特許第6468435号(P6468435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6468435
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】R−T−B系焼結磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20190204BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20190204BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20190204BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20190204BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   H01F1/057 170
   H01F1/08
   C22C38/00 303D
   B22F3/00 F
   C22C33/02 K
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-83007(P2015-83007)
(22)【出願日】2015年4月15日
(65)【公開番号】特開2016-207679(P2016-207679A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】多田 篤司
【審査官】 竹下 翔平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−132628(JP,A)
【文献】 特開2014−216339(JP,A)
【文献】 特開2010−074084(JP,A)
【文献】 特開平11−309549(JP,A)
【文献】 特開2016−115774(JP,A)
【文献】 特開2015−204390(JP,A)
【文献】 特開2011−199180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−8/00
C22C 1/04−1/05
5/00−25/00
27/00−28/00
30/00−30/06
33/02
35/00−45/10
H01F 1/00−1/117
1/40−1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
14B(RはY、Ce、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gdの少なくとも1種であり、TはFeを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)構造からなる主相を含むR−T−B系焼結磁石であって、Ce、Fe、Coを含む粒界相を有し、単位断面積に占める前記Ce、Fe、Coを含む粒界相の断面積比が1.0%以上5.0%以下であり、前記Ce、Fe、Coを含む粒界相中のCo原子濃度が、0.5at%以上5.0at%以下であることを特徴とするR−T−B系焼結磁石。
【請求項2】
前記Ce、Fe、Coを含む粒界相中のCe原子濃度、Fe原子濃度、Co原子濃度の和に対するCe原子濃度の比率が0.20以上0.35以下である請求項に記載のR−T−B系焼結磁石。
【請求項3】
14B(RはY、Ce、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gdの少なくとも1種であり、TはFeを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)構造からなる主相を含むR−T−B系焼結磁石であって、Ce、Fe、Coを含む粒界相を有し、単位断面積に占める前記Ce、Fe、Coを含む粒界相の断面積比が1.0%以上5.0%以下であり、前記Ce、Fe、Coを含む粒界相中のCe原子濃度、Fe原子濃度、Co原子濃度の和に対するCe原子濃度の比率が0.20以上0.35以下であることを特徴とするR−T−B系焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R−T−B系焼結磁石、特に耐食性に優れた磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
正方晶R14B化合物を主相とするR−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素、TはFeを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素、Bはホウ素)は優れた磁気特性を有することが知られており、1982年の発明(特許文献1)以来、代表的な高性能永久磁石である。
【0003】
