特許第6468178号(P6468178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6468178
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】車両窓用シール部材
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/10 20160101AFI20190204BHJP
   B60J 1/17 20060101ALI20190204BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   H02J50/10
   B60J1/17 Z
   B60R16/02 620Z
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-246559(P2015-246559)
(22)【出願日】2015年12月17日
(65)【公開番号】特開2017-112770(P2017-112770A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】菅藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】婦木 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 洋史
【審査官】 永井 啓司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−097463(JP,A)
【文献】 特開2015−133826(JP,A)
【文献】 特開平09−300978(JP,A)
【文献】 特開2002−067683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J1/00−1/20
10/00−10/90
B60R13/06
16/00−17/02
H02J50/00−50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側の部分が車両の窓部材を支持する支持部材に固定された状態で、他端側の部分が前記窓部材の外縁を挟み込んだ状態になることにより、前記窓部材と前記支持部材との間をシールする車両窓用シール部材において、
前記他端側の部分の先端よりも前記一端側の位置に、環状の導体からなるコイル部が一体に設けられており、
前記コイル部は、前記車両から同車両の外部にある外部機器に電力を供給するための送電用のコイルであり、
前記シール部材は、前記車両の運転席のドアの窓部材に設けられるものである
ことを特徴とする車両窓用シール部材。
【請求項2】
一端側の部分が車両の窓部材を支持する支持部材に固定された状態で、他端側の部分が前記窓部材の外縁を挟み込んだ状態になることにより、前記窓部材と前記支持部材との間をシールする車両窓用シール部材において、
前記他端側の部分の先端よりも前記一端側の位置に、環状の導体からなるコイル部が一体に設けられており、
当該シール部材は、電磁界共鳴方式の無線給電システムが搭載された車両に設けられるものであり、
前記コイル部は、前記無線給電システムの一部をなす
ことを特徴とする車両窓用シール部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両窓用シール部材において、
前記コイル部よりも前記シール部材の外面側において同外面に沿う形状で、前記シール部材の一部をなして高透磁率磁性材料を一成分とする高透磁率磁性部を有していることを特徴とする車両窓用シール部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両窓用シール部材において、
前記導体は、耐腐食性を有する部材によって表面が被覆された金属線である
ことを特徴とする車両窓用シール部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両窓用シール部材において、
当該シール部材は、前記窓部材を挟み込む形状で延びる一対の挟持部と、それら挟持部を連結する連結部とを有し、
前記コイル部は、前記一対の挟持部と前記連結部とによって囲まれている
ことを特徴とする車両窓用シール部材。
【請求項6】
請求項5に記載の車両窓用シール部材において、
前記コイル部は、前記連結部に隣接する位置に配置されている
ことを特徴とする車両窓用シール部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の車両窓用シール部材において、
