(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、銅粉(A)と特定のアスコルビン酸誘導体の塩(B)を含んでなる導電性組成物である。導電性は主として銅粉(A)によって発現し、アスコルビン酸誘導体の塩(B)は導電性を損なうこと無しに、銅粉(A)の酸化による導電性の低下を効果的かつ長期間に渡って抑止する機能を有している。
【0025】
一般に、アスコルビン酸は還元剤としての機能を有することが知られている。また、アスコルビン酸は酸として解離しうる材料であり、アニオンの状態で電子を放出しやすく、より還元力が高まると考えられる。本発明は、この点に着目してなされており、アスコルビン酸誘導体を特定の塩の状態にすることで、該アスコルビン酸誘導体をアニオン状態で安定な材料とし、該アスコルビン酸誘導体そのものに比較して還元力を高めた状態で還元剤として用いることが可能となる。このような方策は、アスコルビン酸誘導体のNa塩等の金属カチオンを有する材料も考えうるが、導電性材料への不要の金属成分の大量混入は、回路等に使用した場合のマイグレーション等の悪影響の原因となることが容易に想像できるため、本発明は塩でありながら、金属成分を含まない点でも導電性材料として優れている。
【0026】
また、アスコルビン酸は分子内に複数存在する水酸基に起因して高い結晶性を有し、190℃の比較的高い融点を有する結晶であるが、そのアンモニウム塩の多くで融点が低下する。例えば、本発明の一般式(1)に包含されるアスコルビン酸の1級アンモニウム塩であるステアリルアンモニウム塩(B−1)は融点が67℃、同3級塩であるトリヘキシルアンモニウム塩(B−7)は室温で液状、同4級塩であるテトラブチルアンモニウム塩(B−10)も室温で液状である。さらに、本発明の一般式(1)に包含されるイミダゾリウム塩である1−メチルイミダゾリウム塩(B−12)、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム塩(B−15)ともに、室温で油状である。
【0027】
銅粉(A)との接触による化学反応を考えた場合、還元剤が結晶状態よりも液状である方が、接触面積が増えて効率的である。本発明の導電性組成物の使用に際しては、塗工、乾燥、焼成といった使用の際に想定される各プロセスにおいて、アスコルビン酸誘導体の塩(B)が容易に液状となって銅粉(A)の酸化を抑止することが可能である。
【0028】
さらに、アスコルビン酸誘導体の塩(B)は水分の存在下で還元力がさらに高まると考えられる。従って、銅粉(A)の酸化が急激に加速される高湿環境においても、還元剤として特に有効に機能し、銅粉(A)の酸化を抑止することが可能である。
【0029】
故に、本発明のアスコルビン酸誘導体の塩(B)は、優れた還元力と、効率的に反応を促進する低融点を併せ持ち、非常に効果的に銅粉(A)の酸化銅への劣化を抑止することが可能となっている。
【0030】
本発明において、アスコルビン酸誘導体の塩(B)による銅粉(A)の酸化を抑止する機構としては、アスコルビン酸誘導体の塩(B)が銅粉(A)の代わりに酸化される機構と、銅粉(A)の表面に生成してしまった酸化銅をアスコルビン酸誘導体の塩(B)が還元してもとの銅へ戻す機構の両方が機能しているものと推察している。
【0031】
なお、本発明において用いられる「アスコルビン酸」とは、一般にビタミンCと呼称されるL-アスコルビン酸、すなわち、(R)−3,4−ジヒドロキシ−5−((S)−1,2−ジヒドロキシエチル)フラン−2(5H)−オンのみならず、その光学異性体(D体)をも含んで意味する。また、これらの立体異性体である、エリソルビン酸のD体およびL体をも含んで意味する。立体異性体や光学異性体であっても、還元剤としては同等の機能を発現することが可能であるため、本発明に包含される。さらに、これらの光学異性体の混合物であるDL体も本発明でいう「アスコルビン酸」に包含される。
【0032】
また、本発明における「アスコルビン酸誘導体」とは、上記で説明した「アスコルビン酸」そのもの、および、「アスコルビン酸」骨格中のフラン環に結合する側鎖に存在する2つのヒドロキシル基の、両方、あるいは、いずれか一方をエステルにした構造を意味する。
【0033】
本発明における銅粉(A)について詳細に説明する。
【0034】
本発明における導電性材料の優れた初期導電性と酸化耐性は、銅に対するアスコルビン酸誘導体の塩(B)の優れた還元力に起因するものであるから、銅粉(A)の形状と粒径は特に限定されず、導電ペーストや電磁波シールドシート等の所望の用途に対応した導電性を得ることができれば、いかなる形状の銅粉を用いてもよい。
【0035】
銅粉(A)の形状の具体例としては、例えば、球状、フレーク状、葉状、樹枝状、プレート状、針状、ブドウ状が好ましい。この中でも、銅粉同士の接触が良好で高い導電性が得られる樹脂状、葉状、またはフレーク状がより好ましい。また、銅粉(A)は、異なる粒径や形状の2種類以上の銅粉を混合して用いてもよい。このような銅粉は、金属粉体を取り扱うメーカーから、容易に入手可能である。さらに、上記した形状の銅粉に物理的な力を加えて、形状を変形する加工をしていてもよい。このような加工の詳細については後述する。
【0036】
銅粉(A)の具体的な粒径としては、平均粒子径0.5〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましい。この範囲にあれば、熱硬化性樹脂(C)をも含む導電性組成物として用いる場合においても、後述の塗工や印刷適正が良好であるため好ましい。ここでいう平均粒径とは、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置LS13320( ベックマン・コールター社製)を使用し、トルネードドライパウダーサンプルモジュールにて、銅粉を測定して得たD50平均粒子径であり、粒子の積算値が50%である粒度の直径の平均粒子径である。なお、この測定は、粒子の屈折率を1.6に設定した実施した。
