【文献】
Laryngoscope, 2006, Vol. 116, pp. 292-296
【文献】
PNAS, 2012, Vol. 109, No. 21, pp. 8167-8172
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0048】
以下の詳細な説明は、実例として示されるが、本発明を、記載される特定の態様に限定することを意図するものではなく、参照によって本明細書に援用される添付の図面と共に理解され得る。
【
図1】
図1は、インビボでのLgr5−GFPの散在した発現を示す。小腸を、Lgr5−GFPマウスから採取し、蛍光顕微鏡下で直接画像化した。小腸の全ての領域が陰窩で覆われているが、これらの陰窩のほぼ半分が、GFP+細胞を含んだ。スケールバー:100μm。
【
図2A-B】
図2A〜2Hは、CHIRとVPAの組み合わせがLgr5+幹細胞の増殖および自己複製を促進することを示す。
図2Aは、ENR(EGF、ノギンおよびR−スポンジン1)、ENR+VPA(ENR−V)、ENR+CHIR(ENR−C)およびENR+VPA+CHIR(ENR−CV)の存在下で6日間培養した小腸陰窩のGFP画像および明視野画像を示す。アポトーシス性細胞は、自己蛍光により管腔中で可視であり(赤矢印)、白矢印は、陰窩の基底での特定のLgr5−GFPを示す。スケールバー:100μm。
図2Bは、複数の条件で培養した陰窩の細胞増殖およびGFP発現の定量化を示す。陰窩を、24ウェルプレートで6日間培養し、アキュターゼ(Accutase)を使用して単一の細胞に分離した。各ウェルの生存細胞数を、細胞増殖の指標として計数した。Lgr5−GFP発現を、フローサイトメトリー分析によって測定した。エラーバーは、3つの(triplicate)ウェルのS.D.を示す。実験を3回行い、類似の結果を示した。(他に示さない限り、全てのパネルにおいて:
***P<0.001;
**P<0.01;
*P<0.05;NS P>0.05。)
【
図2C-D】
図2A〜2Hは、CHIRとVPAの組み合わせがLgr5+幹細胞の増殖および自己複製を促進することを示す。
図2Cおよび2Dは、示されるとおりの複数の条件下での7日の培養の後の単一のLgr5−GFP細胞のGFP発現のフローサイトメトリー分析を示す。エラーバーは3つのウェルのS.D.を示す。(他に示さない限り、全てのパネルにおいて:
***P<0.001;
**P<0.01;
*P<0.05;NS P>0.05。)
【
図2E】
図2A〜2Hは、CHIRとVPAの組み合わせがLgr5+幹細胞の増殖および自己複製を促進することを示す。
図2Eは、9日の培養後の単一のLgr5−GFP細胞のGFP画像および明視野画像を示す。スケールバー:100μm。(他に示さない限り、全てのパネルにおいて:
***P<0.001;
**P<0.01;
*P<0.05;NS P>0.05。)
【
図2F-H】
図2A〜2Hは、CHIRとVPAの組み合わせがLgr5+幹細胞の増殖および自己複製を促進することを示す。
図2Fは、複数の条件下で7日間培養したFACS単離された4000個の単一のLgr5−GFP細胞の代表的な画像を示し、
図2Gは、コロニー数の定量化を示す。エラーバーは3つのウェルのS.D.を示す。
図2Hは、正常な核型を有し、CV条件で80日間培養した細胞の中期伸展(spread)を示す(2n=40)。(他に示さない限り、全てのパネルにおいて:
***P<0.001;
**P<0.01;
*P<0.05;NS P>0.05。)
【
図3A-B】
図3A〜3Gは、培養条件の関数としての細胞増殖およびGFP発現を示す。
図3Aおよび3Bは、それぞれ、各時点に数えられた3つのウェル由来のコロニー数および単一の生存細胞の数を示す。エラーバーはS.D.を示す。
図3Aにおいて、系列は、左から右に、第0日、第2日、第4日、第6日、第8日、および第10日である。
【
図3C-D】
図3A〜3Gは、培養条件の関数としての細胞増殖およびGFP発現を示す。
図3Cは、新しく単離された単一のLgr5−GFP+細胞のFACSソーティング(sorting)を示す。GFP
高単一細胞集団を回収した、GFP+細胞集団を画定するための代表的なFACS分析およびゲーティング戦略を示す。陰窩から新たに単離された単一の細胞は、2つの区別されるGFP
高およびGFP
低集団を示し、一方、培養した細胞は、区別されるGFP
高およびGFP
低集団を示さないので、全てのGFP+細胞を、分析のためにゲーティングした。ENR−CV培養細胞は、GFPが高度に陽性である単一のGFP+集団を示したことに留意のこと。GFP−集団は、Lgr5−細胞およびLgr5+/GFP−細胞を示し(即ち、GFP鎮静化幹細胞)、これは、全てのソーティングされていない陰窩培養物中に存在するが、ソーティングされた単一のLgr5−GFP細胞培養物には存在しない(
図2C参照)。合計10000の生存細胞を、各試料について分析した。
図3Dは、CV培養条件でのLgr5+幹細胞の自己複製には増殖因子が必要であることを示す。陰窩を、示されるとおり、EGF、ノギン、R−スポンジン1およびこれらの組み合わせと共にCHIRおよびVPAの存在下で6日間培養した。E:EGF(50ng/ml);N:ノギン(100ng/ml);R:R−スポンジン1(500ng/ml);C:CHIR(3μM);V:VPA(1mM)。
【
図3E-G】
図3A〜3Gは、培養条件の関数としての細胞増殖およびGFP発現を示す。
図3Eは、示されるとおりの複数の条件で6日間培養した陰窩を示す。GFP画像および明視野画像を示す。スケールバー:200μm。
図3Fは、ENR、ENR−CおよびENR−CV条件で培養した結腸陰窩の形態およびLgr5−GFP発現を示す。
図3Gは、EGF、ノギン、および複数の濃度でのR−スポンジン1またはR−スポンジン2の存在下での第5日に形成された孤立した類臓器体の数を示す。全てのスケールバー:200μm。
【
図4】
図4A〜4Bは、EPHB2+ヒト結腸幹細胞に対する複数の培養条件の試験を示す。陰窩を、示されるとおりの複数の条件で6日間培養した。GFP画像および明視野画像を
図4Aに示す。W:Wnt3a(100ng/ml);Ni:ニコチンアミド(10mM);P:PGE2(0.02μM);A:A−83−01(0.5μM);S:SB202190(10μM);V:バルプロ酸またはVPA(1mM)。EGF、ノギン、R−スポンジン1、Wnt3aおよびVPA、またはENR−W−V条件は、GFPの発現の増加を示すための対照として役に立つ。スケールバー:200μm。
図4Bは、複数の条件下で培養した陰窩の細胞増殖およびGFP発現の定量化を示す。陰窩を、24ウェルプレートで6日間培養し、単一の細胞に分離した。各ウェルの生存細胞数を計数し、GFP+細胞のパーセンテージを、フローサイトメトリーにより分析した。エラーバーは3つのウェルのS.D.を示す。
【
図5】
図5A〜5Dは、単一のLgr5−GFP幹細胞の培養を示す。
図5Aは、CV条件で9日間培養した単一の単離されたLgr5−GFP+細胞を示す。スケールバー:200μm。
図5Bは、示されたとおりの条件下でマトリゲル(Matrigel)中で培養したFACSソーティングされた1500個の単一のLgr5+細胞を示す。第7日の培養からの代表的な画像を示す。
図5Cは、コロニー数の定量化を示す。エラーバーは3つのウェルの(or)S.D.を示す。
図5Dは、48ウェルプレートに播種したソーティングされた単一のLgr5+幹細胞を示す。プレーティング(plating)の12時間後に、生存能力のある細胞数を定量した。コロニー数を第7日に計数し、コロニー形成効率を定量した。100ng/mlでV:VPA;C:CHIR;W:Wnt3a。エラーバーは3つのウェルのS.D.を示す。実験を3×行い、類似の結果を示した。
【
図6A】
図6A〜6Dは、CHIRとVPAの組み合わせによるLgr5+幹細胞の自己複製の維持を示す。ENR条件下で培養した類臓器体(上のパネル)およびENR−CV条件で培養したコロニー(下のパネル)のリゾチーム(
図6A)、Ki67(
図6B)およびEdU(
図6C)染色の共焦点画像を示す。EdU染色について、細胞を、チミジンアナログEdU(赤)と共に1時間培養した。スケールバー:50μm。
【
図6B】
図6A〜6Dは、CHIRとVPAの組み合わせによるLgr5+幹細胞の自己複製の維持を示す。ENR条件下で培養した類臓器体(上のパネル)およびENR−CV条件で培養したコロニー(下のパネル)のリゾチーム(
図6A)、Ki67(
図6B)およびEdU(
図6C)染色の共焦点画像を示す。EdU染色について、細胞を、チミジンアナログEdU(赤)と共に1時間培養した。
図6Bおよび6Cにおいて、陰窩ドメインのみが、ENR条件でKi67陽性細胞または組み込まれたEdUを含み(上のパネル)、一方、Ki67またはEdUは、CV条件で細胞凝集体のいたるところに存在する(下のパネル)。スケールバー:50μm。
【
図6C-D】
図6A〜6Dは、CHIRとVPAの組み合わせによるLgr5+幹細胞の自己複製の維持を示す。ENR条件下で培養した類臓器体(上のパネル)およびENR−CV条件で培養したコロニー(下のパネル)のリゾチーム(
図6A)、Ki67(
図6B)およびEdU(
図6C)染色の共焦点画像を示す。EdU染色について、細胞を、チミジンアナログEdU(赤)と共に1時間培養した。
図6Bおよび6Cにおいて、陰窩ドメインのみが、ENR条件でKi67陽性細胞または組み込まれたEdUを含み(上のパネル)、一方、Ki67またはEdUは、CV条件で細胞凝集体のいたるところに存在する(下のパネル)。
図6Dは、示されたとおりの条件下で6日間培養した成熟腸上皮細胞についてのマーカーの相対的mRNA発現の定量的リアルタイムPCR分析を示す(腸細胞について腸アルカリ性フォスファターゼ[Alpi]、杯細胞についてムチン2[Muc2]、腸内分泌細胞についてクロモグラニンA[ChgA]、パーネト細胞についてリゾチーム[Lyz]、小腸幹細胞についてLgr5)。ENR−CV(D40)は、CV条件で40日間培養した細胞を示す。スケールバー:50μm。
図6Dにおいて、系列は、左から右に、Alpi、Muc2、ChgA、Lyz、およびLgr5である。
【
図7A】
図7A〜7Dは、CV条件下で培養した腸幹細胞の分化を示す。
図7Aは、CV条件からENR条件に移し、かつ4日間培養した細胞の分化マーカー(腸細胞についてAlp、杯細胞(白矢印)および杯細胞により分泌されるムチンについてMuc2、腸内分泌細胞についてChgA、ならびにパーネト細胞についてLyz)の染色を示す。DAPIを、核の染色のために使用し、GFPは幹細胞の存在を示す。スケールバー:50μm。
【
図7B】
図7A〜7Dは、CV条件下で培養した腸幹細胞の分化を示す。
図7Bは、複数の条件下で培養した細胞由来の成熟腸上皮マーカーの相対的mRNA発現のリアルタイムRT−PCR分析を示す。細胞を、最初に、CV条件で6日間、単一の細胞から培養した。次いで、細胞コロニーを、採取し、洗浄し、24ウェルプレートのいくつかのウェルに再度プレーティングし、示されたとおりの複数の条件下でマトリゲル中で4日間培養した。ENRを、全ての条件において添加し、ENRのみと培養した細胞を、対照として使用した。I:IWP−2(2μM)、D:DAPT(10μM)、C:CHIR(3μM)、V:VPA(1mM)。エラーバーはS.D.を示す。
【
図7C】
図7A〜7Dは、CV条件下で培養した腸幹細胞の分化を示す。
図7Cは、複数の条件下で培養した細胞のAlp染色を示す。IDおよびCD条件で明らかな細胞の形態の変化があり、これは、杯細胞およびパーネト細胞と類似する。スケールバー:50μm。
【
図7D】
図7A〜7Dは、CV条件下で培養した腸幹細胞の分化を示す。
図7Dは、分化マーカーの免疫細胞化学的染色を示す。CDおよびID条件下で培養した細胞を、ムチン2(Muc2)、クロモグラニンA(ChgA)、およびリゾチーム(Lyz)染色について使用した。3次元再構築共焦点画像を示す。スケールバー:50μm。
【
図8A-B】
図8A〜8Fは、インビトロでのLgr5+幹細胞の制御された分化を示す。
図8Aは、ENR条件で培養した類臓器体の染色を示す。左のパネルは、腸細胞のAlp染色を示す。染色の前に、類臓器体を、解剖顕微鏡下で鋭利な刃を使用することによって切り開き、管腔の内容物を除去した。中央のパネルは、杯細胞(矢印)および杯細胞によって分泌されたムチンのMuc2染色を示し、右のパネルは、腸内分泌細胞のChgA染色を示す。GFP+細胞は、Lgr5+幹細胞を示す。
図8Bは、分化プロトコルのスキームを提供する。単一のLgr5+幹細胞を、CV条件で4〜6日間培養し、コロニーを形成させた。次いで、細胞コロニーを、採取し、洗浄し、新しいマトリゲルに植え込み、複数の条件下で培養した。全スケールバー:50μm。
【
図8C-D】
図8A〜8Fは、インビトロでのLgr5+幹細胞の制御された分化を示す。
図8Cは、CV条件からENR条件に移し、かつ4日間培養した細胞コロニーの形態を示す(上のパネル)。CV条件で継続的に培養したコロニーを、対照として示す(下のパネル)。
図8Dは、各条件について、低倍率画像および高倍率画像で分化した細胞の形態を示す。CDおよびID条件でほとんどの細胞の形態が明らかに変化し、これは、それぞれ、パーネト細胞および杯細胞の形成を表すことに留意のこと。全スケールバー:50μm。
【
図8E-F】
図8A〜8Fは、インビトロでのLgr5+幹細胞の制御された分化を示す。
図8Eは、IV条件で培養したコロニーの Alp染色を示す。Alpの先端(左のパネル)および均質な(右のパネル)染色を示す。
図8Fは、IDおよびCD条件で培養したコロニーのMuc2染色を示す。全スケールバー:50μm。
【
図9A-B】
図9A〜9Fは、CHIRおよびVPAについての作用の機構を示す。
図9Aは、6日間複数の条件で培養した陰窩の形態およびLgr5−GFP発現を示す。C:CHIR(3μM);Li:LiCl(5mM);W:Wnt3a(100nM)。
図9Bは、6日の陰窩培養についての細胞数およびGFP+細胞のパーセンテージを示す。データは、3つの独立した実験を代表する。(他に示さない限り、全てのパネルにおいて:エラーバーは3つのウェルの(or)S.D.を示す。
***P<0.001;
**P<0.01;
*P<0.05;NS P>0.05。)
【
図9C】
図9A〜9Fは、CHIRおよびVPAについての作用の機構を示す。
図9Cは、ENR−C(対照)条件またはHDACインヒビターを伴うENR−C条件での陰窩の6日培養を示す。
【
図9D】
図9A〜9Fは、CHIRおよびVPAについての作用の機構を示す。
図9Dは、
図9Cの細胞のGFPパーセンテージ、全生存細胞数および相対GFP強度の定量化を示す。
【
図9E-F】
図9A〜9Fは、CHIRおよびVPAについての作用の機構を示す。
図9Eは、複数の濃度のVPAおよびTSAの細胞増殖およびGFP発現に対する効果を示す。
図9Fは、ニコチンアミド(Ni)のWnt3a(W、100ng/ml)またはCHIR(C、3μM)と組み合わせた効果を示す。複数の条件で6日間培養した陰窩の細胞数およびGFP+細胞のパーセンテージを示す。(他に示さない限り、全てのパネルにおいて:エラーバーは3つのウェルの(or)S.D.を示す。
***P<0.001;
**P<0.01;
*P<0.05;NS P>0.05。)
【
図10】
図10は、複数の条件で培養した単一のLgr5−GFP細胞の形態およびGFP発現を示す。スケールバー:100μm。
【
図11A】
図11A〜11Dは、VPAの機構を示す。
図11Aは、ノッチ阻害後にVPAがGFP発現を救出する(rescue)ことを示す。陰窩を、3日間、DAPT(D、5μM)ありまたはなしで、かつVPAの濃度を変動させて(V、0.25〜4mM)、ENR−C条件で培養した。スケールバー:200μm。
【
図11B-D】
図11A〜11Dは、VPAの機構を示す。
図11Bおよび11Cは、ENR(
図11B)またはENR+CHIR(
図11C)条件で4日間培養し、その後、種々の濃度のVPAを添加し、さらに24時間培養した陰窩を示す。ノッチ1、Hes1およびAtoh1の発現を、リアルタイムRT−PCRで分析した。
図11Dは、6日の培養後の陰窩中のノッチ1、Hes1およびAtoh1の発現のリアルタイムRT−PCRでの分析を示す。
図11B〜11Cにおいて、系列は、左から右に、0、0.5、1、2、および3である。
図11Dにおいて、系列は、左から右に、ENR、ENR−V、ENR−C、およびENR−CVである。
【
図13】
図13A〜13Bは、CHIRとVPAの組み合わせが、マウスの内耳に由来するLgr5+幹/前駆細胞の増殖およびGFP発現を促進することを示す。
図13Aは、出生後第2日のLgr5−GFPマウスに由来する単離された蝸牛感覚上皮の明視野画像およびGFP画像を示す。
図13Bは、単一の細胞に分離し、11日間複数の条件で培養した単離された蝸牛感覚上皮を示す。E:EGF;N;ノギン;R:R−スポンジン1;C:CHIR99021、V:VPA。スケールバー:100μm。
【
図14A】
図14A〜14Fは、CHIRとVPAの組み合わせが、マウスの内耳に由来するLgr5+幹/前駆細胞の増殖およびGFP発現を促進することを示す。
図14Aは、内耳上皮細胞のGFP発現を示す。
【
図14B】
図14A〜14Fは、CHIRとVPAの組み合わせが、マウスの内耳に由来するLgr5+幹/前駆細胞の増殖およびGFP発現を促進することを示す。
図14Bは、GFP発現の定量化および細胞数を示す。
【
図14C】
図14A〜14Fは、CHIRとVPAの組み合わせが、マウスの内耳に由来するLgr5+幹/前駆細胞の増殖およびGFP発現を促進することを示す。
図14Cは、明視野画像およびGFP画像を示す。全てのスケールバー:200μm。
【
図14D-F】
図14A〜14Fは、CHIRとVPAの組み合わせが、マウスの内耳に由来するLgr5+幹/前駆細胞の増殖およびGFP発現を促進することを示す。
図14Dは、示されるとおりの複数の条件での内耳幹細胞の8日培養の細胞数を示す。
図14Eは、示されるとおりの複数の条件での内耳幹細胞の8日培養のGFPパーセンテージを示す。
図14Fは、複数の条件で培養したLgr5−GFP内耳幹細胞の形態およびGFP発現を示す。全てのスケールバー:200μm。
【
図15】
