【文献】
J. Immunol. Methods,2005年,Vol.301,pp.164-172
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、その目的はポリペプチドの物性を改善させる方法、特にポリペプチドの血漿中動態を改善させる方法、免疫原性を低減させる方法または溶解度を改善させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ポリペプチドの物性を改善させる方法について鋭意研究を行った。その結果、本発明者らは、細胞外マトリックスへの結合活性が低減されるようにポリペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基を改変することにより、ポリペプチドの物性、特に血漿中動態、免疫原性および溶解度を改善させることができることを見出した。
【0013】
すなわち本発明は、ポリペプチドの物性を改善させる方法、特にポリペプチドを薬物として投与する場合に、血漿中動態を改善させる方法または免疫原性を低減させる方法、あるいはポリペプチドを溶液製剤とする場合にその溶解度を改善させる方法、これらポリペプチドを製造する方法、当該製造方法によって製造されたポリペプチド、および、ポリペプチドの物性を評価する方法などに関し、より具体的には、
〔1〕 細胞外マトリックスへの結合活性を低減させることによる、ポリペプチドの物性を改善させる方法、
〔2〕 物性の改善が、血漿中動態の改善、免疫原性の低減および溶解度の改善から選ばれる少なくとも1つである、〔1〕に記載の方法、
〔3〕 細胞外マトリックスへの結合活性の低減が、ポリペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基を改変することによって細胞外マトリックスへの結合を低減させる、〔1〕または〔2〕に記載の方法、
〔4〕 細胞外マトリックスへの結合活性が電気化学発光法により測定される、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法、
〔5〕 ポリペプチドが、抗原結合活性を有するポリペプチドである、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法、
〔6〕 抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体である、〔5〕に記載の方法、
〔7〕 物性の改善されたポリペプチドの製造方法であって、細胞外マトリックスへの結合活性が低減されるようにポリペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基を改変する工程を含む製造方法、
〔8〕 物性の改善されたポリペプチドの製造方法であって、該製造方法は、
(a) ポリペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基を改変する工程、
(b) 前記工程(a)で改変されたポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合活性を測定する工程、および、
(c) 細胞外マトリックスへの結合活性が改変前と比較して低減されたポリペプチドを選択する工程、
を含む製造方法、
〔9〕 さらに、
(d) 〔8〕の工程(c)で選択されたポリペプチドをコードする遺伝子を得る工程、および、
(e) 前記工程(d)で得られた遺伝子を用いてポリペプチドを製造する工程、
を含む、〔8〕に記載の製造方法、
〔10〕 さらに、
(f) 〔9〕の工程(e)で得られたポリペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基を改変して、前記工程(b)〜(e)を繰り返し実施する工程、
を含む、〔9〕に記載の製造方法、
〔11〕 あらかじめ物性のわかっているポリペプチドを基準ポリペプチドとして、基準ポリペプチドより物性の優れたポリペプチドを製造する方法であって、該製造方法は、
(a) 基準ポリペプチドおよび、被検ポリペプチド又は被検ポリペプチドライブラリーを細胞外マトリックスに接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で接触させたポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合活性を測定する工程、
(c) 前記工程(b)で測定されたポリペプチドの中から基準ポリペプチドより細胞外マトリックスへの結合活性が低いポリペプチドを選択する工程、
(d) 前記工程(c)で選択されたポリペプチドをコードする遺伝子を得る工程、および、
(e) 前記工程(d)で得られた遺伝子を用いてポリペプチドを製造する工程、
を含む製造方法、
〔12〕 物性の改善が血漿中動態の改善、免疫原性の低減および溶解度の改善から選ばれる少なくとも1つである、〔7〕〜〔11〕に記載の製造方法、
〔13〕 細胞外マトリックスへの結合活性が電気化学発光法により測定される、〔7〕〜〔12〕のいずれかに記載の製造方法、
〔14〕 ポリペプチドが、抗原結合活性を有するポリペプチドである、〔7〕〜〔13〕のいずれかに記載の製造方法、
〔15〕 抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体である、〔14〕に記載の製造方法、
〔16〕 〔7〕〜〔15〕のいずれかに記載の製造方法によって製造されたポリペプチド、
〔17〕 あらかじめ物性のわかっているポリペプチドを基準ポリペプチドとして、基準ポリペプチドより物性の優れたポリペプチドのスクリーニング方法であって、該方法は、
(a) 基準ポリペプチドおよび、被検ポリペプチド又は被検ポリペプチドライブラリーを細胞外マトリックスに接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で接触させたポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合活性を測定する工程、および、
(c) 前記工程(b)で測定されたポリペプチドの中から基準ポリペプチドより細胞外マトリックスへの結合活性が低いポリペプチドを選択する工程、
を含む、方法、
〔18〕 物性の改善が血漿中動態の改善、免疫原性の低減および溶解度の改善から選ばれる少なくとも1つである、〔17〕に記載のスクリーニング方法、
〔19〕 細胞外マトリックスへの結合活性が電気化学発光法により測定される、〔17〕または〔18〕に記載のスクリーニング方法、
〔20〕 ポリペプチドが、抗原結合活性を有するポリペプチドである、〔17〕〜〔19〕のいずれかに記載のスクリーニング方法、
〔21〕 抗原結合活性を有するポリペプチドが抗体である、〔20〕に記載のスクリーニング方法、
〔22〕 被検ポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合活性を測定し、あらかじめ物性がわかっている他のポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合活性と比較することにより、被検ポリペプチドの物性を評価する方法、
〔23〕 物性がポリペプチドの血漿中動態、免疫原性および溶解度から選ばれる少なくとも1つである、〔22〕に記載の方法、
〔24〕 細胞外マトリックスへの結合活性の測定が電気化学発光法による測定である、〔22〕または〔23〕に記載の方法、
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、ある目的の機能を有するポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合を低減することによって、当該ポリペプチドの物性を改善させる方法あるいは物性の改善されたポリペプチドの製造方法が提供された。特に、当該ポリペプチドの物性の改善として、血漿中動態の改善、免疫原性の低減、あるいは溶解度の改善が可能となり、医薬品としての利用に適したポリペプチドの提供が可能である。また、あらかじめ物性のわかっているポリペプチドの細胞外マトリックスに対する結合活性と被検ポリペプチドの細胞外マトリックスに対する結合活性を比較することで、当該被検ポリペプチドの物性を評価することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、ポリペプチドの物性を改善させる方法を提供する。より具体的には、ポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合活性を低減させることによって、当該ポリペプチドの物性を改善させる方法を提供する。特に、ポリペプチドが生体内に投与された場合の血漿中動態を改善させる方法、免疫原性を低減させる方法、あるいは、ポリペプチドを溶液製剤とする場合の溶解度を改善させる方法を提供する。
