(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6469444
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】生物医学装置用のチタン合金を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/18 20060101AFI20190204BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20190204BHJP
C22F 1/02 20060101ALN20190204BHJP
A61L 31/00 20060101ALN20190204BHJP
【FI】
C22F1/18 H
!C22F1/00 613
!C22F1/00 630C
!C22F1/00 630D
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 630L
!C22F1/00 640A
!C22F1/00 675
!C22F1/00 681
!C22F1/00 682
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 686A
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/00 692A
!C22F1/02
!A61L31/00
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-540538(P2014-540538)
(86)(22)【出願日】2012年11月7日
(65)【公表番号】特表2015-503025(P2015-503025A)
(43)【公表日】2015年1月29日
(86)【国際出願番号】FR2012052572
(87)【国際公開番号】WO2013068691
(87)【国際公開日】20130516
【審査請求日】2015年10月2日
(31)【優先権主張番号】1160281
(32)【優先日】2011年11月10日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】593196470
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル デ シアンス アプリケ ドゥ レンヌ
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DES SCIENCES APPLIQUEES DE RENNES
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100122736
【弁理士】
【氏名又は名称】小國 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100122747
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 洋子
(74)【代理人】
【識別番号】100132540
【弁理士】
【氏名又は名称】生川 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】グロリアン,ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ゴルダン,ドイナ
【審査官】
相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−036273(JP,A)
【文献】
特開2006−089825(JP,A)
【文献】
特開2006−089826(JP,A)
【文献】
特開2006−314525(JP,A)
【文献】
特表2007−520630(JP,A)
【文献】
特開2006−097115(JP,A)
【文献】
特開2003−293058(JP,A)
【文献】
米国特許第05320686(US,A)
【文献】
特開平06−073475(JP,A)
【文献】
特表2006−510426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/18
C22C 14/00
C23C 8/24
A61C 1/00− 5/00
A61C 5/40− 5/68
A61C 5/90− 7/36
A61C 19/00−19/10
A61G 15/14−15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物医学用途のための超弾性及び/又は形状記憶性を有する、ニッケルを含まないチタン合金を製造する方法であって、
所要の前記合金を構成する様々な金属を真空融解させることによってインゴットを調製する段階と、
前記インゴットの温度を上げ、十分な均質化を可能にする期間、それをその温度で保持することからなる、900℃を超える第一の温度でアニーリングすることによって前記インゴットを真空均質化する段階と、
第一のクエンチング段階と、