当該シール部材は、前記窓部材を挟み込む形状で延びる一対の挟持部と前記一対の挟持部を連結する連結部とを有し、前記一対の挟持部と前記連結部とによって囲まれた部分に発光素子が一体に設けられてなることを特徴とする車両窓用シール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線給電システムが搭載された車両の窓に取り付けられる車両窓用シール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などの車両に、非接触で電力を供給する無線給電システムを搭載することが提案されている(例えば特許文献1)。特許文献1では、車両のボディに送電用のコイルが設けられており、このコイルは電源装置に接続されている。また、車両のドアの窓部材(具体的にはガラス窓)には受電用のコイルが貼り付けられており、このコイルは整流装置を介してドア内蔵の負荷(例えばパワーウインドウ用のモータ)に接続されている。そして、それら送電用のコイルおよび受電用のコイルを利用して、ボディに設けられた電源回路からドア内蔵の負荷への非接触での電力供給が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−133826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、車両の窓部材に受電用のコイルが貼り付けられるために、同コイルによって乗員の視界が妨げられやすく、この点において改善の余地がある。なお、こうした実情は、受電用のコイルが窓部材に貼り付けられた車両の他、給電用のコイルが窓部材に貼り付けられる車両においても共通している。
【0005】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、乗員の視界を妨げることなく非接触での電力供給を行うことのできる車両窓用シール部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための車両窓用シール部材は、一端側の部分が車両の窓部材を支持する支持部材に固定された状態で、他端側の部分が前記窓部材の外縁を挟み込んだ状態になることにより、前記窓部材と前記支持部材との間をシールする車両窓用シール部材において、前記他端側の部分の先端よりも前記一端側の位置に、環状の導体からなるコイル部が一体に設けられている。
【0007】
窓を有する車両には、車室内への雨水や埃の侵入を抑えるために、ガラスランやウィンドウストリップなどの車両窓用シール部材が設けられている。
上記構成によれば、そうしたシール部材において窓部材の外縁を挟み込む部分(前記他端側の部分)の先端よりも支持部材に固定される部分(前記一端の部分)側の位置にコイル部が設けられているため、同コイル部を、シール部材よりも窓枠の内側方向に突出しない状態で配置することができる。そのため、車両窓用シール部材にコイル部が設けられるとはいえ、同コイル部によって乗員の視界が狭くなることを回避できる。そして、車両窓用シール部材に設けられたコイル部を無線給電システムの送電用コイルや充電用コイルとして用いることにより、非接触での電力供給を行うことができる。したがって上記車両窓用シール部材によれば、乗員の視界を妨げることなく、非接触での電力供給を行うことができる。
【0008】
上記車両窓用シール部材において、前記コイル部よりも前記シール部材の外面側において同外面に沿う形状で、前記シール部材の一部をなして高透磁率磁性材料を一成分とする高透磁率磁性部を有していることが好ましい。
【0009】
通常、窓部材を支持する支持部材は金属板によって形成されている。そして、金属板は磁場を遮蔽する電磁シールドとして機能する。そのため、車両窓用シール部材が車両に取り付けられた状態では、近傍に配置された支持部材によって同シール部材の周辺の磁界強度が弱められるおそれがある。これにより、上記コイル部を送電用のコイルとして機能させる場合には、同コイルに発生させた磁界の強度が弱められて、シール部材の外部における磁界の強度が低くなってしまう。また、上記コイル部を受電用のコイルとして機能させる場合には、コイル部の周辺の磁界強度が弱められて低くなってしまう。そして、いずれの場合にも、コイル部を利用した電力供給を効率良く行えなくなるおそれがある。
【0010】
上記構成によれば、車両窓用シール部材を車両に取り付けることにより、コイル部と支持部材との間に、高透磁率磁性材料を一成分とする高透磁率磁性部が配置されるようになる。そのため、コイル部の周辺の磁界強度が金属板によって弱められることを抑えることができ、同コイル部を用いた電力供給の効率低下を抑えることができる。
