(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6469961
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】光デバイス、ファイバレーザおよび光デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/255 20060101AFI20190204BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20190204BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
G02B6/255
H01S3/067
H01S3/10 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-76450(P2014-76450)
(22)【出願日】2014年4月2日
(65)【公開番号】特開2015-197638(P2015-197638A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2016年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】柏木 正浩
【審査官】
野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−199430(JP,A)
【文献】
特開平07−244224(JP,A)
【文献】
特開平03−233413(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/165389(WO,A1)
【文献】
特開2013−102007(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0265653(US,A1)
【文献】
特開平04−068302(JP,A)
【文献】
特開昭59−029213(JP,A)
【文献】
特開昭58−216214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/24
6/255
6/36−6/40
H01S 3/00−3/02
3/04−3/0959
3/098−3/102
3/105−3/131
3/136−3/213
3/23−4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融着接続部にて融着接続された、伝播光の入力側の第1光ファイバと伝播光の出力側の第2光ファイバとを備え、これら光ファイバが補強部材に固定されている光デバイスにおいて、
少なくとも前記第2光ファイバはマルチモード光ファイバであり、
前記融着接続部およびその周りは被覆が除去されてベアファイバが露出しており、
前記第1および第2光ファイバは、これら光ファイバの軸方向へ、1マイクロストレインよりも大きい歪が生じる張力を付与された状態にて、前記第1光ファイバ側の前記被覆および前記第2光ファイバ側の前記被覆に配置した樹脂層により前記補強部材に固定されていることを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
前記第1および第2光ファイバに付与されている前記張力は、10マイクロストレインの歪を生じる力以上、かつ前記第1および第2光ファイバが切断される力未満であることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記張力は、前記張力が増加する方向に、順次、付与される張力に対してビーム品質の変化率が小さい第1の領域、付与される張力に対してビーム品質の変化率が第1の領域よりも大きい第2の領域、および付与される張力に対してビーム品質の変化率が第2の領域よりも小さい第3の領域に区分でき、前記第1および第2光ファイバには前記第2の領域の張力が付与されていることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記補強部材に固定された前記第1および第2光ファイバは、前記補強部材に充填された樹脂による樹脂層にて覆われていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光デバイス。
【請求項5】
増幅媒体として機能する前段光ファイバと、前記前段光ファイバから出力された光を伝送する伝送媒体として機能する後段光ファイバとを備えたファイバレーザであって、
上記後段光ファイバに請求項1から4のいずれか1項に記載の光デバイスが挿入されていることを特徴とするファイバレーザ。
【請求項6】
融着接続部にて融着接続された、伝播光の入力側の第1光ファイバと伝播光の出力側の第2光ファイバとを備え、これら光ファイバが補強部材に固定されている光デバイスの製造方法において、