【0037】
アスコルビン酸誘導体の塩(B)について説明する。
【0038】
本発明における、アスコルビン酸誘導体の塩(B)は下記一般式(1)で示される。すなわち、アスコルビン酸誘導体のアニオンと、1級、2級、3級または4級アンモニウムカチオン、あるいは、イミダゾリウムカチオンからなる塩の構造を有している。この構造を有することでアスコルビン酸誘導体をアニオンとして安定化し、優れた還元力を発現することが可能となっている。
【0039】
さらに、アスコルビン酸誘導体の塩(B)の構造により、多くの場合、アスコルビン酸誘導体そのものに比較して融点が低下して液状になり易く、より効果的に銅粉(A)と接触することが可能となる。
【0040】
そして、アスコルビン酸誘導体の塩(B)の還元力は、分子構造中の3,4−ジヒドロキシフラン−2(5H)−オン骨格に起因するため、この骨格を維持したまま、置換基を適宜選択すれば、その還元性を損なうこと無しに、融点や熱硬化性樹脂(C)への溶解性を適宜調製することが可能である。
【0042】
ただし、式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を有してよいアシル基を表す。X
+は、下記一般式(2)で表されるカチオン、または、下記一般式(3)で表されるカチオンである。
【0044】
ただし、式中、R11〜R14は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してよいアルキル基、置換基を有してよいアルケニル基、または、置換基を有してよいアリール基を表すが、R11〜R14のうちの少なくとも1つは、置換基を有してよいアルキル基、置換基を有してよいアルケニル基、および、置換基を有してよいアリール基のいずれかである。また、R11〜R14は、隣接する置換基が一体となって、環構造を形成していてもよい。
【0046】
ただし、式中、R21およびR22は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してよいアルキル基、置換基を有してよいアルケニル基、または、置換基を有してよいフェニル基を表す。R23〜R25は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してよいアルキル基、置換基を有してよいアルケニル基、置換基を有してよいフェニル基、または、ハロゲン原子を表す。
【0047】
一般式(1)におけるR1およびR2について説明する。
【0048】
R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を有してよいアシル基を表す。
【0049】
R1およびR2におけるアシル基とは、水素原子または炭素数1から18の直鎖状、分岐鎖状、単環状または縮合多環状の脂肪族が結合したカルボニル基、または、炭素数6から10の単環状あるいは縮合多環状アリール基が結合したカルボニル基を表す。具体的には、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、シクロペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基、イソクロトノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
一般式(2)におけるR11〜R14について説明する。
【0051】
一般式(2)におけるR11〜R14は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してよいアルキル基、置換基を有してよいアルケニル基、または、置換基を有してよいアリール基を表すが、R11〜R14のうちの少なくとも1つは、置換基を有してよいアルキル基、置換基を有してよいアルケニル基、および、置換基を有してよいアリール基のいずれかである。
【0052】
R11〜R14におけるアルキル基とは、炭素数1から18の直鎖状、分岐鎖状、単環状または縮合多環状アルキル基を表す。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、tert−オクチル基、ネオペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基、および、4−デシルシクロヘキシル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
R11〜R14におけるアルケニル基とは、炭素数1から18の直鎖状、分岐鎖状、単環状または縮合多環状アルケニル基を表す。さらに、それらは構造中に複数の炭素−炭素二重結合を有していても良い。具体的には、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、1,3−ブタジエニル基、シクロヘキサジエニル基、および、シクロペンタジエニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
R11〜R14におけるアリール基とは、炭素数6から10の単環または縮合多環アリール基を表す。具体的には、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。
【0055】
R11〜R14は、隣接する置換基が一体となって、環構造を形成していてもよい。
