特許第6469655号(P6469655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6469655
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】代用皮膚および毛包新生の方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20190204BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20190204BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20190204BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   C12N5/077
   A61K35/36
   A61P17/02
   A61P17/14
【請求項の数】27
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-512038(P2016-512038)
(86)(22)【出願日】2014年5月1日
(65)【公表番号】特表2016-522682(P2016-522682A)
(43)【公表日】2016年8月4日
(86)【国際出願番号】US2014036351
(87)【国際公開番号】WO2014179559
(87)【国際公開日】20141106
【審査請求日】2017年4月28日
(31)【優先権主張番号】61/819,332
(32)【優先日】2013年5月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501051125
【氏名又は名称】ザ ヘンリー エム. ジャクソン ファウンデーション フォー ザ アドヴァンスメント オブ ミリタリー メディシン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】ラジェシュ・タンガパザム
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・エヌ・ダーリング
(72)【発明者】
【氏名】シャオウェイ・リー
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−525088(JP,A)
【文献】 特開2007−274949(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/160055(WO,A1)
【文献】 特表2011−515095(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/115079(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁液で、単離された上皮細胞および間葉系細胞を含む代用皮膚であって、
間葉系細胞が、頭皮の側頭部の領域に由来する、
代用皮膚。
【請求項2】
上皮細胞が角化細胞である、請求項1に記載の代用皮膚。
【請求項3】
間葉系細胞が毛包真皮細胞である、請求項1または2に記載の代用皮膚。
【請求項4】
毛包真皮細胞が毛乳頭細胞、真皮毛根鞘細胞または神経堤由来の細胞である、請求項3に記載の代用皮膚。
【請求項5】
間葉系細胞が遺伝的に改変されていない間葉系細胞である、請求項1−4のいずれか一項に記載の代用皮膚。
【請求項6】
代用皮膚が、微粒子で提供される、請求項1−5のいずれか一項に記載の代用皮膚。
【請求項7】
上皮細胞が、1回または2回継代したものである、請求項1−6のいずれか一項に記載の代用皮膚。
【請求項8】
間葉系細胞が、1回、2回、3回、または4回継代したものである、請求項1−7のいずれか一項に記載の代用皮膚。
【請求項9】
上皮細胞および間葉系細胞が、角化細胞馴化培地で継代したものである、請求項1−8のいずれか一項に記載の代用皮膚。
【請求項10】
上皮細胞および間葉系細胞がヒトのものである、請求項1−9のいずれか一項に記載の代用皮膚。
【請求項11】
コラーゲンをさらに含む、請求項1−10のいずれか一項に記載の代用皮膚。
【請求項12】
ヒト対象に前記代用皮膚を送達することを含み、ここで、ヒト対象が、部分層皮膚喪失、全層皮膚喪失、創傷、熱傷、瘢痕または脱毛を有する、毛包の新生を誘導することにおける使用のための請求項1−11のいずれか一項に記載の代用皮膚。
【請求項13】
代用皮膚がエクリン腺および/または皮脂腺を誘導する、請求項12に記載の代用皮膚。
【請求項14】
(a)マトリックスを、初代もしくは継代初期の頭皮の側頭部の領域に由来する間葉系細胞の単離された培養物と混合すること、ここで、培養物が、微粒子で提供され;(b)(a)の培養物を基底質、マトリックスまたは足場に導入または挿入する、または(a)の培養物を基底質、マトリックスまたは足場に置き;および()初代または継代初期の上皮細胞の培養物を()の混合物にかぶせることを含む、代用皮膚の製造方法。
【請求項15】
懸濁液で、単離された上皮細胞および間葉系細胞を含む微粒子であって、
間葉系細胞が、頭皮の側頭部の領域に由来する、微粒子。
【請求項16】
上皮細胞が角化細胞である、請求項15に記載の微粒子。
【請求項17】
間葉系細胞が毛包真皮細胞である、請求項15または16に記載の微粒子。
【請求項18】
毛包真皮細胞が毛乳頭細胞または真皮毛根鞘細胞である、請求項17に記載の微粒子。
【請求項19】
毛包真皮細胞が神経堤由来の細胞である、請求項17に記載の微粒子。
【請求項20】
間葉系細胞が、遺伝的に改変されていない間葉系細胞である、請求項15−19のいずれか一項に記載の微粒子。
【請求項21】
上皮細胞が1回または2回継代したものである、請求項15−20のいずれか一項に記載の微粒子。
【請求項22】
間葉系細胞が、1回、2回、3回、または4回継代したものである、請求項15−21のいずれか一項に記載の微粒子。
【請求項23】
上皮細胞および間葉系細胞が、角化細胞馴化培地で継代したものである、請求項15−22のいずれか一項に記載の微粒子。
【請求項24】
上皮細胞および間葉系細胞がヒトのものである、請求項15−23のいずれか一項に記載の微粒子。
【請求項25】
コラーゲンをさらに含む、請求項15−24のいずれか一項に記載の微粒子。
【請求項26】
ヒト対象に前記微粒子を送達することを含み、ここで、ヒト対象が、部分層皮膚喪失、全層皮膚喪失、創傷、熱傷、瘢痕または脱毛を有する、毛包の新生を誘導することにおける使用のための請求項15−25のいずれか一項に記載の微粒子。
【請求項27】
微粒子がエクリン腺および/または皮脂腺を誘導する、請求項26に記載の微粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2013年5月3日に出願された米国仮出願番号61/819,332に基づく優先権を主張し、その全体を引用により本明細書の一部とする。
【0002】
政府の利益の陳述
本発明は、部分的に米国政府の支援を受けてなされた。従って、政府は本願に一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、毛包(「HF」)を誘導できる、毛包真皮細胞などの神経堤由来の間葉系細胞、例えば、毛乳頭(「DP」)細胞または真皮毛根鞘細胞(dermal sheath cell)を含む、代用皮膚および微粒子の形態の組成物に関する。本発明は、また、HFの成長および新生を誘導するための方法、使用および組成物に関する。いくつかの実施態様では、本発明は、全層または部分層皮膚喪失、創傷、熱傷、瘢痕、および、完全または部分的脱毛の処置に使用できる。
【背景技術】
【0004】
背景および概要
毛および皮膚の研究は、再生医学の最前線にあり続けている。代用皮膚は、組織工学の原理を使用して開発されるべき最初期の産物の一つであったし、これらの先端的企画の成功は、いくつかの商品の臨床使用から明白である。加えて、毛の回復は、男性および女性の美容的治療の最も急速に成長している領域のひとつである。
【0005】
大きい皮膚損傷を処置するための現在の臨床の「ゴールドスタンダード」は、分層自家植皮術の使用を含み、それは、患者のある部位から他の部位への、真皮の一部を含む表皮の移植を含む。しかしながら、創傷をカバーするのに十分なドナーの皮膚がない場合、代用皮膚が使用され得る。今日利用可能な代用皮膚には様々な組成物があるが、一般的には、非生存コラーゲンマトリックスと、角化細胞および線維芽細胞の様々な組合せを含む。例えば、現在利用可能な最も臨床的に成功した複合代用皮膚であると報告されている APLIGRAF(登録商標)(Organogenesis, Inc., Canton, MA)は、ウシI型コラーゲン中の同種新生児線維芽細胞に同種新生児角化細胞をかぶせた構成である。
【0006】
しかしながら、現在利用可能な代用皮膚は、正常な皮膚のすべての機能を遂行できない。例えば、毛包(HF)新生は、現在利用可能ないかなる代用皮膚を使用しても観察されず、このことは、患者におけるこれらの使用を制限している。HFおよびそれに伴う皮脂腺は、外見、皮膚の水和、バリア形成および病原体に対する保護に重要である。加えて、HFは、創傷治癒の際に呼び出され得る表皮幹細胞を蓄えている。従って、HFを有する皮膚は、HFのない皮膚よりも迅速に治癒する。加えて、HFを欠く皮膚に存在するかもしれない幹細胞は、表皮の表層に位置するので、これらの細胞は軽微な外傷や紫外線による損傷により失われやすい。従って、正常なHFの新生を伴う処置は、正常な皮膚機能および外見の回復のために、より広範に応用され得るであろう。
【0007】
胚形成中に、間葉系細胞は、重なっている上皮にシグナルを送ってHF形成を誘導し、成体においては、特化した間葉系細胞群、即ち、毛乳頭(DP)細胞が、HF再生を誘導する能力を保持すると示された(Hardy 1992, Reddy et al., 2001, Gharzi et al., 2003)。齧歯類由来のDP細胞は、様々なアッセイでHFを誘導するが(Ohyama et al., 2010で概説されている)、誘導能を維持するヒトDP細胞を培養で増殖させるのは困難であった(Ohyama et al., 2012)。好結果の臨床使用に必要とされる細胞を増やすためには、DP細胞は培養で増やされなければならないので、これは、重大な問題である。最近の技術的進歩は、例えば、ヒト角化細胞と齧歯類間葉系細胞をチャンバーアッセイで組み合わせることにより(Ehama et al., 2006)、フラップ移植においてヒト頭皮毛乳頭細胞とマウス表皮角化細胞を組み合わせることにより(Qiao et al., 2009)、または、再構成または「パッチ」アッセイにおいて、球状体として増殖させたヒトDP細胞をマウス表皮細胞と共に注入することにより(Kang et al., 2012)、キメラHFを形成するためのヒト細胞の使用を可能にした。
【0008】
しかしながら、キメラHFは研究ツールとしての価値は非常に高いが、これらの方法で産生されたHFは、完全なヒトの構築物ではなく(その代わりに、キメラの齧歯類/ヒト構築物である)、十分に発達しておらず、誤った解剖学的位置に毛幹を含み、長期の移植片の生存および正常なHFサイクルを発揮せず、かつ/または、皮脂腺を含むHFを形成しないので、臨床での有用性を欠く。加えて、そのような方法で産生されたHFは、様々な制御不能な方向に成長する傾向があり、不自然に見える毛をもたらす。従って、そのような方法で産生された毛包は、毛包を欠く皮膚におけるヒトHF新生に有用ではない。
【0009】
従って、形態学的に正しく、十分に発達しており、免疫原性でないヒト毛包を生成できる方法および組成物に対する要望がある。そのような方法および組成物は、全層または部分層皮膚喪失、創傷、熱傷、瘢痕および脱毛などの症状の処置に有用であろう。本発明は、毛の成長、新生および再生ができる細胞性組成物を提供することにより、これらの要望を満たす。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、神経堤由来の間葉系細胞を含む代用皮膚および微粒子の形態の組成物を提供し、この代用皮膚は、形態学的に正しい毛包を誘導でき、毛包形成/新生を必要とするいかなる応用にも、または、毛包形成/新生が望まれるいかなる状況でも、有用である。
