(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6469250
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】アイソレーティング・デカップラ
(51)【国際特許分類】
F16H 55/36 20060101AFI20190204BHJP
F16D 3/12 20060101ALI20190204BHJP
F16D 41/06 20060101ALI20190204BHJP
F16F 1/06 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
F16H55/36 Z
F16D3/12 G
F16D41/06 F
F16F1/06 N
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-549681(P2017-549681)
(86)(22)【出願日】2016年3月11日
(65)【公表番号】特表2018-510304(P2018-510304A)
(43)【公表日】2018年4月12日
(86)【国際出願番号】US2016021969
(87)【国際公開番号】WO2016153817
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2017年9月25日
(31)【優先権主張番号】14/667,463
(32)【優先日】2015年3月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504005091
【氏名又は名称】ゲイツ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】サーク,アレクサンダー
【審査官】
木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−525707(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/139224(WO,A1)
【文献】
特表2001−523325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/36
F16D 3/12
F16D 41/06
F16F 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト(1)と、
前記シャフトに軸支されるとともに、ベルト受け面(41)を有し、前記ベルト受け面がオーバーボール径2Aを有するプーリ(4)と、
前記シャフトに取付けられたワンウェイクラッチ(7)と、
前記ワンウェイクラッチに取付けられたクラッチキャリア(9)と、
前記クラッチキャリアおよび前記プーリの間に係合され、巻戻し方向に負荷を掛けられた捻りスプリング(3)とを備え、
前記捻りスプリングは内径2Bを有し、
前記捻りスプリングの内径2Bは前記ベルト受け面のオーバーボール径2Aより大きい
アイソレーティング・デカップラ。
【請求項2】
駆動装置に取付けられる、請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項3】
前記捻りスプリングの内径が軸方向に沿って一定である、請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項4】
前記プーリが、前記捻りスプリングを受容するために前記ベルト受け面に近接して配置された凹部をさらに備える請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項5】
前記ベルト受け面がマルチリブド面を備える請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項6】
前記捻りスプリングが前記クラッチキャリアと前記プーリに圧入されたスプリングリテーナとに固定的に係合するために第1端部と第2端部を備える請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項7】
アイソレーティング・デカップラが、
シャフトと、
前記シャフトに軸支されるとともに、ベルト受け面を有し、前記ベルト受け面がオーバーボール径2Aを有するプーリと、
前記シャフトに取付けられたワンウェイクラッチと、
前記ワンウェイクラッチに取付けられたクラッチキャリアと、
前記クラッチキャリアおよび前記プーリの間に係合され、巻戻し方向に負荷を掛けられた捻りスプリングとを備え、
前記捻りスプリングは内径2Bを有し、
