特許第6469332号(P6469332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工プラスチックテクノロジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000002
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000003
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000004
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000005
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000006
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000007
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000008
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000009
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000010
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000011
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000012
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000013
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000014
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000015
  • 特許6469332-電動機駆動装置 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6469332
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】電動機駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20190204BHJP
【FI】
   H02P27/06
【請求項の数】13
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-561745(P2018-561745)
(86)(22)【出願日】2018年9月7日
(86)【国際出願番号】JP2018033223
【審査請求日】2018年11月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505139458
【氏名又は名称】U−MHIプラテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】滝井 卓
【審査官】 佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−119975(JP,A)
【文献】 特開2014−23168(JP,A)
【文献】 特開2009−38847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/00−27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体数Nの第一3相交流電動機を含む第一モータ群と、
個体数Nの第二3相交流電動機を含む第二モータ群と、
前記第一3相交流電動機の第一ステータと前記第二3相交流電動機の第二ステータとを電気的に導通させ、かつ、接地される導体と、
前記第一3相交流電動機と前記第二3相交流電動機の駆動を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記第一3相交流電動機の各相の交流電流をそれぞれ独立に制御する第一スイッチング要素からなる第一スイッチング要素群と、
前記第二3相交流電動機の各相の交流電流をそれぞれ独立に制御する第二スイッチング要素からなる第二スイッチング要素群と、を備え、
前記第一スイッチング要素群において、高電位側の回路を開く前記第一スイッチング要素の個数から低電位側の回路を開く前記第一スイッチング要素の個数を差し引いた第一スイッチング総和数M1と、
前記第二スイッチング要素群において高電位側の回路を開く前記第二スイッチング要素の個数から低電位側の回路を開く前記第二スイッチング要素の個数を差し引いた第二スイッチング総和数M2と、の値を、正(+)と負(−)の符号を逆とするように制御する、
ことを特徴とする電動機駆動装置。
【請求項2】
前記第一3相交流電動機と前記第二3相交流電動機が同期して制御され、
前記第一スイッチング要素群の前記第一スイッチング要素と、前記第二スイッチング要素群の前記第二スイッチング要素を、互いに逆位相の交流電流が供給されるように制御される、
請求項1に記載の電動機駆動装置。
【請求項3】
前記第一スイッチング要素群の前記第一スイッチング要素の動作により生じる、正または負の第一ノイズと、
前記第二スイッチング要素群の前記第二スイッチング要素の動作により生じる、負または正の第二ノイズと、が同期して生ずる、
請求項2に記載の電動機駆動装置。
【請求項4】
前記第一スイッチング要素による前記第一3相交流電動機に対する第一スイッチング動作と、前記第二スイッチング要素による前記第二3相交流電動機に対する第二スイッチング動作と、の間に、前記スイッチング動作の周期の半周期の分に相当する位相差を設ける、
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の電動機駆動装置。
【請求項5】
前記第一ステータに巻き回される第一巻線コイルと、前記第二ステータに巻き回される第二巻線コイルと、はコイルの巻き回しの向きが逆であり、
前記制御部は、
前記第一3相交流電動機と前記第二3相交流電動機に逆向きの電流を供給するように制御する、
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の電動機駆動装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記第一巻線コイルと前記第二巻線コイルに電圧を負荷したままで前記第一3相交流電動機および前記第二3相交流電動機を停止させている状態で、
前記第一3相交流電動機と前記第二3相交流電動機に逆向きの電流を供給するように制御する、
請求項5に記載の電動機駆動装置。
【請求項7】
前記第一モータ群と前記第二モータ群はともに前記個体数Nが1であり、
前記制御部は、
前記第一3相交流電動機と前記第二3相交流電動機に逆向きの電流を供給するように制御する、
請求項5または請求項6に記載の電動機駆動装置。
【請求項8】
前記第一モータ群と前記第二モータ群はともに前記個体数Nが同じ2以上の数であり、
前記制御部は、
複数の前記第一3相交流電動機の全てに同じ向きに電流を供給するように制御するとともに、
複数の前記第二3相交流電動機の全てに同じ向きであって、前記第一3相交流電動機とは逆向きの電流を供給するように制御する、
請求項5または請求項6に記載の電動機駆動装置。
【請求項9】
前記第一3相交流電動機における第一巻線コイルと、前記第二3相交流電動機における第二巻線コイルと、はコイルの巻き回しの向きが同じであり、
前記第一ステータと前記第二ステータは、界磁角度において半周期だけ位置をずらして配置される、
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の電動機駆動装置。
【請求項10】
前記第一3相交流電動機は複数組の前記第一ステータを備え、
前記第二3相交流電動機は複数組の前記第二ステータを備える、
請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の電動機駆動装置。
【請求項11】
前記第一3相交流電動機は複数組の前記第一ステータを備え、
前記第二3相交流電動機は複数組の前記第二ステータを備える、
請求項9に記載の電動機駆動装置。
【請求項12】
複数組の前記第一ステータのそれぞれに巻き回される複数の第一巻線コイルと前記第一スイッチング要素を電気的に接続する第一動力ケーブルと、
複数組の前記第二ステータのそれぞれに巻き回される複数の第二巻線コイルと前記第二スイッチング要素を電気的に接続する第二動力ケーブルと、を備え、
前記第一動力ケーブルと前記第二動力ケーブルの同じ相同士が束ねられている、
請求項10または請求項11に記載の電動機駆動装置。
【請求項13】
前記第一巻線コイルおよび前記第二巻線コイルのいずれか一方又は双方は、
