特許第6469482号(P6469482)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6469482
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】薄膜超音波センサの設置方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20190204BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20190204BHJP
   G01B 17/02 20060101ALN20190204BHJP
【FI】
   G01N29/24
   G01N29/04
   !G01B17/02 B
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-43499(P2015-43499)
(22)【出願日】2015年3月5日
(65)【公開番号】特開2016-161537(P2016-161537A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】川浪 精一
(72)【発明者】
【氏名】木村 武蔵
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕子
【審査官】 横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−074635(JP,A)
【文献】 特開2003−004713(JP,A)
【文献】 特開2005−308691(JP,A)
【文献】 特開平07−303299(JP,A)
【文献】 特開2002−058099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
G01B 17/00−17/08
G01N 21/00−21/61
G01N 21/84−21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板上の下部電極と、前記下部電極上に設けられた圧電素子と、前記圧電素子上に設けられた上部電極と、前記下部電極に接続された第1信号線と、前記上部電極に接続された第2信号線とを備える薄膜超音波センサを被検体に設置する薄膜超音波センサの設置方法であって、
前記被検体の表面に耐熱性を有する接着剤を塗布して、該接着剤に前記薄膜超音波センサを載せる接着剤塗布工程と、
前記上部電極と前記第2信号線との接続部及び前記第2信号線の露出部を覆うように、耐熱性を有するシール材を塗布するシール材塗布工程と、
前記接着剤及び前記シール材を硬化させる硬化工程と
を有し、
前記接着剤及び前記シール材は、超音波透過性を有する同一材質であり、
前記シール材塗布工程は、前記接着剤の上に載せられた前記薄膜超音波センサの全体を包み込むように前記シール材を塗布する薄膜超音波センサの設置方法。
【請求項2】
前記接着剤塗布工程と前記シール材塗布工程との間に、前記圧電素子の上面に耐熱性の絶縁膜を設ける絶縁膜生成工程を有し、前記絶縁膜は、前記シール材とは異なる材質からなる請求項に記載の薄膜超音波センサの設置方法。
【請求項3】
前記シール材塗布工程では、気化またはゾル化した前記シール材をノズルから噴射することにより、前記シール材を塗布する請求項1または請求項に記載の薄膜超音波センサの設置方法。
【請求項4】
前記第1信号線及び前記第2信号線が耐熱性の保護被覆で被覆された耐熱性のケーブルを前記被検体の所定位置に位置決めする位置決め部材を前記被検体に固定することにより、前記ケーブルを前記被検体に位置決めするケーブル位置決め工程を有し、
前記ケーブルは、前記位置決め部材に対して移動可能に配置されている請求項1から請求項のいずれかに記載の薄膜超音波センサの設置方法。
【請求項5】
前記ケーブル位置決め工程において、前記ケーブルがたるみ部を有するように位置決めされる請求項に記載の薄膜超音波センサの設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜超音波センサの設置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電プラントの配管の肉厚計測として、超音波センサを用いた超音波探傷方法が用いられている。また、近年では、高温耐熱性を有した薄膜超音波センサが開発され、これを原子力発電プラントの配管に常設して1年以上の長い期間に渡って計測を行うことが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−177603号公報
