(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと共役ジエン化合物の重合体ブロック及び/又はその水素添加ブロックを有し、さらに水酸基と反応する官能基を有するブロック共重合体の酸価が0.5〜20mgCH3ONa/gであることを特徴とする請求項1記載の積層造形用サポート材。
請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層造形用サポート材とモデル材とを順次、流動状態で積層し、固化した後、該サポート材を除去することを特徴とする積層造形物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の積層造形用サポート材は、大別して二つの態様の樹脂組成物からなる。従って、本発明の積層造形用サポート材を態様毎に分けて説明する。
【0022】
<態様(X)>
態様(X)からなる積層造形用サポート材は、側鎖に一級水酸基を有する構造単位を含有し、融点の融解熱が10〜30J/gである、特定のPVA系樹脂を含有する樹脂組成物〔態様(X)〕を用いるものである。
【0023】
以下、上記特定のPVA系樹脂について詳しく説明する。
[特定のPVA系樹脂]
態様(X)にて用いられる特定のPVA系樹脂は、側鎖に一級水酸基を有する構造単位を含有するものである。一級水酸基の数は、通常1〜5個であり、好ましくは1〜2個であり、特に好ましくは1個である。また、一級水酸基以外にも二級水酸基を有することが好ましい。
【0024】
このような特定のPVA系樹脂としては、例えば、側鎖に1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂、側鎖にヒドロキシアルキル基構造単位を有するPVA系樹脂等があげられる。中でも、モデル材との親和性が向上し、モデル材との接着力が良好となるという点から、側鎖に1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂が好ましい。
【0025】
本発明の特定のPVA系樹脂における、側鎖に一級水酸基を有する構造単位の含有量(変性率)は、構造単位の種類によって異なるが、通常0.1〜10モル%である。かかる変性率が低すぎると、モデル材との接着性が低下する傾向があり、高すぎると結晶化速度が遅くなりすぎて、積層時に形状が変形する傾向があり、さらにモデル材との接着力も低下する傾向がある。
【0026】
また、特定のPVA系樹脂の平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定)は、通常、150〜4000であり、好ましくは200〜2000である。かかる平均重合度が低すぎると積層時に安定した形状を形成することが困難となる傾向があり、高すぎると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて溶融成形が困難になる傾向がある。
【0027】
また、特定のPVA系樹脂の重合度は水溶液とした時の粘度を指標として用いられる場合があり、1,2−ジオール含有PVA系樹脂の粘度は、通常、1.5〜20mPa・sであり、好ましくは2〜12mPa・sであり、特に好ましくは2.5〜8mPa・sである。粘度が低すぎると積層時に安定した形状を形成することが困難となる傾向があり、高すぎると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて溶融成形が困難になる傾向がある。
なお、本明細書において1,2−ジオール含有PVA系樹脂の粘度は、JIS K 6726に準拠して測定した20℃における4重量%水溶液の粘度である。
【0028】
また、特定のPVA系樹脂のケン化度は、通常、70モル%以上、好ましくは80モル%以上である。ケン化度が低すぎると積層時の形状安定性が低下する傾向がある。
なお、ケン化度はJIS K 6726に準拠して測定することができる。
【0029】
つぎに、本発明の、側鎖に1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂について詳細に説明する。
側鎖に1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂としては、具体的には下記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂があげられる。このように側鎖に1,2−ジオール構造を有することで、さらにモデル材との親和性が向上する点で好ましく、一般式(1)において、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示し、またR
4、R
5及びR
6はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。
【0031】
かかる1,2−ジオール含有PVA系樹脂の一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量(変性率)は、通常、0.1〜10モル%であり、好ましくは0.5〜9モル%であり、更に好ましくは2〜8モル%であり、特に好ましくは3〜8モル%である。かかる変性率が低すぎるとモデル材との接着性が低下する傾向があり、高すぎると結晶化速度が遅くなりすぎて、積層時に形状が変形する傾向があり、モデル材との接着力も低下する傾向がある。なお、1,2−ジオール構造単位以外の部分は、通常のPVA系樹脂と同様、ビニルアルコール構造単位と未ケン化部分のビニルエステル構造単位である。
【0032】
一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のR
1〜R
3、およびR
4〜R
6は、すべて水素原子であることが側鎖の末端が一級水酸基となることでモデル材との接着性が向上する点で望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよい。炭素数1〜4のアルキル基は、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等であり、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0033】
また、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のXは代表的には単結合であり、熱安定性の点で単結合であるものが最も好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよい。かかる結合鎖としては特に限定されないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH
2O)
m−、−(OCH
2)
m−、−(CH
2O)
mCH
2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH
2)
mCO−、−CO(C
6H
4)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO
2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO
4−、−Si(OR)
2−、−OSi(OR)
2−、−OSi(OR)
2O−、−Ti(OR)
2−、−OTi(OR)
2−、−OTi(OR)
2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等が挙げられ(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である。)、その中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは−CH
2OCH
2−が好ましい。
【0034】
1,2−ジオール含有PVA系樹脂の平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定)は、通常、150〜4000であり、好ましくは200〜2000であり、特に好ましくは250〜800である。かかる平均重合度が低すぎると積層時に安定した形状を形成することが困難となる傾向があり、高すぎると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて溶融成形が困難になる傾向がある。
【0035】
また、PVA系樹脂の重合度は水溶液とした時の粘度を指標として用いられる場合があり、1,2−ジオール含有PVA系樹脂の粘度は、通常、1.5〜20mPa・sであり、好ましくは2〜12mPa・sであり、特に好ましくは2.5〜8mPa・sである。粘度が低すぎると積層時に安定した形状を形成することが困難となる傾向があり、高すぎると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて溶融成形が困難になる傾向がある。
なお、本明細書において1,2−ジオール含有PVA系樹脂の粘度は、JIS K 6726に準拠して測定した20℃における4重量%水溶液の粘度である。