互いに巻き回しの向きが逆の一対のコイルを同軸上に巻き回されている、
請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載の電動機駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対地への漏洩電流を低減できる電動機駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動駆動の射出成形機において、同期制御される複数の射出装置のスクリュ前後進用サーボモータ(例えば、特許文献1のサーボモータ(10))や複数の型締装置の型開閉用サーボモータ(例えば、特許文献2のサーボモータ(27))がある。
これらのサーボモータは、整流回路において交流電源の電圧が直流電圧に整流され、さらにこの直流電圧は半導体スイッチング素子でON/OFFさせるタイミングが調整される。こうして、これらのサーボモータは、直流電圧の増減および周波数を変換した出力であるインバータ回路出力が駆動電力として供給される。
【0003】
それぞれのサーボモータは、例えば自己のステータと電気的に導通した導体が、それぞれのサーボモータが独立した接地端を介して大地アースに接続される。なお、以下では大地アースを単にアースと称する。ところが、サーボモータのステータと各相巻線との間には浮遊容量成分が発生してしまう。インバータ回路の半導体スイッチング素子がON/OFFするスイッチングにより発生する電源ノイズが電源電流とともにサーボモータの各相巻線に供給される。この電源ノイズが、浮遊容量成分および接地端を介して、対地へ漏洩電流として流出および流入する。
この流出入する漏洩電流は、その周波成分がラインノイズとして他のサーボモータの制御電流に重畳される。これにより、モータ制御の信頼性を損なうのに加えて、騒音問題、サーボモータの誤作動が発生するおそれがある。
【0004】
漏洩電流によるラインノイズを低減させる方法として、例えば、特許文献3が提案されている。
特許文献3は、交流電源からの電力にて電動機を駆動する電動機駆動装置またはこの電動機のいずれかから対地に流れる零相電流を検出する漏洩電流検出部と、漏洩電流検出部で検出された零相電流を入力して、交流電源に同期した周期性の制御信号を生成する漏洩電流制御部と、を備える電力変換装置を提案する。この電力変換装置は、制御信号を入力して、零相電流と逆位相となる逆相電流を生成して出力し、零相電流を対地に流入させて、漏洩電流と相殺させている。
【0005】
特許文献3の提案によれば、漏洩電流によるラインノイズを低減できるものの、漏洩電流検出部が付加的な機器として必要であり、この検出部の射出成形機への取付構造の複雑化、高コスト化に繋がる。また、漏洩電流検出部で検出された漏洩電流を相殺する逆相電流を正確かつ高精度に応答時間に遅れが生じないようにすることは極めて困難である。したがって、現実的には逆相電流は応答時間の分だけ位相がずれてしまい、そのずれ量に応じた漏洩電流が生ずる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−341176号公報
【特許文献2】特開2004−314491号公報
【特許文献3】特許第6195676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上より、本発明は、特許文献3の漏洩電流検出部に例示される機器を付加することなく、漏洩電流を効果的に低減できる電動機駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電動機駆動装置は、個体数Nの第一3相交流電動機を含む第一モータ群と、個体数Nの第二3相交流電動機を含む第二モータ群と、第一3相交流電動機の第一ステータと第二3相交流電動機の第二ステータとを電気的に導通させ、かつ、接地される導体と、第一3相交流電動機と第二3相交流電動機の駆動を制御する制御部を備える。
本発明における制御部は、第一3相交流電動機の各相の交流電流をそれぞれ独立に制御するスイッチング要素からなる第一スイッチング要素群と、第二3相交流電動機の各相の交流電流をそれぞれ独立に制御するスイッチング要素からなる第二スイッチング要素群と、を備える。
本発明における制御部は、第一スイッチング要素群において、高電位側の回路を開く第一スイッチング要素の個数から低電位側の回路を開く第一スイッチング要素の個数を差し引いた第一スイッチング総和数M1と、第二スイッチング要素群において高電位側の回路を開く第二スイッチング要素の個数から低電位側の回路を開く第二スイッチング要素の個数を差し引いた第二スイッチング総和数M2の値を、正(+)と負(−)の符号を逆とするように制御する、ことを特徴とする。
なお本発明において、「回路が開く」とはスイッチング素子がONして回路が通電することを意味する。
【0009】
本発明の電動機駆動装置は、好ましくは、第一3相交流電動機と第二3相交流電動機が同期して制御され、第一スイッチング要素群の第一スイッチング要素と、第二スイッチング要素群の第二スイッチング要素を、互いに逆位相の交流電流が供給されるように制御する。
【0010】
本発明の電動機駆動装置は、好ましくは、第一3相交流電動機と第二3相交流電動機の駆動を制御する制御部を備える。
この制御部は、第一3相交流電動機に供給する交流電流を制御する第一スイッチング要素と、第二3相交流電動機に供給する交流電流を制御する第二スイッチング要素と、を備え、第一スイッチング要素による第一3相交流電動機に対する第一スイッチング動作と、第二スイッチング要素による第二3相交流電動機に対する第二スイッチング動作と、の間に、スイッチング動作の周期の半周期の分に相当する位相差を設ける。
本発明によれば、第一スイッチング要素群の第一スイッチング要素の動作により生じる、正または負の第一ノイズと、第二スイッチング要素群の第二スイッチング要素の動作により生じる、負または正の第二ノイズと、が同期して生ずる。
【0011】
本発明の電動機駆動装置は、好ましくは、第一ステータに巻き回される第一巻線コイルと、第二ステータに巻き回される第二巻線コイルと、はコイルの巻き回しの向きが逆である。この場合、制御部は、第一3相交流電動機と第二3相交流電動機に逆向きの電流を供給するように制御することができる。
この制御部は、第一巻線コイルと第二巻線コイルに電圧を負荷したままで第一3相交流電動機および第二3相交流電動機を停止させている状態で、第一3相交流電動機と第二3相交流電動機に逆向きの電流を供給するように制御できる。
【0012】
本発明の電動機駆動装置において、第一モータ群と第二モータ群はともに個体数Nが1である場合には、制御部は、第一3相交流電動機と第二3相交流電動機に逆向きの電流を供給するように制御できる。
また、本発明の電動機駆動装置において、第一モータ群と第二モータ群はともに個体数Nが同じ2以上の数である場合には、制御部は、複数の第一3相交流電動機の全てに同じ向きに電流を供給するように制御するとともに、複数の第二3相交流電動機の全てに同じ向きであって、第一3相交流電動機とは逆向きの電流を供給するように制御することができる。
【0013】
本発明の電動機駆動装置において、第一3相交流電動機における第一巻線コイルと、第二3相交流電動機における第二巻線コイルと、はコイルの巻き回しの向きが同じである場合には、第一ステータと第二ステータを、界磁角度において半周期だけ位置をずらして配置できる。
【0014】
本発明の電動機駆動装置において、第一3相交流電動機は複数組の第一ステータを備え、第二3相交流電動機は複数組の第二ステータを備えることができる。
第一3相交流電動機における第一巻線コイルと、第二3相交流電動機における第二巻線コイルと、はコイルの巻き回しの向きが同じである場合には、第一ステータと第二ステータを、界磁角度において半周期だけ位置をずらして配置できる。
【0015】
本発明の電動機駆動装置において、複数組の第一ステータのそれぞれに巻き回される複数の第一巻線コイルと第一スイッチング要素を電気的に接続する第一動力ケーブルと、複数組の第二ステータのそれぞれに巻き回される複数の第二巻線コイルと第二スイッチング要素を電気的に接続する第二動力ケーブルと、を備えることがある。この場合には、第一動力ケーブルと第二動力ケーブルの同じ相同士が束ねられていることが好ましい。
【0016】
本発明の電動機駆動装置において、第一巻線コイルおよび第二巻線コイルのいずれか一方又は双方は、互いに巻き回しの向きが逆の一対のコイルを同軸上に巻き回されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高電位側の回路を開く第一スイッチング要素の個数から低電位側の回路を開く第一スイッチング要素の個数を差し引いた第一スイッチング総和数M1の値と、第二スイッチング要素群において高電位側の回路を開く第二スイッチング要素の個数から低電位側の回路を開く第二スイッチング要素の個数を差し引いた第二スイッチング総和数M2の値とが正(+)と負(−)の符号が逆である。したがって、特に第一スイッチング要素群で高電位側の回路を開く第一スイッチング要素の個数と第二スイッチング要素群で低電位側の回路を開く第二スイッチング要素の個数を同一とするとともに、第一スイッチング要素群で低電位側の回路を開く第一スイッチング要素の個数と第二スイッチング要素群で高電位側の回路を開く第二スイッチング要素の個数を同一としたとする。そうすると、第一3相交流電動機と第二3相交流電動機のそれぞれの相巻線側と対地側の電位差に起因した静電誘導により浮遊容量成分を介して、対地側のステータに誘起されて発生する漏洩電流(電荷)に対して、第二モータ群のステータに同様に発生する漏洩電流(電荷)は符号が正負逆の等価の電流となる。