図15は、インビトロでの健康なマウスの結腸組織へのマウス小腸陰窩の播種を示す。左のパネルは、部分的に露出させた(denude)上皮を有する結腸に配置した単離された小腸陰窩を示す。白矢印は、播種した陰窩を示す。右のパネルは、結腸に付着させ、かつ24時間後にその表面を横切って広げた播種した陰窩を示す。黒矢印は、左のパネルの白矢印と同じ位置を示す。
【
図16】
図16は、播種の48時間後の陰窩の植付けを示す。陰窩を播種したマウス結腸組織の蛍光(上のパネル)および明視野(下のパネル)画像を示す。陰窩を、播種の前にDiDで染色した。白線は、植え付けた細胞を含む領域を示す。
【
図17】
図17は、6日のインビトロ培養後の陰窩の植付けを示す。陰窩を播種したマウス結腸組織のGFP(左のパネル)、RFP(中央のパネル)、および明視野(右のパネル)チャネルの画像を示す。GFPシグナルは、Lgr5細胞の存在を示す。
【
図18】
図18は、陰窩を植え付けたTRUCマウスから切除した脱した潰瘍性大腸炎組織の共焦点画像を示す。陰窩を、播種の前にDiDで染色した。脱した組織を、緑の自己蛍光によって示す。
【
図19A-F】
図19A〜19Nは、評価した培養系中の播種(左)およびインキュベーション後の類臓器体の成長(右)の概略図を示す。
図19Aおよび19Bは、典型的な粘膜下組織播種方法(本明細書で「ベアパッチ(bare patch)」という)を示し、これは、単層の成長および類臓器体の分離を支持する。
図19Cおよび19Dは、3次元の類臓器体の成長を支持するためのGF注入SIS(GFは、EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632、バルプロ酸、CHIRを含む)を示す。
図19Eおよび19Fは、コラーゲンのかぶせもの(overlay)を有するGF注入SISで構成されるゲルパッチを示す。
図19Eの挿入図は、各々の類臓器体が個々に軟質ゲルおよびSIS基底層中に覆われることを示す。
【
図19G-N】
図19A〜19Nは、評価した培養系中の播種(左)およびインキュベーション後の類臓器体の成長(右)の概略図を示す。
図19Gおよび19Hは、培養培地に直接添加されたGF(EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632、バルプロ酸、CHIR)を有する典型的なコラーゲン懸濁物を示す。
図19Iおよび19Jは、ゲルに植え込まれたGF(EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632、バルプロ酸、CHIR)を有する典型的なコラーゲン懸濁物を示す。
図19Kおよび19Lは、培養培地に添加されるさらなるGFを有さない典型的なコラーゲン懸濁物を示す。
図19Mおよび19Nは、培地に添加されるさらなるGFを有さない典型的なマトリゲル懸濁物を示す(実験対照)。
【
図20】
図20Aは、Lgr5+類臓器体を播種する手順の概略図を示し;模様の付いた円は、注入された増殖因子(EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632、バルプロ酸、およびCHIR)を表す。
図20Bは、最初の接着相を示し、矢印は、増殖植付け因子拡散支持体(growth embedded factor diffusion suport)を示す。
図20Cは、コラーゲンのかぶせものを有する完全培養系を示し、厚さの測定が示される。
【
図21】
図21Aは、7つの培養系中での類臓器体の成長の比較を提供する。系列は、左から右に、マトリゲル、GFを有するゲルパッチ、GFを有するベアパッチ、コラーゲンI、培地GFを有するコラーゲンI、GFを植え込んだコラーゲンI、およびGFなしのベアパッチである。
図21Bおよび21Cは、GFを有するゲルパッチ系由来の48時間での代表的な類臓器体を示し、GFP+蛍光は、陰窩基底に存在するLgr5+幹細胞を示す(いくつかの中央の自己蛍光が見られる)。24時間(コラーゲンI(CI) 対 全て)、48時間(GFを有するベアパッチ(BPGF) 対 全て;CI 対 マトリゲル(M);GFを有するCI(CIGF) 対 M、CI、GFを植え込まれたコラーゲンI(CIEGF)、ベアパッチ(BP)、GFを有するゲルパッチ系(PSGF))、72時間(CI 対 全て;BP、CIEGF、およびCIGF 対 M、PS、BPGF、CI)および96時間(CI 対 全て、BP、CIEGF、およびCIGF 対 全て)で*=p<.05。スケールバー(
図21Bおよび21C)=200μm。
【
図22】
図22は、GFを有するゲルパッチ系において播種された類臓器体の成功裡の成長および陰窩の増殖を示す。GFを有するSISパッチ系上に播種された類臓器体のエキソビボ成長を示す代表的な画像の順序を示す。ピントがずれている陰窩は、単一面顕微鏡で観察した3次元の増殖の効果である。
【
図23】
図23Aは、4mmの胃の欠損の作製を示す概略図を提供する。欠損を覆う6mmのパッチの配置を、
図23Bに示す。
図23Cに示すように、胃の外壁には目に見える欠損はなく、これは、手術後1週間の代表的な胃の試料で示された。胃の内壁から見た場合、欠損全体(矢印)は、配置したパッチの型に従って示される:
図23Dは、GFを有さないSISパッチを示し、
図23Eは、GFを加えたSISパッチを示し、
図23Fは、SISなしのPGSU裏当て(backing)のみを示す。GFを有するSISパッチは、完全な閉鎖および胃の壁の上皮形成効果を示し、一方、SISのみにおいて、欠損は部分的に開いたままであり、SISなしのPGSUにおいて、欠損は完全に開いたままであった。
【
図24】
図24は、複数の条件で培養した単離されたヒト腸陰窩のマーカー遺伝子発現のリアルタイムRT−PCR分析を示す。EGF、ノギンおよびR−スポンジン1を全ての条件に添加した。C:CHIR、Ni:ニコチンアミド、W:Wnt3a、A:A83−01、S:SB202190、P:PGE2、V:VPA、Tu:ツバスタチンA、陰窩は、新たに単離されたヒト小腸陰窩を示す。エラーバーはS.D.を示し、n=3である。
【
図25】
図25A〜25Bは、ヒト腸幹細胞について最適化した培養条件を示す。
図25Aは、複数の条件で培養したヒト腸上皮細胞の増殖を示す。新たに単離されたヒト小腸陰窩を、示されるとおりの複数の条件で培養した。EGF、ノギン、R−スポンジン1は、全ての条件において存在した。細胞数を、播種後第9日に定量した。C:CHIR、V:0.5〜1.5mMで使用したVPA、Ni:ニコチンアミド。
図25Bは、
図15Aのとおりの複数の条件で培養した細胞のLGR5発現を示す。VPAを1mMで使用した。
【
図26】
図26は、ヒト腸幹細胞の培養を示す。細胞を、ヒト腸幹細胞培養培地(EGF、ノギン、R−スポンジン1、CHIR99021、VPA、およびニコチンアミドを含む)中で培養した。継代後第5日での第2継代の細胞を示す。スケールバー:400μm。
【
図27】
図27は、動物モデル系におけるインビボでの7日の経過をとおしたCHIRおよびVPAの投与後の陰窩サイズの増加を示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
発明の詳細な説明
定義
本明細書で使用する場合、「抗体」は、免疫原結合活性を有する任意の免疫グロブリンポリペプチドまたはその断片である。
【0050】
本明細書で使用する場合、「アゴニスト」は、標的遺伝子または標的タンパク質それぞれの発現または活性の増大を引き起こす薬剤である。アゴニストは、いくらかの様式でそのコグネイト(cognate)レセプターに結合し得、該レセプターを活性化し得、それは、標的遺伝子またはタンパク質に対するこの生理学的効果を直接的または間接的に引き起こす。
【0051】
本明細書で使用する場合、「インヒビター」は、標的遺伝子または標的タンパク質それぞれの発現または活性の減少を引き起こす薬剤である。「アンタゴニスト」は、インヒビターであり得るが、レセプターに結合し、他の分子による結合を低減または排除もするより特異的な薬剤である。
【0052】
本明細書で使用する場合、「阻害性核酸」は、哺乳動物細胞に投与した場合、標的遺伝子の発現の低減を生じる二本鎖核酸、siRNA、shRNA、もしくはアンチセンスRNA、またはそれらの一部、またはそれらの模倣物である。典型的には、核酸インヒビターは、標的核酸分子もしくはそのオルソログの少なくとも一部を含むか、または標的核酸分子の相補鎖の少なくとも一部を含む。典型的には、標的遺伝子の発現は、10%、25%、50%、75%、または90〜100%でさえ低減される。
【0053】
「アンチセンス」は、長さに関わらず、核酸配列のコード鎖またはmRNAに相補的である核酸配列を意味する。本明細書で言及する場合、「相補核酸配列」は、相補的ヌクレオチド塩基対で構成される別の核酸配列とハイブリダイズし得る核酸配列である。「ハイブリダイズ」は、適切なストリンジェンシーの条件下で、対が、相補的ヌクレオチド塩基(例えば、DNAにおいてグアニン(G)とシトシン(C)が塩基対を形成するように、アデニン(A)はチミン(T)と塩基対を形成する)の間で二本鎖分子を形成することを意味する。(例えば、Wahl, G. M. and S. L. Berger (1987) Methods Enzymol. 152:399; Kimmel, A. R. (1987) Methods Enzymol. 152:507を参照)。1つの態様において、アンチセンスRNAが、個々の細胞、組織、または類臓器体に導入される。アンチセンス核酸は、改変された骨格、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、もしくは当該分野で公知の他の改変された骨格を含み得るか、または非天然のヌクレオシド間結合を含み得る。
【0054】
「siRNA」は、二本鎖RNAを意味する。最適には、siRNAは、18、19、20、21、22、23、または24ヌクレオチド長であり、その3’末端に2塩基の突出を有する。これらのdsRNAは、個々の細胞または培養系に導入され得る。かかるsiRNAは、mRNAレベルまたはプロモーター活性をダウンレギュレートするために使用される。
【0055】
本明細書で使用する場合、「断片」は、ポリペプチドまたは核酸分子の一部である。この一部は、好ましくは、参照核酸分子またはポリペプチドの全長の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%を含む。断片は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、もしくは100、200、300、400、500、600、700、800、900、または1000ヌクレオチドまたはアミノ酸を含み得る。
【0056】
本明細書で使用する場合、用語「幹細胞」は、自己複製(self-renew)し、複数の細胞系統に分化する能力を有する多能性細胞をいう。
【0057】
本明細書で使用する場合、用語「上皮幹細胞」は、上皮細胞を生じる細胞系統を含む複数の細胞系統になることに付される潜在性を有する多能性細胞をいう。
【0058】
本明細書で使用する場合、用語「前駆細胞」は、幹細胞に由来する系統限定細胞を言う。
【0059】
本明細書で使用する場合、用語「上皮前駆駆胞」は、上皮細胞を生じる細胞系統に限定される潜在性を有する多能性細胞をいう。
【0060】
本明細書で使用する場合、用語「自己複製(self-renewal)」は、幹細胞が分裂して、母細胞の発生の潜在能力と区別できない発生の潜在能力を有する1つ(非対称分裂)または2つ(対称分裂)の嬢細胞を生じるプロセスをいう。自己複製は、増殖および未分化状態の維持の両方を含む。
【0061】
本明細書で使用する場合、用語「植え付ける」または「植付け」は、組織中に存在する細胞との接触を介してインビボで目的の組織に幹細胞または前駆細胞を組み込むプロセスをいう。
【0062】
本明細書で使用する場合、用語「単離された」は、物質をネイティブの状態で見出だした場合に通常該物質に付随する成分を種々の程度で含まない物質をいう。「単離する」は、元の供給源または周囲物(surroundings)からのある程度の分離を示す。
【0063】
本明細書で使用する場合、細胞の「集団」は、1より大きい任意の数の細胞であるが、好ましくは、少なくとも1×10
3細胞、少なくとも1×10
4細胞、少なくとも1×10
5細胞、少なくとも1×10
6細胞、少なくとも1×10
7細胞、少なくとも1×10
8細胞、少なくとも1×10
9細胞、または少なくとも1×10
10細胞である。
【0064】
本明細書で使用する場合、用語「類臓器体」または「上皮類臓器体」は、臓器または臓器の一部に類似し、その特定の臓器に関連する細胞型を有する細胞クラスターまたは細胞凝集体をいう。
【0065】
本明細書で使用する場合、「被験体」は、哺乳動物鋼の任意の構成メンバーを含む脊椎動物である。
【0066】
本明細書で使用する場合、「哺乳動物」は、ヒト、マウス、ラット、ヒツジ、サル、ヤギ、ウサギ、ハムスター、ウマ、ウシまたはブタを非限定的に含む任意の哺乳動物をいう。
【0067】
本明細書で使用する場合、「非ヒト哺乳動物」は、ヒトではない任意の哺乳動物をいう。
【0068】
本明細書で使用する場合、「増加すること」は、例えば参照のレベルと比べて、少なくとも5%、例えば、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、99、100%またはそれら以上増加することをいう。
【0069】
本明細書で使用する場合、「増加する」は、例えば参照標準のレベルと比べて、少なくとも1倍、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、500、1000倍またはそれら以上の増加も意味する。
【0070】
本明細書で使用する場合、「減少すること」は、例えば参照のレベルと比べて、少なくとも5%、例えば、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、99、または100%減少することをいう。
【0071】
本明細書で使用する場合、「減少する」は、例えば参照のレベルと比べて、少なくとも1倍、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、500、1000倍またはそれら以上の減少も意味する。
【0072】
本明細書で使用する場合、用語「参照」は、標準または対照条件(例えば、試験薬剤または試験薬剤の組み合わせで治療されない)を意味する。
【0073】
本明細書で使用する場合、用語「排除する」は、検出不可能なレベルにまで減少することを意味する。
【0074】
本明細書で使用する場合、用語「相乗効果(synergy)」または「相乗効果(synergistic effect)」は、別々に摂取した効果の各々の和より大きい;相加的効果より大きい効果である。
【0075】
本明細書で使用する場合、用語「治療する」、「治療すること」、「治療」等は、障害および/またはそれに関連する症状を低減または改善することをいう。除外するわけではないが、障害または状態を治療することは、障害、状態またはそれらに関連する症状が完全に排除されることを必要としないことが理解される。
【0076】
本開示において、「含む(comprises)」、「含むこと(comprising)」、「含むこと(containing)」、および「有すること」等は、米国特許法でそれらにあるとされる意味を有し得、「含む(includes)」、「含むこと(including)」等を意味し得、「から本質的になること」または「から本質的になる(consists essentially)」は同様に、米国特許法であるとされる意味を有し、用語は開放型(open-ended)であり、記載されたものの基本的または新規の特性が、記載されたものより多くの存在によって変化しない限り、記載されたものより多くの存在を許容するが、先行技術の態様を排除する。
【0077】
他の定義は、本開示を通じて文脈中に現れる。他に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。対立する場合は、定義を含む本明細書が支配する。
【0078】
本発明の方法および組成物
I.細胞培養溶液および細胞培養系
均質の上皮幹細胞培養、効率的な上記類臓器体形成および移植における使用のためのこれらのスケールアップを促進するための細胞培養溶液および細胞培養系は、今回発見された。
【0079】
骨形成因子のインヒビター、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3β(GSK3β)のインヒビター、ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役レセプター5(LGR5)に結合する薬剤、およびヒストンデアセチラーゼインヒビターを含む細胞培養溶液は、単離された上皮幹細胞から上皮細胞コロニーを形成するために使用され得る。特定の態様において、少なくとも約25%、約40%、約50%、約75%、約90%〜約100%の単離された上皮幹細胞は、本細胞培養溶液の存在下で上皮細胞コロニーを形成する。さらに、少なくとも約6%の単一の単離された上皮幹細胞は、本細胞培養溶液の存在下で上皮細胞コロニーを形成する。1,6−[[2−[[4−(2,4−ジクロロフェニル)−5−(5−メチル−1H−イミダゾール−2−イル)−2−ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]−3−ピリジンカルボニトリル「CHIR99021」(Ring et al., 2003)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3βのインヒビター、およびバルプロ酸、ヒストンデアセチラーゼインヒビターの組み合わせは、コロニー形成効率に対する相乗効果を有する。
【0080】
