(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6469762
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】放射性セシウム吸着材およびその製造方法、ならびに該吸着材による環境中の放射性セシウムの除去方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/12 20060101AFI20190204BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20190204BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20190204BHJP
D06M 13/503 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
G21F9/12 501B
G21F9/12 501J
G21F9/12 501K
G21F9/12 501A
B01J20/02 B
B01J20/30
D06M13/503
【請求項の数】22
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-113260(P2017-113260)
(22)【出願日】2017年6月8日
(62)【分割の表示】特願2013-529987(P2013-529987)の分割
【原出願日】2012年8月16日
(65)【公開番号】特開2017-198688(P2017-198688A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2017年7月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-179871(P2011-179871)
(32)【優先日】2011年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】801000049
【氏名又は名称】一般財団法人生産技術研究奨励会
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】石井 和之
(72)【発明者】
【氏名】小尾 匡司
(72)【発明者】
【氏名】工藤 一秋
(72)【発明者】
【氏名】赤川 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】立間 徹
(72)【発明者】
【氏名】迫田 章義
【審査官】
鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−500159(JP,A)
【文献】
米国特許第04515849(US,A)
【文献】
特開平01−015134(JP,A)
【文献】
特開平02−207839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
B01J 20/00 −20/281
B01J 20/30 −20/34
D06M 13/503
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性有機繊維基材の存在下での、ヘキサシアノ金属酸の無機塩と、遷移金属元素を含む無機化合物との反応により得られる、ヘキサシアノ金属酸の遷移金属塩を担持した親水性有機繊維基材からなるセシウム吸着材。
【請求項2】
ヘキサシアノ金属酸の遷移金属塩が、ヘキサシアノ鉄(II)酸の鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩、銅塩または亜鉛塩である、請求項1に記載のセシウム吸着材。
【請求項3】
ヘキサシアノ金属酸の遷移金属塩が、プルシアンブルーである、請求項1または2に記載のセシウム吸着材。
【請求項4】
ヘキサシアノ金属酸の無機塩が、ヘキサシアノ金属酸のアルカリ金属塩またはその水和物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセシウム吸着材。
【請求項5】
ヘキサシアノ金属酸の無機塩が、ヘキサシアノ鉄(II)酸のカリウム塩またはナトリウム塩である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセシウム吸着材。
【請求項6】
遷移金属元素を含む無機化合物が、第二鉄(III)を含む無機化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のセシウム吸着材。
【請求項7】
第二鉄(III)を含む無機化合物が、塩化第二鉄(III)、硝酸第二鉄(III)、硫酸第二鉄(III)または過塩素酸第二鉄(III)である、請求項6に記載のセシウム吸着材。
【請求項8】
親水性有機繊維基材が、親水性有機繊維よりなる織物、編物もしくは不織布製品または紙製品である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のセシウム吸着材。
【請求項9】
親水性有機繊維基材が、天然繊維またはセルロース系再生繊維よりなる織物、編物または不織布製品である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のセシウム吸着材。
【請求項10】
