特許第6469137号(P6469137)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6469137-燃料電池システム 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6469137
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20190204BHJP
   H01M 8/04228 20160101ALI20190204BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20190204BHJP
【FI】
   H01M8/04 Z
   H01M8/04 J
   H01M8/04228
   H01M8/10
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-569045(P2016-569045)
(86)(22)【出願日】2014年5月28日
(65)【公表番号】特表2017-517114(P2017-517114A)
(43)【公表日】2017年6月22日
(86)【国際出願番号】EP2014001457
(87)【国際公開番号】WO2015180746
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2016年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 清
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 みどり
(72)【発明者】
【氏名】グスタフ・ベーム
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−054367(JP,A)
【文献】 特開2004−192889(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0269627(US,A1)
【文献】 特開2006−080027(JP,A)
【文献】 特開2006−278166(JP,A)
【文献】 特開2009−037770(JP,A)
【文献】 特開2005−145748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(7)内に配置されている少なくとも1つの燃料電池スタック(3)を有する燃料電池システム(2)であって、前記ハウジング(7)が、周辺環境又は別の体積空間への少なくとも1つの通気接続部(8、9)を備え、前記通気接続部(8、9)が、バルブ装置(18、19)を備える燃料電池システムにおいて、
前記ハウジング(7)は、少なくとも2つのハウジング部分(7.1、7.2)からなり、前記ハウジング部分の間にハウジングガスケットが配置され、前記ハウジングガスケットの長さは、前記燃料電池スタック(3)内のガスケットの全長よりも100を超える倍率で、好ましくは300を超える倍率で短いこと、
前記ハウジング(7)は、圧力に応じて開放及び/又は閉鎖する少なくとも1つのバルブ(21)を介して、前記周辺環境又は別の体積空間と接続されること、および
前記ハウジング(7)は2つの前記通気接続部(8、9)を備え、一方の通気接続部(8)は通気導入管として実施され、他方の通気接続部(9)は通気排気管として実施され、前記通気導入管に設けられたバルブ装置(18)および前記通気排気管に設けられたバルブ装置(19)により前記ハウジング(7)が前記燃料電池システムの停止時に水素雰囲気で機密可能とされることを特徴とする、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システム(2)であって、
酸素と水素を水へ変換するための触媒再結合装置(20)が、前記ハウジング(7)内に配置されることを特徴とする、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料電池システム(2)であって、
前記燃料電池スタック(3)のカソード室(5)は、吸気導管及び排気導管を備え、前記吸気導管及び/又は前記排気導管はそれぞれ、遮断バルブ装置(16及び/又は17)を介して遮断可能であることを特徴とする、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料電池システム(2)であって、
前記燃料電池スタック(3)のカソード室(5)は、吸気導管及び排気導管を備え、前記吸気導管は、システムバイパスバルブを介して前記排気導管と接続可能であることを特徴とする、燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料電池システム(2)の停止方法であって、