【0036】
1,2−ジオール含有PVA系樹脂のケン化度は、通常、70モル%以上、好ましくは75〜99.7モル%であり、特に好ましくは87〜99.5モル%である。ケン化度が低すぎると積層時の形状安定性が低下する傾向がある。
なお、ケン化度はJIS K 6726に準拠して測定することができる。
【0037】
また、PVA系樹脂の主鎖の結合様式は1,3−ジオール結合が主であり、主鎖中の1,2−ジオール結合の含有量は1.5〜1.7モル%程度であるが、ビニルエステル系モノマーを重合する際の重合温度を高温にすることによって、その含有量を2.0〜3.5モル%としたものを使用することも可能である。
【0038】
また、態様(X)に使用されるPVA系樹脂は、樹脂物性に大幅な影響を及ぼさない範囲であれば、別のモノマーを少量、共重合されていてもよく、共重合成分として、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体等が共重合されてもよい。
【0039】
1,2−ジオール含有PVA系樹脂の融点は、通常、120〜230℃、好ましくは150〜220℃であり、特に好ましくは160〜190℃である。融点が高すぎると積層造形の際の加工温度が高くなり樹脂が劣化する恐れがあり、低すぎると積層時の形状安定性が低下する傾向がある。
【0040】
態様(X)の側鎖に一級水酸基を有する構造単位を持つPVA系樹脂、好ましくは1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、融点の融解熱が10〜30J/gであることが必要であり、好ましくは15〜27J/g、特に好ましくは20〜25J/gである。融解熱が高すぎると硬化時の収縮が大きくなり、形状安定性が損なわれる傾向があり、低すぎると積層造形の際、次の層が積層された時に形状が変形する傾向がある。
【0041】
ここで言う融点の融解熱を測定する方法の詳細について以下に説明する。入力補償型の示差走査熱量計を用いて測定するが、測定開始温度は融点から50℃以上低い温度から測定され、通常−30〜30℃程度から昇温速度10℃/分で昇温される。到達温度としては融点より30℃程度高い温度まで測定されるが、樹脂の熱分解を極力、起こさない温度に設定される。その後、降温速度10℃/分で測定開始温度まで降温される。再び昇温速度10℃/分で融点より30℃程度高い温度まで昇温される。その2回目の昇温時の融点の吸熱ピーク面積を融解熱ΔH(J/g)として算出する。1回目の昇温到達温度と2回目の昇温到達温度は必ずしも同じでなくてよい。測定する試料量としては、測定機や測定用の容器(パン)の大きさにもよるが、通常5〜10mg程度使用され、多すぎても、少なすぎても融解熱の測定誤差が大きくなる。融解熱ΔHを算出する際に重要となるのがベースラインの引き方で、分析チャートの横軸を温度軸とし、DSC曲線の吸熱ピークの終点の温度から5℃高い位置をA点、DSC曲線の吸熱ピークの頂点の温度から40℃低い点をB点とし、この2点A,Bを結んだ直線をベースラインとする。このベースラインと吸熱ピークに囲まれた部分の面積から融解熱ΔHを算出する。
【0042】
態様(X)にて好適に用いられる1,2−ジオール含有PVA系樹脂の製造法は、特に限定されないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法や、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法が好ましく用いられ、例えば特開2008−163179号公報の段落[0014]〜[0037]に記載の方法で製造することができる。
【0046】
上記一般式(2)、(3)、(4)中のR
1、R
2、R
3、X、R
4、R
5、R
6は、いずれも上記一般式(1)の場合と同様である。また、R
7及びR
8はそれぞれ独立して水素原子またはR
9−CO−(式中、R
9は炭素数1〜4のアルキル基である)である。R
10及びR
11はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。
【0047】
〔積層造形用サポート材:態様(X)〕
態様(X)における積層造形用サポート材は、側鎖に一級水酸基を有する構造単位を持つPVA系樹脂、好ましくは1,2−ジオール含有PVA系樹脂を主成分として含有する樹脂組成物からなるものであるが、通常サポート材はストランド状に成形され、リールに巻きつけられた状態で積層造形装置に設置される為、リールに巻きつけられても破断しない程度の柔軟性と靭性を要求されることがあり、実用に供する場合には柔軟性成分を配合することが好ましい。態様(X)におけるサポート材中の、側鎖に一級水酸基を有する構造単位を持つPVA系樹脂、好ましくは1,2−ジオール含有PVA系樹脂の含有量は通常、サポート材全体の50〜100重量%、好ましくは55〜95重量%、特に好ましくは60〜90重量%である。かかる含有量が少なすぎると溶解除去性が低下する傾向があり、多すぎると柔軟性が低下する傾向がある。
【0048】
上記の柔軟性成分としては、熱可塑性樹脂などが挙げられる。上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル樹脂、ポリビニル系樹脂(ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等)、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0049】
上記熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、スチレン系エラストマー等が挙げられるが、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと、共役ジエン化合物の重合体ブロック及び/又はその水素添加ブロックとを有するブロック共重合体が好ましく、靭性を付与できる点で水酸基と反応しうる官能基を有するブロック共重合体が好ましく、官能基は酸であることが特に好ましい。その酸価は1〜10mgCH
3CONa/gが好ましく、更には2〜5mgCH
3CONa/gが特に好ましい。酸価の測定法としては、中和に要するアルカリ消費量を求める中和滴定法で測定される。
【0050】
柔軟性成分の含有量としては、側鎖に一級水酸基を有する構造単位を持つPVA系樹脂に対して5〜50重量%、さらには10〜40重量%、特には15〜35重量%が好ましい。
【0051】
また、態様(X)におけるサポート材には可塑剤が配合されることがあるが、態様(X)におけるサポート材の形状を安定化させるには可塑剤の配合量は少ないことが好ましく、20重量%以下、さらには10重量%以下、特には1重量%以下、殊には0.1重量%以下であることが好ましい。
【0052】
さらには、上記成分以外に、フィラー、酸化防止剤、着色剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤等の公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0053】
態様(X)におけるサポート材の溶融粘度としては、210℃で2160gの荷重下において、JIS K7210に準拠して測定したメルトフローレートで、0.2〜25g/10分が好ましく、特に好ましくは1.0〜15g/10分、さらに好ましくは2.0〜10g/10分である。かかる溶融粘度が低すぎると形状形成時にノズルから垂れが発生し、形状形成の妨げとなる傾向があり、高すぎるとノズルの詰まりの原因となりやすい傾向がある。
【0054】
上記態様(X)におけるサポート材の作製方法としては、上記の各成分について、所定量を混合、加熱され溶融状態で混練され、ストランド状に押出された後、冷却され、リールに巻き取られて積層造形に適用されるサポート材となる。具体的には、各成分を予め混合したもの、もしくは別々に単軸または多軸の押出機に供給され、加熱溶解混練され、1穴もしくは多穴のストランドダイスから径1.5〜3.0mmのストランド状に押出され、空冷または水冷等により冷却固化した後、リールに巻き取られる。ストランドの径は安定していることが必要で、また、リールに巻きつけられても破断しない程度の柔軟性と靭性を有し、積層造形の際、ヘッドに遅滞なく送り出される程度の剛性が必要である。
【0055】
<態様(Y)>
態様(Y)からなる積層造形用サポート材は、PVA系樹脂と、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと共役ジエン化合物の重合体ブロック及び/又はその水素添加ブロックを有し、更に
カルボキシル基を有するブロック共重合体を含有する樹脂組成物〔態様(Y)〕を用いるものである。
【0056】
〔PVA系樹脂〕
まず、態様(Y)にて用いられるPVA系樹脂について説明する。
PVA系樹脂は、ビニルエステル系単量体を共重合して得られるポリビニルエステル系樹脂をケン化して得られる、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とケン化されずに残存したビニルエステル構造単位から構成される。
