【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、密閉可能な反応容器内において、塩化ビニル系樹脂を含有する塩化ビニル水懸濁液からなる反応液を熱塩素化する塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法であって、前記反応液を
温度55〜70℃
に加熱して反応容器内に塩素を導入して熱塩素化を開始する工程1、
前記工程1の後に行う工程であって、前記反応容器内の温度を部分塩素化塩化ビニル系樹脂のガラス転移温度以下の温度に保ちながら昇温する工程2、及び、
前記工程2の後に行う工程であって、前記部分塩素化塩化ビニル系樹脂
の塩素含有率が55.8重量%以下のときは90℃以上の温度で熱塩素化を行わず、塩素含有率が58重量%以上となった後に85℃以上、115℃未満の所定温度で熱塩素化する工程3を有し、前記工程1〜3において、熱塩素化開始から熱塩素化終了までの反応容器内の正味撹拌動力(Pv)を反応液1m
3当たり0.2〜2.5kw/m
3とする塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法である。
【0010】
本発明者は、塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法において、熱塩素化時の温度を所定の範囲とし、かつ、正味撹拌動力を所定の範囲内とすることによって、初期着色性、耐熱安定性が高く、熱安定性に優れ、透明な成形品を得ることが可能な塩素化塩化ビニル系樹脂が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明は、密閉可能な反応容器内において、塩化ビニル系樹脂を含有する塩化ビニル水懸濁液からなる反応液を熱塩素化する塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法である。
【0012】
上記密閉可能な反応容器としては、ガラスライニングを施した耐圧容器で、攪拌装置と加熱冷却用ジャケットが設置されている反応容器が好ましい。
【0013】
上記塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル単独重合体のほか、塩化ビニル単量体と上記塩化ビニル単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体も含む。
また、上記塩化ビニル単量体と上記塩化ビニル単量体と共重合可能な他の単量体との塩化ビニル共重合体は、塩化ビニル単量体を50重量%以上含むことが好ましい。
【0014】
上記塩化ビニルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレン等のオレフィン;無水マレイン酸;アクリロニトリル;スチレン;塩化ビニリデン等が挙げられる。
また、上記塩化ビニル系樹脂の平均重合度は一般に600〜2000である。
【0015】
上記塩化ビニル水懸濁液は、塩化ビニル系樹脂と水とを含有する懸濁液である。
塩化ビニル系樹脂を水に懸濁させた状態とするには、水媒体中に塩化ビニル系樹脂粉末を添加攪拌して分散させ懸濁させればよい。なお、塩化ビニル系樹脂が水懸濁重合で得られた場合は、塩化ビニル系樹脂が水懸濁状態になっているのでそのまま使用できる。
【0016】
上記塩化ビニル系樹脂粉末の平均粒子径は小さくなると取り扱いが難しくなり、大きくなると塩素化に長時間かかるため、100〜200μmであることが好ましい。
【0017】
本発明では、上記反応液を加熱して温度55〜70℃で反応容器内に塩素を導入して熱塩素化を開始する工程1を行う。
なお、本発明において、熱塩素化とは、紫外線照射することなく加熱して熱塩素化する反応である。
【0018】
上記熱塩素化を行うには、密閉可能な反応容器内において、反応容器内を減圧して酸素を除去すると共に加熱し、反応液の温度が55〜70℃となったときに塩素を反応容器内に導入して熱塩素化を開始することが好ましい。
【0019】
上記減圧を行う場合は、真空ポンプにより吸引して脱気するのが好ましい。吸引は、例えば、反応容器内の気圧が、その時の水の蒸気圧に水銀柱20mmの圧力を加えた程度の圧力に達するまで行い、その圧力に数分間維持することによって最初の脱気を行い、その後、反応容器内に窒素を圧入して暫く放置した後、再度真空ポンプによって吸引脱気を行って酸素を除くという操作を繰り返して、反応容器内の酸素量を100ppm以下にするのが好ましい。
【0020】
上記加熱はジャケットに蒸気又は熱水を供給して行なうのが好ましく、水懸濁液温度が熱塩素化を開始する温度になったとき、即ち、55〜70℃になったときに塩素を反応容器内に導入して熱塩素化を開始する。
