特許第6469416号(P6469416)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6469416
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】DCT車両の変速制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/04 20060101AFI20190204BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20190204BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20190204BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20190204BHJP
   F16H 61/688 20060101ALI20190204BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20190204BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20190204BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   B60W10/00 102
   F16H59/42
   F16H61/02
   F16H61/688
   F16H63/50
   B60W10/06
   B60W10/02
   F02D29/00 F
   F02D29/00 G
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-223425(P2014-223425)
(22)【出願日】2014年10月31日
(65)【公開番号】特開2015-217936(P2015-217936A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年6月13日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0061058
(32)【優先日】2014年5月21日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA MOTORS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(72)【発明者】
【氏名】チョ、ソン、ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ホ、ソン
(72)【発明者】
【氏名】ハ、サン、モ
【審査官】 田中 将一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/051627(WO,A1)
【文献】 特開2009−257408(JP,A)
【文献】 特開2007−092815(JP,A)
【文献】 特表2005−518982(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2011−0109022(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 10/30
B60W 30/00 − 50/16
F02D 29/00 − 29/06
F16H 59/00 − 61/12
F16H 61/16 − 61/24
F16H 61/66 − 61/70
F16H 63/40 − 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーオンアップシフトの実変速中であるか否かを判断する実変速判断段階と、
実変速中である場合、エンジン速度が結合側入力軸速度に向かって下降するようにエンジントルクを低減させる第1エンジン協調制御が終了したか否かを判断する協調制御終了判断段階と、
第1エンジン協調制御が終了した場合、エンジンフレアが発生し始めるか否かを判断するフレア判断段階と、
エンジンフレアが発生し始めると判断されると、第2エンジン協調制御を要請し、エンジンのトルクを所定の第1基準時間の間に所定のトルク低減量だけ減少させるエンジントルク低減段階と、
エンジンのトルクが低減すると、結合側クラッチにエンジンフレアが発生していないパワーオンアップシフトの場合より大きいクラッチ制御トルクを適用するトルク追加段階と、
前記結合側クラッチの制御トルク増加量に応じてエンジントルク低減量を減らしてエンジンのトルクを漸進的に上昇させるように要請するエンジントルク上昇段階と、
前記トルク追加段階と前記エンジントルク上昇段階の遂行中に、エンジンの速度が同期速度に到達する同期予測時間が所定の第2基準時間より小さくなると、同期が完了するまで、エンジントルク低減量を同期予測時間の減少に伴って減らし、結合側クラッチをスリップ制御する変速仕上げ段階とを含むことを特徴とする、DCT車両の変速制御方法。
【請求項2】
前記フレア判断段階では、結合側クラッチのスリップ角加速度が0より大きい場合をフレアが発生し始めると判断することを特徴とする、請求項1に記載のDCT車両の変速制御方法。
【請求項3】
前記エンジントルク低減段階で、前記エンジンのトルクを減少させる所定のトルク低減量はエンジンの目標角加速度に基づいて計算される値であり、
前記第1基準時間は、前記トルク低減量によってエンジンの角加速度が前記目標角加速度に達するときまでと決定されることを特徴とする、請求項1に記載のDCT車両の変速制御方法。
【請求項4】
前記エンジントルク上昇段階は、前記トルク追加段階と共に行うことを特徴とする、請求項1に記載のDCT車両の変速制御方法。
【請求項5】
前記第2基準時間は、同期がほぼ完了して、エンジントルク低減量を取り除き且つ変速を仕上げることに必要な時間を考慮して設定されることを特徴とする、請求項1に記載のDCT車両の変速制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DCT車両の変速制御方法に係り、より詳しくは、パワーオンアップシフト時の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DCT(dual clutch transmission)が取り付けられた車両は、一般的な手動変速機の特性を保った状態で最大限自動変速機と類似した性能を出すことを目指している。
