特許第6469138号(P6469138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユミコアの特許一覧 ▶ ユミコア・コリア・リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000026
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000027
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000028
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000029
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000030
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000031
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000032
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000033
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000034
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000035
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000036
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000037
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000038
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000039
  • 特許6469138-優れた硬強度を有する正極材料 図000040
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6469138
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】優れた硬強度を有する正極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20190204BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190204BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20190204BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/62 Z
   C01G53/00 A
【請求項の数】19
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2016-572562(P2016-572562)
(86)(22)【出願日】2015年6月1日
(65)【公表番号】特表2017-525089(P2017-525089A)
(43)【公表日】2017年8月31日
(86)【国際出願番号】IB2015054146
(87)【国際公開番号】WO2015189740
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2017年2月9日
(31)【優先権主張番号】14171694.4
(32)【優先日】2014年6月10日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502270497
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブランジェロ,マキシム
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ダ−イン
(72)【発明者】
【氏名】チョー,ウーラム
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジヘ
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−166269(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/191179(WO,A1)
【文献】 特表2010−505732(JP,A)
【文献】 特開2014−007034(JP,A)
【文献】 特開2004−342548(JP,A)
【文献】 特開2014−199778(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/108389(WO,A1)
【文献】 特開2005−196990(JP,A)
【文献】 特開2005−026141(JP,A)
【文献】 特開2008−013405(JP,A)
【文献】 特開2007−091573(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/091028(WO,A1)
【文献】 特開2012−004109(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102593442(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36− 4/62
H01M 4/13− 4/1399
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池用の粉末正極材料であって、前記材料は、一般式
Li1+x[Ni1-a-b-caM'bM''c1-x2-z
[式中、Mは、Mn、Zr、及びTiの群のうち1種の元素又は2種以上の元素のいずれか一方であり、
M'は、Al、B、及びCoの群のうち1種の元素又は2種以上の元素のいずれか一方であり、
M''は、M及びM'と異なるドーパントであり、
x、a、b、及びcは、−0.02≦x≦0.02、0≦c≦0.05、0.10≦(a+b)≦0.65、かつ0≦z≦0.05であるmolで表される]を有し、前記粉末正極材料は、BET値≦0.37m2/g、Dmax<50μm、及びP=200MPaに対する100%+(1−2a−b)×160%以下の硬強度指数ΔΓ(P)であって、
【数1】
[式中、D10P=0は、非凝集粉末(P=0MPa)のD10値であり、Γ0(D10P=0)は、D10P=0での非凝集粉末の累積体積粒径分布であり、ΓP(D10P=0)は、MPaで表されるPで圧縮されたサンプルのD10P=0での累積体積粒径分布である]である、硬強度指数ΔΓ(P)を有し、
a=0で且つM'がCo及びAlである場合、1+x<1となることによって特徴付けられる、材料。
【請求項2】
M'=Mnであり、M''は、Al及びCoのいずれか一方である、請求項1に記載の粉末正極材料。
【請求項3】
P=300MPaに対してΔΓ(P)≦150%+(1−2a−b)×160%である、請求項1又は2に記載の粉末正極材料。
【請求項4】
P=300MPaに対してΔΓ(P)≦125%+(1−2a−b)×100%である、請求項1乃至3の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項5】
P=300MPaに対してΔΓ(P)≦180%である、請求項1乃至4の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項6】
P=300MPaに対してΔΓ(P)≦140%である、請求項1乃至4の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項7】
P=300MPaに対してΔΓ(P)≦100%である、請求項1乃至4の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項8】
1−a−b≧0.5かつ1+x<1である、請求項1乃至7の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項9】
洗浄後BET値>1m2/gである、請求項1乃至8の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項10】
3.0g/cm3を超える圧縮密度を有する、請求項1乃至9の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項11】
最大2mol%までのW、Mo、Nb、Zr、又は希土類元素を含有する、請求項1乃至10の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項12】
可溶性塩基含有量(Li2CO3+LiOH)<0.8質量%である、請求項1乃至11の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項13】
二次粒子は、20nmを超える細孔を実質的に含まない、請求項1乃至12の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項14】