周囲温度における圧延、絞り、機械加工などによる機械的成形段階と、
前記温度を第二の所要温度まで上げ、その温度で一定期間、保持することからなる、βトランザス温度を超える温度でのβ相における再溶解のための熱処理段階と、
第二のクエンチング段階と
を連続的に含み、前記熱処理段階が、ガス雰囲気中で実施され、また、前記ガスとの反応を通して表面処理を適用して、窒化物、炭窒化物又は酸窒化物の塗膜を表面上に均一に形成する、窒化として知られる段階を含む方法。
【請求項2】
前記窒化段階を、600℃〜1050℃の範囲の温度で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記温度を、800℃〜1050℃の範囲の温度で実施する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記窒化段階を窒素雰囲気中で実施する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記均質化段階の前記アニーリング温度で保持する期間が12〜20時間の範囲である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記期間が16時間である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記窒化段階を再結晶段階と同時に組み合わせる、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記均質化段階を900℃超の温度で実施する、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記第一及び第二のクエンチングを水又は空気で実施する、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学分野において使用される装置、たとえば歯内ファイル、アーク、ワイヤ及び歯科矯正ばね、歯科インプラント、心臓血管もしくは肺ステント、心臓血管手術のためのガイドワイヤ及びカテーテル、整形外科手術のためのステープル及び人工関節を製造するための、超弾性及び/又は形状記憶性を有するチタ
ン合金を製造する方法に関する。
【0002】
本発明はまた、本方法を使用して得られる合金及びそのような合金を配合された生物医学装置に関する。
【背景技術】
【0003】
生物医学分野において、例として先に挙げたような装置及び要素は、第一に、人体の一部(たとえば歯科矯正用途の一部として、歯など)に作用を加える目的を考慮した機械的観点から、そして第二に、装置と人体又は器官の一部との接触に関する反応又は結果を回避又は最小化するための生物学的観点から、非常に様々な特性を有する必要がある。
【0004】
求められる、又は必要である技術的特性のいくつかとしては、可能な最大の回復性弾性範囲(超弾性)、低い剛性、優れた化学的生体適合性、高い耐腐食及び滅菌製品性、機械加工及び冷間加工の容易さならびに増大した硬さ及び耐表面摩耗性がある。
【0005】
公知のやり方で、一般には互いに相容れないこれらの制約を調和させることが試みられてきた。
【0006】
生物医学分野において現在使用されている超弾性及び/又は形状記憶合金はチタン−ニッケルタイプである。
【0007】
しかし、ニッケルは、その機械的性質、特に超弾性及び/又は形状記憶性の有用性にもかかわらず、体にとってアレルゲン性であり、炎症反応を招きうることが知られている。他にも、Ti−Ni合金は、並程度の機械加工性しか提供せず、歯内ファイルの早期破損を招き(たとえば、Oiknine M., Benizri J., REV. ODONT. STOMATO. 36 (2007) 109-123を参照)、冷間では成形しにくいときもある。
【0008】
これら公知の合金は、(立方)親β相が逆(斜方)α”マルテンサイト相に変態することによる応力誘起不安定化のせいで、超弾性を有する(Kim H. Y., Ikehara Y., et al, ACTA MATERIALIA 54 (2006) 2419-2429)。
【0009】
さらに、ニッケルフリーのチタ
ン合金(「ガンメタル」と呼ばれる。Saito T., Furuta T. et al, SCIENCE 300 (2003) 464-467)が公知であり、超弾性であると考えられている。理由は、応力下でマルテンサイト変態を示さないとしても、低い剛性及び非常に高い回復性弾性を有するからである。
【0010】
他にも、フランス国特許第2848810号、米国特許出願第2007/0137742号及び国際特許出願WO2005/093109号において、ニッケルフリーのチタ
ン合金が公知である。
【0011】
それにもかかわらず、従来技術において発案された合金は、機械的性質及び特に表面における生体適合性の両方の点で、すべての所要基準を全体として十分に満たしているわけではない。
【0012】
たとえば、生物学的適合性に関して、上記フランス国特許は、プラズマベースの技術を使用して窒化物を付着させることによる合金の表面処理を提供する。