【0056】
一般式(3)におけるR21とR22ついて説明する。
【0057】
一般式(3)におけるR21とR22は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してよいアルキル基、置換基を有してよいアルケニル基、または、置換基を有してよいフェニル基を表す。
【0058】
R21とR22におけるアルキル基およびアルケニル基は、一般式(2)におけるR11〜R14の説明で述べたアルキル基およびアルケニル基と同義である。
【0059】
一般式(3)におけるR23〜R25について説明する。
【0060】
一般式(3)におけるR23〜R25は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してよいアルキル基、置換基を有してよいアルケニル基、置換基を有してよいフェニル基、または、ハロゲン原子を表す。
【0061】
R23〜R25におけるアルキル基およびアルケニル基は、一般式(2)におけるR11〜R14の説明で述べたアルキル基およびアルケニル基と同義である。
【0062】
R23〜R25におけるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。
【0063】
一般式(3)において、比較的容易に多彩な原料の入手が可能であり、比較的安価に製造可能な点で、R21およびR22は、水素原子、アルキル基、アルケニル基から選ばれる基であることが好ましい。また、同様の理由から、R23〜R25は、水素原子、アルキル基から選ばれる基であることが好ましく、R23〜R25のすべてが水素原子であることが最も好ましい。
【0064】
上述した、R1およびR2におけるアシル基、R21とR22におけるアルキル基、アルケニル基、および、フェニル基、R11〜R14におけるはアルキル基、アルケニル基、および、アリール基、R23〜R25におけるアルキル基、アルケニル基、および、フェニル基は、それぞれ、置換基内の水素原子がさらに他の置換基で置換されていても良く、これにより、さらに融点や熱硬化性樹脂(C)に対する溶解性を調製して用いることができる。
【0065】
前記他の置換基とは、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基が挙げられる。
【0066】
ここで、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基とは、R11〜R14およびR21〜25で説明した置換基と同義である。また、アシル基は、R1とR2で説明した置換基と同義である。
【0067】
アルキルオキシ基としては、炭素数1から18の直鎖状、分岐鎖状、単環状または縮合多環状アルキルオキシ基が挙げられる。具体的には、例えば、メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、イソプロピルオキシ基、イソブチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、sec−ペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、tert−オクチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、アダマンチルオキシ基、ノルボルニルオキシ基、ボロニルオキシ基および4−デシルシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0068】
アリールオキシ基としては、炭素数4から10の単環または縮合多環アリールオキシ基が挙げられる。具体的には、例えば、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基が挙げられる。
【0069】
本発明におけるアスコルビン酸誘導体の塩(B)としては、製造が容易で、安価に実施できる点で、カチオンX
+が一般式(2)で示される塩の方が好ましい。
【0070】
また、アスコルビン酸誘導体の塩(B)の融点は、150℃以下であることが好ましい。例えば、本発明の導電性組成物を用いて導電回路を形成する際に想定される、焼成のプロセスは130℃〜150℃であり、アスコルビン酸誘導体の塩(B)の融点が150℃以下であれば、液状あるいはそれに近い状態で銅粉(A)と接触することができ、効果的に銅粉(A)の酸化を抑止できるため好ましい。なお、実施例の項で後述するが、一般式(1)で示される、ほぼすべてのアスコルビン酸誘導体の塩(B)において、ここで述べた好ましい範囲の融点が実現されている。
【0071】
一般式(1)で示されるアスコルビン酸誘導体の塩(B)の代表例を以下に示すが、本発明はこれらの代表例に限定されるものではない。また、アスコルビン酸誘導体の塩(B)のアニオンとしては、一般にビタミンCと呼ばれる(R)−3,4−ジヒドロキシ−5−((S)−1,2−ジヒドロキシエチル)フラン−2(5H)−オンに相当する立体構造のみ示すが、先に述べたように、代表例の光学異性体、さらには、立体異性体に相当するエリソルビン酸誘導体の塩も本発明の範疇に含まれる。なお、構造式中においては、CnH2n+1(nは整数)で示される基は断りがない限り、炭素数nの直鎖のアルキル基を示す。また、Oleはオレイル基を表す。
【0082】
本発明における一般式(1)で示されるアスコルビン酸誘導体の塩(B)は、いかなる方法で合成してもよい。
【0083】