空気供給の停止後、前記少なくとも1つの通気接続部内(8、9)の前記バルブ装置(18、19)が閉鎖され、前記燃料電池スタック(3)のカソード室(5)への前記空気供給が停止され、かつ、所望しない前記空気供給が少なくとも低減され、水素が所定の圧力又は所定の水素量まで前記燃料電池スタック(3)のアノード室(4)内に導入されることを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
水素の供給前、供給中、及び/又は供給後、前記カソード室(5)内に存在する酸素が、少なくとも部分的に低減されることを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の方法であって、
前記所定の圧力又は所定の水素量は、少なくとも、前記燃料電池スタック(3)内及び前記ハウジング(7)内に存在する酸素が前記水素と完全に反応できるほど十分の量であることを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料電池システム(2)の使用であって、
車両(1)内に電気駆動出力を提供するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに詳細に規定された種類の少なくとも1つの燃料電池スタックを有する燃料電池システムに関する。更に、本発明は、そのような種類の燃料電池システムの停止方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、一般的な従来技術により公知である。燃料電池システムは、通常、積層された単セルからなる、いわゆる燃料電池スタックを備える。その際、それぞれの単セルは、アノード領域、カソード領域、及び冷却液領域を含む。個々の燃料電池を交互に積層することによって、更に、通常行われる単セルの直列接続により既定される電圧を供給する、燃料電池スタックが生じる。その際、単セル内のカソード領域、アノード領域、及び冷却水領域は、ガスケットを介して互いに密封され、かつ燃料電池スタックの周辺環境に対して密封されている。その際、燃料電池スタック全体の中にあるガスケットは、比較的長いため、その結果、100kWまでの出力クラスの燃料電池スタックでは、アノード側で200〜300mのガスケット長となり、更に同様にカソード側でも長いガスケット長となる。その際、特に、水素は、ガスケット材料を通って比較的容易に拡散する恐れがあることが問題となる。そのため、燃料電池スタックをハウジング内に配置することが通常提供され、このハウジングは、燃料電池スタックを機械的に保護し、拡散によって及びガスケット損傷によって漏出する少量の水素を排気するために捕捉する。例えば空気流が、通気管を介してハウジングを通して流れることができ、その結果、燃料電池システムの周辺環境で安全上危険な水素濃度が生じることを防止するように、漏出した水素が排気される。
【0003】
燃料電池における問題の1つは、例えば、特許文献1から公知のように、PEM燃料電池スタックの耐用年数は、劣化機構によって負の影響を受けることである。ここで、燃料電池の始動時に燃料電池のアノード領域に酸素が存在するとき、及び水素が電気始動中に投入されるとき、中核となる問題が生ずる。この場合、水素/酸素再結合面は、アノード触媒を越えて、濃度差によって燃料電池スタックの入口と出口との間に電位差が生ずる。その際に始まる電気化学的プロセスは、特にカソード側の触媒に、後まで残る損傷を与え、場合によりアノード側の触媒により軽度の損傷を与える。この問題に対処するために、カソード側への酸素の浸透を、停止状態の間、すなわち停止された燃料電池システムにおいて、システムバイパスバルブによって明らかに低減する構成が、上述した文献中に記載されている。酸素の浸透は、燃料電池システムの入口と出口との間の圧力差によって、例えば、車両では風の作用によって、又は熱対流作用によって引き起こされる。システムバイパスを有する構成は、非常に容易かつ効果的である。
【0004】
更に、従来技術の文献中で特許文献2が挙げられている。その文献は、新鮮な酸素が燃料電池に浸透することを防止するため、及びそれによって耐用年数の観点から有利な作用を同様に達成するために、システムバイパスバルブの代わりに、吸気管内及びカソード室への通気管内で遮断バルブを利用している。
【0005】
