特許第6469430号(P6469430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6469430-射出成形機 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6469430
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】射出成形機
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/60 20060101AFI20190204BHJP
【FI】
   B29C45/60
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-247169(P2014-247169)
(22)【出願日】2014年12月5日
(65)【公開番号】特開2016-107509(P2016-107509A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222587
【氏名又は名称】東洋機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 玲
(72)【発明者】
【氏名】守谷 憲亮
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭45−028513(JP,B1)
【文献】 特開平10−193410(JP,A)
【文献】 特開2014−004744(JP,A)
【文献】 特開2007−001122(JP,A)
【文献】 特開昭50−084663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱シリンダと、前記加熱シリンダ内に回転可能かつ前後進可能に収納されたスクリュとを有し、前記スクリュを前記加熱シリンダ内で回転駆動することにより、熱硬化性樹脂の混練及び可塑化を行う射出装置を備えた射出成形機において、
前記スクリュには、前記加熱シリンダに形成された原料導入孔と対応する位置から先端部までの螺旋溝形成部に螺旋溝が連続的に形成されており、
前記螺旋溝形成部は、前記原料導入孔側から前記先端部側に向けて、前記原料導入孔を通じて前記加熱シリンダ内に供給された原料樹脂を前記先端部側に移送する移送領域と、前記移送領域を通過した原料樹脂を凝集させる凝集領域と、前記凝集領域にて凝集された原料樹脂を可塑化する可塑化領域を有し、
前記凝集領域は、前記原料導入孔側から前記先端部側に至るほど体積圧縮比が低下するように、前記螺旋溝を形成し
前記凝集領域に形成される螺旋溝は、リードピッチ及び溝深さが一定で、溝幅が前記原料導入孔側から前記先端部側に至るにしたがって順次大きくなることを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
前記可塑化領域に形成される螺旋溝は、リードピッチ及び溝深さが前記凝集領域に形成される螺旋溝と同じで、溝幅が前記凝集領域に形成される螺旋溝のうちの最大のものより大きく、かつ前記可塑化領域内において一定であることを特徴とする請求項に記載の射出成形機。
【請求項3】
加熱シリンダと、前記加熱シリンダ内に回転可能かつ前後進可能に収納されたスクリュとを有し、前記スクリュを前記加熱シリンダ内で回転駆動することにより、熱硬化性樹脂の混練及び可塑化を行う射出装置を備えた射出成形機において、
前記スクリュには、前記加熱シリンダに形成された原料導入孔と対応する位置から先端部までの螺旋溝形成部に螺旋溝が連続的に形成されており、
前記螺旋溝形成部は、前記原料導入孔側から前記先端部側に向けて、前記原料導入孔を通じて前記加熱シリンダ内に供給された原料樹脂を前記先端部側に移送する移送領域と、前記移送領域を通過した原料樹脂を凝集させる凝集領域と、前記凝集領域にて凝集された原料樹脂を可塑化する可塑化領域を有し、
前記凝集領域は、前記原料導入孔側から前記先端部側に至るほど体積圧縮比が低下するように、前記螺旋溝を形成し
前記凝集領域に形成される螺旋溝は、山幅及び溝深さが一定で、リードピッチが前記原料導入孔側から前記先端部側に至るにしたがって順次大きくなることを特徴とする射出成形機。
【請求項4】
前記可塑化領域に形成される螺旋溝は、山幅及び溝深さが前記凝集領域に形成される螺旋溝と同じで、リードピッチが前記凝集領域に形成される螺旋溝のうちの最大のものと同じであり、かつ前記可塑化領域内において一定であることを特徴とする請求項に記載の射出成形機。