20nmを超える20個未満の空隙を含有する二次粒子を含む、請求項1乃至13の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項15】
KαCu放射を含むXRDパターンにおいて、R−3m空間群を有する擬似六方格子によって定義したときの(104)ピークの半値全幅値(2θ°)が0.125を超える、請求項1乃至14の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項16】
KαCu放射を含むXRDパターンにおいて、R−3m空間群を有する擬似六方格子によって定義したときの(015)ピークの半値全幅値(2θ°)が0.125を超える、請求項1乃至15の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項17】
KαCu放射を含むXRDパターンにおいて、R−3m空間群を有する擬似六方格子によって定義したときの(113)ピークの半値全幅値(2θ°)が0.16を超える、請求項1乃至16の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項18】
第2の相LiNx'y'[式中、0<x'<1、0<y'<2、Nは、W、Mo、Nb、Z
r、及び希土類元素のうち1種又は2種以上のいずれか一方である]を有する、請求項1乃至17の何れか1項に記載の粉末正極材料。
【請求項19】
請求項1乃至17の何れか1項に記載の粉末正極材料を調製する方法であって、前記材料は、一般式Li1+x[Ni1-a-b-caM'bM''c1-x2-zを有し、前記方法は、
Ni、M、M'、及びM''のうち1種又は2種以上のいずれか一方を含有する1種又は2種以上の前駆体材料と、Liを含有する前駆体材料と、の混合物を提供する工程と、
前記混合物を、℃で表され、(945−(248*(1−2a−b)≦T≦(985−(248*(1−2a−b))である温度Tで焼結し、それによって凝集化粒子を得る工程と、
前記凝集化粒子を粉砕する工程であって、それによって、粉末は、BET≦0.37m2/gmax<50μm、及びa=0で且つM'がCo及びAlである場合、Li:M比により規定されるxの値は、1+x<1を有して得られる工程とを含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物化合物及びその調製方法に関する。更に具体的に言えば、本発明は、リチウム電池及びリチウムイオン電池での使用のためにドープされた金属酸化物挿入化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次リチウムイオン電池は、その比較的高い重量エネルギー密度及び体積エネルギー密度に起因して他の電池システムに取って代わった。これらの特徴は、(ラップトップ、スマートフォン、又はカメラなどの)携帯電子機器の小型化を伴うことが特に望ましく、長い動作範囲を有する電気自動車(HEV又はEV)に好適であると予想される。電気自動車用途において、実際の動作条件、すなわち、広い温度範囲にわたり、かつ高い放電率での数千サイクルで、良好な充放電サイクル寿命を維持できる電池が必要とされている。大部分の再充電可能リチウムイオン電池は、リチウム金属を含有しないアノード材料、例えば、炭素及び/又は(ケイ素合金、スズ合金などの)金属合金を含有する材料を使用している。この場合、カソードは、リチウムを含有する必要があり、リチウムは、良好なサイクル寿命を実現するために可逆的に、充電中に引き抜かれ、放電中に挿入することができる。
【0003】
再充電可能なリチウムイオン電池用カソードとして最も有望な材料は、α−NaFeO2(空間群R−3m)由来の層状構造を有するリチウム遷移金属酸化物である。最初のLiイオン電池が1990年にソニーによって家庭用電化製品に導入されて以来、LiCoO2は、その良好なサイクル寿命、3.7g/cm3を通常超える非常に高い圧縮密度、及びグラファイトアノードに対して4.2Vで約140mAh/gの高比容量のために、依然、最も一般的に使用されるカソード材料である。しかし、LiCoO2は、拡大するEV大規模市場での利用を制限する、その非常に高価で変動的な価格及びコバルトが比較的希少であるということによって、あまり好まれていない。LiNiO2などの代替的なカソード活材料は、ニッケルがより入手容易かつより低価格であることから研究されてきた。LiNiO2はまた、LiCoO2と比較したときにより高い比容量を特徴とし、遷移金属酸化物酸化還元対のより低い電位に起因して、4.2Vで200mAh/gを通常超える。LiNiO2には2つの欠点がある。
【0004】
(i)LiNiO2は、DSC(Dahn et al.,Solid State Ionics,69,265(1994)を参照)から明らかなように、LiCoO2よりも低温で電解質とより急激な発熱反応をして、最終的に熱暴走及び電池の突発故障の原因となるため、安全性に対する懸念を生じさせている。したがって、通常、純粋なLiNiO2は、市販のリチウムイオン電池での使用には選択されない。
【0005】
(ii)所定の電池電圧でのより高い比容量は、より多量のLiがLiNiO2の単位ごとに可逆的に脱インターカレートすることがあり、充電及び放電サイクル時に結晶体積の顕著な変化が引き起こされることを意味する。結晶体積がそのように反復して大きく変化することで、カソード材料の一次及び二次粒子は、かかるストレスに耐えられなくなる場合がある。粒子破壊及び電気接点の喪失は、電極内で発生する恐れがあり、これにより、最終的にLiイオン電池のサイクル寿命を損なう。
【0006】
上述した問題、特にLiNiO2の安全性に関する問題を改善するために、様々なドーピング元素、例えば、Mg2+、Ti4+、及びAl3+などの電気化学的に不活性なイオンが導入されてきた(例えば、米国特許第6,794,085号を参照)。しかし、このよう
なドーピング手段は、実際の電池において比容量の減少及び電力の低下をしばしば生じさせ、最終用途には好ましくない。
【0007】
より有望な方法は、(米国特許出願公開第2003/0022063号に開示されたとおり)NiをCo及びMnで置換して、理想的な一般式Li1+x[Ni1-a-bMnaCob1-x2を有するいわゆるNMC系組成物をもたらすことである。この理想的な式は、通常二価状態のニッケルである金属におけるリチウム層内のサイトを占有する能力であるカチオンミキシングを明確には考慮していない。Mnが四価であり、Coが三価であり、Niが2+/3+の電荷を持つことが一般的に認められている。効果的にはNi3+であるニッケルイオンの比率が、
【数1】
[式中、
【数2】
は、金属に対するリチウムのモル比として言及される。]と示されることは自明である。
【0008】
したがって、Ni3+のモル含有量は、
【数3】
に等しい。
【0009】
Li:Mが1に近接する場合、x〜0(又は−0.05≦x≦0.05)において、Ni3+のモル含有量が、およそ1−2a−bとなることを意味する。この最後の式は、「a」が、四価金属カチオン(例には−Mn4+、Zr4+、又はTi4+が挙げられるがこれらに限定されない)を表し、bが、三価金属カチオン(例には−Co3+及びAl3+が挙げられるがこれらに限定されない)を表すという取り決めを伴う以下の事例において、有効Ni3+の含有量を計算するために考慮されることとなる。同様に、有効Ni3+の割合の計算は、Mg2+及びCa2+などの二価金属カチオンドーピングを考慮に入れて拡張することもでき、その含有量は、(1−2a−b)/(1−a−b−c)[式中、cは、二価カチオンのモル含有量を表す]で与えられることを示すことができる。
【0010】
これらのNMC材料では、この材料から可逆的に脱インターカレートするLi量に由来する比容量は、有効Ni3+含有量が増加するときに増加する。例えば、111(111は、Ni:Mn:Coのモル比を表し、生成物1モル当たり約0.1モルのNi3+を有する)、532(約0.2モルのNi3+)、622(約0.4モルのNi3+)及び811(約0.7モルのNi3+)などの一般的な組成物はそれぞれ、グラファイトアノードに対して4.2〜2.7Vでサイクル使用するとき、150、160、170、及び190mAh/gの比放電容量を通常有する。
【0011】
より多くのリチウムイオンが、その後、材料から可逆的に引き抜かれ、有効Ni3+含有量が増加するとき、より高い粒子ひずみ(particle strain)を生じる。ひずみは、最終的に粒子破壊及び電極劣化をもたらし、従って、容量減衰を加速し、セルのサイクル寿命を損なう。加えて、かかる粒子破壊は、カソードでの副反応、すなわち、電解質酸化を最
終的に加速し、電池のサイクル寿命を更に低減することとなる、新たな露出面を作り出す。かかる問題点は、より高い電力出力を必要とするシステムにとってより危機的な問題である。一般的に、現代のEV用途は、1Cを上回り、更に最大5CまでのCレート(電池の満充電又は完全放電を完了するために、1Cは1時間及び5Cは12分)で動作することを必要とする。カソード材料は、短時間でのLiイオンの挿入及び引き抜きに起因する単位セルの体積変化によって発生したひずみに対応できる必要がある。大きな比容量(すなわち、高い有効Ni3+を有すること)を実現すること、及び特により高出力時におけるより大きなひずみに対応することの両方が可能な材料を設計することは、明らかに困難である。かかる材料を提供することが、本発明の目的である。
【0012】
Liイオン電池の体積エネルギー密度(単位:Wh/L)は、アノード及びカソード電極両方の比放電容量(単位:mAh/g)に影響されるだけではなく、電極の重量密度(単位:g/cm3)にもまた影響される。カソード側では、電極重量密度は、以下によって決定される。
