(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
本実施形態に係る状態判定システム(以下、システムと略記することがある)1は、ベッド3に配置される二枚で一対の生体情報計測用パネル(以下、パネルと略記することがある)10a(第1計測部),パネル10b(第2計測部)と、パネル10a,10bからの生体情報を取得して演算処理する制御装置20と、を備えている。システム1は、ベッド3に臥床している患者(被検者)Hの体動を受けるパネル10a,10bにより計測し、得られた生体情報に基づいて、被検者Hの状態を判定し、予測する。以下、パネル10a,10b、制御装置20の順に各々の内容を説明し、そのあとに、システム1の動作、機能について説明する。
【0017】
[パネル10a,10b]
パネル10a,10bは、ベッド3のマット4に寝る被検者Hの生体情報を得るものであり、マット4の上(すなわち被検者Hの下方)に配置される。なお、パネル10a,10bは、被検者Hの体動を検知できる位置に配置されていればよく、たとえばマット4の内部、ベッド3の床板3aとマット4の間などの任意の箇所に配置してもよい。
【0018】
図3を参照して、パネル10a,10bの構成を説明する。なお、パネル10aとパネル10bは、体動を計測する被検者Hの異なる部位に対応する位置に配置されることを除くと、構成は同じであるから、以下ではパネル10aを例にしてその構成を説明する。
パネル10aは、起歪板11と、起歪板11の表裏の両面を各々が覆う被覆板12,12と、被覆板12,12の周縁の全域を封止する封止材13とを主たる要素として備えている。なお、
図3(b),(c)は被覆板12,12の記載を省いている。
【0019】
起歪板11は、
図3に示すように、被検者Hの体動を受けると撓むことのできる可撓性を有する材料で構成され、例えば、長さLが400〜500mm、好ましくは450mm、幅Wが100〜200mm、好ましくは150mm、厚みTが2〜3mmを有している。起歪板11を構成する材料としては、アルミニウム等の金属材料、ガラスエポキシ等の樹脂材料を好適に用いることができる。長さLについては、ベッド3の幅の6割程度であることが好ましい。より好ましくは、被検者Hの人種、性別、大人か子供か、などの素性、あるいは、ベッド3の寸法に合せて、適切な寸法を選ぶことができる。
【0020】
起歪板11のおもて面11Fとうら面11Bには、複数の緩衝部材14a,14b,14c,14d,14eが貼り付けられている。なお、おもて面11Fは、パネル10aの使用時に、被検者Hに臨む側であることを意味する。緩衝部材14a〜14eは、ゴム、ウレタン樹脂等からなる可撓性を備える部材であり、帯状に形成されている。また、複数の緩衝部材14a〜14eは、全てが同じ幅W方向を向いて平行に配置されている。具体的には、起歪板11のおもて面11Fには、三つの緩衝部材14a,14c,14eが配設され、起歪板11のうら面11Bには、二つの緩衝部材14b,14dが配設される。おもて面11Fの三つの緩衝部材14a,14c,14eのうち、緩衝部材14cは起歪板11の長さLの中央に位置し、緩衝部材14a,14eは、長さ方向の縁からL/3の位置に配設される。また、うら面11Bの二つの緩衝部材14b,14dは、各々、緩衝部材14a,14eに対応する位置に配設される。
【0021】
緩衝部材14a〜14eは、起歪板11を十分に撓ませることで、後述するひずみ計測による所定の感度を得るために設けられる。そのために、厚さtは2〜10mm、好ましくは3〜7mmとされる。また、幅Wは起歪板11の長さLに対してL×1/10〜L×1/4、好ましくはL×1/8〜L×1/5、より好ましくはL×1/6程度とされる。
【0022】
以上で説明した緩衝部材14a〜14eの数、配置、寸法はあくまで一例にすぎず、例えば特許文献1に開示に従って緩衝部材を配置することができる。また、ひずみゲージ30a,30cが配置される部位を除いて、緩衝部材14b,14dを起歪板11と一体的に形成することもできる。
【0023】