ここで、この両方の方法でも、水素がアノード室からカソード室に拡散するだけでなく、アノード室から、また少し遅れて場合によりカソード室から燃料電池スタック周りのハウジング内にも拡散するという問題が生じる。この問題は、燃料電池スタック内の長いガスケット長のため、並びに、ガスケット材料が程度の差はあれ気体に対して、更に空気成分及び水蒸気に対しても水素が優先して拡散透過性であるため発生する。したがって、停止過程後にアノード室内に存在する水素は、拡散によってすぐに消失する。残存水素量は、その結果、空気酸素が浸透している間に、電極触媒上での再結合によって低下する。酸素は、2種類の経路で燃料電池スタック内に浸透することがある。第1に、酸素は、通常開放している給気管を通る通気によって又は拡散によって浸透することがある。また、酸素は、大気に対して通常開放したハウジング上のガスケットの拡散によって燃料電池スタック内に浸透することがある。酸素がアノード上で水素に取って代わるとすぐに、システムの再起動時に悪影響をもたらす。
【0006】
特許文献3に記載の他の一般的な従来技術から、燃料電池スタックにおいて、燃料電池スタック周りの燃料電池ハウジングは、水素導入管又は排気管の部分として形成されていることが更に公知である。燃料電池スタックから拡散する水素は、それによって燃料電池システムの稼働中に、再び水素サイクルに取り込まれ、したがって、第1に失われることはなく、第2に周辺環境の空気と安全上危険な爆発性混合物を形成する恐れはない。この構成の欠点は、比較的大きな壁面積を持つハウジングが水素稼働圧にさらされることである。
特許文献3には、スタックから水素が漏出する脆弱性を低減するために、そのハウジングが水素によって貫流される燃料電池スタックが記載されている。
高温燃料電池の分野からは、更に特許文献4から、本明細書ではSOFCと呼ぶ燃料電池を、改質装置及びエネルギ回収装置と共に、いわゆるホットボックス内に配置することが公知である。ホットボックス内の圧力を、ホットボックス内にあるコンポーネント内よりも高く保つために、ホットボックスは、空気を用いて加圧されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】DE 10 2009 036 198 A1
【特許文献2】DE 10 2007 059 999 A1
【特許文献3】DE 10 2009 018 105 A1
【特許文献4】EP 1 231 660 A2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記欠点を防止すること、および、非常に簡単な構成を備え、かつ燃料電池スタックの長い耐用年数を可能にする燃料電池システム及びそのような燃料電池システムの停止方法を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明により、本課題は、請求項1の特徴を示す部分の特徴を有する燃料電池システムによって解決される。有利な実施形態及び発展形態は、それに関する従属下位請求項から明らかになる。更に、請求項の特徴を示す部分の特徴を有する方法は、本課題を解決する。有利な発展形態は、それに関して同様に従属下位請求項から明らかになる。請求項に、燃料電池システムの特に好ましい使用が提示されている。
【0010】
本発明による燃料電池システムにおいて、ハウジングは、既知の方法で燃料電池スタック周りに配置されることが提供されている。その際、ハウジングは、周辺環境又は別の体積空間への少なくとも1つの通気接続部を備える。この少なくとも1つの通気接続部は、通常、2つの通気接続部であるが、場合により稼働中に燃料電池スタックから漏出する水素が排出されて、損傷をもたらす恐れがないことを確保する。ハウジング通気の他の機能は、通常、燃料電池スタックから拡散によって及び場合によりわずかな漏れ穴を通って漏れた水蒸気を除去して乾燥することである。しかしこれは、本発明にとって重要ではない。更にここで、少なくとも1つの通気接続部は、本発明によりバルブ装置を備えることが提供されている。通気吸入管及び通気排出管が設置されているとき、少なくとも1つの導管、好ましくは2つの導管がバルブ装置を備えることが提供されている。例えば、磁気バルブ、フラップなどのそのようなバルブ装置を介して、ハウジングは、必要な場合に密に閉鎖することができる。
【0011】
それによって決定的な利点が生じる。燃料電池システムの停止時に、優先的に水素がアノード室からカソード室へ拡散することとなる、又は膜のわずかな漏れ穴若しくはガスケットのわずかな漏れ穴を通ってあふれ出ることとなる。カソード室内にまだ酸素が存在するならば、停止時にアノード室内に十分な水素量が蓄えられている又は投入されている限り、酸素を使い切るまでの間、カソード室内で十分な反応がカソード触媒上で起こる。アノード及びカソードで水素分圧が均衡しているとき、水素拡散は、停止状態となる。
【0012】
