(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
腹水および/又は胸水を濾過するための入口と濾液出口を有する中空糸膜型濾過器を含む中空糸膜型体液濾過装置であって、前記中空糸膜型濾過器は入口が上側になるように縦に配置され、前記入口から流入した生体不要成分を含むタンパク質溶液が中空糸膜内を下方向に通液し、中空糸膜外に流出した前記タンパク質溶液の濾液が濾液出口から流出するように構成され、
前記中空糸膜型濾過器における、中空糸膜型濾過器内に配置された中空糸膜の下端側接着材面と下蓋とが形成する空間容量が、中空糸膜内容積の0.05倍以上、2.60倍以下である、中空糸膜型体液濾過装置。
前記貯留部材が容器及び前記容器と前記中空糸膜型濾過器の下端とを接続するチューブを含み、前記チューブが開閉手段により開閉することのできる、請求項3に記載の中空糸膜型体液濾過装置。
前記中空糸膜型濾過器における、中空糸膜の下端側接着材面から下蓋の内面までの高さが2.0mm以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の中空糸膜型体液濾過装置。
前記濾液出口が生体不要成分を除去したタンパク質溶液を濃縮する濃縮器または回収容器に接続されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の中空糸膜型体液濾過装置。
請求項1〜11のいずれか1項に記載の中空糸膜型体液濾過装置を用いて、生体不要成分を含むタンパク質溶液から生体不要成分を除去する濾過方法を実現する際に、前記中空糸膜型濾過器の入口側に陽圧をかけて前記タンパク質溶液を入口から通液させるポンプが作動する、中空糸膜型体液濾過装置の作動方法。
腹水および/又は胸水を濾過するための中空糸膜型濾過器を入口が上側になるように縦に配置し、原液容器から送られ、前記入口から流入した生体不要成分を含むタンパク質溶液を中空糸膜内を下方向に通液し、中空糸膜外に流出した前記タンパク質溶液の濾液を濾液出口から流出させ、
前記中空糸膜型濾過器における中空糸膜型濾過器内に配置された中空糸膜の下端側接着材面と下蓋とが形成する空間容量が中空糸膜内容積の0.05倍以上、2.60倍以下である、濾過方法。
前記中空糸膜型濾過器を上下逆さまにして、前記生体不要成分を含むタンパク質溶液を下から上に向けて通液し、その後、前記中空糸膜型濾過器の上下を元に戻して、生体不要成分を含むタンパク質溶液を上から下に向けて通液する、請求項15に記載の濾過方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞成分や乳糜、フィブリン塊等(以下、生体不要成分と総称する)が含まれるがん性腹水を濾過器で濾過する場合、肝性腹水の濾過と比較して、これら生体不要成分が濾過器内に貯留して目詰まりを起こし、濾過圧が上昇するまでの時間が短くなり、圧上昇するまでに処理できる腹水量が減る傾向にある。圧上昇した場合、濾過能力を回復するために濾過器の出口を開放して濾過器内部に溜まった生体不要成分のフラッシングを行ったり、洗浄液を流して濾材を洗浄したりするという煩雑な操作が必要となり、またフラッシングや洗浄を行う操作により腹水を廃液するため、有用なタンパク質の回収率が低下する。場合によっては濾過器を新しいものと交換する必要がある。これらの操作は、施行者にとり、作業面で負担のかかるものである上、経済面の不利益もある。また、患者にとっては、処理時間が長くなるため、腹水から回収したタンパク質溶液が投与されるまでの拘束時間が長くなったり、腹水から回収したタンパク質の投与量が減少したりするという不利益がある。
【0007】
本発明は上記の従来技術の問題点に鑑み、濾過器が圧上昇するまでに処理できるタンパク質溶液の量を増やす、生体不要成分を含むタンパク質溶液から生体不要成分を濾過する中空糸膜型体液濾過装置、及びタンパク質溶液の濾過方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について生体不要成分を含むタンパク質溶液の濾過器中空糸膜内の流れに着目して鋭意検討した結果、中空糸膜型濾過器は入口が上側になるように縦に配置され、前記入口から流入した生体不要成分を含むタンパク質溶液が濾過器中空糸膜内を下方向へ通液することによって、濾過器が圧上昇するまでに処理できるタンパク質溶液の量が増えることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の態様は以下を含む。
(1)腹水および/又は胸水を濾過するための入口と濾液出口を有する中空糸膜型濾過器を含む中空糸膜型体液濾過装置であって、前記中空糸膜型濾過器は入口が上側になるように縦に配置され、前記入口から流入した生体不要成分を含むタンパク質溶液が中空糸膜内を下方向に通液し、中空糸膜外に流出した前記タンパク質溶液の濾液が濾液出口から流出するように構成され、前記中空糸膜型濾過器における、中空糸膜型濾過器内に配置された中空糸膜の下端側接着材面と下蓋とが形成する空間容量が、中空糸膜内容積の0.05倍以上、2.60倍以下である、中空糸膜型体液濾過装置。
(2)前記中空糸膜内を通過した溶液を貯留する貯留部を有する、(1)に記載の中空糸膜型体液濾過装置。
(3)前記貯留部は、前記中空糸膜型濾過器の下端に接続された貯留部材を有する、(2)に記載の中空糸膜型体液濾過装置。
(4)前記貯留部材がチューブおよび/または容器を含む、(3)に記載の中空糸膜型体液濾過装置。
(5)前記貯留部材が容器及び前記容器と前記中空糸膜型濾過器の下端とを接続するチューブを含み、前記チューブが開閉手段により開閉することのできる、(3)に記載の中空糸膜型体液濾過装置。
(6)前記貯留部の容量が5mL以上である、(2)〜(5)のいずれか1項に記載の中空糸膜型体液濾過装置。
(7)前記中空糸膜型濾過器における、中空糸膜の下端側接着材面から下蓋の内面までの高さが2.0mm以上である、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の中空糸膜型体液濾過装置。