骨形成因子(BMP)は、TGF−βスーパーファミリーの構成メンバーであり、種々の種の間の胚のパターン化(patterning)および後胚細胞シグナル伝達に関与するメタロプロテアーゼを含む。BMPのインヒビターは、例えば、BMP分子に結合し、例えば、BMP分子のBMPレセプターへの結合を妨げまたは阻害することによって、BMP活性が減少または排除された複合体を形成する薬剤を含む。代替的に、インヒビターは、アンタゴニストまたは逆アゴニスト(reverse agonist)として作用する薬剤である。この型のインヒビターは、BMPレセプターに結合し、BMPのレセプターへの結合を妨げる。後者の薬剤の例は、BMPレセプターに結合し、BMPの抗体結合レセプターへの結合を妨げる抗体である。BMPのインヒビターは、当該分野において周知であり(Rider et al., 2010)、ノギン、コーディン、フォリスタチン(Schneyer et al., 1994)、DAN、DANシステイン−ノットドメイン(セルベルス(Cerberus)およびグレムリン(Gremiln)を含む)を含むタンパク質、スクレロスチン、ねじれ原腸形成、子宮感受性関連遺伝子−1、結合組織成長因子(Abreu et al., 2002)、インヒビン(Wiater and Vale, 2003)、BMP−3(Gamer et al., 2005)、ドルソモルフィン(Yu et al., 2008)、ならびにDMH1(Hao et al., 2010)およびLDN−193189(Cuny et al., 2008)を含む誘導体が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0081】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK3)は、プロリン特異的セリン−トレオニンキナーゼであり、2つの公知のアイソフォーム、α(GSK3A)およびβ(GSK−3β)を有するリン酸化および不活性化されたグリコーゲンシンターゼとして最初に同定された。GSK−3βインヒビターを含むWntアゴニストは、当該分野で周知であり、1,6−[[2−[[4−(2,4−ジクロロフェニル)−5−(5−メチル−1H−イミダゾール−2−イル)−2−ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]−3−ピリジンカルボニトリル「CHIR99021」(Ring et al., 2003)、LiCl(Klein et al., 1996)、BIO−アセトキシム((2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−オキシム)(Meijer et al., 2003)、N6−[2−[[4−(2,4−ジクロロフェニル)−5−(1H−イミダゾール−2−イル)−2−ピリミジニル]アミノ]エチル]−3−ニトロ−2,6−ピリジンジアミン「CHIR98014」(Ring et al., 2003)、GSK−3インヒビターIVとしても公知の3−(2,4−ジクロロフェニル)−4−(1−メチル−1H−インドール−3−イル)−1H−ピロール−2,5−ジオン「SB216763」(Coghlan et al., 2000)、3−[(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)アミノ]−4−(2−ニトロフェニル)−1H−ピロール−2,5−ジオン「SB415286」(Coghlan et al., 2000)、5−エチル−7,8−ジメトキシ−1H−ピロロ[3,4−c]−イソキノリン−1,3−(2H)−ジオン「3F8」(Zhong et al., 2009)、9−ブロモ−7,12−ジヒドロ−インドロ[3,2−d][1]ベンゾアゼピン−6(5H)−オン「ケンパウロン」(Schultz et al., 1999; Zaharevits et al., 1999)、9−ブロモ−7,12−ジヒドロ−ピリド[3’,2’:2,3]アゼピノ[4,5−b]インドール−6(5H)−オン「1−アザケンパウロン」(Schultz et al., 1999; Zaharevits et al., 1999)、N−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−5−(4−ニトロフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−アミン「TC−G24」(Khanfar et al., 2010)、2−メチル−5−[3−[4−(メチルスルフィニル)フェニル]−5−ベンゾフラニル]−1,3,4−オキサジアゾール「TCS2002」(Saitoh et al., 2009)、N−[(4−メトキシフェニル)メチル]−N’−(5−ニトロ−2−チアゾリル)尿素「AR−A014418」(Bhat et al., 2003)、3−[5−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−オキソプロピル)−1−ピペラジニル]−2−(トリフルオロメチル)フェニル]−4−(1H−インドール−3−イル)−1H−ピロール−2,5−ジオン「TCS21311」(Thomas et al., 2011)、3−[[6−(3−アミノフェニル)−7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル]オキシ]−フェノール「TWS119」(Ding et al., 2003)、GSK−3インヒビターIXとしても公知の(2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−アセトキシム「BIO−アセトキシム」(Meijer et al., 2003)、4−(2−アミノ−4−オキソ−2−イミダゾリン−5−イリデン)−2−ブロモ−4,5,6,7−テトラヒドロピロロ[2,3−c]アゼピン−8−オン「10Z−ヒメニアルジシン」(Breton et al., 1997)、GSK−3βインヒビターIIとしても公知の2−[(3−ヨードフェニル)メチルスルファニル]−5−ピリジン−4−イル−1,3,4−オキサジアゾール(Wada, 2009)、GSK−3βインヒビターIとしても公知の4−ベンジル−2−メチル−1,2,4−チアジアゾリジン−3,5−ジオン(Wada, 2009)、GSK−3βインヒビターXXVIIとしても公知の3−アミノ−6−(4−((4−メチルピペラジン−1−イル)スルホニル)フェニル)−N−(ピリジン−3−イル)ピラジン−2−カルボキサミド,HCl(米国特許公開番号2006/0173014)、GSK−3βインヒビターXXVIとしても公知の4,5−ビス(1−メチル−1H−インドール−3−イル)−1,2−ジヒドロピラゾール−3−オン(Chen et al., 2011)、FRATtideペプチドSQPETRTGDDDPHRLLQQLVLSGNLIKEAVRRLHSRRLQ(配列番号:1)(Bax et al., 2001)、3−アミノ−1H−ピラゾロ[3,4−b]キノキサリン「Cdk1/5インヒビター」(Andreani et al., 1996, 2000: Katho et al., 2011)、および4−((5−ブロモ−2−ピリジニル)アミノ)−4−オキソブタン酸「ビキニン」(De Rybel et al., 2009)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、GSK−3βのインヒビターはCHIR99021である。
【0082】
ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役レセプター5(LGR5レセプター)は、その限定された陰窩発現ならびに複数の成人組織および癌において幹細胞をマーキング(marking)することについて公知である。LGR5レセプターに結合する薬剤としては、R−スポンジン1、R−スポンジン2、R−スポンジン3、およびR−スポンジン4等のR−スポンジン(Kim et al., 2006; Nam et al., 2006)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、LGR5レセプターに結合する薬剤はR−スポンジン1である。
【0083】
代替的な態様において、塩化リチウム(LiCl)は、CHIR99021の代わりに使用できるか、または少なくとも約3μMのCHIR99021は、R−スポンジン1の代わりに使用できる。
【0084】
ヒストンは、DNAに結合し、ヌクレオソームを形成する核タンパク質である。これらは、DNAの染色体へのパッケージングおよび転写の調節の両方に直接関与する。ヒストンアセチル化/脱アセチル化は、転写の間のクロマチン構造の動力学の調節の主な因子である。ヒストンデアセチラーゼインヒビターは、ヒストン脱アセチル化を低減または排除するが、当該分野で周知であり、バルプロ酸、トリコスタチンA、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、およびスベロヒドロキサム酸(SBHA)等のPan−HDACインヒビター、ならびにツバシン、ツバスタチンA、およびコンパウンド7等のHDAC6インヒビターが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0085】
代替的な態様において、Atoh1インヒビターは、ヒストンデアセチラーゼインヒビターを増強し得るか、またはヒストンデアセチラーゼインヒビターの代わりに使用され得る。Atoh1インヒビターとしては、例えば、Atoh1の発現の減少または排除を引き起こす阻害性核酸が挙げられる。Atoh1を標的とする阻害性核酸は、当該分野で公知である(Shi et al., 2010)。
【0086】
細胞培養溶液は、上皮増殖因子および/またはノッチアゴニストを任意に含み得る。上皮増殖因子は、細胞増殖、分化、移動および生存を含む種々の細胞機能、ならびに組織発生に関与する細胞シグナル伝達分子である。ノッチタンパク質は、発生の間に細胞運命の決定を調節する一回膜貫通型レセプターである。ノッチアゴニストとしては、例えば、細胞においてノッチ活性を増大させる薬剤が挙げられる。ノッチアゴニストは、当該分野で周知であり、ノッチ1抗体(N1 Ab)、デルタ1、デルタ様3、デルタ様4、ジャグド1、ジャグド2、DSLペプチド、およびデルタDが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0087】
特定の態様において、細胞培養溶液は、約5〜約500ng/mlのEGF、約5〜約500ng/mlのノギン、約50〜約1000ng/mlのR−スポンジン、約0.1〜約10μMのCHIR99021、および約0.1〜約5mMのバルプロ酸を含む。
【0088】
他の態様において、細胞培養溶液中のWntアゴニストとHDAC6インヒビターの組み合わせが好ましい。従って、細胞培養溶液は、骨形成因子のインヒビター、R−スポンジン1、Wntアゴニスト、およびHDAC6インヒビターを含み得る。
【0089】
Wntタンパク質は、胚の発生の制御に関与する細胞外シグナル伝達分子である。Wntアゴニストは、当該分野で周知であり、Wnt−1/Int−1(Nusse et al., 1982)、Wnt−2/Irp(Int−I関連タンパク質)(Wainwright et al., 1988)、Wnt−2b/13(Katoh et al., 1996)、Wnt−3/Int−4(Katoh et al., 2001)、Wnt−3a(Saitoh et al., 2001)、Wnt−4(Smolich et al., 1993)、Wnt−5a(Burrus et al., 1995)、Wnt−5b(Burrus et al., 1995)、Wnt−6(Burrus et al., 1995)、Wnt−7a(Smolich et al., 1993)、Wnt−7b(Burrus et al., 1995)、Wnt−8a/8d(Saitoh et al., 2001)、Wnt−8b(Lako et al., 1998)、Wnt−9a/14(Bergstein et al., 1997)、Wnt−9b/14b/15(Bergstein et al., 1997)、Wnt−10a(Wang et al., 1996)、Wnt−10b/12(Wang et al., 1996)、Wnt−11(Lako et al., 1998)、Wnt−16(Bergstein et al., 1997; Fear et al., 2000)、R−スポンジン1、R−スポンジン2、R−スポンジン3、R−スポンジン4、ノリン(Planutis et al., 2007)、CHIR99021、LiCl、BIO((2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−オキシム)、CHIR98014、SB216763、SB415286、3F8、ケンパウロン、1−アザケンパウロン、TC−G24、TCS2002、AR−A014418、2−アミノ−4−[3,4−(メチレンジオキシベンジル−アミノ)−6−(3−メトキシフェニル)ピリミジン(Liu et al., 2005)、2−[2−(4−アセチルフェニル)ジアゼニル]−2−(3,4−ジヒドロ−3,3−ジメチル−1(2H)−イソキノリニリデン)アセトアミド「IQ1」(Miyabayashi et al., 2007)、(3α,5β,12α,20R)−3,12−ジヒドロキシコラン−24−オイックアシッド「DCA」(Pai et al., 2004)、(2S)−2−[2−(インダン−5−イルオキシ)−9−(1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−9H−プリン−6−イルアミノ]−3−フェニル−p−ロパン−1−オール「QS11」(Zhang et al., 2007)、ピペリジニルジフェニルスルホニルスルホンアミド1「WAY−316606」(Bodine et al., 2009)、(ヘテロ)アリールピリミジン(Gilbert et al., 2010)、10Z−ヒメニアルジシン、TCS21311、TWS119、GSK−3βインヒビターII、GSK−3βインヒビターI、GSK−3βインヒビターXXVII、FRATtide、Cdk1/5インヒビター、およびビキニンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
細胞培養系は、本発明の細胞培養溶液、および上皮類臓器体、上皮幹細胞または上皮前駆細胞または上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞の集団を含む。上皮類臓器体は、当該分野で公知である(Yao et al., 2010; Lukacs et al., 2010)上皮幹細胞としては、腸、胃、肺、膵臓および結腸の幹細胞が挙げられるが、これらに限定されない。上皮幹細胞は、腸、内耳、脳、腎臓、肝臓、網膜、胃、膵臓、乳房、毛包、卵巣、副腎髄質、皮膚、胸腺、味蕾、乳腺、癌および腫瘍を非限定的に含む供給源に由来するLGR5陽性細胞も含む。上皮幹細胞は、LGR5を発現するLGR5陽性幹細胞の静止前駆体も含み得る(Buczacki et al., 2013)。細胞培養系中の上皮幹細胞または上皮前駆細胞の集団は、例えば、該系中の細胞の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%または100%を構成し得る。好ましくは、上皮幹細胞または上皮前駆細胞の集団は、繰り返しの継代の間維持される。
【0091】
特定の態様において、ヒト上皮幹細胞は、ニコチンアミド、またはEX527等のSirt1特異的HDACインヒビターを含むさらなる成分の存在下で培養され得る。
【0092】
特定の態様において、内耳由来の上皮幹細胞は、Wntアゴニスト、ヒストンデアセチラーゼインヒビター、上皮増殖因子、塩基性線維芽細胞増殖因子および任意に骨形成因子の存在下で培養され得る。
【0093】
細胞培養系は、粘膜下組織基底、およびコラーゲンを含み移植に適切な3次元組織構築物を形成する被覆を非限定的に含むさらなる成分を含み得る。コラーゲン被覆は、選択された上皮組織または細胞型の上およびまたはその周囲にかぶせられ得、選択された上皮組織または細胞型と粘膜下組織基底の間に配置され得る。選択された上皮組織または細胞型としては、上皮幹細胞、上皮幹細胞を含む単離された組織または上皮類臓器体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
小腸粘膜下組織(SIS)は、一般的な生体適合性の臨床的に使用される骨格である(de la Fuente et al., 2003; Ueno et al., 2007; Schultz et al., 2002; Kehoe et al., 2012)。粘膜下組織ベースの骨格は、迅速な新生血管形成、顆粒化、生分解を受け、一般的に、種の間でタンパク質組成の点で良好に保存されている。3次元組織構築物のための改善された粘膜下組織ベースの培養系は、粘膜下組織に前もって選択された上皮細胞型を播種し、コラーゲンベースのかぶせものを伴う増殖を容易にすることによって調製される。このかぶせものを有するSISの組成が変化することによって、SIS上の細胞接着および増殖が容易になり、粘膜下組織に接着した細胞を3次元増殖させ、大きな上皮類臓器体を生じる。温血脊椎動物からの動物由来組織マトリックス骨格(例えば、胃、膀胱、消化器(alimentary)、呼吸器(respiratory)、生殖器粘膜下組織、および肝臓基底膜)は、SISと交換可能であり、従って、本開示の範囲内である。
【0095】
組織構築物は、当該分野で公知の細胞培養溶液または本明細書で上記される本発明の細胞培養溶液の存在下で培養され得る。例えば、組織構築物は、骨形成因子のインヒビター、R−スポンジン1、CHIR99021、およびヒストンデアセチラーゼインヒビターを含む細胞培養溶液の存在下で培養され得る。さらに、粘膜下組織基底は、上皮増殖因子、骨形成因子、R−スポンジン1、CHIR99021、Y−27632、およびヒストンデアセチラーゼインヒビターを非限定的に含む小分子および/または増殖因子の類似の組み合わせを含み得る。
【0096】
代替的な態様において、コラーゲンを含まない上皮細胞培養系が提供され、ここで、粘膜下組織基底は、上皮増殖因子、骨形成因子、R−スポンジン1、CHIR99021、Y−27632、およびヒストンデアセチラーゼインヒビター等の小分子および/または増殖因子の組み合わせを含む。コラーゲンを含まない組織構築物は、当該分野で公知または本明細書で上記される細胞培養溶液の存在下で培養され得る。
【0097】
II.細胞培養溶液および細胞培養系を使用する方法
