(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転中心となる複数のジャーナル部と、そのジャーナル部に対して偏心した複数のピン部と、前記ジャーナル部と前記ピン部をつなぐ複数のクランクアーム部と、を有する鍛造クランク軸の製造過程で、バリが除去された鍛造材に加工を施す製造装置であって、
前記鍛造材は、前記鍛造クランク軸の前記複数のジャーナル部、前記複数のピン部および前記複数のクランクアーム部のそれぞれに対応する、複数の粗ジャーナル部、複数の粗ピン部および複数の粗クランクアーム部を備え、
前記複数の粗クランクアーム部のうちの少なくとも一部が、前記粗クランクアーム部の側部の外周から突出する余肉部を有し、
前記製造装置は、前記余肉部に対し折り曲げ加工または押し潰し加工を施す対をなす第1金型および第2金型と、
前記粗ピン部の偏心方向が前記第1金型と前記第2金型とによる圧下方向に対し垂直になるように、前記粗ピン部の偏心方向の両側から、前記鍛造材の前記複数の粗ジャーナル部のうちの一部の前記粗ジャーナル部または前記複数の粗ピン部のうちの一部の前記粗ピン部を少なくとも保持する保持装置と、
前記保持装置を前記圧下方向に沿って移動可能に支持する移動装置と、を備える、鍛造クランク軸の製造装置。
回転中心となる複数のジャーナル部と、そのジャーナル部に対して偏心した複数のピン部と、前記ジャーナル部と前記ピン部をつなぐ複数のクランクアーム部と、を有する鍛造クランク軸の製造方法であって、
当該製造方法は、
前記鍛造クランク軸の前記複数のジャーナル部、前記複数のピン部および前記複数のクランクアーム部のそれぞれに対応する、複数の粗ジャーナル部、複数の粗ピン部および複数の粗クランクアーム部を備え、前記複数の粗クランクアーム部のうちの少なくとも一部が前記粗クランクアーム部の側部の外周から突出する余肉部を有するバリが除去された鍛造材を得る第1工程と、
前記バリが除去された鍛造材の前記余肉部に対し、折り曲げ加工または押し潰し加工を行う第2工程と、を含み、
前記第2工程では、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の製造装置を用い、前記余肉部を変形させて前記クランクアーム部の側部の厚みを増加させる、鍛造クランク軸の製造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車、自動二輪車、農業機械、船舶等のレシプロエンジンには、ピストンの往復運動を回転運動に変換して動力を取り出すために、クランク軸が不可欠である。クランク軸は、型鍛造または鋳造によって製造できる。高強度と高剛性がクランク軸に要求される場合、鍛造によって製造された鍛造クランク軸が多用される。
【0003】
一般に、鍛造クランク軸の製造では、ビレットを原料とする。そのビレットの断面は丸形または角形であり、断面積が全長にわたって一定である。鍛造クランク軸の製造工程は、予備成形工程、型鍛造工程、バリ抜き工程を含む。また、最終製品の寸法形状にするための矯正が必要な場合には、バリ抜き工程の後に整形加工を行う整形工程が加わる。通常、予備成形工程は、ロール成形工程と曲げ打ち工程を含み、型鍛造工程は、荒打ち工程と仕上げ打ち工程を含む。
【0004】
図1A〜
図1Fは、従来の一般的な鍛造クランク軸の製造工程を説明するための模式図である。
図1Fに例示するクランク軸1は、4気筒エンジンに搭載され、4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸である。そのクランク軸1は、5つのジャーナル部J1〜J5、4つのピン部P1〜P4、フロント部Fr、フランジ部Fl、および、8枚のクランクアーム部(以下、単に「アーム部」ともいう)A1〜A8から構成される。アーム部A1〜A8はそれぞれ、ジャーナル部J1〜J5とピン部P1〜P4をつなぐ。また、8枚の全てのアーム部A1〜A8は、カウンターウエイト部(以下、単に「ウエイト部」ともいう)W1〜W8を一体で有する。
【0005】
4つのピン部P1〜P4は、いずれも、ジャーナル部J1〜J5に対して偏心している。ピン部P1〜P4の位相は、クランク軸1の長手方向の中央のジャーナル部J3を中心に面対称となるように適宜設定される。このため、中央のジャーナル部J3と繋がるアーム部A4、A5は、ジャーナル部J3を中心に面対称となる。すなわち、2つのアーム部A4、A5は、いずれも、同一のジャーナル部J3と繋がるとともに同位相のピン部P2、P3と繋がる。
【0006】
以下では、ジャーナル部J1〜J5、ピン部P1〜P4、アーム部A1〜A8およびウエイト部W1〜W8のそれぞれを総称するとき、その符号は、ジャーナル部で「J」、ピン部で「P」、アーム部で「A」、ウエイト部で「W」とも記す。ピン部Pおよびこのピン部Pにつながる一組のアーム部A(ウエイト部Wを含む)をまとめて「スロー」ともいう。
【0007】
図1A〜
図1Fに示す製造方法では、以下のようにして鍛造クランク軸1が製造される。先ず、
図1Aに示すような所定の長さのビレット2を加熱炉(例えば誘導加熱炉またはガス雰囲気加熱炉)によって加熱した後、ロール成形を行う。ロール成形工程では、例えば孔型ロールを用いてビレット2を圧延して絞る。これにより、ビレット2の体積を長手方向に配分し、中間素材であるロール荒地3を得る(
図1B参照)。次に、曲げ打ち工程では、ロール荒地3を長手方向に垂直な方向から部分的に圧下する。これにより、ロール荒地3の体積を配分し、更なる中間素材である曲げ荒地4を得る(
図1C参照)。
【0008】
続いて、荒打ち工程では、曲げ荒地4を上下に一対の金型を用いて圧下することにより、荒鍛造材5を得る(
図1D参照)。荒鍛造材5はクランク軸(最終製品)のおおよその形状を有する。さらに、仕上げ打ち工程では、荒鍛造材5を上下に一対の金型を用いて圧下することにより仕上げ鍛造材6を得る(
図1E参照)。仕上げ鍛造材6は最終製品のクランク軸とほぼ合致する形状を有する。これら荒打ちおよび仕上げ打ち工程では、余材が、互いに対向する金型の型割面の間から流出し、バリとなる。このため、荒鍛造材5および仕上げ鍛造材6では、バリ5a、6aがクランク軸の形状の周囲に大きく付いている。
【0009】
バリ抜き工程では、例えば、バリ6a付きの仕上げ鍛造材6を一対の金型によって保持した状態で、刃物型によってバリ6aを打ち抜く。これにより、仕上げ鍛造材6からバリ6aを除去する。このようにして、バリが除去された鍛造材(以下、「バリ無し鍛造材」ともいう)が得られる。バリ無し鍛造材は、