本発明によれば、第一ステータと第二ステータは電気的に導通しているから、第一ステータと第二ステータとは、互いに誘起される電荷をやり取りして相互補完するだけとなるため、第一ステータと第二ステータの間で電荷が保存する。よって第一ステータと第二ステータを一体と考えると対地との電位差がないので、対地に第一ステータと第二ステータの間の電荷が流出することはないため、漏洩電流が対地に流出するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係る電動機駆動装置を示すブロック図である。
図2】第1実施形態によりノイズが相殺される作用を説明する図である。
図3】第1実施形態によりノイズが相殺される作用を説明するその他の図である。
図4】第1実施形態によりノイズが相殺される作用を説明するその他の図である。
図5】本発明の第2−1実施形態に係る電動機駆動装置の要部を示すブロック図である。
図6】本発明の第2−2実施形態に係る電動機駆動装置の要部を示すブロック図である。
図7】本発明の第2−2実施形態に係る電動機駆動装置の要部を示すブロック図である。
図8】本発明の第3実施形態に係る電動機駆動装置の要部を示すブロック図である。
図9】本実施形態に係る3相交流電動機の好ましいコイルを示す斜視図である。
図10図9のX断面におけるコイル周囲の電位を説明する図である。
図11】単一の3相交流電動機のノイズ波形を示す図である。
図12】(a)はインバータ主回路と3相交流電動機の組み合わせにおいて、3相交流電動機のコイルとステータの間の浮遊容量を対地に対するコンデンサとして示すブロック図であり、(b)はインバータ主回路を動作させたときにコンデンサに生じる電荷の一例を示すブロック図である。
図13】(a)はインバータ回路の一方の側のスイッチング素子が全てON、他方の側のスイッチング素子が全てOFFのときのコンデンサへの電流流入の状態を示している。(b)はインバータ回路の一方の側のスイッチング素子が全てOFF、他方の側のスイッチング素子が全てONのときのコンデンサへの電流流入の状態を示している。
図14】インバータ主回路15Aの高電位側の回路を開く半導体スイッチング素子の個数から低電位側の回路を開く半導体スイッチング要素の個数を差し引いた数と、インバータ主回路15Bの高電位側の回路を開く半導体スイッチング素子の個数から低電位側の回路を開く半導体スイッチング要素の個数を差し引いた数とが絶対値が同じでかつ正(+)と負(−)の符号が逆になる組み合わせを示す表である。
図15】互いに逆位相をなしている電位Epと電位Enが等価ではなく電位の偏っている場合のノイズが相殺される作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を例示するいくつかの実施形態を説明する。
〔第1実施形態〕
第1実施形態に係る電動機駆動装置10は、図1に示すように、三相交流電源1から出力される交流電流を直流電流に変換し、さらに変換された直流電流を交流に変換して3相交流電動機に供給して、3相交流電動機を駆動する。本実施形態において、3相交流電動機をサーボモータ3にて示すが、本発明における3相交流電動機はサーボモータに限らず、誘導電動モータ、同期電動モータ、PM(Permanent Magnet)モータなどインバータ回路により駆動される3相交流による電動モータ(アクチュエータ)あるいは発電機を含み、これらであれば同様の作用、効果を得ることができる。
【0020】
[全体構成]
第1実施形態は、図1に示すように、2台のサーボモータ3A,3Bを備え、2台のサーボモータ3A,3Bのそれぞれに対応するようにインバータ回路20(20A,20B)が設けられている。以下では、サーボモータ3Aとサーボモータ3Bの両者を区別する必要がない場合には単にサーボモータ3と表記し、サーボモータ3Aとサーボモータ3Bの両者を区別する必要がある場合にはサーボモータ3A、サーボモータ3Bと表記する。インバータ回路20およびその構成要素についても同様に扱われる。
【0021】
インバータ回路20は、図1に示すように、三相交流電源1から出力される交流電流を直流電流に変換する整流器11と、整流器11とインバータ主回路15の間に設けられ平滑コンデンサ13と、整流器11からの直流電流を受けてサーボモータ3を駆動するインバータ主回路15と、を主たる構成要素として備える。
また、インバータ回路20は、インバータ主回路15を制御するインバータ制御部17を備える。インバータ制御部17は、インバータ主回路15を構成する半導体スイッチング素子16u,16v,16wのONおよびOFFを制御する。図1では単一のインバータ制御部17によりインバータ主回路15A,15Bの双方を制御するように示されているが、インバータ主回路15Aに対応するインバータ制御部とインバータ主回路15Bに対応するインバータ制御部とに区分されていてもよい。
【0022】
インバータ制御部17は、サーボモータ3Aとサーボモータ3Bに互いに逆位相の交流電流を供給するように、インバータ主回路15Aとインバータ主回路15Bのそれぞれを構成する半導体スイッチング素子16u,16v,16wのONおよびOFFを制御する。
インバータ制御部17は、サーボモータ3の電流を検出し、かつ、平滑コンデンサ13の電圧を検出して、半導体スイッチング素子16u,16v,16wのONおよびOFFを制御する。
また、インバータ制御部17は、サーボモータ3A,3Bのぞれぞれのエンコーダからの情報をもとに、サーボモータ3Aとサーボモータ3Bの動作を互いに同期制御する。
【0023】
[サーボモータ3]
サーボモータ3は、図1に示すように、三相交流のサーボモータからなり、それぞれが巻線からなる三つのコイル31u,31v,31wと、コイル31u,31v,31wが巻き回される導電体からなるステータ32(32A,32B)と、を備えている。サーボモータ3は、コイル31u,31v,31wおよびステータ(固定子)32に加えて、ステータ32の内側に回転可能に設けられるロータ(回転子)などを備えているが、図1においては図示が省略されている。第2実施形態以降も同様である。ロータは永久磁石からなる場合もあればコイル、カゴからなる場合もある。
【0024】
サーボモータ3Aとサーボモータ3Bは、同じ仕様を有しており、その動作が互いに同期制御される。サーボモータ3Aは本発明における第一モータ群および第二モータ群の一方に対応し、サーボモータ3Bは本発明における第一モータ群および第二モータ群の他方に対応する。第1実施形態は、第一モータ群および第二モータ群のそれぞれにおけるサーボモータ3の個体数Nは1で同じ値である。
サーボモータ3Aとサーボモータ3Bは、双方のステータ32Aとステータ32Bが導体33により電気的に導通されている。この導体33は対地Eに接続されている。
【0025】
[整流器11]
整流器11は、電流を一方向にだけ流す整流作用を有する素子からなり、三相交流電源1から出力される交流電流を直流電流に変換する。整流器11は、例えば一対の整流ダイオードを備え、それらを交互に流れる交流を整流する。一対の整流ダイオードに交流を交互に流すために、例えば、整流器11は一対の整流ダイオードのそれぞれに対応する半導体スイッチング素子を備える。なお、整流器11を回生または発電により電流を電動機側から整流器11の側に供給可能なコンバータと置き換えることも可能である。
【0026】
[平滑コンデンサ13]
平滑コンデンサ13は、整流器11による整流後も発生するリップルを抑え、より直流に近い電流が得られるように信号を平滑化する。整流後に平滑コンデンサ13を挿入することにより、電圧が高い時には蓄電し、電圧が低い時には放電するので、電圧の変動を抑える効果を奏する。
【0027】
[インバータ主回路15(15A,15B)]
インバータ主回路15は、図1に示すように、サーボモータ3に備えられたu相、v相、w相のコイル31u,31v,31wのそれぞれに対応する半導体スイッチング素子16u,16v,16wを含んで構成されている。半導体スイッチング素子16u,16v,16wはそれぞれ一対ずつ設けられており、図中の上側に配置される半導体スイッチング素子16u,16v,16wと、図中の上側に配置される半導体スイッチング素子16u,16v,16wと、に区分されている。
【0028】
インバータ主回路15は、半導体スイッチング素子16u,16v,16wのスイッチング、つまりONおよびOFFにより生成された駆動電流をインバータ回路出力としてコイル31u,31v,31wに供給する。
