特許第6468879号(P6468879)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6468879二光子吸収材料に使用することができる化合物及びそれを用いた蛍光色素及び二光子吸収材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6468879
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】二光子吸収材料に使用することができる化合物及びそれを用いた蛍光色素及び二光子吸収材料
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20190204BHJP
   C09B 23/00 20060101ALI20190204BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20190204BHJP
   G02B 21/34 20060101ALI20190204BHJP
   C07D 495/22 20060101ALN20190204BHJP
【FI】
   C07F5/02 FCSP
   C09B23/00
   G02B1/04
   G02B21/34
   !C07D495/22
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-32323(P2015-32323)
(22)【出願日】2015年2月20日
(65)【公開番号】特開2016-153385(P2016-153385A)
(43)【公開日】2016年8月25日
【審査請求日】2018年2月7日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、科学技術振興機構「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 茂弘
(72)【発明者】
【氏名】深澤 愛子
(72)【発明者】
【氏名】多喜 正泰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直弥
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 Angewndte Chemie, International Edition,2014年,Vol.53(31),p.8231-8235
【文献】 Journal of Materials Chemistry,2009年,Vol.19(40),p.7532-7544
【文献】 Chemistry A European Journal,2014年,Vol.20(42),p.13618-13635
【文献】 Chinease Journal of Chemistry,2001年,Vol.19(7),p.705-709
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 495/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1A)
【化1】
[式中、R及びRは同じか又は異なり、それぞれボリル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、アルキルスルホニル基、アルコキシスルホニル基、リン酸基、ホルミル基、カルボキシ基、又はピリジニウム基;R及びRは同じか又は異なり、それぞれ直鎖又は分岐鎖アルキレン基;R置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基;L及びL下記の基のいずれか
【化2】
;窒素原子と水素原子を結ぶ点線は分子内水素結合である。]
で示される化合物。
【請求項2】
前記一般式(1A)において、R及びRがボリル基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記一般式(1A)において、R及びRがエチレン基、トリメチレン基、又はテトラメチレン基である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記一般式(1A)において、Rが非置換アルキル基である、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載の化合物からなる蛍光色素。
【請求項6】
請求項に記載の蛍光色素を含有する二光子吸収材料。
【請求項7】
さらに、極性溶媒を含有する、請求項に記載の二光子吸収材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二光子吸収材料に使用することができる化合物及びそれを用いた蛍光色素及び二光子吸収材料に関する。
【背景技術】
【0002】
二光子励起レーザー顕微鏡は、二光子励起可能な分子(二光子吸収特性を有する分子)を蛍光色素として用いて、近赤外領域の光により蛍光色素を励起するため、生体組織の深部を非侵襲のまま観察することができる。これに適応するものとして、life technologies社からは、様々な励起波長に対応した蛍光色素が販売されている。
【0003】
二光子吸収(TPA)は2個の光子を同時に吸収する励起過程であり、一光子吸収(OPA)とは異なり、その遷移確率は励起光強度の二乗に比例する。そのため、集光レーザーを励起光として用いると光強度の高い焦点付近の領域を空間選択的に励起することができる。加えて、二光子吸収過程で吸収される光子のエネルギーは、遷移エネルギーの半分の値であるため、通常紫外光又は可視光でないと励起できない分子を近赤外光で励起させることも可能となる。
【0004】
この特徴を利用し、二光子励起可能な分子は三次元微細光造形、光線力学療法によるガン治療、三次元蛍光イメージング等多岐にわたる分野への応用が期待されている。特に蛍光イメージングの分野では、生体組織内での透過率が高い近赤外領域(650〜1300 nm)、いわゆる「生体の窓」領域での分子励起が可能であることから、二光子励起可能な蛍光分子が生体内の可視化に有力な材料とされ、大きな二光子吸収断面積(Two-photon absorption cross section, TPACS)を有するプローブ分子の開発が望まれている。
【0005】
二光子吸収の存在自体は1929年にMayerによって提唱されていたが、二光子励起分子の開発は近年のレーザーや顕微鏡の発展に端を発する。測定技術の発展に伴い、二光子吸収分子の応用が活発に行われるなかで、大きな二光子吸収断面積を示す分子設計指針が確立されてきた。そのなかで最も幅広く受け入れられているのが、π電子系末端部位への電子供与性基(D)、電子受容性基(A)の導入である。Albotaらは、E-スチルベンの両末端に電子供与性基であるアミノ基を導入することで、二光子吸収断面積が無置換体と比べて10倍以上の値を示すことを見出した(例えば、非特許文献1)。
【0006】
また、Zhangらはカルバゾール骨格の両末端に強い電子受容性基であるピリジニウム基を導入することで、大きな二光子吸収断面積をもつ蛍光プローブ分子を合成した(例えば、非特許文献2)。この分子はDNAを選択的に染色し、生きた植物細胞内の核のイメージングに成功している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Science, 1998, 281, 1653-1656.