【0011】
ある実施態様では、代用皮膚または微粒子は、神経堤由来の間葉系細胞を含む。いくつかの実施態様では、代用皮膚または微粒子は、さらに上皮細胞を、場合によりコラーゲンと共に含む。他の実施態様では、代用皮膚または微粒子は、頭皮または顔に由来する間葉系細胞および上皮細胞を、場合によりコラーゲンと共に含む。他の実施態様では、代用皮膚または微粒子は、上皮細胞および頭皮または顔に由来する間葉系細胞を、場合によりコラーゲンと共に含み、間葉系細胞は神経堤由来である。また他の実施態様では、代用皮膚または微粒子は、上皮細胞および毛包真皮細胞を、場合によりコラーゲンと共に含む。いくつかの態様では、上皮細胞は角化細胞である。いくつかの態様では、代用皮膚はヒト起源の細胞のみを含む。
【0012】
様々な実施態様で、代用皮膚が提供され、それは、単離された神経堤由来の間葉系細胞および/または上皮細胞を含む。いくつかの実施態様では、上皮細胞は角化細胞であり、かつ/または、間葉系細胞は毛包真皮細胞(例えば、毛乳頭細胞、真皮毛根鞘細胞、または、頭皮または顔に由来する1種またはそれ以上の毛包真皮細胞)である。いくつかの実施態様では、毛包真皮細胞は、頭皮の前頭部(frontal)、側頭部(temporal)、頭皮中央部(mid scalp)、頭上部(top of head)、最頂部(vertex)、または頭頂部(parietal)の領域に由来する。いくつかの実施態様では、毛包真皮細胞は、頭皮の後頭部(occipital)または首筋(nape)の領域に由来しない。様々な実施態様で、上記の代用皮膚は、ヒト由来の上皮細胞および神経堤由来の間葉系細胞を含む。いくつかの実施態様では、代用皮膚は、さらにコラーゲンを含む。いくつかの実施態様では、角化細胞または角化細胞様細胞は、角化細胞または角化細胞様細胞に分化した人工多能性幹(iPS)細胞である。いくつかの実施態様では、間葉系細胞および上皮細胞は、同一のドナーおよび/またはあるドナーの同一の身体領域から採られたものである(例えば、間葉系細胞および上皮細胞は、同一のドナー領域の組織から採られる、例えば、前頭部の頭皮からの角化細胞および間葉系細胞である)。いくつかの実施態様では、間葉系細胞および上皮細胞は、異なるドナーおよび/またはあるドナーの異なる身体の領域から採られたものである(例えば、間葉系細胞および上皮細胞は、同一のドナー領域の組織から採られない、例えば、前頭部の頭皮からの角化細胞および間葉系細胞ではない)。
【0013】
様々な実施態様で、代用皮膚が提供され、それは、上皮細胞および毛包真皮細胞を含み、毛包真皮細胞は、頭皮の後頭部または首筋の領域に由来しない。いくつかの実施態様では、上皮細胞は角化細胞であり、かつ/または、間葉系細胞は毛包真皮細胞(例えば、毛乳頭細胞、真皮毛根鞘細胞、または、頭皮または顔に由来する1種またはそれ以上の毛包真皮細胞)である。いくつかの実施態様では、毛包真皮細胞は、頭皮の前頭部、側頭部、頭皮中央部、頭上部、最頂部、または頭頂部の領域に由来する。様々な実施態様で、上記の代用皮膚は、ヒトの上皮細胞および神経堤由来の間葉系細胞を含む。いくつかの実施態様では、代用皮膚は、さらにコラーゲンを含む。いくつかの実施態様では、代用皮膚は、治療的に有効な濃度(例えば、宿主の組織での組合せにおいて自然に見出されない濃度)で組み合わせられ、かつ/または、自然には生じない培養培地(例えば、ハンクス培地、角化細胞馴化培地または、他の細胞培養培地)中で保存されている。
【0014】
様々な実施態様で、上記の代用皮膚は、マトリックス、例えば、基底質マトリックスまたはI型コラーゲンマトリックスなどのコラーゲンマトリックス中に提供される間葉系細胞(例えば、毛包真皮細胞)を含む。様々な実施態様で、上記の代用皮膚は、微粒子などの懸濁液で提供される。
【0015】
様々な実施態様で、上記の代用皮膚は、新生児包皮角化細胞、成体角化細胞または多能性幹細胞もしくは上皮細胞に由来する角化細胞様細胞の1種またはそれ以上に由来する角化細胞を含む。いくつかの実施態様では、上皮細胞は、初代細胞または継代初期の細胞(例えば、1回ないし4回の継代、より好ましくは、1回または2回の継代)である。いくつかの実施態様では、初代または継代初期の上皮細胞は間葉系細胞である。いくつかの実施態様では、初代または継代初期の上皮細胞は毛包真皮細胞である。いくつかの実施態様では、細胞は角化細胞馴化培地中で継代された細胞である。
【0016】
様々な実施態様で、上皮細胞および間葉系細胞は自家性である。例えば、上皮細胞および毛包真皮細胞は自家性であり得る。いくつかの実施態様では、細胞は同種性である。
【0017】
本発明のある態様では、神経堤由来の間葉系細胞、頭皮または顔に由来する間葉系細胞および毛包真皮細胞(毛乳頭細胞および真皮毛根鞘細胞を含む)は、頭皮の後頭部または首筋の領域に由来しない。例えば、本明細書に記載のいかなる組成物または代用皮膚中に存在する神経堤由来の間葉系細胞、頭皮または顔に由来する間葉系細胞および毛包真皮細胞(毛乳頭細胞および真皮毛根鞘細胞を含む)も、頭皮の前頭部、側頭部、頭皮中央部、頭上部、最頂部、または頭頂部の領域から、または、顔から、単離され得る。
【0018】
ヒト毛包を誘導できる細胞を移植する方法も本明細書で開示され、それは、ヒト対象に上記の代用皮膚の何れかを送達することを含む。いくつかの実施態様では、上記の上皮細胞は、それ自体で移植される(例えば、患者の移植部位の中または上に、細胞を被覆、埋入および/または注射することにより)。いくつかの実施態様では、上記の間葉系細胞は、それ自体で移植される(例えば、患者の移植部位の中または上に、細胞を被覆、埋入および/または注射することにより)。いくつかの実施態様では、上皮細胞は、間葉系細胞と組み合わせて移植される。いくつかの実施態様では、上皮細胞は、治療的に有効な濃度(例えば、宿主の組織の組合せにおいて自然に見出されない濃度)で間葉系細胞と組み合わせて移植される。いくつかの実施態様では、移植された細胞は、毛包の成長または毛包の新生を誘導するために使用できる。
【0019】
上記の通り、代用皮膚を移植することを含む処置方法も開示される。いくつかの実施態様では、上記の組成物または方法のいずれかで処置される対象は、部分層皮膚喪失、全層皮膚喪失、創傷、熱傷、瘢痕または脱毛を有する。いくつかの実施態様では、代用皮膚の移植は、エクリン腺および/または皮脂腺を誘導する。
【0020】
いくつかの実施態様では、上皮細胞および/または間葉系細胞は、上記の方法において使用するためのものであるか、または、当該方法において使用するために処方されるか、または、上記の方法で使用するための薬剤の製造において使用される。
【0021】
神経堤由来の間葉系細胞および/または上皮細胞を含む微粒子も本明細書で開示される。いくつかの実施態様では、微粒子は、間葉系細胞(例えば、毛包真皮細胞)および上皮細胞(例えば、角化細胞)の両方を含む。いくつかの実施態様では、間葉系細胞は毛包真皮細胞、例えば、毛乳頭細胞、真皮毛根鞘細胞、または、頭皮または顔に由来する毛包真皮細胞である。ある種の実施態様では、頭皮または顔に由来する毛包真皮細胞は、頭皮の前頭部、側頭部、頭皮中央部、頭上部、最頂部、または頭頂部の領域に由来するが、頭皮の後頭部または首筋の領域には由来しない。いくつかの実施態様では、微粒子中の上皮細胞および神経堤由来の間葉系細胞はヒト細胞であり、コラーゲンをさらに含み得る。例えば、ある種の実施態様では、微粒子は、頭皮または顔に由来する間葉系細胞(例えば、ヒト細胞)を含み、間葉系細胞は、頭皮の後頭部または首筋の領域に由来しない。
【0022】
いくつかの実施態様では、上記の微粒子は、真皮を含むために、マトリックス、例えば、基底質マトリックスまたはI型コラーゲンマトリックスなどのコラーゲンマトリックスをさらに含み得る。いくつかの実施態様では、微粒子中の角化細胞は、新生児包皮角化細胞、成体角化細胞、または、多能性幹細胞もしくは上皮細胞に由来する1種またはそれ以上の角化細胞様細胞に由来する。いくつかの実施態様では、微粒子中の上皮細胞は、初代細胞または継代初期の細胞(例えば、1回ないし4回の継代、より好ましくは、1回または2回の継代)である。いくつかの実施態様では、初代または継代初期の上皮細胞は間葉系細胞である。いくつかの実施態様では、初代または継代初期の上皮細胞は毛包真皮細胞である。いくつかの実施態様では、細胞は角化細胞馴化培地中で継代された細胞である。
【0023】
様々な実施態様で、上記の微粒子は、自家性の間葉系細胞および/または上皮細胞を含む。いくつかの実施態様では、間葉系細胞および/または上皮細胞は同種性である。
【0024】
様々な実施態様で、ヒト毛包を誘導できる細胞を対象に移植する方法が本明細書で開示され、それは、ヒト対象に上記の微粒子のいずれかを送達することを含む。いくつかの実施態様では、微粒子は、皮下または皮内で対象に送達される。様々な実施態様で、毛包の成長または毛包の新生を誘導する方法が提供され、それは、ヒト対象に上記の微粒子のいずれかを送達することを含む。いくつかの実施態様では、微粒子は、皮下または皮内で対象に送達される。様々な実施態様で、対象は、部分層皮膚喪失、全層皮膚喪失、創傷、熱傷、瘢痕または脱毛を有する。
【0025】
様々な実施態様で、対象における毛包の成長または毛包の新生を誘導するのに使用するための組成物が本明細書で提供され、それは、上記の微粒子のいずれかを含む。対象における毛包の形成または毛包の新生を誘導するための薬剤の製造において使用するための上記の微粒子も本明細書で開示される。様々な実施態様で、対象は、部分層皮膚喪失、全層皮膚喪失、創傷、熱傷、瘢痕または脱毛を有する。
【0026】
代用皮膚の製造方法も本明細書で開示され、それは、(a)初代または継代初期の神経堤由来の間葉系細胞の培養物をマトリックスと混合すること;および(b)初代または継代初期の上皮細胞の培養物を(a)の混合物にかぶせることを含む。例えば、当該方法は、(a)頭皮または顔に由来する間葉系細胞の培養物をマトリックスと混合すること;および、(b)初代または継代初期の上皮細胞の培養物を(a)の混合物にかぶせることを含み得、ここで、間葉系細胞は、頭皮の後頭部領域に由来しない。他の例として、当該方法は、(a)毛包真皮細胞の培養物をマトリックスと混合すること;および(b)初代または継代初期の上皮細胞の培養物を(a)の混合物にかぶせることを含み得、毛包真皮細胞は、頭皮の後頭部領域に由来しない。様々な実施態様で、マトリックスはコラーゲンマトリックス(例えば、I型コラーゲンマトリックス)である。様々な実施態様で、細胞は角化細胞馴化培地で培養される。
【0027】
ある種の実施態様では、本明細書に記載され、例示される組成物は、ヒト対象に提供されると毛包形成を誘導し、形成される毛包は、完全にヒトのものであり、従って、宿主の免疫反応を誘起しない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図面の簡単な説明
出願書類に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、本発明のいくつかの非限定的な実施態様を例示説明し、明細書と共に、本発明の原理を説明するのに役立つ。
【0029】
図1図1は、ヒト新生児包皮角化細胞、ヒト毛乳頭細胞およびI型コラーゲンを含む代用皮膚を移植することにより形成された、毛包を含む毛嚢脂腺ユニットを示す。ヌードマウスに移植した8週間後に切片を得た。
【0030】
図2図2は、ヒト新生児包皮角化細胞、ヒト毛乳頭細胞およびI型コラーゲンを含む代用皮膚を移植することにより形成された毛嚢脂腺ユニットが、毛乳頭、毛幹、内毛根鞘(IRS)、外毛根鞘(ORS)および皮脂腺を完備していることを示す。
【0031】
図3図3Aは、フルオレセインで標識されたヒトAlu DNAのオリゴヌクレオチドプローブの、ヒト新生児包皮角化細胞、ヒト毛乳頭細胞およびI型コラーゲンを含む代用皮膚を移植することにより形成された毛包を含む移植片へのハイブリダイゼーションを示す。毛包中の陽性シグナル(緑色)は、細胞がヒト起源であることを示す。図3Bは、フルオレセインで標識されたヒトAlu DNAのオリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズした、ヒト新生児包皮角化細胞、ヒト毛乳頭細胞およびI型コラーゲンを含む代用皮膚を移植することにより形成された毛乳頭を示す。陽性シグナルは、毛乳頭がヒト起源の細胞で構成されることを示す。
