特許第6468192号(P6468192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6468192ボンド磁石用フェライト粒子粉末、ボンド磁石用樹脂組成物ならびにそれらを用いた成型体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6468192
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】ボンド磁石用フェライト粒子粉末、ボンド磁石用樹脂組成物ならびにそれらを用いた成型体
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/113 20060101AFI20190204BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   H01F1/113
   C01G49/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-540503(P2015-540503)
(86)(22)【出願日】2014年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2014076066
(87)【国際公開番号】WO2015050119
(87)【国際公開日】20150409
【審査請求日】2017年9月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-207305(P2013-207305)
(32)【優先日】2013年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097928
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 数彦
(72)【発明者】
【氏名】西尾 靖士
(72)【発明者】
【氏名】桜井 洋光
(72)【発明者】
【氏名】福品 徳浩
(72)【発明者】
【氏名】藤井 泰彦
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−357606(JP,A)
【文献】 特開昭62−273573(JP,A)
【文献】 特開昭61−191004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/113
C01G 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
かさ密度が0.5g/cm以上0.6g/cm未満であって圧縮度が65%以上であることを特徴とするボンド磁石用フェライト粒子粉末。
【請求項2】
平均粒子径が0.9〜3.0μmである請求項1記載のボンド磁石用フェライト粒子粉末。
【請求項3】
マグネトプランバイト型フェライト粒子粉末である請求項1又は2記載のボンド磁石用フェライト粒子粉末。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のボンド磁石用フェライト粒子粉末を83重量%から93重量%含有し、有機バインダー成分を7重量%から17重量%含有することを特徴とするボンド磁石用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のボンド磁石用フェライト粒子粉末、又は請求項4記載のボンド磁石用樹脂組成物のいずれかを用いたことを特徴とする成型体。
【請求項6】
成型体がロータであることを特徴とする請求項5記載の成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張伸びが良好なボンドマグネット成型体を得ることができるボンド磁石用フェライト粒子粉末ならびにボンド磁石用樹脂組成物に関するものであり、前記フェライト粒子粉末又は前記組成物を用いたロータなどのボンド磁石成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、ボンド磁石は、焼結磁石に比べ、軽量で寸法精度が良く、複雑な形状も容易に量産化できる等の利点があるため、玩具用、事務機器用、音響機器用、モータ用等の各種用途に広く使用されている。