【0017】
さらに、あらかじめ物性のわかっているポリペプチドの細胞外マトリックスに対する結合活性と被検ポリペプチドの細胞外マトリックスに対する結合活性を比較することで、当該被検ポリペプチドの物性を評価する方法を提供する。
【0018】
本発明において対象となる「ポリペプチド」は特に限定されないが、生体内に投与された際に特定の機能を有していることが好ましく、特に医薬品としての効果を有するポリペプチドが好ましい。そのようなポリペプチドとしては例えば、抗体、ホルモン、サイトカイン等が挙げられる。
【0019】
本発明の抗原結合活性を有するポリペプチドの例として、抗体を挙げることができる。本発明の抗体の好ましい例として、IgG抗体を挙げることができる。抗体としてIgG抗体を用いる場合、その種類は限定されず、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのアイソタイプ(サブクラス)のIgGを用いることが可能である。また、本発明のポリペプチドには抗体の定常領域が含まれていてもよく、定常領域部分にアミノ酸変異を導入しても良い。
【0020】
本発明が対象とする「ポリペプチド」が抗体の場合、抗体はマウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、どのような動物由来の抗体でもよい。さらに、例えばキメラ抗体、中でもヒト化抗体などのアミノ酸配列を置換した改変抗体でもよい。また、二重特異性抗体、各種分子を結合させた抗体修飾物、抗体断片を含むポリペプチドなどであってもよい。
【0021】
「キメラ抗体」とは、異なる動物由来の配列を組み合わせて作製される抗体である。キメラ抗体の具体的な例としては、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変(V)領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常(C)領域からなる抗体を挙げることができる。
【0022】
「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体のCDRへ移植したものである。CDRを同定するための方法は公知である(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (1987), National Institute of Health, Bethesda, Md.; Chothia et al., Nature (1989) 342: 877)。また、その一般的な遺伝子組換え手法も公知である(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。
【0023】
本発明におけるポリペプチドがキメラ抗体またはヒト化抗体である場合には、これらの抗体のC領域は、好ましくはヒト抗体由来のものが使用される。例えばH鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4などを、L鎖ではCκ、Cλなどを使用することができる。また、Fcγレセプターへの結合を増大あるいは低減させるために、抗体の安定性または抗体の産生を改善するために、ヒト抗体C領域を必要に応じアミノ酸変異を導入してもよい。本発明におけるキメラ抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とからなる。一方、ヒト化抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物由来抗体のCDRと、ヒト抗体由来のFRおよびC領域とからなる。ヒト抗体由来の定常領域は、ヒトFcRn結合領域を含んでいることが好ましく、そのような抗体の例として、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)を挙げることができる。本発明におけるヒト化抗体に用いられる定常領域は、どのアイソタイプに属する抗体の定常領域であってもよい。好ましくは、ヒトIgG1由来の定常領域が用いられるが、これに限定されるものではない。また、ヒト化抗体に利用されるヒト抗体由来のFRも特に限定されず、どのアイソタイプに属する抗体のものであってもよい。
【0024】
本発明におけるキメラ抗体及びヒト化抗体の可変領域及び定常領域は、元の抗体の結合特異性を示す限り、欠失、置換、挿入及び/または付加等により改変されていてもよい。
【0025】
二重特異性抗体は、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体をいう。二重特異性抗体は2つ以上の異なる抗原を認識する抗体であってもよいし、同一抗原上の異なる2つ以上のエピトープを認識する抗体であってもよい。
【0026】
また、抗体断片を含むポリペプチドとしては、例えば、Fab断片、F(ab')2断片、scFv(Nat Biotechnol. 2005 Sep;23(9):1126-36.)domain antibody(dAb)(WO2004/058821, WO2003/002609)、scFv-Fc(WO2005/037989)、dAb-Fc、Fc融合ポリペプチド等が挙げられる。Fc領域を含んでいる分子はFc領域をヒトFcRn結合ドメインとして用いることができる。また、これらの分子にヒトFcRn結合ドメインを融合させてもよい。
【0027】
さらに、本発明におけるポリペプチドは、抗体様分子であってもよい。抗体様分子(scaffold分子、ペプチド分子)とは、ターゲット分子に結合することで機能を発揮するような分子であり(Current Opinion in Biotechnology 2006, 17:653-658、Current Opinion in Biotechnology 2007, 18:1-10、Current Opinion in Structural Biology 1997, 7:463-469、Protein Science 2006, 15:14-27)、例えば、DARPins(WO2002/020565)、Affibody(WO1995/001937)、Avimer(WO2004/044011, WO2005/040229)、Adnectin(WO2002/032925)等が挙げられる。これら抗体様分子であっても、細胞外マトリックスに対する結合活性を低減することにより、当該抗体分子の物性を改善させることが可能である。
【0028】
本発明において、ポリペプチドの「物性」とは、当該ポリペプチドを生体内に投与した際の血漿中動態、免疫原性、あるいは、当該ポリペプチドを溶液製剤とした際の溶解度、を意味する。本発明において「物性を改善させる」とは、これらの物性のいずれかが改善されていればよく、特に、ポリペプチドを医薬品として使用する場合に重要となる、血漿中動態、免疫原性および溶解度のいずれかが改善されることが好ましい。
【0029】
