(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6469699
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】荷電粒子光学装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/147 20060101AFI20190204BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20190204BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20190204BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
H01J37/147 C
H01J37/28 B
H01J37/305 B
H01L21/30 541B
H01L21/30 541W
【請求項の数】23
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-540837(P2016-540837)
(86)(22)【出願日】2014年9月5日
(65)【公表番号】特表2016-529684(P2016-529684A)
(43)【公表日】2016年9月23日
(86)【国際出願番号】NL2014050610
(87)【国際公開番号】WO2015034362
(87)【国際公開日】20150312
【審査請求日】2017年9月4日
(31)【優先権主張番号】2011401
(32)【優先日】2013年9月6日
(33)【優先権主張国】NL
(31)【優先権主張番号】61/874,394
(32)【優先日】2013年9月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505152479
【氏名又は名称】マッパー・リソグラフィー・アイピー・ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】ハトール,ソハイル
(72)【発明者】
【氏名】ウィッテフェーン,ヨースト
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンタール,アロン
(72)【発明者】
【氏名】コニング,ヨハン ヨースト
【審査官】
山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−179116(JP,A)
【文献】
特開2012−182294(JP,A)
【文献】
特表2013−529360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K1/00−3/00
5/00−7/00
H01J37/00−37/02
37/05
37/09−37/18
37/21
37/24−37/244
37/252−37/295
H01L21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子の複数のビームレットの軌道を操作するための荷電粒子光学装置であって、当該荷電粒子光学装置は、平坦な基板の上方の側におけるもしくはその近傍の第1の面と、前記平坦な基板の下方の側におけるもしくはその近傍の第2の面と、更に均一な厚さとを有する前記平坦な基板を含む第1の電磁偏向器を備えており、
前記平坦な基板は、
前記複数のビームレットをそこを通って通過させるための貫通開口部を備え、当該貫通開口部は前記平坦な基板の上方側及び下方側に進出し、当該貫通開口部は2つの縦方向の側と2つの横方向の側を有する矩形状のウインドウを画定しており、
第1及び第2のコイルを更に備え、前記第1及び第2のコイルの各々は前記第1の面の上に配置された1個もしくはそれ以上の導電的な上方のリードと、前記第2の面に配置された1個もしくはそれ以上の導電的な下方のリードと、前記平坦な基板を貫通して延在する1個もしくはそれ以上のビアとを備え、前記ビアの各々は前記コイルを形成するために前記上方のリードの1つを前記下方のリードの1つに導電的に接続するために配置され、
前記第1及び第2のコイルは前記貫通開口部の両側に配置されており、前記第1及び第2のコイルは前記縦方向の側に隣接して配置されている、
荷電粒子光学装置。
【請求項2】
前記第1及び第2のコイルは直列に接続され、実質的に同じ電流が前記第1及び第2のコイルに供給される
請求項1に記載の荷電粒子光学装置。
【請求項3】
前記矩形状のウインドウは細長く延長されたウインドウである
請求項1もしくは2に記載の荷電粒子光学装置。
【請求項4】
前記上方のリードと前記下方のリードは、細長く延長された前記矩形状ウインドウの前記縦方向の側に平行な方向に延在している
請求項3に記載の荷電粒子光学装置。
【請求項5】
前記貫通開口部は複数のビームレットをそこを通って通過させるための第1の貫通開口部であり、前記平坦な基板はさらに、
複数のビームレットの第2の組をそこを通って通過させるための第2の貫通開口部を備え、前記第2の貫通開口部は前記平坦な基板の前記上方側及び下方側内に進出し、前記第2の貫通開口部は2つの縦方向の側と2つの横方向の側を有する矩形状のウインドウを画定しており、そして前記第2の貫通開口部は前記第1の貫通開口部から離隔した対向する第2のコイル側に配置されており、
第3のコイルを更に備え、当該第3のコイルは前記第1の面の上に配置された1個もしくはそれ以上の導電的な上方のリードと、前記第2の面の上に配置された1個もしくはそれ以上の導電的な下方リードと、前記平坦な基板を貫通して延在する1個もしくはそれ以上のビアとを備え、前記ビアの各々は前記コイルを形成するために前記上方のリードの1つを前記下方リードの1つに導電的に接続するために配置され、
前記第3のコイルは前記第2のコイルから離隔して対向する前記第2の開口部の側に配置されており、前記第2及び第3のコイルは前記縦方向の側に隣接して配置されている
請求項1から請求項4のいずれか一つに記載の荷電粒子光学装置。
【請求項6】
前記平坦な基板は前記第1と第2の貫通開口部間に配置されている1個もしくはそれ以上の更なる貫通開口部を具備しており、前記第1、第2及び更なる貫通開口部はお互いからの一定の距離に配置され、そして前記貫通開口部の二つの間のある領域において、コイルが配置されている
請求項5に記載の荷電粒子光学装置。
【請求項7】
前記貫通開口部から離隔して対向する側における前記コイルの周りに配置される磁束閉じ込め部材を更に備えている