【0003】
ボンド磁石に用いられる磁性粉末として、Nd−Fe−B系に代表される希土類磁石粉末やフェライト粒子粉末が知られている。希土類磁石粉末は高い磁気特性を有する反面、価格も高価であって、使用できる用途が制限されている。一方、フェライト粒子粉末は希土類磁石粉末に比べて磁気特性の面では劣っているが、安価であり化学的に安定であるため幅広い用途に用いられている。
【0004】
ボンド磁石は、一般に、ゴム又はプラスチックス材料と磁性粉末とを混練した後、磁場中で成形するか、或いは機械的手段により成形することにより製造されている。
【0005】
近年、各種材料や機器の信頼性向上を含めた高機能化に伴って、使用されるボンド磁石の強度の向上、磁気特性向上を含めた高性能化が求められている。
【0006】
即ち、射出成型などにより得られたボンド磁石の成形体は、各用途の使用において、過酷な使用条件に耐える機械的な強度が要求される。
【0007】
例えば、モータでは、シャフトを持ち回転するロータが使用されているが、大小複雑な形状に加工されたロータはシャフトをインサートするため、引張伸び特性が高いことが強く要求されている。また、ロータの磁気特性においては、表面磁力の高磁力化とともに、モータ内で、コイルに供給される電流によって発生する磁界で引き起こされる減磁の程度の小さいことが、高性能なモータ特性を得る重要な要素技術として特に要求されているところである。
【0008】
そこで、ボンド磁石に用いるフェライト粒子粉末ならびにフェライト粒子と有機バインダーからなるボンド磁石用樹脂組成物においても、前記要求を満たす材料が要求されている。
【0009】
これまで、ボンド磁石用フェライト粒子粉末ならびにフェライト粒子と有機バインダーからなるボンド磁石用樹脂組成物について種々の改良が行われており、例えば、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を融剤として用いてフェライト粒子粉末を製造する方法(特許文献1)、フェライト粒子粉末の粒度分布を制御する方法(特許文献2)、アルカリ土類金属を構成成分として平均粒子径が1.50μm以上でメルトフロー値が91g/10分以上のフェライト磁性粉を用いてボンド磁石とする方法(特許文献3)、平均粒子径を2.5μm以下、比表面積を1.25m/g以上とした後、アニールし、さらに圧縮して、当該圧縮された焼成粉において、乾式空気分散レーザー回折法により測定される平均粒子径をRa(μm)とし、空気透過法により測定される比表面積径をDa(μm)としたとき、Ra<2.5μm、且つ、Ra−Da<0.5μmに制御する方法(特許文献4)、塩化物の飽和蒸気圧下で1050℃及至1300℃の温度で焼成したフェライトを粒径の小さな微粉フェライト粉と混合し、800及至1100℃の温度でアニールすることで、粒径が大きく、きれいな結晶で、加圧しても保磁力の下がりが低い2.0MGOe以上のエネルギー積を有するフェライトを得る方法(特許文献5)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭55−145303号公報
【特許文献2】特開平3−218606号公報
【特許文献3】特開2005−268729号公報
【特許文献4】特開2007−214510号公報
【特許文献5】特開2010−263201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記要求を満たすボンド磁石用フェライト粒子粉末および/またはボンド磁石用樹脂組成物は、現在、最も要求されているところであるが、前記要求を十分に満たすものは未だ得られていない。
【0012】
即ち、前出特許文献1乃至5に記載されたフェライト粒子粉末または、ボンド磁石用樹脂組成物を用いたボンド磁石成型品は、高磁力、外部磁場に対する減磁耐性、機械的強度のすべてにおいて優れているとは言い難いものである。
【0013】
そこで、本発明は、高磁力、外部磁場に対する減磁耐性、機械的強度に優れたボンド磁石が得られるボンド磁石用フェライト粒子粉末ならびにボンド磁石用樹脂組成物を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0015】
