特許第6469491号(P6469491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6469491
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】ブシュ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/10 20060101AFI20190204BHJP
   F16C 33/14 20060101ALI20190204BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20190204BHJP
   B21D 53/10 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   F16C33/10 Z
   F16C33/14 Z
   F16C17/02 Z
   B21D53/10 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-61073(P2015-61073)
(22)【出願日】2015年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-180463(P2016-180463A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2017年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】相浦 清史
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−227119(JP,A)
【文献】 特開2005−308021(JP,A)
【文献】 特開2011−214672(JP,A)
【文献】 特開昭50−076451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 53/10
F16C 17/00−17/26
F16C 33/00−33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成されるブシュ本体と、
前記ブシュ本体の内周面に形成される溝と、
を具備し、
前記溝は、
長手方向における少なくとも一方の先端部が、前記ブシュ本体の軸線方向における中途部に位置するように形成され、
前記長手方向又は前記長手方向と交差する幅方向からの断面視において、前記溝のうち、前記先端部の壁面のみが前記ブシュ本体の前記内周面に対して鈍角をなすように形成される、
ブシュ。
【請求項2】
前記溝は、
前記先端部の前記壁面が、前記幅方向からの断面視において、前記溝の底面に対して滑らかなアール形状となるように形成される、
請求項1に記載のブシュ。
【請求項3】
前記溝は、
前記先端部が、前記溝の深さ方向視において先細りとなるように形成される、
請求項1又は請求項2に記載のブシュ。
【請求項4】
板材を準備する板材準備工程と、
プレス加工により前記板材に溝を形成する溝形成工程と、
前記溝が形成された前記板材を円筒状に曲げる曲げ工程と、
を具備し、
前記溝形成工程において、前記溝は、
長手方向における少なくとも一方の先端部が、前記円筒状の板材の軸線方向となる方向において、前記板材の中途部に位置するように形成され、
前記長手方向又は前記長手方向と交差する幅方向からの断面視において、前記溝のうち、前記先端部の壁面のみが前記溝が形成された前記板材の面に対して鈍角をなすように形成される、
ブシュの製造方法。
【請求項5】
前記溝形成工程において、前記溝は、
前記先端部の前記壁面が、前記幅方向からの断面視において、前記溝の底面に対して滑らかなアール形状となるように形成される、
請求項4に記載のブシュの製造方法。
【請求項6】
前記溝形成工程において、前記溝は、
前記先端部が、前記溝の深さ方向視において先細りとなるように形成される、
請求項4又は請求項5に記載のブシュの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状で内周面に溝が形成されたブシュ及びその製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、円筒状で内周面に溝が形成されたブシュの技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1には、シャフトを支持する内周面(軸受面)と、当該内周面に形成される溝とを具備する円筒状のブシュが記載されている。前記溝は、ブシュの軸線方向に非開放に(ブシュの軸線方向における中途部に)形成されている。前記溝は、当該溝に潤滑油を保持することで、ブシュとシャフトとの間での焼き付きの発生を抑制することを目的としている。
