(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したレインエロージョンブーツは、電気的に絶縁性であり、雨滴、砂等との摩擦により帯電した電荷をその場に留めて蓄積する。蓄積された帯電電荷による電界強度がレインエロージョンブーツの絶縁破壊強度を超えると、レインエロージョンブーツから導電性コーティングに向けてコロナ放電や、アークおよびストリーマーが発生する。これらの放電現象は、ホワイトノイズであり、100MHz帯の通信機や航法受信機への電磁干渉を引き起こす。また、放電によって導電性コーティングや基材にピンホールがあいてしまうと、雨滴、砂等による侵食を許し、基材の電力透過率を低下させてしまう。
つまり、レドームの基材を侵食から確実に保護するためにレインエロージョンブーツを設けているのに、レインエロージョンブーツに帯電した電荷によって放電が発生すると、レインエロージョンブーツを設ける目的を達成することができない。
上記のコロナ放電や、アークおよびストリーマーのことを本明細書では「静電気放電」と称する。
【0005】
本発明は、航空機に装備されるアンテナを覆うカバーを保護するレインエロージョンブーツと雨滴、砂等との摩擦に起因する静電気放電の発生を防ぐことで、レインエロージョンブーツによるカバーの侵食防止効果を確保することを目的とする。
【0006】
また、アンテナに限らず、航空機に装備された種々の部材を覆うカバーに関して、雨滴、砂等との摩擦に起因する静電気放電の発生を防ぎつつ、カバーの侵食や摩耗を防止することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の航空機のアンテナカバーは、航空機に装備されるアンテナを保護するカバーと、カバーの外側に設けられ、導電性を有する導電層と、導電層の一部の領域を覆うレインエロージョンブーツ(保護部材)と、を備える。
本明細書に記載されたいずれのレインエロージョンブーツも、雨滴等の水分や砂等の侵入を防ぐ。
そして、本発明は、レインエロージョンブーツが、絶縁性を有する主材を含むとともに、導電性が付与されており、導電層を介して機体に接地されていることを特徴とする。
【0008】
「導電性が付与されている」とは、導電性の微粒子やフィラーを混入することなどによってレインエロージョンブーツの全体に導電性が付与されていることの他に、導電性を有する被膜や層を主材の表面に形成することによってレインエロージョンブーツの表面のみに導電性が付与されていることも含むものとする。
レインエロージョンブーツには、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン等の高分子化合物から形成されたシートを用いることができる。レインエロージョンブーツの厚みは、アンテナの使用波長に対して1/100波長以下であることが好ましい。
【0009】
本発明によれば、レインエロージョンブーツに導電性が付与されているので、レインエロージョンブーツの帯電電荷による電界強度が絶縁破壊強度に達しないうちに、帯電電荷を導電層を介して機体へと移動、拡散させることができる。それによって静電気放電を未然に防ぐことができる。このことにより、レインエロージョンブーツに要求される侵食防止効果を担保することができるので、使用が長期に亘っても、アンテナカバーを雨滴、砂等による侵食から確実に保護することができる。
【0010】
本発明の航空機のアンテナカバーにおいて、レインエロージョンブーツの表面抵抗率は、0.5MΩ/sq〜15MΩ/sq(0.5MΩ/sq以上、15MΩ/sq以下)であることが好ましい。
レインエロージョンブーツの表面抵抗率が15MΩ/sq以下であると、レインエロージョンブーツにおいて電荷が十分に移動し、レインエロージョンブーツの帯電電荷を導電層を介して機体へと確実に移動、拡散させることができる。本発明におけるレインエロージョンブーツに「導電性が付与されている」ことによる静電気放電防止の効果は、レインエロージョンブーツの表面抵抗率が15MΩ/sq以下であることにより、より確実に得ることができる。レインエロージョンブーツの表面抵抗率が15MΩ/sq以下であれば、レインエロージョンブーツの主材に分散させた導電性微粒子の分子構造がネットワーク状に完全に連続する場合に限らず、当該分子構造の一部が欠損する場合にも、静電気放電防止を実現するために必要な導電性を得ることができる。分子構造の一部が欠損する場合には、欠損箇所を迂回して電荷が流れていく。
また、レインエロージョンブーツの表面抵抗率が0.5MΩ/sq以上であれば、レインエロージョンブーツが電波に干渉することを抑制することができるので、アンテナカバーに必要な電力透過率を確保できる。
【0011】
本発明の航空機のアンテナカバーにおいて、導電層は、レインエロージョンブーツにより覆われる部位と、カバーに落雷した雷の電流が流れる被雷部材が配置される部位と、を有し、導電層を厚み方向に貫通し、被雷部材をカバーに締結するファスナを介して接地されていることが好ましい。