【0013】
(i)タップ密度(TD)又は圧縮密度などのカソード材料の固有の性質。
【0014】
(ii)例えば、電極密度を増加させるためのカレンダリング又は圧縮工程中の電極製造プロセス。かかる工程では、所望の密度(又は多孔性)の水準に到達して、高い体積エネルギーを得るために、一軸応力が電極に適用される。
【0015】
本発明は、かかる応力に耐えられるカソード材料、すなわち、製造プロセス中の圧力下で破損せず、反復される充放電サイクルを損傷せずに耐えられる二次粒子を有する材料を提供することを目的とする。
【0016】
この点において、米国特許出願公開第2004/023113号は、例示の大部分がLiCoO2に関する、カソード粉末の圧縮密度及び圧縮強度の決定に関与している。圧縮密度の決定において、力は、29.4MPaの圧力で加圧される。かかる圧力は、現行技術での電極製造の必要条件と比較して約10倍低く、かかるプロセス中のカソード材料の挙動を表してはいない。
【0017】
非常に密な、非凝集体のジャガイモ形状の粒子であるLiCoO2の特定の形態は、非常に高い圧縮負荷に破損せずに耐えられることが既知である。リチウムニッケルマンガンコバルト(NMC)複合酸化物は、一次粒子の凝集でできた二次粒子の非常に異なる形態を有する。かかる二次粒子は、好ましい破壊点である粒子間粒界の発生に起因して、より脆弱である。未反応のアルカリ塩(水酸化物、炭酸塩、硫酸塩)などの不純物は、粒界に蓄積する。フルセル(full cell)が4Vを超える電位で動作するとき、これらの未反応の塩は、分解し、電解質に溶解し、開かれ且つ満たされていない粒界を残すこととなるが、このことは、二次粒子の機械的耐性を著しく損なうことになる。過剰量のかかるLi塩不純物を含有する材料は、電極加工処理で生じる機械的応力に対してより低い耐性を示し、電池において高出力(=高い放電Cレート)で動作するとき、耐性が低いため、Li挿入及び引き抜きから生じるひずみに耐えることができない。有効Ni3+含有量がより多くなると、主にLiOH及びLi2CO3の不純物がより多く粒界に蓄積し、二次粒子が破損する傾向が更に増加することが一般に認められている。
【0018】
米国特許出願公開第2009/0314985号は、カソード粉末の圧縮強度を記載し、粒径分布のD10値は、200MPaでの粉末の圧縮後に1μmを越えないよう変化すべきであるという概念を導入している。かかる判定基準は、より低いD10値を有する材料の挙動を、特にD10<1μmのときに適切に表現できない。唯一の例は、+/−5mol%のNi3+を有するD50=10μmのNMC111の挙動を表現している。その少
ない有効Ni3+含有量により、NMC111は、より脆性が低いNMC材料の1種となる。より多くの有効Ni3+含有量を有し、より大きい比容量を有する材料は、比較的小さい二次粒子脆性を保持し、現代の用途に望ましい。加えて、米国特許出願公開第2009/0314985号に開示された製造プロセスは、大量生産には現実的ではない。例えば、高コスト及び低処理量の両方をもたらす酸素ガス気流及び多段階焼成の使用が記載されている。加えて、改善された硬強度を特徴とするカソード材料のサイクル寿命改善について言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第6,794,085号
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0022063号
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/023113号
【特許文献4】米国特許出願公開第2009/0314985号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Dahn et al.,Solid State Ionics,69,265(1994)
【発明の概要】
【0021】
第1の態様の観点から、本発明は、リチウム二次電池用の粉末正極材料であって、この材料は、一般式Li1+x[Ni1-a-b-caM'bM''c1-x2-z
[式中、Mは、Mn、Zr、及びTiの群のうち1種の元素又は2種以上の元素のいずれか一方であり、
M'は、Al、B、及びCoの群のうち1種の元素又は2種以上の元素のいずれか一方であり、
M''は、M及びM'と異なるドーパントであり、
x、a、b、及びcは、−0.02≦x≦0.02、0≦c≦0.05、0.10≦(a+b)≦0.65、かつ0≦z≦0.05であるmolで表される]を有し、この粉末材料は、BET値≦0.37m2/g、Dmax<50μmを有することによって特徴付けられ、この粉末材料は、P=200MPaに対する100%+(1−2a−b)×160%以下の硬強度指数(HSI)ΔΓ(P)値であって、
【数4】
[式中、D10P=0は、非凝集粉末(P=0MPa)のD10値であり、Γ0(D10P=
0)は、D10P=0での非凝集粉末の累積体積粒径分布であり、ΓP(D10P=0)は、MPaで表されるPで圧縮されたサンプルのD10P=0での累積体積粒径分布である]である、硬強度指数(HSI)ΔΓ(P)値を有することによって特徴付けられる、材料である。ある実施形態では、M=Mnであり、M'は、Al及びCoのいずれか1種である。別の実施形態では、Dmax<45μmである。以下の実験から、0.20m2/g未満のBETの値が得られないことが明白である。更に特定の実施形態では、1−a−b≧0.5かつ1+x<1.000である。また、材料は、最大2mol%までのW、Mo、Nb、Zr、又は希土類元素を含有してもよい。一実施形態では、材料は、0<x'<1かつ0<y'<2の第2の相LiNx'y'を有する[式中、は、W、Mo、Nb、Zr、及び希土類元素のうち1種又は2種以上のいずれか一方である]。適切な添加剤又はドーパントで改質された材料は、向上した硬強度及び改善されたサイクル寿命もまた特徴とすることができると推測される。これは、例えば、W、Mo、Nb、Zr、若しくは希土類元素などの添加剤又はドーパントTの事例である。かかるT元素は、Liと合金になる性質を有し(例えば、Li2ZrO3、(Li2O)n(WO3)[n=1、2、3]、又はLi3NbO4)、またLi4MWO6化合物でのようにM=Co、Ni、及びMnの場合もある。かかるT含有合金は、安定で粒子の粒界に蓄積し、結果として、反復される電気化学的サイクル中、応力に対して良好な機械的耐性を提供する粒界の安定化をもたらすことができる。
【0022】
材料は、Al23の表面コーティングを有してもよく、1000ppmを超える、又は更には2000ppmを超えるアルミナ含有量をもたらす。本発明によるカソード材料は、3000pm未満のFを有してもよい。一実施形態では、材料は0.5質量%未満、又は0.25質量%未満、又は更には0.15質量%未満のS質量%を有してもよい。
【0023】
様々な実施形態では、以下の特徴がもたらされる。
【0024】
P=300MPaに対してΔΓ(P)≦150+(1−2a−b)×160%、又は、
P=300MPaに対してΔΓ(P)≦125%+(1−2a−b)×100%、又は、
P=300MPaに対してΔΓ(P)≦180%、又は、
P=300MPaに対してΔΓ(P)≦140%、又は、
P=300MPaに対してΔΓ(P)≦100%。
【0025】
本発明による粉末正極材料に関して、
この材料は、洗浄後BET値>1m2/g又は洗浄後BET値が1.5m2/g超であってもよい。
【0026】
この材料は、3.0g/cm3超、又は3.2g/cm3超、又は3.4g/cm3超の圧縮密度を有してもよい。
【0027】
この材料は、可溶性塩基含有量(Li2CO3+LiOH)<0.8質量%、又はLi2CO3質量%+LiOH質量%<0.5質量%、又はLi2CO3質量%+LiOH質量%<0.3質量%であってもよい。
【0028】
この材料は、図9図10に例示したとおり、20nmより大きい細孔を実質的に持たないか、又は更には10nmより大きい細孔を持たない二次粒子を含有してもよい。
【0029】
この材料は、図9図10に例示したとおり、20nmより大きい空隙を20個未満、又は更には20nmより大きい空隙を10個未満含む二次粒子を含有してもよい。
【0030】
この材料は、0.125を超える2θ°、又は0.140を超える2θ°、又は更には0.150を超える2θ°のR−3m空間群の擬似六方格子によって定義されたとおり(104)ピークの半値全幅値を有してもよい。
【0031】
この材料は、0.125を超える2θ°、又は0.140を超える2θ°、又は更には0.150を超える2θ°のR−3m空間群の擬似六方格子によって定義されたとおり(015)ピークの半値全幅値を有してもよい。
【0032】
この材料は、0.16を超える2θ°、又は0.18を超える2θ°、又は更には0.20を超える2θ°のR−3m空間群の擬似六方格子によって定義されたとおり(113)ピークの半値全幅値を有してもよい。
【0033】
本発明によるカソード材料は、0.1CのEfad.≦(1−2a−b)×10%、又
は0.1CのEfad.≦(1−2a−b)×5%、又は1CのEfad.≦(1−2a−b)×20%を有してもよい(発明を実施する形態の電気化学的試験に関するa)部及びc)部を参照)。材料は、フルセルにおいて室温で80%を上回る保持容量を伴って少なくとも1000サイクル、又は更には少なくとも1500サイクル、サイクル使用してもよい。材料はまた、フルセルにおいて45℃で80%を上回る保持容量を伴って少なくとも900サイクル、又は更には少なくとも1500サイクル、サイクル使用してもよい。