【0011】
上記車両窓用シール部材において、前記導体は、耐腐食性を有する部材によって表面が被覆された金属線であることが好ましい。
上記構成によれば、金属線を用いて、耐腐食性を有するコイル部を形成することができる。
【0012】
上記車両窓用シール部材において、前記コイル部は、前記車両から同車両の外部にある外部機器に電力を供給するための送電用のコイルであり、前記シール部材は、前記車両の運転席のドアの窓部材に設けられるものであることが好ましい。
【0013】
車両のドアは、乗員が開閉する部分であるため、乗員が自然にアクセスする部分であると云える。そして、そうしたドアの中でも運転席のドアは乗員のアクセス頻度が高い。そのため、運転席のドアは、外部機器(例えば電子キー)への電力供給を受けるべく、同外部機器を車両に近づける際に、最もアクセスし易い部分であると云える。
【0014】
上記構成によれば、そうした運転席のドアの窓部材にコイル部を有するシール部材が設けられるために、外部機器への電力供給をスムーズに行うことができる。
上記車両窓用シール部材において、当該シール部材は、前記窓部材を挟み込む形状で延びる一対の挟持部と、それら挟持部を連結する連結部とを有し、前記コイル部は、前記一対の挟持部と前記連結部とによって囲まれていることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、コイル部を、乗員の視界を妨げることの無いようにシール部材の内部に隠蔽した状態で設けることができる。
上記車両窓用シール部材において、前記コイル部は、前記連結部に隣接する位置に配置されていることが好ましい。
【0016】
上記シール部材において、窓部材を挟み込む部分である挟持部は、窓部材に密着させる必要があるため、窓部材の移動に追従して変形するようになっている。これに対して、一対の挟持部を連結する連結部は、窓部材に密着させる必要がないために、窓部材が移動したところでさほど変形しない。上記構成によれば、そうした変形量の小さい連結部に隣接する位置にコイル部が配置されるため、コイル部の変形を抑えて同コイル部の耐久性を向上させることができる。
【0017】
上記車両窓用シール部材において、当該シール部材は、前記窓部材を挟み込む形状で延びる一対の挟持部と前記一対の挟持部を連結する連結部とを有し、前記一対の挟持部と前記連結部とによって囲まれた部分に発光素子が一体に設けられてなることが好ましい。
【0018】
上記シール部材によれば、同シール部材が車両に取り付けられた状態で発光素子を発光させることにより、窓部材を発光させることができる。そのため、発光素子の発光を通じて、電力供給中であることを案内したり窓部材における電力供給が可能な箇所を案内したりする等、電力供給にかかる各種の案内表示を行うことが可能になる。
【0019】
上記車両窓用シール部材において、当該シール部材は、電磁界共鳴方式の無線給電システムが搭載された車両に設けられるものであり、前記コイル部は、前記無線給電システムの一部をなすことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、乗員の視界を妨げることなく非接触での電力供給を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】無線給電システムの概略構成を示す略図。
図2】本実施形態のガラスランの配設態様を示す略図。
図3】同ガラスランに設けられるコイル部の概略構成を示す略図。
図4】同コイル部の断面図。
図5】ガラスランおよびその周辺の断面図。
図6】他の実施形態のガラスランおよびその周辺の断面図。
図7】他の実施形態のガラスランおよびその周辺の断面図。
図8】他の実施形態のガラスランの断面図。
図9】他の実施形態のガラスランおよびその周辺の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、車両窓用シール部材の一実施形態について説明する。
図1に示すように、車両10は送電装置20を有している。この送電装置20は、電磁界共鳴方式の無線給電システムの一部を構成するものである。送電装置20は、コンデンサ21と環状の導体からなる送電用のコイル部22とを有している。これらコンデンサ21およびコイル部22は、無線給電システムにおける送電側の共振器23を構成している。また送電装置20は、スイッチング回路を内蔵した制御部24と直流電源25とを有している。送電装置20では、制御部24を介して直流電源25と共振器23とが接続されている。制御部24は、スイッチング回路の作動制御を通じて、所定周期の台形波電圧を生成して共振器23に印加する。これにより、共振器23のコイル部22に正弦波電流が流れるようになる。