起歪板11には、ひずみセンサ30として四つのひずみゲージ30a〜30dが取り付けられている。ひずみゲージ30a、30cは起歪板11のおもて面11Fの中央部であって、緩衝部材14cの下に幅方向に間隔を空けて貼り付けられており、ひずみゲージ30b、30dは起歪板11のおもて面11Fの中央部にひずみゲージ30a、30cと対応する位置に貼り付けられている。また、各ひずみゲージ30a〜30dは、緩衝部材14a〜14eの長手方向と直交する向きに配置されている。なお、起歪板11が樹脂材料で構成されている場合には、ひずみゲージ30a〜30dをプリント配線として形成することができる。
【0024】
ひずみゲージ30a〜30dは、
図4に示すように電気的に接続され、ブリッジ回路が形成される。このようにひずみセンサ30は4ゲージ法を採用することによって、起歪板11のひずみを四倍に増幅して計測することができる。また、ひずみゲージ30a〜30dを用いた場合、差分計算によってひずみ量を求めるので、圧電フィルムを用いた場合のようにサンプリング頻度を増やさなくても、正確な計測を行うことができる。
【0025】
ひずみセンサ30は、
図1に示すように導線31を介して無線による通信装置33に接続されており、この通信装置33によってひずみセンサ30の計測データは、制御装置20に送信することができる。
【0026】
被覆板12,12は、
図3(a)に示すように、起歪板11を覆い隠すことができる程度の大きさを有する矩形に形成され、起歪板11を表裏から挟んだ状態で被覆板12,12の周縁の全周にわたって、封止材13により封止される。これにより、一対の被覆板12,12及び封止材13により形成される空隙の内部に、緩衝部材14a〜14e及びひずみセンサ30を含めた起歪板11が収容される。
被覆板12,12は、例えば樹脂で作製することができるが、起歪板11が撓むのを妨げないようにするために、その厚さは起歪板11よりも薄く設定されることが好ましい。
なお、緩衝部材14a〜14eを備えるパネル10a,10bは、パネル10a,10bにひずみを生じさせる上で好ましいものであるが、本発明はこれに限定されるものでなく、体動を精度よく計測できる計測手段を広く適用することができる。
【0027】
本発明に適用できる他のパネル110a(110b)を、
図5を参照して説明する。なお、
図3に示したパネル10a(10b)と同じ構成要素には、
図3と同じ符号を
図5に付している。また、
図5は、被覆板12,12及び封止材13の記載を省いている。
パネル110aは、緩衝部材14a〜14dの配置と、支持体15a〜15cの設置と、二組のひずみセンサ30を備えることが、パネル10aと相違しており、以下では、この相違点を中心に説明する。
パネル110aは、起歪板11のおもて面11Fに、四つの緩衝部材14a,14b,14c,14dが配設されている。緩衝部材14a,14dは、長さ方向の両端の近傍に設けられ、緩衝部材14b,14cは、長さ方向の縁からL/3の位置に配設される。長さ方向の内側に配置される緩衝部材14b,14cは、緩衝部材14a,14dよりも幅が大きく設定されている。これにより、ひずみゲージ30a〜30dを貼り付けている周辺が最もひずみの感度が高いので、緩衝部材14b,14cでその部分を覆い隠すことによって、精度の高いひずみ値を得ることができる。
【0028】
起歪板11のうら面11Bには、三つの支持体15a,15b,15cが配設されている。支持体15a〜15cは、緩衝部材14a〜14dに比べて、剛体とみなしうる素材で構成されることが好ましい。後述するように、支持体15a〜15cは、起歪板11を支持して撓みを生じさせるためのものだからである。
支持体15a〜15cは、全てが同じ幅W方向を向いて平行に配置されており、一対の支持体15a,15c(外側支持体)は、うら面11Bの長さL方向を基準にして、左右の両端に近い領域に設けられ、支持体15b(内側支持体)は、長さL方向の中央に設けられている。なお、長さL方向は、パネル110a,110bがベッド3に配置されると、被検者Hの幅方向と一致する。
また、支持体15bは、支持体15a,15cに比べて、うら面11Bからの突出高さが低く、具体的には、突出高さは1/2程度である。