【0004】
しかしながら、このように構成されるブシュにおいて、ブシュの軸線方向における先端部近傍には前記溝が形成されていないため、前記先端部近傍には潤滑油が供給され難い。このため、焼き付きの発生を十分に抑制できないおそれがある。
【0005】
一方、前記溝をブシュの軸線方向に開放するように形成すると、潤滑油が内周面から排出されてしまい、当該内周面において潤滑油が不足するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2012−515303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、焼き付きの発生を抑制することができるブシュ及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、円筒状に形成されるブシュ本体と、前記ブシュ本体の内周面に形成される溝と、を具備し、前記溝は、長手方向における少なくとも一方の先端部が、前記ブシュ本体の軸線方向における中途部に位置するように形成され、前記長手方向又は前記長手方向と交差する幅方向からの断面視において、前記溝のうち、前記先端部の壁面のみが前記ブシュ本体の前記内周面に対して鈍角をなすように形成されるものである。
【0010】
請求項2においては、前記溝は、前記先端部の前記壁面が、前記幅方向からの断面視において、前記溝の底面に対して滑らかなアール形状となるように形成されるものである。
【0011】
請求項3においては、前記溝は、前記先端部が、前記溝の深さ方向視において先細りとなるように形成されるものである。
【0012】
請求項4においては、板材を準備する板材準備工程と、プレス加工により前記板材に溝を形成する溝形成工程と、前記溝が形成された前記板材を円筒状に曲げる曲げ工程と、を具備し、前記溝形成工程において、前記溝は、長手方向における少なくとも一方の先端部が、前記円筒状の板材の軸線方向となる方向において、前記板材の中途部に位置するように形成され、前記長手方向又は前記長手方向と交差する幅方向からの断面視において、前記溝のうち、前記先端部の壁面のみが前記溝が形成された前記板材の面に対して鈍角をなすように形成されるものである。
【0013】
請求項5においては、前記溝形成工程において、前記溝は、前記先端部の前記壁面が、前記幅方向からの断面視において、前記溝の底面に対して滑らかなアール形状となるように形成されるものである。
【0014】
請求項6においては、前記溝形成工程において、前記溝は、前記先端部が、前記溝の深さ方向視において先細りとなるように形成されるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、焼き付きの発生を抑制することができる。
【0017】
請求項2においては、焼き付きの発生を抑制することができる。
【0018】
請求項3においては、焼き付きの発生を抑制することができる。
【0019】
請求項4においては、溝形成工程における板材の割れの発生を抑制することができる。
【0020】
請求項5においては、溝形成工程における板材の割れの発生を抑制することができる。
【0021】
請求項6においては、溝形成工程における板材の割れの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るブシュ及び当該ブシュの使用状態を示す断面図。
図2】(a)溝の拡大図。(b)そのB−B断面図。
図3】本発明の一実施形態に係るブシュの製造方法のフローチャート。
図4】溝形成工程における板材を示す斜視図。
図5】板材切断工程における板材を示す斜視図。
図6】(a)第一曲げ工程を示す概略図。(b)第二曲げ工程を示す概略図。
図7】サイジング工程を示す概略図。
図8】従来技術との差異を示す溝の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、図中の矢印C、矢印R及び矢印Sで示した方向を、それぞれ軸線方向、径方向及び周方向と定義して説明を行う。
【0024】
まず、図1を用いて、本発明の第一実施形態に係るブシュ100が使用されている状態の概要について説明する。