【0023】
無線給電システムの電力供給対象は、車両10のドアの解施錠などを行う電子キー11である。電子キー11は、無線給電システムの一部を構成する受電装置30を内蔵している。受電装置30は、コンデンサ31と環状の導体(銅線)からなる受電用のコイル部32とを有している。これらコンデンサ31およびコイル部32は、無線給電システムにおける受電側の共振器33を構成している。受電装置30は、共振器33(詳しくは、コイル部32)を流れる正弦波電流を直流電流に変換する整流部34と、バッテリ35とを有している。受電装置30では、整流部34を介して共振器33とバッテリ35とが接続されている。この整流部34によって変換された直流電力がバッテリ35に供給されて、同バッテリ35が充電されるようになっている。本実施形態では、電子キー11が、車両10の外部にある外部機器に相当する。なお、電子キー11は、車両側機器(図示略)との無線通信を行うためのアンテナや、無線信号を利用した認証を行うための各種回路等からなる機能部36を有している。この機能部36にはバッテリ35から電力が供給される。
【0024】
本実施形態の無線給電システムでは、送電装置20の制御部24によるスイッチング回路の作動制御が実行されると、送電用のコイル部22に正弦波電流が流れる。そして、電子キー11のバッテリ35を充電する際には、乗員により電子キー11が送電装置20の送電用のコイル部22の近傍に配置される。これにより、車両10の送電装置20の共振器23と電子キー11の受電装置30の共振器33とが共鳴して結合されて、送電装置20の共振器23に供給されている高周波電力(詳しくは、正弦波電流)が電子キー11の共振器33に伝わる。そして、電子キー11の共振器33に伝わった高周波電力は、受電装置30の整流部34によって直流電力に変換されてバッテリ35に供給される。
【0025】
ここで、電子キー11のバッテリ35が切れると、機能部36が作動しなくなって同機能部36による無線信号を利用した認証を行うことができなくなるために、車両10のドアを開錠することができなくなり、同車両10を運転することができなくなってしまう。本実施形態では、こうした場合に、無線給電システムを利用して電子キー11のバッテリ35を充電することができるため、ドアの開錠、ひいては車両10の運転が可能になる。
【0026】
図2および図3に示すように、本実施形態では、送電用のコイル部22が、車両10の運転席のドア12に設けられるガラスラン40と一体になっている。
ここでは先ず、ガラスラン40の配設態様について説明する。
【0027】
図2に示すように、車両10の運転席のドア12は、金属板によって形成された支持部材としてのドアフレーム13と、周囲が窓枠になる開口部14と、同開口部14を開閉可能なガラス板からなる窓部材15とを有している。またドア12は、ドアフレーム13と窓部材15との間に挟まれる位置にガラスラン40を有している。
【0028】
このガラスラン40は、ドアフレーム13の開口部14の外縁における車両10の前方側の部分、上方側の部分、および後方側の部分にかけて延びる略U字形状である。ガラスラン40における前方側に配置される前方部分40Aや後方側に配置される後方部分40Bは、開口部14の下方側の端部よりも下方側の位置まで延びている。ガラスラン40は、外周側の部分がドアフレーム13に固定されている。
【0029】
窓部材15は、その外縁部分がガラスラン40の前方部分40Aの内周側の部分と後方部分40Bの内周側の部分とによって各別に挟み込まれて支持された状態で、上下方向に移動可能になっている。窓部材15は、上下方向の移動を通じて開閉する。そして、窓部材15の移動位置がその移動範囲における最も上方側の位置になると、窓部材15の外縁部分における前方側の部分、上方側の部分、および後方側の部分がガラスラン40の内周側の部分に挟み込まれて同ガラスラン40に密着した状態になる。車両10では、このガラスラン40によって、窓部材15とドアフレーム13との間隙を介した車室内への雨水や埃の侵入がシールされる。
【0030】
次に、ガラスラン40の構造および送電用のコイル部22の配設態様について詳しく説明する。
図3に示すように、送電用のコイル部22は、ガラスラン40の延設方向に沿ってガラスラン40の一方の端部41と他方の端部43との間を折り返して延びる略U字形状である。送電用のコイル部22は、一回巻きの環状をなしている。コイル部22におけるガラスラン40の端部41側の終端には、配線を介してコネクタ26が接続されている。このコネクタ26を介してコイル部22は制御部24に接続される。