支持体15a〜15cを以上のように構成する理由については、ひずみセンサ30の構成を説明した後に行う。
【0029】
次に、パネル110aは、二組のひずみセンサ30A,30Bを備える。なお、先に説明したパネル10aは、ひずみセンサ30を一組だけ備えている。ひずみセンサ30A(第1計測要素)とひずみセンサ30B(第2計測要素)は、長さ方向Lの中央を基準にして、左右の両側に所定の間隔をあけて配置される。
ひずみセンサ30A,30Bは、それぞれが、上述したひずみセンサ30と同様に、四つのひずみゲージ30a〜30dを備えている。それぞれのひずみゲージ30a、30cは起歪板11のおもて面11Fであって、緩衝部材14b,14cに覆われながら、起歪板11に貼り付けられている。また、ひずみゲージ30b、30dは起歪板11のうら面11Bのひずみゲージ30a、30cと対応する位置に貼り付けられている。
なお、前述したとおりに、ひずみゲージ30a〜30dは、ブリッジ回路を形成する。また、ひずみセンサ30A,30Bは、無線による通信装置33に接続されており、この通信装置33によってひずみセンサ30の計測データは、制御装置20に送信することができる。
【0030】
パネル110a,110bは、以上のように二組のひずみセンサ30A、30Bを備えることにより、長さL方向の中央を境にして、左右の体動を独立して計測することができる。例えば、被検者Hがベッド3の左側又は右側に偏っていたとしても、センサ30A、30Bのいずれかで、体動を正確に計測できる。
【0031】
この計測の精度を高くするために、うら面11Bの中央に設けられる支持体15bは、支持体15a,15cに比べて、突出高さを低くしている。つまり、パネル110aは、ベッド3に臥床している患者(被検者)Hの体動に基づく変位(ひずみ)を計測するものであるから、梁として機能するものと認められる。
図6(a)にモデル化して示すパネル110aは、
図6(b)の矢印F
Cで示される荷重を受けると、支持体15a,15cを支持点として下向きに撓む。撓みが所定量に達して、
図6(b)に示すように、中央の支持体15bがベッド3の床面3bに達すると、今度は、支持体15aと支持体15bの間と、支持体15bと支持体15cの間に、梁がそれぞれ構成されることになり、
図6(c),(d)に示すように、荷重F
L,F
Rの位置に応じて、左右の梁がそれぞれ撓むことになる。
以上のように、パネル110aは、中央の支持体15bがベッド3の床面に達するまでの第一段階の撓みに、支持体15aと支持体15bの間、又は、支持体15bと支持体15cの間の第二段階の撓みが加えられる。したがって、パネル110aの全体としての撓み量を大きくできるので、左右独立した体動の計測精度が高くなる。
また、
図6(e)に示すように、梁があることでパネル110aの支持体15cよりも張り出している端の部分に荷重F
Rがかかってもパネル110aが撓む。このことで体動を検知できる範囲を広くすることができる。
【0032】
図5に示したパネル110aは、中央の支持体15bを一つだけ設けているが、上述した第一段階の撓み及び第二段階の撓みが得られるのであれば、これに限定されず、支持体15bを二つに分けて設けてもよい。また、支持体15a,15cの寸法、形状及び配置位置についても同様である。つまり、第一段階の撓み及び第二段階の撓みが得られる限り、支持体15a,15b,15cの寸法、形状及び配置位置は任意である。
【0033】
[制御装置20]
図1に戻り、制御装置20は、ベッド3と離れた位置、たとえば病院・介護施設のナースステーションに設けられており、通信装置33を介して制御装置20に計測された生体情報に関するデータ(以下、計測データ)が送信される。この制御装置20は計測データを取得すると、その計測データに基づいて被検者Hの状態、たとえば、起上り、離床を判定する。
図1では、一人の被検者Hに対応して一台の制御装置20だけを示しているが、病院・介護施設においては、複数の被検者H(各々を、H1,H2…Hnとする)に一台の制御装置20を対応させることができる。