【0032】
図4図4は、ヒトCOX IVを認識する抗体で染色された、ヒト新生児包皮角化細胞、ヒト毛乳頭細胞およびI型コラーゲンを含む代用皮膚を移植することにより形成された毛包を示す。上皮および間葉系細胞の両方(左)の陽性染色(赤色)は、両方が移植片に含まれるヒト細胞に由来することを示す。マウスの毛包に染色は見られない(右)。
【0033】
図5図5Aおよび5Bは、ヒト新生児包皮角化細胞、ヒト毛乳頭細胞およびI型コラーゲンを含む代用皮膚により形成された移植片における毛乳頭の微小環境が、毛乳頭細胞から形成されることを示す。図5Aは、ヒト特異的汎セントロメアプローブ(緑色)を使用する蛍光インサイツハイブリダイゼーション分析における陽性シグナルを示し、毛包および毛乳頭の両方がヒト細胞由来であることを示す。図5Bは、ヒトY染色外特異的プローブ(赤色)を使用して毛包を示す。プローブは包皮角化細胞(男性起源)に結合し、毛乳頭細胞(女性起源)には結合せず、新しく形成された毛乳頭が女性起源であったことを示す。
【0034】
図6図6A、6Bおよび6Cは、ヒト新生児包皮角化細胞、ヒト毛乳頭細胞およびI型コラーゲンを含む代用皮膚により形成された移植片が、完全に発達した毛包のマーカーで陽性に染まることを示す。図6A:アルカリホスファターゼ活性(青色の染色)が毛乳頭および下部真皮毛根鞘に観察される。図6B:ヒト特異的ネスチン抗体は、毛乳頭および下部真皮毛根鞘の細胞を染色する。図6C:ヒト特異的バーシカン抗体は、真皮毛根鞘領域の間葉系細胞を染色する。
【0035】
図7図7は、ヒト新生児包皮角化細胞、ヒト毛乳頭細胞およびI型コラーゲンを含む代用皮膚により形成された移植片における増殖している細胞は、表皮の基底層に点在し、毛包マトリックス中に密集していることを示す。赤色の染色は、細胞増殖のマーカーであるKi−67に対する免疫活性を示す。
【0036】
図8図8Aおよび8Bは、ヒト新生児包皮角化細胞、ヒト毛乳頭細胞およびI型コラーゲンを含む代用皮膚により形成された移植片における毛包が、正常なケラチン15およびケラチン75の発現を見せることを示す。図8A:ケラチン15は、外毛根鞘の基底層で免疫活性である。図8B:ケラチン75は、毛包のコンパニオン層で免疫活性である。
【0037】
図9図9は、頭皮の一定の領域の概略図を示す。
【0038】
図10図10は、HDP47および3つの異なる継代数の角化細胞(p0(上段)、p1(中段)およびp3(下段))を用いて作成された移植片における毛包を示す。初代またはP1の角化細胞は、P3角化細胞よりも多くの毛包を形成する。
【0039】
図11図11は、図10に示す実験を表にした結果を示す。毛包再生のためのヒト角化細胞の最適な継代は、継代初期の角化細胞である。継代初期の移植片は、最も太い毛幹を有する、より多く、より大きい毛包を有した。初代角化細胞より有意に低い、p<0.05、**継代した角化細胞より有意に高い、p<0.02。
【0040】
図12図12は、毛乳頭微粒子が、再構成アッセイおよび皮膚移植片の両方でHF形成を増大させることを示す。左下の2つの画像は、ヒトDP球状体が再構成アッセイでキメラHFを誘導することを示す。ヒトDP球状体とマウス表皮細胞の混合物の注射の4週間後に、毛の繊維が真皮下に見られる(左端の画像)。ヒトDPの2D培養は、HFを誘導しない。H&Eは、HFおよび皮脂腺を形成する注射嚢胞(injection cyst)の水平切片を染色した(左から2番目の画像)。右下の2つの画像は、ヒトDP球状体が再構成アッセイでヒトHFを誘導することを示す。ヌードマウスの背中に移植してから8週間後の移植片の外見を2つの画像の最初に示す。毛幹を有する毛包を示す代表的なH&E染色された移植片切片を、右端の画像に提供する。
【0041】
図13図13は、移植の8週間後に真皮表皮複合構築物においてヒト毛包の漏斗状器官から出現している毛幹を示すH&E染色である。
【0042】
図14図14は、10週後に解剖顕微鏡下で写真撮影した真皮表皮複合物(側頭部頭皮の真皮由来の毛乳頭細胞および新生児包皮の角化細胞)である。
【0043】
図15図15Aは、移植12週間後に見られる毛幹を有する代表的な真皮表皮複合移植片を示し、一方、図15Bは、着色した毛幹の存在を示す拡大像を提供する。
【0044】
図16図16A、16Bおよび16Cは、15週後の真皮表皮複合移植片におけるH&Eおよびトルイジンブルー染色を示す。図16A〜Cは、棍棒状の外見と釘状のケラチン繊維(図16A)、隣接する毛乳頭を有する第2の毛芽(図16B)および角化した棍棒状器官(図16C、トルイジンブルー染色陰性)の存在により確認される休止期の毛包を示す。
【0045】
図17図17Aおよび17Bは、真皮表皮複合移植片のKi−67染色を示す。図17Aは、休止期の毛包がKi−67陽性細胞を含まないことを示し、これは毛包の休止段階と合致した(矢印)。図17Bは、毛乳頭を有する成長期の毛包(矢印)を示し、濃厚なKi−67反応性を含む。
【0046】
図18図18Aおよび18B。図18Aは、真皮表皮複合移植片の代表的なH&E染色切片を示し、毛包内および外毛根鞘および皮脂腺を示す。図18Bは、真皮表皮複合移植片におけるカテリシジンに対する抗体染色であり、皮脂腺が、抗菌性ペプチドであるカテリシジンの抗体に対して非常に免疫反応性であったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
例示的実施態様の詳細な説明
本発明は、上皮細胞および神経堤由来の間葉系細胞を含む代用皮膚を提供する。ある実施態様では、間葉系細胞は毛包真皮細胞であり、それは、例えば、毛乳頭細胞および真皮毛根鞘細胞を包含する。神経堤由来の間葉系細胞は、頭皮または顔に由来するものであり得る。ある実施態様では、神経堤由来の間葉系細胞は、頭皮の前頭部、側頭部、頭皮中央部、頭上部、最頂部、または頭頂部の領域に由来する。いくつかの態様では、神経堤由来の間葉系細胞は、頭皮の後頭部または首筋の領域に由来しない。いくつかの態様では、上皮細胞および神経堤由来の間葉系細胞は、ヒトのものである。いくつかの態様では、上皮細胞は角化細胞または角化細胞様細胞である。代用皮膚は、さらにコラーゲンを含み得る。
【0048】
上皮細胞および頭皮または顔に由来する間葉系細胞を含み、間葉系細胞が頭皮の後頭部または首筋の領域に由来しない代用皮膚も包含される。この実施態様では、間葉系細胞は毛包真皮細胞であり得る。毛包真皮細胞は、毛乳頭細胞または真皮毛根鞘細胞であり得る。いくつかの態様では、上皮細胞は角化細胞または角化細胞様細胞であり得る。いくつかの態様では、毛乳頭細胞は頭皮の前頭部、側頭部、頭皮中央部、頭上部、最頂部、または頭頂部の領域に由来する。いくつかの態様では、頭皮または顔に由来する間葉系細胞および上皮細胞はヒトのものである。代用皮膚は、さらにコラーゲンを含み得る。
【0049】
他の実施態様では、上皮細胞および毛包真皮細胞を含み、真皮の細胞は頭皮の後頭部または首筋の領域に由来しない代用皮膚が包含される。いくつかの実施態様では、上皮細胞は角化細胞または角化細胞様細胞である。いくつかの実施態様では、毛包真皮細胞は、毛乳頭細胞または真皮毛根鞘細胞である。いくつかの態様では、代用皮膚の細胞はヒトのものである。いくつかの態様では、毛包真皮細胞は頭皮の前頭部、側頭部、頭皮中央部、頭上部、最頂部、または頭頂部の領域に由来する。代用皮膚は、さらにコラーゲンを含み得る。
【0050】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載の代用皮膚は、マトリックスと共に提供される。マトリックスは、コラーゲンマトリックスまたは基底質マトリックスであり得る。いくつかの実施態様では、マトリックスはI型コラーゲンマトリックスである。
【0051】
ある種の実施態様では、代用皮膚の上皮細胞は角化細胞を含む。いくつかの態様では、角化細胞は新生児包皮角化細胞(NFK)である。
【0052】
上皮細胞を含む代用皮膚は、初代細胞または継代初期の上皮細胞を含み得、継代初期の細胞は、1回、2回または3回の継代のものである。いくつかの態様では、上皮細胞は角化細胞であり、角化細胞は初代細胞または継代初期の角化細胞であり、継代初期の細胞は、1回、2回または3回の継代のものである。
【0053】
間葉系細胞を含む代用皮膚は、初代細胞または継代初期の細胞を含み得、継代初期の細胞は、1回、2回、3回または4回の継代のものである。いくつかの実施態様では、代用皮膚は初代または継代初期の毛乳頭細胞を含み、継代初期の毛乳頭細胞は1回、2回、3回または4回の継代のものである。
【0054】
上皮細胞および間葉系細胞は、同一または異なるドナーに由来し得る。角化細胞および毛乳頭細胞は、同一または異なるドナーに由来し得る。いくつかの態様では、代用皮膚の細胞は、角化細胞馴化培地中で継代される。いくつかの実施態様では、上皮細胞および間葉系細胞は、自家性である。いくつかの実施態様では、上皮細胞および毛包真皮細胞は同種性である。いくつかの態様では、上皮細胞および間葉系細胞は同種性である。いくつかの態様では、上皮細胞および毛包真皮細胞は同種性である。
【0055】
ヒト毛包を誘導できる細胞の移植方法も包含され、それは、ヒト対象または患者に本明細書に記載の代用皮膚、例えば、請求項のいずれかに記載の代用皮膚を送達することを含む。
【0056】
ヒト対象に請求項のいずれかに記載の代用皮膚を送達することを含む、毛包の成長または毛包の新生を誘導する方法も包含される。
【0057】
毛包の成長または毛包の新生の誘導において使用するための、請求項のいずれかに記載の代用皮膚を含む組成物も、完全に包含される。
【0058】
毛包の形成を誘導するための、または、毛包の新生を誘導するための薬剤の製造における、請求項のいずれかに記載の代用皮膚の使用は、包含される。
【0059】
いくつかの実施態様では、毛包の成長を誘導する必要のある対象は、部分層皮膚喪失、全層皮膚喪失、創傷、熱傷、瘢痕または脱毛を有する。
【0060】
いくつかの実施態様では、本発明の代用皮膚はエクリン腺を誘導する。いくつかの実施態様では、本発明の代用皮膚は皮脂腺を誘導する。
【0061】
神経堤由来の間葉系細胞をヒト対象に皮下または皮内で送達することを含む、毛包を誘導できる細胞を移植する方法が提供される。いくつかの実施態様では、当該方法は、間葉系細胞と連続的または同時に、場合によりコラーゲンと共に、上皮細胞を移植することをさらに含む。
【0062】
毛包を誘導できる細胞を移植する方法であって、頭皮由来の間葉系細胞を、上皮細胞と共に、場合によりコラーゲンと共に、ヒト対象に皮下または皮内で送達することを含み、間葉系細胞が頭皮の後頭部領域に由来しない方法が包含される。
【0063】
毛包を誘導できる細胞を移植する方法であって、毛包真皮細胞、例えば、毛乳頭細胞または真皮毛根鞘細胞を患者に皮下または皮内で送達することを含み、毛包真皮細胞が頭皮の後頭部または首筋の領域に由来しない方法も包含される。
【0064】
(a)初代または継代初期の神経堤由来の間葉系細胞の培養物を、マトリックスと混合すること;および(b)初代または継代初期の上皮細胞の培養物を、(a)の混合物にかぶせることを含む代用皮膚の製造方法が包含され、(a)頭皮由来の間葉系細胞の培養物をマトリックスと混合すること;および(b)初代または継代初期の上皮細胞を(a)の混合物にかぶせること、ここで、間葉系細胞は頭皮の後頭部領域に由来しない、を含む代用皮膚の製造方法も包含される。いくつかの実施態様では、(a)毛包真皮細胞、例えば、毛乳頭細胞または真皮毛根鞘細胞の培養物を、マトリックスと混合すること;および、(b)初代または継代初期の上皮細胞の培養物を(a)の混合物にかぶせること、ここで、毛乳頭細胞は頭皮の後頭部領域に由来しない、を含む、代用皮膚の製造方法が包含される。
【0065】
いくつかの実施態様では、毛包の新生を誘導するためのヒト毛乳頭細胞を含む組成物が包含される。ある態様では、ヒト毛乳頭細胞は、ヒト頭皮の前頭部、側頭部、または頭頂部の領域から単離されたものである。ある態様では、ヒト毛乳頭細胞は、ヒト頭皮の後頭部または首筋の領域から単離されたものではない。当該組成物は、ヒト毛乳頭細胞およびヒト角化細胞を含み得る。当該組成物は、ヒト毛乳頭細胞、ヒト角化細胞およびコラーゲンを含み得る。