(8)前記中空糸膜型濾過器における、中空糸膜型濾過器内に配置された中空糸膜の下端側接着材面と下蓋とが形成する空間容量を中空糸膜本数で割った値が、0.88×10
-3mL/本以上である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の中空糸膜型体液濾過装置。
(9)前記入口が生体不要成分を含むタンパク質溶液を貯留する原液容器または患者に接続可能である、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の中空糸膜型体液濾過装置。
(10)前記濾液出口が生体不要成分を除去したタンパク質溶液を濃縮する濃縮器または回収容器に接続されている、(1)〜(9)のいずれか1項に記載の中空糸膜型体液濾過装置。
(11)前記原液容器または患者と、前記中空糸膜型濾過器との間に流量の制御手段を備える、(9)に記載の中空糸膜型体液濾過装置。
(12)(1)〜(11)のいずれか1項に記載の中空糸膜型体液濾過装置を用いて、生体不要成分を含むタンパク質溶液から生体不要成分を除去する濾過方法
を実現する際に、ポンプを作動させて、前記中空糸膜型濾過器の入口側に陽圧をかけて、前記タンパク質溶液を入口から通液
させる、
中空糸膜型体液濾過装置の作動方法。
(13)前記中空糸膜型濾過器の下端に
接続された貯留部材の入口側に
ある開閉手段を閉塞した状態で濾過を開始し、濾過中に前記開閉手段を開放する、
(12)に記載の
中空糸膜型体液濾過装置の作動方法。
(14)前記中空糸膜型濾過器の入口側の圧力及び/又は前記中空糸膜型濾過器の入口側の圧力から濾液出口側の圧力を減算した圧力に応じて、前記開閉手段を開放する、(
13)に記載の
中空糸膜型体液濾過装置の作動方法。
(15)腹水および/又は胸水を濾過するための中空糸膜型濾過器を入口が上側になるように縦に配置し、
原液容器から送られ、前記入口から流入した生体不要成分を含むタンパク質溶液を中空糸膜内を下方向に通液し、中空糸膜外に流出した前記タンパク質溶液の濾液を濾液出口から流出させ、
前記中空糸膜型濾過器における中空糸膜型濾過器内に配置された中空糸膜の下端側接着材面と下蓋とが形成する空間容量が中空糸膜内容積の0.05倍以上、2.60倍以下である、濾過方法。
(16)前記中空糸膜型濾過器を上下逆さまにして、前記生体不要成分を含むタンパク質溶液を下から上に向けて通液し、その後、前記中空糸膜型濾過器の上下を元に戻して、生体不要成分を含むタンパク質溶液を上から下に向けて通液する、
(15)に記載の濾過方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、がん性腹水等のがん細胞、細菌、血球成分などの細胞成分や乳糜、フィブリン塊等が多く含まれるタンパク質溶液を濾過器で濾過し、それらを除去したタンパク質溶液を作製する方法において、圧上昇するまでに処理できるタンパク質溶液の量を増やすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本実施態様の中空糸膜型体液濾過装置は、入口と濾液出口を有する中空糸膜型濾過器を含み、前記中空糸膜型濾過器は入口が上側になるように縦に配置され、前記入口から流入した生体不要成分を含むタンパク質溶液が中空糸膜内を下方向に通液し、前記タンパク質溶液の濾液が濾液出口から流出する。
【0013】
本実施態様の中空糸膜型体液濾過装置は、生体不要成分を含むタンパク質溶液を濾過し、生体不要成分を除去したタンパク質溶液を作製する装置である。
【0014】
本明細書中、生体不要成分を含むタンパク質溶液とは、細菌やがん細胞、血球成分などの細胞成分や乳糜、フィブリン塊等(以下、生体不要成分と総称する)が含まれる体液を意味する。特定のがん患者や、肝臓病患者等には、生体に必要なタンパク質とともに生体不要成分を含む腹水や胸水が溜まることが知られており、このような腹水や胸水をろ過して生体不要成分を除き、生体に必要な成分を患者に戻すために中空糸膜型体液濾過装置による処理は有用である。
【0015】
本明細書中、体液とは、主として腹水、胸水及び腹水と胸水の混合物を意味する。「中空糸膜型体液濾過装置」は少なくとも中空糸膜型濾過器を含み、これに加えてタンパク質溶液を導入するための回路や、濾液を導出するための回路を含む機器を示す。中空糸膜型体液濾過装置による体液処理においては、一旦バッグ等の原液容器に貯留してから導入する態様が一般的であるが、患者から採取した体液を直接濾過器に導入する態様も採用しうる。前者の場合は、原液容器及び原液容器と濾過器をつなぐ回路が中空糸膜型体液濾過装置に含まれ、後者の場合は、体液の採取手段と、採取手段と濾過器をつなぐ回路が中空糸膜型体液濾過装置に含まれる。また、タンパク質溶液の濾液は濃縮してから患者に戻すのが一般的であるが、濾液を回収容器に一旦貯留してから濃縮してもよいし、濾過器と濃縮器とをつないで連続的に処理してもよい。各態様に含まれる濾液の回収容器や濃縮器、回路等も中空糸膜型体液濾過装置に含まれる。各態様については、追って図を参照して詳述する。
【0016】
図1は、中空糸膜型濾過器1の一例を示す。
図1に示されるように、中空糸膜型濾過器1は、筒状容器3と、筒状容器3の長手方向に沿って装填され、両端部が筒状容器3の両端部に固定されている中空糸膜4の束5と、筒状容器3の両端部の内側で中空糸膜4の束5の両端部を包囲すると共に、中空糸膜4の束5の両端部が埋設されて固定された接着材7と、筒状容器3の両端部にそれぞれ設けられる、中空糸膜4の端面に連通する入口11または通液口12を有する蓋(上側を上蓋3a、下側を下蓋3bという)と、筒状容器3の側面部に設けられた中空糸膜外側と連通する濾液出口9とを備える。濾液出口9は1以上設けてよい。濾液出口9を2個設けた場合は2個用いてもよいし、1個を使用しても良い。
【0017】