半導体スイッチング素子16u,16v,16wは、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ:Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ:Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、その他の半導体素子から構成できる。
【0029】
[インバータ制御部17]
インバータ制御部17は、インバータ主回路15A,15Bを構成する半導体スイッチング素子16u,16v,16wのそれぞれのONおよびOFFを制御する。この制御を通じて、インバータ主回路15A,15Bは、サーボモータ3A,3Bを同期制御させる。
インバータ制御部17は、サーボモータ3Aとサーボモータ3Bには、互いに逆位相の電流が供給されるように、半導体スイッチング素子16u,16v,16wのそれぞれのONおよびOFFを制御する。これは、インバータ制御部17によるインバータ主回路15A,15Bの一方のスイッチング周期を、インバータ主回路15A,15Bの他方のスイッチング動作の周期より半周期の位相分だけ遅らせることにより実現される。
【0030】
[ノイズ波形]
ここで、図11には、本実施形態が対象とするノイズ波形が示されている。このノイズ波形は、単一のサーボモータのものである。インバータ主回路15のスイッチングに同期して、図11に示すように、負側のインパルスノイズNnと正側のインパルスノイズNpが繰り返して現れる。ノイズNnとノイズNpの間隔がスイッチング動作の半周期P/2に相当し、隣接するノイズNnとノイズNnの間隔がスイッチング動作の1周期Pに相当する。
【0031】
[浮遊容量]
単一のインバータ主回路15とサーボモータ3について、三相交流電源1(例えば、400V)を整流した直流電源(例えば±282V)を想定する。サーボモータ3のコイル31とステータ32の間には、取り付け上の隙間が不可避的に生じ、この隙間が浮遊容量とみなされる。図12(a)は、この浮遊容量を対地E(0V)に対してコンデンサCとして示している。
【0032】
インバータ主回路15の半導体スイッチング素子16u,16v,16wのON、OFFを例えば図12(b)に示すようにしたとする。そうすると、コイル31u,31v,31wへの電圧負荷、つまり電位上昇により、コイル31u,31v,31wとステータ32にはそれぞれ正負が逆の電荷が生じる。ステータ32、つまり対地Eの側の電荷は、静電誘導により誘起されたものである。なお、図12(b)のコンデンサCに示される正負の電荷は一例であり、逆の場合もある。
【0033】
[対地Eに対する正のインパルスノイズ]
図12(a)の構成において、インバータ主回路15の上段の三つの半導体スイッチング素子16u,16v,16wを全てONとする一方、下段の三つの半導体スイッチング素子16u,16v,16wを全て全てOFFにしたとする。そうすると、サーボモータ3の電位は+V(例えば+282V)になる。これにより、図13(a)に示すように、コンデンサCにはこの電圧波形の微分波形電流Ipが流れる。
サーボモータ3Aが、例えば、大型の射出成形機の射出装置を駆動するサーボモータであれば、対地Eに+20A程度の電流Iが流れるため、大きな正のインパルスノイズが生じる。
【0034】
[対地Eに対する負のインパルスノイズ]
図12(a)の構成において、インバータ主回路15の上段の三つの半導体スイッチング素子16u,16v,16wを全てOFFとする一方、下段の三つの半導体スイッチング素子16u,16v,16wを全て全てONにしたとする。そうすると、サーボモータ3の電位は−V(例えば−282V)になる。これにより、図13(b)に示すように、コンデンサCにはこの電圧波形の微分波形電流Inが流れる。
サーボモータ3Aが、例えば、大型の射出成形機の射出装置を駆動するサーボモータであれば、対地Eに−20A程度の電流Iが流れるため、大きな負のインパルスノイズが生じる。
【0035】
[インバータ主回路15のスイッチング制御(モータ停止)]
いま、図1に示すように、コイル31u,31v,31wの三相の全てに電圧を負荷したままサーボモータ3A,3Bを停止させているものとする。図1では一例として、インバータ主回路15Aの上段の半導体スイッチング素子16u,16v,16wの三つが全てONで、かつ、インバータ主回路15Aの下段の半導体スイッチング素子16u,16v,16wの三つが全てOFFである。また、インバータ主回路15Bの上段の半導体スイッチング素子16u,16v,16wの三つが全てOFFで、かつ、インバータ主回路15Bの下段の半導体スイッチング素子16u,16v,16wの三つが全てONである。
【0036】
このとき、サーボモータ3Aのコイル31u,31v,31wの電位は+Vcであり、コンデンサC1にはこの電圧波形の微分波形電流Ipが流れる。また、サーボモータ3Bのコイル31u,31v,31wの電位は−Vcであり、コンデンサC2にはこの電圧波形の微分波形電流Inが流れる。したがって、IpとInは等価で符号が逆の漏洩電流であるため、サーボモータ3Aとサーボモータ3Bの間で漏洩電流が相殺され、対地Eには漏洩電流が流れない。仮に、サーボモータ3Aの側の電位が−Vcであり、サーボモータ3Bの側の電位が+Vcと正負が逆になっても、電流の向きが逆になるだけであるから、対地Eに漏洩電流が流れないことには変わりがない。
【0037】
[インバータ主回路15のスイッチング制御(モータ駆動)]
次に、サーボモータ3Aとサーボモータ3Bを同期して駆動する制御を説明する。
本実施形態においては、インバータ主回路15Aにおけるスイッチング動作とインバータ主回路15Bにおけるスイッチング動作の間に半周期の分だけ、つまり180°だけ位相差を設ける。これにより、第一サーボモータ3Aと第二サーボモータ3Bは、互いに逆位相の交流電流が供給され、サーボモータ3Aの側で生じるノイズとサーボモータ3Bの側で生じるノイズが相殺される。
【0038】
図1図2及び図14に基づいてこのノイズ相殺の作用について説明する。
図1では、高電位側の電圧を+V、低電位側の電圧を−Vとして示してある。またインバータ主回路15Aの回路が開いている半導体スイッチング素子を高電位側の半導体スイッチング素子16u,16v,16wの3個の素子とし、インバータ主回路15Bで回路が開いている半導体スイッチング素子を低電位側の半導体スイッチング素子16u,16v,16wの3個の素子としている。これによりサーボモータ3Aとサーボモータ3Bに負荷される電位を等価で符号が正負逆の電位とすることができる。
ただし、本発明のノイズ相殺を可能とするインバータ主回路15Aの高電位側および低電圧側の回路を開く半導体スイッチング素子のそれぞれの個数と、インバータ主回路15Bの高電圧側および低電位側の回路を開く半導体スイッチング素子のそれぞれの個数の好ましい組合せはこの限りではなく、図14に示すような組合せがある。
【0039】
図14において、サーボモータ3Aに対応するインバータ主回路15Aの高電位側の回路を開く半導体スイッチング素子16u,16v,16wの個数(接続数)から低電位側の回路を開く半導体スイッチング素子16u,16v,16wの個数(接続数)を差し引いた数をM1とする。また、サーボモータ3Bに対応するインバータ主回路15Bの高電位側の回路を開く半導体スイッチング素子16u,16v,16wの個数(接続数)から低電位側の回路を開く半導体スイッチング素子16u,16v,16wの個数(接続数)を差し引いた数をM2とする。
例えば特に、インバータ主回路15Aの高電位側の回路を開く半導体スイッチング素子の個数と、インバータ主回路15Bの低電位側の回路を開く半導体スイッチング素子の個数、およびインバータ主回路15Aの低電位側の回路を開く半導体スイッチング素子の個数と、インバータ主回路15Bの高電位側の回路を開く半導体スイッチング素子の個数がそれぞれ同一であれば、M1とM2は絶対値が同一でかつ正(+)と負(−)の符号が逆になる。このような組合せは図14に示すように141通りある。
【0040】
図2では、いま、インバータ主回路15Aの上段の半導体スイッチング素子16uについてはONにし、半導体スイッチング素子16v,16wについてはOFFにする。また、インバータ主回路15Aの下段の半導体スイッチング素子16vについてはONにし、半導体スイッチング素子16u,16wについてはOFFにする。これにより、インバータ主回路15Aおよびサーボモータ3Aには、白抜き矢印で示される電源電流が流れる。
【0041】
一方、インバータ主回路15Bの上段の半導体スイッチング素子16vについてはONにし、半導体スイッチング素子16u,16wについてはOFFにする。また、インバータ主回路15Bの下段の半導体スイッチング素子16uについてはONにし、半導体スイッチング素子16v,16wについてはOFFにする。これにより、インバータ主回路15Aおよびサーボモータ3Aには、白抜き矢印で示される電源電流が流れる。
【0042】
