(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6469663
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】牽引手段用リセプタクルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20190204BHJP
B62D 21/15 20060101ALI20190204BHJP
B60R 19/48 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
B62D25/20 C
B62D21/15 Z
B60R19/48 W
【請求項の数】13
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-520202(P2016-520202)
(86)(22)【出願日】2014年6月20日
(65)【公表番号】特表2016-521656(P2016-521656A)
(43)【公表日】2016年7月25日
(86)【国際出願番号】CA2014000508
(87)【国際公開番号】WO2014201547
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2017年5月2日
(31)【優先権主張番号】102013211794.9
(32)【優先日】2013年6月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501241575
【氏名又は名称】マグナ インターナショナル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100157185
【弁理士】
【氏名又は名称】吉野 亮平
(72)【発明者】
【氏名】ガルンヴァイトナー ペーター
【審査官】
梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−036158(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102010055954(DE,A1)
【文献】
特開2008−087667(JP,A)
【文献】
特表2010−500231(JP,A)
【文献】
特開2006−321407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B62D 21/15
B60R 19/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両ボディに取付け可能な支持ピース(1)の牽引リセプタクルの構造であって、車両ボディのクロスメンバ(2)の内部キャビティ(10)内に支持ピース(1)が挿入される構造において、挿入された支持ピース(1)が摩擦撹拌溶接によりクロスメンバ(2)に取付けられ、前記支持ピース(1)の端部にはキャッチおよびフック状突出部が形成されていることを特徴とする牽引リセプタクルの構造。
【請求項2】
前記支持ピース(1)は、牽引ラグ(3)のボア孔の形態をなす牽引リセプタクルを構成していることを特徴とする請求項1記載の構造。
【請求項3】
前記支持ピース(1)は、クラッシュボックスの取付けデバイス用スペーサピース(4)として機能することを特徴とする請求項1記載の構造。
【請求項4】
支持ピース(1)がクロスメンバ(2)のT型溝内にかしめられることを特徴とする請求項1記載の牽引リセプタクルの構造の製造方法。
【請求項5】
前記クロスメンバ(2)を屈曲端形状に曲げる前または後に、支持ピース(1)をクロスメンバ(2)内に溶接することを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記支持ピース(1)は、少なくとも2つの摩擦撹拌溶接箇所(5)によりクロスメンバ(2)に連結されることを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項7】
前記クロスメンバ(2)に取付けられた後の支持ピース(1)が更に加工されることを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項8】
前記支持ピース(1)は、少なくとも1つの牽引ラグ(3)を収容する孔がドリル穿孔されることを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項9】
前記支持ピース(1)には、牽引ラグ(3)用ボア孔に対して垂直なボア孔(9)が設けられることを特徴とする請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
牽引ラグ(3)を受入れるリセプタクル構造を備えた自動車の前方クロスメンバ(2)を形成する方法であって、
支持ピース(1)を受入れる内部キャビティ(10)をクロスメンバ(2)に形成する工程と、
支持ピース(1)を形成する工程と、
