(試料表面に対する検出器の傾き):45°
(2)表面平均粗さSRa
小坂研究所(株)製の光触針式(臨界角焦点エラー検出方式)3次元粗さ計(ET−30HK)を使用して測定した。本発明におけるSRa値は、JIS−B0601(1994年)のRa値に相当する3次元粗さ計での測定値である。測定方向は幅方向とし、カットオフ値0.25mm、測定長0.5mm、送りピッチ5μm、触針荷重10mg、測定スピードは100μm/s、測定本数は80本とした。
【0033】
(3)ぬれ保持力(均一なぬれ性の評価)
フィルムをA4サイズにカットし、5mm方眼紙の上に透明なアクリル板を置き、アクリル板の上にフィルムをしわが入らないように置いた。和光純薬製ぬれ試薬(ぬれ張力試験用混合液、48mN/m
2)をスポイトで1ml採取し、採取したぬれ試薬をフィルムにたらし、ベーカー式アプリケーターで0.02mmの厚さに塗り広げ、20分後にぬれ試薬のムラの状態を評価した。ぬれ試薬を塗り広げた面積に対して、ムラの発生した面積を求め、以下の式にてぬれ保持力(%)をもとめた。
ぬれ保持力(%)=(1−(ムラの発生した面積/ぬれ試薬を塗り広げた面積))×100
◎:ぬれ保持力が98%以上(ムラなく良好)
○:ぬれ保持力が90%以上98%未満(実用上問題ない)
△:ぬれ保持力が70%以上90%未満
×:ぬれ保持力が70%未満
(4)ぬれ張力(ぬれ性)
JIS K6768(1999年)プラスチック−フィルム及びシートぬれ張力試験方法に指定された方法により測定した。
【0034】
(5)フィルム厚み
JIS C2151(2006年)電気用プラスチックフィルム試験方法のマイクロメーター法を用いて指定された方法で測定した。
【0035】
(6)耐ブロッキング性
1000mm幅のフィルムを巻き取り張力12kg/mにて30000m巻き取り、巻取り後25℃・50%RHの条件下、24時間静置した後、巻き出しを行って下記基準に従って評価した。
○ : 全くブロッキングなく良好
△ : わずかではあるが巻き出し時に抵抗がある
× : 巻き出し時に抵抗があり、フィルム表面に開裂したフィルムの付着がある
(7)印画評価(光沢)
フィルムの放電処理面とは反対面に、アクリル酸エステル/アミノ変性シリコーン/イソシアネート=70/29/1(重量比)で混合させた水系耐熱滑性層を設けた。その後易接着層上に昇華性染料/エチルヒドロキシエチルセルロース/メチルエチルケトン/トルエン=5/5/45/45(重量比)から成る昇華型インクを塗布して、昇華型感熱転写リボンを作製した。昇華型染料としては、イエロー:BASF社製バラニールイエロー5RX、マゼンタ:住友化学工業(株)製イミロカンRED−FBL、シアン:日本化薬(株)製カヤセットブルー714をそれぞれ用いた。この昇華型感熱転写リボンを用い、三菱電機(株)製デジタルカラープリンタCP9550Dで受像紙上に幅20mm、長さ100mmの黒ベタ印画を行った。ベタ印画を行った印画物について、スガ試験器製デジタル変角光沢計UGV−5Dを用いてJIS−Z8741(1997年)規定の方法に従って入射角20°での鏡面光沢度値を測定し、下記基準に従って印画評価(光沢)を評価した。
○ : 鏡面光沢度値100%以上(良好)
× : 鏡面光沢度値100%未満。
【0036】
(8)印画評価(印画濃度)
上記(7)のベタ印画を行った際の印画物について、X−rite社製分光光度計SpectroEyeを用いて光学濃度OD値を測定し、下記基準に従って印画評価(印画濃度)を評価した。
○ : OD値1.8以上(良好)
× : OD値1.8未満。
【0037】
(9)フィルムロールの表面電位評価
フィルムを巻き取り張力12kg/mにて30000m巻き取ったフィルムロールを、ロール表面から50mmの距離で、デジタル静電電位測定器KSD−1000(春日電機製)にて幅方向に均等割した3点のロール表面電位を測定し、その3点の平均値の絶対値を、下記基準に従って評価した。
○ : 電位の絶対値が5kV以下(良好)
△ : 電位の絶対値が5kVを超えて10kV以下
× : 電位の絶対値が10kVを超える
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
富士シリシア社製、数平均粒径2.6μmの二酸化ケイ素粒子を0.08質量%含有した、固有粘度0.61の東レ製ポリエチレンテレフタレートを押出機中で285℃に溶融させ、口金からシート状に溶融押し出しし、25℃の回転冷却ドラムに密着させて固化させ、未延伸フィルムを得た。加熱したロールの周速差を用いてフィルムの長手方向に125℃で2.4倍に延伸(1段目延伸)を行い、ついで長手方向に115℃で2.5倍に延伸(2段目延伸)して、一軸延伸フィルムを得た。次にこのフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、110℃で予熱した後、幅方向に4.0倍に延伸し、さらに230℃で熱処理し、150℃で幅方向に4.0%弛緩させて厚さ4.5μmの二軸配向延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0039】
この二軸延伸したフィルムを巻き取り機で巻き取る前にフィルムの片面を放電電極と対極との最短距離(ギャップ)1.5mm、放電密度10.3×10
4W/m
2の条件で0.007秒放電処理を実施し、巻き取り機にて巻き取った。結果を表1に示す。
【0040】
[実施例2、3]
実施例1において放電処理条件を表1に示すように変えたほかは実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0041】
[実施例4、5]
実施例1において二酸化ケイ素粒子の量を表1に示すように変えたほかは実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0042】
[実施例6、7]
実施例1において最終厚みを表1に示すように変えたほかは実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0043】
[実施例8、9]
実施例1において放電処理時間を表1に示すように変えたほかは実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0044】
[実施例10]
実施例1において放電処理条件、放電処理時間を表1に示すように変えたほかは実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムは、印画評価時に微細なインクの過転写が発生したが、実用上問題のないレベルであった。
【0045】
[比較例1、2]
実施例1において放電処理条件を表1に示すように変えたほかは実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。表面処理が十分でなかったため、インク層が接着せず、印画評価が行えなかった。
【0046】
[比較例3]
実施例1において放電処理条件を表1に示すように変えたほかは実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0047】
[比較例4]
実施例1において放電処理条件を表1に示すように変えたほかは実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。放電処理時の放電が不安定化し、処理ムラが発生しインク層が接着せず、印画評価が行えなかった。巻き取ったロールの表面電位も高く、静電気による異物の付着や防爆上の観点から好ましくないものであった。
【0048】
[比較例5、6、7]
実施例1において二酸化ケイ素粒子の量を表1に示すように変えたほかは実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。比較例5のポリエステルフィルムは、シワが多く発生し、インク層が接着せず、印画評価が行えなかった。巻き取ったロールの表面電位も高く、静電気による異物の付着や防爆上の観点から好ましくないものであった。また、比較例6、7のフィルムは、印画評価に劣るフィルムであった。
【0049】
[比較例8、9]
実施例1において最終厚みを表1に示すように変えたほかは実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。フィルム厚みが厚い比較例9は、印画評価に劣るフィルムであった。
【0050】
[比較例10、11]
実施例1において放電処理時間を表1に示すように変えたほかは実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0051】
[比較例12,13、14]
実施例1において放電処理条件、放電処理時間を表1に示すように変えたほかは実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。いずれも表面処理が十分でなかったため、インク層が接着せず、印画評価が行えなかった。
【0052】
【表1】