また、「細胞外マトリックスへの結合」を測定する方法は特に限定されないが、細胞外マトリックスが固相化されたプレートにポリペプチドを添加し、そのポリペプチドに対する標識抗体を添加することによって、ポリペプチドと細胞外マトリックスの結合を検出するELISA系によって測定することができる。特に細胞外マトリックス結合能をより高感度に検出することが可能となることから電気化学発光法(ECL(Electrochemiluminescence))を用いた測定方法が好ましい。具体的には細胞外マトリックスを固相化したプレートに、ポリペプチドとルテニウム抗体の混合物を添加し、ポリペプチドと細胞外マトリックスとの結合を、ルテニウムの電気化学発光によって測定するECL系によって測定することができる。ポリペプチドの添加濃度は任意に設定することが可能であり、細胞外マトリックスへの結合の検出感度を高くするためには添加濃度は高いほうが好ましい。本発明において用いられる細胞外マトリックスとしては、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、エンタクチン、フィブリン、パールカン等の糖タンパク質を含むものであれば、動物由来でも植物由来でもよいが、本発明においては、動物由来の細胞外マトリックスが好ましく、例えばヒト、マウス、ラット、サル、ウサギ、イヌなどの動物由来の細胞外マトリックスを用いることができる。特に、ヒトにおける血漿中動態の改善をモニターするためにはヒト由来の天然の細胞外マトリックスが好ましい。また、ポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合を評価する条件としては、生理条件下であるpH 7.4付近の中性域が望ましいが、必ずしも中性域である必要はなく、酸性域(pH6.0付近)において評価してもよい。また、ポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合を評価する際に、ポリペプチドが結合する抗原分子を共存させることによって、ポリペプチド−抗原分子の複合体の細胞外マトリックスへの結合を評価してもよい。
【0030】
本発明において、「血漿中動態の改善」は、「血漿中薬物動態の改善」、「血漿中滞留性の改善」、「優れた血漿中滞留性」、「血漿中滞留性を長くする」と言い換えることが可能であり、これらの語句は同じ意味で使用される。
【0031】
本発明において「血漿中動態の改善」とは、本発明のポリペプチドがヒト、マウス、ラット、サル、ウサギ、イヌなどの動物に投与されてから、血漿中から消失するまで(例えば、細胞内で分解される等して本発明のポリペプチドが血漿中に戻ることが不可能な状態になるまで)の時間が長くなることを意味する。すなわち、「血漿中動態の改善」とは、血漿中半減期の増加、平均血漿中滞留時間の増加または血漿中クリアランスの低下等のいずれかのパラメータ(ファーマコキネティクス 演習による理解(南山堂))を測定することにより血漿中動態の改善を確認することが可能である。例えば、被験対象のポリペプチドをマウス、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ヒトなどに投与した場合、当該ポリペプチドの血漿中濃度を測定し、各パラメータを算出し、血漿中半減期が長くなった又は平均血漿中滞留時間が長くなった場合等には、当該ポリペプチドの血漿中動態が改善したと言える。これらのパラメータは当業者に公知の方法により測定することが可能であり、例えば、薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)を用いて、付属の手順書に従いNoncompartmental解析することによって適宜評価することができる。
【0032】
本発明においては、ヒトにおける血漿中動態が向上することが好ましい。ヒトでの血漿中動態を測定することが困難である場合には、マウス(例えば、正常マウス、ヒト抗原発現トランスジェニックマウス、ヒトFcRn発現トランスジェニックマウス、等)やサル(例えば、カニクイザルなど)での血漿中動態をもとに、ヒトでの血漿中動態を予測することができる。
【0033】
本発明において、「免疫原性の低減」とは、本発明のポリペプチドがin vitroにおいて免疫細胞に添加されたときの細胞増殖や炎症性サイトカインの産生が抑制されること、あるいは、in vivoに投与されたときの当該ポリペプチドに対する抗体の出現頻度や強度の低減を意味する。具体的には、in vitroにおいてPBMCにポリペプチドを添加したときの細胞増殖は、青色に発色する基質であるBrdU(ブロモデオキシウリジン)が、活発に増殖している細胞において新たに合成されるDNAによく取り込まれることを利用し、分光光度計により測定することができる(Baker MP, Carr FJ.Curr Drug Saf. 2010, 5(4):308-13.)。また、in vivoでポリペプチドを生体内に投与したときに出現する抗体は、ポリペプチドを用いたSandwich-ELISAやポリペプチドを固定化したプレートを用いたELISA系等の当業者公知の方法で検出測定することができる。サイトカイン産生は、サイトカインに対する抗体を用いたSandwich ELISA等を用いる方法で測定することができる。より具体的には、実施例4に記載のような方法に従って免疫原性を測定することができる。
【0034】
本発明において、「溶解度の改善」とは、ポリエチレングリコール(PEG)存在下におけるバッファー中の溶解度(Guiotto, A. et al. (2004) Bioorg. Med. Chem. 12, 5031-5037)、および、バッファー中における実測の溶解度が上昇すること、を意味する。溶解度を測定するバッファーの種類は任意に選択することが可能である。具体的には、例えば、実施例6に記載のような方法に従って溶解度を測定することができる。
【0035】
本発明のポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合が低減されるようなアミノ酸残基の改変としては、特に限定されないが、本発明においては、抗原結合活性を有するポリペプチドの表面にあるアミノ酸を改変することが好ましい。例えばポリペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基を改変することによって細胞外マトリックスへの結合を低減させる。その際、改変によるポリペプチドの他の活性に対する影響を少なくするよう考慮することが好ましい。
【0036】
従って本発明においては、例えば、本発明のポリペプチドが抗体である場合には、細胞外マトリックスへの結合は抗体可変領域部分の表面に露出する残基が主に関与することから、抗体の表面に露出する可変領域のアミノ酸を改変することが好ましい。抗体の表面に露出する可変領域のアミノ酸は抗体のホモロジーモデルを用いて当業者公知の方法で見出すことが可能である。
【0037】
アミノ酸残基の改変は、後述のようにポリペプチドをコードするDNAにおいて1又は複数の塩基を改変し、当該DNAを宿主細胞で発現させることによって行うことが出来る。当業者であれば、改変後のアミノ酸残基の種類に応じて、改変すべき塩基の数や位置、種類を容易に決定することが出来る。
【0038】
本発明において改変とは、置換、欠損、付加、挿入のいずれか、又はそれらの組み合わせを意味する。
【0039】
本発明において「塩基の改変」とは、DNAによってコードされるポリペプチドが目的のアミノ酸残基を有するように、DNAに対して少なくとも1塩基を挿入、欠失又は置換するような遺伝子操作もしくは変異処理を行うことを意味する。即ち、元のアミノ酸残基をコードするコドンを、目的のアミノ酸残基をコードするコドンに変換することが含まれる。このような塩基の改変は、部位特異的突然変異(例えば、Kunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488参照)、PCR変異導入法、カセット変異等の方法により行うことができる。本発明のポリペプチドが抗体である場合、一般に、生物学的特性の改善された抗体変異体は70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上等)のアミノ酸配列の相同性及び/又は類似性を元となった抗体の可変領域のアミノ酸配列に対して有する。本明細書において、配列の相同性及び/又は類似性は、配列相同性が最大の値を取るように必要に応じ配列を整列化、及びギャップ導入した後、元となった抗体残基と相同(同じ残基)又は類似(一般的なアミノ酸の側鎖の特性に基づき同じグループに分類されるアミノ酸残基)するアミノ酸残基の割合として定義される。通常、天然のアミノ酸残基は、その側鎖の性質に基づいて(1)疎水性:アラニン、イソロイシン、バリン、メチオニン及びロイシン;(2)中性親水性:アスパラギン、グルタミン、システイン、スレオニン及びセリン;(3)酸性:アスパラギン酸及びグルタミン酸;(4)塩基性:アルギニン、ヒスチジン及びリジン;(5)鎖の配向に影響する残基:グリシン及びプロリン;ならびに(6)芳香族性:チロシン、トリプトファン及びフェニルアラニンのグループに分類される。
【0040】