【0034】
本発明による更なる製品実施形態が、前述の異なる製品実施形態により網羅される特徴を組み合わせることにより、提供され得ることが明白である。
【0035】
第2の態様の観点から、本発明は、電極内に組み込まれ、3.0+((1−2a−b)/2)g/cm3を超える電極密度を有する粉末正極材料を提供し得る。
【0036】
第3の態様の観点から、本発明は、リチウム−遷移金属酸化物の粒子、Liを含まない負極、正極及び負極の間に挿入されたセパレータ、並びに非水性電解質を含む正極活材料を含有するリチウム二次電池を提供することができ、ここで、正極活材料の粒子は、P=300MPaに対して(1−2a−b)×180%以下、又は300MPaに対して2(1−x)(1−a−b)×140%以下、又は更には300MPaで(1−a−b)×100%未満のΔΓ(P)値を有する。ある実施形態では、材料は、0.16を超える2θの(104)ピークの半値全幅を有し、室温で80%を上回る保持容量を伴う少なくとも1000サイクル、又は更に1500サイクルを示す。ある実施形態では、材料は、0.16を超える2θの(104)ピークの半値全幅を有し、45℃で80%を上回る保持容量を伴う少なくとも900サイクルを示す。
【0037】
第4の態様の観点から、本発明は、本発明による粉末正極材料の調製方法を提供し得るものであって、この材料は、一般式
Li1+x[Ni1-a-b-caM'bM''c1-x2-zを有し、この方法は、
−Ni、M、M'、及びM''のうち1種又は2種以上のいずれか一方を含有する1種又は2種以上の前駆体材料と、Liを含有する前駆体材料との混合物を提供する工程と、
−この混合物を、℃で表される温度T[(945−(248*(1−2a−b)≦T≦(985−(248*(1−2a−b))]で焼結し、それによって、凝集化粒子を得る工程と、
−この凝集化粒子を粉砕し、それによって、BET≦0.37m2/g及びDmax<50μmを有する粉末を得る工程と、を含む、方法を提供する。Dmax又はD100値は、得られた粉末の最大粒径である。ある実施形態では、Dmax<45μmである。以下の実験から、0.20m2/g未満のBETの値が得られないことが明白である。
【0038】
米国特許出願公開第2011/193013号は、層状結晶構造を有する粉末リチウム遷移金属酸化物Li1+a1-a2±bM'km[式中、−0.03<a<0.06、b≒0、0≦m≦0.6、mは、mol%で表わされ、Mは、少なくとも95%がNi、Mn、Co、及びTiの群のうち1種の元素又は2種以上の元素のいずれか一方からなる遷移金属化合物であり、M'は、粉末状酸化物の表面上に存在し、Ca、Sr、Y、La、Ce、及びZrの群のうち1種の元素又は2種以上の元素のいずれか一方からなる]を記載していることを、ここで言及すべきである。BET値≦0.37m2/gを有する生成物は、高すぎる温度で焼かれたことで、多孔性が大きくなり、硬度の低下がもたらされている。
【0039】
また、米国特許出願公開第2006/233696号は、組成Lixy2を有し、混合遷移金属前駆体及びLi2CO3から空気中での固相反応によって調製された、粉末リチ
ウム遷移金属酸化物を記載するが、この粉末は、Li2CO3不純物を事実上含まない。この式において、M=M'1-kkであり、ここで、0.65≦a+b≦0.85かつ0.1≦b≦0.4の条件でM'=Ni1-a-b(Ni1/2Mn1/2aCobであり、Aは、ドーパントであり、かつ0≦k≦0.05であり、0.95≦x≦1.05の条件でx+y=2である。調製された生成物のBET表面積は、大きすぎるため、硬度の低下が引き起こされる。
【0040】
最後に、米国特許出願公開第2010/112447号では、正極活材料は、リチウム並びにNi、Mn、及びCoを含有する複合酸化物を含む。Niのモル比は、0.45〜0.65であり、Mnのモル比は、0.15〜0.35である。正極活材料は、3.3g/cm3以上かつ4.3g/cm3以下の60MPaの圧縮下での圧縮密度を有する。正極活材料は、100Ω・cm以上かつ1000Ω・cm未満の60MPaの圧縮下での体積抵抗率を有する。しかし、開示の材料は、1:1.03以上、又は1:0.95の(Ni+Mn+Co):Li比を有する。この比は、所望の硬度を有する生成物が得られるようにするために、高すぎるか又は低すぎるかのいずれか一方である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】実施例1のP=0、100、200、及び300MPaに対する、一軸応力Pの関数としての累積粒径分布ΓPの漸進的変化である。
図2】実施例1のP=0、100、200、及び300MPaに対する、一軸応力Pの関数としての累積粒径分布ΓPの漸進的変化の拡大であり、ΓP(D10P=0)を決定する工程を示す。
図3】4.2〜2.7Vでサイクル使用されたときのEX1、EX2、及びCEX1の室温でのフルセルサイクル寿命である。サイクル数(#)の関数としての保持容量(単位:初期放電容量の%)の漸進的変化。
図4】4.2〜2.7Vでサイクル使用されたときのEX1、EX2、及びCEX1の45℃でのフルセルサイクル寿命である。サイクル数の関数としての保持容量(単位:初期放電容量の%)の漸進的変化。
図5】実施例1(a)、実施例2(b)、及び比較例1(c)の二次粒子の断面SEM及びSEMである。
図6】4.2〜2.7Vでサイクル使用されたときのEX3、EX4、及びCEX2の室温でのフルセルサイクル寿命である。サイクル数(#)の関数としての保持容量(単位:初期放電容量の%)の漸進的変化。
図7】4.2〜2.7Vでサイクル使用されたときのEX3、EX4、及びCEX2の45℃でのフルセルサイクル寿命である。サイクル数(#)の関数としての保持容量(単位:初期放電容量の%)の漸進的変化。
図8】実施例3(上)及び比較例2(下)の二次粒子のSEMである。
図9】実施例3(上)、実施例4(中)、及び比較例2(下)の二次粒子の断面SEMである。
図10】実施例5(a)、実施例6(b)、及び比較例7(c)の二次粒子の断面SEM及びSEMである。
図11】4.2〜2.7Vでサイクル使用されたときのEX8、EX9、及びEX10の室温でのフルセルサイクル寿命である。サイクル数(#)の関数としての保持容量(単位:初期放電容量の%)の漸進的変化。
図12】4.2〜2.7Vでサイクル使用されたときのEX8、EX9、及びEX10の45℃でのフルセルサイクル寿命である。サイクル数(#)の関数としての保持容量(単位:初期放電容量の%)の漸進的変化。
図13】実施例8(a)、実施例9(b)、及び実施例10(c)の二次粒子のSEMである。
図14】2θ(°)の関数としての回折強度(カウント)を示す実施例1のXRDパターンである。α−NaFeO2格子胞(空間群R−3m)の003、104、015、018、110、及び113反射の位置が示されている。
図15】実施例1の63〜70の2θ範囲における018、110、及び113ピークの擬似フォークト分解の例である。白丸は、Kα2除去後の実験データIobs.であり、黒実線は、3つの擬似フォークト関数を用いた推定プロフィールIcalc.であり、点線は、(Iobs.−Icalc.)量を表す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明は、電極製造中の大きな機械的応力及び電力を要する用途での電気化学的応力に耐えられるカソード材料を提供する。かかるカソード材料は、フルセルにおいて室温及び45℃の両方で改善されたサイクル寿命を有する。したがって、本発明による材料は、以下のとおり顕著な利点を提供する。
【0043】
−電極製造プロセスを容易にする最新の電極密度:カソード材料の二次粒子は、大幅により低い破砕及び破損リスクを伴って、電極製造中の高い一軸応力に耐えることができる。
【0044】
−サイクル寿命の向上:カソード材料の二次粒子は、電極製造後及び高いCレートでの電気化学的サイクル使用において大幅により低い破砕及び破損を示し、カソード二次粒子、結合剤、導電剤、及び集電体の間の良好な接触が電極内に保たれる。
【0045】
−高温での改善されたサイクル寿命:より高い応力に耐えられる本発明によるカソード活材料のBET増加は、電極圧縮後、サイクル使用時の粒子破損に起因して最小化され、したがって、これは、より高電圧で電解質酸化などの副反応が起きている表面露出を制限している。
【0046】
本発明による材料の調製方法は、概ね既知であるが、しかしそれは、化合物中のNi3+含有量に主に依存する、優れた硬度及び他の特性を達成することができる単一工程の加熱プロセスでの焼結温度及びLi/金属比などのパラメータの適切な選択によるものである。実際には、加熱工程の焼結温度は、(985−(248*(1−2a−b))℃に限定され、Li:M比(=(1+x)/(1−x))は、0.98〜1.02である。最低焼結温度はまた、前駆体間の反応が確実に完結するように、(945−(248*(1−2a−b))℃として規定することもできる。焼結温度を限定する理由は、粒子の内部多孔性に対するその焼結温度の直接的な影響において見出されている。Li:M比が0.98未満のとき、Liサイトに位置するNi量が顕著に増加するため、容量が大幅に減少する。Li:M比が1.02を超えるとき、可溶性塩基含有量が増加し、国際公開第2012/107313号で論じられているとおり、フルセルでの重大な気体発生のような問題をもたらす。
【0047】
