(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記駆動ユニットおよび前記油圧ポンプのうちのいずれか一方の回転軸の軸端に他方の回転軸が受け入れている状態を維持するために、前記工具ユニットと前記駆動ユニットとを前記回転軸の軸線方向に固定するロック機構をさらに備えた、請求項1または2記載の油圧作動装置。
【背景技術】
【0002】
従来から、レスキューの用途に可搬型の油圧作動装置を利用することが行われており、その一例が特許文献1(特開2010−280011号)に記載されている。特許文献1に記載された油圧作動装置は、バッテリーと、このバッテリーから給電される電動モータと、この電動モータにより駆動される油圧ポンプとを有する油圧発生ユニットと、この油圧発生ユニットが発生する油圧により駆動される先端工具を備えた上記油圧発生ユニットに着脱可能なヘッドユニットとから構成されている。ヘッドユニットに設けられる先端工具として、カッター、スプレッダーなどのさまざまな種類のものが用意されており、ヘッドユニットを交換することにより多種多様な作業に対応することができる。また、油圧発生ユニットとヘッドユニットとを分離可能とすることにより、可搬性を向上させ、現場での作業員の負担を軽減することができる。上記構成を採用する場合には、油圧発生ユニットとヘッドユニットとの間に油圧継手が設けられる。
【0003】
可搬型の油圧作動装置を、電動モータを有する駆動ユニットと、駆動ユニットに対して着脱自在でありかつ駆動ユニットの電動モータにより回転駆動される油圧ポンプおよび当該油圧ポンプが発生した油圧により動作する先端工具とを有するヘッドユニット(工具ユニット)とから構成することも考えられる。この場合には、駆動ユニットとヘッドユニットとの間に、駆動側回転軸から従動側回転軸にトルクを伝達する着脱自在のトルク伝達継手を設ける必要がある。
【0004】
レスキュー用途を考慮すると、トルク伝達継手の結合および分離を迅速に行う必要がある。かみあい式(キー/キー溝式、ドッグクラッチ式等)のトルク伝達継手は、結合時に駆動側回転軸と従動側回転軸との回転位相合わせをしなければならず、結合作業に時間がかかる。トルク伝達継手として磁気継手を用いた場合には、分離操作が面倒になることや、構造が複雑化してコスト高になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、発明の実施の形態について説明する。
【0011】
図1に示すように、油圧作動式のレスキュー器具(油圧作動装置)は、油圧ポンプ120と油圧ポンプが発生した油圧により動作する工具140とを一体化して構成された工具ユニット100と、油圧ポンプ120を駆動する回転モータである電動モータ201を内蔵した駆動ユニット200とから構成されている。駆動ユニット200は、工具ユニット100に対して着脱自在である。
【0012】
図1に示す油圧作動装置は、工具ユニット100の工具140の一対の押棒141を互いに離間させるように動作させることにより、人を救出するスペースを作り出したり、重量物を持ち上げたり、邪魔な物体を破壊する等の作業を行う等の使用態様を意図して設計されている。
【0013】
最も基本的な油圧作動装置の使用態様は、まず、一人の作業者が、工具ユニット100を駆動ユニット200から分離した状態で、拡張したい隙間Gの中に工具ユニット100を配置する。このとき、必要に応じて、
図1に概略的に示した保持ハンドル101を用いることができる。この状態で、もう一人の別の作業者が、駆動ユニット200の回転軸を工具ユニット100の回転軸に結合して、駆動ユニット200を動作させる。本実施形態に係る油圧作動装置には、上記の2つの回転軸間のトルク伝達結合および結合解除(分離)を容易に行うことができるトルク伝達継手構造が設けられている。
【0014】
まず、工具ユニット100について説明する。
図2に示すように、油圧ポンプ120は、当該油圧ポンプのケーシングを成すブロック体121を有する。ブロック体121に形成された孔の中に、ベアリング122を介して回転軸123が回転可能に支持されている。回転軸123は、その回転軸線124に対して偏芯した偏芯部125を有している。この偏芯部125には、ベアリング126(本例ではニードルローラベアリング)が取り付けられている。