中空糸膜4は生体不要成分と水分、及び電解質やタンパク質などの溶質成分を分離できる膜である。素材は特に限定はなく、製膜時に孔径制御がしやすく且つ化学的安定性に優れる理由から、ポリエチレンなどのポリオレフィン系高分子、ポリスルホン系高分子、再生セルロース系高分子、ポリビニルアルコール系高分子などが好ましい。これら例示した中空糸膜素材には他の材料が含有されていても良く、また化学的に修飾されていても良い。中空糸膜4の基材に疎水性高分子を使用する場合は、膜に親水性を付与する為に親水性高分子をブレンドして製膜することが一般的である。親水性高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。あるいはこれら親水性高分子を中空糸膜4の基材にコーティングしてもよい。通常、孔径が0.2μm以下で、かつタンパク質の透過率が80%以上である中空糸膜4が用いられる。中空糸膜4は、汎従来公知の技術により製造できる。
【0018】
中空糸膜型濾過器1の製造方法に関しても公知の方法を利用すればよい。例えば、中空糸膜束5を筒状容器3へ挿入し、両束端にポリウレタン等の接着材を注入して両端をシールした後、硬化後の余分な接着材を切断除去し中空糸膜端面を開口させ、蓋(上蓋3aおよび下蓋3b)を取り付けることにより製造できる。この方法により中空糸膜4の束5が筒状容器3に充填され、中空糸膜内側室と中空糸膜外側室とが形成され、中空糸膜内側室に通じる流体出入口11、12および中空糸膜外側室に通じる濾液出口9を持つ中空糸膜型濾過器1が製造できる。
【0019】
本実施態様における中空糸膜型体液濾過装置20は、
図2に示すように、入口11が上側になるように縦に配置され、生体不要成分を含むタンパク質溶液を入口11から通液し、生体不要成分を含むタンパク質溶液は中空糸膜内側流路を下向きに流れ、中空糸膜4を介して生体不要成分の濾過が行われ、濾液出口9からタンパク質溶液の濾液を得る。濾液は、濾液出口9に接続された回収容器30に収容される。回収容器30は、液体を貯留することができればどのようなものでもよいが、通常、取り扱い性の観点から、ポリ塩化ビニル製のバッグが用いられる。回収容器30の大きさは回収される濾液の量などにより決定される。濾液が多く回収容器1個に収容できない場合、回収容器30は2個以上用いてよく、1個目の回収容器30が満杯になったら次の回収容器30と交換する。中空糸膜型濾過器1と原液容器40との流路、及び中空糸膜型濾過器1と回収容器30との流路はチューブで接続されている。一般的に、ポリ塩化ビニルなどから製造される軟質チューブが用いられる。中空糸膜型濾過器1と原液容器40との間のチューブには、ローラーポンプ41が設けられている。中空糸膜型濾過器1と回収容器30との間のチューブには、エアーベントフィルター42とクランプ43が接続されている。
【0020】
従来、腹水濾過濃縮再静注法における生体不要成分を含むタンパク質溶液の濾過は、中空糸膜型濾過器は、入口を下側になるように縦に配置され、入口から流入した生体不要成分を含むタンパク質溶液が中空糸膜内を上方向へ通液していた。中空糸膜型濾過器を用いた生体不要成分を含むタンパク質溶液の濾過において、本発明者らが検討を進めたところ、タンパク質溶液の濾過方向を下向きにすることで、生体不要成分が濾過器内に貯留して目詰まりを起こし濾過圧が上昇するまでの時間が長くなり、圧上昇するまでに処理できる生体不要成分を含むタンパク質溶液の量が増えることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0021】
濾過方向を下向きにすることで、生体不要成分が中空糸膜4内の下部から順に充填されていくことにより、生体不要成分による目詰まりまでの時間が延長し、濾過量の増加に至ったと推測した。
【0022】
濾過の間、下蓋3bに設けられた通液口12は閉鎖されている。通液口12を直接閉じてもよいし、通液口12に接続したチューブの通液口12側をクランプや鉗子などの部品で閉鎖して用いてもよい。
【0023】
中空糸膜4内のタンパク質溶液の濾過は、初めから上から下に向かって通液してもよく、初め下から上に向かって通液して途中から方向を変えてもよい。途中から、方向を変える場合は、例えば、初めは中空糸膜型濾過器1を上下逆向き、すなわち入口11を下にし、通液口12を上にして、下から上に向けてタンパク質溶液を通液し、濾過器入口圧やTMP(膜間圧力差。濾過器の入口11側の圧力から濾液出口9側の圧力を減算した圧力。)が、例えば、1kPaから20kPaの範囲になったときに、中空糸膜型濾過器1の上下を元に戻し、タンパク質溶液を上から下に向けて通液して濾過を再開することができる。
【0024】
なお、中空糸膜型濾過器1で濾過を行うとき、入口11側の容器内部にエアが存在すると液体が通過できない体積が形成され、中空糸膜4内の片流れ(中空糸膜4の一部しか液体が通過せず、濾過面積を有効に利用できない現象)が生じる場合がある。したがって、入口11側の容器内部にエアが混入することを防ぐことが重要である。ここで、濾過前に中空糸膜型濾過器1内の溶液や気体(エア)を生理食塩液等でプライミングする場合、中空糸膜型濾過器1を上下逆さまにして、中空糸膜4内を下から上に向けてプライミング液を通液すると、中空糸膜4内や上蓋3a、下蓋3b内、中空糸膜外空間のエアが容易に排除される。その後、引き続きタンパク質溶液の濾過を開始する場合も、中空糸膜型濾過器1内がタンパク質溶液で置換されるまで、中空糸膜型濾過器1を上下逆さまにしたまま、中空糸膜4内を下から上に向けて通液することができる。また、濾過初期に中空糸膜型濾過器1を上下逆さまにしてエアが混入した場合も、下側に位置する上蓋3a内に入ったエアは中空糸膜4内を上に向かって移動するため、中空糸膜型濾過器1の上下を元に戻して濾過を続けることができる。というのも、上下逆さまの時に上蓋3a内に入ったエアは上に向かって下蓋3bに向かい、上下を元に戻せば、エアが中空糸膜型濾過器1の下蓋3bに存在するため、入口11側の容器内部のエアが液体の流れを阻害し、中空糸膜4内の片流れを引き起こすことを防ぐことができるためである。また、例えば、溶液が充填されていない(ドライの)中空糸膜型濾過器1をプライミングせずにそのまま濾過に用いる場合、中空糸膜型濾過器1を上下逆さまにしたまま、上側の通液口12にプライミング用回路を接続し、プライミング用回路を開けた状態でタンパク質溶液を下から上に向けて通液し、タンパク質溶液が通液口12から出てくる前にプライミング用回路の通液口12側を閉じることにより、中空糸膜4内や上蓋3a、下蓋3b内のエアを効率よくプライミング用回路から排出できる。