【0057】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0058】
態様(Y)にて用いられるPVA系樹脂の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常、150〜4000であり、好ましくは200〜2000であり、特に好ましくは250〜800であり、さらに好ましくは300〜600が用いられる。
かかる平均重合度が低すぎると積層時に安定した形状を形成することが困難となる傾向があり、高すぎると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて溶融成形が困難になる傾向がある。
【0059】
また、PVA系樹脂の重合度の指標として水溶液とした時の粘度が用いられる場合があり、態様(Y)にて用いられるPVA系樹脂の水溶液の粘度は、通常、1.5〜20mPa・sであり、好ましくは2〜12mPa・sであり、特に好ましくは2.5〜8mPa・sである。粘度が低すぎると積層時に安定した形状を形成することが困難となる傾向があり、高すぎると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて溶融成形が困難になる傾向がある。
なお、前述の態様(X)と同様、本明細書においてPVA系樹脂の水溶液の粘度は、JIS K 6726に準拠して測定した20℃における4重量%水溶液の粘度である。
【0060】
態様(Y)にて用いられるPVA系樹脂のケン化度は、通常、70モル%以上であり、好ましくは75〜99.7モル%であり、特に好ましくは85〜99.5モル%である。ケン化度が低すぎるとブロック共重合体との親和性が低下し、積層時の形状安定性が低下する傾向がある。
なお、ケン化度はJIS K 6726に準拠して測定されたものである。
【0061】
PVA系樹脂の融点は、通常、120〜230℃、好ましくは150〜220℃であり、特に好ましくは190〜210℃である。融点が高すぎると積層造形の際の加工温度が高くなり樹脂が劣化する恐れがあり、低すぎると積層時の形状安定性が低下する傾向がある。
【0062】
また、通常のPVA系樹脂の場合、主鎖の結合様式は1,3−ジオール結合が主であり、主鎖中の1,2−ジオール結合の含有量は1.5〜1.7モル%程度であるが、ビニルエステル系モノマーを重合する際の重合温度を高温にすることによって含有量を増やすことができ、その含有量を1.8モル%以上、更には2.0〜3.5モル%有することが、ブロック共重合体との親和性が向上する点で好ましい。
【0063】
また、態様(Y)では、PVA系樹脂として、ビニルエステル系樹脂の製造時に各種単量体を共重合させ、これをケン化して得られたものや、未変性PVAに後変性によって各種官能基を導入した各種変性PVA系樹脂を用いることができる。かかる変性は、PVA系樹脂の水溶性が失われない範囲で行うことができ、通常は20モル%以下である。
【0064】
ビニルエステル系モノマーとの共重合に用いられる単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体等が共重合されてもよい。
【0065】
また、後反応によって官能基が導入されたPVA系樹脂としては、ジケテンとの反応によるアセトアセチル基を有するもの、エチレンオキサイドとの反応によるポリアルキレンオキサイド基を有するもの、エポキシ化合物等との反応によるヒドロキシアルキル基を有するもの、あるいは各種官能基を有するアルデヒド化合物をPVA系樹脂と反応させて得られたものなどを挙げることができる。
かかる変性PVA系樹脂中の変性量、すなわち共重合体中の各種単量体に由来する構成単位、あるいは後反応によって導入された官能基の含有量は、変性種によって特性が大きく異なるため一概には言えないが、通常、0.1〜20モル%であり、特に0.5〜12モル%の範囲が好ましく用いられる。
【0066】
これらの各種変性PVA系樹脂の中でも、態様(Y)においては、側鎖に一級水酸基を有する構造単位を含有するPVA系樹脂を用いることが好ましい。一級水酸基の数は、通常1〜5個であり、好ましくは1〜2個であり、特に好ましくは1個である。また、一級水酸基以外にも二級水酸基を有することが好ましい。
【0067】
上記側鎖に一級水酸基を有する構造単位を含有するPVA系樹脂としては、側鎖に1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂、側鎖にヒドロキシアルキル基構造単位を有するPVA系樹脂等があげられる。中でも、ブロック共重合体との親和性に優れる点という点から、側鎖に1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂(以下、前述の態様(X)と同様、「1,2−ジオール含有PVA系樹脂」という場合がある。)が好ましい。上記側鎖に1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂として、特に下記一般式(1)で表される側鎖に1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を用いることが、ブロック共重合体の水酸基と、この水酸基と反応しうる官能基との反応性が高くなる点で好ましい。
【0069】
かかる1,2−ジオール含有PVA系樹脂の一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量(変性率)は、通常、0.5〜12モル%であり、好ましくは2〜8モル%であり、更に好ましくは3〜8モル%である。かかる変性率が低すぎるとブロック共重合体の官能基との反応性が低下する傾向があり、高すぎると結晶化速度が遅くなりすぎて、積層時に形状が変形する傾向がある。
なお、1,2−ジオール構造単位以外の部分は、通常のPVA系樹脂と同様、ビニルアルコール構造単位と未ケン化部分のビニルエステル構造単位である。
【0070】
一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のR
1〜R
3、およびR
4〜R
6は、すべて水素原子であることが側鎖の末端が一級水酸基となり更にブロック共重合体の官能基との反応性が向上する点で望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよい。炭素数1〜4のアルキル基は、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等であり、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0071】
また、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のXは熱安定性の点や高温下や酸性条件下での安定性の点で単結合であるものが最も好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよく、かかる結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH
2O)m−、−(OCH
2)m−、−(CH
2O)mCH
2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH
2)
mCO−、−CO(C
6H
4)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO
2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO
4−、−Si(OR)
2−、−OSi(OR)
2−、−OSi(OR)
2O−、−Ti(OR)
2−、−OTi(OR)
2−、−OTi(OR)
2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは1〜5の整数)が挙げられる。中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは−CH
2OCH
2−が好ましい。
【0072】
かかる側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂の製造法としては、特に限定されないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法や、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法が好ましく用いられ、例えば特開2008−163179の段落[0014]〜[0037]に記載の方法で製造することができる。
【0076】
上記一般式(2)、(3)、(4)中のR
1、R
2、R
3、X、R
4、R
5、R
6は、いずれも上記一般式(1)の場合と同様である。また、R
7及びR
8はそれぞれ独立して水素原子またはR
9−CO−(式中、R
9は炭素数1〜4のアルキル基である)である。R
10及びR
11はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。
【0077】