請求項1から請求項6のいずれか一つに記載の荷電粒子光学装置。
【請求項8】
磁束閉じ込め部材は前記平坦な基板を取り囲むように配置されている
請求項7に記載の荷電粒子光学装置。
【請求項9】
前記磁束閉じ込め部材は前記第1及び第3のコイルに隣接して配置されている
請求項5に従属する請求項7もしくは8に記載の荷電粒子光学装置
【請求項10】
前記第2のコイルのコイルターンの数は、前記第1のコイルコイルターンの数+(プラス)前記第3のコイルのコイルターンの数に等しい
請求項5,請求項6もしくは請求項9か,請求項5に従属する請求項7か請求項8のいずれか一つに記載の荷電粒子光学装置。
【請求項11】
前記貫通開口部を除く前記平坦な基板の少なくとも第1及び第2の面は電気的に絶縁物質の第1の層と導電物質の第2の層とによって被覆され、前記第1の層は前記第2の層と前記平面的な基板との間に挟まれている
請求項1から請求項10のいずれか一つに記載の荷電粒子光学装置。
【請求項12】
前記貫通開口部は内周縁部を備え、当該内周縁部は導電物質の層で被覆されている、及び/もしくは、前記平坦な基板は外周縁部を備えており、当該外周縁部は導電物質の層で被覆されている
請求項11に記載の荷電粒子光学装置。
【請求項13】
前記荷電粒子光学装置は前記第1の電磁偏向器の複製である第2の電磁偏向器を備えており、そして前記第1の電磁偏向器から一定の距離に配置されている
請求項1から請求項12のいずれか一つに記載の荷電粒子光学装置。
【請求項14】
前記第2の電磁偏向器は、前記第2の電磁偏向器の少なくとも前記第1及び前記第2のコイルが前記第1の電磁偏向器の前記第1及び第2のコイルに平行に延びるように前記第1の電磁偏向器に対して配置されている
請求項13に記載の荷電粒子光学装置。
【請求項15】
前記第2の電磁偏向器は前記第1の電磁偏向器の偏向に対向した方向へ1個もしくはそれ以上のビームレットを偏向させるために配置されおよび/もしくは制御される
請求項13もしくは請求項14に記載の荷電粒子光学装置。
【請求項16】
前記荷電粒子光学装置は、均一な厚さを有する第2の平坦な基板を含む第1の静電偏向器を備えており、
前記第2の基板は複数のビームレットをそこを通って通過させるための1個もしくはそれ以上の貫通開口部を備えており、前記1個もしくはそれ以上の貫通開口部は前記第2の基板の上方側及び下方側に進出し、貫通開口部において前記第2の基板は前記貫通開口部内の電場を提供するために前記貫通開口部のいずれかの側に配置されている第1及び第2の電極を備えており、
前記第1の静電偏向器は前記第1の電磁偏向器からの一定の距離において配置されている
請求項1から請求項15のいずれか一つに記載の荷電粒子光学装置。
【請求項17】
前記第1の静電偏向器は、前記第1の静電偏向器の少なくとも前記第1及び第2の電極が前記第1の電磁偏向器の前記第及び第2のコイルに平行に延在するように前記第1の電磁偏向器に対して配置されている
請求項16に記載の荷電粒子光学装置。
【請求項18】
前記荷電粒子光学装置は前記第1の静電偏向器の複製である第2の静電偏向器を備え、そして前記第1の静電偏向器からの一定の距離に配置されている
請求項16もしくは請求項17に記載の荷電粒子光学装置。
【請求項19】
前記第2の静電偏向器は、前記第2の静電偏向器の少なくとも前記第1及び第2の電極が前記第1の静電偏向器の前記第1及び第2の電極に平行に延びるように前記第1の静電偏向器に対して配置されている
請求項18に記載の荷電粒子光学装置。
【請求項20】
前記第2の静電偏向器は、前記第1の静電偏向器の偏向に対向した方向に前記1個もしくはそれ以上のビームレットを偏向するために配置されおよび/もしくは制御される
請求項18もしくは請求項19に記載の荷電粒子光学装置。
【請求項21】
複数の荷電粒子ビームレットを用いてターゲットを露光するための荷電粒子マルチービームレット露光システムであって、当該システムは、
前記複数の荷電粒子ビームレットを発生するためのビームレット発生器と、
前記複数の荷電粒子ビームレットの1個もしくはそれ以上を前記ターゲットのある面の上に投影するためのビームレット投影器とを備え、当該ビームレット投影器は、請求項1から請求項20にいずれか一つに記載の荷電粒子光学装置を備えている
荷電粒子マルチービームレット露光システム。
【請求項22】
前記システムはリソグラフィックシステムであるかもしくは顕微鏡システムである
請求項21に記載の荷電粒子マルチービームレット露光システム。
【請求項23】
請求項21もしくは請求項22に記載の荷電粒子マルチービームレット露光システムにおける荷電粒子の複数のビームレットの軌道を操作する方法であって、
前記磁場を横断する方向の前記貫通開口部を通過する前記複数のビームレットを偏向させる前記貫通開口部内側の一定の磁場を提供するために前記第1及び第2のコイルを通って電流を方向づける工程を備えている
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に複数の荷電粒子ビームレットを用いてターゲットを露光するための荷電粒子マルチビームレット露光システムにおける使用のために荷電粒子の1個もしくはそれ以上のビームレットの軌道を操作ための荷電粒子光学装置に関する。また、本発明はそのようなデバイスを備えている荷電粒子光学装置に関する。更に、本発明は荷電粒子マルチビームレット露光システムにおける荷電粒子の1個もしくはそれ以上のビームレットの軌道を操作するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
WO2010/125526は荷電粒子光学装置を記載している。この荷電粒子光学装置は前記複数のビームレットをそこを通って通過させるためのアパチャすなわち開口部を備えている略平坦な基板を含んでいる。この平坦な基板は前記荷電粒子の前記複数のビームレットを偏光させるための静電偏光器の各電極を支持しており、これらの電極は前記基板内のアパチャの上に少なくとも部分的に且つ適切に全体的に横たわっている。前記静電偏光器は延長された通過ウィンドウの縦方向の各側部に沿って配置されている第1及び第2の真っ直ぐで延長された電極を備えており、前記静電偏光器は前記第1と第2の電極との間の電場の操作によって前記ウィンドウを通過する前記複数のビームレットを偏光する。
【0003】
WO2010/125526に記載されているように、前記静電偏向器は平行に配置されている複数のウインドウを備えている。前記ウィンドウの各々は、最大の均一度を得るために比較的長い。又、十分な偏向角を確保しつつ、前記各電極に亘る電位差がかなり減少できる可能性があるように前記各ウィンドウの各々は好ましくは比較的に小さい幅を有する。このような設計の各利点はWO2010/125526に詳細に記載されている。