【0031】
図4に示すように、送電用のコイル部22は、銅製の電線27と、耐腐食性を有する材料(本実施形態では、アルミナ)からなるとともに電線27の周囲全周をコーティングする形状の保護層28とを有している。
【0032】
図5に示すように、ガラスラン40は、窓部材15の外縁部分を挟み込む形状で延びる一対の挟持部44,45と、車幅方向(図5の上下方向)に延びる形状で上記挟持部44,45の外周側(図5の左側)の端部同士を連結する連結部46とを有している。一対の挟持部44,45のうちの一方(挟持部44)は、窓部材15の外面に沿って延びる基部44Aと、同基部44Aの内周側(図5の右側)の端部を始点に挟持部45に向けて突出する形状のリップ部44Bとを有している。また、一対の挟持部44,45のうちの他方(挟持部45)は、窓部材15の外面に沿って延びる基部45Aと、同基部45Aの内周側の端部を始点に挟持部44に向けて延びる形状のリップ部45Bと、上記基部45Aの延設方向(図5の左右方向)における中間部分を始点に挟持部44に向けて延びる形状のリップ部45Cとを有している。ガラスラン40における各リップ部44B,45B,45Cの間に窓部材15が侵入した状態(図5に示す状態)になると、それらリップ部44B,45B,45Cが弾性変形して窓部材15に押し付けられて、各リップ部44B,45Bと窓部材15とが密着するようになる。なお、図5は、ガラスラン40の後方部分40Bおよびその周辺の断面構造を示している。ガラスラン40の各部の断面形状は、若干の違いはあるものの、図5に示すような形状である。ただし、リップ部45Cは、ガラスラン40の前方部分40Aおよび後方部分40Bのみに設けられており、上方側の上方部分40Cには設けられていない。
【0033】
また、ガラスラン40の基部44Aの外面には同面から突出する形状の2つの凸部47,48が形成されており、基部45Aの外面には同面から突出する形状の凸部49が形成されている。ドアフレーム13におけるガラスラン40が取り付けられる部分は、基部44Aの外面に沿って延びる壁部と、連結部46の外面に沿って延びる壁部と、基部45Aの外面に沿って延びる壁部とからなる断面略U字形状である。そうしたドアフレーム13の略断面U字形状の部分にガラスラン40が嵌め込まれて取り付けられると、ドアフレーム13の内部に形成された凹部にガラスラン40の各凸部47,48,49が係合する。この係合によってドアフレーム13からのガラスラン40の脱落が抑えられるようになっている。
【0034】
図3に示すように、本実施形態では、送電用のコイル部22における一方の端部41を始点に他方の端部43まで延びる部分を「往路部22A」とし、コイル部22における端部43を始点に端部41まで延びる部分を「復路部22B」とする。
【0035】
図5に示すように、コイル部22の往路部22Aは、ガラスラン40の内部における一対の挟持部44,45と連結部46とによって囲まれた部分において、挟持部44と連結部46との接続部分に隣接する位置に配置されている。また、コイル部22の復路部22Bは、ガラスラン40の内部における一対の挟持部44,45と連結部46とによって囲まれた部分において、挟持部45と連結部46との接続部分に隣接する位置に配置されている。
【0036】
このようにコイル部22の往路部22Aおよび復路部22Bはガラスラン40の内部において間隔を置いて延びている。またコイル部22は、窓部材15の外面と直交する方向においてガラスラン40と同コイル部22の全体とがオーバーラップするように、ガラスラン40の内部に配設されている。これにより、送電用のコイル部22は、ガラスラン40のリップ部44B,45B側(図5の右側)の先端よりも連結部46側(図5の左側)の位置に配置される。本実施形態では、送電用のコイル部22が、乗員の視界を妨げることの無いようにガラスラン40の内部に隠蔽した状態で設けられている。
【0037】
ガラスラン40の各部は、ゴム弾性を有する材料(本実施形態では、動的架橋型熱可塑性エラストマー[TPV])によって形成されている。ただし、挟持部44の基部44A,45A、連結部46、および凸部47,48,49の形成に用いる材料には、単位体積当たりの含有量が所定量以上になる量の高透磁率磁性材料(鉄やフェライトなど)が含まれている。一方、リップ部44B,45B,45Cの形成に用いる材料における単位体積当たりの高透磁率磁性材料の含有量は所定量未満であり、ごく少ない。なお本実施形態のガラスラン40は押し出し成形によって形成されるが、その成形材料に高透磁率磁性材料を練り込むことにより、高透磁率磁性材料を一成分とするガラスラン40は形成される。また上記所定量は、ガラスラン40の基部44A,45Aや連結部46が磁束の吸収偏向性を有するようになる量の下限値である。