一般式(1)において、カチオンが1級、2級または3級アンモニウム塩の場合の最も簡便な反応式を下記反応式(1)に示した。式中、置換基R1およびR2は一般式(1)中の置換基に対応し、R11〜R13は一般式(2)中の置換基に対応する。原料となるアスコルビン酸誘導体は酸としての性質を有するため、メタノール等の溶媒中にて塩基であるアミン1当量を添加すれば、中和反応により容易にアスコルビン酸のアンモニウム塩となる。従って、R1、R2、およびR11〜R13に所望の置換基を有する原料を選択して、反応させた後、溶媒を留去して乾燥すれば、本発明のアスコルビン酸誘導体の塩(B)を得ることが可能である。
【0085】
一般式(1)において、カチオンが4級アンモニウム塩の場合の代表的な反応式を下記反応式(2)に示した。式中、置換基R1およびR2は一般式(1)中の置換基に対応し、R11〜R14は一般式(2)中の置換基に対応する。原料となるアスコルビン酸誘導体に、水やアルコール等の溶媒中で、所望の4級アンモニウムカチオンとヒドロキシドアニオンからなる塩を反応させれば、容易かつ定量的に中和反応が進行し、アスコルビン酸誘導体の塩となる。従って、R1、R2、およびR11〜R14に所望の置換基を有する原料を選択して反応させた後、溶媒を留去して乾燥すれば、本発明のアスコルビン酸誘導体の塩(B)を得ることが可能である。
【0087】
また、アスコルビン酸誘導体の4級アンモニウム塩を得るための別の方法を反応式(3)に示した。式中、置換基R1およびR2は一般式(1)中の置換基に対応し、R11〜R14は一般式(2)中の置換基に対応する。アスコルビン酸誘導体に、水やアルコール等の溶媒中で、所望の4級アンモニウムカチオンと炭酸水素イオン(HCO3
-)からなる塩を反応すれば、炭酸ガスを発生した後、アスコルビン酸誘導体の塩となる。従って、R1、R2、およびR11〜R14に所望の置換基を有する原料を選択して反応させた後、溶媒を留去して乾燥すれば、本発明のアスコルビン酸誘導体の塩(B)を得ることが可能である。
【0089】
一般式(1)において、カチオンが一般式(3)、すなわち、イミダゾリウムカチオンの場合の合成方法について説明する
【0090】
具体的には、反応式(2)、反応式(3)で述べた方法と同様に、R21〜R25に所望の置換基を有するイミダゾリウムカチオンのヒドロキシドアニオンからなる塩、または、R21〜R25に所望の置換基を有するイミダゾリウムカチオンと炭酸水素イオンからなる塩を、溶媒中で、原料となるアスコルビン酸誘導体と反応させれば、容易に一般式(3)で示したカチオンを有するアスコルビン酸誘導体の塩(B)を得ることが可能である。
【0091】
上記、合成方法の例では、アスコルビン酸の誘導体の塩(B)を単離する手順を示したが、溶媒の留去と乾燥は必ずしも必要ではなく、反応後に得られた溶液をそのまま、後述する銅粉(A)や熱硬化性樹脂(C)との混合に使用してもよい。
【0092】
また、得られたアスコルビン酸誘導体の塩(B)が着色している場合には、活性炭等の吸着剤を利用した有機合成の分野で公知の手法によって脱色してから、使用してもよい。
【0093】
上記で述べた反応の原料となるイミダゾリウムカチオンを有する塩は、イオン液体の原料として公知であり、多数の報告例が存在する。そのような報告としては、例えば、Journal of Polymer Science,Part:A:Polymer Chemistry誌、51巻、4530〜4540頁(2013年)や、Applied Catalysis A:General誌、404巻、87−92頁(2011年)等が挙げられる。
【0094】
また、上記で述べた反応の原料として用いるアスコルビン酸誘導体(光学異性体および立体異性体も含む)は、食品添加物等として広く流通しているため、容易に入手可能であるし、試薬メーカーからも入手可能である。さらに、アスコルビン酸を硫酸中でカルボン酸類とエステル化反応させることで、R1、R2に所望のアシル基を容易に導入する反応も公知であり、この反応を利用して、アスコルビン酸誘導体を得てもよい。
【0095】
アスコルビン酸誘導体の塩(B)は、銅粉(A)に対して、2種以上併用してもよい。
【0096】
アスコルビン酸誘導体の塩(B)は、銅粉(A)100重量部に対して、0.1〜30重量部を用いることが好ましく、さらに好ましくは、1〜10重量部である。この範囲であれば、銅粉(A)の酸化を十分に抑止する効果と、銅粉(A)同士の接触による高い導電性を両立することが可能である。
【0097】
銅粉(A)とアスコルビン酸誘導体の塩(B)を含む導電性材料を調製する方法は特に限定されず、これら2つを共存させることができれば、いかなる方法も使用可能である。すなわち、アスコルビン酸誘導体の塩(B)を添加剤として銅粉(A)と共存させてもよいし、下記で述べるように、銅粉(A)がアスコルビン酸誘導体の塩(B)で被覆されていてもよい。
【0098】
本発明においては、被覆とは、アスコルビン酸誘導体の塩(B)が銅粉(A)の粒子表面に直接、接して存在する状態を意味する。また、この被覆は、銅粉(A)の全面を覆う状態であってもよいし、部分的に銅粉(A)の銅表面が露出した状態でもよい。
【0099】
本発明の導電性材料は、アスコルビン酸誘導体の塩(B)が銅粉(A)の近傍に存在することで、効果的な酸化防止機能を発現するものであるから、銅粉(A)がアスコルビン酸誘導体の塩(B)で被覆されている状態がより好ましい。
【0100】
銅粉(A)をアスコルビン酸誘導体の塩(B)で被覆する方法はいかなる方法を使用してもよい。以下2つの例について述べるが、これらに限定されるものではない。
【0101】
1つめの例について説明する。溶媒中に銅粉(A)およびアスコルビン酸誘導体の塩(B)を添加し、ディスパーやホモジナイザーで強撹拌すると、アスコルビン酸誘導体の塩(B)の一部または全部が、銅粉(A)の表面に直接、接して存在する導電性材料の分散体が得られる。この分散体から銅粉をろ過、次いで、乾燥することにより、本発明の銅粉(A)とアスコルビン酸誘導体の塩(B)を含む導電性材料を得ることができる。また、この分散体そのものに、後述する熱硬化性樹脂(C)を添加して、導電性組成物としてもよい。