本発明の細胞培養溶液および細胞培養系は、単離された上皮幹細胞から高い効率で上皮類臓器体を形成するために使用され得る。特定の態様において、ノギン、R−スポンジン1、CHIR99021、およびヒストンデアセチラーゼインヒビター(例えば、バルプロ酸)の存在下で単離された上皮幹細胞をインキュベートすることによって、少なくとも約25%、35%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%の効率で上皮細胞コロニーを形成する。別の特定の態様において、ノギン、R−スポンジン1、CHIR99021、およびヒストンデアセチラーゼインヒビターの存在下でインキュベートされた単一の単離された上皮幹細胞は、少なくとも(least)約6%〜約100%の効率で上皮細胞コロニーを形成する。
【0098】
本発明の細胞培養溶液および細胞培養系内に維持された上皮幹細胞は、次いで、パーネト細胞、腸細胞、杯細胞、および腸内分泌細胞の形成を生じる分化経路を含む特定の分化経路へと振り向けられ得る。
【0099】
パーネト細胞は、腸陰窩内のLgr5+幹細胞ニッチ(niche)の重要な構成要素であり、幹細胞維持のために不可欠なシグナルを提供することが示された(Sato et al., 2011b; Yilmaz et al., 2012)。BMPのインヒビター、R−スポンジン1、CHIR99021、およびヒストンデアセチラーゼインヒビター(例えば、バルプロ酸)を含む細胞培養溶液の存在下で最初に上皮幹細胞をインキュベートし、次いで、少なくとも1つのWntアゴニストおよび少なくとも1つのノッチのインヒビター(例えば、DAPT)の存在下で上皮幹細胞をさらにインキュベートすることによって、パーネト細胞が生じる。同様に、少なくとも1つのWntインヒビターおよび少なくとも1つのヒストンデアセチラーゼインヒビターの存在下で上皮幹細胞を続いてさらにインキュベートすることによって、腸細胞が生じ;少なくとも1つのWntインヒビターおよび少なくとも1つのノッチインヒビターの存在下で上皮幹細胞を続いてさらにインキュベートすることによって、杯細胞が生じる。Wntインヒビターは、N−(6−メチル−2−ベンゾチアゾリル)−2−[(3,4,6,7−テトラヒドロ−4−オキソ−3−フェニルチエノ[3,2−d]ピリミジン−2−イル)チオ]−アセトアミド(「IWP−2」)(Chen, Dodge et al. 2009)であり得るが、これに限定されない。ノッチインヒビターは、N−[N−(3,5−ジフルオロフェナセチル)−L−アラニル]−S−フェニルグリシンt−ブチルエステル(「DAPT」または「LY−374973」)(Dovey, John et al. 2001)、N1−[(7S)−6,7−ジヒドロ−6−オキソ−5H−ジベンゾ[b,d]アゼピン−7−イル]−2,2−ジメチル−N3−(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)−(「RO4929097」、プロパンジアミド)(He, Luistro et al. 2011)、(S)−2−ヒドロキシ−3−メチル−N−((S)−1−((S)−3−メチル−2−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[d]アゼピン−1−イルアミノ)−1−オキソプロパン−2−イル)ブタンアミド(「LY450139」)(Lanz, Hosley et al. 2004)、N−[(1S)−2−[[(7S)−6,7−ジヒドロ−5−メチル−6−オキソ−5H−ジベンゾ[b,d]アゼピン−7−イル]アミノ]−1−メチル−2−オキソエチル]−2−ヒドロキシ−3−メチル−、(2S)−(「LY900009」、ブタンアミド)(Selleckchem: Catalog No. S7168)、N−[(1S)−2−[[(7S)−6,7−ジヒドロ−5−(2−ヒドロキシエチル)−6−オキソ−5H−ピリド[3,2−a][3]ベンゾアゼピン−7−イル]アミノ]−1−メチル−2−オキソエチル]−4,4,4−トリフルオロ−(「LY3039478」、ブタンアミド)Selleckchem: Catalog No. S7169、N−[(1S)−2−[[(7S)−6,7−ジヒドロ−5−メチル−6−オキソ−5H−ジベンゾ[b,d]アゼピン−7−イル]アミノ]−1−メチル−2−オキソエチル]−3,5−ジフルオロ−α−ヒドロキシ−、(αS)−(「LY411575」、ベンゼンアセトアミド)(Wehner, Cizelsky et al. 2014)、7−(S)−[N’(3,5−ジフルオロフェニルアセチル)−L−アラニル]アミノ−5−メチル−5,7−ジヒドロ−6H−ジベンゾ[b,d]アゼピン−6−オン(「YO−01027」(DBZ))(Milano, McKay et al. 2004)、(2R)−2−(N−(2−フルオロ−4−(1,2,4−オキサジアゾール−3−イル)ベンジル)−4−クロロフェニルスルホンアミド)−5,5,5−トリフルオロペンタンアミド(「BMS−708163」)(Saito, Fu et al. 2014)、(2R,3S)−N−[(3S)−1−メチル−2−オキソ−5−フェニル−2,3−ジヒドロ−1H−1,4−ベンゾジアゼピン−3−イル]−2,3−ビス(3,3,3−トリフルオロプロピル)スクシンアミド(「BMS−906024」)(Huang, Greer et al. 2009)、(S,S)−2−[2−(3,5−ジフルオロフェニル)−アセチルアミノ]−N−(1−メチル−2−オキソ−5−フェニル−2,3−ジヒドロ−1H−ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン−3−イル)−プロピオンアミド(「コンパウンドE」)(Milano, McKay et al. 2004)、2−[(1R)−1−[[(4−クロロフェニル)スルホニル](2,5−ジフルオロフェニル)アミノ]エチル−5−フルオロベンゼンブタン酸(「BMS−299897」)(Anderson, Holtz et al. 2005)、SAHM1 Calbiochemカタログ番号:491002、(Aβ42−セレクティブ) Calbiochemカタログ番号:565792、およびN−(2−ブロモフェニル)−N’−(2−ヒドロキシ−4−ニトロフェニル)尿素(「SB225002」)(Bakshi, Jin et al. 2009)であり得るが、これらに限定されない。
【0100】
少なくとも1つのノッチのインヒビター、およびレセプターチロシンキナーゼ(RTK)、MAPK/ERKとも称されるマイトジェン活性化プロテイン(MAP)キナーゼ、またはMAPK/ERKとも称される細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)の少なくとも1つを阻害する薬剤の存在下での上皮幹細胞の続いてのさらなるインキュベーションによって、腸内分泌細胞が生じる。MAPキナーゼは、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼであり得るが、これらに限定されず、MAPキナーゼを阻害する薬剤は、N−[(2S)−2,3−ジヒドロキシプロピル]−3−[(2−フルオロ−4−ヨードフェニル)アミノ]−4−ピリジンカルボキサミド(「AS−703026」)(Kim, Kong et al. 2010)、N−[(2R)−2,3−ジヒドロキシプロポキシ]−3,4−ジフルオロ−2−[(2−フルオロ−4−ヨードフェニル)アミノ]−ベンズアミド(「PD0325901」)(Thompson and Lyons 2005)、5−(2−フェニル−ピラゾロ[1,5−a]ピリジン−3−イル)−1H−ピラゾロ[3,4−c]ピリダジン−3−イルアミン(「FR180204」)(Ohori, Kinoshita et al. 2005)、2−(2−アミノ−3−メトキシフェニル)−4H−クロメン−4−オン(「PD98059」)(Alessi, Cuenda et al. 1995)、6−(4−ブロモ−2−クロロフェニルアミノ)−7−フルオロ−N−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチル−3H−ベンゾ[d]イミダゾール−5−カルボキサミド(「セルメチニブ」)(Huynh, Soo et al. 2007)、(Z)−3−アミノ−3−(4−アミノフェニルチオ)−2−(2−(トリフルオロメチル)フェニル)アクリロニトリル(「SL−327」)(Chen, Operana et al. 2005)、(2Z,3Z)−2,3−ビス(アミノ(2−アミノフェニルチオ)メチレン)スクシノニトリル,エタノール(「U0126」)(Favata, Horiuchi et al. 1998)、(R)−3−(2,3−ジヒドロキシプロピル)−6−フルオロ−5−(2−フルオロ−4−ヨードフェニルアミノ)−8−メチルピリド[2,3−d]ピリミジン−4,7(3H,8H)−ジオン(「TAK−733」)(Dong, Dougan et al. 2011)、およびN−(3−(3−シクロプロピル−5−(2−フルオロ−4−ヨードフェニルアミノ)−6,8−ジメチル−2,4,7−トリオキソ−3,4,6,7−テトラヒドロピリド[4,3−d]ピリジン−1(2H)−イル)フェニル)アセトアミド(「トラメチニブ」)(Gilmartin, Bleam et al. 2011)であり得るが、これらに限定されない。RTKを阻害する薬剤は、N−(3−クロロ−4−フルオロフェニル)−7−メトキシ−6−[3−(4−モルホリニル)プロポキシ]−4−キナゾリンアミン(「ゲフィチニブ」)(Ciardiello 2000)、(E)−2−シアノ−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペンアミド(「AG99」)(Gazit, Yaish et al. 1989)、4−[[(2S)−2−(3−クロロフェニル)−2−ヒドロキシエチル]アミノ]−3−[7−メチル−5−(4−モルホリニル)−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−2(1H)−ピリジノン(「BMS536924」)(Huang, Greet et al. 2009)、5−(2−フェニル−ピラゾロ[1,5−a]ピリジン−3−イル)−1H−ピラゾロ[3,4−c]ピリダジン−3−オール(「FR180209」)(Anastassiadis, Duong-Ly et al. 2013)、N−(3−エチニルフェニル)−6,7−ビス(2−メトキシエトキシ)キナゾリン−4−アミン塩酸(「エルロチニブ」)(Kuiper, Heideman et al. 2014)、(S,E)−N−(4−(3−クロロ−4−フルオロフェニルアミノ)−7−(テトラヒドロフラン−3−イルオキシ)キナゾリン−6−イル)−4−(ジメチルアミノ)ブタ−2−エンアミド(「アファチニブ」)(Minkovsky and Berezov 2008)、N−(4−(3−フルオロベンジルオキシ)−3−クロロフェニル)−6−(5−((2−(メチルスルホニル)エチルアミノ)メチル)フラン−2−イル)キナゾリン−4−アミン,ジ4−メチルベンゼンスルホネート(「ラパチニブ」)(Xia, Mullin et al. 2002)、N−(3−(5−クロロ−2−(2−メトキシ−4−(4−メチルピペラジン−1−イル)フェニルアミノ)ピリミジン−4−イルオキシ)フェニル)アクリルアミド(「WZ4002」)(Sakuma, Yamazaki et al. 2012)、および2−[(3,4−ジヒドロキシフェニル)メチレン]−(「AG−18」、プロパンジニトリル)(Gazit, Yaixh et al. 1989)であり得るが、これらに限定されない。
【0101】
本発明の細胞培養溶液および細胞培養系は、再生目的のために移植可能な上皮を含む3次元組織構築物を形成するためにさらに使用され得る。かかる組織構築物は、当該分野で公知の方法(Lloyd et al. 2006; Gupta et al. 2006; Yui et al. 2012)に従って宿主に移植され得る。治療に感受性の組織は、疾患、損傷、外傷、自己免疫反応、またはウイルスもしくは細菌感染によって損傷したかもしれない損傷組織を含む全ての損傷組織を含む。画像誘導技術を含む最小の侵襲性の移植技術が使用され得る。組織構築物は、損傷組織に直接注入または移植され得、該損傷組織で、組織構築物は、体内の位置に応じて、増殖し、最終的には、必要とされる細胞型に分化し得る。組織構築物は、結腸浣腸を介して直接移植されるか、または注入され得る。上部腸適用のために経口送達の前に、微粉化が使用され得る。従って、修復に特に良好に適した損傷組織は、結腸、小腸、膵臓、食道および胃の系の組織を含む。当業者は、どの組織構築物の適切な損傷が治療されるべき特定の状態に適しているかを認識する。
【0102】
本発明の細胞培養溶液および細胞培養系は、化学療法剤または化学療法剤の組み合わせのインビボでの効能を予測するためにさらに使用され得る。かかる方法は、多くの患者が複数の薬物で治療されるので、臨床設定における使用に特に関連する。
【0103】
腫瘍類臓器体は、単離された腫瘍細胞凝集体または単一の細胞を本発明の培養溶液中で培養することによって、当該分野で公知の方法に従って形成され得る(Sato et al., 2011a)。かかる培養は、前立腺癌、乳癌、胃癌、膵臓癌、肺癌、脳の癌、結腸癌、腸の癌、および膀胱癌を非限定的に含む種々の癌に対する臨床モデルとして使用され得る。
【0104】
腫瘍類臓器体は、本発明の細胞培養溶液(例えば、BMPのインヒビター、R−スポンジン1、Wntアゴニスト、ヒストンデアセチラーゼインヒビターを含む)および1つまたは複数の化学療法剤の存在下でインキュベートされ得る。次いで、関連するパラメータが測定され、評価される。関連するパラメータとしては、細胞生存能力の阻害、細胞増殖の阻害(inhibition cell proliferation)、腫瘍関連遺伝子発現の阻害、アポトーシスの活性化、および細胞生存の阻害が挙げられる。参照(例えば、対照)と比べてのパラメータの増大の検出は、腫瘍類臓器体に関する化学療法剤の効能を示し、これは、インビボでの1つまたは複数の化学療法剤の効能を予測させる。
【0105】
一般的に、化学療法剤は、治療に役立つ(therapeutic)と見積もられた用量範囲で、生理学的効果を生じるのに十分な持続時間の間、腫瘍類臓器体を含む細胞培養系とインキュベートされる。インキュベーション時間は、約1時間〜24時間の範囲にわたり得るか、または必要な場合、数日または数週さえにもわたり得る。インキュベーション条件は、典型的には、本発明の培養溶液を使用すること、および約37℃の温度で維持することを含む。
【0106】
化学療法剤は、被験体の癌を治療(cure)、緩和、治療(treat)、または予防するその能力について評価された任意の物質であり、化学的化合物、生物学的薬剤、タンパク質、ペプチド、核酸、脂質、多糖類、サプリメント、および抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
腫瘍関連遺伝子発現の阻害は、当該分野で公知の方法に従って決定され得る。例えば、対照に比べての腫瘍関連遺伝子発現の阻害は、マイクロチップ分析、RT−PCR、インサイチュハイブリダイゼーション、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション、またはノーザン分析によって検出され得る。対照に比べての腫瘍関連タンパク質発現の阻害は、定量ウェスタンブロット、免疫組織化学、免疫蛍光、酵素標識イムノソルベント検定法、アミノ酸配列分析、蛍光活性化細胞ソーティング、またはタンパク質濃度アッセイによって検出され得る。例えば、胃癌遺伝子スクリーニングアッセイは、アンジオテンシン、アポリポタンパク質E、アポリポタンパク質A−I、セルロプラスミン、プロトロンビン、フィブロネクチン、ビタミンD結合タンパク質、ゲルゾリン、インターα−トリプシンインヒビター重鎖H3、キニノーゲン−1、血清パラオキソナーゼ/アリールエステラーゼ1、α−1−アンチキモトリプシン、およびトランスチレチンについての遺伝子発現の変化を同定するために使用され得る。
【0108】
アポトーシスの活性化は、当該分野で公知の方法に従って決定され得る。例えば、対照に比べての細胞死の増加は、乳酸デヒドロゲナーゼの放出、カスパーゼ活性、アネキシンV染色、ホスファチジルセリン染色、またはTUNELアッセイによって検出され得る。特定のアッセイは、乳酸デヒドロゲナーゼの放出等の細胞死のプロセスにおける比較的後期の事象を検出する。カスパーゼ活性化は、慢性毒性および細胞死の共通の特徴である。カスパーゼ活性は、蛍光顕微鏡法によって、毒性の傷害の後比較的迅速に(30分〜4時間)測定され得、従って、ハイスループットスクリーニング技術に向いている。細胞のアポトーシスまたは壊死のモニタリングに一般に使用される他のマーカーおよびアッセイとしては、影響を受けた細胞の細胞膜の外葉(outer leaflet)上のホスファチジルセリンの存在、アネキシンV染色、およびターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼニック−末端標識アッセイ(TUNEL)が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0109】
細胞生存能力の阻害は、トリパンブルー、4,6−ジアミノフェニルインドール(DAPI)、およびヨウ化プロピジウム等の生命色素(vital dye)を使用する生存細胞および死細胞の示差計数(differential counting)を非限定的に含む当該分野で公知の方法に従って決定され得る。
【0110】
細胞増殖の阻害は、ブロモデオキシウリジン取り込みを介するDNAの定量、トリチウム化チミジン(3H−チミジン)の測定、ヨウ化プロピジウム染色、テトラゾリウム塩またはアラマーブルー(AlamarBlue)還元を介する細胞内代謝分析、および細胞内ATP濃度の定量を非限定的に含む当該分野で公知の方法に従って決定され得る。さらなる方法は、分光測光分析を介する溶解細胞の全核酸含量の直接測定;抗−cdc6−ペプチド抗体、抗−ヒトmRNA結合タンパク質HuR抗体(抗HuR抗体)、Dサイクリンに対する抗体およびサイクリン依存性キナーゼインヒビター阻害剤に対する抗体を用いる蛍光タグ法;Ki−67抗原検出;定量ウェスタンブロット、免疫組織化学、免疫蛍光、酵素標識イムノソルベント検定法、アミノ酸配列分析、蛍光活性化細胞ソーティング、またはタンパク質濃度アッセイを介するタンパク質含量の測定を含む。上記方法を使用する市販のキットとしては、ChromaTide
TMヌクレオチド標識、カルボキシフルオレセインジアセテートのスクシンイミジルエステル、ABSOLUTE-S
TM SBIP細胞増殖アッセイキット、Vybrant DiI細胞標識溶液、CyQUANT細胞増殖アッセイキット、Vybrant