【0004】
前記公知の静電偏光器において、前記延長された通過ウィンドウは多数の緊密に詰め込まれたビームレットをそこを通って通過させるために配置されることができ、そして前記多数のビームレットは同時に偏光され得る。
【0005】
前記公知の静電偏光器の不利な点は前記数多くの同時に偏光されるビームレットが前記各電極に略垂直な方向に偏光され得るだけである。かくして、前記各ビームレットは前記延長された一又は複数のウインドウの縦方向に略垂直な方向に偏光され得るのみである。
【0006】
本発明の目的は延長された一又は複数のウインドウの縦方向に略平行な方向に多数のビームレットを同時に偏光できる荷電粒子光学装置を提供することである。
【発明の概要】
【0007】
第1の態様によれば、本発明は荷電粒子の1個もしくはそれ以上のビームレットの軌道を操作するための荷電粒子光学装置を提供するものであって、この荷電粒子光学装置は略平坦な基板の上方側におけるもしくはその近傍の第1の面と、前記略平坦な基板の下方側におけるもしくはその近傍の第2の面と、更に略均一な厚さとを有する前記略平坦な基板を含む第1の電磁偏光器を備えており、前記基板は
【0008】
前記1個もしくはそれ以上のビームレットをそこを通って通過させるための貫通開口部を備え、この貫通開口部は前記略平坦な基板の上方側及び下方側に進出し、
【0009】
第1及び第2のコイルを更に備え、前記第1及び第2のコイル各々は前記第1の面の上に配置された1個もしくはそれ以上の導電性の上方の各リードと、前記第2の面に配置された1個もしくはそれ以上の導電性の下方の各リードと、前記基板を貫通して延在する1個もしくはそれ以上のビアを更に備え、前記コイルを形成するためにこれらのビアの各々は前記上方の各リードの1つを前記下方の各リードに導電的に接続するために配置され、
【0010】
前記第1及び第2のコイルは前記貫通開口部のいずれかの側に配置されている。
【0011】
電流が前記第1及び第2のコイルを通って、特に前記第1及び第2のコイルを通って同じ方向に向けられると、磁場が確立される。この磁場は前記第1のコイルを介して延びており、前記貫通開口部を横切り、そして前記第2のコイルを介して延びる各磁場線を有する。前記貫通開口部を介して通過する前記1個もしくはそれ以上のビームレットは、その方向が前記各磁場線に垂直な方向である、かくして各螺旋状コイルの前記上方及び下方の各リードに略平行な方向に、前記磁場によって偏向される。
【0012】
比較のために、従来技術の静電偏向器において、前記貫通開口部を通過する前記1個もしくはそれ以上ビームレットは、前記第1及び第2の電極を略横切る方向の電場によって偏向される。これらの第1及び第2の各電極はある延長された通過ウィンドウの前記縦方向に沿って配置される。
【0013】
本発明の電磁偏向器の更なる利点は、前記電磁偏向器がまったく従来の電磁偏向器のように略平坦な基板上に配置されていることにある。少なくとも荷電粒子ビームレットの軌道に平行な方向に本発明の電磁偏向器に要求されるビルドインスペースは小さく、特に10mm未満であり、好ましくは5mm未満であり、更により好ましくは3mm未満である。
【0014】
実施の形態において、前記第1及び/もしくは前記第2のコイルは略螺旋状コイルを備えている。前記第1の面上に配置されている1個もしくはそれ以上の導電性の上方のリードと、前記第2の面に配置されている1個もしくはそれ以上導電性の下方リードと、更に前記基板を貫通して延在する1個もしくはそれ以上のビアが各コイルの巻線を構成している。
【0015】
前記各コイルのへリックスは、ハンデッドネスとして公知である2つの可能な方向に捩ることができる。好ましくは、前記第1及び第2のコイルは同じハンデッドネスを有している。
【0016】
ある実施の形態において、前記第1及び第2のコイルは略同じリードを有している。このリードは巻回の完全な回転(360°)によってカバーされる前記コイルの中心軸に沿った距離である。
【0017】
ある実施の形態において、前記貫通開口部は2個の縦方向の側及び2個の横方向の側を有する略矩形状のウインドウを画定しており、第1及び第2のコイルは前記縦方向の側に隣接して配置されている。
【0018】
実施の形態において、前記荷電粒子光学装置は、一又は複数の貫通開口部から離隔して対向する側における前記各コイルの周りに配置される磁束閉じ込め部材を更に備えている。実施の形態において、前記磁束閉じ込め部材は前記略平坦な基板を取り囲むように配置されている。このような磁束閉じ込め部材は前記基板の貫通開口部におけるもしくはその中で所望の偏向を提供するために前記平坦な基板の平面内の磁場を実質的に閉じ込める。当該磁束閉じ込め部材無しでは、前記所望の偏向方向に対向する前記1個もしくはそれ以上のビームレットの偏向を引き起こすであろう前記基板の上方及び下方の各戻り磁場線が存在する。
【0019】
実施の形態において、前記磁束閉じ込め部材は、磁化可能物質、好ましくはフェライトを備えている。
【0020】
実施の形態において、前記貫通開口部は1個もしくはそれ以上のビームレットの第1の組をそこを通って通過させるための第1の貫通開口部であり、前記基板は
【0021】
1個もしくはそれ以上のビームレットの第2の組をそこを通って通過させるための第2の貫通開口部を備え、当該第2の貫通開口部は前記略平坦な基板の前記上方側及び下方側に進出しており、そして前記第2の貫通開口部は前記第1の貫通開口部から離隔して対向する前記第2のコイルの側において配置されており、
【0022】
更に第3のコイルを備え、当該第3のコイルは前記第1の面の上に配置された1個もしくはそれ以上の導電的な上方のリードと、前記第2の面の上に配置された1個もしくはそれ以上の導電的な下方のリードと、及び前記基板を貫通して延在する1個もしくはそれ以上のビアとを備え、当該各ビアの各々は前記コイルを形成するために前記各上方のリードの1つを前記各下方リードの1つに導電的に接続するために配置されており、
【0023】
前記第3のコイルは前記第2のコイルから離隔して対向する前記第2の貫通開口部の側の上に配置されている。
【0024】
少なくとも2個の貫通開口部を備えたこの実施の形態は、例えば10、000もしくはそれ以上の非常に多数のビームレットを有するマルチビームレット露光システムにおける使用のために適切である。この多数のビームレットは今や2個もしくはそれ以上のビームレットの組に分割され、各組は前記各貫通開口部の相当する一つを横切り、前記各貫通開口部の各々は前記貫通開口部内の略均一な磁場を得るために前記各コイル間の少なくともある方向に限定されたサイズを有している。