【0025】
ブシュ100は、軸部材(本実施形態においては、後述するシャフト2)を滑らかに回転可能に支持するものである。本実施形態に係るブシュ100は、自動車が具備する変速装置(例えば、オートマチックトランスミッション(A/T)、無段変速機(CVT)等)に設けられるものとする。ブシュ100は、前記変速装置のハウジング1に取り付けられると共に、シャフト2を回転可能に支持する。
【0026】
ハウジング1は、前記変速装置に設けられる種々の軸部材や歯車等を支持する部材である。ハウジング1には、シャフト2を挿通可能な軸受部1aが形成される。軸受部1aは、軸線方向に沿ってハウジング1を貫通するように形成される。軸受部1aは、軸線方向視において円形断面を有するように形成される。
【0027】
ブシュ100は、略円筒状に形成される。ブシュ100は、ハウジング1の軸受部1aに嵌め込まれることで、当該ハウジング1に固定される。
【0028】
シャフト2は、回転することで駆動力を伝達する部材である。シャフト2は、ブシュ100に挿通されることで、当該ブシュ100によって回転可能に支持される。
【0029】
このように構成されたブシュ100には、図示せぬ油路を介して潤滑油が供給される。具体的には、前記自動車のエンジンが始動すると、当該エンジンの駆動力によってオイルポンプが作動する。当該オイルポンプによって潤滑油が圧送され、前記油路を介してブシュ100へと潤滑油が供給される。
【0030】
ブシュ100へと供給された潤滑油によって、当該ブシュ100とシャフト2との間に潤滑油の膜(油膜)が形成される。シャフト2は、当該油膜を介してブシュ100に回転可能に支持される。また、ブシュ100は油膜を介してシャフト2を支持するため、当該ブシュ100とシャフト2との間での焼き付きの発生を抑制することができる。
【0031】
次に、図1及び図2を用いて、ブシュ100の詳細な構成について説明する。
【0032】
ブシュ100は、上述したように、シャフト2を回転可能に支持するものである。ブシュ100は、軸線方向に延びる円筒状に形成される。ブシュ100は、ブシュ本体10及び溝20を具備する。
【0033】
ブシュ本体10は、ブシュ100の主たる構造体を構成するものである。ブシュ本体10は、軸線方向に延びる円筒状に形成される。ブシュ本体10には内周面11が形成される。
【0034】
内周面11は、円筒状に形成されるブシュ本体10の内周側の面である。内周面11は、シャフト2を回転可能に支持する。
【0035】
溝20は、シャフト2との間で潤滑油を保持するものである。溝20は、ブシュ本体10の内周面11を窪ませた溝状となるように形成される。溝20は、長手方向を概ね軸線方向に向けて(長手方向を軸線方向に対して若干傾けて)形成される。溝20は、ブシュ本体10の内周面11の一方側(図1にて視認できる側)に2つ、及び前記一方側と対向する他方側に2つ、計4つ形成される。溝20の軸線方向における一方の先端側は、ブシュ本体10の軸線方向における端部まで延びて開放される。溝20の軸線方向における他方の先端側は、ブシュ本体10の軸線方向における中途部まで延びて非開放とされる。4つの溝20は、前記一方の先端側(開放側)が軸線方向の一方側に向くものと軸線方向の他方側に向くものが、周方向において交互となるように配置される。溝20には、底面21及び先端部22が形成される。
【0036】
底面21は、溝20の底部に形成される面である。底面21は、ブシュ本体10の内周面11から下方に窪んだ位置に形成される。
【0037】
先端部22は、溝20の長手方向における非開放側の端部近傍の部分である。先端部22は、ブシュ本体10の軸線方向における中途部に位置する。先端部22は、溝20の深さ方向視(径方向視)において先細りとなるように形成される。具体的には、先端部22は、溝20の深さ方向視において、頂部がアール形状に丸められた山型に形成される。本明細書において、「先細り」とは、溝20の幅が狭くなり始める点から先端部22の頂点までの溝20の長手方向における距離L2が、溝20の幅L1の半分よりも大きい、すなわち、L2>L1/2の関係が成り立つ状態をいう(図2(b)参照)。先端部22には壁面22aが形成される。
【0038】