また、本実施形態は、二枚のパネル10a,10bを備えているので、各々が備えるひずみセンサ30から個別に計測データが送信される。そして、パネル10a(第1計測部)は被検者Hの肩に対応する位置(第1部位)に配置され、パネル10b(第2計測部)は被検者Hの腰に対応する位置(第2部位)に配置される。以下では、パネル10aのひずみセンサ30から送信される計測データを肩部データとし、また、パネル10aのひずみセンサ30から送信される計測データを腰部データとし、さらに、肩部データから求められるひずみを肩部ひずみとし、腰部データから求められるひずみを腰部ひずみとする。
【0034】
制御装置20は、以上の判断を行うために、
図2に示すように、データ送・受信部21と、種々のデータを記憶する記憶部23と、演算処理部25と、表示部27と、入力部29と、を備えている。
データ送・受信部21は、ひずみセンサ30から計測データを受信する機能と、判定及び予測の結果を携帯端末28に送信する機能を備えている。
記憶部23は、ひずみセンサ30から送られてくる計測データを、被検者H(H1,H2,…Hn)ごとに逐次記憶する。また、記憶部23は、被検者H(H1,H2,…Hn)ごとに、マスタ情報を記憶している。マスタ情報については、後述する。また、記憶部23は、演算処理部25が必要な処理・操作を行うために必要なプログラムを記憶している。
演算処理部25は、記憶部23に逐次記憶される計測データを読み込んで、被検者Hの状態を判定するとともに、判定した結果を表示部27に表示させる。表示部27は、例えば、LCD(液晶ディスプレイ)からなる。また、演算処理部25は、判断した結果を、データ送・受信部21を介して、携帯端末28に送信することもできる。携帯端末28もLCD(液晶ディスプレイ)などからなる表示部を備える。
表示部27及び携帯端末28は、演算処理部25からの判定結果を、文字などの画像情報として表示させる。また、画像情報に限らず、音声情報として判定結果を示すこともできる。
入力部29は、典型的にはコンピュータのキーボードからなり、たとえば、各被検者H1,H2,…Hnを識別するデータ(例えば、氏名、性別、年齢、病状等)を入力することができる。
【0035】
[第一実験例]
次に、臥床している被検者Hについて体動を実際に計測した例を示す
図7を参照しながら、システム1の動作を説明する。なお、この第一実験例1は、パネル10a,10bを用いて行われたものである。また、計測のサンプリング周期は1Hzである。
図7は、肩部ひずみ及び腰部ひずみの経時変化とともに、腰部データから検出された1分間あたりの体動回数を示している。
図7において、肩部ひずみが変動すると被検者H1の肩まわりが動くことを示し、腰部ひずみが変動すると被検者Hの腰まわりが動くことを示している。
【0036】
図7において、6:14:28の時刻に肩部ひずみ(破線で示す)が急峻に落ち込むとともに、これ以降は、肩部ひずみに実質的な変動はない。演算処理部25は、この肩部ひずみの変動に基づいて、被検者H1が起上ったものと判定する。さらに時刻が6:22:41まで進むと、腰部ひずみ(実線で示す)が急峻に落ち込むとともに、これ以降は、腰部ひずみに実質的な変動はない。そこで、演算処理部25は、被検者Hが離床したものと判定する。この離床の判定は、看護記録による離床と時刻が一致している。
以上の起上りと離床の判断は、被検者Hが離床する場合に、起き上がると肩がベッド3から離れ、次いで、離床すると腰がベッド3から離れる、という過程を経ることに基づいている。
【0037】
次に、
図7において、体動回数(実線)に着目する。
ここで、人の睡眠は、眠りの深いノンレム睡眠と眠りの浅いレム睡眠に大きく分けられる。睡眠中の体動の出現は睡眠段階と連動しており、体動の出現頻度はレム睡眠では多く、ノンレム睡眠では少なくなる。したがって、臥床中の体動を検出することで、起き上がるであろうことを予測することができる。
そこで、本実施形態では、腰部ひずみから体動回数を求め、起上りの時期を予測することにした。具体的には、1分間あたりの体動回数が10回に達すると、それ以降に起き上がるものと予測する。