【0025】
実施の形態において、前記第3のコイルは略螺旋状のコイルを備えている。前記第1の面の上に配置された1個もしくはそれ以上の導電性の上方のリードと、前記第2の面の上に配置された1個もしくはそれ以上の導電性の下方のリードと、更に前記基板を貫通して延在する1個もしくはそれ以上のビアが前記各コイルの夫々の巻線を構成する。好ましくは、前記第3のコイルは前記第1及び第2のコイルと同じハンデッドネスを有する。好ましくは、前記第3のコイルは前記第1及び第2のコイルと略同じリードを有している。
【0026】
実施の形態において、前記略平坦な基板は、前記第1及び第2の貫通開口部間に配置されている1個もしくはそれ以上の更なる貫通開口部を具備しており、前記第1、第2及び更なる貫通開口部は互いにある距離をおいて配置されており、そして前記各貫通開口部の2個の間の領域において、コイルが配置されている。前記2個もしくはそれ以上の貫通開口部は前記略平坦な基板の表面に亘って分割されている。
【0027】
前記各貫通開口部が延長された矩形状のウィンドウである場合に、前記2個もしくはそれ以上の貫通開口部は前記各延長されたウインドウの前記縦方向に垂直な方向に、互いに隣接して好ましく配置されている。
【0028】
実施の形態において、前記磁束閉じ込め部材は前記2個の最も外側のコイル、特に前記2個の最も外側のコイルが存在する時、第1と第3のコイルに隣接して配置される。前記各最も外側のコイルに隣接した前記磁束閉じ込め部材を配置することによって、前記各戻り磁場は前記磁束閉じ込め部材内に効果的に閉じ込められ、そして磁気的な浮遊磁場の効果は少なくとも減少して、好ましくは略零になる。
【0029】
実施の形態において、前記第2のコイルのコイルターンの数は、前記第1のコイルのコイルターンの数と前記第3のコイルのコイルターンの数の和に等しい。前記磁束閉じ込め部材が前記第1と第3のコイルに直接隣接して配置されている時に、前記第1のコイルによって発生させられた略磁束の全体は、前記閉じ込め部材によって閉じ込められ、そして前記第3のコイルに向けられており、その逆も言える。かくして、前記第1のコイルの磁束は前記第3のコイルの磁束によって補充され、逆もまた言える。前記第1のコイルにおける前記磁束は、前記第1のコイルのコイルターンの数+(プラス)前記第3のコイルのコイルターンの数に等しいコイルターンの数を有する仮想コイルによって発生された磁束に略等しい。前記仮想コイルと同じコイルターンの数を備えた前記第2のコイルを提供することは、前記各コイルを駆動するために略同じ電流を用いる際、前記磁気偏向器のすべての貫通開口部に亘って略均一な磁場を生成させる。
【0030】
実施の形態において、前記一又は複数の貫通開口部を除いて、略平坦な基板の前記少なくとも第1及び第2の面は電気絶縁物質の第1の層と導電的な第2の層で略被覆され、前記第1の層は前記第2の層と前記略平坦な基板との間に挟まれている。前記導電物質の第2の層は前記偏向器の熱負荷を減少させるヒートシンクへのより良い熱伝導を提供することができる。加えて、この第2の層は前記第1及び第2の各面の上に、使用に際して、蓄積される可能性がある電荷の除去のための接地電位に接続されることができる。前記第1の層は前記各コイルの前記各リード及び前記各ビアを保護すると共に、前記各リードと前記各ビアを前記第1の層から電気的に絶縁すべく配置されている。
【0031】
実施の形態において、前記各貫通開口部は内周縁部を備え、この内周縁部は導電物質の層で略被覆されている。実施の形態において、前記平坦な基板は外周縁部を備えており、前記外周縁部は導電物質の層で略被覆されている。このことは前記略平坦な基板の前記第1及び第2の面上の前記各導電層間でより良い電気的および/もしくは熱的な接続を提供する。
【0032】
実施の形態において、前記第2の層はモリブデンの層を備え、このモリブデンの層は前記略平坦な基板から離隔して対向した前記第2の層の側において配置されている。かくして、このモリブデンは前記基板の最も外側の面に配置されている。このモリブデン外側層を用いる利点は、この外側の層が酸化する時でさえ、結果として得られる各酸化物はなお導電的である。
【0033】
実施の形態において、前記荷電粒子光学装置は前記第1の電磁偏向器の実質的に複製である第2の電磁偏向器を備えており、そして前記第1の電磁偏向器から一定の距離に特にその軌道に沿った方向に配置されており、前記第2の電磁偏向器の1個もしくはそれ以上の貫通開口部の1つは、前記第1の電磁偏向器の前記1個もしくはそれ以上の貫通開口部の1つに一列に並んでいる。
【0034】
実施の形態において、前記第2の電磁偏向器は、前記第2の電磁偏向器の少なくとも前記第1及び前記第2のコイルが、前記第1の電磁偏向器の前記第1及び第2のコイルに略平行に延びるように前記第1の電磁偏向器に対して配置されている。
【0035】
実施の形態において、前記第2の電磁偏向器は前記第1の電磁偏向器の偏向に略対向した方向へ1個もしくはそれ以上のビームレットを偏向するために配置されおよび/もしくは制御される。
【0036】
実施の形態において、少なくとも第1の電磁偏向器を備えた前記荷電粒子光学装置は、略均一な厚さを有する第2の略平坦な基板を含む第1の静電偏向器を更に備えており、
【0037】
前記第2の基板は前記1個もしくはそれ以上のビームレットをそこを通って通過させるための1個もしくはそれ以上の貫通開口部を備えており、前記1個もしくはそれ以上の貫通開口部は前記第2の基板の上方側及び下方側に進出し、各貫通開口部において前記第2の基板は前記貫通開口部における電場を提供するために前記貫通開口部のいずれかの側に配置されている第1及び第2の電極を備えており、
【0038】
前記第1の静電偏向器はこの第1の電磁偏向器からの距離において、特に前記軌道に沿った一定の方向に配置されており、前記第1の静電偏向器の前記1個もしくはそれ以上の貫通開口部の少なくとも1個は前記第1の電磁偏向器の1個もしくはそれ以上の貫通開口部の1つに一列に配置されている。
【0039】
かくして、本発明の電磁偏向器は、静電偏向器に隣接もしくは接触してでも配置することができ、前記電磁偏向器によって提供される偏向は前記静電偏向器によって提供される偏向に略直交しており、このことが前記電磁偏向器及び静電偏向器の略直交する各偏向範囲内での任意の方向において前記1個もしくはそれ以上のビームレットを方向づけることを可能にする。
【0040】