特に、希土類元素RがNd、Pr、Dy、Ho、TbからなるR−T−B系焼結磁石は異方性磁界Haが大きく永久磁石材料として広く用いられてきた。中でも希土類元素RをNdとしたNdFe14B焼結磁石は、飽和磁化Is、キュリー温度Tc、異方性磁界Haのバランスが良く、民生、産業、輸送機器などに広く用いられている。しかしながら、R−T−B系焼結磁石は希土類元素を主成分として含むために、耐食性が比較的低い事が知られている。
【0004】
ここで、腐食のメカニズムは次のように考えられている。まず使用環境下の水蒸気などによる水が焼結磁石の表面に付着すると、主相と粒界相間で生じる電位差によって電池反応が起こり、その過程で水素を発生する。前記発生した水素がRリッチ相に吸蔵されることにより、Rリッチ相が水酸化物に変化する。さらに、水素吸蔵されたRリッチ相と水の電池反応で、Rリッチ相に吸蔵された量以上の水素を発生する。上記反応の進行により、粒界部分が体積膨張して主相粒子の脱落が起こる。この結果、R−T−B系焼結磁石の新生面が現れ、前記反応が内部に進行していく。
【0005】
この問題に対して、特許文献2では、所定量のCoがRリッチ相中に均質固溶化することにより、耐食性を向上する提案がなされている。これは、Rリッチ相中にCoを固溶せしめることで、主相と粒界相間の電位差が小さくなり、電池反応が効果的に抑制されたため、耐食性が向上したと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−46008号公報
【特許文献2】特開平4−6806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献2では、CoがRリッチ相中に均質固溶する際に、主相であるR14B相のFeを置換する形でも入るため、主相中のFeが必要以上にCoで置換されてしまい、磁気特性、特に保磁力が低下してしまうという問題があった。
【0008】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、耐食性を向上させつつ、磁気特性の低下を抑制したR−T−B系焼結磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的のもと、粒界相の種類と耐食性の関係について鋭意研究を重ねた結果、耐食性改善のためにCoを粒界相中に所定量固溶させる際、Ce、Feが粒界相中に所定量存在すると、Ce−Fe−Co金属間化合物を形成することでCoが安定化し、Coが主相中のFeと置換されていないため、保磁力の低下も抑制することを見出した。本発明は以上の知見に基づくものであり、R14B(RはY、Ce、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gdの少なくとも1種であり、TはFeを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)構造からなる主相を含むR−T−B系焼結磁石であって、Ce、Fe、Coを含む粒界相を有し、単位断面積に占める前記Ce、Fe、Coを含む粒界相の断面積比が1.0%以上5.0%以下であることを特徴とする。
【0010】
ここで単位断面積とは、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、以降SEMと記載)を用いて焼結体中の組織を観察した、50μm角の領域の事を示す。
【0011】
係る構成により、耐食性改善のためにCoを粒界相に固溶させる際、Ce、Feが粒界相中に所定量存在すると、Ce−Fe−Co金属間化合物を形成することでCoが安定化し、Coが主相中のFeと置換されていないため、保磁力が低くなることを抑制したR−T−B系焼結磁石を得ることが出来る。
【0012】
本発明の望ましい態様としては、Ce、Fe、Coを含む粒界相中のCo原子濃度が、0.5at%以上5.0at%以下であることが好ましい。係る構成により、主相と粒界相の電位差が最小になり、電池反応が効果的に抑制されるため、十分に耐食性が高いR−T−B系焼結磁石を得ることが出来る。
【0013】
さらに望ましい態様としては、Ce、Fe、Coを含む粒界相中のCe原子濃度、Fe原子濃度、Co原子濃度の和に対するCe原子濃度の比率が0.20以上0.35以下である事が好ましい。係る構成により、Ce、Fe、Coを含む粒界相中のCoが十分に安定化するのに最適なCe比率となり、Coが主相中のFeと置換されていないため、磁気特性の劣化がないR−T−B系焼結磁石を得る事が出来る。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐食性を向上させつつ、磁気特性の低下を抑制したR−T−B系焼結磁石を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせても良いし、適宜選択して用いてもよい。