電源電流とともにコイル31u,31v,31wに供給される電源ノイズNn,Npを図2に示す。この電源ノイズは、半導体スイッチング素子16u,16v,16wのスイッチング動作に伴う電荷の異常変動に基づいている。図2において、生じるタイミングを整合させてサーボモータ3Aによる電源ノイズNpとサーボモータ3Bによる電源ノイズNnを記載している。
電源ノイズNpと電源ノイズNnは、上述したスイッチング動作に半周期の分だけ位相差を設けることにより、図2に示すように、生じるタイミンクが一致し同期しており、かつ正負の値が逆である。
【0043】
この過程において、電源ノイズNpおよび電源ノイズNnが生じる前のタイミングT1においては、コンデンサC1の側からコンデンサC2に向かう電流I(T1)が流れる。これに対して、電源ノイズNpおよび電源ノイズNnが生じた後のタイミングT2においては、コンデンサC2の側からコンデンサC1に向かう電流I(T2)が流れる。
【0044】
[コンデンサに対する電荷の挙動]
サーボモータ3に負荷される電位と対地Eの側の電位差からの静電誘導によりコンデンサCの対地Eの側にそれぞれ誘起されて伝達する漏電電流および電源ノイズNpと電源ノイズNnの相殺には、コンデンサCにおける電荷の挙動が関与する。そこで、図3を参照してこの電荷の挙動について説明する。
【0045】
図3に示すように、交流電圧の電源側電位Epが上昇、ピーク、下降する過程を想定する。
電位Epの上昇の過程(UP)では、コンデンサCの電源側の電極EL1には正(+)の電荷が集まる。電源側の正の電荷に負(−)の電荷が引き寄せられることで、コンデンサCの対地Eの側の電極EL2には負(−)の電荷が集まる。
電流は電荷の移動(流れ)であり、負の電荷の移動と逆方向に電流が流れるので、電位Epが上昇する過程では、電流IはコンデンサCから対地Eに向けて流れる。
【0046】
次に、電位の上昇が完了して電位がピークに達する。電位と電荷は比例関係にあるので、電源側に当たる電極EL1の側における正(+)の電荷の増加が止まる。このときの電源側の正の電荷の増加が止まると対地Eの側の負の電荷の増加も止まる。このように、電位の上昇が完了してピークに達すると、電荷の移動が止まるので電流が止まる。
【0047】
最後に、電位Epの下降(DOWN)の過程では、電源側に当たる電極EL1の側における正の電荷が減少する。電源側の正の電荷が減少すると、対地Eの側の負の電荷も減少する。
【0048】
[コンデンサへの電荷の挙動に基づくノイズの相殺]
次に、以上で説明したコンデンサへの電荷の挙動に基づくノイズ相殺の作用について、図4を参照して説明する。
図4には、二つの電源側の電位Ep,Enが示されており、一方が基準となり、他方が基準に対して180°だけ位相が遅れており、互いに逆位相をなしている。ここでは、両者の区別を明確にするために、基準となる一方をサーボモータ3Aの側とし、他方をサーボモータ3Bの側として説明する。また、コンデンサCの数はコイル31u,31v,31wとステータ32との隙間の数と同数存在するが、静電誘導により電荷が誘起されるのはインバータ主回路15で半導体スイッチング素子がONして通電されたコイル31u,31v,31wに対向するコンデンサCのみである。ここで図4では通電されたコイル31u,31v,31wの数を、簡単のため、二つの電源側の電位Ep,Enでそれぞれ一つ、つまり静電誘導により電荷が誘起されるコンデンサCの数をそれぞれ一つとして示す。
【0049】
はじめに、サーボモータ3Aについて電位Epの上昇の過程にあり、サーボモータ3Bについては電位Enの下降の過程にある。このとき、サーボモータ3Aと対地Eとの間にあるコンデンサC1の電源側の電極EL11には正(+)の電荷が集まり、対地Eの側の電極EL12には負(−)の電荷が集まる。一方、サーボモータ3Bについては電位Enの下降の過程にあり、サーボモータ3Bと対地Eとの間にあるコンデンサC2の対地E側の電極EL21には正の電荷が集まり、電極側の電極EL22には負の電荷が集まる。電極EL21における負の電荷のなかで、電極EL12に引き寄せられる分については、破線で示されている。
【0050】
ここで、対地Eの側の電極EL12と電極EL21の間隔Dは、電極EL12と電極EL21の双方が電気的に接地しているので、電位差および電位はいずれもゼロである。よって、通常は電極EL12と電極EL21の間には電流が流れない。
しかし、電極EL12と電極EL21にはそれぞれ逆位相の電極EL11と電極EL22の電位による、等価で符号が正負逆のクーロン力によりそれぞれ電荷が引きよせられて蓄えられている。したがって、電源側の電極EL11と電極EL22の電位が逆位相で変化すると、対地Eの側の電極EL12と電極EL21の間に対称な電荷の移動が発生する。
つまり、例えば、電極EL11の電位が上昇し、電極EL22の電位が等価に下降する場合、電源側の電極EL11で上昇した電圧と同じ分だけ、電源側の電極EL22で電圧が下降する。このとき、電極EL11の正(+)の電荷が増加するとともに、電極EL11に増加した正(+)の電荷の分だけ、電極EL12と電極EL21の間で正負が一対(ペア)となって釣り合っていた電荷が引き離され、電極EL12に負(−)の電荷が引き寄せられる。これと同時に、電源側の電極EL22には負(−)の電荷が増加するので、電極EL11の正(−)の電荷に引っ張られてペアとなっていた負(−)の電荷を奪われた正(+)の電荷が、電極EL22の負(−)の電荷の増加に引っ張られて電極EL21側に移動し電極EL21には正(+)の電荷が増加する。
このとき電位Epと電位Enが等価な逆位相で変化しているので、電極EL12と電極EL21の間にはペアを失った不安定な電荷はなく、電極EL12と電極EL21の間で移動する電荷は正負のいずれにも偏ることがない。このため、電荷が対地Eに流出しないので漏洩電流が生じない。
【0051】
次に、サーボモータ3Aとサーボモータ3Bの双方が電位の変化が完了して電位がピークに達する。そうすると、コンデンサC1の電極EL11における正(+)の電荷の増加が止まり、電極EL12における負(−)の電荷の増加も止まる。また、コンデンサC2の電極EL22における正(+)の電荷の減少が止まり、電極EL21における負(−)の電荷の減少も止まる。こうして、コンデンサC1とコンデンサC2の間の電荷の移動が止まる。
【0052】
最後に、サーボモータ3Aについて電位Epの下降の過程にあり、サーボモータ3Bについては電位Enの上昇の過程にある。このとき、サーボモータ3Aと対地Eとの間にあるコンデンサC1の電源側の電極EL11からは正(+)の電荷が減少し、対地Eの側の電極EL12から負(−)の電荷が減少する。一方、サーボモータ3Bについては、サーボモータ3Bと対地Eとの間にあるコンデンサC2の電源側の電極EL22は正(+)の電荷が増加し、対地Eの側の電極EL21は負(−)の電荷が増加する。
【0053】
対地Eの側の電極EL12と電極EL22の間隔Dは、電極EL12と電極EL21の双方が電気的に接地しているので、電位差および電位はいずれもゼロである。よって、通常は電極EL12と電極EL21の間には電流が流れない。しかし、サーボモータ3Aについて電位Epの上昇の過程にあり、サーボモータ3Bについては電位Enの下降の過程にある場合と同様に、電極EL12と電極EL21の間にはペアを失った不安定な電荷はなく、電極EL12と電極EL21の間で移動する電荷は正負のいずれにも偏ることがないため、電荷が対地Eに流出しないので漏洩電流が生じない。
【0054】
これに対し、互いに逆位相をなしている電位Epと電位Enが等価ではなく電位の偏っている場合を、例えば図15に示す。このとき、電位Epの大きさ(絶対値)が、電位Enよりも大きければ、電位Epが上昇している間には、電極EL11に正(+)の電荷が増加する。これに引っ張られる形で、電極EL12と電極EL21の間で正負がペアとなって釣り合っていた電荷が引き離され、電極EL12側に移動する。こうして、電極EL12には負(−)の電荷が増加する。
電位Epが上昇している間には、同時に電位Enが下降するが、電位Epの大きさが、電位Enよりも大きいので、電極EL11の正(+)の電荷に引っ張られて負(−)の電荷を奪われた正(+)の電荷の一部が、ペアを失った不安定状態となる。このため、このペアを失った正(+)の電荷はペアとなる負(−)の電荷を求めて対地Eに流出する。
【0055】
次に、電位Epが下降中は、電極EL11から正(+)の電荷が減少し、それにより電極EL12の負(+)の電荷が解放される。同時に電位Enが下降するので電極EL21に引き寄せられていた正(+)の電荷が解放される。ところが、電位Epの大きさが、電位Enよりも大きいので、電極EL12から解放された負(−)の電荷の方が電極EL21から解放された正(+)の電荷よりも多くなる。このため電極EL12から解放された負(−)の電荷の一部がペアを失った不安定状態となるので、このペアを失った負(−)の電荷に引っ張られて対地Eから正(+)の電荷が流入する。このように電位Ep、Enが等価ではなく、一方の電位の方が他方の電位よりも大きく電位が偏った状態においては、電荷が対地Eに流出あるいは対地Eから流入することで電流が発生して漏洩電流、ノイズ電流が発生する。