【請求項5】
前記移送領域は、前記螺旋溝のリードピッチ、溝幅及び溝深さが一定に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の射出成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機に係り、特に、熱硬化性樹脂を加熱シリンダ内で可塑化するスクリュの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機に備えられるスクリュ式射出装置は、金型のキャビティ内に所定量の可塑化樹脂を射出・充填するもので、一端がヘッドストックに固定された加熱シリンダと、加熱シリンダ内に回転可能及び前後進可能に配設されたスクリュと、所要の動力伝達機構を介してスクリュを回転駆動する計量用モータと、所要の動力伝達機構を介してスクリュを前後進駆動する射出用モータを有している。
【0003】
加熱シリンダの基端側には、ホッパから落下してくる原料樹脂を加熱シリンダ内に導入するための原料導入孔が開設されており、スクリュには、加熱シリンダに開設された原料導入孔と対向する位置から先端部まで延びる螺旋溝が形成されている。したがって、計量用モータを用いて加熱シリンダ内でスクリュを回転駆動すると、原料導入孔を通して加熱シリンダ内に供給された原料樹脂が、加熱シリンダの内面と螺旋溝の表面とで形成される空間内に受け入れられ、スクリュの回転に伴い、螺旋溝に沿って、順次スクリュの先端側に移送される。この過程において、原料樹脂は加熱シリンダからの加熱並びにスクリュの回転に伴う剪断発熱及び摩擦発熱によって溶融され、必要な混練及び可塑化が行われる。また、所定の混練及び可塑化が完了した可塑化樹脂は、加熱シリンダの先端部に所定量に達するまで蓄えられ、金型のキャビティ内に射出すべき可塑化樹脂量が計量される。計量工程が完了した後は、計量用モータの回転駆動が停止され、射出用モータが所定の方向に回転駆動される。これにより、スクリュが前進駆動され、加熱シリンダ内の可塑化樹脂が、加熱シリンダの先端部に取り付けられた射出ノズルから射出されて、金型のキャビティ内に射出・充填される。
【0004】
上述したように、スクリュは、原料樹脂の受け入れと、受け入れられた原料樹脂の移送と、移送中の原料樹脂の混練及び可塑化を行うものであるので、スクリュに形成される螺旋の形状は、可塑化樹脂ひいては成形品の品質に大きな影響を及ぼす。加熱シリンダ内で熱硬化性樹脂の混練及び可塑化を行う熱硬化性樹脂用スクリュについて言えば、熱硬化性樹脂の硬化反応を抑制して成形性への悪影響を避けるため、加熱シリンダ内で必要以上の熱が熱硬化性樹脂に加わらないようにする必要がある。
【0005】
このため、従来においては、図2(a)に示すように、原料樹脂の受け入れ側から先端まで、螺旋溝15のリードピッチp、溝幅w1(山幅w2)、溝深さd及び溝容積vが一定で、体積圧縮費(p/d)が1のスクリュ11が用いられている(例えば、特許文献1の図4及び図5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−224801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図2(a)に示す熱硬化性樹脂用スクリュを粉状の熱硬化性樹脂の可塑化に適用すると、加熱シリンダ内に取り込まれた原料樹脂が凝集された後に可塑化されるため、可塑化時における樹脂の体積圧縮により加熱シリンダ内に大きな圧力が発生する。その結果、スクリュの回転に伴う剪断発熱や摩擦発熱が大きくなるので、スクリュの先端側では可塑化樹脂が必要以上に加熱されやすく、可塑化樹脂ひいては製品である熱硬化性樹脂成形品に焼けや変色による物性変化をはじめ、過熱により樹脂の硬化反応が進むことによる流動性への影響が生じやすくなる。