【0016】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、希土類元素(R)を11.5at%以上16.0at%以下の範囲とする。ここで、本発明におけるRはY、Ce、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gdの少なくとも1種である。Rの含有量が11.5at%未満であると、R−T−B系焼結磁石の主相となるR14B相の生成が十分ではなく軟磁性を持つα−Feなどが析出し、保磁力が著しく低下する。一方、Rの含有量が16.0at%を超えると主相であるR14B相の体積比率が低下し、残留磁束密度が低下する。
【0017】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、TはFeを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素(T)を75at%以上85at%以下の範囲とする。Tの含有量が75at%未満であると、残留磁束密度が低下する。一方、Tの含有量が85at%を超えると保磁力の低下を招いてしまう。
【0018】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、ホウ素(B)を4.8at%以上6.5at%以下含有する。Bの含有量が4.8at%未満の場合には高い保磁力を得ることができない。一方で、Bの含有量が6.5at%を超えると残留磁束密度が低下する。
【0019】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、Al及びCuの1種又は2種を0.01at%以上0.70at%以下含有する。この範囲でAl及びCuの1種又は2種を含有させることにより、得られる焼結磁石の高保磁力化、高耐食性化、温度特性の改善が可能となる。
【0020】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、他の元素の含有を許容する。例えば、Zr、Ti、Bi、Sn、Ga、Nb、Ta、Si、V、Ag、Ge等の元素を適宜含有させることができる。
【0021】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、酸素、炭素等の不純物元素を極力低減することが望ましい。特に磁気特性を害する事が判明している酸素及び炭素は、焼結体でのガス量を3000ppm以下にすることが望ましい。酸素量が多いと非磁性成分である希土類酸化物相が増加し、また、炭素量が多いと非磁性成分である希土類炭化物相が増加してしまい、磁気特性が大幅に低下するためである。
【0022】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、主相と粒界相を有する。
【0023】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石の主相粒子は、R14B型の正方晶からなる結晶構造を有するものである。また、R14B結晶粒の平均粒子径は、通常1μm〜15μm程度である。
【0024】
粒界相とは、隣り合う2つの主相粒子間に存在する、主相と異なる相である。
【0025】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石の粒界相は、R14B主相よりRが多いRリッチ相を有し、Rリッチ相の一種としてCe、Fe、Coを含む粒界相(以降CFC相と記載)が存在する。その他の粒界相としては、ホウ素(B)を多く含むBリッチ相、希土類酸化物相、希土類炭化物相、希土類窒化物相が含まれていてもよい。
【0026】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石のCFC相は、Coで置換されているCe−Fe−Co金属間化合物を含む。CFC相は主にCeとFeとCoで構成されているが、これ以外の成分が含まれていてもよい。
【0027】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、単位断面積に占めるCFC相の断面積比は、1.0%以上5.0%以下である。単位断面積に占めるCFC相の断面積比が1.0%未満であると、水蒸気などの水とRの反応で発生する水素の粒界への吸蔵が十分に抑制出来ないため、耐食性が低くなる。一方、単位断面積に占めるCFC相の断面積比が5.0%を超えると、主相体積比率が低下してしまうため、残留磁束密度が低下する。
【0028】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、CFC相中のCo原子濃度が0.5at%以上5.0at%以下である。Co原子濃度が0.5at%未満又は5.0at%より大きいと、主相と粒界相の電位差が大きくなり、電池反応により耐食性が低くなる。さらに、Co原子濃度が5.0%より大きい場合、Ce−Fe−Co金属間化合物に置換しきれなかったCoがソフト相になったために、保磁力が低くなる。
【0029】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、CFC相中のCe原子濃度、Fe原子濃度、Co原子濃度の和に対するCe原子濃度の比率(以降αと記載)が0.20以上0.35以下である。αが0.20未満、又は、αが0.35より大きいと、粒界相中に存在するCoの一部しか、Ce、Feと化合物を形成しておらず、Coが主相のFeを置換してしまう構造をとるために、保磁力が低くなる。