【0025】
中空糸膜型体液濾過装置20は、中空糸膜4内を通過した溶液を貯留する貯留部を有するようにしてもよい。この場合は、中空糸膜型濾過器1の下端に貯留部材を接続して貯留部を設けてもよく、あるいは中空糸膜型濾過器内に配置された中空糸膜の下端側接着材面と下蓋とが形成する空間に貯留部を設けてもよく、その両方であってもよい。
【0026】
図3は、本実施形態の中空糸膜型体液濾過装置20の別の例を示す。
図3に示す例においては、中空糸膜型濾過器1の下端に貯留部材50が接続されている。貯留部材50は、中空糸膜型濾過器1の下蓋3bに有する通液口12に接続されており、中空糸膜型濾過器1内に体液が導入されると、体液に含まれる生体不要成分は濾過圧により下方向へ移動する。中空糸膜型濾過器1の下端に貯留部材50を接続して貯留部を設けることにより、生体不要成分が貯留部へ貯留され、中空糸膜4内への生体不要成分の貯留と目詰まりの速度が遅くなり、濾過圧が上昇するまでの時間が長くなり、圧上昇するまでに処理できる生体不要成分を含むタンパク質溶液量が更に増える。
【0027】
貯留部材50の出口はクランプ51によって閉じられており、中空糸膜型濾過器1の下端からクランプ51の上端まで、すなわち貯留部材50のうち貯留部として機能する部分の容量は、クランプ51の位置を変更することによって増減可能である。
【0028】
中空糸膜型濾過器1の下端から貯留部材50の最下部までの距離Fは、貯留部の容量を確保する観点で、10cm以上であることが好ましい。更に好ましくは20cm以上である。また、医療施設における施行者の作業性の観点から、好ましくは100cm以下であり、更に好ましくは60cm以下である。
【0029】
貯留部材50を閉じているクランプ51を開くことにより、貯留部材50内にあるエアを排出することも可能である。貯留部材50の開閉手段はクランプ51の他に、鉗子などを用いることが出来る。開閉をクランプや鉗子などで行う場合、貯留部材50のうち貯留部として機能する部分の容量は、予め設定した容量で不足した場合等には、濾過中これら開閉手段の移動により変更することもできる。濾過前に中空糸膜型濾過器1内を例えば生理食塩液等でプライミングする場合、貯留部材50であるチューブの先にプライミング用回路を接続して用いても良いし、チューブをプライミング用回路として併用してもよい。また、中空糸膜型濾過器1下端に接続したチューブは分岐することもでき、例えば2本に分岐する場合、1本は貯留部材50として用い、残りの1本はプライミング用回路として用いてもよい。チューブの寸法や材質は特に限定されないが、チューブの内径は生体不要成分を貯留する機能を保持する観点から3.0mm以上が好ましい。またポリ塩化ビニルなどから製造される軟質チューブが好ましい。
【0030】
図4は、本実施形態の中空糸膜型体液濾過装置20のさらに別の例を示す。中空糸膜型濾過器1には、チューブ60を介して容器61が接続され、貯留部材を形成している。
図4に示す例では、容器61は、チューブ60を介して接続されているが、中空糸膜型濾過器1に直接接続されていても良い。
【0031】
貯留部材に用いる容器61は硬質材質から成る容器でも軟質材質から成る容器でもよい。硬質容器の場合、生体不要成分を含むタンパク質溶液が貯留できるように、容器61と中空糸膜型濾過器1との接続部以外の部分にエアや液体を排出する開閉口を設けるのが好ましい。開閉口が設けられていると、容器61内に生体不要成分を含むタンパク質溶液を貯留し始める際に、開閉口から容器61内のエアを排出したり、濾過前に事前にプライミング液を満たすためにエアを排出したりすることができる。容器61が軟質部材の場合、硬質部材の場合と同様にエアや液体を排出する開閉口を設けてもよいし、濾過開始時は容器61内のエアまたはプライミング液を極力排出した状態で開始してもよい。また、硬質部材の容器と軟質材質の容器61ともに、開閉口には例えば細菌の混入を防ぐために除菌用エアーベントフィルターを接続してもよいし、回路を接続してプライミング液の流路として用いてもよい。容器61の寸法や材質は特に限定されない。材質は、例えば硬質容器の場合、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン・ブタジエン共重合体樹脂などが用いられ、軟質容器の場合、ポリ塩化ビニル樹脂などが用いられる。
【0032】
図4に示すように、貯留部材がチューブ60と、チューブ60に接続された容器61とからなる場合、チューブ60を入口側開閉手段により開閉自在にすることが好ましい。この場合、容器61の材質に依らず、貯留部材に開閉手段を設けるのが容易であり、クランプや鉗子によりなされ、操作性も簡易である。チューブ60と容器61は、一体化されていてもよいし、チューブ60と容器61とに例えばルアーコネクタ62などの接続部品を備え、接続可能な別の部材から構成されていてもよい。チューブ60の接続部品に、プライミング時は容器61の代わりにプライミング用回路を接続し、濾過時は容器61に接続することもできる。また、生体不要成分を含むタンパク質溶液の濾過量が大量である場合であって、濾過器入口圧やTMPが上昇した後も濾過を継続したい場合は、チューブ60上の開閉手段を閉じ、容器61を交換することもできる。
【0033】
入口側開閉手段は、中空糸膜型濾過器1との接続部に設けられてもよいし、貯留部材の中空糸膜型濾過器1側の末端に設けられてもよい。入口開閉手段はコックでもよいし、
図4に示す例のように貯留部材がチューブ60と容器61からなる場合には、チューブ60を挟持するクランプや鉗子でもよい。また容器を交換する場合、更に容器入口に開閉手段を設けておき容器を密閉して交換することもできる。