壁面22aは、先端部22の側壁である。つまり、壁面22aは、先端部22においてブシュ本体10の内周面11と底面21とを繋ぐ面である。壁面22aは、溝20の長手方向と交差する幅方向(溝20の深さ方向から見て溝20の長手方向に垂直な方向)からの断面視(図2(a)に示すB−B断面視)において、ブシュ本体10の径方向外側に膨らむアール形状となるように形成される。壁面22aは、底面21に対して滑らかに連続するように形成される。つまり、壁面22aは、前記幅方向からの断面視において、底面21が描く線が壁面22aが描くアール形状の下端の点P(図2(b)参照)において当該アール形状の接線となるように形成される。
【0039】
壁面22aは、ブシュ本体10の内周面11に対して緩やかな勾配となるように形成される。具体的には、壁面22aは、前記幅方向からの断面視において、壁面22aとブシュ本体10の内周面11とが鈍角αをなすように形成される(図2(b)参照)。必然的に、壁面22aは、溝20の深さよりも大きなアールを有するように形成される。
【0040】
このように構成される溝20により、溝20とシャフト2とによって囲まれた空間内(溝20内)に潤滑油を保持することができる。よって、ブシュ本体10の内周面11において潤滑油が不足(枯渇)するのを抑制することができる。このため、図示せぬ油路からブシュ100に潤滑油が十分に供給されていない状態でシャフト2が回転する場合でも、ブシュ本体10の内周面11とシャフト2との間での焼き付きの発生を抑制することができる。なお、ブシュ100に潤滑油が十分に供給されていない場合としては、例えば前記エンジンの始動直後(エンジンが始動してからブシュ100に潤滑油が供給されてくるまでの間)や、前記エンジンを始動させないまま前記自動車を牽引する場合等が想定される。
【0041】
さらに、壁面22aがブシュ本体10の内周面11に対して緩やかな勾配となるように形成されることにより、壁面22aが内周面11に対して垂直に形成されたものと比べて、溝20に保持された潤滑油は、壁面22aに沿って溝20の外へと排出され易くなる。したがって、ブシュ100の軸線方向における両端部近傍において、ブシュ本体10の内周面11とシャフト2との間に潤滑油を供給することができる。このように、溝20が形成されていない箇所にも潤滑油を供給することができるため、ブシュ100の軸線方向における両端部近傍において、ブシュ本体10の内周面11とシャフト2との間での焼き付きの発生を抑制することができる。
【0042】
つまり、上述の如く壁面22aが形成されることにより、溝20内に潤滑油を保持しつつ、内周面11とシャフト2との間に潤滑油を適度に供給することができる。したがって、ブシュ100の軸線方向における両端部近傍において、ブシュ本体10の内周面11とシャフト2との間での焼き付きの発生を抑制することができると共に、ブシュ100に潤滑油が十分に供給されていない状態でシャフト2が回転する場合でも、ブシュ本体10の内周面11とシャフト2との間での焼き付きの発生を抑制することができる。
【0043】
以上の如く、本実施形態に係るブシュ100は、円筒状に形成されるブシュ本体10と、前記ブシュ本体10の内周面11に形成される溝20と、を具備し、前記溝20は、長手方向における少なくとも一方の先端部22が、前記ブシュ本体10の軸線方向における中途部に位置するように形成され、前記長手方向と交差する幅方向からの断面視において、前記先端部22の壁面22aと前記ブシュ本体10の前記内周面11とが鈍角αをなすように形成されるものである。
このように構成することにより、焼き付きの発生を抑制することができる。
【0044】
また、前記溝20は、前記先端部22の前記壁面22aが、前記幅方向からの断面視において、前記溝20の底面21に対して滑らかなアール形状となるように形成されるものである。
このように構成することにより、焼き付きの発生を抑制することができる。
【0045】
また、前記溝20は、前記先端部22が、前記溝20の深さ方向視において先細りとなるように形成されるものである。
このように構成することにより、焼き付きの発生を抑制することができる。
【0046】
次に、図2から図8を用いて、ブシュ100の製造方法について説明する。
【0047】
本発明の一実施形態に係るブシュ100の製造方法は、板材準備工程、溝形成工程、板材切断工程、曲げ工程及びサイジング工程を具備する(図3参照)。
【0048】
板材準備工程において、ブシュ100の材料となる板材30を準備する(ステップS101)。板材30としては、平板状の適宜の材料(例えば鉄系の材料)が使用され、例えば、コイル状の鋼板をプレス加工にて適宜に切断したものが使用される。
【0049】