【0066】
本発明は、ヒトにおいてヒト毛包の成長を誘導する方法を提供する。ある態様では、当該方法は、ヒト毛乳頭細胞およびヒト角化細胞を含む組成物を、場合によりコラーゲンと組み合わせて、ヒト対象に送達することを含む。いくつかの態様では、当該組成物は皮下または皮内で送達される。
【0067】
ある実施態様では、当該方法は、ヒト頭皮の前頭部、側頭部、または頭頂部の領域に由来するヒト毛乳頭細胞を、ヒト角化細胞と共に含む組成物を、場合によりコラーゲンと組み合わせて、ヒト対象に送達することを含む。いくつかの態様では、当該組成物は皮下または皮内で送達される。
【0068】
本発明は、また、毛包の形成を誘導するための、または、毛包の新生を誘導するための薬剤の製造における、ヒト毛乳頭細胞およびヒト角化細胞を含む組成物の、場合によりコラーゲンと組み合わせた、使用を提供する。いくつかの態様では、当該組成物は皮下または皮内で送達される。
【0069】
本発明は、また、脱毛のリスクにある、脱毛と診断された、または脱毛を有する、あるいは、毛包の新生を必要としている対象の処置において使用するための、ヒト毛乳頭細胞およびヒト角化細胞を含み、場合によりコラーゲンと組み合わされる、医薬組成物を提供する。
【0070】
また他の実施態様では、ヒト対象に本発明の組成物または代用皮膚を移植することを含む方法および使用が包含される。いくつかの態様では、ヒト対象は、毛の成長を必要としている。
【0071】
ある実施態様では、当該方法および使用は、ヒト対象に本発明の組成物または代用皮膚を送達することを含み、対象は、部分層皮膚喪失、全層皮膚喪失、創傷、熱傷、瘢痕または脱毛を有する。他の実施態様では、当該方法および使用は、エクリン腺の形成を誘導する。また他の実施態様では、当該方法および使用は、皮脂腺の形成を誘導する。
【0072】
ある実施態様では、神経堤由来の間葉系細胞または毛包真皮細胞、例えば、毛乳頭細胞は、微粒子に組み込まれている。他の実施態様では、微粒子は、さらに上皮細胞を含む。他の実施態様では、微粒子は、ヒト毛乳頭細胞と角化細胞(例えば、新生児包皮角化細胞)を、毛乳頭培地と角化細胞無血清培地の1:1混合物中で混合し、クラスターを約4週間インキュベートすることにより形成される。他の実施態様では、神経堤由来の間葉系細胞または毛包真皮細胞は、マトリックスと共に提供される。また他の実施態様では、マトリックスは、コラーゲンマトリックスまたは基底質マトリックスである。また他の実施態様では、マトリックスは、I型コラーゲンマトリックスである。また他の実施態様では、マトリックスは、ラットのI型コラーゲンマトリックス、ウシのI型コラーゲンマトリックス、またはヒトのI型コラーゲンマトリックスである。
【0073】
ある実施態様では、上皮細胞は、異なる供給源からの1種またはそれ以上の上皮細胞を含む。他の実施態様では、上皮細胞は、角化細胞または角化細胞様細胞である。また他の実施態様では、角化細胞は、新生児包皮角化細胞(NFK)である。他の実施態様では、角化細胞または角化細胞様細胞は、角化細胞に分化した人工多能性幹(iPS)細胞である。
【0074】
ある実施態様では、間葉系細胞および/または上皮細胞は、同一のドナーに由来する。他の実施態様では、ドナーは当該患者である。また他の実施態様では、間葉系細胞および/または上皮細胞は、異なるドナーに由来する。また他の実施態様では、間葉系細胞または上皮細胞のいずれかのドナーは、当該患者である。
【0075】
1.定義
本明細書で使用するとき、単数形の「ある(a)」「ある(an)」および「この、その(the)」は、文脈が明らかに否定しない限り、複数形を含むと意図する。さらに、用語「包含する(including、includes)」、「有する(having)」、「共に(with)」またはその変形が明細書および/または特許請求の範囲のいずれかで使用される限り、そのような用語は、用語「含む(comprising)」と同様に排他的ではないと意図する。
【0076】
本明細書で使用するとき、用語「約(about)」および「およそ(approximately)」は、当業者により理解されるように、特定の値について許容し得る誤差範囲内であることを意味し、それは、一部には、その値がどのように測定または決定されるか、即ち、測定システムの限界に依存するであろう。例えば、「約」は、当分野の慣例に従って、1ないし1.5の標準偏差または1ないし2の標準偏差を意味し得る。あるいは、「約」は、与えられた値の20%、10%、5%または1%以内の範囲を意味し得る。あるいは、特に生物学的な系または過程に関して、この用語は、ある値の次の桁以内まで、5倍以内まで、および、2倍以内までを意味し得る。特定の値が出願書類および特許請求の範囲に記載されている場合、断りのない限り、その特定の値の許容し得る誤差範囲内を意味する用語「約」を前提とすべきである。
【0077】
本明細書で使用するとき、用語「アポクリン腺」は、広く拡張した内腔を有するコイル状、管状の排出部分を有し、エオジン好性の細胞質および頂部突出を有する立方状の上皮細胞に裏打ちされており、外側の筋上皮細胞の非連続層が顕著な基底膜上にある、皮膚中の腺を表す。
【0078】
本明細書で使用するとき、用語「組成物」は、治療活性成分および担体、例えば、当分野で常套の、治療目的での対象への投与に適する医薬的に許容し得る担体または賦形剤を含有する混合物を表す。治療活性成分は、本発明の間葉系細胞を含み得る。他の実施態様では、用語「組成物」は、本発明の代用皮膚を表し、それは下記でさらに詳述される。本発明の組成物は、マトリックスをさらに含み得、それは下記で定義される。
【0079】
本明細書で使用するとき、用語「毛乳頭」は、毛包の毛乳頭、即ち、毛包の基部にある間葉系細胞の凝集物を表す。
【0080】
本明細書で使用するとき、用語「真皮毛根鞘」は、毛包を包む結合組織の領域を表す。
【0081】
本明細書で使用するとき、用語「エクリン腺」は、皮膚の汗腺を表す。エクリン腺は、2つの解剖学的部分からなる:(1)深部真皮の皮下組織との接合部に位置し、透明の錐状体細胞および暗く染色される細胞で構成され、明確な基底膜上にある外側の筋上皮細胞の非連続単層により囲まれる分泌コイル;および(2)まっすぐな真皮内部分および表皮内のらせん状部分(表皮内汗管)、および、裏打ちする筋上皮層のない小型立方細胞の二重層で構成される排出性部分。
【0082】
本明細書で使用するとき、用語「内皮細胞」は、血管の内壁に並ぶ特化した細胞を表す。
【0083】
本明細書で使用するとき、用語「表皮細胞」は、皮膚の表皮に由来する細胞を表す。表皮細胞は、上皮細胞の一種である。表皮細胞の例には、角化細胞、メラニン形成細胞、ランゲルハンス細胞およびメルケル細胞が含まれるがこれらに限定されない。
【0084】
本明細書で使用するとき、用語「上皮細胞」は、身体の外側(皮膚)、粘膜、並びに内腔および管腔に沿って並ぶ細胞を表す。特定の実施態様では、用語「上皮細胞」は、重層扁平上皮細胞を表す。殆どの上皮細胞は、細胞成分の頂端基底極性を示す。上皮細胞は、典型的には、形状およびそれらの分化組織により分類される。例えば、扁平上皮細胞は、薄く、主に核により定義される不規則な平らな形状を有する。扁平細胞は、典型的には食道などの体腔の表面に並んでいる。特化した扁平上皮は、血管(内皮細胞)および心臓(中皮細胞)に並んでいる。立方上皮細胞は、立方体状であり、通常、中心に核を有する。立方上皮細胞は、典型的には、分泌性または吸収性の組織、例えば、尿細管、腺管および膵臓外分泌腺に見られる。円柱上皮細胞は、それらの幅よりも長さがあり、通常、細長い核が細胞の基部近くにある。これらの細胞はまた、微絨毛と呼ばれる小さな突起を有し、それは、細胞の表面積を増加させる。円柱上皮細胞は、典型的には、胃および腸並びに感覚器官の裏打ちを形成する。
【0085】
本明細書で使用するとき、用語「毛包」または「HF」は、そこから毛が成長し得る、表皮の管状の陥入を表す。毛包は、正しい解剖学的位置に毛幹を含み得、長期の移植片の生着、正常な毛包循環、および皮脂腺を示し得る。
【0086】
本明細書で使用するとき、用語「毛包真皮細胞」は、真皮中の間葉系細胞を表し、毛乳頭細胞および真皮毛根鞘細胞を含む。
【0087】
本明細書で使用するとき、用語「毛の再生」は、既存の静止状態の毛包が毛の成長の成長期に入るよう刺激することを表す。この用語は、無傷の静止状態の毛包から出発するよりも、むしろ、毛包残遺物または毛包の成分からの毛の形成を刺激することも表す(例えば、毛包上皮を伴って、または伴わずに、顕微解剖された毛乳頭の移植、または、抜いた後の毛の成長)。
【0088】
本明細書で使用するとき、用語「毛の新生」は、既存の毛包がない皮膚、または、望ましい数よりも毛包が少ない皮膚において、過去に毛包が存在しなかった場所での新規の毛包の成長を刺激することを表す。
【0089】
本明細書で使用するとき、用語「角化細胞」は、表皮基底膜に接する基底細胞から扁平細胞への細胞分裂および層形成を経る、皮膚の表皮中の上皮細胞(毛包上皮の細胞を含む)を表す。角化細胞は、ケラチンを発現する。いくつかの実施態様では、角化細胞はiPS細胞に由来し得る。
【0090】
本明細書で使用するとき、用語「角化細胞様細胞」は、ケラチンを発現し、重層扁平上皮または毛包上皮を形成する能力を有する細胞を表す。角化細胞様細胞は、皮膚の細胞または他の器官、例えば、骨髄または気管の細胞、または、幹細胞の特徴を有する細胞(胚性幹細胞を含む)もしくは多能性幹細胞を誘導する細胞に由来し得る。いくつかの実施態様では、角化細胞様細胞は、iPS細胞に由来し得る。
【0091】
本明細書で使用するとき、用語「マトリックス」および「基底質」は、水和ゲル様の細胞支持体を形成できる天然または合成の細胞外マトリックス様組成物を表す。細胞は、マトリックスおよび基底質の中または上に沈着し得る。マトリックスおよび基底質は、構造および接着機能の両方を有する1種またはそれ以上の線維性タンパク質を含み得る。そのようなタンパク質には、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、並びにコラーゲンI、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XIおよびXIIが含まれるが、これらに限定されない。あるいは、または、加えて、マトリックスおよび基底質は、タンパク質に共有結合した多糖類の鎖を含むプロテオグリカン分子を含み得る。そのようなプロテオグリカンには、ヒアルロナン−、ヘパリン硫酸塩−、コンドロイチン−、ケラチン硫酸塩−およびデルマチン(dermatin)硫酸塩−結合タンパク質が含まれるが、これらに限定されない。
【0092】
本明細書で使用するとき、用語「間葉系細胞」は、毛包由来の毛乳頭および結合組織鞘の細胞と同様に、毛包形成を誘導する能力または潜在能力を有する多能性細胞を表す。間葉系細胞は、通常、ビメンチンを発現する中胚葉性結合組織の細胞と考えられるが、所望の特質を有する細胞は、神経堤由来でもあり得る。間葉系細胞は、以下の供給源の1種またはそれ以上から単離され得る:自家性細胞のために、患者の皮膚または粘膜;同種性細胞のために、ドナーの皮膚または粘膜;正常な皮膚または粘膜;付属器腫瘍を有する皮膚;および、他の組織(例えば、脂肪、骨髄)。間葉系細胞には、線維芽細胞、毛乳頭細胞、真皮毛根鞘細胞、爪線維芽細胞(爪部分の線維芽細胞)、歯髄細胞、歯周靭帯細胞、神経堤細胞、付属器腫瘍細胞、人工多能性幹細胞、および、骨髄、臍帯血、臍帯、脂肪および他の器官の間葉系幹細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0093】
本明細書で使用するとき、用語「形態学的に正しい」および「十分に発達している」は、毛包の末端から出ている上皮繊維および毛包の基部にある毛乳頭の正常な配置を有する毛包を表す。当該毛包は、また、毛包の基部で増殖している細胞を有し、外および内毛根鞘、毛小皮および毛皮質の同心円状の層を有する。当該毛包は、外毛根鞘の正常な分化を示し、毛幹および皮脂腺を有する。当該毛は、正常なサイクルを経由し、上皮幹細胞成分を含む。
【0094】
