特許第6469453号(P6469453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6469453コンデンサ素子用の金属化フィルムおよびそれを用いた金属化フィルムコンデンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6469453
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】コンデンサ素子用の金属化フィルムおよびそれを用いた金属化フィルムコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/32 20060101AFI20190204BHJP
【FI】
   H01G4/32 511A
   H01G4/32 511D
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-6610(P2015-6610)
(22)【出願日】2015年1月16日
(65)【公開番号】特開2016-134420(P2016-134420A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】小澤 利彰
(72)【発明者】
【氏名】堀口 岳
【審査官】 堀 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−286987(JP,A)
【文献】 特開2006−286988(JP,A)
【文献】 特開2009−170685(JP,A)
【文献】 特開昭57−040915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G4/00−4/10
4/14−4/22
4/224
4/255−4/40
13/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルム長手方向に沿って相対的な小面積分割状態で展開する小面積電極列領域と誘電体フィルム長手方向に沿って連続状態または相対的な大面積分割状態で展開する大面積電極列領域とのセットが誘電体フィルム幅方向に沿って繰り返し配列され、
かつ、前記小面積電極列領域の各分割電極を区画形成して互いに対向する一対の絶縁スリットの端部どうしが互いに近接することで、前記各分割電極の前記誘電体フィルム幅方向における端部は中央部に比べて狭幅に形成され、前記絶縁スリットの端部どうし間に金属蒸着膜によるヒューズが形成され、
前記小面積電極列領域の各分割電極は、前記ヒューズを介する状態で、前記大面積電極列領域が当該小面積電極列領域の前記誘電体フィルム幅方向両側にある状態ではこの両側の大面積電極列領域に対して、また、前記大面積電極列領域が当該小面積電極列領域の前記誘電体フィルム幅方向片側のみにある状態ではその片側の大面積電極列領域に対して、電気的に接続されて蒸着電極が構成され、
この蒸着電極が誘電体フィルムの少なくとも片面に形成され、
前記小面積電極列領域において、前記分割電極を区画する複数の前記絶縁スリットは、その線幅が相対的に狭幅の狭幅絶縁スリットと相対的に広幅の広幅絶縁スリットとの組み合わせであり、
かつ、前記広幅絶縁スリットは、前記小面積電極列領域において前記誘電体フィルム長手方向に沿って隣接する複数の分割電極の集合体を挟むピッチで配列されていることを特徴とするコンデンサ素子用の金属化フィルム。
【請求項2】
前記広幅絶縁スリットは、前記小面積電極列領域における前記分割電極が前記誘電体フィルム長手方向に沿って少なくとも3つ以上隣接する分割電極の集合体を挟むピッチで配列されている請求項1に記載のコンデンサ素子用の金属化フィルム。
【請求項3】
前記蒸着電極がアルミニウム、亜鉛またはそれらの合金からなり、電極引き出し接続部の電極厚みが他領域の電極厚みよりも厚肉に構成されている請求項1または請求項2に記載のコンデンサ素子用の金属化フィルム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のコンデンサ素子用の金属化フィルムを2枚重ね合わせて一対の金属化フィルムを構成した金属化フィルムコンデンサにおいて、
前記一対の金属化フィルムのうち一方の金属化フィルムにおける前記大面積電極列領域のすべてが他方の金属化フィルムにおける前記小面積電極列領域に対向することを特徴とする金属化フィルムコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンデンサ素子用の金属化フィルムの蒸着パターンに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)や産業機械に用いられる金属化フィルムコンデンサの技術分野においては、小型・軽量化、低コスト化のために誘電体フィルムの厚みを薄くすることが求められている。誘電体フィルムの薄膜化に当たっては耐電圧性能の向上が求められ、そのための手段として、材料の改良とともに、誘電体フィルム上に形成される蒸着電極の蒸着パターンの改良が行われている。当然のことながら、誘電体フィルムを薄膜化しても、耐電圧性能、保安性能ともに、従前同等以上の性能を確保する必要がある。
【0003】
誘電体フィルムの薄膜化を具現化する主な手段として、(1)フィルム材料の改良・改質と、(2)蒸着仕様(蒸着パターン・蒸着膜抵抗)の最適化の2点が挙げられる。中でも、重要なノウハウになるのが蒸着パターン設計であり、耐電圧性能を向上させるには、分割電極面積をより小さくすることで容量減少速度を緩やかにする手法が一般的である。