また、態様(Y)にて用いられるPVA系樹脂は、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよく、その場合は、上述の未変性PVA同士、未変性PVAと上記一般式(1)で示される構造単位を有するPVA系樹脂、ケン化度、重合度、変性度などが異なる上記一般式(1)で示される構造単位を有するPVA系樹脂同士、未変性PVA、あるいは上記一般式(1)で示される構造単位を有するPVA系樹脂と他の変性PVA系樹脂、などの組み合わせを用いることができる。
【0078】
〔ブロック共重合体〕
態様(Y)におけるサポート材には、PVA系樹脂とともに、引き剥がし性、成形安定性を付与することを目的に、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと共役ジエン化合物の重合体ブロック及び/又はその水素添加ブロックとを有し、さらに水酸基と反応しうる官能基を有するブロック共重合体を含有する。
【0079】
態様(Y)において用いられるブロック共重合体について説明する。
態様(Y)にて用いられるブロック共重合体は、スチレンに代表される芳香族ビニル化合物の重合体ブロックをハードセグメントとし、ソフトセグメントとして共役ジエン化合物の重合体ブロックや、かかる重合体ブロックに残存する二重結合の一部、または全部が水素添加されたブロック、あるいはイソブチレンの重合体ブロックを有するものである。
特に、態様(Y)においては、かかるブロック共重合体として、側鎖に水酸基と反応しうる官能基を有するものが好ましく、具体的にはカルボン酸基あるいはその誘導体基を有するものが好ましく用いられる。
【0080】
かかるブロック共重合体中の各ブロックの構成は、ハードセグメントをAで示し、ソフトセグメントをBで示した場合に、A−Bで表されるジブロック共重合体、A−B−AまたはB−A−Bで表されるトリブロック共重合体、さらにAとBが交互に接続したポリブロック共重合体などを挙げることができ、その構造も直鎖状、分岐状、星型などを挙げることができる。中でも、力学特性の点でA−B−Aで表される直鎖状のトリブロック共重合体が好適である。
【0081】
ハードセグメントである芳香族ビニル化合物の重合体ブロックの形成に用いられるモノマーとしては、例えば、スチレン;α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン等のアルキルスチレン;モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン等のハロゲン化スチレン;ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、インデン、アセトナフチレンなどのベンゼン環以外の芳香環を有するビニル化合物、およびその誘導体等を挙げることができる。かかる芳香族ビニル化合物の重合体ブロックは、上述のモノマーの単独重合体ブロックでも、複数のモノマーによる共重合体ブロックでもよいが、スチレンの単独重合体ブロックが好適に用いられる。
【0082】
なお、かかる芳香族ビニル化合物の重合体ブロックは、本発明の効果を阻害しない範囲で、芳香族ビニル化合物以外のモノマーが少量共重合されたものでもよく、かかるモノマーとしては、ブテン、ペンテン、ヘキセンなどのオレフィン類、ブタジエン、イソプレンなどのジエン化合物、メチルビニルエーテルなどのビニルエーテル化合物やアリルエーテル化合物等を挙げることができ、その共重合比率は、通常、重合体ブロック全体の10モル%以下である。
【0083】
ブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物の重合体ブロックの重量平均分子量は、通常、10,000〜300,000であり、特に20,000〜200,000、さらに50,000〜100,000のものが好ましく用いられる。
【0084】
また、ソフトセグメントである重合体ブロックの形成に用いられるモノマーとしては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの共役ジエン化合物、およびイソブチレンを挙げることができ、これらを単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。中でもイソプレン、ブタジエン、およびイソブチレンの単独重合ブロックや共重合ブロックが好ましく、特にブタジエン、あるいはイソブチレンの単独重合ブロックが好適に用いられる。
【0085】
なお、かかる共役ジエン化合物の重合体ブロックの場合、重合によって複数の結合形式をとる場合があり、例えば、ブタジエンでは、1,2−結合によるブタジエン単位(−CH
2−CH(CH=CH
2)−)と1,4−結合によるブタジエン単位(−CH
2−CH=CH−CH
2−)が生成する。これらの生成比率は、共役ジエン化合物の種類により異なるので、一概にはいえないが、ブタジエンの場合、1,2−結合が生成する比率は、通常、20〜80モル%の範囲である。
【0086】
かかる共役ジエン化合物による重合体ブロックは、残存する二重結合の一部または全部を水素添加することによって、スチレン系熱可塑性エラストマーの耐熱性や耐候性を向上させることが可能である。その際の水素添加率は、50モル%以上であることが好ましく、特に70モル%以上のものが好ましく用いられる。
なお、かかる水素添加により、例えばブタジエンの1,2−結合によるブタジエン単位は、ブチレン単位(−CH
2−CH(CH
2−CH
3)−)となり、1,4−結合によって生成するブタジエン単位は二つの連続したエチレン単位(−CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−)となるが、通常は前者が優先して生成する。
【0087】
なお、かかるソフトセグメントである重合体ブロックは、本発明の効果を阻害しない範囲で、上述のモノマー以外のモノマーが少量共重合されたものでもよく、かかるモノマーとしては、スチレンなどの芳香族ビニル化合物、ブテン、ペンテン、ヘキセンなどのオレフィン類、メチルビニルエーテルなどのビニルエーテル化合物やアリルエーテル化合物等を挙げることができ、その共重合比率は、通常、重合体ブロック全体の10モル%以下である。
【0088】
また、ブロック共重合体中の共役ジエン化合物、あるいはイソブチレンに由来する重合体ブロックの重量平均分子量は、通常、10,000〜300,000であり、特に20,000〜200,000、さらに50,000〜100,000のものが好ましく用いられる。
【0089】
上述の通り、本発明に用いられるブロック共重合体は、ハードセグメントが芳香族ビニル化合物の重合体ブロックであり、ソフトセグメントが共役ジエン化合物の重合体ブロック、またはその残存二重結合の一部、あるいは全部が水素添加された重合体ブロック、イソブチレンの重合体ブロックなどからなるものであり、その代表例としては、例えば、スチレンとブタジエンを原料とするスチレン/ブタジエンブロック共重合体(SBS)、SBSのブタジエン構造単位における側鎖二重結合が水素添加されたスチレン/ブタジエン/ブチレンブロック共重合体(SBBS)、さらに主鎖二重結合が水素添加されたスチレン/エチレン/ブチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンとイソプレンを原料とするスチレン/イソプレンブロック共重合体(SIPS)、スチレンとイソブチレンを原料とするスチレン/イソブチレンブロック共重合体(SIBS)などを挙げることができ、中でも熱安定性、耐候性に優れるSEBSやSIBSが好ましく用いられる。
【0090】
かかるブロック共重合体中のハードセグメントである芳香族ビニル化合物の重合体ブロックとソフトセグメントである重合体ブロックの含有比率としては、重量比で、通常、10/90〜70/30であり、特に、20/80〜50/50の範囲のものが好適である。芳香族ビニル化合物の重合体ブロックの含有比率が多すぎたり、少なすぎたりすると、ブロック共重合体の柔軟性とゴム弾性のバランスが崩れる場合があり、その結果、本発明のサポート材の引き剥がし性などの特性が不充分となる場合がある。
【0091】
かかるブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと、共役ジエン化合物あるいはイソブチレンの重合体ブロックを有するブロック共重合体を得て、さらに必要に応じて共役ジエン化合物の重合体ブロック中の二重結合を水素添加することによって得ることができる。
【0092】
まず、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと、共役ジエン化合物、あるいはイソブチレンの重合体ブロックを有するブロック共重合体の製造法としては、公知の方法を用いることができるが、例えば、アルキルリチウム化合物などを開始剤とし、不活性有機溶媒中で芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物、あるいはイソブチレンを逐次重合させる方法などを挙げることができる。
【0093】