【特許文献2】特開2014−74635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高温耐熱性を有した薄膜超音波センサを火力発電システムのガス配管に適用する場合、ガス配管からの漏えいガスによりセンサ周りに可燃性ガスがたまるおそれがある。薄膜超音波センサは薄型化を実現するために、従来の薄膜超音波センサのような金属ケースにダンピング材料が埋め込まれた構造とは異なり、結線部などがむき出しの構造とされている。このため、例えば、結線部や断線部などで電位差が生じることによるスパークが発生すると、可燃ガスに引火するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、万一、可燃性ガス雰囲気において薄膜超音波センサにスパークが発生したとしても、可燃性ガスへの引火を未然に防ぐことのできる薄膜超音波センサの設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様は、薄板上の下部電極と、前記下部電極上に設けられた圧電素子と、前記圧電素子上に設けられた上部電極と、前記下部電極に接続された第1信号線と、前記上部電極に接続された第2信号線とを備える薄膜超音波センサを被検体に設置する薄膜超音波センサの設置方法であって、被検体の表面に耐熱性を有する接着剤を塗布して、該接着剤に薄膜超音波センサを載せる接着剤塗布工程と、前記上部電極と前記第2信号線との接続部及び前記第2信号線の露出部を覆うように、耐熱性を有するシール材を塗布するシール材塗布工程と、前記接着剤及び前記シール材を硬化させる硬化工程とを有し、前記接着剤及び前記シール材は、超音波透過性を有する同一材質であり、前記シール材塗布工程は、前記接着剤の上に載せられた前記薄膜超音波センサの全体を包み込むように前記シール材を塗布する薄膜超音波センサの設置方法である。
【0007】
上記薄膜超音波センサの設置方法によれば、薄膜超音波センサが接着剤により前記被検体の表面に設置された後、上部電極と第2信号線との接続部及び第2信号線の露出部を覆うように耐熱性を有するシール材が塗布される。続いて、接着剤及びシール材が硬化することにより、薄膜超音波センサが被検体の表面に固定されるとともに、上部電極と第2信号線との接続部及び第2信号線の露出部が、耐熱性を有するシール材で覆われることで周囲雰囲気から遮断される。これにより、万が一、可燃性ガス雰囲気で、断線等の理由から該接続部や第2信号線の一部においてスパークが発生したとしても、可燃性ガスへの引火を防止することが可能となる。
「前記硬化工程」は、周囲雰囲気の中で長時間放置することにより自然に硬化させる意味も含む。
上記薄膜超音波センサの設置方法によれば、接着剤の上に載せられた薄膜超音波センサ全体が超音波透過性を有するシール材で覆われることとなる。
【0010】
上記薄膜超音波センサの設置方法は、前記接着剤塗布工程と前記シール材塗布工程との間に、圧電素子の上面に耐熱性の絶縁膜を設ける絶縁膜生成工程を更に有し、前記絶縁膜は、前記シール材とは異なる材質からなることとしてもよい。
【0011】
圧電素子は、その性質上、数ミクロンの振幅で振動するが、仮に圧電素子に直接的にシール材が塗布されて硬化した場合には、圧電素子の振動を阻害し、性能が低下するおそれがある。上記方法によれば、圧電素子とシール材との間に、シール材とは異なる材質からなる絶縁膜を介在させるので、圧電素子の性能を阻害しない程度(数ミクロン)の空間を確保することが可能となる。これにより、圧電素子の性能を維持することができる。
絶縁膜は、例えば、ガラステープ、ガラスクロス、高純度シリカ繊維を用いたシリカテープ、またはアルミナ繊維やセラミックファイバーを使用して織られたリボンテープ等を貼付して形成してもよい。また、耐熱性を有する粒子を塗布することにより形成してもよい。また、セラミック(例えば、シリカ系、アルミナ系)、無機繊維等を材料とするペースト材を塗布することにより形成してもよい。また、使用温度によっては樹脂系の材料により絶縁膜を形成してもよい。
【0012】
上記薄膜超音波センサの設置方法において、前記シール材塗布工程では、気化またはゾル化した前記シール材をノズルから噴射することにより、前記シール材を塗布することとしてもよい。
【0013】