少なくとも前記第2光ファイバはマルチモード光ファイバであり、
前記融着接続部およびその周りは被覆が除去されてベアファイバが露出しており、
前記第1および第2光ファイバに対して、これら第1および第2光ファイバの軸方向へ、1マイクロストレインよりも大きい歪が生じる張力を付与する工程と、
前記第1および第2光ファイバを前記張力が付与された状態にて前記第1光ファイバ側の前記被覆および前記第2光ファイバ側の前記被覆に配置した樹脂層により前記補強部材に固定する工程とを含んでいることを特徴とする光デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに接続された光ファイバを有する光デバイスおよび光デバイスの製造方法に関する。また、そのような光デバイスを備えたファイバレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
ファイバレーザは、近年の高出力化に伴い、非線形現象の発生が問題となっている。この問題の対策として、光ファイバのコアを拡大してレーザ光の強度を低くし、非線形現象を抑制することが一般に行われている。コアを拡大していくとシングルモードからマルチモードになりファイバレーザのビーム品質が悪化する。これに対しては光ファイバへの曲げの与え方や励振方法、増幅媒体のコアの中での添加領域などを工夫することで、レーザ光がマルチモード光ファイバ内をシングルモード伝搬することができるようになり高ビーム品質を維持することができる。
【0003】
このようなマルチモード光ファイバを用いたファイバレーザでは、光ファイバ同士の融着接続部で生じ得る高次モードの励振を抑制して、高いビーム品質を維持することが課題となる。
【0004】
このような課題に対しては、融着接続部の補強方法が重要である。従来では、シングルモード励振するマルチモード光ファイバ同士を接続する場合でも、通常のシングルモード光ファイバ同士の融着接続部の補強方法と同様、光ファイバの軸方向に、光ファイバを直線状に保つ程度の小さい張力を付与して、融着接続部を補強する方法が採られている。なお、光ファイバ同士の融着接続部を直線状に保つようにして融着接続部を補強する構成については、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−174583号公報(2013年9月5日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マルチモード光ファイバ同士を接続した構成では、光ファイバの融着接続部の端面の傾きや欠け、あるいは接続時の光ファイバの押し込みなどによってコアの微小な曲がりが生じている場合、融着接続部よりも入力側の光ファイバを伝播する光が基本モードのみであっても、融着接続部よりも出力側の光ファイバにおいて高次モードが励振されてしまう。上記のようなコアの微小な曲がりは、光ファイバを直線状に保つ程度の低い張力を付与して融着接続部を補強する上記従来の構成では、矯正することができない。この結果、上記従来の構成では、融着接続部における高次モードの励振が避けられず、ファイバレーザの重要な特性であるビーム品質が低下する。
【0007】
特に、ファイバレーザでは光ファイバ同士の融着接続部が複数存在する。したがって、上記のような高次モードの発生は、個々の融着接続部での影響は微小であっても、ファイバレーザ全体で見た場合には、ビーム品質の大きな低下につながり、無視することができない。
【0008】
また、上記のような問題は、マルチモード光ファイバ同士を接続した場合、あるいは伝播光の入力側のシングルモード光ファイバと伝播光の出力側のマルチモード光ファイバと接続した場合など、少なくとも伝播光の出力側の光ファイバがマルチモード光ファイバである場合に生じる。
【0009】
したがって、本発明は、少なくとも伝播光の出力側がマルチモード光ファイバである光ファイバ同士の融着接続部での高次モードの励振を抑制して、ビーム品質の低下を防止することができる光デバイス、ファイバレーザおよび光デバイスの製造方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の光デバイスは、融着接続部にて融着接続された、伝播光の入力側の第1光ファイバと伝播光の出力側の第2光ファイバとを備え、これら光ファイバが補強部材に固定されている光デバイスにおいて、少なくとも前記第2光ファイバはマルチモード光ファイバであり、前記第1および第2光ファイバは、これら第1および第2光ファイバの軸方向へ、1マイクロストレインよりも大きい歪が生じる張力を付与された状態にて前記補強部材に固定されていることを特徴としている。
【0011】