【0003】
DCT搭載車両において、運転者が加速ペダルを踏んで現在の変速段より高い上位変速段への変速が行われる、いわゆるパワーオンアップシフト(power on upshift)が行われる場合は、エンジンの速度を上位変速段の同期速度に迅速に下げるようにする制御が行われる。
【0004】
この際、運転者はエンジンの速度が下がる瞬間を感じることができる。よって、運転者が加速ペダルをさらに踏むなどの理由により、エンジンの速度がさらに上がるフレア(flare)現象が発生するおそれがあるが、このような現象が発生すると、例えば変速が迅速に完了せず遅延が発生するなど変速性能が低下し、DCTを構成するクラッチが乾式クラッチである場合、熱エネルギーが累積することによりクラッチの耐久性に悪影響を及ぼすことになる。
【0005】
前述の背景技術として説明された事項は、本発明の背景に対する理解増進のためのものに過ぎず、当該技術分野における通常の知識を有する者に既に知られている従来の技術に該当することを認めるものと受け入れられてはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開特許第10−2006−0067698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述したような問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、DCT車両のパワーオンダウンシフト過程で運転者の加速ペダル操作量の変化などの理由によりエンジンの速度が目標変速段の同期速度へ向け下がってからさらに上昇しようとする場合が発生するとき、適切な対応でエンジンフレア現象を防止し、エンジンの速度を迅速に同期速度に収斂するようにして変速を迅速に完了することができるようにすることで、変速性能を向上させ、DCTを構成する乾式クラッチの耐久性の低下を防止することができるようにした、DCT車両の変速制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るDCT車両の変速制御方法は、パワーオンアップシフトの実変速中であるか否かを判断する実変速判断段階と、実変速中である場合、第1エンジン協調制御が終了したか否かを判断する協調制御終了判断段階と、第1エンジン協調制御が終了した場合、エンジンフレアが発生し始めるか否かを判断するフレア判断段階と、エンジンフレアが発生し始めると判断されると、第2エンジン協調制御を要請し、エンジンのトルクを所定の第1基準時間の間に所定のトルク低減量だけ減少させるエンジントルク低減段階と、エンジンのトルクが低減すると、結合側クラッチに一般の変速の場合より大きいクラッチ制御トルクを適用するトルク追加段階と、前記結合側クラッチの制御トルク増加量に応じてエンジントルク低減量を減らしてエンジンのトルクを漸進的に上昇させるように要請するエンジントルク上昇段階と、前記トルク追加段階と前記エンジントルク上昇段階の遂行中に、エンジンの速度が同期速度に到達する同期予測時間が所定の第2基準時間より小さくなると、同期が完了するまで、エンジントルク低減量を同期予測時間の減少に伴って減らし、結合側クラッチをスリップ制御する変速仕上げ段階とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、DCT車両のパワーオンダウンシフト過程で運転者の加速ペダル操作量の変化などの理由によりエンジンの速度が目標変速段の同期速度へ向け下がってからさらに上昇しようとする場合が発生するとき、適切な対応でエンジンフレア現象を防止し、エンジンの速度を迅速に同期速度に収斂するようにして変速を迅速に完了することができるようにすることで、変速性能を向上させ、DCTを構成する乾式クラッチの耐久性の低下を防止することができるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例に係るDCT車両の変速制御方法を示すフローチャートである。
図2】本発明に係るDCT車両の変速制御方法を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1および図2を参照すると、本発明の実施例に係るDCT車両の変速制御方法は、パワーオンアップシフトの実変速中であるか否かを判断する実変速判断段階(S10)と、実変速中である場合、第1エンジン協調制御が終了したか否かを判断する協調制御終了判断段階(S20)と、第1エンジン協調制御が終了した場合、エンジンフレアが発生し始めるか否かを判断するフレア判断段階(S30)と、エンジンフレアが発生し始めると判断されると、第2エンジン協調制御を要請し、エンジンのトルクを所定の第1基準時間の間に所定のトルク低減量だけ減少させるエンジントルク低減段階(S40)と、エンジンのトルクが低減すると、結合側クラッチに一般の変速の場合より大きいクラッチ制御トルクを適用するトルク追加段階(S50)と、前記結合側クラッチの制御トルク増加量に応じてエンジントルク低減量を減らしてエンジンのトルクを漸進的に上昇させるように要請するエンジントルク上昇段階(S60)と、前記トルク追加段階(S50)と前記エンジントルク上昇段階(S60)の遂行中に、エンジンの速度が同期速度に到達する同期予測時間が所定の第2基準時間より小さくなると、同期が完了するまで、エンジントルク低減量を同期予測時間の減少に伴って減らし、結合側クラッチをスリップ制御する変速仕上げ段階(S70)とを含む。
【0012】
すなわち、本発明は、パワーオンアップシフトが開始した後、エンジンの速度が同期速度に向け下がってからさらに上昇しようとするエンジンフレア現象が発生すると、さらにエンジンのトルクを低減するようにエンジンコントローラにトルク低減要請を行うとともに、結合型クラッチ制御トルクを通常のパワーオンアップシフト時よりさらに大きく制御することにより、エンジンの速度が上昇するフレアを防止し、迅速に変速が完了するようにして、変速品質を向上させ、クラッチの耐久性の低下を防止することができるようにしたのである。