親水性有機繊維基材が、綿、レーヨンまたはキュプラよりなる織物、編物または不織布製品である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のセシウム吸着材。
【請求項11】
親水性有機繊維基材の形状が、ペレット状またはフィルタ状である、請求項1〜10のいずれか1項に記載のセシウム吸着材。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のセシウム吸着材を備える、セシウム除去装置。
【請求項13】
セシウム吸着材に隣接する活性炭層を備える、請求項12に記載のセシウム除去装置。
【請求項14】
ヘキサシアノ金属酸の遷移金属塩を担持した親水性有機繊維基材からなるセシウム吸着材の製造方法であって、親水性有機繊維基材の存在下に、ヘキサシアノ金属酸の無機塩と遷移金属元素を含む無機化合物とを反応させることを特徴とする、方法。
【請求項15】
ヘキサシアノ金属酸の遷移金属塩が、ヘキサシアノ鉄(II)酸の鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩、銅塩または亜鉛塩である、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
ヘキサシアノ金属酸の遷移金属塩が、プルシアンブルーである、請求項14または15に記載の製造方法。
【請求項17】
ヘキサシアノ金属酸の無機塩が、ヘキサシアノ金属酸のアルカリ金属塩またはその水和物である、請求項14〜16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
ヘキサシアノ金属酸の無機塩が、ヘキサシアノ鉄(II)酸のカリウム塩またはナトリウム塩である、請求項14〜17のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項19】
遷移金属元素を含む無機化合物が、第二鉄(III)を含む無機化合物である、請求項14〜18のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項20】
第二鉄(III)を含む無機化合物が、塩化第二鉄(III)、硝酸第二鉄(III)、硫酸第二鉄(III)または過塩素酸第二鉄(III)である、請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
放射性セシウムで汚染された対象物と、請求項1〜11のいずれか1項に記載のセシウム吸着材とを接触させる工程と、吸着材を回収する工程を含むことを特徴とする、汚染された対象物からの放射性セシウムの除去方法。
【請求項22】
放射性セシウムで汚染された対象物を、請求項12または13に記載のセシウム除去装置により処理する工程と、除去装置からセシウム吸着材を回収する工程を含むことを特徴とする、汚染された対象物からの放射性セシウムの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウム吸着材およびその製造方法、ならびに該吸着材による環境中の放射性セシウムの除去方法に関する。本発明の放射性セシウム吸着材は、プルシアンブルー類縁体を担持した親水性繊維基材からなり、繊維の内部にプルシアンブルー類縁体が固定化していることを特徴とするものである。
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日に発生した東日本大震災による福島第一原子力発電所における未曾有の事故は、今もなお、農業、水産業、畜産業はもとより、周辺住民の生活に深刻な影響を及ぼしている。原発事故そのものの収束はもちろんのこと、事故により環境中に放出されたヨウ素(
131I)、セシウム(
134Cs、
137Cs)、ストロンチウム(
90Sr)などの放射性物質の除去は、現在、我が国の喫緊の課題となっている。特に主要な放射性物質であって、約30年という長い半減期を有するセシウム137(
137Cs)の環境中(特に、水、土壌など)からの除染については、現在、各種機関により様々なアプローチが検討されている。
【0003】
例えば、土壌の除染方法としては、汚染された表土を取り除く物理的な除染方法が挙げられる。しかしながら、かかる方法では取り除いた表土の処理が問題となるため、最近では、汚染された表土と下層の土を入れ替える「上下置換工法」が検討されている(例えば、非特許文献1参照)。この工法は、表土の処理を考える必要がなく、放射線量を1/10以下に低減させることができるとして注目されているが、依然として汚染土が地中に残ることから、将来的な土壌汚染・水質汚染の可能性などが懸念されている。
【0004】
一方、吸着剤などを用いて放射性物質を回収する化学的な除染方法も検討されている。放射性セシウムの除去剤として、従来から、プルシアンブルー類縁体である、ヘキサシアノ鉄(II)酸塩(フェロシアン化物)系の吸着剤が知られている。例えば、原子力関連施設から発生する高レベル放射性廃液中から放射性セシウムを効率的に回収するために、不溶性フェロシアン化物のセシウム吸着特性を向上させる方法や、ヘキサシアノ鉄(II)酸銅を多孔性樹脂に担持させる方法などが種々報告されている(例えば、特許文献1、2参照)。さらに、プルシアンブルー(ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)水和物)そのものは、緊急被爆時に安全に使用できる放射性セシウム体内除去剤として、日本や欧米で医薬品(ラディオガルダーゼ/RADIOGARDASE(登録商標))として認可されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
