【実施例1】
【0010】
本実施例では、電力変換装置100が組み込まれたシステムの動作例を説明する。
【0011】
図1は、本実施例における電力変換装置100と交流電動機105のシステム構成図である。
図1において、電力変換装置100は、直流変換部102、直流平滑部103、交流変換部104、電流検出部106、温度検出部107、冷却ファン108、制御部111、縮退運転制御部112、操作部113を有する。なお、各構成部間の信号線は、実際には図示しているよりも複雑となるが、簡単のために、本実施例に関連する部分のみに信号線を記入し、他は省略している。
【0012】
三相交流電源101は、例えば電力会社から供給される三相交流電圧や発電機から供給される交流電圧であり、直流変換部102に出力する。
【0013】
直流変換部102は、例えばダイオードで構成された直流変換回路やIGBTとフライホイールダイオードを用いた直流変換回路で構成され、三相交流電源101から入力された交流電圧を、直流電圧に変換し、
直流平滑部103に出力する。
図1では、ダイオードで構成された直流変換部を示している。
【0014】
直流平滑部103は、直流変換部102から入力された直流電圧を平滑化し、交流変換部104に直流電圧を出力する。例えば発電機の出力が直流電圧の場合、
直流平滑部103は、直流変換部102を介さず、直接発電機から直流電圧を入力されても構わない。
【0015】
交流変換部104は、例えばIGBTとフライホイールダイオードを用いた交流変換回路で構成され、
直流平滑部103の直流電圧と、制御部111のPWM指令を入力とし、直流電圧を交流電圧に変換し、交流電動機105に出力する。
【0016】
電流検出部106は、交流電動機105に流れる電流を検出し、検出した電流情報として制御部111と縮退運転制御部112へ出力する。
【0017】
温度検出部107は、例えばIGBTやダイオードなどの半導体素子の温度を検出し、温度信号として縮退運転制御部112へ出力する。
【0018】
冷却ファン108は、制御部111からの駆動電圧を入力とし、回転数情報を縮退運転制御部112へ出力する。
【0019】
制御部111は、電流検出部106からの電流情報、縮退運転制御部112からの縮退運転制御対象となる温度制御要素、前記温度制御要素の制御量を入力とし、PWM指令を交流変換部104へ、駆動電圧を冷却ファン108へ出力する。
【0020】
縮退運転制御部112は、電流検出部106の電流情報、温度検出部107の温度信号、冷却ファン108からの回転数情報、制御部111からのキャリア周波数、交流電動機105への出力周波数、操作部113が出力した温度制御要素の優先度、制御量の最大値と各温度制御要素の縮退
運転制御の選択設定を入力とし、縮退運転制御対象となる温度制御要素と、その温度制御要素の制御量を制御部111へ出力する。なお、縮退運転とは、パフォーマンスを落として安全な状態で運転を行うことを言う。また、縮退運転制御部112への設定は、例えば電力変換装置に接続されたPCとの通信によって設定されてもよい。
【0021】
操作部113は、例えば、電力変換装置100に搭載されている操作パネルであり、縮退運転制御の温度制御要素の優先度、前記温度制御要素の制御量の最大値または選択設定を縮退運転制御部112へ出力する。なお、操作部113は、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)やPC、タブレット等の外部機器でも良い。
【0022】
図2は、例えば3つの温度制御要素がある場合の優先度の設定例を示したものである。本実施例では、ユーザが、ユーザの要求度が高い、すなわち最後まで動作してほしい温度制御要素を高い数値の優先度に設定する。なお、優先度の付け方は、例えば、ユーザの要求度が低い要素を高い数値に優先度設定してもよい。また、優先度の同じものを複数設定することで、複数の温度制御要素の縮退運転制御を平行して実行しても良い。また、ユーザが、縮退運転制御をしてほしくない場合は、優先度を設定しないことにより、縮退運転制御を動作させない。
【0023】