図1Fに示す鍛造クランク軸1とほぼ同じ形状である。バリ無し鍛造材は、鍛造クランク軸の複数のジャーナル部J、複数のピン部P、複数のアーム部Aおよびウエイト部Wのそれぞれに対応する、複数の粗ジャーナル部J’、複数の粗ピン部P’、複数の粗クランクアーム部A’および粗ウエイト部W’を備える。
【0010】
整形工程では、バリ無し鍛造材の要所を上下から金型で僅かに圧下し、バリ無し鍛造材を最終製品の寸法形状に矯正する。ここで、バリ無し鍛造材の要所は、例えば、粗ジャーナル部J’、粗ピン部P’、粗アーム部A’および粗ウエイト部W’である。さらには、バリ無し鍛造材の要所は、クランク軸のフロント部Fr、およびフランジ部Flに対応する粗フロント部、および粗フランジ部である。こうして、鍛造クランク軸1が製造される。
【0011】
図1A〜
図1Fに示す製造工程は、
図1Fに示す4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸に限らず、様々なクランク軸に適用できる。例えば、
図1A〜
図1Fに示す製造工程は、4気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸にも適用できる。
【0012】
ここで、4気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸では、8枚のアーム部Aのうち、一部のアーム部にウエイト部Wを設ける。例えば先頭の第1アーム部A1、最後尾の第8アーム部A8、および中央の2枚のアーム部(第4アーム部A4、第5アーム部A5)にウエイト部Wが一体で設けられる。
【0013】
図1A〜
図1Fに示す製造工程は、3気筒エンジン、直列6気筒エンジン、V型6気筒エンジン、8気筒エンジン等に搭載されるクランク軸の製造にも、適用できる。なお、ピン部の配置角度の調整が必要な場合は、バリ抜き工程の後に、捩り工程が追加される。
【0014】
ここで、
図1A〜
図1Fに示す製造工程における整形工程の処理フロー例について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
図2A〜
図2Dは、従来の整形工程の処理フロー例を示す模式図である。
図2Aはバリ無し鍛造材を搬入した状態、
図2Bはバリ無し鍛造材を圧下した状態、
図2Cは上型を上昇させた状態、
図2Dはバリ無し鍛造材の搬出時の状態をそれぞれ示す。
図2A〜
図2Dには、整形加工を施すための製造装置10と、被加工材であるバリ無し鍛造材70とを示す。
【0016】
図2A〜
図2Dに示す製造装置10は、上下に一対の第1金型20および第2金型30と、搬入用ロボットアーム13(
図2A参照)と、搬出用ロボットアーム14(
図2D参照)と、ノックアウト部材15とを備える。第1金型20および第2金型30は、バリ無し鍛造材70に対して整形加工を施す。ノックアウト部材15は、整形加工済みの鍛造材を離型させる。
【0017】
このような製造装置10を用いる整形加工では、第1金型20と第2金型30とを離間した状態で、下型の第1金型20上に搬入用ロボットアーム13によってバリ無し鍛造材70を搬入する(
図2A参照)。
【0018】
この状態で、第1金型20と第2金型30を近接させてバリ無し鍛造材70を圧下する。これにより、バリ無し鍛造材70に整形加工を施す(
図2B参照)。その後、第1金型20と第2金型30とを離間させる(
図2C参照)。
【0019】
続いて、昇降装置(図示なし)によってノックアウト部材15を上昇させ、バリ無し鍛造材70を離型させる。加工済みの鍛造材71を搬出用ロボットアーム14によって取り出し、次工程に搬送する。
【0020】
近年、特に自動車用のレシプロエンジンには、燃費の向上のために軽量化が求められている。このため、レシプロエンジンに搭載されるクランク軸にも、軽量化の要求が著しくなっている。鍛造クランク軸の軽量化を図る従来技術としては、下記のものがある。
【0021】
特許文献1および2には、ジャーナル部側の表面に穴部が成形されたアーム部が記載されている。穴部が成形されたアーム部を有するクランク軸の製造方法も記載されている。アーム部の穴部は、ジャーナル部の軸心とピン部の軸心とを結ぶ直線(以下、「アーム部中心線」ともいう)上に成形され、ピン部に向けて深く窪む。これにより、穴部の体積分、アーム部が軽量化される。アーム部の軽量化は、アーム部と対をなすウエイト部の質量軽減につながり、ひいては鍛造クランク軸全体の軽量化につながる。また、穴部が成形されたアーム部は、アーム部中心線を間に挟むピン部近傍の両側部で厚みが厚くされていることから、剛性(ねじり剛性および曲げ剛性)も確保される。
【0022】
このように、アーム部の両側部の厚みを厚くし、アーム部のジャーナル部側の表面に凹みを持たせれば、軽量化と剛性確保を同時に図ることができる。
【0023】
ただし、そのような独特な形状のアーム部を有する鍛造クランク軸は、従来の製造方法によって製造することが困難である。型鍛造工程において、アーム部表面に凹みを成形しようとすれば、凹み部位の金型の型抜き勾配が逆勾配になるからである。この場合、成形された鍛造材が金型から抜けなくなる事態が生じる。
【0024】
そのような事態に対処するため、特許文献1および2に記載された製造方法では、型鍛造工程において、アーム部表面に凹みを成形することなくアーム部を小さく成形する。また、バリ抜き工程の後に、粗アーム部の表面にパンチを押し込み、そのパンチの痕跡によって凹みを成形する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置は、鍛造クランク軸の製造過程で、バリが除去された鍛造材に加工を施す。鍛造クランク軸は、回転中心となる複数のジャーナル部と、そのジャーナル部に対して偏心した複数のピン部と、ジャーナル部とピン部をつなぐ複数のクランクアーム部と、を有する。鍛造材は、鍛造クランク軸の複数のジャーナル部、複数のピン部および複数のクランクアーム部のそれぞれに対応する、複数の粗ジャーナル部、複数の粗ピン部および複数の粗クランクアーム部を備える。鍛造材の複数の粗クランクアーム部のうちの少なくとも一部が、粗クランクアーム部の側部の外周から突出する余肉部を有する。製造装置は、対をなす第1金型および第2金型と、保持装置と、移動装置と、を備える。第1金型および第2金型は、余肉部に対し折り曲げ加工または押し潰し加工を施す。保持装置は、粗ピン部の偏心方向が第1金型と第2金型とによる圧下方向に対し垂直になるように鍛造材の複数の粗ジャーナル部のうちの一部の粗ジャーナル部または複数の粗ピン部のうちの一部の粗ピン部を少なくとも保持する。移動装置は、保持装置を圧下方向に沿って移動可能に支持する。
【0037】
