(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光コヒーレンストモグラフィを用いて、生体の注目血管に交差する第1断面を走査する第1走査と、前記注目血管に交差する第2断面を走査する第2走査とを交互に行う走査部と、
前記第1走査により取得されたデータに基づいて、前記第1断面における位相差の経時的変化を表す位相画像を含む1以上の前記第1断面の画像を形成し、かつ、前記第2走査により取得されたデータに基づいて前記第2断面の画像を形成する画像形成部と、
前記1以上の前記第1断面の画像のいずれかにおいて前記注目血管に相当する第1血管領域を特定し、かつ、前記第2断面の画像において前記注目血管に相当する第2血管領域を特定する血管領域特定部と、
前記第1血管領域及び前記第2血管領域に基づいて、前記第1断面における前記注目血管の傾きを算出する傾き算出部と、
前記位相画像と前記注目血管の傾きとに基づいて、前記注目血管に関する血流情報を生成する血流情報生成部と
を備える血流計測装置。
前記傾き算出部は、一のタイミングにおいて実行された第1走査により取得されたデータと、当該第1走査の直前又は直後に実行された第2走査により取得されたデータとに基づいて、当該一のタイミングにおける前記注目血管の傾きを算出し、
前記血流情報生成部は、当該一のタイミングに対応する前記位相画像のフレームと当該一のタイミングにおける前記注目血管の傾きとに基づいて、当該一のタイミングにおける血流情報を生成する
ことを特徴とする請求項3に記載の血流計測装置。
前記血流情報生成部は、前記位相画像と前記注目血管の傾きとに基づいて、前記注目血管内を流れる血液の前記第1断面における血流速度の経時的変化を求める血流速度算出部を含む
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の血流計測装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この明細書で引用する文献の記載内容を実施形態に援用することができる。
【0012】
血流計測装置は、OCTを用いて生体の血流に関する情報を取得する。また、血流計測装置は、OCTを用いて生体の画像を取得することが可能である。以下、フーリエドメインOCT(特に、スペクトラルドメインOCT)を用いて眼底の血流計測を行う場合について説明する。なお、血流計測の対象は眼底である必要はなく、たとえば皮膚や内臓などの任意の生体部位であってよい。また、OCTのタイプはスペクトラルドメインOCTには限定されず、たとえばスウェプトソースOCTやタイムドメインOCTなどの任意のタイプであってよい。また、以下の実施形態ではOCT装置と眼底カメラとを組み合わせた装置について説明するが、たとえばSLO(Scanning Laser Ophthalmoscope)やスリットランプや眼科手術用顕微鏡などにOCT装置を組み合わせた装置に対して実施形態と同様の構成を適用することが可能である。また、実施形態と同様の構成をOCT機能のみを有する装置に適用することもできる。
【0013】
[構成]
図1に示すように、血流計測装置1は、眼底カメラユニット2と、OCTユニット100と、演算制御ユニット200とを含む。眼底カメラユニット2は、眼底Efを撮影するための構成を備える。OCTユニット100は、眼底EfのOCT画像を取得するための構成を備える。演算制御ユニット200は、各種の演算や制御を実行するための構成を備える。
【0014】
〔眼底カメラユニット〕
眼底カメラユニット2は、眼底Efの表面形態を表す2次元画像(眼底像)を取得する。眼底像には観察画像や撮影画像が含まれる。観察画像は、たとえば、近赤外光を用いて所定のフレームレートで取得されるモノクロ動画像である。撮影画像としては、可視光をフラッシュ発光して得られるカラー画像や、近赤外光又は可視光を用いて取得されるモノクロ画像(たとえば、フルオレセイン蛍光画像、インドシアニングリーン蛍光画像、自発蛍光画像等の蛍光画像)などがある。
【0015】
眼底カメラユニット2には、照明光学系10と撮影光学系30が設けられている。照明光学系10は被検眼Eに照明光を照射する。撮影光学系30は、被検眼Eからの照明光の戻り光(眼底反射光、角膜反射光、蛍光等)を検出する。また、眼底カメラユニット2は、OCTユニット100からの測定光を被検眼Eに導き、かつ、被検眼Eからの測定光の戻り光をOCTユニット100に導く。
【0016】
照明光学系10の観察光源11から出力された光(観察照明光)は、曲面状の反射面を有する反射ミラー12により反射され、集光レンズ13を経由し、可視カットフィルタ14を透過して近赤外光となる。更に、観察照明光は、撮影光源15の近傍にて一旦集束し、ミラー16により反射され、リレーレンズ17及び18、絞り19並びにリレーレンズ20を経由し、孔開きミラー21の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて被検眼Eに照射される。
【0017】
被検眼Eからの観察照明光の戻り光は、対物レンズ22により屈折され、ダイクロイックミラー46を透過し、孔開きミラー21の中心領域に形成された孔部を通過し、ダイクロイックミラー55を透過し、合焦レンズ31を経由し、ミラー32により反射され、ハーフミラー40を透過し、ダイクロイックミラー33により反射され、集光レンズ34によりエリアセンサ35の受光面に結像される。エリアセンサ35は、所定のフレームレートで戻り光を検出する。それにより、眼底Efや前眼部の観察画像が得られる。
【0018】
撮影光源15から出力された光(撮影照明光)は、観察照明光と同様の経路を通って被検眼E(眼底Ef)に照射される。撮影照明光の戻り光(眼底反射光、蛍光等)は、観察照明光のそれと同様の経路を通ってダイクロイックミラー33まで導かれ、ダイクロイックミラー33を透過し、ミラー36により反射され、集光レンズ37によりエリアセンサ38の受光面に結像される。それにより、眼底Ef等の撮影画像が得られる。
【0019】
LCD(Liquid Crystal Display)39は、固視標や視力測定用視標を表示する。LCD39から出力された光は、その一部がハーフミラー40にて反射され、ミラー32に反射され、合焦レンズ31及びダイクロイックミラー55を経由し、孔開きミラー21の孔部を通過し、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて被検眼E(眼底Ef)に投影される。LCD39による固視標の表示位置を変更することにより、被検眼Eの固視位置を変更できる。
【0020】