そうすると、カバーの外側に帯電した電荷をカバーの裏側に移動させるための導通部材として、被雷部材をカバーに締結するファスナを利用することができる。
【0012】
本発明の航空機のアンテナカバーは、航空機に装備されるアンテナを保護するカバーと、カバーの外側に設けられ、導電性を有する導電層と、導電層の一部の領域を覆うレインエロージョンブーツと、を備える。そして、本発明は、レインエロージョンブーツが、絶縁性を有する主材を含むとともに、親水性が付与されていることを特徴とする。
本発明におけるレインエロージョンブーツは、親水性が付与されていることで、静電気の帯電が防止されている。
本発明によれば、レインエロージョンブーツに親水性が付与されているので、雨滴や砂との摩擦によりレインエロージョンブーツに帯電した電荷が、レインエロージョンブーツが親水性を発揮することで吸着された水のイオンにより打ち消される。その作用により、帯電電荷による電界強度が絶縁破壊強度に達しないうちに、帯電電荷を除電することができるので、静電気放電を未然に防ぐことができる。このことにより、レインエロージョンブーツに要求される侵食防止効果を担保することができるので、使用が長期に亘っても、アンテナカバーを雨滴、砂等による侵食から確実に保護することができる。
【0013】
本発明の航空機のアンテナカバーにおいて、アンテナは、機体の前端に装備され、カバーは、アンテナを前方から覆うように椀状に形成され、導電層は、カバーの外表面の全体に施され、レインエロージョンブーツは、カバーにおいて前端に位置する所定の領域に設けられることが好ましい。
本明細書において、航空機の進行方向の前方を「前」、その反対側を「後」と定義する。
【0014】
本発明の航空機の部材用カバーは、航空機に装備される部材を保護するカバーと、カバーの外側を覆うレインエロージョンブーツと、を備える。そして、本発明は、レインエロージョンブーツが、絶縁性を有する主材を含むとともに、導電性または親水性が付与されていることを特徴とする。
航空機の部材としては、例えば、光を発するライトが挙げられる。その場合のカバーは、ライトからの光を透過させる。
本発明によれば、レインエロージョンブーツに導電性が付与されているので、雨滴や砂との摩擦によりレインエロージョンブーツに帯電した電荷による電界強度が絶縁破壊強度に達しないうちに、帯電電荷をレインエロージョンブーツの外部へと移動、拡散させることができる。そのため、レインエロージョンブーツに帯電した電荷による静電気放電の発生を防ぐことができる。したがって、静電気放電によりカバーが損傷するといった不具合が生じることなく、レインエロージョンブーツにより、カバーを摩耗、クラックの発生、侵食などから保護することができる。
【0015】
本発明の航空機は、上述のアンテナカバー、または上述の部材用カバーを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の航空機用レインエロージョンブーツは、航空機に装備される部材を保護するカバーの外側に設けられるレインエロージョンブーツであって、絶縁性を有する主材を含むとともに、導電性または親水性が付与されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、航空機に装備される部材を覆うカバーを保護するレインエロージョンブーツと雨滴、砂等との摩擦に起因する静電気放電の発生を防ぐことで、レインエロージョンブーツによるカバーの侵食防止効果を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
図1に示す航空機10は、前端にレドーム11を備えている。レドーム11は、レーダー装置を構成するアンテナ12(
図2)を風雨や砂塵、太陽光線などから保護する。アンテナ12は、電波を発信し、対象物により反射された電波を受信する。レーダー装置は、発信した電波と送信した電波との相関に基づいて、降雨や雷雲に関する位置情報、あるいは着陸する地表に関する位置情報などを検知する。アンテナ12の向きを上下、左右に変えることで、広範囲に亘り位置情報の検知が可能である。
【0020】
レドーム11は、
図2に示すように、機体が備える設置部13に設けられたアンテナ12を覆い隠すように椀状に形成されている。レドーム11のより具体的な形状は、半球状または円錐状などであってよい。
航空機10の空気抵抗を小さくするため、レドーム11は、機体に滑らかに連続する後端11Bから、前方に向けて次第にすぼまるように形成されている。
【0021】
レドーム11は、サンドイッチパネルであり、
図3に示すように、コア112と、コア112の外側に設けられるアウタースキン111と、コア112の内側に設けられるインナースキン113とを備えている。
アウタースキン111およびインナースキン113は、例えば、強化繊維としてガラス繊維を含む繊維強化樹脂(GFRP;glass fiber reinforced plastics)から形成することができる。これらのアウタースキン111およびインナースキン113は、例えば、数mmの厚みに形成することができる。