【0004】
金属化フィルムコンデンサは、金属化フィルムの絶縁破壊により、周辺の蒸着金属が飛散することで絶縁破壊部の絶縁を回復させる(自己回復機能(セルフヒーリング動作))。周囲の蒸着電極が飛び散ってなくなってしまうので、そこで絶縁破壊の進行がストップし、絶縁が回復される。しかし、絶縁破壊数が増える高温・高電圧では自己回復機能が充分に得られないために、コンデンサがショートモードに陥るおそれがある。つまり、誘電体フィルム上に蒸着金属膜を有する金属化フィルムが積層・巻回されてなる金属化フィルムコンデンサにおいては、蒸着金属の飛散が不充分であると、誘電体フィルムの破壊箇所を介して積層2層の蒸着金属どうしが導通してしまう。
【0005】
そこで、複数の分割電極とヒューズからなる保安機構が考案された。金属化フィルムにおいて分割電極を形成すると、金属化フィルムの自己回復機能を超えた絶縁破壊を起こした場合でも、周囲の分割電極から絶縁破壊を起こした分割電極に電流が流れ込み、ヒューズの蒸着金属を飛散させるヒューズ動作により、絶縁破壊を起こした分割電極を他の分割電極から切り離して絶縁を回復させ、高い安全性を確保できる。
【0006】
ところで、分割電極の面積を小さくするほどヒューズ動作による容量減少を抑制することができ、コンデンサの長寿命化が可能になる。しかし、細分化し過ぎると、ヒューズに流れ込む電流が小さくなり、絶縁破壊を起こした場合にヒューズ動作がしにくくなって、コンデンサの安全性が低下する。この現象は温度が高くなるほど顕著になる。
【0007】
また、分割電極の面積を小さくするとヒューズの数が増加することになるが、ヒューズは分割電極と比較して高抵抗であるため、コンデンサの発熱が増加する。このような自己発熱の増加は、耐電圧性能や保安性能が低下する原因となる。特に金属化フィルムを巻回または積層してなるコンデンサ素子の中心は自己発熱により温度上昇が激しく、他の部分よりも耐電圧性能や保安性能が劣化する。
【0008】
そこで、誘電体フィルム長手方向(以下、単に「フィルム長手方向」という)に沿って相対的な小面積分割状態で展開する小面積電極列領域とフィルム長手方向に沿って連続状態または相対的な大面積分割状態で展開する大面積電極列領域とを集約配置する手段が考案されている(例えば特許文献1参照)。そのコンデンサ素子用の金属化フィルムでは、絶縁マージン側に絶縁スリットによって区画された複数の分割電極が設けられ、電極引き出し部(メタリコン)側に大面積電極列領域が設けられている。
【0009】
さらに、前記の小面積電極列領域と大面積電極列領域のセットとして、このセットが誘電体フィルム幅方向(以下、単に「フィルム幅方向」という)に沿って繰り返し配列され、かつ、小面積電極列領域の各分割電極が絶縁スリットの切れ目における金属蒸着膜によるヒューズを介する状態で電気的に接続されて蒸着電極が構成されたコンデンサ素子用の金属化フィルムが開発されている。
【0010】
大面積電極列領域・小面積電極列領域のセットの繰り返しパターンについては、コンデンサ素子の小型化、耐電圧性能の向上、扁平加工性の向上、高扁平性、保安性能の向上、有効電極面積比率(静電容量)の向上など様々な観点から種々の研究がなされている。
【0011】
耐電圧性能の向上を図る手段のひとつに分割電極の小面積化がある。しかし、これは絶縁スリットの数・面積ひいてはマスキングオイルの残渣面積の増加を招く。オイル残渣が増えると、扁平化の際にフィルム間の摩擦係数が増大し、金属化フィルムの滑り性が悪化し、扁平加工性を阻害する。結果、コンデンサ素子の内部に小さな空洞であるス(鬆)が発生したり、金属化フィルムの各層にしわ・歪が生じたりする。すると、電圧印加時に静電容量変化を招いたり、“鳴き”と称する作動音(うなり)が増大してしまう。
【0012】
一方、オイル残渣を減らすべく絶縁スリットの線幅を細くすると、保安機能の発動によって他の分割電極群から絶縁分離された不具合発生原因となる分割電極と隣接する分割電極との間で絶縁スリットを越えて放電現象が発生することになってしまう。
【0013】
金属化フィルムコンデンサは、絶縁マージン側に複数の分割小電極を設ける一方、電極引き出し部側に非分割大電極部が設けているため、金属化フィルム上の絶縁スリットの位置が幅方向において大きく偏っていた。その結果、金属化フィルムの滑り性が幅方向において顕著に相違し、金属化フィルムの巻回時、素子巻回状態にばらつきを生じて高温での耐電圧性に影響を及ぼす。
【0014】
大面積電極列領域・小面積電極列領域のセットの繰り返しパターンの場合には、分割電極部と非分割電極とが金属化フィルムの幅方向に交互に配置されているため、金属化フィルム上の絶縁スリットの位置が幅方向に偏在するのを防止して、金属化フィルムの滑り性を幅方向に平準化することができる。その結果、金属化フィルムの巻回時、素子巻回状態にばらつきが生じるのを抑制して、高温時における良好な耐電圧性を確保することができる。よって、高温(例えば100℃を超えるような温度)での良好な保安性および耐電圧性を有する金属化フィルムコンデンサを提供することができる。
【0015】