支持ピース(1)をクロスメンバ(2)の内部キャビティ(10)内に挿入する工程とを有する方法において、
支持ピース(1)を摩擦撹拌溶接によりクロスメンバ(2)に取付ける工程を更に有し、
前記支持ピース(1)は、クロスメンバ(2)のT型溝内にかしめられることを特徴とする方法。
【請求項11】
前記クロスメンバ(2)は、支持ピース(1)が摩擦撹拌溶接によりクロスメンバ(2)に取付けられる前または後に、屈曲端形状に曲げられることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記支持ピース(1)は、少なくとも1つの牽引ラグ(3)を収容すべくドリル穿孔されることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記支持ピース(1)には、牽引ラグ(3)用ボア孔に対して垂直なボア孔(9)が設けられることを特徴とする請求項12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は牽引手段用リセプタクルの構造、より詳しくは自動車のボディに取付けられる支持ピースの牽引ラグ、並びにリセプタクル構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牽引手段用リセプタクルのこのような構造は従来技術から広く知られている。車両の牽引中に生じる力を車両ボディの長手方向部材に伝達するには、このようなリセプタクルは、前方のクロスメンバと長手方向部材とが連結される領域に配置されなければならない。さもなければ、牽引中に、過度に大きい曲げ応力がクロスメンバに発生してしまう虞がある。このため、前方クロスメンバと車両ボディの特別設計の長手方向部材との間の連結部には、いわゆるクラッシュボックスが設けられる。これらのクラッシュボックスは、特定の長手方向部材に対してクロスメンバを補強する。事故の場合に、クラッシュボックスは、発生するエネルギの一部を吸収する変形要素として機能し、低速時に長手方向部材を損傷から保護する。しかしながら、従来技術から知られているように、牽引手段用多コンポーネントリセプタクル(屈曲部材により覆われたリセプタクル)がこのようなクラッシュボックスに直接取付けられているため、屈曲要素の変形挙動は不利な態様で変化される。この結果いわゆるブロック形成(block formation)が生じ、このため屈曲キャリヤは、もはや発生エネルギを所望の度合いまで吸収できずかつ発生エネルギをクラッシュボックスに伝達することもできなくなる。
【0003】
牽引手段用リセプタクルの構造は、クロスメンバにねじ連結される支持ピースを開示する下記特許文献1から知られている。
【0004】
ねじ連結は、絶えず沈下挙動を呈すること、および付加コンポーネントとして使用されるねじがアセンブリを複雑化しかつ重量の付加を招くこと等の欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許第102008057379号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の課題は、特許請求の範囲の第1項の前提部に記載の牽引手段用多コンポーネントリセプタクルの構造が、改善されたクラッシュ挙動を達成できるように更に開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、特許請求の範囲の第1項の前提部に記載の牽引手段用多コンポーネントリセプタクルの構造により解決される。
【0008】
より詳しくは、上記課題は、自動車のボディに取付け可能な支持ピースの多コンポーネントを備えた牽引手段用リセプタクルであって、車両のクロスメンバのリセプタクル内に支持ピースが挿入され、かつ支持ピースが摩擦撹拌溶接によりクロスメンバに取付けられている構造の牽引手段用リセプタクルにより達成される。この特殊な溶接形式は、欠点のあるねじ連結を用いることなく、支持ピースと車両のクロスメンバとの非常に剛性の高い連結を得ることを可能にする。ねじ連結を省略することにより、アセンブリをより簡単で信頼性の高いものとすることができる。
【0009】
有利な態様では、支持ピースは牽引ラグ用のボア孔を有している。
【0010】
支持ピースにキャッチおよびフック状突出部を設けることにより、支持ピースをクロスメンバ内に簡単にスライドして正しい位置に位置決めできる形状にすることができる。
【0011】
有利な態様では、支持ピースは、クロスメンバの後ろに配置される付加クラッシュボックスの取付けデバイス用スペーサとして機能する。また、支持ピースは、クロスメンバのT型溝内にかしめられるのが有利である。この溝は、支持ピースの組立ておよび位置決めを容易にする。
【0012】
本発明の構造を製造するには、クロスメンバ全体を屈曲端形状に曲げる前または後に、支持ピースをクロスメンバ内に溶接することが有利である。
【0013】
溶接は、少なくとも2つの摩擦撹拌溶接箇所により行うのが好ましい。
【0014】