図4に示す溝形成工程において、前記板材準備工程において準備された板材30に、プレス加工により溝20を形成する(ステップS102)。溝20は、板材30の一面(ブシュ本体10の内周面11となる面、以下、内周面11と称す)を窪ませた溝状となるように形成される。溝20は、長手方向を概ね軸線方向(となる方向)に向けて(長手方向を軸線方向に対して若干傾けて)形成される。溝20の軸線方向における一方の先端側は、板材30の軸線方向における端部まで延びて開放される。溝20の軸線方向における他方の先端側は、板材30の軸線方向における中途部まで延びて非開放とされる。溝20は、前記一方の先端側(開放側)が軸線方向の一方側に向くものと前記一方の先端側が軸線方向の他方側に向くものが、周方向において交互となるように配置される。
【0050】
溝20は、先端部22が板材30の軸線方向における中途部に位置するように形成される。先端部22は、溝20の深さ方向視(径方向視)において先細りとなるように形成される。図2(b)に示す如く、壁面22aは、溝20の長手方向と交差する幅方向からの断面視において、内周面11に対して緩やかな勾配を有する(壁面22aとブシュ本体10の内周面11とが鈍角αをなす)アール形状に形成される。壁面22aは、底面21に対して滑らかに連続するように形成される。
【0051】
ここで、溝形成工程においてプレス加工にて溝20を形成する際、板材30の溝20の周囲の部分(肉)が溝20側に引っ張られる。この引っ張られる量(体積)が大きいと、板材30の割れや欠けを引き起こす。
【0052】
本実施形態においては、溝形成工程において、溝20は、上述の如く、先端部22の壁面22aがブシュ本体10の内周面11に対して緩やかな勾配となるように(鈍角αをなすように)形成される。このため、プレス加工にて溝20を形成する際に、溝20の先端部22において潰される板材30の肉の量は、壁面22aが内周面11に対して垂直に形成されたものと比べて、図8に示す領域Dの分だけ小さくなる。したがって、溝20側に引っ張られる板材30の先端部22の周囲の肉の量も、前記領域Dの分だけ小さくなる。
【0053】
このように、本実施形態の溝形成工程によれば、溝20側に引っ張られる板材30の肉の量を減らすことができるため、板材30の割れや欠けの発生を抑制することができる。なお、図8においては、断面を示すハッチングを省略している。
【0054】
また、溝20の先端部22において、内周面11との境界に近い部分は、壁面22aが内周面11に対して垂直に形成されたものと比べて、溝20形成時の径方向の変位が小さい。よって、先端部22の周囲の板材30の肉が大きく引っ張られることがない。このため、板材30の割れや欠けの発生を抑制することができる。
【0055】
また、上述したように、溝20の先端部22は、溝20の深さ方向視において先細りとなるように形成されている。このため、プレス加工にて溝20を形成する際に、溝20側に引っ張られる板材30の肉の量が、例えば先端部22が半円状に形成されたものと比べて小さくなる。このように、本実施形態の溝形成工程によれば、溝20側に引っ張られる板材30の肉の量を減らすことができるため、板材30の割れや欠けの発生を抑制することができる。
【0056】
図5に示す板材切断工程において、溝20が形成された板材30をプレス加工により切断する(ステップS103)。板材30の切断は、型を径方向にプレスすることで行われる。板材切断工程において、板材30は、ブシュ100の1つ分の材料となる矩形状に切断される。
【0057】
図6に示す曲げ工程において、板材切断工程において切断した板材30を円筒状に曲げる。前記曲げ工程は、図6(a)に示す第一曲げ工程(ステップS104)と、図6(b)に示す第二曲げ工程(ステップS105)とに分けられる。
【0058】
図6(a)に示す第一曲げ工程において、板材30の周方向における両端部を、内周面11側に向けて押圧することにより、板材30の周方向における中心側に向かって(図6(a)に示す矢印方向へ)曲げる。その結果、板材30は、一方が開口した略U字状となる。
【0059】
図6(b)に示す第二曲げ工程において、略U字状の板材30を円筒状に曲げる。板材30の先端部を板材30の内周面11側に向けて押圧することにより、略U字状に曲げられた板材30は、さらに板材30の内周面11側へ曲げられる。その結果、前記両端部が互いに突き合う円筒状のブシュ100が得られる。
【0060】
図7に示すサイジング工程において、ブシュ100の外周面の真円度を向上させる(ステップS106)。サイジング工程においては、ダイス40が使用される。ダイス40は、円筒状に形成され、その内周の断面は高精度な真円に加工されている。このサイジング工程において、ブシュ100をダイス40の内側に通過させる。これにより、外周面の真円度が向上したブシュ100が得られる。