【0102】
2つめの例について説明する。銅粉(A)、アスコルビン酸誘導体の塩(B)を密閉容器に添加し、固体媒体を衝突させる分散工程を行うことで、銅粉(A)の変形を伴いながら、アスコルビン酸誘導体の塩(B)の一部または全部が、銅粉(A)の表面に直接、接して存在する導電性材料の分散体を得ることができる。ここでいう、固体媒体とは、ガラス、スチール、ジルコニア等を材質とする球状ビーズである。なお、固体媒体による分散工程は、乾式分散あるいは、さらに溶剤をも添加した湿式分散のいずれであってもよく、乾式の場合は、分散に使用した固体媒体と銅粉を分離することで、本発明の導電性材料が得られる。また、湿式の場合はナイロンメッシュやステンレスメッシュ等で固体媒体を除去した後、銅粉をろ過、次いで、乾燥することで本発明の導電性材料を得ることができる。また、固体媒体を除去した後に銅粉をろ過することなく、導電性材料の分散体のまま、熱硬化性樹脂(C)を添加して導電性組成物としてもよい。
【0103】
上記、2つ目の方法は、アスコルビン酸誘導体の塩(B)で均一かつ効率的に被覆されるだけなく、接触面積の大きいフレーク状、あるいは、葉状の銅粉(A)が得られるため、優れた初期導電性を発現し、さらに、その導電性を維持することができる導電性材料が得られるため、より好ましい。
【0104】
また、簡便な操作で、銅粉(A)とアスコルビン酸誘導体の塩(B)が最も均一に存在する導電性材料が得られる点で、固体媒体による湿式分散がより好ましい。
【0105】
固体媒体による湿式分散をする場合に添加する溶媒は、アルコール系、ケトン系、エステル系、芳香族系、炭化水素系等の公知の溶媒が挙げられ、これらの2種以上を混合して使用してもよく、分散が実施される温度で液状をなすものであれば特に限定されない。
【0106】
このような溶媒の中で、アスコルビン酸誘導体の塩(B)の溶解度が比較的低い貧溶媒を使用すると、特に効率的に銅粉(A)の表面にアスコルビン酸誘導体の塩(B)を被覆させることができるため、最も好ましい。アスコルビン酸誘導体の塩(B)の貧溶媒としては、トルエン、キシレン、イソプロパノール、酢酸エチル、さらには、これらの混合溶媒を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0107】
本発明の熱硬化性樹脂(C)について説明する。
【0108】
本発明の導電性材料である、銅粉(A)とアスコルビン酸誘導体の塩(B)は、さらに、熱硬化性樹脂(C)を含む導電性組成物として使用してもよい。熱硬化性樹脂(C)を含む本発明の導電性組成物は、塗工によって電磁波シールド等に利用可能な導電膜を形成する場合、印刷によってRFID用のアンテナ等の導電回路を形成する場合、さらには、多層プリント配線板の層間接続用のビア用等の導電性の充填材として使用する場合などの各種用途に、特に好適に用いることができる。
【0109】
本発明における熱硬化性樹脂(C)は、硬化剤と反応する架橋性官能基を有するものである。前記架橋性官能基は、例えば、水酸基、フェノール性水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、オキサゾリン基、オキサジン基、シラノール基、アルコキシシラン基、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、ブロック化カルボキシル基、アジリジン基、チオール基、シクロカーボネート基、ビニルエーテル基、ビニルチオエーテル基、アミノメチロール基、アルキル化アミノメチロール基、アセタール基及びケタール基など等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、架橋性官能基を2種以上有することができる。
【0110】
上記した熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、エポキシエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリル樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0111】
熱硬化性樹脂は、硬化剤を使用して硬化を促進してもよい。このような硬化剤は、熱硬化性樹脂の架橋性官能基と反応できる官能基を1つ以上有する化合物であれば良く、特に、限定されない。例えば、架橋性官能基がカルボキシル基の場合、硬化剤は、エポキシ化合物、アリジリン化合物、イソシアネート化合物、ポリオール化合物、アミン化合物、メラミン化合物、シラン系、カルボジイミド系化合物、金属キレート化合物等が好ましく、架橋性官能基が水酸基の場合、硬化剤は、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、金属キレート化合物が好ましい。また、架橋性官能基がアミノ基の場合、硬化剤は、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、金属キレート化合物が好ましい。さらに、これらの硬化剤は、1種または2種以上使用できる。
【0112】
上記した硬化剤は、熱可塑性樹脂100重量部に対して1〜70重量部を使用することが好ましく、5〜60重量部がより好ましい。
【0113】