このように改変されたポリペプチドをコードするDNAは、適当なベクターへクローニング(挿入)され、宿主細胞へ導入される。ベクターとしては、挿入したDNA等の核酸を安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターが挙げられる。クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。
【0041】
本発明のポリペプチドを生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内でポリペプチドを発現するベクターであれば特に制限されない。例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌内発現であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞内発現であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体内での発現であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))などが好ましい。ベクターへのDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0042】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。ポリペプチドを発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)及び植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0043】
宿主細胞において発現したポリペプチドを小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、又は細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的のポリペプチドに組み込むことができる。これらのシグナルは目的のポリペプチドに対して内因性であっても、異種シグナルであってもよい。
【0044】
発現産物の回収は、ポリペプチドが培地に分泌される場合は、培地を回収する。ポリペプチドが細胞内に産生される場合は、その細胞をまず溶解し、その後にポリペプチドを回収する。
【0045】
組換え細胞培養物からポリペプチドを回収し精製するには、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法を用いることができる。
【0046】
本発明の物性の改善されたポリペプチドは、物性の基準となるポリペプチドを定め、当該ポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合能よりも低い細胞外マトリックス結合能を有するポリペプチドを、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在しているライブラリー(ファージライブラリー等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリー、これらの抗体やライブラリーにランダムにアミノ酸を改変した抗体又はライブラリーから選択する、あるいは、基準となるポリペプチドのアミノ酸を改変し、細胞外マトリックス結合能を低減させることによって得ることができる。アミノ酸の改変については上記の記載に従って実施することができる。物性改善を評価する方法は、実施例に記載した方法に沿って実施することができる。
【0047】
さらに本発明は、物性の改善されたポリペプチドの製造方法を提供する。すなわち、細胞外マトリックスへの結合活性が低減されたポリペプチドの製造方法を提供する。また、本発明は、細胞外マトリックスへの結合活性を低減させることにより、血漿中動態の改善、免疫原性の低減、あるいは溶解度の改善されたポリペプチドを製造する方法を提供する。さらに、本発明は医薬組成物として用いる際に特に有用である抗原結合活性を有するポリペプチド、特に抗体の製造方法を提供する。
【0048】
具体的には、本発明は以下の工程を含むポリペプチドの製造方法を提供する;
(a) ポリペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基を改変する工程、
(b) 前記工程(a)で改変されたポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合活性を測定する工程、および、
(c) 細胞外マトリックスへの結合活性が改変前と比較して低減されたポリペプチドを選択する工程。
なお、(a)と(b)の工程は2回以上繰り返されてもよい。(a)と(b)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0049】
さらに上記の製造方法には下記の工程を含めることができる。
(d) 前記工程(c)で選択されたポリペプチドをコードする遺伝子を得る工程、および、
(e) 前記工程(d)で得られた遺伝子を用いてポリペプチドを製造する工程。
【0050】
上記の製造方法には更に下記の工程を含めることができる。
(f) 前記工程(e)で得られたポリペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基を改変して、前記工程(b)-(e)を繰り返し実施する工程
なお、工程(f)において繰り返される(b)-(e)の工程の回数は、特に限定されないが、通常10回以内である。
【0051】
さらに本発明はあらかじめ物性のわかっているポリペプチドを基準として、当該ポリペプチドよりも物性の優れたポリペプチドを製造する方法を提供する。すなわち、ポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合活性を指標として、あらかじめ血漿中動態、免疫原性あるいは溶解度のわかっているポリペプチドよりも、より血漿中動態が改善された、免疫原性が低減された、あるいは溶解度が改善されたポリペプチドを製造する方法を提供する。さらに、本発明は医薬組成物として用いる際に特に有用である抗原結合活性を有するポリペプチド、特に抗体の製造方法を提供する。
【0052】
具体的には、本発明はあらかじめ物性のわかっているポリペプチドを基準ポリペプチドとして、当該基準ポリペプチドよりも物性の優れたポリペプチドを製造する方法であって、以下の工程を含むポリペプチドの製造方法を提供する;
(a) 基準ポリペプチドおよび、被検ポリペプチド又は被検ポリペプチドライブラリーを細胞外マトリックスに接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で接触させたポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合活性を測定する工程、
(c) 前記工程(b)で測定されたポリペプチドの中から基準ポリペプチドより細胞外マトリックスへの結合活性が低いポリペプチドを選択する工程、
(d) 前記工程(c)で選択されたポリペプチドをコードする遺伝子を得る工程、および、
(e) 前記工程(d)で得られた遺伝子を用いてポリペプチドを製造する工程。
なお、(a)〜(c)の工程は2回以上繰り返されてもよい。(a)〜(c)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0053】
さらに本発明は、あらかじめ物性のわかっているポリペプチドを基準として、当該ポリペプチドよりも物性の優れたポリペプチドをスクリーニングする方法を提供する。すなわち、ポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合活性を指標として、あらかじめ血漿中動態、免疫原性あるいは溶解度のわかっているポリペプチドよりも、より血漿中動態が改善された、免疫原性が低減された、あるいは溶解度が改善されたポリペプチドをスクリーニングする方法を提供する。さらに、本発明は医薬組成物として用いる際に特に有用である抗原結合活性を有するポリペプチド、特に抗体の製造方法を提供する。
【0054】
具体的には、本発明はあらかじめ物性のわかっているポリペプチドを基準ポリペプチドとして、当該基準ポリペプチドよりも物性の優れたポリペプチドをスクリーニングする方法であって、以下の工程を含むポリペプチドのスクリーニング方法を提供する;