本明細書で使用するとき、用語「医薬的に許容し得る担体」は、非毒性の固体、半固体または液体の増量剤、希釈剤、カプセル化材料、製剤化補助剤、または任意の常套のタイプの賦形剤を表す。医薬的に許容し得る担体は、用いる用量および濃度で受容者に対して非毒性であり、製剤の他の成分と適合するものである。
【0095】
本明細書で使用するとき、用語「神経堤由来の間葉系細胞」は、自己再生の能力を有し、発生の可能性を示す、神経堤(即ち、脊椎動物の一過性の胚構造)に起源を有する細胞を表す。神経堤細胞は、外胚葉において神経管の縁で生じ、上皮間葉転換および大規模な遊走の期間の後、身体の様々な部分に定着し、様々な異なる組織および器官の形成に寄与する。Shakhova, "Neural crest-derived stem cells," http://www.stembook.org/node/696(出典明示により本明細書の一部とする)参照。神経堤派生物は、脳脊髄幹の4つの主な区域から生じる:すなわち、頭部、心臓、迷走神経および体幹部神経堤である(前記文献)。体幹由来の神経堤細胞は、間葉系派生物を産生できる(前記文献)。
【0096】
本明細書で使用するとき、用語「初代細胞」は、ドナーの供給源から直接取得され、培養され、さらに継代されていない細胞を表す。
【0097】
本明細書で使用するとき、用語「継代初期の細胞」は、ドナーから取得され、培養され、3回未満(上皮細胞の場合)または5回未満(間葉系または毛包真皮細胞)継代された細胞を表す。
【0098】
本明細書で使用するとき、用語「皮脂腺」は、皮脂腺原基の出芽として生じる毛包依存性の腺を表す。皮脂腺は、丸い細胞(脂腺細胞)の複数の小葉からなり、液体を含有する液胞で満たされており、小さい濃色の発芽細胞の単層で縁取られている。当該小葉は、短い管に収束し、それは、変性した脂腺細胞の液体内容物を毛包に移す。
【0099】
本明細書で使用するとき、用語「代用皮膚」「皮膚等価物」「真皮表皮複合物」および「皮膚移植片」は、完全または部分的に、一過的または永続的に、損なわれた皮膚を置換するために使用され、解剖学的にも機能的にもヒトの皮膚とのいくらかの類似性を有する任意の物を表す。代用皮膚には、生物工学で作られた皮膚等価物、組織工学で作られた皮膚、組織工学で作られた皮膚構築物、生物学的代用皮膚、生物工学で作られた代用皮膚、代用皮膚生物構築物、生きている皮膚の置換物、真皮表皮複合物および生物工学で作られた代替組織が含まれるが、これらに限定されない。
【0100】
本明細書で使用するとき、用語「微粒子」には、生物分解可能な微粒子を場合により含む細胞クラスターおよび細胞凝集体が含まれるが、これらに限定されない。
【0101】
本明細書で使用するとき、用語「処置」は、所望の薬理学的および/または生理的効果を得るための、ヒトを含む哺乳類における症状に対する任意の治療薬の投与または適用を表す。処置は、例えば、失われた、無くなった、または、欠陥のある機能の回復または修復により、または、非効率的な過程の刺激により、または、症状の症候を改善することにより、症状を阻害すること、その進行を止めること、または、症状を軽減することを含む。
【0102】
本明細書で使用するとき、用語「発毛性」は、毛包を誘導する、かつ/または、毛包の形態形成、即ち、毛包形成(folliculogenesis)を促進する、細胞の能力を表す。
【0103】
2.本発明の代用皮膚および微粒子
驚くべきことに、神経堤由来の間葉系細胞は発毛性であることが見出された。特に、顔または、後頭部または首筋の領域以外の頭皮の領域に由来する間葉系細胞は、毛包を誘導できる。そのような毛包は、Chuong et al., "Defining hair follicles in the age of stem cell bioengineering," J. Invest. Dermatol., 127:2098-100 (2007) により提唱された基準によると、完全である。当該毛包は、毛包の末端から出ている上皮繊維および毛包の基部にある毛乳頭の正常な配置を有する。当該毛包は、毛包の基部で増殖している細胞を有し、外および内毛根鞘、毛小皮および毛皮質の同心円状の層を有する。当該毛包は、外毛根鞘の正常な分化を示し、毛幹および皮脂腺を有する。当該毛は、正常なサイクルを経由し、上皮幹細胞成分を含む。
【0104】
従って、本発明は、毛の新生ができる細胞性組成物を提供する。ある実施態様では、本発明は、上皮細胞および発毛性細胞を含む代用皮膚を提供する。本発明の他の実施態様は、発毛性細胞を含む微粒子を提供する。
【0105】
ある実施態様では、発毛性細胞は神経堤に由来する。他の実施態様では、発毛性細胞は頭皮または顔から単離される。他の実施態様では、発毛性細胞は、頭皮の後頭部または首筋の領域に由来しない。他の実施態様では、発毛性細胞は毛包真皮細胞である。
【0106】
a)哺乳類の皮膚の一般的な特徴
哺乳類の皮膚は、2つの主な層、即ち、表皮と呼ばれる外層および真皮と呼ばれる内層を含む。表皮は、表皮の深層で有糸分裂により形成され、その後表面に移動する角化細胞を主に含み、最終的にはそこで剥がれ落ちる。真皮は、毛包、皮脂腺、汗腺、アポクリン腺、神経、リンパ管および血管を含む様々な構造を含む。
【0107】
毛包の形態形成は、殆ど子宮内で胚形成中に起こる。毛包形成は、新しい毛包の位置を定める表皮原基の出現で始まる。次いで、間葉系細胞(即ち、誘導性の多能性細胞)が表皮原基の下の真皮中で凝集し始める。この間葉系の凝集物が、被さっている原基中の角化細胞にシグナルを送り、次いで、それが真皮の中に下向きに成長し始める。表皮の角化細胞が間葉系の凝集物に到達すると、細胞は一連の分化と増殖の過程を経て、最終的に成熟した毛包を形成する。
【0108】
成熟した毛包は、4つの主な部分を含む:毛乳頭(DP)、真皮毛根鞘(DS)、毛包上皮および毛幹(図1D)。DPは毛包の基部、または毛球に、毛幹を産生する毛母に隣接して位置する。DSは、結合組織でできており、毛包を包んでいる。毛包上皮は、外毛根鞘および内毛根鞘を含む。毛幹は、毛包の基部から表皮を通って皮膚の外側まで伸びるタンパク質性の構造である。
【0109】
毛包は、成長(成長期)、退行(退行期)および静止状態(休止期)の期間を繰り返し循環する動的な小器官である。毛包の下部は、退行または再成長し、真皮間葉系細胞と表皮細胞との間の複雑な相互作用を介して各サイクルで再生する。連続的に再構築される部分の上にある下部毛包の永久的部分は、毛包からわずかに突き出しているので、「バルジ(bulge)」と呼ばれる。バルジは、毛包、皮脂腺および表皮を形成できる多能性細胞を含む。個体が老いるにつれ、毛包サイクルの成長期と退行期は短くなり、毛包はより早い休止期への移行を経験する。その結果、正常な毛は徐々に微細なうぶ毛に置き換えられ、ある個体では、細胞はその発毛特性を永遠に失い得る。
【0110】
b)本発明において使用するための皮膚細胞
本発明の代用皮膚は、(1)間葉系細胞、または、(2)間葉系細胞および上皮細胞、のいずれかを含み得る。代用皮膚が間葉系細胞を含み上皮細胞を含まない実施態様では、間葉系細胞は患者の上皮細胞と相互作用して毛包を産生する。代用皮膚が間葉系細胞および上皮細胞を含む実施態様では、代用皮膚中で供給される間葉系および上皮細胞が患者の上皮細胞と相互作用して、またはせずに、毛包を産生する。
【0111】
(1)間葉系細胞
間葉系細胞は、通常、ビメンチンを発現する中胚葉性結合組織細胞と考えられるが、これらの特質を有するビメンチン発現細胞は、神経堤由来でもあり得る。細胞の供給源は、毛包の毛乳頭および結合組織鞘の誘導性の多能性細胞を含む。驚くべきことに、ある種の供給源から単離された間葉系細胞(即ち、誘導性の多能性細胞)は発毛性であることが見出された。例えば、本願発明者らは、神経堤由来の間葉系細胞が発毛性であることを見出した。本願発明者らは、また、顔または、後頭部領域または首筋領域以外の領域の頭皮から回収された間葉系細胞、例えば毛包真皮細胞は、発毛性であることを見出した。
【0112】
(2)上皮細胞
一般的に、扁平上皮に重層化できる上皮細胞または細胞株のいかなる供給源も、本発明で有用である。従って、本発明は、扁平上皮に分化できる細胞のいかなる特定の供給源の使用にも限定されない。実際に、本発明は、重層扁平上皮に分化できる様々な細胞株および供給源の使用を企図する。細胞の供給源には、初代および不死化角化細胞、角化細胞様細胞および角化細胞様細胞に分化する能力を有する細胞が含まれ、ヒトおよび死体のドナー(Auger et al., In Vitro Cell. Dev. Biol.--Animal 36:96-103; および米国特許第5,968,546号および第5,693,332号)、新生児包皮(Asbill et al., Pharm. Research 17(9):1092-97 (2000); Meana et al., Burns 24:621-30 (1998);および米国特許第4,485,096号;第6,039,760号;および第5,536,656号)、および不死化角化細胞の細胞株、例えばNM1細胞(Baden, In Vitro Cell. Dev. Biol. 23(3):205-213 (1987))、HaCaT細胞(Boucamp et al., J. Cell. Boil. 106:761-771 (1988));およびNIKS細胞(細胞株BC−1−Ep/SL;米国特許第5,989,837号;ATCC CRL−12191)から得られる。
【0113】
上皮細胞は、また、患者の皮膚または粘膜(自家性)、ドナーの皮膚または粘膜(同種性)、表皮細胞株、幹細胞に由来する表皮細胞、初代または継代された表皮細胞、気管、および血液単核細胞または循環している幹細胞に由来する細胞から得られ得る。これらの供給源からの上皮細胞の亜集団は、例えば、幹細胞特性を有する細胞の数を増やすことによっても使用し得る。上皮細胞はケラチンを発現するか、ケラチンを発現するように誘導され得、重層扁平上皮および/または毛包上皮を形成する能力を有する。
【0114】
いくつかの実施態様では、上皮細胞は、2つの異なる供給源のものである。例えば、本発明は、自家性角化細胞と共に不死化角化細胞を使用して実施し得る。自家性細胞の不死化細胞に対する相対的な割合は、1:99、5:95、10:90、20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20または90:10であり得る。かくして、自家性角化細胞の数を減らし得る。不死化角化細胞は、例えば、増殖因子または血管新生因子を発現するように細胞を遺伝的に改変することにより、皮膚の治癒を促進するように強化され得る。不死化角化細胞は、移植後のいかなる時点でも除去の対象にできるように改変し得る。特に、ある実施態様では、いわゆる「自殺遺伝子」を使用し得、薬物処置に応答して細胞が死亡するように細胞を遺伝的に改変できる。(Vogler et al., An Improved Bicistronic CD20/tCD34 Vector for Efficient Purification and In Vivo Depletion of Gene-Modified T Cells for Adoptive Immunotherapy., Mol Ther. doi:10.1038 (May 11, 2010) (advanced online epublication); および Scaife et al., Novel Application of Lentiviral Vectors Towards Treatment of Graft-Versus-Host Disease, Expert Opin Biol Ther. 2009 Jun;9(6):749-61 参照。)
【0115】
(3)細胞の単離
間葉系および上皮細胞は、任意の適する技法を使用して単離し得る。例えば、間葉系細胞は、組織外植片からの細胞の遊走により単離し得る。あるいは、細胞を皮膚または粘膜のサンプルまたは皮膚の腫瘍から分離させ、間葉系および上皮細胞を単離し得る。加えて、上皮細胞は、多能性幹細胞を誘導して上皮細胞に分化させることにより単離し得る。細胞を単離するための例示的な方法は、実施例に記載されている。
【0116】