【0013】
しかし、この公知の技術は十分ではない。プラズマ付着は、窒化物の均一な塗膜を付着させることができない。それは、容易にはアクセスできない特定の形状又はパーツ又は区域(たとえば凹部など)を有する装置又は要素の場合、有害な結果又は逆の結果をもたらす。
【0014】
さらに、このフランス国特許は、形状記憶及び/又は超弾性合金には適用されない方法を記載している。
【0015】
したがって、大部分の合金はチタン及びニッケルから製造されるが、最近、冷間で特に容易に変形可能である、ニッケルフリーのチタンから製造される超弾性合金が発案された。JOURNAL OF THE MECHANICAL BEHAVIOR OF BIOMEDICAL MATERIALS 3 (2010) 559-564における、Bertrand E.、Gloriant T.らによる記事「Synthesis and characterisation of a new superelastic Ti-25Ta-25Nb biomedical alloy」が、そのようなニッケルフリーのチタン合金を示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このように、本発明の方法は、上述のすべての機械的条件を満たし、さらには、完璧に生体適合性でありながらも表面硬さ、冷間加工及び機械加工の容易さならびに耐滅菌性に関して従来技術に対する改善である、超弾性及び/又は形状記憶性ならびに表面処理を有する生物医学用途のためのチタ
ン合金の製造を発案することにより、従来技術の課題を解決することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このために、本発明にしたがって、生物医学用途のための超弾性及び/又は形状記憶性を有する、ニッケルを含まないチタ
ン合金を製造する方法は、
所要の合金を構成する様々な金属を真空融解させることによってインゴットを調製する段階と、
インゴットの温度を上げ、十分な均質化を可能にする期間、それをその温度で保持することからなる、特に900℃を超える第一の温度でアニーリングすることによってインゴットを真空均質化する段階と、
第一のクエンチング段階と、
周囲温度における圧延、絞り、機械加工などによる機械的成形段階と、
温度を第二の所要の温度まで上げ、その温度で一定期間、保持することからなる、βトランザス温度を超える温度でのβ相における再溶解のための熱処理段階と、
第二のクエンチング段階と
を連続的に含み、前記熱処理段階が、ガス雰囲気中で実施され、また、前記ガスとの反応を通して表面処理を適用して、窒化物、炭窒化物又は酸窒化物の塗膜を表面上に均一に形成する、窒化として知られる段階を含む方法である。
【0018】
第一の工程中に得られるインゴットは、生物医学装置を製造する場合、数十グラムから数百グラムまで異なる質量を有する。
【0019】
好都合には、前記ガスは窒素である。
【0020】
このように、本発明の方法は、合金の機械的性質及び表面生体適合性を改善するために、表面処理工程(気相における窒化による)を取り入れる。
【0021】
窒化工程中、成形されたインゴットを収容装置の中に配置して、成形されたインゴットの凹部を含む全表面への、気相中での塗膜の付着を可能にするように配慮すること。そのためには、インゴットを、チェーンにより、ストーブを構成する収容装置の中央に吊す。
【0022】
第一及び第二のクエンチングは、所要の超弾性効果を達成するために、β相を周囲温度に保持するためのものである。合金の組成に依存して、クエンチングは水又は空
気で実施される。
【0023】
特定の合金組成の場合、融解段階が均質なインゴットの取得を直接もたらすことがあるため、均一化段階は任意選択である。均一化段階は900℃を超える温度で実施される。
【0024】
他に、βトラン
ザス温度が、合金の100%β相が存在することができる最低温度であることが知られている。この温度は、合金の組成に依存して、600℃〜1050℃の間で異なる。
【0025】
好ましくは、初期の用途に依存して厚さ数ミクロンから数十ミクロンまで異なる窒化物の表面塗膜を得るために、β相における再溶解と窒化(ガスが窒素である場合)との同時段階は、ガス雰囲気中、好ましくは窒素中、600℃〜1050℃、好ましくは800℃〜1050℃の範囲の温度で数時間実施される。
【0026】
均質化段階のアニーリング温度を保持する期間は、12〜20時間の範囲であり、好ましくは約16時間である。
【0027】
代替法として、窒化物塗膜(又は他のタイプの塗膜)は、
プラズマ、
イオン注入法、
カソードアーク、
レーザ、
PVD又はCVD法
の技術を使用して実施することもできる。
【0028】
使用される技術は、超弾性効果の源である合金のβ準安定ミクロ構造を変化させてはならない。
【0029】
好都合には、窒化段階は、再結晶段階と同時に組み合わされ、再結晶βミクロ構造の形成をもたらす。
【0030】
本発明は、第一に、上記方法によって得られるような合金に関し、第二に、前記合金を配合された生物医学用途のための装置に関する。