【0034】
貯留部材の入口側開閉手段は始めから開けた状態で濾過を開始しても良いし、閉じた状態で濾過を開始し、濾過の途中で開けてもよい。例えば中空糸膜型濾過器1内にプライミング液が充填されている場合、濾過開始時は、タンパク質溶液が貯留部内に流入し始めるまでプライミング液量分時間がかかる。濾過の初期はプライミング液によって中空糸膜4内のタンパク質溶液は希釈されている。特に、貯留部材として容器61を用い、かつ開始時に貯留部材内にプライミング液等の溶液が入っていない場合、中空糸膜型濾過器1内のタンパク質溶液の濃度が、流入するタンパク質溶液の濃度と同等以上になってから、貯留部を使用すると、濾過器1の圧上昇までの時間が延びる。
【0035】
貯留部材の入口側開閉手段を開放するタイミングは、中空糸膜型濾過器1の入口圧またはTMPが一定圧以上になった時点、または生体不要成分を含むタンパク質溶液の濾過量が一定量以上になった時点とするのが好ましい。開放後は、貯留部材の入口側開閉手段を開けた状態のまま濾過を継続することができる。
【0036】
これらのタイミングは、生体不要成分を含むタンパク質溶液の流入速度や濾過開始からの圧の上昇速度、タンパク質溶液の濃度、生体不要成分の内容などから決めることができる。濾過器入口圧またはTMPに応じて開ける場合、開閉手段を開ける圧は好ましくは2kPa以上、より好ましくは5kPa以上である。また、濾過器入口圧またはTMPが上昇していくと中空糸膜4の目詰まりが進んでいることが考えられるため、開閉手段を開ける濾過器入口圧またはTMPは、好ましくは20kPa以下、より好ましくは10kPa以下である。更に、貯留部材の入口側の開閉手段を濾過途中から開ける場合であって、かつ貯留部材内がプライミング液などの溶液で満たされていない場合、中空糸膜型濾過器1と貯留部との落差により中空糸膜4内の生体不要成分を含むタンパク質溶液が勢いよく貯留部内へ流入する。これにより貯留部材入口側の開閉手段を開けて生体不要成分を含むタンパク質溶液が貯留部内へ流入する速度が、濾過器入口から流入する生体不要成分を含むタンパク質溶液の流入速度よりも早い場合、中空糸膜4の外側にある濾過されたタンパク質溶液が中空糸膜4内へ流れ、中空糸膜4上での濾過方向が逆となり、すなわち逆濾過が一時的に発生する。この場合、中空糸膜4の目詰まりが逆濾過により洗浄され、目詰まり状態が緩和することから、より中空糸膜型濾過器1の圧上昇までの時間が延び、好ましい。
【0037】
図5は、中空糸膜型濾過器1の別の例を部分的に示す。
図5に示す中空糸膜型濾過器1は、貯留部として、中空糸膜4の下端側接着材面7aと下蓋3bとが形成する空間の容量(
図5の斜線部A)(以下、「空間容量A」とする。)を十分備え、例えば一般的な中空糸膜型濾過器1と比較して大きく設計されていてもよい。空間容量Aは、中空糸膜内容積の0.05倍以上であることが好ましい。また、下蓋3bの空間容量Aは、中空糸膜4の上端側接着材面と上蓋3aとが形成する空間の容量(下蓋3bに対応する上蓋3a内の空間容量)より大きく形成されていてもよい。
【0038】
空間容量Aは、以下の方法で求めることが出来る。中空糸膜4の下端側接着材面7aと下蓋3bとの間の空間を、断面形状に基づく単純な形状に近似して求める方法である。例えば、筒状容器3の下端部に下蓋3bを装着した状態の断面図(筒状容器3の軸線Bに沿った縦断面図)において、中空糸膜の下端側接着材面7a、下蓋3bの内面C(タンパク質溶液接触面)、及び下蓋3bの先端(通液口12の先端)で囲まれる断面積(
図5の斜線部Aの断面積)を下蓋3bの軸線Bを中心に360度回転させたときにできる空間の体積(mL)を、一般的な円柱、円錐台などの体積を求める式を用いて算出できる。中空糸膜型濾過器1内の寸法は、例えばX線CT装置で測定したり、中空糸膜型濾過器1を解体してノギス等で測定してもよい。
【0039】
中空糸膜内容積は、中空糸膜4の内径をd、中空糸膜4の長さをL、中空糸膜4の本数をNとすると、以下の式で算出される。
中空糸膜内容積=(d/2)
2×π×L×N
【0040】
空間容量Aは、中空糸膜内容積のより好ましくは0.07倍以上、より好ましくは0.10倍以上、より好ましくは0.20倍以上、更に好ましくは0.40倍以上である。また、中空糸膜型濾過器1の取り扱い性の観点から、より好ましくは2.60倍以下であり、より好ましくは1.30倍以下である。
【0041】
中空糸膜型濾過器1は、中空糸膜の下端側の接着材面7aから下蓋3bの内面Cまでの高さ(高さE)が、2.0mm以上であることが好ましい。2.0mm以上であると、生体不要成分が凝集し下蓋内空間の一部に滞留して中空糸膜4の開孔部を塞ぐのを防止し易い。
図5に示すように、下端側の接着材面7aから下蓋3bの内面Cまでの高さとは、接着材面7aのうち中空糸膜4の開口部が位置する部分から、接着材面7aに対し垂直に伸ばして下蓋内面Cに接するまでの最短距離である。但し、内面Cの表面に貯留容量に影響を与えない程度の凸部がある場合、その凸部部分は除外した最短距離とする。高さEはより好ましくは3.7mm以上、より好ましくは5.0mm以上、より好ましくは10.0mm以上であり、更に好ましくは15.0mm以上である。中空糸膜型濾過器1の取り扱い性から、100.0mm以下がより好ましく、更に50.0mm以下が好ましい。
【0042】
中空糸膜型濾過器1は、中空糸膜型濾過器1内に配置された中空糸膜4の下端側接着材面7aと下蓋3bとが形成する空間容量Aを中空糸膜4の本数で割った値が、0.88×10
−3mL/本以上であることが好ましい。空間容量Aを中空糸膜4の本数で割った値が0.88×10
−3mL/本以上であると、中空糸膜本数に対する空間容量Aが大きい程生体不要成分が下蓋空間内にスムーズに拡散し中空糸膜4の開孔部を塞ぐリスクを低減できる。より好ましくは1.20×10
−3mL/本以上、より好ましくは1.59×10
−3mL/本以上、より好ましくは3.96×10
