【実施例】
【0013】
図1は、1つの温度センサを備えた従来技術のスマートフォンの熱的等価回路図である。
【0014】
温度振舞いをモデリングするためには、熱的ネットワークと電気的ネットワークとの類似性を利用することができる。温度センサおよび熱源を有する1次の熱ネットワークについては、
図1に示した等価回路図になる。
【0015】
【数1】
【0016】
数式(1)を用いて周辺温度を求めることができる。また、推定した温度の「正確さの表示」も示すことができる。
【0017】
数式(1)を用いて周辺温度を求めても、全ての動作モードにおいて所望の結果が得られるわけではない。その原因は、C
1R
1=τがスマートフォンの実際の動作状態に依存し、一定ではないからである。時定数τが誤った値をとると、周辺温度の推定値が不正確になる。このことはとりわけ、温度が急激に変化した後に推定された周辺温度の過振動となって現れる。測定により、周辺温度の急激な変化の後にセンサにより測定される温度が複数の段階に分けられることが分かる。
【0018】
最初の段階はセンサの加熱段階である。この加熱は急速に進行し、これによりτは小さくなる。
【0019】
第2の段階は、前記センサがはんだ付けされたボードの加熱段階である。この加熱はやや緩慢に進行するので、τは中程度になる。
【0020】
第3の段階は電話機全体の加熱段階である。これは最も緩慢に進行するので、τは大きくなる。
【0021】
これら複数の異なる段階は、
図4から明らかである。過振動はローパスにより減衰させることができる。この手法の欠点は、この減衰に応じてシステムが緩慢になってしまうことである。このことにより、推定温度が求められる過渡振動時間が長くなる。この作用はユーザに気づかれて認識されるという欠点になる。
【0022】
図2は、3つの温度センサを備えた従来技術のスマートフォンの熱的等価回路図である。
【0023】
温度振舞いは、複数の内蔵温度センサTg1,Tg2,Tg3、周辺に対する複数の異なる熱抵抗R1,R2,R3ないしは熱容量C1,C2,C3と、各温度測定点間に1つずつある抵抗R12,R23を用いて、
図2に示されているようにモデリングすることができる。ここでは、Tg1が、低い熱抵抗R1および低い熱容量C1を有するセンサの温度に相当すると仮定する。さらに、Tg2は、前記温度センサがはんだ付けされたボードの温度に相当し、このボードは、中程度の熱抵抗R2および中程度の容量C2を有する。最後に、Tg3は、前記センサを備えたボードを包含する電話機の温度に相当し、この電話機は高い熱抵抗R3と高い熱容量C3とを有する。
【0024】
ここで温度の急激な変化をシミュレートすると、上述のような、センサの温度特性曲線における複数の異なる段階を観察することができる。
【0025】
複数の内蔵温度センサを用いることにより、周辺温度の推定の改善を支援することができる。というのも、複数の温度センサにより上述の複数の異なる加熱段階を測定できるからである。しかし、経済上の理由により、1つの機器において用いることができる、相応の品質を有する温度センサの数は限られている。一例として、加熱または冷却の複数の異なる段階を
図1において説明する。
【0026】
温度特性曲線における複数の異なる段階は、とりわけ、それぞれ異なる動作状態である以下の現象で観察される。それは、スマートフォンの正常使用時の自己加熱段階、バッテリーの充電段階、および、周辺温度の変化時であり、周辺温度の変化はたとえば、別の部屋に移ったとき、屋内に入ったとき、または、ズボンのポケットから機器を取り出したとき等の急激な周辺温度変化である。このような複数の異なる動作状態に起因して、複数の温度センサが組み込まれていても、周辺温度を求めるのは困難になる。
【0027】
本発明の中心的思想は、変動的パラメータ適応調整である。この変動的パラメータ適応調整τ(t)により、温度特性曲線の複数の異なる段階をモデリングすることができる。このようにして、少数の内蔵温度センサでも周辺温度測定を改善することができ、特に、周辺温度を1つの内蔵温度センサだけでも測定することが可能になる。これにより、推定温度特性曲線における過渡振動も回避することができる。
【0028】
したがって、周辺温度に関しては、数式2にしたがって以下のように求められる:
【数2】
【0029】
変動的パラメータ適応調整はさらに、動作状態にも依存する。したがって本発明は、温度センサデータおよび機器の消費電力の解析により、目下の動作状態をアクティブに識別することも含む。
【0030】
温度予測の正確さの推定は、動作状態と時間とに依存する。正確さの推定はさらに、温度センサデータおよびスマートフォンの消費電力にも基づいて行われる。
【0031】
図3Aおよび3Bは、移動用機器の周辺温度を測定するための本発明の方法を2つの実施例で示す図である。この方法は周辺温度推定を含み、
図3Aには、当該方法が少なくとも3つのステップ10,20および30に分割されるのが示されている。前記方法の開始時には、第1のステップ10において、たとえばスマートフォン等の移動用機器の動作状態を検出する。すなわち、移動用機器がどのような熱的状態にあるかを特定する。
【0032】
この熱的状態は、温度センサの実際の熱的状態および自己加熱と、1つまたは複数の温度センサの測定値とに基づいて検出される。
【0033】
急激な温度変化を検出するための有利な実施形態は、測定された温度の2階時間微分と閾値thrとを比較することであることが判明した。
【0034】
【数3】
【0035】
有利には、以下の式により、「温度変化段階3」(電話機全体の加熱→緩慢、大きいτ)を検出することができる。
【0036】
【数4】
【0037】
第2のステップ20において、動作状態と、現在の動作状態に留まった時間(現在の動作状態を検出した時間の長さ)と、自己加熱と、温度測定値とに基づいて、パラメータ(τ)を推定する。この推定に際しては、上述の、複数の異なる時定数を有する内部温度曲線をモデリングできるという作用を考慮する。それと並行して、たとえば動作状態および温度測定値、さらに充電電流等の入力パラメータに基づいて、後に計算される周辺温度の正確さ推定を行う。推定周辺温度の正確さ表示は、推定した周辺温度の信頼領域を表すので、周辺温度を使用するに際して非常に役立つ。
【0038】
その後、第3のステップ30において、推定した時定数を用いて、数式1に従って周辺温度を計算する。
【0039】
次に、オプションとしてステップ40において、
図3Bに示されているように周辺温度のフィルタリングを行うことができる。このフィルタリングはたとえば、2次の IIR フィルタ等のローパスフィルタリングを用いて行われる。
【0040】
図4は、移動用機器の推定周辺温度100と、内蔵センサの測定温度200とを示す図である。上方のグラフには、参照温度 Umgebung として実際の周辺温度を示している。これは、過振動を伴う階段関数である。というのも、移動用機器は把持されて、低温の環境から温暖な環境へ持ち込まれたからである。上方のグラフにはさらに、移動用機器の温度が電話機温度として示されている。この曲線は、温暖な環境においてまず最初に迅速に上昇する。温度上昇が迅速であるということは、τ(t)が小さいということである。その後、温度上昇は平坦になる。このことは、τ(t)が連続的に上昇することを意味する。電話機温度は時間的推移の中で、周辺温度に近づいていく。ここで、温度変化は緩慢にしか行われなくなる。このことは、時定数τ(t)が大きくなることを意味する。下方のグラフには、変動的パラメータτ(t)の推移が時間を横軸として相応に示されている。最後に、上方のグラフには、変動的パラメータを用いて計算した周辺温度を示している。これは、大部分の期間において、実際の温度に非常に良好に一致している。