本発明において、熱硬化性樹脂(C)は銅粉(A)100重量部に対して、5〜200重量部を配合することが好ましく、10から100重量部を配合することがさらに好ましい。熱硬化性樹脂は抵抗成分にもなりうるが、銅粉(A)を強固に接触させて固定させる効果も有している。この配合の範囲であれば、本発明の優れた導電性と十分な成膜性を両立することが可能である。
【0114】
本発明において、銅粉(A)、アスコルビン酸誘導体の塩(B)および、熱硬化性樹脂(C)を混合して導電性組成物とする方法は、公知のいかなる方法を組合せて使用してもよい。
【0115】
例えば、先に述べた銅粉(A)とアスコルビン酸誘導体の塩(B)からなる導電性材料、あるいは、その分散体を事前に調整した後に、さらに熱硬化性樹脂(C)を混合して分散する方法が挙げられる。この方法では、事前に、銅粉(A)の表面がアスコルビン酸誘導体の塩(B)で被覆された導電性材料を使用することになり、銅粉(A)の酸化が効果的に抑止されるため、好ましい。
【0116】
別の方法としては、事前に、銅粉(A)とアスコルビン酸誘導体の塩(B)からなる導電性材料を調整すること無く、銅粉(A)、アスコルビン酸誘導体の塩(B)、および、熱硬化性樹脂(C)を混合し分散する方法が挙げられる。
【0117】
本発明の導電性組成物を得るための混合と分散には、ディスパー、ホモジナイザー、2本ロール、3本ロール等を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0118】
本発明の導電性組成物は、基材の上に膜状にして使用してもよく、その膜は回路等のパターンをなしていてもよい。導電性組成物を膜状にするために、公知の塗工方法や印刷方法を使用することができる。具体的には、グラビアコート方式、キスコート方式、ダイコート方式、リップコート方式、コンマコート方式、ブレードコート方式、ロールコート方式、カーテンコート方式、ナイフコート方式、スプレーコート方式、バーコート方式、スピンコート方式、ディップコート方式、シルクスクリーン方式、インクジェット方式等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、本発明の導電性組成物が溶剤を含有する場合は、必要に応じて、溶媒を除去するための乾燥工程を設けてもよい。
【0119】
本発明の導電性組成物の使用に際しては、熱硬化樹脂(C)の硬化を促進させ、銅粉(A)の接触や融着を促進させる目的で、上記の乾燥工程とは異なる加熱工程を設けてもよい。この工程は、空気中、不活性雰囲気、還元雰囲気から選ばれるいずれであってもよい。不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン、真空などが挙げられる。還元雰囲気としては、水素ガス、ギ酸蒸気中、あるいは、これらを不活性ガスと混合した雰囲気等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0120】
本発明の導電性組成物を加熱する方法としては、公知のいかなる方法を用いてもよい。たとえば、各種オーブン、ホットプレート、電気炉、フラッシュキセノンランプ等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、これらの加熱方法で加える温度も特に限定されず、導電ペーストや電磁波シールドといった、本発明の導電性組成物の使用が想定される用途に応じて設定することができる。さらに、過熱と同時に圧力を加えてもよい。
【0121】
なお、本発明で使用するアスコルビン酸誘導体の塩(B)は低融点を有するため、加熱により、低い温度で液状となって銅粉(A)の表面に接触し、効果的に酸化防止作用を発現することができるため、導電性材料や導電性組成物の使用や加工プロセスが想定される幅広い温度範囲に対応することが可能である。
【0122】
本発明の導電性組成物を膜状にして用いる場合の厚みは、特に限定されないが、1〜100μmが好ましく、3〜50μmがより好ましい。この範囲であれば、良好な導電性と耐酸化性を確実に発現し、本発明の導電性組成物の応用が想定される、電磁波シールドシートや導電ペーストにて良好な特性が期待できる。
【0123】
本発明の導電性組成物は、銅粉(A)、アスコルビン酸誘導体の塩(B)、熱硬化性樹脂(C)に加えて、必要に応じて、公知の他の材料をさらに添加してもよい。そのような材料としては、溶剤、銅害防止剤、シランカップリング剤、防錆剤、還元剤、酸化防止剤、顔料、染料、粘着付与樹脂、可塑剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング調整剤、充填剤、難燃剤等が挙げられる。
【実施例】
【0124】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、部は重量部、%は重量%を意味する。
【0125】
表1に実施例で使用した、アスコルビン酸誘導体の塩(B)の構造と融点、元素分析の結果を示した。比較例で使用した材料についても、その構造を記載した。なお、室温で液状の材料については、融点は50℃以下と判断して記載した。また、融点が明確にわからなかった材料については、目視で確実に液状化が確認された温度以下に融点が存在すると判断して記載した。なお、構造式中においては、CnH2n+1(nは整数)で示される基は断りがない限り、炭素数nの直鎖のアルキル基を示す。また、Oleはオレイル基を表す。
【0126】
表1
【表1】
【0127】
【表1】
【0128】
【表1】
【0129】
【表1】
【0130】
【表1】
【0131】
以下、表1に記載の本実施例で用いたアスコルビン酸誘導体の塩(B)の合成について述べる。
【0132】
(化合物B−1の合成)