図8はこのように高温・高電圧下で使用されるゆえに安全性が強く要求されるコンデンサ素子用の金属化フィルムの従来例を示す。図9はその金属化フィルムの一部を拡大して示す平面図である。図8図9において、1は金属化フィルム、2は誘電体フィルム(蒸着電極の一部を剥がした状態を図示)、3は蒸着電極、4は絶縁スリット、5は分割電極、6はヒューズ、7は電極引き出し接続部、8は絶縁マージンである。A1,A2はフィルム長手方向Xに沿って連続的に展開される大面積電極列領域(図示例は連続電極領域)、B1,B2はフィルム長手方向Xに所定の間隔で配列された絶縁スリット4により分割形成された複数の分割電極5を有する小面積電極列領域であり、大面積電極列領域A1と小面積電極列領域B1とのセット(A1,B1)と大面積電極列領域A2と小面積電極列領域B2とのセット(A2,B2)がフィルム幅方向Yに沿って配列されている。この例では、大面積電極列領域・小面積電極列領域のセットの繰り返し配列は2列となっている。フィルム幅方向Yの中間部の小面積電極列領域B1の各分割電極5が絶縁スリット4の切れ目における金属蒸着膜によるヒューズ6,6を介する状態でフィルム幅方向Yの両側の大面積電極列領域A1,A2に対して電気的に接続されている。すなわち、小面積電極列領域B1に対して大面積電極列領域A1,A2がフィルム幅方向Yの両側にあり、この両側の大面積電極列領域A1,A2に対して各分割電極5がヒューズ6,6を介して電気的に接続されている。また、フィルム幅方向Yの端に位置する小面積電極列領域B2の各分割電極5が絶縁スリット4の切れ目における金属蒸着膜によるヒューズ6を介する状態でフィルム幅方向Yの片側の大面積電極列領域A2に対して電気的に接続されている。すなわち、小面積電極列領域B2に対して大面積電極列領域A2がフィルム幅方向Yの片側にしかなく、この片側の大面積電極列領域A2に対して各分割電極5がヒューズ6を介して電気的に接続されている。
【0016】
以上のような大面積電極列領域・小面積電極列領域のセットの2組(A1,B1),(A2,B2)を有するパターンの蒸着電極3が誘電体フィルム2上に構成される。そして、このような蒸着電極3が誘電体フィルム2の少なくとも片面に形成され、これによって金属化フィルム1が構成される。
【0017】
図8図9に示す金属化フィルム1においては、フィルム幅方向Yの一方端縁に電極引き出し部(メタリコン)が接続される電極引き出し接続部7が形成され、他方端縁に絶縁マージン8が形成されている。金属化フィルム1の絶縁マージン8側でフィルム長手方向Xに沿って一定ピッチで配列された絶縁スリット4はY字形に形成されており、このY字形の絶縁スリット4の基端部は絶縁マージン8に接続されている。また、フィルム幅方向Yのほぼ中央には、Y字形の絶縁スリット4とほぼ同じピッチで、Y字形の絶縁スリット4の配列方向と平行に配列された絶縁スリット4はいわゆるミュラー・リヤー形状に形成されている。ミュラー・リヤー形というのは、所定長さの線分の両端にそれぞれ内向きの矢羽根を有する形状のことである。小面積電極列領域B1は、ミュラー・リヤー形の絶縁スリット4により蒸着電極膜が分割形成された複数の分割電極5を有している。小面積電極列領域B2は、Y字形の絶縁スリット4により蒸着電極膜が分割形成された複数の分割電極5を有している。
【0018】
また、小面積電極列領域B1の電極引き出し接続部7側には蒸着電極膜がフィルム長手方向Xに連続した大面積電極列領域A1が隣接配置されており、小面積電極列領域B1の絶縁マージン8側(小面積電極列領域B1と小面積電極列領域B2の間)には大面積電極列領域A2が隣接配置されている。
【0019】
小面積電極列領域B1における分割電極5は、電極引き出し接続部7側のヒューズ6を介して大面積電極列領域A1に接続され、かつ絶縁マージン8側のヒューズ6を介して大面積電極列領域A2に接続されている。また、小面積電極列領域B2における分割電極5は、電極引き出し接続部7側のヒューズ6を介して大面積電極列領域A2に接続されている。
【0020】
このような構成の金属化フィルム1が巻回または積層されて金属化フィルム多層体(断面小判状の柱状体)が構成され、この金属化フィルム多層体の両端面に電極引き出し部(メタリコン)が接続され、金属化フィルムコンデンサ素子が構成される(例えば特許文献2参照)。
【0021】
かかる構成のコンデンサ素子用の金属化フィルム1では、例えば小面積電極列領域B1における分割電極5で絶縁破壊を起こした場合、両側のヒューズ6,6を介して大面積電極列領域A1,A2から絶縁破壊を起こした分割電極5に大電流が流れ込む。これにより、両側のヒューズ6,6が動作(蒸着金属が飛散)して、絶縁破壊を起こした分割電極5が大面積電極列領域A1,A2から切り離される。したがって、このコンデンサ素子用の金属化フィルム1によれば、高い安全性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2005−12082号公報
【特許文献2】特開2010−182848号公報
【特許文献3】特開平11−144995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
特許文献2に示す構成において、さらなる耐電圧性能の向上のために分割電極を小面積化するに当たり、フィルム幅方向での大面積電極列領域・小面積電極列領域のセットの繰り返し回数を増やすことが考えられている。図10図8に示した従来例において改良案として提案された金属化フィルムの構成を示す平面図である。大面積電極列領域・小面積電極列領域のセットの数を2セットから3セットへと増やすことによって分割電極を小面積化している。
【0024】
しかし、分割電極を小さくすることは、分割電極どうしを区画する絶縁スリット(金属非蒸着エリア)の数・面積が増加することになるため、有効電極面積比率(任意のフィルム面積に対する金属蒸着面積の比率)が小さくなり、コンデンサの小型化を阻害することになる。
【0025】