次に、この芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと共役ジエン化合物の重合体ブロックを有するブロック共重合体を水素添加する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、水素化ホウ素化合物などの還元剤を用いる方法や、白金、パラジウム、ラネーニッケルなどの金属触媒を用いた水素還元などを挙げることができる。
【0094】
本発明において、態様(Y)にて用いられるブロック共重合体は、側鎖に水酸基と反応しうる官能基を有することを特徴とするものである。かかる官能基は特にカルボン酸であることが好ましく、かかる側鎖に水酸基と反応しうる官能基を有するブロック共重合体を用いることによって、特に引き剥がし性、成形安定性に優れたサポート材を得ることが可能となる。
【0095】
ブロック共重合体中のカルボン酸の含有量としては、滴定法で測定した酸価が、通常、0.5〜20mgCH
3ONa/gであり、特に1〜10mgCH
3ONa/g、さらに1.5〜3mgCH
3ONa/gのものが好ましく用いられる。
かかる酸価が低すぎると、官能基を導入した効果が充分に得られず、また、高すぎると架橋反応によりサポート材の溶融粘度が高くなりすぎる傾向がある。
【0096】
かかるカルボン酸を含有する官能基をブロック共重合体に導入する方法としては、公知の方法を用いることが可能であり、例えば、ブロック共重合体の製造時、すなわち、共重合時にα、β−不飽和カルボン酸またはその誘導体を共重合させる方法、あるいは、ブロック共重合体の製造後、これにα、β−不飽和カルボン酸またはその誘導体を付加させる方法が好ましく用いられる。かかる付加方法としては、例えば、ラジカル開始剤の存在下、あるいは非存在下、溶液中でのラジカル反応による方法や、押出機中で溶融混練する方法などを挙げることができる。
【0097】
かかるカルボン酸基導入に用いられるα、β−不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のα、β−不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、フタル酸等のα、β−不飽和ジカルボン酸;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルメタクリレート等のα、β−不飽和モノカルボン酸エステルなどを挙げることができる。また、本発明のブロック共重合体に導入されたカルボン酸基は隣接するカルボン酸基との間で酸無水物構造を形成していてもよく、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、無水フタル酸等のα、β−不飽和ジカルボン酸無水物などを挙げることができる。
【0098】
態様(Y)において用いられるブロック共重合体の重量平均分子量は、通常、50,000〜500,000であり、特に120,000〜450,000、さらに150,000〜400,000のものが好ましく用いられる。
かかる重量平均分子量が大きすぎても小さすぎても、下記の溶融粘度が高すぎても低すぎても、PVA系樹脂中に当該ブロック共重合体が均一分散したモルホロジーが得られず、樹脂の機械物性が低下する傾向がある。
なお、かかるブロック共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレンを標準として求めた値である。
【0099】
また、ブロック共重合体の220℃、せん断速度122sec
−1での溶融粘度は、通常100〜3000mPa・sであり、特に300〜2000mPa・s、さらに800〜1500mPa・sのものが好ましく用いられる。
【0100】
また、態様(Y)においては、上述のブロック共重合体として、一種類のものを用いてもよいが、所望の特性を得る目的で複数のものを適宜混合して用いることも可能である。
【0101】
かかる反応性の官能基を有するブロック共重合体の市販品としては、例えばSEBSのカルボキシル基変性品である旭化成社製の「タフテックMシリーズ」や、JSR社製「f−ダイナロン」、シェルジャパン社製「クレイトンFG」などを挙げることができる。
【0102】
〔積層造形用サポート材:態様(Y)〕
態様(Y)における積層造形用サポート材は、PVA系樹脂とブロック共重合体を含有するものであるが、サポート材中のPVA系樹脂とブロック共重合体の合計量に対してPVA系樹脂の含有量としては、50〜95重量%、さらには60〜90重量%、特には65〜75重量%が好ましく、50重量%未満では水溶性が低下する傾向があり、95重量%を超えると柔軟性が低下する傾向にある。
サポート材全体における、PVA系樹脂の含有量としては50〜95重量%、好ましくは60〜90重量%、特に好ましくは70〜80重量%である。かかる含有量が少なすぎると水溶解性が著しく低下する傾向があり、多すぎると柔軟性が不充分となる傾向がある。
【0103】
また、ブロック共重合体の含有量としてはPVA系樹脂とブロック共重合体の合計量に対して、5〜50重量%、さらには10〜40重量%、特には25〜35重量%が好ましい。添加量が5重量%未満では、柔軟性が不充分となる傾向があり、50重量%を超えると溶融粘度が高くなりすぎて成形安定性が低下する傾向がある。
サポート材全体における、ブロック共重合体の含有量としては5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、特に好ましくは20〜30重量%である。かかる含有量が少なすぎると柔軟性が不充分となる傾向があり、多すぎると成形安定性が低下する傾向がある。
【0104】
また、サポート材はストランドの状態で積層造形装置のヘッド部に供給されるため、円滑にサポート材を供給できる点を考慮すると適度な剛性を有するものが好ましく、また、積層造形装置のヘッド部にストランド状のサポート材を供給する際、チューブの中を通して供給されることがあり、チューブの内面とサポート材の表面の摺動性が良好であることが好ましく、サポート材の表面状態が平滑であり、かつタック性がないことが積層造形装置へのサポート材のストランドを円滑にヘッド部に供給できる点から好ましい。一般に、PVA系樹脂のストランド表面は吸湿しやすく、タック性が発現しやすい。従って、ストランドが適度な剛性を有する点、ストランドのタック性を抑制できる点から、サポート材がフィラーを含有することが好ましい。
【0105】
そのフィラーとしては有機フィラーと無機フィラーがあるが、熱安定性が良好な点で無機フィラーが好ましく、無機フィラーとしては、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、窒化物、炭素類、金属類等があるが、サポート材の熱安定性に悪影響を与えない点で、ケイ酸塩が好ましく、ケイ酸塩としては、例えば、珪酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサリト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン等があるが、よりサポート材の表面平滑性が良好となり、タック性が軽減される点でタルクが好ましい。フィラーの粒度としては0.5〜500μm、更には50〜400μm、特には100〜300μmが好ましい。さらに、タルクの粒度としては0.5〜10μm、更には1〜5μm、特には2〜3μmが好ましい。これらの粒度が小さすぎると樹脂への練り込みが困難となる傾向があり、大きすぎると表面荒れや強度の低下の原因となる傾向がある。工業的には、例えば、日本タルク社製SG−95、SG−200、富士タルク社製LSM−400などを用いることができる。なお、ここで言う粒度とは、レーザー回折法で測定した粒子径D50を指す。フィラーの含有量としてはサポート材中に1〜40重量%、更には2〜30重量%、特には3〜10重量%が好ましく、少なすぎるとフィラー配合の効果が発現されず、多すぎるとストランド表面の平滑性が低下したり、柔軟性が低下する傾向がある。
【0106】
また、サポート材には可塑剤が配合されることがあるが、態様(Y)におけるサポート材の成形安定性を向上させるには可塑剤の含有量は少ないことが好ましく、20重量%以下、さらには10重量%以下、さらには1重量%以下、特には0.1重量%以下であることが好ましい。
【0107】
さらに、上記成分以外に、酸化防止剤、着色剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤等の公知の添加剤、また他の熱可塑性樹脂を適宜配合することができる。他の熱可塑性樹脂としては、例えば、具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、ポリ環状オレフィン、或いはこれらのオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したもの等の広義のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、ポリアミド、共重合ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0108】