図2に示すように、本実施例では、縮退運転制御部112は、温度の異常が検知された場合、要素C、要素B、要素Aの順番でそれぞれの温度制御要素に対する縮退運転制御を実行する。実行順番として、要素C、B、Aを、それぞれ、縮退運転制御1,2,3とする。本実施例では、要素Cをキャリア周波数、要素Bを冷却ファン回転数、要素Aを出力周波数として説明する。また、本実施例では、
図2に示すように、要素Dは、縮退運転制御をしない設定としており、ユーザが設定した動作で常に動作し続ける。例えば、要素Dが、出力電流値の制限値である場合、縮退運転制御をしないので、ユーザが設定した出力電流値の制限値で常に動作し続ける。
【0024】
図3は、縮退運転制御部112が
図2で設定した3つの温度制御要素で縮退運転制御を行なう場合に、温度異常が検出された場合のフローチャートの例を示したものである。
【0025】
縮退運転制御部112は、温度異常が検出される前は、いずれの縮退運転制御も実行しておらず、温度異常が検出された場合、縮退運転制御3、すなわち、要素Aは未実行であり(S301)、また縮退運転制御2も未実行である(S302)から、縮退運転制御1、すなわち要素Cとして設定したキャリア周波数制御について実行する(S303)。縮退運転制御部112は、例えば、キャリア周波数が15kHzで設定されている場合、キャリア周波数の低減を開始する。縮退運転制御部112は、温度異常が解除されない場合、例えばユーザが可聴域として感度が高くなる制限値として設定された最大制御量の5kHzまで低減させる。
【0026】
縮退運転制御部112は、縮退運転制御1のキャリア周波数制御量が最大値でないことを判断する(S304)。縮退運転制御部112は、キャリア周波数制御量が最大値となっていない場合、フローチャートを終了し、再び最初から各縮退運転制御の状態を確認後、キャリア周波数制御を継続する。
【0027】
縮退運転制御部112は、キャリア周波数制御量が最大値となっている場合、第2ステップとして、縮退運転制御2、すなわち要素Bとして設定したファンの回転数制御を実行する(S305)。縮退運転制御部112は、例えば、冷却ファンの回転数を3000rpmで制御している場合、冷却ファンの回転数の増大を始める。縮退運転制御部112は、温度異常が解除されない場合、例えば寿命の低下または騒音の増大を制限値として設定された最大制御量の4000rpmまで増大させる。
【0028】
縮退運転制御部112は、縮退運転制御2の冷却ファンの回転数制御量が最大値でないことを判断する(S306)。縮退運転制御部112は、冷却ファンの回転数制御量が最大値となっていない場合、フローチャートを終了し、再び最初から各縮退運転制御の状態を確認後、S302において冷却ファンの回転数制御中と判断し、キャリア周波数制御を行ったまま、縮退運転制御2、すなわちファンの回転数制御を実行する(S305)。
【0029】
縮退運転制御部112は、ファンの回転数制御量が最大値となっている場合、第3ステップとして、縮退運転制御3、すなわち要素Aとして設定した出力周波数制御を実行する(S307)。縮退運転制御部112は、例えば、交流電動機への出力周波数制御を40Hzで制御している場合、出力周波数の低減を始める。縮退運転制御部112は、温度異常が解除されない場合、例えば回転数の低下が許容される値で設定された制限値である最大制御量の10Hzまで低減させる。
【0030】
なお、
図3では、最大3つの温度制御要素を制御する様子を示しているが、温度制御要素が増えても順々に温度制御要素を制御していくことで、さらに温度低減効果が得られる。また、縮退運転制御部112は、縮退運転制御3が最大値となっている場合、電力変換装置100が全ての温度制御要素の制御量を最大値に保持した状態で可能な限り運転を継続するか、あるいは、温度制御範囲異常として電力変換装置100の破損を防ぐためにエラーを出力して保護動作、例えば運転を遮断する等の処理をするかは、ユーザによって予め設定される。
【0031】
また、縮退運転制御部112は、縮退運転中、例えば動作部である表示パネルや信号出力によってユーザに縮退運転中であることを知らせる。
【0032】
また、例えば温度制御要素がキャリア周波数である場合、温度を低減するための制御としては、キャリア周波数を低減することであるが、前記制御量の最大値とは、例えば、技術的な理由により設定されたキャリア周波数の下限リミット値のようにあらかじめ決められた値、また例えば騒音などの理由により顧客が操作部113から設定するキャリア周波数の下限のリミット値等であり、値としては下限であるが、制御量としては最大値であるという意味である。また、制御量の最大値は、制御量の変化する範囲の最大値としても良い。また、制御量の変化範囲の設定値としても良い。