眼底カメラユニット2には、アライメント光学系50とフォーカス光学系60とが設けられている。アライメント光学系50は、被検眼Eに対する装置光学系の位置合わせ(アライメント)を行うための指標(アライメント指標)を生成する。フォーカス光学系60は、眼底Efに対してフォーカス(ピント)を合わせるための指標(スプリット指標)を生成する。
【0021】
アライメント光学系50のLED51から出力された近赤外光(アライメント光)は、絞り52、53及びリレーレンズ54を経由し、ダイクロイックミラー55により反射され、孔開きミラー21の孔部を通過し、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により被検眼E(角膜)に投影される。アライメント光の戻り光は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってエリアセンサ35により検出される。エリアセンサ35による検出像(アライメント指標像)は、観察画像内に描出される。ユーザ又は演算制御ユニット200は、従来の眼底カメラと同様に、アライメント指標像の位置に基づいてアライメントを実施することができる。
【0022】
フォーカス調整を行う際には、照明光学系10の光路に反射棒67の反射面が斜設される。フォーカス光学系60のLED61から出力された近赤外光(フォーカス光)は、リレーレンズ62を通過し、スプリット指標板63により2つの光束に分離され、二孔絞り64を通過し、ミラー65に反射され、集光レンズ66により反射棒67の反射面に一旦結像されて反射され、リレーレンズ20を経由し、孔開きミラー21に反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて被検眼E(眼底Ef)に投影される。フォーカス光の戻り光は、アライメント光の戻り光と同様の経路を通ってエリアセンサ35により検出される。エリアセンサ35による検出像(スプリット指標像)は、観察画像内に描出される。ユーザ又は演算制御ユニット200は、従来の眼底カメラと同様に、スプリット指標像の位置に基づいて合焦レンズ31及びフォーカス光学系60を移動させることによりフォーカシングを行う。合焦レンズ31は
図3に示す合焦駆動部31Aにより移動され、フォーカス光学系60は図示しない駆動機構により移動される。
【0023】
アライメント(及びフォーカシング)の完了後、被検眼Eの眼球運動に合わせて装置光学系を移動させるトラッキングを実行することができる。
【0024】
ダイクロイックミラー46は、眼底撮影用の光路とOCT計測用の光路(測定アーム、サンプルアーム等と呼ばれる)とを合成する。ダイクロイックミラー46は、OCT計測に用いられる波長帯の光を反射し、眼底撮影用の光を透過させる。OCT計測用の光路には、OCTユニット100側から順に、コリメータレンズユニット40と、光路長変更部41と、光スキャナ42と、合焦レンズ43と、ミラー44と、リレーレンズ45とが設けられている。
【0025】
光路長変更部41は、測定アームの長さを変更する。光路長変更部41は、たとえば、
図1に示す矢印の方向に移動可能なコーナーキューブを含む。測定アームの光路長の変更は、被検眼Eの眼軸長に応じた光路長の調整や、干渉状態の調整などに利用される。
【0026】
光スキャナ42は、測定アームを通過する光(測定光LS)を2次元的に偏向可能な構成を有する。たとえば、光スキャナ42は、互いに直交する方向(x方向及びy方向)に測定光LSを独立に走査できるように構成される。それにより、各種の走査パターンが実現される。なお、前眼部OCT用の構成(レンズ系アタッチメント等)が適用される場合には前眼部が測定光LSでスキャンされる。光スキャナ42は、たとえば、ガルバノミラー、MEMSミラー、レゾナントミラー等を含む。
【0027】
〔OCTユニット〕
図2はOCTユニット100の構成例を示す。OCTユニット100は、OCTのタイプに応じた構成を有する。
図2は、スペクトラルドメインOCTが適用される場合の構成の例を示す。スペクトラルドメインOCTでは、一般に、低コヒーレンス光源と分光器とが設けられる。なお、スウェプトソースOCTにおいては、たとえば、波長掃引光源とバランスドフォトダイオードが設けられる。
【0028】
スペクトラルドメインOCTでは、光源ユニット101から出力される光L0は広帯域の低コヒーレンス光である。光L0は、たとえば、近赤外領域の波長帯(約800nm〜900nm程度)を含み、数十マイクロメートル程度の時間的コヒーレンス長を有する。また、たとえば1040〜1060nm程度の中心波長を有する近赤外光を光L0として用いてもよい。光源ユニット101は、スーパールミネセントダイオード(Super Luminescent Diode:SLD)や、LEDや、SOA(Semiconductor Optical Amplifier)等の光出力デバイスを含む。
【0029】
光源ユニット101から出力された光L0は、光ファイバ102によりファイバカプラ103に導かれて測定光LSと参照光LRに分割される。
【0030】
参照光LRは、光ファイバ104により導かれて光減衰器(アッテネータ)105に到達する。光減衰器105は、公知の技術を用いて、演算制御ユニット200の制御の下、光ファイバ104に導かれる参照光LRの光量を自動で調整する。光減衰器105により光量が調整された参照光LRは、光ファイバ104により導かれて偏波調整器106に到達する。偏波調整器106は、公知の技術を用いて、演算制御ユニット200の制御の下、光ファイバ104に導かれる参照光LRの偏光状態を調整する。偏光状態が調整された参照光LRは、ファイバカプラ109に到達する。
【0031】
一方、ファイバカプラ103により生成された測定光LSは、光ファイバ107により導かれ、コリメータレンズユニット105により平行光束とされる。更に、測定光LSは、光路長変更部41、光スキャナ42、合焦レンズ43、ミラー44、及びリレーレンズ45を経由してダイクロイックミラー46により反射され、対物レンズ11により屈折されて被検眼E(眼底Ef)に照射される。測定光LSは、眼底Efの様々な深さ位置において散乱・反射される。測定光LSの戻り光(後方散乱光、反射光、蛍光等)は、往路と同じ経路を逆向きに進行してファイバカプラ103に導かれ、光ファイバ108を経由してファイバカプラ109に到達する。合焦レンズ43は図示しない合焦駆動部により移動される。
【0032】
ファイバカプラ109は、測定光LSの戻り光と、ファイバカプラ104を経由した参照光LRとを干渉させる。これにより生成された干渉光LCは、光ファイバ110により導かれて出射端111から出射し、コリメータレンズ112により平行光束とされ、回折格子113により分光(スペクトル分解)され、集光レンズ114により集光されて光検出器115の受光面に投影される。光検出器115は、たとえばラインセンサであり、分光された干渉光LCの各スペクトル成分を検出して電気信号(検出信号)を生成する。生成された検出信号は演算制御ユニット200に送られる。