TM MTT細胞増殖アッセイキット、およびFluoReporter
TMブルー蛍光測定核酸アッセイキットが挙げられる。
【0111】
細胞生存の抑制は、試験管内腫瘍細胞感受性試験(clonogenic assay)を含む当該分野で公知の方法に従って決定され得る。
【0112】
III.インビボで上皮細胞の増殖または上皮組織の成長を促進する方法
腸、胃、肺、膵臓および結腸の幹細胞、ならびに、特に、腸、内耳、脳、腎臓、肝臓、網膜、胃、膵臓、乳房、毛包、卵巣、副腎髄質、皮膚、胸腺、味蕾、および乳腺内に存在するLGR5陽性幹細胞を含む上皮幹細胞は、Wntアゴニストおよびヒストンデアセチラーゼインヒビター、またはWntアゴニストおよびノッチアゴニストを被験体に投与することによってインビボで増殖され得る。これらの組み合わせは、上皮細胞の増殖を促進し、インビボで上皮組織の成長を生じる。
【0113】
特定の態様において、腸上皮細胞は、Wntアゴニスト、例えば、CHIR99021およびヒストンデアセチラーゼインヒビター、例えば、バルプロ酸、またはWntアゴニスト、例えば、CHIR99021およびノッチアゴニストを被験体に投与した後にインビボで形成され得る。
【0114】
いくつかの態様において、これらの組み合わせ、例えば、CHIR99021およびバルプロ酸は、被験体において、腸炎(enterocolitis);非特異的腸炎(enteritis)または特異的ウイルス性腸炎などのウイルス感染;憩室炎;サルモネラ症、細菌性赤痢、カンピロバクター腸炎またはエルシニア腸炎等の細菌性腸炎;アメーバ症等の原生動物感染;寄生虫感染;ならびに嚢胞性線維症および慢性閉塞性肺疾患における偽膜性腸炎および肺の合併症;虫垂炎;萎縮性胃炎;バレット食道;肺炎;子宮頸管炎;慢性間質性腎炎;結腸炎;大腸憩室炎;結膜炎;接触皮膚炎;カーリング潰瘍;クッシング潰瘍;膀胱炎;壊疽;歯肉炎;乳腺炎;食道炎;膵炎;皮下脂肪組織炎;フレグモーネ性胃炎;糸球体腎炎;ならびに非限定的に、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、アディソン病および糸球体腎炎(例えば、半月体形成性糸球体腎炎、増殖性糸球体腎炎)を含む自己免疫疾患を非限定的に含む腸の疾患を治療し得る。
【0115】
投与される投薬量は、年齢、性別、健康状態、およびレシピエントの体重、もしあれば同時の治療の種類、治療の頻度、ならびに所望される効果の性質に依存する。本発明の組成物の投与のための用量範囲は、所望の効果を生じるのに十分大きい用量範囲である。用量は、例えば、所望されない交差反応、アナフィラキシー反応等の有害な副作用を生じるほどには大きくないものであるべきである。一般的に、投薬量は、患者の状態および疾患の程度によって変化する。もしあれば禁忌、免疫寛容、および他の変数もまた、適切な投薬量に影響する。例えば、患者の年齢、体重、性別、種、一般的な健康状態/状態、治療対象の状態、治療のタイミング、適切な動物モデル(例えば、齧歯類、マウス)において関与する活性成分のLD50、および他の公知の因子のような因子を考慮に入れる場合、かかる投薬量は、0.5〜500mg/kgの程度等のマイクログラム〜ミリグラムの程度もしくは別の適切な量であり得るか、または本明細書中の実施例から、例えば、典型的な試験動物(例えば、マウス)の平均重量および該試験動物に投与される投薬量(例えば、100マイクログラム)を考慮して計算し得、従って、当業者は、過度の実験なしに投薬量を決定し得る。特に、ヒトの被験体では、CHIR99021は、約0.1mg/kg/日〜約100mg/kg/日の量で投与され、バルプロ酸の量は、約1mg/kg/日〜約1000mg/kg/日の量で投与される。特定の態様において、バルプロ酸の量は、15〜40mg/kg/日である。
【0116】
CHIR99021およびバルプロ酸の医薬組成物は、その意図される目的を達成する任意の手段によって、同時にまたは連続的に投与され得る。例えば、投与は、局所、非経口、皮下、静脈内、筋内、腹腔内、経皮、直腸、または頬側の経路により得る。代替的にまたは同時に、投与は経口経路により得る。前記記載から、変形および改変が、本明細書中に記載される本発明になされ得、本発明を種々の使用および条件に採用することは明らかである。方法および物質は、本発明における使用のために本明細書に記載され;当該分野で公知の他の適切な方法および物質もまた使用され得る。物質、方法、および実施例は、例示のみであり、限定することを意図しない。かかる態様は、添付の特許請求の範囲の範囲内でもある。本明細書中の変数の任意の定義中の要素のリストの詳説は、リストされる要素の任意の単一の要素または組み合わせ(またはサブコンビネーション)として該変数の定義を含む。本明細書中の態様の詳説は、任意の単一の態様または任意の他の態様もしくはその一部との組み合わせとしての態様を含む。本明細書中で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースの記載事項、および他の参考文献は、それらの全体が参照によって本明細書に援用される。
【0117】
本発明の例示的な態様は、以下の番号を付したパラグラフのいずれか1つによっても記載され得る:
1.少なくとも1つのWntインヒビターおよび少なくとも1つのヒストンデアセチラーゼインヒビターの存在下で上皮幹細胞をインキュベートする工程、ここで、各々は、細胞培養系中で腸細胞を生成するのに十分な量である、
を含む、細胞培養系中で腸細胞を形成する方法。
2.ヒストンデアセチラーゼインヒビターがPan−HDACインヒビターである、パラグラフ1記載の方法。
3.Pan−HDACインヒビターが、バルプロ酸、トリコスタチンA、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、およびSBHAからなる群より選択される、パラグラフ2記載の方法。
4.ヒストンデアセチラーゼインヒビターがHDAC6インヒビターである、パラグラフ1記載の方法。
5.HDAC6インヒビターが、ツバシン、ツバスタチンA、およびコンパウンド7からなる群より選択される、パラグラフ4記載の方法。
6.Wntインヒビターが、IWP−2、XAV−939、ICG−001、LGK−974、IWR−1−エンド、KY02111、Wnt−C59、DKK−1、FH−535、Box5、ペプチドPen−N3、抗SFRP抗体、および抗LRP6抗体からなる群より選択される、パラグラフ1記載の方法。
7.骨形成因子のインヒビターの存在下で上皮幹細胞をインキュベートする工程をさらに含む、パラグラフ1記載の方法。
8.骨形成因子が、ノギン、コーディン、フォリスタチン、DAN、DANシステイン−ノットドメインを含むタンパク質、スクレロスチン、ねじれ原腸形成、子宮感受性関連遺伝子−1、結合組織成長因子、インヒビン、BMP−3、およびドルソモルフィンからなる群より選択される、パラグラフ7記載の方法。
9.上皮増殖因子の存在下で上皮幹細胞をインキュベートする工程をさらに含む、パラグラフ1記載の方法。
10.少なくとも1つのWntインヒビターおよび少なくとも1つのノッチインヒビターの存在下で上皮幹細胞をインキュベートする工程、ここで、各々は、細胞培養系中で杯細胞を生成するのに十分な量である、
を含む、細胞培養系中で杯細胞を形成する方法。
11.ノッチインヒビターが、DAPT、RO4929097、LY450139、LY900009、LY3039478、LY411575、YO−01027、BMS−708163、BMS−906024、コンパウンドE、BMS−299897、SAHM1、Aβ42−セレクティブ、およびSB225002からなる群より選択される、パラグラフ10記載の方法。
12.Wntインヒビターが、IWP−2、XAV−939、ICG−001、LGK−974、IWR−1−エンド、KY02111、Wnt−C59、DKK−1、FH−535、Box5、ペプチドPen−N3、抗SFRP抗体、抗LRP6抗体、および抗APC抗体からなる群より選択される、パラグラフ10記載の方法。
13.上皮増殖因子の存在下で上皮幹細胞をインキュベートする工程をさらに含む、パラグラフ10記載の方法。
14.ノッチの少なくとも1つのインヒビターおよびレセプターチロシンキナーゼ、マイトジェン活性化プロテイン(MAP)キナーゼまたは細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)の少なくとも1つを阻害する薬剤の存在下で上皮幹細胞をインキュベートする工程、ここで、各々は、細胞培養系中で腸内分泌細胞を生じるのに十分な量である、
を含む、培養系中で腸内分泌細胞を形成する方法。
15.ノッチインヒビターが、DAPT、RO4929097、LY450139、LY900009、LY3039478、LY411575、YO−01027、BMS−708163、BMS−906024、コンパウンドE、BMS−299897、SAHM1、Aβ42−セレクティブ、およびSB225002からなる群より選択される、パラグラフ14記載の方法。
16.MAPキナーゼが、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MEK)である、パラグラフ14記載の方法。
17.MAPキナーゼを阻害する薬剤が、AS−703026、PD0325901、PD98059、セルメチニブ、SL−327、U0126、TAK−733、およびトラメチニブからなる群より選択される、パラグラフ14記載の方法。
18.RTKを阻害する薬剤が、ゲフィチニブ、AG99、エルロチニブ、アファチニブ、ラパチニブ、WZ4002、およびAG−18からなる群より選択される、パラグラフ14記載の方法。
19.ERKを阻害する薬剤が、AS−703026またはPD0325901である、パラグラフ14記載の方法。
20.骨形成因子のインヒビターの存在下で上皮幹細胞をインキュベートする工程をさらに含む、パラグラフ14記載の方法。
21.骨形成因子が、ノギン、コーディン、フォリスタチン、DAN、DANシステイン−ノットドメインを含むタンパク質、スクレロスチン、ねじれ原腸形成、子宮感受性関連遺伝子−1、結合組織成長因子、インヒビン、BMP−3、およびドルソモルフィンからなる群より選択される、パラグラフ20記載の方法。
22.ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役レセプター5に結合する薬剤の存在下で上皮幹細胞をインキュベートする工程をさらに含む、パラグラフ14記載の方法。
23.ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役レセプター5に結合する薬剤が、R−スポンジン1、R−スポンジン2、R−スポンジン3、およびR−スポンジン4からなる群より選択される、パラグラフ22記載の方法。
24.上皮増殖因子の存在下で上皮幹細胞をインキュベートする工程をさらに含む、パラグラフ14記載の方法。
25.被験体に、Wntアゴニストおよびヒストンデアセチラーゼインヒビターを、該被験体において腸上皮細胞を形成するのに十分な量で投与する工程を含む、腸上皮細胞の形成が必要な被験体において腸上皮細胞を形成する方法。
26.被験体がヒトである。パラグラフ25記載の方法。
27.Wntアゴニストが、Wnt−1/Int−1、Wnt−2/Irp(Int−I関連タンパク質)、Wnt−2b/13、Wnt−3/Int−4、Wnt−3a、Wnt−4、Wnt−5a、Wnt−5b、Wnt−6、Wnt−7a、Wnt−7b、Wnt−8a/8d、Wnt−8b、Wnt−9a/14、Wnt−9b/14b/15、Wnt−10a、Wnt−10b/12、Wnt−11、Wnt−16、R−スポンジン1、R−スポンジン2、R−スポンジン3、R−スポンジン4、ノリン、CHIR99021、LiCl、BIO((2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−オキシム)、CHIR98014、SB216763、SB415286、3F8、ケンパウロン、1−アザケンパウロン、TC−G24、TCS2002、AR−A014418、2−アミノ−4−[3,4−(メチレンジオキシ)ベンジル−アミノ]−6−(3−メトキシフェニル)ピリミジン、IQ1、DCA、QS11、WAY−316606、(ヘテロ)アリールピリミジン、10Z−ヒメニアルジシン、TCS21311、TWS119、GSK−3インヒビターIX、GSK−3インヒビターIV、GSK−3βインヒビターII、GSK−3βインヒビターI、GSK−3βインヒビターXXVII、GSK−3βインヒビターXXVI、FRATtide、Cdk1/5インヒビター、ビキニン、および1−アザケンパウロンからなる群より選択される、パラグラフ25記載の方法。
28.ヒストンデアセチラーゼインヒビターがPan−HDACインヒビターである、パラグラフ25記載の方法。
29.Pan−HDACインヒビターが、バルプロ酸、トリコスタチンA、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、およびSBHAからなる群より選択される、パラグラフ28記載の方法。
30.ヒストンデアセチラーゼインヒビターがHDAC6インヒビターである、パラグラフ25記載の方法。
31.HDAC6インヒビターが、ツバシン、ツバスタチンA、およびコンパウンド7からなる群より選択される、パラグラフ30記載の方法。
32.WntアゴニストがCHIR99021であり、ヒストンデアセチラーゼインヒビターがバルプロ酸である、パラグラフ25記載の方法。
33.CHIR99021が、約0.1mg/kg/日〜約100mg/kg/日の量で投与され、バルプロ酸が、約1mg/kg/日〜約1000mg/kg/日の量で投与される、パラグラフ32記載の方法。
34.被験体に、Wntアゴニストおよびヒストンデアセチラーゼインヒビター、またはWntアゴニストおよびノッチアゴニストを、上皮組織内で上皮幹細胞が増加するのに十分な量で投与し、それによって、被験体内で上皮組織が生成する工程を含む、上皮組織の生成が必要な被験体において上皮組織を生成する方法。
35.上皮幹細胞が、腸、内耳、脳、腎臓、肝臓、網膜、胃、膵臓、乳房、毛包、卵巣、副腎髄質、皮膚、胸腺、味蕾、または乳腺内に存在するLGR5陽性幹細胞である、パラグラフ34記載の方法。
36.被験体に、Wntアゴニストおよびノッチアゴニストを、該被験体において腸上皮細胞を形成するのに十分な量で投与する工程を含む、腸上皮細胞の形成が必要な被験体において腸上皮細胞を形成する方法。
35.被験体がヒトである、パラグラフ34または36記載の方法。
36.Wntアゴニストが、Wnt−1/Int−1、Wnt−2/Irp(Int−I関連タンパク質)、Wnt−2b/13、Wnt−3/Int−4、Wnt−3a、Wnt−4、Wnt−5a、Wnt−5b、Wnt−6、Wnt−7a、Wnt−7b、Wnt−8a/8d、Wnt−8b、Wnt−9a/14、Wnt−9b/14b/15、Wnt−10a、Wnt−10b/12、Wnt−11、Wnt−16、R−スポンジン1、R−スポンジン2、R−スポンジン3、R−スポンジン4、ノリン、CHIR99021、LiCl、BIO((2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−オキシム)、CHIR98014、SB216763、SB415286、3F8、ケンパウロン、1−アザケンパウロン、TC−G24、TCS2002、AR−A014418、2−アミノ−4−[3,4−(メチレンジオキシ)ベンジル−アミノ]−6−(3−メトキシフェニル)ピリミジン、IQ1、DCA、QS11、WAY−316606、(ヘテロ)アリールピリミジン、10Z−ヒメニアルジシン、TCS21311、TWS119、GSK−3インヒビターIX、GSK−3インヒビターIV、GSK−3βインヒビターII、GSK−3βインヒビターI、GSK−3βインヒビターXXVII、GSK−3βインヒビターXXVI、FRATtide、Cdk1/5インヒビター、ビキニン、および1−アザケンパウロンからなる群より選択される、パラグラフ34または36記載の方法。
37.ノッチアゴニストが、ノッチ1抗体(N1 Ab)、デルタ1、デルタ様3、デルタ様4、ジャグド1、ジャグド2、DSLペプチド、およびデルタDである、パラグラフ34または36記載の方法。
38.被験体に、Wntアゴニストおよびヒストンデアセチラーゼインヒビター、またはWntアゴニストおよびノッチを投与する工程を含む、腸障害の治療方法。
39.被験体がヒトである。パラグラフ38記載の方法。
40.Wntアゴニストが、Wnt−1/Int−1、Wnt−2/Irp(Int−I関連タンパク質)、Wnt−2b/13、Wnt−3/Int−4、Wnt−3a、Wnt−4、Wnt−5a、Wnt−5b、Wnt−6、Wnt−7a、Wnt−7b、Wnt−8a/8d、Wnt−8b、Wnt−9a/14、Wnt−9b/14b/15、Wnt−10a、Wnt−10b/12、Wnt−11、Wnt−16、R−スポンジン1、R−スポンジン2、R−スポンジン3、R−スポンジン4、ノリン、CHIR99021、LiCl、BIO((2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−オキシム)、CHIR98014、SB216763、SB415286、3F8、ケンパウロン、1−アザケンパウロン、TC−G24、TCS2002、AR−A014418、2−アミノ−4−[3,4−(メチレンジオキシ)ベンジル−アミノ]−6−(3−メトキシフェニル)ピリミジン、IQ1、DCA、QS11、WAY−316606、(ヘテロ)アリールピリミジン、10Z−ヒメニアルジシン、TCS21311、TWS119、GSK−3インヒビターIX、GSK−3インヒビターIV、GSK−3βインヒビターII、GSK−3βインヒビターI、GSK−3βインヒビターXXVII、GSK−3βインヒビターXXVI、FRATtide、Cdk1/5インヒビター、ビキニン、および1−アザケンパウロンからなる群より選択される、パラグラフ38記載の方法。
41.ヒストンデアセチラーゼインヒビターがPan−HDACインヒビターである、パラグラフ38記載の方法。
42.Pan−HDACインヒビターが、バルプロ酸、トリコスタチンA、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、およびSBHAからなる群より選択される、パラグラフ41記載の方法。