(a) 基準ポリペプチドおよび、被検ポリペプチド又は被検ポリペプチドライブラリーを細胞外マトリックスに接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で接触させたポリペプチドの細胞外マトリックスへの結合活性を測定する工程、および、
(c) 前記工程(b)で測定されたポリペプチドの中から基準ポリペプチドより細胞外マトリックスへの結合活性が低いポリペプチドを選択する工程。
なお、(a)〜(c)の工程は2回以上繰り返されてもよい。(a)〜(c)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0055】
本発明の製造方法やスクリーニング方法で用いられるポリペプチドはどのように調製されてもよく、例えば、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在しているライブラリー(ファージライブラリー等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリー、これらの抗体やライブラリーにランダムにアミノ酸を改変した抗体又はライブラリーなどを用いることが可能である。
【0056】
また、本発明の製造方法により製造されるポリペプチドあるいは本発明のスクリーニング方法により取得されるポリペプチドは、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、血漿中動態の改善、免疫原性の低減、溶液製剤とした際の溶解度の改善が可能であると考えられる。従って、本発明の製造方法は、血漿中動態の改善、免疫原性の低減、あるいは、溶解度の改善されたポリペプチドの製造方法あるいはスクリーニング方法として利用することができる。
【0057】
また、本発明の製造方法により製造されるこれらのポリペプチドあるいは本発明のスクリーニング方法により取得されるポリペプチドは、細胞外マトリックスへの結合活性が改変される前のポリペプチドと比較して、血漿中動態の改善、免疫原性の減少、溶解度の改善されたポリペプチドであることから、医薬品として用いる場合に特に優れていると考えられる。従って、本発明の製造方法は、医薬組成物として用いる為のポリペプチドの製造方法として利用することが可能である。
【0058】
また、本発明のスクリーニング方法は、細胞外マトリックスへの結合活性を指標とすることにより、容易に血漿中動態、免疫原性、溶解度に優れたポリペプチドを選択することが可能であることから、特に医薬品に適したポリペプチドの取得に利用することが可能である。
【0059】
本発明の製造方法において得られたポリペプチドあるいは本発明のスクリーニング方法において得られたポリペプチドをコードするDNAは、通常、適当なベクターへ担持(挿入)され、宿主細胞へ導入される。該ベクターとしては、挿入したDNA等の核酸を安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。本発明のポリペプチドを生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内でポリペプチドを発現するベクターであれば特に制限されないが、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))などが好ましい。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0060】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。ポリペプチドを発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)および植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0061】
宿主細胞の培養は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、動物細胞を宿主とした場合、培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、FBS、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用しても、無血清培養により細胞を培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8とするのが好ましい。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
【0062】
宿主細胞において発現したポリペプチドを小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的のポリペプチドに組み込むことができる。これらのシグナルは目的のポリペプチドに対して内因性であっても、異種シグナルであってもよい。
【0063】
一方、in vivoでポリペプチドを産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするポリペプチドをコードするDNAを導入し、動物又は植物の体内でポリペプチドを産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
【0064】
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシ等を用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications (1993))。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
【0065】
例えば、本発明のポリペプチドをコードするDNAを、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生されるポリペプチドをコードするDNAとの融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的のポリペプチドを得ることができる。トランスジェニックヤギから産生されるポリペプチドを含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに投与してもよい(Ebert et al., Bio/Technology (1994) 12: 699-702)。
【0066】
また、本発明のポリペプチドを産生させる昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的のポリペプチドをコードするDNAを挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的のポリペプチドを得ることができる。
【0067】
さらに、植物を本発明のポリペプチド産生に使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とするポリペプチドをコードするDNAを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ、本タバコの葉より所望のポリペプチドを得ることができる(Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24: 131-8)。また、同様のバクテリアをウキクサ(Lemna minor)に感染させ、クローン化した後にウキクサの細胞より所望のポリペプチドを得ることができる(Cox KM et al. Nat. Biotechnol. 2006 Dec;24(12):1591-1597)。
【0068】
このようにして得られたポリペプチドは、宿主細胞内または細胞外(培地、乳汁など)から単離し、実質的に純粋で均一なポリペプチドとして精製することができる。ポリペプチドの分離、精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせてポリペプチドを分離、精製することができる。