例えば、薄膜超音波センサ全体をシール材で覆う場合、シール材の厚さを薄く均一にすることが好ましい。これは、例えば、固化したときに配管金属との線膨張係数の違いにより、薄膜超音波センサに応力が働く可能性があるからである。シール材の塗布方法として、パテ状のシール材を塗布することが考えられるが、この場合、パテの厚みを均一化させるのが難しく、時間や作業員の労力を要する。
上記薄膜超音波センサの設置方法によれば、気化あるいはゾル化したシール材をノズルから噴射してシール材を塗布するので、比較的容易に、シール材の厚さを薄く、均一にすることが可能となる。
【0016】
上記薄膜超音波センサの設置方法は、前記第1信号線及び前記第2信号線が耐熱性の保護被覆で被覆された耐熱性のケーブルを前記被検体の所定位置に位置決めする位置決め部材を前記被検体に固定することにより、前記ケーブルを前記被検体に位置決めするケーブル位置決め工程を更に有し、前記ケーブルは、前記位置決め部材に対して移動可能に配置されていてもよい。
【0017】
例えば、ケーブルが被検体に密着固定された場合、高温時の被検体とケーブルの線膨張係数の違いから、ケーブルに引張応力が加わり、最悪の場合、電極との接合部等において断線する可能性がある。上記薄膜超音波センサの設置方法によれば、ケーブルが位置決め部材に対して移動可能に配置されているので、ケーブルに動きの自由度が与えられ、被検体の表面に密着固定されることを回避することができる。これにより、ケーブルと被検体の間に引張応力が生じるのを回避することができ、断線等の発生を回避することが可能となる。
【0018】
上記薄膜超音波センサの設置方法において、前記ケーブル位置決め工程では、前記ケーブルがたるみ部を有するように位置決めされることとしてもよい。
【0019】
上記薄膜超音波センサの設置方法によれば、ケーブルがたるみ部を有するように位置決めされる。換言すると、ケーブルが直線上ではなく、曲線を有するように配置される。これにより、ケーブルに引張応力が生じた場合に、応力方向にケーブルが移動することにより、信号線自体に張力が生じないようにすることができる。
【0020】
本発明の参考例としての他の態様は、薄板上の下部電極と、前記下部電極上に設けられた圧電素子と、前記圧電素子上に設けられた上部電極と、前記下部電極に接続された第1信号線と、前記上部電極に接続された第2信号線とを備える薄膜超音波センサを被検体に設置する薄膜超音波センサの設置方法であって、被検体の表面に耐熱性を有する接着剤を塗布して、該接着剤に薄膜超音波センサを載せる接着剤塗布工程と、前記接着剤を硬化させる硬化工程と、前記被検体に設置された前記薄膜超音波センサをハウジングで囲うハウジング設置工程と、前記ハウジング内に耐熱樹脂を充填する充填工程とを有する薄膜超音波センサの設置方法である。
上記薄膜超音波センサの設置方法によれば、薄膜超音波センサが接着剤により被検体の表面に設置された後、接着剤が硬化することにより、薄膜超音波センサが被検体に固定される。続いて、薄膜超音波センサを囲うようにハウジングが設置され、その内部に耐熱樹脂が充填される。これにより、薄膜超音波センサを周囲雰囲気から遮断することができ、万が一、可燃性ガス雰囲気において、断線等の理由から該接続部や第2信号線の一部においてスパークが発生したとしても、可燃性ガスへの引火を防止することが可能となる。
本発明の参考例としての他の態様は、上記薄膜超音波センサの設置方法を用いて前記被検体に設置された薄膜超音波センサを有する超音波探傷装置である。
【0021】
本発明の参考例としての他の態様は、可燃性ガス雰囲気になり得る環境に設置された被検体に固定された薄膜超音波センサと、不活性ガスを供給することにより、前記薄膜超音波センサの周辺を不活性ガス雰囲気とする不活性雰囲気生成手段とを備える超音波探傷装置である。
【0022】
上記超音波探傷装置によれば、可燃性ガス雰囲気になり得る環境に設置された被検体に固定された薄膜超音波センサの周辺に不活性ガスを供給することにより、薄膜超音波センサの周辺を不活性ガス雰囲気にすることが可能となる。このように、薄膜超音波センサの周辺から可燃性ガスを排除することにより、薄膜超音波センサの周辺を防爆環境とすることができる。
【0023】
上記超音波探傷装置において、前記薄膜超音波センサは、薄板上の下部電極と、前記下部電極上に設けられた圧電素子と、前記圧電素子上に設けられた上部電極と、前記下部電極にスポット溶接された第1信号線と、前記上部電極にスポット溶接された第2信号線とを備え、前記不活性雰囲気生成手段は、前記薄膜超音波センサに向けて不活性ガスを吹き付ける不活性ガス吹付手段を有し、前記不活性ガス吹付手段は、前記不活性ガスを吹き付けるノズルと、前記ノズルに前記不活性ガスを供給する不活性ガス供給管とを備え、前記第1信号線、前記第2信号線、及び前記不活性ガス供給管は、同一管内に収容されていてもよい。