【非特許文献2】Org. Biomaol. Chem. 2010, 8, 4582-4588.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、既に設計指針が確立され、応用もなされている二光子吸収色素であるが、その発光挙動には未だ改善点がある。二光子励起レーザー顕微鏡に通常使用するフェムト秒チタンサファイア(Ti: sapphire)レーザーは650 nm〜1100 nmに発振帯域がある。この波長帯域によって励起される分子は近赤外領域より短波長(500〜600 nm程度)に蛍光極大波長を有するものが多い。より効率のよいイメージングのためには、吸収極大波長がTi: sapphireレーザーの発振帯域にあり,蛍光極大波長が近赤外領域にある蛍光分子が好ましいため、蛍光極大波長をより長波長シフトさせる分子設計が必要となる。
【0009】
このため、本発明は、蛍光量子収率や蛍光寿命を維持しつつ蛍光極大波長をより長波長シフトした二光子吸収可能な化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を鑑み、鋭意検討した結果、本発明者らは、分子内架橋ジチエニルピロール誘導体が有する2個のチオフェン環に対して、π共役系を拡張しつつ末端に電子受容性基を導入することにより、上記課題を解決し、蛍光量子収率を維持しつつ蛍光極大波長をより長波長シフトした二光子吸収可能な化合物を提供できることを見出した。この化合物は、使用する溶媒を選択すれば、蛍光極大波長700 nm以上という今までに存在しない蛍光極大波長を有することも可能である。本発明は、このような知見に基づきさらに研究を重ね、完成させたものである。すなわち、本発明は以下の構成を包含する。
【0011】
項1.一般式(1):
【0012】
【化1】
【0013】
[式中、R及びRは同じか又は異なり、それぞれ電子受容性基;R及びRは同じか又は異なり、それぞれ単結合又は2価の連結基;Rは有機基;L及びLは同じか又は異なり、それぞれπ共役基;Z及びZは同じか又は異なり、それぞれ複素環式基;窒素原子と水素原子を結ぶ点線は分子内水素結合である。]
で示される化合物。
【0014】
項2.一般式(1A):
【0015】
【化2】
【0016】
[式中、R〜R、L〜Lは前記に同じ;窒素原子と水素原子を結ぶ点線は分子内水素結合である。]
で示される化合物である、項1に記載の化合物。
【0017】
項3.前記一般式(1)において、L及びLが、一般式(2A)〜(2G):
【0018】
【化3】
【0019】
で示される基の1個以上を組合せた基である、項1又は2に記載の化合物。
【0020】
項4.前記一般式(1)において、R及びRが、ボリル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、アルキルスルホニル基、アルコキシスルホニル基、リン酸基、ホルミル基、カルボキシ基、又はピリジニウム基である、項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【0021】
項5.前記一般式(1)において、Rが置換基を有していてもよいアルキル基である、項1〜4のいずれかに記載の化合物。
【0022】
項6.前記一般式(1)において、R及びRが直鎖又は分岐鎖アルキレン基である、項1〜5のいずれかに記載の化合物。
【0023】
項7.項1〜6のいずれかに記載の化合物からなる蛍光色素。
【0024】
項8.項7に記載の蛍光色素を含有する二光子吸収材料。
【0025】
項9.さらに、極性溶媒を含有する、項8に記載の二光子吸収材料。
【発明の効果】
【0026】
本発明の化合物は、特定の分子内架橋骨格を有するために、蛍光極大波長を長波長シフトすることができるとともに、両末端に対してπ共役を拡張しつつ電子受容性基を導入しているため二光子吸収も可能な化合物である。このため、本発明の化合物は、蛍光量子収率を維持しつつ蛍光極大波長をより長波長シフトすることができる。特に、溶媒を選択すれば、蛍光極大波長700 nm以上という今までに存在しない蛍光極大波長を有することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】試験例1で作製した各試験液(実施例1で得た化合物を用いた試験液)の蛍光スペクトルである。ピーク位置が左のデータから順に、使用した溶媒はシクロヘキサン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、アセトンである。
図2】試験例2で作製した試験液(実施例1で得た化合物を用いた試験液)の一光子吸収スペクトル及び二光子吸収スペクトルである。実線は一光子吸収スペクトル、点は二光子吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.化合物
本発明化合物は、一般式(1):
【0029】
【化4】
【0030】