【0015】
ブロック体121にはまた、ピストン127を収容する空洞が形成されている。ピストン127は、バネ128により、ベアリング126の外レース126aに向けて常時押し付けられている。従って、回転軸123の回転に伴い、偏芯回転運動するベアリング126の外レース126aがカムとして作用し、ピストン127が上下運動する。これにより、油圧ポンプ120の大きな油室129Aまたは小さな油室129Bから工具140に向けて圧油が送られ、工具140が作動する。
【0016】
図1に示すように、工具140は、シリンダ142と、シリンダ142内に設けられた前記一対の押棒141とを有している。各押棒141には、それと一体のピストン部分141aが設けられている。シリンダ142内において一対の押棒141のピストン部分141aの間に第1油室143が形成され、また、各ピストン部分141aの第1油室143と反対側に第2油室144が形成されている。第1油室143に圧油を供給することにより、2つの押棒141が図中左右方向に互いに離間するように移動し、2つの第2油室144に圧油を供給することにより、2つの押棒141が互いに接近するように移動する。
【0017】
シリンダ142の周囲には、後述する油圧回路におけるタンクとしての役割を果たす油貯め145が設けられている。例えば、シリンダ142と、シリンダ142の周囲を覆うゴム製の筒状体との間の空間を油貯め145とすることができる。
【0018】
次に、工具140に油圧ポンプ120から圧油を供給する油圧回路について
図4を参照して説明する。
図4の油圧回路図においてポンプを示す2つのシンボルマークが、油圧ポンプ120の大きな油室129Aおよび小さな油室129Bのポンプ機能を示している。
【0019】
図4に示す油圧回路図において符号132は回転式の方向切替弁である。この方向切替弁132は、
図1に示すブロック体121上のダイヤル(回転つまみ)102の付近に内蔵され、ダイヤル102を回転させることにより操作することができる。
図4に示す油圧回路図の図面上において、図示されている中立位置から方向切替弁132を
図4右方にシフトさせると、シリンダ142内の第1油室143に圧油を供給することができ、方向切替弁132を左方にシフトさせると、第2油室144に圧油を供給することができる。
【0020】
符号130Aは低圧用のリリーフ弁、130Bは高圧用のリリーフ弁である。符号133a, 133b, 133c, 133d, 133eは逆止弁である。
【0021】
図4の油圧回路図から明らかなように、油室129A(129B)内の圧力が高まる前の段階では、大流量を実現することができる大きな油室129Aと、小さな油室129Bとから吐出される圧油によりシリンダ142内の油室142(143)が充填され、また、油室129A(129B)内の圧力がある程度高まった後の段階では、高圧を実現することができる小さな油室129Aから吐出される圧油によりシリンダ142内の油室142(143)が充填される。
【0022】
図1に示すように、駆動ユニット200には、リチウムイオン電池またはニッケル水素電池等の二次電池からなるバッテリー202等の直流電源が着脱自在に取り付けられている。トリガ203を引くことにより、電気スイッチ204が閉状態になり、バッテリー202から前述したモータ201に給電され、これによりモータ201を回転させることができる。
【0023】
図2および
図3に示すように、モータ201の回転軸205はその先端部に円筒形の差込部206を有する。差込部206の先端部には差込(挿入)を円滑に行うためにテーパー207が設けられている。一方、油圧ポンプ120の回転軸123の先端部には孔が形成されており、この孔の中にワンウエイクラッチ134が取り付けられている。
【0024】
ここで用いられているワンウエイクラッチ134の構成それ自体は周知のものである。すなわち、ワンウエイクラッチ134は、