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題を解消するためになされたものであり、その目的は、熱硬化性樹脂を必要以上に加熱することなく混練及び可塑化可能な熱硬化性樹脂用スクリュを備えた射出成形機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するため、加熱シリンダと、前記加熱シリンダ内に回転可能かつ前後進可能に収納されたスクリュとを有し、前記スクリュを前記加熱シリンダ内で回転駆動することにより、熱硬化性樹脂の混練及び可塑化を行う射出装置を備えた射出成形機において、前記スクリュには、前記加熱シリンダに形成された原料導入孔と対応する位置から先端部までの螺旋溝形成部に螺旋溝が連続的に形成されており、前記螺旋溝形成部は、前記原料導入孔側から前記先端部側に向けて、前記原料導入孔を通じて前記加熱シリンダ内に供給された原料樹脂を前記先端部側に移送する移送領域と、前記移送領域を通過した原料樹脂を凝集させる凝集領域と、前記凝集領域にて凝集された原料樹脂を可塑化する可塑化領域を有し、前記凝集領域は、前記原料導入孔側から前記先端部側に至るほど体積圧縮比が低下するように、前記螺旋溝を形成し、前記凝集領域に形成される螺旋溝は、リードピッチ及び溝深さが一定で、溝幅が前記原料導入孔側から前記先端部側に至るにしたがって順次大きくなることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記構成の射出成形機において、前記可塑化領域に形成される螺旋溝は、リードピッチ及び溝深さが前記凝集領域に形成される螺旋溝と同じで、溝幅が前記凝集領域に形成される螺旋溝のうちの最大のものより大きく、かつ前記可塑化領域内において一定であることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、加熱シリンダと、前記加熱シリンダ内に回転可能かつ前後進可能に収納されたスクリュとを有し、前記スクリュを前記加熱シリンダ内で回転駆動することにより、熱硬化性樹脂の混練及び可塑化を行う射出装置を備えた射出成形機において、前記スクリュには、前記加熱シリンダに形成された原料導入孔と対応する位置から先端部までの螺旋溝形成部に螺旋溝が連続的に形成されており、前記螺旋溝形成部は、前記原料導入孔側から前記先端部側に向けて、前記原料導入孔を通じて前記加熱シリンダ内に供給された原料樹脂を前記先端部側に移送する移送領域と、前記移送領域を通過した原料樹脂を凝集させる凝集領域と、前記凝集領域にて凝集された原料樹脂を可塑化する可塑化領域を有し、前記凝集領域は、前記原料導入孔側から前記先端部側に至るほど体積圧縮比が低下するように、前記螺旋溝を形成し、前記凝集領域に形成される螺旋溝は、山幅及び溝深さが一定で、リードピッチが前記原料導入孔側から前記先端部側に至るにしたがって順次大きくなることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記構成の射出成形機において、前記可塑化領域に形成される螺旋溝は、山幅及び溝深さが前記凝集領域に形成される螺旋溝と同じで、リードピッチが前記凝集領域に形成される螺旋溝のうちの最大のものと同じであり、かつ前記可塑化領域内において一定であることを特徴とする。
【0016】
前記移送領域は、前記螺旋溝のリードピッチ、溝幅及び溝深さが一定に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、凝集領域に形成される螺旋溝を、原料導入孔側から先端部側に至るほど体積圧縮比が低下するように形成したので、凝集領域における原料樹脂の凝集を抑制でき、可塑化領域で可塑化される可塑化樹脂の体積圧縮を抑制できて、可塑化樹脂の剪断発熱及び摩擦発熱を低下できる。よって、加熱シリンダ内で凝集されやすく、かつ熱による分解や劣化が生じやすい熱硬化性樹脂材料の焼けや変色を防止でき、高品質の成形品を高能率に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る射出成形機の要部構成図である。
図2】実施形態に係る3種類の熱硬化性樹脂用スクリュを、従来例に係る熱硬化性樹脂用スクリュと比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施形態に係る射出成形機は、図1に示すように、図示しない射出ユニットベース盤上に固定されたヘッドストック1と、ヘッドストック1にボルト2を用いて取り付けられた連結部材3と、連結部材3にボルト4を用いて一端が連結された中空の加熱シリンダ5と、加熱シリンダ5の先端に取り付けられた射出ノズル6と、加熱シリンダ5の外周に巻装された4つのバンドヒータ7、8、9、10と、加熱シリンダ5内に回転可能かつ前後進可能に収納されたスクリュ11を含んで構成される。
【0020】