移動装置は、第1金型および第2金型のいずれとも鍛造材が当接する状態で、鍛造材を第1金型と第2金型との間の中央に位置するように保持装置を移動させるのが好ましい。
【0038】
上記の製造装置において、保持装置は、一対の第3金型と、ホルダーと、を備えるのが好ましい。この場合、第3金型は、粗ジャーナル部または粗ピン部を両側から挟んで支持する。ホルダーは、第3金型を離間または近接可能に保持する。移動装置は、圧下方向に沿って伸縮可能な第1弾性体を備える。第1弾性体は、第1金型とホルダーとを接続する。
【0039】
上記の製造装置において、移動装置は、圧下方向に沿って伸縮可能な第2弾性体をさらに備えるのが好ましい。この場合、第2弾性体は、第2金型とホルダーとを接続および分離可能である。さらに、上記の製造装置は、鍛造材に整形加工を施すのが好ましい。
【0040】
本実施形態の鍛造クランク軸の製造方法は、回転中心となる複数のジャーナル部と、そのジャーナル部に対して偏心した複数のピン部と、ジャーナル部とピン部をつなぐ複数のクランクアーム部と、を有する鍛造クランク軸の製造方法である。製造方法は、第1工程と、第2工程と、を含む。第1工程では、バリが除去された鍛造材を得る。鍛造材は、鍛造クランク軸の複数のジャーナル部、複数のピン部および複数のクランクアーム部のそれぞれに対応する、複数の粗ジャーナル部、複数の粗ピン部および複数の粗クランクアーム部を備える。鍛造材の複数の粗クランクアーム部のうちの少なくとも一部が粗クランクアーム部の側部の外周から突出する余肉部を有する。第2工程では、バリが除去された鍛造材の余肉部に対し、折り曲げ加工または押し潰し加工を行う。第2工程では、上記の製造装置を用いる。第2工程では、余肉部を変形させてクランクアーム部の側部の厚みを増加させる。
【0041】
上記の製造方法において、余肉部は、粗クランクアーム部の粗ピン部近傍の側部の外周から突出する第1余肉部を含んでもよい。この場合、第2工程では、第1余肉部を変形させることにより、クランクアーム部のピン部近傍の厚みを増加させる。
【0042】
上記の製造方法において、余肉部は、粗クランクアーム部の粗ジャーナル部近傍の側部の外周から突出する第2余肉部を含んでもよい。この場合、第2工程では、第2余肉部を変形させることにより、クランクアーム部のジャーナル部近傍の厚みを増加させる。
【0043】
上記の製造方法において、第2工程では、鍛造材に整形加工を施すのが好ましい。
【0044】
以下に、本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置および製造方法を整形工程で適用した場合について、図面を参照しながら説明する。
【0045】
1.クランク軸の形状
本実施形態の鍛造クランク軸は、回転中心となるジャーナル部と、そのジャーナル部に対して偏心したピン部と、ジャーナル部とピン部をつなぐクランクアーム部と、を有する。鍛造クランク軸はジャーナル部、ピン部およびアーム部それぞれを複数有する。このような鍛造クランク軸として、
図3A〜
図3Dに示す第1構成例の鍛造クランク軸を採用できる。また、
図5Aおよび
図5Bに示す第2構成例の鍛造クランク軸、および、
図7A〜
図7Dに示す第3構成例の鍛造クランク軸を採用することもできる。
【0046】
図3A〜
図3Dは、本発明の第1構成例における整形加工後のクランク軸のアーム部形状を示す模式図である。
図3Aは斜視図、
図3Bはジャーナル部側から見たときの正面図、
図3Cは側面図、
図3Dは
図3B中のIIID−IIID線での断面図である。
図3A〜
図3Dでは、クランク軸のアーム部(ウエイト部を含む)の1つを代表的に抽出して示しており、残りのクランク軸のアーム部を省略する。また、
図3Cは、
図3B中の破線矢印で示す方向から見た図である。
【0047】
第1構成例のアーム部Aにおいて、
図3A〜
図3Dに示すように、ジャーナル部J側の表面のうち、ピン部P近傍の両側部Aa、Abの内側の領域Asは、凹みを有する。一方、ピン部P近傍の両側部Aa、Abは、ジャーナル部J側に張り出している。両側部Aa、Abの厚みは、その内側領域であるAsの凹みの厚みと比べ、厚い。
【0048】
このような第1構成例のアーム部Aは、ピン部P近傍の両側部Aa、Abの厚みが厚くされるとともに、ジャーナル部J側の表面に凹みが成形されている。このため、本実施形態による鍛造クランク軸は、アーム部Aの凹みによって軽量化を図ることができる。加えて、アーム部Aの両側部Aa、Abの厚みを厚くすることによって剛性の確保を図ることができる。
【0049】
第1構成例では、アーム部Aのピン部P近傍の両側部Aa、Abの厚みが厚い場合を示す。しかしながら、アーム部Aのピン部P近傍の一方の側部のみの厚みが厚くてもよい。この場合であっても、アーム部Aの側部の厚みが厚くされるためアーム部の剛性は確保される。
【0050】
図3A〜
図3Dに示す第1構成例では、アーム部がウエイト部を有する場合を説明した。第1構成例のアーム部は、複数のアーム部のうちの全てのアーム部に採用されてもよい。第1構成例のアーム部は、複数のアーム部のうちの一部のアーム部に採用されてもよい。第1構成例が採用されるアーム部以外のアーム部の構成は、特に限定されない。例えば、第1構成例が採用されるアーム部以外のアーム部は、ウエイト部を有していてもよいし、ウエイト部を有していなくてもよい。第1構成例が採用されるアーム部以外のアーム部には、後述する第2構成例及び第3構成例のうちの少なくとも一方が採用されてもよい。
【0051】
図4A〜
図4Dは、本発明の第1構成例における整形加工前のバリ無し鍛造材の粗アーム部形状を示す模式図である。
図4Aは斜視図、
図4Bは粗ジャーナル部側から見たときの正面図、
図4Cは側面図、
図4Dは
図4B中のIVD−IVD線での断面図である。
図4A〜
図4Dでは、バリ無し鍛造材の粗アーム部(粗ウエイト部を含む)の1つを代表的に抽出して示しており、残りの粗アーム部を省略する。また、
図4Cは、
図4B中の破線矢印で示す方向から見た図である。
【0052】
整形加工前の粗アーム部A’において、
図4A〜
図4Dに示すように、粗ジャーナル部J’側の表面のうち、粗ピン部P’近傍の両側部Aa’、Ab’の内側領域Asは、整形加工後の最終製品形状と合致する表面形状を持つ。その表面形状は粗ピン部P’近傍の両側部Aa’、Ab’の領域まで滑らかに広がっている。粗アーム部A’の両側部Aa’、Ab’の厚みは整形加工後の最終製品の厚みよりも薄い。
【0053】