更に、程度の差はあるが並行して、水素は、すぐにアノード室から拡散し、次いでカソード室からも燃料電池スタックの周辺環境に拡散し、及びそれによってハウジング内に拡散することとなる。次いで、ハウジング内では同様に、ある一定の水素濃度が生じる。ハウジングと燃料電池スタック内との間で濃度勾配がもはや存在しないならばすぐに、この過程もまた終了され、アノード室内の十分な水素量は、燃料電池システムの停止時に提供される。このとき水素雰囲気は、燃料電池スタック内だけではなくハウジング内にも存在する。次いで、燃料電池システムは、その際に耐用年数を低減させる劣化作用が生じることなく、問題なく再起動することができる。
【0013】
本発明による燃料電池システムの他の非常に適した実施形態において、ハウジングは、間に1つ又は2つ以上のハウジングガスケットが配置された少なくとも2つのハウジング部分からなることが、ここで更に提供され得る。その際、ハウジングガスケット長は、燃料電池スタック自体の中のガスケット全長よりも非常に短いことが、更に提供される。ガスケット長のこの差異、好ましくは100倍よりも大きい、特に好ましくは300倍よりも大きい差異によって、ハウジングと周辺環境との間のガスケット長は、燃料電池スタック内とハウジングとの間のガスケット長よりも、非常に短いことが確保される。ガスケット長のこの差異によってのみで既に、ハウジング外への水素の拡散又はハウジング内への空気の拡散が大幅に防止されることが達成される。なぜなら、そのために利用可能なガスケット長は、燃料電池スタック自体のガスケット長よりも非常に短くなっているからである。特に適切な発展形態において更に、ハウジングガスケットは、特に拡散防止材料から製造されてもよく、その製造は、ハウジングの作製時に、燃料電池スタック自体の作製時よりも非常に容易に実現可能になっている。しかし、このことは、ハウジングガスケットと燃料電池スタックのガスケットとの間の長さの差異によって主要な効果が既に達成されているため、必ずしも必要ではない。
【0014】
本発明による燃料電池システムのその他の実施形態では、ハウジングはバルブを有し、大気に対する圧力差(負圧及び/又は正圧)を超過する場合に、この圧力差を制限するために、対応してバルブが開くことを、更に提供する。重量及びスペースをかなり節約した低い機械的安定性を有するハウジングが使用されるべきならば、そのような装置は、有意義であり得る。ただし、このことは、この圧力差がより小さい又はかなり小さい0.1barに達して場合によりバルブをそのように用いないこと、又は加圧方向のみを守る必要があることを前提としている。
【0015】
本発明による燃料電池システムの有利な発展形態において、特に酸素を用いて水素を変換するための触媒再結合装置をハウジング内に有することを更に提供することができる。そのような再結合装置は、特に、水素及び酸素の変換のために、この目的に適切な触媒をハウジング内に備えてもよい。燃料電池システムが停止状態の場合について周辺環境に対して密封可能なハウジングを有する本明細書で選択した本発明の実施例では、酸素は、アノード室から出てハウジング内に到達した水素によって消費され、その結果、危険な水素/酸素混合物を生成する恐れがなく、全体としてある一定の停止状態時間後にどこでもその水素分圧又はその水素濃度が存在するという決定的な利点を、この再結合装置は、有する。それによって、拡散過程は、十分に停止状態を生じさせることができ、数時間の非常に長い時間を超えて、水素雰囲気は、着火性水素/酸素混合物をハウジング内に生じることなく、ハウジング内及び特に上述の燃料電池スタック内に保持されることが、確保され得る。それによって、燃料電池システムの始動は、耐用年数に影響する危険な過程なしにいつでも可能である。
【0016】
これは、燃料電池スタックのカソード室内に空気が流入することが防止される場合、特に効果的である。したがって、冒頭部分で述べた従来技術で実施されたように、給気管及び排気管にシステムバイパスバルブ及び/又は好ましくは遮断バルブの使用を備えることを、提供することができる。この措置によって、酸素の浸透は、システムの停止後に低減することができる又は完全に防止することができる。それによって、この作用は、比較的少ない水素の超過量を使用する場合に更に改善され、水素雰囲気を燃料電池スタック内及びハウジング内に保持することができる時間は、明白に増大される。
【0017】