即ち、本発明は、かさ密度が0.50g/cm以上0.60g/cm未満であって圧縮度が65%以上であることを特徴とするボンド磁石用フェライト粒子粉末である(本発明1)。
【0016】
また、本発明は、平均粒子径が0.9〜3.0μmである本発明1記載のボンド磁石用フェライト粒子粉末である(本発明2)。
【0017】
また、本発明は、マグネトプランバイト型フェライト粒子粉末である本発明1又は2記載のボンド磁石用フェライト粒子粉末である(本発明3)。
【0018】
また、本発明は、本発明1〜3のいずれかに記載のボンド磁石用フェライト粒子粉末を83重量%から93重量%含有し、有機バインダー成分を7重量%から17重量%含有することを特徴とするボンド磁石用樹脂組成物である(本発明4)。
【0019】
また、本発明は、本発明1〜3のいずれかに記載のボンド磁石用フェライト粒子粉末、又は本発明4記載のボンド磁石用樹脂組成物のいずれかを用いたことを特徴とする成型体である(本発明5)。
【0020】
また、本発明は、成型体がロータであることを特徴とする本発明5記載の成型体である。(本発明6)。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るボンド磁石用フェライト粒子粉末は、かさ密度が0.50g/cm以上0.60g/cm未満であって、圧縮度が65%以上に制御された粉体特性を有することで、有機バインダー中で優れた分散性を有した磁性粉末であり、ボンド磁石用磁性粉末として好適である。
【0022】
本発明に係るボンド磁石用樹脂組成物は、ボンド磁石用フェライト、有機バインダー、シランカップリング剤などを含有し、強度、磁気特性に優れた成形体が得られるので、ボンド磁石用樹脂組成物として好適である。
【0023】
本発明に係るボンド磁石用樹脂組成物は、引張伸びに優れているので、ロータとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
先ず、本発明に係るボンド磁石用フェライト粒子粉末(以下、「フェライト粒子粉末」という。)について説明する。
本発明に係るフェライト粒子粉末の組成は、特に限定されるものではなく、マグネトプランバイト型フェライトであればよく、Sr系フェライト粒子粉末、Ba系フェライト粒子粉末のいずれでもよい。また、La、Nd、Pr、Co、Zn等の異種元素を含有してもよい。
【0026】
本発明に係るフェライト粒子粉末のかさ密度は0.5g/cm以上0.6g/cm未満である。フェライト粒子粉末のかさ密度を前記範囲に制御することによって、該フェライト粒子粉末を用いて作製したボンド磁石は引張伸びに優れたものとなる。かさ密度が0.50g/cm未満のフェライト粒子粉末を工業的に生産することは困難である。圧縮度が65%以上であってもかさ密度が0.60g/cmを超えるフェライト粒子粉末は樹脂中での分散性に優れるものの保磁力が低くなる場合がある。好ましいかさ密度は0.51〜0.59g/cmである。
【0027】
本発明に係るフェライト粒子粉末の圧縮度は65%以上である。フェライト粒子粉末の圧縮度が65%未満では粉体中に含まれる空隙が大きいため、配合物が混練機に噛み込みにくく、充填性も低下してしまうため好ましくない。より好ましい圧縮度は66〜75%である。なお、圧縮度は、後述する実施例に記載の方法で定義される。
【0028】
本発明に係るフェライト粒子粉末の平均粒径は0.9〜3.0μmが好ましい。平均粒径が0.9〜3.0μmの範囲以外の場合には、ボンド磁石にする際に高充填ができなくなる為、高い磁気特性を有するボンド磁石を得ることが困難となる。より好ましくは0.9〜2.5μm、更により好ましくは0.95〜2.0μmである。
【0029】
本発明に係るフェライト粒子粉末のBET比表面積値は1.4〜2.5m/gが好ましい。
【0030】
本発明に係るフェライト粒子粉末は粒子形状が略六角板状である。本発明に係るフェライト粒子粉末の平均厚みは、走査型電子顕微鏡の観察において、0.2〜1.0μmが好ましい。平均厚みが前記範囲以外の場合には、ボンド磁石にする際に高充填ができなくなる為、高い磁気特性を有するボンド磁石を得ることが困難となる。好ましくは0.3〜1.0μm、より好ましくは0.4〜0.7μmである。