【0030】
以下、本件発明の製造方法の好適な例について説明する。
本実施形態のR−T−B系焼結磁石の製造においては、まず、所望の組成を有するR−T−B系焼結磁石が得られるような原料合金を準備する。原料合金は、真空又は不活性ガス、望ましくはArガス雰囲気中でストリップキャスト法、その他公知の溶解法により作製することができる。ストリップキャスト法は、原料金属をArガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気中で溶解して得た溶湯を回転するロールの表面に噴出させる。ロールで急冷された溶湯は、薄片状に急冷凝固される。この急冷凝固された合金は、結晶粒径が1.0〜50.0μmの均質な組織を有している。原料合金は、ストリップキャスト法に限らず、高周波誘導溶解等の溶解法によって得ることができる。なお、溶解後の偏析を防止するため、例えば水冷銅板に傾注して凝固させることができる。また、還元拡散法によって得られた合金を原料合金として用いることもできる。
【0031】
本発明においてR−T−B系焼結磁石を得る場合、原料合金として、1種類の合金から焼結磁石を作製する1合金法の適用を基本とする。なお、本実施形態では、1合金法の場合について説明するが、主相粒子であるR14B結晶粒を主体とする合金(主相合金)と、主相合金よりRを多く含み、粒界の形成に有効に寄与する合金(粒界相合金)とを用いる所謂2合金法を適用することも出来る。
【0032】
原料合金は粉砕工程に供される。粉砕工程には、粗粉砕工程と微粉砕工程とがある。まず、原料合金を、粒径数百μm程度になるまで粗粉砕する。粗粉砕は、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中にて行なうことが望ましい。粗粉砕に先立って、原料合金に水素を吸蔵させた後に放出させることにより粉砕を行なうことが効果的である。水素放出処理は、R−T−B系焼結磁石として不純物となる水素を減少させることを目的として行われる。水素吸蔵のための加熱保持の温度は、200℃以上、望ましくは300℃以上とする。保持時間は、保持温度との関係、原料合金の厚さ等によって変わるが、少なくとも30分以上、望ましくは1時間以上とする。水素放出処理は、真空中又はArガスフローにて行う。なお、水素吸蔵処理、水素放出処理は必須の処理ではない。この水素粉砕を粗粉砕と位置付けて、機械的な粗粉砕を省略することもできる。
【0033】
粗粉砕粉は微粉砕工程に供される。微粉砕には主にジェットミルが用いられ、粒径数百μm程度の粗粉砕粉を、平均粒径2.0μm以上5.5μm以下、望ましくは3.0μm以上5.0μm以下とする。ジェットミルは、高圧の不活性ガスを狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粗粉砕粉を加速し、粗粉砕粉同士の衝突やターゲットあるいは容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。
【0034】
微粉砕には湿式粉砕を用いても良い。湿式粉砕にはボールミルや湿式アトライタなどが用いられ、粒径数百μm程度の粗粉砕粉を、平均粒径0.1μm以上5.0μm以下、望ましくは2.0μm以上4.5μm以下とする。湿式粉砕では適切な分散媒の選択によりスラリーを生成し、磁石粉が酸素に触れることなく粉砕が進行するため、酸素濃度が低い微粉末が得られる。分散媒としてはイソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、酢酸エチル、リン酸エステル、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトンなどを選択することができる。
【0035】
成形時の潤滑及び配向性の向上を目的とした脂肪酸又は脂肪酸の誘導体や炭化水素、例えば、ステアリン酸系やオレイン酸系であるステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、炭化水素であるパラフィン、ナフタレン等を、微粉砕時に0.01〜0.30wt%程度添加することができる。
【0036】
得られた微粉は磁場中成形に供される。磁場中成形における成形圧力は0.3ton/cm2以上3.0ton/cm2以下(30MPa以上300MPa以下)の範囲とすればよい。成形圧力は成形開始から終了まで一定であってもよく、漸増または漸減してもよく、あるいは不規則変化してもよい。成形圧力が低いほど配向性は良好となるが、成形圧力が低すぎると成形体の強度が不足してハンドリングに問題が生じるため、この点を考慮して上記範囲から成形圧力を選択する。磁場中成形で得られる成形体の最終的な相対密度は、通常、40%以上60%以下である。
【0037】