【0024】
上記超音波探傷装置によれば、不活性ガス供給管、第1信号線、及び第2信号線が同一管内に収容されるので、配線・配管の取り回しをすっきりさせることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、万一、可燃性ガス雰囲気において薄膜超音波センサにスパークが発生したとしても、可燃性ガスへの引火を未然に防ぐことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1実施形態に係る薄膜超音波センサの設置例を示す説明図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る薄膜超音波センサの概略断面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る薄膜超音波センサの設置方法の手順を示すフローチャートである。
図4】本発明の第1実施形態において、接着剤とシール材が塗布された状態の薄膜超音波センサの一例を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態において、接着剤とシール材が塗布された状態の薄膜超音波センサの他の例を示す図である。
図6】本発明の第1の実施形態において、シール材の塗布例を示した図である。
図7】本発明の第1実施形態において、位置決め部材で位置決めされた状態における耐熱ケーブル及び位置決め部材の断面を模式的に示した図である。
図8】本発明の第1実施形態において、耐熱ケーブルの位置決め状態の一例を示した図である。
図9】耐熱ケーブルが直線的に位置決めされた状態を示した図である。
図10】本発明の第2実施形態における薄膜超音波センサの設置方法の手順を示したフローチャートである。
図11】本発明の第3実施形態における薄膜超音波センサの設置方法の手順を示したフローチャートである。
図12】本発明の第3実施形態において、ハウジングに囲われた状態の薄膜超音波センサを示した図である。
図13】本発明の第4実施形態に係る超音波探傷装置の構成を概略的に示した図である。
図14】本発明の第4実施形態に係る不燃性ガス供給配管の収容例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔第1実施形態〕
以下に、本発明の第1実施形態に係る薄膜超音波センサの設置方法及び超音波探傷装置について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る薄膜超音波センサ(以下「薄膜センサ」という)1の設置例を示す説明図である。図1において、被検体100は、発電プラントの配管や容器などとされる。例えば、被検体100は、石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated Coal Gasification Combined Cycle)プラント等の火力発電プラントの配管や容器などであり、生成ガス管のように、管内を可燃性ガスが流通する配管も含まれる。配管や容器の使用環境温度は、例えば、300℃以上600℃以下とされる。
図1に示すように、薄膜センサ1は、例えば、管の周方向に間隔をあけて配置され、管の肉厚を常時監視する。
【0028】
薄膜センサ1は、図2に示すように、薄板上の下部電極3と、下部電極3上に形成された圧電素子4と、圧電素子4上に設けられた上部電極5とを備えている。薄膜センサ1は、例えば10mm×20mmの長方形状とされている。
下部電極3は、厚さが20μm〜25μm程度の金属フィルムであり、具体的には、SUS(Stainless Steel:ステンレス鋼)薄板、白金薄板、金薄板、またはインコネル薄板などである。
圧電素子4は、例えば、セラミックス系(例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、ビスマス系、ニオブ酸リチウム等とされている。圧電素子4の厚さは、例えば、80μm程度である。
上部電極5は、厚さが20μm程度の薄膜状の電極とされ、金、銀、または白金により形成されている。
【0029】
上記のように、下部電極3、圧電素子4、及び上部電極5等により形成される薄膜センサ1は、センサ全体が可逆的に変形可能なフレキシビリティを有する。また、このような薄膜センサ1は、高温(例えば、600℃)にも耐え得る耐熱性を有している。