【0038】
以下、上述したガラスラン40を採用することによる作用効果について説明する。
図2に示すように、車両10の運転席のドア12には、車室内への雨水や埃の侵入を抑えるために、ガラスラン40が設けられている。本実施形態では、図5に示すように、そうしたガラスラン40の内部におけるリップ部44B,45B側の部分の先端よりも連結部46側の位置に送電用のコイル部22が一体に設けられている。これにより、コイル部22をガラスラン40よりも窓枠の内側方向(図5の右方向)に突出しない状態で配置することができるため、ガラスラン40にコイル部22が設けられるとはいえ、同コイル部22によって乗員の視界が狭くなることを回避できる。そして、ガラスラン40に設けられたコイル部22を無線給電システムの送電用コイルとして用いることにより、電子キー11への非接触での電力供給を行うことができる。したがってガラスラン40によれば、乗員の視界を妨げることなく、非接触での電力供給を行うことができる。
【0039】
ここで、窓部材15は上下方向に移動する部材であるため、仮に窓部材15に送電用のコイル部を取り付けると、同コイル部と送電装置20の他の部分(コンデンサ21や制御部24)とを接続する配線が窓部材15の移動に伴い変形する構造になり易く、同配線の設置が難しくなる。本実施形態では、送電用のコイル部22が、ドアフレーム13に固定されたガラスラン40に設けられる。これにより、窓部材15の移動では上記配線が変形しない構造になるため、窓部材15に送電用のコイル部を設ける場合と比較して、上記配線の設置が容易になる。
【0040】
また、ドアフレーム13は金属板によって形成されている。そして、金属板は磁場を遮蔽する電磁シールドとして機能する。そのため、ガラスラン40が車両10に取り付けられた状態では、近傍に配置されたドアフレーム13によって同ガラスラン40の周辺の磁界強度が弱められるおそれがある。この場合には、コイル部22が発生した磁界の強度がドアフレーム13によって弱められてガラスラン40の外部における磁界の強度が低くなり、車両10の送電装置20(図1)の共振器23と電子キー11の受電装置30の共振器33との共鳴による結合が生じ難くなって、無線給電システムによる電力供給を適正に行うことができなくなってしまう。
【0041】
本実施形態では、図5に示すように、ガラスラン40が車両10に取り付けられた状態では、コイル部22とドアフレーム13との間に、高透磁率磁性体として機能する挟持部44,45の基部44A,45Aや連結部46が配置される。これにより、コイル部22の3方向が高透磁率磁性材料を一成分とする高透磁率磁性部(基部44A,45Aや連結部46)によって囲まれた状態になる。ガラスラン40の内部と外部とは、窓部材15を挟み込んでいるリップ部44B,45B,45Cによっても仕切られているが、それらリップ部44B,45B,45Cは高透磁率磁性材料の含有量が少なく、磁束の吸収偏向性を殆ど有していないため、コイル部22が発生する磁束を殆ど通過させる。
【0042】
そのため、コイル部22が発生する磁束のうち、窓部材15に沿ってガラスラン40の外部に向かう磁束は、リップ部44B,45B,45Cを通過して、ガラスラン40の内部から外部に延びるようになる。また、コイル部22が発生する磁束のうち、車幅方向(図5の上下方向)に延びて基部44A,45Aに向かう磁束や、車両前後方向(図5の左方向)に延びて連結部46に向かう磁束は、高透磁率磁性部である連結部46や各基部44A,45Aによって吸収偏向されてリップ部44B,45B,45Cに向かうようになる。そして、こうした磁束はリップ部44B,45B,45Cを通過して、ガラスラン40の内部から外部に延びるようになる。さらには、コイル部22が発生する磁束は高透磁率磁性部によって吸収偏向されてドアフレーム13に殆ど到達しなくなるために、コイル部22の発生磁界の強度がドアフレーム13によって弱められることが抑えられるようになる。このようにガラスラン40によれば、コイル部22の発生磁界の強度がドアフレーム13によって弱められることを抑えることができ、同コイル部22を用いた電力供給の効率低下を抑えることができる。
【0043】