前記捻りスプリングの内径2Bは前記ベルト受け面のオーバーボール径2Aより大きく、
前記アイソレーティング・デカップラは被駆動負荷に取付けられ、
前記被駆動負荷がベルトにより駆動され、
前記アイソレーティング・デカップラを備える
ベルト駆動システム。
【請求項8】
シャフトと、
前記シャフトに軸支されるとともに、ベルト受け面を有し、前記ベルト受け面がオーバーボール径2Aを有するプーリと、
前記シャフトに取付けられたワンウェイクラッチと、
前記ワンウェイクラッチに取付けられたクラッチキャリアと、
前記クラッチキャリアおよび前記プーリの間に係合された捻りスプリングとを備え、
前記プーリは前記捻りスプリングを受容するために前記ベルト受け面に近接して配置された部分を備え、
前記捻りスプリングは均一な内径2Bを有し、
前記捻りスプリングの内径2Bは前記ベルト受け面のオーバーボール径2Aより大きい
アイソレーティング・デカップラ。
【請求項9】
前記捻りスプリングが、前記クラッチキャリアに固定的に係合するための第1端部と、前記プーリに圧入されたスプリングリテーナに固定的に係合するための第2端部とを備える請求項8に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアイソレーティング・デカップラに関し、特に、ベルト受け面の直径より大きい直径を有する捻りスプリングを有するアイソレーティング・デカップラに関する。
【背景技術】
【0002】
この発明はオルタネータ調整装置に関し、特に、遮断のために捻りスプリングを用いるアイソレーティング・デカップラに関する。アイソレーティング・デカップラ調整装置の機能と実用性は周知である。典型的な装置は、アイソレーティング・スプリング、ワンウェイクラッチ、ベアリング、プーリ、およびその他の付属部品を含む、多数の要素を備える。これらの各要素の必要性により、通常、その装置の全体的な直径は産業が望むものよりも大きくなる。自動車用エンジンの大きさを小さくし、常に燃費の要求を増加させることは、アイソレーティング・デカップラの直径がエンジンの開発を制限する要因になり得ることを示している。
【0003】
大きさを制限する関係はプーリと捻りスプリングの間の関係である。従来技術の装置において、捻りスプリングは典型的に、シャフトとプーリの間に位置する径方向の積み重ねの中にある。この配列は、捻りスプリングのバネ定数に依存するプーリの直径を増加させやすい。
【0004】
この技術の代表は米国特許第6,083,130号明細書であり、これは、駆動プーリ軸の周りに回転自在な駆動プーリを有する出力軸を有する内燃機関を含むドライブアセンブリを備える自動車用サーペンタインベルト駆動システムを開示する。一連の被駆動アセンブリはそれぞれ、駆動プーリ軸に平行な軸の周りに回転自在な被駆動プーリと、被駆動プーリを駆動プーリの回転に応じて回転させるベルトの移動方向に関連する場合に、被駆動アセンブリの配列に対応した順序で駆動プーリと被駆動プーリに協働関係で取付けられたサーペンタインベルトとを備える。被駆動アセンブリの配列は、シャフト軸の周りの回転のために取付けられたオルタネータシャフトを有するオルタネータアセンブリを含む。ハブ構造は、シャフト軸の周りの回転のためにオルタネータシャフトによって、固定的に支持される。スプリングとワンウェイクラッチ機構はオルタネータプーリをハブ構造に連結する。スプリングとワンウェイクラッチ機構は、ワンウェイクラッチ部材とは別に形成され、直列的に接続された捻りスプリング部材を備える。捻りスプリング部材は、被駆動回転の間オルタネータプーリに関して反対方向に一時的に相対捻り運動することができるとともに、オルタネータプーリと同じ方向にオルタネータシャフトが回転するように、オルタネータプーリの被駆動回転をサーペンタインベルトによってハブ構造に伝達するために構成され、配置される。ワンウェイクラッチ部材は、エンジン出力軸のスピードがオルタネータプーリおよびハブ構造の間のトルクを所定の負のレベルに定めるのに十分な程度まで減速されるとき、ハブ構造とオルタネータシャフトがオルタネータプーリの回転スピードを越えたスピードで回転できるように構成され、配置される。
【0005】
必要とされるものは、ベルト受け面の直径よりも大きな直径を有する捻りスプリングを有するアイソレーティング・デカップラである。本発明はこの必要性に合致する。
【発明の概要】
【0006】
本発明の主な特徴は、ベルト受け面の直径よりも大きな直径を有する捻りスプリングを有するアイソレーティング・デカップラである。
【0007】
本発明の他の特徴は、本発明の次の記述と添付した図面により説明され、明らかになる。
【0008】