【0069】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al.(1996) Cold Spring Harbor Laboratory Press)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティクロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F. (Pharmacia製)等が挙げられる。
【0070】
必要に応じ、ポリペプチドの精製前又は精製後に適当なタンパク質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、部分的にペプチドを除去することもできる。タンパク質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられる。
【0071】
また本発明は、本発明の製造方法あるいはスクリーニング方法により得られたポリペプチドを含む医薬組成物に関する。本発明のポリペプチドまたは本発明の製造方法により製造されたポリペプチドあるいは本発明のスクリーニング方法により取得されたポリペプチドは、その投与により通常の抗体と比較して血漿中動態の改善、免疫原性の低減、溶液製剤とした際の溶解度の改善が可能であると考えられることから医薬組成物として有用である。本発明の医薬組成物は医薬的に許容される担体を含むことができる。
【0072】
本発明において医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査・診断のための薬剤を言う。
【0073】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な容量が得られるように設定する。
【0074】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO-50等)を併用してもよい。
【0075】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールを併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填する。
【0076】
本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口投与により投与される。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物とすることができる。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0077】
投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。本発明のポリペプチドを含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1 kgあたり0.0001 mg〜1000 mgの範囲に設定することが可能である。または、例えば、患者あたり0.001〜100000 mgの投与量とすることもできるが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。本発明の医薬組成物は、血漿中動態を改善させるため、免疫原性を低減させるため、または溶液製剤とした際の溶解度を改善させるために用いられる医薬組成物であることができる。
また本発明は、本発明のポリぺプチド、本発明の製造方法により製造されたポリペプチドまたは上記本発明の医薬組成物を対象へ投与することによる、血漿中動態を改善する方法、または免疫原性を低減する方法に関する。投与は、in vivoあるいはin vitroのどちらで行われてもよい。投与対象としては、例えば非ヒト動物(マウス、サルなど)、あるいはヒトなどを挙げることができる。
【0078】
なお、本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれるアミノ酸は翻訳後に修飾(例えば、N末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である)を受ける場合もあるが、そのようにアミノ酸が翻訳後修飾された場合であっても当然のことながら本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれる。
【0079】
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0080】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0081】
〔実施例1〕細胞外マトリックス結合と正常マウス血漿中薬物動態の関連評価
MabA1、A2、A3は血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、並びに、血液凝固第X因子を標的抗原として特異的な結合を示し、血液凝固第VIII因子様凝固活性を発揮する二重特異性抗体であり、これらの抗体は、WO2005/035756およびWO2006/109592に記載の方法を用いて、当業者公知の抗体取得技術から、当該標的抗原への結合および凝固活性を指標にしたスクリーニングを行い、さらに血液凝固第VIII因子様凝固活性を向上させるアミノ酸改変を加えることによって取得されたIgG抗体である。
【0082】
MabA1、A2、A3の血漿中滞留性を比較するために、これら抗体のマウスにおける薬物動態の評価を行った。
MabA1、A2、A3を正常マウス(C57BL/6J、日本チャールズリバー)に1 mg/kgで単回投与し、適時採血を行った。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
【0083】
マウス血漿中濃度測定はELISA法にて測定した。まずAnti-Human IgG(γ)を96well plateに分注し、4℃でオーバーナイトで静置し、Anti-Human IgG(γ)固相化プレートを作成した。検量線試料とマウス血漿測定試料を調製し、Anti-Human IgG(γ)固相化プレートに分注し室温で1時間静置した。その後Anti-human IgG-AP (SIGMA社製)を反応させ、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories社製)を基質として用い発色反応を行い、マイクロプレートリーダーにて650 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices社製)を用いて算出した。
【0084】
MabA1、A2、A3の正常マウスにおける血漿中半減期はそれぞれ17.1日、6.1日、1.9日と大きく異なることが分った。そこで、この血漿中滞留性(血漿中半減期)の違いの原因として、非特異的な細胞外マトリックスへの結合が考えられた。すなわち細胞外マトリックスに結合性を示す抗体は、血漿中で生体内の細胞外マトリックスに結合することで消失が早くなることが考えられた。
【0085】
そこで、MabA1、A2、A3の細胞外マトリックスへの結合性の評価を行った。抗体の細胞外マトリックス結合を、ELISA法により測定した。細胞外マトリックス固定化プレート(マトリゲルマトリックス薄層 96ウェル/BD社製)に、ブロッキング溶液[TBS(TaKaRa), 10% FCS(Low IgG/GIBCO社製), 0.05% NaN
3]を分注し、ブロッキングを行った。ブロッキング溶液を除去した細胞膜マトリックス固定化プレートに、各種抗体をブロッキング溶液にて希釈した試料を分注し、室温で1時間静置し、細胞外マトリックスと各種抗体の結合反応を行った。各種抗体試料をプレートから除き、リンスバッファ[Dulbecco's PBS(Nissui), 0.05% Tween20]によって3回プレートを洗浄し、Goat Anti-human IgG-HRP(Zymed-Invitrogen社製)を室温で1時間反応させた。反応後のプレートを、リンスバッファで5回洗浄し、ABTS Microwell Peroxidase Substrate (2-Component System / KPL社製)を基質として発色反応を行った。1M H
2SO
4溶液を添加して反応を終了し、マイクロプレートリーダーにて405 nmの吸光度を測定した。
【0086】
MabA1、A2、A3の細胞外マトリックス結合及び血漿中半減期(T1/2)をプロットしたものを