【0033】
〔演算制御ユニット〕
演算制御ユニット200は、眼底カメラ2、表示装置3及びOCTユニット100の制御や、各種の演算処理や、OCT画像の形成処理などを実行する。また、演算制御ユニット200は、表示デバイスや入力デバイスや操作デバイス等のユーザインターフェイスを含む。演算制御ユニット200の構成の説明は、以下の制御系の制御系の説明において行う。
【0034】
〔制御系〕
血流計測装置1の制御系について
図3及び
図4を参照しつつ説明する。
【0035】
(制御部)
血流計測装置1の制御系は、制御部210を中心に構成される。制御部210には、主制御部211と記憶部212が設けられている。
【0036】
(主制御部)
主制御部211は、眼底カメラユニット2、OCTユニット100及び演算制御ユニット200の制御を実行する。また、主制御部211は、記憶部212にデータを書き込む処理や、記憶部212からデータを読み出す処理を行う。
【0037】
(記憶部)
記憶部212は、各種のデータを記憶する。記憶部212に記憶されるデータとしては、たとえば、OCT画像、眼底像、被検眼情報などがある。被検眼情報は、被検眼又は被検者に関する情報であり、たとえば患者ID等の入力情報や、電子カルテ等の医療情報を含む。また、記憶部212には、血流計測装置1を動作させるためのプログラムやデータが記憶されている。
【0038】
(画像形成部)
画像形成部220は、光検出器115からの検出信号に基づいて、眼底Efの断層像の画像データと位相画像の画像データとを形成する。これら画像データについては後述する。なお、この明細書では、「画像データ」と、それに基づき出力される「画像」とを同一視することがある。画像形成部220は、断層像形成部221と位相画像形成部222を有する。
【0039】
この実施形態では、眼底Efに対して2種類の走査(第1走査及び第2走査)を行う。第1走査では、眼底Efの注目血管に交差する第1断面を測定光LSで反復的に走査する。第2走査では、この注目血管に交差する第2断面を測定光LSで走査する。第2断面は、第1断面の近傍に設定される。ここで、第1断面と第2断面は、注目血管の走行方向に対して直交するように向き付けられることが望ましい。また、第1断面と第2断面とは、互いに平行に設定されることが望ましい。第1断面及び第2断面の具体例を
図5に示す。
図5に示す眼底像Dには、眼底Efの視神経乳頭Daの近傍に設定された第1断面C0及び第2断面C1が表されている。第1断面C0及び第2断面C1は、既定の注目血管Dbに交差するように設定される。第2断面C1は、第1断面C0に対して注目血管Dbの上流側に設定されてもよいし、下流側に設定されてもよい。
【0040】
第1走査及び第2走査は、患者の心臓の少なくとも1心周期の間にわたって実行されることが望ましい。それにより、心臓の全ての時相における血流情報が得られる。なお、第1走査を実行する時間は、あらかじめ設定された一定の時間であってもよいし、患者ごとに又は検査毎に設定された時間であってもよい。前者の場合、一般的な心周期よりも長い時間が設定される(たとえば2秒間)。後者の場合、患者の心電図等の検査データを参照することとなる。ここで、心周期以外のファクターを考慮することも可能である。このファクターの例としては、検査に掛かる時間(患者への負担)、光スキャナ42の応答時間(走査間隔)、光検出器115の応答時間(走査間隔)などがある。
【0041】
(断層像形成部)
断層像形成部221は、第1走査により得られる干渉光LCの検出結果に基づいて、第1断面における形態の経時的変化を表す断層像(第1断層像)を形成する。この処理についてより詳しく説明する。第1走査は、上記のように第1断面C0を繰り返し走査するものである。断層像形成部221には、第1走査に応じて、OCTユニット100の光検出器115から検出信号が逐次入力される。断層像形成部221は、第1断面C0の各走査に対応する検出信号に基づいて、第1断面C0の1枚の断層像を形成する。断層像形成部221は、上記の処理を第1走査の反復回数だけ繰り返すことで、時系列に沿った一連の断層像を形成する。ここで、これら断層像を複数の群に分割し、各群の断層像を重ね合わせて(加算平均して)画質の向上を図ってもよい。
【0042】
また、断層像形成部221は、第2断面C1に対する第2走査により得られる干渉光LCの検出結果に基づいて、第2断面C1における形態を表す断層像(第2断層像)を形成する。この処理は、第1断層像の場合と同様にして実行される。なお、第1断層像は時系列に沿う一連の断層像であるが、第2断層像は1枚の断層像であってもよい。また、第2断層像は、第2断面C1を複数回走査して得られた複数の断層像を重ね合わせて(加算平均して)画質の向上を図ったものであってもよい。
【0043】
このような断層像を形成する処理は、従来のスペクトラルドメインタイプの光コヒーレンストモグラフィと同様に、ノイズ除去(ノイズ低減)、フィルタ処理、FFT(Fast Fourier Transform)などの処理を含む。他のタイプのOCT装置の場合、断層像形成部221は、そのタイプに応じた公知の処理を実行する。
【0044】
(位相画像形成部)
位相画像形成部222は、第1走査により得られる干渉光LSの検出結果に基づいて、第1断面における位相差の経時的変化を表す位相画像を形成する。この処理に用いられる検出結果は、断層像形成部221による第1断層像の形成処理に供されるものと同じである。よって、第1断層像と位相画像との間の位置合わせをすることが可能である。つまり、第1断層像の画素と位相画像の画素とを自然に対応付けることが可能である。
【0045】
位相画像の形成方法の一例を説明する。この例の位相画像は、隣り合うAライン複素信号(隣接する走査点に対応する信号)の位相差を算出することにより得られるものである。換言すると、この例の位相画像は、第1断層像の各画素について、その画素の画素値(輝度値)の経時的変化に基づいて形成される。任意の画素について、位相画像形成部222は、その輝度値の経時的変化のグラフを考慮する。位相画像形成部222は、このグラフにおいて所定の時間間隔Δtだけ離れた2つの時点t1、t2(=t1+Δt)の間における位相差Δφを求める。そして、この位相差Δφを時点t1(より一般に2つの時点t1、t2の間の任意の時点)における位相差Δφ(t1)として定義する。あらかじめ設定された多数の時点のそれぞれについてこの処理を実行することで、当該画素における位相差の経時的変化が得られる。
【0046】