図7の例では、6:14:01の時刻に体動回数が10回に達したので、以降に起き上るものと予測する。この被検者Hの場合には、起き上がるのを予測した時刻から約60分後に上体を起こし、さらにその約8分後に離床している。この時間には個人差があるものの、被検者Hが同じであれば、起上りを予測したときから起き上がるまでに要する時間、及び、離床するまでに要する時間には、傾向がみられる。したがって、被検者H1を特定すれば、起上りの時刻、及び、離床の時刻を予測することもできる。例えば、マスタデータとして、記憶部23に、被検者H1の起上りを予測したときから上体を起こしまでに要する時間Xと、被検者H1の起上りを予測したときから離床するまでに要する時間Yを記憶しておき、起上りの予測がなされたならば、予測された時刻に時間Xを加算した時刻を起上りの予測時刻と、また、実際に起き上がる時刻に時間Yを加算した時刻を離床の予測時刻とすることができる。
被検者H1の起上りを予測したこと、起上りの予測時刻及び離床の予測時刻は、表示部27、携帯端末28に画像情報、音声情報などとして示すことができる。
【0038】
次に、
図8は別の被検者H2についてのものであるが、23:28:30の時刻に、体動回数が10回に達したので、起上りを予測する。被検者H2の場合は、被検者H1とは異なり、起上りを明確に特定できる肩部ひずみの変動がみられず、23:58:46の時刻に、肩部ひずみ及び腰部ひずみの両者が落ち込み、その後は実質的な体動が観察されない。したがって、被検者H2は、上体を起こしてからほとんど時間を空けずに離床している。このことは、被検者H2が被検者H1に比べて体力、特に筋力が勝ることを示唆している。したがって、離床を予測するには、被検者Hに対応した条件を定めることが好ましい。
【0039】
以上説明したように、本実施形態によると、体動回数、換言すると計測データの変動回数に基づいて起上りを予測することができるので、被検者Hが離床時にベッドから転落又は転倒するのを未然に防止することができる。
また、本実施形態によると、異なる部位に配置される二つのパネル10a,パネル10bからの計測情報を対比するので、起上り及び離床をより確実に判定し、予測することができる。
【0040】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、本実施形態では、腰部データの体動回数に基づいて起上りを判定及び予測したが、肩部データの体動回数に基づいて起上りの判定及び予測をすることができる。また、腰部データの体動回数と肩部データの体動回数の両方が各々について予め設定するしきい値に達した場合に起上りの判定及び予測の判断をすることもできる。さらに、本実施形態では、しきい値を10回としているが、これはあくまで一例であり、例えば、被検者Hごとにこのしきい値を設定することができる。
本実施形態では、二枚のパネル10a,10bを用いたが、外観上は一体のパネルに、間隔をあけて二つのひずみセンサを取り付けてもよい。二枚のパネル10a,10bを用いると、パネル10aとパネル10bの間隔が使用中にずれる恐れがあるが、外観上は一体のパネルだと、使用中に二つのひずみセンサの間隔を継続的に維持することができる。
【0041】
[第二実験例]
次に、パネル110a,110bを用いて、被検者H3について実際に臥床して体動を計測した例を、
図9〜
図11を参照して説明する。被検者H3は、体重47kg、身長167cmの23歳の男性である。
【0042】
はじめに、
図9(a)は、判定結果を折れ線グラフで示している。例えば、被検者H3は、時間x1,x2及びx3には「離床」と、また、時間y1,y2及びy3には「起上り」、と判定されている。「離床」と「起上り」以外は、「睡眠(臥床)」の判定となる。なお、離床の前提として、起上りが先行して判定される。また、パネル110aは肩部データを計測し、パネル110bは腰部データを計測する。パネル110aにおいて、ひずみセンサ30Aが右側(右肩)を、また、ひずみセンサ30Bが左側(左肩)を受け持ち、パネル110bにおいて、ひずみセンサ30Aが右側(右腰)を、また、ひずみセンサ30Bが左側(左腰)を受け持つ。
図9(b)に、実測された肩部データと腰部データを示している。