図1に示した。その結果、細胞外マトリックス結合能が小さい抗体は、血漿中抗体濃度が高く維持され、血漿中半減期が長く、すなわち薬物動態が優れていることが判明した。本結果より、細胞外マトリックス結合及び血漿中半減期(T1/2)は相関を示し、細胞外マトリックス結合測定は血漿中薬物動態を予測するために適した方法であり、細胞外マトリックス結合能を低減させることで抗体の血漿中薬物動態(血漿中半減期)を改善することが可能であることが示唆された。
【0087】
〔実施例2〕細胞外マトリックス結合検出の高感度化とアミノ酸置換によるMabB1の血漿中滞留性の向上
MabB1は、実施例1と同様の方法で、当業者公知の方法により、血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、並びに、血液凝固第X因子双方の標的抗原への結合および血液凝固第VIII因子様凝固活性を指標にしたスクリーニングを行うことによって取得した抗体に対して、血液凝固第VIII因子様凝固活性を向上させるアミノ酸置換を行い作製したIgG抗体である。MabB1は血漿中半減期が非常に短く、MabB1を医薬品として開発するうえで短い血漿中半減期は投与量の増大と投与間隔の短縮につながるため大きな課題である。MabB1の細胞外マトリックスに対する結合を評価した結果、MabB1は細胞外マトリックスに強く結合することが確認され、血漿中半減期が短いのは細胞外マトリックスへの非特異的な結合が原因と考えられた。そこで、細胞外マトリックスへの非特異的な結合を低減させることによりMabB1の血漿中薬物動態を改善することを検討した。
【0088】
MabB1は高い細胞外マトリックス結合能を有していたため、MabB1に当業者公知の方法で抗体可変領域に存在する表面に露出している残基にアミノ酸置換を導入した各種改変MabB1抗体を作製し、細胞外マトリックスに対する結合のスクリーニングを実施した。各種改変MabB1抗体のうち細胞外マトリックス結合能を低減させたMabB2およびMabB3を取得した。
【0089】
抗体の細胞外マトリックス結合を、上記の発色ELISA法で測定した結果を、
図2に示した。MabB1においては、強い細胞外マトリックス結合への結合が認められたが、アミノ酸置換を導入したMabB2とMabB3は細胞外マトリックス結合への結合が認められなくなった。
【0090】
そこで、各抗体(MabB1〜B3)の正常マウスにおける薬物動態を実施例1に示した方法で評価した結果を、
図3(静脈内投与)および
図4(皮下投与)に示した。その結果、MabB1と比較して、MabB2およびMabB3は静脈内投与と皮下投与の両方において血漿中滞留性が向上し、実際に抗体の細胞外マトリックス結合能を低減させることで、抗体の血漿中滞留性を向上することが可能であることが確認された。しかしながら、MabB2と比較してMabB3のほうが、血漿中滞留性が優れていたことから、MabB2は依然として細胞外マトリックス結合能を有している可能性が示唆された。
【0091】
MabB2の細胞外マトリックス結合能はELISA法では認められなかったことから、ELISAによる評価系の検出感度では不足であると考えられた。そこで以下に示すECL(電気化学発光法)を用いて高感度に細胞外マトリックス結合を評価する方法を試みた。抗体の細胞外マトリックス結合能をより高感度に検出するためにECLを用いた評価系を確立した。TBS(Takara),0.015% Trition-X100溶液を用いて、細胞外マトリックス(BDマトリゲル基底膜マトリックス/ BD社製)を5 mg/mLに希釈した。希釈した細胞外マトリックスをMULTI-ARRAY PR Plate , Uncoated (MSD社製)に分注し、4℃で一晩固定化した。その後、Dulbecco’s PBS(Nissui), 0.05% Tween20, 0.5% BSA, 0.01% NaN
3溶液を分注し、ブロッキングした。Goat anti-human IgG (gamma)(Zymed Laboratories)をSulfo-Tag NHS Ester 150 nmol(MSD社製)を用いてSulfo-Tag化した。各種抗体とSulfo-Tag化Goat anti-human IgGをよく混合し、室温で1時間程度インキュベートした。ブロッキング溶液を除去した細胞外マトリックス固定化プレートにこの試料を分注し、室温で2時間振盪した。その後、MSD Read Buffer T(4x)(MSD社製)を添加し、SECTOR PR400にて発光量を測定した。抗体(MabB2・MabB3)の細胞外マトリックス結合を上記の方法で測定した結果を
図5に示した。ELISAでは、MabB2の細胞外マトリックス結合を検出できていなかったが(
図2)、ECLを用いた高感度系ではMabB2の細胞外マトリックス結合を確認することができた。すなわち、ECLを用いることで、MabB1、MabB2、MabB3の3者の細胞外マトリックス結合とそれらの血漿中滞留性が相関することが示された。
【0092】
これより、抗体にアミノ酸置換等の改変を導入した抗体を、ECLを用いた高感度細胞外マトリックス結合評価系を用いてスクリーニングすることで、血漿中薬物動態が改善された抗体を取得することが可能であることが見出された。
【0093】
〔実施例3〕細胞外マトリックス結合低減によるMabC9の血漿中滞留性の向上
MabC9は、実施例1と同様の方法で、当業者公知の方法により、血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、並びに、血液凝固第X因子双方の標的抗原への結合および血液凝固第VIII因子様凝固活性を指標にしたスクリーニングを行うことによって取得した抗体に対して、血液凝固第VIII因子様凝固活性を向上させるアミノ酸置換を行い作製したIgG抗体である。MabC9は血漿中半減期が非常に短いことが分っていたため、MabC9の血漿中薬物動態を改善することを検討した。その結果、MabC9は細胞外マトリックスに強く結合することが確認され、血漿中半減期が短いのは細胞外マトリックスへの非特異的な結合が原因と考えられた。
【0094】
MabC9は高い細胞外マトリックス結合能を有していたため、MabC9に当業者公知の方法で抗体可変領域に存在する表面に露出している残基にアミノ酸置換を導入した各種改変MabC9抗体を作製し、細胞外マトリックスに対する結合のスクリーニングを実施した。各種改変MabC9抗体のうち細胞外マトリックス結合能を低減させたMabC8およびMabC7を取得した。MabC9、MabC8、MabC7をヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 276 +/+ マウス、Jackson Laboratories)に1 mg/kgで静脈内投与し血漿中薬物動態を評価した。その結果、
図6に示したとおり、細胞外マトリックス結合能を低減させたMabC8およびMabC7はMabC9と比較して血漿中半減期が大幅に延長し、薬物動態が改善できていることが分った。
【0095】
これより、抗体にアミノ酸置換等の改変を導入して細胞外マトリックス結合能を低減させることで、その抗体の血漿中薬物動態を改善することが可能であることが見出された。
【0096】
〔実施例4〕細胞外マトリックス結合と免疫原性の関連評価
MabC1〜C6は、実施例1と同様の方法で、当業者公知の方法により、血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、並びに、血液凝固第X因子双方の標的抗原への結合および血液凝固第VIII因子様凝固活性を指標にしたスクリーニングを行うことによって取得した抗体に対して、血液凝固第VIII因子様凝固活性を向上させるアミノ酸置換を行い作製したIgG抗体である。MabC1〜C6の細胞外マトリックスへの結合をECLにより評価した結果、これらの抗体の細胞外マトリックスへの結合の程度は抗体によって異なることが分った。細胞外マトリックスに結合する抗体は、標的抗原以外に対して非特異的な結合を示すため、抗原提示細胞に対しても結合する可能性がある。そのため、細胞外マトリックスに結合する抗体は、抗原提示細胞に取り込まれやすく、それにより抗原提示されやすくなると考えられ、免疫原性が高くなる可能性が考えられた。免疫原性はタンパク質医薬品の重要な課題であり、タンパク質医薬品の免疫原性は低いことが望ましい。
【0097】