ところで、絶縁スリットの線幅は、電圧印加状態におけるクリアリング(絶縁破壊による金属蒸着膜の蒸発飛散・消失)の発生を伴うヒューズ動作電極とクリアリング未発生電極(ヒューズ未動作)との間に発生する電位差に対する必要な絶縁距離により設計される。有効電極面積比率の減少を抑制するためには、絶縁スリットの線幅はなるべく狭幅化することが望ましい。しかし、狭幅化の結果として絶縁距離が不足して前記の2電極間で放電が発生すると、クリアリング未発生電極に電流が流れ込み、ヒューズ動作が起こってしまう。つまり、クリアリングの発生によるヒューズ動作により、隣接するクリアリング未発生電極に不測のヒューズ動作を引き起こし、それが波及的に次々と連続し、分割電極群の連鎖破壊を招来してしまうおそれがある(連鎖的ヒューズ動作)。
【0026】
また、絶縁スリットの線幅の最適値に関しては、ヒューズ動作電極の残留電位が不明であることから各種実験結果を踏まえて線幅を決定するのではあるが、分割電極間の連鎖破壊の懸念が残るため、より一段と余裕を見た設計をしているのが実情である。つまり、狭幅化には自ずと制限がかかる。
【0027】
分割電極を小面積化すると絶縁スリットが増加するということを踏まえて絶縁スリットの線幅を狭幅化する場合に、その狭幅化が単純に全分割電極に対して一様なものであると、前述したクリアリング未発生電極の不測のヒューズ動作が引き起こされやすくなる。これが連鎖的に発生した場合、耐電圧性能(コンデンサ素子の寿命性能)と保安性能の両特性ともに低下するだけでなく、不安定にもなる。
【0028】
以上詳述したように、従来技術では分割電極を小面積化した上で、有効電極面積比率を減少させることなく、かつ分割電極間の連鎖的な絶縁破壊を抑制することはむずかしい。
【0029】
ちなみに、HV用コンデンサ(定格電圧750VDC)の開発パターンで図8の状態から図10の状態へと小面積化した場合に、絶縁スリットの線幅(0.15±0.05mm)は一様に同一寸法としているが、有効電極面積比率は結果的に96.7%から96.2%へと減少した。
【0030】
なお、上記の問題点は、大面積電極列領域がフィルム長手方向に沿って連続状態で展開する場合だけでなく、大面積電極列領域がフィルム長手方向に沿って相対的な大面積分割状態で展開する場合にもあてはまる。連続状態での展開とは、絶縁スリットが存在せずパターン変化としての仕切りのない一様な領域のことをいい、相対的な大面積分割状態での展開とは、絶縁スリットが適当間隔置きに存在するが、その間隔が小面積電極列領域に比べて大きく、一つ一つの分割電極の面積が相対的により大きいものとなっている領域のことをいう。
【0031】
本発明は以上のような事情に鑑みて創作したものであり、蒸着電極が大面積電極列領域・小面積電極列領域のセットの繰り返しパターンとされるコンデンサ素子用の金属化フィルムに関して、有効電極面積比率の減少を抑制しながら、分割電極間の連鎖的な絶縁破壊を阻止し、コンデンサ素子の耐電圧性能、保安性能を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明は、次の手段を講じることにより上記の課題を解決する。
【0033】
本発明によるコンデンサ素子用の金属化フィルムは、
誘電体フィルム長手方向に沿って相対的な小面積分割状態で展開する小面積電極列領域と誘電体フィルム長手方向に沿って連続状態または相対的な大面積分割状態で展開する大面積電極列領域とのセットが誘電体フィルム幅方向に沿って繰り返し配列され、
かつ、前記小面積電極列領域の各分割電極を区画形成して互いに対向する一対の絶縁スリットの端部どうしが互いに近接することで、前記各分割電極の前記誘電体フィルム幅方向における端部は中央部に比べて狭幅に形成され、前記絶縁スリットの端部どうし間に金属蒸着膜によるヒューズが形成され、
前記小面積電極列領域の各分割電極は、前記ヒューズを介する状態で、前記大面積電極列領域が当該小面積電極列領域の前記誘電体フィルム幅方向両側にある状態ではこの両側の大面積電極列領域に対して、また、前記大面積電極列領域が当該小面積電極列領域の前記誘電体フィルム幅方向片側のみにある状態ではその片側の大面積電極列領域に対して、電気的に接続されて蒸着電極が構成され、
この蒸着電極が誘電体フィルムの少なくとも片面に形成され、
前記小面積電極列領域において、前記分割電極を区画する複数の前記絶縁スリットは、その線幅が相対的に狭幅の狭幅絶縁スリットと相対的に広幅の広幅絶縁スリットとの組み合わせであり、
かつ、前記広幅絶縁スリットは、前記小面積電極列領域において前記誘電体フィルム長手方向に沿って隣接する複数の分割電極の集合体を挟むピッチで配列されていることを特徴としている。
【0034】
本発明においては、有効電極面積比率の減少を抑制するために絶縁スリットの線幅を狭くすることを前提として、その絶縁スリットの線幅寸法を画一的なものにするのではなく、狭幅なものと広幅なものとを混在させることにした。すなわち、狭幅絶縁スリットは有効電極面積比率の減少を抑制するために絶縁スリットの基本タイプ(標準タイプ)とし、残りの広幅絶縁スリットは連鎖的ヒューズ動作を抑制するために形成する。
【0035】
小面積電極列領域におけるある1つの分割電極でクリアリングが発生し、その分割電極を囲う絶縁スリットの切り目のヒューズが動作したとする。そして、そのヒューズ動作電極と隣接するクリアリング未発生電極との間の絶縁スリットが狭幅絶縁スリットであることから、クリアリング発生電極の残留電位によっては両電極間の電位差に対して絶縁距離が不足するおそれがある。両電極間の電位差に対する絶縁距離の不足により両電極間で放電が発生し、過電流がクリアリング未発生電極に流れ込んでヒューズ動作を起こしたとする。しかし、小面積電極列領域には適当なピッチで広幅絶縁スリットが配置されており、ヒューズ動作電極または不測ヒューズ動作の分割電極と隣接するクリアリング未発生電極との間の絶縁スリットが広幅絶縁スリットであれば、それ以上の不測のヒューズ動作はその広幅絶縁スリットにおいて停止させられる。すなわち、それ以上の連鎖的ヒューズ動作が防止される。