【0030】
更に、下部電極3の表面であって、圧電素子4が形成されていない部分には、第1信号線6がスポット溶接により電気的に接続されている。また、上部電極5の表面には、第2信号線7がスポット溶接により電気的に接続されている。第1信号線6及び第2信号線7は、それぞれの接合部から少し離れた場所から耐熱性の保護被覆により覆われ、これにより耐熱ケーブル8が形成されている。
薄膜センサ1は、下部電極3の一部、圧電素子4の一部、上部電極5、及び結線部、第1信号線6及び第2信号線7の一部が露出している状態とされている。
【0031】
次に、上述した薄膜センサの設置方法について図3を参照して説明する。
まず、被検体100の表面の所定のセンサ取付位置に、耐熱性を有する接着剤10(図4参照)を適量塗布し、接着剤10に薄膜センサ1を載せる(接着剤塗布工程:ステップSA1)。接着剤10は、例えば、導電性接着剤、銀ペースト等が用いられる。
【0032】
次に、下部電極3と第1信号線6との接合部及び第1信号線6の露出部(保護被覆により覆われていない部分)、並びに、上部電極5と第2信号線7との接合部及び第2信号線の露出部(保護被覆により覆われていない部分)を覆うように耐熱性を有するシール材12を塗布する(シール材塗布工程:ステップSA2)。図4に、接着剤10とシール材12が塗布された状態における薄膜超音波センサ1の設置例を示す。シール材12は、例えば、周辺温度が200℃以下の場合には樹脂系、周辺温度が200℃以上の場合には、セラミックス系(アルミナ系、シリカ系)等とされる。
【0033】
ここで、シール材塗布工程では、少なくとも上部電極5と第2信号線7との接続部及び第2信号線7の露出部を覆うように、シール材12が塗布されていればよい。また、接着剤10とシール材12とが超音波透過性を有する同一材質である場合には、図5に示すように、接着剤10(12)の上に載せられた薄膜センサ1の全体を包み込むようにシール材(接着剤)12(10)を塗布することとしてもよい。
【0034】
シール材12の塗布方法としては、接着剤10と同様に、ペースト状のものを塗布する他、図6に示すように、気化あるいはゾル化したシール材12をノズル15から噴射することにより、シール材12を塗布することとしてもよい。このように、シール材12を噴射することにより、比較的容易に、シール材12の厚さを薄く均一にすることができる。
【0035】
続いて、例えば、接着剤10やシール材12が加熱硬化型であれば、これらを加熱焼成するなど、接着剤10やシール材12の仕様に合わせて硬化を行う(硬化工程:ステップSA3)。例えば、加熱焼成を行う場合、加熱方法としてはテープヒーター、ラバーヒーター等を薄膜センサ1の上から巻く方法や、誘導加熱装置などによるものが考えられる。また、接着剤10、シール材12としては、加熱硬化型の接着剤の他に、例えば、紫外線硬化型、常温硬化型のものを用いることとしてもよい。
【0036】
このようにして、薄膜センサ1が被検体100の表面に固定されると、続いて、耐熱ケーブル8を被検体100の表面に沿わせ、位置決め部材20を用いて耐熱ケーブル8を被検体100の所定の位置に位置決めする(ケーブル位置決め工程:ステップSA4)。
図7に示すように、耐熱ケーブル8と位置決め部材20との間には空間22が設けられており、耐熱ケーブル8が位置決め部材20に対して移動可能に配置されている。好ましくは、空間22が耐熱ケーブル8の略全周に渡って形成されるとよい。このように、耐熱ケーブル8が位置決め部材20に対して移動可能に配置されているので、耐熱ケーブル8に動きの自由度が与えられ、例えば、耐熱ケーブル8と被検体100との間に引張応力が生じるのを回避することができ、断線等の発生を回避することが可能となる。
位置決め部材20は、例えば、金属箔で形成されており、スポット溶接によって被検体100に固定される。
【0037】
また、ケーブル位置決め工程においては、図8に示すように、耐熱ケーブル8がたるみ部を有するように位置決めしてもよい。例えば、図9に示すように、耐熱ケーブル8を直線的に位置決めするのではなく、たるみ部を有するように、換言すると、曲線を有するように位置決めすることにより、例えば、耐熱ケーブル8に引張応力が生じた場合に、応力方向に耐熱ケーブル8が移動することが可能となり、信号線自体に張力が生じないようにすることができる。
【0038】