さらに、粗ピン部P’近傍の両側部Aa’、Ab’には、それぞれの外周から突出する余肉部Aaa、Abaが形成される。以下では、粗アーム部A’の粗ピン部P’近傍の側部に形成される余肉部を第1余肉部という。この第1余肉部Aaa、Abaは、板状であり、粗ピン部P’近傍の両側部Aa’、Ab’の外周に沿って設けられる。第1余肉部Aaa、Abaの厚みは、その根元の両側部Aa’、Ab’の厚みと比べ、同程度であるか又は薄い。
【0054】
第1構成例のバリ無し鍛造材では、全ての粗アーム部A’が第1余肉部Aaa、Abaを有してもよいし、一部の粗アーム部A’が第1余肉部Aaa、Abaを有してもよい。第1構成例では、粗アーム部A’が2つの第1余肉部Aaa、Abaを有する場合を示す。しかしながら、粗アーム部A’は1つの第1余肉部のみを有してもよい。この場合、製造されたクランク軸のアーム部の一方の側部の厚みが厚くなる。
【0055】
図4A〜
図4Dに示す第1構成例では、粗アーム部が粗ウエイト部を有する場合を説明した。第1構成例の粗アーム部は、複数の粗アーム部のうちの全ての粗アーム部に採用されてもよい。第1構成例の粗アーム部は、複数の粗アーム部のうちの一部の粗アーム部に採用されてもよい。第1構成例が採用される粗アーム部以外の粗アーム部の構成は、特に限定されない。例えば、第1構成例が採用される粗アーム部以外の粗アーム部は、粗ウエイト部を有していてもよいし、粗ウエイト部を有していなくてもよい。第1構成例が採用される粗アーム部以外の粗アーム部には、側部の厚みが厚くない粗アーム部が採用されてもよい。さらに、第1構成例が採用される粗アーム部以外の粗アーム部には、後述する第2構成例及び第3構成例のうちの少なくとも一方が採用されてもよい。すなわち、クランク軸の構成に対応してバリ無し鍛造材の形状は決まる。
【0056】
第1構成例では、余肉部が粗アーム部A’の粗ピン部P’近傍の側部の外周に設けられる場合を示す。しかしながら、余肉部は粗アーム部A’の粗ジャーナル部J’近傍の側部の外周に設けられてもよい。この場合、製造されたクランク軸のアーム部のジャーナル部近傍の側部の厚みが厚くなる。以下では、粗アーム部A’の粗ジャーナル部J’近傍の側部に形成される余肉部を第2余肉部という。
【0057】
図5Aおよび
図5Bは、本発明の第2構成例における整形加工後のクランク軸のアーム部形状を示す模式図である。
図5Aはピン部側から見たときの正面図、
図5Bは
図5A中のVB−VB線での断面図である。第2構成例のクランク軸は、複数のアーム部を有し、そのうちの一部のアーム部にウエイト部が設けられない。
図5Aおよび
図5Bには、ウエイト部が設けられていないアーム部の1つを代表的に抽出して示しており、残りのクランク軸のアーム部を省略する。
【0058】
第2構成例のアーム部Aは、図示を省略するが、上記の第1構成例と同じく、ピン部P近傍の両側部の厚みが厚くされるとともに、ジャーナル部J側の表面に凹みが成形されている。加えて、第2構成例のアーム部Aは、
図5Aおよび
図5Bに示すように、ピン部P側の表面のうち、ジャーナル部J近傍の両側部Ac、Adの内側の領域Atに、もう一つの凹みを有する。一方、ジャーナル部J近傍の両側部Ac、Adは、ピン部P側に張り出している。それらの両側部Ac、Adの厚みは、その内側領域であるAtの凹みの厚みと比べて、厚い。
【0059】
このような第2構成例のアーム部Aは、ピン部P近傍の両側部の厚みが厚くされるとともに、ジャーナル部J側の表面に凹みが成形されている。さらに、ジャーナル部J近傍の両側部Ac、Adの厚みが厚くされるとともに、ピン部P側の表面にもう一つの凹みが成形されている。このため、第2構成例による鍛造クランク軸は、アーム部Aのジャーナル部J側およびピン部P側の2つの凹みによって軽量化をさらに図ることができる。加えて、ピン部P近傍の両側部およびジャーナル部J近傍の両側部Ac、Adの厚みが厚くされることによって剛性の確保を図ることができる。
【0060】
第2構成例では、アーム部Aのピン部P近傍の両側部およびジャーナル部J近傍の両側部Ac、Adの厚みが厚い場合を示す。しかしながら、アーム部Aのピン部P近傍の一方の側部のみの厚みが厚くてもよいし、アーム部Aのジャーナル部J近傍の一方の側部のみの厚みが厚くてもよい。また、ウエイト部が設けられていない複数のアーム部Aのうちの一部のアーム部Aのピン部P近傍またはジャーナル部J近傍の側部の厚みが厚くてもよい。
【0061】
ウエイト部が設けられない複数のアーム部のうちの全てのアーム部に、第2構成例が採用されてもよい。ウエイト部が設けられない複数のアーム部のうちの一部のアーム部に、第2構成例が採用されてもよい。また、ウエイト部が設けられないアーム部は、上述の第2構成例に限定されない。例えば、ウエイト部が設けられるアーム部に、第1構成例、第3構成例等の構成が採用される場合、ウエイト部が設けられない全てのアーム部の側部の厚みは厚くなくてもよい。
【0062】
図6Aおよび
図6Bは、本発明の第2構成例における整形加工前のバリ無し鍛造材の粗アーム部形状を示す模式図である。
図6Aは粗ピン部側から見たときの正面図、
図6Bは
図6A中のVIB−VIB線での断面図である。
図6Aおよび
図6Bでは、粗ウエイト部が設けられていない粗アーム部の1つを代表的に抽出して示しており、残りの粗アーム部を省略する。
【0063】
整形加工前の粗アーム部A’は、図示を省略するが、上記の第1構成例と同じく、粗ジャーナル部J’側の表面のうち、粗ピン部P’近傍Aa’、Ab’の両側部の内側領域に、整形加工後の最終製品形状と合致する表面形状を有する。さらに、粗ピン部P’近傍の両側部Aa’、Ab’には、上記の第1構成例と同じく、それぞれの外周から突出する第1余肉部Aaa、Abaが形成される。
【0064】
整形加工前の粗アーム部A’は、
図6Aおよび
図6Bに示すように、上記の第1構成例と異なり、粗ピン部P’側の表面のうち、粗ジャーナル部J’近傍の両側部Ac’、Ad’の内側領域Atに、整形加工後の最終製品形状と合致する表面形状を有する。その表面形状は粗ジャーナル部J’近傍の両側部Ac’、Ad’の領域まで滑らかに広がっている。粗ジャーナル部J’近傍の両側部Ac’、Ad’の厚みは、整形加工後の最終製品の厚みよりも薄い。
【0065】
さらに、粗ジャーナル部J’近傍の両側部Ac’、Ad’には、それぞれの外周から突出する第2余肉部Aca、Adaが形成される。この第2余肉部Aca、Adaは、板状であり、粗ジャーナル部J’近傍の両側部Ac’、Ad’の外周に沿って設けられる。第2余肉部Aca、Adaの厚みは、その根元の両側部Ac’、Ad’の厚みと比べ、同程度であるか又は薄い。
【0066】