このプルシアンブルー類縁体のセシウム結合能に着目、応用する更なる除染技術の開発が進められている。例えば、東京工業大学原子炉工学研究所が、プルシアンブルーによる高濃度汚染水の除染システムを開発した旨が、既に新聞等で報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−118596号公報
【特許文献2】特許第2810981号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】毎日新聞2011年5月8日
【非特許文献2】医薬品インタビューフォーム「ラディオガルダーゼ(登録商標)カプセル500mg」、日本メジフィジックス株式会社、2010年10月作成(第1版)
【非特許文献3】毎日新聞2011年4月15日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プルシアンブルー類縁体は、一般に、水に不溶性の粉末物質であることから、そのまま水に添加しセシウムを吸着させた後(場合により、凝集沈降剤などで凝集沈殿させ)、濾過により容易に回収することができるため、もっぱら高濃度汚染水の除染への適用が検討されている。一方、土壌へのプルシアンブルー類縁体の散布も除染には有効であると考えられるものの、除染後、粉末物質である(セシウムが吸着した)プルシアンブルー類縁体のみを土壌から分離・回収することが困難であるため、表土の処理が問題となる上述の物理的な除染と同様の問題が生じかねない。
【0009】
放射性物質は少量であっても、その放出する放射線が問題となる。現に、今回の原発事故により環境中に放出された放射性セシウム(
134Cs、
137Cs)の合計蓄積量が1,000,000Bq/m
2〜30,000,000Bq/m
2(2011年4月29日の値)に達すると推定されている、いわゆる高濃度の汚染区域であっても、放射性セシウムは、絶対量に換算すればわずか〜300mg/km
2で存在するに過ぎない。今回の事故のように、少ない量が広範囲に拡散・分布している場合、表土を取り除くような物理的な除染方法は大量の放射性廃棄物を新たに生むことになりかねない。このため、環境中から放射性セシウムを効率的に回収することができ、かつ大量の放射性廃棄物を生むことのない、化学的な除染方法が求められている。したがって本発明は、新規セシウム吸着材およびその製造方法、ならびに該セシウム吸着材による環境中の放射性セシウムの除去方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するために、本発明者らは先ず、プルシアンブルー類縁体を、担体、特に取扱いが容易で、成形性に優れた親水性繊維担体に固定化させることを検討した。しかしながら、プルシアンブルー類縁体は、例えば、その典型例であり、古くから顔料として知られているプルシアンブルーのように、水や有機溶媒などの媒質に不溶性であることから、従来、親水性繊維担体へ安定的に固定化させることが困難なものであった。本発明者らは、プルシアンブルー類縁体の合成原料に着目し、親水性繊維担体をプルシアンブルー類縁体そのもので処理するのではなく、その合成原料である、ヘキサシアノ金属酸の無機塩と、遷移金属元素を含む無機化合物とで順次処理することにより、プルシアンブルー類縁体(すなわち、ヘキサシアノ金属酸の遷移金属塩)がin situで形成され、繊維の表面のみならず内部に不溶性のプルシアンブルー類縁体の微粒子が形成され、安定的に固定化できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである:
1.プルシアンブルー類縁体を担持した親水性繊維基材からなるセシウム吸着材であって、繊維の内部にプルシアンブルー類縁体が固定化していることを特徴とする、セシウム吸着材。
2.プルシアンブルー類縁体が、プルシアンブルーである、上記1に記載のセシウム吸着材。
3.親水性繊維基材が、親水性繊維よりなる織物、編物もしくは不織布製品または紙製品である、上記1または2に記載のセシウム吸着材。
4.親水性繊維基材が、天然繊維またはセルロース系再生繊維よりなる織物、編物または不織布製品である、上記1〜3のいずれかに記載のセシウム吸着材。
5.親水性繊維基材が、綿、レーヨンまたはキュプラよりなる織物、編物または不織布製品である、上記1〜4に記載のセシウム吸着材。
6.上記1〜5のいずれかに記載のセシウム吸着材を備える、セシウム除去装置。
7.セシウム吸着材に隣接する活性炭層を備える、上記6に記載のセシウム除去装置。
8.上記1に記載のセシウム吸着材の製造方法であって、
(a)親水性繊維基材をヘキサシアノ金属酸の無機塩の水溶液で処理する工程;および
(b)工程(a)で処理した基材を、遷移金属元素を含む無機化合物の水溶液で処理する工程
を含むことを特徴とする方法。
9.処理工程(a)のヘキサシアノ金属酸の無機塩が、ヘキサシアノ鉄(II)酸のカリウム塩またはナトリウム塩である、上記8に記載の製造方法。
10.処理工程(b)の遷移金属元素を含む無機化合物が、第二鉄(III)を含む無機化合物である、上記8または9に記載の製造方法。