【0056】
本実施形態では、二つの電源側の電位Ep,Enでそれぞれ一つ、つまり静電誘導により電荷が誘起されるコンデンサCの数をそれぞれ一つとして示した。しかし、本発明は、二つの電源側の電位Ep,Enで静電誘導により電荷が誘起されるそれぞれのコンデンサCの数が同一であれば、同様の効果が得られる。これには、以下の二つの形態があり、いずれか一方が選択される。
形態1:サーボモータ3Aのインバータ主回路15Aおける半導体スイッチング素子の高電位側でONする半導体スイッチング素子とサーボモータ3Bのインバータ主回路15Bに低電位側でONする半導体スイッチング素子の数がそれぞれ同一
形態2:サーボモータ3Aのインバータ主回路15Aおける半導体スイッチング素子の低電位側でONする半導体スイッチング素子とサーボモータ3Bのインバータ主回路15Bに高電位側でONする半導体スイッチング素子の数がそれぞれ同一
【0057】
また、二つの電源側の電位Ep,Enで静電誘導により電荷が誘起されるそれぞれのコンデンサCの数が異なる場合であっても、サーボモータ3Aの各相コイル(31u、31v、31w)とステータの間の各浮遊容量である三つのコンデンサCに誘起される電荷の総和とサーボモータ3Bの各相コイル(31u、31v、31w)とステータの間の各浮遊容量である三つのコンデンサCに誘起される電荷の総和が同一であればよい。
つまり、サーボモータ3Aの三つのコンデンサCに誘起される正(+)の電荷と負(−)の電荷の正負で相殺した電荷の総和が、サーボモータ3Bの三つのコンデンサCに誘起される正(+)の電荷と負(−)の電荷の正負で相殺した電荷の総和と同一であればよい。
【0058】
具体的には、例えば、以下のケース1に対して、ケース2またはケース3は、ここでいう同一に該当する。以下のケースであっても、二つの電源側の電位Ep,Enで静電誘導により電荷が誘起されるそれぞれのコンデンサCの数が同一である場合と、同様の効果が得られる。
ケース1:サーボモータ3AのコンデンサCにおいて、対地Eの側に負(−)の電荷が誘起されたコンデンサCが二つであり、正(+)の電荷が誘起されたコンデンサCが一つ。
ケース2:サーボモータ3Bにおいて、対地Eの側に負(―)の電荷が誘起されたコンデンサCが一つであり、正(+)の電荷が誘起されたコンデンサCが二つ。
ケース3:サーボモータ3Bにおいて、対地Eの側に負(―)の電荷が誘起されたコンデンサCが零(0)個であり、正(+)の電荷が誘起されたコンデンサCが一つ。
【0059】
ここで、対地Eの側に負(−)の電荷を誘起させるコンデンサCは対向するコイル3に高電位側の半導体スイッチング素子16u,16v,16wのいずれかをONすることで得ることができ、対地Eの側に正(+)の電荷を誘起させるコンデンサCは対向するコイル31u,31v,31wに低電位側の半導体スイッチング素子16u,16v,16wのいずれかをONすることで得ることができる。なお、電気回路の短絡を避けるため、高電位側の半導体スイッチング素子16u,16v,16wをONさせたコイル31u,31v,31wに接続された低電位側の半導体スイッチング素子16u,16v,16wはOFFとする。例えば、図5において、コイル31uに+Vを供給する、図中上段の半導体スイッチング素子16uをONさせたときは、コイル31uに−Vに接続する、図中下段の半導体スイッチング素子16uはOFFとする。また同様に、図中下段の低電位側の半導体スイッチング素子16u,16v,16wをONさせたコイル3に接続された、図中上端の高電位側の半導体スイッチング素子16u,16v,16wはOFFとすることは言うまでもない。
【0060】
また、二つの電源側の電位Ep,Enにおいて、静電誘導により電荷が誘起されるそれぞれのコンデンサCの数が互いに異なる場合においては以下の通りである。
サーボモータ3Aの各相コイル(31u、31v、31w)とステータの間の各浮遊容量である三つのコンデンサCに誘起される電荷の総和とサーボモータ3Bの各相コイル(31u、31v、31w)とステータの間の各浮遊容量である三つのコンデンサCに誘起される電荷の総和が同一であることが最も好ましい。
しかし、サーボモータ3Aの三つのコンデンサCに誘起される電荷の総和とサーボモータ3Bの三つのコンデンサCに誘起される電荷の総和が同一ではなく、互いの電荷の総和の符号が正負逆となるようにサーボモータ3Aおよびサーボモータ3Bの半導体スイッチング素子16u,16v,16wを制御することでノイズを低減することができる。
【0061】
例えば、以下のケース4に対して、ケース5、ケース6またはケース7である。つまり、一方のサーボモータのコンデンサCに誘起されて対地Eに流出しようとする電荷(ノイズ電流)の一部を、他方のサーボモータのコンデンサCに誘起された符号が正負逆の電荷によって、正負ペアとして相殺して減少させることができる。これにより、対地Eに流出するノイズを低減することができる。
ケース4:サーボモータ3AのコンデンサCにおいて、対地Eの側に負(−)の電荷が誘起されたコンデンサCが二つであり、正(+)の電荷が誘起されたコンデンサCが一つ。
ケース5:サーボモータ3Bにおいて、対地Eの側に負(―)の電荷が誘起されたコンデンサCが零(0)個であり、正(+)の電荷が誘起されたコンデンサCが二つ。
ケース6:サーボモータ3Bにおいて、対地Eの側に負(―)の電荷が誘起されたコンデンサCが零(0)個であり、正(+)の電荷が誘起されたコンデンサCが一つ。
ケース7:サーボモータ3Bにおいて、対地Eの側に負(―)の電荷が誘起されたコンデンサCが一つであり、正(+)の電荷が誘起されたコンデンサCが一つ。
【0062】
[第2実施形態]
次に、図5図7を参照して第2実施形態を説明する。
第2実施形態は、サーボモータ3Aとサーボモータ3Bに互いに逆位相の交流電流を供給することは第1実施形態と同様に前提とする。ただし、第2実施形態は、コイルが巻き回される向きが互いに逆となるサーボモータ3Aとサーボモータ3Bについて、具体的な電流の供給方法を開示する。
第2実施形態は、第2−1実施形態および第2−2実施形態の二つの形態を含んでおり、以下順に説明する。なお、図5図7は電動機駆動装置10の要部のみを示している。
【0063】
<第2−1実施形態>
第2−1実施形態においては、図5に示すように、サーボモータ3Aが左巻きのコイル31u,31v,31wを用い、サーボモータ3Bが右巻きのコイル31u,31v,31wを用いている。つまり、サーボモータ3Aのコイル31u,31v,31wとサーボモータ3Bのコイル31u,31v,31wは、コイルの巻き回しの向きが逆である。したがって、以下ではサーボモータ3Aを左巻きのサーボモータ3Aといい、サーボモータ3Bを右巻きのサーボモータ3Bという。このコイルの巻き回しの向きを除くと、第2−1実施形態は第1実施形態と同様の構成を備え、特にサーボモータ3Aのステータ32Aとサーボモータ3Bのステータ32Bが導体33で電気的に導通されている。
【0064】
第2−1実施形態においては、左巻のサーボモータ3Aと右巻のサーボモータ3Bに逆向きに電流を供給する。図5は、逆向きの電流を供給する例として、サーボモータ3Aにはu相→v相の向きに電流が流れ、サーボモータ3Bにはv相→u相の向きに電流が流れる。図5において電流は白抜きの矢印で示されている。
【0065】
以上のように左巻のサーボモータ3Aと右巻のサーボモータ3Bに逆向きに電流を供給するとサーボモータ3Aのコイル31u,31v,31wとサーボモータ3Bのコイル31u,31v,31wには同じ向きに磁界が発生する。したがって、サーボモータ3Aに対する半導体スイッチング素子16u,16v,16wとサーボモータ3Bに対する半導体スイッチング素子16u,16v,16wのスイッチング動作は逆位相であるものの、サーボモータ3Aとサーボモータ3Bには同じ向きにモータトルクが生じる。
【0066】
以上の説明では、逆向きの電流を供給する例として、u相→v相とv相→u相を示したが、これはあくまで一例であり、電流を供給する巻線、つまり相の組み合せの数だけ逆向きの電流を供給するパターンがある。具体的には以下に示す通りである。
u相→w相とw相→u相 v相→w相とw相→v相
【0067】
<第2−2実施形態>
次に、図6を参照して第2−2実施形態を説明する。
第2−2実施形態は、左巻きのコイル31u,31v,31wおよび右巻きのコイル31u,31v,31wの全てに電流を供給するところを除けば、第2−1実施形態と同じである。
【0068】
第2−2実施形態においては、左巻のサーボモータ3Aと右巻のサーボモータ3Bに逆向きに電流を供給する。図6は、逆向きの電流を供給する例として、サーボモータ3Aには(u相、w相)→v相の向きに電流が流れ、サーボモータ3Bにv相→(u相、w相)の向きに電流が流れる。
以上のように左巻のサーボモータ3Aと右巻のサーボモータ3Bに逆向きに電流を供給するので、第2−2実施形態においても、サーボモータ3Aとサーボモータ3Bには同じ向きにモータトルクが生じ同一方向に回転する。