コア112は、多数の空隙を内包する構造であり、例えば、多数の気泡を有する多孔質(ポーラス)の構造や、ハニカム構造に代表される多角形をしたセルの集合体などをコア112の構造として採用できる。
コア112は、例えば、ポリイミド樹脂などの樹脂材料や、強化繊維を含む繊維強化樹脂から形成されている。繊維強化樹脂としては、GFRPや、強化繊維としてクォーツ(石英)を含むQFRP(quartz fiber reinforced plastics)などを用いることができる。
【0022】
コア112の各セルが内包する空気は、電波を減衰させることなく透過させる。また、アウタースキン111およびインナースキン113は、十分に薄いため、電波を殆ど減衰させずに透過させる。
そのため、送信する電力Ptと、レドーム11を透過した受信電力Prとの電力比である電力透過率が十分に高い。
レドーム11は、広い周波数帯域の電波を透過させることができる。
【0023】
アウタースキン111、インナースキン113、およびコア112の各々の材料は上記に限らず、アンテナ12が発信し、受信する電波を透過させる任意の材料を用いることができる。
【0024】
レドーム11の外表面には、レドーム11に落雷した雷の大電流を機体へと流す金属製のストリップ14(
図1)が設けられている。なお、
図2においてストリップ14の図示を省略する。複数のストリップ14は、レドーム11の前端11Aから、レドーム11の後端11Bに向けて放射状に配置されている。これらのストリップ14は、レドーム11内のアンテナ12への着蕾を防止する役割を担っており、落雷時のレドーム11の沿面閃絡電圧に応じた適切な長さに設けられる。ストリップ14により電波の反射や錯乱が生ずることを避けるため、できるだけアンテナ12の開口面よりも後方にストリップ14の前端を配置することが好ましい。
なお、レドーム11の被雷部材として、棒状のストリップ14の代わりに、ボタン状の部材が連なったセグメントタイプのストリップを採用することもできる。
【0025】
各ストリップ14は、
図3に示すように、ストリップ14、およびレドーム11の本体である基材110をレドーム11の厚み方向に貫通するファスナ15によってレドーム11に締結されている。また、各ストリップ14は、ファスナ15を含む導通部材20を介して機体に接地されている。
レドーム11には、各ストリップ14を締結するファスナ15を通すためのスリーブ16が設けられている。
【0026】
レドーム11は、飛行する航空機10の前端で、雨、雪、雹、砂、火山灰など、大気中のあらゆる飛来物・浮遊物101(
図2)との摩擦を生ずる。その摩擦によりレドーム11が帯電し、帯電電荷による静電気放電が発生すると、電波にノイズが混入するなどの不具合が生じうる。静電気放電を防ぐためにレドーム11自体に導電性や親水性を付与することは、電力透過率の確保およびアンテナパターン歪の要求などから、制約が大きい。そこで、レドーム11の外表面には、導電性を有する導電性コーティング18が施されている。
導電性コーティング18は、レドーム11の基材110(アウタースキン111、コア112、およびインナースキン113)の表面を覆っているので、基材110と飛来物・浮遊物101との摩擦を回避し、基材110の帯電を防ぐ。
導電性コーティング18は、導通部材20を介して機体に接地されている。飛来物・浮遊物101との摩擦により導電性コーティング18が帯電しても、帯電電荷は導電性コーティング18を通り、導通部材20へと移動し、さらに機体へと拡散される。
【0027】
導電性コーティング18は、アウタースキン111の表面を覆うことで、雨などの水分や大気中の塵埃によって基材110が侵食されることを阻止する機能をも有する。導電性コーティング18により、空気よりも電波を透過させ難い水分や塵埃がレドーム11の電力透過率を低下させるのを防ぐことができる。
【0028】
導電性コーティング18は、金属やカーボン等の導電性微粒子を含むことで導電性が与えられた塗料を塗布し、乾燥させることで形成される。その塗料としては、例えば、AMS-C-83231A「Coatings, Polyurethane, Rain Erosion Resistant for Exterior Aircraft and Missile Plastic Parts」のClassA, ClassBのType II Antistatic rain erosion resistant coating で規定されている導電性ポリウレタン塗料等を用いることができる。「AMS」は、Aerospace Material Specification(航空宇宙材料規格)を意味する。
導電性コーティング18は、基材110の表面の全体に亘り設けられている。導電性コーティング18を基材110に十分に固着させるために、アウタースキン111に塗布されたプライマー層17の表面に、導電性コーティング18を塗り重ねることが好ましい。プライマー層17は、例えば、エポキシ系樹脂から形成されている。