−3mL/本以上であり、更に好ましくは6.14×10
−3mL/本以上である。中空糸膜型濾過器1の取り扱い性から、44.0×10
−3mL/本以下がより好ましく、更に22.0×10
−3mL/本以下が好ましい。
【0043】
図5は中空糸膜型濾過器1の例示のみであるが、中空糸膜型体液濾過装置20の一部として利用する場合、中空糸膜型濾過器1の下端に貯留部材を接続してもよいし、貯留部材を接続しないで使用してもよい。空間容量Aの大きい中空糸膜型濾過器1は、貯留部材を接続しない態様においても、生体不要成分を接着材面7aより下に貯留しやすく、膜の目詰まりを起こしにくい点で有利である。
【0044】
貯留部の容量は5mL以上が好ましく、より好ましくは10mL以上であり、更に好ましくは15mL以上、特に好ましくは50mL以上である。貯留部の容量が増すほど生体不要成分を貯留できる容量が増し、圧上昇するまでに処理できる生体不要成分を含むタンパク質溶液量が増加する。また、タンパク質溶液の液量の回収率を確保するために、より好ましくは405mL以下であり、205mL以下であり、更に好ましくは105mL以下である。なお、本実施の形態において、「貯留部の容量」は、中空糸膜型濾過器1の下端に貯留部材が設けられていない場合には、空間容量Aであり、中空糸膜型濾過器1の下端に貯留部材が設けられている場合には、空間容量Aに貯留部材の容量を加えた容量となる。
【0045】
図6に示す中空糸膜型体液濾過装置20は、中空糸膜型濾過器1の入口が生体不要成分を含むタンパク質溶液を貯留する原液容器40に接続され、濾液出口9は濃縮器に接続されている。原液容器40は、患者から採取した体液を収容しており、体液はポンプ41によって送られ、中空糸膜型濾過器1に導入される。ポンプ41としては、ローラーポンプや輸液ポンプなどのポンプが一般的に用いられる。ポンプの駆動を制御する制御装置を設けても良い。制御装置は、例えばコンピュータであり、所望の制御に係る情報を施行者に入力させる入力端末を兼ねてもよい。入口圧またはTMPが一定圧以上に上昇したら、流量を下げたり流量を停止するなどの流量制御を行ってもよい。
【0046】
本実施形態の中空糸膜型体液濾過装置20において、中空糸膜型濾過器1の入口11から流入する生体不要成分を含むタンパク質溶液の流量は、中空糸膜型濾過器1の中空糸膜単一面積あたり、好ましくは3mL/min/m
2以上であり、好ましくは5mL/min/m
2以上であり、さらに好ましくは10mL/min/m
2以上である。流量が増えるほどより濾過時間が短縮され効率がよい。また、好ましくは300mL/min/m
2以下であり、好ましくは200mL/min/m
2以下であり、更に好ましくは100mL/min/m
2以下である。生体不要成分の量にもよるが、300mL/min/m
2以下では中空糸膜4への生体不要成分の目詰まりがより起こりにくい。中空糸膜型濾過器1の中空糸膜面積は、中空糸膜の長さと本数、中空糸膜の径から求めることができる。径は、中空糸膜4の内側から外側へ濾過する場合は内径、中空糸膜4の外側から内側へ濾過する場合は外径を用いる。
【0047】
原液容器40は、液体を貯留することができればどのようなものでもよいが、通常、取り扱い性の観点から、ポリ塩化ビニル製のバッグが用いられる。原液容器40の大きさは貯留される体液の量などにより決定される。患者から採取する体液が多く原液容器1個に収容できない場合、原液容器40は2個以上用いてよく、原液容器1個分の濾過が終了したら次の原液容器40と交換する。また、体液を採取するにあたり、混在する血球成分の活性化を抑制するために、タンパク質溶液に抗凝固剤を添加してもよい。抗凝固剤の種類は、クエン酸又はその塩からなる群の他、フサン、ヘパリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などを使用することができるが、ヘパリンを好適に使用することができる。
【0048】
図6に示す例では、原液容器40が回路に接続されているが、原液容器40を使用せず、患者から採取した体液を直接又はポンプを介して中空糸膜型濾過器1に導入してもよい。患者から採取した体液を直接濾過器1に導入する場合、その採取速度の確認や逆流防止のために、点滴筒を用い、また採取速度を調整するためにローラークランプなどを備えることが好ましい。下蓋3bに接続されるチューブ60には、開閉手段としてのクランプ63が設けられている。
【0049】
濾液出口9の先に濃縮器(図示せず)が接続されており、濃縮器に濾液が導入される。中空糸膜型濾過器1により得たタンパク質溶液から、水分や電解質などを除去し、栄養成分であるアルブミンを含むタンパク質成分は濃縮する。また、濃縮器の濃縮液出口は、回収容器に接続されていてもよい。
【0050】
図7に示す中空糸膜型体液濾過装置20は、原液容器40が中空糸膜型濾過器1にポンプ等の送液手段を介さずに接続されている以外、
図6に示す例とほぼ同じであるので、相違点のみ説明する。
【0051】
原液容器40は中空糸膜型濾過器1より高い位置に設けられており、原液は重力によって中空糸膜型濾過器1に導入されるようになっている。原液容器を使用せず、患者から採取した体液をそのまま濾過する場合は、穿刺位置を中空糸膜型濾過器1より高くする必要がある。
【0052】
流量の制御手段(図示せず)を設ける場合は、原液容器40または患者と、中空糸膜型濾過器1との間に備えることが好ましい。
【0053】
図7に示す例では、濾液出口9の先に濃縮器が接続されており、落差圧を駆動力として濃縮しているが、中空糸膜型濾過器1と濃縮器との駆動方法の組み合わせは特に限定されず、
図6に示すように濃縮器はローラーポンプ41によって駆動してもよく、原液の性状やシステムの設置場所等に応じて任意に設定可能である。ローラーポンプの代わりに吸引装置を使用してもよい。
【0054】
