特許第6468520号(P6468520)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6468520-医療用検査装置及び細胞検査方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6468520
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】医療用検査装置及び細胞検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20190204BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   G01N33/48 T
   G01N37/00 101
   G01N33/48 M
   G01N33/48 C
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-161309(P2016-161309)
(22)【出願日】2016年8月19日
(65)【公開番号】特開2017-203763(P2017-203763A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2017年10月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-93936(P2016-93936)
(32)【優先日】2016年5月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】皆川 康久
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
(72)【発明者】
【氏名】干場 隆志
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 智和
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−514674(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/051033(WO,A1)
【文献】 特開2008−076306(JP,A)
【文献】 特開2001−137613(JP,A)
【文献】 特開2012−178539(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/077695(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー部を備えた流路部を有する医療用検査装置であって、
前記流路部の内面の少なくとも一部に、膜厚2〜200nmの親水性ポリマー層が形成され、
前記親水性ポリマー層は、アルコキシアルキルアクリレート及びアルコキシアルキルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種の単独重合体及び/又は共重合体により形成されている血中循環腫瘍細胞の捕捉に用いられる医療用検査装置。
【請求項2】
前記流路部は、アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、カーボネート樹脂、及びスチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の素材で構成されるものである請求項1記載の医療用検査装置。
【請求項3】
前記流路部の内面の少なくとも一部は、水の接触角が25〜65度である請求項1又は2記載の医療用検査装置。
【請求項4】
前記流路部の内面に、前記親水性ポリマー層の他、水の接触角が0〜20度の超親水性ポリマー層が形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の医療用検査装置。
【請求項5】
前記超親水性ポリマー層は、ベタイン系ポリマーにより形成されている請求項4記載の医療用検査装置。
【請求項6】
更に、細胞選別用フィルター構造、ピラー構造又はディッシュ構造(皿状のへこみ構造)を有する請求項1〜5のいずれかに記載の医療用検査装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の医療用検査装置を用いて捕捉した血液又は体液中の血中循環腫瘍細胞を調べる細胞検査方法。
【請求項8】
前記医療用検査装置の流路部に、血小板及び赤血球を除去した血液を導入する請求項7記載の細胞検査方法。
【請求項9】