11.第二鉄(III)を含む無機化合物が、塩化第二鉄(III)、硝酸第二鉄(III)、硫酸第二鉄(III)または過塩素酸第二鉄(III)である、上記10に記載の製造方法。
12.処理工程(a)が、親水性繊維基材にヘキサシアノ金属酸の無機塩の水溶液を含浸させる工程;および含浸させた基材を水、極性有機溶媒又はそれらの混合物で洗浄する工程
を含むことを特徴とする、上記8〜11のいずれかに記載の製造方法。
13.処理工程(b)が、工程(a)で処理した基材に遷移金属元素を含む無機化合物の水溶液を含浸させる工程;および含浸させた基材を乾燥させる工程
を含むことを特徴とする、上記8〜12のいずれかに記載の製造方法。
14.放射性セシウムで汚染された対象物と、上記1〜5のいずれかに記載のセシウム吸着材とを接触させる工程と、吸着材を回収する工程を含むことを特徴とする、汚染された対象物からの放射性セシウムの除去方法。
15.放射性セシウムで汚染された対象物を、上記6または7に記載のセシウム除去装置により処理する工程と、除去装置からセシウム吸着材を回収する工程を含むことを特徴とする、汚染された対象物からの放射性セシウムの除去方法。
【発明の効果】
【0012】
プルシアンブルー類縁体、とりわけ、プルシアンブルーは、上述のように医薬品としても認可されている物質であることから、これを親水性繊維基材に固定化した本発明のセシウム吸着材は、安全かつ取扱いが容易である。またいずれの材料も安価で入手が容易であり、かつ簡便な製造方法により得ることが出来るため、経済的な側面からも、広範囲に亘る環境浄化への適用に優れている。特に親水性繊維基材は成形性にも優れていることから、除染の対象に応じて、セシウム吸着材を最適な態様へと容易に加工することができる点でも有利である。さらに本発明のセシウム吸着剤は、プルシアンブルー類縁体が親水性繊維基材にしっかりと固定化されているため、放射性セシウムを吸着させた後、(セシウムが吸着した)プルシアンブルー類縁体を環境中に取り残すことなく回収することができ、表土を取り除くような物理的な除染方法と比較して、放射性廃棄物の量を抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】作製例4で得られた吸着材の顕微鏡写真(×400)である。
【
図2】作製例4で使用した基材の処理前の顕微鏡写真(×400)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[プルシアンブルー類縁体]
本発明において、プルシアンブルー類縁体とは、ヘキサシアノ金属酸イオンを構築素子としたシアノ架橋型金属錯体の一種であり、一般式:M
Am[M
B(CN)
6]
n・hH
2Oで示される化合物であり、この金属イオン(M
A、M
B)がシアノ基で交互に架橋した面心立方構造をしていると解される。ここで、M
Aは、第一遷移金属である。したがって、本発明のプルシアンブルー類縁体は、ヘキサシアノ金属酸の遷移金属塩であると言い換えてもよい。第一遷移金属としては、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)および亜鉛(Zn)が挙げられる。好ましくは、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)および亜鉛(Zn)、より好ましくは、鉄(Fe)、特に第二鉄(Fe(III))が挙げられる。
【0015】
前記一般式において、M
Bは、八面体6配位構造をとりうる金属種であればよく、好ましくは、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)であり、より好ましくは、鉄(Fe)、特に第一鉄(Fe(II))である。なお前記一般式において、m、nおよびhの値は、M
AおよびM
Bの酸化数に応じて定まる。
【0016】
本発明のプルシアンブルー類縁体(すなわち、ヘキサシアノ金属酸の遷移金属塩)は、ヘキサシアノ金属酸の無機塩と、遷移金属元素を含む無機化合物との反応により得られる生成物であって、前記一般式で表されるものを含むものであればよい。なお、本発明のプルシアンブルー類縁体は、そのヘキサシアノ金属酸の遷移金属塩の一部の金属イオンが、原料由来のアルカリ金属イオン等で置換されているものを含んでいてもよい。
【0017】
例えば、本発明のプルシアンブルー類縁体の一態様である、ヘキサシアノ鉄(II)酸の遷移金属塩としては、そのスカンジウム(Sc)塩、チタン(Ti)塩、バナジウム(V)塩、クロム(Cr)塩、マンガン(Mn)塩、鉄(Fe)塩、コバルト(Co)塩、ニッケル(Ni)塩、銅(Cu)塩および亜鉛(Zn)塩が挙げられる。好ましくは、ヘキサシアノ鉄(II)酸の鉄(Fe)塩、コバルト(Co)塩、ニッケル(Ni)塩、銅(Cu)塩および亜鉛(Zn)塩が挙げられ、より好ましくは、鉄(Fe)塩、特に第二鉄(Fe(III))塩が挙げられる。なお、本発明のヘキサシアノ鉄(II)酸の遷移金属塩は、ヘキサシアノ鉄(II)酸の無機塩と、遷移金属元素を含む無機化合物との反応により得られる生成物であって、前記一般式(但し、M
Bが、特に第一鉄(Fe(II))である)で表されるものを含むものであればよいが、その一部の金属イオンが、原料由来のアルカリ金属イオン等で置換されているものを含んでいてもよい。
【0018】
本発明のプルシアンブルー類縁体の最も好適な例である、ヘキサシアノ鉄(II)酸の第二鉄(Fe(III))塩は、プルシアンブルーまたは紺青などとも称され、古くから顔料として用いられている。その理想的な化学組成はFe(III)