またガラスラン40は、コイル部22の往路部22Aと復路部22Bとが車幅方向において間隔を置いて並ぶ構造であるために、コイル部22が発生する磁束の向きを窓部材15に沿ってガラスラン40の内部から外部に向けて延びる方向に設定し易い構造であると云える。そして、コイル部22が発生する磁束の向きを窓部材15に沿う方向にすることにより、窓部材15付近において磁界強度を最も強くすることができるため、窓部材15に電子キー11を押し付けるといった簡単な手順で、同コイル部22の発生磁束を電子キー11のコイル部32に効率よく作用させることができるようになる。このように本実施形態によれば、簡単な手順による電子キー11の位置決めを通じて、コイル部22を用いた電子キー11への電力供給を効率よく行うことができる。
【0044】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)ガラスラン40の内部におけるリップ部44B,45B側の先端よりも連結部46側の位置に送電用のコイル部22を一体に設けたため、乗員の視界を妨げることなく、非接触での電力供給を行うことができる。
【0045】
(2)ガラスラン40が車両10に取り付けられた状態では、コイル部22とドアフレーム13との間に、高透磁率磁性体として機能する挟持部44,45の基部44A,45Aや連結部46が配置される。そのため、コイル部22の発生磁界の強度がドアフレーム13によって弱められることを抑えることができ、同コイル部22を用いた電力供給の効率低下を抑えることができる。
【0046】
(3)ガラスラン40は雨水が付着する部材であるため、ガラスラン40に銅製の電線27のみからなるコイルを取り付けると、電線27の腐食に起因するコイルの早期劣化を招くおそれがある。本実施形態では、コイル部22の形成材料として銅製の電線27が用いられるとはいえ、電線27の表面の保護層28によってコイル部22に耐腐食性が付与されているため、コイル部22が高い耐久性能を発揮するようになる。
【0047】
(4)車両10のドアは、乗員が開閉する部分であるため、乗員が自然にアクセスする部分であると云える。そして、そうしたドアの中でも運転席のドア12は乗員のアクセス頻度が高い。そのため、運転席のドア12は、電子キー11への電力供給を受けるべく、同電子キー11を車両10に近づける際に、最もアクセスし易い部分であると云える。本実施形態では、そうした運転席のドア12の窓部材15に送電用のコイル部22を有するガラスラン40が設けられるために、電子キー11への電力供給をスムーズに行うことができる。
【0048】
(5)ガラスラン40の内部における挟持部44,45と連結部46とによって囲まれた部分に送電用のコイル部22を設けたため、同コイル部22を乗員の視界を妨げることの無いようにガラスラン40の内部に隠蔽した状態で設けることができる。
【0049】
(6)ガラスラン40において、窓部材15を挟み込む部分であるリップ部44B,45B,45Cは、窓部材15に密着させる必要があるため、窓部材15の移動に追従して変形し易くなっている。これに対して、挟持部44,45の基部44A,45Aや連結部46は、ドアフレーム13に支持される部分であり窓部材15に密着させる必要がないために、窓部材15が移動したところでさほど変形しない。本実施形態によれば、そうした変形量の小さい挟持部44,45の基部44A,45Aや連結部46に隣接する位置にコイル部22が配置されている。これにより、コイル部22の変形を抑えることができるため、同コイル部22の耐久性を向上させることができる。
【0050】
なお、上記実施形態は、以下のように変更した変形例として実施することもできる。
・送電用のコイル部22として、複数回巻きの環状の導体からなるものを採用してもよい。
【0051】
・コイル部22の往路部22Aや復路部22Bを、挟持部44,45の基部44A,45Aと連結部46との接続部分以外の部分に設けてもよい。コイル部22の往路部22Aや復路部22Bの配設位置としては、例えば図6に示すように、リップ部44Bと基部44Aとの接続部分A1や、リップ部45Bと基部45Aとの接続部分A2、リップ部45Cと基部45Aとの接続部分A3などを採用することができる。なお、変形し難い部分である連結部46に隣接する位置にコイル部22を設けることにより、同コイル部22の耐久性を高くすることができる。また、リップ部44B,45Bに隣接する位置はガラスランの内部の中でも同ガラスランの外部に近い部分であるため、同位置に送電用のコイル部22を設けることにより、コイル部22の発生磁束をガラスランの外部に作用させ易くなって、同コイル部22の発生磁束を用いた電力供給を行い易くすることができる。
【0052】
・コイル部22の電線27を形成する材料は、適正な強度の磁界を発生させることができる材料であれば、任意の材料を採用することができる。また、保護層28を形成する材料は、電線27の腐食を抑えることができる材料であれば、任意に変更可能である。
【0053】