パネル110aで計測され肩部データ及びパネル110bで計測された腰部データは、制御装置20のデータ送・受信部21を介して記憶部23に転送後に、記憶され、さらに、演算処理部25は、記憶部23に記憶された肩部データ及び腰部データを取得して、必要な演算処理を行う。
以上の判定のための計測・データ処理とは別に、被検者H3が就寝する様子をビデオカメラで撮影した。その結果を、
図9(a)の上段に楕円のマークとして示しているが、判定結果が撮影して得られた真の被検者H3の状態と一致していることが確認された。
【0043】
以上の判定結果は、例えば
図10に示すように、表示部27、携帯端末28に表示させることができる。
図10は、ベッド3の上にモデル化した被検者H3を表示させるものであるが、(a)〜(c)の順に、「睡眠中」、「起上り」、「離床」を表している。このようにモデル化した被検者H3の状態を表示させることにより、ケアスタッフは、被検者H3の状態を視覚的に容易に認識できる。
この判定結果の表示には、「左肩」のひずみ値、「右肩」のひずみ値、「左腰」のひずみ値及び「右肩」のひずみ値を合せて示している。
図10(a)の睡眠中の判定結果において、「左肩」のひずみ値が18及び「右肩」のひずみ値が48であり、「左腰」のひずみ値が13及び「右肩」のひずみ値が36であるから、被検者H3は、体の左側を下に傾けて睡眠していることを示している。
以上の判定結果及び表示部27に表示されるひずみ値は、
図9(b)に示す計測データを利用して求められる。以下、
図11を参照して説明する。
【0044】
図11(b)は、「睡眠中」、「起上り」、「離床」の判定結果を得るための、制御装置20の演算処理部25における処理内容を示している。この処理は、被検者H3が、ベッド3に乗る前からのひずみの変化量Δεが、予め定められたしきい値の範囲内に入るか否かを判定するというものである。
図11(b)において、ひずみ変化量Δεが0(ゼロ)近傍で推移している部分が、被検者H3がベッド3に乗る前であることを示している。
また、
図11(b)において、しきい値は−T1と+T1が設定され、ひずみ変化量Δεが、−T1〜+T1の範囲に含まれると、「起上り」又は「離床」と判定される。より具体的には、「起上り」は、「左肩」のひずみ変化量Δε及び「右肩」のひずみ変化量Δεが、−T1〜+T1の範囲内に含まれることが判定の条件になる。また、「離床」は、「起上り」の条件に加えて、「左腰」のひずみ変化量Δε及び「右腰」のひずみ変化量Δεが、−T1〜+T1の範囲内に含まれるすことが判定の条件になる。なお、いずれか一方のひずみ変化量がしきい値の範囲に含まれても、「起上り」又は「離床」の判定はなされない。
【0045】
次に、表示部27に表示されるひずみ値は、計測データから
図11(c)に示すように、差分値データVdを生成して得ることができる。
差分値データVdは、「左肩」、「右肩」、「左腰」及び「右腰」のそれぞれについて生成され、その値が
図10に示したように表示部27,携帯端末28に表示される。なお、ここでいう差分値データVdとは、時間的に隣接する前後の計測データの差分値であり、後続の計測データと先行する計測データの差で与えられる。この差分値は、体動変化の程度を示す。
【0046】
次に、パネル110a,110bを用いて、被検者H3とは年齢及び性別が異なる被検者H4について同様に体動を計測した例を、
図12を参照して説明する。この計測においては、状態判定を行うのに加えて、起上りの予測を行い、その中で、ケアスタッフに対して通知する警告(アラーム)を発することの指示として扱う。なお、被検者H4は、体重46kg、身長140cmの95歳の女性である。
【0047】
はじめに、
図12(a)の状態判定結果は、被検者H3のときと同様にして求められたものである。
次に、
図12(b)は起上りの予測結果を折れ線グラフで示している。例えば、被検者H4の場合には、z1,z2及びz3には被検者H4が起き上がるものと予測を確定し、この場合には、「警告(アラーム)」を発することにする。「警告」以外は、「予測中」と「待機中」に段階的に区分される。
図12(b)に示される起上りの予測は、
図12(c)に示される、差分値の加算値データから求められる。ここでは差分値データ自体の掲載は省略するが、