4[Fe(II)(CN)
6]
3・xH
2O(x=14〜16)(すなわち「ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)水和物」)であるが、その製法などに応じて一部の鉄イオンが置換されていることもある。本発明におけるプルシアンブルーは、ヘキサシアノ鉄(II)酸の無機塩と、第二鉄(III)を含む無機化合物との反応により得られるものであって、前記化学組成を有するものを含むものであればよいが、一部の鉄イオンが、原料由来のアルカリ金属イオン等で置換されているものを含んでいてもよい。
【0019】
本発明で使用されるヘキサシアノ金属酸の無機塩は、水溶性であって、かつ遷移金属元素を含む無機化合物との反応により、本発明のプルシアンブルー類縁体(すなわち、ヘキサシアノ金属酸の遷移金属塩)を形成しうるものであれば特に限定はない。例としては、ヘキサシアノ金属酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)またはその水和物が挙げられる。具体的には、ヘキサシアノクロム(III)酸、ヘキサシアノマンガン(II)酸、ヘキサシアノ鉄(II)酸もしくはヘキサシアノコバルト(III)酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、またはそれらの水和物が挙げられる。
【0020】
例えば、ヘキサシアノ金属酸が、ヘキサシアノ鉄(II)酸である場合、本発明で使用されるヘキサシアノ鉄(II)酸の無機塩は、水溶性であって、かつ遷移金属元素を含む無機化合物との反応によりヘキサシアノ鉄(II)酸の遷移金属塩を形成しうるものであれば特に限定はない。具体例としては、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム、ヘキサシアノ鉄(II)酸ナトリウムまたはそれらの水和物が挙げられる。ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムまたはその水和物の使用が好ましい。
【0021】
本発明で使用される遷移金属元素を含む無機化合物は、水溶性であって、かつヘキサシアノ金属酸の無機塩との反応により、本発明のプルシアンブルー類縁体(すなわち、ヘキサシアノ金属酸の遷移金属塩)を形成しうるものであれば特に限定はない。そのような遷移金属元素を含む無機化合物としては、前記第一遷移金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩またはそれらの水和物などが挙げられる。例えば、塩化第二鉄(III)、塩化コバルト(II)、塩化ニッケル(II)などのハロゲン化物;硝酸第二鉄(III)、硝酸コバルト(II)、硝酸ニッケル(II)などの硝酸塩;硫酸第二鉄(III)、硫酸コバルト(II)などの硫酸塩;過塩素酸第二鉄(III)などの過塩素酸塩;またはそれらの水和物が挙げられる。
【0022】
例えば、本発明で使用される第二鉄(III)を含む無機化合物は、水溶性であって、かつヘキサシアノ鉄(II)酸の無機塩との反応によりプルシアンブルーを形成しうるものであれば特に限定はない。例えば、塩化第二鉄(III)、硝酸第二鉄(III)、硫酸第二鉄(III)、過塩素酸第二鉄(III)またはそれらの水和物が挙げられる。
【0023】
[親水性繊維基材]
本発明のセシウム吸着材の基材としては、親水性繊維基材が使用される。本発明における親水性繊維は、吸水性繊維と言い換えてもよい。親水性繊維は、一般に水分子を取り込みやすい繊維の総称であり、例としては、羊毛、綿、絹、麻、パルプなどの天然繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラ(ベンベルグ(登録商標))、リヨセル(テンセル(登録商標))などのセルロース系再生繊維が挙げられる。またアセテート、トリアセテートなどの半合成繊維、あるいはポリアミド系、ポリビニルアルコール系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリオレフィン系またはポリウレタン系繊維などの合成繊維を公知の方法で改質し、親水性を付与したものであってもよい。価格や入手の容易さから、親水性繊維としては天然繊維またはセルロース系再生繊維、特に綿、レーヨンまたはキュプラが好ましい。
【0024】
また親水性繊維基材は、上述のような親水性繊維よりなる織物、編物もしくは不織布製品または紙製品であってよい。その形状は、目的とする用途、すなわち除染の対象に応じて適宜選択し、加工すればよい。例えば、水の除染を目的とする場合には、ペレット状やフィルタ状などであってよく、土壌の除染を目的とする場合は、広範囲をカバーすることができるシート状などであってよい。そのような基材の加工は、基材へのプルシアンブルー類縁体の担持前に行うことができるが、以下に述べるように、本発明のセシウム吸着材は、プルシアンブルー類縁体が繊維の内部および表面に安定的に固定化しているので、担持後に行うこともできる。
【0025】
[セシウム吸着材]