第2構成例のバリ無し鍛造材では、粗ウエイト部を有さない全ての粗アーム部A’が第2余肉部Aca、Adaを有してもよいし、粗ウエイト部を有さない一部の粗アーム部A’が第2余肉部Aca、Adaを有してもよい。第2構成例では、粗アーム部A’が2つの第1余肉部Aaa、Abaおよび2つの第2余肉部Aca、Adaを有する場合を示す。しかしながら、粗アーム部A’は1つの第1余肉部のみを有してもよいし、1つの第2余肉部のみを有してもよい。第2余肉部が1つの場合、製造されたクランク軸のアーム部のジャーナル部近傍の一方の側部の厚みが厚くなる。また、粗ウエイト部が設けられない複数の粗アーム部のうちの一部の粗アーム部が、第1余肉部及び第2余肉部のいずれか一方のみを有していていてもよい。粗ウエイト部が設けられない複数の粗アーム部のうちの一部の粗アーム部が、第1余肉部及び第2余肉部の両方を有していなくてもよい。
【0067】
粗ウエイト部が設けられない複数の粗アーム部のうちの全ての粗アーム部に、第2構成例が採用されてもよい。粗ウエイト部が設けられない複数の粗アーム部のうちの一部の粗アーム部に、第2構成例が採用されてもよい。また、粗ウエイト部が設けられない粗アーム部は、上述の第2構成例に限定されない。例えば、粗ウエイト部が設けられる粗アーム部に、第1構成例、第3構成例等の構成が採用される場合、粗ウエイト部が設けられない全ての粗アーム部が第1余肉部又は第2余肉部を有していなくてもよい。
【0068】
図7A〜
図7Dは、本発明の第3構成例における整形加工後のクランク軸のアーム部形状を示す模式図である。
図7Aは斜視図、
図7Bはピン部側から見たときの正面図、
図7Cは側面図、
図7Dは
図7B中のVIID−VIID線での断面図である。
図7A〜
図7Dには、クランク軸のアーム部(ウエイト部を含む)の1つを代表的に抽出して示しており、残りのクランク軸のアーム部を省略する。また、
図7Cは、
図7B中の破線矢印で示す方向から見た図である。
【0069】
第3構成例の鍛造クランク軸は、前述の第1構成例と同じく、アーム部において、ピン部P近傍の両側部の厚みが厚くされるとともに、ジャーナル部J側の表面に凹みが成形されている。加えて、第3構成例の鍛造クランク軸は、ウエイト部Wを一体で有するアーム部Aにおいて、ジャーナル部J近傍の両側部Ac、Adの厚みが厚くされるとともに、ピン部P側の表面のうち、ジャーナル部J近傍の両側部Ac、Adの内側領域Atに、もう一つの凹みを有する。
【0070】
このような第3構成例の鍛造クランク軸は、アーム部Aのジャーナル部J側およびピン部P側の2つの凹みによって軽量化をさらに図ることができる。加えて、ピン部P近傍の両側部Aa、Abおよびジャーナル部J近傍の両側部Ac、Adの厚みが厚くされることによって剛性の確保を図ることができる。
【0071】
第3構成例では、ウエイト部を有するアーム部Aのピン部P近傍の両側部Aa、Abおよびジャーナル部J近傍の両側部Ac、Adの厚みが厚い場合を示す。しかしながら、アーム部Aのピン部P近傍の一方の側部のみの厚みが厚くてもよいし、アーム部Aのジャーナル部J近傍の一方の側部のみの厚みが厚くてもよい。
【0072】
第3構成例のアーム部は、複数のアーム部のうちの全てのアーム部に採用されてもよい。第3構成例のアーム部は、複数のアーム部のうちの一部のアーム部に採用されてもよい。
【0073】
図8A〜
図8Cは、本発明の第3構成例における整形加工前のバリ無し鍛造材の粗アーム部形状を示す模式図である。
図8Aは粗ピン部側から見たときの正面図、
図8Bは側面図、
図8Cは
図8A中のVIIIC−VIIIC線での断面図である。
図8A〜
図8Cでは、バリ無し鍛造材の粗アーム部(粗ウエイト部を含む)の1つを代表的に抽出して示しており、残りの粗アーム部を省略する。また、
図8Bは、
図8A中の破線矢印で示す方向から見た図である。
【0074】
第3構成例の整形加工前の粗アーム部A’は、前述の第1構成例と同じく、粗アーム部の粗ジャーナル部J’側の表面のうち、粗ピン部P’近傍の両側部Aa’、Ab’の内側領域に、整形加工後の最終製品形状と合致する表面形状を有する。さらに、粗ピン部P’近傍の両側部Aa’、Ab’には、前述の第1構成例と同じく、それぞれの外周から突出する第1余肉部Aaa、Abaが形成される。
【0075】
加えて、整形加工前のバリ無し鍛造材は、粗ウエイト部W’を一体で有する粗アーム部A’において、粗ピン部P’側の表面のうち、粗ジャーナル部J’近傍の両側部Ac’、Ad’の内側領域Atに、整形加工後の最終製品形状と合致する表面形状を有する。また、粗ウエイト部W’を一体で有する粗アーム部A’において、粗ジャーナル部J’近傍の両側部Ac’、Ad’の外周に第2余肉部Aca、Adaがそれぞれ形成される。第2余肉部Aca、Adaは、いずれも、粗ジャーナル部J’近傍の両側部Ac’、Ad’の外周から突出する。
【0076】
第3構成例のバリ無し鍛造材では、粗ウエイト部を有する全ての粗アーム部A’が第1余肉部Aaa、Abaおよび第2余肉部Aca、Adaを有してもよいし、粗ウエイト部を有する一部の粗アーム部A’が第1余肉部Aaa、Abaおよび第2余肉部Aca、Adaを有してもよい。第3構成例では、粗ウエイト部を有する粗アーム部A’が2つの第1余肉部Aaa、Abaおよび2つの第2余肉部Aca、Adaを有する場合を示す。しかしながら、粗ウエイト部を有する粗アーム部A’は1つの第1余肉部のみを有してもよいし、1つの第2余肉部のみを有してもよい。
【0077】
第3構成例の粗アーム部は、複数の粗アーム部のうちの全ての粗アーム部に採用されてもよい。第3構成例の粗アーム部は、複数の粗アーム部のうちの一部の粗アーム部に採用されてもよい。第3構成例が採用される粗アーム部以外の粗アーム部の構成は、特に限定されない。すなわち、クランク軸の構成に対応してバリ無し鍛造材の形状は決まる。
【0078】
第1〜第3構成例では、本実施形態の製造装置に適用されるバリ無し鍛造材の粗アーム部の構成を例示した。しかしながら、本実施形態の製造装置に適用される粗アーム部の構成は第1〜第3構成例に限定されない。要するに、下型上にバリ無し鍛造材を配置する際に姿勢が安定しないバリ無し鍛造材であればよい。すなわち、本実施形態の製造装置が適用されるバリ無し鍛造材は、複数の粗アーム部の少なくとも1つに、第1余肉部又は第2余肉部が少なくとも1つ設けられればよい。
【0079】
2.鍛造クランク軸の製造装置
図9は、本発明の鍛造クランク軸の製造装置の構成例を模式的に示す断面図である。
図9に示す製造装置10は、第1金型20、第2金型30、保持装置50、移動装置60およびノックアウト部材15を備える。以下では、整形工程において本実施形態の製造装置を用いる場合について説明する。
【0080】