図11(c)について示したのと同様に、計測データから求められる。
図12(c)に示されるように、しきい値T2を予め設定し、差分値の加算値データこのがしきい値T2を超えると、被検者H4が起き上がるものと予測し、警告状態とする。以下、
図13〜
図16を参照して、より詳しい予測方法を説明する。
ここで、本発明者らの検討によると、人は眠りが浅くなると臥床中でも手足を動かすなどの体動が出現する。また、起上り前には必ず予備動作が出現する。臥床状態での体動変化を、差分値の加算値データという数値として表現することで、起上りや離床の予測を可能にする。
【0048】
はじめに、
図13を参照して、起上り予測を行うための処理手順を説明する。なお、前提として、パネル110aにより肩部データを連続的に取得し、パネル110bにより腰部データを連続的に取得しているものとする。
ベッド3に荷重がかかった後に、所定時間(待機時間)、例えば10分間、被検者H(この実験例では被検者H4)の明確な体動が計測されない状態が続いた場合に限り、起上り予測の処理が開始される(
図13 S101 Y)。これは、睡眠のために被検者Hがベッド3に乗った当初には、未だ被検者Hが起上りに近い動作を繰り返すことがあり、この段階で起上り予測の処理を開始すると、無用な警告を乱発しかねないためである。一方で、10分間にわたって明確な体動が計測されなければ、被検者Hは睡眠についたものと推測できるからであり、一度睡眠についた被検者Hが起き上がるのを予測しようというのが、本発明の起上り予測の主旨である。
【0049】
なお、明確な体動が計測されるか否かは、肩部データ及び腰部データを取得する制御装置20の演算処理部25が、その振れ幅に基づいて判定することができる。この振れ幅には個人差があるために、被検者Hごとに振れ幅を設定することができる。また、一例として10分とした待機時間も個人差があるので、被検者Hごとに待機時間を設定することができる。
【0050】
次に、起上り予測が開始されると、演算処理部25は、逐次取得する計測データである肩部データ及び腰部データを用いて、差分値を求めるとともに、所定時間(加算時間)分、例えば10秒間分の差分値を加算する(
図13 S103)。なお、この差分値の加算は、継続的に行われる。
演算処理部25は、こうして得られた積分値と予め定められたしきい値T2とを比較し(
図13 S105)、積分値がしきい値T2を超えると(
図13 S105 Y)、当該被検者H4が起き上がるものと予測するとともに、表示部27に当該被検者H4が起き上がることを警告する情報を表示部27及び携帯端末28に表示するように指示する(
図13 S107)。この表示は、画像情報に留まらず、警告音を伴うこともできるし、携帯端末28の場合には、振動(バイブレーション)を伴うこともできる。また、携帯端末28を対象とする場合には、複数存在する携帯端末28,28…の中で、被検者H4を担当するケアスタッフが所有する携帯端末28だけに、警告情報を表示するように指示することもできる。
【0051】
演算処理部25は、被検者H4について起上り予測及び警告の指示を行った後に、以下の二つの条件のいずれかを満たすと、警告を停止する(
図13 S109)。
一つ目の条件(条件A)は、演算処理部25が行う状態判定において、起上りの判定結果が得られた場合である。これは、起上りの判定結果が得られてしまうと、もはや起上りの予測を利用することがなくなり、また、起上りの予測に代えて、起上りの判定結果を、表示部27及び携帯端末28を通じて通知することがケアスタッフにとって有用だからである。
二つ目の条件(条件B)は、演算処理部25が行う状態判定において、睡眠の判定が得られ、かつ、この状態が所定時間、例えば10分間継続された場合である。これは、被検者H4が一旦は起き上がったとしても、その後に睡眠に至った場合には、離床の危険性がなくなったものとみなせるからである。
なお、以上の二つの条件はあくまで一例にすぎず、他の条件、例えば、携帯端末28を所有するケアスタッフから、当該携帯端末28を通じて、警告を停止する旨の指示が制御装置20に対してなされる(アンサーバック)場合である。当該ケアスタッフが、被検者H4の傍まで駆けつけて、被検者H4をケアできる状態にあれば、以後の警告は必要なくなるからである。