また、このプロセスにとって重要なことは、適切な硬度を確保するために、焼結後に凝集した粒子が穏やかに破砕又は粉砕されることであり、粉砕は、BET値を増加させるため、穏やかな粉砕は、粉砕された生成物のBETを≦0.37m2/gに制限できることを意味する。破砕及び粉砕は、非常に大きな(最大粒径である)Dmax値をもたらし、容量を顕著に阻害するため、粉砕は、Dmax<50μmをもたらすように制御されてもよい。
【0048】
実験の概要
a)コインセル(coin cell)での電気化学的性質の評価
電極は、以下のとおりに調製される:約27.27質量%の活性カソード材料、1.52質量%のポリフッ化ビニリデンポリマー(KFポリマーL#9305、Kureha
America Inc.)、1.52質量%の導電性カーボンブラック(Super P、Erachem Comilog Inc.)、及び69.70質量%のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)(Sigma−Aldrich製)を高速ホモジナイザを用いて完全に混合する。次いで、スラリーをテープ成形法によってアルミニウムホイル上で薄層状(通常100マイクロメートル厚)に広げる。NMP溶媒を蒸発させた後、成形フィルムは、40マイクロメートルのギャップを用いる圧延機を通して加工される。電極は、直径14mmの大きさの円形ダイカッタを用いてこのフィルムから型抜きされる。次いで、電極を90℃で終夜乾燥する。続いて、電極は、活材料充填量を決定するために秤量される。通常、電極は、約17mg(約11mg/cm2)の活材料充填質量を伴う90質量%の活材料を含有する。次いで、電極をアルゴンで満たしたグローブボックス中に置き、2325型コインセル本体内に組み立てる。アノードは、500マイクロメートルの厚さを有するリチウムホイル(Hosen製)であり、セパレータは、Tonen製20MMSミクロ多孔質ポリエチレンフィルムである。コインセルを、炭酸エチレン及び炭酸ジメチルの1:2体積比の混合物(Techno Semichem Co.製)中に溶解したLiPF6の1M溶液で満たす。
【0049】
それぞれのセルは、Toscat−3100コンピュータ制御定電流サイクル装置(Toyo製)を用いて25℃でサイクル使用する。EX1、EX2、EX、EX4、CEX1、及びCEX2を評価するために使用したコインセル試験スケジュール1を表8に詳細に示した。EX5、EX6、EX7、EX8、EX9、及びEX10を評価するために使用したコインセルスケジュール2を表9に詳細に示した。両方のスケジュールは、160mA/gの1C電流定義を使用し、以下のとおり3つの部分を含む。
【0050】
(i)第I部は、4.3〜3.0V/Li金属ウィンドウ範囲における0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、及び3Cでのレート性能の評価である。初期充電容量CQ1及び放電容量DQ1が定電流モード(CC)で測定される第1のサイクル(1st cycle)を除いて、すべての後続サイクルは、0.05Cの終止電流判定基準を伴う充電中に、定電流−定電圧の特徴を示す。第1のサイクルに対しては30分間の静止時間が、すべての後続サイクルに対しては10分間の静止時間が、それぞれの充電と放電との間に割り当てられる。
【0051】
不可逆容量Qirr.は、
【数5】
のように%で表される。0.2C、0.5C、1C、2C、及び3Cでのレート性能は、保持放電容量DQnとの間の比として表され、以下のとおりn=2、3、4、5、及び6それぞれに対してnC=0.2C、0.5C、1C、2C、及び3Cである:
【数6】
例えば、3Cレート(単位:%)=(DQ6/DQ1)×100である。
【0052】
(ii)第II部は、1Cでのサイクル寿命の評価である。コインセルスケジュール1及び2は、充電カットオフ電圧が異なるのみであり、スケジュール1及び2それぞれに対して、4.5V及び4.3V/Li金属である。4.5V/Li金属での放電容量は、サイクル7での0.1Cで、かつサイクル8での1Cで測定する。0.1C及び1Cでの容量減衰は、以下のとおり計算され、100サイクルごとの%で表される。
【0053】
【数7】
【0054】
0.1C及び1Cでのエネルギー減衰は、以下のとおり計算され、100サイクルごとの%で表される。
【数8】
は、サイクルnでの平均電圧である。
【0055】
【数9】
【0056】
(iii)第III部は、4.5〜3.0V/Li金属での、充電に対して1Cレートを用い、放電に対して1Cレートを用いる加速サイクル寿命実験である。
【0057】
容量及びエネルギー減衰は、以下のとおり計算される。
【0058】
【数10】
【0059】
b)フルセルの製造
650mAhのポーチ型セルは、以下のとおり調製される:正極活材料粉末は、上記のとおりに調製され、Super−P(Timcalから市販で入手可能なSuper−P(登録商標)Li)、及び正極導電剤としてのグラファイト(Timcalから市販で入手可能なKS−6)、及び正極結合剤としてのポリフッ化ビニリデン(Kurehaから市販で入手可能なPVdF1710)を、正極活材料粉末、正極導電剤、及び正極結合剤の質量比を92/3/1/4に設定できるように、分散媒質としてのNMP(N−メチル−2−ピロリドン)に加える。その後、混合物を混練して正極混合物スラリーを調製する。次いで、生じた正極混合物スラリーを、15μm厚のアルミニウムホイル製の正極集電体の両側に塗布する。塗布領域の幅は、43mmであり、長さは、450mmである。通常のカソード活材料充填質量は、13.9mg/cm2である。次いで、電極を乾燥させ、100Kgfの圧力を用いてカレンダリングする。通常の電極密度は、3.2g/cm3である。加えて、正極集電体タブとして機能するアルミニウム板は、正極の端部にアー
ク溶接される。
【0060】
市販で入手可能な負極を使用する。簡潔に言えば、96/2/2の質量比のグラファイト、CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)、及びSBR(スチレンブタジエンゴム)を銅ホイルの両面に塗布する。負極集電体タブとして機能するニッケル板は、負極の端部にアーク溶接される。セルバランスのために使用される通常のカソード及びアノード放電容量比は、0.75である。非水性電解質は、EC(炭酸エチレン)及びDEC(炭酸ジエチル)の1:2体積比での混合溶媒に1.0mol/Lの濃度でヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を溶解することで得られる。
【0061】
正極のシート、負極のシート、及びそれらの間に挿入された20μm厚のミクロ多孔質ポリマーフィルム(Celgardから市販で入手可能なCelgard(登録商標)2320)から製造されたセパレータのシートは、らせん巻き電極アセンブリを得るために巻き取り芯棒を用いてらせん状に巻き取られる。次いで、巻き電極アセンブリ及び電解質を、平らなポーチ型リチウム二次電池が調製できるように、露点が−50℃の風乾室内でアルミニウム積層ポーチに入れる。二次電池の設計容量は、4.20Vまで充電されたときに650mAhである。非水性電解質溶液は、室温で8時間浸透させる。電池を、その理論容量の15%で予充電し、同様に室温で1日置く。次いで、電池を−0.10MPa(−760mmHg)の圧力を用いて30秒間脱気し、アルミニウムポーチを密封する。電池は、以下のとおり使用するために調製される:電池は、CCモードで0.5Cレートで2.7Vのカットオフ電圧に低下するまで放電される前に、0.2C(1C=650mAとして)の電流を用いてCCモード(定電流)で4.2Vまで、次いでCVモード(定電圧)でC/20のカットオフ電流に達するまで充電される。
【0062】
c)サイクル寿命実験
リチウム二次フルセル電池は、その充放電サイクル性能を判定するために、25℃及び45℃の両方で、以下の条件下で数回充電及び放電される:
【0063】
−充電は、CCモードで1Cレートで4.2Vまで、次いでCVモードでC/20に達するまで実施される。
【0064】
−次いで、セルは、10分間静止しておく。
【0065】
−放電は、CCモードで1Cレートで2.7Vに低下するまで行われる。
【0066】
−次いで、セルは、10分間静止しておく。
【0067】
−充放電サイクルは、電池が80%保持容量に達するまで続けられる。100サイクルごとに、放電は、0.2CレートでCCモードで2.7Vに低下するまで行われる。
【0068】
n回目のサイクル(nth cycle)時の保持容量は、サイクルnで得られた放電容量のサイクル1に対する比として計算される。
【0069】
d)XRD
XRDパターンは、Rigaku製のD/MAX2200PC、X線回折計を用いて、17〜144の2θ範囲で0.02°のスキャン幅(scan step)で記録する。スキャン速度は、毎分1.0°に設定する。θ/2θブラッグ・ブレンターノ配置を有するゴニオメータは、185mmの半径を有する。銅標的X線管は、40KV及び40mAで作動させる。湾曲グラファイト結晶に基づく回折ビームモノクロメータは、KβCu放射を除去するために使用される。収集されたXRDパターンは、従来のシンチレーション計数管検