実施の態様において、前記第1の静電偏向器は、前記第1の静電偏向器の少なくとも第1及び第2の電極が前記第1の電磁偏向器の前記第1及び第2のコイルに略平行に延びるように前記第1の電磁偏向器に対して配置されている。
【0041】
実施の形態において、前記第1の静電偏向器を含む前記荷電粒子光学装置はまた前記第1の静電偏向器の実質的に複製である第2の静電偏向器を備え、そして前記第1の静電偏向器からの一定の距離に特に前記軌道に沿って一定の方向に配置されており、前記第2の静電偏向器の1個もしくはそれ以上の貫通開口部の少なくとも1つが前記第1の静電偏向器の前記1個もしくはそれ以上の貫通開口部の1つに一列に並んでいる。
【0042】
実施の態様において、前記第2の静電偏向器は、前記第2の静電偏向器の少なくとも第1及び第2の電極が前記第1の静電偏向器の前記第1及び第2の電極に略平行に延びるように前記第1の静電偏向器に対して配置されている。
【0043】
実施の態様において、前記第2の静電偏向器は、前記第1の静電偏向器の偏向に略対向した方向に前記1個もしくはそれ以上のビームレットを偏向させるために配置されおよび/もしくは制御される。
【0044】
実施の態様において、前記帯電粒子光学装置は冷却部を備えており、もしくは冷却部の上に実装されている。当該冷却部はヒートシンクとして作用し、そして使用に際して前記偏向器の熱負荷を減少させることになる。
【0045】
実施の形態において、前記冷却部は実質的に均一な厚さを有する第3の略平坦な基板を備えており、
前記第3の基板は前記1個もしくはそれ以上のビームレットをそこを通って通過させるための1個もしくはそれ以上の貫通開口部を備えており、前記1個もしくはそれ以上の貫通開口部は前記第3の基板の上方の側及び下方の側に進出しており、
前記第3の基板は各フローチャンネルが前記各貫通開口部に隣接して配置されている冷却流体のための前記フローチャンネルを具備しており、
【0046】
前記冷却部の1個もしくはそれ以上の貫通開口部の少なくとも1つが前記第1の電磁偏向器の1個もしくはそれ以上の貫通開口部の1つに一列に配置されている。そのような平坦な冷却部は本発明の平坦な一又は複数の電磁偏向器と、もしくは一又は複数の静電偏向器とも容易に組み合わせ可能である。多数のそのような一又は複数の電磁偏向器及び一又は複数の静電偏向器は前記平坦な冷却部の上に積層され得る。
【0047】
第2の態様によれば、本発明は複数の帯電粒子ビームレットを用いてターゲットを露光するための帯電粒子マルチービームレット露光システムを提供し、当該システムは、
前記複数の帯電粒子ビームレットを発生するためのビームレット発生器と;
前記複数の帯電粒子ビームレットを前記ターゲットのある面の上に投影するためのビームレット投影器とを備え、当該ビームレット投影器は、上記において記載したようなもしくは前記既に記載した各実施の形態の何れか一つに係る帯電粒子光学装置を備えている。
【0048】
実施の形態において、前記システムは前記各ビームレットをパターニングして変調ビームレットを形成するためのビームレット変調器を更に備えており、そして前記ビームレット投影器は前記変調ビームレットを前記ターゲットの前記面の上に投影するために配置されている。
【0049】
実施の形態において、前記システムはリソグラフィシステムであるかもしくは顕微鏡システムである。
【0050】
第3の態様によれば、本発明は上記に述べたような荷電粒子マルチービームレット露光システムにおける荷電粒子の1個もしくはそれ以上のビームレットの軌道を操作するための方法を提供するもので、この方法は
【0051】
前記磁場を略横断する方向の前記貫通開口部を通過する前記1個もしくはそれ以上のビームレットを偏向する前記貫通開口部内側の磁場を提供するために前記第1及び第2のコイルを通って電流を方向づける工程を備えている。
【0052】
本明細書に記載され且つ例示されている様々な態様及び特徴は、可能ならば個別に適用できる。これらの個別の態様、特に添付された独立した特許請求の範囲の請求項に記載された各態様及び各特徴は分割した各特許出願の主題にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
本発明は添付された図面に示される例示的な実施の形態に基づいて理解されるであろう。
【
図1】
図1は本発明の電磁偏向器を備えた荷電粒子光学装置の第1の実施例の概略図を示す。
【
図2】
図2は
図1の実施例の基板の第1及び第2の側の上の各リードとこれらのリードを接続する各ビアを概略的に示す。
【
図3】
図3は
図1の電磁偏向器において発生する磁場を概略的に示す。
【
図4】
図4Aは本発明の電磁偏向器を備えた荷電粒子光学装置の第2の実施例の概略的な断面図を示し、
図4Bは
図4Aの前記第2の実施例の概略的な分解組立図を示す。
【
図5】
図5は本発明の電磁偏向器を備えた荷電粒子光学装置の第3の実施例の概略図を示す。
【
図6】
図6は本発明の電磁偏向器及び静電偏向器を含む偏向器アセンブリを備えた荷電粒子光学装置の第1の実施例の概略図を示す。
【
図7】
図7は本発明の2個の電磁偏向器を含む偏向器アセンブリ備えた荷電粒子光学装置の第2の実施例の断面における概略図を示す。
【
図8】
図8は本発明の荷電粒子マルチービームレット露光システムの一実施例の断面における簡易化された概略図を示す。
【
図9】
図9は荷電粒子マルチービームレット露光システムにおける使用のための投影アセンブリの断面における簡易化された概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
これらの図面において、同一の参照番号は同一もしくは少なくとも匹敵する技術的な特徴に関連している。これらの図面は一定の尺度で描かれておらず、そして例示的目的のためにのみ意図されている。これらの図面はいかなる意味合いでも特許請求の範囲を限定すべく意図されていない各実施例を示す。
【0055】
図1は本発明の電磁偏向器1を備えた荷電粒子光学装置の第1の実施例の上面図を示す。当該電磁偏向器1はこの電磁偏向器1の各コイル用の略平坦な基板として作用する略矩形状の印刷回路基板(PCB)2を備える。このPCB2は多数の荷電粒子ビームレットをそこを通って通過させるための5個の貫通開口部3を具備している。前記PCBの前記各個別の貫通開口部3間及び前記各貫通開口部3と前記各縦方向の縁部間の各領域の上に、各銅の上方リード5が前記上面の上に配置されている。更に、各銅の下方リード6は前記上面に対向した下方面の上に配置されている。前記各上方リード5及び前記下方リード6は各銅パッド7を具備している。これらの銅パッド7の少なくともいくつかが各ビア8を提供するために使用され、コイルターンを形成するために前記各ビア8の各1つは前記各上方リード5の1つを
