【実施例】
【0086】
本発明を次の実施例において更に例示する。
【0087】
実施例1
実施例1(EX1)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調製される。Li
2CO
3(Chemetall)及び5/3/2のNi/Mn/Coモル比を有するUmicore量産品の金属酸化物−水酸化物前駆体を、1.01のLi:Mモル比に混合すると、Li
1.005Ni
0.498Mn
0.299Co
0.199O
2又はLi
1.005[Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2]
0.995O
2の一般組成を生じる。混合物をパイロット規模の装置を用いて910℃の温度で10時間反応させる。次いで、焼結ケーキを破砕し、9.9μmの平均粒
径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。
【0088】
電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。
【0089】
実施例2
実施例2(EX2)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調製される。Li
2CO
3(Chemetall)及び5/3/2のNi/Mn/Coモル比を有するUmicore量産品の金属酸化物−水酸化物前駆体を、1.01のLi:Mモル比に混合すると、Li
1.005[Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2]
0.995O
2の一般組成を生じる。混合物をパイロット規模の装置を用いて930℃の温度で10時間反応させる。次いで、焼結ケーキを破砕し、10μmの平均粒径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。
【0090】
電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。
【0091】
比較例1
比較例1(CEX1)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調製される。Li
2CO
3(Chemetall)及び5/3/2のNi/Mn/Coモル比を有するUmicore量産品の金属酸化物−水酸化物前駆体を、1.01のLi:Mモル比に混合すると、Li
1.005[Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2]
0.995O
2の一般組成を生じる。混合物をパイロット規模の装置を用いて950℃の温度で10時間反応させる。次いで、焼結ケーキを破砕し、10μmの平均粒径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。
【0092】
電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。
【0093】
実施例3
実施例3(EX3)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調製される。LiOH・H
2O(SQM)及び6/2/2のNi/Mn/Coモル比を有するUmicore量産品の金属酸化物−水酸化物前駆体を、1.01のLi:Mモル比に混合すると、Li
1.005Ni
0.597Mn
0.199Co
0.199O
2又はLi
1.005[Ni
0.6Mn
0.2Co
0.2]
0.995O
2の一般組成を生じる。混合物をパイロット規模の装置を用いて860℃の温度で10時間反応させる。次いで、焼結ケーキを破砕し、11.6μmの平均粒径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。
【0094】
電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。
【0095】
実施例4
実施例4(EX4)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調製される。Li
2CO
3(Chemetall)及び6/2/2のNi/Mn/Coモル比を有するUmicore量産品の金属酸化物−水酸化物前駆体を、1.01のLi:Mモル比に混合すると、一般組成Li
1.005[Ni
0.6Mn
0.2Co
0.2]
0.995O
2を生じる。混合物をパイロット規模の装置を用いて870℃の温度で10時間反応させる。次いで、焼結ケーキを破砕し、12.8μmの平均粒径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。
【0096】
電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。
【0097】
比較例2
比較例2(CEX2)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調
製される。Li
2CO