【0013】
これらの段階は、DCTのコントローラが行うように構成できる。
【0014】
前記実変速判断段階(S10)における実変速とは、イナーシャフェーズ(inertia phase)を意味するものであって、パワーオンアップシフトが開始して、解放側クラッチトルクを低下させ且つ結合側クラッチトルクを上昇させるトルクフェーズ(torque phase)以後、実際にエンジンの速度が解放側入力軸の速度より低下し始めて結合側入力軸の速度に同期する過程を意味する。
【0015】
したがって、前記実変速判断段階(S10)では、エンジンの速度が解放側入力軸の速度より低下して結合側入力軸の速度へ向け下がっているかを判断する。
【0016】
前記協調制御終了判断段階(S20)で終了を判断する第1エンジン協調制御は、通常の変速時にエンジン速度の迅速な下降および変速衝撃の防止のために行う制御であって、後で発生する第2エンジン協調制御と区分するために第1エンジン協調制御と表現したのである。
【0017】
本発明では、前記第1エンジン協調制御が終了した後、エンジンフレアが発生するか否かを前記フレア判断段階(S30)で判断する。前記フレア判断段階(S30)では、結合側クラッチのスリップ角加速度が0より大きい場合をフレアが発生し始めると判断するようにした。
【0018】
前記結合側クラッチのスリップ角加速度とは、エンジンの速度と結合側入力軸の回転速度との差の変化率を意味する。前記スリップ角加速度が0より大きいというのは、エンジン速度が結合側入力軸の速度に対して近づいてから遠ざかりながら上昇しようとすることを意味するので、これによりエンジンフレアの開始を判断するようにするのである。
【0019】
前記エンジントルク低減段階(S40)で、前記エンジンのトルクを減少させる所定のトルク低減量はエンジンの目標角加速度に基づいて計算される値であり、前記第1基準時間は前述したようなトルク低減量によってエンジンの角加速度が前記目標角加速度に達するまでと決定される。
【0020】
すなわち、前記トルク低減量は、次の数式で計算できる。
ETR=f*[AppTq+I*dNETgt
ETR:トルク低減量
AppTq:結合側クラッチ制御トルク
:エンジン慣性モーメント
dNETgt:エンジンの目標角加速度
つまり、トルク低減量は、エンジンの目標角加速度に基づいて決定される。
【0021】
ここで、前記エンジンの目標角加速度は、本発明の状況のようにエンジンフレアが発生しない通常のパワーオンアップシフトの場合にエンジンの速度が同期速度へ向けて変わるように制御するエンジン目標角加速度と同じくして、できる限りエンジンフレアが発生しないときと同じ変速制御が行われるようにすることが好ましい。
【0022】
前述したようにエンジンのトルクがさらに低減しながら、前記トルク追加段階(S50)によって結合側クラッチの制御トルクを通常のパワーオンアップシフトの場合よりさらに大きい値に制御することにより、エンジンフレア現象が抑制され、エンジンの速度はさらに結合側入力軸の速度へ向け同期する方向に下がり始める。
【0023】
ここで、前記エンジントルク上昇段階(S60)は、前記トルク追加段階(S50)と共に行い、結合側クラッチの制御トルクを増大する一方で、エンジントルク低減量を漸進的に減らしてエンジンのトルクを漸次上昇させるようにして、エンジン速度の急降下を防止しながら、以後の変速仕上げ段階(S70)で、取り除くべきエンジントルク低減量を予め減らしてより迅速な変速仕上げが行われるように準備する。
【0024】
前記トルク追加段階(S50)で、結合側クラッチに加えられる制御トルクは、次の数式で表すことができる。
AppTq(t)=AppTq(t−1)+EmergencyRamp
ここで、
AppTq(t):現在の結合側クラッチ制御トルク
AppTq(t−1):直前の結合側クラッチ制御トルク
EmergencyRamp:トルク追加量
よって、制御サイクルが進むにつれて、前記トルク追加量だけ漸次結合側クラッチ制御トルクが上昇する。
【0025】
前記エンジントルク上昇段階(60)で減少するエンジントルク低減量は、次の数式で表すことができる。
ETX=f*[AppTq(t)−AppTq(t−1)]
この数式は、現在の結合側クラッチ制御トルクと直前の結合側クラッチ制御トルクとの差の関数によってエンジントルク低減量が決定されることを表現している。
【0026】
前記エンジントルク上昇段階(S60)と前記トルク追加段階(S50)は、前記同期予測時間が前記第2基準時間より小さくなって、もうすぐ同期が行われると予測されるまで行い、前記同期予測時間が第2基準時間より小さくなると、前記変速仕上げ段階(S70)によって、目標のスリップ量に基づいて結合側クラッチのスリップを制御するフィードバック制御を行い、スリップ量が所定の基準値以下になれば同期が完了したと判断して実質的な変速完了と判断する。
【0027】
ここで、前記同期予測時間は、エンジンの角加速度と結合側クラッチのスリップ量などによって計算し、前記同期完了を判定する基準値は、実験および解析によって設定される値であって、例えば50rpm以内の値などに設定できる。
【0028】
また、前記変速完了段階では、前記第2トルク低減要請によるエンジントルク低減量を全て回復して前記第2トルク低減要請がないような状態へ復帰するようにすることで、正常なエンジン制御トルクが行われるようにする。
【0029】
前記第2基準時間は、同期がほぼ完了して、エンジントルク低減量を取り除き且つ変速を仕上げることに必要な時間を考慮して設定されることが好ましい。
【0030】
本発明は特定の実施例について図示および説明したが、以下の特許請求の範囲によって提供される本発明の技術的思想を外れる限度内において、本発明に様々な改良および変化を加え得ることは当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【符号の説明】
【0031】
S10 実変速判断段階
S20 協調制御終了判断段階
S30 フレア判断段階
S40 エンジントルク低減段階
S50 トルク追加段階
S60 エンジントルク上昇段階
S70 変速仕上げ段階
図1
図2