【0029】
導電性コーティング18の導電性の指標として電気抵抗率を用いることができる。導電性コーティング18の表面の電気抵抗率を示す表面抵抗率は、0.5MΩ/sq〜15MΩ/sqであることが好ましい。導電性コーティング18は、例えば、数百μm程度の厚みであり、厚みを無視できる程に薄いので、表面抵抗率に基づいて導電性コーティング18の導電性を評価することができる。
導電性コーティング18の表面抵抗率が15MΩ/sq以下であると、導電性コーティング18に沿って電荷が十分に移動するので、帯電電荷を機体へと移動、拡散させることで静電気放電を確実に防ぐことができる。
また、導電性コーティング18の表面抵抗率が0.5MΩ/sq以上であれば、導電性コーティング18が電波に干渉することを抑制することができるので、レドーム11に必要な電力透過率を確保できる。
導電性コーティング18の厚みは、0.31〜0.36mmであることが好ましい。この範囲の厚みに形成されていると、導電性コーティング18の表面抵抗率(体積T例効率)が0.5MΩ/sq〜15MΩ/sqの範囲内にあり、かつ、90%に迫るあるいは90%以上の電波透過率が確保される。
【0030】
導電性コーティング18に用いる導電性の塗料は、電気抵抗率や作業性などを考慮して種々のものを用いることができる。塗料の性状は問わず、ペースト状、液状などの導電性塗料を用いることができる。
【0031】
導電性コーティング18の表面には、さらに、トップコーティング19を施すことができる。トップコーティング19は、導電性コーティング18の表面の全体に塗り重ねられている。トップコーティング19は十分に薄いので、飛来物・浮遊物101との摩擦によりトップコーティング19に帯電した電荷が導電性コーティング18へと移動する。その導電性コーティング18により帯電電荷の移動経路が確保されているので、トップコーティング19には導電性を持たせる必要がない。トップコーティング19には、外観を向上させるのに適した塗料を選択することが好ましい。
【0032】
さて、気流に正対するレドーム11の前端は、レドーム11の他の部位に比べて雨滴や砂塵等の衝突による負荷が大きい。その負荷が長期的に加えられることで導電性コーティング18が剥離し、水分や砂塵等により基材110が侵食されることを防ぐ必要がある。そのため、レドーム11の前端(レドーム11の中心部)に位置する所定の領域に、導電性コーティング18を覆うレインエロージョンブーツ21を設けている。このようにレインエロージョンブーツ21の設置範囲が限定されていることで、レドーム11の重量を抑えることに寄与できる。
レインエロージョンブーツ21は、ポリウレタン、ポリエチレン等の樹脂を主材21Aとして含み、フィルム状に形成されている。レインエロージョンブーツ21の主材21Aは絶縁性を有する。レインエロージョンブーツ21の主材21Aとして、雨滴や砂塵による侵食に耐えるように、異なる特性を有する複数のポリマー層が積層されたものを好適に用いることができる。
レインエロージョンブーツ21の厚みは、例えば、0.1mm〜1mmである。本実施形態のレーダが10GHzの周波数帯域を使用するウェザーレーダの場合、使用波長λは約30mmであり、その1/100波長である0.3mm以下にレインエロージョンブーツの厚みを定めることが好ましい。
【0033】
レインエロージョンブーツ21は、レドーム11の前端の形状に対応する形状に成形されており、トップコーティング19を介して導電性コーティング18の中央の領域18Aを覆っている。レインエロージョンブーツ21の周囲に延在する導電性コーティング18の環状の領域18Bに、トップコーティング19を介して上述のストリップ14が配置されている。
レインエロージョンブーツ21の裏側に形成された図示しない接着層により、レインエロージョンブーツ21はトップコーティング19に接着される。接着層が形成されていない場合、適宜な接着剤によりレインエロージョンブーツ21をトップコーティング19に接着することができる。
レインエロージョンブーツ21は、定期的に、あるいは整備の際に必要に応じて新しいものと交換される。交換の際には、レドーム11に接着してあるレインエロージョンブーツ21をレドーム11から剥がし、新しいレインエロージョンブーツ21を元の位置に装着する。
【0034】
レインエロージョンブーツ21は、絶縁性を有する主材21Aに金属やカーボン等の導電性の微粒子やフィラーを混入したり、主材21Aの表面を処理したり、主材21Aの表面に導電性を有するシートを設けることなどによって導電性が付与されている。
導電性付与のためにレインエロージョンブーツ21に混入される微粒子としては、防食(電食)防止のため表面を酸化させた金属酸化物(例えば、酸化銀、酸化亜鉛)であってもよい。