本発明のセシウム吸着材は、プルシアンブルー類縁体、特に好ましくはプルシアンブルーを担持した親水性繊維基材からなるものであって、繊維の表面のみならず内部にプルシアンブルー類縁体が固定していることを特徴とするものである。特に、プルシアンブルーのような「顔料」は、水や有機溶媒などの媒質に不溶で、基質に対して染着性がない。したがって、顔料により繊維基材を染色(捺染)する場合、通常、バインダー樹脂などで後処理し、顔料を繊維の表面に付着した形で固定化することを要する。一方、本発明のセシウム吸着材では、プルシアンブルー類縁体はin situで形成され、繊維の表面および内部に微粒子として存在するため、バインダー樹脂などによらず安定的に繊維に固定している。
【0026】
[セシウム除去装置]
本発明のセシウム吸着材は、それ自体で、後述のような放射性セシウムの除去に使用することができるが、セシウム除去装置にセシウム吸着材として組み込んでもよい。したがって、本発明のセシウム吸着材を備えたセシウム除去装置もまた、本発明の対象である。そのようなセシウム除去装置としては、例えば、本発明のセシウム吸着材をセシウム吸着層として備えるろ過装置や拭き取り用シートを挙げることができる。なお、プルシアンブルー類縁体は、一般に次亜塩素酸などの酸成分で分解しうるため、除染に水道水を用いる場合には、本発明のセシウム吸着材への接触前に、次亜塩素酸などの酸成分を吸着、除去しうる活性炭層と接触させることが好ましい。したがって、本発明のセシウム吸着材からなるセシウム吸着層に直接または間接的に隣接する活性炭層を備えるろ過装置や、本発明のセシウム吸着材(シート状)を直接または間接的に活性炭シートで挟んだ層を含む、拭き取り用シートなど、セシウム吸着材に隣接する活性炭層を備えるセシウム除去装置が好ましい。
【0027】
[セシウム吸着材の製造方法]
プルシアンブルー類縁体を親水性繊維基材に担持させるため、本発明のセシウム吸着材は以下の工程を含む製造方法により作製される:
(a)親水性繊維よりなる基材をヘキサシアノ金属酸の無機塩の水溶液で処理する工程;および
(b)工程(a)で処理した基材を、遷移金属元素を含む無機化合物の水溶液で処理する工程。
【0028】
本発明の製造方法では、先ず、親水性繊維基材をヘキサシアノ金属酸の無機塩の水溶液で処理する必要がある。本発明者らは、工程(a)の処理を先ず実施することにより、繊維の表面および内部にプルシアンブルー類縁体の微粒子を効率よく形成させることができることを見出した。
【0029】
処理工程(a)のヘキサシアノ金属酸の無機塩の水溶液の濃度は、使用するヘキサシアノ金属酸の無機塩の水溶解度、親水性繊維の種類や基材の重量/容積、および/または基材へのプルシアンブルー類縁体の所望の担持量などに応じて適宜選択すればよいが、例としては0.001〜0.1Mの範囲、特に0.01〜0.05Mの範囲から選択される。同様に、処理工程(b)の遷移金属元素を含む無機化合物の水溶液の濃度は、使用する遷移金属元素を含む無機化合物の水溶解度、ヘキサシアノ金属酸の無機塩の水溶液の濃度、親水性繊維の種類や基材の重量/容積、および/または基材へのプルシアンブルー類縁体の所望の担持量などに応じて適宜選択すればよいが、例としては0.001〜0.5Mの範囲、特に0.01〜0.2Mの範囲から選択される。
【0030】
処理工程(a)は、更に(a1)親水性繊維基材にヘキサシアノ金属酸の無機塩の水溶液を含浸させる工程;および(a2)含浸させた基材を乾燥させる工程を含む。工程(a1)は、例えば、親水性繊維基材をヘキサシアノ金属酸の無機塩の水溶液に浸漬することにより実施すればよい。浸漬の温度および時間は、親水性繊維の種類や基材の重量/容積、および/または水溶液の濃度などに応じて適宜設定すればよく、特に制限はないが、例えば、約10〜40℃、好ましくは周囲温度で、約1分から48時間、好ましくは1時間から24時間、より好ましくは6から12時間実施すればよい。場合により浸漬中に、基材を超音波処理に付してもよい。超音波処理の温度および時間は、同様に適宜設定すればよく、特に制限はないが、例えば、約10〜40℃、好ましくは周囲温度で、約1分から2時間、好ましくは5分から1時間実施すればよい。
【0031】
工程(a2)は、例えば、水溶液から取り出した親水性繊維基材から、水分を除去するよう乾燥させればよい。乾燥条件に特に制限はないが、場合により手絞りまたは機械的な脱水操作により大部分の水分を除去した後、例えば、約10〜100℃、好ましくは約20〜60℃で、場合により減圧条件下にて、約30分から48時間、好ましくは約1〜24時間実施すればよい。最も好適には、室温で自然乾燥させればよい。
【0032】
あるいは、処理工程(a)は、更に(a1)親水性繊維基材にヘキサシアノ金属酸の無機塩の水溶液を含浸させる工程;および(a2′)含浸させた基材を水、極性有機溶媒又はそれらの混合物で洗浄する工程を含む。工程(a1)は、上記と同様である。工程(a2′)は、例えば、水溶液から取り出した親水性繊維基材を、水、極性有機溶媒又はそれらの混合物で洗浄すればよい。洗浄条件に特に制限はないが、例えば、工程(a1)で処理した親水性繊維基材を、水、極性有機溶媒又はそれらの混合物中に浸漬・揺動させることにより実施すればよい。洗浄に用いる極性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノールなどの炭素数1〜4のアルコール、または変性(工業用)エタノールなどの水溶性アルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類;アセトンなどの低級ケトン類;アセトニトリルなどの水と任意の割合で混合しうるものであれば特に制限はないが、好ましくはエタノール、変性(工業用)エタノール、イソプロパノールなどの水溶性アルコール類、あるいは水と水溶性アルコール類の混合物である。