43.ヒストンデアセチラーゼインヒビターがHDAC6インヒビターである、パラグラフ38記載の方法。
44.HDAC6インヒビターが、ツバシン、ツバスタチンA、およびコンパウンド7からなる群より選択される、パラグラフ43記載の方法。
45.WntアゴニストがCHIR99021であり、ヒストンデアセチラーゼインヒビターがバルプロ酸である、パラグラフ38記載の方法。
46.CHIR99021が、約0.1mg/kg/日〜約100mg/kg/日の量で投与され、バルプロ酸が、約1mg/kg/日〜約1000mg/kg/日の量で投与される、パラグラフ45記載の方法。
47.ノッチアゴニストが、ノッチ1抗体(N1 Ab)、デルタ1、デルタ様3、デルタ様4、ジャグド1、ジャグド2、DSLペプチド、およびデルタDである、パラグラフ38記載の方法。
48.腸障害が、腸炎(enterocolitis);非特異的腸炎(enteritis)または特異的ウイルス性腸炎等のウイルス感染;憩室炎;サルモネラ症、細菌性赤痢、カンピロバクター腸炎またはエルシニア腸炎等の細菌性腸炎;アメーバ症等の原生動物感染;寄生虫感染;ならびに嚢胞性線維症および慢性閉塞性肺疾患における偽膜性腸炎および肺の合併症;虫垂炎;萎縮性胃炎;バレット食道;肺炎;子宮頸管炎;慢性間質性腎炎;結腸炎;大腸憩室炎;結膜炎;接触皮膚炎;カーリング潰瘍;クッシング潰瘍;膀胱炎;壊疽;歯肉炎;乳腺炎;食道炎;膵炎;皮下脂肪組織炎;フレグモーネ性胃炎;糸球体腎炎;ならびに非限定的に、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、アディソン病および糸球体腎炎(例えば、半月体形成性糸球体腎炎、増殖性糸球体腎炎)を含む自己免疫疾患からなる群より選択される、パラグラフ38〜47いずれか記載の方法。
【0118】
本発明は、以下の実施例にさらに記載され、該実施例は、特許請求の範囲に記載される発明の範囲を限定しない。
【実施例】
【0119】
実施例1:Lgr5
+腸幹細胞の自己複製は、小分子の組み合わせを使用して維持される
ISCの自己複製および分化は、いくつかのシグナル伝達経路の調和した調節によって制御される(Crosnier, Stamataki, & Lewis, 2006; Scoville, Sato, He, & Li, 2008; van der Flier & Clevers, 2009)。本研究において、Lgr5
+幹細胞の自己複製状態を維持するための関連するシグナル伝達経路および他の細胞型によって提供される合図(cue)とは独立してLgr5
+幹細胞の分化を調節するための関連するシグナル伝達経路を標的化する小分子を同定した。
【0120】
陰窩および単一のLgr5−GFP細胞を、以前に記載されるとおりに単離した(Sato et al., 2009)。簡単に、小腸の近位の半分を採取し、長さ方向に開き、冷PBSで洗浄し、管腔内含有物を除去した。次いで、組織を、ハサミで2〜4mm片に切断し、10mlピペットを使用してピペットで吸ったり出したりする(pipet up and down)ことによって、冷PBSで5〜10回さらに洗浄した。組織断片を、氷上で30分間、PBS中の2mM EDTAとインキュベートした。EDTAの除去の後、組織断片を、PBSで洗浄し、陰窩を放出させた。陰窩が濃縮されている上清画分を回収し、70μmのセルストレーナーに通し、300gで5分間遠心分離した。細胞ペレットを、増殖因子を有さない細胞培養培地に再懸濁し、150gで遠心分離し、単一の細胞を除去した。次いで、陰窩を単一の細胞の単離のために培養または使用した。単一の細胞を得るために、陰窩を37℃で45分間培養培地中でインキュベートし、ガラスピペットで粉砕した。分離した細胞を、20μmのセルストレーナーに通し、ヨウ化プロピジウムで陰性染色し、単一の可視の高GFP細胞を、以前に記載されるとおりに、フローサイトメトリー(FACS Aria, BD)によってソーティングした(Sato et al., 2009)。Lgr5−EGFP−ires−CreERT2マウスから単離した小腸陰窩を、マトリゲルに植え込み、EGF、ノギン、およびR−スポンジン1(まとめて、ENRという)の存在下で従来の培養条件下で培養し、陰窩および絨毛様ドメインならびに陰窩の先にGFP
+細胞を有する類臓器体を生じ、これは、以前の報告と一致した(Sato et al., 2009)。単離した陰窩または単一の細胞を、最小限の改変を伴って、以前に記載されるとおりに培養した(Sato et al., 2009)。簡単に、陰窩または単一の細胞を、マトリゲル中に閉じ込め、24ウェルプレートのウェルの中心にプレーティングした。マトリゲル(増殖因子低減;BD Bioscience)の重合後、EGF(50ng/ml, Life Technologies)、ノギン(100ng/ml, Peprotech)およびR−スポンジン1(500ng/ml, R&D)を含む増殖因子ならびにCHIR99021(3μM、Stemgent)およびバルプロ酸(1mM、Sigma-Aldrich)を含む小分子を含む500μlの培養培地(アドバンストDMEM/F12(Life Technologies))を添加した。異なる培養条件との比較のために、小分子または増殖因子を、新たに単離された陰窩に、マトリゲル中にプレーティングされた直後に添加し、陰窩内のISCの潜在的な分化を最小にし、かつこのようにして陰窩培養を維持する能力を試験した。細胞培養培地を、1日おきに交換した。単一の細胞培養のために、細胞を、ジャグド−1ペプチド(1μM;AnaSpec)を含むマトリゲルに植え込み、Y−27632(10μM;Tocris)を最初の2日間添加した。細胞を、以前に記載されるとおりに(Sato et al., 2009)細胞コロニーとして、または単一の細胞としてのいずれかで継代した。単一の細胞の継代のために、細胞培養培地を、除去し、アキュターゼ(Life Technologies)を添加した。37℃での10〜20分間のインキュベーションの後、細胞コロニーを、ピペッティングにより単一の細胞に分離した。次いで、細胞を、洗浄し、新しいマトリゲル中に植え込み、24ウェルプレートにプレーティングした。CV条件で培養した細胞を、6日毎に1:20の継代比率(split ratio)で継代した。培養した陰窩のほぼ半分が、GFP+細胞を含み、これは、Lgr5−GFPマウスのインビボGFP発現と一致した(
図1)。
【0121】
ENR条件で使用した増殖因子は、必須のものを提供するが、Lgr5
+幹細胞の自己複製の維持には十分な合図ではなかった。腸幹細胞の自己複製状態の維持に必須の因子を同定するために、Wnt、ノッチ、およびBMPなどのISCのシグナル伝達経路を調節する選択された小分子を、Lgr5−GFPレポーターを使用してENR条件下で試験した。Wntシグナル伝達経路を活性化するGSK3βインヒビターであるCHIR99021(本明細書中CHIRまたはCという)は、培養物中の類臓器体の平均サイズおよび細胞数の定量化によって示されるように、陰窩細胞の増殖を促進した(
図2A、2Bおよび3A、3B)。CHIRは、培養物中のGFP
+細胞のパーセンテージおよび相対GFP強度を増大させ、これは、幹細胞の自己複製の増大を示した(
図2Aおよび2B)。特に、多くの数のGFP陰性細胞が、まだ、類臓器体中に存在し(
図2A)、これは、幹細胞自己複製の不十分な維持の結果または陰窩中のより成熟したGFP陰性細胞の増殖の促進の結果のようであった。ヒストンデアセチラーゼインヒビターであるバルプロ酸(VPAまたはV)もまた、GFP
+類臓器体のGFP発現を有意に増大させ、GFP陰性細胞は最小の存在であった(
図2A)。興味深いことに、CHIRおよびVPAが組み合わされた場合(CV)、培養物中の細胞増殖ならびにGFP発現細胞のパーセンテージおよび相対GFP強度は、有意に増大し(
図2Aおよび2B)、GFP
+類臓器体中にほぼ純粋なGFP
+細胞が存在し(
図2A)、これは、この培養条件では、分化または分化した細胞の増殖が最小であり、幹細胞の自己複製が増大したことを示した。
【0122】
CV条件でのGFP
+細胞は、新たに単離された単一の細胞の単一の高GFP集団に対応する単一の高GFP集団を示し(
図3C)、以前に報告されたLgr5
+幹細胞集団を示した(Sato et al., 2009)。特に、CV条件では、R−スポンジン1およびノギンが、Lgr5
+幹細胞の自己複製を維持するためになお必要であったが、EGFは陰窩の増殖を促進し、EGFは、Lgr5
+細胞の維持に影響を与えることなく、培養から除去され得た(
図3D)。CHIRの濃度を増大させることによって、GFP発現を促進するためのR−スポンジン1の必要性をさらに排除し(
図3E)、R−スポンジン1のWnt/β−カテニンシグナル伝達を増大させる役割と一致した。さらに、VPAまたはCHIR+VPAはまた、結腸由来のLgr5
+幹細胞のGFP発現を促進した(
図3F)。さらに、R−スポンジン2は、R−スポンジン1と比べてENR条件での類臓器体の形成の促進において、より低い濃度で良好な効能を示した(
図3G)。我々はまた、ヒトEPHB2
+結腸幹細胞または結腸陰窩を、ほとんど未分化の状態に維持することが以前に示された培養条件を試験したが(Jung et al., 2011; Sato et al., 2011a)、小腸Lgr5−GFP幹細胞に対して類似の効果を達成せず(
図4Aおよび4B)、これらの因子は、Lgr5
+幹細胞と対比して異なる機構によってEPHB2
+結腸幹細胞に作用し得ることが示唆された。
【0123】
成熟細胞型およびGFP陰性幹細胞(陰窩がモザイク様GFP発現パターンを示す場合)の非存在下でのCHIRおよびVPAの増殖およびLgr5
+自己複製効果をさらに確認するために、単一の高GFP細胞を、FACSソーティングによって単離し(
図3C)、ENRおよびCHIRもしくはVPAの存在下または両方の化合物の存在下(CV条件)でマトリゲル中で培養した。単一の幹細胞のアノイキス(anoikis)を阻害するRhoキナーゼインヒビターY−27632(Watanabe et al., 2007)を、以前に記載されるとおりに最初の2日間添加した(Sato et al., 2009)。7日の培養後、GFP
+幹細胞を含むコロニーが自発的に形成された。陰窩培養と同様に、CHIRは、細胞増殖を有意に増大させたが、GFP発現を中程度にのみ増大させ、VPAは、最小の増殖前(pro-proliferative)効果を伴ってGFP発現を促進した。CV条件について、細胞増殖は、有意に増大し、培養物中の97%を超える細胞は、GFP
+細胞であった(
図2C〜2Eおよび5A)。陰窩培養に比べて、純粋な単一のLgr5
+幹細胞をCHIR中で培養した場合、形成された類臓器体は、多数のGFP陰性細胞を含み、このことは、この条件では幹細胞は分化し、従って、Lgr5
+幹細胞の自己複製状態を維持するために他の因子が必要であったことを示した。
【0124】
単離された単一のLgr5−GFP
+細胞を標準的なENR条件で培養した場合、わずかな細胞が類臓器体に成長し、このことは、以前の報告と一致し(Sato et al., 2009)、最適状態に及ばない培養条件に起因するようであった。CHIRを培養に添加した場合(ENR−C)、コロニー形成効率は、20〜50倍有意に増大し(
図2F、2Gおよび5B、5C)、100ng/mlで添加した場合は、Wnt3Aの添加に同様に応答した(
図2FおよびSato et al., 2011b)。これとはっきりと対照的に、VPAは、CHIRの非存在下でコロニー形成効率を弱く増大させただけであった(ENR−V、
図2F、2Gおよび5B、5C)。驚くべきことに、単離された単一のLgr5−GFP
+幹細胞をCHIRおよびVPA両方の存在下で培養した場合、相乗効果があり、全細胞集団の約25%〜40%がコロニーに成長した(
図2F)。これは、Lgr5
+幹細胞について報告された最も効率的なコロニー形成を示すと考えられる。
【表1】
【表2】
【0125】
FACSでソーティングされた細胞の一部がアポトーシス前状態下にあり、典型的に12時間以内に死滅する場合(Sato et al., 2011b)、生存細胞を、播種の12時間後に手動で計数した。CHIRおよびVPAの両方が培養培地に存在した場合、90%を超える生存細胞が類臓器体に成長した(
図5D)。
【表3】
【0126】
さらに、CV条件で培養された細胞を、10を超える継代について、新たに単離されたLgr5−GFP
+細胞のコロニー形成効率と類似のコロニー形成効率を有し、かつ増殖能力の損失を有さない単一の細胞として継代し得、これらは、正常な核型を示した(2n=40)(
図2H)。これらの結果は、CHIRおよびVPAがLgr5
+幹細胞の自己複製を維持するための、標準的なENR条件には存在しないシグナルを提供することを示唆する。
【0127】
以前に報告されたように、ENR条件中の細胞は、アルカリ性フォスファターゼ(Alp)陽性腸細胞、ムチン2(Muc2)陽性杯細胞、クロモグラニンA(ChgA)陽性腸内分泌細胞、リゾチーム(Lyz)陽性パーネト細胞、およびLgr5−GFP
+幹細胞の染色によって確認される全ての腸上皮細胞型を含む陰窩−絨毛構造を有する類臓器体に成長した。Lgr5
+幹細胞は、陰窩の先端にのみ存在する(
図6Aおよび7A)。Ki67およびEdU染色によって、増殖している細胞が陰窩ドメイン内にのみ存在したことが明らかになった(
図6Bおよび6C)。しかし、CV条件において、GFP
+幹細胞は、コロニー全体のいたるところに存在し、パーネト細胞の存在は最小であり(
図6A)、他の細胞型は存在しなかった。ENR培養に比べて、CV条件においてKi67およびEdU陽性増殖細胞は、細胞コロニーのいたるところに存在した(
図6Bおよび6C)。これは、定量的リアルタイムPCRで確認され、ここで、CV条件中の細胞は、ENR条件中の細胞に比べて最小レベルのAlpi(腸細胞)、Muc2(杯細胞)、ChgA(腸内分泌細胞)、中程度のレベルのリゾチーム(パーネト細胞)、および高いレベルのLgr5(ISC)を発現した。この発現パターンは、複数の継代にわたって維持され、Lgr5発現レベルは維持された(
図6D)。
【0128】
CHIR単独は、腸細胞分化を低減するが、同時にパーネト細胞分化を増大させ(
図6D)、これは、以前の報告と一致した(Farin et al., 2012)。VPA単独は、分泌性分化を低減し(
図6D)、高い割合のGFP+幹細胞の維持を補助したが、幹細胞の分化の抑制には十分ではない。実際、単離された単一の幹細胞を、VPAの存在下であるが、CHIRまたはWntシグナル伝達を促進する他の薬剤なしで培養した場合、これらの生存は、Wntが存在した場合に比べて、大きく低かった。Wnt経路がIWP−2によってブロックされる場合、VPA単独は、幹細胞の自己複製を維持できない(
図7B、7C中のIV条件)。CHIRおよびVPAの組み合わせは、腸細胞分化および分泌性分化の両方を抑制し、Lgr5
+幹細胞の自己複製プログラムを維持した(
図6D)。これらの結果は、CHIRまたはVPAの単独はLgr5
+幹細胞の自己複製を維持するのに十分ではないが、CHIRまたは他のWntアクチベーターと組み合わせた場合、相乗効果を示すことを示唆する。
【0129】
要約すると、2つの小分子、CHIRおよびVPAは、パーネト細胞との直接の接触なしで、またはパーネト細胞の非存在下で、Lgr5+幹細胞の自己複製を支持し得る。特に、これらの小分子は、単一の幹細胞からのコロニー形成を大きく改善し得、このことは、これらの小分子がパーネト細胞によって典型的に提供される必須のニッチ(niche)シグナルを提供することを示す。
【0130】
実施例2:Lgr5
+幹細胞はCHIRおよびVPA中での培養後多能性のままである
腸幹細胞は、自己複製する能力、ならびに4つの主な細胞型:腸細胞、杯細胞、腸内分泌細胞およびパーネト細胞を含む腸上皮中の全ての細胞型に分化する能力を有する。CV条件で培養されたLgr5
+幹細胞の分化能力を試験するために、細胞コロニーを、Lgr5
+幹細胞が腸の成熟細胞型に自発的に分化するのを可能にするENR条件に移した。予想されるとおり、CHIRおよびVPAの回収後、類臓器体の形態は、陰窩先端に陰窩−絨毛構造およびLgr5
+幹細胞を有するENR条件で培養された類臓器体の典型的な形態に変化した(
図7Aおよび8A)。分化マーカーAlpi、Muc2、およびChgAのmRNA発現は上昇し、細胞は、(
図7BのENRおよびCVに比べて)同様のレベルのリゾチームを発現した。これらのマーカーに対する免疫細胞化学染色により、培養物中の分化した細胞型の存在が確認された(
図7A)。
【0131】
実施例3:腸幹細胞の分化は制御される
次に、インビトロで高純度のLgr5+幹細胞に増殖する能力に関して、Lgr5
+幹細胞の分化を成熟細胞型の方に振り向けることを試みた。WntおよびノッチがISCの分化を制御する主なシグナル伝達経路の2つであるので、Wnt経路インヒビターIWP−2(Iも同様)およびノッチインヒビターDAPT(Dも同様)を使用して、培養したLgr5
+幹細胞の分化を誘導した。ENR条件中の細胞が全ての上皮細胞型を含む類臓器体に自発的に分化するので、ENRを、分化培地中に含めた。CV条件での6日間の単一の幹細胞の培養の後、細胞コロニーを、回収し、いくつかのウェルに移し、単一または複数のインヒビターの存在下で培養した(
図8B)。
図7Bに示されるように、CVをIWP−2またはDAPTと入れ替えることによって、ISCマーカーLgr5発現が減少し、分化マーカーAlpi、Muc2、ChgA、およびリゾチームの発現を誘導した。特に、(例えば、RとV、IとIV、CとCV、またはDとDVの比較)VPAの存在によって、Muc2、ChgA、およびリゾチームの低いレベルの発現が引き起こされ、Alpiではそうではなく、このことは、VPAによって、分泌細胞系統分化を特異的に抑制したことを示した。あるいは、IWP−2でのWnt阻害によって、Alpi発現が優先的に誘導され、Muc2およびChgA発現が中程度に上昇し、リゾチームおよびLgr5発現が完全になくなった(abolish)。これは、Wntシグナル伝達が、幹細胞性(stemness)を維持し、分化を抑制するのに必要であり、さらに、Wntシグナル伝達は、パーネト細胞分化にも必要であることを示す。ノッチインヒビターDAPTは、Muc2、ChgA、およびリゾチームを含む分泌性細胞型のマーカーを大きく上昇させ、これは、ノッチ阻害が分泌性細胞分化を誘導するという以前の報告と一致した(Milano et al., 2004; VanDussen et al., 2012: Wong et al., 2004)。さらに、IWP−2とVPAの組み合わせは、おそらく両方のインヒビターの効果を組み合わせることによって腸細胞分化を特異的に誘導し、ここで、IWP−2は、Lgr5