図2に示されるように前記各下方のリード6の一つに導電的に接続するために配置されている。
【0056】
図1の実施例において概略的に示されるように、2個の貫通開口部3間の前記各領域の各々は6個のコイルターンを有するコイル10を備えており、そして前記PCBの1個の貫通開口部3と縦方向の縁部4との間の前記各領域の各々は3個のコイルターンを有するコイル11,12を備えている。これらのコイル10、11、12のすべては直列に接続され、そして前記直列の前記第1のコイル11と(添付された特許請求の範囲の請求項3において第3のコイルとしても示される)最後に言及されたコイル12は、前記電磁偏向器のすべてのコイル10、11,12を通って略同じ電流Iを提供するために前記PCBの縁部の上の接続パッド9に接続されている。
図2に概略的に示されるように、電流Iを前記コイルターン通って方向づける際、磁場Bが前記コイルターンの内側で発生する。
【0057】
尚、本発明の電磁偏向器において使用される前記コイル10、11,12は平坦で且つ幅が広いことに注目すべきである。これらのコイルの高さは、例えば1.5mmの前記PCB2の厚さに略等しい。これらのコイルの幅は5から6cm、例えば3.0cm以上の大きさであることが可能である前記各貫通開口部3の長さを超えて延長している。
【0058】
図1に概略的に示されるように、前記PCB2は四角形状の閉じたフェライトコア13によって取り囲まれている。このPCB2は前記四角形状の閉鎖フェライトコア13の内部の前記矩形状開口部内部に実装される。前記第1のコイル11及び前記最後のコイル12はフェライトコア13に隣接して配置されており、このフェライトコア13は使用に際して磁束閉じ込め部材として作用する。
図3に概略的に示されるように、前記電磁偏向器1の前記各コイルを通って一定の電流Iを方向づける際、前記PCB内のすべての前記各コイル及び前記各貫通開口部3を横切る磁束B1が発生する。前記第1のコイル11におけるこのPCB2を離れる磁束B1は前記フェライトコア13によって捉えられ且つ閉じ込められる。このフェライトコア13は前記PCB2の周りの磁束を前記最後のコイル12に向けて閉じ込め且つ戻す、そこでこの磁束は前記PCB2内に入る。前記戻り磁束B2は前記フェライトコア13内で且つ前記電磁偏向器1の略平面内で効果的に閉じ込められる。前記電磁偏向器1の上方およびそれより下方における各磁気浮遊磁場の効果は少なくとも減少し、そして実際には略零になる。
【0059】
図4Aは本発明の電磁偏向器を備えた荷電粒子光学装置の第2の実施例の略平坦な基板の概略的断面図を示す。
図4Bは分解した図でこの基板を示す。
【0060】
この第2の実施例の前記平坦な基板は多層PCB20を備えている。この多層PCB20は多数の荷電粒子ビームレットをそこを通って通過させるための5個の貫通開口部3を具備している。前記PCB20の前記各貫通開口部3間及び前記各貫通開口部3と前記各縦方向の縁部との間の領域の上に、各コイルが以下で説明するように各銅の上方リード22、各銅の下方リード23及び各ビア24よって配置されている。
【0061】
前記多層PCB20は前記各上方リード22及び前記下方リード23を支える中央PCB層21を備えている。この中央PCBは各ビア24を具備しており、前記各ビア24の各々は
図2に示されるような前記第1の実施例におけると同じやり方でコイルターンを形成するために前記各上方リード22の1つを前記各下方リード23の1つに導電的に接続するために配置されている。
【0062】
前記中央のPCB層21はより厚さが薄い頂部PCB層25とより厚さが薄い底部PCB層26との間に挟まっている。当該頂部PCB層25及び前記底部PCB層26は夫々前記各上方リード22及び前記各下方リード23、更に前記各ビア24を保護する。このような多層PCB20の厚さは例えば2mmである。
【0063】
図4A及び4Bに概略的に示されるように、この第2の実施の形態の各接続パッド9は前記頂部PCB層25の頂部に設けられ、これらのパッド9は前記頂部PCB層25における各ビア24’によって前記中央PCB層21の前記各リード22,23に電気的に接続される。
【0064】
前記中央PCB層21から離隔して対向する前記頂部PCB層25の側は銅層27によって略完全に被覆される。また前記中央PCB層21から離隔して対向する前記底部PCB層の側は銅層28によって略完全に被覆される。更に、前記多層PCBの外方の円周縁部は
図4Aの断面図に示されるように銅層29によって略完全に被覆される。また、前記各貫通開口部3の内周縁部は銅層(図示せず)によって略完全に被覆される。かくして、前記多層PCB20の略完全な外方側は銅層27,28、29によって被覆され。そして前記銅層の外方側はモリブデン被覆を具備している。
【0065】
通常前記多層PCB20は
図1において示されるような前記第1の実施例と同じようなやり方で前記四角形状の閉鎖フェライトコア(
図4A及び
図4Bに示されていない)の内側において前記矩形状開口部の内側に実装される。
【0066】
図5は本発明の電磁偏向器30を備えた荷電粒子光学装置の第3の実施例の上面図である。この第3の実施例の前記平坦な基板はPCB31を備えている。このPCB31は多数の荷電粒子ビームレットをそこを通って通過させるために3個の貫通開口部32を具備している。前記PCB31の前記各個別の貫通開口部32間及び前記貫通開口部32と前記各縦方向の縁部間の各領域の上に、各一次コイル33,34,35,36が前記第1もしくは前記第2の実施例におけると同じやり方で各銅の上方リード、各銅の下方リード及び各ビアによって配置されている。
【0067】
図5において概略的に示されているように、前記各貫通開口部32及び前記各一次コイル33,34,35,36を備えた前記PCB31の領域は戻りコイル37,38、39、37’、38’、39’によって取り囲まれている。使用に際して、前記各戻りコイルは磁束閉じ込め部材として作用する。前記第1及び第2の実施例におけるようにフェライトコアを用いる代わりに、前記第3の実施例は各コイルターンを形成するために前記各上方リードの1つを前記各下方リードの1つに導電的に接続するために配置された銅の各上方リード、銅の各下方リード及び各ビアを用いて前記一次コイル33、34、35、36と同じようになされる前記各戻コイルを具備している。
【0068】
実施の形態において、前記各リターンコイル37、38、39、37’、38’、39’は前記各一次コイル33、34、35、36に直列に接続される。使用に際して、略同じ電流が前記各一次及びリターンコイルのすべてを通って方向づけられている。