【0021】
上記熱塩素化において使用する塩素は純度が高いものが好ましいが、1000ppm以上の酸素を含んでいる市販の塩素そのまま使用してもよい。
【0022】
上記工程1では、上記反応液の温度が55〜70℃で反応容器内に塩素を導入して熱塩素化を開始する。
上記反応液の温度が55℃未満であると、熱塩素化は殆ど進まず、非効率となる。上記温度が70℃を超えると、得られた塩素化塩化ビニル系樹脂の熱安定性が低下し、成形体の透明性が低下する。
好ましくは57〜67℃である。
【0023】
本発明では、次いで、上記反応容器内の温度を部分塩素化塩化ビニル系樹脂のガラス転移温度以下の温度に保ちながら昇温する工程2を行う。
上記工程2では、所定の温度に保ちながら、熱塩素化工程を行う。
なお、本発明で「部分塩素化塩化ビニル系樹脂」とは、塩素化工程の途中における塩素化塩化ビニル系樹脂をいうものである。
また、本発明で「部分塩素化塩化ビニル系樹脂のガラス転移温度」とは、塩素含有率から推定されるガラス転移温度をいう。
【0024】
上記工程2において、部分塩素化塩化ビニル系樹脂のガラス転移温度以下の温度に保ちながら昇温する方法としては、例えば、反応容器内の部分塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有率を測定することで、ガラス転移温度を求め、該ガラス転移温度以下の温度に昇温する方法が挙げられる。
【0025】
上記工程2では、部分塩素化塩化ビニル系樹脂のガラス転移温度以下の温度に保ちながら昇温するが、特に部分塩素化塩化ビニル系樹脂のガラス転移温度−2℃以下とすることが好ましい。
【0026】
上記工程2に掛ける時間(昇温時間ともいう)は、塩素化反応時間全体に対して、5〜40%に相当する時間とすることが好ましい。昇温時間を上記範囲内とすることで、均一に塩素化が進行し、熱安定性に優れた塩素化塩化ビニル系樹脂とすることができる。
【0027】
本発明では、上記部分塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有率が58重量%以上となった後に85℃以上、115℃未満の所定温度で熱塩素化する工程3を行う。
このような工程3を行うことで、得られた塩素化塩化ビニル系樹脂の熱安定性が低下し、透明性に優れる成形体を作製可能な塩素化塩化ビニル系樹脂とすることができる。
なお、本明細書では、特に「85℃以上、115℃未満の所定温度」を「熱塩素化温度」ともいう。
【0028】
上記工程3では、部分塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有率が58重量%以上となった後に、85℃以上、115℃未満の所定温度で熱塩素化すればよいが、塩素化される塩素化塩化ビニル系樹脂のガラス転移温度以上の温度で熱塩素化されると得られた塩素化塩化ビニル系樹脂の熱安定性が低下し、成形体の透明性が低下する傾向があるので、塩素含有率が58重量%以上となった後の熱塩素化も、部分塩素化塩化ビニル系樹脂のガラス転移温度以下の温度で熱塩素化するのが好ましい。
【0029】
上記工程3では、部分塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有率が58重量%以上となった後に上記の所定温度で熱塩素化する。
上記塩素含有率が58重量%未満において、上記所定温度で熱塩素化した場合、一気に反応が進行し、均一な塩素化反応することができなくなる。なお、工程3において、上記塩素含有率は72重量%以下とすることが好ましい。
【0030】
上記工程3において、上記部分塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有率は58重量%以上であれば特に限定されないが、上記部分塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有率が58重量%以上、60重量%未満となった後に85℃以上、95℃未満の所定温度で熱塩素化することが好ましい(工程3−1)。
また、上記工程3では、上記部分塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有率が60重量%以上、62重量%未満となった後に95℃以上、105℃未満の所定温度で熱塩素化することが好ましい(工程3−2)。
更に、上記工程3では、上記部分塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有率が62重量%以上となった後に105℃以上、115℃未満の所定温度で熱塩素化することが好ましい(工程3−3)。