図5に示すように、複数のニードル(ニードルローラー)135と、回転軸205の差込部206がこのワンウエイクラッチ134内に挿入されていないときにニードル135を脱落しないように保持する保持器(リテーナ)136と、各ニードル135に対応するカム面138がその内周側に設けられた外レース137と、各ニードル135が回転軸205の差込部206と接触した状態を維持するように付勢するばね139とを備えている。
【0025】
外レース137は、油圧ポンプ120の回転軸123の先端の孔に圧入され、外レース137と回転軸123とは相対回転不能である。外レース137と回転軸123とを圧入以外の手法により相対回転不能にしてもよい。
【0026】
モータ201の回転軸205の差込部206の外径は、差込部206がワンウエイクラッチ134内に差し込まれていないときにワンウエイクラッチ134の中心軸線から最も近くに位置する各ニードル135の周面上のポイントPを通る円の直径よりわずかに大きいことが好ましい。ワンウエイクラッチ134に差込部206を差し込もうとすると、ニードル135がばね139の力に逆らい
図5の時計回り方向に変位するので、差込部206をワンウエイクラッチ134内に差し込むことができる。
【0027】
図5において、電動モータ201により回転軸205の差込部206を反時計方向に回転させると、ニードル135がロック位置(
図5に示す位置よりも反時計方向に変位した位置)に移動し、これにより回転軸205とワンウエイクラッチ134の外レース137との間の相対回転が不可能となり(ロック状態)、モータ201の回転軸205の回転はニードル135および外レース137を介して油圧ポンプ120の回転軸123にそのまま伝達される。これにより油圧ポンプ120が動作し、工具140が方向切替弁132の位置に応じた動作をする。
【0028】
図5において、回転軸205の差込部206を反時計方向に回転させようとするトルクを電動モータ201が発生しなくなれば、ワンウエイクラッチ134のロック状態が解除されるとともに、差込部206を容易に引き抜くことができるようになる。
【0029】
油圧作動装置には、差込部206がワンウエイクラッチ134内に受け入れられた状態を維持するために、工具ユニット100と駆動ユニット200とを回転軸123,205の軸線方向に関して固定するロック機構が設けられている。以下にこのロック機構について説明する。
【0030】
駆動ユニット200には、回転軸205の周りに回転軸205から間隔を空けて設けられた第1リング部材210が設けられている。第1リング部材210の周りに第2リング部材212が設けられている。さらに、第2リング部材212の周りに第3リング部材214が設けられている。第2リング部材212は、駆動ユニット200のケーシングに対して不動に固定されている。
【0031】
第1リング部材210は、第2リング部材212内を回転軸205の回転軸線方向にスライド可能である。第1リング部材210は、ばね211により
図2中左方向に付勢されている。但し、第1リング部材210の
図2(
図3)中左方向の変位は第2リング部材212に設けられたストッパ213により制限されている。
【0032】
第3リング部材214は、第2リング部材212上を回転軸205の回転軸線方向にスライド可能である。第3リング部材214は、ばね215により
図2中左方向に付勢されている。但し、第3リング部材214の
図2中左方向の変位は第2リング部材212に設けられたストッパ216により制限されている。第2リング部材212に円周方向に間隔を空けて複数の孔(
図2、
図3では1つだけが見える)が形成されており、各孔の中には長円形断面を有するピン217が収容されている。
【0033】
図3に示した工具ユニット100と駆動ユニット200とを分離した状態から、差込部206をワンウエイクラッチ134内に差し込んでゆくと、工具ユニット100のブロック体121と一体に結合された押込部121aにより、第1リング部材210が図中右方向に押し込まれる。ピン217が、押込部121aの表面に形成された窪み121bと一致すると、ピン217が窪み121bに押し込まれる。このピン217を押し込む力は、ばね215により図中左側に付勢されている第3リング部材214の図中左端部にある傾斜面218がピン217を押すことにより生じる。なお、傾斜面218はピン217を窪み121bに押し込んだ後にピン217を乗り越え、ストッパ216に衝突する。駆動ユニット200の工具ユニット100に対する連結操作が終了した後の状態が