印加する磁場は、10kOe以上20kOe以下(800kA/m以上1600kA/m以下)程度とすればよい。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス磁場を印加してもよい。また、静磁場とパルス磁場を併用することもできる。
【0038】
磁場中成形は微粉の酸化、成形体の酸化及び焼結体酸素量の増加を防ぐ観点から、不活性ガス雰囲気内で行う方がよい。
【0039】
成形体を不活性ガス雰囲気中で熱処理を行い、多孔体を得る。熱処理温度は800℃以上900℃以下、保持時間は30分以上120分以下で行い、多孔体の密度が成形体密度の1.05倍以上1.25倍以下になるまで行う。多孔体の密度が1.05倍未満だと、後の焼結工程でCFC相が均一に生成されなくなり、耐食性向上効果が得られない。また、多孔体の密度が1.25倍より大きいと、多孔体全体にCFC相が含侵されず、焼結工程において、CFC相が均一に生成されない。
【0040】
多孔体に、Ce、Fe、Co組成からなる微粉と溶媒の混合物(以降スラリーと記載)を、多孔体重量の1.0wt%以上5.5wt%以下の重量比率になるように、塗布、もしくは含侵させる。スラリー用微粉は、多孔体作製時と同様の方法でCe、Fe、Co組成からなる合金(スラリー用合金)を作製し、その後、粗粉砕、微粉砕の工程を経ることにより作製される。前記スラリーは、得られた前記微粉砕粉とアルコール系溶剤(エタノール、メタノール等)を、スラリー中の前記微粉砕粉の重量割合が40wt%以上65wt%以下になるように秤量し、混合することにより作製される。この時、混合方法としては脱泡混練機などの機械式混練方法で行う事が好ましい。また、混練時間は2分以上10分以下、混合時の雰囲気は、突発的な酸化を防止するため、不活性ガス雰囲気中で行うのが望ましい。多孔体表面に塗布もしくは含侵させる重量比率が1.0wt%未満であると、多孔体全体にCFC相が生成されず、単位断面積に占めるCFC相の断面積比が1.0%未満となり、水蒸気などの水とRの反応で発生する、水素の粒界への吸蔵が十分に抑制出来ないため、耐食性向上効果が得られない。一方、前記比率が5.5wt%より大きいと、単位断面積に占めるCFC相の断面積比が5.0%を超えてしまい、主相体積比率が低下してしまうため、残留磁束密度が低下する。このように、CFC相の断面積比の調整は、多孔体に塗布もしくは含侵させるスラリーの重量比率を変えることにより行う。
【0041】
次いで、スラリーを塗布または含侵した多孔体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結する。焼結温度は、組成、粉砕方法、平均粒子径と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、1000℃以上1200℃以下で 1時間以上8時間以下焼結する。焼結時間が1時間未満であると、緻密化が十分に行われず、焼結体密度が著しく低くなり、磁気特性に悪影響を及ぼす。また、8時間より長く焼結すると、異常粒成長が著しく進行し、磁気特性、特に保磁力に悪影響を与える。不用な拡散や粒成長を抑制するため、2段階焼結法や、SPS(放電プラズマ焼結法)、マイクロ波焼結法等を用いても良い。
【0042】
前記焼結体に不活性ガス雰囲気中で時効処理を施す。この工程は、粒界相を最適化させ、保磁力を制御する重要な工程である。時効処理を2段に分けて行なう場合には、800℃近傍、500℃近傍での所定時間の保持が有効である。800℃近傍での時効処理を焼結後に行なうと、保磁力が増大する。また、500℃近傍の時効処理で保磁力が大きく増加するため、2段階で時効処理を行うことは保磁力向上の観点から非常に有効である。
【0043】
時効処理の温度・時間は種々の条件で変化してくるため、適宜調整が必要である。例えば、1段階目の処理と2段階目の処理を連続して行わずに、間に焼結体の加工工程を入れてから、2段階目の時効処理を行ってもよい。
【0044】
以上の処理を経た焼結体は、所定寸法・形状に切断される。焼結体の表面の加工方法は特に限定されるものではないが、機械加工を行うことができる。機械的な加工としては、例えば砥石を用いた研磨処理等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
14.4at%Nd−5.8at%B−78.8at%Fe−0.5at%Al−0.5at%Cuの組成を有する多孔体用合金をストリップキャスト法により作製した。同様に、スラリー用合金を表1の組成になるように作製した。
【0047】
得られた原料合金薄片をそれぞれ水素粉砕し、原料合金薄片を600℃で1時間脱水素処理を行い、粗粉砕粉末を得た。
【0048】
得られた粗粉砕粉に、粉砕助剤としてオレイン酸アミドをそれぞれ0.10wt%添加し、ナウタミキサを用いて、窒素ガス雰囲気中で10分間混合を行った。次いで、気流式粉砕機(ジェットミル)を使用し、高圧窒素ガス雰囲気中で微粉砕を行い、前記微粉砕粉の平均粒子径がそれぞれ4.0μmである微粉砕粉を得た。
【0049】