図9に示す下型の第1金型20と上型の第2金型30は、対をなし、バリ無し鍛造材に対して整形加工を施す。さらに、第1金型20と第2金型30は、突出する余肉部の折り曲げ加工または押し潰し加工を施す。そのため、第1金型20および第2金型30には型彫刻部が彫り込まれている。それらの型彫刻部には、クランク軸の形状のうちの一部を除いた形状が反映されている。
【0081】
具体的には、アーム部のジャーナル部側の表面に凹みを形成する場合(
図3A〜
図3D参照)、型彫刻部には、アーム部のジャーナル部側の表面における凹みが反映されない。また、アーム部のピン部側の表面に凹みを形成する場合(
図5A、
図5Bおよび
図7A〜
図7D参照)、型彫刻部には、アーム部のピン部側の表面における凹みが反映されない。これらの凹みの形状を型彫刻部に反映すると、型彫刻部の一部が逆勾配となるからである。
【0082】
第3金型53を収容するため、第1金型20および第2金型30には、それぞれ開放部20a、30aが設けられる。その開放部20a、30aは、ピン部の偏心方向に沿って大きく開放されている。また、下型の第1金型20は、ノックアウト部材15を収容するため、第1金型20の下方向に大きく開放されている。
【0083】
保持装置50は、バリ無し鍛造材の複数の粗ジャーナル部のうちの一部の粗ジャーナル部または複数の粗ピン部のうちの一部の粗ピン部を少なくとも保持する。保持装置50によって保持されるバリ無し鍛造材の粗ピン部の偏心方向は、第1金型20と第2金型30とによる圧下方向(
図9では上下方向)と垂直になる。
【0084】
図9に示す保持装置50は、第3金型53と、ホルダー51とを備える。第3金型53は、一対の金型である。第3金型53は、保持される粗ジャーナル部または粗ピン部を両側から挟んで保持する。ホルダー51は、圧下方向と垂直な方向(
図9のハッチングを施した矢印参照)に沿って第3金型53を離間または近接可能に保持する。この第3金型53の移動は、例えば油圧シリンダ52によって実現することができる。
【0085】
移動装置60は、保持装置50を圧下方向に沿って移動可能に支持する。
図9に示す移動装置60は、第1弾性体61および第2弾性体62を備える。第1弾性体61は、第1金型20とホルダー51とを接続する。すなわち、第1弾性体61の一端が第1金型20と連結され、他端がホルダー51と連結される。また、第1弾性体61は、圧下方向に沿って伸縮可能である。このような第1弾性体61として、例えば、コイルばねやエアシリンダを用いることができる。本実施形態では、第1弾性体61が第1金型20と直接接続されている場合を説明した。しかしながら、第1弾性体61は第1金型20を支持する製造装置のベッド等(図示なし)の他の部品と接続されていてもよい。
【0086】
第2弾性体62の一端は第2金型30と連結され、他端は当接することによってホルダー51と連結可能である。第2弾性体62は、第2金型30とホルダー51とを接続および分離可能である。すなわち、
図9に示す第2弾性体62の他端はホルダー51と当接することによって接続され、他端がホルダー51と離間することによって分離される。また、第2弾性体62は、圧下方向に沿って伸縮可能である。このような第2弾性体62として、例えば、コイルばねやエアシリンダを用いることができる。本実施形態では、第2弾性体62が第2金型30と直接接続されている場合を説明した。しかしながら、第2弾性体62は第2金型30を支持する製造装置のラム等(図示なし)の他の部品と接続されていてもよい。要するに、保持装置50は第2金型30と連動して移動できるように支持されればよい。
【0087】
第2弾性体62が第2金型30とホルダー51とを接続している状態では、第2金型30の圧下方向の移動に伴う第1弾性体61の伸縮量は、第2弾性体62の伸縮量と同じになるように移動装置60によって調整される。このため、保持装置50は、バリ無し鍛造材を第1金型20と第2金型30との間の中央に位置するように移動できる。一方、第2弾性体62が第2金型30とホルダー51とを分離している状態では、第2金型30が圧下方向に移動しても、第1金型20と保持装置50によって保持されるバリ無し鍛造材との距離は一定となる。
【0088】
図9に示すノックアウト部材15は、第1金型(下型)20内に配置され、昇降装置(図示なし)によって圧下方向に沿って移動可能である。また、ノックアウト部材15は、バリ無し鍛造材の粗ジャーナル部を受け入れるための凹部を有する。このようなノックアウト部材15は、その一部の図示を省略するが、2個以上設けられ、複数の粗ジャーナル部および粗ピン部のうちの一部を支持する。これにより、バリ無し鍛造材が製造装置10に載置される。
【0089】
続いて、本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置を用いる場合の整形工程の処理フロー例について、図面を参照しながら説明する。
【0090】
図10は、本発明の鍛造クランク軸の製造装置を用いる場合の整形工程の処理フロー例を模式的に示す断面図である。
図10Aはバリ無し鍛造材が製造装置に載置された状態、
図10Bはノックアウト部材が退避している状態、
図10Cは第2弾性体がホルダーと接続している状態、
図10Dは第2金型が下死点に到達した状態、
図10Eは第3金型が離間した状態、
図10Fは第2金型が上死点に到達した状態、
図10Gはノックアウト部材が上昇した状態をそれぞれ示す。
図10A〜
図10Gは、
図9に示す鍛造クランク軸の製造装置を用いる場合の処理フロー例を示す。図面の理解を容易にするため、バリ無し鍛造材70の余肉部を省略して示す。
【0091】
図10A〜
図10Gに示す処理フロー例では、整形工程を行うにあたり、第2金型(上型)30を上死点に位置させる。また、ノックアウト部材15を上昇させるとともに、一対の第3金型53を離間し、退避させる。この状態で、搬入用ロボットアーム13により、被加工材であるバリ無し鍛造材70を、ノックアウト部材15上に載置する(
図10A参照)。
【0092】
続いて、一対の第3金型53を接近する方向に移動させ、第3金型53でバリ無し鍛造材70の粗ジャーナル部および粗ピン部のうちの少なくとも一方をその両側から挟む。このように第3金型53によってバリ無し鍛造材70を保持した状態で、ノックアウト部材15を下降させて退避させる(
図10B参照)。
【0093】
ノックアウト部材15を退避させた後、第1金型20および第2金型30によるバリ無し鍛造材70の圧下を開始する。
図10A〜