上記の構成によれば、第1および第2光ファイバは、これら光ファイバの軸方向へ、1マイクロストレインよりも大きい歪が生じる張力を付与された状態にて補強部材に固定されているので、融着接続部の端面の傾きや欠け、あるいは接続時の第1および第2光ファイバの押し込みなどによってコアの融着接続部に生じている微小な曲がりを矯正することができる。
【0012】
これにより、第1および第2光ファイバをシングルモード励振する場合に、融着接続部の微小な曲がりに起因した高次モードの励振を抑制し、ビーム品質の低下を防止することができる。
【0013】
また、本発明の光デバイスの製造方法は、融着接続部にて融着接続された、伝播光の入力側の第1光ファイバと伝播光の出力側の第2光ファイバとを備え、これら光ファイバが補強部材に固定されている光デバイスの製造方法において、少なくとも前記第2光ファイバはマルチモード光ファイバであり、前記第1および第2光ファイバに対して、これら第1および第2光ファイバの軸方向へ、1マイクロストレインよりも大きい歪が生じる張力を付与する工程と、前記第1および第2光ファイバを前記張力が付与された状態にて前記補強部材に固定する工程とを備えていることを特徴としている。
【0014】
上記の構成によれば、上記光デバイスと同様の効果を奏する。
【0015】
上記の光デバイスにおいて、前記第1および第2光ファイバに付与されている前記張力は、10マイクロストレインの歪が生じる力以上、かつ前記第1および第2光ファイバが切断される力未満である構成としてもよい。
【0016】
上記の構成によれば、第1および第2光ファイバには、軸方向に、光ファイバ10マイクロストレインの歪を生じる力以上、かつ前記第1および第2光ファイバが切断される力未満の張力が付与されている。したがって、第1および第2光ファイバをシングルモード励振する場合に、コアの融着接続部の微小な曲がりに起因した高次モードの励振を確実に抑制し、ビーム品質の低下を確実に防止することができる。
【0017】
また、本発明の光デバイスは、融着接続部にて融着接続された、伝播光の入力側の第1光ファイバと伝播光の出力側の第2光ファイバとを備え、これら光ファイバが補強部材に固定されている光デバイスにおいて、少なくとも前記第2光ファイバはマルチモード光ファイバであり、前記第1および第2光ファイバは、これら光ファイバの軸方向へ、張力を付与された状態にて前記補強部材に固定され、前記張力は、前記張力が増加する方向に、順次、付与される張力に対してビーム品質の変化率が小さい第1の領域、付与される張力に対してビーム品質の変化率が第1の領域よりも大きい第2の領域、および付与される張力に対してビーム品質の変化率が第2の領域よりも小さい第3の領域に区分でき、前記第1および第2光ファイバには前記第2の領域の張力が付与されている構成としてもよい。
【0018】
上記の構成によれば、第1および第2光ファイバには、付与される張力に対してビーム品質の変化率が相対的に最も大きい第2の領域の張力が付与されている。すなわち、第1および第2光ファイバには、ビーム品質の低下を防止する上で好適な張力が付与されている。これにより、ビーム品質の低下を確実に防止することができる。
【0019】
なお、伝送媒体として機能する後段光ファイバに本発明に係る光デバイスが挿入されたファイバレーザも本発明の範疇に含まれる。このようなファイバレーザにおいては、第1および第2光ファイバをシングルモード励振する場合に、高次モードの励振を抑制し、ビーム品質の低下を防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の構成によれば、第1および第2光ファイバをシングルモード励振する場合に、コアの融着接続部の微小な曲がりに起因した高次モードの励振を抑制し、ビーム品質の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る光デバイスの構成を示す三面図である。
【
図3】
図1に示した光デバイスの要部を示す模式図である。
【
図4】
図3に示した光ファイバの各位置における歪の測定値を示すグラフである。
【
図5】
図1に示した光デバイスの製造に使用される製造装置の一例を示す説明図である。
【
図6】
図3に示した光ファイバに付与する張力とビーム品質M2との関係を示すグラフである。
【
図7】
図1に示した光デバイスを含むファイバレーザの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を図面に基づいて以下に説明する。本実施の形態では、本発明がファイバレーザを構成する光デバイスに適用された例について説明する。
【0023】
〔光デバイス〕
図1は、本発明の実施の形態の光デバイス1の構成を示す三面図(左上:上面図、右上:前側面図(右側面図)、左下:正面図)である。
図2は、
図1におけるA−A’線矢視断面図である。
【0024】
光デバイス1は、
図1および