クロスメンバに取付けられた後の支持ピースは、更に加工すること、より詳しくは牽引ラグ用ボア孔を形成することが有利である。可能ならば、クラッシュボックスを取付けるためのボア孔を、牽引ラグ用ボア孔に対して垂直に挿入するのが有利である。
【0015】
少なくとも1つの実施形態によれば、牽引される車両に牽引ラグを固定するシステムが提供される。該システムは車両の長手方向部材に連結されるクロスメンバを有し、該クロスメンバは内部キャビティと、クロスメンバの内部キャビティ内に挿入される支持ピースとを備え、支持ピースが摩擦撹拌溶接によりクロスメンバに固定されることを特徴としている。
【0016】
少なくとも1つの実施形態の態様によれば、支持ピースは、牽引ラグ用ボア孔の形状のリセプタクルを呈している。
【0017】
少なくとも1つの実施形態の態様によれば、支持ピースの端部にはキャッチおよびフック状突出部が形成されている。
【0018】
少なくとも1つの実施形態によれば、支持ピースは、クラッシュボックスの取付けデバイス用スペーサピースとして機能する。
【0019】
以下、例示態様で示す本発明を、添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】取付け位置にある例示実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、既に湾曲形態に曲げられたクロスメンバ2を示す破断図である。
【0022】
図1に示すように、クロスメンバ2は少なくとも1つの内部キャビティ10を有している。このキャビティ10内には支持ピース1が挿入されている。支持ピース1は、押出成形体として設計されている。この方法では、剛性不連続性を低減させるT型溝または突出フランクのような細部を、費用を要せずして一体化できる。選択した実施形態の例では、特に
図2に示すように、支持ピース1の両側にキャッチ6およびフック状構造7が設けられる。
【0023】
図1にはまた、既に完全に組み立てられた支持ピース1内の牽引スリーブ3が示されている。参照番号5は摩擦撹拌溶接箇所を示し、これらの溶接箇所は牽引スリーブ3の左右に配置され、クロスメンバ2との連結部を形成する。
【0024】
摩擦撹拌溶接は、材料を接合する既知の方法である。回転ピンおよびスリーブ工具が連結箇所に配置される。これにより発生された熱が、材料を塑性化できるが溶融はしない状態に変換する。回転スリーブは、「こね粉(doughy)」のような材料内に進入する。同時に「内側」ピンが工具から引き抜かれ、キャビティが形成される。このように形成されたキャビティは、押し退けられた材料を受入れる。スタンプが材料の表面上に平らに横たわり、材料が制御されない態様で逃げることを防止する。スリーブが上方シートを通って進入し、下層に到達する。
【0025】
後退移動中に、スリーブが接合ゾーンから引出される。
【0026】
同時にピンが塑性材料を接合領域内に押し戻し、キャビティが再び充填される。工具の簡単なリセッティングにより、材料は固化される。材料がロックした、点状で、平らな形状の連結が達成される。
【0027】
図2は、切断線A-A’に沿う断面を示す。支持ピース1は、クロスメンバ2のキャビティ10内のリセプタクル内で同一平面に座している。2つのコンポーネントが摩擦撹拌溶接個所5を介して互いに連結される。ボア孔8が、牽引スリーブ3を収容するための両コンポーネントを通る貫通孔を形成している。
【0028】
図3は、B-B’線を通る断面を示している。
図3に示すように、クラッシュボックスを収容するボア孔9が設けられる。この図面には示されていないが、クラッシュボックスはクロスメンバ2の下に配置できる。支持ピース1をねじ止めによりクロスメンバに取付けるのではなく、溶接箇所を介して所望に応じて固定することにより、潜在的に取付けられるべきクラッシュボックス用のボア孔9の配置についての問題は全くなくなる。支持ピース1の材料は、貫通ボア孔用のスペーサ4を提供する。
【0029】
牽引ラグ用構造を備えたクロスメンバの最適製造方法は、押出し成形体を用いて行われる。クロスメンバ2および支持ピース1自体も、押出し成形体から製造される。
【0030】
支持ピース1は、アルミニウムまたはマグネシウムの押出し成形体から製造される。或いは、支持ピース1は、鋳造方法を用いて製造することもできる。
【0031】
製造過程において、両コンポーネントは一体に嵌合され、支持ピース1はクロスメンバ2内にかしめられる。次の製造工程は、溶接により両コンポーネントを接合して、コンポーネントの組合せを所望の形状に連結することである。最後の2つの製造工程は逆に行うこともできる。すなわち、組合せコンポーネントを最初に曲げ、次に支持ピース1をクロスメンバ2に溶接することもできる。
【0032】
溶接および曲げの後は、ボア孔および孔を機械加工し、必要なねじ山を切削すればよい。次に、クロスメンバを組立てる他の工程が、従来技術で既に説明したように行われる。
【符号の説明】
【0033】
1 支持ピース
2 クロスメンバ
3 牽引スリーブ(牽引ラグ)
4 スペーサ
5 摩擦撹拌溶接箇所
6 キャッチ
7 フック状構造
8 ボア孔
9 ボア孔
10 内部キャビティ