【0032】
以下は、原子%で表した本発明の合金のいくつかの組成である。
Ti
74Nb
26
Ti
72Nb
20Ta
10
Ti
74Nb
20Zr
6
Ti
76Nb
23N
Ti
78.5Nb
15Zr
2.5Sn
4
Ti
73.1Nb
23Ta
0.7Zr
2O
1.2
【0033】
このように、従来技術とは異なり、本発明の合金はニッケルを含有しない。
【0034】
本発明は、添付図面を参照することにより、例示的かつ非限定的な実施例の以下の詳細な説明からより良く理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の方法の様々な工程において合金インゴットが付される温度の変動を時間の関数として表すグラフである。
【
図2】Ti−25Ta−25Nb合金の例のコアのβ準安定ミクロ構造を示す、光学顕微鏡によって得られた顕微鏡写真である。
【
図3】光学顕微鏡を通して観察された、
図2の合金の窒化表面ミクロ構造の断面を示す。
【
図4】応力誘起α”マルテンサイト変態によるローディングとアンローディングとの間のヒステリシスの形成による窒化合金の超弾性を示す反復(連続ローディング/アンローディング)単軸引張り曲線を示す。
【
図5A】ピン・オン・ディスク型トライボメータによる、等しい荷重及びサイクル数のスクラッチ試験ののち、それぞれ非窒化(従来技術)サンプル及び窒化(本発明)サンプルの光学顕微鏡法によって得られた顕微鏡写真を示す。
【
図5B】ピン・オン・ディスク型トライボメータによる、等しい荷重及びサイクル数のスクラッチ試験ののち、それぞれ非窒化(従来技術)サンプル及び窒化(本発明)サンプルの光学顕微鏡法によって得られた顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の方法の連続工程を参照することにより、様々な化合物を含み、合金を形成するように意図されたインゴットの温度変動を時間の関数として表す曲線を示す
図1を参照することによって本発明を説明する。
【0037】
予備的工程(
図1には示さず)において、製造する合金の組成に含められる様々な量の金属を以下に定める割合で合わせる。金属の混合物を2000℃〜3000℃の温度で予備的融解処理に付す。好都合には、この予備的融解工程は、常温るつぼの中、磁気的半浮揚及び高周波数誘導ジェネレータを使用して実施される。また、従来技術又はフラッシュ焼結技術を使用してもよい。
【0038】
この予備段階中、異物元素による混入又は汚染又は汚濁のない均質な混合が達成されることを確かめることが重要である。それに関して、融解は、好ましくは、真空下又は不活性ガス(たとえばアルゴン)で制御された雰囲気中で実施される。
【0039】
インゴット、ひいてはその後の合金の組成に含められやすい様々な元素としては、
大部分又は最大部分として、チタン、
β安定化元素として知られる他の金属、たとえばタンタル、ニオブ、モリブデン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、鉄、クロム、タングステン、及びおそらくは
少量で加えられると超弾性を改善する傾向を示すさらに他の元素、たとえばアルミニウム、ケイ素、ホウ素、炭素、酸素、窒素、スズ、ガリウムなど
がある。
【0040】
様々な成分は、クエンチングによってβ準安定型合金を製造し、可逆性であるα”マルテンサイト相の形成を可能し、ひいては、超弾性及び/又は形状記憶性を与えるために、定性的かつ定量的に選択される。
【0041】
合金のβ準安定性は、10GPaから70GPaまで異なり、骨の弾性率に近い、低い弾性率に反映される。
【0042】
上述した予備的融解工程において得られた融解インゴットから、第二の工程は、超高真空下、高温(一般に900℃〜1200℃)で「均質化アニーリング」することからなる。
【0043】
図1のチャートにおいては、実際上の理由で、時間スケール(横座標)がたどられていないことに留意すること。
【0044】
インゴットを、数時間の長さであってもよい期間、前記アニーリング温度に維持する。処理の温度及び期間は当該合金に依存する。最終的に、完全に均質な合金が得られなければならない。
【0045】
成形処理に好都合である、周囲温度で準安定性であるβミクロ構造を保持するために、均質化アニーリング段階は、好ましくは水中での第一のクエンチングで終了する。クエンチングは、アニーリング温度にあるインゴットを周囲温度にある水槽の中に落とすことにより、1秒の何分の一かで実施される。
【0046】
その後、冷間条件、すなわち周囲温度で成形及び機械加工処理を実施する。この工程は、上述した生物医学用途に必要な装置又は要素の形状へとインゴットを成形するためのものである。成形処理は、当然、製造する製品の構成及び形状に適合され、公知の機械加工技術又は成形技術、たとえば絞り、圧延、押出し又は他の技術を使用する。
【0047】
次いで、このようにして所要の合金で製造され、作られた生物医学装置を、βトランサス温度、一般には600℃〜1050℃である温度T
βよりも高い、再溶解のための熱処理に付す。