3(Chemetall)及び6/2/2のNi/Mn/Coモル比を有するUmicore量産品の金属酸化物−水酸化物前駆体を、1.01のLi:Mモル比に混合すると、Li
1.005[Ni
0.6Mn
0.2Co
0.2]
0.995O
2の一般組成を生じる。混合物をパイロット規模の装置を用いて890℃の温度で10時間反応させる。次いで、焼結ケーキを破砕し、12.8μmの平均粒径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。
【0098】
電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。
【0099】
実施例5、6、及び7
これらの実施例は、粒子脆性及びサイクル寿命がLi:M組成を変更することによって影響され得ることを示すこととなる。実施例5、6、及び7(EX5、6、及び7)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調製される。Al
2O
3粉末、LiOH・H
2O(SQM)、及び84.2/15.8のNi/Coモル比を有するUmicore量産品のNi、Co酸化物−水酸化物前駆体を、81.7/15.3/3.0のNi/Co/Alモル比、並びに、EX5、EX6、及びEX7に対してそれぞれ0.98、1.00、及び1.02に等しいLi:Mを得るために混合する。熱処理は、実験室規模の装置を用いて775℃の温度で10時間、O
2気流下(4m
3/Kg)で行う。次いで、焼結ケーキを破砕し、およそ12〜13μmの平均粒径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。
【0100】
電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。断面SEM及び粒子SEMを
図8に示す。
【0101】
実施例8、9、及び10
これらの実施例は、粒子脆性及びサイクル寿命がLi:M組成及びドーパント濃度を変更することによって影響され得ることを示すこととなる。実施例8、9、及び10(EX8、9、及び10)の粉末カソード材料は、従来の高温焼結を用いることによって調製される。Al
2O
3粉末、LiOH・H
2O(SQM)、及び84.2/15.8のNi/Coモル比を有するUmicore量産品のNi−Co酸化物−水酸化物前駆体を、EX8及びEX9に対してそれぞれ81.7/15.3/3.0のNi/Co/Alモル比と0.98及び1.00に等しいLi:Mとを得るため、EX10に対して82.8/15.5/1.7のNi/Co/Alモル比と1.00に等しいLi:Mとを得るために混合する。熱処理は、パイロット規模の装置を用いて775℃の温度で10時間、O
2気流下(4m
3/Kg)で行う。次いで、焼結ケーキを破砕し、およそ12〜13μmの平均粒径D50を有する非凝集化粉末を得るために分級する。電気化学特性及び物性を表1〜表7に示す。室温及び45℃のフルセル性能をそれぞれ
図11及び
図12に示す。粒子SEMを
図13に示す。
【0102】
実施例11、12、13、14、及び15
200gのカソード材料は、Li
2CO
3(Chemetall)及び5/3/2のNi/Mn/Coモル比を有するUmicore量産品の金属酸化物−水酸化物前駆体を、1.01のLi:Mモル比に混合し、この混合物をマッフル炉を用いて910℃で10時間反応させることによって調製される。一般組成は、Li
1.010Ni
0.495Mn
0.297Co
0.198O
2又はLi
1.010[Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2]
0.990O
2である。
【0103】
次いで、焼結ケーキを破砕し、20gの破砕生成物を270メッシュサイズのふるい(目開き53μm)でふるいにかけると、実施例11(EX11)が生じる。D
max=D100は、799.5μmであり、ふるいを通らない材料の重量分率として決定される超過サイズの割合は、60.7%である。BETは、0.250m
2/gである。
【0104】
20gの破砕生成物をCremania製CG−01 150W粉砕機を用いて15秒間粉砕すると、実施例12(EX12)が生じる。D
maxは、38.7μmであり、ふるいを通らない材料の重量分率として決定される超過サイズの割合は、9.0%である。BETは、0.299m
2/gである。
【0105】
20gの破砕生成物をCremania製CG−01 150W粉砕機を用いて30秒間粉砕すると、実施例13(
EX13)が生じる。D
maxは、38.2μmであり、ふるいを通らない材料の重量分率として決定される超過サイズの割合は、6.2%である。BETは、0.294m
2/gである。
【0106】
20gの破砕生成物をCremania製CG−01 150W粉砕機を用いて60秒間粉砕すると、実施例14(EX14)が生じる。D
maxは、33.1μmであり、ふるいを通らない材料の重量分率として決定される超過サイズの割合は、4.4%である。BETは、0.343m
2/gである。
【0107】
20gの破砕生成物をCremania製CG−01 150W粉砕機を用いて300秒間粉砕すると、実施例15(EX15)が生じる。D