【0031】
本発明に係るフェライト粒子粉末の板状比(板面径/厚み)は、走査型電子顕微鏡の観察において各フェライト粒子の平均板面径と平均厚みとを測定してその比で示したものであり、1.0〜10が好ましい。
【0032】
本発明に係るフェライト粒子粉末の飽和磁化値σsは65.0〜73.0Am/kg(65.0〜73.0emu/g)が好ましく、保磁力Hcは206.9〜279kA/m(2600〜3500Oe)が好ましく、Brは160〜200mT(1600〜2000G)が好ましい。
【0033】
次に、本発明に係るフェライト粒子粉末の製造法について述べる。
【0034】
本発明に係るフェライト粒子粉末は、所定の配合割合で原料粉末を配合・混合して、得られた原料混合粉末を大気中、900〜1250℃の温度範囲で仮焼した後、粉砕、水洗処理し、次いで、大気中、700〜1100℃の温度範囲でアニール加熱処理を行い、圧縮・摩砕処理した後、最終的に解砕処理して得られる。
【0035】
原料粉末としては、マグネトプランバイト型フェライトを形成する各種金属の酸化物粉末、水酸化物粉末、炭酸塩粉末、硝酸塩粉末、硫酸塩粉末、塩化物粉末等の中から適宜選択すればよい。なお、焼成時における反応性の向上を考慮すれば、粒子径は2.0μm以下が好ましい。
【0036】
また、本発明においては、原料混合粉末に融剤を添加して焼成することが好ましい。融剤としては、各種融剤を用いることができ、例えば、SrCl・6HO、CaCl・2HO、MgCl、KCl、NaCl、BaCl・2HO及びNaである。添加量は、原料混合粉末100重量部に対してそれぞれ0.1〜10重量部が好ましい。より好ましくは0.1〜8.0重量部である。
【0037】
また、本発明においてはBiを原料混合粉末又は焼成後の粉砕粉末に添加・混合してもよい。
【0038】
なお、本発明においては、粒度分布や平均体積径の制御の点から、大粒子と小粒子とを混合してもよい。
【0039】
圧縮・摩砕処理は、固定した水平円盤上で2つの重いローラーを転動させるもので、ローラーの圧縮と摩耗作用で行われる処理であり、粉体の空隙を低減し圧密された凝集状態とするものである。処理装置としてはサンドミルやエッジランナー、らいかい機、ローラーミルなどを使用するのがよい。
【0040】
最終の解砕処理は、圧縮・摩砕処理で生じる圧密凝集体を比較的弱い力で分散あるいは解きほぐすような凝集状態を破壊する処理であり、ハンマーミルやピンミルなどの衝撃式粉砕機を使用するのがよい。なお、スクリーンなどの分級機構を内蔵していてもよい。
【0041】
本発明に係るフェライト粒子粉末は、かさ密度が0.5g/cm以上0.6g/cm未満であって圧縮度が65%以上である必要がある、このようなフェライト粒子粉末を得るためには、前記フェライト粒子粉末の製造方法において、圧縮・摩砕処理、及び圧縮・摩砕処理を行った後、解砕処理を行って、この範囲内になるようにする。例えば、圧縮・摩砕処理処理を行わない場合、圧縮度を高くすることができない傾向がある。これらの要件を適宜組み合わせて、かさ密度および圧縮度が本発明の範囲内になるように調節する。
【0042】
次に、本発明に係るフェライト粒子粉末を用いたボンド磁石用樹脂組成物について述べる。
【0043】
本発明に係るボンド磁石用樹脂組成物は、ボンド磁石用樹脂組成物中におけるフェライト粒子粉末の割合が83〜93重量部と、有機バインダー成分およびシランカップリング剤成分を総量で17〜7重量部となるように混合混練したものである。フェライト粒子粉末の割合が83重量部未満の場合、所望の磁気特性を有するボンド磁石が得られない。93重量部を超える場合、樹脂組成物の流動性が低下し、成形が困難になるとともに、成形性が低下することにより良好な分散状態が得られず、結果的に磁気特性の悪いものとなる。
【0044】