多孔体用の微粉砕粉を窒素ガス中で磁場中成形を行った。具体的には、15kOeの磁場中で140MPaの圧力で成形を行い、20mm×18mm×13mmの成形体を得た。磁場方向はプレス方向と垂直な方向である。
【0050】
前記成形体を不活性ガスであるアルゴン雰囲気中において、850℃で60分間熱処理を行った。なお、熱処理後は、酸化を防ぐために、窒素ガス雰囲気中で取扱いを行った。
【0051】
次に、スラリー用合金の微粉砕粉を用いて、スラリーの作製を行った。前記スラリー用合金の微粉砕粉とエタノールは、スラリー中の前記スラリー用合金の微粉砕粉の重量割合が40wt%になるようにそれぞれ秤量し、ナンコー容器内に投入した。この時、ナンコー容器内は、突発的な酸化を防ぐために、Arガスで封入を行った。その後脱泡混練機により、1500rpmで3分間混合を行った。
【0052】
多孔体には、多孔体重量の0.60wt%になるようにスラリーを含侵した。本工程は、多孔体表面の酸化を防ぐために、不活性ガス雰囲気中で行った。
【0053】
スラリーが含侵された多孔体を、真空雰囲気中において、1010℃で6時間焼結した。得られた焼結磁石をArガス雰囲気中において、800℃で1時間、500℃で1時間の2段階の時効処理を行った。
【0054】
前記焼結体から、磁気特性を直流磁化測定装置(BHトレーサ)による減磁曲線の測定結果から求めた。磁気特性として残留磁束密度Brと保磁力HcJを測定した。Br及びHcJの結果を表2に示す。
【0055】
得られた焼結体をエポキシ系樹脂に樹脂埋めし、その断面を研磨した。研磨には市販の研磨紙を使い、番手の低い研磨紙から高い研磨紙へ変えながら研磨した。この際、水などをつけずに研磨を行った。水を用いると粒界成分が腐食してしまうためである。次にバフとダイヤモンド砥粒を用いて研磨した。最後にイオンミリングで、再表面の酸化膜の影響を除くために、表面を研磨した。
【0056】
単位断面積に占める粒界部分の断面積は以下のように算出した。
(1)前記研磨後の焼結体を、SEMを用いて反射電子像により焼結体中の組織を観察した。その結果、複数の相があることを確認した。それぞれの相の組成を特定するために、50μm角の領域を単位断面積と規定し、前記研磨後の断面を電子線マイクロアナリシス(Electron Probe MicroAnalysis、以降EPMAと記載)により観察し、EPMAによる元素マッピング(256点×256点)をランダムに選択した5視野に対して行った。これにより、主相結晶粒部分と粒界部分を特定した。さらに、粒界部分については、Ndリッチな粒界相、CFC相、希土類酸化物相、希土類炭化物相であることを特定した。
(2)CFC相の断面積は、EPMAにより得られた5視野それぞれの画像に対して、画像解析により算出した上で、それらの平均値として求めた。さらに、単位断面積に占めるCFC相の断面積比は、算出したCFC相の断面積を、上記(1)で定めた単位断面積で割ることにより算出した。結果を表2に示す。
【0057】
CFC相の各元素の原子濃度は、EPMAの定量分析を行うことにより求めた。1サンプルにつき5カ所の測定値の平均値をそのサンプルの原子濃度とした。αについては下記(1)式により算出した。結果を表2に示す。
α=(Ce原子濃度/(Ce原子濃度+Fe原子濃度+Co原子濃度)) (1)
【0058】
耐食性試験に使用するサンプルは、前記焼結体を13mm×8mm×2mmの板状に加工した。その後、前記板状磁石の重量を測定し、高度加速寿命試験機内で、120℃、2気圧、相対湿度100%の飽和水蒸気雰囲気中に放置した。前記板状磁石は50時間毎に重量を測定し、前記板状磁石の重量が、測定開始時点の重量から1wt%減少するまで評価を行った。結果を表2に示す。なお、1wt%減少するまでの時間が1000hrを超えているものが、耐食性に効果があると判定した。
【0059】
<実施例2〜実施例5、比較例1〜比較例3>
多孔体用合金の組成を実施例1と同様とし、スラリー用合金を表1に示すように作製し、多孔体に含侵させるスラリーの重量比率を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に焼結磁石を作製した。単位断面積に占めるCFC相の断面積比の算出、CFC相中のCo原子濃度、αの算出、磁気特性評価及び耐食性の評価は、実施例1と同様に行い、結果を表2にまとめた。
【0060】
<比較例4>
14.4at%Nd−5.8at%B−78.8at%Fe−0.5at%Al−0.5at%Cuの組成を有する焼結磁石用合金をストリップキャスト法により作製し、成形工程までは実施例1と同様に作製した。その後、真空雰囲気中において、1010℃で6時間焼結した。得られた焼結体をArガス雰囲気中において、800℃で1時間、500℃で1時間の2段階の時効処理を行い、焼結磁石を作製した。磁気特性評価及び耐食性の評価は、実施例1と同様に行い、結果を表2にまとめた。
【0061】
<比較例5>