位相画像は、各画素の各時点における位相差の値を画像として表現したものである。この画像化処理は、たとえば、位相差の値を表示色や輝度で表現することで実現できる。このとき、時系列に沿って位相が増加した場合の表示色(たとえば赤)と、減少した場合の表示色(たとえば青)とを変更することができる。また、位相の変化量の大きさを表示色の濃さで表現することもできる。このような表現方法を採用することで、血流の向きや大きさを表示色で明示することが可能となる。以上の処理を各画素について実行することにより位相画像が形成される。
【0047】
なお、位相差の経時的変化は、上記の時間間隔Δtを十分に小さくして位相の相関を確保することにより得られる。このとき、測定光LSの走査において断層像の分解能に相当する時間未満の値に時間間隔Δtを設定したオーバーサンプリングが実行される。
【0048】
(画像処理部)
画像処理部230は、画像形成部220により形成された画像に対して各種の画像処理や解析処理を施す。たとえば、画像処理部230は、画像の輝度補正や分散補正等の各種補正処理を実行する。また、画像処理部230は、眼底カメラユニット2により得られた画像(眼底像、前眼部像等)に対して各種の画像処理や解析処理を施す。
【0049】
画像処理部230は、血管領域特定部231と、傾き算出部232と、血流情報生成部233とを有する。血流情報生成部233には、血流速度算出部234と、血管径算出部235と、血流量算出部236とが設けられている。更に、画像処理部230は断面設定部237を有する。以下、これら各部231〜237について説明する。
【0050】
(血管領域特定部)
血管領域特定部231は、第1断層像、第2断層像、及び位相画像のそれぞれについて、注目血管Dbに対応する血管領域を特定する。この処理は、各画像の画素値を解析することによって行うことが可能である(たとえば閾値処理)。
【0051】
なお、第1断層像と第2断層像は解析処理を行うのに十分な解像度を持っているが、位相画像については血管領域の境界を特定できるほどの解像度を持っていないことが考えられる。しかし、位相画像に基づいて血流情報を生成する以上、その血管領域を高精度かつ高確度で特定する必要がある。そこで、たとえば次のような処理を行うことで、位相画像の血管領域をより正確に特定することができる。
【0052】
前述のように、第1断層像と位相画像は同じ検出信号に基づいて形成され、互いの画素の間の自然な対応付けが可能である。これを利用し、まず第1断層像を解析して血管領域を求め、この血管領域に含まれる画素に対応する画素からなる位相画像中の画像領域をその血管領域とする。これにより、位相画像の血管領域を高精度かつ高確度で特定することができる。
【0053】
(傾き算出部)
傾き算出部232は、第1断面と第2断面との間の距離(断面間距離)と、血管領域の特定結果とに基づいて、第1断面における注目血管Dbの傾きを算出する。なお、断面間距離は事前に決定される。その一例は、断面設定部237の説明において後述する。
【0054】
注目血管Dbの傾きを算出する理由を説明する。血流情報はドップラーOCTの手法で得られる。ドップラーシフトに寄与する血流の速度成分は、測定光LSの照射方向の成分である。したがって、たとえ血流速度が同じであっても、血流方向(つまり注目血管Dbの向き)と測定光LSとが成す角度に応じて測定光LSが受けるドップラーシフトが変化し、ひいては得られる血流情報も変わってしまう。このような不都合を避けるために、注目血管Dbの傾きを求め、これを血流速度の算出処理に反映させる必要がある。
【0055】
注目血管Dbの傾きの算出方法について
図6を参照しつつ説明する。符号G0は第1断面C0における第1断層像を示し、符号G1は第2断面C1における第2断層像を示す。また、符号V0は第1断層像G0における血管領域を示し、符号V1は第2断層像G1における血管領域を示す。
図6において、z座標軸は紙面下方向を向いており、これは測定光LSの照射方向と実質的に一致するものとする。また、断面間距離をdで示す。
【0056】
傾き算出部232は、2つの血管領域V0及びV1の位置関係に基づいて、第1断面C0における注目血管Dbの傾きAを算出する。この位置関係は、たとえば2つの血管領域V0及びV1を結ぶことによって得られる。より具体的には、傾き算出部232は、2つの血管領域V0及びV1のそれぞれの特徴位置を特定し、特定された2つの特徴位置を線分で結ぶ。この特徴位置としては、中心位置、重心位置、最上部(z座標値が最小の位置)、最下部(z座標値が最大の位置)などがある。
【0057】
更に、傾き算出部232は、2つの特徴位置を結ぶ線分に基づいて傾きAを算出する。より具体的には、傾き算出部232は、第1断面C0の特徴位置と第2断面C1の特徴位置とを結ぶ線分の傾きを算出し、この算出値を傾きAとして設定する。なお、断面間距離dは、線分を求める処理において、2つの断層像G0及びG1をxyz座標系に埋め込むときに用いられる。
【0058】
この例では、傾きの値を1つ求めているが、血管領域V0中の2以上の位置(又は領域)についてそれぞれ傾きを求めるようにしてもよい。この場合、得られた2以上の傾きの値を別々に用いることもできるし、これら傾きの値から統計的に得られる1つの値(たとえば平均値)を傾きAとして用いることもできる。
【0059】
(血流情報生成部)
血流情報生成部233は、位相画像と注目血管Dbの傾きAとに基づいて、注目血管Dbに関する血流情報を生成する。以下、この処理を実行するための構成の一例を説明する。前述のように、血流情報生成部233には、血流速度算出部234と、血管径算出部235と、血流量算出部236とが設けられている。
【0060】
(血流速度算出部)
血流速度算出部234は、位相画像(位相差の経時的変化)と注目血管Dbの傾きAとに基づいて、注目血管Db内を流れる血液の第1断面C0における血流速度を算出する。この算出対象は、或る時点における血流速度でもよいし、血流速度の経時的変化(血流速度変化情報)でもよい。前者の場合、たとえば心電図の所定の時相(たとえばR波の時相)における血流速度を選択的に取得することが可能である。また、後者における時間の範囲は、第1断面C0を走査した時間の全体又は任意の一部である。
【0061】
血流速度変化情報が得られた場合、血流速度算出部234は、当該時間の範囲における血流速度の統計値を算出することができる。この統計値としては、平均値、標準偏差、分散、中央値、最大値、最小値、極大値、極小値などがある。また、血流速度の値についてのヒストグラムを作成することもできる。
【0062】
血流速度算出部234は、前述のようにドップラーOCTの手法を用いて血流速度を算出する。このとき、傾き算出部232により算出された第1断面C0における注目血管Dbの傾きAが考慮される。具体的には、血流速度算出部234は、血流速度を求めるために次式を用いる。