本発明は、シャフトと、シャフトに軸支されるとともに、ベルト受け面を有し、ベルト受け面が2Aよりも大きくないオーバーボール径を有するプーリと、シャフトに取付けられたワンウェイクラッチと、ワンウェイクラッチに取付けられたクラッチキャリアと、クラッチキャリアおよびプーリの間に係合され、巻戻し方向に負荷を掛けられた捻りスプリングとを備え、捻りスプリングは2Bよりも小さくない直径を有し、捻りスプリングの直径2Bはベルト受け面のオーバーボール径2Aより大きい、アイソレーティング・デカップラである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
この明細書に組み込まれその一部を構成する添付図面は、本発明の好ましい実施形態を示し、説明とともに本発明の原理を説明するために役立つ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は斜視断面図である。本発明のアイソレーティング・デカップラ装置14は、プーリ4と、ベアリング2およびベアリング5と、捻りスプリング3と、ワンウェイクラッチ7と、シャフト1と、スラストブッシュ6と、クラッチキャリア9と、スプリングリテーナ8と、スリンガ10とを備える。
【0011】
プーリ4はベアリング2においてシャフト1に軸支される。スプリングリテーナ8はベアリング5においてシャフト1に軸支される。スプリングリテーナ8はプーリ4に圧入され、したがってプーリ4はベアリング2およびベアリング5においてシャフト1に軸支される。捻りスプリング3は全体的にプーリ部42内に収容される。プーリ部42はシャフト1に向かって凹んでいる。プーリ部42はベルト受け面41に対して軸方向に近接している。ベルト30はベルト受け面41に係合する。
【0012】
クラッチキャリア9はワンウェイクラッチ7に取付けられる。ワンウェイクラッチ7はシャフト1に取付けられる。スラストブッシュ6はプーリ4とクラッチキャリア9の間に配置される。ワンウェイクラッチ7はクラッチキャリア9をシャフト1に対して軸方向に位置決めする。プーリ4はベアリング2とスラストブッシュ6の間において軸方向に配置される。
【0013】
スプリング3はクラッチキャリア9とスプリングリテーナ8の間に係合する。端部31はクラッチキャリ9に係合し、端部32はスプリングリテーナ8に係合する。
【0014】
被駆動オルタネータは非常に大きな慣性を有する。オーバーラン状態あるいはエンジンの減速時において、慣性のため、オルタネータのシャフト120は、ベルトにより駆動されるよりも速く回転しようとし、実際には、クランクシャフトを介してエンジンを駆動する。これは好ましくない。この問題を回避するため、ワンウェイクラッチ7が一時的に解放し、これによりオルタネータシャフト120がその減速度で減速する。シャフト120の回転スピードがベルトの入力スピードまで減速すると、ワンウェイクラッチ7は再び係合する。
【0015】
作動中、トルクは捻りスプリング3を介してプーリ4からスプリングリテーナ8へ、またクラッチキャリア9、ワンウェイクラッチ7、およびシャフト1へ伝達する。この装置においてワンウェイクラッチ7は公知であり、例えば、ローラ型あるいはスプレーグ型である。
【0016】
図2は断面図である。本装置の発明的特徴は、プーリ4に対する捻りスプリング3の配置関係である。本装置における軸方向長さの制約のため、スプリング3は通常シャフト1とベルト受け面41の間に配置される。本発明装置では、スプリング3はベルト受け面41とシャフト1の間には配置されず、各要素の収容性を改善するとともに、ベルト受け面41のオーバーボール径(diameter over balls)を小さくする。その代り、スプリング3はベルト受け面に対して軸方向に近接する。スプリング3とベルト受け面41は軸方向にオーバーラップしない。
【0017】
プーリの直径が「オーバーボール径(diameter over balls)」と呼ばれる方法を用いて計測されることは公知技術である。これはまた、この明細書では、オーバーボール半径と呼ばれるかもしれない。説明のため、VリブドベルトおよびプーリのためのSAE Suraface Vehicle Standard J1459の段落4.1を参照されたい。
【0018】