血小板及び赤血球の除去を遠心分離法で行う請求項8記載の細胞検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液及び体液中の特定の細胞(血球細胞、血液・体液中に存在するがん細胞等)を捕捉できる医療用検査装置及び細胞検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞が発生するとやがて、血液・体液中に出て来ることが知られており、血液中に出て来たがん細胞は、血中循環腫瘍細胞(CTC)と呼ばれている。そして、この血中循環腫瘍細胞を調べることによるがんの治療効果の確認、予後寿命、投与前の抗がん剤の効果予測、がん細胞の遺伝子解析を用いた治療方法の検討、等が期待されている。
【0003】
しかしながら、血中循環腫瘍細胞は非常に数が少なく(数個〜数百個/血液1mL)、がん細胞を捕捉することが難しいという問題がある。
【0004】
例えば、血中循環腫瘍細胞の捕捉技術として、Cell Searchシステムと呼ばれるものが知られているが、これは、抗原抗体反応(EpCAM抗体で捕捉)を用いる技術であるため、EpCAMを発現しているがん細胞しか捕捉できず、補足可能ながん細胞の種類に制限がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−523981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、EpCAMを発現していないがん細胞も含め、多くのがん細胞を捕捉できる医療用検査装置及び細胞検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、チャンバー部を備えた流路部を有する医療用検査装置であって、前記流路部の内面の少なくとも一部に、膜厚2〜200nmの親水性ポリマー層が形成されている医療用検査装置に関する。
【0008】
前記親水性ポリマーは、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリロイルモルホリン、ポリメタクリロイルモルホリン、ポリアクリルアミド、及びポリメタクリルアミドからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
前記親水性ポリマーは、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロイルモルホリン、メタクリロイルモルホリン、アクリルアミド、及びメタクリルアミドからなる群より選択される少なくとも1種の親水性モノマーと、他のモノマーとの共重合体であることが好ましい。
【0010】
前記流路部は、アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、カーボネート樹脂、及びスチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の素材で構成されるものであることが好ましい。
前記流路部の内面の少なくとも一部は、水の接触角が25〜65度であることが好ましい。
【0011】
前記流路部の内面に、前記親水性ポリマー層の他、超親水性ポリマー層が形成されていることが好ましい。
前記超親水性ポリマー層は、ベタイン系ポリマーにより形成されていることが好ましい。
【0012】
前記医療用検査装置は、更に、細胞選別用フィルター構造、ピラー構造又はディッシュ構造(皿状のへこみ構造)を有するものであることが好ましい。
【0013】
本発明は、前述の医療用検査装置を用いて捕捉した血液又は体液中の細胞を調べる細胞検査方法に関する。ここで、前記医療用検査装置の流路部に、血小板及び赤血球を除去した血液を導入することが好ましい。また、血小板及び赤血球の除去を遠心分離法で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、チャンバー部を備えた流路部を有する医療用検査装置であって、前記流路部の内面の少なくとも一部に、膜厚2〜200nmの親水性ポリマー層が形成されている医療用検査装置であるため、EpCAMを発現していないがん細胞も含め、多くのがん細胞を捕捉できる。そのため、例えば、血液・体液中からがん細胞等の特定細胞を充分に捕捉でき、また、同時に他のタンパク質や細胞の粘着・接着も抑制できる。従って、がん細胞等を選択的に捕捉することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】チャンバー部を備えた流路部の模式図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、チャンバー部を備えた流路部を有する医療用検査装置であって、前記流路部の内面の少なくとも一部に、膜厚2〜200nmの親水性ポリマー層が形成されている医療用検査装置である。
【0017】
本発明の医療用検査装置は、チャンバー部を含む流路部を有し、かつその流路部の内面に特定膜厚の親水性ポリマー層が形成されている。そのため、流路部内面に親水性ポリマー層を形成しないケース、流路部内面に厚い親水性ポリマー層が形成されているケース等に比べ、がん細胞等の特定細胞の捕捉性が大きく向上すると共に、血小板等の捕捉性が低下し、当該ケースでは、到底発揮し得ない特定細胞の選択的な捕捉効果を奏する。