単離された細胞は、当業者に公知の任意の適する培地中で増殖させ得る。例示的な培地は、実施例で議論される。サンプルは、当業者に公知の任意の技法に基づいて、毛を誘導する細胞に富むようにされ得る。例えば、CD133、CD10またはネスチンなどの適する細胞マーカーの存在に基づいて細胞を選択し得る。あるいは、BMP2、4、5または6、Wnt−3a、Wnt−10b、インシュリン、FGF2、KGFなどの増殖因子を添加して、毛乳頭細胞を含む、毛を誘導する細胞を維持および富化し得る。細胞は細胞接着および細胞分別の方法を使用して、毛包に分化する能力を増強され得る。
【0117】
3.本発明の代用皮膚および微粒子を製造するための例示的方法
本発明は、注射用の代用皮膚および微粒子製剤に関する。
【0118】
a)代用皮膚
本発明の代用皮膚は、当業者に公知のものと類似する方法を使用して製造され得るとはいえ、先行技術の代用皮膚とは異なる細胞の種類を含有する。例えば、Greenberg S et al., "In vivo transplantation of engineered human skin," Methods Mol Biol., 289:425-30 (2005) は、インビトロで代用皮膚を創成する方法を開示している。加えて、Shevchenko RV et al., "A review of tissue-engineered skin bioconstructs available for skin reconstruction," J R Soc Interface, 7(43):229-58 (2010) は、代用皮膚の製造に使用し得る様々なアプローチの総説を提供する。例示的な方法は、実施例でも提供される。
【0119】
ある実施態様では、本明細書に記載の発毛性細胞を含む組成物は、代用皮膚の形態で提供される。いくつかの実施態様では、代用皮膚は、発毛性細胞(または、発毛性細胞と、線維芽細胞、内皮細胞、および/または、他の支えとなる間葉系細胞)を、基底質またはマトリックスと組み合わせ、次いで、その構築物に上皮細胞をかぶせることにより形成される。移植に先立ち、代替皮膚の表面を空気に露出することにより、上皮細胞を、部分的または完全に重層扁平上皮および角化層を形成するように誘導し得る。
【0120】
他の実施態様では、発毛性細胞を、マトリックスと組み合わせる前に培養し得る。他の実施態様では、細胞とマトリックスの混合物を、上皮細胞と組み合わせる前に培養する。他の実施態様では、発毛性細胞を基底質またはマトリックスに組み込むよりも、その上または下で増殖させ、これに上皮細胞をかぶせる。
【0121】
他の実施態様では、発毛性細胞を、基底質/マトリックス/足場に導入もしくは挿入するか、または置く前に、まず微粒子にし、これに上皮細胞をかぶせる。微粒子は、上皮細胞を伴って、または伴わずに、そして、マトリックスを伴って、または伴わずに、発毛性細胞で構成され得る。微粒子がマトリックスを有するならば、それは、皮膚の足場の組成と同じであっても異なってもよい。その中に微粒子が置かれる基底質/マトリックス/足場には、線維芽細胞、内皮細胞、および/または他の支えとなる間葉系細胞を加えても、加えなくてもよい。微粒子の間隔は、無作為であっても、正常なヒトの皮膚の毛包の間隔を再現したものであってもよい。
【0122】
他の実施態様では、発毛性細胞(または発毛性細胞と、線維芽細胞または他の支えとなる間葉系細胞)を、表皮構築物とは別に製造された真皮構築物において使用し、これらの2つを連続的に患者に移植する。表皮構築物を使用する代わりに、培地またはフィブリン接着剤中の細胞のエアロゾルを使用して、移植された真皮構築物に上皮細胞を噴霧してもよい。
【0123】
基底質/マトリックス/足場に使用し得る化合物には、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、フィブリン、ヒアルロナンまたはヒアルロン酸、フィブロネクチン、キトサン、セルロース、シルクフィブロインおよびアルギン酸塩が含まれる。これらの化合物は、ヒト、ラット、ブタまたはウシ;甲殻類または真菌類(キトサン)または植物または藻類(セルロース)由来;または細菌または他の生物において組換え形態で発現されたタンパク質であり得る。これらの化合物は、毛のケラチン−コラーゲンスポンジ、フィブロネクチン機能ドメインと組み合わせたヒアルロナン、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)/キトサン混成ナノ繊維膜、ポリカプロラクトン(PCL)コラーゲンナノ繊維膜、シルクフィブロインおよびアルギン酸塩、ポリビニルアルコール/キトサン/フィブロイン混合スポンジ、テガダーム(tegaderm)−ナノ繊維構築物、バクテリアセルロース、ICX−SKN代替皮膚移植片(InterCytex, Cambridge, England)、コラーゲン-グリコサミノグリカン−キトサン、複合体ナノ−酸化チタン-キトサン、Collatamp(登録商標)(EUSAPharma, Langhorne, PA)、脱アセチル化キチンまたは植物セルロースのトランスファーメンブレンなどに改変または組み合わせ得る。足場は、ヒト、ブタまたはウシの無細胞真皮、腱または粘膜下層であり得、それらは、凍結乾燥、クロスリンク、網状化、または、上記のいずれかの化合物と組み合わされ得る。それは、マトリゲル(Matrigel)(商標)(BD Biosciences)または線維芽細胞もしくは他の細胞に由来する細胞外マトリックスなどの複雑な混合物であり得る。マトリックス、基底質または足場は、シリコン、ポリシロキサン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ナイロン、ポリアクティブ(PolyActive)(商標)マトリックス(OctoPlus, Cambridge, MA)(ポリエチレンオキシドテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート)、および生物分解可能なポリウレタン微小繊維を含む合成材料からなるか、それらを組み込んでいてもよい。
【0124】
代用皮膚は、すぐに単回使用できる状態で、10%CO/空気雰囲気およびアガロース栄養培地と共に、重ゲージのポリエチレン袋に密封されて供給され得る。代用皮膚は、使用するまで、密封袋中で68°F〜73°F(20℃〜23℃)で維持され得る。代用皮膚は、例えばおよそ直径75mm、厚さ0.75mmの、円形ディスクとして供給され得る。アガロース出荷培地は、アガロース、L−グルタミン、ヒドロコルチゾン、ヒト組換えインシュリン、エタノールアミン、O−ホスホリルエタノールアミン、アデニン、亜セレン酸、DMEM粉末、HAM'sF−12粉末、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、および注射用水を含み得る。代用皮膚は、場合により、その袋内で、プラスチックのトレーまたは細胞培養ディッシュ上に保存され得る。代用皮膚は、表皮(鈍いマットな仕上がり)層を上向きに、真皮(光沢のある)層を下向きに、ポリカーボネートメンブレン上に載せて包装され得る。
【0125】
b)注射または移植用の微粒子の製造
本発明は、注射または移植用の微粒子製剤を含む。これらの製剤は、当業者に公知の任意の方法により製造し得る。例示的な方法は、実施例で提供される。ある実施態様では、発毛性細胞は、無菌生理食塩水、リン酸緩衝食塩水、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハンクス平衡塩類溶液、プラズマライト(Plasmalyte)AまたはRPMIなどの、注射に適するバッファー中で提供される。ある実施態様では、発毛性細胞は、マトリックスまたは基底質と共に提供される。マトリックスは、メチルセルロース、コラーゲン、キトサン、ヒアルロン酸、ゼラチン、アルギン酸塩、フィブリン、フィブロネクチンまたはアガロースなどの天然ポリマーであり得る。マトリックスは、マトリゲル(Matrigel)(商標)などの複雑な混合物または合成ポリマーであり得る。他の実施態様では、注射または移植の前に、発毛性細胞は、マトリックスまたは基底質を伴って、または伴わずに、上皮細胞と組み合わせられる。
【0126】
ある実施態様では、本明細書に記載の発毛性細胞を含む組成物は、さらに培養せずに、毛の成長が望まれる部位に皮下または皮内で注射または移植され得る。分離方法により製造された細胞は、バッファーに再懸濁され、直接注射され得るか、または、注射または移植に先立ちまず生物分解可能な微粒子と組み合わされて、注射され得る。培養培地中の細胞は、氷上で24時間以上、または、長期保存のために液体窒素中で凍結されて保存され得る。凍結保存のために、細胞を10%DMSO、70%DMEMおよび20%ウシ胎児血清の溶液中に入れる。細胞を細胞10〜1000万個/mlの濃度で凍結用バイアルに入れ、速度制御された冷凍庫で冷凍し、注射または移植の日まで−180℃で保存する。解凍された全細胞の生存率は、使用前に85%を超えると確認され得る。
【0127】
発毛性細胞を含む組成物は、受容者の皮膚または創傷に注射または移植し得る。また、組成物は、患者への適用前または移植の後に、移植片(真皮表皮複合物および表皮構築物または細胞噴霧と組み合わせた真皮構築物を含む、分層移植片または代用皮膚)に注射または移植し得る。他の実施態様では、発毛性細胞を含む組成物は、注射または移植の前に培養され得る。
【0128】
4.本発明の代用皮膚および微粒子の投与方法
本発明は、患者においてヒト毛包を誘導できる細胞を患者に移植する方法を提供する。例えば、本発明の代用皮膚を患者に移植し得、本発明の微粒子を患者に注射し得る。
【0129】
a)本発明による処置で利益を得る患者
本発明の代用皮膚および微粒子は、全層または部分層皮膚喪失、失活した皮膚、創傷、潰瘍、化学熱傷または熱傷、瘢痕、および、先天性または後天性であり得る、完全または部分的な毛、皮脂腺、またはエクリン腺の喪失または異常を有する患者の処置に有用である。皮膚損傷は、3つのカテゴリーに分類される:表皮、部分層および全層。表皮損傷は、表皮のみが冒され、これは瘢痕形成なく迅速に再生するので、特別な外科的処置を必要としない。部分層創傷は、表皮および真皮を冒す。そのような創傷は、一般的に、創傷の周縁部からの上皮化により治癒し、そこでは、創傷の端からの基底角化細胞、毛包または汗腺が移動し、損傷を受けた領域を覆う。全層損傷は、上皮再生要素の完全な破壊を特徴とする。この種の損傷は収縮により治癒し、創傷の端のみからの上皮化を伴う。部分層損傷および全層損傷は、しばしば皮膚移植を必要とする。
【0130】
本発明の代用皮膚および微粒子は、手術創の処置にも使用し得る。例えば、巨大な母斑(黒子)などの大きい皮膚病変の除去は、それ自体では治癒できず、自家分層皮膚移植には大きすぎる創傷を残す。本発明の組成物は、そのような病変の処置に有用である。
【0131】
最も一般的な脱毛の形態は、アンドロゲン性脱毛症と呼ばれる進行性の毛髪菲薄化症状である。脱毛は、身体のどの部分でも起こり得、いくつの要因からでも生じ得る。例えば、牽引性脱毛症は、過剰な力で毛髪を引っ張りポニーテールやコーンロウにする人々に最も一般的に見られる。円形脱毛症は、一部位のみでの脱毛をもたらし得るか(単発型円形脱毛症)、全身の全ての毛の喪失をもたらし得る(汎発性円形脱毛症)、自己免疫障害である。甲状腺機能低下症、腫瘍および皮膚の増殖(嚢胞など)も、局所的な脱毛症を誘導する。脱毛は、化学療法、放射線療法、出産、大手術、中毒、真菌感染および重度のストレスにも起因し得る。加えて、鉄欠乏は、毛髪菲薄化の一般的な原因である。脱毛の多くの場合で、毛包は循環を停止し、静止状態に入っている。他の場合では、毛包は完全に失われているか、最初の位置には決して形成されない。
【0132】
本発明の組成物および方法は、毛包の成長を必要とするいかなる症状の処置にも有用である。ある実施態様では、当該方法は、エクリン腺も誘導する。他の実施態様では、当該方法は、さらに皮脂腺を誘導する。
【0133】
b)代用皮膚の投与
ある実施態様では、当該方法は、本発明の代用皮膚を患者に移植することを含む。本発明の代用皮膚は、当業者に公知の任意の適する技法により投与し得る。
【0134】
(1)移植部位の準備