有機バインダーとしては従来のボンド磁石に使用されているものであれば特に制限はなく、ゴム、塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレンーエチルアクリレート共重合樹脂、PPS樹脂、ポリアミド(ナイロン)樹脂、ポリアミドエラストマー、重合脂肪酸系ポリアミド等から用途に応じて選択・使用できるが、成型体の強度と剛性を優先する場合は、ポリアミド樹脂が適切である。また、必要に応じてステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の公知の離型剤を添加することができる。
【0045】
本発明のシランカップリング剤は、官能基としてビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基の中のいずれか一つと、メトキシ基、エトキシ基のいずれかを有するものが使用でき、好ましくは、アミノ基とメトキシ基またはアミノ基とエトキシ基を有するものである。
【0046】
本発明に係るボンド磁石用樹脂組成物の残留磁束密度Brは、後で記述する磁性測定方法において230mT(2300G)以上が好ましく、より好ましくは235mT(2350G)以上である。保磁力iHcは206.9〜278.5kA/m(2600〜3500Oe)が好ましく、より好ましくは214.9〜262.6kA/m(2700〜3300Oe)である。最大エネルギー積BHmaxは10.3kJ/m(1.30MGOe)以上が好ましく、より好ましくは10.7kJ/m(1.35MGOe)以上である。
【0047】
次に、本発明に係るフェライト粒子粉末、樹脂バインダー、シランカップリング剤を用いたボンド磁石用樹脂組成物の製造法について述べる。
【0048】
本発明に係るボンド磁石用樹脂組成物は、周知のボンド磁石用樹脂組成物の製造法によって得ることができ、例えば、本発明に係るフェライト粒子粉末にシランカップリング剤などを添加、均一混合し、有機バインダー成分と均一混合した後、混練押出機などを用いて溶融混練し、混練物を粒状、ペレット状に粉砕または切断することによって得られる。
【0049】
シランカップリング剤の添加量は、本発明に係るフェライト粒子粉末100重量部に対して、0.15重量部から3.5重量部、好ましくは0.2重量部から3.0重量部である。
【0050】
次に、本発明に係る引張伸び評価用の試験片成形体について述べる。
【0051】
試験片成形体は、ボンド磁石用フェライト磁性粉と有機バインダー成分等を予め均一混合、および/または、それらを混合後に溶融混練、ペレット状に粉砕または切断までしてボンド磁石用樹脂組成物として、溶融状態で80℃の金型のキャビティーに射出し、全長175mm、全幅12.5mm、厚み3.2mmの試験片成形体を得た。
【0052】
本発明のボンド磁石用樹脂組成物は、成型性、特に射出成型性に優れている。後述する実施例に記載の方法で測定したメルトマスフローレイト(MFR)は、好ましくは30g/10min以上、より好ましくは35〜100g/10minである。成型密度は、好ましくは3.00〜3.90g/cmである。
【0053】
本発明のボンド磁石用樹脂組成物は、引張伸びに優れている。後述する実施例に記載の方法で測定した引張強度(樹脂が12−ナイロンの場合)は、好ましくは40〜70MPaであり、後述する実施例に記載の方法で測定した引張伸び(樹脂が12−ナイロンの場合)は、好ましくは3%以上、より好ましくは6〜10%である。また、本発明のボンド磁石用樹脂組成物は機械的強度にも優れ、後述する実施例に記載の方法で測定したIZOD衝撃強度(樹脂が12−ナイロンの場合)でも割れないことが好ましい。また、本発明のボンド磁石用樹脂組成物は寸法安定性に優れ、後述する実施例に記載の方法で測定した収縮率(樹脂が12−ナイロンの場合)は0.68以下、より好ましくは0.65%以下である。
【0054】
<作用>
本発明に係るフェライト粒子粉末をかさ密度が0.5g/cm以上0.6g/cm未満であって圧縮度が65%以上に制御することによって、本発明に係るフェライト粒子粉末および/またはボンド磁石用樹脂組成物を用いて作製した成型体の引張伸びが優れることについては未だ明らかではないが、本発明者は次のように推定している。
【0055】