出器を用いて1/2のIα2/Iα1強度比である標準的な波長Kα1=1.5405Å及びKα2=1.5443Åを有するKαCu放射を含む。入射ビーム光学装置は、10mmの高さ制限発散スリット(divergent height limiting slit(DHLS))、1°の発散スリット(DS)、及び5°の垂直方向ソーラースリットを備える。回折ビーム光学装置は、1°の散乱防止スリット(SS)、5°の垂直方向ソーラースリット、及び0.3mmの受光スリット(RS)を含む。異なる材料の結晶化度は、(003)及び(104)ピークの半値全幅(FWHM)から計算され、hklミラー指数は、J.J.Braconnier,C.Delmas,C.Fouassier,and P.Hagenmuller,Mat.Res.Bull.15,1797(1980)によって定義されたとおり、R−3m空間群を有するO3型六方格子に相当する。半値全幅は、Sonnevelt−Visserのアルゴリズムを用いるバックグラウンドの影響の更なる除去、並びに、(003)及び(104)ピークそれぞれに対して17〜20の2θ及び43〜43.5の2θでRigaku製「Integral analysis v6.0」ソフトウェアで実行されるとおりのKα2の除去によって決定される。
【0070】
015、018、110、及び113反射の半値全幅は、以下の擬似フォークト関数を用いるKα2除去後の実験強度Iobs.の局所フィッティングによって計算された。
【0071】
【数11】
[式中、
0は、バックグラウンド水準(単位:カウント)であり、
nは、インターバルで考慮された回折ピークの数であり、
i、μi、2θ0,i、及び半値全幅i(FWHMi)はそれぞれ、擬似フォークト分布の高さ(単位:カウント)、ローレンツ関数−ガウス関数混合比、2θ0の位置(単位:2θ°)、及びi=1...nであるピークiの半値全幅(単位:2θ°)である。]
63〜70の2θ範囲でのn=3のピークとのかかる擬似フォークトフィッティングの例を図15に示す。018、110、及び113ピークは、相関係数の二乗R2と99.5%を超えて十分にフィットしている。かかる条件での半値全幅の決定は、通常の演算であり、多種多様な研究用ソフトウェア/オープンソフトウェア/市販ソフトウェアを用いて行うことができることを著者は強調する。
【0072】
e)材料硬度評価
材料硬度は、以下のとおり一軸応力下での粒径の漸進的変化を用いて推定される:
【0073】
−カソード活材料をステンレス鋼ペレットダイ内に入れ、100、200、及び300MPaの一軸応力を加える。次いで、得られたペレットを指で軽くほぐして、レーザ粒径分布測定用のもろい粉末を得る。めのう乳鉢などの強力な脱凝集化法の使用は、粒子が更に破壊され、微細粒子の割合が増加するであろうことから、この工程には好適ではない。
【0074】
−レーザ粒径分布は、粉末を水性媒体内に分散させた後に、Malvern製Mastersizer2000をHydro2000MU湿式分散アクセサリと共に用いて測定する。水性媒体中での粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射、通常1分間の12の超音波変位、及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入する。
【0075】
−硬強度指数(HSI)は、以下のとおり定義される:

【0076】
【数12】
[式中、
−D10P=0は、非凝集粉末(P=0MPa)のD10値であり、
−Γ0(D10P=0)は、D10P=0における非凝集粉末の累積体積粒径分布である。定義によってΓ0(D10P=0)は、常に10%に等しいことに留意すべきである。
【0077】
−ΓP(D10P=0)は、D10P=0におけるP=100、200、及び300MPaで圧縮されたサンプルの累積体積粒径分布である。この値は、プロットを直接読むことによって、又はフィッティング関数を用いる局所近似によって決定することができる。
【0078】
一軸圧縮応力後のΓP(D10P=0)値の増加は、粒子がより小さな粒子に破壊されたことの直接の証拠である。ΔΓ(P)は、Γ0(D10P=0)と比較したΓP(D10P=0)の相対的増加であり、%で表される。したがって、ΓP(D10P=0)及びΔΓ(P)における変化は、本発明によるカソード粉末のHSIを決定するための定量的尺度である。一軸応力の関数としての累積粒径のかかる漸進的変化を、実施例1に関して図1で示し、より明確に図2で示す(以下もまた参照)。一実施形態では、本発明による粉末リチウム混合金属酸化物は、200MPaで100%+(1−2a−b)×160%を越えず、別の実施形態では、300MPaで150%+(1−2a−b)×160%を越えず、及び更に別の実施形態では、300MPaで125%+(1−2a−b)×100%を越えずに増加するΔΓ(P)値を有し、ここで、a及びbはそれぞれ、カソード化合物Li1+x[Ni1-a-b-caM'bM''c1-x2-zでのMn及びCoのモル含有量である。
【0079】
f)圧縮密度
圧縮密度は、以下のとおりに測定される:3グラムの粉末を1.300cmの半径「d」を有するペレットダイ内に充填する。207MPaの圧力に相当する2.8トンの一軸負荷を30秒間加える。負荷を緩和した後、圧縮された粉末の厚さ「t」を測定する。次いで、ペレット密度は、以下のとおりに計算される:
【0080】
3/(Π×(d/2)2×t)(単位:g/cm3)。
【0081】
また、300MPa負荷での粉末の密度を測定し、二次粒子がより小さな粒子に破壊されることに起因する圧縮密度の増加に関する情報が与えられる。特に、より小さな粒子は、二次粒子パッキングの空隙を埋めることによって見かけ密度を増加させる。より多くの二次粒子が破壊されて微粒子を生じるにつれて、密度はより高くなる。この性質は、表に300MPaでの密度として記載され、以下のとおり計算される:3/(Π×(d/2)2×t)(単位:g/cm3)[式中、「d」は、(1.3cmに等しい)ダイの半径及び「t」は、300MPa負荷でのペレットの厚さである]。
【0082】
g)BET比表面積
比表面積は、Micromeritics製Tristar3000を用いるブルナウアー−エメット−テラー(BET)法で測定される。吸着化学種を除去するために、3gの粉末サンプルを、測定前に300℃で1時間真空乾燥させる。「真の」BETは、以下のとおりに測定される:10gの粉末サンプルを100gの水に浸漬し、室温で10分間
撹拌する。次いで、吸引を伴うブフナーろ過を用いて水溶液を除去する。洗浄した粉末を集めて120℃で3時間乾燥する。次いで、真のBETは、前述のとおり同一の実験条件を用いて、この洗浄した粉末について測定する。真のBETは、LiOH、Li2CO3、Li2SO4・・・などのすべてのリチウム塩が4Vよりも高い電位で電解質に溶解した時点でフルセルにおいて見られたBETを表していると考えられる。この場合、重要な定性的情報が、粒子のミクロ多孔性について与えられ、例えば、細孔がより小さくなるにつれて真のBETがより大きくなることが予想される。
【0083】
h)残留Li2CO3及びLiOH滴定
塩基含有量は、表面と水との間の反応生成物の分析によって定量的に測定することができる材料の表面特性である。粉末を水に浸漬すると、表面反応が起こる。反応中、水のpHは、(塩基性化合物が溶解するため)増加し、塩基は、pH滴定で定量される。この滴定結果は、「可溶性塩基含有量」(SBC)である。可溶性塩基の含有量は、以下のとおりに測定することができる:100mLの脱イオン水を、Ni3+含有量<0.4のとき、20gのカソード粉末に加え、Ni3+含有量≧0.4のとき、4gのカソード粉末に加え、その後10分間撹拌する。次いで、吸引を伴うブフナーろ過を用いて水溶液を除去すると、可溶性塩基を含有する>90gの透明溶液が得られる。可溶性塩基の含有量は、撹拌下でpHが3に到達するまで0.5cm3/分(0.5mL/分)の速度で0.1M HClを添加する間に、pHプロフィールを記録することによって滴定される。参照電圧プロフィールは、脱イオン水(DI)に低濃度で溶解したLiOH及びLi2CO3の好適な混合物を滴定することによって得られる。ほとんどすべての事例では、2つの明らかなプラトーが観察される。pH8〜9の終点γ1(単位:mL)を伴う上方のプラトーは、OH-/H2Oであり、CO32-/HCO3-が続き、pH4〜6の終点γ2(単位:mL)を伴う下方のプラトーは、HCO3-/H2CO3である。第1及び第2のプラトーの間の変曲点γ1並びに第2のプラトー後の変曲点γ2は、pHプロフィールの微分dpH/dVolの対応する極小値から得られる。第2の変曲点は、概ねpH4.7付近である。この場合、結果は、以下のとおり、LiOH及びLi2CO3の質量パーセントで表される:
【0084】
【数13】
【0085】
i)硫黄滴定のためのICP
硫黄含有量は、Agilent720シリーズ装置を用いる誘導結合プラズマ発光分光法(ICP−OES)を用いて測定される。分析結果は、質量%で表される。
【実施例】
【0086】
本発明を次の実施例において更に例示する。
【0087】
実施例1
実施例1(EX1)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調製される。Li2CO3(Chemetall)及び5/3/2のNi/Mn/Coモル比を有するUmicore量産品の金属酸化物−水酸化物前駆体を、1.01のLi:Mモル比に混合すると、Li1.005Ni0.498Mn0.299Co0.1992又はLi1.005[Ni0.5Mn0.3Co0.20.9952の一般組成を生じる。混合物をパイロット規模の装置を用いて910℃の温度で10時間反応させる。次いで、焼結ケーキを破砕し、9.9μmの平均粒
径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。
【0088】
電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。