【0064】
ここで:
Δfは、測定光LSの散乱光が受けるドップラーシフトを表す;
nは、媒質の屈折率を表す;
vは、媒質の流速(血流速度)を表す;
θは、測定光LSの照射方向と媒質の流れベクトルとが成す角度を表す;
λは、測定光LSの中心波長を表す。
【0065】
この実施形態では、nとλは既知であり、Δfは位相差の経時的変化から得られ、θは傾きAから得られる(又はθは傾きAとして得られる)。これらの値を上記の式に代入することにより、血流速度vが算出される。
【0066】
なお、パラメータの経時的変化を考慮すると、ドップラーシフトΔf=Δf(t)、及び、角度θ=θ(t)と表される。ここでtは時間を表す変数である。血流速度算出部234は、次式を用いることにより、任意の時間tにおける血流速度v(t)を求めたり、血流速度v(t)の経時的変化を求めたりすることができる。
【0068】
(血管径算出部)
血管径算出部235は、第1断面C0における注目血管Dbの径を算出する。この算出方法の例として、眼底像を用いた第1の算出方法と、断層像を用いた第2の算出方法がある。
【0069】
第1の算出方法が適用される場合、第1断面C0の位置を含む眼底Efの部位の撮影があらかじめ行われる。それにより得られる眼底像は、観察画像(のフレーム)でもよいし、撮影画像でもよい。撮影画像がカラー画像である場合には、これを構成する画像(たとえばレッドフリー画像)を用いてもよい。
【0070】
血管径算出部235は、撮影画角(撮影倍率)、ワーキングディスタンス、眼球光学系の情報など、画像上のスケールと実空間でのスケールとの関係を決定する各種ファクターに基づいて、眼底像におけるスケールを設定する。このスケールは実空間における長さを表す。具体例として、このスケールは、隣接する画素の間隔と、実空間におけるスケールとを対応付けたものである(たとえば画素の間隔=10μm)。なお、上記ファクターの様々な値と、実空間でのスケールとの関係をあらかじめ算出し、この関係をテーブル形式やグラフ形式で表現した情報を記憶しておくことも可能である。この場合、血管径算出部235は、上記ファクターに対応するスケールを選択的に適用する。
【0071】
更に、血管径算出部235は、このスケールと血管領域V0に含まれる画素とに基づいて、第1断面C0における注目血管Dbの径、つまり血管領域V0の径を算出する。具体例として、血管径算出部235は、血管領域V0の様々な方向の径の最大値や平均値を求める。また、血管領域235は、血管領域V0の輪郭を円近似又は楕円近似し、その円又は楕円の径を求めることができる。なお、血管径が決まれば血管領域V0の面積を(実質的に)決定することができるので(つまり両者を実質的に一対一に対応付けることができるので)、血管径を求める代わりに当該面積を算出するようにしてもよい。
【0072】
第2の算出方法について説明する。第2の算出方法では、第1断面C0における眼底Efの断層像が用いられる。この断層像は、第1断層像でもよいし、位相画像でもよいし、これらとは別個に取得されたものでもよい。
【0073】
この断層像におけるスケールは、測定光LSの走査態様に応じて決定される。この実施形態では、
図5に示すように第1断面C0を走査する。この第1断面の長さは、ワーキングディスタンス、眼球光学系の情報など、画像上のスケールと実空間でのスケールとの関係を決定する各種ファクターに基づいて決定される。血管径算出部235は、たとえば、この長さに基づいて隣接する画素の間隔を求め、第1の算出方法と同様にして第1断面C0における注目血管Dbの径を算出する。血管径についても、その経時的変化を求めることが可能である。
【0074】
(血流量算出部)
血流量算出部236は、血流速度の算出結果と血管径の算出結果とに基づいて、注目血管Db内を流れる血液の流量を算出する。この処理の一例を以下に説明する。
【0075】
血管内における血流がハーゲン・ポアズイユ流(Hagen−Poiseuille flow)と仮定する。また、血管径をwとし、血流速度の最大値をVmとすると、血流量Qは次式で表される。
【0077】
血流量算出部236は、血管径算出部235による血管径の算出結果wと、血流速度算出部234による血流速度の算出結果に基づく最大値Vmとを、この数式に代入することにより、目的の血流量Qを算出する。他の方法として、血流速度の経時的変化と血管径(その経時的変化)との積(又は積分値)を時間で積分することによって血流量を算出することができる。なお、血流量の単位は、たとえばμL/minである。
【0078】
(断面設定部)
主制御部211は、表示部241に眼底像を表示させる。この眼底像は観察画像でも撮影画像でもよい。また、この眼底像は撮影画像を構成する画像であってもよい。ユーザは、操作部242を操作することで、表示された眼底像に第1断面C0を指定する。断面設定部237は、指定された第1断面C0と、この眼底像とに基づいて、第2断面C1を設定する。なお、前述のように、第1断面COは所望の注目血管Dbを横切るように指定される。
【0079】
第1断面C0を眼底像に指定する操作は、たとえばポインティングデバイスを用いて行われる。また、表示部241がタッチパネルの場合、ユーザは、表示された眼底像の所望の位置に触れることで第1断面C0を指定することができる。この場合において、第1断面C0のパラメータ(向き、長さ等)は、手動又は自動で設定される。
【0080】
手動の場合の例として、パラメータを設定するための所定のインターフェイスを用いることができる。このインターフェイスは、スイッチ等のハードウェアでもよいし、グラフィカルユーザインターフェイス(GUI)等のソフトウェアでもよい。
【0081】
自動の場合の例として、断面設定部237は、ユーザが眼底像に指定した位置に基づいてパラメータを設定する。長さの自動設定は、あらかじめ決められた値を適用してもよいし、指定位置及びその近傍の血管の位置を考慮してもよい。前者の値は、たとえば、所定の注目血管とその近傍の血管との間の一般的な距離に基づいて指定される。この距離の情報は、臨床データに基づいて生成できる。後者の場合も同様である。いずれの場合においても、第1断面C0の長さは、注目血管Dbを横切り、かつそれ以外の血管(特に太い血管)を横切らないように設定される。
【0082】
第1断面C0の向きの自動設定については、あらかじめ決められた向きを適用してもよいし、注目血管Dbの向きを考慮してもよい。前者の場合、所定の注目血管の各位置における傾きを表す情報をあらかじめ生成し、これを参照する。この情報は、臨床データに基づき生成できる。後者の場合、指定位置における注目血管Dbの走行方向を求め、この走行方向に基づいて設定される。この走行方向を求める処理は、たとえば注目血管Dbの細線化処理を用いて行われる。なお、いずれの場合においても、第1断面C0の向きは、走行方向に直交するように設定されることが望ましい。