また、親水性セグメントを持つ高分子を樹脂と相溶化(アロイ化)させた高分子型帯電防止剤も、カーボン粒子や金属製フィラーと同じく、絶縁材の表面抵抗率および体積抵抗率を下げ、静電気を流す導電性を発揮することができる。この高分子型帯電防止剤をも、本実施形態のレインエロージョンブーツ21に混入したり、レインエロージョンブーツ21の表面処理に用いることができる。
【0035】
主材21Aの表面処理には、金、銀等の金属材料、カーボン、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の導電性材料を用いて、めっき、化学気相成長法、物理気相成長法などにより主材21A表面に薄膜を形成することが含まれる。
主材21Aの表面に設ける導電性のシートとしては、例えば、金属板に切れ目を入れて押し伸ばしたエキスパンドメタル等を用いることができる。エキスパンドメタルには格子状の開口が形成される。その開口の寸法に適合する周波数の電波を選択的に透過させることができる。
表面処理に関し、より詳しくは、主材21Aの外表面(雨滴等が衝突する面)、主材21Aの外周を形成する側面、および主材21Aの導電性コーティング18に重ねられる面(裏面)の全てに導電性が付与されることが好ましい。但し、レインエロージョンブーツ21から導電性コーティング18へと、レインエロージョンブーツ21に帯電した電荷が移動可能な経路が形成される限り、外表面のみに導電性を付与し、側面および裏面の一方あるいは双方に対する導電性の付与を省略することも可能である。
レインエロージョンブーツ21の導電性の指標として、導電性コーティング18と同様に表面抵抗率を用いることができる。レインエロージョンブーツ21の表面抵抗率は、0.5MΩ/sq〜15MΩ/sqであることが好ましい。
【0036】
レインエロージョンブーツ21は、導電性コーティング18および導通部材20を介して機体に接地されている。詳しくは、主材21Aの表面に施された導電性を有する層や、主材21Aに混入された導電性フィラーの分子構造により形成されるネットワーク状の電荷移動経路が導電性コーティング18および導通部材20を介して機体に接地されている。レインエロージョンブーツ21と導電性コーティング18との間に介在する接着層およびトップコーティング19は、電波的な影響を生じないように0.3mm以下といずれも十分に薄い。接着層やトップコーティング19が導電性を有していなくても、これら接着層およびトップコーティング19を挟んだレインエロージョンブーツ21と導電性コーティング18との容量結合により、レインエロージョンブーツ21に帯電した電荷が、接着層およびトップコーティング19を介して導電性コーティング18へと十分に移動する。
【0037】
本実施形態は、レインエロージョンブーツ21に導電性が付与されていることを主要な特徴とする。そのことによる作用について説明する。
図2に示すように、雨滴、雪、塵や砂等の飛来物、火山灰等の浮遊物(以下、飛来物・浮遊物)101との摩擦によりレインエロージョンブーツ21が帯電する。レインエロージョンブーツ21の主材21Aは絶縁性を有するので、帯電した電荷103がレインエロージョンブーツ21に留まり、次第に蓄積される。
また、航空機10が雷雲102に接近すると、雷雲102の帯電電荷に対応する電荷の偏りがレインエロージョンブーツ21に生じるために、レインエロージョンブーツ21が急速に帯電する。
上記のようにレインエロージョンブーツ21に帯電した電荷による電界がレインエロージョンブーツ21の静電破壊強度を超えてしまうと、帯電電荷は、レインエロージョンブーツ21の周縁から、接地された導電性コーティング18に向けて静電気放電を生ずる。
しかし、本実施形態では、レインエロージョンブーツ21に導電性が付与されているので、帯電電荷による電界強度が絶縁破壊強度に達しないうちに、帯電電荷をレインエロージョンブーツ21の外部へと移動させることができる。これによって静電気放電を未然に防ぐことができる。
レインエロージョンブーツ21に帯電した電荷103は、例えば、
図2に矢印で示すように、レインエロージョンブーツ21の周縁部から、接地された導電性コーティング18へと移動し、導電性コーティング18、および導通部材20を介して機体へと拡散される。
また、レインエロージョンブーツ21の主材21Aに金属やカーボン等の導電性のフィラー等が混入される場合は、レインエロージョンブーツ21の表面に帯電した電荷がレインエロージョンブーツ21の裏面側に移動する。そして、裏面に対向する導電性コーティング18へと帯電電荷が移動し、機体へと拡散される。
【0038】
もし、レインエロージョンブーツ21に導電性が付与されていないとすると、レインエロージョンブーツ21から導電性コーティング18に向けて静電気放電が発生しうる。それによって導電性コーティング18や基材110にピンホールがあくと、基材110への飛来物・浮遊物101による侵食を許してしまう。つまり、レドーム11の基材110を侵食から確実に保護するためにレインエロージョンブーツ21を設けているのに、レインエロージョンブーツ21に帯電した電荷によって静電気放電が発生し、基材110への侵食を許すとすれば、レインエロージョンブーツ21を設けた意義が失われる。それに加えて、静電気放電が発生すると、電波にノイズが混入するおそれがある。