そのような燃料電池システムを停止するための本発明による方法では、バルブ装置は、少なくとも1つの通気接続部内で閉鎖されることが、対応して提供される。燃料電池スタックのカソード室への空気供給は、停止され、所望しない空気供給、例えば、対流に基づいて及び/又は外部の風によって生じる空気供給は、空気吸入口及び/又は空気排出口の閉鎖によって少なくとも低減される又は完全に防止され、その後、水素は、所定の圧力又は所定の水素量まで燃料電池スタックのアノード室に導入される。燃料電池システムの停止は、非常に容易かつ効果的に行うことができる。所定の圧力又は所定の水素量まで水素を導入することによって、アノード室の領域に、ある一定の水素過剰又は正圧が発生する。燃料電池システム停止後の時間経過において、水素は、次いで上述のようにカソード室内だけではなくハウジング内にも到達することがある。ある一定の時間後、平衡状態に達し、その結果、水素雰囲気は、燃料電池自体の内部だけではなくハウジング内にも存在し、この水素雰囲気は、非常に長い時間を超えて、水素の更なる追加をせずに又は燃料電池システムの他の種類の監視をせずに保持することができる。それによって、理想的には10〜24時間を超える比較的長い停止状態時間を超えて、再始動の場合に、燃料電池の損傷なしに再始動を可能にする又は燃料電池の耐用年数の低減を防止する条件が常に存在することが保証される。
【0018】
本発明による方法のその他の非常に適した実施形態において、水素の供給前又は供給中に、カソード室に存在する酸素は、少なくとも部分的に低減されることを更に提供することができる。そのような酸素低減は、確かに利点ではあるが、ただし、原理的には必ずしも必要ではない。しかし、酸素低減は、例えば、カソード室の残存酸素の電気的「完全消費」によって、所望の平衡状態が生じるまでの非常により短い時間を実現し、その結果、全体としてより早く、そしてより少ない量の水素を用いて、燃料電池スタック又は燃料電池システムの有利な状態は、より遅い再始動に関して、達成することができる。
【0019】
燃料電池システムの特に好ましい使用は、車両での使用であり、燃料電池システムは、駆動出力の供給に役立つ。その際、駆動出力は、燃料電池システムによって全て又は少なくとも部分的に供給することができる。特に、車両におけるそのような燃料電池システムは、一方では、頻繁に停止及び再始動にさらされており、他方では、容易に、効率的に、かつ非常に安全に設計される必要がある。燃料電池システムの本発明による実施形態及び燃料電池システムを停止するときに、特記すべきほどの劣化なしに再始動を可能にする特に有利な停止方法は、本明細書で本発明の全ての利点が特に強力に効果を発揮していることから、車両での使用に特に適している。
【0020】
燃料電池システム及びそのような燃料電池システムの停止方法の他の有利な実施形態は、残りの従属請求項により、及び以下に図を使用して詳細に記述した実施例によって明確に提示される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
単一の添付図は、車両内の本発明による燃料電池システムを概念的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
単一の添付図において、車両1は、概略的に表現されている。車両1に対して電気駆動出力を供給するために、燃料電池システム2は、備えられている。その際、燃料電池システム2の中核を、既知の方法で複数の単セルからPEM技術を用いて製造されている燃料電池スタック3が形成する。その際、このそれぞれの単セルは、カソード領域、アノード領域、及び冷却水領域を備える。本発明の説明には、特にアノード領域及びカソード領域が重要である。そのため、提示された図において、その間に配置されたプロトン交換膜6を有するアノード室4及びカソード室5のみが概念的に示されている。この図は、燃料電池スタック3内の複数のアノード領域、カソード領域、及びプロトン交換膜を描写している。燃料電池スタック3は、ハウジング7内に配置され、このハウジングは、第1のハウジング部分7.1及び第2のハウジング部分7.2から、例えば、ハウジングカバーからなる。ハウジング部分7.1、7.2の間に、この図では明らかではないハウジングガスケットが配置されている。ハウジング7は、2つの通気接続部8、9を更に備える。通気接続部8は、通気導入管8として実施され、例えば、ここに示されたエアフィルタ10を介してハウジング7の周辺環境に接続されている。第2の通気接続部9は、通気排気管9として実施され、燃料電池スタック3のカソード室5への給気管に、更に詳しく言えば、空気送出装置としてのコンプレッサ11の前で気流方向に流れ込む。しかし、別の排出方法もまた考えられる。空気送出装置としてのコンプレッサ11の稼働中、ハウジング7の周辺環境から、空気は、エアフィルタ10及び通気導入管8を通して吸入され、通気排気管9を通して再びハウジング7から排出されるため、それによって、ハウジング7の常時貫流がもたらされる。それによって、ハウジングは、気流によって常に貫流される。場合により燃料電池スタック3から漏出する水素は、稼働中にそのように給気と一緒に吸入され、カソード室5の触媒で酸素と十分に反応ができ、それによって、無害にされる。ハウジング通気の代替実施形態は、当業者にとって一般的な従来技術から既知であり、本明細書で同様に使用することができる。少なくとも1つの通気接続部8、9を備えるハウジング7の通気が提供されていることのみが重要であり、両方存在する場合は、そのうち少なくとも1つがバルブ装置を備える。