【0083】
次に第2断面C1を設定する処理について説明する。断面設定部237は、第1断面C0から所定距離だけ離れた位置に第2断面C1を設定する。この距離は、たとえば100μmに設定される。この距離の特定は、たとえば前述のようにして行われる。また、第2断面C1の長さ及び/又は向きは、第1断面C0の場合と同様にして設定される。
【0084】
なお、この実施形態では、眼底像に基づいて断面C0及びC1(つまり測定光LSの走査位置)が設定される。そのためには眼底像を走査位置との間を対応付ける必要がある。この対応付けは、この実施形態のように、眼底撮影用の光学系とOCT計測用の光学系とが互いの光路の一部を共有していることが望ましい。このように同軸構成とすることにより、この光軸を基準として眼底像中の位置と走査位置とを対応付けることができる。ここで、この対応付けにおいて、眼底像の表示倍率(いわゆる光学ズームとデジタルズームの少なくとも一方を含む)を考慮してもよい。
【0085】
このような同軸構成でない場合においては、眼底像と、OCT計測で得られるプロジェクション画像とに基づいて、眼底像と走査位置との対応付けを行うことができる。なお、プロジェクション画像とは、3次元スキャン(ラスタースキャン)により得られる3次元画像を深度方向(z方向)に積算して得られる、眼底Efの表面の形態を表す画像である。このようなプロジェクション画像を用いることにより、眼底像とプロジェクション画像との間の位置を、たとえば画像相関等を用いて対応付け、この対応付けを用いて眼底像と走査位置とを対応付けることができる。ただし、被検眼Eの眼球運動(固視微動等)の影響を考慮すると、実質的にタイムラグなく双方の撮影が行える同軸構成の方が望ましいと考えられる。
【0086】
以上のように機能する画像処理部230は、たとえば、前述のマイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ、回路基板等を含んで構成される。ハードディスクドライブ等の記憶装置には、上記機能をマイクロプロセッサに実行させるコンピュータプログラムが予め格納されている。
【0087】
(ユーザインターフェイス)
ユーザインターフェイス240には、表示部241と操作部242とが含まれる。表示部241は、前述した演算制御ユニット200の表示デバイスや表示装置3を含んで構成される。操作部242は、前述した演算制御ユニット200の操作デバイスを含んで構成される。操作部242には、血流計測装置1の筐体や外部に設けられた各種のボタンやキーが含まれていてもよい。たとえば眼底カメラユニット2が従来の眼底カメラと同様の筺体を有する場合、操作部242は、この筺体に設けられたジョイスティックや操作パネル等を含んでいてもよい。また、表示部241は、眼底カメラユニット2の筺体に設けられたタッチパネルなどの各種表示デバイスを含んでいてもよい。
【0088】
なお、表示部241と操作部242は、それぞれ個別のデバイスとして構成される必要はない。たとえばタッチパネルのように、表示機能と操作機能とが一体化されたデバイスを用いることも可能である。その場合、操作部242は、このタッチパネルとコンピュータプログラムとを含んで構成される。操作部242に対する操作内容は、電気信号として制御部210に入力される。また、表示部241に表示されたGUIと、操作部242とを用いて、操作や情報入力を行うようにしてもよい。
【0089】
[動作]
血流計測装置1の動作について説明する。
図7は、血流計測装置1の動作の一例を表す。
【0090】
(S1:計測準備)
OCT計測の準備として、患者IDの入力、この実施形態の動作モード(血流計測モード)の選択指定などを行う。続いて、アライメント及びフォーカシングが実行される。加えて、トラッキングを開始してもよい。また、表示部241には眼底像(観察画像、撮影画像、又は撮影画像を構成する画像)が表示される。
【0091】
(S2:計測位置の指定)
次に、ユーザは、表示された眼底像に対して、血流を計測する位置を指定する。ここで指定されるのは第1断面である。第1断面の指定方法については前述した。なお、眼底Efの特徴部位(視神経乳頭等)を基準として第1断面を自動で指定することも可能である。この処理は、たとえば、特徴部位を特定する処理と、注目血管を特定する処理と、特徴部位から所定距離だけ離れ、かつ注目血管に交差するように第1断面を設定する処理とを含む。この一連の処理は断面設定部237により実行される。
【0092】
(S3:計測位置近傍の断面の設定)
第1断面が指定されると、断面設定部237が、この第1断面に基づいて第2断面を設定する。
【0093】
(S4:OCT計測の最適化)
主制御部211は、光源ユニット101、光スキャナ42等を制御して予備的なOCT計測を実行する。この予備的OCT計測は、第1断面、第2断面、又はこれら以外の断面に対して実行される。この予備的OCTにより得られる画像が好適であるか判定する。この判定は、ユーザが目視で行なってもよいし、血流計測装置1が自動で行なってもよい。
【0094】
目視で行う場合、主制御部211がOCT画像を表示部241に表示させる。ユーザは、OCT画像における所定組織(血管、網膜表面等)の表示位置や画質などを評価する。好適な画像が得らない場合、ユーザは、計測条件の調整を行う。たとえば、画像の表示位置が適当でない場合、光路長変更部41を動作させて測定光LSの光路長を変更する。また、画質が適当でない場合、光減衰器105や偏波調整器106を調整する。
【0095】
自動で行う場合、所定組織の表示位置や画質などを既定の評価基準を参照して評価し、その評価結果に基づいて手動の場合と同様にして計測条件の調整を行う。
【0096】
(S5:OCT計測の実行)
主制御部211は、所定のトリガーを受けてOCT計測(血流計測)を開始する。本動作例で実行される処理の概要を
図8に示す。なお、本ステップのOCT計測が実行されている間、ステップS1で開始されたトラッキングが継続されていることが望ましい。それにより、OCT計測中に被検眼Eが動いたとしても実質的に同じ位置(第1断面及び第2断面)を走査することができる。
【0097】
本動作例では、血流が計測される第1断面をOCT計測する第1走査J1と、第1断面の近傍の第2断面をOCT計測する第2走査J2とが交互に実行される。
図8に示す例では、単一の第1走査(第1断面の1回のBスキャン)と、単一の第2走査(第2断面の1回のBスキャン)とが交互に実行される。それにより、第1回目の第1走査で取得されたデータと第1回目の第2走査で得られたデータとの対[J1,J2]