【0039】
本実施形態のようにレインエロージョンブーツ21に導電性が付与されていると、上述のように飛来物・浮遊物101との摩擦によりレインエロージョンブーツ21に帯電した電荷を、機体へと拡散させて静電気放電の発生を防ぐことができる。このことにより、レインエロージョンブーツ21に要求される侵食防止効果を担保することができるので、使用が長期に亘っても、レドーム11の基材110を飛来物・浮遊物101による侵食から確実に保護することができる。
【0040】
レインエロージョンブーツ21の表面抵抗率が15MΩ/sq以下であると、レインエロージョンブーツ21に沿って電荷が十分に移動し、導電性コーティング18および導通部材20を介して帯電電荷を機体へと確実に移動、拡散させることができる。
また、レインエロージョンブーツ21の表面抵抗率が0.5MΩ/sq以上であれば、レインエロージョンブーツ21が電波に干渉することを抑制することができるので、レドーム11に必要な電力透過率を確保できる。
【0041】
レインエロージョンブーツ21は、上述したように、導電性コーティング18および導通部材20を介して機体に接地されている。導通部材20は、ストリップ14および導電性コーティング18の双方を機体に接地するための経路を構成する。
【0042】
以下、導通部材20の構成について説明する。
導通部材20は、ファスナ15と、スリーブ16と、ナット151と、ワッシャ152と、グランドバー22と、導電性シーラント層181,221とを備えている。これらの構成要素はいずれも導電性を有する。ファスナ15、スリーブ16、ナット151、ワッシャ152、およびグランドバー22は金属材料から形成されている。
【0043】
ファスナ15は、レドーム11の外表面に配置されたストリップ14に設けられる頭部15Aと、レドーム11の内側でスリーブ16から突出する軸部15Bとを有する。
スリーブ16は、レドーム11の基材110を厚み方向に貫通しており、レドーム11の外側に位置する端面16Aと、レドーム11の内側に位置する端面16Bとを有する。
ナット151は、ファスナ15の軸部15Bに設けられる。
ワッシャ152は、ナット151とグランドバー22との間に介在する。
【0044】
グランドバー22は、ファスナ15の位置から、機体における接地可能な部位に向けて延びる帯板状の部材である。グランドバー22の一端側は、ナット151とスリーブ16の端面16Bとの間に挟み込まれた状態で、ストリップ14と共にレドーム11に締結される。グランドバー22の一端側には、ファスナ15を貫通させる孔が形成されている。グランドバー22の他端側は、機体を構成する金属部材、例えば、スキン、フレーム、ストリンガ等に電気的に接続されている。
【0045】
導電性シーラント層181,221は、いずれも金属微粒子を含むことで導電性が与えられたシーラント材料を塗布し、乾燥させることで形成される。
そのうち導電性シーラント層221は、グランドバー22とスリーブ16の端面16Bとの間に設けられている。導電性シーラント層221は、ファスナ15の軸部15Bに密着している。導電性シーラント層221を介してグランドバー22とファスナ15とが確実に導通される。この導電性シーラント層221は、ファスナ15をスリーブ16に通す前、あるいは通した後に、スリーブ16の端面16Bに塗布することができる。
【0046】
一方、導電性シーラント層181は、レドーム11の外側に位置するスリーブ16の端面16Aとトップコーティング19との間に設けられている。導電性シーラント層181は、ファスナ15の軸部15Bと導電性コーティング18とに密着している。導電性シーラント層181を介して導電性コーティング18とファスナ15とが確実に導通される。
【0047】
ストリップ14およびグランドバー22をレドーム11に固定する際は、導電性コーティング18、その他の必要なコーティングが施されたレドーム11の外表面にストリップ14を配置し、レドーム11の内側にはグランドバー22を配置する。そして、ストリップ14、導電性コーティング18、レドーム11、およびグランドバー22に貫通させたファスナ15をナット151に対して締め付ける。すると、導通部材20を構成するファスナ15、スリーブ16、ナット151、ワッシャ152、グランドバー22、および導電性シーラント層181,221が一体化され、機体へと電荷を移動させることのできる導通経路を形成する。
この導通部材20を通じて、ストリップ14に突入した雷の大電流、およびレドーム11の外表面に帯電した電荷のいずれをも機体へと流すことができる。