[式中、R及びRは同じか又は異なり、それぞれ電子受容性基;R及びRは同じか又は異なり、それぞれ単結合又は2価の連結基;Rは有機基;L及びLは同じか又は異なり、それぞれπ共役基;Z及びZは同じか又は異なり、それぞれ複素環式基;窒素原子と水素原子を結ぶ点線は分子内水素結合である。]
で示される化合物である。この一般式(1)で示される化合物又はその塩は、文献未記載の新規化合物である。
【0031】
上記一般式(1)において、R及びRで示される電子受容性基としては、特に制限されないが、例えば、ボリル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、アルキルスルホニル基、アルコキシスルホニル基、リン酸基、ホルミル基、カルボキシ基、ピリジニウム基等が挙げられる。
【0032】
及びRで示される電子受容性基としてのボリル基としては、特に制限はなく、ジメシチルボリル基等が挙げられる。
【0033】
及びRで示される電子受容性基としてのアルキルスルホニル基としては、特に制限はなく、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等が挙げられる。
【0034】
及びRで示される電子受容性基としてのアルコキシスルホニル基としては、特に制限はなく、メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基等が挙げられる。
【0035】
なかでも、R及びRとしては、合成の容易さ、二光子吸収のしやすさ、蛍光量子収率等の観点から、ボリル基が好ましく、ジメシチルボリル基がより好ましい。
【0036】
上記一般式(1)において、R及びRは単結合又は2価の連結基である。R3及びR4で示される2価の連結基としては、特に制限はなく、例えば、炭素数1〜10(特に2〜6)の直鎖又は分岐鎖アルキレン基等が挙げられる。このような連結基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。
【0037】
上記一般式(1)において、Rで示される有機基としては、特に制限されないが、例えば、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基等が挙げられる。
【0038】
上記一般式(1)において、Rで示される有機基としてのアルキル基としては、直鎖アルキル基及び分岐鎖アルキル基のいずれも採用できる。
【0039】
直鎖アルキル基としては、炭素数1〜6(特に1〜4)の直鎖アルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
【0040】
分岐鎖アルキル基としては、炭素数3〜6(特に3〜5)の分岐鎖アルキル基が好ましく、具体的には、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基等が挙げられる。
【0041】
で示される有機基としてのアルキル基が有していてもよい置換基としては、特に制限はなく、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、カルボキシル基、エステル基、アミド基(アミド基、メチルアミド基、ジメチルアミド基等)、アジド基(アジドフェニル基等)、アルキニル基(エチニル基、プロパルギル基等)等が挙げられる。このような置換基の数は、特に制限されないが、0〜6個が好ましく、0〜3個がより好ましい。
【0042】
上記一般式(1)において、Rで示される有機基としてのアリール基としては、単環アリール基及び多環アリール基のいずれも採用することができ、例えば、フェニル基、オリゴアリール基(ナフチル基、アントリル基等)、ビフェニル基、ターフェニル基、ピレニル基、フェナンスレニル基、フルオレニル基等が挙げられる。
【0043】
で示される有機基としてのアリール基が有していてもよい置換基としては、特に制限はなく、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基等)、カルボキシル基、エステル基、アミド基(アミド基、メチルアミド基、ジメチルアミド基等)、アジド基(アジドフェニル基等)、アルキニル基(エチニル基、プロパルギル基等)等が挙げられる。このような置換基の数は、特に制限されないが、0〜6個が好ましく、0〜3個がより好ましい。
【0044】
なかでも、Rとしては、合成の容易さ、蛍光量子収率、蛍光極大波長の長波長シフト等の観点から、置換基を有していてもよいアルキル基が好ましく、置換基を有していてもよい分岐鎖アルキル基がより好ましく、非置換アルキル基がさらに好ましい。
【0045】
一般式(1)において、L及びLで示されるπ共役基としては、π共役を拡張できる基であれば特に制限されないが、一般式(2A)〜(2G):
【0046】
【化5】
【0047】
で示される基の1個以上を組合せた基が挙げられる。このようなπ共役基としては、例えば、
【0048】
【化6】
【0049】
等が挙げられる。
【0050】