【0036】
なお、広幅絶縁スリットの配列ピッチについては、連鎖的な不測ヒューズ動作を許容する分割電極数を幾つに設定するかによる。この数は少なくとも2つである(2つ以上)。この数を1つに設定することはない。なぜなら、それは小面積電極列領域におけるすべての絶縁スリットを広幅絶縁スリットにすることであり、それでは有効電極面積比率の減少を招いてしまうからである。
【0037】
広幅絶縁スリットの配列ピッチを仮に分割電極2つ分とする。その2つの分割電極のうち仮に右側の分割電極がヒューズ動作電極となった場合、その右側に隣接する分割電極に対しては境の絶縁スリット(互いに隣接する分割電極を隔てる絶縁スリット)が広幅絶縁スリットであるため連鎖的ヒューズ動作は発現しない。ヒューズ動作電極の左側に隣接の分割電極に対しては境の絶縁スリットが狭幅絶縁スリットであるため連鎖的ヒューズ動作が引き起こされる可能性があるが、さらにその左側に隣接する分割電極に対しては境の絶縁スリットが広幅絶縁スリットであるためそれ以上の連鎖的ヒューズ動作は発現しない。
【0038】
また、仮に広幅絶縁スリットの配列ピッチを分割電極3つ分とする。その3つの分割電極のうち仮に右端の分割電極がヒューズ動作電極となった場合、その右側に隣接する分割電極に対しては境の絶縁スリットが広幅絶縁スリットであるため連鎖的ヒューズ動作は発現しない。ヒューズ動作電極の左側2つ分の隣接する分割電極に対しては境の絶縁スリットが狭幅絶縁スリットであるため連鎖的ヒューズ動作が引き起こされる可能性があるが、さらにその左側3つ目の分割電極に対しては境の絶縁スリットが広幅絶縁スリットであるためそれ以上の連鎖的ヒューズ動作は発現しない。また、3つの分割電極のうち仮に中央の分割電極がヒューズ動作電極となった場合、その左側に隣接する分割電極と右側に隣接する分割電極に対しては境の絶縁スリットが狭幅絶縁スリットであるため連鎖的ヒューズ動作が引き起こされる可能性があるが、さらに隣の隣の2つ分離れた分割電極に対しては境の絶縁スリットが広幅絶縁スリットであるためそれ以上の連鎖的ヒューズ動作は発現しない。広幅絶縁スリットの配列ピッチは分割電極の4つ分あるいはそれ以上としてもよい。その配列ピッチを幾つにするかは、各種の設計条件による。
【0039】
広幅絶縁スリットの配列ピッチを小さくするほど、狭幅絶縁スリットの分布密度がより小さくなって有効電極面積比率の減少の抑制効果はより小さくなるが、連鎖的な不測ヒューズ動作を許容する分割電極数をより少なくすることができる。逆に、広幅絶縁スリットの配列ピッチを大きくするほど、連鎖的な不測ヒューズ動作を許容する分割電極数がより多くなるが、狭幅絶縁スリットの分布密度がより大きくなって有効電極面積比率をより大きくすることができる。
【0040】
いずれにしても、本発明の上記構成によれば、蒸着電極が大面積電極列領域・小面積電極列領域のセットの繰り返しパターンとされるコンデンサ素子用の金属化フィルムに関して、線幅を1種類のみに限定している従来技術に比べて、有効電極面積比率の減少を抑制しながら、分割電極間の連鎖的な絶縁破壊を阻止することができる。
【0041】
なお、上記の構成における好ましい態様としては、前記蒸着電極がアルミニウム、亜鉛またはそれらの合金からなり、電極引き出し接続部の電極厚みが他領域の電極厚みよりも厚肉に構成されている、という態様がある。このように構成すれば、電極引き出し接続部と電極引き出し部との接続信頼性が高いものとなる。
【0042】
さらに本発明にかかわる金属化フィルムコンデンサは、上記のいずれかのコンデンサ素子用の金属化フィルムを2枚重ね合わせて一対の金属化フィルムを構成した金属化フィルムコンデンサにおいて、前記一対の金属化フィルムのうち一方の金属化フィルムにおける前記大面積電極列領域のすべてが他方の金属化フィルムにおける前記小面積電極列領域に対向する構成となっている。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、小面積電極列領域において、クリアリングが発生したヒューズ動作電極からクリアリングが発生していない隣接電極への電流の流れ込み、ひいてはクリアリング未発生電極における不測のヒューズ動作が発生したとしても、適当なピッチで要所要所に配列されている広幅絶縁スリットの存在により、そのような不測のヒューズ動作が連鎖的に進行することを阻止できる。その結果として、コンデンサ素子の耐電圧性能(寿命性能)および保安性能を向上させることができるとともに、コンデンサ素子の動作を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の実施例におけるコンデンサ素子用の金属化フィルムの構成を示す平面図
図2】本発明の実施例におけるコンデンサ素子用の金属化フィルムの構成を示す断面図
図3】本発明の実施例における金属化フィルムの一部を拡大して示す平面図
図4】本発明の実施例における重ね合わされた2シートの金属化フィルムを示す平面図
図5】本発明の実施例にかかわる金属化フィルムを用いたコンデンサ素子の斜視図
図6】本発明の実施例にかかわる金属化フィルムを用いたコンデンサ素子の動作説明図