上記のサポート材の作製方法としては、前述の態様(X)と同様、上記の各成分について、所定量を混合、加熱され溶融状態で混練されたのち、ストランド状に押出され、冷却され、リールに巻き取られて積層造形に適用されるサポート材となる。具体的には各成分を予め混合したもの、もしくは別々に単軸または多軸の押出機に供給され、加熱溶融混練され、1穴もしくは多穴のストランドダイスから径1.5〜3.0mmのストランド状に押出され、空冷または水冷等により冷却固化した後、リールに巻き取られる。ストランドの径は安定していることが必要で、また、リールに巻きつけられても破断しない程度の柔軟性と靭性を有し、積層造形の際、ヘッドに遅滞なく送り出される程度の剛性が必要である。
【0109】
〔積層造形物の製造方法、および積層造形物〕
本発明のサポート材を用いた積層造形物の製造方法について説明する。
積層造形に用いられる積層造形装置はモデル材とサポート材を各々押し出せるヘッドを複数個以上持つ熱溶融による積層造形ができるものであれば公知のものを用いればよく、例えば、フラッシュフォージ社製クリエイト、レイズ・エンタープライズ社製Eagleed、3Dシステムズ社製MBot Grid II、ストラタシス社製uPrint SE等のデュアルヘッドタイプの積層造形装置を用いることができる。立体を形作る上記モデル材としては、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエチレン等種々の樹脂が検討されているが、溶融成形性、熱安定性、固化後の機械物性からABS樹脂が主に用いられ、サポート材はかかるABS樹脂との密着性に優れることが要求される。
【0110】
モデル材についてもサポート材と同様に、ストランド状に成形され、リールに巻かれた状態で提供される。モデル材とサポート材のストランドは積層造形装置の別々のヘッドに供給され、ヘッド部で加熱溶解され、別々のノズルからステージ上に押し付けられる様に流動状態にて積層されていく。ヘッド部での溶融温度は、通常150〜220℃で、200〜1000psiの圧力で押出され、積層ピッチは、通常200〜350μmである。
【0111】
上記の様に、サポート材およびモデル材により作製された積層物は、冷却固化された後、上記積層物からサポート材を除去することで、最終目的である積層造形物が得られる。例えば、本発明のサポート材は水により溶解除去することができる。上記溶解除去の方法として、容器に入れられた水もしくは温水に積層物を浸漬してサポート材を溶解除去しても良いし、積層物のサポート材を流水で洗い流しても良い。積層物を浸漬してサポート材を溶解除去する場合は、溶解除去時間を短縮するために攪拌したり超音波を与えることが好ましく、また、水温は25〜80℃程度が好ましい。サポート材の溶解除去に際しては、サポート材の重量に対し、10〜10000倍程度の水もしくは温水が使用される。本発明のサポート材は比較的低温でも溶解除去が容易であることも特徴である。
【実施例】
【0112】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」は、重量基準を意味する。
【0113】
<態様(X)における実施例>
[実施例1]
(i)1,2−ジオール含有PVA系樹脂(1)の製造
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル68.5部、メタノール20.5部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン11.0部(7.2モル%対仕込み酢酸ビニル)を酢酸ビニルの初期仕込み率10%、酢酸ビニル、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを9時間等速滴下の条件で仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.3モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が90%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
【0114】
ついで、上記メタノール溶液をメタノールで希釈し、濃度45重量%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、ナトリウム分濃度が2重量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して10.5ミリモルとなる割合で加えて4時間ケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で、固液分離により分離し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中70℃、12時間で乾燥することにより目的の1,2−ジオール含有PVA系樹脂(1)を作製した。
【0115】
得られた1,2−ジオール含有PVA系樹脂(1)のケン化度は、樹脂中の残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの構造単位の加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99.0モル%であった。また、平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、360であった。融点を示差熱分析装置DSCで測定したところ175℃であった。また、前記式(1)で表される1,2−ジオール構造単位の含有量は、
1H−NMR(300MHzプロトンNMR、d6−DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、7.2モル%であった。
【0116】
この樹脂について、パーキンエルマー社製の入力補償型示差走査熱量計「Diamond DSC」を用いて、サンプル量5mgを測定パンに密封し、−30℃から昇温速度10℃/分で、215℃まで昇温し、直ちに降温速度10℃/分で−30℃まで降温し、再び昇温速度10℃/分で230℃まで昇温した時の融点の融解熱(ΔH)を算出したところ21.5J/gであった。
【0117】
(ii)サポート材の製造
上記の1,2−ジオール含有PVA系樹脂(1)を二軸押出機に供給し、下記条件で溶融混練し、直径1.75mmのストランド状に押出して、ベルト上で空冷し、リールに巻き取り、サポート材を得た。そのサポート材について、下記の評価を行った。その結果を表1に示す。
押出機:テクノベル社製 15mmφ L/D=60
押出温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=150℃/170℃/180℃/190℃/200℃/210℃/230℃/230℃/230℃
回転数:200rpm
吐出量:1.5kg/時
【0118】
(iii)サポート材の評価
〔形状安定性〕
日精社製 射出成形機PS60E12ASEにて、金型として5.0×2.5cmで厚み2mmのプレート型を用いて、射出温度210℃、射出速度50%、射出圧力60%で金型温度70℃、冷却時間30秒で、サポート材のプレートを作製した。そのプレートを80℃のホットプレート上に置き加温し、サポート材のプレートの上に、15mmφの単軸押出機にて、230℃、吐出速度0.5kg/時で押出された東レ社製ABS樹脂トヨラック、グレード名600−309を溶融状態で3.0g載せた後、ホットプレートから下ろし、25℃雰囲気で充分冷却した後、サポート材のプレートからABS樹脂を剥がし取った時の、プレートの表面状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。
◎:全く変形していない
○:僅かに変形している
×:明らかな変形がみられる
【0119】
〔モデル材との接着性〕
東レ社製ABS樹脂トヨラック、グレード名600−309を押出成形にて、厚み30μの単層フィルムを製膜し、その単層フィルムの上に押出コートにて、サポート材を下記の条件にて厚み5μmで積層した。その2層フィルムを15mm幅に裁断し、JIS K6854−3に準じて100mm/分の剥離速度でT字剥離試験にて、接着性を評価した。
押出機:テクノベル社製 15mmφ L/D=60
ダイス:30cm幅コートハンガーダイ リップ開度0.35mm
押出温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=150℃/170℃/180℃/190℃/200℃/210℃/230℃/230℃/230℃
吐出量:0.5kg/時
【0120】
[実施例2]
(i)1,2−ジオール含有PVA系樹脂(2)の製造
実施例1において仕込量を酢酸ビニル72.1部、メタノール21.6部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン6.3部を酢酸ビニルの初期仕込み率40%とし、酢酸ビニル、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを8時間等速滴下の条件で仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.16モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が90%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