+幹細胞分化を誘導し、VPAは、Lgr5
+幹細胞の分泌性細胞型への分化を抑制した。同様に、DAPTとCHIRの組み合わせは、主にパーネト細胞分化を誘導し、IWP−2とDAPTの組み合わせは、主に杯細胞分化を誘導した。これらの条件もまた、各分化した細胞型の形態に類似する明らかな形態学的変化を誘導した(
図7Cおよび8D)。腸細胞、杯細胞およびパーネト細胞のマーカーの染色によって、上記の観察を確認した(
図7C、7Dおよび8E、8F)。IWP−2またはCHIRの存在は、ChgA発現に有意に影響せず、これは、杯細胞およびパーネト細胞に比べて、腸内分泌細胞の分化はWnt阻害または活性化を厳密に必要とすることを示した。
【0132】
実施例4:CHIRおよびVPAの応答を媒介する機構を試験する
CHIRは、Wnt/β−カテニンシグナル伝達経路を活性化する高度に特異的なGSK3インヒビターであり(Bain et al., 2007)、胚性幹細胞の自己複製状態を維持するために使用されてきた(Ying et al., 2008)。CHIRの効果がWnt経路の活性化によったことを確認するために、リチウムおよびWnt3aを含む他のWnt経路アクチベーターの効果を試験した。CHIRをLiClまたはWnt3aと取り換えることによって、陰窩増殖が増大し、これは、ENR条件に比べてコロニーサイズおよび細胞数が増大することによって示された(
図9Aおよび9B)。これらの条件におけるコロニーは、以前に示されたように(Sato et al., 2011b)、陰窩様構造を示した(
図9A)。同様に、pan−HDACインヒビターを含む他のHDACインヒビターおよびタイプ特異的インヒビターの効果を試験した。pan−HDACインヒビターTSAならびにHDAC6特異的インヒビターツバスタチンAおよびコンパウンド7は、VPAでGFP発現を促進する同様の効果を示した(
図9Cおよび9D)。SBHAおよびブチレート(Butyrate)を含む他のpan−HDACインヒビターならびにクラスI(CI−994、MS275、
図9Cおよび9D)、クラスIIa(MC1568、
図9Cおよび9D)およびクラスIII(ニコチンアミド、
図9F)HDACインヒビターは、GFP発現を促進する効果を全く示さなかったか、またはほんの中程度示した(
図9C−9F)。TSAおよびVPAは、高い濃度で顕著な増殖阻害効果を示したが、両方の濃度でGFP発現を維持した(
図9E)。注目すべきことに、ヒト結腸陰窩の培養に使用されたサーチュインファミリーHDACインヒビター(クラスIII)であるニコチンアミド(Jung et al., 2011; Sato et al., 2011a)は、CHIRまたはWnt3aと組み合わせた場合、GFP発現または細胞増殖を促進せず(
図9F)、このことは、ニコチンアミドが、VPAとは異なる機構を介して作用することを示した。さらに、単一のLgr5
+幹細胞を、TSAもしくはツバスタチンAと共にCHIRを、またはWnt3a、BIOもしくはLiClと共にVPAを使用して培養した場合、細胞は、CV条件と同様のコロニー形成効率、コロニー形態およびGFP発現を示した(
図10)。
【0133】
以前の報告は、ノッチ経路活性化が分泌性細胞分化の阻害および幹細胞の自己複製の維持に必要であることを示し、VPA処置の効果と一致する。VPAがその効果を発揮するためにノッチ経路の要素を標的化するかどうかを評価した。第1に、VPAの添加によるノッチ阻害の救出を試験した。γ−セクレターゼインヒビターDAPTでの処置によって、細胞増殖およびGFP発現の低減が導かれ、これは、VPAによって用量依存的様式で救出された(
図11A)。これは、VPAがNICD形成の下流に作用し、リガンド−レセプター媒介性ノッチ活性化の要件を迂回し得ることを示唆する。
【0134】
VPAは、癌細胞株においてノッチ経路を活性化することが以前に示された(Greenblatt et al., 2007; Stockhausen et al., 2005)。VPAのノッチ経路の活性化に対する効果を調査するために、ENRまたはENRC条件で培養された細胞を、VPAで処理し、ノッチ経路遺伝子の発現について分析した。しかし、24時間のVPAのENRまたはENR−Cへの添加によって、ノッチ1またはHes1の発現が中程度に低下し、これは、ノッチの下流の標的遺伝子であることが決定された(
図11Bおよび11C)。さらに、24時間または6日間VPAおよびCHIRで処理された細胞中の陰性ノッチ標的Atoh1(Math1)の顕著な減少が観察された(
図11B−11D)。Atoh1は、ISCの分泌性細胞系統への分化に必須であることが示されている(van Es et al., 2010; Yang et al., 2001)。腸幹細胞は、Atoh1欠乏により誘導されるパーネト細胞の剥離(ablation)の後に、インビボおよびインビトロの両方で機能性のままである(Durand et al., 2012; Kim et al., 2012)。CHIRまたはCHIR+VPA処理後のAtoh1阻害は、腸幹細胞の自己複製プログラムの維持を補助する。
【0135】
従って、インビトロでのLgr5
+腸幹細胞の自己複製およびそれらの腸上皮中の異なる細胞型への分化の制御は、増殖因子および小分子インヒビターの組み合わせの使用を介して今回において達成され、これは、インビボ腸上皮の生物学を厳密に模倣する(
図12Aおよび12B)。生理学的条件下で(
図12A)、ISCの自己複製および分化は、Wntおよびノッチ経路の協調によって制御される。両方の経路の活性化(Wntオンおよびノッチオンで示される)は、ISCを未分化の自己複製状態に維持する。ノッチ経路の不活性化によって(ノッチオフ)、分泌性細胞型の特性を有する状態(specification)が導かれ、Wnt経路のさらなる不活性化によって(Wntオフ)、杯細胞分化が導かれる。ノッチの非存在下でのWnt経路の連続的な活性化によって、パーネト細胞分化が導かれる。腸内分泌細胞分化についてWnt経路の強い依存性はない。あるいは、連続的なノッチ活性化およびWnt不活性化によって、腸内分泌細胞分化が導かれる。Lgr5+幹細胞をインビトロで培養する場合(
図12B)、CHIR99021は、Wnt経路を活性化し、腸細胞分化を阻害するが、VPA単独またはCHIRを伴うVPAは、分泌性細胞の特性を有する状態を抑制する。CHIRとVPAの組み合わせによって、ISCが未分化の自己複製状態に維持される。DAPTでのノッチ経路の阻害によって、分泌性細胞型の特性を有する状態が導かれ、CHIRのさらなる添加によって、パーネト細胞分化が導かれるが、Wnt経路インヒビターIWP−2の添加によって、杯細胞分化が導かれる。あるいは、分化を誘導し、分泌性細胞型の特性を有する状態を抑制するIWP−2とVPAの組み合わせによって、腸細胞分化が導かれる。
【0136】
実施例5:内耳由来のLgr5陽性幹細胞の増殖はCHIRおよびVPAの存在下で増大される
哺乳動物の内耳のコルチ器の感覚毛細胞は、損傷の際に再生しない。Li et al., 2003は、成人の卵形嚢感覚上皮が幹細胞に特有の特徴を示す細胞を含むことを見出した。これらの内耳幹細胞は、EGF、bFGFおよびIGF−1の存在下で懸濁球(suspension sphere)としてインビトロで培養され得る(Li et al., 2003)。その後、有糸分裂後支持細胞が培養中に分裂して、新たな毛細胞に分化転換する能力を保持することが見出され(Patricia et al., 2006, Nature)、これらの支持細胞は内耳幹細胞であり得ることが示唆された。精製された蝸牛支持細胞は、胚性耳周囲間葉フィーダー細胞上でEGF、bFGFの存在下でインビトロで培養され得る(Patricia et al., 2006)。Shi et alは、新生および成体マウスの蝸牛中の支持細胞のサブセットが成体幹細胞のマーカーであるLgr5を発現することを見出した(Shi et al., 2012)。重要なことに、Lgr5陽性細胞は、単離され得、EGF、bFGFおよびIGF−1の存在下で単一細胞懸濁物中で培養され得、Lgr5陰性細胞と比較して増強された自己複製能力を示す。以前の内耳幹細胞培養は、懸濁培養法を使用し、該方法においては、おそらく細胞にとって不十分な増殖環境のために、全細胞の約0.068%のみ(Li et al., 2003)またはソーティングされたLgr5陽性細胞の2%が球を形成し得た(Shi et al., 2012)。本明細書で記載するように、内耳幹細胞についての高効率のインビトロ培養系が、今回開発された。
【0137】
P1からP2Lgr5−GFPマウスから単離されたマウス蝸牛は、
図13Aに示すように、Lgr5陽性細胞を含んだ。Lgr5+小腸幹細胞培養において使用されたのと同じ培養条件(EGF、ノギン、R−スポンジン1、または「ENR」)を、最初に確立した。
図13Bに示すように、EGF、ノギンおよびR−スポンジン1の組み合わせによって、EGF単独に比べて、単一の蝸牛上皮幹細胞からのコロニー形成効率が上昇した。予想されるように、CHIRとVPAの組み合わせは、コロニー形成効率、細胞増殖、および細胞のGFP発現を大きく増大させたが、CHIR単独はそうではなかった。驚くべきことに、ENR−CV組み合わせからノギンを除去することによって(「ER−CV」条件)、
図13Bに明視野画像およびGFP画像によって示すように、わずかに高いコロニー形成効率および高いGFP発現レベルが生じた。これらの結果は、R−スポンジン1またはCHIRによるWnt経路活性化が内耳幹細胞の増殖を促進し、CHIRとVPAの組み合わせが内耳幹細胞の増殖および自己複製を大きく促進することを示す。
【0138】
EGF、bFGFおよびIGF−1を含む有糸分裂性(mitogenic)増殖因子は、懸濁物培養系で以前に使用され、単離された内耳幹細胞の球形成を促進することが示された(Li et al., 2003; Shi et al., 2011)。次に、CHIRおよびVPAの効果を、表1に記載するように、これらの増殖因子の存在下で試験した。
【表4】
【0139】
Lgr5−GFPマウスから単離されたコルチ器を、アキュターゼを使用して単一の細胞に分離し、8日間マトリゲル中で可溶性因子と小分子の複数の組み合わせ中で培養した。得られた培養物を、単一の細胞にさらに分離し、FACSを使用して分析した。以前の結果と一致して、CHIRとVPAの添加によって、細胞増殖が大きく増大し(9〜20倍)、GFP+細胞のパーセンテージで示されるGFP発現が大きく上昇し(60倍)、GFP+細胞の相対GFP強度が大きく上昇したが(2倍)、CHIRまたはVPAの単独はそうではなかった(
図14Aおよび14B)。さらに、EGF、bFGFおよびIGF−1の組み合わせによって(EFIとして示す)、ENR条件と比較して細胞増殖およびGFP発現が改善した(
図14A〜14C)。
【0140】
CHIRおよびVPAと組み合わせた場合の個々の増殖因子の効果をさらに調査するために、CHIRおよびVPAと組み合わせた有糸分裂性増殖因子(EGF、bFGFおよびIGF−1)を含む増殖因子ならびにWntアゴニストR−スポンジン1を試験した。CV条件へのEGFの添加により、培養物中の細胞数の増加によって示される細胞増殖が大きく増加した。EGF+CVへのbFGFの添加により、細胞増殖およびGFP発現がさらに増大したが、EGF+CVへのIGF−1またはR−スポンジン1の添加ではそうならなかった(
図14D)。EGF+bFGF組み合わせへのIGF−1またはR−スポンジン1の添加により、GFP発現がわずかに上昇したが(
図14E)、我々は、これらが培養細胞の増殖およびGFP発現の維持に必須ではないことを見出した(
図14F)。
【0141】
実施例6:Lgr5陽性腸幹細胞は移植可能な陰窩を形成する
腸幹細胞を移植する可能性を試験するために、インビトロの健康な結腸組織に対する小腸陰窩の植付けを試験した。結腸組織を、野生型マウスから採取し、長さ方向に開いた。1cm断片を、除去し、PBSで洗浄した。上皮層を、外科用刃を使用してこすり落とすことによって除去し、組織を24ウェルプレートに配置した。Lgr5−GFPマウスから単離した小腸陰窩を、DiD膜色素で染色し、アドバンストDMEM/F12(Invitrogen)、2mM GlutaMax(Invitrogen)、10mM Hepes(Invitrogen)、100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Invitrogen)、1×N2サプリメント(Invitrogen)、1×B27サプリメント(Invitrogen)、50ng/ml EGF(Peprotech)、500ng/ml R−スポンジン1(R & D Systems)、10μM Y−27632(Rhoキナーゼインヒビター、Sigma-Aldrich;および100mg/mlノギン(Peprotech)を含む5〜10μlの陰窩培養培地内の結腸組織上に配置した。組織を、加湿環境において37℃で30〜60分間さらにインキュベートし、陰窩の接着を可能にした。次いで、陰窩培養培地を、ウェルに添加し、陰窩を7日間さらに培養した。播種した陰窩を、結腸に付着させ、24時間の間に広げた(
図15)。蛍光画像は、陰窩が48時間の間に結腸に植え付けられ(
図16)、少なくとも1週間の間Lgr5−GFP発現を維持したことを示した(
図17)。
【0142】
小腸陰窩の植付け能力をさらに試験するために、自発的な潰瘍性大腸炎を示し、ヒトの状態を模倣するTRUCマウスモデルを使用した。脱した組織を、TRUCマウスから切除し、PBSで洗浄し、24ウェルプレートに配置した。小腸陰窩を、DiDで染色し、脱した組織上に配置した。次いで、組織を、加湿環境において37℃で30〜60分間インキュベートし、陰窩の接着を可能にした。陰窩培養培地をウェルに添加した。脱した組織および陰窩を、インビトロで2日間さらに培養した。予想されるように、陰窩は、脱した組織に植付けられた(
図17)。
【0143】
実施例7:小腸類臓器体のためのパッチ培養系は3次元生理学的環境を模倣する
粘膜下組織骨格上に大規模な組織化された3次元細胞構造(即ち、類臓器体)の成長を支持し得るインビトロ培養系を、今回開発した。以下に記載するように、3次元組織構築物のための改善された小腸粘膜下組織(「SIS」)ベースの培養系を、粘膜下組織に前もって選択した細胞型を播種し、かつ特有のコラーゲンベースのかぶせもので成長を容易にすることによって調製した。このかぶせものは、最初は粘性の液体(fluid)重合前物質(pre-polymerization)であるが、播種された初期の細胞または類臓器体(細胞から二次培養された)を覆い、かつSISベースを覆い、コラーゲン残基内に細胞を包むために使用される(
図19Eおよび19F)。重合後、液体は固化し、細胞膜およびSISに接触するその位置を維持し、類臓器体の拡大を促進する。このかぶせものを有するSISの組成を変更することによって、細胞接着および増殖が容易になることを今回発見した。これは、インビボとは全く異なるインビトロで組織成熟を容易にする。これは、大きな内生型(endogenous)類臓器体への接着細胞の3次元拡大が移植前に達成される点で、他の粘膜下組織ベースの系および類似の合成系に対して特有の改善である。
【0144】
さらに、ゲル層を使用することなく、マトリゲルに匹敵する速度での粘膜下組織上での3次元類臓器体成長を支持する方法がまた発見された。この系は、脊椎動物SIS、およびSISパッチに播種された前もって選択された細胞で構成される。このゲル不含培養系を支持するために、前もって選択された生体活性活性薬剤を、細胞の播種前にパッチに注入する(
図19Cおよび19D)。
【0145】
パッチ培養系を開発するために、増殖因子を注入したSISベースおよびコラーゲンかぶせものの種々の組み合わせ(
図19Eおよび19F)を試した。これは、硬い(SIS)から柔らかい(コラーゲン)マトリックスへの転移を有するより生理学的な組織界面(interface)の作製を可能にした。コラーゲン残基で覆われた播種された細胞および類臓器体に、マトリゲルで提供されるものと類似の3次元環境が提供されることを決定した。従って、この系は、3次元類臓器体構築物の培養においてマトリゲルの適切な交換物である。播種された細胞または類臓器体の大部分は、両方、細胞膜の下半分でSISに接着するが、膜の非付着領域で重合したコラーゲンによっても覆われる(
図19E、挿入図)。従って、各細胞膜は、マトリックスがSISであろうとコラーゲンであろうと、マトリックスの形態中に機能的に覆われる。いくつかの試料において、種々の生体活性薬剤が、SIS単独より優れた細胞および類臓器体の播種、成長、および分化を支持するために使用された(
図19F)。出願人は腸幹細胞培養に特異的な生体分子の注入を記載するが、生体分子は、膵臓、乳房、肝臓、および胃の組織を含む種々の組織からの他の播種された細胞の増殖を補助するためにあつらえる(tailor)ことができることを宣言する。従って、組織特異的生体分子は、以下:抗ウイルス剤、抗菌剤、抗生剤、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク、抗体、ステロイド化合物、抗生物質、抗真菌剤(antimycotic)、サイトカイン、ビタミン、炭水化物、脂質、細胞外マトリックス、細胞外マトリックス成分、化学療法剤、細胞傷害性剤、増殖因子、抗拒絶反応剤、鎮痛薬、抗炎症剤、ウイルスベクター、タンパク質合成補因子、ホルモン、内分泌組織、合成剤(synthesizer)、酵素、実質細胞を有するポリマー細胞骨格形成剤(scaffolding agent)、脈管形成薬、小分子、ナノ粒子、コラーゲン格子、抗原性薬剤、細胞骨格剤、核酸、細胞誘引物質(attractant)から選択され得る。
【0146】