図10Gに示す処理フロー例では、第2金型(上型)30を下降させる。第2金型30が下降する前、第2金型30は第1金型20と十分に距離を有し、第2金型30はホルダー51と分離している。そのため、ホルダー51、第3金型53およびバリ無し鍛造材70は、いずれも、移動することなく、第1金型20との距離が一定で維持される。第2金型30の下降に伴い、第1金型20からホルダー51までの距離が第2金型30からホルダー51までの距離と等しくなると、第2弾性体62の下端がホルダー51と当接する。これにより、第2金型30とホルダー51とが第2弾性体62によって接続される(
図10C参照)。
【0094】
第2金型30がホルダー51と第2弾性体62によって接続された状態から、第2金型30をさらに下降させると、第1弾性体61および第2弾性体62が縮む。第2金型30の下降による第1弾性体61および第2弾性体62の縮み量は同じになるように調整されている。そのため、第1金型20からホルダー51までの距離は第2金型30からホルダー51までの距離と等しい状態が維持される。すなわち、ホルダー51、第3金型53およびバリ無し鍛造材70は、第1金型20と第2金型30との間の中央に常に位置する。
【0095】
一方、バリ無し鍛造材70は、第2金型30の下降に伴い、第1金型20および第2金型30のいずれとも当接し、圧下される。これにより、バリ無し鍛造材70に対して整形加工が施される。また、バリ無し鍛造材70は突出する余肉部(図示なし)を有するので、その余肉部に折り曲げ加工または押し潰し加工が施される。
【0096】
第2金型30は、
図10Dに示すように下死点に到達する。このとき、一対の第3金型53を離間するように移動させる(
図10E参照)。これにより、保持装置50はバリ無し鍛造材70を保持しなくなる。その際、バリ無し鍛造材70は、第1金型20および第2金型30によって圧下された状態が維持される。本実施形態では、第2金型30が下死点に到達したとき、第3金型53を離間するように移動させる場合を説明した。しかしながら、第2金型30が下死点に到達後、上昇を開始した後に第3金型53を離間するように移動させてもよい。
【0097】
続いて、
図10Fに示すように、第2金型30を上死点まで上昇させる。その際、バリ無し鍛造材70は、上昇することなく、第1金型20上に留まる。また、第2金型30がホルダー51と第2弾性体62によって接続されている間、ホルダー51は、第1金型20と第2金型30との間の中央に位置するように上昇する。その後、第2金型30がホルダー51と分離する。その状態では、ホルダー51は上昇することなく、その位置に留まる。
【0098】
第2金型30が上死点に到達した時点で、ノックアウト部材15を上昇させることにより、加工済みの鍛造材71を第1金型20から離型させる。これに伴い、加工済みの鍛造材71の粗ピン部および粗ジャーナル部のうちの少なくとも一方がノックアウト部材15の凹部に支持される。ノックアウト部材15とともに加工済みの鍛造材71が上昇する。続いて、搬出用ロボットアーム14が、加工済みの鍛造材71を取り出す(
図10G参照)。
【0099】
このように本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置は、保持装置50を備える。そのため、余肉部を有するバリ無し鍛造材70であっても所定の姿勢で保持することができる。また、移動装置60を備えるので、所定の姿勢で保持されたバリ無し鍛造材70を第1金型20および第2金型30で圧下できる。これらから、所望の整形加工とともに余肉部の折り曲げ加工または押し潰し加工をバリ無し鍛造材70に安定して施すことができる。このため、鍛造材のねじれといった不具合を防止することができる。
【0100】
図9に示す構成例では、製造装置10が第2弾性体62を備える形態を示した。しかしながら、本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置では、第2弾性体を設けない形態も採用できる。この場合、バリ無し鍛造材70が第2金型30と当接して押し下げられた後、第1金型20とも当接して圧下される。その過程でも、バリ無し鍛造材70は、第3金型53によって所定の姿勢で保持されることから、所望の整形加工および余肉部の折り曲げ加工または押し潰し加工をバリ無し鍛造材70に安定して施すことができる。
【0101】
移動装置60は、
図10A〜
図10Gに示すように、第1金型20および第2金型30のいずれともバリ無し鍛造材70が当接する状態で、バリ無し鍛造材70を第1金型20と第2金型30との間の中央に位置するように保持装置50を移動させるのが好ましい。バリ無し鍛造材70を第1金型20と第2金型30とで均一に圧下することによって加工精度を向上できるからである。
【0102】
保持装置50は、
図9に示すような、一対の第3金型53と、ホルダー51とを備える構成を採用できる。移動装置60は、第1弾性体61を備える構成を採用できる。一対の第3金型53は、バリ無し鍛造材の粗ジャーナル部および粗ピン部の全部を支持してもよい。また、バリ無し鍛造材の粗ピン部の偏心方向が圧下方向と垂直になるようにバリ無し鍛造材を保持できれば、複数の粗ジャーナル部および粗ピン部の全部を支持しなくてもよい。例えば、第3金型53は、バリ無し鍛造材の全ての粗ジャーナル部のみを保持してもよい。第3金型53は、バリ無し鍛造材の全ての粗ピン部のみを保持してもよい。また、第3金型53が粗ジャーナル部のみを保持する場合であっても、第3金型53は複数の粗ジャーナル部のうちの一部の粗ジャーナル部のみを保持してもよい。第3金型53が粗ピン部のみを保持する場合であっても、第3金型53は複数の粗ピン部のうちの一部の粗ピン部のみを保持してもよい。さらに、第3金型53は、複数の粗ジャーナル部のうちの一部の粗ジャーナル部と複数の粗ピン部のうちの一部の粗ピン部を保持してもよい。要するに、バリ無し鍛造材の姿勢を制御できるのであれば、第3金型53が保持する粗ジャーナル部又は粗ピン部の数は、限定されない。
【0103】
移動装置60によってバリ無し鍛造材70を第1金型20と第2金型30との間の中央に位置させる場合、移動装置60は、第2弾性体62をさらに備える構成を採用できる。この構成の場合、第2弾性体62は、第2金型30とホルダー51とを接続および分離可能である。第2弾性体62は圧下方向に沿って伸縮可能である。
図9に示す構成例では、第2弾性体62の一端がホルダー51と当接可能に設けられる形態を示した。しかしながら、本実施形態の製造装置では、他の形態を採用することもできる。例えば、第2弾性体62の一端がホルダー51と連結するとともに、他端が第2金型30と当接可能に設けてもよい。
【0104】