レインエロージョンブーツ21に帯電した電荷は、レインエロージョンブーツ21から導電性コーティング18へと移動する。レインエロージョンブーツ21から導電性コーティング18へと移動した電荷と、レインエロージョンブーツ21の周囲に延在するレドーム11の外表面に帯電した電荷は、いずれも、導電性コーティング18から、導電性コーティング18に導電性シーラント層181を介して導通されたファスナ15に沿ってレドーム11の内側へと移動する。さらに、ファスナ15に導電性シーラント層221を介して導通されたグランドバー22へと移動し、最終的に機体へと拡散される。
【0048】
本実施形態の導通部材20の構成は一例に過ぎず、種々の部材により構成することができる。導通部材は、必ずしもファスナ15を含んで構成されていなくてもよい。
【0049】
〔第1実施形態の変形例〕
第1実施形態の変形例においては、レインエロージョンブーツ21に導電性を付与する代わりに、親水性を付与している。親水性が付与されることで、レインエロージョンブーツ21は、静電気の帯電が防止されている。
レインエロージョンブーツ21に親水性を付与する手法としては、例えば、界面活性剤を主材21Aに混入することなどが挙げられる。
界面活性剤は、レインエロージョンブーツ21の表面に水を吸収しやすい膜を形成したり、滑りやすくすることで摩擦を防止することで静電気の発生を抑える。
親水性を付与するのは、レインエロージョンブーツ21の大気に開放された表面のみで足り、レインエロージョンブーツ21の側面や、導電性コーティング18に対向する裏面には親水性が付与されていなくてもよい。
親水性が付与されたレインエロージョンブーツ21は、大気中の水分を吸着する親水層を有する。
【0050】
レインエロージョンブーツ21に親水層が形成されていると、雨滴や砂との摩擦によりレインエロージョンブーツ21に帯電した電荷が、親水層に吸着された水のイオンにより打ち消される。その作用により、帯電電荷による電界強度が絶縁破壊強度に達しないうちに、帯電電荷を除電することができるので、静電気放電を未然に防ぐことができる。このことにより、レインエロージョンブーツ21に要求される侵食防止効果を担保することができるので、使用が長期に亘っても、レドーム11の基材110を飛来物・浮遊物101による侵食から確実に保護することができる。
【0051】
第1実施形態のレインエロージョンブーツ21は、サンドイッチパネルのレドーム11に限らず、例えば、波長に対して板厚が十分に薄い薄膜型レドームや、特定の使用周波数においてレドームの表面と裏面での反射波の位相差が180°となるように板厚が設計された半波長共振型レドームなどにも適用することができる。
【0052】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図4(a)は、第2実施形態に係る航空機の照明装置30を示す。照明装置30は、航空機の主翼105の基端に設けられた着陸灯(Landing Light)および走行灯(Taxing Light)に該当する。なお、主翼105の先端側には(先端)側には、衝突防止灯(Anti-Collision Strobe Light)および航法灯(Navigation Light)が設けられている。
【0053】
照明装置30は、主翼105の根元に設けられたライト収容部34に設けられたライト31と、ライト31を覆って保護するとともにライト31から射出された光を拡散させるレンズカバー32とを備えている。レンズカバー32は機体に対して開閉可能に設けられている。レンズカバー32の内側にはライト31が剥き出しとなっているので、照明装置30の防水性を確保する必要がある。レンズカバー32の周縁部と機体との間は、防水性のシーラントにより封止されている。さらに、レンズカバー32自体に防水性が要求される。
照明装置30は3つのライト31を備えている。ライト31の数は特に限定されない。また、ライト31が有する光源の種類も特に限定されない。
【0054】
レンズカバー32は、
図4(b)に示すように、基材33とレインエロージョンブーツ35)とを備えている。
レンズカバー32の基材33は、絶縁性を有する樹脂材料から形成されている。基材33の材料としては、例えば、アクリル、ポリカーボネート等の樹脂材料を用いることができる。基材33として、アクリルから形成された部材を引っ張ることで強度を高めたストレッチ・アクリル部材を用いることが可能である。
基材33の外表面には、導電性が付与されたフィルム状のレインエロージョンブーツ35が設けられている。
レインエロージョンブーツ35は、基材33の外表面の全体に亘り設けられている。
レインエロージョンブーツ35は、基材33を雨滴、砂塵等との衝突による摩耗(abrasion)および侵食(erosion)から保護する。
【0055】
レインエロージョンブーツ35は、ポリウレタン、ポリエチレン等の絶縁性の樹脂を主材35Aとして含み、透明、あるいはライト31から射出された光の大部分を透過させることができる程度に半透明に形成されている。レインエロージョンブーツ35の主材35Aとして、雨滴や砂塵による侵食に耐えるように、異なる特性を有する複数のポリマー層が積層されたものを好適に用いることができる。