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態の一例を、図を用いて説明する。
図1は、本発明の医療用検査装置1の模式図の一例である。医療用検査装置1は、流路部11を備え、該流路部11内にチャンバー部12を有している。流路部11の内面の全部又は一部に、親水性ポリマー層(図示せず)が形成(被覆)されている。なお、少なくともチャンバー部12の内面の全部又は一部(好ましくは全部)に親水性ポリマー層が形成されていることが好適である。
【0019】
流路部11内に、血液や体液を導入すると、これらに含まれるがん細胞等の特定細胞が親水性ポリマー層に吸着されると共に、血小板、赤血球等の吸着が抑制される。そのため、血液や体液の導入後に所定時間保持し、次いで、流路部11の外部に排出させることで、がん細胞等を親水性ポリマー層に吸着できる。そして、吸着されたがん細胞等の特定細胞の数を測定することで、血液や体液中の特定細胞数が判り、がん治療効果の確認等が期待される。
【0020】
流路部11の構成材料としては、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のアクリル樹脂(ポリアクリル樹脂)、シクロオレフィン樹脂(ポリシクロオレフィン)、カーボネート樹脂(ポリカーボネート)、スチレン樹脂(ポリスチレン)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0021】
流路部11の長さL11(流れ方向)、チャンバー部12以外の流路部11の幅R11(平均)は、導入するものに応じて適宜設定すれば良い。例えば、血液や体液を導入してがん細胞等を選択的に吸着させる場合、R11は、0.1〜5mmが好ましく、0.2〜3mmがより好ましい。
【0022】
チャンバー部12の形状(三次元形状、略二次元形状(袋状)、等)、大きさ等は、導入するものに応じて適宜設定すれば良い。
【0023】
親水性ポリマー層(親水性ポリマーにより形成される層)の膜厚は、2〜200nm、好ましくは2〜100nm、より好ましくは2〜50nm、更に好ましくは2〜30nmである。2nm未満であると、良好なタンパク質や細胞に対する低吸着性、がん細胞に対する選択的吸着性・接着性が得られない傾向がある。200nmを超えると、タンパク質や細胞に対する低吸着性、がん細胞に対する選択的吸着性・接着性が低下する傾向がある。
【0024】
親水性ポリマーは、親水性を有するものを適宜選択できる。特に、水の接触角が25〜65度のポリマー層を形成できるものを好適に使用できる。例えば、1種又は2種以上の親水性モノマーの単独重合体及び共重合体、1種又は2種以上の親水性モノマーと他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。具体的には、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリロイルモルホリン、ポリメタクリロイルモルホリン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド等が挙げられる。
【0025】
親水性モノマーは、親水性基を有する各種モノマーを使用できる。親水性基は、例えば、アミド基、硫酸基、スルホン酸基、カルボン酸基、水酸基、アミノ基、アミド基、オキシエチレン基等、公知の親水性基が挙げられる。
【0026】
親水性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリルアミド、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体((メタ)アクリロイルモルホリン等)、などが挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロイルモルホリンが好ましく、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、2−メトキシエチルアクリレートが特に好ましい。
【0027】
他のモノマーは、親水性ポリマーの作用効果を阻害しない範囲内で適宜選択すれば良い。例えば、スチレン等の芳香族モノマー、酢酸ビニル、温度応答性を付与できるN−イソプロピルアクリルアミドなどが挙げられる。
【0028】
本発明の医療用検査装置は、前記流路部の内面に、前記親水性ポリマー層の他、超親水性ポリマー層が形成されているものが好ましい。この場合、がん細胞等の特定細胞が親水性ポリマー層に吸着されると共に、血小板、赤血球等が超親水性ポリマー層に吸着が抑制され、優れた特定細胞の選択的な捕捉効果が発揮される。
【0029】
前記超親水性ポリマー層は、超親水性を付与できるものであれば特に限定されず、ベタイン系ポリマーにより形成されているもの、等を使用できる。ベタイン系ポリマーとしては、ベタイン系モノマーの重合体、ベタイン系モノマーとベタイン系モノマー以外のモノマーとの重合体、等が挙げられる。
【0030】