連結部材3は、加熱シリンダ5と図示しないホッパとを連結する部材であって、水平方向に加熱シリンダ取付孔12が開設されると共に、上面から加熱シリンダ取付孔12に貫通する垂直方向に原料供給孔13が開設されている。加熱シリンダ5は、一端が加熱シリンダ取付孔12に挿入され、ボルト4を用いて連結部材3に固定される。ホッパは、連結部材3の上面にボルトなどを用いて取り付けられ、その下面に開口された図示しない原料排出口が原料供給孔13に連通される。また、加熱シリンダ5の原料供給孔13と対向する部分には、原料導入孔14が開設される。従って、ホッパに貯えられた原料樹脂は、原料排出口、原料供給孔13及び原料導入孔14を通って加熱シリンダ5内に供給される。
【0021】
バンドヒータ7、8、9、10は、加熱シリンダ5内を移動する樹脂材料を加熱するものであって、加熱シリンダ5の内面先端部とスクリュ11の外面先端部との間の樹脂溜め部に焼けや変色等の変質がない所定粘度の可塑化樹脂が貯えられるように、通電率が制御される。通電率の制御は、図示しない制御装置によりバンドヒータ毎に行われる。これら4つのバンドヒータのうち、バンドヒータ7、8は、後に説明するスクリュ11の移送領域Aに対応する位置に巻装され、バンドヒータ9は、後に説明するスクリュ11の凝集領域Bに対応する位置に巻装され、バンドヒータ10は、後に説明するスクリュ11の可塑化領域Cに対応する位置に巻装される。原料樹脂として粉状の熱硬化性樹脂を用いる場合、バンドヒータ10の通電率は、可塑化領域Cの樹脂温度が80℃前後になるように制御される。なお、加熱シリンダ5に複数のバンドヒータを巻装するのは、加熱シリンダ5内を移動する原料樹脂の状態に応じて、加熱シリンダ5の各部を適温に加熱するためである。従って、バンドヒータの数は4つに限定されるものではなく、必要に応じて1以上の適宜の数のバンドヒータが巻装される。さらに、加熱だけでなく、冷却機能を備えたバンドヒータとしても良い。
【0022】
スクリュ11は、図示しない所要の動力伝達機構を介して、図示しない可塑化・計量用モータにより回転駆動される。また、スクリュ11は、図示しない所要の動力伝達機構を介して、図示しない射出用モータにより前後進駆動される。射出装置に備えられるその他の部分の構成及び射出成形機に備えられるその他の部分の構成については、周知に属する事項であり、かつ本発明の要旨でもないので省略する。
【0023】
可塑化・計量用サーボモータ及び射出用サーボモータの駆動及び停止は、可塑化・計量工程の開始タイミング及び停止タイミング、並びに、射出工程の開始タイミング及び停止タイミングを記憶した図示しない制御装置により制御される。
【0024】
即ち、可塑化・計量工程の開始タイミングに至ると、制御装置からの指令に基づいて可塑化・計量用サーボモータが所定方向に回転駆動され、所要の動力伝達機構を介してスクリュ11が所定方向に回転駆動される。スクリュ11が回転すると、ホッパ内に蓄えられた原料樹脂が、自重により、原料排出口、原料供給孔13及び原料導入孔14を通して、加熱シリンダ5の内面とスクリュに形成された螺旋溝15とによって形成される空間内に連続的に受け入れられる。加熱シリンダ5内に受け入れられた原料樹脂は、スクリュ11のネジ送り作用によって連続的に前方に移送され、その過程でバンドヒータ7、8、9、10から与えられる熱及びスクリュ11の回転に伴って発生する剪断発熱や摩擦発熱により可塑化され、樹脂溜め部に貯えられる。この際、樹脂溜め部に可塑化樹脂が送り込まれるにつれ、その圧力によりスクリュ11が後退するので、制御装置からの指令に基づいて射出用サーボモータを圧力フィードバック制御し、スクリュ11の直線移動位置を制御することで、樹脂溜め部に1ショット分の可塑化樹脂が貯えられる。これにより可塑化・計量工程が終了し、可塑化・計量用サーボモータによるスクリュ11の回転駆動が停止される。
【0025】
次いで、射出工程の開始タイミングに至ると、制御装置からの指令に基づいて射出用サーボモータが所定方向に回転駆動され、所要の動力伝達機構を介してスクリュ11が前進駆動される。これにより、樹脂溜め部に貯えられた1ショット分の可塑化樹脂が、射出ノズル6を通って型締状態にある金型のキャビティ内に射出充填され、一次射出工程が実行される。一次射出工程に引き続く保圧工程では、図示しない制御装置からの指令に基づいて、射出用サーボモータが圧力フィードバック制御で駆動制御され、これにより設定された保圧力がスクリュ11から金型内に充填された樹脂に付加される。
【0026】
以下、上述の射出装置に備えられるスクリュ11の構成を、実施例毎に説明する。
【0027】
〈実施例1〉