捻りスプリング3の半径Bは、プーリ4のベルト受け面41のオーバーボール半径Aよりも大きい。面41の直径(2×半径A)は2Aより大きくはない。緩み状態において、捻りスプリング3は円筒形状を有し、したがって捻りスプリング3の直径は軸方向X−Xにおいて一定である。捻りスプリング3の円筒形状の全体は、2Bよりも小さくない内径(ID)を有する。B>Aであるので、捻りスプリング3の全体はプーリのベルト受け面41の径方向の外方に配置される。これにより、プーリのベルト受け面のオーバーオール径2Aが、ユーザーのアプリケーションにより要求されるのと同じくらいに小さくなる。またこれにより、スプリング3がシャフトから径方向の外方に徐々に大きくなる代わりに、その全体長さにわたって均一な直径2Bを有するので、本装置の設計と作動性能において、管理が容易になる。また、本発明装置の全体の直径Dが、ハブから径方向の外方に徐々に大きくなるスプリングを用いた装置と比較した全体的な直径よりも、概して小さくなることとなる。従来技術の例としては米国特許第6,083,130号明細書の
図13Aを参照されたい。これは、環状ハブの周囲に螺旋状に巻回された円形断面形状を有する捻りスプリングを開示する。スプリングの径方向の内側端部は、ハブに対して従来公知のいずれかの形態で固定される。捻りスプリングの径方向の外側端部は、スプリングの径方向外側であるキャリアプレートに固定される。
【0019】
一例として、プーリのベルト受け面41のオーバーボール径Aは45mmくらい小さい。AとBはそれぞれ、回転軸X−Xに関して計測される。他の実施形態では、B≧Aである。
【0020】
本発明装置のさらなる特徴は、捻りスプリング3のバネ定数である。バネ定数の数値は典型的には約0.24Nm/度から約0.45Nm/度の範囲である。巻き戻し負荷状態で使用される捻りスプリング3は次の特性を有する。
・公称直径=ID=51.5mm=2B
・ワイヤ幅=4.0mm
・ワイヤ高さ=5.48mm
・スプリング長さ=16mm〜26mm
・バネ定数=0.24Nm/度〜0.45Nm/度
【0021】
これらの数値は一例に過ぎず、本発明の範囲を制限することは意図していない。巻き戻し負荷状態とは、捻りスプリング3を巻き戻し方向に負荷をかけ、これにより、本装置が使用においてトルクを伝達しているときに負荷を掛けられるに従ってスプリングコイルが径方向に広がることをいう。
【0022】
上記スプリング3を用いた装置の両端部間の長さはほとんどのアプリケーションにおいて許容可能である。ベルト受け面41から軸方向に配置された捻りスプリング3は、本装置の軸方向長さをX2方向に延長することとなる。プーリ部42内の軸方向空間は、所望であれば、より大きいバネ定数の捻りスプリングを収容可能である。所望数のコイルのために、より大きい直径が必要であれば、ワイヤのより大きい全長を有する捻りスプリングを収容することもできる。
【0023】
図3は分解図である。シャフト1に圧入されたスリンガ10は本装置から異物を排除するために用いられる。面41はマルチリブドベルトに適合する。
【0024】
図4はエンジンベルト駆動システムの図である。この例の構成において、マルチリブドベルト30は、パワーステアリングポンプ20、ウォーターポンプ22、エンジンクランクシャフト24、オルタネータ12、および空調機のコンプレッサ18のためのプーリの間に掛け回される。テンショナ28はベルトスリップを回避するために、ベルト30における予負荷を維持する。アイドラ16はさらにベルト30を案内し、本発明装置14のプーリとプーリ24に対する適切な係合を確保する。アイソレーティング・デカップラ14はオルタネータ12のシャフト120に取付けられる。特定の発明装置14を除き、上述された要素は、ほとんどの車両エンジンに見られる典型的なアクセサリ駆動システムを備える。アクセサリ駆動は、冷却、空調、電気、およびステアリング用流体機器を含む、種々の公知のエンジンおよび車両システムを備える。
【0025】
クランクシャフト24はベルト30を駆動し、延いてはオルタネータ12および他のアクセサリを駆動する。各アクセサリは典型的には車両の内燃機関(図示せず)の前面に取付けられる。オーバーラン状態またはエンジン減速状態では、本発明装置14はオルタネータをアクセサリ駆動システムから解放させる。
【0026】
図5はスプリングの部品断面図である。スプリング3は端部31と端部32を備える。端部31はクラッチキャリア9の受け部91に係合する。端部32はスプリングリテーナ8の受け部81に係合する。これはスプリングの各端部をクラッチキャリアおよびスプリングリテーナに対して固定的に係合させる。各端部31、32の固定係合は、スプリング3が巻取り方向または巻戻し方向に負荷を掛けられることを許容する。
【0027】
図6はスプリング組立品の部品分解図である。スプリング3はクラッチキャリア9とスプリングリテーナ8の間に設けられる。
【0028】
本発明の1つの形態が説明されたが、当業者がここに記載された発明の精神と範囲から逸脱することなく、構成と部分の関係と方法において変形を施すことは自明である。