図7】本発明の別の実施例におけるコンデンサ素子用の金属化フィルムの構成を示す平面図
図8】従来例におけるコンデンサ素子用の金属化フィルムの構成を示す平面図
図9】従来例における金属化フィルムの一部を拡大して示す平面図
図10】従来例において改良案として提案された金属化フィルムの構成を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、上記構成の本発明のコンデンサ素子用の金属化フィルムにつき、その実施の形態を具体的な実施例のレベルで詳しく説明する。
【0046】
図1は本発明の実施例におけるコンデンサ素子用の金属化フィルムの構成を示す平面図、図2はその断面図、図3は金属化フィルムの一部を拡大して示す平面図である。
【0047】
図1および図2において、1は金属化フィルム、2は誘電体フィルム(蒸着電極の一部を剥がした状態を図示)、3はアルミニウム、亜鉛またはそれらの合金などの金属からなる蒸着電極、4は絶縁スリットで、そのうち4aは狭幅絶縁スリット、4bは広幅絶縁スリットである。5は分割電極、6はヒューズ、7は電極引き出し接続部、8は絶縁マージン、A1〜A3は蒸着電極3の一部を構成する大面積電極列領域、B1〜B3は蒸着電極3の残りの部分を構成する小面積電極列領域である。金属化フィルム1は、誘電体フィルム2の表面に蒸着電極3をパターン形成したものである。その蒸着電極3は、3列の大面積電極列領域・小面積電極列領域のセット(A1,B1),(A2,B2),(A3,B3)で構成されている。A1は1列目の大面積電極列領域、B1は1列目の小面積電極列領域であり、これらは1列目の大面積電極列領域・小面積電極列領域のセット(A1,B1)を構成する。A2は2列目の大面積電極列領域、B2は2列目の小面積電極列領域であり、これらは2列目の大面積電極列領域・小面積電極列領域のセット(A2,B2)を構成する。A3は3列目の大面積電極列領域、B3は3列目の小面積電極列領域であり、これらは3列目の大面積電極列領域・小面積電極列領域のセット(A3,B3)を構成する。この例では、大面積電極列領域・小面積電極列領域のセットの繰り返し配列は3列となっている。大面積電極列領域A1〜A3と小面積電極列領域B1〜B3との違いについては、大面積電極列領域A1〜A3はフィルム長手方向Xに沿って相対的に分割の程度が小さい状態(分割された電極面積が大きな状態)で展開する領域であり、小面積電極列領域B1〜B3は長さ方向に沿って相対的に分割の程度が大きい状態(分割された電極面積が小さな状態)で展開する領域である。
【0048】
2列目と3列目の大面積電極列領域A2,A3は同じ構成となっている。1列目の大面積電極列領域A1は、金属化フィルム1のフィルム幅方向Yの一方端縁において金属溶射電極(メタリコン)を接続するための電極引き出し接続部7を含んでいる。この電極引き出し接続部7は、誘電体フィルム2のフィルム幅方向Yの一方端縁においてフィルム長手方向Xに沿って連続的に展開している領域(図1の破線の外側の横方向に細長い導電体領域)であり、1列目の大面積電極列領域A1と一体的に連接されている。図2に示すように、電極引き出し接続部7は、その電極厚みが蒸着電極3の他領域と比べて厚くなっている。そのため、電極引き出し接続部7と電極引き出し部(メタリコン)との接続信頼性が高いものとなっている。この厚肉な電極引出し接続部7のことをヘビーエッジ部と呼び、それ以外の蒸着電極3の薄肉な領域をアクティブ部と呼ぶ。電極引き出し接続部7は、電極引き出し部との接続信頼性を向上させるため、その電極厚みが絶縁マージン8側の蒸着電極と比べて厚くなっていることが好ましい。
【0049】
1列目と2列目の小面積電極列領域B1,B2は同じ構成となっている。これら2つの小面積電極列領域B1,B2では、その絶縁スリット4(狭幅絶縁スリット4aおよび広幅絶縁スリット4b)がいわゆるミュラー・リヤー形に形成されている。すなわち、絶縁スリット4は、所定長さの線分の両端にそれぞれ内向きの矢羽根を有する形状を有している。3列目の小面積電極列領域B3では、その絶縁スリット4(狭幅絶縁スリット4aおよび広幅絶縁スリット4b)がY字形(ミュラー・リヤー形において一端側の内向きの矢羽根が欠損した形状)に形成されている。この3列目の小面積電極列領域B3は、その絶縁スリット4が金属化フィルム1のフィルム幅方向Yの他方端縁において絶縁マージン8と連接している。この絶縁マージン8は、誘電体フィルム2のフィルム幅方向Yの他方端縁においてフィルム長手方向Xに連続して展開している横方向に細長い絶縁領域である。その他の構成は1列目ないし2列目と同様である。図3では2列目と3列目の小面積電極列領域B2,B3および3列目の大面積電極列領域A3を拡大して示しているが、1列目の小面積電極列領域B1のパターンは2列目の小面積電極列領域B2と同様のものとなっている。なお、図3では小面積電極列領域における狭幅絶縁スリット4aは白色の塗りつぶしで表しているのに対し、広幅絶縁スリット4bは黒色の塗りつぶしで強調表示している。
【0050】