【0069】
図6では、(u相、w相)→v相とv相→(u相、w相)の組み合わせを示したが、図7に示されるu相→(v相、w相)と(v相、w相)→u相の組み合せ、および、図示を省略するが、w相→(u相、v相)と(u相、v相)→w相の組み合わせについても適用できる。
【0070】
[第3実施形態]
次に、本発明に係る第3実施形態を説明する。
第3実施形態は、図8に示すように、互いに同期制御される第1サーボモータ群LMGと第2サーボモータ群RMGを備える点では第1実施形態、第2実施形態と同じである。しかし、第1実施形態、第2実施形態は、第1サーボモータ群と第2サーボモータのそれぞれに含まれるサーボモータ3の個体数Nが1であるのに対して、第3実施形態は第1サーボモータ群LMGと第2サーボモータ群RMGのそれぞれのサーボモータ3の個体数Nが2である。以下、図8を参照して第3実施形態について具体的に説明する。
【0071】
図8に示すように、第1サーボモータ群LMGは、それぞれが左巻きのサーボモータ3A1とサーボモータ3A2を備えている。サーボモータ3A1およびサーボモータ3A2は第2実施形態のサーボモータ3Aと同じ構成を備えており、また、サーボモータ3A1およびサーボモータ3A2のそれぞれに対応するインバータ主回路15A1,15A2は第2実施形態のインバータ主回路15Aと同じ構成を備えている。
【0072】
第1サーボモータ群LMGにおけるサーボモータ3A1とサーボモータ3A2は、双方のステータ32A1とステータ32A2が導体33Aにより電気的に導通されている。この導体33Aには、浮遊容量成分がコンデンサC11とコンデンサC12として示されている。
【0073】
また、図8に示すように、第2サーボモータ群RMGは、それぞれが右巻きのサーボモータ3B1とサーボモータ3B2を備えている。サーボモータ3B1およびサーボモータ3B2の構成は第2実施形態のサーボモータ3Bと同じ構成を備えており、また、サーボモータ3B1およびサーボモータ3B2のそれぞれに対応するインバータ主回路15B1,15B2は第2実施形態のインバータ主回路15と同じ構成を備えている。
【0074】
第2サーボモータ群RMGにおけるサーボモータ3B1とサーボモータ3B2は、双方のステータ32B1とステータ32B2が導体33Bにより電気的に導通されている。この導体33Bには、浮遊容量成分がコンデンサC21とコンデンサC22として示されている。
【0075】
第1サーボモータ群LMGと第2サーボモータ群RMGは、導体33Aと導体33Bが導体33Cにより電気的に導通されている。これにより、サーボモータ3A1のステータ32A1、サーボモータ3A2のステータ32A2、サーボモータ3B1のステータ32B1およびサーボモータ3B2のステータ32B2のそれぞれが他のステータと電気的に導通される。導体33Cは対地Eに接続されている。
【0076】
第3実施形態においては、左巻の第1サーボモータ群LMGと右巻の第2サーボモータ群RMGに逆向きに電流を供給する。図8は、逆向きの電流を供給する例として、サーボモータ3A1とサーボモータ3A2にはu相→v相の向きに電流が流れ、サーボモータ3B1とサーボモータ3B2にはv相→u相の向きに電流が流れる。
【0077】
以上のように左巻の第1サーボモータ群LMGと右巻の第2サーボモータ群RMGに逆向きに電流を供給するとサーボモータ3A1,3A2のコイル31u,31v,31wとサーボモータ3B1,3B2のコイル31u,31v,31wには同じ向きに磁界が発生する。したがって、サーボモータ3A1,3A2に対する半導体スイッチング素子16u,16v,16wとサーボモータ3B1,3B2に対する半導体スイッチング素子16u,16v,16wのスイッチング動作は逆位相であるが、サーボモータ3A1,3A2とサーボモータ3B1,3B2には同じ向きにモータトルクが生じる。
【0078】
第3実施形態において、サーボモータ3A1,3A2に対するスイッチング動作とサーボモータ3B1,3B2に対するスイッチング動作が逆位相であるから、サーボモータ3A1,3A2とサーボモータ3B1,3B2は、互いに逆位相の交流電流が供給される。
【0079】
[効果]
以上説明した第1実施形態〜第3実施形態が奏する効果を説明する。
本実施形態によれば、第一モータ群による漏洩電流を相殺するために第二モータ群による漏洩電流を用いる。この漏洩電流は、第二モータ群に第一モータ群に供給する電流とは逆位相の電流を供給することにより発生される。これは、本実施形態によれば、例えば特許文献3で必要とされる漏洩電流検出部を設けることなく、第一モータ群による漏洩電流と第二モータ群による漏洩電流を相殺できることを示唆する。
【0080】
本実施形態において互いに相殺される漏洩電流は、第一モータ群と第二モータ群に同時に供給される駆動電流により誘起される電流である。したがって、互いに相殺される漏洩電流は互いにずれることなく同時に発生するので、互いの漏洩電流を確実に相殺させることができる。
【0081】
ここで、本実施形態の電動機駆動装置10は、大電圧を供給するサーボモータにおいて特に有効である。例えば、駆動電圧が200Vを超える複数のサーボモータを搭載し、この複数のサーボモータを同期制御して用いる射出成形機が該当する。特に、移動体の中心軸に対称の位置に設けられ、かつ、同期制御される一対のサーボモータを搭載する射出成形機に有効である。
具体的には、例えば特許文献1の射出用のスクリュを全更新させるサーボモータ(10)や、特許文献2の型締め装置の型開閉用サーボモータ(27)が該当する。特許文献1における一対のサーボモータ(10)はハウジング(7)に、特許文献2における一対の型開閉用サーボモータ(27)は固定盤(1)に、軸対称に組み付けられている。
また、射出成形機について偶数のサーボモータが同相運転する他の用途として、型締装置に用いられる割ナットの開閉用モータ、油圧ポンプの駆動用モータが掲げられる。また、モータの形態として、例えば一つのコイル31uを二本の巻線、四本の巻線から構成される2巻線モータ、4巻線モータにも適用できる。
【0082】
電動駆動の射出成形機は駆動電圧が200Vを超える複数のサーボモータを搭載しているため、高電位回路によるインバータ回路のスイッチングも大きなノイズを発生させる要因となる。また、射出成形機は型締め装置や射出装置など大重量物を傾くことなく動作させる必要があるため、可動物の両端(上下端あるいは左右端)に中心軸に対称の一対で且つ同期制御される大型のサーボモータによって駆動されるアクチュエータを複数搭載している。さらに、大重量物を傾くことなく動作させ且つ制御の容易化のため、これらの同期制御される一対のサーボモータは、同一の仕様(同サイズ、同容量、同規格など)を備えている。これらを制御するサーボアンプ(インバータ回路)も同一仕様である。よって、モータの電気回路は同一の回路が並列に組み合わされた様態となっている。同時に同一電圧を供給された同一仕様の対を成すインバータ回路を同期制御するためそれぞれのスイッチングノイズも極めて近似したノイズの様態(ノイズ波形)となる。本実施形態はこのような高電位により駆動される対をなすサーボモータによって駆動される射出成形機を、複雑な補償制御を必要とすることなく、かつ新たな補償装置を追加することなく、漏洩電流、ノイズを低減することができる。
【0083】
また、射出成形機は同一工場建屋内に多数台設置されるが多いため、1台の射出成形機のサーボモータから発生したスイッチングノイズが対地アースを経由して、隣接した他の射出成形機に流入すると誤動作を発生させて生産性を害するだけでなく、射出成形機本体や金型を破損させる虞がある。
【0084】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は以下の変形、応用を許容する。
第1実施形態〜第3実施形態は左巻きサーボモータと右巻きサーボモータの組み合せについて説明したが、これは、界磁を発生させるコイルの位相を180°だけシフトしたことと等価である。つまり、本発明は、一つの左巻きサーボモータからなるモータ群と一つの右巻きサーボモータからなるモータ群が一組の場合だけでなく、以下の組み合わせを包含する。
【0085】
左巻きサーボモータからなる第一モータ群と左巻きサーボモータからなる第二モータ群の組み合わせであっても、第一モータ群の第一ステータと第二モータ群の第二ステータの相互の位置が界磁角で180°だけずれていればよい。このように第一ステータと第二ステータの組み付け位置がシフトしていれば、一つの左巻きサーボモータからなるモータ群と一つの右巻きサーボモータからなるモータ群の組み合わせと等価の効果が得られる。右巻きサーボモータからなる第一モータ群と右巻きサーボモータからなる第二モータ群の組み合わせであっても同様である。
例えば、サーボモータの極数がN極だとすると、界磁角の180°は実物のモータロータの回転角180×2/N(°)に相当する。
【0086】