・電線27の腐食が適正に抑えられるのであれば、保護層28を省略してもよい。
図7に示すように、ガラスラン50の内面に、金属材料からなる環状の薄膜52Aを形成して、これをコイル部52としてもよい。なお図7では、理解を容易にするために、薄膜52Aの厚さを誇張して示している。この薄膜52Aは、鍍金処理によって形成したり、金属薄膜を貼り付けることによって形成したりすることができる。なお、こうしたガラスラン50を採用する場合には、薄膜52Aを保護するために、耐腐食性を有する材料からなる保護層によって薄膜52Aの周囲を被覆することが望ましい。
【0054】
図8に一例を示すように、高透磁率磁性材料を一成分とするとともに層状をなす高透磁率磁性部61を、コイル部22よりもガラスラン60の外面側において同外面に沿う形状で、同ガラスラン60の一部をなすように設けてもよい。図8は、ドアフレームに取り付けられていない状態(いわゆる自由状態)のガラスラン60の断面形状を示している。図8に示す例では、高透磁率磁性部61が、基部64A,65A、連結部66、および凸部67,68,69の外面をなすように設けられている。こうしたガラスラン60では、連結部66における高透磁率磁性部61よりも内面側の部分の内部や、挟持部64,65の基部64A,65Aにおける高透磁率磁性部61よりも内面側の部分の内部に、コイル部22を埋め込んだ状態で配設することもできる。また、こうしたガラスラン60に限らず、高透磁率磁性材料を一成分として層状をなす高透磁率磁性部をガラスランの内面をなすように設けるとともに、同高透磁率磁性部よりも内面側にコイル部を設けるようにしてもよい。
【0055】
・送電装置20の共振器23と電子キー11の共振器33との共鳴が適正になされるのであれば、高透磁率磁性材料を一成分とする高透磁率磁性部を設けなくてもよい。
図9に示すように、ガラスラン70の内部(挟持部44,45の基部44A,45Aと連結部46とによって囲まれた部分)に発光素子71(発光ダイオードや半導体レーザー)を一体に設けてもよい。こうしたガラスラン70によれば、同ガラスラン70を車両に取り付けた状態で発光素子71を発光させることにより、窓部材15(ガラス板)を発光させることができる。そのため、発光素子71の発光を通じて、電力供給中であることを案内したり窓部材15における電力供給が可能な箇所を案内したりする等、無線給電システムでの電力供給にかかる各種の案内表示を行うことが可能になる。
【0056】
・送電用のコイル部22を、その一部分がガラスランの外面に露出する態様で同ガラスランに一体形成してもよい。要は、ガラスランのリップ部44B,45B側の部分の先端よりも連結部46側の位置に、環状の導体からなるコイル部22が一体に設けられていればよい。こうしたガラスランによっても、乗員の視界を妨げることなく、非接触での電力供給を行うことができる。
【0057】
・無線給電システムの送電用のコイル部を、車両の固定窓に取り付けられるシール部材(いわゆるウインドウストリップ)に一体に設けてもよい。
・無線給電システムの給電対象である外部機器としては、電子キー11に限らず、任意の機器を採用することができる。受電用のコイルを有する受電装置を内蔵している外部機器であれば、車両に搭載された送電装置20から電力を供給することが可能である。
【0058】
・無線給電システムの受電用のコイルを、車両窓用シール部材(ガラスランやウィンドウストリップ)に一体に設けてもよい。この場合には、受電装置および同装置から電力供給を受ける機器は車両に搭載される。そして、この受電装置は、送電用のコイルを有する送電装置、あるいは同送電装置を備えた各種機器から電力供給を受けることができる。
【符号の説明】
【0059】
10…車両、11…電子キー、12…ドア、13…ドアフレーム、14…開口部、15…窓部材、20…送電装置、21…コンデンサ、22,52…コイル部、22A…往路部、22B…復路部、23…共振器、24…制御部、25…直流電源、26…コネクタ、27…電線、28…保護層、30…受電装置、31…コンデンサ、32…コイル部、33…共振器、34…整流部、35…バッテリ、36…機能部、40,50,60,70…ガラスラン、40A…前方部分、40B…後方部分、40C…上方部分、41…端部、43…端部、44,64…挟持部、44A,64A…基部、44B…リップ部、45,65…挟持部、45A,65A…基部、45B,45C…リップ部、46,66…連結部、47,48,49,67,68,69…凸部、52A…薄膜、61…高透磁率磁性部、71…発光素子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9