流量の制御手段を、中空糸膜型濾過器1の濾液出口9側に設けてもよい。また、濾過中は、流量の制御手段を原液容器40(または患者)と中空糸膜型濾過器1との間に設けておき、濾過終了後に制御手段を中空糸膜型濾過器1と濃縮器または回収容器との間に付け替えてもよい。これにより濾過終了時、中空糸膜4の外側と濾液出口9との間の空間内にあるタンパク質溶液を送出することにも用いることができる。濾過終了時、エアが中空糸膜型濾過器1の入口11まで達した時、例えば中空糸膜型濾過器1の濾液出口9側の回路上のクランプ43を開け除菌用エアーベントフィルター42を介してエアを取り入れ、タンパク質溶液を回収する。回収に制御手段を使わない場合は、濾液出口9の高さをタンパク質溶液の最終出口(中空糸膜型濾過器1の濾液出口9側に接続する濃縮器または回収容器30の入口の位置)の高さよりも高い位置に配置し、落差を用いて回収することもできる。
【0055】
タンパク質溶液を入口から通液するにあたり、前記中空糸膜型濾過器1の入口11側に陽圧をかけて通液することが好ましい。陽圧をかけることにより、中空糸膜型体液濾過装置20の圧上昇までの時間延長効果が大きくなる。
【0056】
以上の実施の形態では、中空糸膜の内側から外側に濾過する例であったが、上記すべての態様において、中空糸膜の外側から内側へ濾過してもよい。この場合、中空糸膜型体液濾過装置20は、中空糸膜型濾過器1は入口が上側になるように縦に配置され、当該入口から流入した生体不要成分を含むタンパク質溶液が中空糸膜の外側を下方向に通液し、中空糸膜の内側に流出した前記タンパク質溶液の濾液が濾液出口から流出するように構成される。すなわち、生体不要成分を含むタンパク質溶液を、
図1の中空糸膜型濾過器1における上側の入口(上記実施の形態における上側の濾液出口)9から流入させ、当該入口9から流入した生体不要成分を含むタンパク質溶液が中空糸膜4の外側を下方向に通液し、中空糸膜4の内側に流出したタンパク質溶液の濾液が濾液出口(上記実施の形態における通液口)12から流出する。
【実施例】
【0057】
以下の実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0058】
[疑似腹水の作製方法]
生体不要成分を含むタンパク質溶液として、ウシの血液を用いた血球成分を含む疑似腹水を作製した。まず、抗凝固剤としてヘパリンナトリウム注(1万単位/牛血液1L)を添加した牛血液を遠心分離し、血漿層、赤血球層およびバフィーコート層の各溶液を得て、これらを別々に回収した。次に血漿と生理食塩液を混和してタンパク質濃度を調製した希釈血漿を作製した。またそのアルブミン濃度も測定した。そして、希釈血漿にバフィーコート層を添加して白血球数を調製し、不足した赤血球として赤血球層の溶液を添加し、疑似腹水を作製した。
【0059】
タンパク質濃度は、ビューレット法により測定した。自動分析装置(東京貿易メディカルシステム(株)社製、Biolis24i)、測定用試薬としてイアトロTPII((株)LSIメディエンス社製)を用いた。
【0060】
アルブミン濃度は、BCG法により測定した。自動分析装置(東京貿易メディカルシステム(株)社製、Biolis24i)、測定用試薬としてイアトロファインALBII((株)LSIメディエンス社製)を用いた。
【0061】
赤血球数および白血球数は、ミクロセルカウンター(シスメックス(株)社製、XT−1800i)を用いて測定した。
【0062】
(実施例1)
組成、タンパク質濃度4.15g/dL、アルブミン濃度2.17g/dL、白血球数1,010個/μL、赤血球数190,000個/μLの疑似腹水を作製した。
【0063】
図2に示す装置を使用し、中空糸膜型体液濾過装置内を生理食塩液でプライミングした後、疑似腹水を濾過した。濾過は、回収容器入口の位置を中空糸膜型濾過器の中心位置と合わせ、ローラーポンプと中空糸膜型濾過器との間に圧力計を接続し、中空糸膜型濾過器の入口側圧力が40kPaに達するまで(濾過の開始から中空糸膜型濾過器の入口側圧力が40kPaに達するまでの時間を濾過時間とした。)流速50mL/minで行った。その後一旦ポンプを停止し、中空糸膜型濾過器の入口側回路を鉗子でクランプし、ポンプ位置を中空糸膜型濾過器と回収容器との間に付け替え、中空糸膜型濾過器の濾液出口回路上にあるエアーベントフィルターのクランプを開け、中空糸膜外側空間にあるタンパク質溶液も回収した。使用した中空糸膜型濾過器の中空糸膜、下蓋を表1に示す。上蓋は下蓋と同一のものを使用した。なお、中空糸膜は、ポリエチレン製の中空糸膜に親水化剤としてエチレン・ビニルアルコール共重合体をコーティングしたものを用い、内径は291μm、膜厚は45μm、平均孔径は0.2μm以下、透水量は1.0L/hr・m
2・mmHg、長さLは244mmであった。
【0064】
中空糸膜型濾過器の入口側圧力が40kPaに達するまでの時間と濾過液量、および回収したアルブミン溶液のアルブミン量を測定した。測定結果を表1に併せて示す。回収したアルブミン量は、回収したアルブミン溶液の液量にアルブミン濃度を乗じて求めた。
【0065】
(実施例2)
中空糸膜型濾過器に表1の実施例2欄に示すものを使用し、濾過流速を80mL/minへ変更した以外実施例1と同様にして疑似腹水を濾過した。結果を表1に併せて示す。
【0066】
(実施例3)
疑似腹水の組成を、タンパク質濃度2.95g/dL、アルブミン濃度1.54g/dL、白血球数500個/μL、赤血球数100,000個/μLへ変更した以外実施例1と同様にして疑似腹水を濾過した。結果を表1に併せて示す。
【0067】
(比較例1)
中空糸膜型濾過器の入口を下側に反転して配置した以外実施例1と同様にして疑似腹水を濾過した。なお、中空糸膜型濾過器の入口を下側に反転して配置する本比較例では、下蓋が上側に配置されていることになる(他の比較例においても同様。)。結果を表1に併せて示す。
【0068】
(比較例2)