図2に示すように、台座11、溝付板12、補強部材13、蓋板14、光ファイバF1(第1光ファイバ)、光ファイバF2(第2光ファイバ)および高屈折率樹脂層21を備えている。なお、
図1の上面図は、光デバイス1の内部構造を示すために、蓋板14を省略して示している。
【0025】
(台座11)
台座11は、長方形の板状部材であり、例えば、表面が黒アルマイト処理されたアルミニウム等の金属にて形成されている。台座11の上には溝付板12が設けられている。台座11には、溝付板12から幅方向(台座11の表面と平行、かつ光ファイバF1,F2の軸方向と直交する方向)に迫り出した外縁部に、ネジ穴11aが形成されている。光デバイス1は、このネジ穴11aに設けられるネジによって、ファイバレーザに固定することができる。
【0026】
(溝付板12)
溝付板12は、長方形の板状部材であり、例えば、表面が黒アルマイト処理されたアルミニウム等の金属により形成されている。溝付板12は、上面が台座11の上面と平行になるように台座11上に配置され、下面が台座11の上面に固定(例えば接着)されている。なお、溝付板12の長手方向(光ファイバF1,F2の軸方向)の長さは、台座11の長手方向(光ファイバF1,F2の軸方向)の長さと同じである。溝付板12の上面には、溝付板12の長手方向の一端部から他端部に達する溝部12aが形成されている。
【0027】
(補強部材13)
補強部材13は、外形が細長い直方体状であり、例えば、アルミニウム等の金属にて形成されている。補強部材13がアルミニウムにて形成されている場合、補強部材13の内面は黒アルマイト処理されていてもよい。
【0028】
補強部材13は、溝付板12の溝部12aと平行となるように溝部12a内に配置されている。補強部材13の下面は、溝部12aの底面に固定(例えば接着)されている。補強部材13の長さは、溝付板12の長さよりも短く、幅は溝部12aの幅よりも狭くなっている。補強部材13の上面には、補強部材13の長手方向の一端部から他端部に達する溝部13aが形成されている。
【0029】
(光ファイバF1,F2、高屈折率樹脂層21)
補強部材13の溝部13a内には、端面同士が融着接続部19において融着接続された光ファイバF1,F2が配置されている。なお、光ファイバF1,F2では、伝播光は光ファイバF1から光ファイバF2に向って伝播するものとする。
【0030】
光ファイバF1,F2はマルチモード光ファイバである。あるいは、伝播光の入力側の光ファイバF1はシングルモード光ファイバであり、伝播光の出力側の光ファイバF2はマルチモード光ファイバである。すなわち、少なくとも伝播光の出力側の光ファイバF2はマルチモード光ファイバである。
【0031】
補強部材13の溝部13a内に配置された光ファイバF1,F2は、溝部13aに充填された高屈折率樹脂層21によって覆われている。高屈折率樹脂層21の屈折率は、光ファイバF1,F2のクラッドの屈折率以上となっている。
【0032】
補強部材13の溝部13aにおける光ファイバF1,F2の軸方向の両端部には、それぞれ端部樹脂層22が設けられ、これら端部樹脂層22により光ファイバF1,F2が補強部材13に固定されている。なお、光ファイバF1,F2では、融着接続部19およびその周りは被覆15が除去されてベアファイバ16が露出し、端部樹脂層22に固定されている部分は被覆15を有する。
【0033】
また、溝付板12の溝部12aにおける光ファイバF1,F2の軸方向の両端部には、それぞれ端部樹脂層23が設けられ、これら端部樹脂層23により光ファイバF1,F2が溝付板12に固定されている。
【0034】
(蓋板14)
蓋板14は、長方形の板状部材であり、例えばアルミニウム等の金属にて形成されている。蓋板14がアルミニウムにて形成されている場合、蓋板14の内面は黒アルマイト処理されていてもよい。蓋板14は、溝部12aを覆うように溝付板12上に配置される。蓋板14の下面は、溝付板12の上面(溝部12a以外の部分)に固定(例えば接着)される。
【0035】
(補強部材13による光ファイバF1,F2の補強状態の詳細)
図3は、
図1に示した光デバイス1の要部を示す模式図である。
図3に示すように、光ファイバF1,F2は張力(T)を付与された状態(軸方向の互いに反対方向へ引っ張られた状態)にて、端部樹脂層22により補強部材13に固定されている。なお、端部樹脂層22における光ファイバF1,F2の軸方向の長さは5mm程度である。
【0036】
光ファイバF1,F2に付与されている張力は、歪測定器によって測定される歪(光ファイバF1,F2の伸び)が1マイクロストレイン(μ strain)よりも大きくなる値である。この場合、歪測定器の測定限界は、例えば10マイクロストレインである。
【0037】