ベタイン系モノマーとして、カルボキシベタイン、スルホベタイン、ホスホベタインなどを好適に使用できる。ベタイン系モノマー以外のモノマーは、超親水性ポリマー層の作用効果を阻害しない範囲内で適宜選択すれば良い。例えば、前記親水性モノマー及び他のモノマーで列挙されている化合物、等が挙げられる。なかでも、ブチルメタクリレートが好ましい。
【0031】
本発明の医療用検査装置は、例えば、図1で示される流路部11の内面の全部又は一部に、親水性ポリマー層を形成することで流路部を作製し、更に必要に応じて他の部材(部品)を付加することにより、製造できる。
【0032】
具体的には、(1)親水性ポリマーを各種溶剤に溶解・分散した親水性ポリマー溶液・分散液を、流路部11の内部に注入し、所定時間保持する方法、(2)該親水性ポリマー溶液・分散液を流路部11の内面に塗工(噴霧)する方法、等、公知の手法により、流路部11の内面の全部又は一部に親水性ポリマー溶液・分散液をコーティングすることで、親水性ポリマーにより形成されるポリマー層を形成できる。そして、得られた流路部に、必要に応じて他の部品を追加することで、医療用検査装置を製造できる。
【0033】
溶剤、注入方法、塗工(噴霧)方法などは、従来公知の材料及び方法を適用できる。
(1)、(2)の保持時間は、流路部11の大きさ、導入する液種、等により適宜設定すれば良いが、5分〜10時間が好ましく、10分〜5時間がより好ましく、15分〜2時間が更に好ましい。保持後、適宜、余分な親水性ポリマー溶液・分散液を排出し、乾燥してもよい。
【0034】
なお、本発明の医療用検査装置におけるチャンバー部は、マイクロチャンバーでもよい。マイクロチャンバーの場合、チャンバー部の幅は20〜200μmが好ましく、チャンバー部の個数は100〜50万個が好ましい。
【0035】
本発明の医療用検査装置において、流路部の内面の少なくとも一部は、水の接触角が25〜65度であることが好ましく、25〜60度であることがより好ましい。所定の水の接触角を有する場合、本発明の効果が良好に得られる。このような所定範囲の水の接触角は、例えば、前記親水性ポリマー層により実現できる。
【0036】
前記のとおり、本発明では、流路部の内面に、前記親水性ポリマー層の他、超親水性ポリマー層が形成されていることが好ましく、この場合、該超親水性ポリマー層は、水の接触角が0〜20度であることが好ましい。これにより、特定細胞の選択的な捕捉を改善できる。
【0037】
本発明の医療用検査装置は、更に、細胞選別用フィルター構造、ピラー構造又はディッシュ構造(皿状のへこみ構造)を有するものが好ましい。フィルター、ピラーとしては、当該技術分野において公知のものを適宜使用可能である。
【0038】
本発明の細胞検査方法は、前述の医療用検査装置を用いて捕捉した血液又は体液中のがん細胞等の細胞を調べる方法である。当該方法により、例えば、EpCAMを発現していないがん細胞も含め、多くのがん細胞を捕捉できる。また、血液・体液中からがん細胞等の特定細胞を充分に捕捉できると共に、他のタンパク質や細胞の粘着・接着を抑制できるので、特定細胞の選択的な捕捉が可能となる。
【0039】
前記細胞検査方法において、前記医療用検査装置の流路部に、予め、血小板及び赤血球を除去した血液を導入することが好適である。これにより、がん細胞等の特定細胞の選択的捕捉性をより高めることができる。血小板や赤血球の除去方法としては、遠心分離法、膜分離法等、公知に方法を採用でき、なかでも、遠心分離法を好適に使用できる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を用いて、2−メトキシエチルアクリレートを80℃で6時間熱重合し、ポリ2−メトキシエチルアクリレートを作製した(分子量Mn:約15000、Mw:約50000)。そして、得られたポリ2−メトキシエチルアクリレートの0.2%メタノール溶液を作製した。
図1に示されるチャンバー部を備えたポリシクロオレフィン製流路内に、作製したポリ2−メトキシエチルアクリレート溶液(0.2質量%)を注入し、30分室温放置した後、液をピペットで吸出し、乾燥することで、医療用検査装置(流路部)を製造した。
【0042】
なお、使用したポリシクロオレフィン製流路の流路部の長さL11及びチャンバー部以外の流路部の幅R11、チャンバー部の長さL12及び幅R12は、以下のとおりである。
L11:60mm
R11:1mm
L12:42mm
R12:9mm
【0043】
(実施例2)
ポリ2−メトキシエチルアクリレートの濃度を0.5質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして医療用検査装置(流路部)を製造した。
【0044】
(実施例3)
ポリ2−メトキシエチルアクリレートの濃度を1.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして医療用検査装置(流路部)を製造した。
【0045】
(実施例4)