初めに、陰窩を、以前の方法に従って単離した(Sato et al., 2009, Yui et al., 2012)。マウス小腸を、単離し、長さ方向に切開し、氷冷PBSで洗浄し、管腔内含有物をきれいにした。断片を、2mm片に切断し、50mlファルコンチューブに移し、10mlピペットを使用して50mlの氷冷PBS中で穏やかに洗浄した。上清を除去し、該プロセスを、上清が澄むまで続けた。断片を、2mM EDTAを含むPBS中で4℃で45分間インキュベートし、陰窩を放出させた。上清を除去し、断片を、50mlのPBSを用いてピペットで吸ったり出したりした。一旦、上清が陰窩画分を含むことが確認されると、上清を、70μmのセルストレーナーを通してろ過し、300gで5分間の遠心分離で回転させた(spin)。陰窩を、10mlの氷冷ベース培養培地(アドバンストDMEM/F12(Invitrogen)、2mM GlutaMax(Invitrogen)、10mM Hepes(Invitrogen)および100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Invitrogen)を含む)中に再懸濁し、15mlのファルコンチューブに移した。PBS洗浄を繰り返し、陰窩を、200gで2分間回転させ、単一の細胞を除去した。陰窩を、計数し、200μlのマトリックスを含むウェルあたり1000陰窩の濃度で、マトリゲルまたはコラーゲンIのいずれか(以下からなる:100μl 10×PBS、4.9μl NaOH、684μl H2Oおよび211μl コラーゲンI型(ラット尾高濃度9.49mg/ml;BD Biosciences)を有する48ウェルプレートにプレーティングした。選択したゲル製品の重合の後、アドバンストDMEM/F12(Invitrogen)、2mM GlutaMax(Invitrogen)、10mM Hepes(Invitrogen)、100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Invitrogen)、1×N2サプリメント(Invitrogen)、1×B27サプリメント(Invitrogen)、50ng/ml EGF(Peprotech)、500ng/ml R−スポンジン1(R & D Systems)、10μM Y−27632(Rhoキナーゼインヒビター、Sigma-Aldrich;および100ng/mlノギン(Peprotech)を含む500μlの1×標準陰窩培養培地(無血清)を添加した。パッチに播種する前に、細胞を4〜5日間増殖させ、一日おきに培地を交換した。Y−27632は、最初の48時間の間のみ培養培地に含ませた。
【0147】
培養の4〜5日後に、Lgr5+類臓器体を、以前に記載された改変されたプロトコルを使用して継代した(Sato et al., 2009)。培養培地を、マトリゲルから除去し、次いで、マトリゲルを、p1000ピペットを用いて人力で破壊し、次いで、BSAコートされた15mlファルコンチューブに移した。コラーゲンゲルを、コラゲナーゼXI型を含むDMEM中で37℃で5分間インキュベートし、次いで、BSAコートされた15mlファルコンチューブに移した。ベースの培地を添加し、類臓器体を、大部分の類臓器体が単一の陰窩になるまで、倒立顕微鏡による頻繁な観察によって穏やかに破壊した。類臓器体を、10mlのベース培地中で洗浄し、200gで2分間遠心分離した。ペレットを、500μlあたり500の単一の陰窩類臓器体の濃度で陰窩培養培地中に再懸濁した。
【0148】
パッチを、生成し、標準的な48ウェルプレートのウェル内に播種するために調製した(ウェルあたり1パッチ、管腔側を上にする)。SISを、所望の長さに切断し、各ウェルの底を覆った(48ウェルプレートについて約1cm)。SISの単離は、以前に記載されている(Badylak et al., 1989)。鈍い鉗子を使用して、各SISセグメントを、ウェルの底に移し、管腔側を上にしてその全直径まで注意深く広げた。方向を、倒立顕微鏡下の分析によって確認し、表在性表面上の陰窩の無細胞性残存物を可視化した。要求されるコンプライアンスおよび強度に依存して、SISの複数の層を、層状に積み重ね、互いに結合させ得る。この場合において、各セグメントを、所望の数のセグメントに対して互いの上部に広げ得、パッチを、鉗子で穏やかに圧縮し、5%CO
2、37℃で5分間空気乾燥させた。播種の前に、各パッチセグメントを、受動的蒸発により24時間脱水させ、濃縮した陰窩培養培地を注入し、任意に、以下に記載されるとおり小分子を注入した。具体的には、パッチの各セグメントを配置し、48ウェルプレートのウェル中に管腔側を上にして広げ、100μlの濃縮した因子(EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632、バルプロ酸、およびCHIR)を、5%CO
2および37℃での24時間のインキュベーションの間配置した。
【0149】
個々の500μlの単一の陰窩類臓器体試料を、パッチベースを含むウェルに配置し、5%CO
2および37℃で24時間インキュベートした(
図20A)。確実に接着させ、パッチ中に植え込まれた増殖因子から栄養的支持を得るために、播種されたパッチを、24時間培養培地中に維持した(
図20B)。
【0150】
いくつかの試料において、薄いコラーゲンゲル残基(ゲルパッチと称する)を、パッチ/類臓器体複合体の上部に被覆し、各類臓器体に対して最少であるが機能的な3次元環境を提供した。細胞表面から得られる物理的および化学的合図は、生理学的形態を複製するために、3次元細胞構造増殖を増強した(Seidi, A., et al., 2011)。コラーゲンIマトリックス(20〜40μl)を、播種されたパッチの上に層にし、パッチを越えたゲルの拡散を防止するために表面張力を強化することに気を付け(
図20C)、ウェルプレートを、5%CO
2、37℃で30分間インキュベートした。陰窩培養培地(500μl)を、各ウェルに配置し、1日おきに交換した。
【0151】
いくつかの試料において、パッチを、パッチにより最初の24時間に類臓器体の接着が容易になったかどうかを試験するために、播種前に、増殖因子中でインキュベートした。従って、GF注入(EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632、バルプロ酸、およびCHIRを含む)パッチ 対 非注入パッチ(PBS中のSIS)に播種した。このアッセイにおいて、非注入パッチは、培養培地の代わりにベースの媒体を使用し、同様に、類臓器体に培地増殖因子を与えなかった(deprive)。
【0152】
腸類臓器体の成長を、7つの別個の系:マトリゲル(対照)、増殖因子(本明細書中以下GFといい、EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632、バルプロ酸、およびCHIRを含む)を注入されたゲルパッチ系、GFを注入したがコラーゲンのかぶせものを有さないベアパッチ、コラーゲンIゲルのみ、培養培地に直接GFを添加したコラーゲンIゲル(EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632、バルプロ酸、およびCHIRを含む)、ゲル自体にGFを植え込んだコラーゲンIゲル(EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632、バルプロ酸、およびCHIRを含む)、およびコラーゲンのかぶせものまたはGFの注入を有さないベアパッチにおける類臓器体あたりの陰窩の数の定量によって評価した。培地に直接GFおよび小分子を添加したコラーゲンI群以外は、全ての培養培地は、各系の間の標準であり、全ての培養培地は、1日おきに交換され、EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632(最初の48時間のみ)を含んだ。標準的な陰窩培養培地を、上記する。
【0153】
実験を96時間にわたって行い、類臓器体の成長の毎日の定量を、類臓器体あたりの陰窩の数の視認によって、詳細に記録した。GFを有するゲルパッチ系は、マトリゲル対照に匹敵するレベルで類臓器体の成長を支持し得た(
図19)。GFを有さないベアパッチは、測定可能な類臓器体の成長を支持し得なかった。より精密な観察によって、ベアSISパッチは、3次元類臓器体とは全く異なるシートにおいてLgr5+細胞を成長させるようであった。しかし、GF(EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632、バルプロ酸、およびCHIR)を注入したベアパッチは、ゲルパッチ系およびマトリゲルの両方で同等に類臓器体の成長を支持した。このことは、十分なGFの支持を伴って、ゲルを含まない培養系は、マトリゲルと同等に、短期の3次元の類臓器体の成長を維持し得ることを示す。コラーゲンIのみは、中程度の類臓器体の成長を容易にするが、GFを注入したSISは、コラーゲンの3次元成長促進効果に対する実現可能な交換物である。さらに、同じGF(EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632、バルプロ酸、およびCHIR)を、コラーゲンIゲル培養の培養培地に直接添加した場合、類臓器体の成長速度は低いままであった。さらに、コラーゲンIゲルを、播種の前に上記したGFをゲルに直接植え込むことによって調製した場合、類臓器体の成長速度は低いままであった。GFPシグナルは、ゲルパッチ系のいたるところで維持された(
図21Bおよび21Cに代表的な例)。ベアパッチ(コラーゲンのかぶせものまたはGFを有さないSIS)が、構造化した類臓器体の成長を支持しなかったとの観察は、3次元構造を促進するための十分な物理的および化学的合図の重要性を再確認する。
【0154】
SISまたはコラーゲンのみが、文献において細胞播種のためのベース骨格として使用され、細胞単層の形成が生じている(Baumert et al. 2007; Campodonico et al. 2004; Feil, G., et al. 2006; Zhang, Y., et al. 2000)。対照的に、これらの2つのマトリックスの界面で増殖している細胞は、単層の成長より3次元の類臓器体の成長を好む。これは、生理学的環境をより精密に模倣し、加速されかつ構造化された成長を可能にする。重要なことに、これらの結果は、マトリゲルの優れた代替物である、小腸類臓器体についてのパッチ培養系を記載する。動物モデルにおけるマトリゲルベースの移植は、ヒトモデルに進める際に重大な障壁に遭遇し、最も重大なものは生体適合性の問題を含んだ。3次元の細胞ベースの構造を成長させることは、しばしば、厚いマトリックスゲルに植え込むことを必要とする。パッチ培養系は、この要件を克服し、同等の結果を提供する。マトリゲルを内生型細胞外マトリックス物質と特定の生体活性増殖因子の組み合わせと交換することによって、生体適合性の問題を回避し、3次元の類臓器体のエキソビボ成長を維持する。最初の播種からの3次元のエキソビボ類臓器体拡大の微速度撮影画像を、
図22に示す。
【0155】
播種前の増殖因子中でのパッチのインキュベーションによって最初の24時間で類臓器体の接着が容易になるかどうかを評価した。播種効率を、増殖因子注入パッチ(EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632、バルプロ酸、およびCHIRを含む)と非処理パッチ(PBS中に保存)とで比較した。アッセイを、培地の洗浄後の増殖因子を含まない培地のみ(ベース培地のみ)で細胞を培養する4時間目および12時間目の時点に維持される類臓器体のパーセンテージを測定することによって実施した。SISを省略し、類臓器体をプラスチックのコラーゲン被覆ウェルおよびコラーゲン非被覆ウェルに直接播種した場合、全ての類臓器体の分離が24時間以内に起こった。しかし、SISパッチは、24時間の時点で、構造およびGFP発現の両方において類臓器体の大部分を維持した。接着の改善は、細胞を、増殖因子注入パッチ(EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632、バルプロ酸、およびCHIRを含む)上に播種した場合に観察された。従って、増殖因子注入はまた、培養の間および移植の後に十分な栄養および因子を提供し、細胞植付けに対する橋渡しをする(bridge the gap)ために有用であり得る。
【0156】
実施例8:移植したパッチはインビボで成長促進特性を示す
パッチ系の無細胞性ゲル不含の変形物を、インビボでの粘膜治癒特性を評価するために試験した。インビボでの移植パッチの成長促進特性を試験するために、粘膜欠損のラット外科モデルを設計した。SISの一部を、6mmの円形のポリ(グリセロールセバセート)ウレタン(PGSU)の裏当て上に管腔側を上にして注意深く広げることによって、移植パッチを組み立てた(assemble)。パッチを、5%CO
2、37℃で30分間インキュベートし、PGSUとSISの接着を可能にした。
図23に示すように、4mmの欠損を、パンチ生検(punch biopsy)によって胃壁に生成した。無細胞性パッチ(直径6mm)を、胃の外壁の上に配置し、選択した物質で該欠損を注意深く覆った。縫合糸および近位の結合組織を使用して、採用したGrahamパッチ方法により、パッチを固定した
【数1】
。a)PGSU−裏当てSISパッチ(GFなし)、b)GF(EGF、ノギン、R−スポンジン1、Y−27632、バルプロ酸、およびCHIR)を注入したPGSU−裏当てSISパッチ、およびc)PGSU裏当てのみ(SISなし)を含む、無細胞性パッチの3つのバリアントを適用した。いずれの時点においても、いずれのラットにも腹膜炎は観察されなかった。機械的に誘導した胃壁の欠損の上への移植の1週間後、欠損およびパッチ移植物を含む胃の組織を、採取し、組織の組織学的試験を行った。
【0157】
パッチの変形物の移植は種々の程度の粘膜の治癒を示すと仮説を立てた。全試験は、欠損が上皮形成し、閉じたので、GFを有するSISパッチにおいて有意な利点を示した。GFを有さないSISパッチにおいて、上皮形成を有さない部分的な閉鎖が観察され、PGSUのみ(対照)のパッチにおいて、閉鎖または上皮形成は観察されなかった。組織学的試験によって、GFを有するおよび有さないSISパッチの両方において軽度の炎症が明らかになったが、胃の内容物の漏れはなかった。PGSUのみのパッチの組織学的試験によって、中程度の炎症および巨細胞の存在が示され、胃の内容物の漏れに応答しているようであった。従って、本明細書に記載されるパッチ培養系は、培養皿から直接患者への移植が可能であり、パッチが硬く、その低い高さプロフィールを考慮すれば、小さい空間(例えば、腸の管腔、脈管の空間)を閉塞する可能性が低いので、移動の潜在性が高い。
【0158】
実施例9:ヒト小腸陰窩/幹細胞の培養
ヒト小腸陰窩を、切除した正常な小腸検体から単離し、実施例1に記載されるとおりに培養した。ENR(EGF、ノギン、R−スポンジン1)条件に添加されたCHIR99021とVPAまたはツバスタチンAの組み合わせを含むマウス小腸幹細胞/陰窩の培養に使用した同じ細胞培養条件を、ヒト腸幹細胞/陰窩について公開された細胞培養溶液(Jung et al., 2011; Sato et al., 2011)と比較した。RT−PCRを使用して、特に自己複製または分化状態を決定することによって、培養中の上皮幹細胞の維持を評価した。LGR5を幹細胞マーカーとして使用し、ALPI、MUC2、CHGAおよびLYZを、分化マーカーとして使用した。培養物中の細胞数を計数し、コロニーの形態およびサイズを観察することによって、細胞増殖を評価した。
【0159】
マウス腸幹細胞培養と同様に、CHIR+VPAまたはCHIR+ツバスタチンAの組み合わせは、幹細胞マーカーLGR5の発現を大きく促進し、培養された細胞は、幹細胞が富化されていることを示唆した(
図24)。特に、CHIRおよびVPAまたはCHIRおよびツバスタチンAを含む培養条件は、LGR5発現の促進において公開された条件より優れていた(
図24)。さらに、培養培地に対する改善を示す、A83−01(ALK4、5、7、Tgf−βインヒビター)、SB202190(p38インヒビター)、およびニコチンアミド(ビタミンB誘導体)を含む個々の成分を試験した。LGR5発現に大きな影響を与えることなく(
図25B)、培養物中の細胞数を増大させることによって示されるように(
図25A)、CHIR+VPA条件に添加された場合、10mMのニコチンアミドがヒト小腸陰窩の増殖を増大させることを決定した。A83−01とSB202190の組み合わせ(AS)は、細胞の増殖を増大させたが(
図25A)、これらは、LGR5の発現を大きく減少させた(
図25B)。さらに、より低い濃度のVPA(0.5mM、マウス培養に使用した(1〜2mM)のと比べて)が、ヒト小腸陰窩の細胞増殖を増大させた(
図25A)。ひとまとめにすると、EGF、ノギン、R−スポンジン1、CHIR、VPA(0.5mM)、およびニコチンアミドまたはEX527を含む培養条件が、ヒト腸幹細胞にとっての最適な培養条件であったことを決定した。この条件において、単離された小腸陰窩は、マウス小腸幹細胞と同等のコロニーに成長した(
図26)。
【0160】
実施例10:
腸上皮細胞に対するCHIRおよびVPAのインビボ効果を試験するために、CHIR99021(100μl DMSO中30mg/Kg)およびVPA(100μl水中200mg/Kg)を、4〜6週齢の雌のLgr5−GFPマウスに、胃管栄養法により投与した。対照マウスに、100μl DMSOと100μl水の混合物を与えた。薬物を、7日間48時間毎に投与した(第0日、第2日、第4日および第6日に)。第7日に、マウスを屠殺し、腸組織を回収した。小腸を、PBSでさらに洗浄し、4%PFAで12時間固定し、パラフィンに包埋し、標準的なヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色プロトコルを使用して染色した。倒立顕微鏡(EVOS, Advanced Microscopy Group)を使用して画像を取得した。CHIRおよびVPAのインビボ投与によって、7日のクールの間の3回の投与の後、陰窩のサイズが増大した(
図27)。
【0161】
参考文献
本明細書で言及される全ての特許、特許出願および刊行物は、各独立した特許および刊行物が具体的におよび個々に参照によって援用されるべきことが示されていたのと同程度に、参照によって本明細書に援用される。
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他の態様
本発明はその詳細な説明に関連して記載されるが、前述の説明は、例示を意図し、添付の特許請求の範囲の範囲によって画定される発明の範囲を限定することを意図しないことが理解される。他の局面、利点および改変は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。