一方、従来では、光ファイバF1,F2は、単に直線状に保つ程度の小さい張力が付与されている。この場合、光ファイバF1,F2は、主に被覆15が引っ張られ、ベアファイバ16には歪(伸び)がほとんど生じない。したがって、ベアファイバ16の歪は、0.5マイクロストレイン程度と推定される。
【0038】
具体的には、従来では、光ファイバF1,F2(ガラス製の光ファイバを樹脂製の被覆で覆ったファイバ素線)の固定は、光ファイバF1,F2を直線状に保つために、被覆15を掴んで5g程度の張力で引っ張った状態で行われる。このようにしてファイバ素線を引っ張ると、被覆(被覆15)は、0.5μm/cm(50μm/1m=50μストレイン)伸びることが知られている。ここで、ガラスの弾性率(約100GPa)は、樹脂(被覆15)の弾性率(約1GPa)の100倍程度であることから、このときのファイバ素線(光ファイバF1,F2)の伸びは、0.005μm/cm(0.5μm/m=0.5μストレイン)と推定される。
【0039】
本実施の形態において、
図3に示した光ファイバF1,F2の各位置と歪との関係は、
図4に示すようになっている。なお、
図4に示す6cmの位置は、光ファイバF1,F2の融着接続部19の位置に相当する。
図4の例では、光ファイバF1,F2には、ベアファイバにおいて35マイクロストレイン程度の歪が生じるような張力が付与されている。
【0040】
(光デバイス1の製造方法)
上記の構成において、光デバイス1の製造方法について、以下に説明する。
図5は、光デバイス1の製造に使用される製造装置31の一例を示す説明図である。
図5に示した製造装置31は、光ファイバF1,F2に張力を付与して光ファイバF1,F2を補強部材13に固定する工程に使用される。
【0041】
製造装置31は、
図5に示すように、一方向に並ぶ台41〜43を備えている。一端に位置する台41は、上部に光ファイバ固定部41aを有する。中央の台42は、上面に光デバイス1の補強部材13が配置され、配置された補強部材13を固定できるようになっている。他端の台43は、上部にレール43bおよび光ファイバ固定部43aを有する。光ファイバ固定部43aは、レール43b上を台41〜43の並び方向に移動可能となっている。また、光ファイバ固定部43aには紐44が接続され、紐44の先には錘45が取り付けられている。錘45は、台43に取り付けられた滑車46を介して、ぶら下がった状態となっている。
【0042】
光ファイバF1,F2を補強部材13に取り付ける場合には、補強部材13を台42上に配置して固定し、融着接続部19にて接続された状態の光ファイバF1,F2のうち、光ファイバF2をファイバ固定部41aにて固定し、光ファイバF1を光ファイバ固定部43aにて固定する。また、錘45は滑車46を介して光ファイバ固定部43aからぶら下げた状態とし、光ファイバF1,F2の融着接続部19を補強部材13の所定位置に配置する。
【0043】
上記の状態では、光ファイバF1,F2に錘45による所定の張力が付与され、融着接続部19には所望の歪(伸び)が生じる。次に、この状態にて、補強部材13の端部位置に、光ファイバF1,F2を覆って端部樹脂層22となる樹脂を配置して硬化させる。これにより、光ファイバF1,F2は所望の張力が付与された状態で補強部材13に固定される。その後、補強部材13内に高屈折率樹脂層21となる樹脂を充填して硬化させる。
【0044】
(光デバイス1の利点)
上記のように、光デバイス1では、光ファイバF1,F2に対して、歪測定器によって測定されるベアファイバ16の歪(伸び)が1マイクロストレインよりも大きくなる張力を付与している。したがって、融着接続部19の端面の傾きや欠け、あるいは接続時の光ファイバF1,F2の押し込みなどによってコアの融着接続部19に生じている微小な曲がりを矯正することができる。
【0045】
これにより、光ファイバF1,F2をシングルモード励振する場合に、融着接続部19の微小な曲がりに起因した高次モードの励振を抑制し、光デバイス1さらには光デバイス1を備えるファイバレーザのビーム品質の低下を抑制することができる。
【0046】
ここで、光ファイバF1,F2に付与する張力とビーム品質M2との関係を示すと
図6のようになる。なお、
図6において、「接続前M2」は、光デバイス1において融着接続部19が存在せず、光デバイス1がシングルモード励振している状態を示している。「接続後M2」は、光デバイス1において光ファイバF1,F2の融着接続部19が存在する状態を示している。また、「従来」としている張力の範囲は、歪測定器によって測定される0マイクロストレインの範囲(張力が0、もしくは張力が歪測定器の測定限界を超える微小な範囲)である。
【0047】
図6に示すように、光ファイバF1,F2に対して付与する張力が大きくなると、M2の値が低下していき、光デバイス1のビーム品質が向上する。これは、張力が大きくなるに従って、光ファイバF1,F2の融着接続部19に生じている上記の微小な曲がりの矯正が進み、光ファイバF1,F2をシングルモード励振している場合に、光デバイス1における高次モードの割合(融着接続部19において高次モードが励振される割合)が低下していき、シングルモード(基本モード)の割合が増加していくことによる。