ポリ2−メトキシエチルアクリレートの濃度を2.5質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして医療用検査装置(流路部)を製造した。
【0046】
(実施例5)
ポリシクロオレフィン製流路に代えて、同様のチャンバー部を備えたポリメタクリル酸メチル製流路を用いた以外は、実施例3と同様にして医療用検査装置(流路部)を製造した。
【0047】
(実施例6)
ポリ2−メトキシエチルアクリレートの濃度を5.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして医療用検査装置(流路部)を製造した。
【0048】
(比較例1)
ポリ2−メトキシエチルアクリレート溶液(0.2質量%)を注入せず、ポリ2−メトキシエチルアクリレート層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして医療用検査装置(流路部)を製造した。
【0049】
(比較例2)
ポリ2−メトキシエチルアクリレートの濃度を7.5質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして医療用検査装置(流路部)を製造した。
【0050】
(比較例3)
ポリ2−メトキシエチルアクリレートの濃度を10.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして医療用検査装置(流路部)を製造した。
【0051】
実施例、比較例で作製した医療用検査装置(流路部)を以下の方法で評価した。
(親水性ポリマー層(コーティング層)の膜厚)
内面の親水性ポリマー層の膜厚は、親水性ポリマー層が形成された流路部の断面を、TEMを使用し、加速電圧15kV、1000倍で測定(撮影)した。
【0052】
(血小板吸着量)
医療用検査装置(流路部)の内部に、血漿に血小板を混合し、血小板濃度(播種密度)を4×10cells/cmに調整した液を注入し、37℃で1時間静置した。内部をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、1%グルタルアルデヒドで固定した(37℃で2時間放置)。その後、再度リン酸緩衝生理食塩水及び蒸留水で洗浄した。
このサンプルをSEMで観察し、吸着した血小板の数を数えた。なお、比較例1の数を1として、相対値で比較した。
【0053】
(水の接触角)
流路部の内面に蒸留水2μlを滴下し、30秒後の接触角をθ/2法(室温)で測定した。
【0054】
(がん細胞接着量)
医療用検査装置(流路部)の内部に、ヒト線維肉腫(HT1080:がん細胞の一種)の懸濁液(FBS、播種密度:1×10cells/cm)を注入し、37℃で1時間静置した。内部をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、1%グルタルアルデヒドで固定した(37℃で2時間放置)。その後、再度リン酸緩衝生理食塩水及び蒸留水で洗浄した。
このサンプルをSEMで観察し、接着したがん細胞の数を数えた。なお、比較例1の数を1として、相対値で比較した。
【0055】
(白血球粘着量)
医療用検査装置(流路部)の内部に、白血球の懸濁液(FBS、播種密度:1×10cells/cm)を注入し、37℃で1時間静置した。内部をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、1%グルタルアルデヒドで固定した(37℃で2時間放置)。その後、再度リン酸緩衝生理食塩水及び蒸留水で洗浄した。
このサンプルをSEMで観察し、粘着した白血球の数を数えた。なお、比較例1の数を1として、相対値で比較した。
【0056】
【表1】
【0057】
特定膜厚の親水性ポリマー層(コーティング層)を持つ実施例の医療用検査装置(流路部)は、血小板の吸着量が少ない一方で、がん細胞の接着量が多く、選択性(がん細胞接着量/血小板吸着量)も10を超え、良好であった。これに対し、親水性ポリマー層を形成していない比較例1は、選択性が低かった。膜厚が大きい比較例2、3は、血小板の吸着量がやや多く、がん細胞の接着量がやや少ないため、実施例に比べ、選択性が大きく劣っていた。また、実施例では、25〜65度の水の接触角も得られた。よって、低血小板吸着性や高がん細胞接着性は、親水性ポリマー層の膜厚への依存度が高く、厚すぎると、選択性が大きく低下することが明らかとなった。更に実施例では、比較例に比べて、白血球粘着量も少なく、この点からも選択性が良好であった。
【0058】
従って、親水性ポリマー層の膜厚を2〜200nmの範囲内に特定することで、選択性が向上し、血液中からがん細胞を選択的に捕捉する、等の性能の付与が期待できる。
【符号の説明】
【0059】
1 医療用検査装置
11 流路部
12 チャンバー部
L11 流路部の長さ
L12 チャンバー部の長さ
R11 チャンバー部以外の流路部11の幅
R12 チャンバー部の幅
図1