【0089】
実施例2
実施例2(EX2)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調製される。Li2CO3(Chemetall)及び5/3/2のNi/Mn/Coモル比を有するUmicore量産品の金属酸化物−水酸化物前駆体を、1.01のLi:Mモル比に混合すると、Li1.005[Ni0.5Mn0.3Co0.20.9952の一般組成を生じる。混合物をパイロット規模の装置を用いて930℃の温度で10時間反応させる。次いで、焼結ケーキを破砕し、10μmの平均粒径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。
【0090】
電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。
【0091】
比較例1
比較例1(CEX1)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調製される。Li2CO3(Chemetall)及び5/3/2のNi/Mn/Coモル比を有するUmicore量産品の金属酸化物−水酸化物前駆体を、1.01のLi:Mモル比に混合すると、Li1.005[Ni0.5Mn0.3Co0.20.9952の一般組成を生じる。混合物をパイロット規模の装置を用いて950℃の温度で10時間反応させる。次いで、焼結ケーキを破砕し、10μmの平均粒径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。
【0092】
電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。
【0093】
実施例3
実施例3(EX3)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調製される。LiOH・H2O(SQM)及び6/2/2のNi/Mn/Coモル比を有するUmicore量産品の金属酸化物−水酸化物前駆体を、1.01のLi:Mモル比に混合すると、Li1.005Ni0.597Mn0.199Co0.1992又はLi1.005[Ni0.6Mn0.2Co0.20.9952の一般組成を生じる。混合物をパイロット規模の装置を用いて860℃の温度で10時間反応させる。次いで、焼結ケーキを破砕し、11.6μmの平均粒径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。
【0094】
電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。
【0095】
実施例4
実施例4(EX4)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調製される。Li2CO3(Chemetall)及び6/2/2のNi/Mn/Coモル比を有するUmicore量産品の金属酸化物−水酸化物前駆体を、1.01のLi:Mモル比に混合すると、一般組成Li1.005[Ni0.6Mn0.2Co0.20.9952を生じる。混合物をパイロット規模の装置を用いて870℃の温度で10時間反応させる。次いで、焼結ケーキを破砕し、12.8μmの平均粒径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。
【0096】
電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。
【0097】
比較例2
比較例2(CEX2)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調
製される。Li2CO3(Chemetall)及び6/2/2のNi/Mn/Coモル比を有するUmicore量産品の金属酸化物−水酸化物前駆体を、1.01のLi:Mモル比に混合すると、Li1.005[Ni0.6Mn0.2Co0.20.9952の一般組成を生じる。混合物をパイロット規模の装置を用いて890℃の温度で10時間反応させる。次いで、焼結ケーキを破砕し、12.8μmの平均粒径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。
【0098】
電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。
【0099】
実施例5、6、及び7
これらの実施例は、粒子脆性及びサイクル寿命がLi:M組成を変更することによって影響され得ることを示すこととなる。実施例5、6、及び7(EX5、6、及び7)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調製される。Al23粉末、LiOH・H2O(SQM)、及び84.2/15.8のNi/Coモル比を有するUmicore量産品のNi、Co酸化物−水酸化物前駆体を、81.7/15.3/3.0のNi/Co/Alモル比、並びに、EX5、EX6、及びEX7に対してそれぞれ0.98、1.00、及び1.02に等しいLi:Mを得るために混合する。熱処理は、実験室規模の装置を用いて775℃の温度で10時間、O2気流下(4m3/Kg)で行う。次いで、焼結ケーキを破砕し、およそ12〜13μmの平均粒径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。
【0100】
電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。断面SEM及び粒子SEMを図8に示す。
【0101】
実施例8、9、及び10
これらの実施例は、粒子脆性及びサイクル寿命がLi:M組成及びドーパント濃度を変更することによって影響され得ることを示すこととなる。実施例8、9、及び10(EX8、9、及び10)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調製される。Al23粉末、LiOH・H2O(SQM)、及び84.2/15.8のNi/Coモル比を有するUmicore量産品のNi−Co酸化物−水酸化物前駆体を、EX8及びEX9に対してそれぞれ81.7/15.3/3.0のNi/Co/Alモル比と0.98及び1.00に等しいLi:Mとを得るため、EX10に対して82.8/15.5/1.7のNi/Co/Alモル比と1.00に等しいLi:Mとを得るために混合する。熱処理は、パイロット規模の装置を用いて775℃の温度で10時間、O2気流下(4m3/Kg)で行う。次いで、焼結ケーキを破砕し、およそ12〜13μmの平均粒径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。室温及び45℃のフルセル性能をそれぞれ図11及び図12に示す。粒子SEMを図13に示す。
【0102】
実施例11、12、13、14、及び15
200gのカソード材料は、Li2CO3(Chemetall)及び5/3/2のNi/Mn/Coモル比を有するUmicore量産品の金属酸化物−水酸化物前駆体を、1.01のLi:Mモル比に混合し、この混合物をマッフル炉を用いて910℃で10時間反応させることによって調製される。一般組成は、Li1.010Ni0.495Mn0.297Co0.1982又はLi1.010[Ni0.5Mn0.3Co0.20.9902である。
【0103】
次いで、焼結ケーキを破砕し、20gの破砕生成物を270メッシュサイズのふるい(目開き53μm)でふるいにかけると、実施例11(EX11)が生じる。Dmax=D100は、799.5μmであり、ふるいを通らない材料の重量分率として決定される超過サイズの割合は、60.7%である。BETは、0.250m2/gである。
【0104】
20gの破砕生成物をCremania製CG−01 150W粉砕機を用いて15秒間粉砕すると、実施例12(EX12)が生じる。Dmaxは、38.7μmであり、ふるいを通らない材料の重量分率として決定される超過サイズの割合は、9.0%である。BETは、0.299m2/gである。
【0105】
20gの破砕生成物をCremania製CG−01 150W粉砕機を用いて30秒間粉砕すると、実施例13(X13)が生じる。Dmaxは、38.2μmであり、ふるいを通らない材料の重量分率として決定される超過サイズの割合は、6.2%である。BETは、0.294m2/gである。
【0106】
20gの破砕生成物をCremania製CG−01 150W粉砕機を用いて60秒間粉砕すると、実施例14(EX14)が生じる。Dmaxは、33.1μmであり、ふるいを通らない材料の重量分率として決定される超過サイズの割合は、4.4%である。BETは、0.343m2/gである。
【0107】
20gの破砕生成物をCremania製CG−01 150W粉砕機を用いて300秒間粉砕すると、実施例15(EX15)が生じる。Dmaxは、32.0μmであり、ふるいを通らない材料の重量分率として決定される超過サイズの割合は、0.0%である。BETは、0.821m2/gである。
【0108】
EX11〜EX15の物性を表10に示す。
【0109】
破砕生成物EX11は、凝集した粒子に起因して最小のBET及び最大の超過サイズの割合及び最大のDmax値を有する。EX11は、超過サイズの割合が多いために低い製造処理量を示すという問題を有し、大きなサイズの凝集体のために均一な電極を製造する能力に乏しい。したがって、EX11は、リチウム電池カソード材料としての用途に適さず、適切な脱凝集化が必要である。
【0110】