図2に示されている。
【0034】
図2に示す連結状態から
図3に示す分離状態に移行させるには、第3リング部材214のフランジ219を持って、第3リング部材214をばね215に逆らって
図3に示すように図中右側に移動させる。すると、ピン217が窪み121bから抜け出すことができる状態になる。これに伴い、第1リング部材210がばね211の力により工具ユニット100のブロック体121の押込部121aを第2リング部材212の中から図中左方向に押し出す。これに伴い、窪み121bの内表面である傾斜面がピン217を外側に押し出す。これにより差込部206がワンウエイクラッチ134から抜けだし、
図3の分離状態となる。なお、
図3は、作業者がフランジ219を図中右側に移動させようとする力を加えているときの状態を示していることに注意されたい。
【0035】
上記実施形態によれば、以下の有利な効果が得られる。
【0036】
モータ201の回転軸205の差込部206がいかなる回転位相となっていても、そのままワンウエイクラッチ134内に差し込むことができる。通常、回転軸同士の動力伝達可能な連結は、キー/キー溝等の両回転軸の相対回転を禁止する構造を介して行わなければならないため、両回転軸の回転位相を一致させる作業が必要であるだが、上記実施形態ではワンウエイクラッチ134を用いることにより回転位相合わせの作業が不必要となっている。このため、工具ユニット100に対する駆動ユニット200の連結作業を劇的に簡略化することができる。工具ユニット100が重い場合には、工具ユニット100を駆動ユニット200から分離して単独で作業対象に対してセットすることができるということは作業性の観点から特に有利なことである。
【0037】
なお、上記の実施形態に用いることができるワンウエイクラッチ(134)は、下記の条件、すなわち、
[条件1]ワンウエイクラッチ(134)は、ニードル(135)が差込部(206)の外周面に直接接触するタイプ(すなわち差込部206の外周面に直接接触する内レースを有しないタイプ)であること、
[条件2]ニードル(135)がばね(139)により付勢されていて、差込部(206)をワンウエイクラッチ(134)に挿入していったときにニードル(135)が差込部(206)の挿入を妨害しないように逃げてくれて、かつ、ばね(139)の弾性力により、ニードル(135)が逃げたときにもニードル(135)と差込部(206)の外周面との接触が失われないこと
を満たしている。
【0038】
なお、上記条件1に関して、ワンウエイクラッチが差込部206と接触する内レースを有しているとしたならば、差込部206と内レースとの間に駆動力伝達結合を形成するために、キー/キー溝結合、かみ合い結合等を形成しなければならず、この場合、差込部206と回転軸123との回転位相合わせを行う必要がある。
【0039】
ワンウエイクラッチは、ニードル(ローラー)に代えてボールを用いたものであってもよい。また、ここでは、ポンプ駆動のための回転方向と逆方向に回転軸123を滑らかに転動(空転)させる必要はないため、スプラグを用いたワンウエイクラッチを使用することもできる。このようなワンウエイクラッチも、上記の条件1、2(この場合、ニードルは、ボール若しくはスプラグと読み替える)を満たしている。
【0040】
ワンウエイクラッチ134を油圧ポンプ120の回転軸123の軸端に設けることに代えて、モータ201の回転軸205の軸端に設けてもよい。この場合、モータ201の回転軸205の先端部にワンウエイクラッチ134を取り付けるための孔が形成され、油圧ポンプ120の回転軸123の先端部にはワンウエイクラッチ134内に挿入される差込部が設けられる。
【0041】
工具ユニット100に内蔵するポンプは図示されたものに限定されない。ワンウエイクラッチを使用するためポンプの逆転は不可能ではあるものの、ポンプの或る構成部品を回転駆動することにより圧油を送り出すように構成された任意の形式のポンプを工具ユニット100に組み込むことが可能である。