【0033】
なお、温度変化が異常とは、温度の絶対値以外にも、温度の変化幅や変化サイクルも含む。また、温度制御要素の制御は、温度が低くなるように、または、温度の変化幅が小さくなるように、または温度の変化サイクルが長くなるように変化させることでも良い。
【0034】
図4は、温度検出部107で検出された温度が温度異常判定値を超え、温度異常が検出された場合に、
図3のフローチャートに従い縮退運転を行う場合のタイムチャートである。
図4において、温度検出部107からの温度の異常を検知した場合、縮退運転制御部112は、優先度の最も高い要素Cに対し縮退運転制御1を実行し、縮退運転制御1の制御量が最大値に達した場合、要素Cの制御量を最大値に保持した状態で、縮退運転制御2を実行する。また、縮退運転制御部112は、縮退運転制御2の要素Bの制御量が最大値に達した場合、同様の手順で要素Aに対し縮退運転制御3を実行する。
【0035】
図5は、温度検出部107で検出された温度が温度異常判定値を超え、縮退運転制御1、縮退運転制御2、縮退運転制御3が共に実行されている状態において、温度検出部107で検出された温度が異常判定解除値を下回り、温度異常が解除された場合のタイムチャートである。
図5において、縮退運転制御部112は、温度が異常判定解除値を下回ると、縮退運転制御3において要素Aの制御量を最大値から温度に応じて下げていく。縮退運転制御部112は、要素Aの制御量が通常値に戻り、縮退運転制御3が解除された場合、縮退運転制御2において要素Bの制御量を最大値から温度に応じて下げていく。縮退運転制御部112は、要素Bの制御量が通常
値に戻った場合、縮退運転制御1において要素Cの制御量を最大値から温度に応じて下げていく。
【0036】
なお、温度制御要素のその他の例としては、例えば、交流電動機105への出力電流の制御や出力電圧の制御などがある。温度制御要素として出力電流を設定した場合、縮退運転制御部112は、例えば、15Aで制限している出力電流値の低減を始め、温度異常が解除されるまで、トルクを制限してもよい最大の制限値である10Aまで低減させる。また、温度制御要素として出力電圧を設定した場合、縮退運転制御部112は、例えば、50Vで制御している出力電圧値の低減を始め、温度異常が解除されるまで、トルクを制限してもよい最大の制限値である30Vまで低減させる。
【0037】
以上のように、本実施例は、電力変換装置の温度低減方法であって、複数の温度制御要素に対して縮退運転制御を行う優先度を設定し、電力変換装置の温度が温度異常判定値より高い場合、設定された優先度に従って最も優先度の高い温度制御要素の縮退運転制御を実行し、最も優先度の高い温度制御要素の制御量が最大値に達した場合、制御要素の制御量を最大値に保持したまま、次に優先度の高い温度制御要素の縮退運転制御を行うように構成する。
【0038】
また、電力変換装置であって、交流電源の交流電力を直流電力に変換する順変換器と、直流電力を平滑化する直流平滑回路と、平滑化された直流電力を交流電力に逆変換する逆変換器と、逆変換器を冷却する冷却部と、逆変換器へPWM指令を出力し冷却部へ駆動電圧を出力する制御部と、電力変換装置の温度を検出する温度検出部と、複数の温度制御要素を縮退運転制御する縮退運転制御部と、複数の温度制御要素の縮退運転制御を行う優先度を設定する操作部と、を有し、縮退運転制御部は、温度検出部が温度の異常を検出した場合に、設定された優先度に従って最も優先度の高い温度制御要素の縮退運転制御を実行し、最も優先度の高い温度制御要素の制御量が最大値に達した場合、制御要素の制御量を最大値に保持したまま、次に優先度の高い温度制御要素の縮退運転制御を行うように構成する。
【0039】
これにより、損失に影響を与える温度制御要素を効果的に制御することにより、ユーザシステムの機能を可能な限り持続させる方法を提供することができる。
【実施例2】
【0040】
本実施例では、本実施例における電力変換装置の温度制御要素の設定に関して説明する。
【0041】