【0069】
他の実施の形態において、前記各リターンコイル37,38,39、37’、38’、39’は前記各一次コイル33,34,35、36から分離して接続される。使用に際して、前記各リターンコイル37,38,39、37’、38’、39’を通る電流は、前記一次コイル33、34、35、36を通る電流として異なったレベルで設定でき所望の磁束閉じ込めを達成する。
【0070】
前記電磁偏向器30の各一次及び各リターンコイルを通る電流Iを方向づけると、前記各コイル及び前記PCB31内の前記各貫通開口部32をすべて横切る磁束が発生する。前記PCB31上の前記各一次及び各リターンコイルは、前記各一次及び各リターンコイルによって発生する磁束が閉じ込められる略閉鎖磁路を提供する。かくして、前記磁束は前記PCB31内に実質的に閉じ込められる。
【0071】
図6は本発明の電磁偏向器41及び静電偏向器42を含む偏向器アセンブリ40を備えた荷電粒子光学装置の第1の実施例の概略図を示す。荷電粒子ビームのアライメントもしくはスキャンにングのために、例えば、電子ビーム43のうちのある領域に亘る電子ビーム43は本実施例では、X−方向及びY−方向として示される二つの略直交する方向に偏向される必要がある。
【0072】
図6に示すように、電子ビーム43は前記電磁偏向器41の前記各貫通開口部44の1つを横断する。ある電流Iが前記各コイルを通って方向づけられると、方向dxにおける前記電子ビーム43の軌道を偏向する磁場Bが発生する。このことは前記電子ビーム43によって露光されるべきサンプルの位置におけるΔxの偏位を提供する。
【0073】
前記電子ビーム43はまた前記静電偏向器42の前記各貫通開口部45の1つを横断する。電位差が前記貫通開口部45のいずれかの側において前記各電極46に印加されると、方向dyの前記電子ビーム43の軌道を偏向させる電場Eが発生する。このことは前記電子ビーム43により露光されるべきサンプルの位置におけるΔyの偏位を提供する。
【0074】
尚、前記電磁偏向器41と前記静電偏向器42のサイズについての偏向の量は、前記偏向器アセンブリ40の組み合わせの効果を説明するために、
図6において大きく誇張されていることに注目すべきである。例えば、マルチビームレットマスクレス荷電粒子リソグラフィシステムにおいて、ウエファが必要とされる範囲は、例えば約+/−100ナノメータと非常に限定されている。
【0075】
概略的な
図6においては示されていないけれども、前記電磁偏向器41はこの電磁偏向器41の周りに配置されている前記第1もしくは第3の実施例におけるような磁束閉じ込め部材を具備し、より詳しく上記で記載したように前記電磁偏向器41の略平面内の戻り磁場を閉じ込める。
【0076】
図7は本発明の2個の電磁偏向器51,52を含む偏向器アセンブリ50を備えた荷電粒子光学装置の第2の実施例の断面における概略図を示し、第2の電磁偏向器52は前記各ビームレット57の軌道、特に前記各偏向器51,52の偏向を持たない軌道に沿った方向の第1の電磁偏向器51からの一定距離において配置されている。
【0077】
図7の断面図において概略的に描かれているように、前記第2の電磁偏向器52の前記各貫通開口部55は前記第1の電磁偏向器51の前記各貫通開口部54と一列に配置されている。前記第2の電磁偏向器52はこの第2の電磁偏向器52の少なくとも前記各コイル58が前記第1の電磁偏向器51の前記各コイル59に略平行に延びているように前記第1の電磁偏向器51に対して配置されている。これらのコイル58、59は前記各ビアによって
図7の断面図において表現されている。
【0078】
前記第1の電磁偏向器51は、この第1の電磁偏向器51の前記各コイル59を通る電流を駆動すると共に前記磁場B51を確立することによって、
図7に概略的に示される+dy1方向に前記各ビームレット57を偏向するために配置されている。(+dy1は図面の平面内に実際向けられていることに注目されたい。)前記第2の電磁偏向器52は、前記第2の電磁偏向器52の前記各コイル58を通る電流を駆動すると共に前記磁場B52を確立することによって、
図7に概略的に示されるーdy2方向に前記各ビームレット57を偏向させるために配置されている(−dy2は図面の平面から実際に向けられていることに注目されたい)。かくして、前記第2の電磁偏向器52は前記第1の電磁偏向器51の偏向と略対向した方向へ前記各ビームレット57を偏向させるために配置されおよび/もしくは制御される。
【0079】
2個の電磁偏向器51,52を備えた前記アセンブリ50は前記各ビームレット57の軌道を操作するための種々のやり方を提供すべく使用できる。例えば、前記第2の電磁偏向器52の偏向が対向した方向において前記第1の電磁偏向器の偏向と同じ大きさを有している時に、前記アセンブリ50から生ずる前記各ビームレット57は前記各入射ビームレットに略平行であるが、
図7の図面の平面内へもしくはそれから一定の方向へ偏位する。
【0080】
図7に示されるような実施例において、前記各ビームレット57は偏向される時でさえ、あるビームストップアレイもしくはレンズアレイ53の貫通開口部56の中心部を通過することが達成される。かくして、前記ビームストップアレイもしくはレンズアレイ53に亘る前記各ビームレットの動きは阻止される。
【0081】
尚あるビームストップアレイに亘る前記ビームレット57の動きが少なくとも部分的に前記各ビームレット57を阻止して、これがドーズ誤差になってしまうであろうことに注目すべきである。あるレンズアレイに亘る前記ビームレット57の動きはそれらの中心における前記レンズアレイの前記各レンズを通過するであろう、このことは前記各ビームレット57の収差、例えば前記各ビームレット57の球面収差となるであろう。
【0082】
前記第1及び第2の電磁偏向器51,52間の相互距離及び磁場の強度は前記ビームレット57を前記ビームストップもしくはレンズの中心部を通るように方向づけるために調整される。磁場B51,B52の強度は好ましくは相互に結合される。それらの磁場は前記各ビームレット57のピボットセンターが前記ビームストップアレイもしくはレンズアレイ53の平面内で且つ前記各ビームストップ即ち各レンズの中心に位置しているように変化され得る。
【0083】
2個の静電偏向器を用いても荷電粒子ビームレットを操作する同じやり方を実行できることが、本発明の所有者に譲渡されたその全体が本明細書によって参照ために援用されているWO2010/125526に記載されている。
【0084】