移動装置60として、前述の第1および第2弾性体に代えて、伸縮可能な油圧シリンダを用いてもよい。この場合、油圧シリンダの一端を第1金型または第2金型と連結し、他端をホルダー51と連結する。第2金型の下降に応じて油圧シリンダの長さを調整すれば、移動装置60によってバリ無し鍛造材70を第1金型20と第2金型30との間の中央に位置させることができる。
【0105】
本実施形態の製造装置は、前述の第1〜第3構成例の鍛造クランク軸の製造に適用できる。
【0106】
本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置は、粗アーム部の粗ジャーナル部側の表面のうちで粗ピン部近傍の両側部の領域を除く表面と当接する第4金型をさらに備えてもよい。第4金型は、当接する表面の形状を維持する。また、粗ウエイト部を有さない粗アーム部の粗ピン部側の表面のうちで粗ジャーナル部近傍の両側部の領域を除く表面と当接する第5金型をさらに備えてもよい。第5金型は、当接する表面の形状を維持する。粗ウエイト部を有する粗アーム部の粗ピン部側の表面のうちで粗ジャーナル部近傍の両側部の領域を除く表面と当接する第6金型をさらに備えてもよい。第6金型は、当接する表面の形状を維持する。
【0107】
上述の説明では本実施形態の製造装置を整形工程で用いる場合を説明した。しかしながら、本実施形態の製造装置は、整形工程以外にも用いることができる。例えば、整形工程前または整形工程後に別途の加工工程を追加した場合、その加工工程で本実施形態の製造装置を用いてもよい。要するに、本実施形態の製造装置は、バリ無し鍛造材の余肉部を加工する際に使用できる。
【0108】
3.鍛造クランク軸の製造方法
本実施形態の鍛造クランク軸の製造方法は、第1工程と、第2工程とを含む。第1工程および第2工程は熱間で一連に行われる。第1工程では、
図4A〜
図4Dに示すようなバリ無し鍛造材70を得る。そのバリ無し鍛造材70には、クランク軸の形状とほぼ同じ形状が造形される。具体的には、粗ジャーナル部J’、粗ピン部P’および粗アーム部A’の形状が造形されている。また、バリ無し鍛造材70は、粗アーム部A’の粗ピン部P’近傍の両側部Aa’、Ab’それぞれの外周から突出する第1余肉部Aaa、Abaを有する。
【0109】
このようなバリ無し鍛造材を得る第1工程は、例えば、従来の一般的な鍛造クランク軸の製造工程と同様に、予備成形工程、型鍛造工程およびバリ抜き工程をその順で行うことによって構成できる。粗ピン部の配置角度の調整が必要な場合は、バリ抜き工程の後工程として、捩り工程を追加すればよい。
【0110】
第2工程では、第1工程で得られたバリ無し鍛造材の第1余肉部の折り曲げ加工または押し潰し加工を行う。その際、上述の本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置を用いる。また、第1余肉部の折り曲げ加工および押し潰し加工では、第1余肉部Aaa、Abaを変形させてアーム部Aのピン部P近傍の両側部Aa、Abの厚みを増加させる。これにより、
図3A〜
図3Dに示す第1構成例のような軽量化と剛性確保を同時に図ったクランク軸を得ることができる。
【0111】
このような本実施形態の鍛造クランク軸の製造方法は、上述の本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置を用いることから、余肉部の折り曲げ加工または押し潰し加工を安定して行うことができる。このため、得られるクランク軸でねじれといった不具合が発生するのを防止できる。
【0112】
本実施形態の製造方法は、
図5Aおよび
図5Bに示す第2構成例のような鍛造クランク軸の製造に適用できる。第2構成例の鍛造クランク軸は、アーム部Aを複数有する。第2構成例の鍛造クランク軸は、ウエイト部を有さないアーム部A及びウエイト部を有するアーム部を含む。
【0113】
この場合、第1工程では、
図6Aおよび
図6Bに示すような粗ウエイト部を有さない粗アーム部A’に第2余肉部Aca、Adaをさらに有するバリ無し鍛造材を得る。その第2余肉部Aca、Adaは、粗ウエイト部を有さない粗アーム部A’において、粗ジャーナル部J’近傍の両側部それぞれの外周に設けられる。第2余肉部Aca、Adaは、粗ウエイト部を有さない粗アーム部A’において、粗ジャーナル部J’近傍の両側部の外周から突出する。
【0114】
加えて、第2工程では、第1余肉部Aaa、Abaの加工を行う際に、第2余肉部Aca、Adaの折り曲げ加工または押し潰し加工も行う。これにより、粗ウエイト部を有さない粗アーム部A’において、第2余肉部Aca、Adaを変形させる。その結果、クランク軸のジャーナル部J近傍の両側部Ac、Adの厚みが増加する。このため、
図5Aおよび
図5Bに示すような剛性を確保しつつ、より軽量化を図ったクランク軸を得ることができる。
【0115】
本実施形態の製造方法は、
図7A〜
図7Dに示す第3構成例の鍛造クランク軸の製造に適用できる。その鍛造クランク軸は、ウエイト部を一体で有するアーム部のピン部P側の表面のうち、ジャーナル部J近傍の両側部Ac、Adの内側領域Atに、凹みを有する。
【0116】
この場合、第1工程では、前述の第1余肉部Aaa、Abaに加え、粗ウエイト部を有する粗アーム部A’に第2余肉部Aca、Adaをさらに有するバリ無し鍛造材を得る。その第2余肉部Aca、Adaは、粗ウエイト部を有する粗アーム部A’において、粗ジャーナル部J’近傍の両側部Ac’、Ad’の外周にそれぞれ成形される。第2余肉部Aca、Adaは、粗ジャーナル部J’近傍の両側部Ac’、Ad’の外周からいずれも突出する。
【0117】
加えて、第2工程では、第1余肉部Aaa、Abaの加工を行う際に、第2余肉部Aca、Adaの折り曲げ加工または押し潰し加工も行う。これにより、粗ウエイト部を有する粗アーム部A’において、第2余肉部Aca、Adaを変形させる。これにより、クランク軸のジャーナル部J近傍の両側部Ac、Adの厚みが増加する。このため、剛性を確保しつつ、より軽量化を図ったクランク軸を得ることができる。
【0118】
要するに、本実施形態の製造装置および製造方法では、保持装置がバリ無し鍛造材を所定の姿勢に保持する。そのため、バリ無し鍛造材の余肉部を安定して加工できる。したがって、バリ無し鍛造材の余肉部が設けられる位置は特に限定されない。例えば、粗クランクアーム部が、第1余肉部のみを有していてもよいし、第2余肉部のみを有していてもよい。
【0119】
上述の説明では本実施形態の製造方法の第2工程において、バリ無し鍛造材の余肉部を加工する方法を説明した。しかしながら、第2工程では、バリ無し鍛造材の余肉部の加工以外の加工を行ってもよい。例えば、第2工程で、バリ無し鍛造材に対し整形加工を施してもよい。