このようにして、ケーブル位置決め工程が完了すると、例えば、耐熱ケーブル8における薄膜センサ1側と反対側の端部における第1信号線6及び第2信号線7が超音波探傷装置の本体(図示略)に接続され、公知の所定の手順が実行されることにより、薄膜センサ1を用いた探傷検査が開始される。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係る薄膜センサ1の設置方法及び超音波探傷装置によれば、少なくとも上部電極5と第2信号線7との接続部及び第2信号線7の露出部がシール材12によって覆れるので、万が一、可燃性ガス雰囲気で、断線等の理由から該接続部や第2信号線7の一部においてスパークが発生したとしても、可燃性ガスへの引火を防止することが可能となる。
【0040】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る薄膜センサ1の設置方法及び超音波探傷装置について図面を参照して説明する。
例えば、上述した図3のステップSA2におけるシール材塗布工程において、図5に示すように、薄膜センサ1全体をシール材12で覆うような場合、圧電素子4の上面にシール材12が密着することとなる。圧電素子4は、その性質上所定の振幅範囲(例えば、数ミクロン)で振動するため、上面にシール材12が直接的に塗布されて硬化した場合には、圧電素子4の振動を阻害し、性能が低下するおそれがある。そこで、本実施形態においては、圧電素子4の振動を阻害しないように、以下の手段を提供する。
以下、本実施形態にかかる薄膜センサ1の設置方法について、図10を参照して説明する。なお、上述した第1実施形態と同様の工程等については、同一の符号を付し説明を省略する。
【0041】
図10は、本実施形態における薄膜センサ1の設置方法の手順を示したフローチャートである。
まず、接着剤塗布工程(ステップSA1)において接着剤10を塗布し、その上に薄膜センサ1を載せる。続いて、圧電素子4の上面に耐熱性の絶縁膜を設ける(絶縁膜生成工程:ステップSB1)。絶縁膜は、シール材12とは異なる材質から形成されている。例えば、絶縁膜は、ガラステープ、ガラスクロス、高純度シリカ繊維を用いたシリカテープ、またはアルミナ繊維やセラミックファイバーを使用して織られたリボンテープ等を貼付して形成してもよい。また、耐熱性を有する粒子を塗布することにより形成してもよいし、セラミック(例えば、シリカ系、アルミナ系)、無機繊維等を材料とするペースト材を塗布することにより形成してもよい。また、使用温度が約200℃以下の場合には、樹脂系の材料により絶縁膜を形成してもよい。
次に、シール材塗布工程(ステップSA2)において、薄膜センサ1の全体を包み込むようにシール材12を塗布し、その後、硬化工程(ステップSA3)、ケーブル位置決め工程(ステップSA4)を行う。
【0042】
このように、接着剤塗布工程(ステップSA1)とシール材塗布工程(ステップSA1)との間に、絶縁膜生成工程(ステップSB1)を設けることにより、圧電素子4とシール材12との間に、シール材12とは異なる材質からなる絶縁膜を形成することができる。これにより、圧電素子4の性能を阻害しない程度(数ミクロン)の空間を確保することができ、圧電素子4の性能を維持することができる。
【0043】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態に係る薄膜センサ1の設置方法及び超音波探傷装置について図面を参照して説明する。なお、以下においては、上述した第1実施形態と共通する点については同様の符号を付して説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0044】
図11は、本実施形態に係る薄膜センサ1の設置方法の手順を示した図である。
まず、被検体100の表面の所定のセンサ取付位置に、耐熱性を有する接着剤10を適量塗布し、接着剤10に薄膜センサ1を載せる(接着剤塗布工程:ステップSA1)。
【0045】
次に、接着剤10を硬化させる(硬化工程:ステップSA3)。続いて、被検体100に固定された薄膜センサ1をハウジング30(図12参照)で囲う(ハウジング設置工程:ステップSC1)。図12に、ハウジング30に囲われた状態の薄膜センサ1を示す。ここで、ハウジング30は、金属性の構造体とされている。ハウジング30の形状については、ハウジング30の内部に薄膜センサ1を収容する空間を有していればよく、その厚みは、例えば、5mm程度とされている。例えば、ハウジング30は、ステップSA1において用いた接着剤10により、被検体100の表面に固定される。ハウジング30には、耐熱ケーブル8が貫通する貫通穴32が設けられており、この貫通穴32を介して耐熱ケーブル8がハウジング30の外部に引き出される。