【0033】
処理工程(b)は、更に(b1)工程(a)で処理した基材に遷移金属元素を含む無機化合物の水溶液を含浸させる工程;および(b2)含浸させた基材を乾燥させる工程を含む。工程(b1)は、例えば、工程(a)で処理した基材を、遷移金属元素を含む無機化合物の水溶液に浸漬することにより実施すればよい。浸漬の温度および時間は、親水性繊維の種類や基材の重量/容積、および/または水溶液の濃度などに応じて適宜設定すればよく、特に制限はないが、例えば、約10〜40℃、好ましくは周囲温度で、約30秒から24時間、好ましくは1分から1時間、より好ましくは1分から15分間実施すればよい。しかしながら、浸漬中にヘキサシアノ金属鉄(II)酸と遷移金属との反応が進行し、in situでプルシアンブルー類縁体、すなわちヘキサシアノ金属酸の遷移金属塩が形成されると、親水性繊維基材を遷移金属由来の色調(例えば、第二鉄(III)の場合は、青色)に染めるため、浸漬の温度および時間は、目視による観察により容易に調節することができる。浸漬後、好ましくは基材を水で濯ぐ。濯ぎ液が透明になるまで濯ぐことにより、過剰の遷移金属元素を含む無機化合物や、繊維に固定していないヘキサシアノ金属酸の遷移金属塩を除去することができる。その際、超音波処理に付してもよい。
【0034】
工程(b2)は、例えば、水溶液または濯ぎ液から取り出した親水性繊維基材から、水分を除去するよう乾燥させればよい。乾燥条件に特に制限はないが、場合により手絞りまたは機械的な脱水操作により大部分の水分を除去した後、例えば、約10〜100℃、好ましくは約20〜60℃で、場合により減圧条件下にて、約30分から48時間、好ましくは約1〜24時間実施すればよい。最も好適には、室温で自然乾燥させればよい。
【0035】
[放射性セシウムの除去方法]
本発明のセシウム吸着材は、放射性セシウムで汚染された対象物、特に水および/または土壌中からの放射性セシウムの除去に使用することができる。したがって本発明は、本発明のセシウム吸着材を用いる、放射性セシウムの除去方法も提供する。そのような方法は、例えば、放射性セシウムで汚染された対象物(特に、水および/または土壌)と、上述したような本発明のセシウム吸着材とを接触させる工程と、吸着材を回収する工程を含む。なお、本発明のセシウム吸着材は、水中での超音波処理に付してから使用するのが好ましい。超音波処理に付すことにより、汚染された水および/または土壌と、本発明のセシウム吸着材との接触の際、繊維の内部で固定しているプルシアンブルー類縁体への放射性セシウムの移行が容易になると考えられる。また、土壌中からの放射性セシウムの除去に使用する場合、土壌表面および/または本発明のセシウム吸着材は水で濡れている状態であるのが好ましい。水を介して、土壌から吸着材中への放射性セシウムの移動が促進され、除去効率が向上することが予想される。
【0036】
本発明のセシウム除去装置もまた、放射性セシウムで汚染された対象物からの放射性セシウムの除去に使用することができる。したがって本発明は、本発明のセシウム除去装置を用いる、放射性セシウムの除去方法も提供する。そのような方法は、例えば、放射性セシウムで汚染された対象物(特に、水および/または土壌)を、上述したような本発明のセシウム除去装置により処理する工程と、除去装置からの吸着材を回収する工程を含む。例えば、本発明のセシウム除去装置が、本発明のセシウム吸着材をセシウム吸着層として備えるろ過装置である場合、汚染水をろ過する工程と、ろ過装置からセシウム吸着材を回収する工程を含む。また、例えば、本発明のセシウム除去装置が、本発明のセシウム吸着材(シート状)を活性炭シートで挟んだ層を含む、拭き取り用シートである場合、水で湿らせた拭き取り用シートにより放射性セシウムで汚染された対象物の表面を拭う工程と、拭き取り用シートからセシウム吸着材を回収する工程を含む。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の具体的態様を実施例として示すが、これらは例示であって、本発明を限定することを意図するものではない。
【0038】
作製例1:セシウム吸着材の作製
[手順]
(1) 0.016Mのヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液(10mL)に、縦横1cmの大きさに切り出した繊維基材(綿100%:タオル地)を浸漬し、十分含浸させた。
(2) 5分間超音波処理に付した後、減圧加熱乾燥器中で一晩、50℃で乾燥させた。
(3) 基材を0.11M のFeCl
3溶液中(10mL)に入れ、5分程度放置した。布全体が溶液に十分浸かり、両面が青色に変色したことを確認してから取り出し、キムワイプで余分な水分を除いて試験管に移した。
(4) 純水1mLで5回濯いだ。なお、この後約25分間、純水中で超音波処理を行ったが、濯ぎ液は見た目透明のままであった。
(5) 50℃で減圧加熱乾燥した。
[結果]
得られた繊維基材の色は、プルシアンブルー特有の濃い青色であった。
【0039】
作製例2:セシウム吸着材の作製
[手順]
作製例1の[手順](2)と(4)の工程を入れ替えた他は、実施例1の手順に従い実施した。
[結果]