【0048】
装置を、ガス雰囲気、たとえば窒素中、その温度で数十分〜数時間の期間維持する。使用される装置は、そのものは公知であるストーブである。
【0049】
処理は一定の温度であり、二つの目的、
最終的な生物医学装置の機械的性質を改善し、最適化するために、より小さな結晶粒度のβ再結晶ミクロ構造を製造する目的、
オーブン中での処理中、装置を作る合金と、クエンチングオーブンに導入される気体窒素との間の直接的な熱反応を通して、装置の表面に窒化物塗膜を付着させる目的
を有する。この処理は、気相における窒化プロセスである。この窒化工程の期間は、合金の組成、所要厚さ及び装置の形状に依存して、0.5時間から10時間まで異なる。この窒化工程中に維持される温度は600〜1050℃の範囲である。
【0050】
最後に、窒化/再結晶段階の終了時に、好ましくは水で第二のクエンチングを実施して、装置の温度を周囲温度まで下げる。この第二のクエンチングは、合金のβミクロ構造を準安定形態に維持することを可能にする。
【0051】
本出願人は、上記発明の方法を使用して作られた合金のサンプルに対して実験室試験を実施した。当該合金は、10〜60ミクロンの結晶粒度を有する再結晶β準安定タイプの超弾性合金である(
図2中、合金のコアにおけるβミクロ構造を見ること)。質量%によって示されるその組成は、Ti(50%)、Ta(25%)及びNb(25%)である。800℃で3時間実施される再結晶窒化段階が、厚さ数ミクロンである窒化チタン塗膜の適用を生じさせる。表面上の窒化物のミクロ構造が
図3の断面図に示されている。図中、濃い部分が、窒素に富む針状物で構成された窒化区域に相当する(内部窒化)。
【0052】
窒化物の薄い塗膜は、この方法で製造された合金の超弾性に影響しない。
図4は、超弾性効果に特徴的なローディング/アンローディングヒステリシスの存在を示す、窒化合金の反復引張り曲線を示す。この図に示す反復引張り試験は、この製造法を使用して得られた厚さ1mmの平坦な試験片に対して実施した。ロード/アンロードサイクルは、0.5%のひずみの増分で実施した。
【0053】
同じ組成の非窒化合金に比較して、本発明の方法を使用して製造された窒化合金は、増大した表面硬さ(ビッカース微小硬さで4倍の大きさと計測)を示し、それが、耐摩耗性における非常に強力な増加(摩耗体積85%減)及び摩擦係数における明らかな低下(1/5)をもたらす。
図5A及び5Bは、それぞれ、スクラッチ試験を受けた、非窒化サンプル合金(5A、従来技術)及び窒化サンプル合金(5B、本発明)の平面図を示す。溝(色が濃い)は、ピン・オン・ディスク型トライボメータを使用して、25g荷重で200回転サイクル後に得られた。本発明の合金(
図5B)がはるかに高い表面耐性を有することが見てとれる。
【0054】
上記のように気相で実施される窒化段階は、公知の窒化技術に比較していくつかの利点を有する。
生物医学用途のための大部分の装置のように、複雑な形状を有する物体に対する場合を含め、実質的に均一な窒化物塗膜の付着、
顕著な適用しやすさ、
窒化(すなわち、窒化物の付着)が溶解中に合金の再結晶と同時に実施されること(これは、真空再結晶の後でしか実施することができない他の窒化法を使用しても不可能である)、
表面に近い内部窒化の形成による、合金に対する塗膜の非常に強い接着。
【0055】
さらに、同時窒化/再結晶工程に続く、本発明の方法の第二のクエンチングが、超弾性効果を得るために、合金のコアにβ準安定ミクロ構造を維持する利点を提供する。
【0056】
本発明は、窒化物の付着に限定されず、酸化物、酸窒化物又は炭窒化物の表面塗膜の付着をも含む。その場合、適切なガス又はガス混合物が使用され、たとえば、酸化物塗膜の場合、酸素が使用され、表面上に酸窒化物又は炭窒化物を得る場合、二酸化炭素、一酸化窒素又は空気が加えられる。
【0057】
上述の組成にしたがって本発明の方法を使用して製造される合金は、チタン/ニッケルタイプ合金に比較して以下の利点、特に非常に大きな冷間変形能力及びより高い機械加工性を有し、これら二つの利点は、生物医学用途のための装置の場合に特に高く評価される。一例として、従来技術の歯内ファイルは、相対的に高い摩耗性及び溝を機械加工することによって生じる破損の有意な危険を示す。
【0058】
さらに、本発明の合金の切削能力は、従来技術の合金の切削能力よりも高い。窒化物塗膜は、生体適合性に関して有益な効果を提供しながらも、硬さ及び耐摩耗性の性質を改善する。ステントのような心臓血管用途のための装置の場合、本発明の合金においてより良好な生体適合性が認められる。最後に、このようにして製造された生物医学装置は、窒化物塗膜の存在のおかげで、より大きな耐滅菌処理性を提供し、細菌学的活性に感応しにくい。
【0059】
要するに、本発明の方法は、超弾性及び/又は形状記憶性を上記すべての付随的利点とともに有する生物医学用途のためのチタ
ン合金を製造することを可能にし、さらに、これらの性質のいくつかは、そのものが窒化物塗膜によって強化され、窒化物塗膜は、他の機械的性質又は能力を引き出し、最後に、生物学的用途のための装置の生体適合性を強化又は改善する。