大面積電極列領域Ai(i=1,2,3)はフィルム長手方向Xに沿って連続的に展開している領域である。小面積電極列領域Bi(i=1,2,3)は、その基本構成として従来例改良案(図10参照)と同様に、フィルム長手方向Xに所定の間隔で配列されたミュラー・リヤー形またはY字形の絶縁スリット4により分割形成された複数の分割電極5を有する領域である。個々の分割電極5は、細長い六角形状または細長い五角形状を呈するものである。そして、大面積電極列領域・小面積電極列領域(Ai,Bi)のセットがフィルム幅方向Yに沿って3セット繰り返し配列されている。また、1列目ないし2列目の小面積電極列領域B1〜B2では、その基本構成としての各分割電極5は、フィルム幅方向Yの両側で絶縁スリット4の切れ目における金属蒸着膜によるヒューズ6,6を介する状態で、両側の大面積電極列領域Ai,Ai+1に対して、電気的に接続されている。3列目の小面積電極列領域B3では、その基本構成としての各分割電極5は、フィルム幅方向Yの一側で絶縁スリット4の切れ目における金属蒸着膜によるヒューズ6を介する状態で、その片側にある大面積電極列領域A3に対して、電気的に接続されている。
【0051】
そして、上記のような大面積電極列領域・小面積電極列領域の3セットからなる蒸着電極3が誘電体フィルム2の少なくとも片面に形成されて金属化フィルム1が構成されている。
【0052】
小面積電極列領域B1〜B3の構成要素である複数の分割電極5はその隣接するものどうしが絶縁スリット4によって区画されているが、本発明実施例の特異な構成として、その複数の絶縁スリット4が、線幅が相対的に狭幅の狭幅絶縁スリット4aと相対的に広幅の広幅絶縁スリット4bとの組み合わせとして構成されている。狭幅絶縁スリット4aは、その数が広幅絶縁スリット4bよりも多くなっている。広幅絶縁スリット4bは、小面積電極列領域B1〜B3においてフィルム長手方向Xに沿って隣接する複数の分割電極5…の集合体を挟むピッチで配列されている。図示例の場合、3つの分割電極5…の集合体を挟むピッチで広幅絶縁スリット4bが配列されている。具体的に説明すると、狭幅絶縁スリットを略号<狭幅>で表し、広幅絶縁スリットを略号<広幅>で表すとして、
<広幅><狭幅><狭幅><広幅><狭幅><狭幅><広幅><狭幅><狭幅><広幅>……
のような配列となっている。
【0053】
上記のように誘電体フィルム2に蒸着電極3が形成されて構成された金属化フィルム1を2シート用意し、図4に示すように、両シートの金属化フィルム1,1どうしを180°反転状態で一方の金属化フィルムの電極引き出し部7が他方の金属化フィルムの蒸着電極と重ならないように上下2層に重ね合わせる。上層の金属化フィルム1の側縁に沿う1列目の大面積電極列領域A1に対し、その直下に下層の金属化フィルム1の3列目の小面積電極列領域B3が対向する。電極引き出し接続部7は絶縁マージン8に対向する。上層の金属化フィルム1における2列目および3列目の大面積電極列領域A2,A3はそれぞれ下層の金属化フィルム1における2列目および1列目の小面積電極列領域B2,B1に対向する。また、上層の金属化フィルム1における1列目および2列目の小面積電極列領域B1,B2はそれぞれ下層の金属化フィルム1における3列目および2列目の大面積電極列領域A3,A2に対向する。上層の金属化フィルム1の3列目の小面積電極列領域B3に対し、その直下に下層の金属化フィルム1の側縁の1列目の大面積電極列領域A1が対向している。絶縁マージン8は電極引き出し接続部7に対向する。要するに、一方の金属化フィルムにおける小面積電極列領域は他方の金属化フィルムにおける大面積電極列領域に対向している。
【0054】
ここで、一方の金属化フィルムにおける大面積電極列領域と他方の金属化フィルムにおける大面積電極列領域とが対向すると短絡破壊するおそれがあるため、一方の金属化フィルムにおける大面積電極列領域のすべてが他方の金属化フィルムにおける小面積電極列領域に対向することが好ましい。
【0055】
上記のように上層の金属化フィルム1と下層の金属化フィルム1とを重ね合わせた状態で、図5に示すように、巻芯9の外周部に多重に巻回し、さらに最外層に外装フィルム10を巻回した上でプレスによって図示のように細長小判状に扁平化し(扁平率が0.7以上)、金属化フィルム多層体11を得る。さらに、金属化フィルム多層体11の軸方向両端において金属溶射により電極引き出し部(メタリコン)12,12が形成され、高扁平の金属化フィルムコンデンサ素子Cを得る。電極引き出し部12,12は軸方向両側の電極引き出し接続部7,7に電気的に接続される。
【0056】
なお、上記のように2枚重ねにした長尺な金属化フィルム1,1を巻回する代わりに、2枚重ねの短尺な金属化フィルム1,1を積層するタイプのコンデンサ素子もある。
【0057】
次に、上記のように構成された金属化フィルムコンデンサの動作を説明する。
【0058】
図6(a)に示すように、任意の小面積電極列領域Bi(i=1,2,3のいずれか)において、フィルム長手方向Xで隣接する一対の広幅絶縁スリット4b,4bで挟まれた3つの分割電極53 ,51 ,52 のうちの中央の分割電極51 でクリアリング(★印参照)が発生した場合を想定する。そして、その分割電極51 を囲う2つの狭幅絶縁スリット4a,4aの切り目のヒューズ61 ,61 に対して過電流(細線矢印参照)が流入して、図6(b)に示すように、これらのヒューズ61 ,61 が動作したとする(☆印参照)。すると、中央に位置するヒューズ動作電極51 は大面積電極列領域Ai(i=1,2,3のいずれか)から電気的に切り離される(図6(b)の網かけパターン参照)。
【0059】