ナス型フラスコに、L−アスコルビン酸(東京化成試薬)5.00g、ステアリルアミン(東京化成試薬)7.65g、脱水メタノール(関東化学試薬)150mlを混合し、40℃にて8時間撹拌したところ、淡黄色のスラリーが得られた。このスラリーを0℃まで冷却して濾過し、得られた固体を冷メタノール80mlで洗浄した。得られた固体を室温にて真空乾燥し、化合物B−1を淡黄色の固体として8.49g得た(収率67%)。
【0133】
(化合物B−7の合成)
ナス型フラスコに、L−アスコルビン酸(東京化成試薬)5.00、脱水メタノール(関東化学試薬)50mlを加えて40℃で撹拌し、白色のスラリーを得た。この混合物に、トリヘキシルアミン(東京化成試薬)7.65gを数回に分けて添加し、40℃でさらに1時間撹拌したところ、不溶物はすべて溶解して淡黄色の溶液が得られた。ロータリーエバポレーターにて、この溶液から溶媒を留去し、室温で減圧乾燥することにより、化合物B−7を淡黄色の油状物として、12.59g得た(収率100%)。
【0134】
(化合物B−2〜B−6、B−8、B−9の合成)
化合物B−2〜B−6、B−8およびB−9は、上記、化合物B−7の合成方法において、トリヘキシルアミンを、それぞれの構造に対応するアミンに置き換え、L−アスコルビン酸に対して1.0モル当量を添加して、同様の操作を行うことで得ることができた。
【0135】
(化合物B−10の合成)
ナス型フラスコに、L−アスコルビン酸(東京化成試薬)4.50g、脱水メタノール(関東化学試薬)100mlを加えて室温にて撹拌し、白色のスラリーを得た。このスラリーに、テトラブチルアンモニムヒドロキサイドの37wt%メタノール溶液(東京化成試薬)17.80gを約5分かけて滴下し、室温にてさらに1時間撹拌したところ無色の溶液が得られた。ロータリーエバポレーターにて、この溶液から溶媒を留去し、室温にて真空乾燥することにより、化合物B−10をほぼ無色の粘調な油状物として10.61g得た(収率99%)。
【0136】
(化合物B−11〜B−15の合成)
化合物B−11〜B−15は、上記化合物B−10の合成方法において、テトラブチルアンモニウムヒドロキサイドを、それぞれの化合物に対応するカチオンとヒドロキサイドからなる塩に置き換えた材料を用い、L−アスコルビン酸に対して1.0モル当量添加して同様の操作を行うことで、得ることができた。なお、化合物B−12〜B−15の原料として用いたヒドロキサイド塩は、Chemistry−A Europian Journal誌、14巻、5528〜5537頁(2008年)に記載の方法を参考に合成した。
【0137】
(化合物B−16〜B−20の合成)
化合物B−16〜B−20は、等モル当量の対応するアスコルビン酸誘導体と対応するアミンを原料に用い、化合物B−7の合成方法とほぼ同様の操作を行うことで、合成することができた。
【0138】
本実施例における銅粉(A)としては、下記に示す銅粉A−1を使用した。
(A−1)樹枝状銅粉FCC−2000(福田金属箔粉工業製、粒径D50=9.9μm)
【0139】
本実施例における熱硬化性樹脂(C)としては、下記に示す材料を使用した。
(C−1)熱硬化性ウレタン樹脂(トーヨーケム社製/酸価=10mgKOH/g)
【0140】
本実施例において、銅粉(A)とアスコルビン酸誘導体の塩(B)からなる導電性材料の調製と分散には、Fast&Fluid Manegement社のスキャンデックスSK450を使用した。以下この装置をスキャンデックスと呼ぶ。
【0141】
(実施例1)導電性材料
銅粉(A−1)を100重量部、アスコルビン酸誘導体の塩(B−1)2重量部、トルエン120重量部、直径1mmのガラスビーズ100重量部をマヨネーズ瓶に入れて、スキャンデックスにて5時間分散して、導電性材料の分散体を得た。ナイロンメッシュ(#50)を介してこの分散体からガラスビーズを除去した後、ろ過によって得られた固体を、室温にて真空乾燥することで、銅粉(A)とアスコルビン酸誘導体の塩(B)からなる導電性材料を得た。
【0142】
(導電性材料の初期導電性の評価)
次に、実施例1にで得られた導電性材料の導電性の評価を実施した。具体的には、粉体抵抗率測定システム(三菱化学アナリテック製)のプローブユニットに導電性材料の粉体3.0gを入れ、3MPaの圧力を加えた際の体積低効率を測定したところ、6×10
-4Ωcmの良好な初期導電性が確認され、分散行程中の酸化が抑止されていることが確認できた。
【0143】
(導電性材料の空気中−加熱下での保管試験)
さらに、上記で得られた実施例1の導電性材料をシャーレに入れ、大気中、150℃に設定した熱風乾燥オーブンSPHH−202(エスペック社製)中で30分加熱し、室温まで放冷した。その後、先に述べた方法と同様に、導電性材料の粉体の体積抵抗率を測定したところ、9×10
-3Ωcmであった。
【0144】
(導電性材料の高温高湿下での保管試験)
実施例1で得られた導電性材料をシャーレに入れ、温度85℃、湿度85%に設定した高温恒湿器LHL−114(エスペック社製)中に30分間保管し、デシケーター中で室温まで放冷した後、先に述べた方法と同様に、粉体の体積抵抗率を測定したところ、9×10
-3Ωcmであった。
【0145】
(実施例2〜23、比較例1〜5)
アスコルビン酸誘導体の塩(B)を表2に記載した材料と添加量に変更した他は、実施例1と同様の手順により、本発明の導電性材料を調製した。さらに、先に述べた方法で、粉体の初期導電性、すなわち、体積抵抗率を測定した。さらに、空気中−加熱化での保管試験後、高温高湿下での保管試験後の体積抵抗率もそれぞれ測定した。結果を表2に示した。
【0146】
(導電性材料の表面の観察)