図6は、電力変換装置の操作部での、温度制御要素の縮退運転制御の優先度設定画面を示した図である。例えば、電力変換装置の操作部は、タッチ入力式表示パネルであって、電力変換装置への各種設定を入力設定可能である。
図6は、表示する機能設定画面を示している。
図6において、本実施例では、温度の異常が検知された場合、種々の温度制御要素に対する縮退運転制御の優先度を設定する。本実施例では、温度制御要素として、キャリア周波数、冷却ファン回転数、出力周波数、出力電流値の制限値を例に説明する。
【0042】
図6に示すように、縮退運転制御の優先度設定画面では、温度制御要素の項目入力画面と、縮退運転制御の優先度の入力設定画面を有する。そして、これらの入力画面に項目または設定値を入力することで、種々の温度制御要素に対する縮退運転制御の優先度を設定する。なお、
図6に示す、出力電流制限値のように、縮退運転をしない温度制御要素の場合は、優先度設定なしとして、縮退運転制御を行なわないように設定できる。
【0043】
なお、これらの入力はプルダウンにより選択するようになっていても良い。また、これらの入力はユーザが設定するが、予めデフォルトで設定されていても良い。
【0044】
図7は、電力変換装置の操作部での、温度制御要素の設定としての、縮退運転制御の制御量最大値設定画面を示した図である。
図7において、本実施例では、温度の異常が検知された場合の縮退運転制御の制御量の最大値を設定する。
【0045】
図7に示すように、縮退運転制御の制御量最大値設定画面では、温度制御要素の項目入力画面と、制御量最大値の入力設定画面を有する。そして、これらの入力画面に項目または設定値を入力することで、種々の温度制御要素に対する縮退運転制御の制御量最大値を設定する。なお、制御量最大値は、その絶対値を入力しても良いし、制御量の変化範囲を設定しても良い。
【0046】
なお、これらの入力はプルダウンにより選択するようになっていても良い。また、これらの入力はユーザが設定するが、予めデフォルトで設定されていても良い。
【0047】
以上のように、本実施例は、電力変換装置であって、交流電源の交流電力を直流電力に変換する順変換器と、直流電力を平滑化する直流平滑回路と、平滑化された直流電力を交流電力に逆変換する逆変換器と、逆変換器を冷却する冷却部と、逆変換器へPWM指令を出力し冷却部へ駆動電圧を出力する制御部と、電力変換装置の温度を検出する温度検出部と、電力変換装置への各種設定を入力設定可能な操作部と、を有し、操作部は、温度制御要素の項目入力画面と、温度制御要素の縮退運転制御の優先度の入力設定画面を有するように構成する。
【0048】
また、操作部は、温度制御要素の制御量最大値の入力設定画面を有するように構成する。
【0049】
これにより、損失に影響を与える温度制御要素を効果的に制御することが可能となる。
【実施例3】
【0050】
本実施例では、本実施例における電力変換装置の温度異常時エラー保護選択設定画面に関して説明する。
【0051】
図8は、縮退運転制御の制御量が最大値となっている場合、電力変換装置が全ての温度制御要素の制御量を最大値に保持した状態で可能な限り運転を継続するか、あるいは、温度制御範囲異常として電力変換装置の破損を防ぐためにエラーを出力して保護動作をするかを、ユーザによって設定する画面である。
【0052】
図8に示すように、温度異常時エラー保護選択設定画面では、エラー保護をする/しないを選択する画面を有する。そして、これらの画面から選択することで、温度異常時のエラー保護を設定できる。なお、
図8では、エラー保護をする場合を選択した状態を示しており、その選択項目の色を変えているが、選択設定状態が判別できればどのような表示でも構わない。また、
図8では、エラー保護をする/しないを選択する画面の下に、現在の、縮退運転制御の温度制御要素と優先度を表示して、温度異常時のエラー保護設定を判断する際の条件材料を提示するようにしても良い。
【0053】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0054】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0055】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。