即ち、本発明に係るフェライト粒子粉末は、かさ密度が0.5g/cm以上0.6g/cm未満であって圧縮度が65%以上に制御されることによって、充填性の良い樹脂混合体が混練機に噛み込み易く、初期トルクが適切にかかることで、有機バインダー中で理想的な分散状態となるものと推定している。
【0056】
本発明に係るボンド磁石用樹脂組成物は、上述のボンド磁石用フェライト粒子粉末を83重量%から93重量%含有し、有機バインダー成分を7重量%から17重量%含有することで、フェライト粒子粉末と有機バインダーが均一で理想的な分散状態となっていると推定している。
【実施例】
【0057】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0058】
本発明に係るフェライト粒子粉末の平均粒径(Ps)は、「粉体比表面積測定装置SS−100」(島津製作所(株)製)を用いて測定した。
【0059】
本発明に係るフェライト粒子粉末のBET比表面積は、「全自動比表面積計Macsorb model−1201」((株)マウンテック製)を用いて測定した。
【0060】
本発明に係るフェライト粒子粉末のかさ密度は、JIS_K_5101−12−1に準じて測定した。
【0061】
本発明に係るフェライト粒子粉末のタップ密度は、JIS_K_5101−12−2に準じて測定した。
【0062】
本発明に係るフェライト粒子粉末の圧縮度は、次式で求めた。
圧縮度=(タップ密度−かさ密度)/タップ密度×100 (%)
【0063】
フェライト粒子粉末の飽和磁束密度Brと保磁力iHcは、粒子粉末を1t/cmの圧力で圧縮して得られる圧粉コアを「直流磁化特性自動記録装置3257」(横川北辰電気(株)製)を用いて14kOeの磁界中で測定して求めた。
【0064】
ボンド磁石用樹脂組成物のメルトマスフローレイト(MFR)は、JIS K7210に準拠して、270℃で溶融し10kg荷重で測定して求めた。
【0065】
ボンド磁石用樹脂組成物の成型密度は、ボンド磁石用組成物を25mmφ、10.5mmの高さの金型内で溶融状態にして成型したコアを「電子比重計EW−120SG」((株)安田精機製作所製)で測定して求めた。
【0066】
ボンド磁石用樹脂組成物の水分は、水分気化付属装置EV−6(平沼産業(株)製)付「微量水分測定装置AQ−7」(平沼産業(株)製)で測定して求めた。
【0067】
ボンド磁石用樹脂組成物の磁気特性(残留磁束密度Br、保磁力iHc、保磁力bHc、最大エネルギー積BHmax)は、ボンド磁石用組成物を25mmφ、10.5mmの高さの金型内で溶融状態として、9kOeで磁場配向した後、「直流磁化特性自動記録装置3257」(横川北辰電気(株)製)を用いて14kOeの磁界中で測定して求めた。
【0068】
ボンド磁石樹組成物を用いた射出成型は、(株)日本製鋼所製の射出成形機J20MII型を用いて、全長175mm、全幅12.5mm、厚み3.2mmの試験片成形体を得た。この試験片射出成形時の射出圧を記録に留め、射出性の判断とした。
【0069】
引張強度及び伸びはASTM D638−90規格に準じて測定した。(株)日本製鋼所の射出成形機J20MII型を用いて試験片を得た後、島津製作所(株)製のコンピュータ計測制御式精密万能試験機AG−1型を用いて測定した。
【0070】
曲げ強度はASTM D790規格に準じて測定した。(株)日本製鋼所の射出成形機J20MII型を用いて試験片を得た後、島津製作所(株)製のコンピュータ計測制御式精密万能試験機AG−1型を用いて測定した。
【0071】
アイゾット衝撃強度はASTM D256規格に準じて測定した。(株)日本製鋼所の射出成形機J20MII型を用いて試験片を得た後、安田精機製作所(株)製のアイゾット衝撃試験機No.158を用いて測定した。
【0072】
試験片の収縮率は試験片の実寸法を測定し、成形時の型に対する収縮の程度を算出した。
【0073】
実施例1:
<フェライト粒子粉末の製造>