そこで、細胞外マトリックス結合能が異なる各抗体(C1-C6)に対する免疫原性誘導リスクを検証するために、ボランティア新鮮血を用いたin vitro免疫原性リスク評価を実施した。24ウェルプレートにヒト新鮮血液より分離したCD8陰性CD25低陽性末梢血単核球細胞(CD8
-CD25
lowPBMCs)を播種し、37℃・5%CO
2湿潤条件下で約2時間前培養した。前培養後、抗体を添加し、37℃・5%CO
2湿潤条件下で培養した。培養6、7、8日目に回収した細胞を96ウェルプレートに撒きなおし、Bromodeoxyuridine (BrdU)を添加した。添加後約30時間にBrdUを取り込んだHelper T細胞についてフローサイトメトリーで解析した。Helper T細胞中のBrdU陽性細胞割合より、各抗体に対する増殖活性の程度を調べた。実験は複数のドナーで行い、各抗体がそれぞれ何%のドナーにおいて増殖活性を示したかを評価した。反応したドナーの割合が高いほど免疫原性が高いと考えられる。横軸に増殖活性を示したドナーの反応率を、縦軸に細胞外マトリックス結合をプロットしたものを
図7に示した。
【0098】
その結果、各抗体の細胞外マトリックス結合と増殖活性を示したドナーの反応率は正の相関を示し、細胞外マトリックス結合活性が低い抗体ほど免疫原性が低く、細胞外マトリックス結合活性を低減させることで抗体の免疫原性を低減することが可能であることが示唆された。
【0099】
〔実施例5〕細胞外マトリックス結合低減によるMabB2の免疫原性の低減
実施例2で作製されたMabB2は、マウスに投与すると抗MabB2マウス抗体が短期間に産生されることから免疫原性が高いことが確認されている。実施例4において、細胞外マトリックス結合能が低い抗体ほど免疫原性が低く、細胞外マトリックス結合能を低減させることで抗体の免疫原性を低減することが可能であることが示唆されたことから、MabB2およびMabB3のマウスでの血漿中滞留性評価において、マウス血漿中抗MabB2抗体および抗MabB3抗体をECL免疫測定法にて検出した。まず抗体をEZ-Link
TM Sulfo-NFS-Biotinylation Kit (PIERCE社製) を用いてBiotin化、及びSulfo-Tag NHS Ester 150 nmol (MSD社製)を用いてsTag化した。マウス血漿測定試料、Biotin化抗体及びsTag化抗体を混和後、4℃で一晩静置した。この試料をMULTI-ARRAY(R) PR SA Plate(MSD社製) に分注し、室温で2時間振盪した。その後、MSD Read Buffer T (4x) (MSD社製) を添加し、SECTOR PR(R) 400にて発光量を測定した。横軸に経過時間(日)、縦軸に抗体価(ECL signal)をプロットしたものを
図8に示した。細胞外マトリックス結合能を低減させたMabB3はMabB2と比較して抗体価が低く、免疫原性が低減されていることが確認された。
【0100】
これまで抗体の免疫原性を低減させる方法として、非ヒト抗体をヒト化する方法やT-cellエピトープを除く方法、および、会合体を低減させる方法が知られていたが、これより、抗体にアミノ酸置換等の改変を導入して細胞外マトリックス結合能を低減させることで、その抗体の免疫原性を低減することが可能であることが見出された。
【0101】
〔実施例6〕細胞外マトリックス結合と溶解度の関連評価
MabD1〜D30は、実施例1と同様の方法で、当業者公知の方法により、血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、並びに、血液凝固第X因子双方の標的抗原への結合および血液凝固第VIII因子様凝固活性を指標にしたスクリーニングを行うことによって取得した抗体に対して、血液凝固第VIII因子様凝固活性を向上させるアミノ酸置換を行い作製したIgG抗体である。MabD1〜D3の細胞外マトリックスへの結合をECLにより評価した結果、これらの抗体の細胞外マトリックスへの結合の程度は抗体によって異なることが分かった。タンパク質医薬品の溶液製剤を調製するためには、十分にそのタンパク質が高い溶解度を有している必要がある。タンパク質同士が自己会合化(凝集)しやすい場合は一般に溶解度が低いと考えられる。細胞外マトリックス結合する抗体は非特異的にタンパク質に結合しやすい性質を有していると考えられることから、溶解度も低くなる可能性が考えられた。溶解度はタンパク質医薬品の溶液製剤化に重要であり、タンパク質医薬品の溶解度は高いことが望ましい。
【0102】
そこで、MabD1〜D30の細胞外マトリックスへの結合と溶解度の関係性を評価した。一般にタンパク質の溶解度の測定は大量のタンパク質を必要とするが、タンパク質の溶解度はポリエチレングリコール(PEG)存在下で大きく減少するが、一定濃度のPEG存在下におけるバッファー中の溶解度を測定することにより、少量のタンパク質で溶解度を測定することが可能である(Guiotto, A. et al. (2004) Bioorg. Med.Chem. 12, 5031-5037)。そこで、各種抗体(MabD1〜MabD30)の溶解度の測定をPEG存在下で実施した。10 mM sodium phosphate, 50 mM NaCl, pH6溶液(バッファー溶液)および10 mM sodium phosphate, 50 mM NaCl, pH6, 10% PEG4000溶液(PEG溶液)95μLにそれぞれ濃度既知の各種抗体溶液5μLを添加し、よく混合した。室温で3時間程度インキュベート後、0.22μmフィルターを通じ、フィルター溶液70μLに50 mM sodium phosphate, 500 mM NaCl, pH7.0溶液70μLを添加し、2倍希釈した。希釈溶液100μLをゲルろ過クロマトグラフィーにより分析した。ゲルろ過クロマトグラフィーは以下の条件で実施した。
【0103】
カラム:G3000SWxl (TOSOH)
移動相:50 mM sodium phosphate, 500 mM NaCl, pH7.0
流速:1.0 mL/min
検出波長:220 nm
【0104】
それぞれの抗体に関して、PEG溶液モノマーピーク面積およびバッファー溶液モノマー面積を算出した。それぞれの抗体のPEG存在下における溶解度を以下の計算方法により算出した。
【0105】
抗体溶液濃度(mg/mL)×PEG溶液モノマーピーク面積/バッファー溶液モノマー面積
【0106】
細胞外マトリックス結合を横軸にPEG存在下における溶解度を縦軸にプロットしたものを
図9に示した。細胞外マトリックス結合と溶解度は高い相関を示し、細胞外マトリックス結合が高いほど溶解度が低いことが見出された。すなわち、細胞外マトリックス結合が低い抗体をスクリーニングすることで溶解度が高い抗体を取得することが出来ることが示された。
【0107】
〔実施例7〕細胞外マトリックス結合低減によるMabD31の溶解度の改善
MabD31は、実施例1と同様の方法で、当業者公知の方法により、血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、並びに、血液凝固第X因子双方の標的抗原への結合および血液凝固第VIII因子様凝固活性を指標にしたスクリーニングを行うことによって取得した抗体に対して、血液凝固第VIII因子様凝固活性を向上させるアミノ酸置換を行い作製したIgG抗体であり、溶解度が低いことが確認されている。実施例6において、細胞外マトリックス結合が低い抗体をスクリーニングすることで溶解度が高い抗体を取得することが出来ることが示されたことから、MabD31に対して、MabD31の抗体可変領域に存在する表面に露出している残基にアミノ酸置換を導入した各種改変MabD31抗体を作製し、細胞外マトリックスに対する結合のスクリーニングを実施した。MabD31の可変領域にアミノ酸置換を導入することで細胞外マトリックス結合を低減させたMabD32を作製した。MabD31とMabD32の溶解度を20 mM Histidine, 150 mM NaCl, pH6.0条件下において測定した結果、MabD31の溶解度は5.9 mg/mLであったのに対して、MabD32の溶解度は150 mg/mL以上であった。MabD31とMabD32の細胞外マトリックス結合と溶解度を
図10に示した。
【0108】
これより、細胞外マトリックス結合を低減させることで、その抗体の溶解度を改善できることが見出された。