一般式(1)において、Z及びZで示される複素環式基を構成する複素環としては、特に制限されないが、例えば、フラン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、シラシクロペンタジエン環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環等が挙げられる。また、複素環式基は、上記複素環に置換基を有していてもよく、その置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、上記のアルキル基、上記のアリール基、アルコキシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基等が挙げられる。この置換基の数は0〜3個が好ましい。
【0051】
このような条件を満たす本発明の化合物としては、一般式(1A):
【0052】
【化7】
【0053】
[式中、R〜R、L〜Lは前記に同じ;窒素原子と水素原子を結ぶ点線は分子内水素結合である。]
で示される化合物が好ましく、一般式(1A1):
【0054】
【化8】
【0055】
[式中、R〜Rは前記に同じ;Mesはメシチル基(以下同様);窒素原子と水素原子を結ぶ点線は分子内水素結合である。]
で示される化合物がより好ましい。このような化合物としては、具体的には、
【0056】
【化9】
【0057】
等が挙げられる。
【0058】
2.化合物の製造方法
本発明の化合物は、特に制限されないが、本発明の化合物が一般式(1A1)で示される化合物の場合には、例えば、以下の反応式1:
【0059】
【化10】
【0060】
[式中、R〜Rは前記に同じ;R及びRは同じか又は異なり、それぞれ保護基;及びXは同じか又は異なり、それぞれハロゲン原子又はトリフラート基;TMSはトリメチルシリル基;Mesはメシチル基である。]
にしたがって合成することができる。
【0061】
反応式1において、R及びRで示される保護基は、例えば、シリル基(トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基等)、置換されていてもよいアラルキル基(ベンジル基、p−メトキシベンジル基、p−ニトロベンジル基等)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基等)、アルカノイル基(ホルミル基、アセチル基、プロピオニル等の炭素数1〜4のアルカノイル基)、アルコキシアルキル基(メトキシメチル基等)等の保護基が挙げられる。
【0062】
また、一般式(1A1)で示される化合物以外の一般式(1)で示される化合物を合成しようとする場合も、上記合成方法に準じて、同様の合成方法により合成することができる。
【0063】
反応式1において、X及びXで示されるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子をいずれも採用できるが、反応の進行のしやすさの観点から、塩素原子、臭素原子等が好ましく、臭素原子がより好ましい。
【0064】
(2−1)ハロゲン化
本工程では、例えば、有機溶媒中で、上記反応式1における化合物(2)と、有機リチウム化合物とを反応させた後に、ハロゲン化スクシンイミド化合物を添加することにより、所望のハロゲン化反応を進行させることができる。
【0065】
なお、上記反応式1における化合物(2)は、公知又は市販の化合物を用いてもよいし、合成してもよい。
【0066】
有機リチウム化合物としては、特に制限はなく、公知のものが採用でき、例えば、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ペンチルリチウム、ヘキシルリチウム等のアルキルリチウム;シクロヘキシルリチウム等のシクロアルキルリチウム;フェニルリチウム等のアリールリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムテトラメチルピペリジド、リチウムヘキサメチルジシラジド等のリチウムアミド等が挙げられる。これらのうち、本工程では、収率の観点から、アルキルリチウムが好ましく、n−ブチルリチウムがより好ましい。
【0067】
ハロゲン化スクシンイミド化合物としては、特に制限はなく、公知のものが採用でき、例えば、N−ブロモスクシンイミド、N−クロロスクシンイミド等が挙げられる。これらのうち、本工程では、収率の観点から、N−ブロモスクシンイミドが好ましい。
【0068】
上記有機リチウム化合物及びハロゲン化スクシンイミド化合物の使用量は、特に制限はないが、収率等の観点から、化合物(2)1モルに対して、有機リチウム化合物を1〜10モル(特に1.5〜5モル)、ハロゲン化スクシンイミド化合物を1〜10モル(特に1.5〜5モル)使用することが好ましい。
【0069】