14.4at%Nd−5.8at%B−75.0at%Fe−3.0at%Co−0.5at%Al−0.5at%Cuの組成を有する焼結磁石用合金をストリップキャスト法により作製し、成形工程までは実施例1と同様に作製した。その後、真空雰囲気中において、1010℃で6時間焼結した。得られた焼結体をArガス雰囲気中において、800℃で1時間、500℃で1時間の2段階の時効処理を行い、焼結磁石を作製した。磁気特性評価及び耐食性の評価は、実施例1と同様に行い、結果を表2にまとめた。
【0062】
実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例5を比較すると、多孔体に含侵させるスラリー比率が1.0wt%以上5.5wt%以下の範囲において、単位断面積に占めるCFC相の断面積比が1.0%以上5.0%以下となり、耐食性が高く、磁気特性も高い値を示した。単位断面積に占めるCFC相の断面積比が1.0%未満であると、水蒸気などの水とRの腐食反応で発生する水素の粒界への吸蔵が十分に抑制出来なくなり、耐食性が低かったと考えられる。一方、単位断面積に占めるCFC相の断面積比が5.0%を超えると、主相体積比率が低下するため、残留磁束密度が低下したと考えられる。また、Coを添加していないと耐食性が低く、Coを合金に添加した場合では、耐食性は向上したが、保磁力は低下した。これらの事から、従来と比して、耐食性が向上しつつ、保磁力が低くなるのを抑制出来たことが分かる。これは、粒界相中にCFC相を所定量生成させたことにより、Ce−Fe−Co金属間化合物を形成することでCoが安定化し、Coが主相中のFeと置換されていないためと考えられる。
【表1】
【表2】
【0063】
<実施例6〜実施例10、比較例6〜比較例8>
多孔体用合金の組成を実施例1と同様とし、スラリー用合金組成及び多孔体に含侵させたスラリー比率を表3に示すように変えた以外は、実施例1と同様に焼結磁石を作製した。単位断面積に占めるCFC相の断面積比の算出、CFC相中のCo原子濃度、αの算出、磁気特性評価及び耐食性の評価は、実施例1と同様に行い、結果を表4にまとめた。
【0064】
実施例6〜実施例10、比較例6〜比較例8を比較すると、CFC相中のCo原子濃度が0.5at%以上5.0at%以下の範囲で、耐食性が高く磁気特性も高い値を示した。一方、CFC相中のCo原子濃度が0.5at%未満又は5.0at%より大きいと、主相との電位差が大きく、電池反応により耐食性が低かったと考えられる。さらに、CFC相中のCo原子濃度が5.0at%より大きいと、Ce−Fe−Co金属間化合物に置換しきれなかったCoがソフト相になったために、保磁力が低下したと考えられる。
【表3】
【表4】
【0065】
<実施例11〜実施例15、比較例9〜比較例11>
多孔体用合金の組成を実施例1と同様とし、スラリー用合金組成及び多孔体に含侵させたスラリー比率を表5に示すように変えた以外は、実施例1と同様に焼結磁石を作製した。単位断面積に占めるCFC相の断面積比の算出、CFC相中のCo原子濃度、αの算出、磁気特性評価及び耐食性の評価は、実施例1と同様に行い、結果を表6にまとめた。
【0066】
実施例11〜実施例15、比較例9〜比較例11を比較すると、αが0.20以上0.35以下の範囲で、耐食性が高く磁気特性も高い値を示した。αが0.20未満、又は、αが0.35より大きいと、粒界相中に存在するCoの一部しか、Ce、Feと化合物を形成しておらず、Coが主相のFeと置換してしまう構造をとったために、保磁力が低くなったと考えられる。
【表5】
【表6】
【0067】
<実施例16>
多孔体用合金の組成を7.2at%Nd−7.2at%Y−5.8at%B−78.8at%Fe−0.5at%Al−0.5at%Cuとした以外は、実施例1と同様に多孔体を作製した。また、スラリー用合金組成及び多孔体に含侵させたスラリー比率を表7に示すように変えた以外は、実施例1と同様に焼結磁石を作製した。単位断面積に占めるCFC相の断面積比の算出、CFC相中のCo原子濃度、αの算出、磁気特性評価及び耐食性の評価は、実施例1と同様に行い、結果を表8にまとめた。
【0068】
<実施例17>
多孔体用合金の組成を7.2at%Nd−6.0at%Y−1.2at%Ce−5.8at%B−78.8at%Fe−0.5at%Al−0.5at%Cuとした以外は、実施例1と同様に多孔体を作製した。また、スラリー用合金組成及び多孔体に含侵させたスラリー比率を表7に示すように変えた以外は、実施例1と同様に焼結磁石を作製した。単位断面積に占めるCFC相の断面積比の算出、CFC相中のCo原子濃度、αの算出、磁気特性評価及び耐食性の評価は、実施例1と同様に行い、結果を表8にまとめた。
【0069】
実施例16、実施例17から、多孔体の組成のRの一部をY、Ceで置き換えた場合においても耐食性が高く磁気特性の低下も見られなかった。
【表7】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明に係るR−T−B系焼結磁石は、モータなど回転機用の磁石に用いた場合、良好なモータ性能を有しつつ、耐食性が高いことにより長期間に亘って使用する事が出来るため、モータ用のR−T−B系焼結磁石として好適である。