【0121】
ついで、上記メタノール溶液をメタノールで希釈し、濃度55重量%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、ナトリウム分濃度が2重量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して3.0ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で、固液分離により分離し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的とする1,2−ジオール含有PVA系樹脂(2)を作製した。
【0122】
得られた1,2−ジオール含有PVA系樹脂(2)のケン化度は78.0モル%、平均重合度は450、1,2−ジオール構造単位の含有量は4.5モル%で、融点は143℃、融解熱ΔHは14.3J/gであった。
上記で得られた1,2−ジオール含有PVA系樹脂(2)を実施例1と同様に二軸押出機にて混練し、ストランド状のサポート材を得て、同様に評価した。
【0123】
[比較例1]
(i)1,2−ジオール含有PVA系樹脂(3)の製造
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル27.1部(総仕込量の40重量%)、メタノール14.2部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン7.2部(総仕込量の40重量%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.06モル%(対総仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。
【0124】
さらに、酢酸ビニル40.7部(総仕込量の60重量%)と、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン10.8部(総仕込量の60重量%)を15時間かけて等速滴下し、その間にアゾビスイソブチロニトリル0.04モル%(対総仕込み酢酸ビニル)を2回に分けて追加投入し、重合を継続した。酢酸ビニルの重合率が90%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
【0125】
ついで、上記メタノール溶液をメタノールで希釈し、濃度55重量%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、ナトリウム分濃度が2重量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して3.5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的とする1,2−ジオール含有PVA系樹脂(3)を作製した。
【0126】
得られた1,2−ジオール含有PVA系樹脂(3)のケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、88.0モル%であった。また、平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、450で、1,2−ジオール構造単位の含有量は12モル%であった。
【0127】
上記で得られた1,2−ジオール含有PVA系樹脂(3)について示差走査熱量計を用いて測定したところ融点のピークが確認されず、融解熱のない非結晶性ポリマーであった。この樹脂を実施例1と同様に二軸押出機にて混練し、ストランド状のサポート材を得て、同様に評価した。
【0128】
これらの評価結果を下記の表1に併せて示す。
【0129】
【表1】
【0130】
かかる結果から明らかなように、融解熱ΔHが特定の範囲にある1,2−ジオール含有PVA系樹脂を含有したサポート材は、特定の範囲の融解熱ΔHを有しない1,2−ジオール含有PVA系樹脂(比較例1)を含有するサポート材と比較して、形状安定性に優れ、モデル材との接着性についても100mN/15mm以上となり、有用であった。
【0131】
[実施例3]
実施例1で作製された1,2−ジオール含有PVA系樹脂(1)70部と、ブロック共重合体としてカルボキシル基を有するスチレン/エチレン/ブチレンブロック共重合体(SEBS)、(旭化成社製「タフテックM1911」、酸価2mgCH
3ONa/g)30部をドライブレンドした後、これを二軸押出機に供給し、溶融混練して、直径1.75mmのストランド状に押出して、ベルト上で空冷し、リールに巻き取り、サポート材を得た。そのサポート材について、同様に評価した結果を表2に示す。
【0132】
[実施例4]
実施例2で作製された1,2−ジオール含有PVA系樹脂(2)70部と、ブロック共重合体としてカルボキシル基を有するスチレン/エチレン/ブチレンブロック共重合体(SEBS)、(旭化成社製「タフテックM1911」、酸価2mgCH
3ONa/g)30部をドライブレンドした後、実施例3と同様にサポート材を作製し、同様に評価した。
【0133】
これらの評価結果を下記の表2に併せて示す。
【0134】
【表2】
【0135】
かかる結果から明らかなように、融解熱ΔHが特定の範囲にある1,2−ジオール含有PVA系樹脂を含有したサポート材は、熱溶融積層用のサポート材として、形状安定性に優れ、モデル材との接着性についても300mN/15mm以上となり、有用であった。
【0136】
<態様(Y)における実施例>
[実施例5]
(i)PVA系樹脂(5)の製造
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル100部、メタノール100部を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.15モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。さらに、重合開始5時間後にアゾビスイソブチロニトリルを0.05モル%追加し、酢酸ビニルの重合率が85%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込みつつ蒸留することで未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
【0137】
次いで、該溶液をメタノールで希釈し、濃度50重量%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、ナトリウム分濃度が2重量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位1モルに対して水酸化ナトリウム4.3ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、中和用の酢酸を加えた水酸化ナトリウムの1.0当量添加し、ろ別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂(5)を得た。
【0138】
得られたPVA系樹脂(5)のケン化度は、残存酢酸ビニルに要するアルカリ消費量で分析を行ったところ88モル%であった。また平均重合度は、JIS K 6726に準拠して分析を行ったところ500であった。
【0139】
(ii)サポート材の製造
上記のPVA系樹脂(5)70部と、ブロック共重合体としてカルボン酸基を有するスチレン/エチレン/ブチレンブロック共重合体(SEBS)、(旭化成社製「タフテックM1911」、酸価2mgCH
3ONa/g)30部をドライブレンドした後、これを二軸押出機に供給し、下記条件で溶融混練し、直径1.75mmのストランド状に押出して、ベルト上で空冷し、リールに巻き取り、サポート材を得た。そのサポート材について、下記の評価を行った。その結果を後記の表3に示す。
押出機:テクノベル社製 15mmφ L/D=60
押出温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=150℃/170℃/180℃/190℃/200℃/210℃/220℃/220℃/220℃
回転数:200rpm
吐出量:1.5kg/時
【0140】
(iii)サポート材の評価
〔引き剥がし性〕
サポート材は、引き剥がし時に引っ張っても千切れないことが重要で、破断するまでの応力が高い方が靭性が高いと判断される。
また、サポート材は積層造形された後、モデル材の造形物から引き剥がされるが、サポート材に柔軟性がないとモデル材の造形物からサポート材を引き剥がすことができず、また、サポート材に靭性がないと、引き剥がそうと引っ張った時にサポート材が千切れてしまうため、効率よく引き剥がす事ができない。よって、サポート材の引き剥がし性を良好とするには、柔軟性と靭性を必要とするため、以下の柔軟性評価と靱性評価を行った。
<柔軟性評価>