本工程において使用され得る有機溶媒としては、公知のものを採用すればよく、本工程では、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル等のエーテル類が好ましい。また、反応条件は、反応が十分に進行する程度であればよく、例えば、−150〜0℃、特に−100〜−50℃において5分〜24時間、特に2〜12時間とすればよい。
【0070】
(2−2)薗頭カップリング
本工程では、従来から知られている薗頭カップリングに従って反応を進めることができ、例えば、有機溶媒中で、上記反応式1における化合物(3)に対して、パラジウム触媒、銅触媒及び塩基の存在下で、R−C≡C−Hで示される化合物を添加して、薗頭カップリング反応を引き起こすことができる。
【0071】
パラジウム触媒としては、金属パラジウムをはじめ、有機化合物(高分子化合物を含む)等の合成用触媒として公知のパラジウム化合物等が挙げられる。具体的には、このようなパラジウム化合物としては、例えば、Pd(PPh(Phはフェニル基;以下同様)、PdCl(PPh、Pd(OAc)(Acはアセチル基;以下同様)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)(Pd(dba))、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)クロロホルム錯体、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、ビス(トリt−ブチルホスフィノ)パラジウム(0)等が挙げられる。本工程では、Pd(PPh等が好ましい。
【0072】
銅触媒としては、ハロゲン化銅が好ましく、本工程では収率の観点からヨウ化銅がより好ましい。
【0073】
塩基としては、例えば、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、シクロヘキシルジメチルアミン等のアミン化合物が挙げられ、これらは溶媒としての役割も有する。
【0074】
上記パラジウム触媒、銅触媒、塩基及びR−C≡C−Hで示される化合物の使用量は、特に制限はないが、収率等の観点から、化合物(3)1モルに対して、パラジウム触媒を0.01〜0.2モル(特に0.02〜0.1モル)、銅触媒を0.02〜0.5モル(特に0.05〜0.2モル)、R−C≡C−Hで示される化合物を1〜10モル(特に1.5〜5モル)使用することが好ましい。なお、塩基の使用量は特に制限されないが、上記の液体のアミン化合物を使用する場合には過剰量とすることが好ましい。
【0075】
本工程において使用され得る有機溶媒としては、公知のものを採用すればよく、本工程では、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類が好ましい。また、上記の塩基を溶媒として使用してもよい。なお、上記ハロゲン化工程と同じ溶媒を使用することができる。また、反応条件は、反応が十分に進行する程度であればよく、例えば、0〜150℃、特に50〜100℃において10分〜12時間、特に30分〜6時間とすればよい。
【0076】
(2−3)脱保護
本工程では、公知の方法で保護基(R及びR)を脱保護することができる。例えば、有機溶媒中で、上記反応式1における化合物(4)に対して、塩基を添加して脱保護することができる。
【0077】
塩基としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム等のアルキルリチウム;フェニルリチウム等のアリールリチウム;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン等のアミン類等が挙げられる。収率の観点から、アルカリ金属アルコキシドが好ましく、ナトリウムメトキシド等がより好ましい。なお、塩基として液体の塩基を使用すれば、溶媒としても使用できるため好ましい。
【0078】
上記塩基の使用量は、特に制限はないが、収率等の観点から、化合物(4)に対して過剰量とすることが好ましく、化合物(4)1モルに対して、5〜50モル(特に10〜30モル)使用することが好ましい。
【0079】
本工程において使用され得る有機溶媒としては、公知のものを採用すればよく、本工程では、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;メタノール、エタノール等のアルコール類が好ましい。なお、上記ハロゲン化工程と同じ溶媒を使用することができる。また、反応条件は、反応が十分に進行する程度であればよく、例えば、0〜150℃、特に50〜100℃において30分〜24時間、特に1〜12時間とすればよい。
【0080】
(2−4)ヒドロホウ化
本工程では、例えば、有機溶媒中で、上記反応式1における化合物(5)に対して、ジメシチルボランを用いてヒドロホウ化反応を引き起こすことができる。
【0081】
上記ジメシチルボランの使用量は、特に制限はないが、収率等の観点から、化合物(5)1モルに対して、1〜10モル(特に1.5〜5モル)使用することが好ましい。
【0082】