【0052】
以上の一連の起上り予測の処理手順は、状態判定が停止されるまで、継続して行われるが、この処理手順が、
図12に示した例で、どのように反映されるのかを、
図14を参照して説明する。なお、
図14は、(a)〜(c)は
図12と同じであるが、(d)は計測データ(肩部テータ及び腰部データ)を示している。
ベッド3に乗ってから10分間は被検者H4の体動が計測されなかったので(
図14(d)のTwの範囲)、予測処理を開始する(
図14(b)の点S)。予測処理を開始してから、差分値の加算値がしきい値T2を超えたので、一度目の警告を発する(
図14(b)の1st)が、状態判定が起上り(
図14(a))であるために、一度目の警告を停止する(
図14(b)のstop1)。この場合、予測処理も停止し、待機状態になる。
その後に二度目の警告を発する(
図14(b)の2nd)、睡眠の状態判定が10分間継続したので(
図14(a))、二度目の警告を停止する(
図14(b)のstop2)。この場合、予測処理自体は継続している。
【0053】
以上と同様に被検者H4に対して、起床するまでの間に、判定及び予測を行ったこの例の場合には、10回の警告、つまり起上り予測が、また、6回の離床に至る起上りの判定がなされた。その結果として、起上り予測は、起上り判定の前になされていることが確認された。
【0054】
被検者H4について行った、微視的な観察の結果を
図15に示している。なお、
図15は、
図14の中から、起上り判定がなされた1分前以上の特定範囲の時刻を抜粋したものである。
図15に示すように、起上り判定のおよそ1分前から、計測データ(ひずみ量)及び差分値の加算値(10秒間,腰部データによる)ともに、それ以前に比べて顕著な値の変動が観察される。この変動を捉えることにより、確率の高い起上り予測を実現できる。
【0055】
ここで、
図15に示した腰部データは、継続的に記憶部23に記憶した腰部データから、一部を抜き出したものである。このデータの抜き出しは、起上り判定の結果を、計測データ(肩部データと腰部データ)と関連付けて記憶部23に記憶することにより容易になる。より具体的な例としては、記憶部23において、継続的に記憶する計測データに起上り判定の結果を関連付けて記憶する一方、起上り判定がなされた時刻の限られた範囲の肩部データと腰部データを、継続的なデータ群とは異なる他のデータ群として記憶させることができる。この関連付けるとは、起上り判定をした時刻と同じ時刻の計測データにひも付けることをいう。
【0056】
例えば、被検者Hごとに、起上り判定の傾向を学習する場合には、睡眠判定に属する計測データ(肩部データと腰部データ)は、利用価値が小さい。一方で、継続的に記憶された計測データから、起上り判定に対応する部分を迅速に抽出できれば、学習の効率を上げることができる。そのために、起上り判定がなされた時刻の限られた範囲の計測データを、抜き出して記憶することは極めて有効である。なお、起上り判定に加えて、離床判定及び起上り予測についても、同様に扱うことが好ましいことは言うまでもない。
【0057】
また、計測データ、判定及び予測に関するデータに加えて、ケアデータを関連付けて記憶することができる。
ケアデータとしては、ケアスタッフが当該被検者に接近した記録、さらには、看護記録、介護記録が該当する。ケアスタッフが当該被検者に接近した記録は、例えば、被検者の近くにレーザ測域センサを設けておき、これによりケアスタッフが接近したことを自動的に検知し、この検知結果を計測データに関連付けて記憶することができる。
【0058】
以上、本発明を好ましい形態に基づいて説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、被検者Hの体動を受ける計測要素として、ひずみゲージを用いた例を示したが、外力を受けたのを電気的な信号に変換できる計測要素を広く適用することができる。この例として、圧電素子、光ファイバを用いた圧力センサ、導電性を用いた圧力センサ、加速度センサ、静電容量方式による圧力センサ(タッチパネル)などが掲げられる。