maxは、32.0μmであり、ふるいを通らない材料の重量分率として決定される超過サイズの割合は、0.0%である。BETは、0.821m
2/gである。
【0108】
EX11〜EX15の物性を表10に示す。
【0109】
破砕生成物EX11は、凝集した粒子に起因して最小のBET及び最大の超過サイズの割合及び最大のD
max値を有する。EX11は、超過サイズの割合が多いために低い製造処理量を示すという問題を有し、大きなサイズの凝集体のために均一な電極を製造する能力に乏しい。したがって、EX11は、リチウム電池カソード材料としての用途に適さず、適切な脱凝集化が必要である。
【0110】
EX12〜EX15は、粉砕時間を15秒から300秒まで増加させることによって調製し、超過サイズの割合及びD
maxが連続的に減少し、BETが連続的に増加するという結果を伴う。超過サイズの割合の減少は、製造処理量が増加するため、好ましい効果である。しかし、BETの増加は、電解質との寄生反応の割合が増加するため、望ましくない。特に、EX15における副反応は、BET表面が増加するため、EX14における副反応よりも約2.4倍早く進むこととなると著者は予測する。したがって、粉砕条件の特別な選択のみが、D
max、BET、及び超過サイズの割合を本発明の実施形態内に制御することを可能にする。
【0111】
考察
EX1、EX2、及びCEX1
EX1、EX
2、及びCEX1は、EX1の83.7%から、EX2の116.4%、CEX1の266.4%まで増加する異なるΔΓ(P=300MPa)値を有することによって具体的に特徴付けられる(EX1の場合に
図1及び
図2から誘導された表3のデータが得られ、EX2及びCEX1に対して類似の図が得られる)。ΔΓ(P)のこの漸進的変化は、EX1及びEX2と比較してCEX1において200MPa及び300MPaの一軸応力を加えたときに、より多くの粒子がより小さい粒子に破壊されたことを示す。
【0112】
コインセルサイクル寿命は、4.5Vでの容量減衰及びエネルギー減衰の両方がEX1から、EX2、CEX1まで増加していることを(表1に)示している。具体的に言えば、サイクル安定性の改善は、より高い充電/放電1Cレート及び1C/1Cレートでより顕著である。
【0113】
EX1、EX2、及びCEX1を用いるフルセル電池は、実験の概要に記載したとおりに製造される。約3.20g/cm
3の電極密度は、EX1、EX2、及びCEX1に対して達成され、この電極密度は、208MPaで圧縮したときの粉末の密度値に非常に近い。サイクル数の関数としての保持容量の漸進的変化を、室温での変化を
図3に、45℃での変化を
図4に示す(それぞれ、上の点線は、EX1に対して、中央は、EX2に対して、下の線は、CEX1に対する)。EX1は、室温で2000サイクル後に80%を上回る保持容量、及び45℃で816サイクル後に80%を上回る保持容量を伴う最も良好な保持容量を示す(表5)。かかる高保持容量は、電気自動車又はグリッド貯蔵などの長いサイクル寿命が必要な用途の場合に、特に適合している。比較すると、CEX1は、不十分なフルセルサイクル使用性能を示す。
【0114】
結論:P=200MPa及び300MPaでのΔΓ(P)の減少は、4.5Vでのコインセル減衰での減少と、室温及び45℃の両方でのサイクル使用時のフルセル保持容量の改善とに非常に良く一致している。
【0115】
SEM画像(
図5)の注意深い観察は、以下を示す:
(i)一次粒子のサイズは、EX1(
図5a)と比較してCEX1(
図5c)の場合により発達している。これは、一次粒子のより小さいサイズに由来する凝集領域のより小さいサイズの結果である、003、104、015、018、110、及び118の半値全幅における増加と一致している(表7及び
図14〜
図15)。
【0116】
(ii)サイズが通常10〜100nmのナノメートル空隙及び細孔の密度は、EX1及びEX2と比較してCEX1の内部粒子がより高い。EX1、EX2、及びCEX1は、0.30m
2/g付近の類似したBET値を有する(表4)。しかし、それらの真のBETは、非常に異なり、CEX1と比較して約0.50m
2/gだけ、EX1及びEX2に関して実質的に大きい。この場合、ナノメートル細孔の存在はまた、EX1及びEX2で予測されるが、CEX1材料の場合よりも非常に小さい特徴的サイズを有する。
【0117】
より大きな結晶化度並びに高い濃度及びサイズが通常10nmを超える大きな特徴的サイズを有する内部多孔性及び空隙の存在は、粒子破壊を増進し、その結果、粒子が一軸応力に対して耐性がより劣るようになり、かつEX1及びEX2と比較してCEX1に関する電気化学的サイクル使用時により脆弱になる因子であることは、著者の見解である。粒子の内部多孔性は、加工条件によって、かつ、この場合は焼結温度を低下させることよって制御できることが本発明に示されている。以下に他の実施例において示すとおり、他の好適なパラメータは、異なるLi:M比及び粒界の安定性に影響し、その結果、脆性を増大させるリチウム塩ベースの化学種などの異なる不純物含有量を含む。例えば、過剰量のLiOH、Li
2CO
3、及びLi
2SO