実施例1で得られた導電性材料の初期の粒子表面の状態、および、空気中−加熱下での保存試験後の粒子表面の状態を走査型電子顕微鏡S−4300(HITACHI製)にて加速電圧5kV、2500倍に観察した像を図(1)と図(2)にそれぞれ示した。図(1)から、樹枝状銅粉(A−1)がフレーク状に扁平化し、さらに、表面にアスコルビン酸誘導体(B−1)の微粒子が直接、接して存在していることが確認された。また、図(2)から、空気中−加熱下での保管試験後には、先のアスコルビン酸誘導体(B−1)の粒子液状化して銅表面に広がったことが確認できた。
【0147】
一方、比較例4で上記と同様に、初期の粒子表面の状態、および、空気中−加熱下での保存試験後の粒子表面の状態を走査型電子顕微鏡にて観察した像を図(3)と図(4)に示した。両像において、比較例4で使用した化合物(D−3)の結晶が確認できる。加熱下において十分有効に機能していないことが推察された。
【0148】
【表2】
【0149】
(実施例24)導電性組成物
ウレタン樹脂(C−1)を100重量部、実施例1で得たアスコルビン酸誘導体の塩(B−1)で被覆された導電性材料を300重量部、添加剤としてデカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド(アデカスタブCDA−6、ADEKA社)4.5重量部をガラス容器に仕込み、不揮発性分が40%となるように、トルエンとイソプロピルアルコールの混合溶媒(体積比9:1)を加えた。この混合物をディスパーで5分間撹拌を行うことで、導電性組成物を得た。
【0150】
上記で得られた導電性組成物の100重量部に、硬化剤としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER828、ジャパンエポキシレジン製)10重量部を加え、ディスパーで10分間撹拌した後、ポリエチレンテレフタレート製の剥離性50μmフィルムに、乾燥後の厚みが5μmとなるようにバーコーターを用いて塗工し、100℃に設定した熱風乾燥オーブン中で2分間乾燥することで、膜状となった導電性組成物の積層体を得た。
【0151】
(導電性組成物の導電性の評価)
上記で得た膜状の導電性組成物の積層体を縦横共に25mmの正方形に切り出し、横25mm、縦100mm、厚み0.5mmのステンレス板の端部に、導電性組成物の面がステンレス板と向かいあうように置き、80℃、2MPaの条件で仮圧着した。その後、ポリエチレンテレフタレートのフィルムを剥離し、新たに露出した導電性組成物の面に、先と同じ大きさのステンレス板を図(5)に示した構成になるように重ねて置き、再度、80℃、2MPaの条件で仮圧着した。これを150℃、2MPaの条件で30分間、熱圧着することで、導電性組成物の導電性評価のための評価サンプルとした。
【0152】
ロレスターGP(三菱化学アナリテック製)にBSPプローブを接続し、図(6)における評価サンプルの4,5として矢印で示した2点に接触させることで、抵抗値を測定した。結果を表3に示した。
【0153】
(導電性組成物の高温高湿下での保管試験)
上記、評価サンプルを温度85℃、湿度85%に設定した高温高湿下に7日間保管した後、上記と同様の方法にて、抵抗値を測定した。結果を表3に示した。
【0154】
(実施例25〜46、比較例6〜10)
導電性材料を表3に記載した導電性材料に変更した他は、実施例24と全く同様の方法にて得た評価サンプルに対して、抵抗値の測定を実施した。さらに、これらの評価サンプルを上記と同様の高温高湿下での保管試験を実施し、抵抗値を測定した結果も表3に併せて示した。
【0155】
表3
【表3】
【0156】
(実施例47〜50)
ウレタン樹脂(C−1)を100重量部、添加剤としてデカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド(アデカスタブCDA−6、ADEKA社)4.5重量部をガラス容器に仕込み、最終の不揮発性分が40%となるようにトルエンとイソプロピルアルコールの混合溶媒(体積比9:1)を加え、ディスパーで5分間撹拌した。次いで、銅粉(A−1)を300重量部、表4に示したアスコルビン酸誘導体の塩(B)を同表に記載の重量部で加え、さらに5分間、ディスパーで撹拌し、導電性組成物を得た。
【0157】
上記で得られた導電性組成物の100重量部に、硬化剤としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER828、ジャパンエポキシレジン製)10重量部を加え、ディスパーで10分間撹拌した後、ポリエチレンテレフタレート製の剥離性50μmフィルムに、乾燥後の厚みが5μmとなるようにバーコーターを用いて塗工し、100℃に設定した熱風乾燥オーブン中で2分間乾燥することで、膜状となった導電性組成物の積層体を得た。
【0158】
この導電性組成物の積層体を用いて、実施例24と同一の手順により導電性評価のための評価サンプルを作成し、その抵抗値、さらに、高温高湿下での保管試験後の抵抗値を測定した。結果を表4に示した。
【0159】
表4
【表4】
【0160】
表2の結果から、本発明の導電性材料は初期導電性に優れるだけでなく、銅粉の劣化が促進される熱と酸素、熱と湿度が与えられる環境下においても、銅粉の酸化による導電性の低下が大幅に抑止され、優れた導電性を長期間に渡って維持することが可能となっていることがわかった。
【0161】
また、表3および表4の結果から、本発明の導電性組成物は、組成物の調製、乾燥、熱圧着等の工程を経た後も優れた導電性を発現するだけでなく、銅粉の酸化が著しく促進される高温高湿下での保管後の優れた導電性を維持することができた。
【0162】
上記、実施例による非常に良好な結果は、アスコルビン酸誘導体の塩(B)の高い還元性と、様々な温度条件に対応しうる低融点の2つの特徴に起因していると考えられる。