EX12〜EX15は、粉砕時間を15秒から300秒まで増加させることによって調製し、超過サイズの割合及びDmaxが連続的に減少し、BETが連続的に増加するという結果を伴う。超過サイズの割合の減少は、製造処理量が増加するため、好ましい効果である。しかし、BETの増加は、電解質との寄生反応の割合が増加するため、望ましくない。特に、EX15における副反応は、BET表面が増加するため、EX14における副反応よりも約2.4倍早く進むこととなると著者は予測する。したがって、粉砕条件の特別な選択のみが、Dmax、BET、及び超過サイズの割合を本発明の実施形態内に制御することを可能にする。
【0111】
考察
EX1、EX2、及びCEX1
EX1、EX、及びCEX1は、EX1の83.7%から、EX2の116.4%、CEX1の266.4%まで増加する異なるΔΓ(P=300MPa)値を有することによって具体的に特徴付けられる(EX1の場合に図1及び図2から誘導された表3のデータが得られ、EX2及びCEX1に対して類似の図が得られる)。ΔΓ(P)のこの漸進的変化は、EX1及びEX2と比較してCEX1において200MPa及び300MPaの一軸応力を加えたときに、より多くの粒子がより小さい粒子に破壊されたことを示す。
【0112】
コインセルサイクル寿命は、4.5Vでの容量減衰及びエネルギー減衰の両方がEX1から、EX2、CEX1まで増加していることを(表1に)示している。具体的に言えば、サイクル安定性の改善は、より高い充電/放電1Cレート及び1C/1Cレートでより顕著である。
【0113】
EX1、EX2、及びCEX1を用いるフルセル電池は、実験の概要に記載したとおりに製造される。約3.20g/cm3の電極密度は、EX1、EX2、及びCEX1に対して達成され、この電極密度は、208MPaで圧縮したときの粉末の密度値に非常に近い。サイクル数の関数としての保持容量の漸進的変化を、室温での変化を図3に、45℃での変化を図4に示す(それぞれ、上の点線は、EX1に対して、中央は、EX2に対して、下の線は、CEX1に対する)。EX1は、室温で2000サイクル後に80%を上回る保持容量、及び45℃で816サイクル後に80%を上回る保持容量を伴う最も良好な保持容量を示す(表5)。かかる高保持容量は、電気自動車又はグリッド貯蔵などの長いサイクル寿命が必要な用途の場合に、特に適合している。比較すると、CEX1は、不十分なフルセルサイクル使用性能を示す。
【0114】
結論:P=200MPa及び300MPaでのΔΓ(P)の減少は、4.5Vでのコインセル減衰での減少と、室温及び45℃の両方でのサイクル使用時のフルセル保持容量の改善とに非常に良く一致している。
【0115】
SEM画像(図5)の注意深い観察は、以下を示す:
(i)一次粒子のサイズは、EX1(図5a)と比較してCEX1(図5c)の場合により発達している。これは、一次粒子のより小さいサイズに由来する凝集領域のより小さいサイズの結果である、003、104、015、018、110、及び118の半値全幅における増加と一致している(表7及び図14図15)。
【0116】
(ii)サイズが通常10〜100nmのナノメートル空隙及び細孔の密度は、EX1及びEX2と比較してCEX1の内部粒子がより高い。EX1、EX2、及びCEX1は、0.30m2/g付近の類似したBET値を有する(表4)。しかし、それらの真のBETは、非常に異なり、CEX1と比較して約0.50m2/gだけ、EX1及びEX2に関して実質的に大きい。この場合、ナノメートル細孔の存在はまた、EX1及びEX2で予測されるが、CEX1材料の場合よりも非常に小さい特徴的サイズを有する。
【0117】
より大きな結晶化度並びに高い濃度及びサイズが通常10nmを超える大きな特徴的サイズを有する内部多孔性及び空隙の存在は、粒子破壊を増進し、その結果、粒子が一軸応力に対して耐性がより劣るようになり、かつEX1及びEX2と比較してCEX1に関する電気化学的サイクル使用時により脆弱になる因子であることは、著者の見解である。粒子の内部多孔性は、加工条件によって、かつ、この場合は焼結温度を低下させることよって制御できることが本発明に示されている。以下に他の実施例において示すとおり、他の好適なパラメータは、異なるLi:M比及び粒界の安定性に影響し、その結果、脆性を増大させるリチウム塩ベースの化学種などの異なる不純物含有量を含む。例えば、過剰量のLiOH、Li2CO3、及びLi2SO4は、これらの化学種の粒界での蓄積、粒界の不安定化、及び最終的に脆性の増大をもたらす。
【0118】
結論として、EX1及びEX2は、本発明の実施形態であり、CEX1は、比較例である。
【0119】
EX3、EX4、及びCEX2
同様に、EX3、EX4、及びCEX2は、EX1、EX2、及びCEX1のサイクル安定性と粒子脆性の間におけるのと同じ関係性に従う。ΔΓ(P)がより低くなるにつれて、コインセル及びフルセルのサイクル寿命は向上する。具体的に言えば、EX3は、室温及び45℃でそれぞれ、1400サイクルを超えて及び1000サイクルを超えて優れている(図6図7)。粒子内に空隙及び粒界割れが同様に包含されることは、熱処理温度が増加するときに観察される(図8図9)。しかしながら、EX3、EX4、及びC
EX2は、より多量の有効Ni3+を有するという点でEX1、EX2、及びCEX1と区別されるが、EX1、EX2、及びCEX1では0.2であり、EX3、EX4、及びCEX2では0.4である。このより高いNi3+含有量は、EX1、EX2、及びCEX1と比較して、約10mAh/g高いCQ1及びDQ1をもたらす。残存LiOH及びLi2CO3含有量はまた、更に増加している。具体的に言えば、EX1及びEX3は、XRDの半値全幅値によって示されたとおり類似の結晶化度を有するが、EX3の粒子は、EX1よりも破壊される傾向がある。結果として、EX3のコインセル及びフルセルの電気化学的性質は、特に室温でEX1よりも劣っている。EX1と比較してEX3の45℃でのより良好なサイクル寿命は、異なるNi/Mn/Co組成に起因した電解質酸化の点で異なる界面化学により説明することができると思われ、EX4及びCEX2を上回る改善は、より低い脆性と関連すると考えられるにもかかわらず、著者は十分に理解していない。
【0120】
EX5、EX6、及びEX7
EX5、EX6、及びEX7は、その増加させたLi:M比が異なり、結果として多くの性質が異なる。厳密には、緒論で説明したとおり、有効Ni3+含有量は、Li:Mと共に増加するが、この場合は、Ni3+含有量は、一定と考えられ、0.817に等しいこととなる。コインセル評価は、DQ1がLi:M比と共に一定に増加することを示すが、その一方で、0.1C及び1C両方のQfad及びEfadは、低下する。4.5Vでの1C/1Cサイクル寿命は、生成物を識別することができないことに留意すべきであり、カソード材料から可逆的に引き抜かれるLiの量が多すぎることを意味する充電及び放電の深度は、差異を平等とする。残存LiOH及びLi2CO3含有量はまた、Li:Mと共に増加している。断面SEM(図10)は、粒子内の空隙の密度及びサイズがLi:Mと共に増加することを示す。XRDの半値全幅値(表7)はまた、Li:Mの低下と共に増加しており、結晶化度がLi:Mと共に低下することを意味する。
【0121】
ΔΓ(P)硬度特性(表3)は、より複雑な挙動を示す:SEM及びXRDから予測されるとおり、EX5は、最も低いΔΓ(P)及び最良なコインセル特性を有する。EX6及びEX7は、同一であるにもかかわらず、EX5よりも大きなΔΓ(P)値を有する。EX7の粒径分布の注意深い考察は、<3μmの体積分率が約2%であり、EX5及びEX6よりも多いことを明らかにする。実際は、すべてのサンプルが10〜14μmの狭いD50を有するにもかかわらず、EX7は、<3μm分率のかかる高い値を特徴とする本研究の唯一の例である。これらの微細粒子は、粉末の後処理工程の間に生成され、EX6を上回るEX7のより脆弱な性質の証拠であると著者は考える。結論として、残存塩基含有量の増加及びLi:Mと共に増加する結晶化度は、EX5、EX6、及びEX7に対してより高い粒子脆性をもたらしている。
【0122】
EX8、EX9、及びEX10
EX8及びEX9は、フルセル特性を測定するために、パイロット規模でEX5及びEX6それぞれを複製する試みであった。EX8とEX5との間及びEX9とEX6との間の特性に体系的オフセット(systematic offset)が存在しているが、EX8とEX9との間の差異は、EX5及びEX6に関して報告された差異と一致する。EX8は、EX9と比較して0.1C及び1CのQfad及びEfadのコインセル減衰の顕著な改善を示し、この場合もまたΔΓ(P)の減少と一致する。フルセルサイクル寿命は、室温では同様であるが、45℃では、EX8に関して示された約10%だけ多いサイクルだけ改善されている。図11図12を参照。断面のSEMを図13に示す。EX10は、EX9と比較してより少ないAl及びCo含有量を有し、より多いNi3+含有量をもたらす。EX10のΔΓ(P)は、EX9を超えて大きく増加し、0.1C及び1CのQfad及びEfadのコインセル及びフルセルの室温及び45℃のサイクル安定性は、低下している。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
【表3】
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
【0129】
【表7】
【0130】
【表8】
【0131】
【表9】
【0132】
【表10】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15