また、スイッチングノイズの多くは半導体スイッチング素子のOFFからONまたはONからOFFへの切り替えに係る過渡期において発生する。これは、界磁角で180°の位相差がある状態でスイッチングのタイミングが二つのサーボモータ3の間において正負対称で同時であることがノイズを低減する直接的な理由である。
【0087】
次に、第1実施形態〜第3実施形態ではコイル31u,31v,31wを一組だけ備えるサーボモータ3を例にして説明した。しかし、本発明はコイル31u,31v,31wを二組、四組など偶数組だけ備えるサーボモータ3に適用しても、コイル31u,31v,31wが一組だけのサーボモータ3と同等の効果が得られる。
例えば一つのサーボモータ3が二組のコイル31u,31v,31wを備える場合には、一組のコイル(α)は左巻きとし、もう一組のコイル(β)は右巻きとする。そして、コイル(α)とコイル(β)には、それぞれに180°の位相差で電流を供給すればよい。
また同様に、例えば一組のコイル(α)は左巻きとし、もう一組のコイル(β)は右巻きとする場合に、コイル(α)とコイル(β)がステータ32に組み付けられる位置を界磁角で180°シフトすればよい。この組み付け位置とは、コイル31u,31v,31w各相の巻線の周方向の配列及び順序をいう。
【0088】
上述した二組のコイル3に、インバータ主回路15により生成された電流を供給するためのuvw動力ケーブルを束ねることにより、さらにノイズを低減できる。uvw動力ケーブルは、インバータ回路とステータコイルを電気的に連結する導体である。
より緊密な束ね方としては、右巻きのコイル3のu線(R)と左巻きのコイルのu線(L)、同じく右巻きのコイル3のv線(R)と左巻きのコイル3のv線(L)、右巻きのコイル3のw線(R)と左巻のコイル3のw線(L)を束ねる。これにより、u線(R)とu線(L)が、v線(R)とv線(L)が、さらにw線(R)とw線(L)が、互いに磁束が打ち消し合うことよりノイズをより低減できる。
これは、例えばu線(R)とu線(L)には同じ波形の電流が反対向きに流れるからである。v線(R)とv線(L)、w線(R)とw線(L)についても同じである。
【0089】
さらに、一つのコイル31を二本の巻線により構成する2巻線モータにおいては、図9に示すように、例えば一方のコイル31u(R)を右巻きとし他方のコイル31u(L)を左巻きとし、両方のコイル31u(R),31u(L)を同軸上に巻き回すことが好ましい。そうすれば、図10に示すように、対地E(ステータ)に対するコイル31u(R)の電位と31u(L)の電位が正負対称とされるので、そのコイルの周囲における合成電位を0V付近にできる。これにより、巻線の側と対地Eの側の電位差からの静電誘導により対地Eの側に誘起されて伝達する漏電電流・ノイズ電流を低減できる。
図10の上段の図において、LEoは電位0Vの等電位線を、LEFは電気力線を、LEは等電位線を示しており、電気力線LEFと等電位線LEは直交する。また、図10の下段の図において、Psは合成電位を示す。
2巻線モータにおけるコイル31v,31wについても同様である。
【0090】
また、一つのコイルを4本の巻線により構成する4巻線モータにおいても同様である。例えば、二本の右巻きコイル31u(R1)およびコイル31u(R2)と二本の左巻きのコイル31u(L1)およびコイル31u(L2)を、コイル31u(R1)、コイル31u(L1)、コイル31u(R2)およびコイル31u(L2)の配列とし、かつ同軸上に巻き回すことが好ましい。
4巻線モータにおけるコイル31v,31wについても同様である。
【0091】
また、同期する複数のサーボモータ3に正確に逆位相の電流を供給して、インバータ主回路15のスイッチングタイミングを同期するために、既知の方法によってそれぞれのモータドライブ間で基準時間を揃えることが好ましい。例えば、インバータ主回路15を制御可能な一つのホストコンピュータに対し、各モータドライブがシリアルインタフェースを介して直列に接続した構成としておき、接続された各モータドライブの時間同期が可能な機能を持つ、例えばIEEE−802.1AS等のネットワーク時間同期プロトコル等のシリアルインタフェースを使用できる。
また、同期する複数のモータドライブ間で互いの基準クロックの位相情報をフィードバックして互いに交換し合うとともに、PLL(フェーズロックループ)アルゴリズムを用いてモータドライブ間の基準時刻を同期してもよい。
さらに、一つのモータドライブによる基準時間によって、同期対象である複数のインバータ回路を制御してもよい。
【0092】
また、以上では、3相交流電動機に電力を供給する場合について説明したが、3相交流電動機の減速時に発生する電力回生時に適用してもよいし、3相交流電動機を発電機として使用する場合に適用してもよい。3相交流電動機に電力供給する場合と電力回生時や発電時に3相交流電動機から電流を供給する場合においては、3相交流電動機をモータ(アクチュエータ)として使用する場合とは電流の向きが逆向きであることを除き、インバータ回路の半導体スイッチング素子16u,16v,16wのONおよびOFFを制御は同様であり、かつ半導体スイッチング素子16u,16v,16wのONおよびOFFによるノイズの発生の様態も同様であるためである。
【0093】
また、以上では、簡単のため直流電源電圧をオン−オフする単純な方式である2レベルインバータの場合を説明した。しかし、これは一例であり、本発明は、大電力のVVVF制御(可変電圧可変周波数制御)に多用される方式であって、耐電圧の低い素子を使用するために電源の中間電圧レベルを供給する回路方式である3レベルインバータに適用してもよい。3レベルインバータのスイッチング要素群は、高電位側の回路を開くスイッチング要素と低電位側を開くスイッチング要素にそれぞれ更に中間電位を開くスイッチング要素を加えたものである。
【0094】
2レベルインバータでは高電位側あるいは低電位側のそれぞれの半導体スイッチング素子16u,16v,16wは一組ずつしかない。そのため、一方の電位側のインバータ回路の半導体スイッチング素子16u,16v,16wのいずれか例えば半導体スイッチング素子16uがONして中間電位である場合がある。この場合には、回路の短絡を回避するため他方の電位側の半導体スイッチング素子16uを必ずOFFとして電流を流さない。
【0095】
これに対し、3レベルインバータでは高電位側あるいは低電位側のUVW相の各半導体スイッチング素子について、それぞれ二つの半導体スイッチング素子は16uと図示しない16u’,16vと図示しない16v’,16wと図示しない16w‘が直列に接続される。このため、UVW相の各半導体スイッチング素子はそれぞれ二組ずつ設けられている。したがって、一方の電位側の半導体スイッチング素子16u,16v,16wのいずれか例えば半導体スイッチング素子16uがONして中間電位である場合であっても16u’をONしなければ回路が短絡することはない。このため半導体スイッチング素子16u’をONするかOFFするかによってコイル31uに電流を流す場合と流さない場合を使い分けることができる。しかし、3レベルインバータでも電位の選択肢は、2レベルインバータでの電位と同じ高電位、中間電位、低電位の3通りでありことには変わりがないため、同様にノイズの低減が可能である。またこれにより3レベルインバータにおいて中間電位の電流を流す場合と流さない場合を分けてスイッチング要素群を組み合わせて制御することも容易とすることができる。
【符号の説明】
【0096】
1 三相交流電源
3,3A,3B,3A1,3A2,3B1,3B2 サーボモータ
10 電動機駆動装置
11 整流器
13 平滑コンデンサ
15,15A,15B,15A1,15A2,15B1,15B2 インバータ主回路
16u,16v,16w 半導体スイッチング素子
17 インバータ制御部
20,20A,20B インバータ回路
31,31u,31v,31w コイル
32,32A,32A1,32A2,32B,32B1,32B2 ステータ
33,33A,33B,33C 導体
C,C1,C11,C12,C2,C21,C22 コンデンサ
D 間隔
E 対地
EL1,EL11,EL12,EL2,EL21,EL22 電極
LMG 第一サーボモータ群
RMG 第二サーボモータ群
【要約】
漏洩電流を検出する機器を付加することなく、漏洩電流を効果的に低減できる電動機駆動装置を提供すること。
本発明の電動機駆動装置は、個体数Nのサーボモータ3Aを含む第一モータ群と、サーボモータ3Aと同期して駆動が制御される、個体数Nの第二サーボモータ3Bを含む第二モータ群と、インバータ制御部17と、を備える。インバータ制御部17は、第一モータ群に対応する、第一高電位側の回路を開く半導体スイッチング素子の個数から低電位側の回路を開く半導体スイッチング素子の個数を差し引いた第一スイッチング総和数M1と、第二モータ群に対応する、低電位側の回路を開く第二スイッチング要素の個数から高電位側の回路を開く半導体スイッチング素子の個数を差し引いた第二スイッチング総和数M2と、の値を、正(+)と負(−)の符号を逆とするように制御する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15