本工程において使用され得る有機溶媒としては、公知のものを採用すればよく、本工程では、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類が好ましい。なお、上記ハロゲン化工程と同じ溶媒を使用することができる。また、反応条件は、反応が十分に進行する程度であればよく、例えば、−50〜100℃、特に0〜50℃において1〜48時間、特に2〜24時間とすればよい。
【0083】
このようにして、一般式(1A1)で示される化合物を得ることができ、必要に応じて通常の単離及び精製工程を経て使用することもできる。
【0084】
なお、上記では、本発明の化合物の一態様の合成方法の一例について記載したが、この製造方法に限定されることはなく、様々な合成方法で合成することができる。また、他の本発明の化合物についても同様の方法により合成することができる。
【0085】
3.蛍光色素及び二光子吸収材料
本発明の蛍光色素は、上記の本発明の化合物からなる。
【0086】
本発明の蛍光色素においては、特定の分子内架橋骨格を有するために、蛍光極大波長を長波長シフトすることができるとともに、両末端に対してπ共役を拡張しつつ電子受容性基を導入しているため二光子吸収も可能な化合物である。このため、分子内架橋骨格による蛍光極大波長の長波長シフトの効果に加えて、両末端に対してπ共役を拡張しつつ電子受容性基を導入していることによる二光子吸収の効果により、蛍光極大波長を、特に長波長域とすることができる。
【0087】
このような蛍光色素は、通常、有機溶媒中に分散させて使用することができる。この際、本発明の化合物の濃度は、蛍光極大波長を650〜800 nmに有しつつも、生理的条件下でもより十分に高い蛍光量子収率としつつ、細胞中に投入する観点から、1×10-8〜1×10-4mol/Lとすることが好ましく、1×10-7〜1×10-5mol/Lとすることがより好ましい。
【0088】
有機溶媒としては、極性溶媒及び非極性溶媒のいずれも使用できるが、極性溶媒を使用すれば、特に蛍光極大波長を大きくすることができる。このような極性溶媒としては、例えば、エーテル化合物(テトラヒドロフラン、アニソール、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等)、アルコール(メタノール、エタノール、アリルアルコール等)、エステル化合物(酢酸エチル等)、ケトン(アセトン等)、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、クロロホルム)、ジメチルスルホキシド、アミド系溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルピロリドン等)等を使用することができる。なかでも、本発明の化合物をエーテル化合物又はケトン、特にケトン、なかでもアセトン中に分散させた場合には、蛍光極大波長を650〜800 nm、特に700〜750 nmという従来の蛍光色素では得られなかった蛍光極大波長を有しつつ、蛍光量子収率を高くすることができる。
【0089】
一方、有機溶媒として非極性溶媒を使用すれば、特に蛍光量子収率を大きくすることができる。このような非極性溶媒としては、例えば、脂肪族有機溶媒(ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等)、芳香族有機溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等)等を使用することができる。なかでも、本発明の化合物をシクロヘキサン又はベンゼンに分散させた場合には、蛍光量子収率を特に高くすることができる。
【0090】
このため、所望の細胞(例えばHela細胞等の癌細胞)のバイオイメージングをしやすくすることができるとともに、バイオイメージングに必要な蛍光色素濃度を低く抑えることができ、生体へのダメージを大幅に低減することができる。つまり、本発明の化合物は、三次元微細光造形、光線力学療法によるガン治療、三次元蛍光イメージング等多岐にわたる分野への応用が期待される。
【0091】
本発明の二光子吸収材料は、上記のとおり、溶液の形態が好ましいが、蛍光極大波長を650〜800 nmに有しつつも、生理的条件下でもより十分に高い蛍光量子収率としつつ、細胞中に投入する観点から、pHは5〜11程度が好ましく、6.5〜7.5程度がより好ましい。本発明の細胞検出剤のpHを調整するために、緩衝剤(ヘペス緩衝剤、トリス緩衝剤、トリシン−水酸化ナトリウム緩衝剤、リン酸系緩衝剤、リン酸緩衝生理食塩水等)等を使用してもよい。
【実施例】
【0092】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0093】
[実施例1]
【0094】
【化11】
【0095】
[式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基;n-BuLiはn−ブチルリチウム;NBSはN−ブロモスクシンイミド;THFはテトラヒドロフラン;TMSはテトラメチルシリル基;iPrはイソプロピル基;Meはメチル基;Mesはメシチル基;以下同様である。]