【0061】
必要に応じて、ブシュ100の内周面11もサイジングを行い、所望の内径のブシュ100とする。
【0062】
以上の工程を経ることで、ブシュ100を製造することができる。
【0063】
以上の如く、本実施形態に係るブシュ100の製造方法は、板材30を準備する板材準備工程と、プレス加工により前記板材30に溝20を形成する溝形成工程と、前記溝20が形成された前記板材30を円筒状に曲げる曲げ工程と、を具備し、前記溝形成工程において、前記溝20は、長手方向における少なくとも一方の先端部22が、前記円筒状の板材30の軸線方向となる方向において、前記板材30の中途部に位置するように形成され、前記長手方向と交差する幅方向からの断面視において、前記先端部22の壁面22aと前記ブシュ本体10の前記内周面11とが鈍角αをなすように形成されるものである。
このように構成することにより、溝形成工程における板材30の割れの発生を抑制することができる。
【0064】
また、前記溝形成工程において、前記溝20は、前記先端部22の前記壁面22aが、前記幅方向からの断面視において、前記溝20の底面21に対して滑らかなアール形状となるように形成されるものである。
このように構成することにより、溝形成工程における板材30の割れの発生を抑制することができる。
【0065】
また、前記溝形成工程において、前記溝20は、前記先端部22が、前記溝20の深さ方向視において先細りとなるように形成されるものである。
このように構成することにより、溝形成工程における板材30の割れの発生を抑制することができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0067】
例えば、本実施形態に係るブシュ100は、自動車の変速装置に設けられるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、本発明に係るブシュは、任意の用途に用いることが可能である。
【0068】
また、本実施形態においては、溝20は、ブシュ本体10に対して、軸線方向における一方の先端側のみ開放される(軸線方向における他方の先端側は非開放となる)ように形成されるものとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。溝20は、ブシュ本体10に対して、軸線方向における両方の先端側とも非開放となるように形成される(すなわち、先端部22が溝20の長手方向の両端に形成される)ことも可能である。
【0069】
また、本実施形態においては、溝20は、開放側が軸線方向の一方側に向くものと、軸線方向の他方側に向くものが、周方向において交互となるように配置されるものとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。開放側が軸線方向の一方側に向く溝20と、開放側が軸線方向の他方側に向く溝20は、適宜の順番で配置されればよい。また、溝20は、開放側が軸線方向の一方側(あるいは他方側)に向くもののみでもよい。
【0070】
また、本実施形態においては、溝20はブシュ100に4つ形成されるものとしたが、溝20の数は限定されるものではなく適宜形成すればよい。
【0071】
また、本実施形態においては、溝20は直線状に形成されるものとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、溝20は、曲線状に形成されてもよく、また、先端部22が複数形成されるように分岐していてもよい。
【0072】
また、本実施形態においては、ブシュ100は平板状の板材30を円筒状に曲げて形成するものとしたが、これに限定されるものではなく、種々の方法で形成することが可能である。
【0073】
また、本実施形態においては、溝20を形成した後に板材30を切断するものとしたが、板材30を切断した後に溝20を形成することも可能である。
【0074】
また、本実施形態においては、サイジング工程を行っているが、前記サイジング工程は必ずしも行わねばならないものではない。
【符号の説明】
【0075】
10 ブシュ本体
11 内周面
20 溝
21 底面
22 先端部
22a 壁面
30 板材
100 ブシュ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8