【0056】
レインエロージョンブーツ35は、第1実施形態のレインエロージョンブーツ21と同様に、主材35Aに金属やカーボン等の導電性の微粒子やフィラーを混入したり、主材35Aの表面を処理することによって導電性が付与されている。レインエロージョンブーツ35の表面抵抗率は、0.5MΩ/sq〜15MΩ/sqであることが好ましい。
レインエロージョンブーツ35は、図示しない導通部材を介して機体に接地されている。
【0057】
レインエロージョンブーツ35に導電性が付与されているので、雨滴や砂との摩擦によりレインエロージョンブーツ35に帯電した電荷による電界強度が絶縁破壊強度に達しないうちに、帯電電荷をレインエロージョンブーツ35の外部へと移動させることができる。レインエロージョンブーツ35に帯電した電荷は、図示しない導通部材を介して機体へと拡散されるので、レインエロージョンブーツ35に帯電した電荷による静電気放電の発生を防ぐことができる。そのため、静電気放電によりレンズカバー32の基材33が損傷するといった不具合が生じることなく、レインエロージョンブーツ35により、レンズカバー32の基材33を摩耗、侵食から保護することができる。基材33の摩耗、侵食が回避されるので、基材33は、必要な光の透過率、および光の拡散機能を維持する。このため、照明装置30に定められた輝度や照射角度を維持することができる。
【0058】
レインエロージョンブーツ35に導電性を付与する代わりに、第1実施形態の変形例のレインエロージョンブーツ21と同様に親水性を付与することもできる。
レインエロージョンブーツ35の表面に親水層が形成されていると、雨滴や砂との摩擦によりレインエロージョンブーツ35に帯電した電荷が、親水層に吸着された水のイオンにより打ち消される。その作用により、帯電電荷による電界強度が絶縁破壊強度に達しないうちに、帯電電荷を除電することができるので、静電気放電を未然に防ぐことができる。そのため、導電性を付与した場合と同様、静電気放電によりレンズカバー32の基材33が損傷するといった不具合が生じることなく、レインエロージョンブーツ35により、レンズカバー32の基材33を摩耗、侵食から保護することができる。
【0059】
第2実施形態のレンズカバー32の外表面に、光を透過させることができる程度に十分に薄い導電性コーティングを施し、その導電性コーティングの表面を覆うようにレインエロージョンブーツ35を設けることもできる。その場合、導電性コーティングをレンズカバー32の外表面の全体に施し、雨滴、砂等との衝突による負荷が他の部位と比べて大きい部位のみにレインエロージョンブーツ35を設けることができる。
【0060】
上記では、着陸灯および走行灯として用いられる照明装置30を例にとり説明したが、その他にも、例えば、航空機の左右の主翼105,106(
図1)の端部や尾翼の位置を示す航空灯、尾翼に表示されたエアラインのロゴを照らすロゴ照明灯、胴体の上部と下部とに設けられた衝突防止灯、前方を照らす着陸灯、主翼を照らす翼照明灯などのレンズカバーについても、レインエロージョンブーツ35を適用することができる。
【0061】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
本発明の導電性が付与されたレインエロージョンブーツは、レーダー装置のアンテナを覆うレドームに限らず、種々のアンテナを覆うカバーを侵食から保護するために用いることができる。
また、本発明のレインエロージョンブーツは、アンテナのカバーや照明のレンズカバーに限らず、航空機が装備する種々の部材を覆うカバーに適用することができる。
例えば、種々の計測を行ったり航空写真を撮影するために航空機の機体の機外側に設置されるカメラのレンズを保護するレンズカバーにも、上述のレインエロージョンブーツ35と同様に導電性または親水性が付与され、無色透明に構成されたレインエロージョンブーツを用いることができる。そうすると、静電気放電によりレンズカバーの基材が損傷することなく、レインエロージョンブーツによりレンズカバーの基材を摩耗、侵食から保護し、撮影対象を鮮明に撮影することができる。
【0062】
さらに、本発明は、少なくともレインエロージョンブーツ21の裏側において、レドーム11に導電性コーティング18を形成せずに、レインエロージョンブーツ21をレドーム11の表面に直接設けることも許容する。
例えば、上述した高分子型帯電防止剤や、カーボン、金属の微粒子を電波性能に影響しない程度にレインエロージョンブーツ21に混入することで、レインエロージョンブーツ21に帯電した電荷を移動させるネットワーク状の経路が形成され、その経路が機体構造に接地されていると、レインエロージョンブーツ21に帯電した電荷が除電されることとなる。
【0063】
航空機には、固定翼を有する飛行機の他、回転翼を有するヘリコプターも含まれる。
本発明は、航空機以外に、船舶、鉄道、自動車等の乗り物やミサイル等に適用することもできる。