移植部位は、当業者に公知の任意の技法により準備し得る。移植部位は、損傷を受けた皮膚(例えば、部分層または全層の化学熱傷または熱傷、剥皮した皮膚、失活した皮膚)、部分的または完全に皮膚がない創面環境(wound bed)(例えば、皮膚が引き裂かれた、または、潰瘍化した部位)、手術創(例えば、良性または悪性の皮膚増殖物の切除後)、または、先天性(例えば、先天性皮膚欠損症)または後天性(例えば、何らかの原因で瘢痕化した皮膚)の減少、異常のある皮膚、または、毛包、皮脂腺、および/またはエクリン腺のない皮膚であり得る。いくつかの実施態様では、移植部位は、水、抗菌性洗浄液、または、アルコール溶液で洗浄される(アルコール塗布など)。他の実施態様では、手術用マーカーで所望の毛のパターンを移植部位に描く。他の実施態様では、局所麻酔薬が患者に投与される。さらなる麻酔が必要な場合、吸入、静脈または神経ブロックの麻酔薬を患者に投与し得る。
【0135】
またさらなる実施態様では、当分野の標準的な技法を使用して、既存の皮膚組織、失活した組織、焼痂、創傷または潰瘍の縁または瘢痕組織を除去する。可能であれば、移植片の適用に先立ち、皮膚の感染または有害な状態は、解消されるべきである。感染のリスクを下げるために、局所的または全身的に投与される抗菌剤、抗真菌剤および抗ウイルス剤を、代用皮膚の投与前後のある期間(例えば1週間)の間に使用し得る。
【0136】
代用皮膚は、非細胞傷害性の溶液で創傷を徹底的に洗浄した後、清潔な、創傷郭清した皮膚表面に適用し得る。創傷郭清は、健康な、生存可能な、出血している組織に拡張し得る。適用に先立ち、止血を達成してもよい。創傷郭清に先立ち、無菌塩水で創傷を徹底的に洗浄し、緩んだ細片および壊死組織を除去し得る。組織ニッパー、外科用ブレードまたは鋭匙を使用して、角質増殖性および/または壊死組織および細片を創傷表面から除去し得る。潰瘍周縁部は、受け皿効果(saucer effect)を有するように、創傷郭清され得る。創傷郭清後、創傷を無菌塩水で徹底的に洗浄し、ガーゼで穏やかに乾燥させてもよい。創傷郭清または創傷の縁の修正により生じる滲出もしくは出血を、穏やかな圧力の使用により、または、必要であれば血管の結紮、電気焼灼、化学焼灼またはレーザーにより、止めてもよい。重度の滲出は、代用皮膚を移動させ、粘着性を減少させ得る。適切な臨床的処置により、滲出を最小限にし得る。例えば、創傷が粘着性になるまで、室温ないし42℃の無菌の空気を創傷に吹き付け得る。滲出が続くならば、代用皮膚を穿孔処理することにより代用皮膚を滲出液透過性にし、ドレナージを可能にし得る。
【0137】
(2)代用皮膚の適用
代用皮膚を患者に適用するために、様々な臨床技法を使用し得る。代用皮膚は、修復されている欠損の大きさ、疼痛のレベルおよび全身麻酔の必要性に応じて、外来医院または手術室で適用され得る。代用皮膚を適用する前に、処置者は、代用皮膚の有効期限を調べ、pHを確認し、代用皮膚を視覚的に観察し、その臭いをかいで、細菌汚染または粒子状物質などの汚染がないことを確認することができる。代用皮膚は、使用直前まで、68°F〜73°F(20℃〜23℃)に制御された温度で、ポリエチレン袋中に保存し得る。
【0138】
処置者は、密封されたポリエチレン袋を切り開き得、代用皮膚が細胞培養ディッシュまたはプラスチックトレー中に提供されていたら、それを無菌的技法で無菌の領域に移し得る。存在するならば、トレーまたは細胞培養ディッシュの蓋は外され得、処置者は代用皮膚の表皮および真皮層の向きを記録し得る。無菌の傷をつけない器具を使用して、処置者は、およそ0.5インチの代用皮膚をトレーまたは細胞培養ディッシュの壁から穏やかに剥がし得る。処置者は、代用皮膚を持ち上げるときに、代用皮膚の下にあるメンブレンを破いたり持ち上げたりしないように注意し得、存在するならば、それはトレーに残されるべきである。
【0139】
無菌の手袋をした手で、処置者は、一方の人差し指を代用皮膚の解放された区域の下に差し込み、他方の人差し指を使用して、当該デバイスの縁に沿った第2の場所で代用皮膚をつかみ得る。処置者は、代用皮膚を2箇所でつまみ、滑らかかつ均一な動作で、代用皮膚全体をトレーまたは細胞培養ディッシュから持ち上げ得る。過剰な折りたたみが起こる場合は、代用皮膚を(表皮の面を上にして)無菌トレー中の温かい無菌塩水に浮かべることができる。
【0140】
代用皮膚を、代用皮膚を適用する部位に真皮層(培地に最も近い光沢のある層)が直接接触するように置き得る。
【0141】
塩水で湿らせた綿棒を使用して、処置者は、気泡またはしわのないように、その部位で代用皮膚をならし得る。代用皮膚が適用部位よりも大きいならば、それが包帯材に接着するのを防ぐために、過剰な代用皮膚を切り離し得る。代用皮膚が適用部位よりも小さいならば、欠損が埋まるまで複数の代用皮膚を相互に隣接して適用し得る。
【0142】
代用皮膚は、任意の適する臨床用包帯材で固定し得る。縫合またはステープルは必要ではないが、移植片を移植床に固定するために、いくつかの例では使用され得る。代用皮膚を適用部位に確実に接触させ、動くのを防止するために、包帯材を使用し得る。移植部位に治療的圧迫を適用し得る。代用皮膚と適応部位との間の剪断力を最小にするために、移植を受けた肢を固定する必要がある場合もある。包帯材は、必要であれば、週に一度またはそれ以上の頻度で交換し得る。
【0143】
ある種の例では、さらなる代用皮膚の適用が必要であり得る。さらなる適用に先立ち、先行する皮膚移植片または代用皮膚の接着していない残遺物を、穏やかに除去すべきである。治癒している組織または接着している代用皮膚は、その場に残し得る。さらなる代用皮膚の適用に先立ち、その部位を非細胞毒性溶液で洗浄し得る。ある実施態様では、さらなる代用皮膚は、先行する代用皮膚が接着していない領域に適用し得る。
【0144】
c)発毛性細胞の注射
本発明の発毛性細胞は、当業者に公知の任意の適する方法で注射し得る。ある実施態様では、当該方法は、発毛性細胞を患者に皮下または皮内で送達することを含む。他の実施態様では、当該方法は、上皮細胞を患者に送達することをさらに含む。細胞は、懸濁液、クラスター、凝集物として、または、生物分解可能な微粒子と組み合わせて送達され得る。懸濁液を注射するとき、各注射部位は、50〜2,000個の細胞を送達し得る。細胞を生物分解可能な微粒子と組み合わせて注射するとき、各注射部位は、1個またはそれ以上のそのような組合せを送達し得る。
【0145】
(1)移植部位の準備
移植部位は、水、抗菌性洗浄液、または、アルコール溶液で洗浄され得る(アルコール塗布など)。他の実施態様では、手術用マーカーで所望の毛のパターンを、輪郭をとって、あるいは、各注射部位を示すピクセルとして、移植部位に描き得る。注射のパターンを示す紙のテンプレートまたは他の材料のテンプレートも注射部位に適用し得る。あるいは、ロボット工学または格子中に複数の注射ポートを有する装置の使用により、正確な間隔で注射を送達し得る。他の実施態様では、局所麻酔を患者に投与し得る。さらなる麻酔が必要な場合、吸入、静脈または神経ブロックの麻酔薬を患者に投与し得る。
【0146】
(2)注射方法、用量および投与頻度
注射は、皮下または皮内注射のための当分野で公知の技法に従って投与され得る。注射では細胞1,000ないし20,000個/mlの濃度を使用し得る。14〜30ゲージの針を有する1〜3mlのシリンジを使用して、0.05ないし0.1mlの体積を各注射部位に注射し得る。そのような実施態様では、皮膚を引っ張り、針を5°ないし30°の角度で斜めに皮膚に挿入する。次いで、細胞をゆっくりと、穏やかな圧力で注射し、針を抜き、漏れを防ぎ吸収を促進するために、穏やかな圧力をかける。
【0147】
患者の快適さのために、あるいは、反復投与の後にさらなる毛包が産生され得るので、ある期間にわたって注射を繰り返し得る。そのような場合、投与は、1週間、2週間、3週間、1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月、または6ヵ月の間隔であり得る。
【0148】
上記の実施態様のいくつかを、下記の非限定的な実施例で例示説明する。しかしながら、本発明の他の実施態様は、本明細書に開示される本発明の詳述および実施を考慮すれば当業者に明らかである。明細書および実施例は例示のみと考えられ、本発明を限定するものではない。加えて、本明細書で引用されるすべての参考文献は、引用によりその全体が本明細書の一部とされる。
【実施例】
【0149】
実施例
実施例1
男性1人および女性5人のドナーの側頭部頭皮の真皮から単離されたヒトDP細胞(Promocell, Heidelberg, Germany)を、下記の方法に従ってインビトロで増殖させた。毛を誘導する能力と相関するDPマーカーであるアルカリホスファターゼ活性(Ohyama et al., 2012)を、BCIP/NBT基質(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を使用して、5回継代したDP細胞で、インビトロで測定した。発毛性をスクリーニングするために、Zheng et al., 2005, および Kang et al., 2012 に記載の再構成を、わずかに改変して使用した。
【0150】
他のグループの結果と同様に(Kang et al, 2012)、再構成アッセイでマウス表皮凝集物と共に注射すると、ヒトDP細胞は球状体として増殖させるとHFを誘導したが、単層として増殖させるとしなかった(表1)。ヒトDP細胞およびヒト新生児包皮角化細胞(NFK)で構築された代用皮膚(そのDECは1種類である)を、メスのヌードマウスに移植した。移植の8週間後に、高いアルカリホスファターゼ活性を有するヒトDP細胞を移植したマウスでHFを観察したが、低いものを移植したマウスでは観察しなかった(表1、図1A)。HFは、毛球、真皮毛根鞘、毛母および毛皮質を有した(図2)。HFの上皮の区画は無傷であり、内および外毛根鞘の同心円状の層、毛幹および皮脂腺を有した(図2)。ヒト特異的Alu反復配列(緑色)のプローブを使用する蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)は、HFの上皮および真皮の両方の成分の核にハイブリダイズし、それらがヒト起源であることを裏付けた(図3A〜3B)。ヒトのCOX IVと反応するが、マウスのものとは反応しない抗体は、移植片の毛包上皮および真皮線維芽細胞を染色した(図4)。ヒト特異的汎セントロメアプローブ(緑色)を使用するFISHは、上皮および真皮の両方の成分の核にハイブリダイズし(図5A)、一方、ヒト特異的Y染色体プローブ(赤色)は表皮および毛包上皮の核にハイブリダイズし、このことは、真皮および表皮細胞の起源が各々女性および男性のドナーであることと一致した(図5B)。HFは、完全に発達したヒトHFの特異的区画のマーカーでも染色された。DPおよび下部DSの領域の細胞は、アルカリホスファターゼ活性を示し(図6A)、ヒトネスチン(図6B)およびバーシカン(図6C)に特異的な抗体と正常な反応性を示した。予想された通り、成長期のHFは、覆っている表皮と比較して、毛母の領域においてKi−67に対してより濃い免疫反応性を有した(図7)。内毛根鞘と外毛根鞘の間に、ケラチン75染色により同定されるコンパニオン層(companion layer)が存在した(図8B)。外毛根鞘の基底層は、バルジ領域に位置するHF幹細胞のマーカーであるケラチン15に免疫反応性であった(図8A)。
【0151】
これらの実験は、DP細胞などのヒト間葉系細胞が、完全な毛嚢脂腺ユニット(即ち、完全な毛包の成長または完全な毛包の新生)をインビボで誘導できることを示す。
【0152】
表1.ヒト毛乳頭(DP)細胞の発毛性の評価
【表1】
【0153】
移植用細胞の調製
代用皮膚:確立された方法を本明細書に記載の通りに改変して使用して、移植用の三次元インビトロ構築物を調製した。簡潔に述べると、ヒト毛乳頭細胞を10%FBS/DMEM中で1mg/mlのI型コラーゲン(ラット)(他の実施態様では、コラーゲンはウシのものであり得る)と混合し、6ウェルのトランスウェル(transwell)プレート(Corning Incorporated, Corning, NY)に細胞1.5X10個/cmの密度で加えた。この真皮等価物を10%FBS/DMEM中で4日間培養し、その後、1X10個の角化細胞を上部に等分した。0.1%FBSを含有するDMEMとHam’sF12(3:1)(GIBCO/Invitrogen, Grand Island, NY)の混合物中でこの構築物を2日間液内培養し、その後、角化細胞を空気−液体界面に置き、1%FBSを含有するDMEMとHam’sF12(3:1)の混合物中で、移植前にさらに2日間培養した。