実施例1に係るスクリュ11Aは、図2(b)に示すように、加熱シリンダ5に形成された原料導入孔14と対向する位置から先端部に至る部分に、螺旋溝15が連続的に形成されている。なお、スクリュ11Aの他端は、図示しない動力伝達機構が連結されるシャンク部になっている。本例のスクリュ11Aは、図2(a)に示す従来例に係るスクリュ11とは異なり、螺旋溝15のリードピッチp、溝幅w1(山幅w2)及び溝深さdが原料導入孔14側から先端部まで一定に形成されておらず、リードピッチp、溝幅w1(山幅w2)及び溝深さdが異なる3つの領域、即ち、移送領域A、凝集領域B及び可塑化領域Cを有している。移送領域Aは、ホッパから供給される原料樹脂を圧縮することなく先端部に向けて移送する領域である。また、凝集領域Bは、原料樹脂として粉状の熱硬化性樹脂を供給した場合に、移送領域Aを通って移送されてきた原料樹脂が圧力を受けて凝集する領域である。さらに、可塑化領域Cは、原料樹脂である熱硬化性樹脂が可塑化されて、粘土状の粘動体になる領域である。
【0028】
移送領域Aに形成される螺旋溝15aは、リードピッチp、溝幅w1(山幅w2)及び溝深さdが一定に形成される。これに対して、凝集領域Bに形成される螺旋溝15bは、リードピッチp及び溝深さdが一定かつ移送領域Aに形成される螺旋溝15aと同じで、溝幅w1が移送領域Aに形成される螺旋溝15aよりも大きく、しかも先端部側に至るに従って順次大きくなるように形成される。よって、凝集領域Bでは、山幅w2が先端部側に至るにしたがって順次小さくなる。さらに、可塑化領域Cに形成される螺旋溝15cは、リードピッチp及び溝深さdが移送領域Aに形成される螺旋溝15a及び凝集領域Bに形成される螺旋溝15bと同じで、溝幅w1が凝集領域Bに形成される螺旋溝15bのうちの最大のものより大きく形成される。可塑化領域C内における溝幅w1(山幅w2)は一定である。なお、本例のスクリュ11Aは、原料導入孔14側から先端部までの体積圧縮率(p/d)が1に調整される。
【0029】
ホッパから加熱シリンダ5内に取り込まれた原料樹脂は、スクリュ11Aのネジ送り作用によって、移送領域A、凝集領域B及び可塑化領域Cの順に加熱されながら移動する。上述したように、移送領域Aの螺旋溝15aは、リードピッチp、溝幅w1(又は山幅w2)及び溝深さdが一定に形成されているので、該領域A内を移動する原料樹脂には大きな圧力が作用しないので、発生する剪断発熱及び摩擦発熱も小さい。これに対して、凝集領域B内においては、原料樹脂として粉状の熱硬化性樹脂を用いた場合、移送領域Aを通過することによってある程度加熱された原料樹脂が凝集する。そして、凝集領域Bを通過した凝集状態の原料樹脂は、可塑化領域Cに至って可塑化され粘土状の粘動体となるが、従来例に係るスクリュ11のように、移送領域から可塑化領域まで、螺旋溝15のリードピッチp、溝幅w1(又は山幅w2)及び溝深さdが一定に形成されていると、可塑化される際の体積圧縮が大きく、加熱シリンダ5内に大きな圧力が発生する。このため、スクリュ11の回転に伴う剪断発熱及び摩擦発熱が大きくなり、可塑化樹脂の温度が高くなって、焼けや変色、樹脂の流動性変化等を起こしやすくなる。
【0030】
これに対して、実施例1に係るスクリュ11Aは、凝集領域Bに形成される螺旋溝15bのリードピッチp及び溝深さdを移送領域Aに形成される螺旋溝15aと同じとし、溝幅w1を移送領域Aに形成される螺旋溝15aよりも大きくすると共に、移送領域A側から先端部に至るに従って順次大きくなるように形成したので、凝集領域Bにおける原料樹脂の凝集を抑制できる。従って、可塑化領域Cにおける体積圧縮を抑制又は防止でき、可塑化樹脂の加熱を防止できるので、可塑化樹脂の変質を防止できる。
【0031】
また、可塑化領域Cに形成される螺旋溝15cについては、リードピッチp及び溝深さdを移送領域Aに形成される螺旋溝15a及び凝集領域Bに形成される螺旋溝15bと同じとし、溝幅w1を凝集領域Bに形成される螺旋溝15bのうちの最大のものより大きくしたので、可塑化領域Cにおける剪断発熱及び摩擦発熱を抑制できて、この点からも可塑化樹脂の変質を防止できる。
【0032】
〈実施例2〉