【0023】
既に述べたように、空気送出装置11を通して、空気は、酸素供給体として燃料電池スタックのカソード室5に送出される。燃料電池スタック3のアノード室4に、水素は、圧縮ガス保管容器12から供給される。水素は、圧力調節バルブ及び絞りバルブ13を通ってアノード室4の領域に到達する。既知の方法において、未使用の水素は、再循環導管14及び再循環送出装置15としての気体噴射ポンプを通して還流され、新たに再供給される水素によって燃料気流として吸気される。しかし、別の再循環送出装置もまた考えられる。再循環を有するアノード室は、通常、大気に対して閉鎖された空間を形成することが重要であり、この空間は、システム停止後でも隔離されたままである。アノード室4で未使用の水素もまた、循環に導入され、そのようにしてしだいに使い切ることができる。このいわゆるアノード循環又はアノードループは、一般的な従来技術から既知である。アノード循環は、この図では非常に簡略化して示されている。実際には、アノード循環は、水分離器、排気バルブなどを有する。これは、本発明にとって付随的なものであり、したがって、図示していない。しかし、これらコンポーネントは、当業者にとって一般的に既知かつ慣例であるように、アノード循環に配置することができる。
【0024】
燃料電池スタック3周りのハウジング7は、通気管8、9を含めて可能な限り気密に形成され、ハウジング部分7.1及び7.2の間のハウジングの密閉位置で可能な限り短いガスケット長を有して設計されている。その際、ハウジング部分7.1及び7.2の間のハウジングガスケット長は、燃料電池スタック3の単セル又はカソード領域及びアノード領域と燃料電池スタック3の周辺環境との間のガスケット長よりも、特にはるかに短い。例えば、100kW燃料電池スタック3では、スタック内のガスケット長は、全体で約400〜600mに達する。その際、ガスケット長は、アノード側とカソード側との間で比較的均等に分配される。例えば、ハウジング部分7.1及び7.2の間のハウジングガスケット長が全長約1mで形成される場合、そうすると、ガスケット長において著しい差異が生じる。その結果、燃料電池スタックのガスケットに比べ、ハウジング7内に水素がある場合の水素の外部への拡散はかなり少なく、及び/又はハウジングガスケットを通る酸素の拡散もかなり少ない。それによって、燃料電池スタック3及びハウジング7からなるシステムの高い密閉性が、水素に対しても達成される。更に、ハウジングガスケットは、設計が可能な場合には、特別な拡散防止材料から形成することができる。しかし、このことは、燃料電池スタック3のガスケットの全長と非常に短いハウジングガスケットとの間の長さの差異によって主要な効果が達成されているため、必ずしも必要ではない。
【0025】
車両1での燃料電池システム2の停止時の手順は、ここでは以下のとおりである。最初に、一般的に既知かつ慣例であるように、空気の供給は、空気送出装置11の停止によって、既知の方法で阻止される。引き続き水素供給が行われる場合、特に、システム内に残存する酸素は、電気出力を更に取り出すことによって、及び、例えば、バッテリに貯蔵することによって使い切ることができる。この理想的な場合には、カソード室5内に、酸素が低減された雰囲気が存在する。ただし、これは、本方法にとって必ずしも必要ではない。同時に又はそれに続いて、新鮮な酸素の供給の可能性は、例えば、対流の作用又は風の作用によって防止又は低減されるべきである。これは、例えば、冒頭に記載の従来技術で述べたように、システムバイパスによって実現できる。ただし、これは、実施例に示された遮断バルブ装置16、17によって、カソード室5への吸気導管中及びカソード室5からの排気導管内で特に非常に効率的に実現できる。ただし、再始動時の上述の損傷に関する改善は、吸気導管16内の遮断バルブ装置又は排気導管17内の遮断バルブ装置のいずれか一方が存在し、燃料電池システム1の停止後に閉鎖される場合にも達成することができる。
【0026】
空気送出装置11の停止と同時に、通気接続部8、9内のバルブ装置18、19は、閉鎖される。ただし、再始動時の上述の損傷に関する改善は、通気吸気導管18内の遮断バルブ装置又は通気排気導管19内の遮断バルブ装置のいずれか一方が存在し、燃料電池システム1の停止後に閉鎖される場合にも達成することができる。
【0027】