【0096】
化合物23
化合物13(370 mg, 0.785 mmol)の脱水THF(1.5 mL)溶液に対し、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.62 M, 1.00 mL, 1.62 mmol)を-78℃で加え、-78℃を保ったまま1.5時間アルゴン雰囲気下で撹拌した。続いてN-ブロモスクシンイミド(290 mg, 1.63 mmol)の脱水THF(2.5 mL)溶液を-78℃で加え、その温度のまま6.5時間撹拌した。反応混合物を室温まで昇温したのち、水を加え、酢酸エチル(5.0 mL)で三回抽出したのち、有機層を飽和食塩水(2.0 mL)で一回洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水、濾過した後、減圧下で溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフフィー(PSQ100B, ヘキサン/酢酸エチル = 1/1, Rf = 0.20)で精製することで、化合物23を無色固体として得た(290 mg, 0.462 mmol, 収率60%)。
1H NMR (400 MHz, C6D6) δ 6.67 (s, 2H), 6.06 (s, 2H), 2.61 (sept, J = 6.4 Hz, 1H), 2.32-2.48 (m, 4H), 2.11-2.14 (m, 4H), 1.28-1.42 (m, 4H), 1.04 (s, 9H), 0.84 (d, J = 6.4 Hz, 6H); 13C{1H} NMR (100 MHz, C6D6) δ 148.4, 143.6, 132.4, 131.1, 127.7, 116.4, 110.6, 83.6, 53.0, 51.6, 30.4, 28.1, 27.2, 18.4; HRMS (APCI) Calcd. for C26H33Br2N2O2S2+: 629.0325 ([M+H]+). Obsd. 629.0305。
【0097】
化合物24
化合物23(428 mg, 0.682 mmol)、Pd(PPh3)4(40.0 mg, 34.6μmol)及びヨウ化銅(I)(16.4 mg, 86.1μmol)の脱水ジイソプロピルアミン(2.0 mL)溶液に対し、トリメチルシリルアセチレン(200μL, 1.44 mmol)を室温で加え、アルゴン雰囲気下、70℃で1.5時間撹拌した。反応混合物を室温まで放冷した後、水と酢酸エチル(5.0 mL)を加え、酢酸エチル(5.0 mL)で三回抽出した後、有機層を飽和食塩水(5.0 mL)で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水、濾過した後、減圧下で溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフフィー(PSQ100B、ヘキサン/酢酸エチル = 1/1, Rf= 0.43)で精製することで、化合物24を薄黄色固体として得た(426 mg, 0.642 mmol, 収率94%)。
1H NMR (400 MHz, C6D6) δ 7.07 (s, 2H), 6.03 (s, 2H), 2.51-2.60 (m, 3H), 2.31-2.39 (m, 2H), 2.07-2.11 (m, 4H), 1.28-1.43 (m, 4H), 1.00 (s, 9H), 0.81 (d, J = 6.4 Hz, 6H), 0.21 (s, 9H); 13C{1H} NMR (100 MHz, C6D6) δ 148.4, 142.8, 135.3, 131.8, 128.0, 121.8, 116.5, 99.0, 98.9, 83.6, 53.0, 51.6, 30.5, 28.1, 27.2, 18.4, 0.01; HRMS (APCI) Calcd. for C36H51N2O2S2Si2+: 663.2945 ([M+H]+). Obsd. 663.2913。
【0098】
化合物25
化合物24(197 mg, 0.297 mmol)のTHF(1.0 mL)溶液に対し、ナトリウムメトキシド(340 mg, 6.30 mmol)のメタノール(1.0 mL)懸濁溶液を室温で加え、80℃で3時間撹拌した。反応混合物を室温まで放冷した後、水と酢酸エチル(4.0 mL)を加え、酢酸エチル(5.0 mL)で三回抽出した後、有機層を飽和食塩水(5.0 mL)で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水、濾過した後、減圧下で溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフフィー(PSQ100B, 酢酸エチル, Rf = 0.83)で精製することで、化合物25を黄色固体として得た(104 mg, 0.247 mmol, 収率 83%)。