そのヒューズ動作電極51 と右側に隣接するクリアリング未発生電極52 (★印参照)との間の絶縁スリットが狭幅絶縁スリット4aであることから、両電極51 ,52 間の電位差に対して絶縁距離が不足する場合には、両電極51 ,52 間で放電(図6(b)の両方向矢印参照)が発生し、過電流(細線矢印参照)がクリアリング未発生電極52 に流れ込んでヒューズ動作を起こす(図6(c)の☆印参照)。そして、右側のヒューズ動作電極52 は大面積電極列領域Aiから電気的に切り離される(図6(c)の網かけパターン参照)。中央のヒューズ動作電極51 と左側に隣接するクリアリング未発生電極53 (★印参照)との間の絶縁スリットも狭幅絶縁スリット4aであることから、両電極51 ,53 間の電位差に対して絶縁距離が不足する場合には、両電極51 ,53 間で放電(図6(c)の両方向矢印参照)が発生し、過電流(細線矢印参照)がクリアリング未発生電極53 に流れ込んでヒューズ動作を起こす(図6(d)の☆印参照)。
【0060】
以上のようにして、互いに隣接する両電極間の電位差に対して絶縁距離が不足する場合には、1つの分割電極のクリアリングに起因して、隣接する分割電極への連鎖的なヒューズ動作が2回発生することになり、2つのフィルム長手方向Xに沿って隣接する一対の広幅絶縁スリット4b,4bで挟まれた隣接3つの分割電極53 ,51 ,52 がヒューズ動作電極となる(図6(d)の網かけパターン参照)。
【0061】
上記の説明では最初にヒューズ動作を起こす分割電極を中央の分割電極としたが、それ以外に、3つ並んだ分割電極のうち右側の分割電極が最初にヒューズ動作を起こす場合もあれば、左側の分割電極が最初にヒューズ動作を起こす場合もある。いずれにしても、2回にわたる連鎖的ヒューズ動作を起こした場合には、隣接する一対の広幅絶縁スリット4b,4bで挟まれた隣接3つの分割電極53 ,51 ,52 がヒューズ動作電極となり、その後において、それら3つの分割電極53 ,51 ,52 の両サイドには広幅絶縁スリット4b,4bが位置しているために、それ以上の連鎖的ヒューズ動作は、その進行が抑え込まれることになる。
【0062】
大面積電極列領域Ai(i=1,2…)の構成については、別態様として、図7に示すように構成してもよい。すなわち、フィルム長手方向Xに沿って、小面積電極列領域Bi(i=1,2…)の分割電極5のピッチよりも大きなピッチで分割されることで、相対的により分割の程度が小さい状態(分割された電極面積が大きい状態)で複数の分割電極5′に区画されている。詳しくは、1列目、2列目および3列目の大面積電極列領域A1,A2,A3は、フィルム幅方向Yに伸びる直線状の絶縁スリット4cによってフィルム長手方向Xで区画されるが、この直線状の絶縁スリット4cのピッチは小面積電極列領域Biにおける絶縁スリット4のピッチよりも大きなものとなっている。ここでは一例として、分割電極5の12ピッチ分が1ピッチ分の分割電極5′に相当している。直線状の絶縁スリット4cは小面積電極列領域Biにおける広幅絶縁スリット4bの中央線分の延長線として形成されている(なお、これのみに限定されない)。直線状の絶縁スリット4cの配列は、1列目と2列目とで分割電極5の3ピッチ分ずつずれており、また、2列目と3列目とでも分割電極5の9ピッチ分ずつずれている。結果として、1列目と3列目は同相関係となっている。なお、直線状の絶縁スリット4cの配列はこれのみに限定されない。
【0063】
以上をまとめると、コンデンサ素子用の金属化フィルムに関して、小面積電極列領域において、分割電極を区画する複数の絶縁スリットについて、線幅が相対的に狭幅の狭幅絶縁スリットと相対的に広幅の広幅絶縁スリットとの組み合わせとし、かつ、広幅絶縁スリットが、小面積電極列領域においてフィルム長手方向に沿って隣接する複数の分割電極の集合体を挟むピッチで配列される構成としたので、有効電極面積の減少を抑制しつつ、不測のヒューズ動作が連鎖的に進行することを阻止でき、耐電圧性能、保安性能を向上させることができる。
【0064】
なお、小面積電極列領域と大面積電極列領域のセットの繰り返し数については、任意の複数列(2セット、3セット、4セット…)を選択することが可能である。また、複数列の小面積電極列領域Bi(i=1,2…)における広幅絶縁スリット4b…のフィルム長手方向Xでの位相関係については、図示例の同相のほか異相であってもよく、またその位相ずれ量も任意である。また、フィルム長手方向Xで隣接する一対の広幅絶縁スリット4b,4b間のピッチにつき、上記実施例では分割電極5の3つ分(<広幅><狭幅><狭幅><広幅><狭幅><狭幅><広幅><狭幅><狭幅><広幅>……)としたが、これ以外に、
<広幅><狭幅><広幅><狭幅><広幅><狭幅><広幅>……
のように分割電極5の2つ分のピッチとしたり、
<広幅><狭幅><狭幅><狭幅><広幅><狭幅><狭幅><狭幅><広幅>……
のように分割電極5の4つ分のピッチとしたり、
<広幅><狭幅><狭幅><狭幅><狭幅><広幅><狭幅><狭幅><狭幅><狭幅><広幅>……
のように分割電極5の5つ分のピッチとするなど、任意のピッチを採用してよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、コンデンサ素子用の金属化フィルムに関して、その耐電圧性能および保安性能を向上させる上で、有効電極面積比率の減少を抑制しながら、分割電極間の連鎖的な絶縁破壊を阻止する技術として有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 金属化フィルム
2 誘電体フィルム
3 蒸着電極
4 絶縁スリット
4a 狭幅絶縁スリット
4b 広幅絶縁スリット
5 分割電極
6 ヒューズ
A1〜A3 大面積電極列領域
B1〜B3 小面積電極列領域
C 金属化フィルムコンデンサ
X 誘電体フィルム長手方向
Y 誘電体フィルム幅方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10