次いで、ハウジング7は、周辺環境に対して密封される。引き続いて、システムに適合された量の水素は、例えば、所定圧力まで水素が供給されるという方法で、アノード室4内に供給される。その後、水素供給はまた、例えば、水素バルブ、詳しく言えば、圧力調整装置及び絞り装置13内のバルブを閉じることによって、停止される。その際、圧力又は水素量は、いずれの場合も過剰量の水素がアノード室4内に存在するように規定される。
【0028】
システムの停止後、ここで、この過剰の水素は、プロトン交換膜6を通ってカソード室5内に拡散し、カソード室で、場合によりまだ残存している酸素とカソードの触媒上で十分に反応することになる。燃料電池スタック3を通して、特に水素は、アノード室4からだけではなくカソード室5からもハウジング7内に拡散する。その際、この水素拡散は、燃料電池スタック3の内部及びハウジング7の内部の濃度又は分圧が平衡に達するまでその間発生する。次いで、水素の拡散は、中断し、十分な量の水素は、燃料電池スタック3内に残存する。水素電極は、それによって0Vの電気化学電位に保持される。
【0029】
酸素が燃料電池スタック3のハウジング7内に拡散して入る又はハウジング内にまだ存在している場合、特にハウジング7内に配置された触媒再結合装置20で水に再結合することができ、その結果、場合により存在する又は拡散して入ってくる酸素は、確実に消費される。これは、濃度勾配が生起される結果、水素が燃料電池スタック3からハウジング7に拡散するためである。ただし、通気接続部8、9内のバルブ装置18及び/又は19、及びハウジング部分7.1及び7.2の間の比較的短いハウジングガスケット長によって、酸素の拡散は、可能な限り回避され、その結果、ハウジング7内の酸素は完全に使い尽くされる。その際、原理的にはハウジング7内でのプロセス開始時に、水素及び酸素からなる引火性又は非常に爆発性の混合物が存在することとなる。これは、実質的に、気体のそれぞれの拡散速度及び体積並びに場合により外部の漏れに依存する。しかし、適切な措置によって、例えば、着火源がハウジング7内に存在しないことによって、及び/又は着火性混合物の量が安全技術的に危険がないとみなされるほどハウジング体積が小さく選択されることによって、安全上の観点から危険がない状態は、容易に達成することができる。特に、再結合装置20を、例えば、ハウジングの内壁を被覆する形態で、好都合に設置することによって、酸素の迅速な低下を保証することができ、これは同時に、どの時点でも爆発限界に到達することを防ぐことに寄与する。
【0030】
ハウジング7の領域内に、任意選択の圧力に応じて反応するバルブ21が備えられてもよい。このバルブは、ハウジング7内の許容圧力を超過した場合又は下回った場合に開く。それによって、ハウジング7内の気体の低減若しくは再結合の場合、又は弱く加圧されたアノードからハウジング内への迅速な気体の移行の場合でも、所定の圧力限界をハウジング7内で保持することを確保することができ、その結果、ハウジングの損傷を回避することができる。説明に対する注釈: 燃料電池スタックは、全ての加圧方向で非常に圧力耐性に設計されている。本発明による手順の範囲内での損傷は、ありえない。しかし、ハウジングは、特に軽量化して及び対応して薄く実施されている場合に、大気に対する圧力差で場合により損傷しやすい恐れがある。
【0031】
通気接続部8、9の領域にあるバルブ装置18及び/又は19を有する部分的に又は完全に気密のハウジング、及び燃料電池スタック内のガスケットの全長に対して非常に短いハウジングガスケット長によって、水素が燃料電池スタック3内だけではなくハウジング7内にも存在する上述の状態を非常に長い時間にわたって保持できる構成が生じる。従来の構成では、数時間、例えば、2〜3時間の時間が既知かつ慣例であることを、実験は示した。本明細書に記載の燃料電池システム構成では、非常により長い時間、例えば、10時間超から24時間超までの時間が実現できる。
【0032】
これは、特に、水素を追加供給する必要なしに、水素雰囲気がハウジング7内および燃料電池スタック3内の両方に安全かつ確実に存在するように、水素量が燃料電池システム1に調整されて再供給される場合であれば、有効である。これは、一方では水素消費の観点から、他方では安全面から利点を有する。なぜなら、特にシステム停止中に燃料電池システム2に水素を追加供給することは望ましくない措置だからであり、システムは、可能な限り車両1の運転者又はドライバーが不在のときに稼働されるべきでないからである。
【0033】
この構成及び上述の方法の利点は、アノード側で損傷を与える気体交換を燃料電池システム2の再始動時に低減できることであり、それによって、燃料電池スタック3の非常により長い耐用年数は、貴金属を含有し、そのため高コストである触媒電極を保護することによって、非常に容易な手段及び措置を用いて達成することができる。従来技術による措置及び構成の場合とは異なり、本燃料電池システム2は、非常に容易かつ効率的に実現できる。

図1