実施例2に係るスクリュ11Bは、図2(c)に示すように、凝集領域B及び可塑化領域Cの構成が、実施例1に係るスクリュ11Aと異なっている。即ち、実施例2に係るスクリュ11Bは、凝集領域Bに形成される螺旋溝15bの山幅w2及び溝深さdが一定かつ移送領域Aに形成される螺旋溝15aと同じで、リードピッチpが移送領域Aに形成される螺旋溝15aよりも大きく、しかも移送領域A側から先端部側に至るに従って順次大きくなるように形成される。よって、凝集領域Bでは、溝幅w1が先端部側に至るにしたがって順次大きくなる。さらに、可塑化領域Cに形成される螺旋溝15cは、山幅w2及び溝深さdが移送領域Aに形成される螺旋溝15a及び凝集領域Bに形成される螺旋溝15bと同じで、リードピッチpが凝集領域Bに形成される螺旋溝15のうちの最大のものより大きく形成される。可塑化領域C内における溝幅w1(山幅w2)は一定である。なお、本例のスクリュ11Bも、原料導入孔14側から先端部までの体積圧縮率(p/d)が1に調整される。移送領域Aの構成については、実施例1に係るスクリュ11Aと同じであるので、説明を省略する。
【0033】
実施例2に係るスクリュ11Bは、凝集領域Bに形成される螺旋溝15bの山幅w2及び溝深さdを移送領域Aに形成される螺旋溝15aと同じとし、リードピッチpを移送領域Aに形成される螺旋溝15aよりも大きくすると共に、先端部側に至るに従って順次大きくなるように形成したので、凝集領域Bにおける原料樹脂の凝集が抑制され、原料樹脂として粉状の熱硬化性樹脂を用いた場合にも、可塑化樹脂の焼けや変色、樹脂の流動性変化等を防止できる。
【0034】
また、可塑化領域Cに形成される螺旋溝15cについては、山幅w2及び溝深さdを移送領域Aに形成される螺旋溝15a及び凝集領域Bに形成される螺旋溝15bと同じとし、リードピッチpを凝集領域Bに形成される螺旋溝15のうちの最大のものより大きくしたので、この点からも可塑化領域Cにおける剪断発熱を抑制できて、可塑化樹脂の変質及び流動性変化を防止できる。
【0035】
〈実施例3〉
実施例3に係るスクリュ11Cは、図2(d)に示すように、凝集領域B及び可塑化領域Cの構成が、実施例1に係るスクリュ11A及び実施例2に係るスクリュ11Bと異なっている。即ち、実施例3に係るスクリュ11Cは、凝集領域Bに形成される螺旋溝15bのリードピッチp及び溝幅w1(山幅w2)が一定かつ移送領域Aに形成される螺旋溝15aと同じで、溝深さdが移送領域Aに形成される螺旋溝15aよりも大きく、しかも移送領域A側から先端部側に至るに従って順次大きくなるように形成される。一方、可塑化領域Cに形成される螺旋溝15cは、リードピッチp及び溝幅w1(山幅w2)が移送領域Aに形成される螺旋溝15a及び凝集領域Bに形成される螺旋溝15bと同じで、溝深さdを凝集領域Bに形成される螺旋溝15bと同じ割合で、移送領域A側から先端部側に至るにしたがって順次大きくなるように形成される。なお、本例のスクリュ11Cは、原料導入孔14側から先端部までの体積圧縮率(p/d)が1以下、好ましくは0.5〜0.8に調整される。移送領域Aの構成は、実施例1に係るスクリュ11A及び実施例2に係るスクリュ11Bと同じであるので、説明を省略する。
【0036】
実施例3に係るスクリュ11Cは、凝集領域Bに形成される螺旋溝15bのリードピッチp及び溝幅w1(山幅w2)を一定かつ移送領域Aに形成される螺旋溝15aと同じとし、溝深さdを移送領域Aに形成される螺旋溝15aよりも大きくすると共に、原料導入孔14側から先端部側に至るに従って順次大きくなるように形成したので、凝集領域Bにおける原料樹脂の凝集を抑制できて、可塑化樹脂の焼けや変色、樹脂の流動性変化等を防止できる。
【0037】
また、可塑化領域Cに形成される螺旋溝15cのリードピッチp及び溝幅w1(山幅w2)を移送領域Aに形成される螺旋溝15a及び凝集領域Bに形成される螺旋溝15bと同じとし、溝深さdが凝集領域Bに形成される螺旋溝15bと同じ割合で順次大きくなるように形成したので、この点からも可塑化領域Cにおける剪断発熱を抑制できて、可塑化樹脂の変質を防止できる。
【0038】
なお、前記実施形態においては、スクリュ式射出装置を備えた射出成形機を例にとって説明したが、スクリュプリプラ式射出装置を備えた射出成形機についても、同様に実施することができる。また、前記実施形態においては、粉体状の熱硬化性樹脂の可塑化に適用する場合を例にとって説明したが、粒状など他の形態の熱硬化性樹脂の可塑化にも適用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 ヘッドストック
3 連結部材
5 加熱シリンダ
6 射出ノズル
7、8、9、10 バンドヒータ
11、11A、11B、11C スクリュ
12 原料排出口
13 原料導入孔
14 原料導入孔
15、15a、15b、15c 螺旋溝
A 移送領域
B 凝集領域
C 可塑化領域
p リードピッチ
w1 溝幅
w2 山幅
d 溝深さ
v 溝容積
図1
図2