1H NMR (600 MHz, C6D6) δ13.0 (br s, 1H), 6.91 (s, 2H), 6.47 (d, J = 1.8 Hz, 2H), 2.99 (s, 2H), 2.55 (sept, J = 6.6 Hz, 1H), 2.47 (m, 4H), 1.94 (t, J = 5.4 Hz, 4H), 1.43 (m, 4H), 0.31 (d, J = 6.6 Hz); 13C{1H} NMR (100 MHz, C6D6) δ136.0, 135.4, 133.9, 127.1, 119.6, 111.4, 82.4, 77.6, 47.9, 45.9, 26.9, 25.5, 15.2; HRMS (APCI) Calcd. for C25H27N2S2+: 419.1610 ([M+H]+). Obsd. 419.1616。
【0099】
化合物12
化合物25(119 mg, 0.285 mmol)の脱水THF(4.0 mL)溶液に対し、ジメシチルボラン(143 mg, 0.570 mmol)の脱水THF(8.5 mL)懸濁溶液を室温で加え、窒素雰囲気下、遮光条件下、室温で13時間撹拌した。減圧下で溶媒を留去した後、粗生成物をジエチルエーテルで洗浄することで、化合物12を赤色固体として得た(155 mg, 0.169 mmol, 59%)。
1H NMR (400 MHz, C6D6) δ 13.2 (br, 1H), 7.43 (d, J = 17 Hz, 2H), 7.29 (d, J = 17 Hz, 2H), 6.85 (s, 8H), 6.66 (d, J = 1.6 Hz, 2H), 6.31 (s, 1H), 2.62 (sept, J = 6.4 Hz, 1H), 2.53 (m, 4H), 2.35 (s, 24H), 2.22 (s, 12H), 2.02 (m, 4H), 1.51 (m, 4H), 0.29 (d, J = 6.4 Hz, 6H); 13C{1H} NMR (100 MHz, THF-d8) δ 146.4, 143.1, 141.8, 141.1, 138.8, 137.7, 137.0, 135.4, 135.2, 129.0, 129.0, 112.0, 48.8, 46.6, 27.8, 26.3, 23.6, 21.3, 15.7; 11B{1H} NMR (100 MHz, THF-d8) δ30.4; HRMS (APCI) Calcd. for C61H72B2N2S2: 918.5336 ([M]+). Obsd. 918.5300。
【0100】
[試験例1:光物理特性(その1)]
溶媒として、シクロヘキサン、ベンゼン、テトラヒドロフラン又はアセトンに対して、実施例1で得た化合物を1 x 10-6 ~ 1 x 10-5 mol/L投入した(pH:7)。
【0101】
これら異なる溶媒を用いた4種の試験液を用いて、実施例1で得た化合物の吸収スペクトルは紫外可視近赤外分光光度計 UV-3150((株)島津製作所)を、蛍光スペクトルはNIR-PMT検出器(浜松ホトニクス(株))が付属した蛍光分光測定装置SPEX Fluorolog 3(HORIBA Scientific)をそれぞれ用いて行った。結果を表1及び図1に示す。この結果、実施例1で得た化合物は、シクロヘキサン中で549 nmに発光極大をもつ黄色蛍光を示し、極性溶媒中で二重発光特性を示した。また、極性溶媒中では、近赤外領域に大きく広がる比較的強い赤色発光を示しており、特に、アセトンを用いた場合には、700 nm以上という従来の蛍光色素では到達し得ない値であった。
【0102】
【表1】
【0103】
[試験例2:光物理特性(その2)]
溶媒として、テトラヒドロフランに対して、実施例1で得た化合物を1 x 10-6 ~ 1 x 10-5 mol/L投入した(pH:7)。
【0104】
この試験液を用いて、リファレンスをローダミン640/メタノール溶液として、二光子誘起蛍光法(TPIF method)により、二光子吸収断面積を測定した。結果を図2に示す。
【0105】
その結果、実施例1で得た化合物は、800 nm付近に大きな二光子吸収断面積を有しており、830 nmにおいて1448 GMという値が得られた。この値は、同程度のπ共役系の広がりをもつ既知の化合物群と比較しても十分大きな値である。なお、これら既知の化合物群は、以下のとおりである。
【0106】
【化12】
【0107】
また、実施例1で得た化合物は、二光子励起輝度(Two-photon brightness = δ ×φF)が高い。この値は実際に二光子励起蛍光を観測する際の明るさを表すパラメータであり、実施例1で得た化合物の二光子励起輝度はライブイメージングに用いられている9E-BMVCの値を大きく上回っている。この輝度の高さに加え、近赤外発光と大きなストークスシフト(アセトン中でΔν = 6570 cm-1)を考慮すると、本発明の化合物は二光子励起発光材料として優れた性質をもつといえる。
図1
図2