4は、これらの化学種の粒界での蓄積、粒界の不安定化、及び最終的に脆性の増大をもたらす。
【0118】
結論として、EX1及びEX2は、本発明の実施形態であり、CEX1は、比較例である。
【0119】
EX3、EX4、及びCEX2
同様に、EX3、EX4、及びCEX2は、EX1、EX2、及びCEX1のサイクル安定性と粒子脆性の間におけるのと同じ関係性に従う。ΔΓ(P)がより低くなるにつれて、コインセル及びフルセルのサイクル寿命は向上する。具体的に言えば、EX3は、室温及び45℃でそれぞれ、1400サイクルを超えて及び1000サイクルを超えて優れている(
図6〜
図7)。粒子内に空隙及び粒界割れが同様に包含されることは、熱処理温度が増加するときに観察される(
図8〜
図9)。しかしながら、EX3、EX4、及びC
EX2は、より多量の有効Ni
3+を有するという点でEX1、EX2、及びCEX1と区別されるが、EX1、EX2、及びCEX1では0.2であり、EX3、EX4、及びCEX2では0.4である。このより高いNi
3+含有量は、EX1、EX2、及びCEX1と比較して、約10mAh/g高いCQ1及びDQ1をもたらす。残存LiOH及びLi
2CO
3含有量はまた、更に増加している。具体的に言えば、EX1及びEX3は、XRDの半値全幅値によって示されたとおり類似の結晶化度を有するが、EX3の粒子は、EX1よりも破壊される傾向がある。結果として、EX3のコインセル及びフルセルの電気化学的性質は、特に室温でEX1よりも劣っている。EX1と比較してEX3の45℃でのより良好なサイクル寿命は、異なるNi/Mn/Co組成に起因した電解質酸化の点で異なる界面化学により説明することができると思われ、EX4及びCEX2を上回る改善は、より低い脆性と関連すると考えられるにもかかわらず、著者は十分に理解していない。
【0120】
EX5、EX6、及びEX7
EX5、EX6、及びEX7は、その増加させたLi:M比が異なり、結果として多くの性質が異なる。厳密には、緒論で説明したとおり、有効Ni
3+含有量は、Li:Mと共に増加するが、この場合は、Ni
3+含有量は、一定と考えられ、0.817に等しいこととなる。コインセル評価は、DQ1がLi:M比と共に一定に増加することを示すが、その一方で、0.1C及び1C両方のQfad及びEfadは、低下する。4.5Vでの1C/1Cサイクル寿命は、生成物を識別することができないことに留意すべきであり、カソード材料から可逆的に引き抜かれるLiの量が多すぎることを意味する充電及び放電の深度は、差異を平等とする。残存LiOH及びLi
2CO
3含有量はまた、Li:Mと共に増加している。断面SEM(
図10)は、粒子内の空隙の密度及びサイズがLi:Mと共に増加することを示す。XRDの半値全幅値(表7)はまた、Li:Mの低下と共に増加しており、結晶化度がLi:Mと共に低下することを意味する。
【0121】
ΔΓ(P)硬度特性(表3)は、より複雑な挙動を示す:SEM及びXRDから予測されるとおり、EX5は、最も低いΔΓ(P)及び最良なコインセル特性を有する。EX6及びEX7は、同一であるにもかかわらず、EX5よりも大きなΔΓ(P)値を有する。EX7の粒径分布の注意深い考察は、<3μmの体積分率が約2%であり、EX5及びEX6よりも多いことを明らかにする。実際は、すべてのサンプルが10〜14μmの狭いD50を有するにもかかわらず、EX7は、<3μm分率のかかる高い値を特徴とする本研究の唯一の例である。これらの微細粒子は、粉末の後処理工程の間に生成され、EX6を上回るEX7のより脆弱な性質の証拠であると著者は考える。結論として、残存塩基含有量の増加及びLi:Mと共に増加する結晶化度は、EX5、EX6、及びEX7に対してより高い粒子脆性をもたらしている。
【0122】
EX8、EX9、及びEX10
EX8及びEX9は、フルセル特性を測定するために、パイロット規模でEX5及びEX6それぞれを複製する試みであった。EX8とEX5との間及びEX9とEX6との間の特性に体系的オフセット(systematic offset)が存在しているが、EX8とEX9との間の差異は、EX5及びEX6に関して報告された差異と一致する。EX8は、EX9と比較して0.1C及び1CのQfad及びEfadのコインセル減衰の顕著な改善を示し、この場合もまたΔΓ(P)の減少と一致する。フルセルサイクル寿命は、室温では同様であるが、45℃では、EX8に関して示された約10%だけ多いサイクルだけ改善されている。
図11〜
図12を参照。断面のSEMを
図13に示す。EX10は、EX9と比較してより少ないAl及びCo含有量を有し、より多いNi
3+含有量をもたらす。EX10のΔΓ(P)は、EX9を超えて大きく増加し、0.1C及び1CのQfad及びEfadのコインセル及びフルセルの室温及び45℃のサイクル安定性は、低下している。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
【表3】
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
【0129】
【表7】
【0130】
【表8】
【0131】
【表9】
【0132】
【表10】