【0048】
また、光ファイバF1,F2に付与される張力は、張力が増加する方向に、順次、第1の領域(上記の「従来」に相当)、第2の領域および第3の領域のように区分することができる。第1の領域は、付与される張力に対してビーム品質の変化率が小さい領域である。第2の領域は、付与される張力に対してビーム品質の変化率が最も大きい領域である。第3の領域は、付与される張力に対してビーム品質の変化率が第2の領域よりも小さい領域である。
図6から、光ファイバF1,F2に付与する張力は、ビーム品質の低下を効率よく防止でき、かつ光ファイバF1,F2に対して不要な負荷を加えない点から、第2の領域の張力に設定するのが好適である。
【0049】
(実施例)
光デバイス1に対応した従来の光デバイスにおいて、例えば、光ファイバF1,F2ともにコア径が30μm、クラッド径が125μm、コアのNAが0.06であった。光ファイバF1(伝播光の入力側)を伝播する伝播光は、シングルモード伝播しており、ビーム品質M2が1.05であった。この光デバイスでは、融着接続部19にて高次モードが励振されたことにより、光ファイバF2(伝播光の出力側)のビーム品質M2が1.2まで悪化した。
【0050】
そこで、光デバイス1のように、上記光ファイバF1,F2対して、40g(前記錘46の重量)程度の張力を付与して固定し、補強部材13によって補強した。これにより、出力側の光ファイバF2のビーム品質M2が1.07程度まで改善した。
【0051】
光デバイス1において、融着接続部19でのビーム品質M2の悪化具合と、光ファイバF1,F2に張力を付与した場合の改善度合いとは、融着接続部19の状態(接続条件や融着接続部19の端面角度など)により変化する。しかしながら、ビーム品質M2は、光ファイバF1,F2に付与する張力を大きくしていく(ただし、光ファイバF1,F2が切断されない程度に)ことにより、改善することができる。
【0052】
〔ファイバレーザ〕
次に、光デバイス1を備えたファイバレーザ51について説明する。
図7は、ファイバレーザ51の構成を示すブロック図である。
【0053】
図7に示すように、ファイバレーザ51は、光デバイス1、光源装置2、光ファイバF3、残留光除去部3および光ファイバF1,F2(後段光ファイバ)を備えている。ファイバレーザ51は、本来、光ファイバ同士の融着接続部を複数有しており、光デバイス1は少なくともそのうちの一つに適用される。
【0054】
光ファイバF3は増幅媒体として機能する。光ファイバF3は、活性元素が添加されたコア、このコアを取り囲む内側クラッド、およびこの内側クラッドを取り囲む外側クラッドを備えたダブルクラッドファイバである。光ファイバF3のコアに添加された活性元素は、光源装置2から出力され、光ファイバF3の内側クラッドを伝播する励起光によって反転分布状態に遷移する。そして、光源装置2から出力され、光ファイバF3のコアを伝播する伝播光は、反転分布状態に遷移した活性元素によって増幅される。特に、光ファイバF3には、2つのファイバブラッググレーティングFBGが書き込まれており、光ファイバFのコアを伝播する伝播光は、これら2つのファイバブラッググレーティングFBGの間で再帰的に増幅される。
【0055】
残留光除去部3は、光ファイバF3の出力光から残留光を除去する。残留光とは、内側クラッドを伝播する励起光や光ファイバ同士の融着接続部の軸ズレによりクラッドに漏れ出した伝播光など、コアを伝播する伝播光以外の光のことである。
【0056】
残留光除去部3から出力された伝播光は、伝送媒体として機能する光ファイバF1,F2内を伝播して出力端outから外部に出力される。本実施形態に係る光デバイス1は、この光ファイバF1,F2に挿入される。
【0057】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、ファイバレーザに備えられ、光ファイバ同士が接続されている光デバイスであって、少なくとも伝播光の出力側の光ファイバがマルチモード光ファイバである光デバイスとして好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 光デバイス
12 溝付板
12a 溝部
13 補強部材
13a 溝部
15 被覆
16 ベアファイバ
19 接続部
21 高屈折率樹脂層
22 端部樹脂層
23 端部樹脂層
31 製造装置
41〜43 台
41a,43a ファイバ固定部
43b レール
45 錘
46 滑車
51 ファイバレーザ
F1 光ファイバ(第1光ファイバ、後段光ファイバ)
F2 光ファイバ(第2光ファイバ、後段光ファイバ)
F3 光ファイバ