粉末状のα−FeとSrCOとをモル比で2Fe:Sr=5.90:1となるように秤量して、湿式アトライターで30分混合した後、濾過、乾燥した。得られた原料混合粉末にSrCl及びNaの水溶液をそれぞれ添加してよく混合した後、造粒した。このとき、SrCl及びNaの添加量は、上記原料混合粉末に対してそれぞれ2.0重量%、0.2重量%とした。得られた造粒物を大気中1120℃で2時間焼成した。得られた焼成物を粗粉砕した後に、湿式アトライターで30分粉砕し、水洗、濾過、乾燥した。その後、イソプロピルアルコール及びトリエタノールアミンの混合溶液を添加して、更に振動ミルで30分間粉砕した。このとき、イソプロピルアルコール及びトリエタノールアミンを、上記湿式粉砕乾燥品に対してそれぞれ0.2重量%、0.1重量%となる量の混合溶液を添加して、次いで、得られた粉砕物を大気中950℃で1.5時間熱処理した。その後、サンドミルで加重30kg/cmで30分間圧縮・摩砕処理を行い、更にピンミルで解砕処理した。製造条件を表1に、得られたボンド磁石用フェライト粒子粉末の特性を表2に示す。
【0074】
実施例2:
組成、添加剤の種類及び添加量、焼成温度などを種々変化させた以外は、前記実施例1と同様にしてフェライト粒子粉末を作成した。
このときの製造条件を表1に、得られたボンド磁石用フェライト粒子粉末の特性を表2に示す。
【0075】
比較例1、3:
前記実施例1、2の熱処理後のフェライト粒子粉末を、それぞれ、比較例1、3とした。このときの製造条件を表1に、得られたボンド磁石用フェライト粒子粉末の特性を表2に示す。
【0076】
比較例2、4:
前記実施例1、2の圧縮・摩砕処理後のフェライト粒子粉末を、それぞれ、比較例2、4とした。このときの製造条件を表1に、得られたボンド磁石用フェライト粒子粉末の特性を表2に示す。
【0077】
実施例3:
<ボンド磁石用樹脂組成物の製造>
実施例1で得られたフェライト粒子粉末をヘンシェルミキサーに25000g入れ、アミノアルキル系シランカップリング剤をフェライト粒子粉末に対して0.6wt%添加して20分間均一になるまで混合し、さらに、相対粘度1.60の12−ナイロン樹脂を3067g投入した後、さらに30分間混合してボンド磁石用樹脂組成物の混合物を用意した。
【0078】
得られたボンド磁石用組成物の混合物を2軸の混練機に定量フィードして12−ナイロンが溶融する温度において混練して、混練物をストランド状にして取り出し2mmφ×3mmの大きさのペレット状に切断してボンド磁石用樹脂組成物を得た。
ボンド磁石用樹脂組成物の製法と特性を表3に示す。
【0079】
実施例4、比較例5〜8:
用いるフェライト粒子粉末を種々変化させた以外は、前記実施例3と同様にしてボンド磁石用樹脂組成物を作成した。
得られたボンド磁石用樹脂組成物の特性を表3に示す。
【0080】
実施例5:
<試験片成形体の成形>
実施例3で得られたボンド磁石用樹脂組成物を100℃で3時間乾燥した後、射出成型機においてボンド磁石用樹脂組成物を300℃で溶融し、射出時間0.5秒で80℃に設定された金型に射出成形して、全長175mm、全幅12.5mm、厚み3.2mmの試験片成形体を用意した。試験片成形体の射出性及び諸特性を表4に示す。
【0081】
実施例6、比較例9〜12:
種々のボンド磁石用樹脂組成物を用いて、前記実施例5と同様にして試験片成形体を作成した。試験片成形体の射出性及び諸特性を表4に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
表4に示すとおり、実施例の試験片成形体は比較例の試験片成型体に比べて引張伸びの数値が大きく、引張伸びに優れていることが確認された。
【0087】
本発明のボンド磁石用樹脂組成物は、引張伸びに優れている。表4に示すとおり、引張強度は、好ましくは40〜70MPaであり、引張伸びは、好ましくは3%以上、より好ましくは6〜10%である。また、本発明のボンド磁石用樹脂組成物は機械的強度にも優れ、表4に示すとおり、IZOD衝撃強度でも割れないことが好ましい。また、本発明のボンド磁石用樹脂組成物は寸法安定性に優れ、表4に示すとおり、収縮率は0.68以下、より好ましくは0.65%以下である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係るフェライト粒子粉末および/またはボンド磁石用樹脂組成物を用いて製造したボンド磁石は引張伸びが大きく、また、曲げ強度、磁気特性とも優れるので、ボンド磁石、特にマグロール用のフェライト粒子粉末および/またはボンド磁石用樹脂組成物として好適である。