ハウジング30が被検体100に固定されると、ハウジング内に耐熱樹脂を充填し(充填工程:ステップSC2)、その後、ケーブル位置決め工程が行われる(ステップSA4)。
【0046】
このように、本実施形態に係る薄膜センサ1の設置方法及び超音波探傷装置によれば、薄膜センサ1が接着剤10により被検体100の表面に設置された後、接着剤10が硬化することにより、薄膜センサ1が被検体100に固定される。続いて、薄膜センサ1を囲うようにハウジング30が設置され、その内部に耐熱樹脂が充填され、薄膜センサ1が周囲雰囲気から遮断される。これにより、仮に、可燃性ガス雰囲気において、断線等の理由によりスパークが発生したとしても、可燃性ガスへの引火を防止することができる。
【0047】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態に係る超音波探傷装置について図面を用いて説明する。なお、以下においては、上述した第1実施形態と共通する点については同様の符号を付して説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0048】
本実施形態に係る超音波探傷装置は、図13に示すように、被検体100の表面に接着剤10によって固定された薄膜センサ1と、この薄膜センサ1の周辺に不活性ガスを供給することにより、薄膜センサ1の周辺を不活性ガス雰囲気とする不活性ガス吹付部(不活性雰囲気生成手段)40を主な構成として有している。
ここで、薄膜センサ1は、上述した第1実施形態と同様に、下部電極3の一部、圧電素子4の一部、上部電極5、下部電極3と第1信号線6との接合部、及び上部電極5と第2信号線7との接合部等がむき出しとされており、また、接着剤10を用いて被検体100の表面に固定されている。
【0049】
不活性ガス吹付部40は、例えば、薄膜センサ1に向けて不活性ガスを吹き付けるノズル41と、ノズル41に不活性ガスを供給する不活性ガス供給管42とを主な構成として備えている。ここで、不活性ガス供給管42は、例えば、図14に示すように、耐熱ケーブル8と同じ耐熱配管50内に収容されてもよい。図14は、耐熱ケーブル8及び不活性ガス供給管42が収容された耐熱配管50の断面を模式的に示した図である。図14では、耐熱ケーブル8が同軸ケーブルとして表されているが、この例に限られない。なお、不活性ガス供給管42の収容例は、図14に示したものに限られず、例えば、耐熱ケーブル8と一つにまとめられて耐熱被覆によって巻回された構成とされてもよい。
【0050】
このような超音波探傷装置においては、不活性ガス吹付部40のノズル41に不活性ガス供給管42を通じて不活性ガスが供給されることにより、ノズル41から不活性ガスが薄膜センサ1に吹き付けられる。これにより、仮に、薄膜センサ1の周囲環境が可燃性ガス雰囲気とされていた場合でも、可燃性ガスを吹き飛ばして、不活性ガス雰囲気とすることが可能となる。そして、不活性ガス雰囲気において、超音波探傷装置による超音波探傷が公知の手順により開始される。
【0051】
以上、説明したように、本実施形態に係る超音波探傷装置によれば、たとえ可燃性ガス雰囲気に被検体100が設置されていたとしても、薄膜センサ1の周囲雰囲気を不活性ガス雰囲気にすることが可能となる。このように、薄膜センサ1の周辺から可燃性ガスを排除することにより、薄膜センサ1の周辺を防爆環境とすることができる。
また、超音波探傷装置によれば、不活性ガス供給管42が、耐熱ケーブル8と同一の配管内に収容されるので、配線・配管の取り回しをすっきりさせることができる。
また、本実施形態では、不活性ガス吹付部40によって、薄膜センサ1の周囲雰囲気を不活性ガス雰囲気にしたが、これに代えて、他の手段により被検体100の周辺に不活性ガスの流れを生成して、より広範囲の不活性ガス雰囲気を生成することとしてもよい。
【0052】
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 薄膜超音波センサ(薄膜センサ)
3 下部電極
4 圧電素子
5 上部電極
6 第1信号線
7 第2信号線
8 耐熱ケーブル
10 接着剤
12 シール材
15 ノズル
20 位置決め部材
30 ハウジング
40 不活性ガス吹付部
41 ノズル
42 不活性ガス供給管
100 被検体
図1
図2
図3
図4
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