1、第2回目の第1走査で取得されたデータと第2回目の第2走査で得られたデータとの対[J1,J2]
2、・・・、第n回目の第1走査で取得されたデータと第n回目の第2走査で得られたデータとの対[J1,J2]
nが得られる。データ対[J1,J2]
i(i=1〜n)は、それぞれ時間t
i(i=1〜n)に対応する。各時間t
i(i=1〜n)としては、たとえば、データ対[J1,J2]
i(i=1〜n)を取得するためのOCT計測が実行された期間内の任意の時刻が割り当てられる。なお、1回以上の第1走査と1回以上の第2走査とを交互に実行するようにしてもよい。
【0098】
(S6:画像の形成)
画像形成部220は、ステップS5で取得されたデータに基づいて画像を形成する。本動作例では、断層像形成部221は、各データ対[J1,J2]
i(i=1〜n)に基づいて、第1断面を表す第1断層像T1
i(i=1〜n)と、第2断面を表す第2断層像T2
i(i=1〜n)とを形成する。第1断層像T1
i及び第2断層像T2
i(i=1〜n)は、時間t
i(i=1〜n)に対応する。
【0099】
更に、位相画像形成部222は、各データ対[J1,J2]
i(i=1〜n−1)において第1断面に関するデータ[J1]
i(i=1〜n−1)と、その次のデータ対[J1,J2]
i+1(i=1〜n−1)において第1断面に関するデータ[J1]
i+1(i=1〜n−1)とに基づいて、第1断面を表す位相画像P
i(i=1〜n−1)を形成する。位相画像P
i(i=1〜n−1)は、時間t
i(i=1〜n−1)に対応する。なお、第2断面に関するデータ[J2]
i(i=1〜n)に基づいて同様の処理を実行することにより、第2断面の位相画像を形成することも可能である。
【0100】
本動作例では時間t
nに対応する位相画像P
nが作成されていないが、たとえば第1断面に対する第n+1回目のOCT計測を実行することにより位相画像P
nを作成することができる。或いは、位相画像P
n−1を複製して位相画像P
nとしてもよい。また、時間t
nに対応する第1断層像T1
n及び第2断層像T2
nを形成しない動作例を適用することも可能である。また、n個のデータ対[J1,J2]
i(i=1〜n)のうち任意の1つ(又は2つ以上)の代表データ対に基づいて、代表的な一対(又は二対以上)の第1断層像及び第2断層像を形成するようにしてもよい。
【0101】
(S7:血管領域の特定)
血管領域特定部231は、第1断層像T1
i、第2断層像T2
i及び位相画像P
iのそれぞれについて、注目血管に相当する血管領域を特定する。
【0102】
(S8:注目血管の傾きの算出)
傾き算出部232は、ステップS7で特定された血管領域と、第1断面と第2断面との間の距離(断面間距離)とに基づいて、第1断面における注目血管の傾きを算出する。この処理の具体例として、傾き算出部232は、各時間t
i(i=1〜n)における第1断層像T1
i及び第2断層像T2
i(i=1〜n)から特定された2つの血管領域と、断面間距離とに基づいて、当該時間t
i(i=1〜n)における注目血管の傾きA
i(i=1〜n)を算出することができる。なお、第1断層像T1
iの代わりに位相画像P
iから特定された血管領域を利用することができる。また、各時間t
i(i=1〜n)に対応する傾きA
i(i=1〜n)を求める代わりに、1以上の代表的な傾きを求めるようにしてもよい。たとえば、時間t
1〜t
nの期間を1以上の部分期間に分割し、各部分期間に含まれる複数の傾きA
iから統計値(平均値、中央値等)を算出し、この統計値を当該部分期間における注目血管の傾きとして用いることができる。
【0103】
(S9:血流速度の算出)
血流速度算出部234は、位相画像P
i(i=1〜n−1)として得られる位相差の経時的変化と、ステップS8で算出された注目血管の傾きA
i(i=1〜n)とに基づいて、注目血管内を流れる血液の第1断面における血流速度v
i(i=1〜n)を算出する。血流速度v
i(i=1〜n)は、それぞれ時間t
i(i=1〜n)に対応する。なお、位相画像P
nが形成されない場合には血流速度v
nは算出されなくてよい。
【0104】
(S10:血管径の算出)
血管径算出部235は、第1断層像T1
i(i=1〜n)(又はP
i(i=1〜n−1))に基づいて、第1断面における注目血管の径w
i(i=1〜n)を算出する。なお、各時間t
i(i=1〜n)に対応する血管径w
i(i=1〜n)を求める代わりに、1以上の代表的な血管径を求めるようにしてもよい。また、第1断層像の代わりに眼底像を解析して血管径を求めてもよい。なお、第1断面の血管径に加えて第2断面の血管径も求めるように構成することができる。この場合、一般に、第1断面の血管径と第2断面の血管径とは異なる。
【0105】
(S11:血流量の算出)
血流量算出部236は、ステップS9で算出された血流速度と、ステップS10で算出された血管径とに基づいて、注目血管内を流れる血液の流量Q(μL/min)を算出する。
【0106】
(S12:計測結果の表示及び保存)
主制御部211は、ステップS9で算出された血流速度v
i、ステップS10で算出された血管径w
i、ステップS11で算出された血流量Q等を含む血流情報を表示部241に表示させる。また、主制御部211は、ステップS1で入力された患者IDに関連付けて血流情報を記憶部212に記憶させる。以上で、本動作例に関する処理は終了となる。
【0107】
[効果]
実施形態に係る血流計測装置の効果について説明する。
【0108】
実施形態に係る血流計測装置は、走査部と、画像形成部と、血管領域特定部と、傾き算出部と、血流情報生成部とを備える。
【0109】
走査部は、OCTを用いて、生体の注目血管に交差する第1断面を走査する第1走査と、注目血管に交差する第2断面を走査する第2走査とを交互に行う。本実施形態において、走査部は、OCTを実行するための光学系を少なくとも含む(たとえば、
図1に示す測定光LSの光路と、
図2に示す光学系とを参照)。
【0110】
画像形成部は、第1走査により取得されたデータに基づいて、第1断面における位相差の経時的変化を表す位相画像を少なくとも含む1以上の第1断面の画像を形成する。位相画像以外の第1断面の画像は、OCTにより取得されたデータから形成される任意の画像であってよい。その一例として、第1断面の形態(その経時的変化)を表す第1断層像がある。更に、画像形成部は、第2走査により取得されたデータに基づいて、第2断面の画像を形成する。第2断面の画像の例として、第2断面の形態(その経時的変化)を表す第2断層像がある。本実施形態において、画像形成部220が画像形成部として機能する。
【0111】