【0154】
微粒子:
細胞クラスター:懸滴法(hanging droplet method)を使用して、注射用の細胞凝集物を形成させた。(Qiao J. et al., "Hair follicle neogenesis induced by cultured human scalp dermal papilla cells," Regen Med 4(5): 667-76 (2009)。)簡潔に述べると、ヒト間葉系細胞と角化細胞の混合物(10:1、5:1、1:1、1:5または1:10)をDermal Papilla Medium (Promocell)に懸濁した。液滴が上下逆につり下がる向きにした100mmペトリ皿の蓋に、細胞を10μlの液滴中(各液滴は、1x10または0.5x10個の細胞を含む)でアプライした。リン酸緩衝食塩水10mlをペトリ皿の底に入れた。吊された液滴を、37℃の5%COインキュベーター内でインキュベートした。凝集体の形成は18〜20時間以内に完了し、再構成アッセイを播種の48時間後に行った。代替的なアプローチは、0.24%メチルセルロースを含有するChang 培地を使用することである。100mmペトリ皿の底に、細胞を20μlの液滴中(各液滴は、4x10個の細胞を含む)でアプライした。ペトリ皿を裏返し、液滴が上下逆につり下がるようにした。吊された液滴を、37℃の5%COインキュベーター内でインキュベートした。凝集体の形成は18〜20時間以内に完了した。凝集体が形成されたら、150μlの Chang 培地を含む96ウェルの丸底アッセイプレートのウェルに個別に移した。ウェルを事前に0.24%メチルセルロース培地で被覆し、原毛(proto-hair)の接着を防止した。培養培地を2〜3日毎に交換した。
【0155】
場合による生物分解可能な微粒子の添加:注射用の生物分解可能な微粒子は、75:25PLGA(分子量=100,000Da、Birmingham Polymers, Birmingham, AL)から、常套の油/水乳液および溶媒蒸発/抽出方法を使用して、作成し得る。例えば、600mgのPLGAを、塩化メチレン12mlに溶解し、0.5%(w/v)ポリビニルアルコール(分子量=30,000〜70,000Da、Sigma)の水溶液400mlに添加し、室温で終夜激しく撹拌し得る。微粒子を遠心分離により回収し、蒸留水で3回洗浄し、直径50〜200μmのサイズに漉し得る。微粒子を凍結乾燥し、紫外線で6時間滅菌し得る。ヒト間葉系細胞(2.5x10個の細胞)および角化細胞(6x10個の細胞)を、PLGA微粒子(微粒子1μg/細胞10個)と共に、角化細胞用に10ng/mlのEGFを含有する無血清KGM30ml、または、間葉系細胞用に10%(v/v)FBSを含有するDMEM/F12を有するスピナーフラスコ(Bellco Glass Inc., Vineland, NJ)に入れ、50rpmで2週間培養し得る。培地を一日おきに交換し得る。細胞凝集物を沈ませ、培養上清16mlを回収し、遠心分離し、上清15mlを除去し、残りの上清1ml中の遠心分離した細胞に、新しい培地15mlを添加し得る。新しい培地中の細胞を、スピナーフラスコに移し得る。あるいは、アルギン酸ナトリウムに細胞を懸濁し、次いで、Lin C.M. et al., "Microencapsulated human hair dermal papilla cells: a substitute for dermal papilla?," Arch Dermatol Res. 300(9):531-5 (2008) に記載の通り、高電圧液滴生成器(high-voltage electric droplet generator)を使用して球状の液滴を形成することにより、細胞のクラスターを形成し得る。
【0156】
移植方法
複合物の設置:Oおよびイソフルラン(2〜4%)の混合物による吸入麻酔を使用して麻酔した6〜8週齢のメスCr:NIH(S)−nu/nuマウス(FCRDC, Frederick, MD)を使用して、水平層流型フード内でマウスに移植した。マウスの背中の移植領域を、注意深く見積もり、ポビドンおよび70%エタノールで洗浄した後、湾曲状のハサミで皮膚を除去した。代用皮膚を移植床に正しい解剖学的配向で置き、無菌のワセリンガーゼで覆い、包帯で固定した。再覚醒後にマウスを無菌のケージに戻した。包帯を2週間で交換し、4週間後に除去した。マウスを移植の4〜18週間後に屠殺した。
【0157】
細胞の注射:Ortiz-Urda et al. に記載のものと同様の技法を使用して、細胞をマウスの皮膚に直接注射した。ヒト間葉系細胞のマウス皮膚への注射のために、25ゲージの針を使用して、6〜8週齢のメスCr:NIH(S)−nu/nuマウス(FCRDC, MD)に、DP細胞(細胞100万個/パッチ;単層培養から分離したDP細胞またはDP球状体)および0〜2日齢C57Bl/6新生仔マウス皮膚から単離した100,000個の表皮凝集物(細胞100万個)(Charles River, NC)の混合物を、皮下注射した。注射された細胞は、DMEMとF12の1:1混合物からなる培地中にあった。注射は、最初に皮膚を刺し通し、次いで表面に向かって針を上向きに戻し、可能な限り表面上に細胞を注射することにより行った。これは、注射領域の中央に、境界の明確な丘疹の形成を導いた。正の対照は、同じC57Bl/6マウスの皮膚から単離した真皮細胞100万個および表皮凝集物50,000個を受容した。移植の2ないし4週間後に、パッチ皮膚の腹側性部位を顕微鏡的に解剖および観察することにより、注射部位でHF形成を分析した。
【0158】
細胞の移植:麻酔後に、27ゲージの針を使用して、幅および長さおよそ0.5〜1.0mmの小さい切開を作り得る。単一の培養された凝集体(原毛)を、各切開内の浅い位置に挿入し得る。挿入後、切開をそのまま治癒させ得る。
【0159】
動物を麻酔した後、全層皮膚創傷(1.5x1.5cm四角形)を移植領域に作り得る。創傷周縁部からの宿主皮膚細胞の遊走および自発的創傷収縮を最小にするために、焼灼術を使用して創傷周縁部の皮膚を焼き、非吸収性の5〜0ナイロン縫合糸(AILEE Co., Pusan, Korea)で隣接する筋肉層に固定し得る。PLGA微粒子上で培養した間葉系細胞(細胞およそ10個/創傷)および角化細胞(細胞およそ7.5x10個/創傷)を、針のない1mLシリンジを使用して、創傷に移植し得る。移植後、創傷を包帯材、即ち、Tegaderm (3M Health Care, St. Paul, MN)および無菌の綿ガーゼで包帯し、自己接着性ラップの Coban (3M Health Care)を使用してしっかりと固定し得る。移植後5日間にわたり、抗生物質(セファゾリン、0.1mg/マウス、Yuhan Co., Seoul, Korea)および鎮痛剤(ブプレノルフィン、0.1mg/kg、Hanlim Pharm Co., Seoul, Korea)を、各々筋肉内および皮下に投与し得る。マウスは手術後に単独で飼育され、実験動物の管理および使用に関するNIHガイドラインに従って、ヒトの管理を受け得る。
【0160】
実施例2
6人の側頭部頭皮から成長させたヒト毛乳頭細胞(HDP47、HDP44、HDP41、HDP43、HDP60およびHDP52)および7人の後頭部頭皮から成長させたヒト毛乳頭細胞(1〜7)を使用して、研究を行った。すべての細胞を、実施例1に記載の通りに、ヒト包皮角化細胞およびラットI型コラーゲンと組み合わせた。移植前に、細胞のアルカリホスファターゼ活性を単層培養で測定した。
【0161】
表2は、側頭部と後頭部の頭皮から単離したヒト毛乳頭細胞を比較する移植実験の結果を示す。
【0162】
表2の第2列は、表皮がH&E染色で典型的なヒト表皮の形態を示した移植片の数を示す。側頭部の頭皮からの毛乳頭細胞は、後頭部の頭皮からのものよりはるかに良好にヒト角化細胞の重層扁平上皮への発達を支持した。後頭部の毛乳頭細胞を有する多くの移植片で、移植片の境界からマウス角化細胞が移入し、ヒト角化細胞を置き換えた。
【0163】
表2の第3列は、毛包のある移植片の数を示す。3/6の側頭部頭皮ドナーの毛乳頭細胞を使用してヒト毛包が形成されたが、後頭部頭皮からは形成されなかった。毛包は、3人の患者の毛乳頭細胞を使用する移植片の少なくとも80%で観察され、発毛性サンプルからの移植片22個のうち19個を含んだ。後頭部頭皮からの毛乳頭細胞を使用した移植片では、毛包は観察されなかった。括弧内のデータは、キメラ毛包の形成の証拠がなかった(移植片にかぶさるマウス角化細胞において、毛乳頭細胞による毛包の誘導がなかった)ことを示す。
【0164】
高いアルカリホスファターゼ活性を有するものに毛包形成が観察された。これは、後頭部頭皮からの毛乳頭サンプルにおいて毛包形成がないことの、1つのあり得る説明である。他のあり得る説明は、側頭部頭皮(神経堤由来)からの毛乳頭細胞の胚の起源が、後頭部頭皮(中胚葉由来)と比較して、異なることである。
【0165】
表2:側頭部対後頭部の頭皮からのヒト毛乳頭(DP)細胞の発毛性の評価
【表2】
【0166】
実施例3
ヒト真皮および表皮細胞(側頭部頭皮真皮の神経堤由来のヒト毛乳頭細胞および新生児包皮表皮細胞)から構築された、移植された真皮表皮複合物を、ヌードマウスへの移植の8、12および15週間後に評価した。図13は、移植の8週間後にヒト毛包の漏斗状器官から出現している毛幹を示すH&E染色を提供する。図14は、10週間後に光学顕微鏡下で写真撮影した真皮表皮複合物である。移植領域から毛幹が出現しているのが見られる。図15Aは、移植12週間後に見られる毛幹を有する代表的な移植片を提供し、図15Bは、着色した毛幹の存在を示す拡大像を提供する。
【0167】
図16A〜Cは、15週後に移植片に様々な毛包の段階を検出できたことを示す。単層で増殖させた毛乳頭細胞および球状体として増殖させたものを含む移植片は、休止期の毛包を有し、棍棒状の外見と釘状のケラチン繊維(図16A参照)、隣接する毛乳頭を有する第2の毛芽(図16B参照、矢印)および角化した棍棒状器官(図16C参照、トルイジンブルー染色陰性、矢印)により確認された。休止期の毛包は、Ki−67陽性細胞を示さず、これは毛包が休止期の段階にあることと合致した(図17A、矢印)。休止期の毛包と同じ切片からの毛乳頭を有する成長期の毛包(図17B、矢印)は、予想された通り、マトリックス中に濃厚なKi−67反応性を示す。
【0168】
移植後に他の正常な毛包の特徴が複合移植片に見られた。例えば、図18Aは、8週間後に回収した移植片の代表的なH&E染色切片を示し、毛包内および外毛根鞘および皮脂腺が見えている。図18Bは、皮脂腺が、抗菌性ペプチドであるカテリシジンの抗体に対して非常に免疫反応性であったことを示す。
【0169】
神経堤由来のヒト毛乳頭および新生児包皮の表皮細胞から構築され、ヌードマウスに移植した真皮表皮複合物に使用した角化細胞の種類に応じて、移植片の特徴を評価した。初代、継代1回目および継代3回目のヒト角化細胞の効果を表3に示す。
【0170】
表3
【表3】
【0171】
表3の全ての測定は、表中で断りのない限り、8週で行った(脚注1)。全ての結果を、平均+/−標準偏差として表す(脚注2)。表中の他のアステリスクおよび注釈を、以下に説明する。
【0172】
評価した移植片の数:P0、n=8;P1、n=7;P3、n=8。
++評価した移植片の数:P0、n=6;P1、n=6;P3、n=7。
評価した移植片の数:P0、n=5;P1、n=5;P3、n=3。
^^評価した移植片の数:P0、n=3;P1、n=3P3、n=2。
評価した移植片の数:P0、n=6;P1、n=6;P3、n=5。
##評価した移植片の数:P0、n=3;P1、n=5;P3、n=4。
初代角化細胞より有意に低い、p<0.05。
***初代角化細胞および継代1の角化細胞より有意に低い、p<0.005。
**継代した角化細胞より有意に高い、p<0.02。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18