得られた繊維基材の色は、作製例1で作製したものに比べて黄色みがかり、全体として緑色であった。これは、生成したプルシアンブルーの量が少なく、繊維に同時に付着した塩化鉄の黄色と混ざって見えたためと考えられる。
【0040】
作製例3:セシウム吸着材の作製
[手順]
(1) 0.0156Mヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液(150mL)に、繊維基材(綿100%:タオル地:約30cm×30cm)を浸漬し、十分含浸させた。
(2) 絞って水気を切り、室温で自然乾燥させた。
(3) 乾燥させたタオルを0.023M塩化鉄(III)水溶液(250mL)に入れ、十分含浸させた。
(4) 純水で数回ゆすいだ。
(5) 絞って水気を切り、室温で自然乾燥させた。
[結果]
得られた繊維基材の色は、プルシアンブルー特有の濃い青色であった。
【0041】
作製例4:セシウム吸着材の作製
[手順]
(1) 0.05Mのヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液(500mL)に、繊維基材(綿100%:タオル地:約30cm×70cm)を24時間浸漬させた。
(2) 200mL エタノールで2回洗浄した。
(3) 基材を0.05M のFeCl
3溶液中(500ml)に入れ、1分後に取り出した。
(4) 純水400mlで3回濯いだ。
(5) 繊維基材を室温で風乾した。
[結果]
得られた繊維基材の色は、プルシアンブルー特有の濃い青色であった。担持されたプルシアンブルーの担持率は、重量差から約2%と見積もられた。
【0042】
作製例5:セシウム吸着材の作製
[手順]
(1) 0.05Mのヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液(500mL)に、繊維基材(再生セルロース製白布(68g/m
2):約30cm×100cm)を24時間浸漬させた。
(2) 200mL エタノールで2回洗浄した。
(3) 基材を0.05M のFeCl
3溶液中(500mL)に入れ、1分後に取り出した。
(4) 純水400mLに入れ、3分間超音波処理を行った。これを3回繰り返した。
(5) 繊維基材を室温で風乾した。
[結果]
得られた繊維基材の色は、プルシアンブルー特有の濃い青色であった。担持されたプルシアンブルーの担持率は、重量差から約2%と見積もられた。
【0043】
吸着実験例1:セシウム吸着能測定実験
[手順]
(1) 繊維片試料(純水中で超音波処理(約15分程度)済)を、10ppmセシウム溶液(50mL、例えば、10ppmセシウム溶液は、75μM塩化セシウム水溶液あるいは過塩素酸セシウム水溶液として調製した)に入れ、24時間放置して試料溶液とした。
(2) それぞれの試料溶液のセシウム計数率をICP−MS(誘導結合プラズマ発光質量分析:セイコーインスツルメンツ社製SPQ9000)で測定した。濃度既知の標準試料(繊維片試料を入れる前のセシウム溶液)とブランク試料(ミリQ水)の計数率の値で一次の検量線を引き、各試料の濃度を決定した。この濃度から初期濃度を除した値を除去率とした。
【0044】
[実験結果]
【表1】
【0045】
実証実験1:水の除染
福島県の警戒区域内の家屋の雨どいから採取した低濃度汚染水(20Bq/L:NaI(Tl)シンチレーター(ATOMTECH AT1320A)で測定)1Lに、作製例5で得られたセシウム吸着材(シート状:23g)を入れた。10時間後、セシウム吸着材を回収した。処理後の水からの放射線は、検出限界値(8Bq)以下であった。
【0046】
実証実験2:土壌の除染
福島県の警戒区域内から採取した汚染土壌(約30,000Bq/kg:NaI(Tl)シンチレーター(ATOMTECH AT1320A)で測定)0.1kgに、肥料溶液(約100gのリン酸二水素カリウムと約100gの硫酸アンモニウムを含む水溶液)1Lを加えて加熱後、土壌から上澄液を分離する操作、土壌を水で洗浄する操作により、汚染土壌から70%程度の放射性セシウムが除去される。この上澄液と洗浄液を混合した汚染水の一部(250Bq/kg)1Lに、作製例5で得られたセシウム吸着材(シート状:30g)を入れた。19時間後、セシウム吸着材を回収した。処理後の上澄水からの放射線は、70%減少していた。このように、本発明のセシウム吸着材が、非常に高い濃度の競合イオン(カリウム、アンモニウム類)を含む水からも、微量のセシウムイオンを選択的に吸着することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のプルシアンブルー類縁体を担持した親水性繊維基材からなるセシウム吸着材は、優れたセシウム吸着能を有すると共に、安全かつ取扱いが容易である。またいずれの材料も安価で入手が容易であり、かつ簡便な製造方法により得ることが出来るため、経済的な側面からも、広範囲に亘る環境浄化への適用に優れている。特に親水性繊維基材は成形性にも優れていることから、除染の対象に応じて、セシウム吸着材を最適な態様へと容易に加工することができる点でも有利である。さらに環境中の放射性セシウムを吸着させた後、(セシウムが吸着した)プルシアンブルー類縁体を環境中に取り残すことなく、吸着材のみを容易に回収することができ、表土を取り除くような物理的な除染方法と比較して、放射性廃棄物の量を抑制することもできる。さらに本発明のセシウム吸着材は、その取り扱いに特殊な専門機材や知識を要しないため、これを用いた小規模分散型の放射性物質除染システムの確立とその適用が期待される。