血管領域特定部は、画像形成部により形成された第1断面の画像において注目血管に相当する第1血管領域を特定する。更に、血管領域特定部は、第2断面の画像において注目血管に相当する第2血管領域を特定する。本実施形態において、血管領域特定部231が血管領域特定部として機能する。
【0112】
傾き算出部は、血管領域特定部により特定された第1血管領域及び第2血管領域に基づいて、第1断面における注目血管の傾きを算出する。本実施形態において、傾き算出部232が傾き算出部として機能する。
【0113】
血流情報生成部は、画像形成部により形成された位相画像と、傾き算出部により算出された注目血管の傾きとに基づいて、注目血管に関する血流情報を生成する。本実施形態において、血流情報生成部233が血流情報生成部として機能する。
【0114】
このような血流計測装置によれば、2つの断面を交互に計測し、それにより得られたデータに基づいて血管の傾きを求めて血流情報を取得することが可能である。これに対し、従来の技術においては、血管の傾きを推定するための計測とドップラーOCTとを別々に行ったり、2つの断面に対してドップラーOCTを行ったりすることで、血流情報を求めている。したがって、本実施形態によれば、従来よりも短時間で血流計測を実行することが可能である。また、本実施形態では、第1走査と第2走査とを交互に実行する構成(つまりこれらを並行して実行する構成)が採用されているので、対象の運動の影響を(ほとんど)受けることなく、信頼性の高い血流情報を取得することが可能である。
【0115】
実施形態において、傾き算出部は、注目血管の傾きの経時的変化(A
i(i=1〜n))を求めることができる。更に、血流情報生成部は、位相画像の一のフレーム(P
i)とそれに対応するタイミング(時間t
i)における傾き(A
i)とに基づいて、当該タイミング(時間t
i)における血流情報を生成することができる。この血流情報は、たとえば、血流速度v
i、血管径w
i及び血流量Qの少なくとも1つを含んでいてよい。
【0116】
より具体的には、傾き算出部は、一のタイミング(時間t
i)において実行された第1走査により取得されたデータ([J1]
i)と、当該第1走査の直前又は直後に実行された第2走査により取得されたデータ(たとえば[J2]
i−1又は[J2]
i)とに基づいて、当該一のタイミング(時間t
i)における注目血管の傾き(A
i)を算出することができる。更に、血流情報生成部は、当該一のタイミング(時間t
i)に対応する位相画像のフレーム(P
i)と当該一のタイミングにおける注目血管の傾き(A
i)とに基づいて、当該一のタイミング(時間t
i)における血流情報を生成することができる。
【0117】
このような構成によれば、生体の運動等によって注目血管の傾きが変化する場合であっても、各タイミングにおける傾きの算出結果から当該タイミングにおける血流情報を取得することが可能である。それにより、取得される血流情報の信頼性の更なる向上を図ることが可能である。なお、このような作用・効果は、第1走査と第2走査とを交互に実行することにより達成される。
【0118】
実施形態において、血流情報生成部は、位相画像と注目血管の傾きとに基づいて、注目血管内を流れる血液の第1断面における血流速度の経時的変化(v
i(i=1〜n))を求める血流速度算出部(234)を含んでいてよい。この構成によれば、血流情報として少なくとも血流速度を取得することが可能である。
【0119】
更に、実施形態において、血流情報生成部は、血管径算出部(235)と血流量算出部(236)とを含んでいてよい。血管径算出部は、血管領域特定部により特定された第1血管領域に基づいて、第1断面における注目血管の径(w
i)を算出する。血流量算出部は、血流速度の経時的変化(v
i(i=1〜n))と注目血管の径(w
i)とに基づいて、注目血管内を流れる血液の流量(Q)を算出する。この構成によれば、血流情報として血流量を取得することが可能である。
【0120】
加えて、血管径算出部は、注目血管の径の経時的変化(w
i(i=1〜n))を求めることができる。この場合、血流量算出部は、血流速度の経時的変化(v
i(i=1〜n))と、注目血管の径の経時的変化(w
i(i=1〜n))とに基づいて、注目血管内を流れる血液の流量(Q)を算出することができる。この構成によれば、算出される血流量の信頼性の向上を図ることが可能である。
【0121】
なお、注目血管の個数は1つには限定されず、2つ以上であってもよい。また、一対の第1断面及び第2断面に2以上の注目血管が含まれていてもよい。2以上の注目血管が考慮される場合、それぞれの注目血管について本実施形態の処理が実行される。それにより、それぞれの注目血管に関する血流情報(血管の傾き、血管径、血流速度、血流量等)が取得される。
【0122】
[変形例]
以上に説明した構成は、この発明を好適に実施するための一例に過ぎない。よって、この発明の要旨の範囲内における任意の変形(省略、置換、付加等)を適宜に施すことが可能である。
【0123】
血流量の算出方法の変形例を説明する。この変形例では、血流速度算出部234は、位相画像の血管領域に含まれる各画素について、血流速度の経時的変化を表す情報(血流速度変化情報)を生成する。この処理は、たとえば、時系列に沿う複数の位相画像の画素を画素位置毎に対応付けする処理と、各画素位置に対応する時系列に沿う複数の画素に基づいて血流速度変化情報を生成する処理とを含むように構成できる。この処理により、第1断面の血管領域における血流速度を位置ごとに求めることができる。
【0124】
血流量算出部236は、血管領域に含まれる各画素の血流速度変化情報を時系列に沿って積分することにより、各画素についての血流量を算出する。この処理により、第1断面の血管領域における血流量を位置ごとに求めることができる。
【0125】
更に、血流量算出部236は、これら画素についての血流量を加算することにより、注目血管を流れる血液の流量を算出することができる。この処理により、前段の処理で求めた位置ごとの血流量が加算され、第1断面の血管領域を流れる血液の総量が得られる。
【0126】
上記の実施形態においては、光路長変更部41の位置を変更することにより、測定光LSの光路と参照光LRの光路との光路長差を変更しているが、この光路長差を変更する手法はこれに限定されるものではない。たとえば、参照光の光路に反射ミラー(参照ミラー)を配置し、この参照ミラーを参照光の進行方向に移動させて参照光の光路長を変更することによって、当該光路長差を変更することが可能である。また、被検眼Eに対して眼底カメラユニット2やOCTユニット100を移動させて測定光LSの光路長を変更することにより当該光路長差を変更するようにしてもよい。また、特に被測定物体が生体部位でない場合などには、被測定物体を深度方向(z方向)に移動させることにより光路長差を変更することも可能である。