以下の操作以外比較例1と同様にして疑似腹水を濾過した。結果を表1に併せて示す。疑似腹水量を3,000mL原液容器に入れ濾過を開始し、中空糸膜型濾過器の入口側圧力が40kPaに達するまで流速50mL/minで濾過した。次にフラッシングを行った後、更に同じ濾過流速で濾過を継続し、疑似腹水が中空糸膜型濾過器の入口に達するまで濾過した。濾液は全て回収容器に回収した。最終圧力は40kPaであった。フラッシングは、ポンプを一旦停止し、濾液出口側回路を鉗子で閉鎖し、中空糸膜型濾過器の上側に配置された下蓋の通液口に回路を取り付け、ポンプを再開して中空糸膜内の溶液130mLを排出する方法で行った。フラッシングの操作時間として4分を要した。
【0069】
(比較例3)
中空糸膜型濾過器の入口を下側に反転して配置した以外実施例2と同様にして疑似腹水を濾過した。結果を表1に併せて示す。
【0070】
(比較例4)
中空糸膜型濾過器の入口を下側に反転して配置した以外実施例3と同様にして疑似腹水を濾過した。結果を表1に併せて示す。
【0071】
実施例1と比較例1、実施例2と比較例3、実施例3と比較例4の結果から、中空糸膜型濾過器の入口を上側になるように縦に配置し、疑似腹水を下方向へ濾過する方が、入口を下側に配置し疑似腹水を上方向に濾過するよりも圧上昇までの時間が延長し、結果得られたアルブミン量は多くなることが分かった。また比較例2の結果から、入口を下側に配置し疑似腹水を上方向に濾過する方法において操作が煩雑なフラッシングを行った場合、合計濾過時間は伸びるものの回収できるアルブミン量は減少することが分かった。
【0072】
【表1】
【0073】
(実施例4〜7)
中空糸膜型濾過器の下蓋に表2の各実施例欄に記載の貯留部材を接続した以外実施例1と同様にして疑似腹水を濾過した。貯留部材として使用したチューブAは内径3.4mmのポリ塩化ビニル製チューブであり、チューブの一端にルアーコネクタを接着し、そのルアーコネクタを介して下蓋の通液口に接続した。また、プライミング時はチューブAを介してプライミングを行い、濾過前にクランプで所定長さ部分を閉じて濾過した。結果を表2に併せて示す。
【0074】
(実施例8、14)
中空糸膜型濾過器の下蓋に表2の各実施例欄に記載の貯留部材を接続した以外実施例1と同様にして疑似腹水を濾過した。貯留部材として使用した容器Cおよび容器Eはルアーコネクタを接着したポリ塩化ビニル製の軟質性バッグを用い、容器C容量は50mL、容器E容量は100mLであり、プライミング後、バッグ内のエアを抜いた状態でルアーコネクタを下蓋の通気口に接続した。接続後容器内にプライミング液を満たした後に濾過を開始した。結果を表2に併せて示す。
【0075】
(実施例9、15)
中空糸膜型濾過器の下蓋に表2の各実施例欄に記載の貯留部材を接続した以外実施例1と同様にして疑似腹水を濾過した。貯留部材として使用したチューブBは両端にルアーコネクタを接着した内径3.4mm、長さ10cmのポリ塩化ビニル製チューブであり、貯留部材として使用した容器Cおよび容器Eは実施例8および14と同じものを用いた。プライミングは、中空糸膜型濾過器の下蓋にチューブBを接続し、更にその他端に別途用意したプライミング用チューブを接続して行った。プライミング後、チューブBを鉗子で閉じ、プライミングチューブを外し、容器Cまたは容器Eをバッグ内のエアを抜いた状態でチューブBに接続し、鉗子を外した。鉗子を外した後容器Cまたは容器E内にプライミング液を満たした後濾過を開始した。結果を表2に併せて示す。
【0076】
(実施例10〜13、16、17)
中空糸膜型濾過器の下蓋に表2の各実施例欄に記載の貯留部材を接続し、チューブBの鉗子を外すタイミングを濾過前の代わりに、濾過開始後、入口圧が一定値になった時点に変更する以外、実施例9と同様にして疑似腹水を濾過した。鉗子を外す時点まで容器内はエアおよびプライミング液は入っていない状態であった。貯留部材としてチューブBおよび容器C、DもしくはEを用い、容器Dは容器Cの形状を縦長に変えたものを用いた。また鉗子を外すタイミングである入口圧は表2(「貯留部材」の「形態」欄)に記載の圧力とした。結果を表2に併せて示す。
【0077】
(比較例5)
中空糸膜型濾過器の入口を下側に反転して配置した以外実施例6と同様にして疑似腹水を濾過した。結果を表2に併せて示す。
【0078】
実施例1、4〜17および比較例1、5の結果から、中空糸膜型濾過器の入口を上側になるように縦に配置し、疑似腹水を下方向へ濾過する方法において、中空糸膜濾過器の下端に貯留部材を接続すると、圧上昇までの時間が延長し、結果得られるアルブミン量が増加することが分かった。また実施例10〜13、16、17の結果から、中空糸膜型濾過器の入口圧が一定以上に上昇した後に貯留部材のチューブ上の鉗子を開けて容量を増すと、さらに濾過時間の延長効果が増した。更に、貯留部材のチューブ上の鉗子を開けた瞬間、ローラーポンプにより送られてくる疑似腹水の流速よりも貯留部材内へ流入する流速の方が速く、中空糸膜外側のタンパク質溶液が一時的に逆流を起こし、一部の濾過済みタンパク質溶液が中空糸膜内へ移動していることを目視で確認した。
【0079】
【表2】
【0080】
(実施例18〜23)
中空糸膜型濾過器の下蓋に表3の実施例各欄に示すものを使用した以外実施例1と同様にして疑似腹水を濾過した。上蓋は実施例1の上蓋と同一のものを使用した。結果を表3に併せて示す。
【0081】
(実施例24)
中空糸膜型濾過器の下蓋を表3の実施例24欄に示すものを使用した以外実施例12と同様にして疑似腹水を濾過した。上蓋は実施例1の上蓋と同一のものを使用した。結果を表3に併せて記す。
【0082】
(比較例6)
中空糸膜型濾過器の入口を下側に反転して配置した以外実施例20と同様にして疑似腹水を濾過した。上蓋は実施例1の上蓋と同一のものを使用した。結果を表3に併せて記す。
【0083】
実施例1、18〜23および比較例1、6の結果から、中空糸膜型濾過器の入口を上側になるように縦に配置し、疑似腹水を下方向へ濾過する方法において、中空糸膜濾過器の中空糸膜内容積または中空糸膜本数に対する下蓋の空間容量Aの比が上がり、また下蓋の高さEが大きくなると、圧上昇までの時間が延長し、結果得られるアルブミン量が増加することが分かった。また、実施例24の結果から、更に貯留部材を組み合わせることにより、より効果が上がった。
【0084】
【表3】