このように塩素含有率に合わせて熱塩素化温度を変化させることで、昇温時間は長くなるが、熱塩素化温度が高くなるので熱塩素化速度は速くなり、全体の熱塩素化時間は短縮される。又、熱塩素化温度を高くしても得られた塩素化塩化ビニル系樹脂の熱安定性(初期着色製及び耐熱安定性)が低下することはない。
なお、上記工程3−1、工程3−2及び工程3−3は、何れか1のみを行ってもよく、2以上を重複して行ってもよい。
【0031】
本発明では、上記工程1〜3において、反応容器内の正味撹拌動力(Pv)を反応液1m
3当たり0.2〜2.5kw/m
3とする。
上記正味撹拌動力が、0.2kw/m
3未満であると、充分な撹拌が得られずジャケット近傍と中心部の温度に分布ができ不均一な塩素化反応となる。上記正味撹拌動力が、2.5kw/m
3を超えると、撹拌が強すぎて気泡を溶液中に巻き込んでしまい、均一な塩素化反応ができなくなる。上記正味撹拌動力Pvは、反応液1m
3当たり0.3〜2.0kw/m
3であることが好ましい。
【0032】
上記正味撹拌動力(Pv)は、「Pv=(Np×ρn
3d
5/10
2)×v×gc」の式で表される。
ここで、Npは動力数、ρは反応容器の内容物の密度(kg/m
3)、nは撹拌翼の回転数(1/秒)、dは翼長(m)、vは反応容器内の液量(m
3)、gcは重力換算係数を、それぞれ示す。
通常一定の攪拌回転数では重合開始後の系の粘度上昇と共にPvは大きくなり、その後一定となるがその上昇は僅かである。攪拌回転数は反応期間中一定でも良いし、また途中で変更しても良いが、工程1〜3において、上記正味撹拌動力が0.2〜2.5kw/m
3の範囲内でなければならない。
【0033】
本発明において、攪拌を行う撹拌翼としては、例えば、ねじり格子翼、ダブルヘリカル翼、リボン翼、パドル翼等が挙げられ、ねじり格子翼(例えば、日立製作所社製)及びダブルヘリカル翼を用いることが好ましい。ねじり格子翼には、撹拌に直接効果のないシャフト(主軸)がないため、シャフト付近での滞留が起こらず、また、重合溶液の粘度が高くなるほど滞留時間が短くなり、効率のよい撹拌を達成することができる。
【0034】
本発明では、熱塩素化の速度を向上させ、反応時間を短縮するために、過酸化水素を添加してもよい。但し、上記過酸化水素を昇温中に添加すると反応速度が速くなって温度が上昇し、反応温度を制御しにくくなることがある。
従って、上記過酸化水素は、反応容器内の部分塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有率が58重量%以上となった後に添加することが好ましい。
【0035】
上記過酸化水素の添加速度は、塩化ビニル系樹脂に対して3〜40ppm/Hrが好ましい。上記添加速度が3ppm/Hr未満であると、反応速度の促進効果が発揮されないことがあり、40ppm/Hrを超えると、得られた塩素化塩化ビニル系樹脂の熱安定性が損なわれることがある。
なお、上記過酸化水素の添加は、連続的であってもよく、断続的であってもよい。
また、上記過酸化水素の全添加量は、塩化ビニル系樹脂に対して10〜300ppmが好ましく、より好ましくは、20〜200ppmである。上記過酸化水素の全添加量が10ppm未満であると、反応速度の促進効果が発揮されないことがあり、300ppmを超えると、熱安定性が損なわれることがある。
【0036】
本発明では、上記工程1〜3に掛ける時間(全熱塩素化時間ともいう)は、6〜12時間とすることが好ましい。昇温時間を上記範囲内とすることで、均一に塩素化され、効率良く樹脂を生産することができる。
【0037】
本発明では、上記工程1〜3を終了した後、塩素化塩化ビニル系樹脂中の塩素含有率が所定の重量%に到達した時に、残存塩素を排ガスし、冷却して、塩素化反応を停止することが好ましい。
得られた塩素化塩化ビニル系樹脂を含有するスラリーを水洗して塩酸を除去し、必要に応じて中和剤等を加え、脱水、乾燥することにより所定の塩素含有率の塩素化塩化ビニル系樹脂粉末を得ることができる。
【0038】
本発明の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法を用いて塩素化塩化ビニル系樹脂を得ることができる。また、このような塩素化塩化ビニル系樹脂を用いて、塩素化塩化ビニル系樹脂組成物及び塩素化塩化ビニル系樹脂成型体を作製することができる。
このような塩素化塩化ビニル系樹脂成型体もまた本発明の1つである。
【0039】
本発明の塩素化塩化ビニル系樹脂成型体は、塩素化塩化ビニル系樹脂を80〜95重量%含有することが好ましい。これにより、耐熱安定性に優れた成形体とすることができる。
また、本発明の塩素化塩化ビニル系樹脂成型体は、厚さ5mmの板状とした場合の透明度が1〜10であることが好ましい。これにより、透明性が必要とされる工業板やパイプ等に好適に用いることができる。
なお、上記透明度は、例えば、ヘイズメーターを用いて測定することができる。