乾燥状態で保管されたサポート材のストランドを30cmとり、端から10cmの地点から直径5cmの円柱の鉄棒に沿わせるように曲げていき、一回転曲げるまでにストランドが破断するかしないかで評価した。この操作を5本のストランドで行い、下記のように評価した。
○:破断したストランドは1本以下であった
△:破断したストランドは2〜4本であった
×:5本共に破断した
【0141】
<靭性評価>
乾燥状態で保管されたサポート材のストランドを10cmとり、引張試験機を用いて標線間距離30mm、引張速度10mm/minで引張試験を行った時の破断点応力を求めた。
【0142】
〔成形安定性〕
作製されたストランドの径を20cm間隔で10点、ノギスで測定し、その平均のストランド径を算出した。なお、ストランドの断面が真円状でない場合は、最も長径となる様に測定した。算出された平均径と10点の測定値との関係を下記の様に評価した。
◎:全ての測定値が平均径±0.05mmの範囲に入る
○:1つ以上の測定値が平均径±0.05mmの範囲に入らず、全ての測定値が平均径±0.15mmの範囲に入る
△:1つ以上の測定値が平均径±0.15mmの範囲に入らず、全ての測定値が平均径±0.25mmの範囲に入る
×:1つ以上の測定値が平均径±0.25mmの範囲に入らない
サポート材は溶融状態で押出されて造形されていくが、ノズルから押出されたサポート材の径が不安定であると造形が安定せず、再現性良く造形物を得ることができない。サポート材のストランドは溶融状態で押出されたものであるので、ストランドで径が安定していることは、積層造形時においても安定して押出せることを意味し、再現性良く造形物を得ることのできるサポート材はストランドの製造時においても成形安定性が良く、その径が安定している。
【0143】
〔ストランドの平滑性〕
上記のように作製されたサポート材のストランドについて、ストランドの表面状態を、視覚および触覚にて下記の様に評価した。
◎:表面の平滑性があり、タック性がない
○:表面の平滑性はあるが、タック性もある
△:表面はやや荒れており、タック性もある
×:表面が非常に荒れている
【0144】
[実施例6]
実施例5においてケン化時間を短くすることで、ケン化度を72モル%に調整してPVA系樹脂(6)を作製し、同様にしてサポート材を得て同様に評価をおこなった。
【0145】
[実施例7]
実施例5においてPVA系樹脂(5)とブロック共重合体の比率を、PVA系樹脂(5)を85部、ブロック共重合体15部を押出混練して、サポート材を作製し、同様に評価した。
【0146】
[実施例8]
実施例7においてブロック共重合体として旭化成社製「タフテックM1913」、酸価10mgCH
3ONa/gを15部用いた以外は同様にしてサポート材を作製し、評価した。
【0147】
[実施例9]
(i)1,2−ジオール含有PVA系樹脂(7)の製造
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル68.0部、メタノール23.8部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン8.2部を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.3モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が90%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
【0148】
ついで、上記メタノール溶液をメタノールで希釈し、濃度55重量%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、ナトリウム分濃度が2重量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して3.5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で、固液分離により分離し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的とする1,2−ジオール含有PVA系樹脂(7)を作製した。
【0149】
得られた1,2−ジオール含有PVA系樹脂(7)のケン化度は88.0モル%、平均重合度は450であった。また、前記式で表される1,2−ジオール構造単位の含有量は、
1H−NMR(300MHzプロトンNMR、d6−DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、6モル%であった。
【0150】
実施例5のPVA系樹脂(5)に代えて、上記で作製した1,2−ジオール含有PVA系樹脂(7)を用いた以外は同様にサポート材を作製し、評価した。
【0151】
[実施例10]
(i)1,2−ジオール含有PVA系樹脂(8)の製造
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル85g(全体の10重量%を初期仕込み)、メタノール460g、及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン13.6g(7.2モル%対仕込み酢酸ビニル)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.2モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。さらに、重合開始0.5時間後に酢酸ビニル(全体の90重量%)を8時間滴下(滴下速度95.6g/hr)した。重合開始から2.5時間目と4.5時間目にアゾビスイソブチロニトリルを0.1モル%ずつ追加し、酢酸ビニルの重合率が85%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込みつつ蒸留することで未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
【0152】
次いで、該溶液をメタノールで希釈し、濃度50重量%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウム中のナトリウム分2重量%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して9ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、更に2重量%メタノール溶液を酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して4ミリモル追加しケン化を行った。その後、中和用の酢酸を水酸化ナトリウムの0.8当量添加し、ろ別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、1,2−ジオール含有PVA系樹脂(8)を得た。
【0153】
得られたPVA系樹脂(8)のケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99.0モル%であった。また、平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ360で、1,2−ジオール構造単位の含有量は7.2モル%であった。
【0154】
実施例5のPVA系樹脂(5)に代えて、上記で作製された1,2−ジオール含有PVA系樹脂(8)を用いた以外は同様にサポート材を作製し、評価した。
【0155】
[実施例11]
実施例10で得られた1,2−ジオール含有PVA系樹脂(8)66.5部と、実施例5で用いたカルボキシル基を有するSEBS28.5部を加え、フィラーとして日本タルク社製超微紛タルクSG−95(粒径2.5μm)5部を二軸押出機に供給し、同様にサポート材を得て、評価した。
【0156】
[実施例12]
実施例11において、1,2−ジオール含有PVA系樹脂(8)を56部、カルボキシル基を有するSEBSを24部、タルク(フィラー)を20部とした以外は同様にサポート材を作製し、同様に評価した。
【0157】
[比較例2]
実施例5においてブロック共重合体に代えて、カルボン酸基を有しないSEBS(旭化成社製「タフテックH1041」、酸価0mgCH
3ONa/g)とPVA系樹脂(5)を二軸押出機に供給し、溶融混練してサポート材を作製し、同様に評価した。
【0158】
これらの評価結果を下記の表3に併せて示す。
【0159】
【表3】
【0160】
かかる結果から明らかなように、PVA系樹脂と、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと共役ジエン化合物の重合体ブロック及び/又はその水素添加ブロックを有し、さらに
カルボキシル基を有するブロック共重合体を含有するサポート材は、熱溶融積層用のサポート材として、PVA系樹脂と
カルボキシル基を有しないブロック共重合体からなるサポート材(比較例2)と比較して引き剥がし性、成形安定性に優れ、有用であった。
【0161】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。