図7には示されていないけれども、双方の電磁偏向器51,52は、相当する電磁偏向器51,52の周りに配置されてより詳しくは上記に記載したように前記電磁偏向器51、52の略平面に前記戻り磁場を閉じ込める第1もしくは第3の実施例におけるような磁束閉じ込め部材を具備している。
【0085】
図8は本発明の荷電粒子マルチビームレット露光システム60の一実施例の断面における簡易化された概略図を示す。このような露光システム60は発散する荷電粒子ビーム62を放出するためのソース61と、前記荷電粒子ビーム62を平行ビーム64にするためのコリメータ63と、複数の略平行な荷電粒子ビームレット66を発生するためのアパチャアレイ65とを含むビーム発生器を適切に備えている。
【0086】
更に、前記アパチャアレイ65は各荷電粒子ビームレット66用のブランキング偏向器を備えている。前記アパチャアレイ65からの一定の距離において、ビームストップアレイ67が配置されている。前記荷電粒子ビームレット66は前記ブランキング偏向器によって偏向されない場合には、前記各荷電粒子ビームレット66は前記ビームストップアレイ67内の各貫通開口部を通過して、そして前記ビームストップアレイ67直下に配置された投影レンズシステムを経由してサンプル68の上に向けられる。前記荷電粒子ビームレット66の1つのための前記ブランキング偏向器が活性化されると、相当する荷電粒子ビームレットは偏向され、そして前記ビームストップアレイ67により阻止される。前記ブランキング偏向器を活性化させることによって、もしくはさせないことによって、前記各ビームレット66は変調できる。
【0087】
前記ビームストップアレイ67の上の前記各荷電粒子ビームレット66を精確に一列に配置するために、2個の電磁偏向器71、72及び2個の静電偏向器73、74は
図8に概略的に示されるように前記アパチャアレイ65における前記ブランキング偏向器と前記ビームストップアレイ67との間に配置されている。これらの2個の電磁偏向器71,72は以前に記載した実施例の任意の一つ、もしくは添付された特許請求の範囲の請求項に記載されるような発明性のある各特徴を有する任意の他の電磁偏向器であってもよい。
【0088】
より詳細な提示は
図9において示される。
図9は荷電粒子マルチビームレット露光システムにおける使用のための投影アセンブリの断面における簡易化された概略図を示す。
図9の実施例において示すように、前記2個の電磁偏向器71,71、及び2個の静電偏向器73、74が互いに頂部に実装されて冷却部80の頂部に実装される偏向器スタックを形成する。このような冷却部80の一実施例は本発明の所有者に譲渡されたその明細書によって全体として参照のため援用されるPCT/EP2013/059948に記載されている。
【0089】
前記冷却部80はこの冷却部80の直下に配置されている前記ビームストップアレイ67を冷却するために主として設けられている。しかしながら、前記冷却部80の頂部に前記各偏向器スタック71、72、73、74を配置することによって、前記冷却部80はヒートシンクとして作用し、そしてスタック内の前記各偏向器71、72、73、74の熱負荷を使用に際して減少させることになる。
【0090】
前記ビームストップアレイ67の下方に、投影レンズアセンブリ83が配置されている。一方前記投影レンズアセンブリ83はスペーサ81を経由して前記ビームストップアレイ67に接続されており、また他方前記投影レンズアセンブリ83は例えば接着剤接続86を用いてスペーサ82を経由してキャリアリング84に接続される。更に、前記冷却部80は例えば接着剤接続86を用いて前記キャリアリング84にも接続される。
【0091】
前記キャリアリング84はフレクチャ85によって前記露光システム60のハウジング内に実装されている。
【0092】
上記の記載は好ましい各実施の形態の動作を例示すべく含まれており、そして本発明の範囲を限定することを意味しないことを理解すべきである。上記の議論から、多くの変化例は本発明の精神及び範囲によってなお包含されるであろう従来技術に精通した人、すなわち当業者にとって明らかになる。
【0093】
まとめとして、本発明は荷電粒子の多数のビームレットの軌道を操作するための荷電粒子光学装置に関している。当該荷電粒子光学装置はその上方の側及び下方の側と、そして均一な厚さとを有する平面的な基板を含む電磁偏向器を備えている。
【0094】
前記基板は
前記各ビームレットをそこを通って通過させる貫通開口部を備え、当該貫通開口部は前記基板の前記上方側及び下方側内に進出し;
第1及び第2のコイルとを更に備え、前記各コイルの各々は好ましくは略螺旋状コイルであり、そして前記上方側において配置された導電的な上方リードと、前記下方側において配置された導電的な下方リードと、更に前記基板を貫通して延在すると共に前記コイルを形成するために前記各上方リードの1つを前記各下方リードの1つに接続する各ビアとを備えており、
前記第1及び第2のコイルは前記貫通開口部の何れかの側に配置されている。
【0095】
参照番号のリスト
1…電磁偏向器
2…印刷回路基板(PCB)
3…貫通開口部
4…縦方向縁部
5…上方リード
6…下方リード
7…パッド
8…ビア
9…接続パッド
10…コイル
11…第1のコイル
12…最後のコイル
13…フェライトコア
20…多層PCB
21…中央PCB層
22…上方リード
23…下方リード
24、24’…ビア
25…頂部PCB層
26…底部PCB層
27、28、29…銅層
30…電磁偏向器
31…PCB
32…貫通開口部
33、34、35、36…一次コイル
37、38、39…リターンコイル
37’、38’、39’ …リターンコイル
40…偏向器アセンブリ
41…電磁偏向器
42…静電偏向器
43…電子ビーム
44、45…貫通開口部
46…電極
50…偏向器アセンブリ
51…第1の電磁偏向器
52…第2の電磁偏向器
53…ビームストップアレイもしくはレンズアレイ
54、55、56…貫通開口部
57…ビームレット
58、59…コイル
60…マルチビームレット露光システム
61…ソース
62…発散荷電粒子ビーム
63…コリメータ
64…平行ビーム
65…アパチャアレイ
66…荷電粒子ビームレット
67…ビームストップアレイ
71、72…電磁偏向器
73、74…静電偏向器
80…冷却部
81、82…スペーサ
83…投影レンズアセンブリ
84…キャリアリング
85…フレクチャ
86…接着剤接続
B…磁場
B1…磁束
B2…戻り磁場
d…PCBの厚さ
dx、dy…偏向方向
Δx、Δy…サンプルの位置における偏位
E…電場
+dy1…第1の電磁偏向器の偏向方向
−dy1…第2の電磁偏向器の偏向方向
B51,B52…磁場
I…電流